【学乱】パンクリアース学園動乱

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「御機嫌よう皆様。本日より当学園の学園長に赴任しました。フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアスです。どうぞ宜しくお願い致します」

 入学式より凡そ一ヶ月。
 リーンエス王国の高等教育機関、パンクリアース学園は実質凪の状態にあった。

 これと言って特別何が起こるでも無く。日々のカリキュラムを淡々と消化する日々。
 新入生も独自の交友関係を築き始めると、貴族社会にありがちな派閥も生まれ始める。

「さて、皆様。在校者も、聴講生も、勿論、学園を管理する側の人間も含めた。今、私の声を聞く全ての方にお尋ねしたいことがあり、今日は皆様にお集まり頂きました」

 そう、それは良く晴れた日。突然の、予定に無かった全校集会。集められた大勢の人びと。
 本来集会に呼ばれるはずも無い用務員や事務員まで揃えられた体育館の壇上で。

 白銀の髪の、如何にも育ちの良さそうな初老の女が朗々とした声を上げている。

「皆様はこの学園を愛していますか。国の未来を担う旗手としての志を抱いていますか。私は此処に、皆様の想いを問う為に参りました。問い、質し、確認する為に」

 進行役の校長が、予定にない新学園長の演説を呆気に取られた様に見上げていた。
 いや、それは校長だけではない。集められた者は皆、呆然と聞き入ることしか出来ない。

 何せ、彼らの大半は学生子供であり。そうでない職員達は学園を腰掛けとしか考えていない貴族が殆どだ。

「貴族の子女、そして当主たる者に問います。私達は貴族です。貴族とは国家の支柱を担う者。ですがそれは、本当にそうでしょうか。この国は、私達だけが支えているのでしょうか。貴方の隣に居る方々は如何ですか」

 だからこそ、それは文字通り。長く。永く停滞を続けていた学園にとって。
 青天の霹靂に他ならない。自らの隣り合う人間に視線を向ける。

「――――私は皆様に問いかけます。学園は、この国は、地に生きる万人の物です。私達は学園生たる資格を貴族かその縁者と言う身分で選んできました。ですがそれは、本当に正しい事でしたか」

 パンクリアース学園において。『学園長』の指名権は"王家にある"のだ。
 その意味も、重さも、生徒はともかく教師陣は重々承知している。誰一人、声を挟まない。

「私は皆様に問います。例え耳を塞がれようとも、届くまで何度でも問いましょう。貴族の為の学園。貴族とその目に叶う者のみが集う学びの園。国家安寧を願う者は、果たして貴族だけですか」

 言葉の意を解するに至り、今。この場で行われていることが何なのかが浸透する。
 こんなもの、就任の挨拶でも。額面通りの。生徒や教師に対する問い掛けでも、ない。

「人は生まれに依って、縁故に依って生きるに非ず。立ちなさい若人よ、己が知性に、誠意に問いなさい。もしも貴方達がこの国の未来を真に背負うなら、私は必ず貴方達の想いに応えましょう」

 これは――――

「――――今こそが、革新の時です」

 王家から貴族派貴族に対しての"宣戦布告"だ。

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「何だ、あの無礼な女は……――――ッ!!!」

 校長室の黒い壁に叩きつけられた洋杯ワイングラスが、澄んだ音を立てて砕け散る。
 神経質そうな初老の男の激昂に、背に控えた壮年の男が聞こえない程度に小さく呼気を零す。

「落ち着いて下さい、『学園長』」
「これが落ち着いていられるか!! あの女狐、如何やって王家を誑し込んだか知らんが。あれが学園長だと? 栄光あるパンクリアース学園の旗手にはまるで不適格ッ! 甚だしいッ!!」

 初老の男、セオドア・グスタフは『パンクリアース学園長』であるフォルトゥナの先任者である。つまり正しくは元学園長であるが、表向きはともかく心底ではその事を受け入れてはいなかった。
 元々王党派だったが、王国内に蔓延する貴族主義にすっかり染まり貴族派に転向した、と言う。

 任命した王家からすれば裏切者にも等しい立ち位置の人間だが、その外交手腕は確かな物。
 学園の"外的象徴"である『学園長』は、貴族社会に深く根を張っている人物でなければ務まらない。

(彼は切り捨て、敵対するには厄介な人物の筈だが、王家にはよほどの理由が……十中八九、帝国・同盟関連か)

 対して、それを見守り黙考する壮年の男。
 ジルワード・ファルゲンは学園の"内的責任者"である『校長』だ。生粋の貴族派貴族である。
 
 他貴族との外部調整を担う『学園長』と内部職員の人事権を握る『校長』。
 この両輪が共に貴族派貴族であったことで、学園は此処まで貴族の園として発展してきた。

 例え王家に『学園長』の指名権が有ったところで、王党派が割り込む隙など無い。
 セオドアにせよ、ジルワードにせよ、その程度には有能だったし、瑕疵も無い筈だった。

「対策は打たねばなりますまい」

 だが実際は。王家による強権的人事の強制力は想定以上だった。
 セオドアも随分と抵抗したが、就任を一ヶ月遅らせてまで無理を通して来るとは。

 結果として『学園長』職を不本意に降ろされたセオドアの反応は劇的だ。
 当然今回はたまたま、と言うだけの話。『校長』職に留まったジルワードとて対岸の火事とは言っていられない。

「当然であろう! 儂を虚仮にしておいて無傷で済ます物か……! おのれ、おのれおのれおのれ……! 王家め、王党派貴族共め、思い知らせてくれる!」

 かつてフォルトゥナは領地発展に辣腕を振るった女傑と知られている。
 が、王国の貴族社会はあくまで男性優位。そして領地経営と学園運営はわけが違う。

 就任直後立て続けに不祥事でも起こしてしまえば、例え王家とて庇い切れる物ではない。
 つけ込む隙なら幾らでもあると考えを纏め、ジルワードもまた静かに頷く。

「そうですな、教師陣、それに学生にも強く言い含めておきましょう。貴族派われらに逆らうと、どうなるのか」

 一瞬、最近学園に出入りする様になった聴講生ぼうけんしゃという異物の事が頭に過ぎったが。
 そんな懸念は校長室を出る頃にはすっかり忘れ去っていた。

 自由と権利、そんな物は恵まれた者だけの特権で良い。能力主義など血を軽んじる者の戯言だ。
 彼ら貴族派にとっては何処までも、貴族でない者は人間に含まれていないのだから。


執筆:弓月蒼

assignmentパンクリアース学園動乱 概要 特設ページ

【学乱】連動とは、リーンエス王国首都『グランスパーダ』内に存在する巨大教育施設『パンクリアース学園』における権力闘争から端を発し、王国内各地で表面化する王党派貴族と貴族派貴族の対立、 及びこれを利用して王家による支配体制を揺るがす『メドゥの指先』による暗躍を含む一連の事件を指す。
学園内の権力闘争と王国各地の騒動、いずれの結果も王国の未来を左右する物となる。

assignmentここまでの流れ

帝国崩壊により、リーンエス王国は「大陸において最も覇権に近い国」となった。
王国第二王子ウィリアム・リーンエスが帝室の遺児レイウェスト・バルダスを保護したことは正に千載一遇の好機であり、これを受けて王家は帝国再興に助力し国家間での絶対優位を確保することを国家の方針として打ち出す。
しかし、王国が抱える内患は根深く、王家と貴族の足並みの揃わなさは如何ともし難く。けれど時は値千金に勝る。
王家は、入学者推薦枠の独占に始まり様々な点で貴族の特権の象徴と言える『パンクリアース学園』に生まれや育ちによらず冒険者を受け入れる、という形でメスを入れ、悪習の切り崩しを測る。
一方貴族達もまた、このような強硬策を打った王家に対し苛烈なまでの反発を示すは必然であると言えた。
王家と貴族。貴族派と王党派。隠され続けた対立は、彼の地を舞台に遂に表面化を余儀なくされる。

person_pin関連NPC

王家から任命を受けたパンクリアース学園の新学園長であり、『白銀』の異名を持つクラティアス侯爵家の実質的最高権力者である女傑。『白銀』は王国王党派貴族の筆頭である『白薔薇』の分家筋に相当し、男性社会である王国貴族社交界において存在感を示す数少ない女性貴族でもある。

《本連動での動き》

学園内における王党派貴族の指導者として、自らの理念である「人は生まれに依って生きるに非ず」を実践するために教師陣を纏め上げ、庶民、貴族を問わず生徒の思想と学問の自由を守ろうと尽力する。学園職員の半数以上は貴族派貴族の息が掛かっており、順調とは言い難い。

かつては王党派に属し、王家から任命を受けたパンクリアース学園の元学園長。学園内での勤務を続ける内に貴族派貴族による懐柔を受けて転向した。という前歴から、王家に切り捨てられた初老の男。学問に深く精通し能力も高いが、過剰な自負と自尊心がそれを毀損して余り有る。敵としても味方としても面倒な人物。

《本連動での動き》

学園内における貴族派貴族の指導者として積極的に行動。学内の平穏を乱す新学園長と、それを庇護する王党派を学園内から一掃し、パンクリアース学園そのものを王都における貴族支配の拠点することを目的に王党派職員の追い出しと王党派子息の封殺に向けて策謀を巡らす。

学園における実務のトップ。教師の旗印に相当する校長職に就いている中年の男。貴族派貴族ではあるものの、どちらかと言えば穏健派で一定の良識を持った合理主義者。政治的嗅覚の鋭い切れ者で、もしも此度の強硬的人事がなければいずれは学園長になっただろうとされる。旧学園長の抑え役兼、貴族派貴族の参謀役。

《本連動での動き》

学園内における旧学園長セオドアの補佐役として比較的穏健派である貴族派貴族を中心に、一定の勢力を保ちながら状況の趨勢を見守っている。派閥としては旧学園長側ではあるが新学園長との交流も断っておらず、その日和見な姿勢を過激な貴族派貴族には揶揄されつつも、動きは消極的である。

アルベイル・ライゼンナクト

貴族派貴族の筆頭『黒鋼竜』ライゼンナクト公爵家の家督継承候補第一位。同家当主である祖父の意向でパンクリアース学園の1年生として入学を果たした。文武ともに優秀で何事も卒なくこなす秀才肌の人間だが、人間嫌いの厭世家。ジルワードを学園内での後見人としており、貴族派貴族の子息から一目置かれている。

《本連動での動き》

家は貴族派貴族の代表格であるものの、学園内派閥に対して不干渉を貫いている。後見人であるジルワードの顔を立てる為に、学園内では貴族派貴族の子息で成る派閥的な物には属しているものの、彼にとって“下々の者”に相当する同年代の貴族派貴族の主張そのものにあまり興味がない。

menu_book関連用語・情報

パンクリアース学園

王国の貴族や騎士の子息子女が主として学ぶ名門校であり、彼らとの縁故を求めて国内外からの入学者も後を絶たない。平民や他国の者が入学するためには卒業生や寄付を行っている貴族・豪商らの「推薦状」を要することからも、選ばれし者のための学園とも呼ばれる。

パンクリアース学園について

パンクリアース学園施設案内

冒険者が学園生になるには?

本連動において、公認設定を得られているPCの場合、冒険者でも学園生、あるいは元学園生として扱われます。
詳しくは「ワールドガイド:リーンエス王国」の「※パンクリアース学園(2020/09/21更新)」をご確認ください。
今回の【学乱】連動の趨勢次第では、貴族やそれに準じる実力者の推薦無しでの入学が可能になる可能性があります。

聴講生

冒険者ギルドに所属する冒険者は、それが認められているものに限り各種授業や催し物などに参加することが可能です。
学園内に立ち入る冒険者の立場はシナリオに応じて「依頼をうけた冒険者」または「聴講生」となるため、その表明は原則不要です。

王党派

『白薔薇』を筆頭に、王国外縁に位置する家を中心とした、王家を支える貴族たち。あくまで王に臣下としての貴族の役割に徹する者達であり、多くは保守主義者。領地が外敵と接する者が多い所為もあり、人同士の争いは禁忌であると考えている。

貴族派

『黒鋼竜』を筆頭に、貴族原理主義的思想に染まった、王権を拒む貴族たち。あくまで王家の臣下を演じつつ、自らの権利を守ろうとする穏健派と、王家を廃しいずれは自らが王権を奪おうと画策する過激派が入り混じっている。

パンクリアース学園長

パンクリアース学園における「対外的な指導者」であり外交の窓口。学園の風潮、主義、思想の象徴であるとも言え、その任命権は王家に在る。ただし対外的指導者と言うことは軽々しく入れ替え出来ないと言う意味でもあり、前学園長セオドアの解任と新学園長フォルトゥナの就任という此度の強硬的人事は過去を遡っても殆ど例のない、極めて異例な物。

パンクリアース学園校長

パンクリアース学園における「実務のトップ」であり総合経営管理職。学園の屋台骨と言い換えることも出来る、内部的な経営指導者。十分な家格を持ち、かつ能力が確かな教員から選抜される「エリート教員の終着点」。 血統だけでなく実力と成果が求められる分、学園人事にも強い影響力を持つ。

パンクリアース学園生徒会

パンクリアース学園における生徒達の象徴として存在する筈の組織。その実情は、家格と成績によって並べられた生徒の中で上位5名が属する、卒業後の特権的立ち位置を保証する特別評価装置。選挙らしき物も表沙汰にならなくなって久しく、当選者は教師陣による談合により決定される為、殆どの在校生にとって無関係なものと化している。
形骸化する以前の残滓として生徒の自主自律を助ける為の権限なども書類上は残されているが、利用されたことは未だかつてない。

『白薔薇』アルヴァローエン公爵家

リーンエス王国における貴族の筆頭格『二大公家』の一角。白き公爵家。始まりの百家は序列第三位。王家、大オアシスの領主に次ぐ家格を持つ王家の親戚。過去幾度も王家からの降嫁が行われている為、もし王家の次代が絶えた場合、次の王は『白薔薇』から選出される。と言う程に王国の中枢に在る名家中の名家。

『白銀』クラティアス侯爵家

アルヴァローエンの血統で主家に最も近い分家。白銀の侯爵家。白薔薇の系譜としては代表的な”強い”貴族であり、王党派内での発言力も相当な物。現当主の実母であるフォルトゥナは、事実上同家の最高権力保有者であると言える。

『黒鋼竜』ライゼンナクト公爵家

リーンエス王国における貴族の筆頭格『二大公家』の一角。黒き公爵家。始まりの百家に含まれない元オアシスの一領主が、商才を駆使して成り上がった物。『白薔薇』の様に古式ゆかしい確かな血統ではないが、情報戦と経済戦に極めて強く、対立する家を不祥事の暴露と多額の貸付金で傘下に治め続ける王国経済界の覇王。

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