【屍涯】その墓標に眠る答え【畢命】
炙りとろ左門
コメント 14
シナリオID:3332
オープニング
「な、なん、」
まったく淑女らしからぬ表情をしてしまったが、その場で気を失わなかっただけ褒めてもらいたい……慎ましやかな仕草で気を失った方がマシだったかもしれない。
「見た目ほどはひどくない」
妻であるキーリに対して言い訳にもならないことを主張したロヴェルは、しかしクレオンの肩を借りてようやく立っているという状態だった。そこかしこに深傷の痕があり、顔は青褪めている。キーリは一周回って冷静になったらしく、真顔になった。
「旦那様。私の目を見てもう一度」
「……」
ロヴェルは無言で目を逸らした。
冒険者一行はひとまず、這者が出現した祭殿から離れ、クレオンの案内で彼らの拠点へと招かれた。死霊術師たちの襲撃によって傷を負った人々は、キーリによってここに誘導されていたからだ。
「あんたたちのおかげで、だいぶ生き残ることができたな」
族長であるクレオンは、集会所を見回してそう言った。その表情は相応に苦々しいものである。
「守護者の一族といえど、御伽話のために命を落とす覚悟ができていた者たちばかりではない……いや、今はアレをどうにかしないと、か」
アレとはつまり、祭殿に居座る這者である。今のところ動く気配はないが、それもいつまで続くものか。
「う……ご、ごめん、これ以上は……げん、かい」
その時、ロドスが目を回して倒れた。負傷者の手当てのために回復魔法を使っていたのだが、魔力がついに底をついたらしい。
「では、ロドスと伯爵……それから夫人にはこちらで待機していただきましょう。ここの守りは私が請け負います」
そう告げるアレクシスの顔にも疲労は浮かんでいたが、彼のように軽傷で済んでいる者は少ない。適材適所だろうと、クレオンは頷く。
「じゃ、冒険者殿のサポートは俺だな。といっても、足手まといにならない程度の動きになろうが」
クレオンはそのように話を切り出す。空から落ちてきたあの這者についての情報だ。
「俺たちが先祖から聞いた話に、あんな存在はなかった。だからあんたらの推測に加えて、こっちで観察して得た内容になる」
あの泥状の巨大な這者は、自ら形を整えつつあった。祭殿を覆うほどに広がっていた泥は集まり、小さな山のようになっている。しかし途中から黒い霧を纏ってしまったせいで、「なにかそこにいる」以上の判断ができなくなってしまった。
松明の火をかざしても、魔法の光を灯しても、その霧の向こうを見通すことができなかったのだ。くわえてあまりに闇が濃いために、周囲の景色との遠近感を掴むことができない――まるで平面に黒いインクをこぼしたような見目は、「深度のある視界」に慣れきっている身では混乱する。
「あとは、観察時に泥がはねちまった仲間曰く、熱くて寒い、だそうだ」
浴びた泥は燃えるように熱く、そう感じた次の瞬間には、まるで体温を奪われたかのようだった、と。具合を悪くしたクレオンの仲間は、今は横になっている。
「……エーテルを吸われたんだと思う。なら……アレも夜明けには動き始める、かな」
ロヴェルと一緒にソファに運ばれたロドスは、目を閉じたまま言葉を絞り出す。
「監視哨への応援要請は?」
「済ませました。ですが、どれだけ早く見積もっても到着は夜明け以降です」
ロヴェルの問いに対し、アレクシスは難しい顔で答えた。
「……応援の到着を待っていては、手に負えなくなります。それにセウェルス=マルキアスの確保も考えるなら、早い方が良いかと」
どのような形であっても生きているのであれば尋問にかけられるという点では、生きていた方が良い。すでにロドスを捕縛しているが、首魁であることが重要だ。そして罪人に与えられていた任は解かれるだろう。アレクシスは現在動けないでいるシュナイデルの代役として、その処理を預かっている。
(……だが、縛り首も、社会からの放逐もそう変わらない……むしろ縛り首のほうがマシかもしれないな)
表向きは病床にあるというロヴェルを名実ともに死んだことにしてしまえば、キーリもこれ以上無謀なことも、微かな希望に振り回されることも、罪人の妻として謗られることもなくなるだろう。
付き合いが生まれてしまった以上、アレクシスの憂慮はキーリの今後だ――が、それを考えるのは戦いの後でも十分に間に合う。アレクシスは思考を切り替えた。
這者は可及的速やかに討伐する必要があるという主張に反対するものはいない。クレオンもそれに同調し、冒険者たちを振り返る。
「じゃ、作戦をたてるか」
● その墓標に眠る答え
大地に寝転がり、目を閉じて柔らかな日差しを浴びている。似たようなことをすることはあっても、心が休まる感覚を意識するのはずいぶん久しぶりだ。
五体に意識を向ければ、どうも体が小さいことに気づく。随分と遠い過去の感覚だ。まだ、季節がめぐる毎に成長していた、人間だった頃。
ゆっくりと目を開ければ、見上げる天には太陽が燦々と輝いていた。それをただぼんやりと眺める。
ふと傍らを見やると、しゃがみ込む長い黒髪の女と目が合った――目が合った?
師父と目が合うことなんて、ほとんどなかった。決して視線を寄越さないという人ではなかったけれど、彼女はずっと目指す場所だけを見据えていたから、自分はその横顔か、書き物や読書のために伏せられた目元ばかりを眺めていたのだ。
だが今、彼女はどこか寂しそうな、悔しそうな表情を浮かべている。
『どうして?』
聞きたいことはたくさんあった。今生じた疑問も、彼女の死からずっと答えを得られなかったことも。
『愛してみたかったから』
……その感情を、理解できなかったのに?
人の矩を踏み越えることもできたのに、彼女が最期に「諦めきれない」と選んだものが、真理の光ではなく、見様見真似で繕ってきたままごとの続きだったと?
他人に慈愛を抱けなかったくせに、吐息が途切れる瞬間、この世の全てを解き明かすことよりも、誰かを愛する心を理解したいと願ってしまったのか。
あの墓標は、太陽への未練などではなかった。いや、我々がそうであれと願っているだけかもしれない。
死者が真実を語ることはない。だが、ああ、この女は。誰かを愛さなければ、誰かに愛されなければ、決して導けない答えを、その墓標に隠して死ぬことを選んだ。愛ゆえに――なんて陳腐で、しらじらしいことだ!
『シヴェルト。我が愛弟子。君はいつも、私より先に辿り着いてしまうね』
その上、今の顔はそのせいだと宣う。
あまりにも腹立たしくて、できるものなら飛びかかって噛み付いてやりたかった。
(――噛み付くなんて、誰かさんみたいだな)
鮮やかな景色と温もりが遠のいていく。体は冷たく、ぴくりと動かすこともできない。闇の中、何かが大口を開けたような気がした。
解説
マスターより
リプレイ
「成長した……? この短時間で?」
イズル・M・ヴォルゴールがそう表現したのは、直感に近い。
祭殿の石床を覆うほどに広がっていた泥の波は引いていた。代わりに祭殿の中央に集まり、暗黒の霧を纏って佇んでいる。変化と見做されるようなところを成長と表現したのは、それが先ほどとは比べ物にならない存在感を有していたからだ。
あえて形容するならば泥、ではあるが――周囲の熱を奪うことでまとった冷気、見通せぬ暗黒が与えてくる恐怖、隙を見せれば一瞬で首が飛ぶだろうことを確信させる――『冥府の亡者』と呼ぶに相応しい威容だ。
「なるほど。これは時間をかけられない。そして、油断もできない相手、ということか」
シルヴィア・A・カペルは刀を抜く。強大な敵を前にしての反射的な動きだった。それを見て、フリューリングスルフト=ティエラが声を上げる。
「ごめん、待って。……助けに行きたいんさぁ」
誰を、という問いはない。周囲に死体が見当たらないのなら、セウェルス=マルキアスはあの泥の下にいるということだ。
今この時点でさえ五体満足である保証はなく、そも救出の余裕があるかどうかも疑わしい。が、積極的に反対する者はいなかった。
「色々聞きたい奴も多いだろうし、俺はもうぶん殴ったから満足した」
スー・ルーはそう言うと、這者の観察に移る。
「……こいつは、殴っても効かなそうだな。でもま、ここまでデカけりゃ外すってこともねえだろうし」
ナタリア・フィッツジェラルドは瞬きひとつを挟んで、その台詞に笑みを見せる。
「そうだな。ここで怖じ気付いては、彼の苦労も無駄になると言うもの」
怪物を前にして尚、全員が戦うことを選択している。これ以上に心強いことはないだろう。ナタリアは火を灯したランタンをかかげた。
「ではお姫様の救出というわけだ」
ローザリカ・L・ディオールはフリューに歩みよると手を伸ばし、細い指先でフリューの口元を引き上げた。
「めでたし、めでたし――僕も、物語はハッピーエンドが好きだからね」
「……うん!」
フリューは笑って応えると、両手で自分の頬をぱんと張る。
「じゃあ、お姫様を助けに行くさあ」
● 暗闘
【オートリカバリー】により、ナタリアの体がふっと軽くなった。ナタリアはまず距離を取ることを優先し、後方戦力のいる方へと抜け出す。
「ナタリア、大丈夫かい?」
這者を挟んだ向こうからナタリアの耳に届いたのは、シルヴィアの声だ。怪しげな光を放つ敵を見ないようにしながら、その声の力強さから無事を確認し、ナタリアはほっと胸を撫で下ろす。
「問題ない。今離れた」
そう返し、ナタリアは再び這者と向かいあった。空の底から落ちてきたこの泥は、相変わらずその場から動く気配を見せない。
命綱を用いての検証中、それまで沈黙していた敵はフリューが泥に踏み込んだ瞬間に反応を見せ、直後に戦闘がはじまったのだ。その際に引き込まれたフリューはというと、見通せぬ闇の中で泥をかき分けてセウェルスを探している。
「ああもう、セウェルス! 返事しぃさあ!」
名が所在標識だというのならさっさと居場所を知らせろと、フリューは痺れを切らして叫んだ。熱湯の中に手を突っ込んでいるようでありながら、一瞬にして指先がかじかみ、触覚は早々に頼りにならなくなる。
そんな中に留まり続けることへの負担は大きいだろうと、ナタリアは【サイドヒール改】をフリューへ施した。
「頼めるか!」
そして続けて【輝腕】をイズルに付与する。イズルは床に張った【母蜘蛛糸のロープ】をしっかりと握ると、もう片手で戦鎚を振るう。
〈フロルの涓滴〉――そう呼ばれる杯からエーテルが溢れた。放たれた光は這者の体に吸い込まれ、失せる。イズルは一瞬息を呑んだが効果はあったようで、次の瞬間、『攻撃を受けた』と認識したらしい這者がイズルに向かって泥の波を寄せた。
「ぐっ……!」
泥を被ったイズルは、その熱と冷気に顔を顰めつつも【母蜘蛛糸のロープ】にエーテルを流した。だが、泥がイズルを引き寄せようという力が強すぎる。授恵者でなければ体ごと引きちぎられていたかもしれない。
どうするべきかとイズルが思案した直後、スールが【アイアンウォール】を生成し、イズルを飲み込んでいた泥の流れを断つ。
「お、うまく行くもんだな。大丈夫か?」
「助かったよ……ありがとう」
イズルは装備に付着した泥を軽く払うと、冷や汗を拭う。
「攻撃に反応する、その限界射程はこの辺りだろう」
体を張った甲斐あって、敵の能力が凡そ見えてきた。スールは頷くと、イズルが示した地点より後ろから魔矢を放つ。それもまた、敵の体に吸い込まれていった。
「こっちは効いてるのか、効いてねえんだか……」
「いや、あれを見て」
イズルは先ほどの攻撃によって石床に飛び散った泥の様子を観察していた。
「……泥の粘性が上がってきている。刺激に適応しての変化であれば、俺たちの攻撃は『脅威』と見做されているんじゃないかな」
そしてその変化の度合いによっては、戦いがより厳しくなることも想定される。イズルはシルヴィア達に向かって合図を出した。
シルヴィアはイズルの合図を確認すると、泥から一歩離れた。遠距離からの攻撃に切り替えるのだ。
だが、セウェルスはまだ見つかっていない。
いたずらに時間を消費するばかりでは、仲間が危険に晒されることになる――そう苦々しく思うシルヴィアの視線の先で、フリューはじっと蹲っていた。
だが、フリューは悲嘆に暮れているのではなかった。集中し、すんと鼻を利かせる。
その花は他に比して強く特徴的な芳香を持つ。集中すれば辿れるはずだった。
「ティエラ!」
フリューを狙う一撃を、ナタリアが代わりに受けとめる。
「待って、今――ここ!」
一瞬鼻先を掠めた香りを頼りに、フリューは泥の中に体ごと突っ込み、それを抱えるようにして引き摺り出す。
勢い余って床を転がり、フリューは慌てて身を起こした。とっさに抱え込んだ頭を両手で掴み、泥をごしごしと拭う。
「セウェルス!」
何度か呼びかけられて目を覚ました青年は、フリューの瞳をじっと見つめ、状況を理解すると呆れたように笑った。
「ほんとに、間に合っちゃうんだよなぁ」
「あ……」
映っている。その瞳が、自分を映して笑っている。それに、目が潤む。
「逃がさんって、言うたさぁ」
フリューが震えそうになる声で笑顔を見せれば、セウェルスはその肩に自分の頭を預けた。
「そうだね。逃がさないでくれ」
「んえっ?」
思わずフリューが聞き返すも、駆け寄ってきたシルヴィアがセウェルスの肩を掴む。
「……だめだ、安全なところまで運ぼう」
何がだめなのか、フリューは遅れて理解した。長衣でわかりにくいが、手足の一部が見当たらない。回復魔法で欠損部位が取り戻せるわけではない以上、足を失っては運ぶしかない。
「手伝おう」
シルヴィアが応急的に回復魔法を施していると、同じく泥の中から抜け出したナタリアがセウェルスを担ぎ上げる。
まとわりつく泥が重たいのは、おそらく気のせいではない。はやく離れたほうがいいと本能が警鐘を鳴らしていた。
「早くこっちへ!」
ローザリカに促され、フリューたちは走った――直後、【アイアンウォール】を境にして、世界から熱が失われる。
這者は泥の中に取り込んだあらゆるものからエーテルを吸い上げた。それを、冷えた大気から感じることができる。
「……本格的に『食う』ことを覚えた、ってところか?」
先ほどとは異なり、這者から明確な敵意を感じる。それを感じ取ったスールはにっと笑った。
「それだけじゃあ、な」
近づく授恵者たちを捕食できていればまた違っただろうが、それは叶わなかった。これ以上力をつけて動き出す前に、最大火力を投じて殲滅するのみだ。
「ローザリカ」
シルヴィアは気遣わしげにローザリカを振り返る。これまでセウェルスを救出するために、ローザリカが仲間達の不調の多くを引き受けていたのだ。しかしローザリカは顔色ひとつ変えずに、優雅に微笑んで見せる。
「おや、僕はまだいけるぞ?」
その言葉と共に、【ソウル・ピュリファイア】が発動する。
「身を苛む傷ひとつ、誰かが願った明日に繋がるものならば――安い」
答えを、悲しみの雨があがることを、誰かと共に歩む明日を、まだ見ぬ幾万の景色のために。ある者は祈り、ある者は剣を手に。そうして我々は生き、名も知らぬ誰かに生かされていくのだ。
ゆえに、紡がれる物語に、巡る命に涯などなく――ここに『おわりははじまり』、その一片を示す。
「いざ謳えや、謳われぬ命遍く」
ローザリカの手から生み出された夜啼鳥が羽ばたき、冒険者達の肩に、腕に留まると慈しみの歌を奏でた。それと同時に、フリューが駆け出す。
「さっさと片付けるさぁ!」
これが鎮座したままでは話もできない。灼熱の泥を踏み分け、フリューが這者を斬り付ける。
「同感だ」
シルヴィアも振り抜く一撃に全てを込め、這者の反撃をひらりと躱した。
攻撃によって飛び散った泥が煙を上げて消える。這者の勢いを削ぐことができているのだ。イズルはそれを見て、攻撃は任せてもいいだろうと、安全地帯に横たえられたセウェルスのそばに跪く。
「大きな傷に入り込んだ泥は全て掻き出した」
すでに治療にあたっていたナタリアがそう報告すると、セウェルスは引き攣った顔に笑みを浮かべた。
「そういう拷問かと思った。やっぱり逃げていい?」
「俺も色々と聞きたいことがあるし、それは許可できないな。マトリクス界に逃げ込まれたらお手上げだけど」
イズルは【リジェネレーション】をセウェルスに付与しようと軽く戦鎚を振る。が、セウェルスは億劫そうに腕を持ち上げてそれを固辞した。
「それは、フリューにあげてよ」
「……どういう心境の変化だ?」
ナタリアがそう問うと、セウェルスは目を閉じて細く息を吐きながら答えた。
「別に。そうしたいと思ったから」
スールは中空をかき混ぜるように掲げた杖を動かしてエーテルを収束させ、そのまま放つ。純粋なエネルギーとして射出された魔矢は這者の体の真ん中に吸い込まれていった。
「……お?」
その時、這者が纏っていた霧が一気に晴れ、全貌が顕わになる。
貌があるわけではない。向けられている敵意を視線と勘違いする、そういうことはあり得ようが。目が合ったと思った瞬間、スールの肌がぞわりと粟立った。
「は、」
怪しげな光の効果の範囲外にいるおかげか、悪寒程度で済んでいる。しかしこれで敵の持つ「得体の知れなさ」は薄れた。
スールをはじめ、身を削りながらも、「後少しだ」と冒険者達の戦意が上がる。
「これで、」
「とどめだ!」
イズルが魔矢を、ローザリカが弓を引いた。攻撃のために限界まで高められたエーテルは、夜空を淡く照らし上げるほどの光を放つ。
二条の流星が落ち、這者は光の中に消えた。
あとには残った瓦礫と、それに焼きついた黒い影だけが、戦いの様相を語ることとなる――。
● 涯の黎明
這者を倒し、冒険者たちは互いを労った。夜明けとともに友軍が到着したこともあり、負傷者の治療を含めた事後処理はつつがなく進んでいる。
「もう、君の顔を見ることはなくなるかもね」
そうナタリアに別れの挨拶を告げるロドスの表情は、どこか寂しげだ。
セウェルスは王国のベレス領へ、ロドスは王都へとそれぞれ護送されることに決まった。しかし深傷を負っているセウェルスはすぐには動かせないため、ロドスがひと足先に連行されることになったのだ。
「彼女たちの願いを聞いてくれて、ありがとう。それだけは伝えておきたくて」
「いまはどこに?」
「どこにも。けれど彼女は、望んで殉じた。それを愛と呼ぶのかどうかは、わからないけど」
「……そうか」
ナタリアは瞑目した。その後、馬に乗せられて東へと向かう隊列を見送る。
【屍涯宮】の面々とはずいぶん長く関わってきたが、それも区切りを迎えようとしている。そして十数年も経てば、これも人々の記憶からは薄れるのだろう。
ナタリアは踵を返す。熾烈な戦いを制して瞼は重く、眠気が訪れ始めていた。
「すまない、出立まで眠る」
集会所に戻るなり、ナタリアはソファに腰を下ろしたまま寝入ってしまった。シルヴィアはそれを見て目を瞬いたあと、そういえば夜通し戦っていたなと思い出した。
「あ」
ロドスに声をかけそびれた、と、シルヴィアは声を上げる。外套のベルトには、まだあれが提げられていた。
シルヴィアはそれをベルトから外す。華と散った敵の遺した想いは、届いたのだろうか。
「『人智の及ぶべくは器に満たず』――か」
ある劇における一節を誦じて、シルヴィアは彼らの師に思いを馳せる。それでも知らぬことを知ろうと努める、それは人に特徴的な性質だ。
そしてそれがたとえ、ただの真似事であったとしても。誰かに花を贈りたいと思う心こそが愛情だと、シルヴィアは思う。それは師父が残した術に、最もよく表れているのだから。
スールはそわそわと落ち着かないローザリカに、何度目かの「休めよ」を投げかけた。
「いや、なんだ、しかしな」
「死ぬこたないだろうし、足もねえし」
スールはちらりと部屋の中を窺う。治療を施されたとはいえ、セウェルスの体は損傷が激しく、閉じ込めるまでもなく逃げおおせるような状態ではない。なにより今は意識を失っている。
そしてローザリカが気にしているのはそちらではなく、セウェルスのそばについているフリューのことだろう。
「休まなければ、体を壊してしまう」
「そりゃあんたもだろ? そういうところあるよな、他人の心配ばっかで自分のことは後回しだ」
体を張って無茶を押し通して尚、手折られぬ薔薇――いい女だよな、とスールは思う。単なる賞賛で、深い意味はないが。
「ま、おかげで助けられた場面は多いが。だから休める時に休んどけよって話だ」
「うむ……」
ローザリカは一応の納得を見せると、すごすご休憩室へ戻っていく。スールはそれを見送ったあと、フリューの様子を窺った。
スールは「後悔したくない人間のやりたいこと」が叶うよう、手伝っただけだ。彼女が望む結末が正解かどうかは誰にもわからない。それでも明日は来るし、世界は巡るのだ。
「……眠気はねえが、腹は減ったな」
それもまた変わらぬ営みのひとつだろう。スールは部屋へ続く仕切り幕を下ろし、食事を求めて歩き出した。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:多い6 / 4〜6人
2023年12月04日 13時57分13秒 公開
相談掲示板
こほん。前回、愛の告白をしてまだ返事をもらっていない内に姫(セウェルス)を攫われたシーフのフリューさぁ!(※場を和ませるつもりで言っている) 討伐優先で動くけど、個人的にセウェルスの体がまだあれば救出したいなと思ってるさぁ。 ただ、うちは接近戦しか出来んから、攻撃方法に悩んどる。 〈冒涜的な色彩〉対策に目隠しするとしたら、双波とそのマーカー、超聴覚や超嗅覚で攻撃悟って回避できるかと言うと、ちょい悩ましいので。 敵の〈捕食〉は3ラウンド目終了時ってあるけど、それまでその能力は動かんのかな? それならその間にセウェルス探索出来ないかなって思っとる。
シルヴィアだ。今回もよろしく。 さて、フリューの囚われのお姫様を救い出しにいかないとね? 此度の敵はラウンド最後に動くからINIはあまり要らなさそうだね。 元々夜で光源なし、その上敵の周囲は〈冥淵の衣〉で自然現象やスキルの光を吸収する。 〈冒涜的な色彩〉〈捕縛〉は射程3だから、射程4以上から遠距離攻撃し続ければ良い……のだけれど、巨体とはいえ視界不良の戦場であるのと、形態としては「泥」だから、遠距離攻撃だけで倒せるかは不安が残る。〈冥淵の衣〉効果で狙いが定まらないかもしれないし、何よりセウェルスを助けるのであれば接近は必要だ。 出来れば敵に接近戦を仕掛ける人が、声掛けやエーテルを用いて攻撃箇所を遠距離攻撃手に示すのが良いかなと思う。 〈捕食〉はクリーパーの現界が強まってから使えるスキル、ということなのかもしれないね。解説の文章を見るに、3ラウンド目終了時までは使われない認識で合っている筈だ。まだPL情報だから、誰かは不意打ちを受けるかな、とも。 出来れば私も接近戦を仕掛けたい。 セウェルスの探索についても助力できればと思っているよ。回復スキルも持っていくね。
お姫様か。それは助け出してハッピーエンドに導かなくては。 ヒーラーのローザリカ、此度もよろしく頼もう。 そうだね、エーテルを吸う泥であることは確定しているような状況だし 先に救出を狙うのは有りだと思う。 夜間に光を吸収する暗黒の霧、か。 ひどく寒いという描写こそあるが熱を遮断するわけではなさそうだし 味方の位置把握にサーマルアイが使えないか試してみたい。 うまく行くなら、たいまつやランタンで敵位置も示せるんじゃないかとも思う。 シルヴィア君が挙げてくれた接近する者と範囲外で攻撃する者に別れる案に賛同する。 僕自身は範囲外から支援および弓での攻撃が出来たらと思っている。 ひとつの策として、安全圏からソウル・ピュリファイアでBSを肩代わりできれば 接近する者には自由に動いて貰えるかと思ってね。
ヒーラーのイズル・ヴォルゴールです。よろしくお願いします。 救助を先に持ってくるのは賛同します。 カペル嬢の言う通り、遠距離攻撃で脳筋してればいつかは倒れるとは思いますが、大きさ的に当たらないと言うよりは泥状という変幻自在の体でやり過ごされる感じを受けました。 救助には状況的に敵に取り込まれる可能性も考えられるので救助メインの方はロープ等で命綱をするのがいいかもしれないと思いました。 個人では、範囲外行動を考えています。 回復ならホーリー・リチュアルでの敵範囲内外跨いでの回復やリジェネレーションやライフアンカーでの救助者の援護を考えています。 攻撃に回るならデバフに振り切ろうと思ってます。
遅くなった。ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 救出を先にするというのも、索敵の為にサーマルアイを利用という意見にも同意だ。 冒涜的な色彩への備えというか対抗手段としては極力目視をせずに超聴覚によるヤマ勘?で索敵というくらいかね……? パッシブではなくメインアクションだから、タイミングを見極められれば目視でも大丈夫だろうけど。 あと、射程4以上の遠距離攻撃を撃ち込む云々だが、相手が相応の巨体である以上、ちょっと移動しただけでそれなりにマスを占有する事にもなるから下手をすると逃げ場を失って各種スキルの餌食になりかねない。 そうなれば射程圏内に味方が捉えられそうになった時に、別所から撃ち込んでタゲ取りを試みる形になるだろう。 とはいえ霧による回避力の補正を考えると、いくら相手がそれなりに図体があるにせよ、輝腕あたりを保険として持ち込む次第だ。
わっふふ♪ ノッてくれてありがとうさぁー!(シルヴィアさんとローザリカさんに手を振って) 救出を先にする、接近して攻撃する人と遠距離から攻撃する人に分かれるの賛成さぁ。 サーマルアイを試すのとロープを命綱にって案、良いと思うから、ランタンとロープ持っていくさぁ。
サーマルアイで仲間の位置把握をする事も、たいまつやランタンを敵の位置を示す合図にする事も妙案だと思ったよ。 救助者の援護や範囲回復も有難い。 >接近戦組の動き ロープを命綱にするのもとても良い案だね。私もロープを持って行くよ。 既に皆に言って貰っている様に、〈捕食〉が発動する3ラウンド目終了時までにセウェルスを発見したい所だ。〈捕縛〉はリアクションだから、セウェルスを救助するまでは遠距離攻撃組に敵の位置を示しつつ救助に専念して、救助組は出来る限り攻撃しないようにしたい。とはいえ敵の性質的に攻撃対象になるのは免れないだろうし、出来るだけ往なしつつ。 >セウェルス発見後 セウェルスを発見したら取り急ぎ回復するつもりだよ。 その後は救助組の誰かがセウェルスを背負って、遠距離攻撃組のヒーラーの方へ走って離脱するのが良いと思う。敵の周辺の2ヘクスにいる間は〈冥淵の衣〉対策に目を閉じつつ。残って接近戦をする人は離脱の援護が出来れば。 >フリュー (微笑んで手を振り返しつつ) もし良かったら、セウェルスを敵の攻撃射程外まで運んで貰っても良いかな? 二人の回復と離脱の援護に力を尽くすよ。 あ、ランタンの光は多分自然現象になるから、遠距離攻撃組から信号を送る形での使用になると思う。近距離攻撃組は声掛けが主になるかな(間違っていたらごめんね) >ナタリア 此度の敵は移動力が0で固定だから、敵の移動については考えなくて大丈夫そうだ。狙いが定まれば一方的に撃てると思う。 敵の近くだと〈冥淵の衣〉効果で命中率が下がるようだし、輝腕は是非お願いしたいな。 (誤字で書き直したよ。ごめんね)
No.9
泥なのか泥じゃねぇのかよくわかんねぇな。 爆発させたら散らばっちまって邪魔かも知んねぇし、爆炎は使わねぇ方がよさそうか? 見通しの悪い場所でやる狩りなら俺は慣れてなくはねぇが、 お前ら慣れてないなら何か音の出るものでも持っとけよ どうせ今回のやつ相手には隠れたりする必要もねぇだろ
命綱は言い出しっぺでもありますので道具の長さ的に綱の先は預かろうと思っています。 ヒーラーが四人いますので、私は回復は特性のみに絞ってしまっても大丈夫ですか? あと、遠距離攻撃と近距離攻撃の人数比率を知りたいです。 今、アクティブはデバフと自分用に輝腕を持っていこうと思っています。 もう一つが保険のヒール4、残りが遠距離魔法攻撃か近距離攻撃の毒撃、無拍子で検討しています。近距離が少ない場合、近距離攻撃に切り替えます。 私の回復に関しては救助関係専用程度の認識で大丈夫です。
たいまつやランタンは火を使う性質上、熱が出るはずだから うまくいけばサーマルアイで捉えられそうだと思ってね。賛同も貰えてありがたい。 僕は遠距離に留まるから〈冒涜的な色彩〉も射程外で問題ないし試してみるよ。 ロープを命綱に使う件も良案だと思う。 >フリュー君 それはもう、素敵な言い回しだったからね(ひらりと手を振り応えて) もしよければ初手で君にソウル・ピュリファイアを。 まずお姫様を探すのに視界があった方がいいだろうし、 連れ出すのに〈冒涜的な色彩〉でメインアクションを封じられると動きづらいと思ってね。 >ヒーラーの役割分担 そうだね、すり合わせて置いた方が動きやすそうだ。 僕も整理して表明しておこう。 攻撃手段は遠距離からの弓。 特性スキルはソウル・ピュリファイアとワイドヒールプラス。 治療強化4とヒール4を1枠、あとは射撃スキルを2枠の予定かな。 回復はなるべくサブアクションで使えるワイドヒールプラスにして 火力不足にならないよう積極的に攻撃していきたいと思っているよ。
むむむ……私もフリューの所信表明に乗るべきだったかな。 あと、敵が動く気配はないという事は了解。あくまでセウェルスを救出しようというなら接近する必要があると。 救出役がもう1人入用というのなら、その役は私にやらせて貰っても宜しいだろうか? というのも、手元に6000弱のOrbはあるのだが、習得可能な新特性にはオートリカバリーが含まれていて。 こいつは回数がある限り、BSに掛かった際に自分のターン時にランダムで1つ自動で解除される代物だ。 冒涜的な色彩には注意すれば何とかなるかもしれないけど、接近してセウェルスを救出しようともなれば捕縛にかかる可能性は大きい。 その際の保険の意味合いが強いな。 もう1つ特性を持っていくなら真サルベーションかサイドヒール改にして。 アクションは輝腕3とヒール4で、残りは考え中だ。
成程、ランタンの熱によってサーマルアイでの味方の位置把握をしやすくするという意味だったんだね……! 体温での把握ばかり考えていたよ。勘違いしてしまってごめんね。 ナタリアも救助役に来てくれるなら心強い。イズルに命綱を持ってもらえるのも助かるよ。 今の所、救助組(近距離攻撃組)予定はフリューと私、ナタリア。 遠距離攻撃組予定はローザリカ、イズルだろうか。スールは表明待ちかな。 >持って行くスキル 〈冒涜的な色彩〉に罹患する可能性が高いと思うし、サブアクションで使用できるワイドヒールプラスは私も持って行くつもりだ。 もう一つの特性スキルについては、初手で皆にウェイブ・オブ・インフィロニティロアを掛けたいと思っている。出来ればバフの効果中に救助と討伐を完了したい所だ。 アクションスキルはヒール4、解呪4、見切り3の予定。もう一つはエーテルブローか魔矢か、魔霞のどれかかな……特性もアクションもまだ悩んでいるから変更するかも。 持ち物はロープとランタンの予定だよ。
遠距離と近距離の人数比率やけど、シルヴィアさんまとめてくれてありがとうさぁ。 6人やし、3:3くらいでえぇと思う。 セウェルス救出したら、遠距離組まで運ぶの任せて! ローザリカさんもソウル・ピュリファイア頂けるなら、捜索がしやすくなるから助かるさぁ♪ 命綱の先はイズルさんに託すね! >スー・ルーさん せやねぇ、爆炎やと飛び散ってしまうかもって不安はあるかな。 泥部分を固まらせてみたり、デバフ系とか、そういうんのも良いんやないかなって思う。 >ナタリアさん わっ、ノッてくれたナタリアさん見て見たかったけど、気にしないでさぁ! 救出組にナタリアさん来てくれるなら心強い! >行動予定 近距離組でセウェルス救出に動くさぁ 救出後は彼を遠距離組まで運び、再度敵に接敵して討伐の為の攻撃を開始。 捜索用に双波、看破、超嗅覚(セウェルスの纏う花の香りが分かればいいなぁくらい) ランタンの熱で味方に位置を教えつつ、何かあれば声を出したり、命綱を引っ張ってもらえたらと思う。
>スキル 悩んだんですが、アクション枠での回復を捨ててデバフの試行回数を増やすため魔糸に乗せ替えます。 攻撃スキルも全体的に見て少ないので威力は弱いですが回数の多い魔矢を乗せます。 すべての攻撃とデバフに攻撃集中を宣言。 命中上がるバフを回してくれるとありがたいです。