雪降り小道

トビカゼ

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シナリオID:399

オープニング

 ぴゅうぴゅうと風が吹く。
 普段は温かく、穏やかな小道であっても寒い日は寒い。
 いつもよりも冷たい風が肌を撫でる。
 だが、結局この小道の役割は変わらない。少し寒くても、優しく風は人々を包み込むのだから。

 風吹き小道。
 冒険者外から数刻の場所に存在する小さな林道。
 誰かが作ったわけでもなく自然に生み出された空間だが、冒険者にとっては少し馴染みの土地となってきた。

 風が吹く。
 寒くなってきた星空の下で、いつもよりも弱く優しく、寒さを連れてこないように気を遣うように。
 とはいえ結局気まぐれなもの。寒いときは寒いのである。
 だが、寒い時も悪い物ばかりではない。
 小道に吹く風に乗せられて舞う雪。林道に積もった雪化粧。普段とは違う景色を楽しんでいくことができるだろう。
 いつも通りの時間に歩くもよし、雪を眺めるもよし、誰かと一緒に遊ぶもよし。
 勿論風もいつも通り。昼でも夜でも関係なく、いつでもやってくるものを受け入れる。
 とはいえ、風邪にはご注意を。
 それさえできればいつでも小道は君達を受け入れる。

 ようこそ、風吹き小道へ。

解説

■風吹き小道 穏やかな風が吹きぬける小さな林道です。 近くには花畑や森林浴が出来そうな場所や小さな湖畔などもあり、自然に出来上がった公園のような場所ともなっています。 しかし、時期が時期の為基本的には肌寒く、時折雪が降ったり、積もったりと日によってまちまちです。 とはいえ場所によってはちゃんと暖かい場所もあるようです。不思議ですが、都合よく利用するにはいい場所でしょう。 不思議とこの場所にやってくると意図しない限りは一人きりとなり、風と共に過ごす穏やかな時間が約束されます。 今回に限っては寒いですが、よほどではないと風邪はひかないのでご安心です。 やってくる時間帯や場所に関してもお好みで指定を頂ければと思います。 ■複数人での参加に関して 基本的に、今回のシナリオは明記がない限りは個人の描写のみとなります。 その為、複数人での描写を期待される場合はプレイングにお相手の方の名前を両方に明記頂くか【】などでグループ名を記載いただけると助かります。 ■風とお話 この場所で悩みや抱えてるものを言葉にして呟いたり、思考にふけっていると辺りから不思議な声が聞こえてきたり、不可思議な現象が起きたりします。

マスターより

トビカゼです。 風吹き小道の2回目となります。 今回は前回と違い、冬っぽい風吹き小道になります。 とはいえ望めばちゃんといつもの小道になる為、指定のある場合はしっかり頂ければと思います。 冬らしい過ごし方をするもよし、気楽に過ごすもよし、思い思いの一時は如何でしょうか。

リプレイ


 ひらひらと舞うように雪が降る。
 いつもは暖かい風吹き小道も、いつもより少し冷え込みを見せ、辺りは白い砂糖の様な雪化粧で飾り付けられている。
 そんな風吹き小道でも、人の姿は時折見えるものだ。
 この日はセロンガード・シュタインドルフの姿が見える。
 何度か足を踏み入れるこの地で、彼は何を思うのだろうか。それはきっと、彼次第。

 さぁ、風吹き小道へようこそ。

●
「雪……」
 夜空を見上げたヨル・スレイマンの視界に、薄雲と月と、そしてちらちらと降る雪が見えた。
 懐かしい。『昔いたとこ』では冬には結構な雪が降った。ここと比べれば大違いだ。
「……寒」
 もこもこに防寒着を着こんでいても、寒いものは寒い。
『いやはや、本当に寒い』
「だね、こんだけ寒いと酔っ払ったら死ぬらしいね。悪い死に方じゃないとは思うけど」
 気を付けないと。と、笑いながらヨルが懐から酒瓶を取り出し、くいっと呷る。
 酒気とミード特有の甘味が口に広がれば、体が暖かくなっていく感覚はするが、ぴゅうと強い風がヨルの顔を叩きつけた。
「おっとと……」
 怒られたような気持ちになったが、周りに誰かがいるわけでもない。
「冗談だよ。飲んだら体あったまるのに不思議だよね」
『死にたがりですか? 人生楽しくない系ですか?』
「いや、今は結構楽しいね。冒険者は風のように自由だし。尊厳もある」
 おやおや。という声が響き、風がヨルを取り巻いた。
 ひらひらと舞う雪の粉が目の前を舞い散る。
「なあ、やっぱりもっと早く逃げ出すべきだったのかな……」
 そうすればもっと早く、この風のような生き方ができたかもしれない。
 だが、所詮それはただの後悔。ヨル自身もわかっている。
「後悔は先に立たないね。呑も呑も」
『酔い潰れない事と風邪を引かないようにですよ?』
 本当にお節介な者もいるものだ。まるで母親の様に声をかけてくる存在に、自然と笑いが浮かんでいた。
「それに、雪は嫌いじゃないよ。寒いのだけ玉に瑕だけどぉー」
『同感です。寒くなければいいのですけど』
 話も合うようだ。
 そうしてしばらく、話題と酒が尽きるまでヨルは会話を続けていた。

「話、聞いてくれてありがとね」
 話の終わりにそう言えば、どういたしましてという声と共に、会話は綺麗に途切れてしまう。
 だとしてもこの問いに応えてくれたのは誰だったのだろう。噂の風の精霊か、それとも……はっきり答えはわからないが、不思議と暖かい感覚に包まれていた。

●
 日が沈み、月が顔を出し、空に星々が瞬く時間。
 この時間帯に風吹き小道へと姿を見せるのはアルマン・アルスターにとって日課のようなものだった。
「ふぅ……ふう……」
 ただ立ち寄るわけではなく。鍛錬を兼ねたランニング。
 肉体的にも精神的にもへにょへにょだという自己評価があるが故、体力作りを兼ねて小道の林道をサッと走ることにしている。
 不思議と人に出会わないこの場所は、自らが努力しているという姿を見られないこともあってアルマンには理想の鍛錬スポットだ。
 寒くなる前から走り始めたおかげで体力も付き、おかげでこの冬はまだ体調を崩していない。
 その事実は確かにアルマンに自信を与えていた。
 そのはずだったのだが……。
「さ、寒……む、無理無理、冷え込み過ぎ……!?」
 想定以上に寒い。
 いや、実のところ言うほど寒く冷え込んでいるわけではないのだが、訓練し始めであることと弱点でもある意志の弱さも相まってこの冷え込みに耐えられなくなってしまっていた。
「それにもーーしんどい! 本当にこれで強くなれるの!?」
 確かに体調は崩していないが、結局走り込みはしんどいし、寒いものは寒い。あと純粋に疲れる。
「もうむり!」
 ごろん、と寝転がる。
 寒くなってきてはいるものの、この小道にはいつも通りの花畑がある。
 その為かこの場所は穏やかで他と比べるとずいぶんと暖かい。
 結局今日もこうしてこの場所で寝転がってしまった。
「……うまくいかないなぁ」
 空を見上げれば、星がキラキラと輝いている。
 少しでも成長できているのだろうか。結局こうやってしまっていれば何も成長できていないのだろうか。
 結局答えはわからない。だからこそ不安はどうしても残る。訓練しても訓練しても払拭できないものはあるものだ。

『大丈夫。強くなりたい気持ちさえあれば、きっと……私は見ていますから』

 優しくアルマンの頭を撫でるように風が吹いた。
 暖かい空気と程よい疲労で微睡出していたアルマンにその声は届いただろうか。
 今は自信がなくても、いつかきっと大丈夫。
 風は、彼の努力をずっと見ているのだから。

●
「こういう穏やかな時間を過ごせる場所もいいでしょ」
 一面雪に覆われたとある夜。風吹き小道を歩きながらヴィナスは隣を歩くカッシアに微笑みかけた。
「ああ」
 フードをかぶったカッシアの口からはいつも通りのそっけない言葉が返ってくる。
 だが、それもまたカッシアらしい。
 きっとカッシアはこういった雪道に慣れてない。だから今の言葉は、きっと歩くことに意識が向いているか、それとも単純な照れ隠しか。
 どちらにせよ、カッシアがこの雪道に戸惑っているのは事実。
「……む」
 実際に、寒い雪道は寒く、靴にまとわりつくような雪は重く、普段よりも歩きづらい。
 だが、それはそれとして楽しい。この白い道に、横を歩くヴィナスと二人で足跡を付けていくのはとても新鮮に感じられた。
「ほら、危ないよ」
「え、うわっ……」
 雪の中に潜んでいた樹の根に足を取られ、カッシアは思い切り姿勢を崩し倒れ込む。
 だが、そんなカッシアを抱き寄せるようにしてヴィナスが手を引いたことによって、カッシアは雪にダイブすることは逃れられた。
「よかったよかった」
「……ありがと」
 お礼はぼそりと、極々小さなトーンで返した。
 できれば聞こえなければいいのにと、顔を背けながら。
「大丈夫だよ」
 それにしても、やっぱりカッシアは外に慣れてない。吟遊詩人を名乗っているというのに、ずっと部屋の中にいたように感じられる。
 街から街へ旅するような詩人らしくなく、自らの過去ごと部屋に閉じ込め、隠しているように感じてしまう。
 けど、それは違う。そんなことは関係ない。
「カッシア」
「え……?」
 ヴィナスはカッシアに手を差し伸べた。
「お互い転びそうだからさ、どうだろう?」
 そう、これはあくまで助け合い。互いに手を取り、一緒に繋いで歩けばどっちかが倒れても助けられる。
 微笑むヴィナスとは対照的に、手を差し伸べられたカッシアはその手とヴィナスの顔を交互に見比べた。
 何故手を差し伸べてくれたのか、どうして自分にこうまでしてくれるのか。その答えが頭の中で巡り続け、答えを得ることができなかったからだ。
「あ、ああ、そうだな」
 でも、彼は言った。互いに転びそうだから、と。
 これは互いに助け合う為の手段であり、不可抗力であり、特に深い意味はない。そのはずだ。
「ふふ、風は冷たいよね」
「……そ、そうだな」
 吹き付ける風は先ほどよりもちょっぴりと冷たい。
 さっきよりも露骨に、冷たさが増している。風の精霊の悪戯だろうか。
 だけど。
「今は暖かいね」
 笑うヴィナス。顔をそむけるカッシア。
 互いに手をつなぎ合っていると、それだけで自然と暖かくなるのは確かにそうだ。
 不可抗力で、仕方なく、そしてついでに暖かくなっているだけだと、カッシアは自分に言い聞かせてはいる。
 だが、ヴィナスの顔を見るとそれ以上に照れ臭く、体が暖かくなってしまうように感じていた。

●
 風によって雪が舞う。
 顔に雪が張り付けば、自らの体温ですぐに溶けて消えていく。
 寒い。やはりというべきか、シャロン・ラ・モリエールは素直に寒さを感じていた。
 日々の生活のためのバイト探しをしていた彼女だが、この寒空を歩き続けるのはやはり辛い。さっさとバイトを見つけてしまいたいものだが今日はどうにもうまく働き口が見つからない。
「ん……ここは」
 どうしたものかとうろうろと彷徨っていれば、どうにも見知った場所へと踏み込んでいた。
 風吹き小道。普段なら暖かいこの場所も、やはりというべきかこの時期になってしまえば冷え込んではいるが、他と比べると少し暖かさを感じる。
 丁度足元に視線が行けば、この寒空の中でも幾ばくかの花が力強く残っている。せっかくこの場所についたのだ、休憩していくのも悪くないだろうとシャロンは近くの樹に腰掛けて座り込んだ。
「ふぅ……」
 前に比べると、自然とため息が出ることが増えていた。
 周囲とのノリや考え方の違い以上に、直接的な問題を抱えてしまったのが原因だろうか。
 今まで通り、仕事をすることでお金を稼ぐことは出来ている。しかし、それの全てが順調とはいいがたく、今後のことを考えるの不安が拭えない。
『おやおや、貴女もなかなか大変ですねぇ』
 ふわりと風が身を包む。寒い空気が少しだけ暖かくなったような気がする。
「……あがくしかないのかな、って」
 空を見上げれば雪がひらひらと舞い降りる。
 結局答えは出ない。
『良いと思いますよ』
 でも、風はその考えを否定はしなかった。
『足掻いて足掻いて。足掻くことで貴方の最前が見つかるかもしれませんから』
「……かもね」
 だとしたら、もうちょっと足掻くのも悪くないかもしれない。
 結局は今の生き方で生きていくしかないのだから。
「よーし」
 だったらそろそろバイト探しに戻るとしよう。冒険者家業の実入りがいいからバイトの賃金に高望みはない。
 しかし、制服が可愛くて美味しい賄いがでる仕事はそれはそれで外せない。
 もうしばらく足掻いて生きてみることにしよう。その為に、今日の仕事を探しに向かう事にした。

●
 月明かりが照らす湖畔。
 ちらちらと舞い踊る雪も相まって、小道の湖畔はいつもより幻想的な雰囲気を醸し出している。
 その月明かりを眺めるサマエラ=フォリウムは自らの胸中に秘める思考の渦に意識を委ねていた。
 安寧の為。自らを包むそれの為に、戦いの中に身を置くことを厭わぬつもりで今日の今まで戦い続けてきていた自分だが、その行動そのものに矛盾を感じる。
 サマエラの抱える悩みは、安寧の為に戦ったとして、その戦いの果てに果たして安寧があるのかという不安。
「……私は」
 言葉が思考の渦からあふれ出し、それと同時に自らの武器である杖を構え、掲げた。
 その先にあるものは月明かりと湖。だが、サマエラが見据えるものは違う。
 敵、障害、自らの道を阻む存在。戦うべき相手。
 自らが討ってきたもの、これから討つことになるべき存在。
 それらすべてを討ち滅ぼせば、見える景色は変わるのだろうか。
「……全て、討てば」
 変わるのだろうか、この景色は。
 わからない。強くあることは、安寧を守る為にも創り出すためにも、その助けにはなるだろうが、この先の事はサマエラにはわからなかった。
『でも、道は貴方の進んだ後にあるものですよ』
 ふ、と顔を上げた。
 不安を少しでも吹き散らすような落ち着いた声がサマエラを優しい風と共に包み込んだ。
「道は私の後にある、か」
 風の精霊の言葉を解釈するのであれば、全てを滅ぼして進んだとしても先に道は存在する。
 その行為は決して無意味なものではなく、進むことを止めたとしても、歩むべき道を変えたとしても、サマエラが歩んだ軌跡となって、確かなものとして残るのだろう。
「まったく、言葉足らずかそれとも……」
 気まぐれな風に少し肩を竦めながら水面を見つめる。
 輝く星々の中に月の輝く夜空。より強く前に出て輝く月であれば、こちらの見る景色は変わるだろう。
 見える景色も、映る景色も違う。あの月の様に変わる事もいいだろう、だが。
 空と水面に映る景色も違うものであると、サマエラの目には確かに映っていた。
「……ああ、確かに。進みさえすれば、きっと変わるのだな」
 取り出した杖は静かに、あるべき場所へとしまわれていた。

●
「わぁ……」
 雪の降る風吹き小道。
 丁度雪が降り終わった後、白いヴェールが小道を覆うような状態で暖かい陽光が降り注ぐ絶好の散歩日和。
 初めてこの小道に足を踏み入れたマリイ・パルティスは感嘆の声をあげていた。
「こんなところに道があったんですねぇ。知らない道を歩くのってわくわくします」
 がう、とペットの狼であるコルデラもマリイの感情に呼応するように嬉しそうな鳴き声を出す。
「コルちゃん。ここなら思いっ切り走ってもよさそうです!」
 ぱ、っとコルデラを繋ぐリードから手を離すと、コルデラは嬉しそうに雪の上を走り、マリイの周りをぐるぐると回る。
 本当にうれしそうだ。普段の散歩は街の周辺である事からリードを付けて歩かざるを得なかったのだが、ここならば誰にも遠慮する必要はないだろう。
「よーし」
 がさごそと自らの荷物を雪の上に放り捨て、その中から円盤の様な玩具を取り出す。
「コルちゃーん! いきますよー!」
 風を切るようにその円盤を放り投げれば、浮遊するように宙を浮くそれをコルデラは嬉しそうに追いかけ、空中で咥えてキャッチする。
 まるで犬のようだが、決して犬ではない狼だ。とはいえ、楽しんでいるならそれはそれでいいのだろう。
「わぁー、ほんとコルちゃん凄い!」
 いっそ一番楽しんでいるのはマリイなのは、否定できない事実でもある。

 そして、しばらくの時間が過ぎて。
「今日も可愛いねぇ! 可愛いねぇ!! もふもふであったかいし、おりこうさんだねぇ。コルちゃん大好きー!」
 日の暮れるころ、コルデラの首を捕まえて自らの頬を摺り寄せるようにしてマリイは恍惚の顔でコルデラを思う存分すりすりモフモフしていた。
 いっそ、マリイが全力すぎてコルデラが困惑して疲れ切っているように見えるが、気のせいだろう。うん。
『ふふ、楽しそう』
「ふえっ!?」
 急に、声が聞こえた。
 突然の声に驚いてモフモフすることよりも羞恥心が湧き上がり、顔を真っ赤にしてしまう。
 だが、そこに誰かがいるわけではない。だが確かに聞こえた声でマリイはあわあわと周囲を見回し続ける。
 そんな様子を見て、風の精霊は何を思ったのだろう。きっと、面白い遊び相手(おもちゃ)を見つけたとでもいうのだろうか。
 幸か不幸か、当のマリイは今は恥ずかしさを隠すのに必死だった。

●
 風吹き小道。
 雪の降るこの場所、たまに子供が遊ぶにはいいのかもしれないと考えたノノアは興味本位からこの場所へとやってきた。
 小道という事もあり、林道には子供達が隠れたりするのに十分な木々が広がり、湖畔や広場の姿も見える。
 そしてなにより、雪の降る時期だというのにそこまでの寒さがない事がこの小道の大きさだろう。
「ふふん。思う存分遊べそうね」
 どこかの書物で読んだことのある、雪を集めて作る小さな建物を模したもの。
 山の様に集めた雪を強く硬め、そして一部から中身をくりぬくように雪を掻きだしていく。
「ふぅ、これ結構疲れるわね」
 構造としては単純なものだ。だがしかし、人ひとりが入れる量の雪を集めるだけでもなかなか作るのに骨が折れる。
「うーん、これは……わっ!?」
 突如、強烈な突風が吹く。目も開けられないほどの勢いで、周囲の雪が巻き上げられるほどでノノアは目も開けてられない状態になる。
「……びっくりした」
 こんなことがあるのかと。流石の出来事に驚きを隠せなかったが、風は落ち着いていた。
「ん?」
 ノノアが気が付いたときには、いつの間にか山の様に積み上がった雪があった。
 しかも丁度前面が固められてると思えば、一部が柔らかくなっており軽く触っただけで雪がぼろぼろと崩れていく。
「……気が利きすぎじゃないかしら?」
 いくらなんでも、とは思ったが風の精霊がいるらしいこの場所。もしかしたら手伝ってくれたのかもしれない。
 だとしても手伝い過ぎな気はするがそれはさておき。
「ま、ここからもあるものね」
 大雑把ではあるが、ここから完成に導くには風だけでは無理だろう。
 雪を掻きだし、全体を固め、そして中に雪でテーブルを作り上げると、持ち込んできたブランケットを敷いて、テーブルの上にランタンを置く。
「完成ね!」
『いやー、大作です』
 今度は完全に声が聞こえた。めちゃくちゃ楽しんでいるようだ。
「よーし、じゃあ次は雪だるまね。作りたいのがあるのよ」
 頭の中にイメージはある。先ほどよりも雪を集める必要がない分、近くの雪をかき集めた勢いで、日が暮れるまでノノアは雪だるまをいじっていた。
 結局完成したのは火が沈みかけたころ。だが、それは見事な狐の形をした雪だるま。いや、雪像というべき出来栄えだろう。
「うーん、遊んだわね……」
『風邪ひかないうちに帰るんですよ?』
 はーい、と答えてしまいそうになる。
 自分に姉妹が。姉でもいたらこんな感じなのだろうか。
 姿は見えないが、狐の雪像を見ながらノノアは頬を緩めていた。

●
「おお……」
 寒い、冷たい、白い。
 雪というものはどうしても珍しい。
 大樹海出身のテテリカからすれば、この一面が白く染まる冷たい存在は非常に珍しく、不思議なものだった。
「ん、遊びたいか?」
 テテリカの肩に乗っていた大鼬のベニテングは雪を見るなり、遊びたくなってしまったのかテテリカの頬を突いていた。
「行っておいで」
 そう伝えて軽くベニテングを撫でれば、勢いよく雪の中へと飛び込んでいく。
 それからはもう大はしゃぎ。雪の中を駆けまわって雪を散らし、だが寒くなれば戻ってきてテテリカの肩に乗って暖を取って、暖まったら飛び込んでいく。
 見ているだけで微笑ましいその光景の傍ら、テテリカ自身も何もしないわけではなく、この珍しい雪を集めて雪を固めてウサギを作っていた。
「よし」
 それなりにいい出来栄えだろう。
 雪で作られた可愛らしいウサギ、これをあと少し飾り付ければ完成だ。
「って、ああっ!?」
 よし、と飾りになりそうなものを探して目を外した次の瞬間だった。
 目の前に飛び込んできたベニテングが見事に雪ウサギを粉砕していったのだ。
 それも綺麗に首筋に噛みつき、そのまま見事な粉砕。いや、ちょっと待ったと思考する。
「ベニテング。これ狩り用のおもちゃかと思った?」
 エーテルリンク。ベニテングと意志疎通を図ったテテリカは、ベニテングが自分の為のおもちゃを作ってくれたと思ってしまっていたことを把握した。
「違う。まぁ、いいけど」
 ぴゅう、と風が吹く。
「寒……そろそろ戻ろうかな」
 壊されてしまいはしたが、一通りしっかりと形として完成させたこともあってテテリカは十分遊んだ満足感を得ていたが、どうにもベニテングは別のようだ。
「ん……まだ遊びたい? じゃあ、また今度ね」
 困ったな。と、雪の上を走り回るベニテングを見てテテリカは困った顔をする。
 だが、このまま遊び続けるのは時間的にももう遅い。なんとかベニテングを説得して、ブランケットを広げれば素直にベニテングはブランケットに飛び込んでくる。
「よし……」
 その際、テテリカは空いた手で雪を掬う。
 そのまま、ふっと息を吹きかければキラキラと光を浴びて雪が宙で輝き、それを風が巻き上げるようにして天へと散らせていく。
「……ん?」
 ふと、声が聞こえた。風邪を引かないように、とお節介をかけるような声が。
「ん、帰ってお風呂に入るか」
 ぽかぽかのお風呂に入って身を温めて、そしてまた次を迎えよう。
 考えるだけで暖かくなる考え事をしながらテテリカは帰路に就くことにした。

●
「突然森林浴に誘ってしまって悪かったな」
 小道の林道を歩きながら、ライナ・フレイヴァルツは笑った。
「いえいえ、ライナ様のお誘いでしたら、どこへでも喜んでお供いたしますのでっ!」
 向けられた笑みにフロマーシュ・ダイヤドロップは心から喜んでいた。
「ええ、ええ。森林浴は水浴びと同じぐらい好きですしっ! それにその、あの! そのコートもとっても似合っててええっと……!」
 うれしさのあまりいくつもの言葉を並べてしまう。
「そ、その白いコート、本当にお似合いです……!」
 真っ赤に染まった顔を見られないように背けながら、やっぱり似合っていると口から出てしまう。
 そんなフロマーシュの言葉がうれしく、ライナは少し照れ臭く感じてしまうものだ。
「ありがとう。それよりほら、たどり着いた。目を閉じてみて」
 いわれるがままに、フロマーシュは目を閉じる。
 冬の風は冷たく、目を閉じるといっそうそれを強く感じる。
「ゆっくり感じてみて」
 ライナの手がフロマーシュの頬に触れる。
 目を閉じてるからこそ直に感じるライナの体温を感じながら、そっと意識を周囲に傾けた。
 遠くから漂う花の香りと降る雪の音が混ざり合いながら、林道全体を構成する香りとなってフロマーシュを包み込み、不思議と心地よさが支配する。
「どうだい? 森にいたころではできない、今ならではの森林浴だ」
 パ、と目を開ければ目の前にはライナの笑顔。
「は、はい、本当に素敵で……さ、さむ……」
 気が付けば急に寒くなってきた。
「な、なんだか寒くなってきたな」
 先ほどまで暖かい風が吹いていたというのに、何かあったのだろうか。
 あまりに仲睦まじい様子に風の精霊がへそを曲げたのかもしれないが、とにかく寒いことには変わりはない。
「あそこが暖かそうだな、移動しよう」
 冬の時季にも花が咲き誇る場所、差し込む陽光は見てるだけで暖かそうだ。
 二人で頷き、花畑に移動するなりフロマーシュは用意していたお弁当や紅茶を取り出す。
「おや、これは美味しそうだ」
 フロマーシュが用意してくれたものを見たライナは嬉しそうに笑みを浮かべる。
 暖かいこの場所で花に包まれながら彼女の手料理を楽しめる。それだけでここに来た甲斐があるというもの。
「……甘いものはあるか……?」
 だが、これがなくては始まらない、とライナは目を輝かせながら、期待に満ちた目でフロマーシュを見つめる。
「もちろんです。イチゴのタルトを用意しております、お食事の後に頂きましょう」
「ああ、それは素晴らしい。楽しみだよ」
 年齢相応に甘いものに目を輝かせるライナを見ながら、フロマーシュは微笑んで紅茶を手渡そうとする。
「紅茶をどう……ふぁ……」
「マーシュ?」
 急にフロマーシュの動きが止まる。
「い、いえ、先の風に当てられたのでしょうか……へくちっ!?」
「わっ……!?」
 突然の可愛らしいくしゃみ。そして手に持っていた紅茶はあろうことかライナへと舞う。
「あ、し、失礼しましたっ!」
 やってしまった。大事なライナ様へ紅茶をぶちまけてしまうという失態。
「……はは、これはこれは」
 だが、ライナは穏やかだった。
「こんな体験も森の中で暮らしていた時にはきっとできなかっただろうね。ありがとう、マーシュ」
「ライナ様……い、今お拭きします!」
「ああ、頼む。落ち着いたらタルトを頂こうか」
「はいっ!」
 ゆっくりと濡れた肌を拭う。優しく、二人の時間を過ごすように。
 ただの一度の失態で、二人の関係が歪むことはない。フロマーシュが不安を感じてもライナがそれを優しく包み込む。そんな関係が二人にはある。
 だからこそ、風の精霊は少し悪戯したくなったのだろう。二人の信頼が、崩れないとわかっていたから。
 花畑の中で、二人は二人の時をゆっくりと過ごすだろう。

●
「ここは……」
 不思議な場所だとネーヴェ・グラヌローザは感じていた。
 けれども、どこか心が落ち着く場所だ。
 風吹き小道。雪の舞い散るこの小道は、今はどこもが白く染まっているというのに不思議と暖かい風が吹き込んでくる。
「気持ちのいい場所ですね、ここは」
 寒い時期だというのに、気兼ねなく歩ける。
 ちらちら雪が舞う中をネーヴェは悠々と散歩していくことにした。
「それにしても……」
 雪を見ていると、懐かしい気持ちを感じてしまう。
 自らの名前、ネーヴェが雪を意味するものだからだろうか。それとも知らない記憶の中で、雪を愛していた時期があったのだろうか。
 わからない。ネーヴェという名も真に自らの名前であるかどうかも定かではない。
 だが、雪に愛着を持っていることは確かだった。
「おや、ここは」
 気が付けば、ネーヴェは広がる湖の畔にいた。
 雪と一緒に差し込む光がまぶしく湖に反射し、幻想的な風景を創り出している場所に。
「綺麗ですね……そして、暖かい」
 陽の当たる畔に腰を下ろし、ネーヴェはその風景を見ながら休むことにした。
 冬でも、この陽光は暖かい。こうしているだけで微睡に沈んでしまいそうになるほどに。
「少し、聞いてもらってもいいでしょうか」
 誰もいない虚空に向けてネーヴェはそう呟いた。
 風の精霊、風の声。聞こえるという噂話を、叶うのならば訪ねてみたいことがると、ネーヴェはそう問いかける。
「私が覚えていない、私の姿を、あなたはご存知ですか」
 それは答えのない問題のようなものだった。だが、もしもと思えば聞いてみたかった。
 抜け落ちたパズルのピースを探すように、ネーヴェは自然と尋ねていた。
 待つ、待つ、待つ。待っても待っても声は聞こえない。
 やはりただの噂だったのだろうか。
『残念ながら、私にもわかりません。けど』
 声が聞こえた。
『貴女のこれからは、ずっと見ています』
 そして、と風は優しく言葉を続ける。
『貴女がネーヴェという名前を大事にする限り、貴女はネーヴェであり、本当の貴女だと私は思いますよ』
 その言葉を最後に、声は聞こえなくなった。
 ネーヴェにこの言葉はどう響くのだろうか。精霊の言葉が正しいとは限らない。
 だが、暖かさだけは本物だった。

マスターコメント

雪降る風吹く、暖かい小道。 いつでも人々を受け入れる場所。 風はいつでもあなたを見守る。 小道はいつでも、貴方達を待つ。 シナリオご参加ありがとうございました。 寒い時期でも暖かくなるような内容が多く、こちらも暖かくなってしまうような内容でした。 今回も楽しんでいただければ幸いです。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:無し13 / 4〜25人

2020年12月29日 12時26分43秒 公開

成功

相談掲示板

  1. マリイ・パルティス

    間違えて押しちゃいました!はずかし! とりあえずマリイと申します!よろしくお願いします!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0