【富の使い道】サウゼル茶会
小緑 一滴
コメント 12
シナリオID:593
オープニング
冒険者達の提案で私設の図書館を作ることは決定した。老境を迎えた自分の死後も見越し、運営を継続するための手配も整えている。
今回はより詳細を詰めていきたい。
こういうコーナーがほしいとか、どんな蔵書をそろえていくかとか、図書館運営を長く続けるための戦略だとか。
本にまつわるエピソードなどもあれば聞いてみたい。本の魅力について深く知ることは、これから子供達に読書の良さを広めていく助けになるだろう。
図書館になる予定の古い屋敷は大工の手によって修繕中だ。今なら内装にも手を加えやすい。
幅広い提案を求めているので、例として挙げたもの以外の話題も歓迎だ。
多くの冒険者から意見を募るため、アルポンドは茶会の招待を冒険者ギルドに掲示することにした。
「応接室で会議風に進行していくか……。歓談を楽しむ雰囲気で広間を使うのもありか……」
茶会のセッティングについて考えていると、ふと古屋敷に巣くったクリーパー討伐をしてくれた冒険者の言葉がアルポンドの脳裏によみがえる。他種族との交流に重きを置く冒険者がいた。
「ゴブリンらしさを前面に出していくのも、種族間の理解に繋がるかもしれないな」
冒険者との茶会はサウゼル大樹海近くの別荘で開催すると決める。
図書館作りに役立つ意見を募るという目的があるため、茶会に参加した冒険者への謝礼も用意している。
解説
マスターより
リプレイ
「皆様ようこそ。お越しくださり感謝申し上げる」
「アルポンドじーちゃんおひさー、招待ありがとっす!」
軽い調子のカルミー。
「お招きありがとうございます。お茶会、お邪魔させていただきますね?」
トーラはぺこりとお辞儀した。
「ご招待どうも、アルポンド氏」
外套を外してキーゼが挨拶する。
「ガレシアスと申します。書物にまつわる援助が必要と聞いて、来ました。よろしくお願いします」
ガレシアス=エルムートが上品に名乗る。
他の冒険者達も挨拶や自己紹介を済ませた。
茶会の参加者達は広々とした部屋へと案内された。テーブルも椅子もない。敷物の上に座るよう勧められた。
「これがゴールディ式なのね」
樹海流のもてなしを受けるのは初めてのミツキ・アインホルンだったが、これも貴重な体験だ。心の中は知的好奇心で満たされている。
冒険者達の前にあるのは大きな葉に盛りつけられた果物。バナナをカラリと揚げた塩味のスナックもある。
「がはは! 何じゃ、滅茶苦茶洒落とるのぅ」
並べられた食べ物にジョン・ベアーは破顔した。なにせこれが茶会に参加した目的……というわけでは断じてないのだが、やはり美味しいものは見逃せない。
頭に樹海の花飾りをつけたゴブリンの給仕がお茶を運ぶ。ドワーフの職人が手がけたガラスの器。そこに青空が閉じ込めらているかのような深く青いハーブティーが注がれていた。
植物を愛でるエルフの乙女、コルネリウス・アーラの目にもその青は鮮やかで。
「とても綺麗です」
その言葉にイズレンディル・パラリムも穏やかな笑みで頷いた。
「サウゼル大樹海の植物は、フィルエス大森林とは異なっていて大変興味深いですね」
閉鎖的な大森林に外部の風を入れる。今日の茶会はイズレンディルが目指すものの一助となりそうだ。
ところどころに置かれた打楽器にネーアが飛びつく。
「わぁ! これがあるとゴールディって感じがする! 他の種族の人達ってご飯やおやつの時にあんまり楽器弾かないよね。なんでだろう?」
普段は遠慮しているこの風習を今日は思いっ切り堪能できそうだ。
●
鮮やかな敷物の上で、御邑 奈月はちょこんと座って皆の話に耳を傾けている。
ミツキは茶会の場に置かれた楽器の存在には気づいてたものの、装飾か何かだろうと思っていた。アルポンドが片手でお茶を飲みながら木琴を叩き出したのを見て、ミツキは目を瞬かせる。
「何事かしら?」
近くにいたネーアが説明する。
「これはネーア達ゴブリンの風習だよ! 賑やかに楽器鳴らしながら楽しく食べる事で、災厄が寄ってこなくなるんだよー!」
「そういうことならあたしにお任せっす!」
カルミーが胸を張った。
「何を隠そう、あたしはだいぶ昔に楽器をちょっとだけ触ったことがある程の腕の持ち主っす……!」
「それって……」
「自信の強さと真逆の腕前だよねー!?」
二人からのツッコミが入ってもカルミーの自信は揺るがない。
「きっと笛とかなら楽勝で吹けるっす! 息をぷーって吹き込むだけでいいっぽいんで」
笛をぽぺーっと吹く真似をしたところで、はたと気づく。
「……はっ、笛吹きながらじゃお茶会が出来ないじゃねっすか!? ゴブリンの笛吹きはどうやってごはんたべてんすか……?」
「笛系の楽器を使うのはゴブリンの中でも攻めてる人かな。ネーアが実演してみるよ」
愛用の竪琴は今日も持ってきているが、せっかくなので置いてあったカリンバを手に取る。ネーアの親指が金属の板の上で器用に踊る。緑の葉から落ちる水滴。そんな旋律だ。
ミツキも試しにカリンバを奏でてみた。樹海を潤す雨を想像して楽器の上で親指を動かす。
「面白いわね。何故この儀式が生まれたのかが気になるわ」
「儀式の由来? 知らなーい。多分、ご飯食べながら楽器弾いたら魔物が逃げたりしたんじゃないかな?」
「なるほどね」
意外と悪くないものだ。カリンバの音色にミツキはほっと心和む。
「んー、フルーツもお茶も美味しい!」
ピンク色のグァバとブルーのハーブティー。桃色と青の取り合わせはネーアにぴったりだ。
ミツキが添えられていたレモンをお茶に入れると、カップの中が青から紫色へと変化する。
「これは紋具の器……? いえ、お茶そのものがレモンで色が変わったように見えたわね」
「え、このお茶色変わるの!? すごーい!」
「ほーん。世の中には珍しいものもあるっすねー!」
ネーアとカルミーもワクワクと自分のカップにレモンを入れる。
バタフライピーのハーブティーの幻想的な色の移り変わりを楽しんだところで、ミツキがアルポンドへと話しかける。
ゴールディに図書館を。その発案者の一人として図書館が何を重視していくべきか、理念と具体案をしっかりと用意してきていた。
「本を読む習慣がない人のハードルを下げる必要があるわ。まずは絵本や簡単な内容の物に触れられる方がいいと思うの」
ミツキにとって本は身近な存在だが、帝国で所属していたリカーダの部隊の中には本を読まない仲間もいた。
「賛成! ネーアも文字読めないから絵本がいいな!」
「そっすね。本を集めるなら絵だけでも内容がわかるやつがあると嬉しいっす! あたしみたく文字が読めない人は多いと思うんでー」
文字が読めない。カルミーはそう言っているが本当のところは不明である。
興味を持った利用者がすぐ触れるよう絵本のコーナーは入り口近くに、とミツキは続ける。
「後、興味のある本へのアクセスの仕方も大事ね。目当ての本を探せるような図書館の配置図や、聞ける司書なんかね」
読書の一番の原動力は興味だ。そのことをミツキはよく心得ている。
「ありがとう。実際に本を多く読む者ならではの観点だ」
「定期的に皆が興味持ちそうなテーマの本について、施設外でアピールするのもいいわよね」
「さすがミツキちゃん! ナイスアイディアっす!」
「うんうん! 楽しそうだよね、アル……うーん?」
ネーアが可愛らしく首を傾げて尋ねる。
「『アルポンドさま』って呼んだ方がいい?」
「私は特にこだわりはないな。普段言い慣れた呼び方で構わない」
立場上敬称をつけて呼ばれることが多いが、実は「おじいさん」とか「おじいちゃん」と呼ばれるとほのぼの嬉しい、というのは照れくさいので黙っておいた。
「本……!」
ヨル・スレイマンの顔は隠されているが、その目が輝いていることまでは隠しきれていなかった。
「興味津々って感じだな」
ドラゴンフルーツに銀製のピックを刺しながらナハシュがヨルに話しかけた。食事目当てで来てみたところ偶然にも知人のヨルと居合わせ、こうして隣に座っている。
「ナハシュ君もこの機会に本を読むと良いんだ。君は賢いから、きっと知識を上手く使える」
「んー」
笑顔のまま煙に巻くようなナハシュの返事に肩をすくめ、ヨルはハーブティーを一口。
「そういえばゴールディの飲み屋はよく楽器がおいてあるね。儀式であるなら俺もやってみたい」
カスタネットで小気味良いリズムを刻んでいたナハシュに触発され、ヨルも近くにあったギロを棒で適当に弾いてみる。音は出たものの演奏というにはほど遠い。
何か見知った楽器はないかと周囲を探しトライアングルを手に取る。鳴らしてみたもののナハシュのようにはいかなかった。
試行錯誤の末にヨルはシンバルを打ち鳴らす。盛大な残響と給仕のゴブリン達のノリノリな拍手が静まった後、くるりと隣に振り向く。
「ナハシュ君、これ食べるのに集中できなくない??」
軽く吹き出してからナハシュはゴブリンの食事の風習に適した楽器を教える。
「単純に叩くだけの太鼓か、俺みたいにカスタネットを使うのがお勧めだな」
ふむふむと聞いているヨルの手に小さな木の楽器をひょいと乗せる。
「これならお前も合間叩けんだろ?」
「カスタネット。なるほどこれならいけそう」
ヨルが片手を動かすとカチカチと楽しげな音が響いた。手を動かし考える。
「ゴールディの図書館か。字を読む助けになる単語表があると良さそうだ」
かつて地下闘技場の剣闘士だったヨルにとって書物は縁遠いものだった。今も難解な本は読めず、読み書きの練習中である。
「いっそ、週何日か字を教える塾みたいなのもありだと思う」
ナハシュもまた識字率を向上させる取り組みについて考えていた。
「結局読めなきゃしょうがないわけだし、独学より教えられる方が覚えも良い。誰か字を教える奴を雇うのも良いしアルポンドは当然読めんだろ」
「ああ。この歳になって私も自由に使える時間が増えた」
子供達に知識を伝えて残すことができるかもしれない。喜ばしいことだ。
「そりゃ良い。教えつつ要望なんかも都度聞けたら図書館も発展してくんじゃねえか」
「種族の親睦についても考えているということだったね」
ヨルが提案したのは、定期的に色んな人に話を聞いてその内容を本にしていくというものだ。
「本が身近になるし、種族間の親睦にもなるかもだ」
「冒険者を呼べば他にない話が聞けそうだ。その時はぜひ二人の話を聞かせておくれ」
「私設で図書館を作るだなんてすごいお金持ちさんだねー」
ふかふかのクッションにアルマ・ヴァレンタインがその小さな体で持たれた。艶やかな緑と金色のクッションの生地はシルク製だ。
風変りなゴールディ式の茶会にトーラはちょっとドキドキしていた。赤と金のクッションの上で緊張気味に座っている。気持ちを落ち着かせようと果物にピックを刺して口に運ぶ。みずみずしいマンゴーの味が口の中に広がる。
「果汁たっぷりでとっても甘いです!」
緊張もほぐれ自然と笑顔になっていた。
「こっちの揚げ物はしょっぱい系だねー。味も食感もイモに近いかな」
青バナナのスナックを食べたアルマが感想を告げる。ゲテモノ食を好むアルマとしてはちょっと物足りない平凡な味だった。
この場にいる多くの冒険者達には物珍しいゴールディ流のもてなしもストレガ・L・リベルガストラには慣れ親しんだものだった。青と銀のクッションに身を預ける。座り方一つで樹海の習わしに馴染んでいることがわかる。
ゴブリンの同胞達が書物から知識を集める場所と機会が作られようとしている。『混ざり物』の一人であった祖たるストレガの名と思いを引き継いだ彼女として、手助けがしたい。一人でも多くの同胞が生き残るため。連綿と知識を紡ぐ。それこそがストレガ達の本懐なのだから。
どんな図書館にしていくかアルマが意見を述べる。
「ボクはお子さま向けの絵本コーナーとかあったらいいなーって」
「字の読めない子らにも伝える為の絵本を置く事は大賛成なのだ」
「ゴールディのゴブリンの方は、昔樹海の奥から様々な困難を乗り越えてここへ来たそうですけど、その冒険が描かれた本はどうでしょうか? 絵本としてもわかりやすそうですし」
樹海の奥から出たゴブリンの物語。ストレガの赤い目に叡智の光が灯る。
「然り。『ドン・ゴーフルの大脱出』の写本は必要不可欠。これはゴールディの始まりであり『混ざり物』達が紡いだ歴史なのだ」
『大陸初のゴブリンたちによるゴブリンたちの書物』はゴブリンのみならずロスガリア大陸の歴史においても重要な意味を持つ。
「ゴブリンの方が自分の由来に誇りを抱いたり、他の種族の方がゴールディのゴブリンを理解するために図書館に置きたい本ですね」
「この場合はオリジナルそのままの写本じゃなくて、子供でも読みやすい絵本がいいんだよねー?」
文章を編むのも絵を描くことも両方アルマの得意分野だ。
「ボクが作った絵本を寄贈させてもらおうかな?」
「ありがたい。冒険者ギルドを通じて送っておくれ」
より深い知識を求める者のために、ストレガは大樹海に関する専門資料も必要だと力説する。
「お年寄りからいつまで話が聞けるか解らないし、忘れてる事もあるだろうなのだ」
ゴールディのゴブリン達の祖先はかつてサウゼル大樹海の奥地で生きていた。いつか子孫が樹海奥地を取り戻す日のためにストレガはたゆまぬ努力を続ける。
「親しみやすい絵本も歴史や樹海のことを理解する専門的な書物も、どちらも大切なんですね」
「そうなのだ。他にも他種族と交流する為の最低限の文化歴史資料は欲しいと思うのだ」
「他種族との良好な関係って、これからさらに求められそうだよねー」
ドン・ゴーフルが帝国につくと宣言したことを思い返しながら、アルマが賛同の相槌を打つ。
「図書館はゴブリン以外にも開放する予定なのだ? ゴールディのゴブリン族との付き合い方も他種族に知ってほしいのだ」
ゴブリンだけが学ぶのではなく、他種族がゴブリンを知ることも同様に大切だ。
「相互理解とはそういうものだろうな」
ゴブリン族の未来を真摯に考えるストレガに、アルポンドは敬意の念を抱いたのだった。
温暖な気候のサウゼル大樹海の味覚は、エルフの二人にはどれも珍しい。
興味津々といった面持ちで様々な果物を上品に頂いていくイズレンディル。
「見慣れないフルーツですね。とても甘いです、コルネさんもいかがですか?」
勧めたのはチェリモヤだ。柔らかいので果肉を匙ですくって食べる。ゴツゴツした黄緑の実の中には濃厚な甘さを誇る果肉がたっぷり。果物でありながらクリームやプリンに近い口当たりだ。
「わ、これも美味しいですね!」
そう言って顔をほころばせるコルネリウスに、イズレンディルは優しく温かな眼差しを向ける。
「イズさん。こちらのハーブティーは蜂蜜風味ですよ」
バタフライピーの青いお茶を飲んだイズレンディルがひらめく。読書をしながらお茶を楽しむ一時が図書館でも送れたらと。
「アルポンドさん。図書館に読書喫茶を併設してみては? これだけ美味しいお茶やお食事、そして音楽も楽しめるのなら人気も出るのではないでしょうか?」
茶会の雰囲気を堪能しながらそんなアイディアを口に出す。
「読書喫茶の収入を運営経費に充てれば、図書館の継続的な存続に役立つはずです。ゴールディの伝統的な料理を楽しめるとより良いと思いますよ」
「ふむ、読書喫茶か。私も読書をしながらお茶を飲む一時が好きだ」
「豊かな時間ですよね。図書館には、ゴールディの歴史や文化がわかる本が沢山あると嬉しいですね」
施設の経営というのは楽ではない。需要を読んだ様々な取り組みが必要だ。その点はベールコートで花鳥園を経営するコルネリウスも実感している。
「本は……私はこの周辺の動植物の生態に関するものが読んでみたいです」
大樹海の生き物の知識があれば花鳥園の経営に役立つかもしれない。自分なら何を求めるのかを考えることも、施設の需要を読む方法の一つだ。
「大人も子供も対象のお話し会や、紙芝居・絵本など物語を自分達で製作してみる催しなどがあれば私も参加してみたいです」
ゴールディの子供達の――いや大人も含めてその識字率は高くはない。初めの一歩としてまずは本に触れてみること。図書館を得体のしれない建物ではなく、楽しい場だと感じてもらうこと。それが大切だとコルネリウスは見抜いていた。
「まずは敷居を高く感じさせない工夫が肝心ということか。提案に感謝する」
丁寧に礼をするアルポンドに、イズレンディルとコルネリウスもまた礼儀正しく応じる。
「私の意見でお役に立てたのなら幸いです」
「このお茶会で他の皆さんの意見や希望も聞けてとても楽しいです。自分の世界も広がります」
新しい図書館作りなんて面白そうだとシャーデンフロイドははしゃいでいる。
「ふぅむ。変わった味ですね?」
パパイヤを食べそんな感想を一言。濃厚そうに見えたが、食べてみると甘さも食感もさっぱりした感じだ。
「とても香り高い果物ですわね」
美味しい果物に目がないネーヴェ・グラヌローザがそう評する。
「珍しいですが美味しくいただいております!」
自身の髪のように青いハーブティーに口をつけ、糸のような目でにっこりとほほ笑んだ。
「さてさて! ワタシは集めた書物を使った催し物なんかをご提案させていただきましょっかね!」
子供向けには絵本の読み聞かせ、大人向けに学術書の著者を招いた講演会のアイディアを出す。
「読み聞かせ、とても良い案ですわね。手遊びや歌なども交えれば子供達も最後まで飽きずに楽しめると思います」
歌や音楽は良いものだ。話声に混ざって聞こえてくるカスタネットやカリンバの音色をネーヴェの耳は追っている。
「学術書の講演会か。それは良い。熱意ある若い世代が知識を得る助けになる」
シャーデンフロイドの提案にアルポンドも興味を示している。
「講演会の方は聴講費をいただけると思いますし、図書館維持に貢献できるのでは、と。そのあと、サイン会なんかもいいですね♪」
経営を続けていくためにも金銭を獲得する手段は多彩な方が良い。講演会を開くことで、近隣の子供や若者以外の層も図書館に呼び込めそうだ。
「今なら内装に手を加えられるんでしたよね? 賑わっても差し障りがないように、きちんと上記の開催場所を図書室と分けたいですよねぇ」
「そうだな。候補としてはこの辺りに読み聞かせや講演のスペースを作ろうかと……」
間取り図を広げる。図書館に改装予定の古屋敷の図面だ。シャーデンフロイドとネーヴェがそれを覗き込む。
「こんな感じなんですねぇ! 声が漏れないように音の広がりを抑える壁だと安心です」
「広々とした空間もありますし、部屋数も多いので用途ごとにわけることもできそうですわね」
ネーヴェのしなやかな指が図面の一点を示す。
「仮にこの部屋を読み聞かせや講演用の防音室として……。ここか、この辺りに、テーマ別に本を紹介するコーナーを設けるのはいかがでしょうか?」
指差したのは、出入り口のそばと防音室の付近。
「講演会などのイベントではゴブリン以外の種族の方も図書館に訪れましょう。その時に例えば古今東西のゴブリンが出て来る書物を集めまして、ゴブリンへの理解を深める為の展示を行ったりですとか……」
「季節感のある物語を展示したり、読み聞かせや講演の内容と関係した本を陳列するのもアリですねぇ」
「司書さんのお勧めする本を紹介するコーナーを設けたりも宜しいかと。手書きの紹介文でそれぞれの本の魅力を語れば、それに惹かれる方が現れると思います」
二人の案にアルポンドは頷いた。実際に本を読む前に本を選ぶ段階がある。良書に巡り合うためのきっかけとなるだろう。
「人と人の繋がりを大切にするのも、図書館の役割だと思っております」
大きな黒い手は果物を味合うのに忙しい。飾り切りにされたパイナップルとスイカを次々に平らげる。ジョンの見事な食べっぷりにアルポンドも木琴を叩いて盛り上げた。
一息ついてハーブティーをぐびっと飲み干す。
「おっ美味い、しかしこのお茶は変な色しとるのに見知った味がするのは不思議じゃな」
ぺろっと口元を舐める。この味は蜂蜜だ。バタフライピーは鮮やかな青い色が出るが味は薄い。風味付けに蜂蜜が入れられ、レモンが添えられている。
「もぐ……」
淡々と、しかし淀みないペースで青バナナの揚げ物を口に運び続けるコハクの姿もあった。適度な塩気が後を引いていくらでも食べられそうだ。食べられる時に食べておかなくては。冒険者になった今は餓死の危機は遠くなったが、未だに飢えにさいなまれた幼少期のクセは抜けない。
目の前の果物を食べ尽くしたジョンが宴の場に置かれた太鼓をむんずとつかんだ。食事のお礼とばかりに素朴な演奏をはじめる。ジョンの故郷の山を思わせるような、自然体であると同時に命の力強さを感じさせる音。
「わしの両手は無駄にでかいからの! よう鳴るで!!」
ぽんぽこ太鼓の音につられて、もふもふ大きなコハクの二本の狼尻尾も揺れていた。
「図書館が出来るのは嬉しい」
読書が趣味のコハクは内装や蔵書の提案ができる機会だと張り切っていた。そう。断じて茶会でタダ飯にありつけるからといった動機ではないのである。
「本がたくさんだと探すのも大変だよ。館内の案内図と、この棚にはどんな本があるって表記はないと困る」
アルポンドや茶会の給仕のゴブリン達は、そう背が高い方でもないコハクよりも小柄な者が多いだろうか。ゴブリンの子供ならもっと小さい。
「図書館といえば可動式の脚立だよね。小物の配備も忘れずに……」
「可動式の脚立なんてものがあるのか」
通常の生活では案外使わないもので、アルポンドはその存在をしらなかった。コハクは表情を変えぬまま少し得意げにむふーと息をつく。
「色んな年齢層が来てくれるよう、絵本、参考書、歴史書辺りは抑えておきたい」
ジョンも本をリクエストする。
「後はそうなー、高くて難しい本! 医や薬の物はそうそう手が届かんけえな」
たしかに専門的な書物は価値が高く庶民はなかなか触れる機会がない。こういった本をそろえておけば勉学に励む若者達の大きな助けとなるはずだ。医学や薬の本が誰かの命を救うかもしれない。
「わし難しい文字は読めんけぇ、人を雇う金は余計にかかるじゃろうが代わりに読んで教えてくれる奴がいると助かるのぅ」
絵本の読み聞かせよりも高度な知識が必要となる仕事だ。
出たアイディアをまとめて思案するアルポンドに、ジョンが近づきこっそり耳打ち。
「これが一番大切なんじゃが……世界の美味い食べ物が図でのってる本とか……ん? ダメか???」
キーゼは青いお茶に口をつけ、話す内容を頭の中で整理する。その近くではレイヤ・ダライ=カホールが樹海の茶会を楽しんでいた。
「あ、このお茶たしかレモンを入れると……すごい! ほんとに変わった!」
添えられたレモンをグラスに入れれば青は鮮やかな紫へ。
「樹海の果物やハーブでケーキを作ったら、いったいどんなものが出来上がるでしょうか」
そんなことを想像してレイヤは胸をときめかせた。と、置かれた楽器が目に入る。ゴールディの厄除けの儀式。話に聞いたことはあったが実際体験するのは初めてだ。
「……この辺の打楽器を使っていいんです? ……作法とかはあります?」
人魚の神を崇めるレイヤは他者の信仰を尊重することも忘れない。儀式の作法を確認してからマラカスをシャンシャンと鳴らす。なんだか悪いものが逃げていくような気がした。この音で、子供達を取り巻く貧しさや悪意も追い払えれば良いのに。なんて考えもよぎる。楽器を置いて真面目な表情で老ゴブリンと向き合う。
「本が買えない人は図書館に来れば知識を得られますが、文字が読めない人にも手を差し伸べられる図書館だったら素敵だと思うんです。字の読みかたを教える講座があれば、自分の力で知識に触れられる人を増やせます」
キーゼも頷く。
「識字率の向上は、まず第一に行うべき課題でしょうね。どんな素晴らしい図書館を作っても使う側が理解できなければ無意味ですから」
この取り組みを継続的なものにするため、学習体系の構築と文化への理解を浸透させることも必要だ。
「緊急時の設備についても考えなくてはなりません」
「緊急時……火災や天災の際の避難所にするということかね?」
キーゼは小さく頭を振り、アルポンドの誤解を訂正する。
「いいえ。火といっても焚書の方ですよ。蔵書徴収に備えて根回しをしておくと良いでしょう」
キーゼは戦時下の徴収や体制変更による焚書を想定しているのだ。不穏な話にレイヤが顔を曇らせる。
「そんなことにはなってほしくはないですが、どうなるかわかりませんからね……」
帝国崩壊を皮切りにロスガリア大陸は激動の時代を迎えている。
「そうだな……」
「暗い顔をしても仕方がありません。図書館は雇用の場にもなります」
雇った孤児などが図書館の仕事で知識を身に着ければ、別の場所でも働くことができ、彼らを通じて文化が浸透していくだろう。
「いずれは書物なども作って流通に乗せられれば、ゴールディの識字率と文化浸透に大きく貢献できるかと。最後に、誰にでも利用可能な図書館を提案いたします。とはいえこれは公権力への対策も必須ですが……」
話し終え、落ち着いた所作でキーゼがハーブティーを飲む。
「アルポンドさん前の依頼の時、希望を掴むのを後押しするようなのがいいって言ってましたね」
ゴールディに図書館を建てる。それは富さえあればできるような生易しい道ではなく、こうしてレイヤやキーゼ、多くの冒険者の力を借りている。
「夢や目標を見つけた人が、次にはばたく為の一歩、ここがその知識を提供できる場所になったら素敵だと思います」
年配のゴブリンの姿にドン・ゴーフルを思い出し、シャロン・ラ・モリエールは心の中でドンとのやり取りを振り返っていた。
(私は現実主義者なだけ)
ハーブティーをこくりと飲んでから口火を切る。これから話すことは明るく楽しい話ばかりではない。
「図書館、素敵な試みですね。しかし超えねばならぬ関門があるでしょう。まず一つは識字率」
そもそもこの辺りに文字を読める者がどれだけいるのかとシャロンはいぶかしんでいた。
ルーファス・W・ワーズワースはシャロンに同意を示しながら解決策を提示する。
「その懸念はもっともです。読めなければ読めるよう、子供達に文字を学ぶ機会を提供してあげれば良いんですよ。あくまでも図書館という建前は保ちつつ……ね」
読み書き習いを教える学校的な役割を果たしつつも、形式上は図書館であるため公的な権力の介入への誤魔化しがきく。ルーファスは私設図書館の発案者の一人ではあるが、学校を作ろうという意見もあった。こうすれば学校の案も反映できる。
「ゴブリン族の未来のためにも、長期的に取り組む必要があるでしょうね」
教育は苦しい境遇から抜け出す希望の光になり得る。孤児院出身のシャロンにはそれがよくわかる。
だが、もっと手っ取り早く貧しさをしのぐことも可能だ。
「関門のもう一つは……盗難です」
シャロンは意を決し指摘した。シスターとして人の善性は信じたい。だがこれまでに善意の行動が裏目に出る経験をしてきた。
「貧しい子供や若者に手を差し伸べたいのであれば、こういった問題から目をそらさないでください。はじめから盗む意思はなくても、飢えを満たすがために魔がさすこともあるでしょう」
どんな種族でもそういうことは起こり得るのだと伝え、シャロンは目を伏せた。盗難の危惧はゴブリンという特定の種族だけに向けられたものではないことをアルポンドも理解している。
「ふむ。どういった手立てがとれますかね」
口元に人差し指を当ててルーファスが思案する。
「この場で読んでもらい持ち出し禁止にすること、荷物は受付で預けてもらい手ぶらで入ってもらうことで多少対策になるでしょう。費用があるなら警備員を雇うのもいいかもしれません」
本の持ち出しよりもさらに狡猾な魔の手が忍び寄ることもある。図書館を軌道に乗せるため裏側部分で手助けを、と忠告を考えてきている。
「アルポンドさんの意向を記した封書を信頼できる複数の方に預けておくことをお勧めします。できればゴールディ内だけでなく、他の地域の方もいらっしゃればなお良しです」
ルーファスが示したのは図書館の継承トラブルを避けるための案だ。
「教え子たちが貴方の遺志を守ってくれますよ。きっとね」
ハーブティーを飲みながら、キオルティスはゴブリナの給仕を優しく呼び止める。
「ねぇキミ。俺は竪琴を持ってきているのだけど、奏でても構わないかい?」
「もちろんでございます」
甘い顔立ちが魅力的な美青年に話しかけられ嬉しそうなゴブリナに笑みを向けてから、繊細な手つきで弦を爪弾く。打楽器とは違う音色が加わり茶会の演奏はしっとりとした優しいものへと変化する。
「素晴らしかったです。情感あふれる演奏でした」
キオルティスが演奏を終えたタイミングでガレシアスが拍手を送る。
「ああ! 見事なものだ」
一流の腕の演奏にアルポンドも聞きほれていた。
「喜んでもらえて光栄だよ。本って面白いね……まるで俺と同じ……吟遊詩人みたいだ」
物語、歴史、教訓、見知らぬ異国の文化。歌や本は様々なことを教えてくれる。
「ところで図書館の利用者は、主にどんな人達を視野に入れているのかい?」
「近隣の子供や若い世代の役に立つ施設を考えている。ただ他の地域や種族の利用を制限するつもりはない」
「それなら子供や保護者がゆったり過ごせる場所がほしいよね。音読用やカフェスペースなんてどうかな」
内装についてガレシアスにも案があった。大量の本を収蔵する図書館作りにおいて重要な部分だ。
「……本は日焼けすると傷んでしまいます。湿気はカビのもとであり、適度な空調と日陰が必要です」
「そうだね。太陽光は本には良くないね」
「ゴールディは温暖だ。湿度や日光は強い。どうするか」
建物の図面をアルポンドが広げ、ガレシアスとキオルティスが覗き込み、書物への日の当たり方を検討する。
「図書館は光の入らない籠った場所になりやすいので……書物を保管する場所と、書物を読む場所をわけ、後者は日当たりの良いところに机を置くと良いかと。移動図書館の併設も……」
話している間にガレシアスの口調は自然に熱意を帯びてくる。地味な作業だが疎かにはできないポイントだ。
「具体的なアイディアで助かる。机はここに、と……」
アルポンドがガレシアスの意見を元に、図面にメモを書き込む。
「ガレシアスさんが考えた内装なら本も長持ちしそうだよね」
「本の寿命は人の叡智の寿命ですから」
歴史学者が口にした詩的な表現は吟遊詩人の琴線に触れた。
「いいね、その言葉。俺も気に入ったよ」
多くの冒険者から案を募り、図書館の構想が輪郭を持ち始めた。
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:標準21 / 4〜25人
2021年03月01日 01時28分06秒 公開
参加者
相談掲示板
ミツキ・アインホルンよ。よろしくね。 ゴールディ式なんて初めてね。貴重な体験だわ。 私は「絵本など、子供向け・読書初心者向けの物を充実させた方が良い」と提案する予定よ。
カルミーっす! 前あった人もそうじゃない人もよろしくっす! 絵本! いいっすね! あたしも文字が読めないんでー、そういう人向けのはあるといいっすよね。
……ガレシアスです。書物にまつわる援助が必要と聞いて、来ました。よろしくお願いします。 そうですね…どのような書物を集めるかはお任せするとして。私は内装についての提案を。 本は日焼けすると傷んでしまいます。湿気はカビのもとであり、適度な空調装置と日陰が必要です。 ゆえに図書館は光の入らない籠った場所になりやすいので… 書物を保管する場所と、書物を読む場所をわけ、後者は日当たりの良いところに机を置くと良いかと。 また、設備投資に余裕があれば書物を積んだ荷車…移動図書館など、良いかと思います。 経営については詳しい方が来るのを待ちたいところですね。
シーフのトーラです。よろしくお願いします! わたしも絵本を多く入れれたらと思って来ました! ゴールディのゴブリンの人たちは昔樹海を抜けて来たそうですけど、その時の冒険譚の絵本があれば親しみやすかったりするんじゃないかなとか。 なかったら作ってみるのも提案してみようと思います。
ネーアはネーアだよ、よろしくね! 『災厄を除ける儀式』やっていいって聞いたんだー! 他の種族の人達はご飯やおやつの時にあんまり楽器弾かないから ちょっと遠慮してたんだけど、今日はいっぱい弾いちゃうよー! 本はネーアも文字読めないから絵本がいいな!
や、どうも。シャーデンです。 あらあら新設の図書館だなんて楽しそうですねぇ! 仔細はわかりませんがワタシも混ぜてくっださーいな♪ 図書館というと自ずと人が集まりそうなところではありますが、折角ですし色んな方に来てほしいですよねぇ? 持てる財を使うのでしょう? ワタシは集めた書物を使った催し物なんかをご提案させていただきましょっかね。お子様向けなら読み聞かせ、大人向けなら学術書の著者を招致して講演会、とかね。
ヒーラーのネーヴェ・グラヌローザと申します。図書館は大好きですの。どうぞ宜しくお願い致します。 私はシャーデンフロイド様のご提案に便乗致したく考えております。読み聞かせ、とても良い案ですわね。手遊びや歌なども交えれば子供達も最後まで飽きずに楽しめると思います。 後は読み聞かせ等の他に、テーマ別に本を紹介するコーナーを設けることを提案したいですね。例えば古今東西のゴブリンが出て来る書物を集めまして、ゴブリンへの理解を深める為の展示を行ったりですとか……。或いは司書さんのお勧めする本を紹介するコーナーを設けたりも宜しいのではないでしょうか。手書きのPOPでそれぞれの本の魅力を語れば、それに惹かれる方が現れると思います。 他にもブラインド式でテーマに合わせた本を手に取れる仕組み等も考えたのですが、字数が足りるかどうかが課題ですね……出来るだけ色々提案を盛り込みたいとは思うのですが……。 人と本ばかりでなく、人と人の繋がりを大切にするのも、図書館の役割だと思っております。
レイヤ・ダライ=カホールです。よろしくお願いします。 わたしは、読み書きを教えるような場もあっていいと思います。 アルポンドさん前の依頼の時、子供や若者が、その手で希望をつかむのを後押しするようなものがいいって言ってました。 貧しいヒトって、本が買えないのもあるけど、読めないというのもあります。 夢や目標を持った人が、次にはばたくために、その手伝いをできたらいいなって思います。 あと、災厄を除ける儀式…聞いたことはありますけど実際に見るのは初めてです。 楽しみですね!
エルフのイズレンディル・パラリムと申します。 よろしくお願いしますね。 私はお茶会を楽しむのと、シンプルに読みたい本の提案をさせて頂く予定です。 私自身の趣味もあるのですが、折角ですしゴールディの歴史や習慣について本で読みたいと思いまして。希望として出させて頂きます。 運営の継続という点でも何か話せれば、と思ってはいるのですが考え中です。 読書喫茶のようなものがあると収益も得られで良いかもですね。 こうして茶会も開けるようですし実現のハードルも低そうです。
本⋯⋯! あ、ええと。ヨル・スレイマンだ。宜しくね。 ゴールディの飲み屋はたまに楽器が置いてあるんだよね。なるほどこういうことだったんだ。 折角だから茶会と音を楽しみつつ、いくつか何か思いついたことを言えたらいいな。 俺は文字はあまり読めないのだけど、読めるようになることに興味はある。 そのあたり、架け橋になるような案は出せるかもしれない。
コルネリウスです、よろしくお願いします。 お茶会を楽しむことがメインになりそうですが、蔵書の希望についても触れたいと思っています。 図書館運営のほうも、こういうワークショップがあったらよいな、というのを少しお話する予定です。
え…えと。御邑奈月…でふ…。ろしょしくおねがいしましゅ…。 …ほ、本…に興味…がありましゅて…きまし…たです…。