【学乱】パンクリアース学園動乱

――――床に頭を押し付けられるなど、果たしていつ以来か。
警戒心の不足を自嘲するほか無い。振り解こうにもその膂力は尋常の物ではなく。
そもそも彼――――『黒の後継』アルベイル・ライゼンナクトは授恵者でこそあるが。
1対1であればともかくも、熟練の冒険者6人を単独で制圧する様な力はない。
1学年主任として、公的に彼を呼び出した老教師、シメオン・ロッドウェルは。
自らの研究室の床に引き倒された生徒を、感情の無い冷めた目で見つめる。
全ては敬愛すべき主の為。学園を“住みやすい環境”にする事が、今の彼の最優先課題だ。
それを達成するには、先ず学生を纏めて捧げる必要があった。その為の尖兵も用意した。
学生が終わったら次は教師だ。そちらは彼にとっての盟友が既に動いている。
「……、何故、だ。と、問うのは……不適切……かな、シメオン教師」
体躯が軋む。静寂の領域に囚われ、四肢を2人の戦士に掴まれ。
廊下へと続く筈の唯一の扉は2人の盗賊が塞いでいる。まさに籠の鳥だ。
これが罠で無い筈がなく。けれど、アルベイルには心底不思議でならなかった。
シメオン教師は貴族派、かつ穏健派だ。彼の後ろ盾である校長と同一の派閥である。
加えて、一学年の主任。アルベイルにとっては2つ隣の教室の担任教師ですらある。
個人的怨恨を買った記憶も無く。学園内で対立する理由が何一つ無い利害の外の人間。
――――だからこそ、護衛の一人も付けず呼び出しに応じた訳だが。
その結果が、どう転ぶとこうなるのかが、全く以て腑に落ちない。
「何故? 優秀な君にしては珍しい質問だ。そうだな、では教師として模範解答を答えよう」
シメオン教師が、年齢に似合わないお洒落なチェーンを首から外す。
その首飾りに通されていたのは、安っぽい、銅貨一枚でお釣りが来る様な玩具の指輪。
30余年を教師として過ごし、伯爵家当主でもある老人が大切に身につける様な代物ではなく。
そして授恵者ならではの直感が。その指輪を見た瞬間に脳内へ激しく警鐘を鳴らす。
「敬愛だよ、ライゼンナクト少年。私は教師生活の最後にして自らの王を見定めた。
彼の御方の為ならば命すら惜しくはない――――!!」
その返答には、合理性の欠片もなく、感情に振り回されるどころの話ですらない。
瞳には、確かな狂気が宿っていた。理性で覆われて分かり難くなっていただけだ。
シメオン教師は、正気を保ちながら、確かな自意識で以て、完全に狂っていた。
そして、その要因が先の玩具の指輪であることは想像に難くなく――――
「巫山戯るな……! 俺に立場を追われた者が居る! 未来を見ている者が居る!
貴様の様な狂人に彼らの嘆きを、願いを踏み躙る権利などあって堪るものか……!」
少年の決死の抵抗など数の暴力の前には無力だ。咆哮し暴れる『竜』の仔を一瞥し老教師が嗤う。
彼は勝利するだろう、我らが君の為に。それは王国にとって真の革命の始まりになる筈だ。
「安心したまえ『黒の後継』――――君も、君の仲間達にも、きっと直ぐに分かる」
恭しく、首飾りを捧げる様に持った皺だらけの手が少年の首を括り――――
禍々しいエーテルを纏った安っぽい指輪が、昏く、鈍く光る。
●
パンクリアース学園学園長室。
学園長フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアスの懊悩は深い。
そもそもは先任の旧学園長。セオドア・グスタフが行方不明になった事に端を発する。
昨今、王党派が纏まって来た影響を受け貴族派の嫌がらせは小規模化を余儀なくされ。
それに伴い旧学園長の発言力は低下の一途を辿っていた。突然の失踪はその矢先の事。
或いはこれも何かの陰謀かと警戒を強めていた所、冒険者ギルドから情報提供依頼が重なり。
事態は急展開を迎えた。セオドア旧学園長が本来学園長引き継ぎの際に返還すべき紋具。
“魔法使いの塔の鍵”を個人的に秘匿していたことが身辺調査の結果判明したのだ。
その後、魔法使いの塔の内『禁忌』と呼ばれる1つの塔の封印が解除されていた事実が発覚。
該当の“魔法使い”『侵蝕感染者』マリステラ・コナーが解放されていることが冒険者ギルドとの照会の結果判明した。
「セオドア教師は、最早正気ではないと思って凡そ間違いありません」
フォルトゥナは冒険者ギルドの職員にそう応じると。学園からの全面的協力を確約。
これ以上特に生徒への被害者を出さない様に事態の早期決着を目指したが。
しかして以後2週間。セオドア旧学園長と、解放された『侵蝕感染者』の行方は未だ知れない。
『禁忌』に個体差はあれど、マリステラは国家的脅威と認定され殺処分寸前まで行った真性の怪物だ。
その固有の魔法については未知の部分が多く、冒険者ギルドへの情報共有も不完全な代物。
そんな危険分子を自由にさせる訳にはいかない。学園の衛兵には厳戒態勢を布かせているが……。
(私達が、生徒を守らなければ)
フォルトゥナは意を決し立ち上がると、学園長室を出て一路校長室へ向かう。
パンクリアース学園校長ジルワード・ファルゲンは貴族派の首魁の一人だ。本来敵対派閥に在る。
しかしそれはあくまで大人の事情。子供達に――――本来一切の責はない。
「ジルワード校長、少しお時間を頂けますか」
ノックへの応答は早く。それは恐らく――――どちらが先に動くか、と言う話でしか無かったのだろう。
フォルトゥナを招いたジルワードは、全てを承知の上と言う体で深く頷く。
「話は、存じ上げております。我々も同じ結論に達した。今は、教師同士で諍い合っている場合ではない様ですな」
パンクリアース学園、危急存亡の危機である。
元より同じ貴族派とは言え。穏健派は過激派を生贄の羊として白を切り通すつもりだった。
宿敵が自ら動いたこの機を逃す訳もなく。当のフォルトゥナもまた。それを端から読み切っている。
であれば、此処までは予定調和に過ぎず。そしてここからが本番だと――――言い換える事も出来るだろう。
刃を隠して互いの手を握る。その程度の腹芸こなせなければ高位貴族は務まらない。
これより先、学園教師陣はその総力を結集して冒険者ギルドとの連携体制を強める事となる。
それは或いは学園に。引いては王国貴族社会そのものに対する冒険者の存在感を強める事ともなるが。
果たして、この決断が吉とでるか凶と出るかは神ならぬ人の眼には遥か遠く――――
――――今は未だ、答えの出ない問掛けに過ぎない。
執筆:弓月蒼
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assignmentパンクリアース学園動乱 概要 特設ページ
【学乱】連動とは、リーンエス王国首都『グランスパーダ』内に存在する巨大教育施設『パンクリアース学園』における権力闘争から端を発し、王国内各地で表面化する王党派貴族と貴族派貴族の対立、 及びこれを利用して王家による支配体制を揺るがす『メドゥの指先』による暗躍を含む一連の事件を指す。
学園内の権力闘争と王国各地の騒動、いずれの結果も王国の未来を左右する物となる。
assignmentここまでの流れ(2021/8/1更新)
帝国崩壊により、リーンエス王国は「大陸において最も覇権に近い国」となった。
王国第二王子ウィリアム・リーンエスが帝室の遺児レイウェスト・バルダスを保護したことは正に千載一遇の好機であり、これを受けて王家は帝国再興に助力し国家間での絶対優位を確保することを国家の方針として打ち出す。
しかし、王国が抱える内患は根深く、王家と貴族の足並みの揃わなさは如何ともし難く。けれど時は値千金に勝る。
王家に任じられた新学園長フォルトゥナ主動で始まった“学園を拓き広く冒険者を受け入れる”という学園の大改革は、当初からはまるで予期せぬ流れを経て、王家を奉じる『王党派』貴族至上主義の『貴族派』、そして実力主義を謳う『学園派』という三派閥による選挙活動へ雪崩込んでいく。
一方冒険者を軽く見た結果、教師間の派閥争いにおいて敗走しつつあった旧学園長セオドアは法の一線を超えた。
王国が学園に封印した魔法使いの塔の『禁忌』を解放する事で自らの権勢の巻き返しを図るが……。
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person_pin関連NPC
王家から任命を受けたパンクリアース学園の新学園長であり、『白銀』の異名を持つクラティアス侯爵家の実質的最高権力者である女傑。『白銀』は王国王党派貴族の筆頭である『白薔薇』の分家筋に相当し、男性社会である王国貴族社交界において存在感を示す数少ない女性貴族でもある。
《本連動での動き》
学園内における王党派貴族の指導者として、自らの理念である「人は生まれに依って生きるに非ず」を実践するために教師陣を纏め上げ、庶民、貴族を問わず生徒の思想と学問の自由を守ろうと尽力する。学園職員の半数以上は貴族派貴族の息が掛かっており、順調とは言い難い。
かつては王党派に属し、王家から任命を受けたパンクリアース学園の元学園長。学園内での勤務を続ける内に貴族派貴族による懐柔を受けて転向した。という前歴から、王家に切り捨てられた初老の男。学問に深く精通し能力も高いが、過剰な自負と自尊心がそれを毀損して余り有る。敵としても味方としても面倒な人物。
《本連動での動き》
学園内における貴族派貴族の指導者として積極的に行動。学内の平穏を乱す新学園長と、それを庇護する王党派を学園内から一掃し、パンクリアース学園そのものを王都における貴族支配の拠点することを目的に王党派職員の追い出しと王党派子息の封殺に向けて策謀を巡らす。
が、その策謀は悉く冒険者たちの手によって阻まれ、急速に求心力を失いつつある。
更に貴族派教師の更迭により進退窮まった結果、暴挙とも言える最悪の手段「『禁忌』の解放」を選択する。
学園における実務のトップ。教師の旗印に相当する校長職に就いている中年の男。貴族派貴族ではあるものの、どちらかと言えば穏健派で一定の良識を持った合理主義者。政治的嗅覚の鋭い切れ者で、もしも此度の強硬的人事がなければいずれは学園長になっただろうとされる。旧学園長の抑え役兼、貴族派貴族の参謀役。
《本連動での動き》
学園内における旧学園長セオドアの補佐役として比較的穏健派である貴族派貴族を中心に、一定の勢力を保ちながら状況の趨勢を見守っている。派閥としては旧学園長側ではあるが新学園長との交流も断っておらず、その日和見な姿勢を過激な貴族派貴族には揶揄されつつも、動きは消極的である。
貴族派貴族の筆頭『黒鋼竜』ライゼンナクト公爵家の家督継承候補第一位。同家当主である祖父の意向でパンクリアース学園の1年生として入学を果たした。文武ともに優秀で何事も卒なくこなす秀才肌の人間だが、人間嫌いの厭世家。ジルワードを学園内での後見人としており、貴族派貴族の子息から一目置かれている。
《本連動での動き》
貴族派貴族の代表格『黒鋼竜』ライゼンナクト公爵家の御曹司。
学園内における諸々の柵を経て、第一学年にも関わらず生徒会長へ立候補。
選挙活動に際しても学園内貴族派生徒の約半数を傘下に加え、覇道を突き進む若き『竜』。
後見人であるジルワード校長共々学園内を貴族派主動で動かす事を是とし、その実現の為に精力的に活動を続けていた。
魔法使いの塔に閉じ込められた『禁忌』の中でも極めて脅威度が高く、封印まで施された魔法使いの1人。
学園内の老教師シメオン・ロッドウェルと前学園長セオドア・グスタフ、両者のかつての教え子。
他人のエーテルに自分のエーテルを植え付け“書き換え”る精神感応系魔法『侵蝕』を開発したことで、魔法使いの塔に封じられた。
《本連動での動き》
王党派への工作を目的としたセオドア・グスタフの要請に応え、何らかの関与を示す。
――果たして、その行く末は――?
menu_book関連用語・情報
パンクリアース学園
王国の貴族や騎士の子息子女が主として学ぶ名門校であり、彼らとの縁故を求めて国内外からの入学者も後を絶たない。平民や他国の者が入学するためには卒業生や寄付を行っている貴族・豪商らの「推薦状」を要することからも、選ばれし者のための学園とも呼ばれる。
パンクリアース学園について
パンクリアース学園施設案内
冒険者が学園生になるには?
本連動において、公認設定を得られているPCの場合、冒険者でも学園生、あるいは元学園生として扱われます。
詳しくは「ワールドガイド:リーンエス王国」の「※パンクリアース学園(2020/09/21更新)」をご確認ください。
今回の【学乱】連動の趨勢次第では、貴族やそれに準じる実力者の推薦無しでの入学が可能になる可能性があります。
聴講生
冒険者ギルドに所属する冒険者は、それが認められているものに限り各種授業や催し物などに参加することが可能です。
学園内に立ち入る冒険者の立場はシナリオに応じて「依頼をうけた冒険者」または「聴講生」となるため、その表明は原則不要です。
パンクリアース学園生徒会
パンクリアース学園における生徒達の象徴として存在する筈の組織。その実情は、家格と成績によって並べられた生徒の中で上位5名が属する、卒業後の特権的立ち位置を保証する特別評価装置。選挙らしき物も表沙汰にならなくなって久しく、当選者は教師陣による談合により決定される為、殆どの在校生にとって無関係なものと化している。
形骸化する以前の残滓として生徒の自主自律を助ける為の権限なども書類上は残されているが、利用されたことは未だかつてない。
学園内派閥について
王党派
『白薔薇』を筆頭に、王国外縁に位置する家を中心とした、王家を支える貴族たち。あくまで王に臣下としての貴族の役割に徹する者達であり、多くは保守主義者。領地が外敵と接する者が多い所為もあり、人同士の争いは禁忌であると考えている。
貴族派(2021/7/4更新)
『黒鋼竜』を筆頭に、貴族原理主義的思想に染まった、王権を拒む貴族たち。
あくまで王家の臣下を演じつつ、自らの権利を守ろうとする穏健派と、王家を廃しいずれは自らが王権を奪おうと画策する過激派が入り混じっていたが、教師間の勢力図において過激派が衰退の色を見せたことで穏健派による過激派の切り捨てが進みつつある。
学園派(2021/7/4追加)
学園を「“能力が有る者が身分を問わず入れる場所へ”しようとする」派閥。
主軸となっているのは冒険者ながら「王党派、貴族派問わず思想に共感する人間であれば受け入れる」という形で王党派、中立派、及び商人などの庶民に対する窓口となる担当者を持っている。
全体的に若年層(低学年層)が多く、上級生に対する訴求力が弱い。
また、一般的な貴族派からすると既得権益を削ごうとする勢力であることに変わりはない為、実質第三勢力かつ敵対派閥という立ち位置。
パンクリアース学園長
パンクリアース学園における「対外的な指導者」であり外交の窓口。学園の風潮、主義、思想の象徴であるとも言え、その任命権は王家に在る。ただし対外的指導者と言うことは軽々しく入れ替え出来ないと言う意味でもあり、前学園長セオドアの解任と新学園長フォルトゥナの就任という此度の強硬的人事は過去を遡っても殆ど例のない、極めて異例な物。
パンクリアース学園校長
パンクリアース学園における「実務のトップ」であり総合経営管理職。学園の屋台骨と言い換えることも出来る、内部的な経営指導者。十分な家格を持ち、かつ能力が確かな教員から選抜される「エリート教員の終着点」。 血統だけでなく実力と成果が求められる分、学園人事にも強い影響力を持つ。
『白薔薇』アルヴァローエン公爵家
リーンエス王国における貴族の筆頭格『二大公家』の一角。白き公爵家。始まりの百家は序列第三位。王家、大オアシスの領主に次ぐ家格を持つ王家の親戚。過去幾度も王家からの降嫁が行われている為、もし王家の次代が絶えた場合、次の王は『白薔薇』から選出される。と言う程に王国の中枢に在る名家中の名家。
『白銀』クラティアス侯爵家
アルヴァローエンの血統で主家に最も近い分家。白銀の侯爵家。白薔薇の系譜としては代表的な”強い”貴族であり、王党派内での発言力も相当な物。現当主の実母であるフォルトゥナは、事実上同家の最高権力保有者であると言える。
『黒鋼竜』ライゼンナクト公爵家
リーンエス王国における貴族の筆頭格『二大公家』の一角。黒き公爵家。始まりの百家に含まれない元オアシスの一領主が、商才を駆使して成り上がった物。『白薔薇』の様に古式ゆかしい確かな血統ではないが、情報戦と経済戦に極めて強く、対立する家を不祥事の暴露と多額の貸付金で傘下に治め続ける王国経済界の覇王。
『禁忌』(2021/7/4追加)
学園職員の最上位層にしか伝わっていない学園が封じ、外に出すべからざる存在。
魔法使いの塔の一角に収容されており、封印を解くには王家か学園長が厳重に管理している特殊な鍵が必要。
『禁忌』は一代にして世界の常識を覆す可能性のあるヒト族の突然変異と言って良く、その危険度と重要度の高さから、接触出来る人間を極力絞る必要があった。