【学乱】パンクリアース学園動乱

それは偽ヤコブ――――こと。貴族派教師、アルバート・ゼーベインが拘留所へ入れられる直前。
フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアスは珍しく学園の外に居た。
即ち、憲兵の詰め所に、である。
学園教師の不祥事として、毒蜥蜴を用いた貴族の殺人未遂は決してありふれた物とは言えない。
そういった不祥事の可能性があるとして、事前に憲兵側にまで話が伝わっていなければ。
学園長にまで直接早馬がとばされる事も無かったろう。まさか本当に呼ばれる事になるとは。
「誤解です! 誤解ですよ!! 貴族であり教師であるこのワタシが――――!」
「いいえ、厳密には今日からは教師では有りませんよ。ゼーペイン元教師」
――――過激派貴族教師の懲戒免職。その報は、学園教師の仲を瞬く間に伝播した。
唯でさえ、冒険者との間の揉め事を起こした"伯爵家が焼けた"などと話題に事欠かない最中。
此処に来て。過激派貴族への天誅と言って良い新学園長の決断に、王党派教師は沸き立った。
これからは憲兵や王都に詰める王家直属の騎士団の目も厳しくなることだろう。
貴族派にとっては強烈な逆風だ。首魁である旧学園長の求心力は間違いなく削がれる事となる。
そしてそれは当然、貴族派のもう片翼。穏健派である『校長』にも言える話であり。
「どうなされるのですか、校長」
――――第6学年主任。一般教師の中では最も発言力が有ると思しき男が直接校長室へ訪れる。
それは自体が其処まで窮しているという事だ。貴族派教師は追い詰められている。
過激派にせよ穏健派にせよ、聴講生の存在を明らかに軽く見過ぎていた。
今更の話であり認め難い事実では有るが。校長――――ジルワード・ファルゲンすらもまた。
「止むを得まい。傷と腐敗は広がる前に抑えねばならない」
過激派を切り捨てる――――と。暗に告げた校長の言に学年主任が一瞬黙り込むも。
その程度の利害判断が出来なければ"黒い公爵家の血族"などやってはいられない。
これは必要な対処であり、処置だった。ここで王党派に席巻される訳にはいかず。
そして何より……校長の側にもまた、"過激派貴族への不信が募っていた"のだから。
――――そして。渦中の旧学園長。セオドア・グスタフは。
「おのれ……おのれ、おのれおのれおのれ、無能共! 屑共! 役立たず共が……ッ!!」
学園には、指導者の立ち位置に居る人間にしか伝わっていない幾つかの秘密がある。
その一つ。『禁忌』……つまり、世間に到底出せない"特異な能力を有する人間"の所在。
無数に立ち並ぶ魔法使いの塔の一つ、厳重な封印を学園長室から盗み出した鍵で解錠するのは。
この百年で最悪と呼ばれた『禁忌』――――『侵蝕』の魔法使いの――――それ。
手段を選んでいられなくなった過激派は、超えてはならない一線を超える。
澱みは、目に見えない場所で静かに……静かに、滲み出す。
●
数日後、パンクリアース学園学園長室。
「お目通りが叶い光栄です。『白銀の暴君』フォルトゥナ卿」
「あらあら……そんな懐かしい名前を持ち出されても面映い事です。お祖父様はお元気ですか?」
その日――――面談の約束を取り付け学園長室への訪れていたのは。
学園が誇る二大公爵家。その黒の後継者アルベイル・ライゼンナクトである。
間もなく、パンクリアース学園は選挙月間に突入する。学園生徒会総選挙は実に2ヶ月続く重大行事だ。
昨今は出来レースであることが当然とされ生徒の興味も失われて久しかったが。
今年はそうは行かない。学園の未来を掛けて貴族派の学園生が既に丁丁発止とやりあっている。
王党派求心力を持つ個人に乏しく今は足踏みを続けている様だが――――
「あれから精力を奪ったら何も残らない。などと言う話は良くご存知では?」
「そうですね、でなければ『黒鋼竜』は務まりません」
互いに揶揄する様な言葉を投げ合うも。当然それが本題ではない。
無駄を嫌う黒の後継は、そういった一見穏やかな対話を切るように一気に切り込む。
「私は出馬します。先輩から発破を掛けられまして、此処で退いては『竜』とは呼べない」
「なるほど。つまりこれは、宣戦布告ですか?」
穏やかに問い掛けるフォルトゥナに。アルベイルははっきりと頭を振る。
もしそうであれば結果を出すだけで事足りる。彼は自ら確約したのだ。"正攻法"で勝利すると。
「現段階では貴族派に対し、王党派。それと中立――――いや、"学園派"でしたか。
冒険者軸の派閥が先日立ったと聞きますが、彼らが余りに不利です。均一化を図りたい」
彼はつまりこう言っている。有利不利を極力無くす施策を打てと。
生徒会長でも無いのに学園長に直談判とは、その行動力にフォルトゥナが思わず笑いを零すも。
「確約はしかねます。貴方のそれは生徒の総意とは言えませんから」
「総意など待っていては――――意味がない」
言い募る『黒の後継』に。やはり未だ若い、と感じながらも。
で、あれば――――と詳らかにした一つの提案。それはあくまで此処だけの話だった筈だ。
けれど人の口に戸は立てられない。一夜明ければそれは此処だけの話に留まらず。
学園は突然何処からか湧いたその話に色めき立つ。特に、貴族社会の柵に縛られていた人々にとって。
"総選挙は無記名投票にて執り行う。投票には生徒会役員及び最も注目する人物を記載すること"
――――晴天の霹靂に、他ならない。
執筆:弓月蒼
assignmentパンクリアース学園動乱 概要 特設ページ
【学乱】連動とは、リーンエス王国首都『グランスパーダ』内に存在する巨大教育施設『パンクリアース学園』における権力闘争から端を発し、王国内各地で表面化する王党派貴族と貴族派貴族の対立、 及びこれを利用して王家による支配体制を揺るがす『メドゥの指先』による暗躍を含む一連の事件を指す。
学園内の権力闘争と王国各地の騒動、いずれの結果も王国の未来を左右する物となる。
assignmentここまでの流れ
帝国崩壊により、リーンエス王国は「大陸において最も覇権に近い国」となった。
王国第二王子ウィリアム・リーンエスが帝室の遺児レイウェスト・バルダスを保護したことは正に千載一遇の好機であり、これを受けて王家は帝国再興に助力し国家間での絶対優位を確保することを国家の方針として打ち出す。
しかし、王国が抱える内患は根深く、王家と貴族の足並みの揃わなさは如何ともし難く。けれど時は値千金に勝る。
王家は、入学者推薦枠の独占に始まり様々な点で貴族の特権の象徴と言える『パンクリアース学園』に生まれや育ちによらず冒険者を受け入れる、という形でメスを入れ、悪習の切り崩しを測る。
一方貴族達もまた、このような強硬策を打った王家に対し苛烈なまでの反発を示すは必然であると言えた。
王家と貴族。貴族派と王党派。隠され続けた対立は、彼の地を舞台に遂に表面化を余儀なくされる。
person_pin関連NPC
王家から任命を受けたパンクリアース学園の新学園長であり、『白銀』の異名を持つクラティアス侯爵家の実質的最高権力者である女傑。『白銀』は王国王党派貴族の筆頭である『白薔薇』の分家筋に相当し、男性社会である王国貴族社交界において存在感を示す数少ない女性貴族でもある。
《本連動での動き》
学園内における王党派貴族の指導者として、自らの理念である「人は生まれに依って生きるに非ず」を実践するために教師陣を纏め上げ、庶民、貴族を問わず生徒の思想と学問の自由を守ろうと尽力する。学園職員の半数以上は貴族派貴族の息が掛かっており、順調とは言い難い。
かつては王党派に属し、王家から任命を受けたパンクリアース学園の元学園長。学園内での勤務を続ける内に貴族派貴族による懐柔を受けて転向した。という前歴から、王家に切り捨てられた初老の男。学問に深く精通し能力も高いが、過剰な自負と自尊心がそれを毀損して余り有る。敵としても味方としても面倒な人物。
《本連動での動き》
学園内における貴族派貴族の指導者として積極的に行動。学内の平穏を乱す新学園長と、それを庇護する王党派を学園内から一掃し、パンクリアース学園そのものを王都における貴族支配の拠点することを目的に王党派職員の追い出しと王党派子息の封殺に向けて策謀を巡らす。
学園における実務のトップ。教師の旗印に相当する校長職に就いている中年の男。貴族派貴族ではあるものの、どちらかと言えば穏健派で一定の良識を持った合理主義者。政治的嗅覚の鋭い切れ者で、もしも此度の強硬的人事がなければいずれは学園長になっただろうとされる。旧学園長の抑え役兼、貴族派貴族の参謀役。
《本連動での動き》
学園内における旧学園長セオドアの補佐役として比較的穏健派である貴族派貴族を中心に、一定の勢力を保ちながら状況の趨勢を見守っている。派閥としては旧学園長側ではあるが新学園長との交流も断っておらず、その日和見な姿勢を過激な貴族派貴族には揶揄されつつも、動きは消極的である。
貴族派貴族の筆頭『黒鋼竜』ライゼンナクト公爵家の家督継承候補第一位。同家当主である祖父の意向でパンクリアース学園の1年生として入学を果たした。文武ともに優秀で何事も卒なくこなす秀才肌の人間だが、人間嫌いの厭世家。ジルワードを学園内での後見人としており、貴族派貴族の子息から一目置かれている。
《本連動での動き》
家は貴族派貴族の代表格であるものの、学園内派閥に対して不干渉を貫いている。後見人であるジルワードの顔を立てる為に、学園内では貴族派貴族の子息で成る派閥的な物には属しているものの、彼にとって“下々の者”に相当する同年代の貴族派貴族の主張そのものにあまり興味がない。
menu_book関連用語・情報
パンクリアース学園
王国の貴族や騎士の子息子女が主として学ぶ名門校であり、彼らとの縁故を求めて国内外からの入学者も後を絶たない。平民や他国の者が入学するためには卒業生や寄付を行っている貴族・豪商らの「推薦状」を要することからも、選ばれし者のための学園とも呼ばれる。
パンクリアース学園について
パンクリアース学園施設案内
冒険者が学園生になるには?
本連動において、公認設定を得られているPCの場合、冒険者でも学園生、あるいは元学園生として扱われます。
詳しくは「ワールドガイド:リーンエス王国」の「※パンクリアース学園(2020/09/21更新)」をご確認ください。
今回の【学乱】連動の趨勢次第では、貴族やそれに準じる実力者の推薦無しでの入学が可能になる可能性があります。
聴講生
冒険者ギルドに所属する冒険者は、それが認められているものに限り各種授業や催し物などに参加することが可能です。
学園内に立ち入る冒険者の立場はシナリオに応じて「依頼をうけた冒険者」または「聴講生」となるため、その表明は原則不要です。
王党派
『白薔薇』を筆頭に、王国外縁に位置する家を中心とした、王家を支える貴族たち。あくまで王に臣下としての貴族の役割に徹する者達であり、多くは保守主義者。領地が外敵と接する者が多い所為もあり、人同士の争いは禁忌であると考えている。
貴族派(2021/7/4更新)
『黒鋼竜』を筆頭に、貴族原理主義的思想に染まった、王権を拒む貴族たち。
あくまで王家の臣下を演じつつ、自らの権利を守ろうとする穏健派と、王家を廃しいずれは自らが王権を奪おうと画策する過激派が入り混じっていたが、教師間の勢力図において過激派が衰退の色を見せたことで穏健派による過激派の切り捨てが進みつつある。
学園派(2021/7/4追加)
学園を「“能力が有る者が身分を問わず入れる場所へ”しようとする」派閥。
主軸となっているのは冒険者ながら「王党派、貴族派問わず思想に共感する人間であれば受け入れる」という形で王党派、中立派、及び商人などの庶民に対する窓口となる担当者を持っている。
全体的に若年層(低学年層)が多く、上級生に対する訴求力が弱い。
また、一般的な貴族派からすると既得権益を削ごうとする勢力であることに変わりはない為、実質第三勢力かつ敵対派閥という立ち位置。
パンクリアース学園長
パンクリアース学園における「対外的な指導者」であり外交の窓口。学園の風潮、主義、思想の象徴であるとも言え、その任命権は王家に在る。ただし対外的指導者と言うことは軽々しく入れ替え出来ないと言う意味でもあり、前学園長セオドアの解任と新学園長フォルトゥナの就任という此度の強硬的人事は過去を遡っても殆ど例のない、極めて異例な物。
パンクリアース学園校長
パンクリアース学園における「実務のトップ」であり総合経営管理職。学園の屋台骨と言い換えることも出来る、内部的な経営指導者。十分な家格を持ち、かつ能力が確かな教員から選抜される「エリート教員の終着点」。 血統だけでなく実力と成果が求められる分、学園人事にも強い影響力を持つ。
パンクリアース学園生徒会
パンクリアース学園における生徒達の象徴として存在する筈の組織。その実情は、家格と成績によって並べられた生徒の中で上位5名が属する、卒業後の特権的立ち位置を保証する特別評価装置。選挙らしき物も表沙汰にならなくなって久しく、当選者は教師陣による談合により決定される為、殆どの在校生にとって無関係なものと化している。
形骸化する以前の残滓として生徒の自主自律を助ける為の権限なども書類上は残されているが、利用されたことは未だかつてない。
『白薔薇』アルヴァローエン公爵家
リーンエス王国における貴族の筆頭格『二大公家』の一角。白き公爵家。始まりの百家は序列第三位。王家、大オアシスの領主に次ぐ家格を持つ王家の親戚。過去幾度も王家からの降嫁が行われている為、もし王家の次代が絶えた場合、次の王は『白薔薇』から選出される。と言う程に王国の中枢に在る名家中の名家。
『白銀』クラティアス侯爵家
アルヴァローエンの血統で主家に最も近い分家。白銀の侯爵家。白薔薇の系譜としては代表的な”強い”貴族であり、王党派内での発言力も相当な物。現当主の実母であるフォルトゥナは、事実上同家の最高権力保有者であると言える。
『黒鋼竜』ライゼンナクト公爵家
リーンエス王国における貴族の筆頭格『二大公家』の一角。黒き公爵家。始まりの百家に含まれない元オアシスの一領主が、商才を駆使して成り上がった物。『白薔薇』の様に古式ゆかしい確かな血統ではないが、情報戦と経済戦に極めて強く、対立する家を不祥事の暴露と多額の貸付金で傘下に治め続ける王国経済界の覇王。
『禁忌』(2021/7/4追加)
学園職員の最上位層にしか伝わっていない学園が封じ、外に出すべからざる存在。
魔法使いの塔の一角に収容されており、封印を解くには王家か学園長が厳重に管理している特殊な鍵が必要。
『禁忌』は一代にして世界の常識を覆す可能性のあるヒト族の突然変異と言って良く、その危険度と重要度の高さから、接触出来る人間を極力絞る必要があった。