【学乱】学園祭に現る遊戯喫茶
空色みなも
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シナリオID:1494
オープニング
「部長、私の家のことで部にご迷惑おかけしてすいませんでした。おかげさまで、しばらくは大丈夫そうです」
「迷惑だなんて、そんな。ジュエリア君には色々と世話になっているからね」
パンクリアース学園、卓上遊戯部の部室で、副部長のジュエリア・シャイニーが頭を下げる。
その相手はリーブス・リテラス、卓上遊戯部の部長だ。
ジュエリアは貴族派貴族の出身であり、王党派貴族出身のリーブスが部長を務める卓上遊戯部に通うのを、実家から快く思われていなかった。
そのため、パンクリアース学園で生徒会総選挙が近づくに伴い、実家がジュエリアの自由を奪おうと、部活動を続けるためにある条件を課してきた。
その条件というのが、卓上遊戯で、実家の差し向けた強豪プレイヤーに部員たちが打ち克つこと。
それを受けたジュエリアは、冒険者たちに部員の特訓を依頼。
特訓の甲斐あって、ジュエリアたち部員は強豪プレイヤーを下し、今に至るというわけだ。
「ハンデルスさんも今回のことで頑張ってくれたわね。助かったわ」
「僕は大したことはできませんでしたが、お力になれたようなら何よりです、シャイニー先輩」
ジュエリアは後輩部員のハンデルス・トレイダーにも労いの声をかけた。
ハンデルスも部員の一人として、ジュエリアの実家から送り込まれた刺客との戦いに参加していたのだ。
「このわたくしにも感謝してよろしくってよ?」
「ええ、もちろん。父に立ち向かう条件が揃ったのは、カーリィさんのおかげよ。ありがとう」
金髪巻き毛の少女、カーリィ・ブロンドが得意気に胸を張ってみせたのに対し、ジュエリアはクスリと微笑みかける。
カーリィは部員ではないが、ジュエリアの実家との対決に必要な人数が不足していることを知り、助っ人を買って出たのだ。
もともとはカーリィも貴族派出身であり、ジュエリアの実家と立場を同じくしていたところを、卓上遊戯部と和解したことによって好意的に接してくれるようになったようだ。
「私は部に残れることになりましたが、しかし代わりにこんな時期……」
喜ばしいムードの中で、ジュエリアはあることに気付いて、一転して寂しそうな表情を見せる。
「部長もご卒業が近くなってしまいましたね……」
ジュエリアの言うように、部長のリーブスは六年生。
卒業までもう半年ほどしか残されていなかったのだ。
「そればかりは仕方ないさ。いくら名残惜しくて留年しようにも、そのような成績では部活動も許されないからね」
リーブスは冗談めかして、肩をすくめてみせた。
「では、なにか強く思い出に残るようなことを卓上遊戯部のメンバーでやるというのはどうでしょうか?」
そこでハンデルスが手を挙げて提案を行う。
「ふむ、そういえば生徒会総選挙に伴って、学園祭が開かれるということだったけど」
「そういうことなら、喫茶店を出し物にしませんか?」
顎に手を当て考え込む様子を見せたリーブスに、ジュエリアが進言する。
「ほう、続けて」
「その喫茶店では、卓上遊戯の道具を借りて、遊ぶことができるようにするんです」
リーブスが続きを促すと、ジュエリアは自らの案の全容を語った。
「なるほど……それで卓上遊戯の楽しさを広めれば、それこそ新しい部員獲得にも繋がるかもしれないね」
「名案だと思います!」
出されたアイデアに対し、リーブスもハンデルスも好感触を示す。
「せっかくだし、カーリィさんもどうかしら?」
「言っておきますが、わたくしは部員になったわけではありませんことよ」
ジュエリアに水を向けられたカーリィは、喫茶店のスタッフとして働くつもりはないとキッパリ告げる。
「ですが、アナタ方がわたくしを客人としてもてなしたいというのであれば、やぶさかではないわ」
だが続く言葉からすると、どうやらカーリィは客も必要だろうと、そちら側へまわるつもりなだけのようだった。
「ふふ、じゃあ決まりね。お世話になりましたし、お客様には冒険者の方々もお呼びしましょう」
早速、必要な手続きの準備にかかるジュエリアの顔は、ここしばらくないほど晴れやかなものであった。
解説
マスターより
リプレイ
ウッホ、ウッホ。
ゴリラが大荷物を抱えてパンクリアース学園を歩いていた。
このような光景が見られるのにも、理由がある。
「ワタクシ、一年生に編入いたしましたハリーヌ・ヨツユビでございます。このようなナリで恐縮でございますが、どうか皆様のもとで勉強させて頂きたいでございます!」
遊戯喫茶を開こうと準備する卓上遊戯部の部員たちのもとへ、ハリーヌ・ヨツユビが挨拶へ訪れていた。
「こちらこそ、冒険者の方々の知恵をお借りすることで勉強になれば。本日はよろしくお願いいたします」
卓上遊戯部の部長、リーブス・リテラスは、殊勝な態度でハリーヌを迎え入れる。
見た目がほぼヨツユビハリネズミなハリーヌであるが、リーブスは貴族にありながら、それを気にかける様子もない。
「それにしても、喫茶店と遊戯の融合でございますか。これは素晴らしい。さすがお貴族様は発想に優れているでございますねぇ」
喫茶のテーブルだけでなく、卓上遊戯の道具を収めた棚が並んだ会場を見回して、ハリーヌは感心してみせる。
ハリーヌが掲げる人生の目標は億万長者、新しいビジネスの匂いには敏感なのだ。
「食材も到着したようでございますし、料理の下ごしらえにかかりましょう」
そこへ先ほど学園内を歩いていたゴリラが現れ、ハリーヌのもとで抱えていた荷物を降ろす。
ゴリラはハリーヌが感覚共有し、買い出しに行かせていたものだったのだ。
(……無事に収まったみたいで、よかった)
そうして卓上遊戯部の面々が和気あいあいと準備に取り組んでいる様子を、ゲルダ・クラインはこっそりと窺っていた。
ゲルダは卓上遊戯部の特訓に付き合った冒険者の一人であり、事態の行方を気にかけていたのだ。
「……あの。何か、手伝えることはありませんか?」
「ゲルダさん! 来て下さったのですね」
しばらく様子を見守った後、ゲルダはリーブスの手が空いた隙を見計らって声をかける。
給仕を手伝いたいというゲルダの申し出は、部員たちによって熱烈な歓迎を受けた。
「部長、お客様が入られます」
「よーし、それじゃあ僕たちの遊戯喫茶……開店だ!」
部員のハンデルス・トレイダーが厨房に顔を出し、客の来店を告げる。
リーブスの掛け声で、スタッフたちは拳を突き上げて気合いを入れたのだった。
●
「ジュエリアさん! ってことは、あの勝負に勝ったんですねっ」
「ミュラーさん、お客様で一番乗りですね。皆さんのおかげで、こうして部活動を続けることができています」
ルアンナ・ミュラーは副部長ジュエリア・シャイニーの姿を認めるや否や、駆け寄って手を取っていた。
「開店したばかりなので、まだ他のお客様は来られていないんですよ」
「でしたら、部員の皆さんと遊びたい遊戯があるんです。最初はそれをやらせて頂いていいですか?」
ジュエリアが申し訳なさそうに告げるも、ルアンナはそれならと部員と遊戯を行うことを提案する。
部員たちもそれを快諾し、ルアンナはウキウキと遊戯の道具を並べた棚へ向かった。
「ご注文は何になさいますでございますか?」
「あ、喫茶ですから何か注文もしないとでしたね」
そこへ清潔感のあるエプロンをつけたハリーヌが注文をとりにきた。
遊戯の箱を手にテーブルへ戻っていたルアンナは、サンドイッチに加え、果物の果汁を飲み物として注文した。
「やはり、腰を据えて食べるお料理よりも、軽くつまめるお料理が人気になりそうでございますね」
「遊戯に熱中する方はそうなりますよねえ」
ハリーヌは注文をとりながら気づいたことを、厨房にいたハンデルスに伝える。
「お待ちどうさまでございます」
「ありがとうございます! あ、飲み物には蓋をつけてあるんですねっ。ついつい遊戯に夢中になっちゃうので、嬉しいお気遣いです」
ハリーヌが運んだ飲み物の器には、ルアンナの指摘どおり蓋が被さっていた。
遊戯に夢中になるあまり、飲み物をこぼしてしまわないようにという配慮だ。
「さて、今回お付き合い頂く遊戯は、キング・オブ・グランスパーダです!」
ルアンナは棚から取ってきた箱から、道具をテーブル上に展開していく。
「なるほど、部でもよく回しているやつですね。では私は巨大ゴーレムを選びます」
「では私は、三つ首ドラゴンを」
テーブルにはリーブスとジュエリアが同席しており、並んだカードの中から、自らが担当する大魔獣を選んでいく。
どうやらこの遊戯の参加者は、こうした大魔獣となって、王都グランスパーダで暴れまわるらしい。
「流石みなさん、ルールはご存じみたいですね。では、私はゴリラ王を選んで……最初の手番いきます!」
複数のダイスを手に取り、トレーの中に転がすルアンナ。
ダイスが転がるコロコロという音が、小気味よく響く。
「まだ誰もグランスパーダに居ないので、攻撃が出たダイスは意味なし……というわけで、エーテル入手が出たダイスを固定して振り直しますねっ」
活き活きと遊戯を楽しむルアンナに、同席した部員たちも実に楽しそうに遊戯の時間を過ごしたのだった。
●
「お飲み物、お待たせいたしました。ご注文の紅茶です……熱いので、お気をつけてお召し上がりくださいね」
「ありがとうございます。あの、私……実は卓上遊戯に興味がございまして」
ゲルダが運んできた紅茶を受け取ったネーヴェ・グラヌローザが、おずおずと申し出る。
「とはいえ、私は初心者もいいところですので、どのような遊戯がいいのか、皆目見当がつきませんで。ここは何か、お勧めを伺えたらと存じます」
「ええ、もちろん構いません。リーブス様、こちらのお客様に道具の貸し出しとルール説明しますねっ」
ネーヴェの願いに快く応じたゲルダは、遊戯喫茶の店長でもあるリーブスに一声かけ、遊戯の箱を一式、抱えて持って来た。
「一通り分かりやすいものを集めてきましたが、何かお好みはありますか?」
「好み、ですか……ええと、猫ちゃんが好き、ですわね」
ゲルダに好みを尋ねられ、ネーヴェはついつい、遊戯とは無関係の趣味嗜好を答えてしまう。
「あ、ひょっとして、そういう意味ではありませんでしたか? そうですね……勝敗を競うよりは、協力して遊べるものがやってみたい、でしょうか」
ネーヴェはすぐに、遊戯の好みを聞かれたのだと気づき、発言を付け加えた。
「ふふ、いいですよ。せっかくですから、猫ちゃんが主役の遊戯を遊んでみて貰いましょうか」
ゲルダは微笑んでみせると、持って来た箱の中から一つを選び、遊戯の道具を展開していく。
「これはお一人でも遊べますけど、せっかくですからどなたかと協力してやって頂くのがいいかと思うのですが……」
「人数が必要なら、相席いたしましょうか」
ゲルダがきょろきょろと店内を見回していると、先ほどまで食事とお茶を楽しんでいたヴィルヘルミナが声をかけてきた。
「喫茶のほうも楽しみたいので、よほど時間がかかりそうなのは無理そうですが」
「そう長い時間は頂きません。よろしくお願いします!」
ヴィルヘルミナに着席を促し、ゲルダはぴょこんとお辞儀をする。
「はい、では……僭越ながら、わたしがルールの説明をさせて頂きますね」
ゲルダは猫の形をしたコマを手にとって、遊戯の世界観から語り始めたのだった。
●
「きゃっ!」
ザラザラーと派手な音が鳴ったかと思うと、ネーヴェの短い悲鳴が上がる。
その手許を見れば、円柱を半分に切ったような支点を中心に、長方形の板が揺れており。
そこから滑り落ちたと見られる、猫のコマと、ネズミのコマが散らばっていた。
「さっそく崩してしまいました……」
「ルールは簡単ですが、コツを覚えるまでは、けっこう難しいのかもしれませんね」
落ち込みながらもネーヴェが集めたコマを、ヴィルヘルミナが再び初期配置にセッティングしていく。
二人が勧められ、取り組んでいる遊戯はバランスゲームの一種らしい。
シーソーのように左右に傾くボードには、四方に区切られたマス目が描かれている。
その中央にはネズミを模したコマが一つ。
左右両端に、猫を模したコマが一つずつ。
ゲルダの説明によると、揺れる船の上で、猫を使ってネズミを追い詰めていく遊戯だそうだ。
置かれたコマによってボードがバランスを崩してしまうと、船が転覆したことを表し、攻略失敗となる。
「次は私から置いてみましょう」
ヴィルヘルミナがネズミのすぐ横に、新たな猫のコマを一つ置く。
ボードはゆらりと揺れるも、今度は崩すことなく置くことができた。
「わ、お上手ですね」
「まだ分かりませんけどね」
ネーヴェが小さく拍手を送る中、ヴィルヘルミナはダイスを転がす。
止まったダイスの目を確認したヴィルヘルミナは、ネズミのコマを数歩動かし、ボードが安定を保っているのを見てふぅと息を吐く。
ネズミのコマは、こうしてダイスの目と一定のルールに従って、置かれた猫から逃げ回るのだ。
「あと少し……」
「あ」
ネズミが追い詰められていく様を見て、息を呑むネーヴェ。
しかし、置ききった猫のコマをヴィルヘルミナが移動させたことで、またも船は転覆してしまう。
「このままでは悔しいですね……! あともう一回、チャレンジしましょう」
「なかなかどうして難しいですね。何かアドバイスを頂けますか?」
ネズミの移動を封じる配置と、船のバランスをとる配置を両立する難しさに、ネーヴェはついついのめり込む。
そこでヴィルヘルミナは近くを通りかかったジュエリアに声をかけ、助言を求めてみた。
「ネズミを追い詰める猫と、反対側で船のバランスをとる猫で役割分担を考えてみてはいかがでしょうか。ネズミを囲い込むには、ネズミの動くルールをうまく利用するといいですよ」
「ありがとうございます、やってみますわ」
ジュエリアから受けた助言をもとに、再びボードに猫を配置していくネーヴェ。
「やった、捕まえましたわ!」
そしてついに猫がネズミを取り囲み、移動を封じた盤面が完成したのを見て、ネーヴェは歓声を上げたのだった。
●
「こういうお店の食事も、本格的な料理店とはまた違った趣があっていいですね」
遊戯を一つ遊び終えたヴィルヘルミナは、休憩がてら再びお茶をとっていた。
洗練された料理を静かに集中して楽しむのもよいが、こうした賑わいの中でとる食事にもまた独特の味わいがあるものだ。
「こちらも何事もなくてなによりですね。まあ、私は騒動の最初のほうにしかいなかったのですが」
ヴィルヘルミナは卓上遊戯部で巻き起こった騒動の初期に関わっており、遊戯喫茶が無事に賑わっているのを眺めて安堵する。
「今度は何か、基本に立ち返って王道なものでもやってみますか。シャイニー様、少しお相手を願えますか」
「ええ、大丈夫です」
ヴィルヘルミナはボード上で互いのコマを取り合う遊戯をテーブルに広げると、ジュエリアを呼ぶ。
「部活動なら実践だけでなく、ある程度の研究もされていると思いますし、その成果もお聞かせ願いたいですね」
「感心して頂けるほどのものかは分かりませんが、それで構わなければ」
ヴィルヘルミナが指した一手に、ジュエリアも返しの一手を打つ。
カタリ、カタリとコマを動かす音を道連れに、二人は会話に花を咲かせたのだった。
●
「諸々の事情があっての依頼とはいえ……卓上遊戯部の方々には私も卓上遊戯を遊ばせて頂き、お世話になりました」
「こちらのほうこそ、イェレミースさんにはお世話になりました」
これまで卓上遊戯部の依頼を受けてきたリディリディ・トゥラ・イェレミースは、挨拶がてら喫茶に客として訪れていた。
その注文の対応には、ハンデルスがあたる。
「えっ……と、この後、お連れ様が来られますか?」
「いえ、私一人です」
注文を聞いたハンデルスが一瞬、目を丸くしたのに対し、リディリディは涼しい顔をしている。
ハンデルスは大丈夫かな、という顔をしながらも、やがてサンドイッチを乗せた皿を抱えてテーブルに戻ってきた。
そう、皿を抱えて。
「お待たせ致しました、サンドイッチ五人前です」
ハンデルスがテーブルに置いた大皿の上には、サンドイッチが山と積み上がっていた。
サンドイッチが四角錐を成して堆く積まれた様は、巨大なモニュメントを思わせる。
どこかの王族が自身の墓を奴隷労働で作らせたとしたら、このようなものが出来上がるかもしれない。
「ありがとうございます。あと、お茶も食後ではなく一緒に頂きますので……お願いします」
リディリディはテーブルに置かれた山の頂点から、サンドイッチを一つ掴むと、パクリ、パクリ。
ふた口で平らげた。
華奢なリディリディの体へ、あっという間にサンドイッチの山が消えていく。
その光景に周囲の客もざわめいていたが、リディリディはそれを特に気にする様子もない。
あるいは、食事に夢中で気づいていないのかもしれないが。
(貴族派と王党派の問題なので、すべて解決というわけにはいかないかもしれませんが……せめて今くらいは、ゆっくりとお茶を楽しみましょう)
サンドイッチの皿を一人で空にしたリディリディは、運ばれてきた紅茶を上品に啜っていた。
本当はお茶よりもお酒のほうが好みだが、学生のお祭りであるということは理解しているので、そこは自重する。
(皆さん忙しそうですが、私が下手に手を出すと余計に手間が増えるでしょうね)
スタッフとして手伝えなくとも、リディリディはリディリディにできることをやるのみだ。
「トレイダーさん」
「はい、お会計でしょうか?」
リディリディは忙しく働きまわるハンデルスを呼び止める。
「いえ……サンドイッチ五人前、追加でお願いします」
そうしてリディリディが告げたのは、さらなる料理の注文であった。
●
「あ! いらっしゃいませぇ~! 本日はご来店ありがとうございまぁす!」
「君、どこかで見たような……あ、コハクじゃないか?」
鼻にかかった声で出迎えた喫茶の店員、コハクをまじまじと見て、ナタリア・フィッツジェラルドはあっ、という顔をした。
コハクは目立つ金髪を茶髪のウィッグと帽子で隠し、何の変哲もない町娘に変身を果たしていたのだ。
これも、ただ普通にアルバイトをするのでは面白くない、と茶目っ気を出したコハクの遊び心である。
特徴的な尻尾も、狐のハーフビーストと勘違いしてもらえるだろうと踏んでいた。
結果、知己であるナタリアを一瞬とはいえ騙せたのだから、成果は上々と言ったところか。
「どう、驚いた?」
「ああ、面白い趣向だったよ。今日は店員として働いているんだな。せっかくだから、コハクに席へ案内してもらおうか」
コハクが尻尾をゆらゆらと揺らしながら尋ねてきたので、ナタリアは表情を和らげながら答える。
「今日はどうする?」
「まず、食事に茸のパスタを貰おうか」
コハクがどのような接客を見せるのかとナタリアも注目していたが、これがなかなかどうして、テキパキとそつがない働きぶりであった。
「さて、ここは遊戯喫茶ということだったな。どうせなら、ウォーシミュレーション系の遊戯はないだろうか」
「私、ここに置いてる遊戯に詳しくはないし、店長に聞いてくる」
食事を綺麗に食べ終え、ナタリアがナプキンで口を拭いながら尋ねる。
すると、コハクはそのとき厨房にいたリーブスのもとへパタパタと駆けて行った。
「さっきウォーシミュレーションと聞こえたのだけれど、もしよかったらご一緒させていただけるかしら」
先程の話が耳に届いていたらしいミツキ・アインホルンがそこへ現れ、相席を希望する。
「ああ、構わない」
「ありがとう」
ナタリアの承諾を待って、ミツキは同じテーブルに着席した。
「しかし卓上遊戯ね……懐かしいわ」
ミツキはかつて帝国の部隊で副官として戦略を学んだ。
その際、実際に部隊の仲間たちと共に卓上遊戯を用いたこともある。
そんなミツキにとって、ウォーシミュレーションは深い感慨を伴う遊戯であった。
「せっかくなので、冒険者の皆さんで同盟を組んで、私たちの同盟と戦ってみますか?」
そこに大きな箱を抱えたリーブスが、コハクに連れられ到着した。
「三国ずつで同盟を結んで戦うの? 面白そうね」
この提案にミツキが食いついたので、冒険者三人と、卓上遊戯部の三人がそれぞれ並び、向かい合って座った。
「あ、もしルールが書かれた書物があるなら、借りることはできるかしら。活字が好きだから読んでみたい、っていうのもあるんだけれど」
ミツキが希望したことにより、冒険者たちはルールブックを広げながらリーブスのルール解説を聞いたのだった。
●
「さて、よろしくお願いするわ」
説明も聞き終えたミツキが一礼したのを皮切りに、いよいよ遊戯が開始する。
テーブルには戦場の地図を模したボードが広がっており、その上に各国の軍隊を表すコマが並んでいた。
「さて……こういうのは出だしが大事なんだ」
冒険者同盟に所属するナタリアは、最も有効な一手を導き出すために、思考の世界に没頭する。
起こり得るありとあらゆる可能性に対し、ナタリアは最大限対応可能な一手を準備した。
「最初は様子見、かな?」
その一方で、同じく冒険者同盟となったコハクは直観的に手を選ぶ。
「皆さん、行動のプロットは済みましたか? ではオープン!」
リーブスの掛け声を聞いた遊戯の参加者たちは、手許に伏せていた裏向きのカードを一斉にひっくり返す。
この遊戯では、自国のコマにとらせたい行動はカードを伏せることによってプロットするのだ。
通常、伏せる札は味方である同盟国も知らないため、敵国ばかりでなく、同盟国のとろうとする行動も予測しながら動かないといけないのだ。
「一気に攻め込んで来たわね。何か狙いがあるのかしら」
「囮かなにかかもしれないね。気を付けたほうがよさそうだ」
プロットの結果によって動いたコマを見ながら、ミツキとナタリアは冷静に戦術を構築していく。
「ここが正念場になるわね。伝令を走らせましょう」
「おや、もう使ってしまうのかい。強気な一手を打つね」
意を決した表情をしたミツキは、これから伏せようとするカードを、同盟国のナタリアと、コハクにも見せる。
リソースとして伝令を消費することで、同盟国に自国の行動を知らせ、確実な連携をとることも可能なのだ。
「よし、うまく決まったわ」
オープンされたプロットを見て、ミツキはぐっと拳を握った。
殺到する敵軍を迎え撃つと思わせて、ミツキの部隊は後方へ引いていた。
それを知らされていたナタリアの部隊が、本来であれば友軍を巻き込みかねない強力な範囲魔法を敵軍にだけ見舞っていたのだった。
●
「ありがとう、楽しかったわ」
「うん、勝ててよかった」
勝負を終えたミツキが、同席した参加者すべてに対する感謝を述べた。
冒険者同盟が勝利を収めたこともあってか、コハクも満足げだ。
「流石、実戦で鍛えている冒険者の方々ですね。勉強になりました」
「君たち卓上遊戯部も、普段から研究しているだけあってなかなかのものだったよ」
リーブスも勝負に負けこそすれ、その表情は爽やかだった。
勝った側であるナタリアも、リーブスたち卓上遊戯部の健闘を惜しみなく称えた。
(全体的には満足な出来だったけど、あそこに関しては守りに回ったほうがよかったかしら……)
ただ勝利したことに驕らず、ミツキは勝負を振り返っていた。
「どうしたの、難しい顔して」
「ああ、なんでもないわ。ただ、さっきの試合で、あそこは反省点だったなって」
コハクに顔を覗き込まれ、ミツキは正直に考えを告白する。
「ひょっとして流れを全部、覚えてる? すごいね」
それを聞いたコハクは、ミツキの持つ優れた記憶力に感心していたのだった。
●
「持ち込みで遊んでみたい遊戯があるんだけど、構わないかい?」
「ええ、歓迎しますよ」
シルヴィア・A・カペルはジュエリアに声をかけると、自身の持ち込んだカードを広げていた。
「『ROSE&SEED』といってね。王国のある領で好んで遊ばれている遊戯なんだけど」
シルヴィアの広げたカードは五種類あり、異なる絵柄が描かれていた。
カードの絵柄はそれぞれ『薔薇と騎士』『蕾と魔術師』『葉と商人』『苗と農民』『種と姫』。
「カードにはそれぞれ強さがあって、薔薇の成長によって決まるんだ」
薔薇は蕾に勝ち、蕾は葉に勝ち、葉は苗に勝ち、苗は種に勝つ――そうシルヴィアは説明する。
ところが『種と姫』は最も弱いようでいて、最強のはずである『薔薇と騎士』には唯一勝てるカードになっている。
こうしたカードどうしが持つ循環する力関係が、この遊戯の肝となっているのだ。
「これらのカードをそれぞれが持って、互いに出し合うのですね」
「その通り。一枚ずつカードを出して、五枚出したときの勝敗の差でワンゲームが決まる。そして先にツーゲームを先取した者が勝利というわけさ。さあ、まずは早速やってみよう」
ジュエリアの言葉に頷いて肯定しながら、シルヴィアは五枚のカードをジュエリアにも渡す。
(このジュエリアという少女、これでいてなかなか食えないね)
シルヴィアは対戦相手であるジュエリアの表情をじっと観察していた。
自らの手を読ませないよう、本心を表情に出さないでいられるのは、流石は貴族の生まれといったところか。
もっとも、演技力を駆使して手を悟られないようにしているのは、シルヴィアも同じであるが。
「だけど、私には君の手が分かったよ。覚えてるかい。未知の可能性を秘めた種だけが、完成した薔薇に勝てるのさ」
そうしてシルヴィアが伏せたカードは『種と姫』であり。
シルヴィアの洞察力が見抜いた通り、ジュエリアのカードは強気の『薔薇と騎士』であった――。
●
「ここ遊戯喫茶があるみたいよ。入ってみましょう」
「へぇ、遊戯喫茶か……ん? ゆっくりするべきなのか、それとも頭使えばいいのか、これどっちなんだ?」
リズ・ジェイド・フローレンスとカズマ クレセントブラッドの二人は、看板を目にして遊戯喫茶に興味を持ったらしい。
リズに入店を誘われたカズマは、遊戯喫茶の正しい楽しみ方がふと気になり、首をひねった。
「……まぁ、どっちでもいーか! はいろーぜ!」
しかしそんなものは実際に飛び込んで体験してみるのが早いとでも思い立ったのか、カズマはさっと気持ちを切り替え、店の入口を通った。
「ここは軽食も摘まめるし、卓上遊戯の道具を借りることもできるみたいよ」
「みたいだな。あ、飲み物はミルクで」
リズは店の利用案内を読んでいたため、だいたいの雰囲気を把握していたようだった。
カズマは注文をとりにきたハンデルスに、飲み物の注文を伝える。
ミルクを飲んだとして、カズマの身長がこれ以上に伸びるわけではないだろうが、そういう習慣になっているものは仕方がない。
「遊戯はそうね……カードなんてどうかしら。二人で手軽にできるわよ。軽く三本勝負でどう?」
「三本勝負か、構わねーぜ!」
リズの誘いにカズマが乗り、二人はカードで勝負することになったらしい。
五枚の手札で役を作り、その強さを競うオードソックスな遊戯だ。
「何かしら賭けても面白いけど、学園から通達もあったしやめておきましょう」
「ははっ。代金の支払いなら、賭けるまでもなく俺がしてやるよ」
リズが呟いた言葉に対しては、カズマが男気を見せる。
このような会話をしている間にも、リズは借りてきたカードをシャッフルし、山札を作っていた。
(確率なら五枚のスートを揃えるのが一番いいが……ここは強い手を狙うより、堅実に大きい数字でワンペア、ツーペアを狙って……)
届いたミルクを口に運びながらも、カズマは自らの引いた手札を前に悩む。
結果、同じ役どうしで勝負をすることになった場合も見越して、カズマは強い絵札を残したうえで、他のカードを交換した。
(ここは手堅くいくべきか、博打に行くか……大博打してしまいましょう)
一方のリズはというと、冷静に勝負を始めたはずが、いつの間にか熱くなっていたようで。
「私は五枚交換するわ! さあ勝負!」
リズの思い切った宣言の後、運命のショーダウン。
「俺はツーペアだ。そっちは……五枚交換でスリーカード!?」
「ふふ、大勝負に出た甲斐があったわね」
カズマもそれなりに勝負できる手であったが、第一戦はリズの引きの強さが勝利を収めたようだった。
●
「うう、悔しい」
リズの様子から分かるように、結果としては三本勝負はカズマの二勝一敗で終わった。
あの後の勝負で、リズは強い役を狙って交換するがあまり、ともに役なしになってしまったのだ。
一方のカズマはワンペアながら確実に役を作ったことが、最終的な勝利に繋がった。
勝てたのはリズが役なしになってしまったことに助けられた面も大きい、が。
カズマは大きい数字でペアを作るようにしていたため、リズが同じくワンペアを作れていたとしても勝負に勝っていただろう。
「はは、悪いな。三回じゃ足りないと思ってたところだし、どうせならもっとやるか?」
「望むところよ。今度は負けないからね」
勝ち負けは別にして、カズマもまだまだ遊び足りないと思っていたようで、勝負を続けることを提案。
リズも勝ち逃げは許すまいとばかりに、この提案に食いついた。
こうして、二人は互いの気が済むまで勝負を楽しみ。
いっぱいの楽しかった思い出を胸に、遊戯喫茶を後にした。
なお、もちろん食事代の支払いは約束通りカズマが行ったことをここに付け加えておこう。
●
「よ、カーリィの嬢ちゃん、暫くぶりだな。元気そうで何よりだ」
「あら、ヴァンさんもいらしたのですね」
ヴァンゲルス・ロッドに声をかけられ、カーリィ・ブロンドが金髪の巻き毛を揺らして振り向く。
カーリィは紅茶を楽しんでいたようで、その手許にはティーカップが湯気を立てていた。
「お前さんはスタッフじゃねえんだな」
「な、なにもわたくしは遊戯喫茶の売り上げに貢献しようと考えたわけではありませんわ」
ヴァンゲルスがからかうと、あからさまに照れ隠しをするカーリィ。
つんけんしているようでいて、こういうところは可愛くもある、というのが周囲からカーリィへのもっぱらの評判である。
「よし、俺とまた一勝負しねえか? 負けたほうが勝ったほうへ、好きな食いモンを奢るってえのはどうだ」
「ひょっとして、賭け事のお誘いですの?」
面白いことを思いついた、とでも言い出しそうな顔で提案してくるヴァンゲルスに対し、カーリィは怪訝そうな顔をする。
「こんなのほんのお遊び、賭け事の内にも入らねえよ――なんだ、もしかして自信がねぇのか? へぇ、お前さんとあろう者がねぇ」
「じ、自信がないなんて、まさか! よいでしょう、その勝負、受けて立ちますわ!」
ヴァンゲルスが軽く挑発すると、カーリィは勢い込んで乗ってきた。
この娘、実にちょろい。
「遊戯は対戦できるものなら何でもいいな。お前さんに選ばせてやるよ」
「余裕ですわね――後で後悔しても知りませんわよ!」
ヴァンゲルスは賭けにカーリィが抵抗を持てば単に遊戯を楽しむつもりでもいたが、思った以上に食いつきがよかったので、そのまま賭けを行うことにする。
そうしてカーリィが持って来たのは、互いにキノコのコマを動かして、相手のコマを取り合うゲーム。
コマには『食べられるキノコ』『毒キノコ』の二種類があり、相手にはそうした情報が見えないように盤上に配置する。
相手の『食べられるキノコ』を全て集めるか、自分の『毒キノコ』を相手に全て取らせれば勝ち、というものだ。
「なるほど、そして自分の『食べられるキノコ』を特定の場所に進めても勝ち、と――まさかお前さんが心理戦を俺に挑んでくるとはな」
「わたくし、この遊戯にはちょっとした自信があるのですわ!」
遊戯の内容を聞いてニヤリと笑んだヴァンゲルスに対し、カーリィは自信満々で挑んでくる――。
が、結果はヴァンゲルスの二連勝。
表情に出やすいカーリィが、自らの進めるコマの種類をヴァンゲルスに隠し通すなど不可能だった。
「うう、悔しいのですわ」
「楽しかったぜ。後でもう一回やろうじゃないか」
カーリィはヴァンゲルスから所望されたサンドイッチを奢りつつも、シェアして貰いながら口にしていた。
「しかし嬢ちゃんもすっかり見違えたな。将来、良い女になるぜ」
「お、おだてたって何も出ませんわよ!」
ヴァンゲルスがまじまじと見つめてそのようなことを言うものだから、カーリィは顔を赤くして、ついそっぽを向いてしまったのだった。
●
こうして多くの来店者に恵まれ、遊戯喫茶は大盛況。
和やかに語らう人々の声や、ダイスの転がる音を背景音楽に伴って。
遊戯喫茶の時は穏やかに流れ、過ぎていく。
やがて訪れてしまう、別れは寂しいけれど。
いつかまた、遊戯が人々を繋ぐ時が来るのを信じよう――。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:標準13 / 4〜25人
2021年10月16日 09時54分23秒 公開
参加者
相談掲示板
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 やってみたいゲームがあるから、卓上遊戯部の誰かに付き合って貰って遊んでみるつもりだ。 皆、良い時間を過ごせますように。
ミツキ・アインホルンよ。よろしくね ウォー・シミュレーション系のゲームをやるつもりよ。 絡みは歓迎よ。
ヴァンゲルス・ロッドだ。 カーリィの嬢ちゃんを巻き込んで、軽食一人前を賭けてひと遊びするつもりだ。 同卓になったらそんときゃ宜しく頼むぜ。
ネーヴェ・グラヌローザと申します。どうぞ宜しくお願いいたします。 卓上遊戯に興味がございまして……ですが何が良いのか全く分からないものですから、今回は初心者向けにレクチャーをお願いするつもりです。 同じく卓上遊戯が初めての方同士で遊べると嬉しいですわ。経験者の方からもアドバイス頂けますと大変有り難く存じます。
No.5
リディリディ・トゥラ・イェレミースです。 卓上遊戯部の皆さんにはお世話になりましたし、ご挨拶に伺う予定です。 といっても、今回は喫茶ということですので、お茶を頂きに行こうと思っています。
ゲルダです。よろしくお願いします。 わたしも、お世話になった卓上遊戯部の皆様にご挨拶を……といった行動になる予定です。 あとは、状況を見ながら喫茶のお手伝いをできたらな、と。
ヴィルヘルミナです。 私も挨拶にという感じですね。私は最初の方にしか関わりはありませんでしたが。 立場としては客になると思います。
一年生のハリーヌと申します。 皆様、よろしくお願いしますでございますよ! ワタクシは、スタッフとしてお手伝いしたいでございます。