【呑竜】リスタ子爵、幽界分樹を発生させる
岩岡志摩
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シナリオID:3241
オープニング
先日冒険者達と共に義勇兵達を倒したフローラ・ウォレス伯爵のもとへ、私兵団を介しあるものが届く。
「メイレと名乗る者が、これを」
私兵団の兵士は自身の報告と共に、書状と袋をフローラ伯爵へと差し出す。
書状はフローラ伯爵の宛名で記され、袋には金銭代わりと思われる貴石が詰められていた。
書状の中身を読み進めるフローラ伯爵の表情が強張り、読み終えたフローラ伯爵は伯爵領へと派遣されてきた王国騎士のもとへ急行する。
王国騎士がフローラ伯爵の領地へ派遣されたのは、先に発生したメアリー・リーンエス王女暗殺未遂の件で、リスタ子爵への対処に王国騎士団の介入が必要と判断されたためだ。
王国騎士への面会を取り付けたフローラ伯爵は、今しがた入手した書状を進呈する。
中身を読み終えた王国騎士はフローラ伯爵に「これは確かな話か?」と確認する。
――リスタ子爵がメドゥの指先構成員達を襲い、輸送していた龍脈即時通信装置『龍逓架』を複数奪い取った。
「裏付けはこれからですが、事実であればリスタ子爵が一連の暴挙に出たことにも説明はつきます」
龍逓架とはシルトラース帝国が崩壊する前、実用段階直前まで開発を進めていた通信装置のことだ。
龍脈を利用して遠隔地同士が即時に通信可能とする装置である一方、龍逓架が発する魔法的な信号が龍脈を通じて帝都の幽界樹に感知されるため、使用した場合幽界分樹を呼び寄せる可能性も指摘されていた。
王国騎士はメドゥの指先が龍逓架を量産していることは知っていたが、リスタ子爵が龍逓架を入手したのなら話は変わってくる。
「既に領境近くにあるリスタ子爵領の村が数か所焼け落ちた模様です」
フローラ伯爵によると、焼け落ちた村から逃げ延びた住民達の一部がウォレス伯爵領まで駆け込み、庇護を求めてきたらしい。
「私の判断で、領内に駆けこんだ住民達を保護しました」
王国騎士は「やむを得ない対処」と黙認して続きを促すと、フローラ伯爵は住民達より入手した情報を報告する。
「村を襲った者達はレイウェスト皇子殿下の指示を受けた帝国兵と名乗っていたようです」
「待て。殿下が貴殿の領地を通過するというのは偽情報のはずだ」
「おっしゃる通りです。それを逆手にとる形で偽者が用意されたと考えられます」
フローラ伯爵も王国騎士も、そのような真似をする者としてリスタ子爵の名を挙げる。
「龍逓架の件も考慮すると、リスタ子爵がやろうとしていることは――」
王国騎士の言葉を、フローラ伯爵が継ぐ。
「帝国兵達が龍逓架を使い、リスタ子爵領を破壊したという実績作りでしょうね」
リスタ子爵領にいる住民達の中で、本物の帝国兵を知る者はほぼいないだろう。
そして先日の暗殺未遂によって、リスタ子爵はレイウェスト皇子一派の反撃を受けてもおかしくない状況にある。
「自領の壊滅と引き換えにしてでもレイウェスト皇子殿下の評判を落としたいようだな。リスタ子爵は」
王国騎士がこの地へ派遣されたのは、先日義勇兵を叩きだしたフローラ伯爵がリスタ子爵領内へ攻め込まないよう抑止する事も兼ねているが、リスタ子爵領内で暴れている帝国兵達を放置するのも問題が大きい。
それに龍逓架を複数所持しているなら、リスタ子爵を殴るだけでは阻止できないだろう。
王国騎士はフローラ伯爵に指示を出す。
「エーテル浄化者と冒険者達を集めろ。子爵が狙う場所とは別のところへ幽界分樹を誘引し、そこで倒す」
リスタ子爵に寄親がいないことを知る王国騎士は、自身の裁量権を行使することにした。
●誘引
王国騎士は独自の手段で入手したリスタ子爵領の地図を広げ、ある一点を指す。
「このあたり一帯にいた住民達は、犯罪者として全員リスタ子爵に殺され、今は岩場が並ぶ無人の荒地となっている。ここなら大がかりな戦闘が起きても周囲への影響は少ない」
ここでフローラ伯爵は先日撃破した義勇兵達のことを思い出す。
「その犯罪者というのは偽りだったと判明しています」
先日捕縛した義勇兵の長は、リスタ子爵が偽りの情報を流してその一帯にいた住民達を虐殺したと白状している。
その中にはメドゥの指先幹部『黄の小指』ロコの故郷も含まれていた。
「その件については後回しだ。今はリスタ子爵が持つとされる龍逓架への対処を優先する」
王国騎士の指示に従いフローラ伯爵は冒険者ギルド支部へと使者を派遣し、エーテル浄化者と冒険者の派遣を要請する。
――重要な任務のため、多めの報酬を提示する形で。
応対した冒険者ギルド支部職員アルヒ・ラスカスは依頼の斡旋に動くと共に、エーテル浄化者としてターミル族出身のリザードマン、ディノと連絡を取り、王国騎士のもとへ向かわせた。
その間にも王国騎士は帝国魔導院エスタル支部長クライス・アクバーと連絡を取り、助力を受けていた。
このころクライスはある装置によって、リスタ子爵が龍逓架を使用する場所の特定に成功していたため、その情報も王国騎士に提供される。
その後クライスと交渉した結果、王国騎士側はクライスが念のためヴィントより持参した本格式凝黒装置の1基を一時借り受けることができた。
クライスが制作したこの装置は人間の頭大のエーテル石を内部に収めた紋具装置で、幽界樹の吐き出す『黒い霧』を黒い結晶岩に変えることで空間から除去し、人間への悪影響を抑える効果がある。
ただし完全に除去できるわけでは無く、装置自体も数が限られること、王国に持ってきていたのはその一部で貴重に扱う必要があることから、装置は幽界分樹から距離を置き使用する形となった。
●誘引
「栄えある王国を支える勇士達よ。諸君らは各地で大いに奮闘し、我々の団結を示すことができたと私は確信している」
ある場所でヴィガ・リスタ子爵は、自身の率いる残存戦力に演説を行う。
居並ぶ者達は授恵者や一般人の区別なく、その目に異常な光を宿していた。
「王国集権派を名乗る連中は、我々が滅ぶと言っている!」
リスタ子爵の前に並んだ者達は一斉に叫ぶ。
――否! 否! 否!
「帝国皇子を僭称するレイウェストは不敬にもメアリー王女殿下をたぶらかし、我々を愚物扱いしている!」
――否! 否! 否!
「恐れることはない! 我らには大いなる力がある!」
リスタ子爵は自身が所持する龍逓架を指し示す。
「我々は後の世に残してはならないものを一掃するため、これより非常手段を行う!」
苦難を肯定せよ。
「国家の繁栄を約束するため、今は暴挙とそしられようと、我らが流した血は後世において義挙と讃えられるに違いない!」
憎悪を肯定せよ。
「心せよ。これより我らは英雄になるのだ。この地に我らの大義を示すのだ!」
そして狂気を肯定せよ。
リスタ子爵は王国騎士の読み通り、複数の龍逓架を別々の場所で使用するつもりだったが、王国騎士側もその阻止に動いていた。
龍逓架の使用を全て阻止することはできなかったが、その中でディノは王国騎士の指示に従い龍脈へと働きかけ、幽界分樹を別の場所へ誘引することに成功し、依頼に応じた冒険者の皆様が幽界分樹の討伐へと動く。
このとき王国騎士やディノ達は知らなかった。
幽界分樹を引き寄せた場所が、犯罪者としてリスタ子爵や義勇兵達に殺された人々の墓所でもあることを。
既に現地では、ロコ配下の構成員達が墓所を守るため幽界分樹と戦っていることを。
解説
マスターより
リプレイ
幽界分樹の誘引先に到着した冒険者達は、北と西より攻勢をかける。
「リスタ子爵って野郎は救いようのねぇクズみてぇだな……!」
西より進出したハヤト=ガラン=ヴォルファングは、依頼を受けるとき冒険者ギルド支部から必要な情報を得ていた。
目的のためには自分の領土や領民に取り返しのつかない被害を強いるヴィガ・リスタ子爵に、ハヤトは憤りを見せる。
今回ハヤトは軍神の祝福をもとに、仲間からの支援を受けてから動くのが良策と判断し、自身の行動を遅らせていた。
「こんなところに墓所だと?」
一方北側より現場へ足を踏み入れたベルク・オスマットは周囲を見渡し、そのことに気づく。
足元には誰かが植えた白い花々が並び、一面が花畑だったことが伺えるが、今は花々の多くが幽界分樹とその仔に踏み荒らされ、土混じりの残骸となって散乱している。
「しかもあれはロコの配下……」
東側へと視線を向けたベルクは、見覚えのある者達が満身創痍の状態で、幽界分樹と交戦していることに気づく。
メドゥの指先幹部『黄の小指』ロコの配下――スアとブオは夥しい量の流血を地面に落としながら、背後にある空間を守ろうとしていた。
(状況的に考えてみても、ここはロコの関係者が眠る墓所のようだ)
それを悟ったベルクは、内心冷や汗が出るような気分を抱きながらも、空を駆け上がるがごとき移動術を駆使してスア達のもとへ急行する。
まずベルクはスア達を守るため、その近くにいた幽界分樹の仔と思しきクリーパーとの距離を一気に詰める。
そのまま仔の懐へと踏み込んだベルクの殺刀【指折り】が低い位置より跳ね上がり、仔の体に損傷を負わせ、その生命を大幅に削り取った。
「支援を貰い次第、わたしも加勢します!」
トーラは先行したベルクに向け連携する旨を伝えると、ハヤトや仲間達と歩調を合わせるため自身の行動を遅らせると、アンジェが北側より駆け出した。
「……アンジェ、にも、できることがあれば……」
アンジェはスア達のもとへひた走り、効果範囲内におさめることのできる位置へと辿り着く。
「……スアさんとブオさん、回復します、ね……」
アンジェはスア達に声をかけた上で竜石の祭刀を掲げ、その先端より瞬間的に抵抗力が向上する力を秘めた光を放つ。
アンジェより放たれた光はスアやブオを包み込み、抵抗力をあげたスアは流血や不調の解除に成功した。
しかしブオの方は元々の抵抗力が低かったためか成功せず、残る不調が依然としてブオの生命を削り続けていた。
「こいつが幽界分樹か!」
アンジェと同じく、北側より進出したアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトは、幽界分樹の姿を見るなり戦意のある笑みを見せる。
「支援を受け次第、破壊するぜ!」
アルベルトの戦術眼は、ハヤトやトーラと同じく、味方の援護を受けてから敵の討伐に移行するのが妥当との判断を示していた。
「……同じ貴族として許し難いですわね」
西側より現場に到着したミレイユ・ヴェルジーはリスタ子爵の所業に眉をひそめ、傍らにいたジュスト・ヴェルジーも頷きを返す。
「どこまでも見苦しいことをするものだね」
「お兄様と同じくらい、わたくしも一連の狼藉、大変度し難く思っておりますわ」
ジュストの呟きにミレイユは賛意を示し、ジュストの盾役を担うため、前に出る。
そのままミレイユは前方を見据え、幽界分樹や仔の様子を確かめる。
「お兄様の魔法が通るよう、支援致します」
今のところ、敵に攻撃する様子が見られないと判断したミレイユは、ジュストを庇うことのできる位置より竜牙の槍を前方へと突き通す。
そのままミレイユの槍より不可視の衝撃が放たれ、ミレイユの一撃は仔の1体へと命中し、その身を穿つ。
「なるべく全員が範囲内に入るよう、位置取りには注意したいところだね」
そしてディレイン・オールドケイジが、西側より仲間達の支援へと動き出す。
まずディレインは支援の必要な仲間達が全員効果範囲内にいることを確認すると、強力なエーテルの波動を開放して仲間達のエーテルを増幅し、その能力を向上させていく。
「もう一つ支援するつもりだよ」
仲間達が太陽光に似た光をその身より立ち登らせる中、ディレインはアルベルトが握るシュトルツを淡く透明な光で包み、その攻撃性能を向上させた。
ディレインの援護を受けたハヤトやトーラ、そしてアルベルトは短くディレインに礼を述べると、それぞれ動き出す。
「加勢するぜ!」
ハヤトはアンジェや後続の仲間達の行動を援護するため、瞬間的な加速を駆使して戦場を駆け抜ける。
「まずは仔の撃破だ!」
そしてハヤトは先にベルクが攻撃した仔へと一気に肉薄すると、魂に宿る獣性を解き放つことでハヤトの体が真横に旋回し、握られた双神刀 紅狗璃と足に装備された天狼の蹴甲が紅の雷を纏う竜巻のごとき連撃と化して交互に繰り出された。
ハヤトから斬撃を浴び、蹴り飛ばされ、再び斬られた仔は生命が尽きて横転し、動かなくなる。
「あなた達の相手はわたしです!」
天眼を駆使し、戦域全体を見渡したトーラは、現在スア達の治療に当たっている仲間達から幽界分樹の注意をそらすため、あえて幽界分樹の至近まで迫る。
肉薄したトーラはセルリアンエッジにエーテルを通して半透明な空色の光を伸ばし、武器の形を取らせてから斜めに振り下ろす。
直後、トーラの前方に不可視の衝撃波が走り、直線上にいた幽界分樹と仔をまとめて打ち据える。
トーラの攻撃を浴びた幽界分樹は生命を削られ、その身を陥没させた仔もよろめく。
「ここできっちり破壊してやるぜ!」
アルベルトもトーラに続き、瞬間的な加速を披露して、別方角より幽界分樹との距離を詰める。
一気に肉薄したアルベルトより、シュトルツが稲妻さえも斬るほど素早く鋭い一撃と化して真横に振りぬかれ、幽界分樹の身を深々と斬り裂いた。
(最も近く、かつ味方と対象が重ならない敵は――)
コルネリウス・アーラも、仲間達がメドゥの指先構成員達に向けて行う回復作業を支援するため、条件に該当しそうな敵を見定め、動いていた。
仲間達が戦闘を続ける間に、最も南側にいた仔を捕捉したコルネリウスは、撃破する意思と共にエーテルを叩きつける。
エーテルを浴びた仔がコルネリウスに狙いを定めて襲いかかると、コルネリウスは白翼の聖盾を掲げて仔の攻撃を防ぎとめる。
そのままコルネリウスより雪割草の誓いが斬り下ろされ、斜めに斬り裂かれた仔は大幅に生命を削られ、後退する。
コルネリウスが仔を釘づけにする間に、北側より進出したローザリカ・L・ディオールがスア達の下へ到着する。
「信用は行動で買うタイプでね。君達を害すつもりは毛頭ない」
まずローザリカはスア達に向け、攻撃する意図はないと宣言する。
「……スアさん、のほうは、解除、できました。……ただ、ブオさん、は……」
アンジェが現在の状況をローザリカに伝え、それを聞いたローザリカが一呼吸おいてから本格的な治療に移る。
「僕に移すことで、意地でもヒールを通させる」
まずローザリカはソウル・ピュリファイアを駆使し、ブオに付与されていた不調による影響を全て自身に反映させた。
――毒を飲み込むことで毒を理解し受け入れる。
――卓越した聖職の秘儀は時に痛みを伴うのだ。
痛みを乗り越え、ブオの不調を解除したローザリカは、自身よりエーテルを引き出して増幅すると、負傷を癒す強い光を形成して撃ち放ち、ブオの生命を回復させた。
「幽界分樹の撃破、引いては子爵の企みの阻止だけが僕達の目標だ。協力願えれば助かる」
回復作業の中で、ローザリカはそのような打診を行うと、スアが「墓所に手を出さないなら」と条件付きで承諾の意を返した。
「子爵の行いは業腹だが、今はやるべきことに集中しないと」
ジュストは天眼を駆使して戦場と化した場所を見渡し、現状の把握に努める。
既にジュストはミレイユに守られながら、光の壁を顕現し、幽界分樹や仔からの攻撃に対処できるようにしていた。
ここで幽界分樹や周囲に残る仔達もそれぞれ反撃を始め、幽界分樹より葉の一部がジュストに向け放たれた。
圧縮硬化され、投擲武器と化した葉はジュストの展開した光の壁に防がれ、壁の生命値を削り取ったがジュストには届かない。
すると幽界分樹は生い茂る枝より先に実を形成し、新たな仔を生み出した。
「討伐と救援を同時にこなす為に有効な布陣と、動きになりそうなのは――」
それを見たジュストは自身の戦術眼をもとに、幽界分樹と近くにいる仔に向け不可視の波紋を走らせる。
風の精霊が発したと思しき美しくも悲し気な歌が聞こえた次の瞬間、幽界分樹を中心として不可視の衝撃波が爆発的に広がり、範囲内にいた幽界分樹や仔のみをまとめて引き裂いた。
既にミレイユやトーラ、そしてコルネリウスからの攻撃によって、損傷が蓄積していた仔達は生命が尽きて倒れ、生み出されたばかりの仔もジュストの攻撃に耐え切れず、打ち倒された。
●撃破
この場にいた仔は全て倒され、残るのは幽界分樹のみとなった。
「ここからは撃破に務めるのが妥当だな」
天眼を駆使し、現状を把握したハヤトは軍神の祝福より最適解を導き出すと、瞬間的な加速を駆使して幽界分樹との距離を詰めていく。
「2人には墓所の守りを頼もう」
ベルクもスアとブオに敵対の意志がないことを確認すると、引き続きスア達に墓所の守りを任せることにした。
「ここは我も打って出たほうが良さそうだ」
ベルクは北壁の防人達が受け継ぐ技能の1つを駆使して戦域を駆け抜け、ハヤトとは別方向より幽界分樹への切り込みをかける。
「これ以上墓地へは近寄らせません!」
そしてトーラも幽界分樹への攻撃に加わるため、瞬間的な加速と共に、戦場を駆け抜ける。
「俺の手でトドメをさしてやるぜ!」
叫びと共に、地を蹴ったハヤトの体が再び真横に旋回すると、暴雷の竜巻と化したかのような連撃を繰り出した。
あわせて発動した紅雷牙によって、ハヤトの体内でエーテルが爆発的に燃焼し、その体と武器が一瞬紅の稲妻を纏うように輝くと、勇牙雷龍撃の1つが稲妻の牙めいた一撃へと変化して、幽界分樹へとまとめて叩きつけられる。
3連撃を叩き込んだハヤトが着地するのと前後して、ベルクも幽界分樹への横撃をかける。
「後であの二人に謝罪のメッセンジャーを頼もう。伯爵と騎士殿にも状況を説明せんとな」
今後のことにも意識を向けながら、幽界分樹へと詰め寄ったベルクの殺刀【指折り】が斬りあがり、その身に新たな斬痕を刻みつける。
「被害が拡大する前に倒します!」
さらにトーラもハヤトやベルクとは別の方角から突っ込む。
「神髄をお見せしましょう」
エーテルを通したセルリアンエッジやシアンブレードより、それぞれ半透明な空色の光と半透明な緑青色の光を伸ばし、武器の形状をとらせたトーラは、二刀流による超高速三段連撃を繰り出すと、セルリアンエッジとシアンブレードは交互に幽界分樹の身を斬り裂き、突き刺し、そして斬り払う。
仲間達が幽界分樹を追い詰める間に、アンジェはローザリカと作業を分担する形で、スア達の回復を行っていた。
「……他の構成員さんたち、に、ヒールは、必要……でしょうか?」
アンジェの問いに、スアは緩く首を横に振り、こう答える。
――この場にいた構成員達は、自分達を除き全滅した。
「……承知、しました。……では、お二人の回復、に……務め、ます」
それを聞いたアンジェは、スアとブオへの回復に重点を置くことにした。
まずアンジェはわずかな動作と共に、癒しの力を秘めた光球がスアに放たれ、その生命を回復させる。
続けてアンジェは自身よりエーテルを引き出し、負傷を癒す光と成してブオにも放ち、その負傷を回復した。
その間にも、幽界分樹は葉っぱカッターや根を駆使して冒険者達への抵抗を続けていたが、冒険者達は負傷を踏み越え、幽界分樹への攻撃を畳みかける。
「そちらの方角に根が掘り進んでいるようですわ」
竜鱗の盾を掲げ、葉っぱカッターの攻撃を防ぎ止めたミレイユは、超聴覚によって捉えた音をもとに、およその位置を周囲の仲間達に報せていく。
それを受けた仲間達が対応へと動き出すのと前後して、根の群れが地面を突き破った。
跳ね上がった根の群れは、範囲内にいたハヤトやトーラ、アルベルトの3人へと襲いかかる。
「悪あがきだな!」
攻撃の軌道を見定めていたハヤトは、背後に飛び退き根を躱す。
「反撃します!」
トーラは根の動きに合わせて幽界分樹へと踏み込んで回避すると、カウンターの一撃と化したセルリアンエッジを叩き込み、さらに損傷を負わせる。
そしてアルベルトは輝くエーテルをムーティヒや自身へと収束させ、防御性能を瞬間的に高めることで、根の攻撃を防いでいた。
「この程度の威力かよ?」
アルベルトは自身が受けたダメージより、幽界分樹の攻撃力は低いと判断すると、自身の戦術眼より次の行動を導き出す。
「何が何でも幽界分樹はここで討伐するぜ!」
瞬間的な加速を駆使して再び幽界分樹へと迫ったアルベルトより、シュトルツが威力を重視した鋭い一撃と化して斜めに斬り下ろされ、幽界分樹を深々と斬り裂いた。
「怪我人の方々はお義姉様にお任せ致します」
ミレイユは味方が受けたダメージや負傷具合を確認すると、後のことをローザリカに託し、自身は瞬間的な加速を駆使して幽界分樹へと切り込んだ。
「一刻も早く終わらせましょう」
一気に肉薄したミレイユの呟きと共に、竜牙の槍が威力を重視した鋭い一撃と化して突き通され、幽界分樹の身へと突き刺さり、その生命をさらに削り取る。
(根を受けないよう、常に退路は確保できるように)
コルネリウスは根の動きを警戒しつつ、幽界分樹との交戦を続けていた。
既にコルネリウスは、仲間達よりスア達の治療が完了したとの連絡を受けたため、今は幽界分樹の討伐に意識を向けている。
「次の攻撃が来る前に撃破します」
コルネリウスは瞬間的な加速と共に幽界分樹との間合を再び詰めると、雪割草の誓いが舞い、幽界分樹の身を裂いて宙へ抜ける。
「今のところ大きな負傷はないようだけれど、ダメージを負った人は複数いるようだね」
それまで根の警戒を続けていたディレインは、素早く現状を確認すると、可能な限りその全員を範囲内におさめる位置まで移動する。
「俺の周囲に一度集まってくれないかな?」
ディレインは周囲の仲間達に向け、近くまで来てくれるよう頼み込む。
仲間達が集まったところで、ディレインは眩く温かく、太陽光にも似た癒しの光を放ち、範囲内にいた仲間達の負傷を癒し、仲間達を支援する。
仲間達が負傷を回復する間に、ローザリカはスア達への回復を終え、今は天眼によって戦場全体を見渡し、戦況の把握に努めていた。
「回復、攻撃。盾代わりの防御。なんだってこなそう」
既にローザリカはスア達より、この場での戦いに限り敵対しないとの回答を得ている。
よって今の戦況において、ローザリカがすることは――。
「鋭撃での攻めをこなすとしよう」
現状をそう判断したローザリカは、幽界分樹との間合を詰めていく。
そのまま跳躍したローザリカの体が風を撒き、足に嵌まる薔薇の宝棘が威力を重視した鋭い一撃と化して幽界分樹に叩きつけられ、その周囲を薔薇の花弁めいたエーテルが吹き荒れる。
幽界分樹に一撃を加えたローザリカが地面に降り立つと、それまで天眼を駆使していたジュストが幽界分樹を捕捉する。
「今なら分樹への射線が通るね」
再び幽界分樹が仔を生み出してくる可能性はあるものの、今のところ幽界分樹にそのような動きは見られない。
そう判断したジュストは自身の戦術眼をもとに、金薔薇歌を幽界分樹に向け、風の精霊を通じてマテリアル界への働きかけを行う。
直後、金薔薇歌の先端より不可視の空気弾が撃ち放たれ、放たれた一射は幽界分樹を深々と穿ち、乾いた音を立てる。
ここで幽界分樹は動きを止めた。
枝より生やしていた葉がハラハラと舞い落ち、続けて損傷を帯びた個所より亀裂が走り、その身が割れていく。
やがて冒険者達が見守る中、幽界分樹は破片を散らして倒壊し、絶命した。
●投降と後始末
幽界分樹の撃破を確認した冒険者達は、近くで本格式凝黒装置を動かし、黒い霧の除去に務めていたディノ達にも声をかけ、戦後処理へと移行する。
「さて……墓所に被害が出た件の後始末を話し合わんとな。これを放置したらロコがブチ切れるな」
ベルクは足元に散乱する花の残骸や周囲を見渡し、幽界分樹が暴れたことで生じた被害状況を確認すると、スアやブオ達との話し合いを始める。
ベルクの言う通り、何もせずに立ち去った場合、ロコが幽界分樹を生み出したリスタ子爵だけでなく、この場所を幽界分樹の誘引場所と定めた王国騎士や、ここで戦った冒険者達にも怒りの矛先を向け、暴れ出すことは容易に想像がついた。
同じことをトーラも考えたのか、トーラはスアとブオのもとへ近づき頭を下げる。
「知らなかったこととは言え、大切な場所を荒らしてしまってすみません……」
トーラは幽界分樹の討伐にこの場所を巻き込んでしまったことへの謝罪と共に、故意ではないことをスア達に説明する。
「……埋葬、とか……壊れたところ、を、直す、お手伝いを……」
スアやブオの回復に当たっていたアンジェは、2人に原状回復の手伝いを申し出ていた。
なお本格式凝黒装置の搬出作業を手伝っていたディノも、やや遅れて冒険者達のもとに合流していた。
そして冒険者達やスアの説明で、この地がロコにとって最も守りたい場所であることを知ったディノは絶句し、複雑な表情を見せる。
その中でジュストはスアとブオに対し、投降を呼びかけていた。
「この地には手を出さない。希望するなら可能な範囲でこの地を整える支援もしよう」
ジュストの出した条件にスアとブオは顔を見合わせ、小声で話し合う。
そしてスアとブオは武器を捨て、それぞれ両手を挙げる。
「では貴方達の言う可能な範囲でこの地を整えてほしい。それが私たちの希望よ」
投降の意志を示したスア達は、冒険者達に後を託す。
こうしてヴィガ・リスタ子爵の有する切り札は、冒険者達の手によって撃破された。
リスタ子爵と子爵領、そしてロコを巡る因縁の決着は――近い。
マスターコメント
イベントシナリオ難しい 報酬:多い10 / 8〜25人
2023年10月03日 12時10分17秒 公開
参加者
相談掲示板
シーフにトーラです。 よろしくお願いします。 こんなところにも幽界分樹が……。 一刻も早く伐採しましょう! そのために攻撃はしますすけれど、スアとブオに関してはどうしましょう? 個人的には見殺しにはしたくありませんけれど…… 。
シーフのベルクだ、よろしく頼む。 スアとブオは墓守に徹してもらい早急に我らで伐採するのがいいのではないか? 我らが退けと言ってもお役目的にあやつらは退けんだろ。 問題は事態終息後に早急にロコに詫びをいれねば、ロコがバーサークしそうな事だが。(よりにもよって実質的な墓所荒らしとか)
なかなか人が集まりませんね…。 生えたばかりでまだ大型の分類ですけれど、なるべく人が欲しいのですが成立してもギリギリになりそうです…。 スアとブオは流血とスリップを受けていますし、BS解除の出来るヒーラーの方が居てくれたらとも思うんですけど、その余裕が出来るかどうかも怪しいですね…。
…あの、…アンジェ、です。ヒーラー…、です。 よろしく、お願いします…。(ぺこり) …スアさんとブオさんを、回復できたらと思うんですけど…。 アンジェ、一人では間に合わないかも…、単体の解呪しかないので…。
ヒーラーノローザリカ、よろしく頼もう。 少しでも助力できればと思い邪魔をした。 BS解除が必要だと聞こえたので、僕も受け持とう。 2種のBSがかかっているようだからサルベーションオールで解除の後、 サイドヒールで同ラウンド中に回復を行えたらと思う。 その後の回復と攻撃とは臨機応変に動けたらと思う。 人手が不足している状況だろうし、どちらにも回れるよう備えていくよ。
キャスターのジュストだ、よろしく。 まだ成立人数に至っていないが、とりあえず自行動の表明を。 初手は識別範囲攻撃魔法で分樹と仔を纏めて攻撃するつもりでいる。 その後分樹への射線が通れば威力高めの単体攻撃魔法で分樹に攻撃集中する予定。 手負いの二人はヒーラー陣に回復を任せる。 敵対行動をつもりはないし、分樹討伐後にこの地の保護を条件に投降するように勧告しよう。
冒険者ギルド支部職員、アルヒ・ラスカスだ。 難しい案件にもかかわらず、依頼に参加してくれたことに感謝する。 今回はよろしく頼む。 質問があれば明日までは受け付けるつもりだ。
ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 俺は今回5番の星からスタートして、幽界分樹及びその仔を伐採する予定だ。 言うまでも無いがスアとブオには敵対行動は取らないぜ
ちなみにスアとブオに一刻も早く処置を施すなら6Aから近辺の仔を振り切って向かうのが最短ルートになるかな? 救援担当者は全力移動しつつ、ウォーリアの人に執着付与して貰ったり、他のヒーラーの人に光縛封で隔離して貰うなどして支援して貰う必要がありそうだ。 ちなみに俺は4~6Aのいずれかから開始するつもりでいる。
ウォーリアのミレイユですわ、どうぞよしなに。 今の所分樹や仔に攻撃を仕掛ける方や回復などの支援特化の方で守りに不安のある方のカバーに回る予定で考えております。 開始地点はA5か6の予定ですね。
成立ですね。 皆さんよろしくお願いします! わたしは5Aからスタートして幽界分樹と仔を攻撃しますね。 少しでも注意を引いて救援に向かう方のサポートにもなれば。それに、幽界分樹の討伐が依頼の目的ですから。 スオとブオを回復するには流血を、これ以上のダメージを与えないためにもスリップの解除が必要ですけど、相手の付与性能と二人の抵抗力次第では解除できるか分からない点は留意した方が良いと思います。流血は付与性能が+5されますし。
我はE1から動いてスアとブオの援護に入る。回復役がくるまで守るくらいはできるだろう。
ヒーラーのディレイン・オールドケイジ、よろしく。 指先のふたりの回復は手が足りてそうかな。 回復後はせめて根の届かない位置まで動けたらいいんだけど。 おじさんは足も行動順も遅いから、最初から前衛のサポートにつこうかな、ってところ。 スタート場所はまだ考え中。
…サルベーションオール+サイドヒール、頑張ります…。 あの、出発地点、E1からにしようかと思っていたんですけど、A6に合わせた方がいいですか…?
(書き間違いで再投稿失礼) わずかだがE1の方が近いようだから、僕もこちらから出発しようと思っていた。 とはいえ1マスが10m=2へクスだと最速でも2ラウンド目にしか回復が届かない。 ベルク君が先に援護に入っていてくれるのは助かるよ。頼りにさせてもらいたい。 抵抗や付与性能の懸念は最もだし、僕は確実性を高める方に変更しようかな。 ソウル・ピュリファイアでBSを僕に移すことでまずヒールを通す。 その後発動する【全解除:10】に期待しつつ、失敗したら【解除:16】の真サルベーション。 現状最も精度の高い解除手段かつ、失敗してもひとまずは体力の回復ができる手筈になる。 あとはバフで抵抗力の底上げくらいしか手段が浮かばないがスキル枠的に難しい。
ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いします。 救援担当者が最速で向かえるように執着付与を行いますね。 A6から向かうのが良いかなと思いましたので一先ずそちらからの予定です。
ウォーリアはみんな、Aの5か6なんだね。じゃあおじさんもAの6にしとこうかな。 人手足りないし、バフと回復に専念しておくよ。
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 俺もA6でバフ掛けてもらったらまずはスアとブオの加勢に入ってから幽界樹を倒しに行くぜ!!