珍味。それはタコパの味
夜帷かもめ
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シナリオID:1082
オープニング
青空にダミ声が響いた。むせ返るような熱気に、シャワシャワと泡のはじけるような音がする。特別製の鉄板に油をひいて、カンカンになるまで熱してあるのだ。温まった油が期待を含んで音を立てている。傍らには、山盛りのネギと小麦粉で作った生地ダネ。
そして――今日の主役。
「これ、なんだい?」
見慣れぬ食材を目にした一人が問いかけた。なにやら、赤黒い表皮に大きな吸盤。肉の断面は白く、見ようによってはトカゲの肉か……あるいは、クリーパーの触手のようにも見えなくもない。そんな肉が、ぶつ切りになっている。これは、果たして食べ物なのだろうか? 王都グランスパーダは比較的良好な物流網に恵まれ、辺境や大森林からの珍品がマーケットに届くことも少なくはない。だが、それをして今日冒険者の前に並べられたコレはひときわ珍しい食材に違いない。
「こ゛れ゛は゛、た゛こ゛さ゛ぁ゛」
頭には手拭をぎゅっと締め込んだ少女が答える。なんでも、リブラネスタから特別に運んできた珍しい海の幸なのだという。本来であれば傷みが早く、とても王国内陸部では食卓に上がる筈のない食材だが……今回は。
「マ゛シ゛カ゛ル゛ポ゛ケ゛ッ゛ト゛を゛つ゛か゛っ゛た゛の゛さ゛ぁ゛」
得意げに、授恵者であり商人でもあるというその少女は胸を張った。
『マジカルポケット』
どこか、このマテリアル界ではない別世界に所有者の物品をしまい込み、保存や輸送を可能とする授恵者のスキルだ。確かにこのスキルであれば、食品の劣化などは抑えられる。腐りやすい食材などの保存には打ってつけだろう。そんなスキルを駆使して大陸東端の港湾都市から海の幸を持ち込んだのはいいが――。
「き゛も゛ち゛わ゛る゛い゛っ゛て゛い゛わ゛れ゛た゛ん゛だ゛よ゛お゛」
あまりの外見の悪さに、売り物にならなかったのだという。もう一度リブラネスタへ持ち帰るにしても、手間賃などが大赤字。かといってこのままグランスパーダで売り先があるわけでもない。そこで商人の少女は閃いた。
「せ゛や゛、タ゛コ゛パ゛や゛!」
なんでも、生地にタコを包んで焼き、各種のソースを塗って食べる料理が一部の地方では郷土料理として親しまれているらしい。これなら焼いてしまえば外見の悪さも気にならず、味はお墨付きだ。これを冒険者に食べてもらって、その美味しさを喧伝してもらえれば……きっとタコも売れるに違いない。
ということで、冒頭に戻る。食材や器材は全て依頼主持ち。あなた達がするべきは、ひたすらに焼き、食べ、そして宣伝すること。フードファイトなどをしても良い。なにしろ、タコはたくさんあるのだ。
解説
マスターより
リプレイ
高らかに少女が宣言する。目の前には、整然と並べられた調理台に鉄板、そしてタコ、タコ、タコ。
「ひどいダミ声です……さぞかし売り込みに喉を酷使したのでしょう」
レイヤ・ダライ=カホールは感動に打ち震えていた。聞けば、はるばるリブラネスタからここまで行商がてらにやって来たのだという。掛けた労力が対価として報われなければ、その悲しみは想像するだに難くない。何としてもこのイベントを成功させなければ。そんな義憤にもにた思いを胸に、彼女は商人の少女へと声を掛ける。
「手伝います。ところで、ハーブチョコレート要りますか? のどに良いですよ」
「あ゛り゛が゛と゛う゛。で゛も゛こ゛れ゛は゛地゛声゛な゛の゛さ゛ぁ゛」
あ、そうですか。なんだか肩透かしを食らった気分で、レイヤは食材のタコを受け取る。ぐにぐに。吸盤が手のひらにくっついた。ちょっと面白い。見た目はグロテスクだが、これを焼くと美味しいのだという。どんな味なのだろう? 期待に腹がぐぅと鳴った。
ザンカ・クジンは仮設のテント前に置かれた水槽の中を覗き込んだ。
「焼きタコ? どんな料理なんでしょうか」
タコという名に聞き覚えはある。頭がひとつに首が八本ある、ちょっとした怪物みたいなやつだ。それを焼く? 丸焼きでしょうか。解説を求めようにも、興行主の少女は設営に走り回っていて忙しいらしい。誰か詳しく教えてくれないか――と辺りを見回して、ちょうど行き会ったルチル・プルメリア・グレイハーツと目が合った。
「焼きタコか。タコを塩ゆでにした後でぶつ切りにして、小麦粉の生地で包み焼きにしたもの――だったかな」
斯く言うルチル自身も実際に焼きタコを食べたことがある訳ではない。情報屋として見聞を広める中で、たまたま紀行文の中にそんな記述を見かけたことがある――確か、そんな経緯だったように思う。
「とりあえず、食べてみようじゃないか」
準備が出来れば自由に焼いて、食べて、騒いでいいらしい。百聞は一見に如かずとルチルが誘えば、ザンカも頷く。
「これは、でびる・ふぃーっしゅ!? 凄い見た目だね」
アルマ・ヴァレンタインが驚きの声を上げる。吸盤付きの脚をうねらせ、水槽を泳ぐ姿は確かに悪魔のように見えなくもない。そんなアルマの言葉を聞いて、通りがかりのストレガ・L・リベルガストラが彼女の肩を叩く。
「違うのだ。これはタコというのだ――魚ではなく、貝に近い生物なのだ」
「これが貝! 全然そうは見えないね」
「意外と食べれば美味しい――らしいのだ。私も食べたことはないのだ」
シャルガネで書かれたものの本にその記載があったが、実際に現物を見るのはストレガもこれが初めてである。知識の名を受け継ぐゴブリナだって知らないものはある。
「そうなの? それなら食べてみようよ」
幸い、焼き手も徐々に集まって周囲からは良い匂いが漂い始めている。彼女らが手を動かさずとも、試食品がどんどんと焼きあがっていた。アルマもストレガも、食に対しては人一倍貪欲である。未知の食材を前に、戦わずして引き下がる選択肢はない。
「そこ行くは迷宮ガールさん? うちらと一緒にたこぱしようさぁ!」
フリューリングスルフト=ティエラが呼び止めたのは、ロウトフェダー。数々の大規模作戦で武勲を立てたロウトフェダーの名の通りは良い。それは実力も然ることながら、無類の迷宮好きとしての風聞も広く知られている。好奇心旺盛なフリューとしては、一度ロウトの話を聞いてみたいと思っていた。
「俺かい? そっちのお嬢さんが邪魔じゃなければ、俺は大歓迎だぜ」
ロウトが気にしているのはシャルロット・エクレールの事だ。シャルロットとフリューの仲は睦まじく、無二の親友であるように見える。その間に入って気分を害さないか――と、懸念したのだ。
「あ――はい。私なら全然、ご一緒出来たらうれしいです。私、シャルロットと言います」
その心配は無用とばかりに、シャルロットも破顔してロウトを受け入れる。今日はフリューと食べ歩きに来たが、美味しいものは何人で食べたっていい。賑やかに楽しくしたい気分だから道連れが増えるのは彼女としても喜ばしい。
「うちは『トリック・スター』ことフリューリングスルフト=ティエラ。長いからフリューでいいさぁ」
「おう、よろしくな。俺の名前は……知っているみたいだな。ロウトフェダーだ」
三人が互いに自己紹介を交わしたところで、また別の冒険者が通りかかる。
(あれは――フリューじゃないか)
通りの向こうに見知った赤い髪を見つけ、シルヴィア・A・カペルはそちらの方へとぶらぶらと歩いて行く。近くに寄ってみれば、なにやら屋台の前で黒髪の女性に声を掛けているらしい。
(女の子が女の子をナンパしているとは面白い)
ふむ、と口の中で呟いて、シルヴィアはそのままフリュー達の方へと近づいていった。
「こんにちは、フリュー。それにそちらの二人も。何をやっているのかな?」
「あ、シルヴィアさん! みんなで今からたこぱする所なのさぁ」
「たこぱ――? なんだい、それは」
「行商の人が商品を余らせちゃったみたいで、それを使った料理をみんなに振る舞ってくれるんですって」
「あんたもフリューの知り合いかよ? 俺はロウト。よろしく頼むぜ」
「初めまして、シルヴィアだ。なるほど。折角の機会だし、私も興味がある。良ければ混ぜて貰って、その真新しい料理を楽しみたいんだが――いいかな?」
三人の輪にシルヴィアも混じれば、いよいよ賑やかになってくる。結果としてはシルヴィアもまた、フリューたち三人をナンパした形になった。
商人の少女から人数分のタコを受け取って、まずはとりあえず焼いてみる。シャルロットが試しにオリーブオイルでぶつ切りのタコをソテーしてみると、すぐに透明感のある白い身に火が通って独特の匂いがしてきた。
「うーん、美味しいですけど……あまり料理っぽくはないね?」
焼けた身を齧ってみるが、少し物足りない味がした。
「あ゛っ゛、こ゛れ゛を゛忘゛れ゛た゛ら゛あ゛か゛ん゛」
首を捻る四人の様子を見て、商人の少女が慌てて走ってくる。その手には、溶いた小麦粉生地がたっぷりと入った器があった。生地で包み焼きにしなければ焼きタコではないらしい。改めて、仕切り直す四人。
「屋台の大将としては、こんな面白い食べ物見逃すわけにはいかないよ!」
「俺も気になります。姉貴、焼き方をぜひ教えてくれませんか」
マーハ・アセトシソンとオゴスの二人は、タコそのものよりも『焼きタコ』という料理に強く興味を惹かれたようだ。手ごろに一口大の大きさで、持ち運びしやすく視覚や嗅覚にも強く訴えかけてくる。露店の新しいシノギになるかもしれないと、商人の少女を捕まえてはあれこれとノウハウを聞き出す。特に確認するべきは、タコの仕入れルートと鉄板の入手元だ。これが無ければ焼きタコは作れまい……。
「お゛っ゛、ま゛か゛せ゛と゛き゛な゛ぁ゛」
少女は二つ返事でマーハとオゴスの提案を請ける。代わりに手渡したのは『ハッピ』に『ハチマキ』。それに持ちやすい持ち手が付いた特製の鉄串だ。まずは形から入れと、そういうことらしい。練習がてら、ひとつ焼いてみろという事で二人はそれぞれに鉄板を前にタコを焼き始める。
「――結構、難しいですね」
「遠くリブラネスタからやってきた、焼きタコ! 焼きタコだよ。今日しか食べられない限定の出店だよ!」
少し手元が覚束ない様子のオゴスに対し、マーハは串を操る手つきにも恐れが無い。呼び込みの口上を述べる余裕すら見せながらもくるくると焼けた焼きタコをひっくり返す。この辺りは普段からの料理経験の差がモノを言ったようだ。焼きあがった焼きタコにタレを絡めてから、皿代わりの紙の船に乗せる。
「なるほど、これならいつでも味が変わらずにそれなりに作れそうです」
オゴスは商人の知恵を目の当たりにして楽しそうだ。
「思゛い゛切゛っ゛て゛表゛面゛を゛焼゛い゛て゛か゛ら゛、一゛気゛に゛ひ゛っ゛く゛り゛返゛す゛ん゛だ゛よ゛」
「油は少し多めにして、外はカリっと。中はフワッと仕上げるといいかもしれないね」
焼ける端から冒険者たちが持っていくのだ。いくら焼きタコを焼いても足りるという事はない。三人はあれこれと調理方法を試してみる。肉や野菜を入れてみたり、生地を甘くしても面白いかもしれないとマーハが提案する。確かにそれは美味しそうだ。
ぜひとも次の機会には、変わり種も試してみることにしよう。
カルフ・オルヴォとセオ・ウルジオの二人は、実演販売をするオゴスやマーハの姿を目に留めて何事かと屋台を物色する。『焼きタコ!』と書かれた幟が目に入った。
「タコ料理か、珍しいな」
「これが――ですか? 図鑑でしか見たことが無いです」
カルフは大森林の出だが、その長い生の間で何度かタコを食す機会があった。一方のセオは本でしかその存在を知らない。
「下処理が少し難しいがな」
しっかりと臭みを取って、料理すれば独特の歯ざわりが旨い。そう語るとセオも瞳を輝かせる。人よりも本を読むことが多かった故に知識はある。だが、彼の世界は自室のベッドに限られていた。だからこうして、想像の世界が目の前に広がるのが今のセオにとっては何よりの楽しみであり、喜びである。
「少し、食べていきませんか」
いつもは主張をすることが少ない控え目な彼が、カルフを誘う。
「無論だ」
セオの興味に付き合って一休みするのも、悪くはない。カルフがその申し出を断る理由は無かった。
●「俺の迷宮仕込みの技を見せてやるぜ」
そう言って胸を張るロウトの仕込みは、丁寧かつ繊細だ。塩を揉みこんでタコの表面のぬめりを落とすと、よく水で洗う。脚の部分を切り落としてから長さを揃え、軽く串を打って曲がらぬように整えてから茹でていく。
タコという食材自体を扱うのは初めてだが、似たようなクリーパーを迷宮で仕留めて食べたことがある。毒が無いなら全部食える。毒があっても、解毒して食える。大切なのは下処理だ。ロウトが処理したタコを、シャルロットにフリュー、それにシルヴィアが受け取って焼いていった。
「今度はちゃんと丸く焼けたよ。フリュー、はいどうぞ。最初のお味見!」
「まるまる焼きたこ~あつあつ焼きたこ~♪ あ、これ美味しい!」
「なるほど。エールにもよく合いそうだ」
「つーわけで、これがダンジョン流だ! よし、俺も食うぞ!」
ある程度まとまった量を作ったところで、四人は一旦鉄板を離れて食べる事に集中する。焼きたての焼きタコを囲んでつついていると、フリューのテンションがうなぎ登りに上がっていく。自然と歌が口をついて出てくれば、雑踏の人々も彼女たちの周りに垣根を作った。
「物は試し! これ、おいしいから食べてみて!」
「こっちのチーズを入れたやつも。ソースの焦げる匂いと合わさって香ばしくなるね! ――イケるわ。皆さん、遠慮しないで食べてってよ」
「自分で焼くのもなかなか楽しいね。こう、ピックで焼けたところからひっくり返すのが面白い」
やいのやいのと言いながら思い思いに焼きタコを作って食べる。雑多な雰囲気だが、なかなかに面白い体験となった。
「シルヴィアさんもおひとついかがさぁ♪ 当たりはチーズいり!」
「貰おうか。これならカペル領にも広めてみてもいいかもしれない」
フリューから勧められた山盛りのロシアン焼きタコを頬張りながら、シルヴィアは故郷を思い出す。今日の話は、実家に帰る際のいい土産話になりそうだ。出来れば、タコを仕入れるアテが内陸部でもあれば良いのだが。
「もっと迷宮のお話して?」
「いいぞ! そうだな――いいか、迷宮ではな……」
シャルロットはロウトフェダーと差し向かいに、なにやら話し込んでいた。初対面だがすっかり意気投合したらしい。楽しい時間のオトモはもちろん、焼きタコだ。
(しかし、凄い声ですね……)
ヴィルヘルミナの耳には、休まず通りに出て呼び込みをする少女の声が聞こえている。あの特徴的な声ならば、足を留める人も多いのではなかろうか。人が集まるのであれば焼きタコもかなりの量が必要になるだろう。
準備の手を動かしながらそこまで考えて、ヴィルヘルミナは気を引き締めた。鉄板の片隅を任された彼女の責任は重大だ。精神を集中させると、すぅっと汗が引いていく感覚を覚える。しっかりと熾った炭火で熱せられた鉄板は、陽炎を立ち上らせるほどに熱い。黙っていれば汗が噴き出そうな炊事場に立つには、覚悟が必要なのだ。凹みのあいた鉄板に均等になるように生地ダネを流し込むと、程無くしてくつくつと泡立ち始める。そこに、タコをぱらりと落し入れると溢れたタネが鉄板を覆う。
「そこですっ」
鉄串を使って溢れた生地が焼ける端から凹みの中へ押し込んでいくと、次第に半球状の形へと焼き固まって原型が出来る。しっかりと表面がカリカリになったタイミングでひっくり返すと、半球が二つ重なって球形になった。油を引き直してなおもくるくる、生地をひっくり返していくときつね色の焼きタコが出来上がってきた。
(この辺は好みでしょうか)
ヴィルヘルミナは油で半ば揚げるように仕上げてみたが、別の作り方でも美味しいかもしれない。料理としての奥の深さを感じながら、無心に彼女はタコを焼いていった。
「ちょりゃ!」
気合一閃。串が躍った。タコも躍った。
「うーん? 料理と首刈りは割と得意なのですが、慣れるまでは大変ですね♪」
ザンカは串を手にして、首を捻る。ルチルや他の焼き手を見よう見まねで焼きタコに挑戦してみたは良いが、なかなか上手くいかない。
「次はしっかりと油を引いて、温まるまで待ってみよう」
ルチル自身は丁寧に、ちくちくと串を操って焼けかけのタコをひっくり返す。当然飛んでいくようなことにはならない。
「はっ!? いつも通り、タコも首と思えばうまく焼けるのでは?」
(斬首と焼きタコ作りは違うのでは……)
何やら閃いた顔のザンカ。その呟きを聞いたルチルの脳裏には一抹の不安が過るが、それをそのまま伝えるような無粋はしない。とりあえず黙って見守ることにする。
「タコは首! タコは首!」
呪文のように唱えると、ザンカは再び串を繰る。今度は上手くいった。一度コツを覚えてしまえば、後は早かった。ザンカもルチルも、手慣れた様子で自分が食べる分の焼きタコをどんどんと作っていく。
「本日だけの期間限定! リブラネスタの海の幸、タコをたっぷり使った焼きタコですよー♪」
「タコって何だ?」
アルマの呼び声に、道行く人が足を止める。彼女の声は雑踏の中でも遠くまでよく通った。
「タコって言うのはこれだよ! ちょっとゲテモノ心をくすぐる見た目をしてるけど、食べると美味しいんだよ」
「本当かよ……」
「本当ほんとう! 今日ここでお食事された方には、ドリンク一杯無料のサービスもしてるんです。ささ、どうぞどうぞ!」
にこやかに笑いかけつつ、有無を言わさぬ手際で通行人を椅子に座らせ、その前に一人前の焼きタコを置く。ドリンクのオーダーを聞いてしまえば、さすがに立ち上がれる人はいない。
アルマを始めとしてアピールに精を出した成果は、試食用のテーブルを囲む人々の数と表情に現れていた。今日のイベントは、冒険者以外の街の住人にもタコの美味しさを広めるいい機会となっただろう。
●「みんな、コメは持ちましたね!?」
レイヤの掛け声に人々が雄叫びを上げた。みな、片手には炊き立てのコメをてんこ盛りに。もう片手には箸をスタンバイ。目の前にはうず高く積まれた焼きタコが鎮座している。調理される前のタコは人によって好き嫌いが分かれる見た目をしていたが、こうして焼きタコにしてしまえば気にならない。それに、食べれば美味しいとなれば見る目も変わるだろう。
「さあ――突撃です!」
「続くのだ!」
「お姉さんも食べますよ。ほらほら、ルチルちゃん! 乾杯しましょう♪ かんぱーい!」
「ああ、乾杯――ん、なんだ。ザンカは酒を飲まないのか。それなら――ストレガ」
「ルチル殿も来ていたのだ? いただくのだ」
宴は最高潮となっている。ストレガにザンカ、ルチルも笑っていた。みな、初めて食べる『焼きタコ』に舌鼓を打ちながら、思い思いの楽しみ方を見つけている。
「どんどん焼けますからね!」
「うん、美味い。だが、口の中が火傷しそうだ」
「ああ――中はとろっと熱いから気を付けるのだ。水はあっちにあったのだ」
ストレガが指し示すと、ルチルは小走りに走って行く。思った以上に熱かったらしい。
「お米と一緒に食べても美味しいですね」
「コメくいてー ¯\_(ーワー)_/¯」
とりあえず明日のことは気にしないでおこう。だってタコとソース、白米の組み合わせがおいしいんだもの。ザンカとレイヤは頷き合うと、焼きタコをもう一皿お代わりした。
「カフさんは、タコ……食べた事あるのですか?」
「ああ、昔な。うまいぞ」
目の前で焼けていく焼きタコに目を輝かせるセオを横目に、カルフは目を細めた。普段であればわざわざ誰かの世話を焼くような真似はしない――だが。森羅万象に新鮮な驚きと興味をもって臨むセオに対しては別だ。彼を見守っていると、遥か昔に忘れてしまった心持ちが思い出されるような気分になる。
「これはどうやって食べるのがいいのでしょう」
「そうだな――うん、ニンニクやトウガラシがあるな」
セオに問われて、カルフは用意された薬味を見る。これならいつか食べたタレが作れそうだ。甘辛く味付けた焼きタコは、噛めば噛むほど味が出て止まらなくなる。
「そのまま焼いて塩を振っただけとは、それはもう雲泥の違いでな……」
遠くを見る目で語るカルフを見上げ、セオは期待に胸が膨らむ。そこまで美味いと彼が言い切る焼きタコ、どれほどの物だろうか。ちょうどそのタイミングで、焼きあがった二人前の焼きタコが運ばれてきた。
「あ――熱いっ!? でも、美味しい!」
さっそく一つ、とカルフ特製のタレを絡めて焼きタコを頬張るセオ。口の皮が剝がれそうになるほど熱い出汁がぴゅっと飛び出してくるが、それを冷まして飲み込むと旨味がじんわりと広がってくる。確かにこれは忘れられない味だ。
カフさんも一つ、と串にとって吹き冷ましたものを差し出せば、紫の瞳が一層笑みに細められる。
「自分でやるから、それはセオが食え。細過ぎて戦いでやられちまうぞ」
言いつつ、エールを一口カルフは喉へと流し込んだ。思い出したように苦いものも胃の腑へと落ちていったが、後口は悪くない。
「そうですか? あ……僕、もう一皿貰ってきますね」
言う間に空になった皿を手に取り、セオは立ち上がる。カルフはゆっくりと頷いてそれを見送った。
●「止まるんじゃねぇぞ……」
男たちが、固唾を飲んでナハティガル=ラーの手元を見守っていた。彼は器用に串で焼きたてのタコ焼きを刺すと、自家製のつけ汁に軽く浸す。淡い琥珀色の出汁が生地に浸み込んで、じゅく、と音を立てた。まだ湯気が立ち上るソレを、一息、二息と吹き冷ましてからおもむろに口の中へと滑り込ませる。
――うまい。
火が通ることで引き出されたタコの旨味が、香ばしい生地の風味、出汁の甘さと重なり合って味蕾を刺激する。ひょいぱく。ひょいぱく。串が止まらない。噛めば噛むほどに味が出てくるその味わいは、グロテスクな見た目からは想像も出来ない程に深い。
「あぁ、美味い……」
思わず、声が漏れた。次は香辛料を煮詰めたソースを試してみるとしよう。なに、他にも甘辛なソース、塩気の強いもの、柑橘を絞った酸味のある味付けもあるだと――? 授恵者のアイデアもあって、様々な味付けが準備されているらしい。これを食べつくさずにはいられようか。
「次の皿だ――!」
空になった舟を横へ寄せ、新たにタコ焼きが山と盛られた舟を受け取る。
「うおぉ、俺も喰いてえ!」
「こっちにも寄越せ!」
見守る男たちが待ちきれぬとばかりに鉄板へと走る。目の前でこうも美味しそうに皿を重ねられては、辛抱堪らぬ。焼きたてのタコ焼きをそれぞれに受け取り、男らは車座になってタコ焼きをつつく。瞬く間に中央には空になった舟の山が積み上げられた。
● 「なんちゅうもんを食わせてくれたんや……」
感極まってそう呟き、男が倒れた。仰向けにひっくり返ったその腹が、高く天を向いて山となっている。焼きタコと米を食べ過ぎたのだ。苦し気に腹をさするその男を、アルマが介抱する。消化を助ける薬草を飲ませ、背をさすると少し青かった顔色に血の気が戻ってきた。楽しいイベントで病人が出ては元も子もない。
タコパは大成功だった。街の人々も、タコの美味しさを知って満足している。商人の少女も、在庫が掃けてようやく安堵の笑みを浮かべた。
「こういうイベントは楽しくて良いね! 僕も次は自分で仕入れてみたいなあ」
「確かにそれは気になるね。リブラネスタ産……と言っていた気がするね」
マーハとシルヴィアは、タコを仕入れる手段が無いか話し合っていた。この街だけではなく、自分たちの地元にもこの食材を持ち込んでみたい。
「買゛い゛手゛が゛い゛る゛な゛ら゛、ま゛た゛持゛っ゛て゛く゛る゛で゛ぇ゛」
商人の少女が請け負う。取引先が開拓できるならば在庫をタダで食べさせた甲斐があるというものだ。
「ほどほどに楽しむように出来ればそれが一番いいのだ」
ストレガが呟いた。タコがいくら美味しいとはいえ、食べたいからと言ってむやみやたらと獲れるものでは無い。海には陸とはまた違った危険がある。それよりも気になるのは……。
「クラーケンも、食えるのだ?」
タコが食べておいしいのなら、一説にはそれが魔獣化したものと言われるクラーケンも食べられるのではなかろうか。機会があれば試してみたい。知の探究は立ち止まることを彼女に許さない。
「食えるぜ、きっと!」
ロウトが力強く頷く。何と言っても、迷宮の触手は食えた。海の触手が食えない訳がない。
今日。新たな食の扉を開いた一同は、次なる食材との出会いを祈念してもう一度盃を掲げる。
乾杯!
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:標準15 / 4〜25人
2021年07月14日 15時50分34秒 公開
参加者
相談掲示板
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 故郷は内陸部だから海産物はあまり食べたことはないんだ 珍しい上に美味しい料理なら食べてみたいと思っている。 気に入ったら故郷にも広めてみたいかも、なんて。 絡みは大歓迎だから、当日会えたらよろしく頼むよ。
た、こぱ? たっこぱ? たここ? Σはっ!フリューっていうさぁ、よろしく! うちは友人のシャルと、そこ行く迷宮お嬢さん()をナンパ()するんけど。 絡みは大歓迎やし、同じく歓迎のところに絡みに行くやもさぁ!(カペルさんを見つつ、みつつ( その時はよろしくねー!
(フリューの視線に気が付き) やあ、これは可愛らしいお嬢さんだね。 初めまして、シルヴィアだ。女の子が女の子をナンパとは面白い。ふふ、私もナンパしてみようかな? 当日はフリューに絡みに行かせてもらうね。他の二人とも話せたらと思うけど、絡みOKか分からないからそこはふんわりと。よろしく頼むよ。
オゴスと申します。焼きタコ作りに挑もうかと。 料理の腕はからっきしですが、青空の下で鉄板でってシチュエーションに心惹かれました。 とびきり美味いものを作る自信はありませんが、激マズにもならないはず……です!
レイヤ・ダライ=カホールです。よろしくお願いします。 今回は焼きタコですね! わたしも作ったり食べたりしたいです! しかもおコメもあるんですね! これはおなか一杯になれそうです。やけどにだけ気を付けないと。
ヴィルヘルミナです。よろしくお願いしますね。 私は『焼きタコ』を焼く方に回ろうかと。料理には多少覚えがありますので。 とりあえずたくさん作ればいい感じでしょうか。
屋外での宣伝となれば僕も本業だし役に立てるかなっと マーハ・アセトシソンだよ、よろしくね 僕も焼き係を希望したいな。 現地の材料でアレンジできるか考えてみるよ
こんにちは、セオ・ウルジオです 珍しい食べ物って聞いて楽しみにしてます 僕は食べる方で参加しますね よろしくお願いします
情報屋のルチルだ。 郷土料理の販売促進も業務内容だ。まあ、よろしく。
顔出し遅れちまったーーー!ロウトフェダーだ、宜しくな! 迷宮お嬢さん?迷宮といや俺のことだな……!\( 'ω')/ 迷宮仕込みの絶妙な焼き加減を見せてやるぜ、上手い焼きタコを喰わせてやる!
ザンカです♪ 遅くなって申し訳ありません♪ たこ?ですか? 足が8本…?それは…刈り甲斐がありそうですね♪
出発日だけどアルマだよ、どーぞよろしくねー。 作る人いっぱいだしボクは宣伝と呼び込みさんやってみるねー あとは火傷した人(いたら)のお手当てとかやる予定だよ
当日の朝にごめんね。シャルロット・エクレールです。フリューと一緒に珍しい食べ物があるって聞いたから、遊びに来たのよ。ナンパは自信ないけど、たくさんおいしい焼きタコ作ろうと思って。だから迷宮の達人さんも他のみんなも、いっぱい食べて仲良くなりたいわ。よろしくね。