未来はきみの手のなかに

コースケ

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シナリオID:3513

オープニング

●リーンエス王国
 パンクリアース学園、特別棟内の一区画にある生徒会室。机に座り、金色の髪の少女が書類と格闘していた。この春から学園の生徒会長となる、リエル・サンウッドである。
 リエルは前年度の生徒会役員の用意した引継ぎ資料に目を通し、暦に行事を記入してはその準備期間を矢印で書き加えてゆく。
 更に入学式の挨拶の原稿、新年度から導入される冒険者でもなく、貴族の推薦も持たない一般人の平民生徒への案内、自身の選挙公約の計画書、それらの予算案etc……

「うう、いくらやっても終わんない……」

 先の見えない作業に心折れ、机に突っ伏したリエルはぷしゅうと弱音をともにナニカを洩らす。
 前年度の生徒会役員の多くはこの春で卒業するため、就任後に相談をする事が難しく、今の内に疑問や懸念点を挙げ、確認をしておかないと苦労するのが目に見えている為、今頑張る必要があるのである。
 気力の枯渇したリエルは、窓の外に揺れる花壇を目にして呻くように呟く。

「外に出て土いじりがしたいよう……」

 そんなリエルを見かねて、友人の一人が冒険者ギルドに依頼を出していた。

『新生徒会長を助けてあげて下さい』


●ビッグオウムの舞う空
 帝都決戦が終わっても、冒険者への依頼が無くなる訳ではない。
 魔獣や亜人、クリーパー等の脅威はいまだ存在し、人探しや作業の手伝いなど、人手を欲して冒険者ギルドの戸を叩く者は変わらず居るのだ。

 サウゼル大樹海では探検家が護衛を雇い、辺境都市群では現れたクリーパー討伐を農夫が依頼する。
 ディズル大湿原ではリザードマン達の集落のリフォームに人手を集め、迷宮都市では新たな枝場が発見され、大規模な攻略のため冒険者にも声がかかった。
 ドワーフ王国では討伐された邪竜の解体と、財宝の回収の人員が募集され、シグモル火山帯には辺獄の魔物に対する警戒など、常に人手を求めている。
 シルトラース帝国では、復興の為の人材が足りていない。

 そして冒険者ギルド本部のあるリブラネスタは、それらの依頼を受けて出発する冒険者を乗せたビッグオウムが、今日も飛び立って行く。

「さあ、時間だゼ。目的地までちゃんと連れて行ってやるから、安心して乗ってくれよナ?」

 ゴブリンの御者の指示に従い、あなたはビッグオウムに吊り下げられた籠に乗り、目的地へ向かうことにした。

解説

冒険者ギルドの依頼を受け、ロスガリア大陸の様々な場所へ向かう。 ●内容 行先は各自決めて良い。 もし、記入が無ければ何処か適当な場所に割り振られます。 リエルの友人の依頼を受ければ、生徒会の仕事の手伝いや、リエルの息抜き等をしてあれば喜ばれるでしょう。 『ビッグオウムの舞う空』に書いてある場所は例なので、自分で行きたい場所を選んで構いません。 行動も戦闘(簡易的な判定となります)からスキルを活かした各種手伝いなど、各自得意なことで成果を出して下さい。 ただし、難易度は『易しい』なので、あまり難しいことに挑戦は出来ません。

マスターより

お世話になっております。コースケです。 アニエピカでのラストシナリオを公開させて頂きます。 リエルが生徒会長となったのもあり何か出そうと考えてはいたのですが、生徒会関連だけでは難しいかなと思い、フリーアタックのイベントシナリオとさせて頂きました。 しっかり区切りを付けるラストも良いですが、これからも日常が続いて行く終わり方も好きです。 オープニング前半と後半で内容が違いますが、興味がある方を選んでいただければと思います。 また、最後なので私が過去に出したシナリオの場所に行ったり、未登録含めたNPCの所へ行くとこも可能です(公式NPCや他マスター様のNPCと、EXCは扱えませんのでご了承下さい)。需要があるかは分かりませんが、該当シナリオと名前をプレイングで指定下さい。死亡したNPCへは墓参り的なものとなります。 可能なNPCか判断つかない場合など、質問頂けましたらエクトプラズム的なものを引っ込めてリエルが解答します(リエルが知り得ない事の場合はオッターが答えます) それでは、よろしければご参加お待ちしています!

リプレイ

●パンクリアース学園 生徒会室
「君の仕事は俺の仕事でもあるでしょ。背負い込みすぎはダメだよ」

 リエル・サンウッドの縋る様な目に、新年度の生徒会副会長であるヨル・スレイマンは苦笑を浮かべていた。

「いよいよ新生徒会の始動ですわね。リエル会長、一緒に1年間頑張りましょう。前年度で1年の仕事の流れは把握出来ておりますから、始動後もサポート出来ると思います」
「リエル、最初からうまくできるやつはいないから一緒に頑張っていこうぜ」

 それに同会計のネーヴェ・グラヌローザと、同じく書記のアルフィー・リッパーも励ましの言葉と作業に加わる事を伝え、リエルは目尻の涙を拭って頭を下げる。

「ありがとうございます! 終わる気がしなかったので助かります……!」

 そこへ、煮詰まっているリエルの様子を見たコルネリウス・アーラが提案する。

「息抜きにハーブティーを淹れますから、休憩をして少しお散歩してきては如何でしょう? お花に触れれば気分転換にもなりますし。それに、私は書記の経験もありますから、書類の整理などお手伝い出来ますので」
「そうだね。息抜きって絶対に必要だからね!」
「じゃあ、予定より速いけどこれを切ろう。疲れたときは糖分補給大事だからな!」
「まぁ、美味しそう! 私(わたくし)は紅茶を淹れて参りますわね」

 1221年度生徒会で書記を務め、リエルをよく知るコルネリウスの言葉に、満場一致で休憩となる。アルフィーが焼いてきたパウンドケーキもあり、ちょっとしたお茶会となった。


 お茶会となれば会話は弾むもので、ヨルは初対面のリエルへ良い機会だと挨拶をするのだが、ここで些細なハプニングが発生した。

「園芸部のリエル君だよね。改めて、1年間宜しく……あれ?」

 微妙な顔をする一同に気付き、リエルが園芸部でなくガーデニング愛好会所属と知ったヨルが頭を下げる。

「あー、失礼してごめんね。まさか別だったとは……」
「良いんですよ。私も入るまでは区別が尽きませんでしたし。あ! こちらこそよろしくお願いします!」

 リエルは気にした様子もなく挨拶を返し、ネーヴェとアルフィーが説明する。

「園芸系の部活には他に園芸部、農業研究会、特殊作物研究部などがありますわね」
「そしてリエルが会長をしているガーデニング愛好会だな。俺とコルネリウスも所属してるぞ」
「そんなにあるんだ?」
「学園には同じ名前でも第一、第二とついて分かれている部活もありますし、同系統の部活が分かれている事は珍しく無いんです」

 驚くヨルに、コルネリウスが学園の部活について説明を追加する。

「なるほど。生徒数も多いし、方向性や派閥とかで分かれてるといったところかな」

 改めてこの学園の特色に触れた気がして、ヨルは思案する。そんなヨルへ、リエルは疑問を口にした。

「そう言えばヨルさんの公約は『一般書架の学外への開放』ですけど、どうしてそれにしたのか聞いて良いですか?」

 生徒会全員の公約を達成したいリエルとしても、ネーヴェの『公平明朗で適切な予算配分』とアルフィーの『癒しの庭園作り』は分かるのだが、ヨルのそれは学外を対象としていて気になっていたのだ。
 学園長と校長も公約には一定の理解を示してくれる筈だが、王国や生徒の為にならないものなら難色を示すだろうという事もある。

「将来的に学園への間口をもっと広げたいんだよね。新年度の一般生徒の枠をこの先増やしたりとか」
「つまり、平民でも書架を使って学力を伸ばし、学園に入学出来る機会を……という事でしょうか?」

 コルネリウスの問いに頷くヨルに、ネーヴェとアルフィーも賛同の声を上げる。

「素晴らしいことだと思いますわ!」
「うん。いろんな奴が学園に来て学べるのは良いことだよな」
「なるほど……」

 リエルはそれが簡単でない事を予想していた。改革が進み幾分緩やかになりつつあるとはいえ、今だパンクリアース学園は王国の貴族など一部の選ばれし者のための学園だからだ。
 だが、リエルは否定せず声を上げる。

「分かりました。ヨルさん、その公約実現させましょうね!」

『多種多様な価値観を持つ人同士がより良い関係を』と公約を掲げたリエルとしても、応援しない理由はないのだ。


 お茶会が終われば、作業が再開される。ヨルは平民生徒向けに簡潔で図解を入れた学園案内を作成し、アルフィーはコルネリウスに助言を貰いながら書類の整理にかかる。
 行事予定と予算案については公約も関わるため全員でかかる。ネーヴェは予算配分書の案を作成していた。

「こんなに任せて良いのかな……?」
「学園の生徒もいろいろだからね。君はきっと多少人に仕事押し付けてしまうくらいで丁度いい」

 戸惑うリエルにヨルが声をかけ、ネーヴェも賛同する。

「そうですわ。私が前年度に庶務の職務を全う出来たのは皆様のお陰。ですからリエル会長も皆を頼って下さいな。私も皆様を頼らせて頂きますわ。勿論アルの事も頼りにしてますわよ?」
「お、おう! 俺も頼らせて貰う」

 学園以外でも一緒なのだが、こうやってネーヴェと一緒に何かをし、頼って貰える事にアルフィーの鼓動が速くなる。それに気付いているのか、ネーヴェはアルフィーに向かって微笑んだ。

「っ!(気付かれてないよな)」

 慌てて作業に集中するが、慣れない作業はなかなか進まない。 

「生徒会の皆頑張っていたのはわかっていたけど、こんなに大変だったなんてな。ネーヴェは去年もやってたんだよな。やっぱり凄い……」
「やっぱり大変ですよね……生徒会の負担を軽減できるような仕組みを作れないでしょうか」
「それは俺としても是非お願いしたいね……!」

 そして、コルネリウスは作業を手伝いながら、作業の効率化について思案し、賛成するヨルも案内の作成に悪戦苦闘している。
 こうして、一同は時折気分転換を挟みながら作業を進めてゆくのだった。


「終わったー!!」

 そして遂に作業が終わり、一同は生徒会室を後にする。

「終わったね。ネーヴェ君が会計で助かったよ。算数は苦手で……!」
「そうだリエル、俺この間八重咲のペチュニアをゲットしたんだぞ!」
「ええっ!? どこで手に入れたんですか?」
「今度教えるな。また一緒に花植えしよう」
「花植えと言えば、憩いの森にも新しく何か植えたいですね」
「花か。何十年、何百年と枯れずに花を咲かせる樹はないだろうか?」
「良いですわね。アルの公約(庭園作り)にも一役買えそうです。……ペチュニアも、素敵ですよね」
「と・こ・ろ・で!? お二人はいつ頃からお付き合いされたんです?」
「「!?」」

 後で書類の間違いの修正や再提出など追加の仕事が出てくるだろうが、それを忘れて心地よい解放感に浸り、はしゃぎながら笑い合う。


(こうやって、互いに理解していけば変われるものですよね)

 そうやって会話に興じるコルネリウスの胸にも、ひとつの想いがあった。『皆が過ごしやすい世界へ変えていきたい』という想いが。
 こうしていると、改めてそれをを感じる。

(また次の選挙で、立候補を検討してもいいかもしれないですね)

 そう胸中で呟き、コルネリウスは一歩を踏み出した。


●シグモル火山帯 辺獄奥地
 「あのジジィのくたばる様を見られなかったのは業腹だな。ったく、情けねえハナシだぜ」

 アーテミシアは独りごちる。幾度か対峙したあのジジィ(緑の小指)との記憶を掘り返してその場所を回っていたアーテミシアは、最後にここを訪れたのだ。
 周囲には激しい戦いの痕跡が残るが、崩れ落ち灰になったと聞くあのジジィの痕跡は無く、アーテミシアは暗闇に言葉を吐き捨てその場を後にする。

「ま、もう会うこともねえだろ。じゃーな」


『ゴアァァァァァーーー!!!』

 地下空洞に咆哮が響く。

「撤退、撤退よ! 負傷者を先に! 殿(しんがり)は防御重視で後退を!」

 ロゼットは殿に立ちながら、天井から垂れる鍾乳石を砕きながら接近する魔獣へ目をやる。
 それは一部で炎の王(フレイムレックス)と呼ばれる炎を纏う巨大な二足歩行の蜥蜴だった。その口に炎が揺らめき、溶岩弾が吐き出された!

「全力で防御を!」

 範囲攻撃を警戒し、事前に広域の回復と防御(セイクリッドウォール)を展開していた事により被害は軽減されていたが、それでも多くの者が火傷を負う。

「不味いわね……」

 ロゼットは余裕があるが、神徒達の何人かが倒れ、また何人かは咆哮に竦み上がっていた。
 冒険者の経験から進退の決断も早くなったつもりだったが、それを活かせず窮地に陥った事に唇を噛む。

(せめて、彼等だけでも!)

 覚悟を決め前に出ようとした時、赤い影が疾走する!

「うるぁ! ブレイブファング傭兵団が相手になってやらぁ!」
「ハヤト!?」

 ハヤト=ガラン=ヴォルファングは、怒涛の四連撃をフレイムレックスに叩き込み、犬歯を剥き出して笑う。

「よお。結構な大物じゃねーか。これを仕止めるならボーナスを貰わないとな?」
「助かるわ。でも、討伐より皆の避難をお願い!」
「もうやってるぜ!」

 見ればブレイブファング傭兵団のメンバーが負傷者と束縛を受けた者達を担ぎ退避していた。軍神の祝福とまで称される戦術眼を持つハヤトは、ここへ到着した後の僅かな時間に状況を把握し、適切な指示を出していたのだ。

「流石ね。後はを皆が引くまで足止めをお願いできる!?」
「任された!」

 ハヤトは双神刀 紅狗璃(そうしんとう くくり)で斬り付け、その勢いで後ろに回り込みながら思案する。

(こりゃやべぇな)

 攻撃時、フレイムレックスが身に纏う炎に身を曝す事になり、それを避けるのはハヤトであっても困難なため、先の連撃時に回避スキル(見切り)の大半を消耗していた。
 そもそもこれだけの魔獣をたった二人で足止めすること事態に無理がある。やがて見切りを使い切り、ハヤトが炎に包まれる!

「ぐっ!」
「ハヤトッ!?」

 ロゼットが火傷を癒すが、このままでは押し切られるだろう。その時、巨大な光塊が二人をすり抜け、フレイムレックスを打ち据えた!

「!?」

 振り返ると、獰猛な笑みを浮かべたアーテミシアが竜鉄の斧を振り下ろしていた。

「ちったぁ喰い出がありそうなのが残ってンじゃねぇか。オレも混ぜろよ」
「アーテミシア! 仲間が負傷して撤退中なの。足止めを手伝って貰えないかしら!?」

 アーテミシアは舌打ちしつつも了承し、シールドガントレットを構え前に出る。

「しょうがねえから遊んでやる。精々楽しませてくれよ?」


 地下空洞に咆哮と戦闘音が響く。ロゼットはアーテミシアの傷を癒しながら考えを巡らせていた。
 今は辛うじて押し止めているが、スキルが尽きればそれも難しくなるからだ。

「何か打開策を……!」

 その時、アーテミシアが天井を差し声を上げる。

「おい。この上にあの蚯蚓がいるぞ!」
「溶岩蚯蚓(ラーヴァワーム)!!」

 それは硬い岩盤を砕いて進む能力を持つ大蚯蚓であった。

「なあ、そいつ引き摺り出せねえか?」
「「!」」

 ハヤトの考えを察し、アーテミシアとロゼットが即応する。互いの実力を知るからこその判断の速さだった。

「足止めは任せろ!」
「サポートは私が。ハヤトは天井を崩す準備をお願い!」

 アーテミシアがフレイムレックスの攻撃を受け止め、ロゼットが癒しながら機会を待つ。
 やがて天井に斬り付け何本もの亀裂を入れたハヤトが叫ぶ。

「今だっ!」
「任されたわ!」

 ロゼットが跳躍し、神々しい魔力(ハンマーオブゴッド)を込めた神材の祭棍による突きを放つ! その衝撃は岩盤に浸透し、溶岩蚯蚓ごと天井を崩落させた!


「……酷い有様ね」

 フレイムレックスを溶岩蚯蚓に押し付け、その隙に撤退した一同は安全地帯で傭兵団と神徒に合流する。その姿は煤と土にまみれ、身体中に打撲や擦り傷を受けていた。

「誰も死ななかったなら上出来じゃねえか」
(アレを相手にするにはもっと鍛えねえとダメか。本格的に反乱勢力でも探すか。潰してもいいし、入り込んで帝国に喧嘩ってのも面白いかもしれねえな……)

 そんな状態でもハヤトはカラカラと笑い、アーテミシアは不穏な考えを浮かべている。
 二人に感謝しつつも、ロゼットは目標への至らなさを痛感していた。

「シグモル様の3代目を名乗るには、まだまだ山頂は遠いわね……」

 それでも、ロゼットは顔を上げる。目標は遠くとも前進するしか道は無いのだから。


●サウゼル大樹海
 樹海の獣道を、探検家の一団が進んでいた。そのリーダーである女性――名をベアトリスと言う――が足を踏み出したところで、後方から制止の声が上がる。

「先頭は前衛に任せ、リーダーは安全なところで全体を見るようにするのだ」

 助言役兼護衛として雇われたストレガ・L《ライブラ》・リベルガストラの声に、ベアトリスが慌てて隊の中央に移動する。

「同胞でも油断すると寝首を掻かれるのだ。極北ほどではないがサウゼルはそういう地獄なのだ」
「はい! ストレガ先生!」

 ストレガの注意にベアトリスは素直に従う。
 『新種の生物を発見したい』という注文に対し、最大限の成果が得られるよう調整をこなした上に樹海の知識も豊富なストレガに対し、ベアトリスは尊敬の念を抱いていたからだ。

(ただこの地獄は恵みを齎すのも事実。だから憧れは止められない)

 ストレガはベアトリスへ目を向ける。今後の為に、手解きをしていいかもしれない。


「先生、それをどうするんですか?」

 夜営地に着くなり樹海へ入り、巨大な蚯蚓を担いで戻ったストレガへベアトリスが声をかける。

「食料とするのだ」
「!?」

 絶句するベアトリスへ、ストレガは手招きをして大蚯蚓を示す。

「丁度良いから見ていくのだ。生物は外見が違っても同種の生物の雌雄だったり、成長度合いによる変態の可能性もあるのだ。体内の作り、特に生殖腺を調べればそれが分かることもある。覚えておいて損は無いのだ」
「なるほど……!」

 解体し器官の種類や付き方等も説明してゆく。そうやってベアトリスを指導するストレガは胸中で呟く。

(同志は多く、多様な方が良い)

 それはきっと未来の自分か、次代のストレガの助けとなるだろう。


●パンクリアース学園 学園交流部
 談話室の本棚に、多数の本が並んでいた。その殆どは、有志による貸与品である。

「本棚、早速活かされるなんてね……」

 ここに本棚を置くことを発案したルベア・ベルニは、それを感慨深く眺めていた。

「良い案だと思うよ」

 『皆に読んで欲しい本』と貼り紙のされた本棚の前に立つシルヴィア・A(アルヴィン)・カペルは、ルベアの視線に気付いて笑いかける。その手には一冊の本があった。

「私からは『カペル謹製・花言葉辞典』を。花言葉にはその地に住む人々の植物に対する想いが込められている。好きな花や、故郷では異なる意味の花言葉を持つ植物について等、話題が広がればと思ってね」
「僕からはうちの宣伝……まあ、売り物というより、奉仕活動事業の宣伝の方が正しいんだけど、実際、実用書として役に立つと思うよ。特にどこかに仕える料理人になりたい人はね」

 続いてルーンス・ラグネルの置く『お料理メモ』は、自身が次期会頭を務めるアーダベルト商会が作成しているものの様だが、題名の後に【1】とナンバリングがされていて、商会が続刊を作成するほど奉仕事業に力を入れていることが伺える。
 ちなみに、この『お料理メモ』は完全図解入りで調味料は商会に取り扱いあるもののみを使い、美味・節約・難易度低を心掛けたレシピが掲載されているため使いやすいと新米主婦を中心に人気があり、それを食べた者からも『料理上手のカーちゃんの味』と評判らしい。

「私からもこちらを。主に各地の伝承を綴った物と名も無き著者の書籍です。もしも同じような興味を持つ学生が居ればと思いまして」

 最後に学園交流部初代EA(エグゼクティブアドバイザー)であるイズレンディル・パラリムからは、数冊の伝承本等の寄贈があった。
 ルベア自身も『植物図鑑』を置いているが、貴重品である本を揃えるのは個人では難しいため、貸与や寄贈してくれた仲間達に対する感謝と、この先、交流に来てくれる生徒達に喜んで貰えたらという期待に胸が踊る。

「皆ありがとう。凄く助かるわ。これで目玉も増えたし、ここを利用してくれる人が増えると良いわね」
「ここを通じて生徒達の交流が盛んになってくれれば私も嬉しい。さて、本の整理も終わったことだし、お茶にしようか?」
「そうだね。これ、差し入れに持ってきたのでどうぞ」

 ルベアの言葉にシルヴィアが応え、ルーンスがハーブティーとコーディアルを掲げる。それにシルヴィアが持参した紅茶と薔薇の砂糖漬けを加え、お茶会が開かれる事となった。


 お茶会の話題は専ら各々が持ち込んだ本についてである。

「本は色々読むなぁ。物語性のあるのも好きだし、実用書も好きだし、ドゥジンなんかも僕は読むし」
「ルーンスさんは読書家なのですね」

 ルーンスの言葉にイズレンディルが興味深げに頷く。

「どうかな。自身が読書家という意識はあまりないけど。でも、本を読む上で自分にとって面白くないからと言って、他人が面白いと思ったものを否定してはいけないと思ってるよ」

 楽しいものがお互い違っててもいいじゃないと続けるルーンスに、イズレンディルは大きく頷いた。
 本への想いからその人自身の人柄や考え方に触れられれば、互いを知る事が出来て交流が始まると考えるイズレンディルにとって、このお茶会は学園交流部の活動の本質といって良く、ルーンスの言葉はその先を行くものであった。

「大変素晴らしいと思います。ルーンスさんの持ち込んだ本、私も読ませて貰いますね」
「ありがとう。僕もイズレンディルの伝承本も、ルベアの植物図鑑も、シルヴィアの花言葉辞典も気になってる」
「私も読ませて貰おうと思っています。人々が花に込めた想いが好きなんです。花を贈る時は意味を大事にしますし」

 ルーンスとイズレンディルが本棚に目を向け、自身が置いた本を話題にされシルヴィアも相槌を打つ。

「興味を持ってくれるのは嬉しいね。私も伝承本は気になるよ。違う時代を生きた著者の思想に触れる事で今との違いを明確に出来るし、別の価値観がある事を実感できる。それに、シンプルに知識を得る事は楽しい。勿論お料理メモもね」
「そうですね。時を越えて著者の思考に触れられる貴重な機会です。……そう言えば、同じ植物について書かれた本でも、ルベアさんの植物図鑑も違いがあって面白いですよね。やはり、生態等に興味が?」
「……え?」

 イズレンディルに話題を振られたルベアが、少し考えながら答える。

「興味というか、普段の勉強でも資料として使ってて、勉強は目的があってのことだけど、自然のものを見るのって純粋に気持ちが落ち着くの。私は周りに何もない、森の中の集落で生まれ育ったからかな……」

(集落はもう滅んでしまって記憶の中にしか存在しないけど……)

 そう心中で続け目を細めるルベアの表情は柔らかい。
 滅びた故郷について、穏やかな気持ちで語れる事に少し戸惑いつつも、この穏やかな時間を、卒業まで過ごせたら良いと思いながら友人達との会話に興じる。

「あの……、見学良いでしょうか?」

 その穏やかな空気に誘われたのか、一人の生徒が談話室の入口から声をかけて来る。その隣には海神(ウミガミ) 江流(エル)が立っており、聞けば興味がありそうな様子だったから入室を勧めたらしい。

「勿論構わないわ」

 ルベアは立ち上がり、緊張した様子の生徒へ声をかけた。

「ようこそ学園交流部へ。私はルベア・ベルニ。アナタの名前を教えて貰える?」

 その口元に、柔らかな笑みを浮かべて。


●辺境都市群 とある貴族領
「領の境目には俺が行こう。民の意見も聞いてこれそうだ」

 領主の息子であり、現在は父親の補佐をしているイズル・M・ヴォルゴールは、領内に出没した這者(クリーパー)討伐へ向かうべく装備を点検していた。

「領主様は大人しく年代物の椅子に座ってろ」
「戦い方を忘れたら、いざって時に領民を守れないだろ?」

 そのイズルに、傭兵として依頼を受け参じたペルゼィックが毒づくが、イズルは幼馴染の口の悪さに気を悪くした様子もなく、胸当ての具合を確認し頷いている。

「俺はそろそろ帰りたいんだが?」

 ペルゼィックとしては硝子職人としての腕を磨く為に工房に籠りたいのだが、何かにつけ呼び出される為にそれも儘ならない。

(折角兄弟子の一人が独立して、空いた炉が俺に回ってきたってのに)

「じゃ、行こう。俺の側近『赫焉(かくえん)』殿」
「……さっさと終わらせて帰るからな」

 どこか楽しげに見えるイズルに、ペルゼィックは憮然と言い放った。


 現地に馬を走らせた二人は、領民に話を聞き這者の出現場所へ駆け付ける。出現したのは、丘の斜面という事だった。

「不味いな……」
「クソッ、面倒な所に出やがって」

 二人が目にしたのは、芋虫の様な這者が、果樹を押し倒している光景だった。サイズは馬ほどもあり、マテリアル界(こちら)に現れたばかりなのか、旺盛に周囲のエーテルを収集している様子だった。

「ジーク」
「分かってる」

 神材の戦鎚(フロルの涓滴)を手に前に出るイズルに短く呼ばれ、ペルゼィックは短く答える。
 周りは花芽が膨らみつつある林檎畑であるため、範囲魔法で周囲に被害を出すことは避けたいイズルの意図を察し、ペルゼィックは鞘に入れたレイピア(クローン)を掲げエーテルの矢を這者に撃ち出す!

『ピギュゥ!』
「駆除させて貰うよ!」

 紫色の体液を流して身を捩らせる這者に、駆け寄ったイズルの戦鎚が振り下ろされる! 這者は痛みに逃げ出そうとするが、ペルゼィックの召喚した雷光の嵐(アーケインテンペスト)に阻まれた!

「そこ動くな害虫!」

 逃走を諦めた這者は口から鞭の様な触手を伸ばしイズルを打ち据え、それにペルゼィックが怒号を上げながら前に出てクローンを振るう。

「この馬鹿野郎! 次期領主ならもっと戦い方を考えやがれ!」
「今のジークがそれ言う?」
「俺は良いんだよ!」

 術師(キャスター)であるペルゼィックの物言いに苦笑しつつも、幼馴染が稼いだ隙に自身を癒したイズルはペルゼィックに攻撃を集中させない為に前に出る。

「それなら、一緒に害虫駆除をしようか」
「おう、流れ矢を気にしなくて良い分全力でやるぞ」

 肩を並べた二人は、呼吸を合わせて這者に得物を突き出した!


「……さっさと帰るって言ってたのによ」

 這者を倒した後、イズルは農民と被害にあった果樹への支援について話していた。
 こういった行いが次世代の評判に繋がるだろうとのイズルの弁だが、幼い頃から見て来たペルゼィックからすれば、これはそういった打算よりイズルの本質的な慈悲深さからの行動である。

「結局、ガキの頃から変わってねえんだよ。このお人好しが」

 幼馴染は次期領主となり、イズル自身の変化もあったが自分との関係性の根幹は以前と全く変わらず、今もこうしてつるんでいる。それをペルゼィックは悪くないと感じている。

(絶対に言ってやらねえけどな)

 イズルと農民の話は長くなりそうだったが、ペルゼィックは置いて行かず待ってやることにした。


●ドワーフ王国 クリエスター山脈
「邪竜を倒せたのはボルグさん達が武器を鍛えてくれたお陰です。ありがとうございました。そして、医師でありながら何も出来ず申し訳ない」

 ディレイン・オールドケイジは、先の邪竜討伐で文字通り命を捨てて力を貸してくれたドワーフの職人の遺族を訪ねていた。

「こちらこそ、心から感謝致します。そして貴殿方に重荷を背負わせてしまってご免なさい。どうか、気に病まないで下さいね」

 ドワーフの老婦人は、頭を下げるディレインに事情を説明する。
 集落の長であったボルグは、邪竜との戦闘で受けた傷により身体が限界となりあのまま衰えてゆくばかりだったと言う。

「それでも身体の動く内に出来ることをやると言って出ていったのですけど、最高の結果を聞いて逝けたのです。あの人も本望だったでしょう」
「……はい」

 遺された者は、逝った者を想像する事しか出来ない。それをよく知るディレインは、目尻に涙を浮かべて微笑む老婦人に頭を下げ、その場を後にした。


「すまないディレイン、少しの間ショウガを預かってくれないか」
「え、いいけど……?」

 倒された邪竜ニドヘグの解体を手伝いに来たディレインは、先に現場に入っていたレピド・クロサイトの愛猫ショウガを受け取り目を瞬かせた。

『にゃー』

 表情の読めないレピドはそのまま作業に戻り、抱っこしたショウガの顔を見れば、『あいつの頼みだから大人しくしといてやる』とでも言いたげな顔をしている。

「……レピド君らしいね」

 レピドが気を遣っている事を察したディレインは、ショウガを抱いて落ち着ける場所を探しにかかった。


「このアクセサリにも竜の鱗が使われているんだったな」

 解体作業に戻ったレピドは、ふと手にした鱗と自身の身に付ける呪符と革帯に目をやる。

「こいつの身体も、これから誰かの身を護る道具に生まれ変わるのだろうか?」
「そいつはちょっと違うな」

 レピドの呟きを耳にし職人のドワーフが声をかけてくる。

「違うとは?」
「それはバイアーディスって邪竜の鱗を使った物なんだが成り立ちが特殊でな」

 職人によるとその邪竜は、特殊な儀式で多くの者からエーテルを奪い、より強力な存在へ成ろうとした個体だったという。だからこそ、エーテルの親和性が高い素材となったらしい。

「元の邪竜としちゃあニドヘグ(こいつ)の方が格が上だが、タイミング的にバイアーディス(あっち)が特別なんだよ。超大型の這者並の強さを持つ邪竜ならまた別だがな」
「なるほど。邪竜にはそんなのも居るのか。……しかし、これはどうなる?」

 ニドヘグの骸へ目をやるレピドに、ドワーフは片目を瞑って答える。

「質は落ちても素材には使えるさ。それに他にも使い道はある。こいつの頭を都市の入口に飾ってやれば、どんな奴でもビビって逃げるだろうさ!?」

 そう豪快に笑うドワーフに、この地に生きる者の強かさを感じるレピドだった。


「お疲れさま。ショウガちゃんありがとうね」
「ああ。礼はいい。それからこれを」
「……これは?」

 ディレインは渡された薄片を見て問う。

「鱗を分けて貰った。識別票を作ろうとしているならどうだろうか」

 守りの力も薄いし気に入らなかったら捨てていいと続けるレピドに、ディレインは頭を振って答える。

「ありがとうね。大切に使わせて貰うよ」
「そうか」

 そんな二人の様子を、ショウガが何か言いたげな目で眺めていた。


●未来はきみの手のなかに
 こうして、冒険者達は新たな日常に戻って行く。それを見送る冒険者ギルドの職員も、感極まった様子で声をかける。

「ありがとうございました! 何かあればまた顔を出して下さいね!!」

マスターコメント

お待たせして申し訳ありません。 過去のシナリオを振り返りつつ色々と書かせて頂きました。 称号はあくまでも一面ということで贈らせて頂きます。 これが私のアニエピカ最後のシナリオとなりますが、ノベルや別ワールド等でご縁がありましたらよろしくお願いいたします。 シナリオ期間の最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました!
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:標準17 / 4〜25人

2024年04月23日 14時17分59秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ロゼット

    明日が出発ね。もう最後だし、白紙には気をつけて。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0