【聖祭】白猫とラクガキ天国の聖霊節
STANZA
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シナリオID:428
オープニング
僕は旅猫、ワケあってとある冒険者の世話になってる白猫(耳の先とかちょっとだけグレー)のハーフビーストだ。
このあいだ壁に絵を描いた、あの街から招待状が届いたよ。
街全体を会場にして、聖霊節のパーティをするんだって。
僕らが絵を描いた壁の前にご馳走のテーブルをいっぱい並べて、どれでも好きなものを取り分けて食べ放題……えぇと、ぶっへ? びゅっひぇ? なんか、そういうの。
街の人や絵を描いた人はもちろん、普通に遊びに来ただけの人も歓迎するのが、あの街の聖霊節なんだって。
それに今年はオリエンテーリングの企画もあるって書いてあった。
ほら、道に矢印とか描いてたでしょ? 街の人がそれに付け足して、なんだかすごく大掛かりなイベントになってるみたい。
楽師とかも呼んで、ダンスを楽しんだりも出来るみたいだ。
僕は相変わらず、音楽のことは……うん、それ以外のこともちっとも思い出せないけど、ダンスは好きだよ。
あとフィナーレに、みんなで余った塗料のかけあいっこするみたい。
もちろん僕は遊びに行くつもり。
ねえ、君はどうする?
このあいだ壁に絵を描いた、あの街から招待状が届いたよ。
街全体を会場にして、聖霊節のパーティをするんだって。
僕らが絵を描いた壁の前にご馳走のテーブルをいっぱい並べて、どれでも好きなものを取り分けて食べ放題……えぇと、ぶっへ? びゅっひぇ? なんか、そういうの。
街の人や絵を描いた人はもちろん、普通に遊びに来ただけの人も歓迎するのが、あの街の聖霊節なんだって。
それに今年はオリエンテーリングの企画もあるって書いてあった。
ほら、道に矢印とか描いてたでしょ? 街の人がそれに付け足して、なんだかすごく大掛かりなイベントになってるみたい。
楽師とかも呼んで、ダンスを楽しんだりも出来るみたいだ。
僕は相変わらず、音楽のことは……うん、それ以外のこともちっとも思い出せないけど、ダンスは好きだよ。
あとフィナーレに、みんなで余った塗料のかけあいっこするみたい。
もちろん僕は遊びに行くつもり。
ねえ、君はどうする?
解説
カラフルに変身した街で、お祭の本番です。
自由に食べて飲んで、歌って踊って、時には道に迷ったりして楽しんで下さい。
■場所
イメージはギリシャのサントリーニ島やミコノス島など
白い壁にラクガキやアートやSAN値直葬が無秩序に溢れている
聖霊節の飾り付けやツリーなどもあって、街全体がとてもカラフル
気候は温暖で、見晴らしのいい岬や夕日の絶景ポイント、街全体が見渡せる丘、街外れの廃墟など、見どころいっぱい
■出来る事の例
・食べる、飲む(街の規定でアルコールは実年齢20歳以上
・奏でる、踊る
・のんびり観光
・白い部分が残っている壁や道路にラクガキしてみる
・オリエンテーリングで遊んだり、矢印を描き足したり方向を変えたりとイタズラしてみる
・祭のフィナーレは余った塗料のかけあいっこで!(参加自由
・他、街の人や他の参加者の迷惑にならない範囲で何でも
行動としては全部の参加も可能ですが、描写はピンポイントで絞った方が濃くなります
■料理など
リアル世界でお馴染みのクリスマス料理やお菓子は大抵OK
砂糖は貴重ですが甘味は蜂蜜で代用(一年分の蜂蜜ストックをほぼこの期間だけで消費する勢い
飲み物は赤ワインや葡萄ジュース、お茶がメイン
■オリエンテーリング
街に描かれた矢印やヒントを巡って探索を楽しみます
コンプの賞品などはありませんが、くまなく回れば街の全てがわかる、かも?
イタズラ(ハズレルートの追加など)や、コースや名所の設定追加もOK
■その他
塗料のかけ合いは参加を表明したPCさんのみで行われますが、アドリブOKのPCさんは巻き込まれる可能性があります(塗料は洗えば落ちます
■NPC
・タビ(旅猫)
画伯を本来の意味で受け取り、自分はわりと絵が上手いんじゃないかと思っている
フリー素材につき弄り、お誘い何でもOK
時系列的におかしなことになっても気にしない、だってお祭りだもの
もちろんスルーでもOK(お誘いがない限り、タビから絡みに行くことはありません
シャイなので友達認定までの道のりはわりと長め
でも「俺達トモダチだよな!」とか「友達になろう!」など押しの強い直球には弱い(チョロい
※アドリブ、弄り多めになる予感
NG事項がある場合は明記をお願いします
※OPや解説で明記されていない部分の解釈はお任せします
設定や世界観の範囲内で、ご自由にお楽しみください
マスターより
初めまして、或いはいつもお世話になっております、もしかしたらお久しぶりかもしれません、STANZA(すたんざ)です。
ぎりぎりになりましたが、お祭の本番です。
街の雰囲気などは前作「【聖祭】白猫とラクガキ天国」をチェックして頂けると伝わるかと思いますが、ノーチェックで飛び込んでも全く問題ありません。
報酬はありませんが、その代わり飲み食い宿泊無料、お土産も無料。
お土産はアイテムとしての配布は出来ませんが、フレーバーとして持っていることには出来ます。
では、よろしくお願いします。
リプレイ
●ラクガキの続き!
白い町並みに青い空と海、そしてカラフルなラクガキ達。
「うむ、確かに風光明媚ではあるが、まだまだ白い部分が多く残されているな」
街全体を見渡す丘の上に立ったハッタ・ムラムラの心に使命感が沸き起こる。
この光景に足りないもの、それは黒。
やはり白と黒の調和が取れてこそ、平穏も訪れるというものだ。
「ここはおれが一肌脱ぎ、祭をより完璧なものにしようじゃないか」
というわけで。
ハッタは黒い塗料缶を手に白い壁に向かう。
絵パンダを描き続けた地道な努力の積み重ねによって獲得した独特のタッチで、壁面に動物曼荼羅が生み出されてゆく。
中央に鎮座するのは勿論ジャイアントパンダ神だ。その周りをシマウマ、マレーバク、シャチ、ペンギン、ダルメシアン……その他ハッタが知り得る限りの白黒アニマル神たちが取り囲む、非常にありがたい図像である。
増益と息災を祈りつつ、ハッタは動物神ひとつひとつを丁寧に描写してゆく。
その姿は壁を飛び出して路面にまで広がり、隣の落書きと渾然一体となるが、全体としてバランスが取れていれば良し、だ。
「……ふう」
一心不乱に描き続けたハッタは、全てを描き終えると漸く筆を止めた。
少し下がって全体を眺め、満足げな吐息を漏らす。
「ここまでの大作はめったに描かないが、聖霊節であれば話は別だ」
ひとつの事を成し遂げた満足感がハッタを包む。
たとえ数日後には消されるものだとしても――いや、だからこそ、この刹那に全てを注ぎ込む価値があるのだ。
それに、目には見えなくなっても消えてなくなるわけではない。
ここに描かれたものは取り壊されない限り残り続けるのだ。
込められた祈りと共に、永遠に。
「わー! 青くて白くてカラフル~。ボクも壁にラクガキしたいなぁ」
「わあっ! とってもカラフルな街だね! アタシ達も描き足して良いの?」
「ん?」
「あれ?」
エルゼリオ・レイノーラとベアトリーチェ・カロッサは、互いの声を聞いて思わず顔を見合わせた。
「「キミも?」」
同時に言って、同時に笑い出す。
「この景色を見てると、やっぱり何か描きたくなるよね」
エルゼリオはそう言って、ベアトリーチェを誘った。
「良かったら一緒に描かない?」
「アタシあんまり上手くないと思うんですけど……それでもいいですか?」
「そんなの関係ないと思うな。楽しく描ければ見る人もきっと楽しくなるよ。ラクガキだし、何よりお祭りなんだから楽しいのが一番だと思わない?」
そう言われて、ベアトリーチェは頷いた。
「それじゃ、よろしくお願いします!」
互いに自己紹介をしたら、まずは道具の調達だ。
エルゼリオは祭りの準備を殆ど終えた街の様子を伺う。
「塗料は何処かで買うのかな?」
一心不乱に曼荼羅を描くハッタ師匠が目に入ったが、邪魔をしてはいけないと、通りすがりの地元民らしき白猫の人に思い切って声をかけてみる。
「あの。ラクガキ用の塗料は何処に行けば手に入りますか?」
「あ、それなら……」
案内された場所で無事に道具を確保して、準備完了。
「ありがとうございます、助かりました。あの、ここの人……ですよね?」
「僕? 違う違う、僕もリブラネスタから来たんだ」
「えっ、じゃあお仲間? 随分慣れた感じだから、地元の人かと思ったよ」
「お祭りの準備には最初から参加してるから、通い慣れてはいる、かな」
「そうなんだ、じゃあ街のどこかにキミが描いた絵もあるの?」
そう言ってから、エルゼリオは大事な忘れ物に気が付いた。
「自己紹介、まだだったね。ボクはエルゼリオ」
「アタシはベアトリーチェ、長かったらベアトで良いよ!」
「君の名前は何て言うの?」
「僕は旅猫。タビって呼んでくれると嬉しいな」
「タビさん、だね。そうだ、迷惑でなければ一緒にラクガキして貰えないかな?」
一人より二人、二人より三人の方がきっと楽しい!
そんなわけで、三人は残っていた白い壁に並んで向き合った。
エルゼリオは色彩センスには自信がある。デッサン力が今ひとつなのが残念だが、気にせず堂々と、楽しげに線を引く。
ベアトリーチェは故郷の森で見慣れたものを独特のタッチで描いていった。
「なんだ、上手じゃない!」
「そうかな? あんまり人に見せたことなかったけど、キミがそう言ってくれるなら、アタシ上手いのかも?」
ところでタビはどうかと見れば、肉球スタンプをひたすら押し続けている。
遅まきながら、タビは気付いてしまったのだ。画伯は褒め言葉ではないという事実に。
だがエルゼリオはそれを笑い飛ばした。
「タビさんは描いてて楽しかった?」
「うん」
「だったら遠慮せずに描こうよ!」
「そうそう、ラクガキは楽しいのが一番だよね!」
エルゼリオの受け売りだけど、とベアトリーチェが笑う。
「じゃ、遠慮なく! どうなっても知らないからね!」
背を押されて描き出されたそれは常人には理解不能な何かではあったが、二人が筆を添えることで新しい芸術に昇華……いや、うん、より一層わけのわからないシロモノになったけれど、楽しければそれで良し。
ベアトリーチェが貰って来たお菓子やお茶で休憩しながら、壁一面に異世界が開かれた頃にはもう夕暮れも迫っていた。
「今日は本当にありがとう! お礼に夕飯を奢るよ、タビさんのオススメの店はある?」
それと、もうひとつ。
「これを機に友達になって貰えるかな?」
●オリエンテーリング!
受付の机に、番号付きの十個のマス目が書かれた紙が置かれていた。
受付前のスタートラインからは、赤、青、緑、紫、黄緑、黄色、水色、茶色、ピンク、オレンジの十色の矢印が伸びている。
赤の矢印は絶景ポイント、黄色は食堂、緑は宿屋など、各色ごとに決められたゴールには、それぞれに決まった番号のスタンプが置かれている、ということだった。
「このスタンプが全部埋まれば豪華景品が!?」
エルナ・クルプファルツは瞳の中に星をキラめかせ、たまたま近くにいたタビをがっつり捕獲する。
「楽しそうですね! 参加しましょう! タビさんも一緒にいかがですか?」
なお拒否権は多分あるが、発動する隙がない。
タビはその勢いに圧倒されながらカクカクと首の上下運動をする他はなかったが、お誘い自体は嬉しかったので問題はない。
(ふっふっふ、矢印を描いたタビさんがいれば正解は分かったも当然です!)
タビが一枚噛んでいると何故か思い込んだエルナは、思い込んだらまっしぐら。
「さあ行きましょう! 大森林での苦難の冒険の末(メシマズ料理で)生死の境を彷徨った事もある私に、越えられない壁はありません!」
エルナは何の疑いも躊躇いも戸惑いもなく、確信を持って突き進む。
「海が綺麗ですね!」
絶景ポイントその1、スタンプGETだぜー!
次は青い矢印を進むと、途中で分かれ道があった。
「タビさん、どっちだと思います?」
「うーん……あっち?」
タビが指さした方にずんずん進むと、そこには。
「あれ? 僕このへん見覚えがあるような……」
それもその筈、そこには壁一面にタビ画伯渾身の作品が!
「がふっ」
それを直視したエルナは精神に致命的なダメージを受けた!
このオリエンテーリング、なかなかにハードモードである様だ。
エフィルミアは食べ歩き出来るように加工された骨付き肉とぶどうジュースを持って、いざオリエンテーリングに挑戦!
「探波を使えばすぐですって?」
これだからオリエンテーリングの素人は!
「もーそれじゃあつまらないでしょ! 自分の足でこの先に何があるのかなってわくわくしながら進むのが冒険ってやつです!」
確かに先が見えない不安はあるかもしれない。
けれどそれを乗り越えた先にある感動は、予定調和では到底味わえない素晴らしさ……って、誰かが言ってた。
「心配しなくとも私の実力ならあっという間に……え?」
目の前に壁がある。
「……壁を歩いてショートカットはずるじゃないですよね!」
シーフの本領発揮とばかりに壁を超えると、近くの屋根に飛び移る。
「よーし、私なら通れるのでここははずれじゃないです! 当たり!」
そこの壁に大きな花を描いて、隠れ当たりポイントっぽくしておきましょう。
「特別って感じでいいでしょ?」
そう、当たりが出ないと嘆くなら、自分で作ってしまえば良いのです(いいえ
ついでに高い所から見渡して、別の矢印を発見!
「次はあれを辿ってみましょう!」
その後、街のあちこちに隠れ当たりポイントが出現したとか――
「街の隅々までまわってみようかしら」
シャロン・ラ・モリエールはこの街をカラフルに染め上げた参加者のひとりだ。
あの時はスタンプ技法の伝導の旅に出たりもしたけれど、仕上がった後の作品をじっくり見る時間はなかった。
「どんな絵があるのか楽しみね」
街に溢れるラクガキを見て回りながら、目に付いた矢印を辿る事でオリエンテーリングも一緒に楽しんでみる。
「……あら? ここは何もないわね……」
どうやらハズレを引いたらしいと、シャロンは周囲を見渡す。
足下に目をやると、路上には掠れた自分の足跡が残されていた。
「矢印の塗料が乾いてなかったのかしら?」
なるほど、ニセ矢印を見分けるポイントはここか。
「もう引っかかりませんよ」
イタズラな誰かにそう言って、シャロンは再び歩き始める。
やがて矢印は彼女を海を見下ろす崖の上に導いてくれた。
「海、きれーい。潮風は新鮮な感じね」
ウィンプルを外して髪を風に晒してみる。
「海……お魚……美味しいお魚、お腹いっぱい、うふふ」
ああ、海が大きな生簀に見える。
踊る小熊亭で新鮮な海魚を初めて食べた時の衝撃が思い出され、奥歯にじわりと唾が湧いた。
花より団子、芸術よりごはん。
「ランチもディナーも、明日の朝ごはんもお魚がいいわね」
肉より魚が好きな猫さんは、聖霊節のご馳走を求めて街へと下りて行くのだった。
「街中の探索、凄く楽しそう……みんなの落書きや知らない場所も見れそうだし」
というわけで、ララベル・サン・ディーベルは矢印とヒントを頼りに街中へGO!
「僕達が描いた時より矢印がずいぶん増えてるね。えーと、これは……こうかな?」
ヒントに書かれた謎を解きながら、時には街の人にお遣いや伝言を頼まれたり、クリアのお礼に新しいヒントを貰ったり。
「この矢印、お土産屋さんに通じてたんだ」
丁度良いと、ララベルは店に入って行く。
「これとこれ……あっ、これも良いな!」
大切な人達に小さな置物やアクセサリ、日持ちのするお菓子などを選び、恋人には特別に少し奮発してみたり。
「ふしぎ亭のみんな、喜んでくれるかな」
皆の笑顔を思い浮かべて、ララベルもにこっと笑う。
店を出たらすぐ前にあった矢印を辿って――
「あれ、この道来たことあるような……」
矢印が示す半開きの扉に手をかけようとして、空気を掴む。
「あれっ!?」
ドアノブに触れない、と思ったところで思い出した。
「あっ矢印書いて貰ったんだっけ」
自分が描いた偽扉に引っかかるなんて、何たるドジっ子。
「今の誰も見てなかったよね?」
恥ずかしそうにきょろきょろして、ほっと胸を撫で下ろすと、そこに書かれたヒントが見えた。
「このヒントの14に行けって、凄く嫌な予感するんだけど……(汗汗」
ティトはお菓子を食べながら、地図とにらめっこしていた。
オリエンテーリングに参加してみたのは良いけれど、人は多いし街は広いし勝手はわからないし。
小さな集落で育った彼女にとって、それは乳離れしたばかりの子狼が仲間とはぐれ、一匹で草原に放り出されたも同然――と言うのは大袈裟かもしれないけれど。
そこでティトは一計を案じた。
たまたま目にしたララベルの後を、こっそりひょこひょこ付いて行くことにしたのだ。
(こうしてれば、くまなく回れるかな……?)
前の人が立ち止まれば、ティトも止まる。
歩き出せば一緒に歩き出し――
「ヒント14って、ここかな?」
ララベルはヒントを探して辺りを見回す。
「ここって僕が落っこちそうになってる塗料缶を描いたとこ……」
「あっ、危ない!」
その声に振り返ったララベルは、にこっと笑って首を振った。
「大丈夫、あれは僕が描いた……えっ!?」
絵に描いた塗料缶が、いつの間にか本物にすり替えられている!
間一髪、ララベルは落下する缶の真下から飛び退いた。
「嫌な予感すると思ったら……ありがとう、助かったよ。良かったら一緒に回らない?」
「えっ、いい……の?」
こっそり尾行は平気でも、一緒に行こうと言われると途端に尻込みするのがコミュ障である。
けれどララベルの人懐こそうな笑みは、そのハードルを一気に押し下げた。
「じゃあ、よろしく――」
その時。
べちゃっ!!
ティトの後頭部で何かが弾けた!
「……トマト……?」
それはセロンガード・シュタインドルフのイタズラだった。
矢印を書き足したり細工をしたり、壁を作って通路を塞いだり、セロンガードはこの日の為に水面下で着々と計画を進めていたのだ。
かつて諜報機関に所属していた彼にとって、地道な作業はお手の物。
だが、ただの冒険者である今の彼にとっては、それは余りに味気なく思えるのだった。
水面下であるが故に誰にも気付いて貰えない。
イタズラが成功してもリアクションは微妙だ。
何かもう少し派手に存在をアピールしてみたい――そこで思い付いたのが、これだ。
「はーっはっは! 油断したな! まさか天からトマトが降って来るとは思うまい!」
「……セロンさん……」
屋根の上で仁王立ちするセロンガードを見上げるティトの瞳に緑色の炎が揺らいだ。
「まだ、塗料の掛け合いする時間じゃないよ……ね?」
「そう、だからトマトだ! 何故トマトか、それは訊くな!」
生卵だと険悪な空気になりそうだし、悪くない選択だとは思う……多分。
「ティトさんも手が空いているなら一緒に投げてみないか!」
だがティトはそれに答えず、不敵な笑みを浮かべた。
ぷちっと何かがキレる音が聞こえた気がする。
ティトは足下に落ちたトマトを拾い上げ、セロンガード目掛けて思いっきり投げ返した。
そして始まるティトvsセロンガードのトマト投げ合戦、だが多くの弾薬を抱え、かつ高所に陣を敷いたセロンガードが圧倒的に有利だ!
しかし、それを見ていたノリの良い住民達がトマトを持ち寄りティトに加勢する!
白い街の一角が真っ赤に染まった。
なお、この突発イベントは住民に好評だったそうで、次の年には正式なイベントとして採用される事になったとか――
「自分の落書きした場所以外の道は忘れました!」
きっぱりと言い放ち、コルネリウス・アーラは胸を張った。
なので、今回はイズレンディル・パラリムの方針に全面的に乗っかる所存。
「イズさん、頼りにしていますね」
「ええ、全力で楽しみましょう」
初めて訪れる街にイズレンディルは興味津々。探検のわくわくも手伝ってか、足取りはいつになく軽い。
「コルネさんの絵はどこにあるのでしょう?」
「それは……どこでしょう、近くまで行けば思い出すはず、なのですが」
オリエンテーリングで街を巡っているうちに、そのうち行き当たるだろう。
まずは矢印に導かれ、ヒントには素直に従いながら、二人は道を進んで行く。
行く手に見えて来たのは、急な上り階段――と思ったら、道に描かれた騙し絵だった。
上げた足が空振りに終わり、二人は思わずバランスを崩して倒れそうになる。
「わっ、引っかかってしまいましたね!」
「本当、すっかり階段があるものと思い込んで……」
互いに身体を支え合い、声を上げて笑った。
「こんなイタズラなら、引っかかるのも楽しいですね」
イズレンディルは目を輝かせて楽しそうにはしゃいでいる。
「この先には何があるのでしょう?」
矢印は更に奥まで続いていた。
分かれ道では行先をじゃんけんで決め、着いた先には「ハズレ」の文字。
「あら残念です、戻ってやり直ししましょう」
ふふっと笑い、コルネリウスはイズレンディルの手を引いて来た道を引き返して行く。
そうしてゆっくりと街を巡り、スタンプを半分ほど集めた頃。
「あ、確かこの辺……私が絵を描いた壁があるはずです」
見覚えのある街角でコルネリウスが言った。
「確かここを曲がって……あ、ここです」
壁の前に立ったコルネリウスは懐かしそうに目を細めて笑う。
「子供の頃、お兄ちゃん達と落書きしたのを想い出して」
「これはタビさんの肉球ですか?」
「ええ、素敵な花になったでしょう?」
幼い頃のわくわくと、憧れを込めて描いた絵は、改めて見返してもやはり懐かしい空気に満ちていた。
「可愛らしいお花に溢れていて素敵ですね」
その奔放な描かれ方に、コルネリウスが楽しそうに絵を描いた様子が見える気がして、イズレンディルは自然と顔が綻ぶ。
「私はきっと……こういうのに子供の頃から憧れていたんです」
今は花鳥園で本物の花に囲まれている。
それを、イズレンディルは自分の事のように嬉しく思った。
「花は人を笑顔にするから、色んな人の笑顔が見たいと……そんな想いも籠められているんですよ」
「コルネさんならきっと、その想いも叶えられます」
二人は暫くその絵を見つめ、やがてどちらからともなく歩き出す。
街を探検し、他の人達が描いた様々な絵を見ながら、残りのスタンプを探す為に。
「楽しもうね、リスさん」
ロサード・シュナイダーはオリエンテーリングのスタンプシートを手に、相棒の栗鼠に語りかける。
なお「リスさん」とは一般名詞ではなく、れっきとした栗鼠の名前である。
ロサードは栗鼠を肩に乗せ、その視覚と聴覚も借りながら矢印を辿って行く……が、悪戯を避ける気はなかった。
「それはそれで面白そう」
寧ろ正規のルートよりも変な矢印の方に積極的に引っかかりたい気分。
行き止まりや猫が通りそうな道なき道、頭上から塗料が降って来たり、落とし穴だと思ったら道に描かれた絵だったり、絵だと思ったら本物だったり――
その全てに律儀に引っかかり、正規ルートでスタンプを集め、壁に描かれた絵を眺めては時に精神を抉られ、歩いていない道はないという域に達するまで歩き回って、隅々まで探索を楽しむ。
なおスタンプコンプリートの景品は、街の宿屋で使える宿泊券だった。
(これは……街全体がひとつのアトラクションの、ようだな)
サマエラ=フォリウムは雑踏の中に佇み、街の様子を眺め渡していた。
家の壁という壁には絵が描かれ、その前には見たこともない料理が並んだテーブルが置かれている。
祭の最中ということだが、彼女の記憶にあるそれとは少々趣が異なる様だ。
(色に溢れ、目にも騒がしく、されど不快ではなく、明るく楽し気で……ふむ)
興味が湧いた。
歩き回ってみようと、まずはオリエンテーリングの受付でスタンプシートを受け取った。
「地図ではないのか……なるほど、矢印やヒントに従えば、良いのだな」
簡単な説明を受けて、歩き出す。
最初はきちんと矢印に従いつつ、時折直感のままに進む事もあり――
(ん、メインの道からは、やや外れたか)
この辺りにはよそゆきではない、普段の飾らない生活の匂いがある。
(観光客向けでなく、地元向けの店が、多いな)
店先の品物も雑多に散らかった感じで、見たところ値札も出てない。
(生活に密着し過ぎて、表になかなか出ない名物なども、こういう場所にはたまにあるが……何かないか、探してみるのも一興、か)
普段遣いの布地や食器、一見しただけでは用途がわからないものや、説明を聞いてもよくわからないもの。
見たことも聞いたこともない、食べ物とも思えない何かが意外に美味だったり。
裏通りの店は冷やかすだけでも面白い。
(この店は、何だ……)
路地裏で見付けたそれは――
ナハティガル=ラーは街を見下ろす丘の上で穏やかな風に吹かれていた。
「青い空に白い雲。明るい陽光とカラフルな建物――俺は場違いな事この上ないな……」
寒さのせいか古傷が疼く為、どこか温暖な場所で療養を……と考えて、行き着いたのがこの土地だった。
静かな所だと聞いていたのだが、今日は何やらとても賑やかだ。
「今は祭りの最中なのか? ……ああ、そうか。世間では聖霊節だったな」
それを完全に失念していた程度には、浮世離れしている孤高の銀鬼。
とは言え、その騒がしさは不快なものではない。
まずは宿を探そうと街に降りてみる。
「――ん? 探索のミッションがあるだと?」
胸の奥で好奇心が目を覚ました。
「ふむ。腕試しに参加してみるのも悪くは無さそうだ」
探索こそシーフの真骨頂と、エーテルの波動を周囲に走らせ、研ぎ澄ました五感を総動員して、隠されたヒントを探し出す。
しかしこのシーフ、何事も深く考えすぎる傾向がある様だ。
「このヒントには何か重大な秘密が隠されている筈……」
深読みが謎を生み、謎が疑心を生み出して、全てが偽りに見えて来る。
「この壁に描かれた絵は何かの暗喩か……」
浮かれ騒ぐ街でただひとり、シリアスかつ大真面目に探索を続けるワンマンアーミーだった。
「――探索完了。これが街の全て……なのか?」
ナハティガルは受付に戻って宿泊券を受け取った。
矢印という矢印は全て辿り、ヒントも全て集めた。
だが、まだ何か足りない気がする――と、誰かの声が耳に入った。
「先ほど面白いものがあった、良ければ行ってみるといい」
探索を終えたサマエラが、周囲の者に声をかけていた。
「面白いものって何?」
タビの問いに、サマエラは僅かに口角を上げる。
「それは、己の目で確かめるが良い」
覗いてみての、お楽しみだ。
●見て、食べて、飲んで、踊って!
先日、ニーラ・メッコは壁に自画像を描いた。
その街で聖霊節のパーティーが開催される! しかも豪華な料理が食べ放題!
「これは参加するしかないよね!」
自分が描いた壁の自画像を観賞しながら料理を楽しむ、これはなかなか得難い経験だ。
しかも年末までの期間限定となれば、何を置いても行かねばならぬ。
というわけで。
「こうしてみると……なんだか描き足したくなっちゃうけど、そこはぐっと我慢だね!」
具体的には50%増量では足りなかった気がする胸の辺りを。
けれど、そんな事ではきっと永遠に終わらない。
潔く見切りを付けて、ニーラはご馳走へと興味を移した。
ぶどうジュースを飲みながら、まず最初に骨付きのスモークチキンを頬張る。
お腹にハーブを詰めた丸焼きに、柔らかく煮込んだトマトベースのシチュー、唐揚げに照り焼き、ソテーなどなど、チキン三昧。
「おいしいね! おいしいね!」
ニーラは本当に美味しそうに、どんどんもりもり食べる。
「これなら毎日が聖霊節でもいいな!」
50%増量は現実になりそうだ……主にお腹周りが。
「キミを丸洗いするのは大変だから、今日は塗料には触っちゃダメだよ?」
街の入口で立ち止まったニール・ロブラリアは、相棒の狼にそう言い聞かせた。
きちんとお座りした狼は賢そうな瞳を輝かせ、ふさふさの尻尾をひとつ大きく振った。
「……うん、ちゃんと通じた……よね」
微妙な不安に駆られながらも、ニールは狼を連れて歩き出す。
(あちこちに描かれたラクガキを改めて鑑賞したいな)
前にも見て歩いたけれど、色々な飾りも加わって印象が変わっているかもしれない。
街そのものも、前に来た時よりも一層賑やかで楽しげに感じられた。
「……すごいな」
愛らしいイラストや、綺麗な絵、足の向くまま順番に眺めては、感想を呟いたり周りの人達の反応に耳を傾けたり。
「え、なにウォクス? そっち行きたいの? でもそっちは……」
自分が描いた、絵とも呼べないものがある。
元からそう自己評価の高い絵ではなかったけれど、最後に塗料をぶちまけてしまったから余計に――
「あれ?」
狼の足跡に、盛大に跳ねた塗料。
意外にも、それが後から付け足された飾りと良い感じに調和している。
「怪我の功名っていうのかな、これ」
何故か得意げな狼の頭を撫で、ニールは次の絵に足を伸ばした。
「前衛絵画と、これは……何を表現したもの、かな? 名状しがたい……」
ぞくり。
急に冷えてきた身体をホットワインで温めて、狼には持って来たおやつを。
「ところでここは、どこだろう」
足下の矢印を辿れば、知っている場所に出るかな?
「たしかに、落書きばかりですわ」
「まぁ、わたくしとしては、今回、ゆっくりと見させていただく所望でございますね」
ベイロード騎士団の二人、レナ・フォルトゥスとダルタニアは、騎士団仲間のひとりがここに絵を描いたと聞いて、見物に来た様だ。
しかし、それは容易には見付からず――
「なーんか、どっかで見た気がするのもありますし……」
ユールフェスを題材にしているなら、表現が似通って来るのも已む無し、だろうか。
「なんていうか、これは見ものというか、猫の絵が多い気がしますけど」
「尻尾にピンクのリボンを付けたあれも猫のようですけど、彼女はネズミだったはずですし」
いや、これは参加者全員を擬猫化している?
「では、これが彼女でしょうか……でも本人が描いたものは見当たりませんわね」
やがて二人は深淵を覗き込む。
「しかし……なんじゃ、これ??」
タビ画伯の力作です。わりと色んな所に出没します。
「見ていられないのもありますね」
「うん、SAN値減ってるわね……消去したいのもやまやまですけど、消せば、何されるか分かったものじゃないわね」
「というか、ユールフェスって、こんなイベントでしたかな??」
ダルタニアはレナに同意を求めてみる。
「レナさんも、そう思いますよね」
だが返事はない、気付かないうちにレナの魂は深淵に囚われてしまった様だ。
それに釣られる様に、ダルタニアの精神もゴリゴリ削られ――
「ガラハルガラハルガラハルグロガログルウェイ……あ、失礼。落ち着きました」
ダルタニアが妙な呪文を唱えると、レナの精神も同時に復活を果たす。
「……はっ、あたしは何を……」
「いえ、良いのですよ」
復活したレナは深淵にちらりと視線を投げると「時折、意味わからないのもありますわね」と言っただけで歩き出す。
どうやら例の呪文は精神バリアの効果もある、らしい?
「さて、食事でもたしなみましょう。幸い、近くにおいしいお肉を扱う所がありますし」
「わぁ、ステーキ、いいわね」
どーんと置かれた肉の山、肉料理には赤ワインが似合う。
すり減った精神力も、お肉のパワーで回復……するだろうか。
「2人で食べるにはもったいなさそうですわね」
「ええ、騎士団全員で来てみたかった気もしますな」
精神力がすり減るものは見ないようにすれば、きっと大丈夫。
食べ終わったらオリエンテーリングにでも参加してみようか。
「わあ……開いたお口が閉じなくなってしまうくらい素敵だわ!」
街の姿をひと目見るや、アンネエルカは感嘆の声を上げた。
手伝いを終えた後も一通り見て回ってはいたけれど、飾りが増えた街はその時よりも一層楽しそうな雰囲気に満ちている。
「カラフルで、賑やかで。皆の弾む心が伝わってくるみたい!」
早く全部を見て回りたくてつい小走りになってしまうけれど、それでも足が気持ちに追い付かない。
それに、一番最初に見たいのは――
「あっ、お姉ちゃん!」
彼女が担当した家の、二階の窓から小さな女の子が顔を出す。
手を振って見上げた家の壁は、ランタンやオーナメントが増えてより一層キラキラと輝いていた。
「お手伝い出来たこと、これをこうして見て周れることが本当に嬉しいわ」
お茶に呼ばれ、アンネエルカはリースのかかったドアを開けた。
(壁に落書きさせて頂いた街でのお祭り本番ですか)
その知らせを受けて、スィーリーンは一も二もなく飛んで来た。
他の人達が描いた絵もじっくり見てみたいし、自分が描いた花畑の絵も改めて見返してみたい。
スィーリーンはいくつか他の作品を見て回った後、自分が担当した家に向かった。
けれどその絵は、自分の記憶とほんの少し違っている様な……?
「おお、あんたか!」
家の持ち主が声をかけてくる。
「実はうちのチビがあの野菜スタンプ気に入っちまってな、あっちこっちペタペタと……すまんな、折角綺麗に描いてくれたのに」
違和感の正体は、新しく押されたそのスタンプだった様だ。
「ともあれ、楽しい絵とアイデアをありがとうな!」
「こちらこそ、楽しく描かせて頂きました。良い機会をありがとうございます、それにお子さんとの合作も素敵ですよね」
家の持ち主に軽く手を振って、スィーリーンは再び歩き出す。
どうやら気に入って貰えた様だと安心したら、急にお腹が空いてきた。
「ビュッフェスタイル、楽しそうです」
テーブルには蜂蜜たっぷりのお菓子をメインに、シチューやパイ、チキンの丸焼き、その他見た事もない料理の数々が並んでいる。
「美味しそうな物が色々あって目移りしてしまいますね」
けれど一番に手が伸びるのは、やっぱり果物を使ったお菓子だった。
そこに蜂蜜がかかっていれば尚嬉しい。
「蜂蜜美味しいですものね」
と、同じ様にお菓子ばかりをつまんでいるタビの姿が目に入った。
「タビ様も楽しんでらっしゃいますか?」
口いっぱいにお菓子を詰め込んだタビはこくこくと頷く。
「私達の描いた絵が喜んで頂けてるなら嬉しいですよね」
こくこく。
タビの場合、喜ばれる方向が少し違う気もするけれど。
「タビ~久しぶりだな、メリーユールフェス!」
大きく手を振るギド・フェルミの声に、もぐもぐしながら振り向いたタビは控えめに手を振り返した。
「メリーユールフェス、ギド」
口の中のものを飲み込んで、漸く返事を返す。
「楽しんでるみたいだな。それ美味いか?」
ギドはタビのふわふわ頭をぽんぽん叩いてにっこり笑うと、同じお菓子を手にとった。
「面白い街があるって聞いて立ち寄ってみたんだけど、タビも参加してたんだな! 絵をかくの……に……?」
あ、れ?
「どうしたの?」
「なんだ……? 絵のことを考えようとするとうっ……頭が……」
「大丈夫? 食べ過ぎた?」
「ああ、そうかも……って、痛いのは腹じゃねえー!」
「だよね! あはは!」
あははじゃないだろとツッコみながら、ギドはタビの様子に目を細めた。
だいぶ砕けた感じになって来たのはトモダチ認定の成果だろうか。
「ほら、タビの描いた絵はどれか教えてくれよ!」
そして自らトラウマに突っ込んで行く吟遊詩人。
「へーこれ……これ? ……ひぎゃあー!!」
もう二度とオムライスは食べられないかもしれない、食べるけど。
ギドが撃沈したところに、リサ・ベイカーが走って来た。
「あっ、いたいた! メリーユールフェス! はい、お友達のタビさんにプレゼント!」
ユールフェス限定で売ってたクッキーの詰合せ、どうぞ!
「わあ、ありがとう! ……え、友達?」
「そうですよ、あのメシマズも一緒に乗り越えた仲じゃないですか!」
「そっか、そうだね!」
チョロいぞ、タビ。
「ところでこの方はどうなさったのでしょう?」
メシマズの時も倒れていた気がすると、リサは足下のギドを見る。
「うん、ちょっと不幸な事故があって……音楽が聞こえれば復活するんじゃないかな」
その言葉通り、楽師達が演奏を始めるとギドは何事もなかった様に立ち上がった。
「さて、気を取り直して……楽しそうな曲が聞こえてきたな。俺も伴奏と歌で参加してみようか」
「え、歌……?」
タビの絵を想像した時の自分にそっくりな顔をしたタビに、ギドが笑いかける。
「タビもダンスが好きなんだろ? 一緒に楽しもうぜ! 歌もダンスも上手い下手はこういう時割とどうでもいいもんさ」
「そうだね、絵も楽しんで描ければ良いって言われたし」
「うっ」
ギドは思わず言葉に詰まったが、まあ基本的には間違っていない。
「そうそうタビさん、お時間あれば一緒に踊りませんか?」
リサの誘いに、タビは返事の代わりににくきうぷにぷにの手を差し出した。
「行こう!」
アルマン・アルスターには演奏の心得がある。
だが肝心の楽器を持っていなかった。
「まあでも、楽師さんなら予備の楽器くらい……え、ないの?」
あっても貸さない? うん、それはそうだよね、大事な商売道具なんだし。
「なければないで良いさ、音の出る物なんていくらでもあるからな」
水を入れたグラスを叩くだけでも音階が作れるし、道具がなくても口笛があるし、声で楽器の音を真似る事も出来る。
数ある「音の出るモノ」の中から、今回選ばれたのは――
「たかが手拍子でも、うまくやれば立派な演奏の一部になるんだぜ」
身体全部を使えばボディパーカッションだ。
そこにギドが飛び入り参加、リュートの音色に合わせてアルマンの手拍子が軽快なリズムを刻む。
リサは片足を引いてクロスさせ、軽く膝を曲げて優雅にご挨拶。
タビもそれを真似ようとするが、リサが「男の子はこうですよ」と右足を引いて左手を差し出す形を教えてくれた。
それは上流階級の作法だが、ダンスの方は作法なんて関係ない。
雰囲気に合わせて楽しく軽やかに、手に手をとって、時には手と尻尾をとって、クルクルと。
「タビさん、楽しそうに踊っていらっしゃいますね」
ネーヴェ・グラヌローザは、蜂蜜たっぷりの焼き菓子を頬張りながらその様子を見つめていた。
けれど見ているうちに身体が勝手に動き出す。
最初は指先だけで拍子を取っていたのが、足先から足全体に、果ては体全体がリズムを刻み始めた。
もうじっとしていられなくなったネーヴェは立ち上がり、音楽に乗せて軽やかに踊り始めた。
「オレも! タビ、一緒に踊ろうぜ!」
飛び入り参加したレオネベルに、リサはタビを引き渡す。
手の代わりに尻尾を絡め、リズムに合わせてステップを踏んで。正しい踊り方なんて知らないけれど楽しければオールOKだ。
突然流れ出したギドの歌に調子が狂って互いの足を踏んづけたりもしたけれど。
「あっ、ごめん!」
「気にすんなって、オレも踏んだしな!」
そんな二人の姿を、リーザヴェールはにこにこと嬉しそうに見守っていた。
(皆の笑顔を見ているだけで楽しい気持ちになるわ)
何より、可愛い子たちが目を輝かせてるのだから、それを見ている方も幸せな気持ちを抱くのは当然のことだった。
踊り疲れた二人はご馳走のテーブルにまっしぐら、目を輝かせて料理を見て回る。
「美味しそうなのいっぱいある!! すげぇな、見た事ないのもいっぱいだ!」
「これ、さっき食べたけどすごく美味しかったよ!」
「えっ、どれどれ!?」
いずれも食欲旺盛、手にした取り皿はあっという間に山盛りになった。
「ひとまず第一弾だな、リーザヴェールのとこ行って食べようぜ!」
立食用のテーブルにそれを持って行き、いただきまー……
「あら、レオネベルちゃんのお皿は茶色が多いのねぇ」
「えっ」
「タビちゃんはどうかしら? あらあら、こちらはカラフルだこと」
「うっ」
リーザヴェール先生は、偏食児童にはちょっと厳しかった。
「野菜も食べてあげないと可哀想よ?」
厳しいと言っても、雷が落ちる様な厳しさではない。
ただやんわりと、静かに降り積もる雪の様に、いつの間にかすっぽり埋もれて身動きが取れなくなる様な、地味に痛い厳しさだった。
「野菜は……うん、あまりいいかなーって……」
「僕も……」
野菜が苦手な二人は揃って耳と尻尾をへちょっと垂らす。
だってライオンもネコも肉食だし?
だがそんな屁理屈は先生には通用しなかった。
「野菜さんたちも色んな冒険をしてこうやってお皿の上にまで来てるの。ほら、少し誇らしげに見えてこない?」
くすくす笑いながら、リーザヴェールは色とりどりの温野菜や生野菜を皿に取り、そこにチキンとローストビーフを少しずつ。
「かぼちゃのスープも美味しそうね」
とびきりの笑顔でそう言われれば何かいけそうな気がして、レオは野菜も皿に乗せてみる。
「ほら、タビも野菜取れよ……それと肉も。お菓子ばっかじゃデカくなれねーぞ?」
「はぁい」
最初は余り気が進まなかったけれど、食べてみれば野菜も案外悪くなかった。
「ニンジンってこんな甘かったっけ?」
「このトマト、フルーツみたいだ」
にこにこの先生に見守られ、メインディッシュを食べ終わったらデザートの時間。
「ケーキとか他にも色々あるな。そうだ、皆でそれぞれ選んで交換とかしようぜ!」
ナッツに蜂蜜をかけた焼き菓子や、フルーツタルトに木の実のパイ、プリンやゼリーなどの冷たいもの。
野菜をちゃんと食べたご褒美に、リーザヴェール先生は二人の皿に少し多めのお裾分けをくれた。
「ここのも美味しいけど、またリーザヴェールの作ったお菓子も美味しいんだぜ!」
「えっ、これより美味しいの!?」
目を輝かせたタビに、レオはこくこくと頷いて見せる。
「機会があればタビにも食ってほしいな」
「ふふ、そうね。またタビちゃんが素敵な場所を見つけた時は何か持ってきましょうか」
タビの目標に「素敵な場所を探すこと」が加わった。
サイラスは飲み食いしていた。
ただひたすらに、飲み食いしていた。
(飲食不要になったとしても楽しめるんだから楽しむとも)
趣味のひとつが食事、そして好物は甘味とくれば、それも当然のこと。
蜂蜜と葡萄酒があるところにサイラスありという勢いで、ひとつのテーブルを食べ尽くしては次のテーブルへと渡り歩く。
(本当は自前の葡萄酒とか作ってこれれば良かったんだろうなあ)
タダで飲み食いするのもどうかとは思うが、何しろ思い立ったのが急だった。
(そんなすぐに納得いく味なんてなあ)
その代わりに鍛冶仕事でも頼まれれば引き受けようという事で、街の世話役には話をつけてある。
帰りには鎌だの鍬だの包丁だの、大量の道具を預かる事になるかもしれないが、今は好きな物を食べて飲んで、のんびりするつもりだった。
後で塗料のかけ合いなんぞという馬鹿騒ぎがあるらしいが、どうぞご自由に。
どうせ後で洗うか新しい服を仕立てればいいし、飯にかけなければな?
いいか、飯にはかけるなよ? 絶対だぞ?
「自分が描いたラクガキ見ながらご飯食べるって中々ない経験だよね」
スフィカはカラフルな野菜が上から下までびっしり描かれた家の前で、食べ放題を楽しんでいた。
「新年前に塗り替えだから見納めかぁ、しっかり目に焼き付けとこ」
ついでにロープでぶら下がってクルクル回ってたタビの姿も目に焼き付けておこうかな。
「んー……ローストターキーも美味しいけど、フライドチキンみたいなジャンクな味の方が好きね」
シャトン・アルジェントは数々のテーブルを渡り歩きながら、気に入ったご馳走をお腹に詰め込んでいく。
シャトンはオリエンテーリング開催のきっかけとなった最初の矢印を描いた、言わば創始者だ。
だが本人はそれには参加せず、今回は専ら食べる専門の人になっていた。
あの矢印がどう発展して、今どんな事になっているのか、興味がないわけでもない……が、今は好奇心より食欲だ。
「ユールフェスのお酒っていえばグリューワインかしら」
様々なスパイスをブレンドした温かなワインを飲み比べ、良い気分になったら次は別腹の出番。
「やっぱりケーキは外せないわね」
それも一杯になった頃、街が一段と騒がしくなってきた。
「そろそろフィナーレの時間かしら」
シャトンは気に入ったグリューワインを手に、身軽に塀の上に飛び乗った。
「尻尾や耳が汚れるのは遠慮したいわ」
ここから高みの見物をさせてもらおうか。
●カラフルフィナーレ!
「少し変わった街に来てみたけど、お祭りの最中みたい」
この街にたまたま立ち寄ったノノアは、興味を惹かれた様子で辺りを見渡してみる。
「詳しい事は街の人に訊いてみれば良いかしら」
ふむふむ、なるほど。
「色々と悪戯も大丈夫みたいね」
それを聞いて、生来の悪戯好きな一面が顔を出した。
久々に仕事を忘れて悪戯を楽しもうと、汚れても良いようにショートパンツと白いTシャツに着替え、腹拵えをしながらフィナーレを待つ。
どこかでカンカンと鐘が鳴る。
それが始まりの合図だった。
ノノアは右手に白、左手に赤い塗料の二刀流。
路面は既に塗料まみれ、うっかりすると滑って転びそうになるところをバランス感覚で補いながら、流れ弾に当たらないように精神を研ぎ澄まし反応速度を高めつつ、疾風足で駆け回る。
セクシー担当な女性には白い塗料を、男性には赤い塗料をぶちまける。
「コルネリウスさん発見……!」
でも友達に酷いこと出来ないから、誰か他の人に――と思ってもセクシー担当がなかなか見当たらない。
ならば自分より年上に見える人は全員セクシー担当ということで、ベアトリーチェの頭から白い塗料をぶちまけた。
「やったわね!」
しかし反撃を試みた時にはノノアの姿はもういない。
行き場を失った青い塗料はエルゼリオに向かってぶちまけられた!
「うわっ!?」
かつて村一番のおてんば娘と呼ばれたベアトリーチェは、楽しそうにはしゃぎながら次の標的を探しに行った。
一方セクシー担当に塗料をかけまくるノノアは、セクシー未満の女子は武士の情けで見逃す所存。
だがこちらに攻撃して来るなら容赦はしない。
相手の塗料をかわし、両手の塗料を同時にバシャァッ!
「まさに白と赤が合わさって色はピンクで可愛くデコレーションね!」
しかし勝利の瞬間、後ろからそっと近付いたロサードが紫色の塗料をバシャッ!
振り向いたノノアはすかさず反撃、だがそれはロサードの幻影だった。
「やるわね」
点々と続く紫を辿って、ノノアは追撃を開始した。
アルマンは戦術眼を使ったガチの塗料掛け合い合戦を楽しんでいた。
「でも女の子は狙いにくいな~」
だって可愛い顔が汚れたら可哀想じゃない? あと服も。
「いいえ、大丈夫よ!」
そう声をかけたのはアンネエルカだ。
「このためにちゃんと白いお洋服を着てきたのよ」
だから遠慮なく、寧ろ是非ともやって欲しいと両手を広げて待ち受ける。
「カラフルに染まるお洋服を思い出に持って帰りたくって。見る度に鮮やかに蘇る楽しい気持ち。それってきっと素敵だもの!」
しかしそう言われても派手にぶちまけるのは忍びないと、アルマンはほんの少しだけ塗料を垂らして逃げる様に去って行く。
「野郎? 容赦なく塗料かけるわ」
どりゃぁ!
だがその時、アルマンは恐ろしいものを見た。
そしてバッチリ目をあわせてしまった……
(あ。あそこに見える、しまりのないアホ顔)
「ロ サ ー ド 様 !」
どばしゃ!
ロサードは矢の先に塗料をたっぷり含ませた筆を括り付け、無言でアルマンの顔面を狙い撃ちしてガッツポーズ。
「ちょ、やめて! 容赦なく顔面狙い撃ちしないで!」
そんなこと言っても絶対やめてくれないって知ってるけどね!
でも言うだけは自由だから!
「ふぅ……良い運動になった」
満足気に呟き、立ち去ろうとしたロサードの背にノノアの影が迫る。
「あ」
アルマンは危機を知らせようとするが、時既に遅し。
ロサードの頭から白い塗料がぶちまけられる。
「……、…………」
べしゃっ!
ロサードは無言でアルマンの顔面を狙い撃ち、その2。
完璧に八つ当たりである。
「もう嫌だこのひと……(めそめそめそ」
ティトはトマトまみれになった身体を洗い、借りた服に着替えたばかりだった。
それなのに今、その服は黒と赤が基調の帝国カラーに塗り分けられている。
「……セロンさん……?」
ティトの瞳に揺らめく炎は先程の比ではなかった。
「キレたコミュ障はなにしでかすかわからないことを、その身に刻んであげる……よ」
慈悲はない。
両手に持てるだけの塗料缶を引っさげて、ティトはセロンガードを追いかける。
意外と燃えるタイプなのです(ふんす)。
そしてわりと執念深いのです(ふんすふんす)。
周囲の人々を片っ端から黒と赤に塗り替えていたセロンガードは、何色かわからなくなるほどの塗料の海に親指を立てながら沈んだとか……。
「フィナーレは素早さと回避を活かして逃げながらかけまくっちゃうぞ! て思ってたけど、自分もまみれちゃったほうが楽しいよね、お祭りだもん!」
スフィカは塗料缶を手に、手あたり次第にぶっかけながら最大の標的を探し回る。
「ひゃう! むむむ、やりましたねぇ……望むところです!」
巻き込まれたリサは自らも塗料缶を手に参戦!
笑いながらスフィカを追いかけるリサは、途中で会った人々に嬉々として塗料をぶちまける。
「かけあいっこなのに誰からもかけてもらえないのも寂しいよね。タビさんを探して、塗料をぶっかけてあげよう!」
「皆でカラフルになりましょう! タビちゃんも捕まえて一緒に塗料に飛び込みますよー!」
ニーラとエフィルミアも、何故かタビを探している模様。
そして次第に狭まるタビ包囲網、エルナもその波に乗っかってピンク色の塗料を辺りにぶちまけながら進む。
「皆さんをかわいいオーナメントにしてあげましょう!」
そして遂に――
「タビさんはっけーん!」
スフィカがその姿を見付けた。
「その白い毛皮、素敵なキャンバスだねぇ」
両手に赤と青の塗料を付けて、わきわきしながらにじり寄る。
「変な顔で覚えられてた恨みはおっきいぞ、避ける気無しの捨て身アタックをくらえーっ!」
本気で恨んでるわけじゃないけどね? むしろめっちゃ楽しいけどね?
そーれぺたぺたぺたぺた、ついでにくすぐっちゃえー!
「うわ、ひゃ、やめ、やめやめ、あひゃひゃひゃ!」
そこにエルナがピンクの塗料をぶちまけ、ニーラが追撃で黄緑の塗料をどばー!
「それ~っ!」
ピンクと黄緑で春っぽい色になったところで、エフィルミアが路面にオレンジの塗料をぶちまける。
「うりゃー!」
渾身のタックルは近くにいたレオも巻き込んで、団子になった三人はオレンジ色の塗料の海にダイブ!
飛び跳ねた塗料は――
べちゃ!
サイラスが食べようとしていた蜂蜜ケーキの上に着弾!
「……ほう……?」
ゆらり、立ち上がったサイラスは念動力を発揮、原因と思われる集団に塗料缶を片っ端からぶつけにいく。
勿論狙いは顔面である。
だが桜の花びらが散る程度の速度ゆえ、避けるのは難しくない。
ならばと、サイラスは最終手段に打って出た。
盾に塗料を塗りたくって、ドラゴンチャリオッツどっかーん!
その頃、ニールはお祭り騒ぎを見下ろす場所で静かに見学に徹していた。
ここなら巻き込まれる心配もない、筈、ですよね?
「さすがに前回のように頭から塗料かぶるなんてことは……え?」
ドラゴンチャリオッツで吹っ飛ばされたタビが、ニールの頭上に降って来た!
ずどーん!
「ごめん、大丈夫?」
「あ、うん……一応?」
塗料は被らなかったけれど、塗料まみれの猫を被りました、まる。
「うふふ、あははは、お腹いたーい!」
カラフルに染め上げられた皆を見て、リサは楽しそうに笑い転げる。
そういう自身も、顔は三色に塗り分けられ、髪はまだらに染まり、服はもう何色だかわからない。
他の皆も大体似た様なものだった。
「うわっこれ大丈夫? ホントに洗ったら落ちるかなぁ」
あまりの色付き具合に心配になったニーラにレオが答える。
「大丈夫だ、経験者が言うんだから間違いない。な、タビ?」
「お湯がすごい色になるけどね」
今日はお風呂も街で用意してある筈だ。
着替えも、なければ多分街の誰かが貸してくれる。
「みんなでわいわい盛り上がる! 楽しいですね! 友達もいればなおさらです!」
そう言って自分を見たエルナに、タビは思わず「えっ?」と聞き返してしまうけれど。
「……? タビさんと私は、もうずっと前からお友達ですよ?」
「そう、だったんだ?」
もういっそこの場で塗料まみれになっている全員が友達で良いのでは、という気もするけれど、変な所で遠慮がちな白猫少年……いや、全然白くないね。
そこにカラフルな服を纏ったアンネエルカがやってきた。
「タビさん、こんな素敵な機会をくれてありがとう、それからお願いさせてくださいな」
「なに? 僕に出来る事なら……」
言われて、アンネエルカは胸のあたりを指さした。
「服のこのあたり、肉球をスタンプしていただけないかしら?」
それは良いけど、場所がちょっとアレだから裾のあたりに押しておくね!
騒ぎが収まった頃合いを見計らって、ギドがひょっこり顔を出す。
「色々と大変な一年だったが、こうして楽しく過ごせてるなら案外悪いもんでもなかったと思うんだ」
この吟遊詩人、なんか良い話っぽく纏めようとしてるぞ!
「タビとも友達になれたしな!」
「そうだね! じゃあトモダチのシルシ!」
肉球ぺったん!
「うわ! 俺の一張羅!」
大丈夫、洗えば落ちるよ!
●エピローグ
外の喧騒とは切り離された一件の酒場で、ナハティガルはひとり食事をとっていた。
「面白いもの、か」
昼間サマエラが言っていたその店は、冒険を買う店だった。
主人が道楽で物語を書いているとかで、客から面白い冒険談や不思議な体験談など、ネタになりそうなものを買い取っているのだ。
自分の冒険談を売る事も、その代わりに主人が集めた誰かの冒険談を聞く事も出来るらしい。
いつか誰かに話したい気分になったら、訪れてみるのも良いかもしれない。
彼が代価として求めるのは金か、それとも誰かのお話か――
やがて白に塗り潰される街は、今だけはカラフルに、賑やかに、ゆっくりと時を刻んでゆく。
メリーユールフェス。
白い町並みに青い空と海、そしてカラフルなラクガキ達。
「うむ、確かに風光明媚ではあるが、まだまだ白い部分が多く残されているな」
街全体を見渡す丘の上に立ったハッタ・ムラムラの心に使命感が沸き起こる。
この光景に足りないもの、それは黒。
やはり白と黒の調和が取れてこそ、平穏も訪れるというものだ。
「ここはおれが一肌脱ぎ、祭をより完璧なものにしようじゃないか」
というわけで。
ハッタは黒い塗料缶を手に白い壁に向かう。
絵パンダを描き続けた地道な努力の積み重ねによって獲得した独特のタッチで、壁面に動物曼荼羅が生み出されてゆく。
中央に鎮座するのは勿論ジャイアントパンダ神だ。その周りをシマウマ、マレーバク、シャチ、ペンギン、ダルメシアン……その他ハッタが知り得る限りの白黒アニマル神たちが取り囲む、非常にありがたい図像である。
増益と息災を祈りつつ、ハッタは動物神ひとつひとつを丁寧に描写してゆく。
その姿は壁を飛び出して路面にまで広がり、隣の落書きと渾然一体となるが、全体としてバランスが取れていれば良し、だ。
「……ふう」
一心不乱に描き続けたハッタは、全てを描き終えると漸く筆を止めた。
少し下がって全体を眺め、満足げな吐息を漏らす。
「ここまでの大作はめったに描かないが、聖霊節であれば話は別だ」
ひとつの事を成し遂げた満足感がハッタを包む。
たとえ数日後には消されるものだとしても――いや、だからこそ、この刹那に全てを注ぎ込む価値があるのだ。
それに、目には見えなくなっても消えてなくなるわけではない。
ここに描かれたものは取り壊されない限り残り続けるのだ。
込められた祈りと共に、永遠に。
「わー! 青くて白くてカラフル~。ボクも壁にラクガキしたいなぁ」
「わあっ! とってもカラフルな街だね! アタシ達も描き足して良いの?」
「ん?」
「あれ?」
エルゼリオ・レイノーラとベアトリーチェ・カロッサは、互いの声を聞いて思わず顔を見合わせた。
「「キミも?」」
同時に言って、同時に笑い出す。
「この景色を見てると、やっぱり何か描きたくなるよね」
エルゼリオはそう言って、ベアトリーチェを誘った。
「良かったら一緒に描かない?」
「アタシあんまり上手くないと思うんですけど……それでもいいですか?」
「そんなの関係ないと思うな。楽しく描ければ見る人もきっと楽しくなるよ。ラクガキだし、何よりお祭りなんだから楽しいのが一番だと思わない?」
そう言われて、ベアトリーチェは頷いた。
「それじゃ、よろしくお願いします!」
互いに自己紹介をしたら、まずは道具の調達だ。
エルゼリオは祭りの準備を殆ど終えた街の様子を伺う。
「塗料は何処かで買うのかな?」
一心不乱に曼荼羅を描くハッタ師匠が目に入ったが、邪魔をしてはいけないと、通りすがりの地元民らしき白猫の人に思い切って声をかけてみる。
「あの。ラクガキ用の塗料は何処に行けば手に入りますか?」
「あ、それなら……」
案内された場所で無事に道具を確保して、準備完了。
「ありがとうございます、助かりました。あの、ここの人……ですよね?」
「僕? 違う違う、僕もリブラネスタから来たんだ」
「えっ、じゃあお仲間? 随分慣れた感じだから、地元の人かと思ったよ」
「お祭りの準備には最初から参加してるから、通い慣れてはいる、かな」
「そうなんだ、じゃあ街のどこかにキミが描いた絵もあるの?」
そう言ってから、エルゼリオは大事な忘れ物に気が付いた。
「自己紹介、まだだったね。ボクはエルゼリオ」
「アタシはベアトリーチェ、長かったらベアトで良いよ!」
「君の名前は何て言うの?」
「僕は旅猫。タビって呼んでくれると嬉しいな」
「タビさん、だね。そうだ、迷惑でなければ一緒にラクガキして貰えないかな?」
一人より二人、二人より三人の方がきっと楽しい!
そんなわけで、三人は残っていた白い壁に並んで向き合った。
エルゼリオは色彩センスには自信がある。デッサン力が今ひとつなのが残念だが、気にせず堂々と、楽しげに線を引く。
ベアトリーチェは故郷の森で見慣れたものを独特のタッチで描いていった。
「なんだ、上手じゃない!」
「そうかな? あんまり人に見せたことなかったけど、キミがそう言ってくれるなら、アタシ上手いのかも?」
ところでタビはどうかと見れば、肉球スタンプをひたすら押し続けている。
遅まきながら、タビは気付いてしまったのだ。画伯は褒め言葉ではないという事実に。
だがエルゼリオはそれを笑い飛ばした。
「タビさんは描いてて楽しかった?」
「うん」
「だったら遠慮せずに描こうよ!」
「そうそう、ラクガキは楽しいのが一番だよね!」
エルゼリオの受け売りだけど、とベアトリーチェが笑う。
「じゃ、遠慮なく! どうなっても知らないからね!」
背を押されて描き出されたそれは常人には理解不能な何かではあったが、二人が筆を添えることで新しい芸術に昇華……いや、うん、より一層わけのわからないシロモノになったけれど、楽しければそれで良し。
ベアトリーチェが貰って来たお菓子やお茶で休憩しながら、壁一面に異世界が開かれた頃にはもう夕暮れも迫っていた。
「今日は本当にありがとう! お礼に夕飯を奢るよ、タビさんのオススメの店はある?」
それと、もうひとつ。
「これを機に友達になって貰えるかな?」
●オリエンテーリング!
受付の机に、番号付きの十個のマス目が書かれた紙が置かれていた。
受付前のスタートラインからは、赤、青、緑、紫、黄緑、黄色、水色、茶色、ピンク、オレンジの十色の矢印が伸びている。
赤の矢印は絶景ポイント、黄色は食堂、緑は宿屋など、各色ごとに決められたゴールには、それぞれに決まった番号のスタンプが置かれている、ということだった。
「このスタンプが全部埋まれば豪華景品が!?」
エルナ・クルプファルツは瞳の中に星をキラめかせ、たまたま近くにいたタビをがっつり捕獲する。
「楽しそうですね! 参加しましょう! タビさんも一緒にいかがですか?」
なお拒否権は多分あるが、発動する隙がない。
タビはその勢いに圧倒されながらカクカクと首の上下運動をする他はなかったが、お誘い自体は嬉しかったので問題はない。
(ふっふっふ、矢印を描いたタビさんがいれば正解は分かったも当然です!)
タビが一枚噛んでいると何故か思い込んだエルナは、思い込んだらまっしぐら。
「さあ行きましょう! 大森林での苦難の冒険の末(メシマズ料理で)生死の境を彷徨った事もある私に、越えられない壁はありません!」
エルナは何の疑いも躊躇いも戸惑いもなく、確信を持って突き進む。
「海が綺麗ですね!」
絶景ポイントその1、スタンプGETだぜー!
次は青い矢印を進むと、途中で分かれ道があった。
「タビさん、どっちだと思います?」
「うーん……あっち?」
タビが指さした方にずんずん進むと、そこには。
「あれ? 僕このへん見覚えがあるような……」
それもその筈、そこには壁一面にタビ画伯渾身の作品が!
「がふっ」
それを直視したエルナは精神に致命的なダメージを受けた!
このオリエンテーリング、なかなかにハードモードである様だ。
エフィルミアは食べ歩き出来るように加工された骨付き肉とぶどうジュースを持って、いざオリエンテーリングに挑戦!
「探波を使えばすぐですって?」
これだからオリエンテーリングの素人は!
「もーそれじゃあつまらないでしょ! 自分の足でこの先に何があるのかなってわくわくしながら進むのが冒険ってやつです!」
確かに先が見えない不安はあるかもしれない。
けれどそれを乗り越えた先にある感動は、予定調和では到底味わえない素晴らしさ……って、誰かが言ってた。
「心配しなくとも私の実力ならあっという間に……え?」
目の前に壁がある。
「……壁を歩いてショートカットはずるじゃないですよね!」
シーフの本領発揮とばかりに壁を超えると、近くの屋根に飛び移る。
「よーし、私なら通れるのでここははずれじゃないです! 当たり!」
そこの壁に大きな花を描いて、隠れ当たりポイントっぽくしておきましょう。
「特別って感じでいいでしょ?」
そう、当たりが出ないと嘆くなら、自分で作ってしまえば良いのです(いいえ
ついでに高い所から見渡して、別の矢印を発見!
「次はあれを辿ってみましょう!」
その後、街のあちこちに隠れ当たりポイントが出現したとか――
「街の隅々までまわってみようかしら」
シャロン・ラ・モリエールはこの街をカラフルに染め上げた参加者のひとりだ。
あの時はスタンプ技法の伝導の旅に出たりもしたけれど、仕上がった後の作品をじっくり見る時間はなかった。
「どんな絵があるのか楽しみね」
街に溢れるラクガキを見て回りながら、目に付いた矢印を辿る事でオリエンテーリングも一緒に楽しんでみる。
「……あら? ここは何もないわね……」
どうやらハズレを引いたらしいと、シャロンは周囲を見渡す。
足下に目をやると、路上には掠れた自分の足跡が残されていた。
「矢印の塗料が乾いてなかったのかしら?」
なるほど、ニセ矢印を見分けるポイントはここか。
「もう引っかかりませんよ」
イタズラな誰かにそう言って、シャロンは再び歩き始める。
やがて矢印は彼女を海を見下ろす崖の上に導いてくれた。
「海、きれーい。潮風は新鮮な感じね」
ウィンプルを外して髪を風に晒してみる。
「海……お魚……美味しいお魚、お腹いっぱい、うふふ」
ああ、海が大きな生簀に見える。
踊る小熊亭で新鮮な海魚を初めて食べた時の衝撃が思い出され、奥歯にじわりと唾が湧いた。
花より団子、芸術よりごはん。
「ランチもディナーも、明日の朝ごはんもお魚がいいわね」
肉より魚が好きな猫さんは、聖霊節のご馳走を求めて街へと下りて行くのだった。
「街中の探索、凄く楽しそう……みんなの落書きや知らない場所も見れそうだし」
というわけで、ララベル・サン・ディーベルは矢印とヒントを頼りに街中へGO!
「僕達が描いた時より矢印がずいぶん増えてるね。えーと、これは……こうかな?」
ヒントに書かれた謎を解きながら、時には街の人にお遣いや伝言を頼まれたり、クリアのお礼に新しいヒントを貰ったり。
「この矢印、お土産屋さんに通じてたんだ」
丁度良いと、ララベルは店に入って行く。
「これとこれ……あっ、これも良いな!」
大切な人達に小さな置物やアクセサリ、日持ちのするお菓子などを選び、恋人には特別に少し奮発してみたり。
「ふしぎ亭のみんな、喜んでくれるかな」
皆の笑顔を思い浮かべて、ララベルもにこっと笑う。
店を出たらすぐ前にあった矢印を辿って――
「あれ、この道来たことあるような……」
矢印が示す半開きの扉に手をかけようとして、空気を掴む。
「あれっ!?」
ドアノブに触れない、と思ったところで思い出した。
「あっ矢印書いて貰ったんだっけ」
自分が描いた偽扉に引っかかるなんて、何たるドジっ子。
「今の誰も見てなかったよね?」
恥ずかしそうにきょろきょろして、ほっと胸を撫で下ろすと、そこに書かれたヒントが見えた。
「このヒントの14に行けって、凄く嫌な予感するんだけど……(汗汗」
ティトはお菓子を食べながら、地図とにらめっこしていた。
オリエンテーリングに参加してみたのは良いけれど、人は多いし街は広いし勝手はわからないし。
小さな集落で育った彼女にとって、それは乳離れしたばかりの子狼が仲間とはぐれ、一匹で草原に放り出されたも同然――と言うのは大袈裟かもしれないけれど。
そこでティトは一計を案じた。
たまたま目にしたララベルの後を、こっそりひょこひょこ付いて行くことにしたのだ。
(こうしてれば、くまなく回れるかな……?)
前の人が立ち止まれば、ティトも止まる。
歩き出せば一緒に歩き出し――
「ヒント14って、ここかな?」
ララベルはヒントを探して辺りを見回す。
「ここって僕が落っこちそうになってる塗料缶を描いたとこ……」
「あっ、危ない!」
その声に振り返ったララベルは、にこっと笑って首を振った。
「大丈夫、あれは僕が描いた……えっ!?」
絵に描いた塗料缶が、いつの間にか本物にすり替えられている!
間一髪、ララベルは落下する缶の真下から飛び退いた。
「嫌な予感すると思ったら……ありがとう、助かったよ。良かったら一緒に回らない?」
「えっ、いい……の?」
こっそり尾行は平気でも、一緒に行こうと言われると途端に尻込みするのがコミュ障である。
けれどララベルの人懐こそうな笑みは、そのハードルを一気に押し下げた。
「じゃあ、よろしく――」
その時。
べちゃっ!!
ティトの後頭部で何かが弾けた!
「……トマト……?」
それはセロンガード・シュタインドルフのイタズラだった。
矢印を書き足したり細工をしたり、壁を作って通路を塞いだり、セロンガードはこの日の為に水面下で着々と計画を進めていたのだ。
かつて諜報機関に所属していた彼にとって、地道な作業はお手の物。
だが、ただの冒険者である今の彼にとっては、それは余りに味気なく思えるのだった。
水面下であるが故に誰にも気付いて貰えない。
イタズラが成功してもリアクションは微妙だ。
何かもう少し派手に存在をアピールしてみたい――そこで思い付いたのが、これだ。
「はーっはっは! 油断したな! まさか天からトマトが降って来るとは思うまい!」
「……セロンさん……」
屋根の上で仁王立ちするセロンガードを見上げるティトの瞳に緑色の炎が揺らいだ。
「まだ、塗料の掛け合いする時間じゃないよ……ね?」
「そう、だからトマトだ! 何故トマトか、それは訊くな!」
生卵だと険悪な空気になりそうだし、悪くない選択だとは思う……多分。
「ティトさんも手が空いているなら一緒に投げてみないか!」
だがティトはそれに答えず、不敵な笑みを浮かべた。
ぷちっと何かがキレる音が聞こえた気がする。
ティトは足下に落ちたトマトを拾い上げ、セロンガード目掛けて思いっきり投げ返した。
そして始まるティトvsセロンガードのトマト投げ合戦、だが多くの弾薬を抱え、かつ高所に陣を敷いたセロンガードが圧倒的に有利だ!
しかし、それを見ていたノリの良い住民達がトマトを持ち寄りティトに加勢する!
白い街の一角が真っ赤に染まった。
なお、この突発イベントは住民に好評だったそうで、次の年には正式なイベントとして採用される事になったとか――
「自分の落書きした場所以外の道は忘れました!」
きっぱりと言い放ち、コルネリウス・アーラは胸を張った。
なので、今回はイズレンディル・パラリムの方針に全面的に乗っかる所存。
「イズさん、頼りにしていますね」
「ええ、全力で楽しみましょう」
初めて訪れる街にイズレンディルは興味津々。探検のわくわくも手伝ってか、足取りはいつになく軽い。
「コルネさんの絵はどこにあるのでしょう?」
「それは……どこでしょう、近くまで行けば思い出すはず、なのですが」
オリエンテーリングで街を巡っているうちに、そのうち行き当たるだろう。
まずは矢印に導かれ、ヒントには素直に従いながら、二人は道を進んで行く。
行く手に見えて来たのは、急な上り階段――と思ったら、道に描かれた騙し絵だった。
上げた足が空振りに終わり、二人は思わずバランスを崩して倒れそうになる。
「わっ、引っかかってしまいましたね!」
「本当、すっかり階段があるものと思い込んで……」
互いに身体を支え合い、声を上げて笑った。
「こんなイタズラなら、引っかかるのも楽しいですね」
イズレンディルは目を輝かせて楽しそうにはしゃいでいる。
「この先には何があるのでしょう?」
矢印は更に奥まで続いていた。
分かれ道では行先をじゃんけんで決め、着いた先には「ハズレ」の文字。
「あら残念です、戻ってやり直ししましょう」
ふふっと笑い、コルネリウスはイズレンディルの手を引いて来た道を引き返して行く。
そうしてゆっくりと街を巡り、スタンプを半分ほど集めた頃。
「あ、確かこの辺……私が絵を描いた壁があるはずです」
見覚えのある街角でコルネリウスが言った。
「確かここを曲がって……あ、ここです」
壁の前に立ったコルネリウスは懐かしそうに目を細めて笑う。
「子供の頃、お兄ちゃん達と落書きしたのを想い出して」
「これはタビさんの肉球ですか?」
「ええ、素敵な花になったでしょう?」
幼い頃のわくわくと、憧れを込めて描いた絵は、改めて見返してもやはり懐かしい空気に満ちていた。
「可愛らしいお花に溢れていて素敵ですね」
その奔放な描かれ方に、コルネリウスが楽しそうに絵を描いた様子が見える気がして、イズレンディルは自然と顔が綻ぶ。
「私はきっと……こういうのに子供の頃から憧れていたんです」
今は花鳥園で本物の花に囲まれている。
それを、イズレンディルは自分の事のように嬉しく思った。
「花は人を笑顔にするから、色んな人の笑顔が見たいと……そんな想いも籠められているんですよ」
「コルネさんならきっと、その想いも叶えられます」
二人は暫くその絵を見つめ、やがてどちらからともなく歩き出す。
街を探検し、他の人達が描いた様々な絵を見ながら、残りのスタンプを探す為に。
「楽しもうね、リスさん」
ロサード・シュナイダーはオリエンテーリングのスタンプシートを手に、相棒の栗鼠に語りかける。
なお「リスさん」とは一般名詞ではなく、れっきとした栗鼠の名前である。
ロサードは栗鼠を肩に乗せ、その視覚と聴覚も借りながら矢印を辿って行く……が、悪戯を避ける気はなかった。
「それはそれで面白そう」
寧ろ正規のルートよりも変な矢印の方に積極的に引っかかりたい気分。
行き止まりや猫が通りそうな道なき道、頭上から塗料が降って来たり、落とし穴だと思ったら道に描かれた絵だったり、絵だと思ったら本物だったり――
その全てに律儀に引っかかり、正規ルートでスタンプを集め、壁に描かれた絵を眺めては時に精神を抉られ、歩いていない道はないという域に達するまで歩き回って、隅々まで探索を楽しむ。
なおスタンプコンプリートの景品は、街の宿屋で使える宿泊券だった。
(これは……街全体がひとつのアトラクションの、ようだな)
サマエラ=フォリウムは雑踏の中に佇み、街の様子を眺め渡していた。
家の壁という壁には絵が描かれ、その前には見たこともない料理が並んだテーブルが置かれている。
祭の最中ということだが、彼女の記憶にあるそれとは少々趣が異なる様だ。
(色に溢れ、目にも騒がしく、されど不快ではなく、明るく楽し気で……ふむ)
興味が湧いた。
歩き回ってみようと、まずはオリエンテーリングの受付でスタンプシートを受け取った。
「地図ではないのか……なるほど、矢印やヒントに従えば、良いのだな」
簡単な説明を受けて、歩き出す。
最初はきちんと矢印に従いつつ、時折直感のままに進む事もあり――
(ん、メインの道からは、やや外れたか)
この辺りにはよそゆきではない、普段の飾らない生活の匂いがある。
(観光客向けでなく、地元向けの店が、多いな)
店先の品物も雑多に散らかった感じで、見たところ値札も出てない。
(生活に密着し過ぎて、表になかなか出ない名物なども、こういう場所にはたまにあるが……何かないか、探してみるのも一興、か)
普段遣いの布地や食器、一見しただけでは用途がわからないものや、説明を聞いてもよくわからないもの。
見たことも聞いたこともない、食べ物とも思えない何かが意外に美味だったり。
裏通りの店は冷やかすだけでも面白い。
(この店は、何だ……)
路地裏で見付けたそれは――
ナハティガル=ラーは街を見下ろす丘の上で穏やかな風に吹かれていた。
「青い空に白い雲。明るい陽光とカラフルな建物――俺は場違いな事この上ないな……」
寒さのせいか古傷が疼く為、どこか温暖な場所で療養を……と考えて、行き着いたのがこの土地だった。
静かな所だと聞いていたのだが、今日は何やらとても賑やかだ。
「今は祭りの最中なのか? ……ああ、そうか。世間では聖霊節だったな」
それを完全に失念していた程度には、浮世離れしている孤高の銀鬼。
とは言え、その騒がしさは不快なものではない。
まずは宿を探そうと街に降りてみる。
「――ん? 探索のミッションがあるだと?」
胸の奥で好奇心が目を覚ました。
「ふむ。腕試しに参加してみるのも悪くは無さそうだ」
探索こそシーフの真骨頂と、エーテルの波動を周囲に走らせ、研ぎ澄ました五感を総動員して、隠されたヒントを探し出す。
しかしこのシーフ、何事も深く考えすぎる傾向がある様だ。
「このヒントには何か重大な秘密が隠されている筈……」
深読みが謎を生み、謎が疑心を生み出して、全てが偽りに見えて来る。
「この壁に描かれた絵は何かの暗喩か……」
浮かれ騒ぐ街でただひとり、シリアスかつ大真面目に探索を続けるワンマンアーミーだった。
「――探索完了。これが街の全て……なのか?」
ナハティガルは受付に戻って宿泊券を受け取った。
矢印という矢印は全て辿り、ヒントも全て集めた。
だが、まだ何か足りない気がする――と、誰かの声が耳に入った。
「先ほど面白いものがあった、良ければ行ってみるといい」
探索を終えたサマエラが、周囲の者に声をかけていた。
「面白いものって何?」
タビの問いに、サマエラは僅かに口角を上げる。
「それは、己の目で確かめるが良い」
覗いてみての、お楽しみだ。
●見て、食べて、飲んで、踊って!
先日、ニーラ・メッコは壁に自画像を描いた。
その街で聖霊節のパーティーが開催される! しかも豪華な料理が食べ放題!
「これは参加するしかないよね!」
自分が描いた壁の自画像を観賞しながら料理を楽しむ、これはなかなか得難い経験だ。
しかも年末までの期間限定となれば、何を置いても行かねばならぬ。
というわけで。
「こうしてみると……なんだか描き足したくなっちゃうけど、そこはぐっと我慢だね!」
具体的には50%増量では足りなかった気がする胸の辺りを。
けれど、そんな事ではきっと永遠に終わらない。
潔く見切りを付けて、ニーラはご馳走へと興味を移した。
ぶどうジュースを飲みながら、まず最初に骨付きのスモークチキンを頬張る。
お腹にハーブを詰めた丸焼きに、柔らかく煮込んだトマトベースのシチュー、唐揚げに照り焼き、ソテーなどなど、チキン三昧。
「おいしいね! おいしいね!」
ニーラは本当に美味しそうに、どんどんもりもり食べる。
「これなら毎日が聖霊節でもいいな!」
50%増量は現実になりそうだ……主にお腹周りが。
「キミを丸洗いするのは大変だから、今日は塗料には触っちゃダメだよ?」
街の入口で立ち止まったニール・ロブラリアは、相棒の狼にそう言い聞かせた。
きちんとお座りした狼は賢そうな瞳を輝かせ、ふさふさの尻尾をひとつ大きく振った。
「……うん、ちゃんと通じた……よね」
微妙な不安に駆られながらも、ニールは狼を連れて歩き出す。
(あちこちに描かれたラクガキを改めて鑑賞したいな)
前にも見て歩いたけれど、色々な飾りも加わって印象が変わっているかもしれない。
街そのものも、前に来た時よりも一層賑やかで楽しげに感じられた。
「……すごいな」
愛らしいイラストや、綺麗な絵、足の向くまま順番に眺めては、感想を呟いたり周りの人達の反応に耳を傾けたり。
「え、なにウォクス? そっち行きたいの? でもそっちは……」
自分が描いた、絵とも呼べないものがある。
元からそう自己評価の高い絵ではなかったけれど、最後に塗料をぶちまけてしまったから余計に――
「あれ?」
狼の足跡に、盛大に跳ねた塗料。
意外にも、それが後から付け足された飾りと良い感じに調和している。
「怪我の功名っていうのかな、これ」
何故か得意げな狼の頭を撫で、ニールは次の絵に足を伸ばした。
「前衛絵画と、これは……何を表現したもの、かな? 名状しがたい……」
ぞくり。
急に冷えてきた身体をホットワインで温めて、狼には持って来たおやつを。
「ところでここは、どこだろう」
足下の矢印を辿れば、知っている場所に出るかな?
「たしかに、落書きばかりですわ」
「まぁ、わたくしとしては、今回、ゆっくりと見させていただく所望でございますね」
ベイロード騎士団の二人、レナ・フォルトゥスとダルタニアは、騎士団仲間のひとりがここに絵を描いたと聞いて、見物に来た様だ。
しかし、それは容易には見付からず――
「なーんか、どっかで見た気がするのもありますし……」
ユールフェスを題材にしているなら、表現が似通って来るのも已む無し、だろうか。
「なんていうか、これは見ものというか、猫の絵が多い気がしますけど」
「尻尾にピンクのリボンを付けたあれも猫のようですけど、彼女はネズミだったはずですし」
いや、これは参加者全員を擬猫化している?
「では、これが彼女でしょうか……でも本人が描いたものは見当たりませんわね」
やがて二人は深淵を覗き込む。
「しかし……なんじゃ、これ??」
タビ画伯の力作です。わりと色んな所に出没します。
「見ていられないのもありますね」
「うん、SAN値減ってるわね……消去したいのもやまやまですけど、消せば、何されるか分かったものじゃないわね」
「というか、ユールフェスって、こんなイベントでしたかな??」
ダルタニアはレナに同意を求めてみる。
「レナさんも、そう思いますよね」
だが返事はない、気付かないうちにレナの魂は深淵に囚われてしまった様だ。
それに釣られる様に、ダルタニアの精神もゴリゴリ削られ――
「ガラハルガラハルガラハルグロガログルウェイ……あ、失礼。落ち着きました」
ダルタニアが妙な呪文を唱えると、レナの精神も同時に復活を果たす。
「……はっ、あたしは何を……」
「いえ、良いのですよ」
復活したレナは深淵にちらりと視線を投げると「時折、意味わからないのもありますわね」と言っただけで歩き出す。
どうやら例の呪文は精神バリアの効果もある、らしい?
「さて、食事でもたしなみましょう。幸い、近くにおいしいお肉を扱う所がありますし」
「わぁ、ステーキ、いいわね」
どーんと置かれた肉の山、肉料理には赤ワインが似合う。
すり減った精神力も、お肉のパワーで回復……するだろうか。
「2人で食べるにはもったいなさそうですわね」
「ええ、騎士団全員で来てみたかった気もしますな」
精神力がすり減るものは見ないようにすれば、きっと大丈夫。
食べ終わったらオリエンテーリングにでも参加してみようか。
「わあ……開いたお口が閉じなくなってしまうくらい素敵だわ!」
街の姿をひと目見るや、アンネエルカは感嘆の声を上げた。
手伝いを終えた後も一通り見て回ってはいたけれど、飾りが増えた街はその時よりも一層楽しそうな雰囲気に満ちている。
「カラフルで、賑やかで。皆の弾む心が伝わってくるみたい!」
早く全部を見て回りたくてつい小走りになってしまうけれど、それでも足が気持ちに追い付かない。
それに、一番最初に見たいのは――
「あっ、お姉ちゃん!」
彼女が担当した家の、二階の窓から小さな女の子が顔を出す。
手を振って見上げた家の壁は、ランタンやオーナメントが増えてより一層キラキラと輝いていた。
「お手伝い出来たこと、これをこうして見て周れることが本当に嬉しいわ」
お茶に呼ばれ、アンネエルカはリースのかかったドアを開けた。
(壁に落書きさせて頂いた街でのお祭り本番ですか)
その知らせを受けて、スィーリーンは一も二もなく飛んで来た。
他の人達が描いた絵もじっくり見てみたいし、自分が描いた花畑の絵も改めて見返してみたい。
スィーリーンはいくつか他の作品を見て回った後、自分が担当した家に向かった。
けれどその絵は、自分の記憶とほんの少し違っている様な……?
「おお、あんたか!」
家の持ち主が声をかけてくる。
「実はうちのチビがあの野菜スタンプ気に入っちまってな、あっちこっちペタペタと……すまんな、折角綺麗に描いてくれたのに」
違和感の正体は、新しく押されたそのスタンプだった様だ。
「ともあれ、楽しい絵とアイデアをありがとうな!」
「こちらこそ、楽しく描かせて頂きました。良い機会をありがとうございます、それにお子さんとの合作も素敵ですよね」
家の持ち主に軽く手を振って、スィーリーンは再び歩き出す。
どうやら気に入って貰えた様だと安心したら、急にお腹が空いてきた。
「ビュッフェスタイル、楽しそうです」
テーブルには蜂蜜たっぷりのお菓子をメインに、シチューやパイ、チキンの丸焼き、その他見た事もない料理の数々が並んでいる。
「美味しそうな物が色々あって目移りしてしまいますね」
けれど一番に手が伸びるのは、やっぱり果物を使ったお菓子だった。
そこに蜂蜜がかかっていれば尚嬉しい。
「蜂蜜美味しいですものね」
と、同じ様にお菓子ばかりをつまんでいるタビの姿が目に入った。
「タビ様も楽しんでらっしゃいますか?」
口いっぱいにお菓子を詰め込んだタビはこくこくと頷く。
「私達の描いた絵が喜んで頂けてるなら嬉しいですよね」
こくこく。
タビの場合、喜ばれる方向が少し違う気もするけれど。
「タビ~久しぶりだな、メリーユールフェス!」
大きく手を振るギド・フェルミの声に、もぐもぐしながら振り向いたタビは控えめに手を振り返した。
「メリーユールフェス、ギド」
口の中のものを飲み込んで、漸く返事を返す。
「楽しんでるみたいだな。それ美味いか?」
ギドはタビのふわふわ頭をぽんぽん叩いてにっこり笑うと、同じお菓子を手にとった。
「面白い街があるって聞いて立ち寄ってみたんだけど、タビも参加してたんだな! 絵をかくの……に……?」
あ、れ?
「どうしたの?」
「なんだ……? 絵のことを考えようとするとうっ……頭が……」
「大丈夫? 食べ過ぎた?」
「ああ、そうかも……って、痛いのは腹じゃねえー!」
「だよね! あはは!」
あははじゃないだろとツッコみながら、ギドはタビの様子に目を細めた。
だいぶ砕けた感じになって来たのはトモダチ認定の成果だろうか。
「ほら、タビの描いた絵はどれか教えてくれよ!」
そして自らトラウマに突っ込んで行く吟遊詩人。
「へーこれ……これ? ……ひぎゃあー!!」
もう二度とオムライスは食べられないかもしれない、食べるけど。
ギドが撃沈したところに、リサ・ベイカーが走って来た。
「あっ、いたいた! メリーユールフェス! はい、お友達のタビさんにプレゼント!」
ユールフェス限定で売ってたクッキーの詰合せ、どうぞ!
「わあ、ありがとう! ……え、友達?」
「そうですよ、あのメシマズも一緒に乗り越えた仲じゃないですか!」
「そっか、そうだね!」
チョロいぞ、タビ。
「ところでこの方はどうなさったのでしょう?」
メシマズの時も倒れていた気がすると、リサは足下のギドを見る。
「うん、ちょっと不幸な事故があって……音楽が聞こえれば復活するんじゃないかな」
その言葉通り、楽師達が演奏を始めるとギドは何事もなかった様に立ち上がった。
「さて、気を取り直して……楽しそうな曲が聞こえてきたな。俺も伴奏と歌で参加してみようか」
「え、歌……?」
タビの絵を想像した時の自分にそっくりな顔をしたタビに、ギドが笑いかける。
「タビもダンスが好きなんだろ? 一緒に楽しもうぜ! 歌もダンスも上手い下手はこういう時割とどうでもいいもんさ」
「そうだね、絵も楽しんで描ければ良いって言われたし」
「うっ」
ギドは思わず言葉に詰まったが、まあ基本的には間違っていない。
「そうそうタビさん、お時間あれば一緒に踊りませんか?」
リサの誘いに、タビは返事の代わりににくきうぷにぷにの手を差し出した。
「行こう!」
アルマン・アルスターには演奏の心得がある。
だが肝心の楽器を持っていなかった。
「まあでも、楽師さんなら予備の楽器くらい……え、ないの?」
あっても貸さない? うん、それはそうだよね、大事な商売道具なんだし。
「なければないで良いさ、音の出る物なんていくらでもあるからな」
水を入れたグラスを叩くだけでも音階が作れるし、道具がなくても口笛があるし、声で楽器の音を真似る事も出来る。
数ある「音の出るモノ」の中から、今回選ばれたのは――
「たかが手拍子でも、うまくやれば立派な演奏の一部になるんだぜ」
身体全部を使えばボディパーカッションだ。
そこにギドが飛び入り参加、リュートの音色に合わせてアルマンの手拍子が軽快なリズムを刻む。
リサは片足を引いてクロスさせ、軽く膝を曲げて優雅にご挨拶。
タビもそれを真似ようとするが、リサが「男の子はこうですよ」と右足を引いて左手を差し出す形を教えてくれた。
それは上流階級の作法だが、ダンスの方は作法なんて関係ない。
雰囲気に合わせて楽しく軽やかに、手に手をとって、時には手と尻尾をとって、クルクルと。
「タビさん、楽しそうに踊っていらっしゃいますね」
ネーヴェ・グラヌローザは、蜂蜜たっぷりの焼き菓子を頬張りながらその様子を見つめていた。
けれど見ているうちに身体が勝手に動き出す。
最初は指先だけで拍子を取っていたのが、足先から足全体に、果ては体全体がリズムを刻み始めた。
もうじっとしていられなくなったネーヴェは立ち上がり、音楽に乗せて軽やかに踊り始めた。
「オレも! タビ、一緒に踊ろうぜ!」
飛び入り参加したレオネベルに、リサはタビを引き渡す。
手の代わりに尻尾を絡め、リズムに合わせてステップを踏んで。正しい踊り方なんて知らないけれど楽しければオールOKだ。
突然流れ出したギドの歌に調子が狂って互いの足を踏んづけたりもしたけれど。
「あっ、ごめん!」
「気にすんなって、オレも踏んだしな!」
そんな二人の姿を、リーザヴェールはにこにこと嬉しそうに見守っていた。
(皆の笑顔を見ているだけで楽しい気持ちになるわ)
何より、可愛い子たちが目を輝かせてるのだから、それを見ている方も幸せな気持ちを抱くのは当然のことだった。
踊り疲れた二人はご馳走のテーブルにまっしぐら、目を輝かせて料理を見て回る。
「美味しそうなのいっぱいある!! すげぇな、見た事ないのもいっぱいだ!」
「これ、さっき食べたけどすごく美味しかったよ!」
「えっ、どれどれ!?」
いずれも食欲旺盛、手にした取り皿はあっという間に山盛りになった。
「ひとまず第一弾だな、リーザヴェールのとこ行って食べようぜ!」
立食用のテーブルにそれを持って行き、いただきまー……
「あら、レオネベルちゃんのお皿は茶色が多いのねぇ」
「えっ」
「タビちゃんはどうかしら? あらあら、こちらはカラフルだこと」
「うっ」
リーザヴェール先生は、偏食児童にはちょっと厳しかった。
「野菜も食べてあげないと可哀想よ?」
厳しいと言っても、雷が落ちる様な厳しさではない。
ただやんわりと、静かに降り積もる雪の様に、いつの間にかすっぽり埋もれて身動きが取れなくなる様な、地味に痛い厳しさだった。
「野菜は……うん、あまりいいかなーって……」
「僕も……」
野菜が苦手な二人は揃って耳と尻尾をへちょっと垂らす。
だってライオンもネコも肉食だし?
だがそんな屁理屈は先生には通用しなかった。
「野菜さんたちも色んな冒険をしてこうやってお皿の上にまで来てるの。ほら、少し誇らしげに見えてこない?」
くすくす笑いながら、リーザヴェールは色とりどりの温野菜や生野菜を皿に取り、そこにチキンとローストビーフを少しずつ。
「かぼちゃのスープも美味しそうね」
とびきりの笑顔でそう言われれば何かいけそうな気がして、レオは野菜も皿に乗せてみる。
「ほら、タビも野菜取れよ……それと肉も。お菓子ばっかじゃデカくなれねーぞ?」
「はぁい」
最初は余り気が進まなかったけれど、食べてみれば野菜も案外悪くなかった。
「ニンジンってこんな甘かったっけ?」
「このトマト、フルーツみたいだ」
にこにこの先生に見守られ、メインディッシュを食べ終わったらデザートの時間。
「ケーキとか他にも色々あるな。そうだ、皆でそれぞれ選んで交換とかしようぜ!」
ナッツに蜂蜜をかけた焼き菓子や、フルーツタルトに木の実のパイ、プリンやゼリーなどの冷たいもの。
野菜をちゃんと食べたご褒美に、リーザヴェール先生は二人の皿に少し多めのお裾分けをくれた。
「ここのも美味しいけど、またリーザヴェールの作ったお菓子も美味しいんだぜ!」
「えっ、これより美味しいの!?」
目を輝かせたタビに、レオはこくこくと頷いて見せる。
「機会があればタビにも食ってほしいな」
「ふふ、そうね。またタビちゃんが素敵な場所を見つけた時は何か持ってきましょうか」
タビの目標に「素敵な場所を探すこと」が加わった。
サイラスは飲み食いしていた。
ただひたすらに、飲み食いしていた。
(飲食不要になったとしても楽しめるんだから楽しむとも)
趣味のひとつが食事、そして好物は甘味とくれば、それも当然のこと。
蜂蜜と葡萄酒があるところにサイラスありという勢いで、ひとつのテーブルを食べ尽くしては次のテーブルへと渡り歩く。
(本当は自前の葡萄酒とか作ってこれれば良かったんだろうなあ)
タダで飲み食いするのもどうかとは思うが、何しろ思い立ったのが急だった。
(そんなすぐに納得いく味なんてなあ)
その代わりに鍛冶仕事でも頼まれれば引き受けようという事で、街の世話役には話をつけてある。
帰りには鎌だの鍬だの包丁だの、大量の道具を預かる事になるかもしれないが、今は好きな物を食べて飲んで、のんびりするつもりだった。
後で塗料のかけ合いなんぞという馬鹿騒ぎがあるらしいが、どうぞご自由に。
どうせ後で洗うか新しい服を仕立てればいいし、飯にかけなければな?
いいか、飯にはかけるなよ? 絶対だぞ?
「自分が描いたラクガキ見ながらご飯食べるって中々ない経験だよね」
スフィカはカラフルな野菜が上から下までびっしり描かれた家の前で、食べ放題を楽しんでいた。
「新年前に塗り替えだから見納めかぁ、しっかり目に焼き付けとこ」
ついでにロープでぶら下がってクルクル回ってたタビの姿も目に焼き付けておこうかな。
「んー……ローストターキーも美味しいけど、フライドチキンみたいなジャンクな味の方が好きね」
シャトン・アルジェントは数々のテーブルを渡り歩きながら、気に入ったご馳走をお腹に詰め込んでいく。
シャトンはオリエンテーリング開催のきっかけとなった最初の矢印を描いた、言わば創始者だ。
だが本人はそれには参加せず、今回は専ら食べる専門の人になっていた。
あの矢印がどう発展して、今どんな事になっているのか、興味がないわけでもない……が、今は好奇心より食欲だ。
「ユールフェスのお酒っていえばグリューワインかしら」
様々なスパイスをブレンドした温かなワインを飲み比べ、良い気分になったら次は別腹の出番。
「やっぱりケーキは外せないわね」
それも一杯になった頃、街が一段と騒がしくなってきた。
「そろそろフィナーレの時間かしら」
シャトンは気に入ったグリューワインを手に、身軽に塀の上に飛び乗った。
「尻尾や耳が汚れるのは遠慮したいわ」
ここから高みの見物をさせてもらおうか。
●カラフルフィナーレ!
「少し変わった街に来てみたけど、お祭りの最中みたい」
この街にたまたま立ち寄ったノノアは、興味を惹かれた様子で辺りを見渡してみる。
「詳しい事は街の人に訊いてみれば良いかしら」
ふむふむ、なるほど。
「色々と悪戯も大丈夫みたいね」
それを聞いて、生来の悪戯好きな一面が顔を出した。
久々に仕事を忘れて悪戯を楽しもうと、汚れても良いようにショートパンツと白いTシャツに着替え、腹拵えをしながらフィナーレを待つ。
どこかでカンカンと鐘が鳴る。
それが始まりの合図だった。
ノノアは右手に白、左手に赤い塗料の二刀流。
路面は既に塗料まみれ、うっかりすると滑って転びそうになるところをバランス感覚で補いながら、流れ弾に当たらないように精神を研ぎ澄まし反応速度を高めつつ、疾風足で駆け回る。
セクシー担当な女性には白い塗料を、男性には赤い塗料をぶちまける。
「コルネリウスさん発見……!」
でも友達に酷いこと出来ないから、誰か他の人に――と思ってもセクシー担当がなかなか見当たらない。
ならば自分より年上に見える人は全員セクシー担当ということで、ベアトリーチェの頭から白い塗料をぶちまけた。
「やったわね!」
しかし反撃を試みた時にはノノアの姿はもういない。
行き場を失った青い塗料はエルゼリオに向かってぶちまけられた!
「うわっ!?」
かつて村一番のおてんば娘と呼ばれたベアトリーチェは、楽しそうにはしゃぎながら次の標的を探しに行った。
一方セクシー担当に塗料をかけまくるノノアは、セクシー未満の女子は武士の情けで見逃す所存。
だがこちらに攻撃して来るなら容赦はしない。
相手の塗料をかわし、両手の塗料を同時にバシャァッ!
「まさに白と赤が合わさって色はピンクで可愛くデコレーションね!」
しかし勝利の瞬間、後ろからそっと近付いたロサードが紫色の塗料をバシャッ!
振り向いたノノアはすかさず反撃、だがそれはロサードの幻影だった。
「やるわね」
点々と続く紫を辿って、ノノアは追撃を開始した。
アルマンは戦術眼を使ったガチの塗料掛け合い合戦を楽しんでいた。
「でも女の子は狙いにくいな~」
だって可愛い顔が汚れたら可哀想じゃない? あと服も。
「いいえ、大丈夫よ!」
そう声をかけたのはアンネエルカだ。
「このためにちゃんと白いお洋服を着てきたのよ」
だから遠慮なく、寧ろ是非ともやって欲しいと両手を広げて待ち受ける。
「カラフルに染まるお洋服を思い出に持って帰りたくって。見る度に鮮やかに蘇る楽しい気持ち。それってきっと素敵だもの!」
しかしそう言われても派手にぶちまけるのは忍びないと、アルマンはほんの少しだけ塗料を垂らして逃げる様に去って行く。
「野郎? 容赦なく塗料かけるわ」
どりゃぁ!
だがその時、アルマンは恐ろしいものを見た。
そしてバッチリ目をあわせてしまった……
(あ。あそこに見える、しまりのないアホ顔)
「ロ サ ー ド 様 !」
どばしゃ!
ロサードは矢の先に塗料をたっぷり含ませた筆を括り付け、無言でアルマンの顔面を狙い撃ちしてガッツポーズ。
「ちょ、やめて! 容赦なく顔面狙い撃ちしないで!」
そんなこと言っても絶対やめてくれないって知ってるけどね!
でも言うだけは自由だから!
「ふぅ……良い運動になった」
満足気に呟き、立ち去ろうとしたロサードの背にノノアの影が迫る。
「あ」
アルマンは危機を知らせようとするが、時既に遅し。
ロサードの頭から白い塗料がぶちまけられる。
「……、…………」
べしゃっ!
ロサードは無言でアルマンの顔面を狙い撃ち、その2。
完璧に八つ当たりである。
「もう嫌だこのひと……(めそめそめそ」
ティトはトマトまみれになった身体を洗い、借りた服に着替えたばかりだった。
それなのに今、その服は黒と赤が基調の帝国カラーに塗り分けられている。
「……セロンさん……?」
ティトの瞳に揺らめく炎は先程の比ではなかった。
「キレたコミュ障はなにしでかすかわからないことを、その身に刻んであげる……よ」
慈悲はない。
両手に持てるだけの塗料缶を引っさげて、ティトはセロンガードを追いかける。
意外と燃えるタイプなのです(ふんす)。
そしてわりと執念深いのです(ふんすふんす)。
周囲の人々を片っ端から黒と赤に塗り替えていたセロンガードは、何色かわからなくなるほどの塗料の海に親指を立てながら沈んだとか……。
「フィナーレは素早さと回避を活かして逃げながらかけまくっちゃうぞ! て思ってたけど、自分もまみれちゃったほうが楽しいよね、お祭りだもん!」
スフィカは塗料缶を手に、手あたり次第にぶっかけながら最大の標的を探し回る。
「ひゃう! むむむ、やりましたねぇ……望むところです!」
巻き込まれたリサは自らも塗料缶を手に参戦!
笑いながらスフィカを追いかけるリサは、途中で会った人々に嬉々として塗料をぶちまける。
「かけあいっこなのに誰からもかけてもらえないのも寂しいよね。タビさんを探して、塗料をぶっかけてあげよう!」
「皆でカラフルになりましょう! タビちゃんも捕まえて一緒に塗料に飛び込みますよー!」
ニーラとエフィルミアも、何故かタビを探している模様。
そして次第に狭まるタビ包囲網、エルナもその波に乗っかってピンク色の塗料を辺りにぶちまけながら進む。
「皆さんをかわいいオーナメントにしてあげましょう!」
そして遂に――
「タビさんはっけーん!」
スフィカがその姿を見付けた。
「その白い毛皮、素敵なキャンバスだねぇ」
両手に赤と青の塗料を付けて、わきわきしながらにじり寄る。
「変な顔で覚えられてた恨みはおっきいぞ、避ける気無しの捨て身アタックをくらえーっ!」
本気で恨んでるわけじゃないけどね? むしろめっちゃ楽しいけどね?
そーれぺたぺたぺたぺた、ついでにくすぐっちゃえー!
「うわ、ひゃ、やめ、やめやめ、あひゃひゃひゃ!」
そこにエルナがピンクの塗料をぶちまけ、ニーラが追撃で黄緑の塗料をどばー!
「それ~っ!」
ピンクと黄緑で春っぽい色になったところで、エフィルミアが路面にオレンジの塗料をぶちまける。
「うりゃー!」
渾身のタックルは近くにいたレオも巻き込んで、団子になった三人はオレンジ色の塗料の海にダイブ!
飛び跳ねた塗料は――
べちゃ!
サイラスが食べようとしていた蜂蜜ケーキの上に着弾!
「……ほう……?」
ゆらり、立ち上がったサイラスは念動力を発揮、原因と思われる集団に塗料缶を片っ端からぶつけにいく。
勿論狙いは顔面である。
だが桜の花びらが散る程度の速度ゆえ、避けるのは難しくない。
ならばと、サイラスは最終手段に打って出た。
盾に塗料を塗りたくって、ドラゴンチャリオッツどっかーん!
その頃、ニールはお祭り騒ぎを見下ろす場所で静かに見学に徹していた。
ここなら巻き込まれる心配もない、筈、ですよね?
「さすがに前回のように頭から塗料かぶるなんてことは……え?」
ドラゴンチャリオッツで吹っ飛ばされたタビが、ニールの頭上に降って来た!
ずどーん!
「ごめん、大丈夫?」
「あ、うん……一応?」
塗料は被らなかったけれど、塗料まみれの猫を被りました、まる。
「うふふ、あははは、お腹いたーい!」
カラフルに染め上げられた皆を見て、リサは楽しそうに笑い転げる。
そういう自身も、顔は三色に塗り分けられ、髪はまだらに染まり、服はもう何色だかわからない。
他の皆も大体似た様なものだった。
「うわっこれ大丈夫? ホントに洗ったら落ちるかなぁ」
あまりの色付き具合に心配になったニーラにレオが答える。
「大丈夫だ、経験者が言うんだから間違いない。な、タビ?」
「お湯がすごい色になるけどね」
今日はお風呂も街で用意してある筈だ。
着替えも、なければ多分街の誰かが貸してくれる。
「みんなでわいわい盛り上がる! 楽しいですね! 友達もいればなおさらです!」
そう言って自分を見たエルナに、タビは思わず「えっ?」と聞き返してしまうけれど。
「……? タビさんと私は、もうずっと前からお友達ですよ?」
「そう、だったんだ?」
もういっそこの場で塗料まみれになっている全員が友達で良いのでは、という気もするけれど、変な所で遠慮がちな白猫少年……いや、全然白くないね。
そこにカラフルな服を纏ったアンネエルカがやってきた。
「タビさん、こんな素敵な機会をくれてありがとう、それからお願いさせてくださいな」
「なに? 僕に出来る事なら……」
言われて、アンネエルカは胸のあたりを指さした。
「服のこのあたり、肉球をスタンプしていただけないかしら?」
それは良いけど、場所がちょっとアレだから裾のあたりに押しておくね!
騒ぎが収まった頃合いを見計らって、ギドがひょっこり顔を出す。
「色々と大変な一年だったが、こうして楽しく過ごせてるなら案外悪いもんでもなかったと思うんだ」
この吟遊詩人、なんか良い話っぽく纏めようとしてるぞ!
「タビとも友達になれたしな!」
「そうだね! じゃあトモダチのシルシ!」
肉球ぺったん!
「うわ! 俺の一張羅!」
大丈夫、洗えば落ちるよ!
●エピローグ
外の喧騒とは切り離された一件の酒場で、ナハティガルはひとり食事をとっていた。
「面白いもの、か」
昼間サマエラが言っていたその店は、冒険を買う店だった。
主人が道楽で物語を書いているとかで、客から面白い冒険談や不思議な体験談など、ネタになりそうなものを買い取っているのだ。
自分の冒険談を売る事も、その代わりに主人が集めた誰かの冒険談を聞く事も出来るらしい。
いつか誰かに話したい気分になったら、訪れてみるのも良いかもしれない。
彼が代価として求めるのは金か、それとも誰かのお話か――
やがて白に塗り潰される街は、今だけはカラフルに、賑やかに、ゆっくりと時を刻んでゆく。
メリーユールフェス。
マスターコメント
ご参加ありがとうございました。
小さな街のちょっと変わった聖霊節、お楽しみ頂ければ幸いです。
称号はタビ関係で付けさせていただきました。
漏れはない、筈ですが……
では、また機会がありましたらよろしくお願いいたします。
来年は本当にトマト投げが加わるかも……?(これ以上カオスになってどうするのか(
イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:無し30 / 10〜30人
2021年01月13日 16時48分29秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
ノノアよ。 この時を待っていたわ。今日限りは悪戯し放題ね。(やる気満々) 最後の塗料のかけあいも二刀流で攻めるために参加するわ。色はそうね……セクシー路線な人には白色で、他の人には赤かしらね。
ハッタだ。 世話になる。
スフィカだよ、ちょこっと遊んだら後はフィナーレ全力でいくつもり。よろしくー!
エルヴンシューターのエルナです!皆様よろしくお願いしますね! オリエンテーションに探索側で参加します! 塗料のかけ合いにもピンクの塗料を持って参加しますよ!
スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。
ニール・ロブラリア。よろしくね。 ラクガキ眺めつつ、のんびり観光かな……。 今度は塗料まみれにならないよう、気を付けないと。
ニーラ・メッコです。 よろしくね!
エフィルミアです! 皆で楽しみましょー!