風吹き小道
トビカゼ
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シナリオID:120
オープニング
日の当たる陽気な小道。月夜が照らす優しき夜道。
季節、時間によってその姿は千差万別。
しかして、総じてこの小道は優しく人々を包み込む。
冒険者街から数刻の距離の外れた場所に、小さな林道が存在している。
これは誰かが作ったというわけではなく自然に生み出されていた小さな空間。
いつできたのか、誰が作ったのか。そういった事実は誰一人としてわかってはいないが言えることは一つ。
この場所は誰であれど、等しく包み込むという事だけだ。
それとは別にもう一つ。
この小道は風がよく通り、抱える思いや悩みに応じて応えをくれるという。
精霊が住まうのか、直接言葉をくれることもあれば、時によっては草花を舞わせることで意図を表現するときもあるという。
決してそれが正しく役に立つとは限りはしないものの、胸に秘めた重さや悩みを吐き出す為に、ここに通うものも少なくはない。
そんな場所に今日もまた一人、二人と人々がやってくる。
昼、夜と関係なく。穏やかな気候の中でただ憩いの時を過ごす為か、それとも風と話をしようと思うのか。
それはやはり、君達次第なのだろう。
ようこそ、風吹き小道へ。
解説
マスターより
リプレイ
まだ日も登りきらない刻。
朝露さえも落ち切らず、空はまだ紫立つ空模様。
少しずつ明るくなっていくこの朝が、リーザヴェールは一番好きな時間だった。
「暖かいのね……」
こんな時期だから明け方の風は冷たいのかと思いきや、それでもなお暖かさがある。
本当に不思議な場所だと、肩にかけた淡い色のショールを揺らしながら、花畑を歩いていた。
明け方故に蕾も多く見られ、開く花々の姿に思いを馳せていれば、風が耳元を流れていく。
「ねぇね、精霊様」
くすりと笑うリーザヴェールはそっと手を差し出した。
まるでダンスに誘うように差し出された片手。
「年甲斐もないと笑うかしら?」
いいや、笑わない。笑う者はいない。
「……日が昇りきるまであと少し、私といっしょに遊んでくださらない?」
ふふ、と笑い声が聞こえた。リーザヴェールのものではない。
風が手を取るように、肌に直に感じられる。
くるり、くるりと回るようにリーザヴェールが踊りだす。
「優しいのね」
決して否定することなく、望みに応えるまま風は踊る。
日が昇るまで、二人の舞踏会は続くだろう。
●
朝露と朝日が照らす小道。
ゆっくりと道を歩くヴィナスは、冒険者になってから生まれたこの時間を楽しんでいた。
「……のんびりできそうなところだね」
以前では望むことのできない時間。
虐待というほどではなかったが、冷遇されていたと確かに言える実家の日々。
あのまま過ごしていたらどうなっていたのかわからない。
「ごめんね、母さん」
空を見上げる。ここはもう、あの家じゃない。
父はもう、父ではないし、あの家はもう『僕』の家ではない。
だから、捨てた。
『強いのですね』
声が聞こえた。
強いかどうかはわからない。
だけど確かなことは、ここにいる『俺』は一介の冒険者であるという事実。
「そろそろ戻るかな」
今日も、今日という日を楽しむために。
「でも」
小道を抜けるころ、ヴィナスは振り向いた。
一つだけ、風に願うのならば。
――お兄ちゃんは元気だから、心配しないで
その願いに応じるように、風は強く。見知った方角へと吹いた。
●
「気持ちいいなぁ」
穏やかな陽気に包まれる小道の片隅で、トゥーリは一本の樹を背にして微睡んでいた。
暖かい日光と長閑な雰囲気はトゥーリの故郷。いや、自身の生まれ育った家を思い出す。
散歩を中断し、座って一息ついていれば、いつの間にかその意識は安らぎの中へと落ちていく。
夢の中でトゥーリはいつの間にか都会の街路の中で、その姿を奇異の目で見つめる人々の中にいた。
彼らは何もしてこない、だが不安になる。
なんとなくで天啓を受け、自身の才能に従って授恵者として戦い、そして迷っていた。
何のために戦うのだろう。
なんとなくで戦っていてはいけない。
自分が活躍すれば他の種族からのハーフビーストを見る目も少しは良くなるかもしれない。
思いが巡り、立ち止まって考えていた。
『でも、理由なんかなくたって歩けるんですよ』
「え?」
ふわりと風が吹く。
いつの間にか奇異の目でトゥーリを見つめる人はいなくなり、先には道が続いていた。
「いけない、暗くなる……あれ?」
気が付けば日は少し傾いていた。
いつからだろう、そんな彼女の手の中に小さな一輪の花が添えられていた。
ひゅうと追い風が彼女を優しく包む。
止まっても次に、歩けるように背を押していた。
●
暖かい日の風吹き小道。
誰の邪魔も入らないこの場所の木陰でコルネリウス・アーラは造園植栽術の本を捲っていた。
既にそばには建国史を始めとした様々な本が積まれており、勤勉さが伺える。
「あら」
本を読み進めていれば一枚の落ち葉がそれを妨げるように本の上へ挟まる。
そのまま除ければ良かったのだが、風に靡く髪を押さえながら彼女は顔を上げた。
「……父さん」
兄の訃報をきっかけに父に思いをぶつけ、飛び出してきた彼女。
父の祈りの意味も理解できず否定したというのに、それでもなお暖かく迎えようとする彼。
忘れられるはずもなかった。
故郷を離れ、新たな友が出来、居場所を作って、兄の剣で戦っても。
自分を取り巻く環境が多種多様に変化したいまでも父の祈りの意味は分からない。
いったい何を知れば答えがわかるのだろうか。
どれだけ知ってもわからないのではないだろうか。
『知ろうという思いがあれば、きっといつか答えは出てきますよ』
ふ、と。強い風が吹いたかと思えば、そんな言葉が頭をよぎった。
だとすれば、少しは歩み寄ってもいいのかもしれない。
「手紙を書こう」
どんな便箋で送ろうかな。
そんなことを考えながら、風を背にコルネリウスは帰路についた。
●
「なんだか不思議な感じのする場所ですね」
狼のシバと共に小道を行くのはユネスコ・ビスコ。
穏やかでありながら、確かに感じる不可思議な雰囲気。
魔女の住んでいるといわれた、地元の野道によく似ている。
『ええー、魔女扱いですかー?』
別に魔女扱いではないし、嫌な感じを感じるわけではないのだが。
「……うん?」
いつの間にか誰かと頭の中で会話していたような雰囲気がしたが、周りを見てもだれもいない。
「でも……はぁ」
シバを見ているとため息が出てしまう。
自らの生き方。猟師としての生活にユネスコは不安を抱えていた。
猟師として創意工夫を凝らして狩りを行う生活は楽しく、両親に与えられた生き方に不満はない。
だが、ふと開いた自分の財布の中身を見て不安を感じてしまうのだ。
猟師仲間は狩りと料理店を両立し、高い収入を得ている。だとすれば自分も狩りで得たものを使った二次産業を行うのも悪くないのかもしれない。
でも悩んでしまう。答えを決めるのは難しい事だ。
『試してみてから決めるのも、悪くはないですよ?』
「え?」
また声が聞こえた。
「試してみてからか……」
結局答えはまだ出ないが、手助けするように風が優しく吹いた。
●
風に流れて舞い踊る木の葉。
木陰で寝そべって風の往来を眺めているだけで退屈な日々に彩りを感じさせてくれる。
軽く欠伸をしながらティラミス・ノーレッジは穏やかな空気に身を任せていた。
「んー、いいものだ。眠くなったらそのまま眠れるのも悪くない」
穏やかな陽気。うっかり寝すぎて夜になってしまっても、この気温なら最悪風邪を引く可能性も少ないだろう。
依頼のない日はこうやってのんびりするのがいい、そう思えるほどだった。
「しかし、依頼か……」
依頼。いくつもの依頼を達成してきたティラミスだが、ここ最近は単純な討伐依頼と違い、複雑な依頼が増えてきたと確かに思う。
『まあ、面倒ですよねぇ』
「そうそう、面倒でね」
ん? と、ティラミスは周囲を見渡した。
そこに誰かがいるわけではなく、風がそよいでいるだけだ。
「噂の精霊か……?」
『でもきっと、面倒だからと受けない理由にはならないでしょう』
勿論だ。誰かの為となるのであれば、面倒だといっても受けない理由はない。
それが自分、ティラミス・ノーレッジだ。
「……だな、たまにはこういうのも悪くない」
声は聞こえなくなったが、風は確かに肌を撫ぜている。
●
「心配なんですよ、本当に」
小道を歩きながらユークリア・フィナンシェはそう喋っていた。
人が見れば奇異の目で見られたかもしれないが不思議と誰もいないこの場所、何一つ気にすることはない。
「帝国が崩壊してから、家も崩れ去ってしまって……私は冒険者として生活してますが家族はそうもいかなくて……」
皆が皆、冒険者として仕事ができるわけじゃないですからね。
「そうなんですよ、普段から過保護でお風呂の扉を遠慮なく開けようとするお父さんに、何でもかんでも心配性で質問を水責めの如く溺れるほど投げかけてくるお母さん、私に全てを押し付けるように自由気ままにやってるお兄様お姉様……」
それは本当に心配するような家族なんですかね?
「違う気がしてきました。なんだかだんだん腹も立ってきました……滅んでいいのではないでしょうか?」
『さもありなん』
「はっ、いけません邪念が」
どうにも一人でしゃべっているだけのはずが、不思議と誰かが受け答えしてくれているように感じる。
いや、実際精霊が受け答えしているのだが、思考が筋トレし始めたユークリアはそれどころではなくなっていた。
「せいっ! はっ!」
腕立て、腹筋から始まり一通りのトレーニングが終わったかと思えば今度は正拳突きや後ろ回し蹴りを繰り出し始める。
そんなユークリアを、優しく見守るように風はゆっくりと吹いていた。
●
小さな林道を抜ければ、目の前にキラキラとした光がちらつく。
「あら」
目の前に広がったのは小さな湖畔。
まるで誰かが手入れしているような美しさを感じる程だ。
休憩にはちょうどいいと、スィーリーンは湖畔の近くに腰を下ろす。
ぼうっと湖を眺めていると、湖面に揺らぐ自分の顔が揺れに揺れて、違う誰かの姿に見えてくる。
「エフレム様……」
力に目覚めてからあのような偉大なキャスターになりたいと夢見て冒険者となった。
だが、今の自分は人の役に立てているのだろうか。
自分を高め、魂を磨くことができているのか。
応えるものはない。不安は拭えない。
「あら?」
ふと、声が聞こえた。
明確な誰かの声ではない。
だが、確かに風邪に乗って聞こえてきた。
――ありがとう。
確かにそう響いた。
誰の声だろうか、揺れる風の中ではっきりと誰か、を把握することは出来ない。
「ああ、そうなのですね」
確かに届いた。
自らの行いが、確かに誰かを助けていたのだと。
不思議と心に安らぎが届く。この不可思議な場所だからだろうか。
「本当に気まぐれな風」
彼女を取り巻く優し気な風。
揺れる水面はすでに収まり、はっきりとスィーリーンを映し出していた。
●
「おや?」
情報屋として情報を集める為にも、各地を渡り歩いていたルチル・プルメリア・グレイハーツは、丁度小道に足を踏み入れたと同時に雰囲気が一変したことに気が付いた。
「そうか、ここが噂の風吹き小道か」
そういえば、とルチルは思い出した。
冒険者達の中で噂になっている場所、意図はしていなかったが迷い込んだという事はここに来るべき理由があるのだろう。
意外なものだ、と笑いながらルチルは思考を巡らせた。
故郷の湿地帯で弓を習い、修行と称して各地を渡り歩いたりしたこと。
酒を飲み、うまい料理に舌鼓を打ち、宿でしっかりとのその足を休めたりもした。
だが。
「……ふぅ」
疲れたな、と思えば大きなため息が口からあふれ出た。
確かに体を休めてはいても、それは本当に休息なのだろうか。
それはきっと、違うだろう。
気が付けば、ルチルの手の中にはかぶっていた骨が収められていた。
「休みも肝心……だったな」
彼女はそのまま、近くの草原に座り込んだ。
今だけは何も気にすることはない。ありのままの自分をきっとこの風は受け入れてくれる。
『ほんと、頑張り過ぎはよくないですよ』
「はは、そうだな」
ああ、本当に。今だけはしっかり、休むとしよう。
●
ざあざあと木の葉が揺れ、木々の合間から差し込む陽光が体に降り注ぐ。
小鳥達のさえずる長閑な雰囲気の中でエーファ・メイベル・マジェリトは一人、光を浴びながら森を歩いていた。
小道から外れた場所を進めば、思った以上に深い森の中に踏み込んでしまったが、これはこれで特別さを感じてしまう。
「……あれは」
警戒心がないのか、目の前を一匹の鹿が通り抜けていく。
急ぐ様子もなく、ずいぶんとゆったりとしたものだ。
「鹿を捧げる季節、ですか……いや……」
そういえば、と故郷の習わしを思い出し獲物に手を伸ばすが、今の自分を思い出して首を横に振った。
既にあの地を去った以上、部族の決まりに沿って森の意志の為に捧げものを探す必要性は一切ない。だとしても探してしまう。
「大森林ならば……」
未練だろうか。かつての地と異なるこの場所で、どうあっても部族の法に浸ってしまう。
『それはきっと、思い出を忘れていないという事ですよ』
声が響いた。
ざあざあと風が揺れるなかで、しっかりと確かに声が聞こえた。
だからだろうか。いや、違う。
きっと忘れていないからだ。かつての地も、部族も、とても身近に感じるのだ。
●
よく晴れた空。丁度お昼過ぎに、ギド・フェルミは風吹き小道に足を踏み入れていた。
「いやぁ、いいのかな。こんないい場所一人で占領しちゃって」
自分一人だけでこの空間を占領してしまっている気分だ。
「あ、そうだ」
樹にもたれ掛かって昼寝でもしようと思っていたが、誰一人いないなら練習には最適だ。
愛用のリュートを取り出し弦を爪弾き、音色を奏でながら歌を歌い始めれば……風が急に吹き荒れた。
「……あっれ。気に入らなかったのかな」
精霊がいるというこの場所。もしかしたらうまく歌えない歌に風が驚いたのかもしれない。
「なんでかなぁ。誰か教えてくれな……お?」
いまいち歌が上達しない歌。虚空にぼやいていたら、ギドのリュートに合わせて風に乗って透き通るような歌声が聞こえてくる。
「教えてくれてるのかな?」
気の利く風だと思いながら、ふと想う。
昔の知り合いは、今の自分を見てなんというのだろうか。
雨か槍でも降るというのが浮かぶが、似合ってると言ってくれるかもしれない。
だが。
「意味はないんだけどな。今も昔も」
俺は、あの国に存在しないんだから。
歌も言葉も、今は紡げなかった。
●
「んー……!」
小道に入り、暖かい日を浴びるように伸びをしたシャロン・ラ・モリエール。
日々の内職の疲れが吹き飛んでいく、とまではいかないが動きの少ない作業で凝った肩や目の疲れ、腰の痛みは適度な運動で和らいでいく。
「暖かいわね」
流石に外の外気と風は冷たくて寒いと思っていたのだが、想像以上に温かい。
この場所が他とは違うというのがよくわかる。
「でも、みんなとノリが違うみたいなのよね。この先やっていけるのかしら」
一人だけだからだろうか。周囲の意見に流されることもなく、シャロンは抱えていた悩みを吐露していた。
田舎から出てきたからだろうか。生活習慣や金銭感覚の違いが顕著に出ており、なかなかその差を埋めることができていない。
この差があるからこそこれからの未来に不安ができてしまう。
『大丈夫ですよ』
大丈夫。その一言と共に、風が優しく包み込んだ。
暖かく、優しい風だ。
『貴女が大丈夫だと信じ、互いに歩み寄れば……きっとやっていけます』
優しい言葉が聞こえ、それきり声は聞こえなくなった。
風はいつでも優しく吹くだけ。シャロンの悩みはきっと彼女自身がいつか解決するのだろう。
●
「ふぅ」
小道を抜けた先にある小さな湖畔。
静かなこの場所で一人、腰を下ろして休憩するフィーレン・ステオラーズの姿があった。
噂には聞いていたこの場所だが、思った以上に人の姿がなく、落ち着ける場所だ。
空を見上げれば雲が流れていく様が目に入り、それを見ているとここ最近の冒険者としての活動が思い返される。
冒険者となって、僅かな自由を得て、広い世界を知って、その世界は自分が想っていた以上に危うく、だが自分はそれに対する力を持つ。
だが一体、こんな世界で何ができるのか。
「……考えても、仕方ないか。誰に言えるわけでなし」
普段の生活を考えれば、こんな悩みは誰かに言う事は出来ない。
大人だったら酒でも飲んで、憂さ晴らしをするのだろうか。
『かもしれません。でも、私はありのままの貴方を見ていますよ』
急に聞こえてきた声。
驚いた顔を一瞬浮かべたが、噂にあった風の精霊だろうか。
導くわけでも、答えを与えるでもなく。ただここに存在して、話を受け入れてくれる。
「……ありがとな」
ただ、それだけで少し気は楽になった気がする。
ありのままの、年相応の笑顔を浮かべ、フィーレンは笑顔を浮かべていた。
●
「こっちかな!」
穏やかな風吹き小道。しかしその小道を吹き荒らすように駆け抜けていくのはニーラ・メッコ。
湖畔があるという話を聞きつけ、湖畔目指して進んでいるのだがなかなかたどり着かない。
「あれ、迷った?」
大森林を思い出すようなこの場所だが、迷うほど入り組んでいる気はしていない。
ちょっと懐かしくて故郷を思い出すがホームシックがあるわけでもない。
首をぶんぶん振って周囲を見渡すが、どうにもおかしい。
『くすくす』
笑い声だ。
「精霊の声!? 私、ハイアルヴの才能あるかも!?」
『あれ……』
驚くどころか喜ぶニーラ。対して困惑する精霊。
ちなみにこの声は特に才能云々は関係ない。
『悩みとかなさそうだから迷わせたんですけどねぇ』
「ええー! それよりもったいぶらずに出てきてお話ししよ!」
『姿はダメでーす』
思った以上に軽い口調の精霊。
しっかり話に応じてくれたことがうれしく、気が付けば日が暮れ始めるまで他愛のない話をしていたのは別の話。
あらゆる景色が新鮮で楽しい彼女の話を、風は優しく聞き入れていた。
●
機嫌よく小道を歩くアンゼリカ・ミケーレ・ラディーチェの視界に、小さな湖が目に入った。
無事に依頼をこなした後、とても気分がいい。
「ふふ」
他に目指すべき道を見つけられず、冒険者になったのだが周りの仲間達は頼りになり、とても優しい。
とてもいい決断をしたとアンゼリカはより一層気分よく湖畔に歩み寄った。
「せっかくだし、魔法を使ってみようかしら」
水の上を歩く、せっかくだしと魔法を唱え、一歩踏み出そうとしたときだった。
だが、今魔法に失敗した場合どうするのか。
湖に落ちたら、誰が助けてくれるのか。
周りには誰もいない。
「うう、やっぱり寂しいのだわ……」
家があって、学校に通ってた時は一人で何かすることはなかった。
「アヴェラ……」
かつての従者の名。だが、今は違う。
彼女に甘えていくことはもうできない。彼女は彼女なのに、周りはすっかり変わってしまった。
どうすればいいのか。
「わ……!?」
ふと、強い突風が吹き、アンゼリカは湖に足を一歩踏み出してしまう。
慌てて姿勢を整え、そして……湖の上に足がついていた。
「出来たわ……」
一歩踏み出す為の追い風が、今は優しく彼女を包んでいた。
●
「あら」
ふと、足元を見ると一輪の花を見つけた。
アヴェラ・ウッチェロが周囲を見渡せば、近くに大きな花畑が見える。
「花畑から外れたけど、貴方は咲けたのね」
慈しむように話しかけながら、アヴェラは傍に腰を下ろす。
「わたしはどう生きていけばいいのでしょうね」
孤児。彼女の生まれはそれだった。
暗殺者。命じられ、命を奪っていた。
メイド。アンゼリカを支え、守っていた。
だが、今は?
「家を失ったお嬢様を助ける……今はそれでいいけど、いつまでもはしてはいけない」
わかっていた。
自分には何もない。ただ紅く染まった指と、他人に依存する指があるだけ。
決して何かを為してはいけない、できない。そう思っている。
「私は……わたしで……」
何をすればいい。
『ゆっくり考えればいいんですよ』
ふと、声が聞こえた。
辺りを見回しても何も見えない。ひらりと、手の平に花びらが舞い落ちる。
「そうね。しばらくは冒険者の指を見て、知って……それを堪能しながら、考えましょ」
まだ、焦ることはない。
今の様にゆっくりと考えていけば、いつか、きっと。
●
風が吹く、小道外れの小さな丘。
丘の上で座り込み、物思いにふけっているのはウッド・B・ウード。
「うむ、心地よい風だなぁ!」
風を感じている方が正しいかもしれない。
いや、ちゃんと考えてはいる。
「むむ……」
一旗揚げるぜ! と、家を飛び出してきたはいいものの一旗揚げるとは一体何なのか。
いや、そもそも大前提からわかってなかったのかとツッコミを入れたいが入れる者は誰もいない。
ひとまず冒険者として日々を過ごしているが、今般の惨事を考え今の事態に貴族たる自分が取るべき道とは一体。
「むむむ……」
わからない。どうすればいいのか。
ぐぅ。
間の抜けた音が響く。
「はっ!? 眠っていたが腹もすいたな!」
寝息と腹の音のまさかのセッション。とりあえず今日の飯はどうしよう。そうだ、と閃いた。
「風よ精霊よ、私が取るべき食事はいずこにありや!?」
『えぇ……』
道を示したまえ! と、声を張り上げるウッドに声は届いたのかどうか。
「むっ、これは!」
とりあえず、近くからいい香りが漂ってきた。
きっとこれが風の導きだ。今日の飯を得るために、ウッドは元気に駆けだした。
●
小道を歩くファルマ・アラーティ。
彼女の視線は道の傍に咲き乱れる草花に移り替わりしていた。
「へぇ、いろいろ咲いているのね」
不思議な場所、と言われる通り様々な草花に囲まれる小道。
いつも通りなら趣味の採取でも、と行くところだが。たまには趣味を忘れたっていいだろう。
「あら」
少し離れた場所に色とりどりの花々が咲く花畑を見つけたファルマは花の傍でしゃがみ込む。
「あなた達が固まって生きているのはたまたまなのかしら、それとも好んで?」
親しい存在に話すように、ファルマは気になっていた点を問いかける。
「受粉は虫が手伝ってくれるからきっと離れていても大丈夫でしょう?」
彼女の問いに応える物はない。もちろん彼女もわかっている。
「……やっぱり寂しいからくっついてるの?」
聞きたかったのだ。この花々が、自分と被って見えてしまったから。
なんて、ね。と話を終えると、彼女は立ち上がる。
『ここはいつでも、貴女を受け入れますよ』
「え?」
振り向いてもだれもいない。だが、確かに聞こえた。
「たまには悪くないかもね」
少しだけ微笑む彼女を優しく風が撫でた。
●
「うーん……」
既にとっぷりと日が暮れているのに、小道の外れでひたすらに頭を捻っているヘレム・カースワーズの姿があった。
何度考えても不思議なものだ、赤と青の二つの箱。
箱の中身は占い師が事前に決め、赤い箱には常に1万Gが、青い箱には占い師が「私が両方の箱を取る」と未来予知した場合は何も入れず、「青い箱だけ取る」と予知した場合は100万Gが入っている。
『何がそんなに気になるので?』
「ここで二つの選択肢を与えられたとして、青い箱だけを取るか、両方の箱を取るか、というところです」
予知の存在を考慮すれば青い箱だけ取って100万Gをもらうべき、けれどそのとき取らなかった赤い箱には1万Gが確実にはいっている。
「うーん……」
答えはなかなか出ない。
『確実に1万Gを得るか、それとも占い師を信じるか。という問題でしょうか』
「ですかね」
難しい。確実にお金を拾うか、大金を手にするチャンスにかけるか。
へレムの答えは当分出そうにない。
既に日が落ちた小道で一人、笑うように取り巻く風に囲まれながらへレムはひたすら頭を捻っていた。
●
「僕の生まれはリーンエス、兄と姉が一人ずついてね」
日も落ちた夕暮れ、レオナルド・ピーフォウルは空を見上げながら言葉を紡ぐ。
「姉はともかく、兄が困った人でね……学園時代に女性関係で何度も刺されかける人でさ」
冒険者を始めたのも、兄と似たような道を進みたくはなかったから。
そこまでは彼の生まれだった。
はぁ、と深いため息を吐く。
『でも、それだけを吐きに来たわけではないのでしょう?』
ああ、とレオナルドは頷く。
冒険者として独り立ちして、ようやく疑問を考えることができるようになっていた。
「女癖の悪い兄はさっさと結婚し、義姉は既に子を産んだ。それで僕は後継者の予備としての役目もなくなり、家を出ることが出来るようになった」
本当にただ、悪癖だけで生きていたのか。
今の自分の自由は、彼あってこそだったのではないか、と。
『ふふ、疑問を理解の一歩にできた。良い事じゃないですか』
「……かもしれないね」
一人で話しているだけだというのに、不思議と思考がまとまっていく。
見上げる夕暮れは、不思議と優しかった。
●
夕日に照らされ、辺りが夕焼け色に照らされる小道を行く影。
「やあ、この地にこれほど穏やかな場所があったとは……」
無数の花々の花畑、美しい湖畔を巡り、今は小さな小道を歩いているのはハリス・アル・ターミル。
いくつか手にした花を手に、帰路に就こうと思ったときふと目に入った。
「……? おや、ガガ殿。そちらで何を…?」
一つの樹を見上げたハリスが見たのは、枝に腰掛けながら夕焼けを眺めているギ・ガガの姿。
「ギ……コンバンハデゴザイマス。トナリクルデゴザイマス?」
慣れぬ言葉を発しながら、ガガはそっと枝の横にスペースを作ろうとする。
「はは、私では枝が折れましょう。ここに居ります」
とはいえ二人も乗ってしまえば枝は折れてしまいそうだ、という理由を付けてハリスはガガの座る樹の幹に体を寄りかける。
しばらく夕焼けを眺めていれば、ガガは冒険者になる前の自分のことを思い出す。
「ガガ殿の旅のお話はまだ聞いておりませんでしたな。お聞かせ願えますか」
「オイラノ……?」
だが、そういえば、と質問を投げかけたハリスのおかげで一度思考がリセットされる。
「イイデゴザイマスヨ」
ええ、と優しく微笑みかければガガは自らの過去を語りだす。
自身の容姿による同種からの迫害。だがそれでいて角を持つことから他種から受けた迫害。
とにかく居場所がなく、逃げて逃げて、旅を続けた事。
この夕焼けが、夜の、暴力の時間を告げるようで嫌いだった事。
ガガが語る間、ハリスはじっとその言葉を聞き入れた。
「……大変でしたね」
ガガはそれ以上語りはしなかった。
「イマノ、ユウヤケハ……キレイデ、マエムキニナレテ、スキ。デゴザイマス」
とってつけたよな片言の敬語を聞いていると、微笑ましくなる。
きっと彼は、平和だったはずの時代でも苦しんできて来たのだろう。だからこそ伝える。
「私も、友人と美しい風景を共にできる一時は、代えがたい宝と思っております」
友人。一切偽りのない本心。
真っ直ぐ伝えたその言葉を受けたガガは、表情こそ変えなかったものの、確かにその言葉を受け止めた。
「さて、酒場で食事に行きましょうか」
「ウン」
日が沈むのを見終えた二人は、共に帰路に就く。
暖かい風が優しく吹く道を、二人で。
●
「んーーーっ、いい風だな!」
月が高く上った風吹き小道。
大きく伸びをしながらアレン・ボールドウィンは全身でその身に風を浴びていた。
酒を飲んだ体にはちょうどいい風当たり。酔い覚ましには丁度いい。
しかし、ここでは風が語り掛けてくるだの、よくわからない話を聞いていた。
「おーい、誰かいんのか? 俺の悩みを聞いてくれるんだろ?」
アレンが声を上げれば、近くで風が揺れる。
「まぁ、俺に悩みなんざねぇんだけどな! ……うおっ!?」
ぶっきらぼうに笑えば、急に突風が吹きつけた。
「おお、本当にいるのかもな」
だが自分の物語はまだ始まったばかり。序盤も序盤の冒険譚、道行を阻む障害は何一つない。
それを知るか知らないか、風当たりが随分悪く叩きつけてくる。
「悪い悪い。ロスガリア大陸に名を馳せる男になったら、その時はまた改めてここに来てやるとするぜ」
そう言い切れば、風は吹きつけるのを止める。
「その時まで首を洗って待ってな!」
笑いながら、アレンは帰路に就く。
『その時まで気長に待ちますよ』
風が小さく、誰一人いない道で吹いた。
●
深夜。
深い森というわけでもないが、この時間は流石に深い所に入ると視界がふさがれがちだ。
木々も多い場所だが、それ故に月の光が合間から降り注いでいる。
「良い、風だ」
月の光を浴びながらサマエラ=フォリウムは歩いていた。
どこか懐かしく、葉のざわめきもあるのに、とても静かに感じる場所。
強く、独りであることを感じた。
なんとも自由で、だが同時に不自由で、自らが生まれるまでの母の気持ちがわかったような気がする。
だが、もはやその答えを持つ者はいない。
生きねば。それだけが唯一残されたもの、先を進むのに戸惑いなどはない。
だが。
「どうか」
もう一つだけ、我が儘を。願いを抱えていいのならば。
「貴女の眠りが、穏やかであらんことを」
祈り。
だが、純粋な想いを言葉として、風に乗せる。
「どうか」
安寧と眠りが、この夜の帳に包まれて、決して侵される事がないように、と。
月の光に照らされ、祈るサマエラを風が優しく包み込む。
それはまるで、母の腕に優しく包まれるように感じとれた。
●
賑やかな都でライラ・ペトラルカは新曲を作り、それを奏でた。
その帰り道。気ままな彼は噂の林道へと足を進めている。
都に比べればなんと物静かな場所だろうか。
「こればかりは冒険者ギルドに登録してよかったかな」
噂を知らねばたどり着けなかったかもしれない。
冒険者になって国の情勢やら世界の色々やらを知って、放浪の身ながら厄介ごとを抱え込んでしまってはいるけれど、きっとそれは『良い事』だ。
自分にとっての幸せはわからない。だが、このことはきっと世の中としては良いのだろう。
「そうだ」
林道の傍に見かけた湖畔。
その近くに腰を下ろしたライラは竪琴を取り出す。
吟遊詩人は音色を奏でる。聴衆に捧ぐ陽気な音色とは違う、吹き抜ける冬風のような冷たい涯の音。
「おや?」
音色に合わせて歌が響く。
言葉の意味が聞き取れないような、不思議な歌。
だがはっきりとわかる。歌い手も幸せはわからない、けれども。
幸せを探し続けることは、きっとできると。
宵闇のセッションは、しばらく続くだろう。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:無し25 / 4〜25人
2020年11月05日 11時33分15秒 公開
参加者
相談掲示板
やあ、諸君!! ウッド・B・ウードだ!! 特に予定は無いが、飛び込んでみたぞ。 よろしくな!
何も考えずにゴロゴロするのに最適だな…。 ティラミス・ノーレッジだ、宜しく頼むぜ。
ガガデゴザイマス 木ノ上ニ登ッテ、夕焼ケデモ、ミルデゴザイマス
ヘレム・カースワーズです。よろしくお願いします。 何をしましょうか……まだ思案中です!
キャスターの二ーラ・メッコよ。 よろしくね!
アレン・ボールドウィン。よろしく頼むな。 今んとこ、なーんにも考えてねぇぜ!
こんばんは! ヒーラーのユークリアです! 崩壊した帝国の事を思い出して哀愁とか出しちゃいますよ!
コルネリウス・アーラです。 まだやることは考え中ですが… 宜しくお願いします。
No.9
ユネスコです。 よろしくおねがいします。
スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。
ヴィナス。 よろしくね。 俺も色々考えたりするつもり。
リーザよ。リーザヴェールと言うの。 精霊の運ぶ風に花、なんて…とても素敵ね。 せっかくだもの皆様にも私にも素敵な風が吹きますように。
アヴェラよ。よろしくね。
ハリスと申します、どうぞ宜しく。
ゴブリン、サマエラ。よろしく。 夜風でも、感じておこう。
ファルマよ、まだ何をするかは考えている最中だけれどよろしくね。
流離の暇人ギドだよ、よろしく頼むなー。 なにしよっかねぇ、一人でゆっくり過ごせるなら歌の練習でもしようかな。
ルチルだ。よろしく。
俺はフィーレン。宜しくな。
エーファです。よろしくおねがいします。
アンゼリカよ。 今回はひとりで過ごす場所、ということだけれど。 いつかどこかで機会があれば、どうぞよろしく。