【学転】蒼狼の憂い事
辻村朝
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シナリオID:1961
オープニング
「この学園の改革は、ひいては王国の――世界の子どもたちにとって大きな希望となります。微力ながら、私もお力添えしましょう」
アナンディーンは自らが王女に告げた言葉を、己の中で今一度反芻する。
(……そうだ。あの時、私はお2人に誓ったのだ)
必ず、力になりに行くと。
●
「冒険者ギルドの代表として来ている立場で思うのだが」
貴賓として招かれ、学園に滞在し数日が経ったある日。
とある空き教室に呼び寄せた冒険者たちの前で、アナンディーンは口を開いた。
「冒険者は希望すればもうすぐ受験できることになるだろうし、冒険者でない平民も来年にはそうなるという。だが、事はそう簡単には運ぶまい」
一度嘆息してから言葉を続ける。
「今でさえ、貴族に縁がない者が編入試験を受けることを反発する向きがある。それ自体は恐らく、……恐らくだが、君たちのこれまでの功績を以てすれば如何様にも出来るだろう。問題は、来年だ」
学園長が標榜する『開かれた学園』となるには、冒険者でも貴族でもない平民が入学するのが次に目指すべき大きな一歩である。
だが、その一歩を望まない者たちが居るのも確かだ。
「試験が無事に行われるかどうか、だけではない。仮に入学が出来たとして、身分や種族を理由に上級生や貴族学生に蔑ろにされたのでは、学園長の目標も正しく達せられたとは言えなくなるだろう」
彼にしては少し強めの語気で、そんなことを言う。
ここまで聞いていた冒険者たちは、一様にある感想を抱いていた。
いつものアナンディーンと少し様子が違う。
冒険者ギルドでのアナンディーンはと言えば新米冒険者への心構えを説いたり、軍事関係のご意見番を務めたりするという『アドバイザー』の肩書通り、どこか先生めいた雰囲気を漂わせた物言いをする。
だが今の彼は何というか、やや前のめりだ。
客観的な意見だけではなく、どこか自らの主観で思うところがあるような。
――と。
冒険者たちの視線に、本人も感じるところがあったのだろう。
アナンディーンは一つ咳払いをすると、改めて落ち着いたトーンで話し始めた。
「つまり試験だけでなく入学してからも、冒険者や平民が身分や種族の違いによって不自由が生じないようにしたい」
今回集められたのはその為の意見聴取。
アナンディーン自身が依頼主である、冒険者ギルドからの依頼だった。
「どんな些細な意見でも構わない。こうすればあらゆる学生が不要な何かに縛られることなく学園生活を送れる、と思うことがあれば、言ってほしい」
アナンディーンは自らが王女に告げた言葉を、己の中で今一度反芻する。
(……そうだ。あの時、私はお2人に誓ったのだ)
必ず、力になりに行くと。
●
「冒険者ギルドの代表として来ている立場で思うのだが」
貴賓として招かれ、学園に滞在し数日が経ったある日。
とある空き教室に呼び寄せた冒険者たちの前で、アナンディーンは口を開いた。
「冒険者は希望すればもうすぐ受験できることになるだろうし、冒険者でない平民も来年にはそうなるという。だが、事はそう簡単には運ぶまい」
一度嘆息してから言葉を続ける。
「今でさえ、貴族に縁がない者が編入試験を受けることを反発する向きがある。それ自体は恐らく、……恐らくだが、君たちのこれまでの功績を以てすれば如何様にも出来るだろう。問題は、来年だ」
学園長が標榜する『開かれた学園』となるには、冒険者でも貴族でもない平民が入学するのが次に目指すべき大きな一歩である。
だが、その一歩を望まない者たちが居るのも確かだ。
「試験が無事に行われるかどうか、だけではない。仮に入学が出来たとして、身分や種族を理由に上級生や貴族学生に蔑ろにされたのでは、学園長の目標も正しく達せられたとは言えなくなるだろう」
彼にしては少し強めの語気で、そんなことを言う。
ここまで聞いていた冒険者たちは、一様にある感想を抱いていた。
いつものアナンディーンと少し様子が違う。
冒険者ギルドでのアナンディーンはと言えば新米冒険者への心構えを説いたり、軍事関係のご意見番を務めたりするという『アドバイザー』の肩書通り、どこか先生めいた雰囲気を漂わせた物言いをする。
だが今の彼は何というか、やや前のめりだ。
客観的な意見だけではなく、どこか自らの主観で思うところがあるような。
――と。
冒険者たちの視線に、本人も感じるところがあったのだろう。
アナンディーンは一つ咳払いをすると、改めて落ち着いたトーンで話し始めた。
「つまり試験だけでなく入学してからも、冒険者や平民が身分や種族の違いによって不自由が生じないようにしたい」
今回集められたのはその為の意見聴取。
アナンディーン自身が依頼主である、冒険者ギルドからの依頼だった。
「どんな些細な意見でも構わない。こうすればあらゆる学生が不要な何かに縛られることなく学園生活を送れる、と思うことがあれば、言ってほしい」
解説
●依頼内容
冒険者や平民が入学した後のパンクリアース学園で、学生が誰もが自分らしく過ごすにはどうすればいいか。
あなたの意見を聞かせて下さい。
基本的には意見募集ですが、ぶつかり合う意見が生じた場合はディスカッションになります。
どちらの意見が正しいか、という結論は出さない(どちらの意見も一理あるという形にする)のでその点はご了承下さい。
議論の場所は基本的にはOP中の空き教室ですが、必要とあれば学園内の別施設に移動しても構いません。
学外には出られません。
空き教室は飲食OK。最初から持ち込んでいたことにして頂いても問題ありません。
これをすれば成功、という明確な物差しがあるわけではありませんが、意見聴取の場として有意義と感じられる意見が集まれば成功となります。
真面目な意見でも、そうでない意見でも、幅広く募集しております。
アナンディーンは皆様の意見を聞きつつ、必要に応じて返答したり何だりします。
マスターより
辻村です。そんなわけで久々にアナンディーンの依頼です。
もうちょっとふざけるつもりだったんですけど、気づいたらとても真面目な依頼になってました。
集められたご意見はギルドからの意見のまとめとして学園長に提出します。
実際に意見が反映されるかどうかも含め、その後がどうなるかはお楽しみに、ということで一つ。
リプレイ
●根底にあるもの
「あらゆる……ということは、当然貴族階級の生徒についても何ら不利益を被らない、という意味でいいわけですね?」
アナンディーンの言葉を受け、真っ先に反応を示したのはキーゼだった。
確認するような問いかけをしたのには勿論理由がある。
いくら機会の平等を謳おうと貴族は貴族、平民は平民。
度が過ぎた格差や差別は修正が要るが、王国である以上身分格差は社会通念上一般常識であり、正常だとキーゼは考えていた。
故に、もし尋ねた通りの意味でないのなら、アナンディーンは弱者の味方に酔った偽善者というだけになる。
そういったある種の疑念を込めた問いかけに、アナンディーンは特に困惑する様子もなく「そうだ」と肯いた。
「今この場で求めている意見で、貴族の既得権益を害するつもりはない」
『不自由のない』は平等とイコールではないのだ、と彼は言う。
その言葉に、海神・江流は人知れず安堵した。
『これまで学園の歴史そのものを支えてきた王国貴族に不自由を強いたと感じさせる平等では反発しか生まない』と考えていた江流の懸念は、本人の口から否定されたからだ。
それでも、先程のアナンディーンの様子をしっかりと見ていたキーゼは新たな追及をする。
「そもそも、冒険者ギルドの顔でありご意見番が一王国に入れ込む今の状態は、果たして健全といえるのでしょうかね……中立である必要があるのでは?」
「まぁ、私も身分や種族の話には自分自身で思うところがある。多少熱が入ってしまったのは否めない」
「……念の為確認しますが、ギルド代表という立場を忘れて感情的に入れ込む個人的な事情でもおありですかね?」
そう質問を重ねると、アナンディーンは戸惑う様子こそ見せなかったが、一瞬何かを思い出すように目を細めた。
「……入れ込む要素がなくはない。が、それは少なくとも今の学園の話には関係はないが故、君の言うところの『事情』には繋がらないな」
自分の話は今は関係ないし、どうでもいい。
そう言わんばかりに彼は首を横に振ると、「冒険者ギルドと言えば」と、イズル・M・ヴォルゴールが手を挙げる。
「今回のこれを非難するわけではないのですが、今の学園は、冒険者に翻弄されているようにも見えます」
「ふむ」
アナンディーンが先を促すと、イズルは淡々と私見を述べ始める。
「外部から見てると、改革も王族と学園長だけで盛り上がっていて、政治の駆け引きに学生を巻き込んだ印象が強いな、と。あとそういう駆け引きとは違いますが、過去に学園であった武闘会も、冒険者が大暴れした記憶しかないですし」
イズルの脳裏に思い浮かんだのは、それで怪我を負った大勢の貴族の存在だった。
盛り上がっているのは王族と学園長だけ――という言葉にアナンディーンは少し苦い表情を浮かべたが、すぐに表情を切り替えた。
「言いたいことは分かるし、提案が出たところで全て狙い通りに実現するのは難しいであろうということも重々承知の上だ。その上でこうして場を設けたわけだ」
再び意見を求めるように冒険者達を見渡すと、ハーフリングの少女がおずおずと手を挙げた。
「わたしは平民でハーフリングですが、今の平等を是としすぎる流れは……正直、居心地が悪いです」
少女――ゲルダ・クラインは言う。
「前提として、学園が貴族やそれに連なる商人が出す資金によって運営されている、ということを念頭に置いた方がいいと思います」
教師の授業料は誰が払っているのか。
設備の維持費はどこから出てくるのか。
王国からの資金や学費だけで足りない部分を、どこが補っているのか。
「もちろん、行き過ぎた差別は良くないですけど。貴族の方々とわたしたち平民の権利が違うのは、当然なんです」
「人は平等ではないです。たとえ身分をなくしたとしても等しく平等になるはずがない」
ゲルダの主張に続くように、再びイズルが口を開く。
誰もが同じ立場になれば間違いなく国は滅ぶ。国家など維持できるはずがない――というのが、イズルの考えだった。
国が滅ぶ、まで考えているかは兎も角として、平等という言葉に対して複雑な心持ちである者がこの場には多い。
「花によって合う環境は違うのに、薔薇の花壇に様々な花を持ってきて全ての花が咲き誇る為にはどうしたら良いか、というような話だと存じます。それを花達自身にどうにかしろというのは難しい話です」
学園生にして貴族側の立場でもあるジュスト・ヴェルジーが言う。
ジュスト自身は他種族への偏見は少ない方だが、内容というより改革の進め方には思うところがあった。
強引というか、悪辣というか。
個々の立場に差があるとしても、同じように認識している貴族は他にも居るだろう。尤も、ジュストはそれを態度に表すことはなく、笑顔と穏やかな口調は絶やさなかったが。
「あんまりですが身も蓋もないことを言ってしまうと、どうしても不自由は出るでしょうね。何が正しいかなんて後世の歴史家やらが勝手に論評しそうですし」
ヴィルヘルミナは本当に身も蓋もないことを言ったが、アナンディーンはそういうことも承知の上だろう。肯くことで言葉の先を促す。
「あと、身分的な問題と種族的な問題は一緒くたにしない方がという気がします。種族問題は身分の上下に関係なく蔓延していますし」
かくいうヴィルヘルミナ自身、学園生であると同時に異種族でもある。
自分自身は言うほどの苦労はしていない、とは思うが、それはどちらかというとヴィルヘルミナ自身の性格というか性質によるところが大きい。
「長い年月をかけて根付いたものですし、解きほぐすにも相応の年月が必要でしょう」
(すげーわかる)
丁度『異種族区別』を経験したばかりであるナキルは心の中で強く肯いていた。
『区別』で済んでいるのはたまたまなのか、冒険者であることを考慮されたのかは分からず、冒険者でない者も入ってくる来年以降になればどうなるかもまだ何とも言えない。
個人が変わるのとはわけが違う。貴族の中にも、自分の意志で『変わりたい』と思っても、家柄などが許容しない人もいるだろう。時間がかかるのは必然。
が、ナキルはそれでも思う。
「”押し付ける”のは、よくねぇ。結論から言うと変革だとか改革だ、みたいなのは直ぐできるモンじゃねェと思ってる」
「私も同感です」
同様の反応を示したのは、ヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンだった。ちなみにナキルとヴァレリアは同じタイミングで編入試験を受けた、所謂同期である。
「誰もが自分らしく過ごすということですが、それを成し得ることと維持存続することは気の遠くなるほどの長い年月を要すると愚考致します」
曰く、学園長のような志ある者は勿論のこと、自分たちがこの世を去ることになっても、それまでに出来ることは『志を共にする同胞たちを見つけ、手を取り合うこと』だとヴァレリアは言う。
「彼らとの繋がりが大きくなれば、志を持つ者たちの意識改革や能力の養成にも繋がり、平等という権利と義務に付帯する責任への意識改革にも繋がります」
逆に、だ。
「それを忘れたり目を背ける者たちは平等な社会に禍根を残すこととなり、変革に失敗することは我々の自己満足と謗られても仕方ないことかと」
「個人的には、平等さより能力に対して公平であって欲しいけどな」
と、口を挟んだのは江流である。すると公平というキーワードに反応し、別の手が上がった。
「客観的に見て、だが、平等と公平の違い。その隔たりはあまりに大きいと僕は思う」
そう私見を述べたのはローザリカ・L・ディオールだ。
「先程資金の話もあったが、出所である貴族たちと、賄いきれない平民の扱いが同じことひとつとっても不満は出て然るべきだろう。反対に、学生という同じ立場に焦点を当てればどちらか一方が優遇されて良いはずがない」
「……そうだな。一番大きな問題はそこだろう」
学園長が推し進める改革に不満を抱いている貴族の多くが抱いているであろう懸念を踏まえると、ローザリカの意見が一番端的に現状を表している。アナンディーンはそう肯いてみせた。
「先程『不自由はどうやっても出る』と言われていたが、確かに全く不自由のないというのは理想論に過ぎないと我ながら思う。君たちの言葉で言うなら出来るだけ公平にとするべきだろうな」
アナンディーンは苦笑してから、気を取り直して表情を引き締める。
「ではどうすれば、貴族や商家、平民、それから異種族も公平に学園生活を送ることが出来るか、ということを次に考えていきたいと思う」
●相互理解と棲み分け
これまでに出ていた意見を聞き、改めてスィーリーンは考えた。
(学園は様々なことを学ぶ場所。その意欲や姿勢が評価されるべきです)
自分が受験するかはまだ決めていない、が、開かれた場であってはほしいと。
なればこそ思うのだ。
身分や種族で評価されるのがそもそもおかしいことだ、と。
同じ学問を学ぶとして、かたや平民・異種族であり熱心に取り組み、かたや貴族かつ積極性が見られないとすると、前者が評価されないとなればそれは公平ではない。
だが、ただ『差別を禁じる』という押しつけでは反発を生むのは今までの議論を見ると明らかだ。
「やはりお互いへの理解が大切だと思いますので、各種族について、或いは貴族の役割について、学ぶ機会を増やすのはどうでしょうか」
「……わたしもそう思います」
ゲルダが同意を示す。
「貴族の方々はわたしたちのことを、わたしたちは貴族の方々のことを、あまり知らないと思いますので」
「種族による文化や風習の違いを知ることで相互理解を深められると思いますし、逆に貴族について知ることも必要と思います」
ノブレス・オブリージュ。
身分には義務も伴う。そして、責任も。
それは大なり小なり誰しも例外なく抱えるものなのだから。
スィーリーンの提案に思うところがあったイズルが、再び手を挙げ、それを告げる。
「貴族社会に問題があるなら、まずは正しい高貴なる者の義務を教えるべきだと思います」
という相互理解を進める為の策が出る一方で。
「『自分らしく過ごす』ことに焦点を当てるのでしたら、これまで学園を作ってきた貴族の立場・根付いた意識を含め悪戯に傷つけ合わぬよう適切な距離を保つこと、は落とし処のひとつかとも思いますね」
フクシア・S・シュルツが、徐に口を開く。
それまで彼女は、Alexandra・Hexe・Claudiaとともにティーカップに注がれた茶を時折啜りながら皆の意見を聴いていた。見聞を広げるのは自分自身の未来、ひいてはシュルツ家の為に繋がることだと考えていたからである。
自分の考えは、端的に言うと『棲み分け』であるとフクシアは言う。
「もちろん時間をかけてでも互いを理解し合うのであれば、お茶会や催事を通し、交流を重ねていくのがいいかと思います」
「ああ、あとは、交流の意思を持つ者同士が部活動や選択科目を通し、共に過ごすことだって一つの方法だとは思ったかな」
と、棲み分けということを同様に考えていたローゼリカが提案を重ねる。
「いずれにせよ一朝一夕で出来ることではございませんので、何代もかけて積み重ねていくものでしょうけれども」
フクシアはそう、言葉を付け足す。
積み重ねられたものは重く、そう簡単に崩せるものではない。
「区別前提でもいい。ちょっとずつシェアエリアを広げるとして、ひとまず異種族人間可の平民学生寮の食堂設備とかどうだ?」
ナキルが提案する。
「人脈っつー資産に、人外の価値が高まれば、いずれはちょっとずつ……な」
「まずは冒険者でなく、貴族の後ろ楯もない庶民用に別クラスを設けることを提案します」
棲み分けという方面では、生徒会庶務、リサ・ベイカーがそう口にした。この場においてはあくまで一冒険者という立ち位置ではあるが、それでも彼女ら生徒会メンバーの発言には注目が集まる。
「そこで成績優秀となり、貴族にスカウトされる形で後ろ楯を得られれば、進級時にクラスを移るなど出来ればいいな、と。行く行くは、無くしていけるのが理想ですけどね」
最後の一言がリサの本音だ。
学園派の一員として、出来るだけ庶民の立身出世の可能性を広げ、他種族への差別を無くしたいと思ってはいるが、それらは王国の制度に基づくものでなければ確執を生むだけだと思うが故の案だった。
まずは棲み分けたところから、少しずつ。
そういった趣旨の意見が上がっていった。
●様々な方面から
棲み分けに関する話はひとまず出尽くした後、そのテーマに限らない提案をアナンディーンが募る。
すると、ハリーヌ・ヨツユビが手を挙げた。
「反発する貴族の気持ちはわかるのでございます。自分の常識や世界が突然崩れるのは誰だって嫌でございましょう」
『区別』はある程度仕方がなく、参入する側も多少の我慢はするべきだと。
見た目からしてヨツユビハリネズミ全開であるハリーヌは自身がそういう目で見られがちであることを認識はしているが、そんな視線には人の世に出た頃からとっくに慣れていたし気になっていないようだ。
だが、誰もが自分のように出来るとは流石に思っていないわけで。
学業や心身に悪影響が出るほどの行為は『差別』であり『虐め』。
貴族にしたって領地管理の観点からすると『区別』と『差別』の違いは今から意識しておくべきであるという。
その為に。
「平民や異種族、そして変化を強いられる貴族。漠然とした不安から起きる不和もあるでございましょう。心の専門家の先生に常駐いただき、生徒が気軽に相談できるようにしてはいかがでございましょうか」
所謂『スクールカウンセラー』の設置を提案するのだった。
「不安に限りませんが、色々な方面からの要望が殺到する事でしょう」
意見したユークリア・フィナンシェは現状、この場においては数少ない、学園生ではない冒険者の一人である。
「直接生徒会や先生に訴えかけるでは、受ける側が疲れてしまいます。ご意見御用箱を学校の各フロアに設置し、窓口を一本化させた方がいいでしょう」
「そも、土壌を変えるには長い時が必要です」
という意見を出したのは、先程学園生たちを花にたとえたジュストである。
「土や水が合わない中、それでも今すぐ様々な花を育てたいというなら、優秀な庭師を増やした方が良いかと」
「庭師、か。君のたとえから考えると、教師のことかね?」
「ええ。ただ知識を与えるだけではない、生活を支え導く存在として、です。生活の多様化に合わせ、他種族の教師を増やすなり育成してみては?」
「それでも教師や生徒会だけでは目が行き届かない学園内の問題発見・対処をする機関が必要でしょう」
この場においては唯一の学園卒業生であるレティシア・レインフィールが言う。
「様々な立場の信頼できる生徒たちに委任し、委員での対処が難しい場合はその時に教師や生徒会へ問題を報告するのがよろしいかと」
カウンセラー。
ご意見箱。
他種族の教師。
風紀委員会。
ここまでは『理解を進めていく』上での提案が続いたが、次の意見はかなり思い切ったものだった。
「ちょっと乱暴な策かもしれませんけど、『家名を名乗ることを禁止』してしまえばいいのでは?」
場が流石に少しざわついた。
言い放ったのは、生徒会長であるエフィルミアである。尤もこれは、あくまで冒険者として学園を見ての意見である。あくまで、今は。
いきなり生徒会長の考えとしてぶち上げたら、色々なところで角が立つことはエフィルミア自身理解している。
「今の学園は貴族感でも伯爵家か男爵家かで差別が生じているでしょう? 貴族だけの学園ならそれで良かったんですよ。貴族間では個より家を重視するのが当然ですから」
平民が混ざるならそのままではいけない。
差別が生じるのは生まれ持った家名があり、家の力で学園での力が決まってしまうから――そう考えた故の提案なのである。
「勿論禁止したところで社交界で有名なら分かってしまいますし、すぐには変化は起こらないでしょう。でも学園内では家名は力を持たない、自身の力のみで勝負をする場だ、とするだけでも変わってくると思います」
力で勝負する場、という意見は、先程『平等さより能力に対して公平であって欲しい』と述べた江流の主張と重なる。
故に、再び江流が口を開いた。
「能力主義を支える為に、能力に応じて適切なカリキュラムを受講できる体制を徹底すべきかな」
身分によらず、本人の能力と向上心に合わせて、座学実技を問わずにその機会が平等であることが単に『平等』であるより大事であると彼は唱える。
権利を奪われたと思わせないやり方が必要だ、と。
「共通である所は共通であり、分ける所はしっかり分けるべきだと考えます」
機会の平等という点に絡め、ユークリアが再び主張する。
「たとえば体育なら、男子と女子を分ける理由は体のつくりがそもそも違うからで、同じ理由からして、種族ごとに体のつくりが違うことから種族では分けるべきです。同じ項目で挑んでも、必ずや目に見えて不平不満が出ることでしょう」
でも、と一息置いてから、更に続ける。
「学問については共通で良いと思います。私たちは知に依存することにかけては、『学びたい』という根幹共通目標を持っているんですから」
シルヴィア・A・カペルは以前、生徒会副会長に立候補するときの公約として『兄姉制度』を提案した。
門戸を拡大するということは、入学当初知り合いの居ない生徒が増えるというわけで。
孤独な生徒を無くし下級生が早く学園に慣れ親しめるよう頼れる上級生とマッチングし、縁を広げることで相互理解や価値観を広げる機会を得る助力になれば、という狙いだったのだが。
『上級生貴族にまで含め相互意識改革を望む・平民や異種族の新入生へ居心地の良さを提供するは両立せず、融合するとしても当分先』というのが友人から貰った助言であった。
この場の議論においても同じような趣旨の意見がまとまり、改めて友人の言が正論なのだろうと思う。
その上で、提案できることは何か、というと。
「文化祭を開くのがいいと思う」
またしても生徒会メンバーによる意外な方向性の提案。場の視線がシルヴィアに集中した。
「学園内部で各国文化を紹介したりすると、王国からあまり出たことのない貴族にも貴族以外の人々の様々なことも理解出来るんじゃないかな。それこそ、近接の領地だったり部活単位だったりで修学旅行を行うのもありだ」
それからもうひとつ、と付け加える。
「情勢が不安定だったりもするし、学園改革や平民入学に否定的な人の存在からの自衛もかねて、護身術を共有する為の防災訓練を開く、というのもどうかな」
「卒業後の進路についても考慮すべきかと」
そうレティシアが提案したのは、学園内外から集めた人材募集の情報を纏め管理する部署を設立することだった。
「部署を介さない募集を禁止し、禁止行為が発覚した場合は一定期間募集禁止ということを学園内外に公開することで権力による脅し等の不正を防止出来るかと存じます」
勿論、不正行為の禁止だけが目的ではない。
互いに対等な立場での交渉が必要となる為、良質な人材を求める貴族は自然と平民への対応も相応に改まる――そういった期待を込めての提案だった。
互いに尊重し、少しだけ譲り合い、認め合える学園に。
そうなれれば良いが、感情を以て実行するには皆が言うように多くの時間が必要になる為、まずは理性を以て行えるように出来れば。
風紀委員会にしても進路についての部署の提案にしても、レティシアの意見はそうした考えを根底にしたものだった。
大体の案が出尽くしたところで、アナンディーンが〆に入る。
「今回出た意見は一旦ギルドに持ち帰り、後々学園に提出しよう。勿論学園長だけでなく、な」
今でも貴族以外の者が所属することに反対する者がいることを考慮してか、彼はあえて提出する範囲を濁した。
そういう存在もあることを鑑みると、どういった案にせよ、実行したとして狙い通りの効果が発揮されるには時間はかかるだろう。それは間違いない。
「貴族も平民も、種族関係なく学園に居るのが『当たり前』くらいに環境が慣れてくれば話も変わるのでしょうね」
ヴィルヘルミナの言葉に、そうだな、とアナンディーンは肯くのだった。
「あらゆる……ということは、当然貴族階級の生徒についても何ら不利益を被らない、という意味でいいわけですね?」
アナンディーンの言葉を受け、真っ先に反応を示したのはキーゼだった。
確認するような問いかけをしたのには勿論理由がある。
いくら機会の平等を謳おうと貴族は貴族、平民は平民。
度が過ぎた格差や差別は修正が要るが、王国である以上身分格差は社会通念上一般常識であり、正常だとキーゼは考えていた。
故に、もし尋ねた通りの意味でないのなら、アナンディーンは弱者の味方に酔った偽善者というだけになる。
そういったある種の疑念を込めた問いかけに、アナンディーンは特に困惑する様子もなく「そうだ」と肯いた。
「今この場で求めている意見で、貴族の既得権益を害するつもりはない」
『不自由のない』は平等とイコールではないのだ、と彼は言う。
その言葉に、海神・江流は人知れず安堵した。
『これまで学園の歴史そのものを支えてきた王国貴族に不自由を強いたと感じさせる平等では反発しか生まない』と考えていた江流の懸念は、本人の口から否定されたからだ。
それでも、先程のアナンディーンの様子をしっかりと見ていたキーゼは新たな追及をする。
「そもそも、冒険者ギルドの顔でありご意見番が一王国に入れ込む今の状態は、果たして健全といえるのでしょうかね……中立である必要があるのでは?」
「まぁ、私も身分や種族の話には自分自身で思うところがある。多少熱が入ってしまったのは否めない」
「……念の為確認しますが、ギルド代表という立場を忘れて感情的に入れ込む個人的な事情でもおありですかね?」
そう質問を重ねると、アナンディーンは戸惑う様子こそ見せなかったが、一瞬何かを思い出すように目を細めた。
「……入れ込む要素がなくはない。が、それは少なくとも今の学園の話には関係はないが故、君の言うところの『事情』には繋がらないな」
自分の話は今は関係ないし、どうでもいい。
そう言わんばかりに彼は首を横に振ると、「冒険者ギルドと言えば」と、イズル・M・ヴォルゴールが手を挙げる。
「今回のこれを非難するわけではないのですが、今の学園は、冒険者に翻弄されているようにも見えます」
「ふむ」
アナンディーンが先を促すと、イズルは淡々と私見を述べ始める。
「外部から見てると、改革も王族と学園長だけで盛り上がっていて、政治の駆け引きに学生を巻き込んだ印象が強いな、と。あとそういう駆け引きとは違いますが、過去に学園であった武闘会も、冒険者が大暴れした記憶しかないですし」
イズルの脳裏に思い浮かんだのは、それで怪我を負った大勢の貴族の存在だった。
盛り上がっているのは王族と学園長だけ――という言葉にアナンディーンは少し苦い表情を浮かべたが、すぐに表情を切り替えた。
「言いたいことは分かるし、提案が出たところで全て狙い通りに実現するのは難しいであろうということも重々承知の上だ。その上でこうして場を設けたわけだ」
再び意見を求めるように冒険者達を見渡すと、ハーフリングの少女がおずおずと手を挙げた。
「わたしは平民でハーフリングですが、今の平等を是としすぎる流れは……正直、居心地が悪いです」
少女――ゲルダ・クラインは言う。
「前提として、学園が貴族やそれに連なる商人が出す資金によって運営されている、ということを念頭に置いた方がいいと思います」
教師の授業料は誰が払っているのか。
設備の維持費はどこから出てくるのか。
王国からの資金や学費だけで足りない部分を、どこが補っているのか。
「もちろん、行き過ぎた差別は良くないですけど。貴族の方々とわたしたち平民の権利が違うのは、当然なんです」
「人は平等ではないです。たとえ身分をなくしたとしても等しく平等になるはずがない」
ゲルダの主張に続くように、再びイズルが口を開く。
誰もが同じ立場になれば間違いなく国は滅ぶ。国家など維持できるはずがない――というのが、イズルの考えだった。
国が滅ぶ、まで考えているかは兎も角として、平等という言葉に対して複雑な心持ちである者がこの場には多い。
「花によって合う環境は違うのに、薔薇の花壇に様々な花を持ってきて全ての花が咲き誇る為にはどうしたら良いか、というような話だと存じます。それを花達自身にどうにかしろというのは難しい話です」
学園生にして貴族側の立場でもあるジュスト・ヴェルジーが言う。
ジュスト自身は他種族への偏見は少ない方だが、内容というより改革の進め方には思うところがあった。
強引というか、悪辣というか。
個々の立場に差があるとしても、同じように認識している貴族は他にも居るだろう。尤も、ジュストはそれを態度に表すことはなく、笑顔と穏やかな口調は絶やさなかったが。
「あんまりですが身も蓋もないことを言ってしまうと、どうしても不自由は出るでしょうね。何が正しいかなんて後世の歴史家やらが勝手に論評しそうですし」
ヴィルヘルミナは本当に身も蓋もないことを言ったが、アナンディーンはそういうことも承知の上だろう。肯くことで言葉の先を促す。
「あと、身分的な問題と種族的な問題は一緒くたにしない方がという気がします。種族問題は身分の上下に関係なく蔓延していますし」
かくいうヴィルヘルミナ自身、学園生であると同時に異種族でもある。
自分自身は言うほどの苦労はしていない、とは思うが、それはどちらかというとヴィルヘルミナ自身の性格というか性質によるところが大きい。
「長い年月をかけて根付いたものですし、解きほぐすにも相応の年月が必要でしょう」
(すげーわかる)
丁度『異種族区別』を経験したばかりであるナキルは心の中で強く肯いていた。
『区別』で済んでいるのはたまたまなのか、冒険者であることを考慮されたのかは分からず、冒険者でない者も入ってくる来年以降になればどうなるかもまだ何とも言えない。
個人が変わるのとはわけが違う。貴族の中にも、自分の意志で『変わりたい』と思っても、家柄などが許容しない人もいるだろう。時間がかかるのは必然。
が、ナキルはそれでも思う。
「”押し付ける”のは、よくねぇ。結論から言うと変革だとか改革だ、みたいなのは直ぐできるモンじゃねェと思ってる」
「私も同感です」
同様の反応を示したのは、ヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンだった。ちなみにナキルとヴァレリアは同じタイミングで編入試験を受けた、所謂同期である。
「誰もが自分らしく過ごすということですが、それを成し得ることと維持存続することは気の遠くなるほどの長い年月を要すると愚考致します」
曰く、学園長のような志ある者は勿論のこと、自分たちがこの世を去ることになっても、それまでに出来ることは『志を共にする同胞たちを見つけ、手を取り合うこと』だとヴァレリアは言う。
「彼らとの繋がりが大きくなれば、志を持つ者たちの意識改革や能力の養成にも繋がり、平等という権利と義務に付帯する責任への意識改革にも繋がります」
逆に、だ。
「それを忘れたり目を背ける者たちは平等な社会に禍根を残すこととなり、変革に失敗することは我々の自己満足と謗られても仕方ないことかと」
「個人的には、平等さより能力に対して公平であって欲しいけどな」
と、口を挟んだのは江流である。すると公平というキーワードに反応し、別の手が上がった。
「客観的に見て、だが、平等と公平の違い。その隔たりはあまりに大きいと僕は思う」
そう私見を述べたのはローザリカ・L・ディオールだ。
「先程資金の話もあったが、出所である貴族たちと、賄いきれない平民の扱いが同じことひとつとっても不満は出て然るべきだろう。反対に、学生という同じ立場に焦点を当てればどちらか一方が優遇されて良いはずがない」
「……そうだな。一番大きな問題はそこだろう」
学園長が推し進める改革に不満を抱いている貴族の多くが抱いているであろう懸念を踏まえると、ローザリカの意見が一番端的に現状を表している。アナンディーンはそう肯いてみせた。
「先程『不自由はどうやっても出る』と言われていたが、確かに全く不自由のないというのは理想論に過ぎないと我ながら思う。君たちの言葉で言うなら出来るだけ公平にとするべきだろうな」
アナンディーンは苦笑してから、気を取り直して表情を引き締める。
「ではどうすれば、貴族や商家、平民、それから異種族も公平に学園生活を送ることが出来るか、ということを次に考えていきたいと思う」
●相互理解と棲み分け
これまでに出ていた意見を聞き、改めてスィーリーンは考えた。
(学園は様々なことを学ぶ場所。その意欲や姿勢が評価されるべきです)
自分が受験するかはまだ決めていない、が、開かれた場であってはほしいと。
なればこそ思うのだ。
身分や種族で評価されるのがそもそもおかしいことだ、と。
同じ学問を学ぶとして、かたや平民・異種族であり熱心に取り組み、かたや貴族かつ積極性が見られないとすると、前者が評価されないとなればそれは公平ではない。
だが、ただ『差別を禁じる』という押しつけでは反発を生むのは今までの議論を見ると明らかだ。
「やはりお互いへの理解が大切だと思いますので、各種族について、或いは貴族の役割について、学ぶ機会を増やすのはどうでしょうか」
「……わたしもそう思います」
ゲルダが同意を示す。
「貴族の方々はわたしたちのことを、わたしたちは貴族の方々のことを、あまり知らないと思いますので」
「種族による文化や風習の違いを知ることで相互理解を深められると思いますし、逆に貴族について知ることも必要と思います」
ノブレス・オブリージュ。
身分には義務も伴う。そして、責任も。
それは大なり小なり誰しも例外なく抱えるものなのだから。
スィーリーンの提案に思うところがあったイズルが、再び手を挙げ、それを告げる。
「貴族社会に問題があるなら、まずは正しい高貴なる者の義務を教えるべきだと思います」
という相互理解を進める為の策が出る一方で。
「『自分らしく過ごす』ことに焦点を当てるのでしたら、これまで学園を作ってきた貴族の立場・根付いた意識を含め悪戯に傷つけ合わぬよう適切な距離を保つこと、は落とし処のひとつかとも思いますね」
フクシア・S・シュルツが、徐に口を開く。
それまで彼女は、Alexandra・Hexe・Claudiaとともにティーカップに注がれた茶を時折啜りながら皆の意見を聴いていた。見聞を広げるのは自分自身の未来、ひいてはシュルツ家の為に繋がることだと考えていたからである。
自分の考えは、端的に言うと『棲み分け』であるとフクシアは言う。
「もちろん時間をかけてでも互いを理解し合うのであれば、お茶会や催事を通し、交流を重ねていくのがいいかと思います」
「ああ、あとは、交流の意思を持つ者同士が部活動や選択科目を通し、共に過ごすことだって一つの方法だとは思ったかな」
と、棲み分けということを同様に考えていたローゼリカが提案を重ねる。
「いずれにせよ一朝一夕で出来ることではございませんので、何代もかけて積み重ねていくものでしょうけれども」
フクシアはそう、言葉を付け足す。
積み重ねられたものは重く、そう簡単に崩せるものではない。
「区別前提でもいい。ちょっとずつシェアエリアを広げるとして、ひとまず異種族人間可の平民学生寮の食堂設備とかどうだ?」
ナキルが提案する。
「人脈っつー資産に、人外の価値が高まれば、いずれはちょっとずつ……な」
「まずは冒険者でなく、貴族の後ろ楯もない庶民用に別クラスを設けることを提案します」
棲み分けという方面では、生徒会庶務、リサ・ベイカーがそう口にした。この場においてはあくまで一冒険者という立ち位置ではあるが、それでも彼女ら生徒会メンバーの発言には注目が集まる。
「そこで成績優秀となり、貴族にスカウトされる形で後ろ楯を得られれば、進級時にクラスを移るなど出来ればいいな、と。行く行くは、無くしていけるのが理想ですけどね」
最後の一言がリサの本音だ。
学園派の一員として、出来るだけ庶民の立身出世の可能性を広げ、他種族への差別を無くしたいと思ってはいるが、それらは王国の制度に基づくものでなければ確執を生むだけだと思うが故の案だった。
まずは棲み分けたところから、少しずつ。
そういった趣旨の意見が上がっていった。
●様々な方面から
棲み分けに関する話はひとまず出尽くした後、そのテーマに限らない提案をアナンディーンが募る。
すると、ハリーヌ・ヨツユビが手を挙げた。
「反発する貴族の気持ちはわかるのでございます。自分の常識や世界が突然崩れるのは誰だって嫌でございましょう」
『区別』はある程度仕方がなく、参入する側も多少の我慢はするべきだと。
見た目からしてヨツユビハリネズミ全開であるハリーヌは自身がそういう目で見られがちであることを認識はしているが、そんな視線には人の世に出た頃からとっくに慣れていたし気になっていないようだ。
だが、誰もが自分のように出来るとは流石に思っていないわけで。
学業や心身に悪影響が出るほどの行為は『差別』であり『虐め』。
貴族にしたって領地管理の観点からすると『区別』と『差別』の違いは今から意識しておくべきであるという。
その為に。
「平民や異種族、そして変化を強いられる貴族。漠然とした不安から起きる不和もあるでございましょう。心の専門家の先生に常駐いただき、生徒が気軽に相談できるようにしてはいかがでございましょうか」
所謂『スクールカウンセラー』の設置を提案するのだった。
「不安に限りませんが、色々な方面からの要望が殺到する事でしょう」
意見したユークリア・フィナンシェは現状、この場においては数少ない、学園生ではない冒険者の一人である。
「直接生徒会や先生に訴えかけるでは、受ける側が疲れてしまいます。ご意見御用箱を学校の各フロアに設置し、窓口を一本化させた方がいいでしょう」
「そも、土壌を変えるには長い時が必要です」
という意見を出したのは、先程学園生たちを花にたとえたジュストである。
「土や水が合わない中、それでも今すぐ様々な花を育てたいというなら、優秀な庭師を増やした方が良いかと」
「庭師、か。君のたとえから考えると、教師のことかね?」
「ええ。ただ知識を与えるだけではない、生活を支え導く存在として、です。生活の多様化に合わせ、他種族の教師を増やすなり育成してみては?」
「それでも教師や生徒会だけでは目が行き届かない学園内の問題発見・対処をする機関が必要でしょう」
この場においては唯一の学園卒業生であるレティシア・レインフィールが言う。
「様々な立場の信頼できる生徒たちに委任し、委員での対処が難しい場合はその時に教師や生徒会へ問題を報告するのがよろしいかと」
カウンセラー。
ご意見箱。
他種族の教師。
風紀委員会。
ここまでは『理解を進めていく』上での提案が続いたが、次の意見はかなり思い切ったものだった。
「ちょっと乱暴な策かもしれませんけど、『家名を名乗ることを禁止』してしまえばいいのでは?」
場が流石に少しざわついた。
言い放ったのは、生徒会長であるエフィルミアである。尤もこれは、あくまで冒険者として学園を見ての意見である。あくまで、今は。
いきなり生徒会長の考えとしてぶち上げたら、色々なところで角が立つことはエフィルミア自身理解している。
「今の学園は貴族感でも伯爵家か男爵家かで差別が生じているでしょう? 貴族だけの学園ならそれで良かったんですよ。貴族間では個より家を重視するのが当然ですから」
平民が混ざるならそのままではいけない。
差別が生じるのは生まれ持った家名があり、家の力で学園での力が決まってしまうから――そう考えた故の提案なのである。
「勿論禁止したところで社交界で有名なら分かってしまいますし、すぐには変化は起こらないでしょう。でも学園内では家名は力を持たない、自身の力のみで勝負をする場だ、とするだけでも変わってくると思います」
力で勝負する場、という意見は、先程『平等さより能力に対して公平であって欲しい』と述べた江流の主張と重なる。
故に、再び江流が口を開いた。
「能力主義を支える為に、能力に応じて適切なカリキュラムを受講できる体制を徹底すべきかな」
身分によらず、本人の能力と向上心に合わせて、座学実技を問わずにその機会が平等であることが単に『平等』であるより大事であると彼は唱える。
権利を奪われたと思わせないやり方が必要だ、と。
「共通である所は共通であり、分ける所はしっかり分けるべきだと考えます」
機会の平等という点に絡め、ユークリアが再び主張する。
「たとえば体育なら、男子と女子を分ける理由は体のつくりがそもそも違うからで、同じ理由からして、種族ごとに体のつくりが違うことから種族では分けるべきです。同じ項目で挑んでも、必ずや目に見えて不平不満が出ることでしょう」
でも、と一息置いてから、更に続ける。
「学問については共通で良いと思います。私たちは知に依存することにかけては、『学びたい』という根幹共通目標を持っているんですから」
シルヴィア・A・カペルは以前、生徒会副会長に立候補するときの公約として『兄姉制度』を提案した。
門戸を拡大するということは、入学当初知り合いの居ない生徒が増えるというわけで。
孤独な生徒を無くし下級生が早く学園に慣れ親しめるよう頼れる上級生とマッチングし、縁を広げることで相互理解や価値観を広げる機会を得る助力になれば、という狙いだったのだが。
『上級生貴族にまで含め相互意識改革を望む・平民や異種族の新入生へ居心地の良さを提供するは両立せず、融合するとしても当分先』というのが友人から貰った助言であった。
この場の議論においても同じような趣旨の意見がまとまり、改めて友人の言が正論なのだろうと思う。
その上で、提案できることは何か、というと。
「文化祭を開くのがいいと思う」
またしても生徒会メンバーによる意外な方向性の提案。場の視線がシルヴィアに集中した。
「学園内部で各国文化を紹介したりすると、王国からあまり出たことのない貴族にも貴族以外の人々の様々なことも理解出来るんじゃないかな。それこそ、近接の領地だったり部活単位だったりで修学旅行を行うのもありだ」
それからもうひとつ、と付け加える。
「情勢が不安定だったりもするし、学園改革や平民入学に否定的な人の存在からの自衛もかねて、護身術を共有する為の防災訓練を開く、というのもどうかな」
「卒業後の進路についても考慮すべきかと」
そうレティシアが提案したのは、学園内外から集めた人材募集の情報を纏め管理する部署を設立することだった。
「部署を介さない募集を禁止し、禁止行為が発覚した場合は一定期間募集禁止ということを学園内外に公開することで権力による脅し等の不正を防止出来るかと存じます」
勿論、不正行為の禁止だけが目的ではない。
互いに対等な立場での交渉が必要となる為、良質な人材を求める貴族は自然と平民への対応も相応に改まる――そういった期待を込めての提案だった。
互いに尊重し、少しだけ譲り合い、認め合える学園に。
そうなれれば良いが、感情を以て実行するには皆が言うように多くの時間が必要になる為、まずは理性を以て行えるように出来れば。
風紀委員会にしても進路についての部署の提案にしても、レティシアの意見はそうした考えを根底にしたものだった。
大体の案が出尽くしたところで、アナンディーンが〆に入る。
「今回出た意見は一旦ギルドに持ち帰り、後々学園に提出しよう。勿論学園長だけでなく、な」
今でも貴族以外の者が所属することに反対する者がいることを考慮してか、彼はあえて提出する範囲を濁した。
そういう存在もあることを鑑みると、どういった案にせよ、実行したとして狙い通りの効果が発揮されるには時間はかかるだろう。それは間違いない。
「貴族も平民も、種族関係なく学園に居るのが『当たり前』くらいに環境が慣れてくれば話も変わるのでしょうね」
ヴィルヘルミナの言葉に、そうだな、とアナンディーンは肯くのだった。
マスターコメント
様々なご意見、ありがとうございました。
学園長の推し進める『平等』と今回アナンディーンが言っていた『不自由のないように』は、本文中でも書きましたがノットイコールです。
そこのところはOPではっきり書いておくべきだったかもしれませんね。申し訳ありませんでした。
ちなみにもっとぶっちゃけた話をすれば、冒険者ギルド代表という立場で言えば寧ろもっと強く非貴族の待遇改善を主張してもおかしくない立場で、彼はあえてそうしなかったのです。
この辺りは完全に冒険者ギルドと王国、学園の絡む政治的なお話で、本編には全く関係ないので触れませんでしたが。
此度はご参加頂きありがとうございました。
また御縁がありましたら、どうぞ宜しくお願い致します。
イベントシナリオ普通 報酬:標準18 / 4〜25人
2022年03月09日 11時42分57秒 公開
成功
参加者
相談掲示板
「ナキルだ、よろしくな。 具体的に「こうしたい」ってのは、まーだ考え中ってカンジだけど。 ちょっと学園内で過ごしても「ヒューマンじゃないから」ってのは体験してきたし… 丁度イイ…って、言い方が相応しいかはアレだけど。思う事はあったしな。考え中だけど。」
ユークリアです、よろしくお願いしますね。 なんというか、冷静に考えて書いていたら今までで最速でまとめ上げてしまいましたね……。 私の中で今までで一番仕事らしい仕事かもしれません。MAJIME☆
1年生の海神江流だよ。今回は宜しくね。 つっても、各々が意見述べる場だとは思うんで、擦り合せが必要な事ではないのかな。 こういう方向性であってほしいなってトコをお願いする予定。
スィーリーンと申します。よろしくお願いします。 私自身が受験するかはまだ決めておりませんが、 学園には何度か関わりましたし 他種族や平民にも開かれた場になってほしいと思っています。 具体的な意見はまだ思いついていませんけれど。
エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 貴族も平民も冒険者も、皆が楽しめる学園になる様に一生懸命考えようと思います! すぐに変える事は難しいですけど、少しずつでもいい方向になるといいな…!