新たな一歩はリブラネスタから
七海真砂
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シナリオID:3422
オープニング
その日、オペラは自分の部屋の片付けをしていた。
もともと世界の各地を巡る旅暮らしだったから、大した荷物は持っていなかった。けれど、リブラネスタで生活するうちに、色々な荷物が増えてしまった。
(このぬいぐるみは持って行けそうじゃな。こっちの棚は……誰かに譲ろうかのう)
それは、このリブラネスタを巣立つと決めた、オペラの旅支度であった。
●新たな一歩はリブラネスタから
朗報は世界中を駆け巡り、人々は大いに沸いた。エラトゥーン都市同盟の一角にある、ここリブラネスタも例外ではない。あちらこちらで祝いの宴が開かれる一方で、気の早い人々は『未来』を見据え始める。
――『協定』が終わるからだ。
それは、冒険者達が今の立場を離れて、己の身を振り方を考え始める、という事でもあった。
「といっても、リブラネスタはもともと冒険者の本拠地じゃったからのう。今までと同様に、授恵者のバックアップをするという方針を採るようじゃな」
もちろん、住み続けたい者は、今まで通り冒険者街で暮らすことができる。
「これを機に、腰を据えてリブラネスタ暮らしをするという者もおるかもしれんのう。もし引っ越すようなら、わらわも相談に乗るのじゃ。これでも結構リブラネスタには詳しいからの!」
えっへんと胸を張るオペラ。
リブラネスタを生活の拠点にするなら、改めて新しく家を持ったり、店を開くようなことも選択肢に入って来るだろう。そういった者達にも良い所を紹介するのじゃ! と、オペラはすっかり物件の紹介を請け負うつもりのようだ。
「リブラネスタに暮らす場合は、冒険者を続ける者が多そうな気もするが……求人も出ているのじゃ」
働き先として、大きな場所としては『冒険者ギルド』と『海軍』がある。
冒険者ギルドの職員は、事務仕事が多いようだ。依頼を受け付けたり、それを冒険者に紹介するのも業務のうち。ここ「踊る子熊亭」の店員になることもできるらしい。
海軍は、デスクワークなどもあるが、それに加えて実際に現場で働く軍人の求人が来ている。冒険者なら即戦力になると期待されているのだろう。
「その他、商店や企業の求人がちらほら……という感じかのう。仕事先で困ることは無さそうじゃ」
興味があれば、話を聞くだけでも行ってみてはどうじゃ、とオペラは言う。
そんなオペラは、一体どうするつもりなのかというと――。
「わらわは、旅に出る事にしたのじゃ。旅をしながら、今のわらわに出来ることを考えようと思うのじゃ」
今のオペラは、もう『預言の魔女』ではない。
けれど、もう一度その道を目指すのだとしたら……リブラネスタへの滞在を続けるよりも、旅に出た方がいいのではないかと、そう考えたらしい。
「皆の『これから』を見届けたら、出発するつもりじゃ」
そう、笑いかけるオペラだった。
もともと世界の各地を巡る旅暮らしだったから、大した荷物は持っていなかった。けれど、リブラネスタで生活するうちに、色々な荷物が増えてしまった。
(このぬいぐるみは持って行けそうじゃな。こっちの棚は……誰かに譲ろうかのう)
それは、このリブラネスタを巣立つと決めた、オペラの旅支度であった。
●新たな一歩はリブラネスタから
朗報は世界中を駆け巡り、人々は大いに沸いた。エラトゥーン都市同盟の一角にある、ここリブラネスタも例外ではない。あちらこちらで祝いの宴が開かれる一方で、気の早い人々は『未来』を見据え始める。
――『協定』が終わるからだ。
それは、冒険者達が今の立場を離れて、己の身を振り方を考え始める、という事でもあった。
「といっても、リブラネスタはもともと冒険者の本拠地じゃったからのう。今までと同様に、授恵者のバックアップをするという方針を採るようじゃな」
もちろん、住み続けたい者は、今まで通り冒険者街で暮らすことができる。
「これを機に、腰を据えてリブラネスタ暮らしをするという者もおるかもしれんのう。もし引っ越すようなら、わらわも相談に乗るのじゃ。これでも結構リブラネスタには詳しいからの!」
えっへんと胸を張るオペラ。
リブラネスタを生活の拠点にするなら、改めて新しく家を持ったり、店を開くようなことも選択肢に入って来るだろう。そういった者達にも良い所を紹介するのじゃ! と、オペラはすっかり物件の紹介を請け負うつもりのようだ。
「リブラネスタに暮らす場合は、冒険者を続ける者が多そうな気もするが……求人も出ているのじゃ」
働き先として、大きな場所としては『冒険者ギルド』と『海軍』がある。
冒険者ギルドの職員は、事務仕事が多いようだ。依頼を受け付けたり、それを冒険者に紹介するのも業務のうち。ここ「踊る子熊亭」の店員になることもできるらしい。
海軍は、デスクワークなどもあるが、それに加えて実際に現場で働く軍人の求人が来ている。冒険者なら即戦力になると期待されているのだろう。
「その他、商店や企業の求人がちらほら……という感じかのう。仕事先で困ることは無さそうじゃ」
興味があれば、話を聞くだけでも行ってみてはどうじゃ、とオペラは言う。
そんなオペラは、一体どうするつもりなのかというと――。
「わらわは、旅に出る事にしたのじゃ。旅をしながら、今のわらわに出来ることを考えようと思うのじゃ」
今のオペラは、もう『預言の魔女』ではない。
けれど、もう一度その道を目指すのだとしたら……リブラネスタへの滞在を続けるよりも、旅に出た方がいいのではないかと、そう考えたらしい。
「皆の『これから』を見届けたら、出発するつもりじゃ」
そう、笑いかけるオペラだった。
解説
このシナリオは、今後リブラネスタを生活の基盤にしたい方や、オペラのようにリブラネスタを旅立つ方などに向けたエピローグシナリオです。
このシナリオは、冒険者ギルドやリブラネスタ海軍に就職を希望することが可能なシナリオです。採用の条件は『面接を受けに行き、合格すること』です(余程の事が無ければ、面接には受かると思います)。
プレイングにおいて【○○就職希望】あるいは、そのように理解できる文言が記載されており、条件を満たしていた場合、称号を付与いたします。
また、このシナリオでは『リブラネスタに引っ越す』ことが可能な他、『リブラネスタに家を持つ』『リブラネスタに店を持つ』ことなどが可能です。物件探しはオペラがサポートいたしますので、皆さんはプレイングに希望をお書きください。
(例:「海の見える高台、二階建ての家がいい」「小さいけれど、活気のある場所に店を開きたい」)
オペラは旅に出ます(エピローグ期間中に次のシナリオが出る予定です)。もしオペラに同行したい方がいらっしゃいましたら、そちらもプレイングでどうぞ。称号を付与いたします。
マスターより
こんにちは、七海真砂です。
新たな一歩はリブラネスタから。このシナリオが、『これから』を考えるきっかけになれば幸いです。
ご参加、お待ちしております!
リプレイ
東の海を望むテラスから、アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは水平線に昇る朝日を眺めていた。
それからゆっくり、屋敷の中を回る。
(――楽しい時間だった)
故郷を焼け出され、冒険者となって早3年。
冒険者として自由に羽ばたき、たくさんの経験をした。そんなアウレーリアにとって、ここはもう一つの家のような場所だった。……けれど、戻らなければならない。
ネーベルベルク伯爵家、その唯一の生き残りとして。戦後を迎える帝国へ『責任ある身の上』として帰る――その時が来たのだ。
「ラケル、よろしくね」
鍵をかけ、アウレーリアはそれを友人に預けることにした。
いずれ故郷の為、リブラネスタを再び訪れる日が来ることもあるだろう。
時には別荘として、休暇で訪ねることもあるだろう。
それまで、この家を――私達の思い出の日々を、守っていて欲しいと。
「ん。任せて」
しっかり風を通して、庭の手入れをしておくから、とラケルは頷き返す。すぐに帝国へと向かうアウレーリアと別れ、ラケルはオペラとの約束の場所へ向かう。
「お待たせ。いい物件、ありそう?」
「ふっふっふ。任せるのじゃ!」
リブラネスタに改めて住むにあたって、ラケルは星苺工房も一緒に移転する事を考えていた。家族で一緒に暮らす家と、そのすぐ近くに店舗を持ちたい。そんなラケルの希望を踏まえて、オペラが案内したのは住宅街の一角にある物件だった。
「希望通りカウンターがあって、あと窓辺に棚が付いておるからパンの陳列にも良いと思うのじゃ。そして、すぐ裏の家が空いておるから二ついっぺんに借りられるのじゃよ」
どちらもこぢんまりとしているが、パン屋にそこまで広いスペースは必要無いだろうし、家の方も二人と一匹で暮らすなら十分そうな間取りだった。
「おばあちゃんにも相談してみるけど……」
確かに良さそうな物件だとラケルは頷くと、仮押さえを頼んでおく。数日後、改めて正式に契約したラケルは、自分の店となった物件の中に入り、つー……っとカウンターの上を撫でる。
「これから、よろしく」
さあ、引っ越しと移転の準備をしなければ、と慌ただしく動き始めたラケルであった。
「住処はゴールディとして、仮拠点はあっていいだろ?」
「まあ宿に泊まる手間は省けるか」
「だろ。あとグランスパーダと、シグモル火山帯には欲しい。なんたって……」
「シグモルには欲しいな。なんたって……」
ヨル・スレイマンとナハシュは視線を交わすと「「温泉あるし」」と頷き合った。
どうやらヨルがあちらこちらに別荘を持ち、ナハシュがそれを一緒に使わせて貰う――という合意がなんとなく為されているらしい。
「しかし本当に『倉庫』で良いのかの?」
「うん。家に溜まった物を、ちゃんと保管できるスペースが欲しかったんだよ」
「資産とか気の長え話だなー!」
「……大丈夫だよ、君は今は考えなくていい」
ナハシュへの返しを聞くに、おそらく管理はヨルが全部するつもりなのだろう。そういう事なら、とオペラが紹介したのは、港から少し離れた倉庫街の物件だった。
「倉庫街と言っても、昔は住宅地があった一帯でな。小さめの建物が多いのじゃ」
建物ごとにオーナーがバラバラだからか出入りがそこそこあり、逆に気に留められるような場所では無いと聞き、ナハシュが「そりゃ気楽で良いや」と笑う。
「で、ここじゃ。狭いけれどなんと五階建て。地下室も付いておる。上の階からは、海は見えないけれど平原が見えて見晴らし良好じゃ。下の方を倉庫、上を別荘代わりにしてはどうじゃ?」
「なるほどね」
隙間を駆使した物件なのだろうが、階ごとに用途を変えられるのは確かに便利かもしれない。
「海が見えないなら、海風による劣化はある程度避けられそうだよな」
リブラネスタの立地で、逆にこれはポイントが高いとナハシュも評価する。ともあれ、中を実際に見てみるのじゃ、と案内するオペラについて、ナハシュが先に入る。
「うっわ狭めー! でも棚付きか、酒を並べるのに良さそうだ。ヴィンテージ出来るぞ!」
地下もどんな感じか見てみようぜ、と降りていくナハシュの背を追いかけ、ヨルも階段をくだる。
――倉庫を、と考えたのは、いずれ超越者になるであろうナハシュへ、少しずつ何かを残しておきたいと思ったからだ。
(自分でも不思議。人間って変われるもんだね……)
「前は、余計なもんは売っぱらうに限るとか言ってたのにな」という、何気ないナハシュの言葉に「そうだね」と返しながら、何を詰めてあげようか、とヨルはゆったり思案する。
屋台でオペラおすすめの串焼きをつまんだりしつつ物件を見て回り、遅めの昼食にやってきたのは踊る子熊亭だった。
「なんだかんだ言って、わらわはここが好きなのじゃろうな」
扉を開ければ、いつも誰かが居る空間というものが、貴重だということを知っているからなのかもしれない。
「おや、考えることは一緒かな」
オペラが中に入っていくと、シルヴィア・A・カペルが立ち上がる。旅立ちへの景気付けに、オペラへ食事を奢ろうと思ったのだが。
「そのようだ。オペラ君の分は割り勘ってことで」
「そうしよう」
ヨルと早々に話を付けて「さあ何でも頼んで」とメニューを広げるシルヴィア。好意に甘えて、オペラはまず苺ジュースを注文しつつ、いくつかのメニューを指す。
「最近出た新メニューを制覇しておきたかったのじゃ。皆で分けよう」
帝国と王国風をミックスしたピザや、ディズル大湿地帯をイメージしたチーズ満載のグラタンなど、各国をイメージした料理が多いのは、戦勝記念も兼ねているからだろうか。
「おっ、それなら混ぜてくれよ」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングもやって来る。ジョッキを手に、高らかに「乾杯!」と叫べば、皆の持つジョッキやグラスが次々と上がった。
「オペラさん」
Alexandra・Hexe・Claudiaが持つグラスを掲げるのにあわせて、オペラはもう一度グラスを上げる。皆がこうして、見送ってくれることを喜びつつ、湿っぽくなり過ぎないように、とメニューを見遣って。
「それはそれとして、このクリエスター山脈風骨付き肉なのじゃが」
「お、いいな」
分けよう分けよう、とオーダーして切り分ける。
「レピドも一緒にどうじゃ?」
「……そうだな、じゃあ少し」
何やら考え込んでいた様子のレピド・クロサイトも、誘われて輪に入る。今後について、少し悩んでいたレピドだったが……それはそれとして、肉は食べる。
「で、どうしたのじゃ?」
「――自分の中でも、まだ上手く纏まっていないんだが……」
今後の身の振り方について、迷っているのだとレピドは言う。
やりたい事は、ハッキリしている。――自分が冒険者ギルドで保護され、色々と教わった時のように、孤児達に真っ当な手段で生きる為の術を教えたい。皆が、明るい道を歩んで行けるように、してやりたい。
その為の方法を、どうすべきか、レピドは今悩んでいる。
冒険者を続け、その報酬を孤児院に寄付するという方法もあるだろうし、孤児院に就職し、その働き手となる道もあるだろう。あるいは自分で孤児を引き取り、直接育てていく……という形もあるはずだ。
「なるほど。孤児を育てるにも先立つものが必要じゃからな。しかしそこで悩むということは、子供達に直接、教えたり育てたりしたい『大切なもの』がレピドの中にあるということじゃろ」
それは大事にしても良いのではないだろうか、とオペラは言う。
「悩んでいるなら、実際に孤児院を手伝いつつ考えても良いかもしれんのう」
人手不足の孤児院があるから、きっと歓迎されるのじゃ、とオペラは知っている孤児院を紹介する。良ければ一度、冒険の合間に行ってみてはどうじゃ、という言葉に、レピドはそうしてみると頷き返す。
「オペラ、旅でどこを回るのかは決めたのかい?」
「そうじゃなあ、この3年で大きく変わった地域は訪れてみようかと思っているのじゃ」
隣にやって来たシルヴィアに、オペラはまずそう答える。元は旅暮らしのオペラだから、ある程度の場所を知っている分、大きく変わった場所は見ておきたい、と思ったのだろう。
「あとは、シグモル火山帯かの。あそこは神々との結びつきの強い土地じゃから……」
何か糸口が見つかるかもしれない、とオペラは呟く。
「そうか……」
昇神した滅国の皇妃に奪われた、オペラの神様の力を取り戻すのは、正直難しいかもしれないとシルヴィアは思っている。オペラも、それは解っているだろう。
だが。
(それでも君という信仰者がいる以上、神様自体が消えたとは思いたくないんだ)
そう、たとえばボルガニスク様のように、力を取り戻すための深い眠りについているのかもしれない。そんな神様の声を聴ける人がいるとしたら、それは他の誰でもなく、きっとオペラに違いない。
「……君の旅が終わった時、ボルガニスク様に捧げた『青炎への幻想曲』のように、預言の魔女へと捧げる曲を書かせて欲しいな」
だから、それまで、どうか元気で。
その旅路に幸いがあるようにと祈るシルヴィアに、いつかカペル領を訪れ、曲を貰う日を楽しみにしているのじゃ、とオペラは笑う。
「オペラさーん!!」
そうして、荷物を背負ったオペラがリブラネスタを旅立つ日。見送りにやって来たのはレラ・F・ギュンターだった。
「こちら、餞別です。お持ちになって下さい」
「おお! ななこさんではないか!」
それは過ぎ去りし夏の日、オペラを守って夏の海に散っていったワニのぬいぐるみだった。あれからちゃんと、レラの手によって直されていたらしい。
「オペラさんが危ない目にあいました時、またななこさんがオペラさんのことを守ってくれるはずです」
「ふふふ、コッコさんもおるし、頼もしいのう」
よく見れば、オペラが背負った荷物から、ニワトリのコッコさんが顔を出している。もし後ろから何か起こっても、コッコさんが頭を庇ってくれる万全の配置だ!
「でしたらこれも」
レラは髪を結んでいた赤いリボンを解いて、コッコさんに結いつける。
「友情の証、とゆやつです」
「ありがとう」
にっこりと笑うレラに、オペラも笑顔を返す。彼女も旅するぬいぐるみ屋さんだから、いつかまた、どこかで会うこともあるだろうけれど……。
「またな!」
「はい、またです!」
しばしのお別れ。
こうして、一人旅を始めたオペラだったけれど――。
「オペラさん、ご一緒してよろしいでしょうか?」
リブラネスタの外れで声を掛けたのは、旅支度をしたトーラだった。
「――改めて、大陸のことを見て回れたらと思うんです。なので、途中まででもお供させて貰えたら」
超越者として踏み出したトーラは、敢えて、人の世界から離れることを考えていた。皇帝ヨゼフや、滅国の皇妃のようにいつか歪み、世を乱してしまうことの無いように――。
リブラネスタでお世話になった人達への挨拶を済ませて、旅立つことを決めた日。それでも、今はもう少しだけ、誰かと一緒に居たい気持ちもあって……。
「……世界はエーテルで、皆いつか澱に返るものだとしても、こうして考え、いろんな事を感じれるなら、それは意味のあることだと思います。それに、超越者は世界から剥離しつつある者なら、澱に返らず別のものが見れるかもしれません。それはちょっと……いえ、とても気になるので!」
「なるほど、それは面白い旅じゃの」
ぜひ、とオペラは頷く。
超越者は、物の見方が変わっていくという。トーラと一緒なら、また違った目線で『神様』を、『預言の魔女』への道を探すこともできるかもしれない。
「では、新たな旅へ出発じゃ!」
「おー!」
オペラとトーラは肩を並べて、街道を歩き出した。
それからゆっくり、屋敷の中を回る。
(――楽しい時間だった)
故郷を焼け出され、冒険者となって早3年。
冒険者として自由に羽ばたき、たくさんの経験をした。そんなアウレーリアにとって、ここはもう一つの家のような場所だった。……けれど、戻らなければならない。
ネーベルベルク伯爵家、その唯一の生き残りとして。戦後を迎える帝国へ『責任ある身の上』として帰る――その時が来たのだ。
「ラケル、よろしくね」
鍵をかけ、アウレーリアはそれを友人に預けることにした。
いずれ故郷の為、リブラネスタを再び訪れる日が来ることもあるだろう。
時には別荘として、休暇で訪ねることもあるだろう。
それまで、この家を――私達の思い出の日々を、守っていて欲しいと。
「ん。任せて」
しっかり風を通して、庭の手入れをしておくから、とラケルは頷き返す。すぐに帝国へと向かうアウレーリアと別れ、ラケルはオペラとの約束の場所へ向かう。
「お待たせ。いい物件、ありそう?」
「ふっふっふ。任せるのじゃ!」
リブラネスタに改めて住むにあたって、ラケルは星苺工房も一緒に移転する事を考えていた。家族で一緒に暮らす家と、そのすぐ近くに店舗を持ちたい。そんなラケルの希望を踏まえて、オペラが案内したのは住宅街の一角にある物件だった。
「希望通りカウンターがあって、あと窓辺に棚が付いておるからパンの陳列にも良いと思うのじゃ。そして、すぐ裏の家が空いておるから二ついっぺんに借りられるのじゃよ」
どちらもこぢんまりとしているが、パン屋にそこまで広いスペースは必要無いだろうし、家の方も二人と一匹で暮らすなら十分そうな間取りだった。
「おばあちゃんにも相談してみるけど……」
確かに良さそうな物件だとラケルは頷くと、仮押さえを頼んでおく。数日後、改めて正式に契約したラケルは、自分の店となった物件の中に入り、つー……っとカウンターの上を撫でる。
「これから、よろしく」
さあ、引っ越しと移転の準備をしなければ、と慌ただしく動き始めたラケルであった。
「住処はゴールディとして、仮拠点はあっていいだろ?」
「まあ宿に泊まる手間は省けるか」
「だろ。あとグランスパーダと、シグモル火山帯には欲しい。なんたって……」
「シグモルには欲しいな。なんたって……」
ヨル・スレイマンとナハシュは視線を交わすと「「温泉あるし」」と頷き合った。
どうやらヨルがあちらこちらに別荘を持ち、ナハシュがそれを一緒に使わせて貰う――という合意がなんとなく為されているらしい。
「しかし本当に『倉庫』で良いのかの?」
「うん。家に溜まった物を、ちゃんと保管できるスペースが欲しかったんだよ」
「資産とか気の長え話だなー!」
「……大丈夫だよ、君は今は考えなくていい」
ナハシュへの返しを聞くに、おそらく管理はヨルが全部するつもりなのだろう。そういう事なら、とオペラが紹介したのは、港から少し離れた倉庫街の物件だった。
「倉庫街と言っても、昔は住宅地があった一帯でな。小さめの建物が多いのじゃ」
建物ごとにオーナーがバラバラだからか出入りがそこそこあり、逆に気に留められるような場所では無いと聞き、ナハシュが「そりゃ気楽で良いや」と笑う。
「で、ここじゃ。狭いけれどなんと五階建て。地下室も付いておる。上の階からは、海は見えないけれど平原が見えて見晴らし良好じゃ。下の方を倉庫、上を別荘代わりにしてはどうじゃ?」
「なるほどね」
隙間を駆使した物件なのだろうが、階ごとに用途を変えられるのは確かに便利かもしれない。
「海が見えないなら、海風による劣化はある程度避けられそうだよな」
リブラネスタの立地で、逆にこれはポイントが高いとナハシュも評価する。ともあれ、中を実際に見てみるのじゃ、と案内するオペラについて、ナハシュが先に入る。
「うっわ狭めー! でも棚付きか、酒を並べるのに良さそうだ。ヴィンテージ出来るぞ!」
地下もどんな感じか見てみようぜ、と降りていくナハシュの背を追いかけ、ヨルも階段をくだる。
――倉庫を、と考えたのは、いずれ超越者になるであろうナハシュへ、少しずつ何かを残しておきたいと思ったからだ。
(自分でも不思議。人間って変われるもんだね……)
「前は、余計なもんは売っぱらうに限るとか言ってたのにな」という、何気ないナハシュの言葉に「そうだね」と返しながら、何を詰めてあげようか、とヨルはゆったり思案する。
屋台でオペラおすすめの串焼きをつまんだりしつつ物件を見て回り、遅めの昼食にやってきたのは踊る子熊亭だった。
「なんだかんだ言って、わらわはここが好きなのじゃろうな」
扉を開ければ、いつも誰かが居る空間というものが、貴重だということを知っているからなのかもしれない。
「おや、考えることは一緒かな」
オペラが中に入っていくと、シルヴィア・A・カペルが立ち上がる。旅立ちへの景気付けに、オペラへ食事を奢ろうと思ったのだが。
「そのようだ。オペラ君の分は割り勘ってことで」
「そうしよう」
ヨルと早々に話を付けて「さあ何でも頼んで」とメニューを広げるシルヴィア。好意に甘えて、オペラはまず苺ジュースを注文しつつ、いくつかのメニューを指す。
「最近出た新メニューを制覇しておきたかったのじゃ。皆で分けよう」
帝国と王国風をミックスしたピザや、ディズル大湿地帯をイメージしたチーズ満載のグラタンなど、各国をイメージした料理が多いのは、戦勝記念も兼ねているからだろうか。
「おっ、それなら混ぜてくれよ」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングもやって来る。ジョッキを手に、高らかに「乾杯!」と叫べば、皆の持つジョッキやグラスが次々と上がった。
「オペラさん」
Alexandra・Hexe・Claudiaが持つグラスを掲げるのにあわせて、オペラはもう一度グラスを上げる。皆がこうして、見送ってくれることを喜びつつ、湿っぽくなり過ぎないように、とメニューを見遣って。
「それはそれとして、このクリエスター山脈風骨付き肉なのじゃが」
「お、いいな」
分けよう分けよう、とオーダーして切り分ける。
「レピドも一緒にどうじゃ?」
「……そうだな、じゃあ少し」
何やら考え込んでいた様子のレピド・クロサイトも、誘われて輪に入る。今後について、少し悩んでいたレピドだったが……それはそれとして、肉は食べる。
「で、どうしたのじゃ?」
「――自分の中でも、まだ上手く纏まっていないんだが……」
今後の身の振り方について、迷っているのだとレピドは言う。
やりたい事は、ハッキリしている。――自分が冒険者ギルドで保護され、色々と教わった時のように、孤児達に真っ当な手段で生きる為の術を教えたい。皆が、明るい道を歩んで行けるように、してやりたい。
その為の方法を、どうすべきか、レピドは今悩んでいる。
冒険者を続け、その報酬を孤児院に寄付するという方法もあるだろうし、孤児院に就職し、その働き手となる道もあるだろう。あるいは自分で孤児を引き取り、直接育てていく……という形もあるはずだ。
「なるほど。孤児を育てるにも先立つものが必要じゃからな。しかしそこで悩むということは、子供達に直接、教えたり育てたりしたい『大切なもの』がレピドの中にあるということじゃろ」
それは大事にしても良いのではないだろうか、とオペラは言う。
「悩んでいるなら、実際に孤児院を手伝いつつ考えても良いかもしれんのう」
人手不足の孤児院があるから、きっと歓迎されるのじゃ、とオペラは知っている孤児院を紹介する。良ければ一度、冒険の合間に行ってみてはどうじゃ、という言葉に、レピドはそうしてみると頷き返す。
「オペラ、旅でどこを回るのかは決めたのかい?」
「そうじゃなあ、この3年で大きく変わった地域は訪れてみようかと思っているのじゃ」
隣にやって来たシルヴィアに、オペラはまずそう答える。元は旅暮らしのオペラだから、ある程度の場所を知っている分、大きく変わった場所は見ておきたい、と思ったのだろう。
「あとは、シグモル火山帯かの。あそこは神々との結びつきの強い土地じゃから……」
何か糸口が見つかるかもしれない、とオペラは呟く。
「そうか……」
昇神した滅国の皇妃に奪われた、オペラの神様の力を取り戻すのは、正直難しいかもしれないとシルヴィアは思っている。オペラも、それは解っているだろう。
だが。
(それでも君という信仰者がいる以上、神様自体が消えたとは思いたくないんだ)
そう、たとえばボルガニスク様のように、力を取り戻すための深い眠りについているのかもしれない。そんな神様の声を聴ける人がいるとしたら、それは他の誰でもなく、きっとオペラに違いない。
「……君の旅が終わった時、ボルガニスク様に捧げた『青炎への幻想曲』のように、預言の魔女へと捧げる曲を書かせて欲しいな」
だから、それまで、どうか元気で。
その旅路に幸いがあるようにと祈るシルヴィアに、いつかカペル領を訪れ、曲を貰う日を楽しみにしているのじゃ、とオペラは笑う。
「オペラさーん!!」
そうして、荷物を背負ったオペラがリブラネスタを旅立つ日。見送りにやって来たのはレラ・F・ギュンターだった。
「こちら、餞別です。お持ちになって下さい」
「おお! ななこさんではないか!」
それは過ぎ去りし夏の日、オペラを守って夏の海に散っていったワニのぬいぐるみだった。あれからちゃんと、レラの手によって直されていたらしい。
「オペラさんが危ない目にあいました時、またななこさんがオペラさんのことを守ってくれるはずです」
「ふふふ、コッコさんもおるし、頼もしいのう」
よく見れば、オペラが背負った荷物から、ニワトリのコッコさんが顔を出している。もし後ろから何か起こっても、コッコさんが頭を庇ってくれる万全の配置だ!
「でしたらこれも」
レラは髪を結んでいた赤いリボンを解いて、コッコさんに結いつける。
「友情の証、とゆやつです」
「ありがとう」
にっこりと笑うレラに、オペラも笑顔を返す。彼女も旅するぬいぐるみ屋さんだから、いつかまた、どこかで会うこともあるだろうけれど……。
「またな!」
「はい、またです!」
しばしのお別れ。
こうして、一人旅を始めたオペラだったけれど――。
「オペラさん、ご一緒してよろしいでしょうか?」
リブラネスタの外れで声を掛けたのは、旅支度をしたトーラだった。
「――改めて、大陸のことを見て回れたらと思うんです。なので、途中まででもお供させて貰えたら」
超越者として踏み出したトーラは、敢えて、人の世界から離れることを考えていた。皇帝ヨゼフや、滅国の皇妃のようにいつか歪み、世を乱してしまうことの無いように――。
リブラネスタでお世話になった人達への挨拶を済ませて、旅立つことを決めた日。それでも、今はもう少しだけ、誰かと一緒に居たい気持ちもあって……。
「……世界はエーテルで、皆いつか澱に返るものだとしても、こうして考え、いろんな事を感じれるなら、それは意味のあることだと思います。それに、超越者は世界から剥離しつつある者なら、澱に返らず別のものが見れるかもしれません。それはちょっと……いえ、とても気になるので!」
「なるほど、それは面白い旅じゃの」
ぜひ、とオペラは頷く。
超越者は、物の見方が変わっていくという。トーラと一緒なら、また違った目線で『神様』を、『預言の魔女』への道を探すこともできるかもしれない。
「では、新たな旅へ出発じゃ!」
「おー!」
オペラとトーラは肩を並べて、街道を歩き出した。
マスターコメント
ご参加、ありがとうございました!
イベントシナリオ普通 報酬:標準10 / 4〜25人
2024年02月03日 02時11分38秒 公開
大成功
参加者
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