スライム農園の秋
九蓮宝燈
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シナリオID:1379
オープニング
その郊外に大きな農園がある。
ここのあるじはとても冒険者に好意的で、定期的に割のいい仕事を依頼してくれる。
その目的は駆け出し冒険者の育成であったり、あるいは駆け出しに限らず全ての冒険者の休養や士気向上になれば、ということであったりする。
畑仕事。農作物の収穫、加工。
付近の森に住む鹿や猪の狩り。
そして、実験中のスライム農法のためのスライムの間引き。
そして、またそれらの仕事を冒険者に発注する時期がやってきた。
また、スライムの新しい利用法として、昨年『スライムせっけん』が開発された。
キメの細かいとろみのある泡は洗浄力と保湿力を併せ持ち、肌をつるつるふっくらにしながら色味をワントーン明るくする効果がある、という触れ込みである。
冒険者含む多数のモニターの協力の結果、無事安全性が確認され、そろそろ販売を開始しようということになった。
しかし魔獣を使用した品に忌避感のある人も少なくないだろう。
と、いうことで、考えられたアイデアは二つ。
一つはスライムせっけんを香油や薔薇水など既知の基礎化粧品類とセットにして売ること。いくつかの化粧品をそれぞれ小さめの容器に入れて、いい感じの袋に同梱すれば、試用だけでなく旅行などにも役立つはずだ。
もう一つは、冒険者向けにアピールすること。各地をめぐる彼らの情報伝達速度は高い。口コミの広告力が半端ないのだ。また、魔獣への対応にも慣れ、魔獣食を好む者すらも多い彼らなら、せっけんにも抵抗は比較的少ないのではないかと期待された。
冒険者ギルドカンパリ支部の受付嬢アルミレア・A・アンダーソンは掲示板に依頼書を貼りだした。
「依頼者がして欲しいことは多岐にわたるみたいだわ。どの仕事をしても報酬は同じ! それぞれ自分の得意なことをすればいいんじゃないかしら」
日程は一泊二日。狩猟や野菜・果物の収穫も頼まれごとのうちに入っているが、出荷分とは別に自分たちの食べる分は取っていいことになっているし、足りないものは農場が出してくれる。ただし料理は自分たちでしてほしいということだ。
「今の季節だと、野菜はナスときのこ。果物は梨やぶどう、いちじく、栗あたりが旬かしら。とれたての野菜や果物とジビエかぁ……いいわね~」
アルミレアはどちらかというと化粧品よりも食べ物のほうに興味があるらしい。
解説
マスターより
リプレイ
とある冒険者の作であるメタルな門扉をくぐると、そこは広大な農園であった。
野菜、茶、果樹……さまざまな作物の耕作地、休耕地。
食材の加工施設、宿泊施設。
収穫祭がくる前にと、片付けておかねばならない作業のために冒険者たちが招かれた。
●せっけん
黄色い鱗のリザードマンの女性学者が冒険者たちに石鹸の作り方や各種器具の使い方などを説明する。
「商品化の際にはさまざまな香りから好きなものを選べるようにしたいので、皆様の好きな香りを教えてください」
机の上に並べられた各種香料から、おのおの好きなものを選んでほしいと締めくくった。
なお、石鹸の熟成はおよそ四十日以上が目安である。持ち帰り用に熟成済み石鹸が用意されているが、今作ったものを持ち帰って自宅で熟成してもよいということだった。
ゴブリンの薬草医ゲルトは調合には慣れていた。
学者と専門用語を含むやりとりを経て、石鹸作り、およびスライム素材の使い方を完全に理解していた。
ギャメルは作り方を大枠で理解していた。石鹸材料を目分量で混ぜようとし……隣のゲルトが慎重に正確な分量を容器に移しているのを見て、詳細な方法はこうなのかと、ふんふんとうなずいた。
「水に溶けるものはこちら、油に溶けるものはこちらの溶液に」
ギャメルが見ているのに気づいて、ゲルトはわかりやすいように説明しながらゆっくりと作業をしてみせる。
「檸檬みたいな香りだな。これに林檎の香りを足して、サッパリした石鹸にしたいな!」
ギャメルはそう言いながら林檎の香料を足す。
ゲルトが持ってきていた精油のラベルは、ギャメルの低い視線から見て、きれいに裏側になっているため見えない。
「ゲルトはどんな匂いが好きなんだ?」
ゲルトはサフランを煮出した黄色い液で石鹸を着色しようとしていた。
緑スライム溶液の色が変化していく。
様子を見ながら少しずつ染料を足していき……ストップ。
溶液はちょうど蜜柑のような色になっていた。
「あっ! わかった、蜜柑だな」
「正解だ」
ゲルトが精油の瓶を裏返すと、『ベルガモット』『マンダリン』の文字。
エフィルミアは蒸留装置に好みのハーブを入れながら、友人のシルヴィア・A・カペルとどんな石鹸を作ろうかと相談していた。
そして現地で見かけた他の冒険者たちの中に海神・江流がいるのを発見。エフィルミアは知っていた。彼は工作が上手いのだ。
「可愛いスライム石鹸を作ってください!」
次いで、手先の器用なエル=バ=ノイアンも確保。
「器用な労働力は逃がしませんよー!」
急に呼び止められたとはいえ、江流とノイアンはとくに断る理由もなく。
「可愛いスライム……?」
「まあ、身だしなみは大切だからな」
ノイアンは今まで手入れをしないボサボサ髪がトレードマークだったが、彼を取り巻く状況は変化していた。
他の三人で精油の抽出やスライム素材の加工をしている間、江流は金型を作ろうと思ったが、スライム素材は一部の金属を腐食する性質があるため、学者に代替案を薦められた。
「銅なら大丈夫かと思いますが……」
そう前置きしながら薦められたのは、完成後のカービングである。お土産用の完成済み石鹸があるので、まずは気軽なカービングを、練習がてら試してみてはどうかということだった。
青スライムベースの水色の熟成済み石鹸を一つもらい、器用に削っていく。
みるみるうちに、つぶらな瞳でぼんやりした緩い表情の、ディフォルメスライムの顔ができあがった。
「この香りは好きだな」
江流は青スライムの薄荷のような香りが好みらしい。
「いい出来だ。花型もできそうだね」
シルヴィアが江流の作品に賞賛を贈る。そして江流が彫っているのは持ち帰ってもいいものだと知って、リクエストする。
「旅のときには使い切りの薄い手洗い石鹸がほしい。逆に入浴で使うときの石鹸は見た目も可愛いものがいいな」
商品化に関する提案も交えつつ、そんな話をしているのを、横でノイアンが聞いていた。
(可愛いもの、好きなのか)
シルヴィアの好みを心のメモ帳に書き込んでおく。
「猫型も作れないか」
「へいへい、やってみますよ」
江流は口ではめんどくさそうに答えながらも、シルヴィアのために花を、ノイアンのために猫を削り出す。根っこの部分は友達思いな性格なのだろう。
可愛らしいもの、優雅なもの。趣の異なるいくつかの作品が机に並ぶころ、精油の抽出が終わり、エフィルミアは香りを確かめていた。
「この精油で化粧水も作れば、好きな香りで揃えられるのでいいですね。好きな香りを身に纏うとテンション上がります!」
好みの香りができたところで、石鹸の生地の制作に取りかかる。
「指の魅力を打ち消さない配合を目指したいわね」
アヴェラ・ウッチェロは指フェチである。
理想の石鹸を作るべく、紙に香りのサンプルをしみこませて嗅ぎ、入念に吟味する。
(あまり香料が強いと指本来の香りが……、いやでも料理のつけあわせだと思えば……)
スライム素材そのものにも香りがあるのだから、それで十分ではないか。
いや、一説によると、桃や椰子は若い女性の肌の香りと同じ成分が含まれるという。
お試し用の石鹸で手を洗い、自分の指の香りを嗅いでみるが、すでにいくつも試したあと。
(確認のため、指……手をお借りできないかしら)
使用前・使用後の変化を試すため、アヴェラはまだ手を洗っていない人を探すことにした。
●畑にて その一
トゥーリは久々に来たスライム農園を見渡していた。
手洗い場には去年見たのによく似た石鹸が置かれていた。どんな改良がされているのか、あとで試してみよう。
人手が足りてそうなら作業の効率化の工夫を……と思ったが、普通に収穫に回った人数は少なかった。
時間が余りそうならあとで育苗棚を覗いてみようと思った。
加工台の作成、耕作地の柵や獣除けの罠といった工作のアイデアもあった。
トゥーリが収穫作業に向かうと、先にサマエラ=フォリウムが笊に一杯の茄子を採り終えていた。
(おお、野菜も茸もよく育っているな)
茄子の形はどれも個性的である。切りやすく見栄えのいい、まっすぐで傷が少ないものは出荷用へ、そうでないものは別の箱に避けて今夜の食事用に。
「おお、ここが農園……清々しくていいところですね」
ガル グラトヴァインは、冒険者になる前は農家であった。
砂漠地帯を灌漑して作った農地をのんびり耕すのが、かつてのガルの生業。
ガルが持つ生ゴミの入ったバケツをスライムが追いかけるのは興味深い風景だ。
生ゴミを撒き、軽く土を混ぜておく。するとスライムは餌を周囲の土ごと体内に取り込んでいく。
畑一面分の仕事を終え、次の作業へ向かいながらなにか面白いものがないかと探す。
ガルの目に止まったのは、スライム間引きを効率化するための施設だった。
殖えすぎたスライムが農地からあふれないように、畑に出す数を調整するための仕組みらしい。
倍々に殖えていくスライムを減らすのも、今回の依頼に含まれていた。
「冒険者としての練習台にでもなってもらいますか」
ガルは農民出身であるが戦士の血を受け継いでいる。真新しい武器と覚えたばかりのスキルを試すために囲いの中に入っていった。
「積極的に人類を襲う種でなし、これは魔獣と人類の共生の形なのだ」
ストレガ・L・リベルガストラは料理上手で名を馳せる冒険者だが、今日引き受けた仕事はスライムの間引きであった。
範囲攻撃を雑に打ち込みさえすれば上手く間引きができるような施設がすでにあったため、時間は十分あった。
ならばやることはスライムの生態研究である。
「研鑽、研鑽」
ナイフでスライムを刺してみる。解体してみたところ、スライムは雲丹の構造に似ていた。口と肛門が分かれていないので水母のほうが近いかもしれない。
核的なものは複数の内蔵の塊。原口からの捕食の他、体内に入らない大きさの餌は蜘蛛のように消化液を体外に出して、半消化物をすするのであろう。
「石鹸にできるくらいならもしかしたら食えるかもしれないのだ?」
ストレガは、スライムを固めて刻んで麺にすることを思いついた。
あとで学者にも意見を聞いてみようと考えながら作業を進める。
Alexandra・Hexe・Claudiaはこの農場においては功労者の一人である。
以前は野放図に放し飼い状態だった農業用スライムの間引き用罠を考案したのだ。
報告書で、それを元にした施設が実際に建設されたと知っていたが、見に来たのは今日が初めて。
(久々に来ました。……農場主さん、元気にしているかな)
Alexandraは収穫作業を手伝った帰りである。籠には今日みんなで食べるための野菜が一杯に入っている。
「おや、貴女は」
落ち葉を掃除していた農場主がAlexandraに声をかけた。
「おかげさまでこういったものができたよ」
スライム間引き用施設は、畑一枚分ほどの広さ。実験農場に入り口が開いており、その戸は弁になっていて、スライムが入ることはできるが出ることはできない仕掛け。
内部は二重に頑丈な塀で覆われていて、スライムの脱走を防ぐとともに無差別範囲スキルにある程度耐えることができる。
「ところで、これから夕食作りかな」
「ええ。無限の胃袋をもつ友人がいるもので」
「我々の作った野菜、しっかり食べていってね。ご友人にもよろしく」
挨拶を交わしてAlexandraと農場主は分かれた。
――私たちが護る今日は、貴方がたが創り続ける明日に支えられているのだから。
(今や各国の情勢は見渡す限り悶着に暗躍。私たちもこの先、各地に駆り出され戻れない時期が長引くやもしれない。稼ぎぶちの一つを投じて万一に備える……迷う理由のない選択です)
●せっけん その二
ララベル・サン・ディーベルはお試し用のスライム石鹸で手を洗い、使い心地を試していた。
ララベルは宿屋を経営している。
スライム石鹸を気に入れば、宿の大浴場に置いたり、よく一緒に温泉など旅行を楽しむメンバーへのお土産にしたりしたいと思っていた。
「スライムって言うから溶けちゃわないか心配だったけど、これは面白い触り心地……香りは色によって違いが出るんだ。僕は緑のが好みかなぁ」
ホイップクリームのような細かい泡はもちもちと弾力がある。
(皆に使ってもらえたらもっときれいに……)
ララベルの周囲には美女が集まる。今でも十分輝いているような彼女たちの美しい肌が、さらに……。
ララベルは熱を帯びた頬を頭を振って冷ました。
しかし今回持ち帰れる石鹸は一人分程度と説明されていた。
「買い取るので、多めに持ち帰っていいですか?」
たくさんの美女たちの誰に渡すかで悩みたくないと思ったララベルは学者に交渉を試みた。
「まあ! そういう事情でしたら、ぜひ多めにお持ち帰りください」
学者は快くOKしてくれた。
ただし、石鹸の熟成は、スライムのものを溶かす成分を抜くために必要なこと。完成済み石鹸の試供品はともかく、今日作ったものはまだ危険なので、あげる人には説明してほしいとのことだった。
キーゼとネーヴェ・グラヌローザのカップルは並んで手を洗っていた。
スライム石鹸を作成する前にまずは試してみようということだったが……。
(このとろみ……アレを思い出さないわけではないですね)
キーゼは手のひらの感触になにかデジャヴを感じたらしい。
ネーヴェはとろみのある泡の優しい洗い心地と、流したあとのしっとり感を使いやすそうに思っていた。
手をきれいにしたら作業開始。好きな香りをつけて楽しんでいいということだが、キーゼはピンとこない。
「でしたら緑がよろしいのではないでしょうか。どなたにとってもなじみある香りかと」
キーゼにあいそうな香りをネーヴェが見繕う。
「なるほど、女性からすればこういう楽しみ方もあるわけですね」
装飾品を選ぶように精油を吟味するネーヴェを見て、キーゼはしみじみ言う。
ネーヴェは自分用に一本の精油を選んだ。
「柑橘系とラベンダーの香りは相性がいいんです。相乗効果でより落ち着いた、リラックス作用の高い香りになりますの」
ネーヴェが選んだのはラベンダー。大人っぽい存在感のある甘い香りは爽やかなスライムの香りを引き立てる脇役にぴったり。
「就寝前に嗅げば、きっとよく眠れますわ」
「お詳しいですね、そのまま販売員になれそうですよ」
キーゼはネーヴェの博識さと説明能力の高さに舌を巻く。
ネーヴェは練り終わった石鹸の生地を猫の形の型に流し込み、とんとん、と空気抜きをして、しばし眺めた。
「どうかしたんですか?」
キーゼがいぶかしむと、ネーヴェはふっと笑顔を向けた。
「ふふ、少しアーテルのようだなと思いまして」
「ええ、アーテルそっくりですね……お上手です」
石鹸の粗熱が取れるのを待ちながら、ネーヴェは香り選びのためのフローチャートを、キーゼは石鹸自作キットや石鹸作り体験教室の提案を紙に書く。
「同じ香りのものが持てて嬉しいです」
ネーヴェが笑顔でキーゼに言った。
香りはとくに人の記憶に残りやすく、関連した事柄を連想させやすいという。
エミリア・シバはスライム素材の香りを確かめていた。
(緑は柑橘系・青はメントール系・赤はスパイス系……)
スライムだけだと香りがシャープな印象だった。フローラルの香りを足して丸っこくできないかと、香料を手に取る。
「普通の石鹸の匂いや極力無香のものとかはできないかしらね?」
ある程度の年齢以降なら香りつきの石鹸はお洒落だとは思うけれど、小さな子供が使うにはきつすぎるのではないかと考えた。
「灰も油もスライム素材を使うと香りが出ますけれど、どちらか一方を通常のものにしたり、半量通常の素材を混ぜたりすることで抑えられますよ」
通常の石鹸の材料である海藻灰とオリーブ油、椰子油も準備されていた。
「獣脂がほしければ、狩りに行った方に分けていただければ……」
動物の脂は臭うし冷水に溶けにくいので、あるのは植物油脂ばかりだった。
エミリアは超嗅覚で香りを確かめつつ、自分の好みや万人受けについて考える。
「いい感じだったら、おねえさんと冒険者じゃないほうの同業の子たちにも教えてあげましょう」
「ええ、ぜひとも広めてくださいね」
学者は完成済みのサンプルを、よかったらとエミリアに手渡した。
「石鹸や化粧品作りですか……興味があります。自分に手間をかけるということは大切なことなのです」
ミア=リゼルは爽やかな香りがするというスライム素材が気になっていた。
しかしスライム石鹸はスルー。今回は、これからの季節にほしくなる保湿油を作るつもりだ。
肌用にシア油、髪用にオリーブ油を選ぶ。好きな香りをつけて、持ちをよくするために光を通さない容器に入れる。
「こういう体験って縁がなかったのよね。ひび割れすると辛いから保湿はしてたけど、それ以外はあまり使わないし」
フードを被り露出の少ない服装をしているが、きれいさの中に可愛らしい魅力のあるルベア・ベルニは、青と緑の二種の素材を選んだ。
青は自分用、緑はミアのためのもの。
(ミアさんならきっと緑を気に入ってくれるわ)
友人のことを思いながら均一になるまで素材を混ぜていると、ミアがボウルにじりじりと寄ってきた。
「こちらの緑色のスライムさんは、檸檬に似た香りがしますね……」
ミアはレモニストである。
「はねたら危ないわ」
熟成前の石鹸素材には、スライムの溶ける成分がまだ残っている。ルベアはボウルをさっとどけた。
まだ経験の浅い冒険者のルフィナ・ヴィオレットは、参加者の中に同族であるアルフィー・リッパーをみつけて行動を共にすることを申し出た。
「猫の獣種同士、仲良くししてね」
(猫のハーフビースト……耳が黒い)
アルフィーもルフィナに近親感を覚えながらも条件反射的にイカ耳状態に。
しかし毛触りがふわふわになるような石鹸を作って兄貴分へのお土産にしたいと思っていたところだから、協力者はありがたい。
しかしルフィナのほうも石鹸作りは初めてらしかった。
「あんたも初めてか、毛並みがきれいだから得意かと思った」
「ふふっ、ありがとう。あなたの毛並みも宵闇みたいな深い黒色でとっても素敵よ」
石鹸作りは初めてでも、香りの組み合わせはわかるので、ルフィナはアルフィーにアドバイス。
「贈る相手が男性なら、青ベースに少しだけ花の香りを足すといいんじゃないかしら」
自分は緑ベースに茉莉花の精油を落とす。
「緑には花の香り、青にはベリーの香り、赤にはムスク系の甘い香りがあいそうね」
商品としてはそういう組み合わせを提案してみようと思いながらルフィナは石鹸生地を混ぜる。
均一になるまで混ざった生地を型に入れる。ルフィナのもアルフィーのも、ここまでの作業はつつがなく完了。
「いい匂いのできた。ありがとな」
ふしゃー、とした態度ながらもアルフィーはきちんとお礼を言った。
●コスメ
「貴女は以前にもおいででしたね」
学者がスィーリーンに挨拶する。
スィーリーンは以前ここで花の香りの石鹸を制作し、モニターにも協力していた。
前回彼女が提案した女性的な花の香りは、今回でも提案者が多い。商品化においても定番かつ人気のラインになるだろう、と見込まれている。
「今回はコスメセットについて考えてみますね」
スィーリーンが重視したのはデザインである。メインのターゲット層である女性客が「持ちたい」と思うものであるべきだ、と考えた。
「女性客には、可愛らしい、もしくは優雅な感じのデザインがいいと思うのですけれど、冒険者が使うとなるとシンプルなほうが持ち歩きやすいと思うのですよね」
確かに、荷物の中で装飾がかさばったり細かい部分が引っかかったりするのは、旅をするのに不便である。
「なので、形はシンプルにして、きれいな絵を描いたり、取り外しのできる飾りをつけるのがいいでしょうか」
「なるほど。絵ならかさばりませんし、取り外しができるなら飾りだけをしまっておくこともできますからね」
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクも似た意見を持っていた。
「スライムをデフォルメしたマスコットやロゴなんてどう?」
学者は二人の意見から、スライムのマスコットチャームというアイデアを思いついた。
「可愛い人形があれば、魔獣といえど親近感が持てそうです。商品を使い終わったあとも鞄などにつけたくなるような飾りがあれば、それが広告にもなりますね」
学術・研究の家系に生まれたナタリア・フィッツジェラルドは話しあいを興味深く聞いていた。
スライム石鹸は洗髪洗顔、ボディソープに有用と考えている。化粧のノリをよくすると思えば化粧品だが、どちらかといえばスキンケア用品の域であろう。
「新たに考案するなら、肌荒れの鬱陶しさを考えてハンドクリームにリップクリームか」
そういった文脈を考えて基礎的なものの同梱を提案する。
「冒険者が旅先で使うのを想定した商品なのか」
ギャメルは自分が旅先で経験したことを語った。
「オレ、別にオシャレじゃねぇけど極端な気候の場所にいったときは肌もピリピリして、クリームとか塗りたくなったな。気候にあわせて内容を変えるのはどうだ?」
気温や湿度が違えば、肌への負担のかかり方も違ってくる、とギャメルは感じたようだ。
「種族が違うとわからないこともありそうですね」
学者は頑丈な鱗の肌をもつリザードマンである。ヒューマンやゴブリンの薄い肌ではそういうこともあるのかと、興味深そうに聞いていた。
「ワタクシのような肌が出ていない獣人では、洗い上がりはいかがでございましょう?」
ハリーヌ・ヨツユビはヨツユビハリネズミの獣人である。背中が針で覆われた特徴的な肌をもっている。
億万長者になるのが夢であるハリーヌは、ご当地ビジネスの勉強を兼ねてこの集まりに参加していた。
「髪に使われた方は、通常の石鹸ほどではないにしろ、油などで仕上げていただかないと、多少はきしんでしまうようですね」
モニターの意見をまとめた用紙を見て学者は答えた。
「なら、ハーフビースト向けに、毛のお手入れ油やブラシとセットにするとよいでございますね」
「なるほど。さまざまな気候や種族がいますから、それぞれのパターンにあわせた商品展開が必要ですね」
「コスメセットにするのはいいけど、使い方が伝わらないといけないと思うわ」
アヴェラはリーフレットを提案。学者はなるほどとうなずいた。
「確かに、使い方が自己流では効果が出にくいですものね」
「文字が読めなくてもわかるようにイラストで、細部まで細かく、指の手入れの方法を……」
あれ? そっち? と、首をかしげる学者。
(正直私が一人一人教えてまわりたいけどね)
アヴェラは真剣ながらもどこか怪しい目つきをしていた。
●調理室
コハクは大食いである。
しかし食べる専門ではなく、狩りも上手い。
雪山に隠れ住んでいた一族の出身というバックボーンもあってか、狩り場ではいきいきと獲物を屠っていた。
「首の動脈を槍で一撃とはやるのだ」
「捜波があれば索敵はたやすいし、獲物より早く動くことなんて造作もないわ」
狩り組の解体の手伝いのために準備していたストレガが、コハクの獲物を改めた。なんとも見事な手際。血抜きはなんの問題ないようだ。
湯に漬けたナイフでストレガが皮剥ぎを始めると、武装を解いたコハクも一緒に解体作業を始めた。
コハクは食べる専門ではなく、料理も上手いのだ。
サマエラは笊一杯の茄子を洗い、清潔な布巾で水気を拭き取っていた。
艶のある濃い紫色のしっかりした皮がテカる。
(食欲の秋なる言葉も、あるらしいからな。もはや食すことは義務と心得た、うん)
表情は乏しいものの、内心サマエラのテンションは上がる。
茄子は煮ても焼いてもよく、とくにこの時期のものは格別であるが、サマエラは『揚げ』を選択。
茄子を縦に四つに割り、皮を噛み切りやすくするための切り込みを入れる。軽く濡らしたあと水気を拭き取った菜箸を熱した油に入れ、温度を確認。細かい泡が立てば適温だ。茄子を投入して素揚げに。
こうすれば、揚げ料理でありながら中の食感は蒸したようにジューシーに仕上がる。
これだけでも美味しいが、さらに揚げチーズを添え、軽く塩を振る。
(美味い……)
試食したサマエラの語彙は、チーズと一緒に溶けた。
「あら、いい匂いね」
ヘルプに来ていた受付嬢アルミレア・A・アンダーソンは、籠一杯の茸を持って調理室へやってきた。
サマエラの揚げ茄子を試食させてもらい、くぅーっとうなり声。
「美味しい! エールがほしくなるわね!」
アルミレアの後ろから、ガルが果物を運んできた。
「これ、料理できる人におまかせです」
「果物もあるならデザートが作れそうね」
籠の中の葡萄や無花果を見てルフィナが食後のお楽しみを思いつく。
ルフィナがいくつか果物をもらって調理台に戻ると、アルフィーがとれたての鹿肉の下ごしらえをしていた。
筋を切り、ローズマリーや大蒜といったハーブ、塩で味をつける。
「こうするとジビエ特有の臭みが消えて食べやすい肉になるんだ。あとは焼く前にタレに入れると……ジューシーで柔らかくなるぞ」
と、ドヤ顔。ボウルの中には生姜やおろし玉葱、柑橘類の果汁などで作ったタレがあった。
「これは量産できそう」
追加の肉を運んできたコハクが味を想像して三本の尾を揺らす。
「アルフィーはお料理上手なのね。尊敬しちゃうわ」
ルフィナが自慢げなアルフィーを褒める。
「いいお婿さんになりそうね」
アルフィーは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまうが、尻尾の動きは嬉しさを隠し切れていなかった。
そしてルフィナは南瓜や茸をふんだんに使って、すじ肉で出汁を取った美肌成分たっぷりの野菜スープと、蜂蜜を添えた果物のヨーグルト和えを作る。
細々とした作業を行っていたトゥーリが、配膳用ワゴンを押して調理室へやってきた。
「すごーい! 豪華だね」
主食メニューが少ないと見たコハクが、ホワイトソース・トマトソース・オイルの三種のパスタを大皿に入れてワゴンに乗せた。
「こんなものじゃ足りないかもしれないわ」
コハクは切って軽く下ごしらえした食材を容器に入れて並べる。
おかずが足りなければちゃっちゃっと調理すればよく、必要なければ明日の朝食を作るとき少し楽ができるというものだ。
●宿泊施設
トゥーリはひとっ風呂浴びてサッパリしたあと、宿泊施設のロビーで果実水を飲んでいた。
誰か話し相手でもこないかと期待しながらまったりする。
暑さが緩み、蛙にかわって虫の声が聞こえてくる夜は、のんびり涼んでいるだけでも季節を楽しむことができる。
湯上がりのエフィルミアとシルヴィアはスライム石鹸の美肌効果を自分の身で確かめていた。
「これは一緒に夜這いにいくしかないですね!」
鏡で小鼻の仕上がりを確認したエフィルミアは男部屋への突撃を提案。ただし『夜這い』の意味はわかってはいない模様。
「それ、他の人に言っちゃ駄目だよ?」
シルヴィアはやんわり注意しつつも、遊びに行くのは賛成だった。
男部屋。
「シルヴィの髪にキスまでしたって聞いたけど、俺にあんな相談が回ってきたってことは、肝心なこと何も伝えてないな?」
「!? あ、いや……ど、どんな相談が……?」
江流が振った恋バナにノイアンはキョドった。
「そういう想いでいてくれてるってことなのか? ってさ。だから、そういうふうに自分を見てほしいんじゃないの?」
シルヴィアとノイアンは、お互い惹かれつつもまだ想いを打ち明けあってはいない。
江流からもたらされた情報は、ノイアンにとって吉であったが。
「……まあ、そういう気持ちはあるにはあるが。彼女には立場もあるし強制はしたくない……」
シルヴィアは侯爵令嬢である。そういった相手には釣り合いが求められて当然の立場で……。
ノイアンの煩悶を破ったのはノックの音。
ドアの向こうには噂の当人シルヴィアとエフィルミアがいた。
「夜這いだよ。カードゲームでもしないかい?」
ノイアンはドキリとしつつも表情に出さないようにつとめる。
「夜這いの意味わかって……まったく。二人とも、ちゃんと自分の部屋で寝るんだぞ」
「カードか。いいだろう、何を賭ける?」
江流が四人分の席を作り、女性陣を招き入れた。
わいわいと雑談しながらカードゲームに興じる四人。
シルヴィアはちらりとノイアンの横顔を盗み見る。
優しい彼がこのひとときを楽しんでくれればいいと願って。
アウレーリア、ナタリア、コハク、Alexandraの女子四人は同じ部屋で女子会をしていた。
「……ところで、みんなの美容事情ってどうなのかしら」
アウレーリアは冒険者をしていてもそういう余裕を忘れたくない。他の子はどうしているのかと気になって話題を振った。
このメンバーでは最もしっかり者のナタリアがすらすらと答えた。
「かなり気を遣っているのね」
感心するアウレーリアに、ナタリアが答えて曰く。
「学者という文弱だからと身だしなみに疎いと馬鹿にされるのも癪だからな」
コハクは入浴を断固拒否してきたところ。しかし彼女のもふもふつやつやはとても衛生的だった。
「毛づくろいされるのは好きだもの……ところで、Alexandraは?」
Alexandraは、己と比して他者はよほど非のない人物と思っており、他人にライフハックを教えるようなことは性にあわなかった。
「私は、たいしたことは……」
ハリーヌはバスタブにスライム石鹸を溶かした泡風呂でゆったりバスタイム中。洗いにくい針の隙間まで泡がいきわたる。
「いい匂いでございますね。依頼で汚れることも多いでございますから、石鹸はよいものを使いたいでございます」
宿泊部屋では相棒ゴリラがハリーヌの帰りを待っていた。
寝る前に、将来のために今日のまとめを書いておこうと、ハリーヌは机に向かった。
こちらはミアとルベアの部屋。
二人とも風呂上がり。ミアは軽く上げた手をわきわきと動かし、ルベアに迫っていた。
「さあルベアさん、作ったものを早速使ってみましょう!」
ミアの手のひらには適量のシア油が伸ばされていた。
「わ、私はいいのよミアさんが……」
じりじりと後退するルベア。しかし無情にもここは室内。ルベアの背が壁にあたる。
ミアの手がルベアの腕をがっし! と拘束した。ミアの手の温度で溶けた油が、ルベアの日焼けを知らない肌に塗り込められていく。
(でも何なの、この感覚……ちょっと自分がきれいになってる気が……)
いけない扉は開いていません、健全です。
「つるすべもちふわ肌になったら次は髪を梳きましょうね」
ミアはタオルドライ後のグレーの髪の中程から毛先へとオリーブ油をなじませていく。
下半分にしっかりと油を浸透させたら、コームで仕上げる。
「つやつやのさらさらヘアーなのです。いつにも増して愛らしいですよ!」
可愛いと言われてルベアは真っ赤になる。
ベッドの上で小動物のようにじゃれあった二人はやがて寝落ちする。
先に寝たミアから漂う檸檬の香りに鼻をくすぐられながら、ルベアもまた目ぶたを閉じた。
何人かの冒険者との雑談を追え、トゥーリは自室へと戻っていった。
明日の作業は石鹸の型出しだという。収穫後、土や泥を洗って干して乾かした野菜もどうにかしておかなければならなかったはずだ。
もらえるという手土産も楽しみにしながら、トゥーリは眠りについた。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:標準25 / 4〜25人
2021年09月23日 16時11分20秒 公開
参加者
相談掲示板
ルフィナと言うわ。 よろしくね。 美容効果抜群のスライム石鹸、とっても気になるわ。 既存の香りに他の香料を加えて新しい香りにするのも面白そうね。 コスメセットも作ってみたいし……ふふっ、やりたい事がたくさんで迷っちゃう。 お食事の方も作れたらと思っているわ。 皆で食べたら美味しいし楽しいわよね。 『せっけん&基礎化粧品』に興味があったり『お食事』を作ったり食べたりしたい人とご一緒出来たら嬉しいわ。
アルフィー・リッパーだ。よろしく。 友人……(と言いかけて尻尾をぴーんとして)へ、変なやつのお土産に石鹸作りとそのあとは料理づくりをやろうと思ってる。 石鹸作りは初めてだけど、料理は好きだから頑張ってご飯を作るぞ
クラウディアです。よしなに。 ―久々の農園です。 アルフィーさんの献立向けに、こちらは食材調達といきましょうか。 …お腹にブラックホールを抱えている方もいらっしゃるようですし。 今回は農場主さんとも話がしたいから…個人としてはどちらかというと収穫がメインになりそうです。
ご挨拶はここでいいのかな。ガルと呼んでください えーっと、かけだしなもので…あと実家が農家なもので! 参加しやすいかなと思って来ました。 方針としては…農作業の手伝いのつもりです。 増えたスライムがいたらちょっと戦うことになるのかなあ。んー…と思いつつ。 がんばります。仕事のあとのごはんたのしみだな…よろしくね
スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 以前に来た時はスライムせっけんを作りましたので、 今回はコスメセットについて考えてみようと思ってます。
アヴェラ・ウッチェロよ。よろしくお願いするわ。 手、指先を綺麗にするため、素晴らしい商品を作るため、全力でお手伝いするわ。
クラウディアは編入試験の時は勉強色々教えてくれてありがとうな。あんたも来てたんだな。 食材調達ありがとな。助かるぜ。
海神江流だよ。今回は宜しくね。 スライム石鹸作りに挑戦?してみたい。 あとは見知った顔と宿泊って感じで。
シルヴィアだ。よろしく頼むよ。 友人達と石鹸作りと宿泊の予定だ。皆、素敵な一日を過ごせますように。
石鹸作りやお料理でご一緒する皆さんはよろしくね。 素敵な一日になりそうでわくわくするわ。 >アルフィー あらあら、アルフィーはツンデレさんなのかしら(微笑ましそうに笑い) 石鹸作りにお料理にとしたい事が2つとも同じだし、あなたさえ良かったら一緒に作ってみない?
ルフィナ〉なっ(顔を真っ赤にして)ツンデレじゃねーぞ!言い間違ったから言い直しただけだ(ふしゃーとなりながら) む…むむ…石鹸は作ったことないから、教えてもらえると嬉しいな、料理も一緒に作れたら嬉しいし(ボソボソと話) ルフィナか…ま、まあよろしくしてやってもいいぞ。あ、いや…よろしくお願いします。
エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 友達と石鹸作りとお泊りに来ました! 皆で楽しんでいきましょー!