桜の街の氷菓祭
崎田航輝
コメント 0
シナリオID:3139
オープニング
風が暖かさを乗せ、花々を踊らせる。
爽やかな陽光が降り注ぎ、眩さの中に熱気も生まれる季節。けれど――りん、りん、と。その街には涼やかな音色が快さを伝えてくれている。
それだけではない。
甘い香りと一緒に、涼を運んでくれるのは……宝石のような色もとりどりの氷菓子。
そこに賑わう人々の中で――桜の街は夏の祭りを迎えようとしていた。
揺れる柳に、瓦屋根の家並み。
歩むほどに風流な眺めが瞳に映る――倭桜ノ街。
シャルガネの一端に位置するそこは、日々穏やかな時間の中で……人々ものんびりと暮らしている。
そんな中、今の時期は――
りん、りん、と。街の至るところで透明感のある音が響く。
「風流だね」
と、言って見回すのは町長。
夏になるとこの街では例年、家々が風鈴をつり下げる。神社や桜広場にもそれは飾られて――街全体が清らかな音色に包まれていた。
ここに風鈴市も開かれるのが、いつもの習わし。
だけれど、今年はそれだけに留まらない。
「ちょうど準備も出来ているね」
言って歩む先は、氷室を中心にした一帯。
そこに幾つもの出店が置かれ……甘い香りと共にひんやりとした空気が流れてきていた。
それは――氷菓子の店々。
中でも目を引くのは、かき氷だ。
削りたてのふわふわな氷に、かけるのは桜を使った美しい桜シロップ。他にもワインやリキュール、果実や練乳を使ったものなど、多彩な味が揃っていた。
勿論かき氷だけでなく、味も色彩も豊かな氷菓が一堂に会しているのだ。
温暖な気候を持つこの近辺では、この時期、涼を求めて他所へ観光に行く者も多い。
そんな人々に楽しんでもらい、そしてこの街をまた好きになってもらいたい――これはその思いから生まれたお祭り。
例年は風鈴祭と呼ばれる賑わいに、甘い魅力も加えて……氷菓祭と名付けられた催しだった。
勿論夏らしい景色や遊び、甘味以外の食事も楽しめるから。
「きっと楽しくなるぞ」
故にこそ、彼らがいなければ始まらない、と。
町長は何より祭りを楽しみ、盛り上げてくれる者達を招待しに向かうのだった。
そうして冒険者達は、夏の街へ招かれた。
風鈴の音の中、桜は緑の葉を色づかせている。
そんな景色と氷菓子に賑わう街を――冒険者達はそれぞれに歩み出す。
爽やかな陽光が降り注ぎ、眩さの中に熱気も生まれる季節。けれど――りん、りん、と。その街には涼やかな音色が快さを伝えてくれている。
それだけではない。
甘い香りと一緒に、涼を運んでくれるのは……宝石のような色もとりどりの氷菓子。
そこに賑わう人々の中で――桜の街は夏の祭りを迎えようとしていた。
揺れる柳に、瓦屋根の家並み。
歩むほどに風流な眺めが瞳に映る――倭桜ノ街。
シャルガネの一端に位置するそこは、日々穏やかな時間の中で……人々ものんびりと暮らしている。
そんな中、今の時期は――
りん、りん、と。街の至るところで透明感のある音が響く。
「風流だね」
と、言って見回すのは町長。
夏になるとこの街では例年、家々が風鈴をつり下げる。神社や桜広場にもそれは飾られて――街全体が清らかな音色に包まれていた。
ここに風鈴市も開かれるのが、いつもの習わし。
だけれど、今年はそれだけに留まらない。
「ちょうど準備も出来ているね」
言って歩む先は、氷室を中心にした一帯。
そこに幾つもの出店が置かれ……甘い香りと共にひんやりとした空気が流れてきていた。
それは――氷菓子の店々。
中でも目を引くのは、かき氷だ。
削りたてのふわふわな氷に、かけるのは桜を使った美しい桜シロップ。他にもワインやリキュール、果実や練乳を使ったものなど、多彩な味が揃っていた。
勿論かき氷だけでなく、味も色彩も豊かな氷菓が一堂に会しているのだ。
温暖な気候を持つこの近辺では、この時期、涼を求めて他所へ観光に行く者も多い。
そんな人々に楽しんでもらい、そしてこの街をまた好きになってもらいたい――これはその思いから生まれたお祭り。
例年は風鈴祭と呼ばれる賑わいに、甘い魅力も加えて……氷菓祭と名付けられた催しだった。
勿論夏らしい景色や遊び、甘味以外の食事も楽しめるから。
「きっと楽しくなるぞ」
故にこそ、彼らがいなければ始まらない、と。
町長は何より祭りを楽しみ、盛り上げてくれる者達を招待しに向かうのだった。
そうして冒険者達は、夏の街へ招かれた。
風鈴の音の中、桜は緑の葉を色づかせている。
そんな景色と氷菓子に賑わう街を――冒険者達はそれぞれに歩み出す。
解説
●概要
シャルガネにある「倭桜ノ街」へ観光に招かれました。
街の中にて過ごしてゆく事が出来ます。
●倭桜ノ街について
シャルガネにある街区。東方文化の色濃い街並みが特徴的。
この時期は各所に風鈴が飾られて風流な眺めになっています。
長らく平和を保っており、おおらかな人々が多い印象です。
夜は灯籠、提灯に照らされます。
●行える事
自由に散策出来ます。
以下、立ち寄れる場所やイベントなどの例を示します。
1.氷菓通り
氷室を中心にした一帯に多数の出店があり、様々な氷菓を楽しめます。
人気は桜シロップをかけた桜かき氷です。桜のリキュールやワインを使った大人味もあります。
かき氷は他にも抹茶金時、砂糖を使った甘露、練乳、各種フルーツのトッピングなど、自由度の高い組み合わせで味わえます。
果汁やお汁粉などをバー状を固めたものや、ミルク系の氷菓も見つかるでしょう。
2.氷菓創作
氷菓の店々の一角に、オリジナルの氷菓子を作れるコーナーがあります。
材料は氷や練乳、果物類など、店で使われるものならば一通り揃っています。それらを自由に使って1人1~2品程度、作って味わう事が出来ます。厨房もあり、自由に利用できます。
3.風鈴市
多彩な風鈴を買う事が出来ます。
透明感の強い色ガラス製や、精緻さが魅力的な金属製、火箸や備長炭を使ったものがあります。
4.風鈴制作
工房にて、オリジナルの風鈴を作ってお土産に出来ます。
吹きガラス、粘土型の金属製、備長炭の三種類から選んで、自由な造形にする事が出来ます。
顔料で色を塗ったり、吊るす短冊も自由なデザインに出来るでしょう。
5.散策
各所に風鈴が飾られて涼やかな眺めとなっています。
桜広場の桜は青々とした葉を茂らせており、春とは違った趣です。
神社では参拝、おみくじ、流鏑馬体験が出来ます。
小川沿いの「翠の園」では、夏の花々の咲く穏やかな景色が楽しめるでしょう。
6.食事
東方風の食事を楽しんでいけます。
鮎やうなぎが食べ頃です。冷やしたうどんなども人気です。
善哉や餅、団子など、通常の甘味も売られています。西瓜もあります。
7.川遊び
下流の一部をプールのように引き込んだ場所があり、自由に水遊びが出来ます。
隣接した場所では流しそうめんが行われ、老若男女で盛り上がっています。
川ではバーベキュー、魚釣りも出来ます。
マスターより
シャルガネの一地区で観光を楽しむシナリオとなります。
氷菓と風鈴で涼を得る祭りを散策します。
行わなければならない事などはないので、自由に過ごしてみて下さい。
街には例として示した以外にも、普通の街にありそうな機能を持った施設なら存在します。
適宜過ごしたい場所を訪れてみると良いでしょう。
同行者がいらっしゃる場合は、お名前や共通のグループ名(人数なども併記して下されば確実です)などを記載して頂けると助かります。
皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。
リプレイ
夏の陽の下に、笑顔が行き交う。
始まった祭りに、冒険者達も加わって――街は一層の賑わいを呈し始めていた。
「美味しい食べ物もありそうですね」
その中で、セロンガード・シュタインドルフが呟けば、ティトも「……ん」と頷く。
そこはきっと、季節の楽しみが詰まっている。
だから、三々五々に散策し始める冒険者達に同じく――二人もまた歩み出した。
ゲルダ・クラインとナハティガル=ラーは中天の陽の下を歩む。
「……灼けるように暑いな」
見回すナハティガルは、落ち着いた色合いに繊細な縞柄が目を引く浴衣姿。帯に扇子を差し込み、その見目は涼やかだ。
それでも熱気を防げる訳ではないけれど――
「風鈴の音色を聞いていると、涼しく感じられるのは不思議だ」
「ええ」
頷くゲルダも、その姿は白藍地の浴衣。そこに牡丹と朝顔の柄が静やかな印象を、黄浅緑の帯が清廉な風流さを加えていた。
視線の先は……りん、と鳴る風鈴。
「音で涼をとる――シャルガネの文化ってすごいですよね」
耳朶に触れる音色は確かに、ひんやりとした趣があって……二人は耳を澄ませ、快い散策を楽しむ。
と、本当に涼しい空気が肌に触れた。
「あれは……」
「氷菓子のお店ですよ」
ゲルダが言って歩むと――明るい呼び声の響く店々が軒を連ねていた。
祭りの中心地の一つ、氷菓通りだ。
「成程、涼しさの源は氷室か」
そこから氷を運び出し、削っているのが見える。
「しかし貴重品の氷で作った菓子とは、随分と贅沢だな。貴族しか食えん物だと思っていたが――ゲルダはよく食べるのか?」
「わたしも、氷のお菓子はあまり食べたことはないんです。――その、特別な日にお父様とお母様が用意してくださって」
答えるゲルダは、自身が恵まれた環境で育ってきた事を自覚する。
歩んできた場所が、彼とは違うのだと。
けれどそれ故に……こうして同じものを楽しめる事。そのありがたさが分かるから。
ゲルダは共に歩むと、桜シロップのかき氷を注文。練乳と白玉をのせたものを2つ、手にして……その片方を差し出して。
「――とっても美味しいので、ナハティガル様にも是非味わっていただきたいです」
「――ああ」
ナハティガルはそれを受け取った。
「いただこう」
ふんわりとした氷を彩るのは、本物の花から抽出された淡い桜色。その優しい香りと共に、練乳と白玉を一緒に口の中に入れる。
すると……冷たさと同時に芳香と、練乳の甘やかさが広がる。
そして白玉のもちもちとした食感が、口腔内でそれらと調和して。
「これは――」
「どうでしょうか?」
「ああ」
――氷菓子もなかなか悪くないな、と。
ナハティガルは生まれて初めての食感を噛み締める
それが嬉しくて、ゲルダも笑みを零し……自分の分を一口。
並んで味わう、同じ味。それが優しい風のように穏やかな心地を与えてくれた。
「夏に訪れると、また趣が違いますね!」
青々と茂る葉に、揺れる風鈴。
そんな景色を眺めつつ、エルナ・クルプファルツは散策中。
と、そこで目に付いたのが――
「氷菓子! 作れるんですね!」
その創作コーナーに早速参加。
ふわふわの氷にイチゴシロップ、練乳で桃色にすると――
「緑の白玉を乗せて――じゃん! さくらもちさんかき氷です! お揃いですよ!」
それは確かに傍らの幼獣、さくらもちにそっくりで。
寒天を使ってさくらもち用の一品も用意すると、一緒に実食。
「ん! 美味しいです!」
甘みとひんやり感に笑むと、さくらもちも隣で満足げなのだった。
その後は風鈴市へ。
涼やかな音と色彩を楽しみつつ――
「これ、素敵です!」
手に取ったのは見事なアルパカ型風鈴。購入する際、オリジナル風鈴も作れると聞いて。
「やってみましょう!」
早速吹きガラスで造形していく。
ピンクの色ガラスで、目指すは丸みを帯びた形。途中、ちょっぴり失敗はしたけれど。
「ここは緑で葉っぱにして……でん! さくらもちさんの完成ですよ!」
出来たのは、葉に包まる様子が可愛らしい、さくらもちの風鈴。
鳴らす音色も美しく――さくらもちも快さげに聞いているのだった。
ヴィナスとルーンス・ラグネルは、風鈴市を訪れていた。
美しい音の中……漫然と歩まぬのは、視察も兼ねているから。
まず実感するのは――
「音で涼をとると言うのも新鮮だね」
ヴィナスの言葉にルーンスは頷く。
「この涼やかな音色は……ローレラウラとも相性がいいかもね」
湖からの風で揺れる様は風情がありそう、と。
言ったルーンスと、ヴィナスも同じ気持ち。その様を思い描くと、確かに人々を魅了するという確信も生まれて。
「幾つか買って帰ろうか」
「そうだね。ガラスは形と色で分けて幾つかと……こっちもかな」
二人で種類別に選定して購入。
「ガラスは繊細に作られてる感じだし――」
と、ルーンスはそれらを紙で丁寧に包んでから輸送箱へ。
「全く違う素材が使われているのも、面白いね」
「ああ。それも含めて――商品開発の良いヒントになるかもしれない。商会の皆と相談しよう」
「楽しみだね」
ルーンスは実感に呟く。
商品開発会議も“アレら”――邪魔な存在を追いやったからこそ出来る事だから、と。
「にいさまのスッキリ顔も嬉しいけど、実りある会議ができることも嬉しいよ!」
「実際、前回以上にスッキリした気分だからね、心も軽いよ」
ヴィナスも金属製や炭製のものをしっかりと包みつつ――笑顔を返した。
その後、町長に会うと……ヴィナスはこの機にと、挨拶の後に尋ねる。
「臥魅郷の絢酉静霞殿はご存知でしょうか」
経緯も合わせて話すと――「そうでしたか」と町長は頷く。
「以前、訪ねて頂きました。町政の助言が欲しい、という事で。郷の事情も伺いましたが……貴方がたの助力があっての事だったのですね」
「どのような様子でしたか?」
ヴィナスの言葉に、町長は「直向きでした」と答える。
「郷の在り方をよく考えておられる様子で。こちらも可能な限り助言をさせてもらいました」
「そうですか」
静霞と郷も前進をしている。
それに、ヴィナスは少し安心した。
「俺の恩人の1人と言える人です。今後も、何かあったら良しなに」
あの郷での事は、商人への復帰の最後の一押しだったから。
思いと共に伝えると、町長は力強く頷いてくれた。
場を辞すると、ルーンスは口を開く。
「郷、良くなっていきそうだね」
自分にとっても、ヴィナスと同じ理由で静霞は恩人。だからその事が、嬉しく思えた。
「うん」
ヴィナスも頷く。
何より――共存共栄。シャルガネがより発展し、同盟もまた発展すれば……良き経済の循環になる。
だからここを手本に、郷らしい発展をしてほしい、と。
思いを抱き、歩みを再開した。
カイン・ステラは氷菓通りを散策中。
桃のアイスバーを購入すると――野点傘の下でまったりと味わっていた。
「ん、思ったよりも桃がごろごろ入ってて美味しいな……」
少々溶けやすいけど、と。
呟いてから「ふむ」と頷いて。
「折角だし、作るか」
と、創作コーナーに寄ると……まずは葛粉とコーディアルを火にかけ、とろりと溶かす。
その粗熱を取る間に、パインや梨を程よい大きさに、見た目にも美しく切っていった。
するとその手際と物珍しさに、周りの氷菓店の店主達も興味の視線を注いでくる。そんな中――カインは果実をそれぞれ先刻の葛粉と一緒に凍らせた。
仕上がったのは――澄んだ色合いと、爽やかな香りが魅力的な氷菓だ。
「葛粉入れた分溶けにくいし、溶けても流れねぇかな」
よし、と頷くと、カインはそれを買物籠へ収納する。
とある場所への差し入れの為だ。
「町長さん! 今年もまた夏が来たのだ!」
大福は町長の元を訪ねていた。
「大福、楽しみにしてたのだ! これ、これ素麺なのだ。おっ母がよろしくって言ってたのだ」
と、お中元を渡すと……町長は礼を述べ、お返しを渡してくれる。
「今年も一緒に盛り上げてくれると嬉しく思います!」
「勿論なのだ!」
言って挨拶を終えると、大福はやおよろず亭へ。
去年買った、粽に似た風鈴を店先につるし……粽と共に甚平姿で店番を始めた。
今年は種々のかき氷を扱っている為、商売は一層繁盛。
さらに独自色を、と――用意したのは大福の頭の形のように氷を盛り付け、真ん中に桜シロップをかけた一品。
「大福桜かき氷の完成なのだ~! なんかややこしいのだ!」
ただその可愛らしさに、売上も上々。
忙しさも一段落すると、大福は観光を楽しむ冒険者達を眺める。知り合いも多く、今年も地元を訪れてくれた事にまた、嬉しくなった。
声はかけたいけれど、カップルは邪魔せずに。
「大福、大人になったのだ」
ふっと息を零す、と、そんな時。
「――店番中か?」
と、カインがやってきた。
「いらっしゃいなのだ~! また来てくれて嬉しいのだ!」
大福が迎えると、カインは粽にも挨拶をして……先刻の氷菓を差し入れる。
「一緒に食うか」
「ありがとうなのだ! いただくのだ!」
その氷菓は葛粉が仄かしゃりっとした歯ごたえを生み、コーディアルと果実の風味が清涼感を運んで。
「おいしいのだ!」
「暑さ負け対策にもなると思うぜ」
食べ終わると、大福はお礼も兼ねて――お星さま柄の甚平をプレゼント。
「おみやげなのだ!」
カインも礼を言ってそれを受け取ると……また暫し、のんびりした時間を過ごすのだった。
「いやぁ、砂漠のほうとは違った暑さだね♪」
煌めく陽光、賑わう人波。
夏らしい町並みを、ヒロ・テスタロッサは見回していた。
ふしぎ亭の一行で、街へ入ったところ。
「こう暑いと汗ばんじゃうし……涼を得てさっぱりしたいね♪」
「う、うん」
と、胸元をぱたぱたと仰ぐヒロに、隣のララベル・サン・ディーベルはどぎまぎしながらも……頷いて前を向く。
「氷菓があるみたいだから、行こうよ」
「氷菓かぁ。この時期には良いね」
言って微笑むルーシカは、その味や種類も気になるところ。
早速皆で向かうと――氷菓店が軒を連ね、並ぶ品も千差万別。テュリン・ヴィング興味深げに視線を迷わせた。
「メインのかき氷だけでも沢山ね」
「迷っちゃうよね……みんなで違う味買ってわけよっか?」
ララベルの言葉には、皆も賛成。
「じゃあそれぞれ好きなものを選びましょう」
言って視線を巡らせるのはアルラ・ニグラス。自身は色味の美しさと芳香に惹かれ、桜リキュールのかき氷を買ってみた。
ヒロも興味を持って、銘柄違いのリキュールのものを注文。早速食べると――
「ん、美味しい! 夏だけど桜の香りで贅沢な感じ♪」
「ええ、本当ね」
アルラも頷く。
リキュールならではの甘さと、濃いめの芳香が満足感を生む。
ルーシカは、果汁と果肉でマンゴーづくしの金色かき氷。あむりと口に入れると――
「贅沢な味だね」
果実そのものの甘さと、氷のしゃくっとした歯ごたえが癖になるようで。
「あ、それ一口ちょーだい♪」と、興味を示したヒロとシェアする――そんな隣ではテュリンが桜ワインのかき氷を味わっていた。
「美味しい。冷たいだけじゃなく、香りもいいわ」
こちらはふわりとした氷の食感が、芳醇さを引き立てて……普段のワインとは違った趣だ。
ララベルは果実たっぷりの苺かき氷だったから……アルラはふふ、と微笑んで。
「可愛らしいわね。私のも食べる?」
「良いの?」
「勿論」
そのまま「あーん」とララベルに食べさせてあげる。
「ん、美味しい」
「ベル君、こっちも美味しいよ?」
と、ヒロもララベルに食べさせてあげると……テュリンも自分の分を掬って。
「じゃあ、私も」
「ならボクもどうぞ」
ルーシカも続くので、ララベルは「ありがとう」と照れながらもぱくり、ぱくり。
(幸せだけど、頭にキーンと来る……)
あたたかな気持ちと、夏らしい感覚を味わうのだった。
その後は皆で他の氷菓にも挑戦。ヒロはお汁粉を使ったバー状の氷菓を食べて――
「どれどれ……固っ! これかったい!! ほら、ベル君!」
「う、うん――固っ!」
と、かき氷とはまた違った趣を楽しんでゆく。
「いっぱい食べたら今度は運動だね!
ヒロの明るい声音と共に、一行は川辺にやってきた。
広い為、人が少ない場所もあって。ララベルはうーんと伸びをした。
「いい所だよね」
「じゃ、早速楽しみましょ」
と、上着を脱いだアルラは……水着姿だ。
皆で着替えて来たのだ。アルラは上がバンドゥ、下も横で結ぶタイプのビキニで――
「夏は水着が涼しいわね」
「う、うん――」
声を零すララベルの視線を、判った上でアルラは敢えて近づいて……反応を楽しんでみたりする。
ララベルは赤くなって目を逸らすけれど……そちらではルーシカも水着姿。バンドゥビキニとホットパンツで活動的な印象だ。
「とりあえず、浅いとこに入る?」
「良いわね」
言って続くテュリンも、スリングタイプの水着。
ぱしゃりと水に入るヒロの水着もまた、おニューの逸品で……ララベルは皆の姿に結局、見とれてしまうのだった。
と、ヒロはそこへ足下の水を掬い上げ。
「ほれー!」
「わぷっ!」
「こっちも行くわよ!」
テュリンもまたばしゃっと水をかけると……アルラとルーシカも頷いて続く。
「や、やったなーっ?」
ララベルも笑顔で、ぱしゃぱしゃとお返し。水の冷たさに、皆でわいわいと涼を得るのだった。
それも一段落すると――
「釣りもしようよ! 皆で競争だ!」
ララベルが釣り竿を手に意気込む。
アルラは自身を見下ろして――
「水着のままだけど……まぁいいでしょう」
流石に変な事も起こるまいと、皆と共に釣り竿を取った……けれど。
ララベルが早速釣り上げたので、アルラは自分も負けじと針を投げ入れる。するとそこそこ大きな川魚が獲れたので、針を外す――と。
「きゃっ?」
跳ねた魚が、逃げるように胸の谷間へ。
「~~!」
アルラは取ろうとするものの、滑るは暴れるわ。アルラまで魚みたいに悶えた。
一方ララベルは、張り切って竿を振った瞬間にそんなアルラに目を奪われ……制動を失った針が空中を大旋回。
「こうやって涼んだりするもの楽しいわね……って、え? あの、何で私の水着が無いの?」
テュリンが突然の出来事に瞠目し、それからララベルの針にかかった自分の水着をみて呆然とする。
「そ、そんな馬鹿な事が……。釣り針が引っかかったとか、引っ張られた感覚も無く……?」
「はわわわわ、わっ、わざとじゃ……ごめんっ」
ララベルはというと、真っ赤になって大慌て。針は依然、宙を踊る。
するとその軌道を見て、ぴんときたヒロが――
「えいっ♪」
「えっ?」
近くにいたルーシカを盾にする。
と、直後に予想通り、ルーシカのビキニトップが針に持っていかれるのだった。
「……。相変わらずだねぇ……」
ルーシカは自身とララベルを交互に見て、胸を隠すでも無くジト目。ララベルは「ごっ、ごめん!」と叫びつつ、ようやく竿を下ろした。
そんなララベルに、ルーシカは一つ思いつく。
(いつもやられっぱなしというのも何だし)
と、隙を見て後ろに回り……
「えいっ!」
ララベルの水着をずるっと下ろしてみせた。
「わわっ!?」
ララベルは真っ赤になって、隠そうとする。
けれど足が水着に引っかかり盛大に倒れて――そんなあられもない姿を、皆は「まぁ……」と生温かい目で眺めるのだった。
「はなせ! 離せっ! たのもー! たのもぉぉぉ!」
「ちょっ、だから静かにして!」
風鈴市に面する一角にて。
工房に突入しようとするペルゼィックを、イズル・M・ヴォルゴールが押し留めていた。
「今回は流石にダメだって」
イズルの言葉ももっともで……ペルゼィックは先日の傷がまだ完治前だった。
だがそれ故に、まさしく手負いの獣の如く。
「離せイル! 俺はここの技術を盗……むんじゃなくて学ばせていただきたく――」
言ってぐいぐい進もうとするから、イズルは息をつく。
「口だけ殊勝なこと言ってもダメだ。そんな状態じゃ何も出来ないだろ」
「くっ、こんな時に深手を負うとは一生の不覚! だが……まだだ! 俺なら出来る! かすり傷程度で狂う腕前でわあぁあ痛だだだだだだ」
途中で傷をつねられ、ペルゼィック身悶える。
それでも諦めぬ様子に、イズルは肩を竦めた。
本当はかき氷でも食べて、市を見ようとも思っていたけれど。
「俺が作るの横で見てられる? それなら工房に入ろうか」
「! ……。勿論だ」
ペルゼィックは提案を承諾する。
(入っちまえばこっちのモン。しっかり技術を見せてもらうぜ)
という心中を、イズルも半ば察してはいたものの――決まれば共に中へ。イズルは吹きガラスを選んで吹き竿を手に取った。
「成程、ここで吹いて……」
と、イズルが作業している間、職人の説明中はペルゼィックは口は出さない。言葉に耳を傾け……原材料や混ぜる薬も観察した。
一方、イズルは巧みにガラスに丸みをつけて――
「うまく出来たかな」
教えてもらった通り、それを切り離して熱を取る。
すると色味が見えてきて――
「綺麗な色に出来たな」
「確かに。……この原材料はシャルガネで?」
と、ペルゼィックが尋ねると、職人は頷く。
色ガラスや、着色に使う顔料の説明もしてくれるから……ペルゼィックは食い入るように聞き込んだ。
すると勢いづいて――
「これはカットグラスの? 成程、ではこちらは――」
と、他の道具や工程、細かな切子の技術まで……もはや同業者とバレるのも構わず、技術を飲み込んでゆく。
「よし、その辺にしようか」
と、イズルはそこそこで制止しつつ……自身の風鈴を仕上げていた。
それは澄んだ色と艶が美しい一品だ。
「これ、届いたらジークの働く工房遊びに行って良いか?」
これとまるっきり同じ物作って思い出にしよう、と。
言うとペルゼィックは「炉は遊び場じゃねえぞ!」と困惑するけれど……怒りまではしていないのは、沢山の技術を仕入れて満足気味ゆえか。
するとそれを機敏に感じたイズルが、「まあまあ」と外に連れ出して――改めて二人で街歩き。
氷菓を手に、夏らしい時間を過ごしてゆくのだった。
「あっつい……」
季節の日差しが煌めく。
エヴァン・ピオネロと共に街に入ったアルマ・ヴァレンタインは――外から続く暑さに、声音まで溶けそうだ。
「暑くて干からびそうだねー……」
「本当ですね――あっ、でも」
と、エヴァンは顔を上げる。
微風と共に、風鈴の音が響く。木陰も相まって、街の中は――
「少し楽ですね」
「本当だー。それに何だか涼しい空気が……」
と、アルマが見つけたのは氷室を囲う店々だ。
氷菓創作コーナーもあると見ると、足を止めて。
「作ってもいいんだ!」
「わぁ、楽しそうです!」
エヴァンも瞳を輝かすと――アルマは一品作っていく事に。
「リクエストあるー?」
「わーぃっ! それじゃあ、虹色のかき氷が食べたいです! 底に練乳と……氷の中心に隠すよう餡子もあると――」
「了解だよー。とびっきりの作るからね!」
と、アルマは要望に応え、大きめの器にたっぷりの練乳を敷いて……餡を包むようにふわふわの氷を削ってゆく。
氷は果汁で作ったもので……マンゴーの橙色、苺のピンクと、色味豊かで。
「これで、完成!」
最後にクリスタルシュガーを加え、キラキラと煌めく虹色かき氷の出来上がり。
リクエストを越えた一品に、エヴァンは感嘆だ。
「流石アルマです……!」
「早速食べよっかー」
「はい!」
という事で、仲良くいざ実食。
まず一色ずつ掬って――
「美味しいです! 苺も、マンゴーも」
果実由来の甘み、爽やかな酸味。馴染み有る風味が氷と交わり、涼を運んで。
「はぁ、幸せ……」
「こっちも美味しいよー?」
と、アルマが勧めるのはブルーベリー味の青と、はちみつを加えたレモンの黄色。それもまた美味で、エヴァンはほっぺが落ちそうだ。
更に、味の組み合わせにも挑戦。
マンゴーとレモンの黄金色で、清涼感を楽しむと――
「これはどうー?」
と、アルマがブルーベリーと苺を合わせたベリーづくし味を、あーんと差し出す。
ん、と食べたエヴァンは目を細め。
「美味しいです。じゃあこっちも」
言ってアルマにも「あーん」のお返しをするのだった。
そしてエヴァンは真打ちに、程よく冷えた餡と練乳をパクッ。
「ん~!」
まろやか且つふくよかな甘味を楽しみ……勿論それもアルマと食べさせ合って。
ラストは全混ぜでかき込む。
「美味しいー……けど、っぅぅ、アタマガ……」
それでも手を止めず食べると、限界が来て突っ伏した。
と、隣ではアルマも頭キーンに身悶えていて――二人は見合って笑う。
「――涼めましたね」
「うん」
二人はそのまま、軽いキス。
唇に、快い冷たさを感じ合い――暑い夏にも、甘いひと時を味わっていった。
「わぁ――」
キオルティスと共に、散策へ歩みだしたアステルは……りん、りん、と。響く音色に笑顔を浮かべていた。
日差しは煌めいて、季節は最盛。
なのに何故か涼しく感じるのは、きっとこの音の――風鈴の所為だから。
(やっぱり音は、音楽は、凄い!)
足取りは仄かにその拍に乗るようで。
けれど、一時の涼を与える音に……少しの儚さを感じるのは。
(風という力がなければ無。だからかな…)
自分は、と思う。
――私の奏でる音は如何?
聴くモノがなければやっぱり無なの?
さらさらとキラキラと運ばれてくる音。だからキオルティスがそこに何を感じるのか、少し気になって。
キオルティスは――そんな妹の、いつの間にか大人びた横顔を見ている。
音の木漏れ日の中、何を思うのだろうかと。
(……)
一度だけ、声を掛けようか迷い……ただ音の中に立ち尽くす。
それを許す――そんな音の、これは寂しい優しさだ。
いや、それはきっと。
(今の俺の心の音……アステルを想う心が奏でる音、音楽だ)
常なる音、消して消えない音。
凛とした音は心を透かすようで、いっそ清々しく好ましい。りん、りん、と。こだまする響きの中でキオルティスはそう思えた。
だからふと、アステルと目が合うと。
「市があるよ。行こうか」
「うん!」
笑み合って、そこへ歩んだ。
「どれも綺麗だね!」
「そうだね」
キオルティスは頷く。
朗々と連なる風鈴たちには その数だけの制作者とその数だけの想いの鈴の音がある。
思うと心が躍り、騒めき――その美しさにハッとするばかりで。
「風鈴が……その想いを奏でているように聞こえないかい?」
「風鈴の想い……」
アステルにはそれが不思議な言葉に感じられる。
けれど、物にも想いが在るのだと。キオルティスが言うのなら、確かにそうだと思えて。
――涼を運ぶ。それだけが全て。
その想いは、きっと哀しくはないはずだと……そんな気がした。
「アステルはどの風鈴がお気に召すかな?」
「私はね、このガラスの風鈴にする! 壊れてしまいそうなのに、決して壊れ消えはしなさそうだから!」
アステルが澄んだ風鈴を選ぶと、キオルティスも――爽風に揺れ、凛、と音を奏でた一つに心を掴まれたように。
「俺は……これに、しようかな」
込められた想いに触れるように手を伸ばす。
夏風に、また一つ音が重なる。眩い季節の中で、それが一層優しく響いていた。
工房にて――ネーヴェ・グラヌローザとアルフィー・リッパーは風鈴の絵付けに臨むところ。
「出来上がったの、持ち帰れるみたいだぞ」
卓につきながら、アルフィーは隣のネーヴェに目を向ける。
「なあ、お互いに絵付けしたやつを交換しないか?」
「まぁ、素敵ですわね! ええ勿論、喜んで」
これは頑張って絵付け致しませんと、と。
気合を入れたネーヴェは、紙にデザイン画を描いて構図を練り始めた。
内容は――少し迷ったものの、描き始めるとすらすらと手が進む。
アルフィーも、始めは何を描こうかと思案していた、けれど。
「!」
閃いたように尻尾をピーンとさせて。こちらは早速風鈴に絵付けを始めた。
描いたのは、海の中の魚たち。時に悠々と、時に優美に泳ぎ揺蕩う姿だ。
ネーヴェも絵付けを始め、完成させると……二人は互いのものを交換した。
そのアルフィーの絵に、ネーヴェは目を輝かす。
「綺麗で、可愛らしいですわ」
「ん……、今までネーヴェには白とか青とか、雪のようなイメージが強かったんだけど……」
と、アルフィーは想起する。
「この間海に行った時に、魚の事も詳しいんだなって思って」
新しく知ることができた君のイメージを描いてみたくなった、と。その言葉と思いに……ネーヴェは瞳を細めた。
「まぁ……とても、嬉しいですわ」
「ネーヴェのは――」
と、アルフィーが見る風鈴は……尻尾に赤いリボンを巻いた黒猫のシルエットが目を引く。
それからガトーショコラを始めとしたお菓子の絵――今まで一緒に作ってきたものだ。
「すごく良いな、これ」
「アルフィーさんとは色々と作る機会に恵まれて来たなと思いまして……。これも、その一つになりますわね」
ネーヴェはアルフィーの風鈴を面映ゆい気持ちで掲げ見る。その煌めきが、とても美しかった。
その後二人は、互いの風鈴を手に散策。
道々の風鈴が響いてきて――
「涼やかな音色が心地良いですわね」
ネーヴェが耳を澄ますと、アルフィーも頷く。
「風が吹くたびに綺麗な音色が響いてくる。凄いな」
「どれだけ沢山の風鈴が飾られているんでしょう――」
ネーヴェの言葉に、アルフィーは「分からないけど」と続けて。
「でも、この風鈴が一番好きだな」
ネーヴェから貰った風鈴を翳し、その音にふわりと微笑んだ。
「部屋に戻って飾るのが楽しみだ」
「私も、貴方が作って下さった、この風鈴が一番好きです。窓辺に飾ったこれを見る度に、きっと今日一日を思い出しますわ」
りん、りん、と。
響く風鈴の中で、二つの音が優しくハーモニーを奏でる。その音色にのって――二人は歩みを続けていった。
「風鈴の音が涼やかでいいね~」
りん、りんと優しく響く音の中――サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは夜道をゆく。
澄んだ夜闇を橙色に照らす灯籠。
ひんやりとした空気。打ち水が干上がる匂い。
五感で夏を感じていると、歩いているだけで心地良い。金魚の柄が可憐な、白の浴衣の袖を揺らし――サフィラは振り返って。
「水着で遊ぶのも楽しいけどこういうふーりゅーなのも夏って感じだねっ」
「ええ、本当に」
と、微笑むのは浴衣姿のコルネリウス・アーラだ。
「時間がゆっくり進んでいるようで……素敵な眺めですね」
それにいろんなお店もありますし、と。
言って隣を見ると――こちらも浴衣姿のリディリディ・トゥラ・イェレミースが、同じく店々を見回していた。
「ええ、お食事処もありますね……」
土産物店、氷菓店、屋台。
見ると確かに食事処も幾つかあって、暖簾のかかった軒が並んでいる。
(お肉はあまりなさそうですが……)
リディリディはそんな雰囲気を感じるも――
「雰囲気良さそうだし、入ってみようよっ」
サフィラが明るく言えば、リディリディも頷いて。三人で早速店内に入り……席についてお品書きを眺めた。
すると店員が鮎と鰻がおすすめというから――コルネリウスは小首を傾げ。
「あゆ、と……うなぎ……? ですか? 初めて聞きます」
「うなぎはね――にゃ?」
と、そこでサフィラがくんくんと鼻を鳴らした。
「この匂いは……もしかして蒲焼?」
「かばやき?」
リディリディが聞くと、サフィラは頷く。
「むかーし、食べた事あるけど……身がふわっとして脂が乗ってて美味しかったなぁ」
「これは試してみるしかないのでは?」
と、コルネリウスが鮎の塩焼きと一緒に頼むと――二人も同じものを注文。
手際よく捌かれた鰻が、串で焼かれる様子が垣間見られる。そのうちにタレと炭の香ばしい匂いが漂って……白米にのった蒲焼が登場した。
コルネリウスはまず、共に来た鮎を食べてみる。
すると皮はぱりっと、身はふわりとして――
「美味しいです……!」
程よい塩味、溢れる脂が美味だった。
サフィラは鰻をはふりと食べて「ん~!」と笑顔。
「やっぱりおいしいっ! ほら、食べて食べてっ!」
と、勧めると……リディリディは頷いて、お箸で一口分取ってみる。
「……」
それから暫し対峙して――あむり。
「……成程、これは」
呟いてから、もう一口ぱくり、更にぱくり。食べ進め始めた。
「どうっ?」
「そうですね。魚は骨が多いですし生臭い感じをうけるのですが……これは美味しいです。正直見た目は悪いのですが気に入りました」
肉好きなリディリディにとっては、手放しでは無いものの……紛れもない絶賛。
はむはむと食べる姿に――
(リディさんがお魚を食べている姿、ちょっとレアな気がしますね)
と、コルネリウスもそんな思いを抱くのだった。
自身も鰻を食べてみると……タレの甘み、山椒の香り。川魚は食してきたコルネリウスも、初めての風味で。
「いい香りですし、とても美味しいですね」
「にゃ、半分食べたらお出汁を掛けて――こうやってお茶漬けにする食べ方もおいしいからオススメだよっ」
と、サフィラがやってみると、二人も実践。
さらさらと啜れるそれは……出汁の旨味が加わり、また違った趣の美味だった。
サフィラはそれに満足しつつ――
「あ、おじさん! 白焼きもあったらちょーだい! 米酒とセットでねっ」
あいよ、と店主が答えて供すると……サフィラは白焼きの素材の味と共に、澄んだ一杯を楽しむ。
「ここはお酒もおいしいんだよねっ」
「シャルガネは、まだ知らない味覚が多いですね――」
コルネリウスも鮎と付け合せのお漬物を味わいつつ、実感に呟く。
だからこそ、来るたびに新しい発見があって。そんな楽しさと共に、緩やかな時を過ごしていった。
始まった祭りに、冒険者達も加わって――街は一層の賑わいを呈し始めていた。
「美味しい食べ物もありそうですね」
その中で、セロンガード・シュタインドルフが呟けば、ティトも「……ん」と頷く。
そこはきっと、季節の楽しみが詰まっている。
だから、三々五々に散策し始める冒険者達に同じく――二人もまた歩み出した。
ゲルダ・クラインとナハティガル=ラーは中天の陽の下を歩む。
「……灼けるように暑いな」
見回すナハティガルは、落ち着いた色合いに繊細な縞柄が目を引く浴衣姿。帯に扇子を差し込み、その見目は涼やかだ。
それでも熱気を防げる訳ではないけれど――
「風鈴の音色を聞いていると、涼しく感じられるのは不思議だ」
「ええ」
頷くゲルダも、その姿は白藍地の浴衣。そこに牡丹と朝顔の柄が静やかな印象を、黄浅緑の帯が清廉な風流さを加えていた。
視線の先は……りん、と鳴る風鈴。
「音で涼をとる――シャルガネの文化ってすごいですよね」
耳朶に触れる音色は確かに、ひんやりとした趣があって……二人は耳を澄ませ、快い散策を楽しむ。
と、本当に涼しい空気が肌に触れた。
「あれは……」
「氷菓子のお店ですよ」
ゲルダが言って歩むと――明るい呼び声の響く店々が軒を連ねていた。
祭りの中心地の一つ、氷菓通りだ。
「成程、涼しさの源は氷室か」
そこから氷を運び出し、削っているのが見える。
「しかし貴重品の氷で作った菓子とは、随分と贅沢だな。貴族しか食えん物だと思っていたが――ゲルダはよく食べるのか?」
「わたしも、氷のお菓子はあまり食べたことはないんです。――その、特別な日にお父様とお母様が用意してくださって」
答えるゲルダは、自身が恵まれた環境で育ってきた事を自覚する。
歩んできた場所が、彼とは違うのだと。
けれどそれ故に……こうして同じものを楽しめる事。そのありがたさが分かるから。
ゲルダは共に歩むと、桜シロップのかき氷を注文。練乳と白玉をのせたものを2つ、手にして……その片方を差し出して。
「――とっても美味しいので、ナハティガル様にも是非味わっていただきたいです」
「――ああ」
ナハティガルはそれを受け取った。
「いただこう」
ふんわりとした氷を彩るのは、本物の花から抽出された淡い桜色。その優しい香りと共に、練乳と白玉を一緒に口の中に入れる。
すると……冷たさと同時に芳香と、練乳の甘やかさが広がる。
そして白玉のもちもちとした食感が、口腔内でそれらと調和して。
「これは――」
「どうでしょうか?」
「ああ」
――氷菓子もなかなか悪くないな、と。
ナハティガルは生まれて初めての食感を噛み締める
それが嬉しくて、ゲルダも笑みを零し……自分の分を一口。
並んで味わう、同じ味。それが優しい風のように穏やかな心地を与えてくれた。
「夏に訪れると、また趣が違いますね!」
青々と茂る葉に、揺れる風鈴。
そんな景色を眺めつつ、エルナ・クルプファルツは散策中。
と、そこで目に付いたのが――
「氷菓子! 作れるんですね!」
その創作コーナーに早速参加。
ふわふわの氷にイチゴシロップ、練乳で桃色にすると――
「緑の白玉を乗せて――じゃん! さくらもちさんかき氷です! お揃いですよ!」
それは確かに傍らの幼獣、さくらもちにそっくりで。
寒天を使ってさくらもち用の一品も用意すると、一緒に実食。
「ん! 美味しいです!」
甘みとひんやり感に笑むと、さくらもちも隣で満足げなのだった。
その後は風鈴市へ。
涼やかな音と色彩を楽しみつつ――
「これ、素敵です!」
手に取ったのは見事なアルパカ型風鈴。購入する際、オリジナル風鈴も作れると聞いて。
「やってみましょう!」
早速吹きガラスで造形していく。
ピンクの色ガラスで、目指すは丸みを帯びた形。途中、ちょっぴり失敗はしたけれど。
「ここは緑で葉っぱにして……でん! さくらもちさんの完成ですよ!」
出来たのは、葉に包まる様子が可愛らしい、さくらもちの風鈴。
鳴らす音色も美しく――さくらもちも快さげに聞いているのだった。
ヴィナスとルーンス・ラグネルは、風鈴市を訪れていた。
美しい音の中……漫然と歩まぬのは、視察も兼ねているから。
まず実感するのは――
「音で涼をとると言うのも新鮮だね」
ヴィナスの言葉にルーンスは頷く。
「この涼やかな音色は……ローレラウラとも相性がいいかもね」
湖からの風で揺れる様は風情がありそう、と。
言ったルーンスと、ヴィナスも同じ気持ち。その様を思い描くと、確かに人々を魅了するという確信も生まれて。
「幾つか買って帰ろうか」
「そうだね。ガラスは形と色で分けて幾つかと……こっちもかな」
二人で種類別に選定して購入。
「ガラスは繊細に作られてる感じだし――」
と、ルーンスはそれらを紙で丁寧に包んでから輸送箱へ。
「全く違う素材が使われているのも、面白いね」
「ああ。それも含めて――商品開発の良いヒントになるかもしれない。商会の皆と相談しよう」
「楽しみだね」
ルーンスは実感に呟く。
商品開発会議も“アレら”――邪魔な存在を追いやったからこそ出来る事だから、と。
「にいさまのスッキリ顔も嬉しいけど、実りある会議ができることも嬉しいよ!」
「実際、前回以上にスッキリした気分だからね、心も軽いよ」
ヴィナスも金属製や炭製のものをしっかりと包みつつ――笑顔を返した。
その後、町長に会うと……ヴィナスはこの機にと、挨拶の後に尋ねる。
「臥魅郷の絢酉静霞殿はご存知でしょうか」
経緯も合わせて話すと――「そうでしたか」と町長は頷く。
「以前、訪ねて頂きました。町政の助言が欲しい、という事で。郷の事情も伺いましたが……貴方がたの助力があっての事だったのですね」
「どのような様子でしたか?」
ヴィナスの言葉に、町長は「直向きでした」と答える。
「郷の在り方をよく考えておられる様子で。こちらも可能な限り助言をさせてもらいました」
「そうですか」
静霞と郷も前進をしている。
それに、ヴィナスは少し安心した。
「俺の恩人の1人と言える人です。今後も、何かあったら良しなに」
あの郷での事は、商人への復帰の最後の一押しだったから。
思いと共に伝えると、町長は力強く頷いてくれた。
場を辞すると、ルーンスは口を開く。
「郷、良くなっていきそうだね」
自分にとっても、ヴィナスと同じ理由で静霞は恩人。だからその事が、嬉しく思えた。
「うん」
ヴィナスも頷く。
何より――共存共栄。シャルガネがより発展し、同盟もまた発展すれば……良き経済の循環になる。
だからここを手本に、郷らしい発展をしてほしい、と。
思いを抱き、歩みを再開した。
カイン・ステラは氷菓通りを散策中。
桃のアイスバーを購入すると――野点傘の下でまったりと味わっていた。
「ん、思ったよりも桃がごろごろ入ってて美味しいな……」
少々溶けやすいけど、と。
呟いてから「ふむ」と頷いて。
「折角だし、作るか」
と、創作コーナーに寄ると……まずは葛粉とコーディアルを火にかけ、とろりと溶かす。
その粗熱を取る間に、パインや梨を程よい大きさに、見た目にも美しく切っていった。
するとその手際と物珍しさに、周りの氷菓店の店主達も興味の視線を注いでくる。そんな中――カインは果実をそれぞれ先刻の葛粉と一緒に凍らせた。
仕上がったのは――澄んだ色合いと、爽やかな香りが魅力的な氷菓だ。
「葛粉入れた分溶けにくいし、溶けても流れねぇかな」
よし、と頷くと、カインはそれを買物籠へ収納する。
とある場所への差し入れの為だ。
「町長さん! 今年もまた夏が来たのだ!」
大福は町長の元を訪ねていた。
「大福、楽しみにしてたのだ! これ、これ素麺なのだ。おっ母がよろしくって言ってたのだ」
と、お中元を渡すと……町長は礼を述べ、お返しを渡してくれる。
「今年も一緒に盛り上げてくれると嬉しく思います!」
「勿論なのだ!」
言って挨拶を終えると、大福はやおよろず亭へ。
去年買った、粽に似た風鈴を店先につるし……粽と共に甚平姿で店番を始めた。
今年は種々のかき氷を扱っている為、商売は一層繁盛。
さらに独自色を、と――用意したのは大福の頭の形のように氷を盛り付け、真ん中に桜シロップをかけた一品。
「大福桜かき氷の完成なのだ~! なんかややこしいのだ!」
ただその可愛らしさに、売上も上々。
忙しさも一段落すると、大福は観光を楽しむ冒険者達を眺める。知り合いも多く、今年も地元を訪れてくれた事にまた、嬉しくなった。
声はかけたいけれど、カップルは邪魔せずに。
「大福、大人になったのだ」
ふっと息を零す、と、そんな時。
「――店番中か?」
と、カインがやってきた。
「いらっしゃいなのだ~! また来てくれて嬉しいのだ!」
大福が迎えると、カインは粽にも挨拶をして……先刻の氷菓を差し入れる。
「一緒に食うか」
「ありがとうなのだ! いただくのだ!」
その氷菓は葛粉が仄かしゃりっとした歯ごたえを生み、コーディアルと果実の風味が清涼感を運んで。
「おいしいのだ!」
「暑さ負け対策にもなると思うぜ」
食べ終わると、大福はお礼も兼ねて――お星さま柄の甚平をプレゼント。
「おみやげなのだ!」
カインも礼を言ってそれを受け取ると……また暫し、のんびりした時間を過ごすのだった。
「いやぁ、砂漠のほうとは違った暑さだね♪」
煌めく陽光、賑わう人波。
夏らしい町並みを、ヒロ・テスタロッサは見回していた。
ふしぎ亭の一行で、街へ入ったところ。
「こう暑いと汗ばんじゃうし……涼を得てさっぱりしたいね♪」
「う、うん」
と、胸元をぱたぱたと仰ぐヒロに、隣のララベル・サン・ディーベルはどぎまぎしながらも……頷いて前を向く。
「氷菓があるみたいだから、行こうよ」
「氷菓かぁ。この時期には良いね」
言って微笑むルーシカは、その味や種類も気になるところ。
早速皆で向かうと――氷菓店が軒を連ね、並ぶ品も千差万別。テュリン・ヴィング興味深げに視線を迷わせた。
「メインのかき氷だけでも沢山ね」
「迷っちゃうよね……みんなで違う味買ってわけよっか?」
ララベルの言葉には、皆も賛成。
「じゃあそれぞれ好きなものを選びましょう」
言って視線を巡らせるのはアルラ・ニグラス。自身は色味の美しさと芳香に惹かれ、桜リキュールのかき氷を買ってみた。
ヒロも興味を持って、銘柄違いのリキュールのものを注文。早速食べると――
「ん、美味しい! 夏だけど桜の香りで贅沢な感じ♪」
「ええ、本当ね」
アルラも頷く。
リキュールならではの甘さと、濃いめの芳香が満足感を生む。
ルーシカは、果汁と果肉でマンゴーづくしの金色かき氷。あむりと口に入れると――
「贅沢な味だね」
果実そのものの甘さと、氷のしゃくっとした歯ごたえが癖になるようで。
「あ、それ一口ちょーだい♪」と、興味を示したヒロとシェアする――そんな隣ではテュリンが桜ワインのかき氷を味わっていた。
「美味しい。冷たいだけじゃなく、香りもいいわ」
こちらはふわりとした氷の食感が、芳醇さを引き立てて……普段のワインとは違った趣だ。
ララベルは果実たっぷりの苺かき氷だったから……アルラはふふ、と微笑んで。
「可愛らしいわね。私のも食べる?」
「良いの?」
「勿論」
そのまま「あーん」とララベルに食べさせてあげる。
「ん、美味しい」
「ベル君、こっちも美味しいよ?」
と、ヒロもララベルに食べさせてあげると……テュリンも自分の分を掬って。
「じゃあ、私も」
「ならボクもどうぞ」
ルーシカも続くので、ララベルは「ありがとう」と照れながらもぱくり、ぱくり。
(幸せだけど、頭にキーンと来る……)
あたたかな気持ちと、夏らしい感覚を味わうのだった。
その後は皆で他の氷菓にも挑戦。ヒロはお汁粉を使ったバー状の氷菓を食べて――
「どれどれ……固っ! これかったい!! ほら、ベル君!」
「う、うん――固っ!」
と、かき氷とはまた違った趣を楽しんでゆく。
「いっぱい食べたら今度は運動だね!
ヒロの明るい声音と共に、一行は川辺にやってきた。
広い為、人が少ない場所もあって。ララベルはうーんと伸びをした。
「いい所だよね」
「じゃ、早速楽しみましょ」
と、上着を脱いだアルラは……水着姿だ。
皆で着替えて来たのだ。アルラは上がバンドゥ、下も横で結ぶタイプのビキニで――
「夏は水着が涼しいわね」
「う、うん――」
声を零すララベルの視線を、判った上でアルラは敢えて近づいて……反応を楽しんでみたりする。
ララベルは赤くなって目を逸らすけれど……そちらではルーシカも水着姿。バンドゥビキニとホットパンツで活動的な印象だ。
「とりあえず、浅いとこに入る?」
「良いわね」
言って続くテュリンも、スリングタイプの水着。
ぱしゃりと水に入るヒロの水着もまた、おニューの逸品で……ララベルは皆の姿に結局、見とれてしまうのだった。
と、ヒロはそこへ足下の水を掬い上げ。
「ほれー!」
「わぷっ!」
「こっちも行くわよ!」
テュリンもまたばしゃっと水をかけると……アルラとルーシカも頷いて続く。
「や、やったなーっ?」
ララベルも笑顔で、ぱしゃぱしゃとお返し。水の冷たさに、皆でわいわいと涼を得るのだった。
それも一段落すると――
「釣りもしようよ! 皆で競争だ!」
ララベルが釣り竿を手に意気込む。
アルラは自身を見下ろして――
「水着のままだけど……まぁいいでしょう」
流石に変な事も起こるまいと、皆と共に釣り竿を取った……けれど。
ララベルが早速釣り上げたので、アルラは自分も負けじと針を投げ入れる。するとそこそこ大きな川魚が獲れたので、針を外す――と。
「きゃっ?」
跳ねた魚が、逃げるように胸の谷間へ。
「~~!」
アルラは取ろうとするものの、滑るは暴れるわ。アルラまで魚みたいに悶えた。
一方ララベルは、張り切って竿を振った瞬間にそんなアルラに目を奪われ……制動を失った針が空中を大旋回。
「こうやって涼んだりするもの楽しいわね……って、え? あの、何で私の水着が無いの?」
テュリンが突然の出来事に瞠目し、それからララベルの針にかかった自分の水着をみて呆然とする。
「そ、そんな馬鹿な事が……。釣り針が引っかかったとか、引っ張られた感覚も無く……?」
「はわわわわ、わっ、わざとじゃ……ごめんっ」
ララベルはというと、真っ赤になって大慌て。針は依然、宙を踊る。
するとその軌道を見て、ぴんときたヒロが――
「えいっ♪」
「えっ?」
近くにいたルーシカを盾にする。
と、直後に予想通り、ルーシカのビキニトップが針に持っていかれるのだった。
「……。相変わらずだねぇ……」
ルーシカは自身とララベルを交互に見て、胸を隠すでも無くジト目。ララベルは「ごっ、ごめん!」と叫びつつ、ようやく竿を下ろした。
そんなララベルに、ルーシカは一つ思いつく。
(いつもやられっぱなしというのも何だし)
と、隙を見て後ろに回り……
「えいっ!」
ララベルの水着をずるっと下ろしてみせた。
「わわっ!?」
ララベルは真っ赤になって、隠そうとする。
けれど足が水着に引っかかり盛大に倒れて――そんなあられもない姿を、皆は「まぁ……」と生温かい目で眺めるのだった。
「はなせ! 離せっ! たのもー! たのもぉぉぉ!」
「ちょっ、だから静かにして!」
風鈴市に面する一角にて。
工房に突入しようとするペルゼィックを、イズル・M・ヴォルゴールが押し留めていた。
「今回は流石にダメだって」
イズルの言葉ももっともで……ペルゼィックは先日の傷がまだ完治前だった。
だがそれ故に、まさしく手負いの獣の如く。
「離せイル! 俺はここの技術を盗……むんじゃなくて学ばせていただきたく――」
言ってぐいぐい進もうとするから、イズルは息をつく。
「口だけ殊勝なこと言ってもダメだ。そんな状態じゃ何も出来ないだろ」
「くっ、こんな時に深手を負うとは一生の不覚! だが……まだだ! 俺なら出来る! かすり傷程度で狂う腕前でわあぁあ痛だだだだだだ」
途中で傷をつねられ、ペルゼィック身悶える。
それでも諦めぬ様子に、イズルは肩を竦めた。
本当はかき氷でも食べて、市を見ようとも思っていたけれど。
「俺が作るの横で見てられる? それなら工房に入ろうか」
「! ……。勿論だ」
ペルゼィックは提案を承諾する。
(入っちまえばこっちのモン。しっかり技術を見せてもらうぜ)
という心中を、イズルも半ば察してはいたものの――決まれば共に中へ。イズルは吹きガラスを選んで吹き竿を手に取った。
「成程、ここで吹いて……」
と、イズルが作業している間、職人の説明中はペルゼィックは口は出さない。言葉に耳を傾け……原材料や混ぜる薬も観察した。
一方、イズルは巧みにガラスに丸みをつけて――
「うまく出来たかな」
教えてもらった通り、それを切り離して熱を取る。
すると色味が見えてきて――
「綺麗な色に出来たな」
「確かに。……この原材料はシャルガネで?」
と、ペルゼィックが尋ねると、職人は頷く。
色ガラスや、着色に使う顔料の説明もしてくれるから……ペルゼィックは食い入るように聞き込んだ。
すると勢いづいて――
「これはカットグラスの? 成程、ではこちらは――」
と、他の道具や工程、細かな切子の技術まで……もはや同業者とバレるのも構わず、技術を飲み込んでゆく。
「よし、その辺にしようか」
と、イズルはそこそこで制止しつつ……自身の風鈴を仕上げていた。
それは澄んだ色と艶が美しい一品だ。
「これ、届いたらジークの働く工房遊びに行って良いか?」
これとまるっきり同じ物作って思い出にしよう、と。
言うとペルゼィックは「炉は遊び場じゃねえぞ!」と困惑するけれど……怒りまではしていないのは、沢山の技術を仕入れて満足気味ゆえか。
するとそれを機敏に感じたイズルが、「まあまあ」と外に連れ出して――改めて二人で街歩き。
氷菓を手に、夏らしい時間を過ごしてゆくのだった。
「あっつい……」
季節の日差しが煌めく。
エヴァン・ピオネロと共に街に入ったアルマ・ヴァレンタインは――外から続く暑さに、声音まで溶けそうだ。
「暑くて干からびそうだねー……」
「本当ですね――あっ、でも」
と、エヴァンは顔を上げる。
微風と共に、風鈴の音が響く。木陰も相まって、街の中は――
「少し楽ですね」
「本当だー。それに何だか涼しい空気が……」
と、アルマが見つけたのは氷室を囲う店々だ。
氷菓創作コーナーもあると見ると、足を止めて。
「作ってもいいんだ!」
「わぁ、楽しそうです!」
エヴァンも瞳を輝かすと――アルマは一品作っていく事に。
「リクエストあるー?」
「わーぃっ! それじゃあ、虹色のかき氷が食べたいです! 底に練乳と……氷の中心に隠すよう餡子もあると――」
「了解だよー。とびっきりの作るからね!」
と、アルマは要望に応え、大きめの器にたっぷりの練乳を敷いて……餡を包むようにふわふわの氷を削ってゆく。
氷は果汁で作ったもので……マンゴーの橙色、苺のピンクと、色味豊かで。
「これで、完成!」
最後にクリスタルシュガーを加え、キラキラと煌めく虹色かき氷の出来上がり。
リクエストを越えた一品に、エヴァンは感嘆だ。
「流石アルマです……!」
「早速食べよっかー」
「はい!」
という事で、仲良くいざ実食。
まず一色ずつ掬って――
「美味しいです! 苺も、マンゴーも」
果実由来の甘み、爽やかな酸味。馴染み有る風味が氷と交わり、涼を運んで。
「はぁ、幸せ……」
「こっちも美味しいよー?」
と、アルマが勧めるのはブルーベリー味の青と、はちみつを加えたレモンの黄色。それもまた美味で、エヴァンはほっぺが落ちそうだ。
更に、味の組み合わせにも挑戦。
マンゴーとレモンの黄金色で、清涼感を楽しむと――
「これはどうー?」
と、アルマがブルーベリーと苺を合わせたベリーづくし味を、あーんと差し出す。
ん、と食べたエヴァンは目を細め。
「美味しいです。じゃあこっちも」
言ってアルマにも「あーん」のお返しをするのだった。
そしてエヴァンは真打ちに、程よく冷えた餡と練乳をパクッ。
「ん~!」
まろやか且つふくよかな甘味を楽しみ……勿論それもアルマと食べさせ合って。
ラストは全混ぜでかき込む。
「美味しいー……けど、っぅぅ、アタマガ……」
それでも手を止めず食べると、限界が来て突っ伏した。
と、隣ではアルマも頭キーンに身悶えていて――二人は見合って笑う。
「――涼めましたね」
「うん」
二人はそのまま、軽いキス。
唇に、快い冷たさを感じ合い――暑い夏にも、甘いひと時を味わっていった。
「わぁ――」
キオルティスと共に、散策へ歩みだしたアステルは……りん、りん、と。響く音色に笑顔を浮かべていた。
日差しは煌めいて、季節は最盛。
なのに何故か涼しく感じるのは、きっとこの音の――風鈴の所為だから。
(やっぱり音は、音楽は、凄い!)
足取りは仄かにその拍に乗るようで。
けれど、一時の涼を与える音に……少しの儚さを感じるのは。
(風という力がなければ無。だからかな…)
自分は、と思う。
――私の奏でる音は如何?
聴くモノがなければやっぱり無なの?
さらさらとキラキラと運ばれてくる音。だからキオルティスがそこに何を感じるのか、少し気になって。
キオルティスは――そんな妹の、いつの間にか大人びた横顔を見ている。
音の木漏れ日の中、何を思うのだろうかと。
(……)
一度だけ、声を掛けようか迷い……ただ音の中に立ち尽くす。
それを許す――そんな音の、これは寂しい優しさだ。
いや、それはきっと。
(今の俺の心の音……アステルを想う心が奏でる音、音楽だ)
常なる音、消して消えない音。
凛とした音は心を透かすようで、いっそ清々しく好ましい。りん、りん、と。こだまする響きの中でキオルティスはそう思えた。
だからふと、アステルと目が合うと。
「市があるよ。行こうか」
「うん!」
笑み合って、そこへ歩んだ。
「どれも綺麗だね!」
「そうだね」
キオルティスは頷く。
朗々と連なる風鈴たちには その数だけの制作者とその数だけの想いの鈴の音がある。
思うと心が躍り、騒めき――その美しさにハッとするばかりで。
「風鈴が……その想いを奏でているように聞こえないかい?」
「風鈴の想い……」
アステルにはそれが不思議な言葉に感じられる。
けれど、物にも想いが在るのだと。キオルティスが言うのなら、確かにそうだと思えて。
――涼を運ぶ。それだけが全て。
その想いは、きっと哀しくはないはずだと……そんな気がした。
「アステルはどの風鈴がお気に召すかな?」
「私はね、このガラスの風鈴にする! 壊れてしまいそうなのに、決して壊れ消えはしなさそうだから!」
アステルが澄んだ風鈴を選ぶと、キオルティスも――爽風に揺れ、凛、と音を奏でた一つに心を掴まれたように。
「俺は……これに、しようかな」
込められた想いに触れるように手を伸ばす。
夏風に、また一つ音が重なる。眩い季節の中で、それが一層優しく響いていた。
工房にて――ネーヴェ・グラヌローザとアルフィー・リッパーは風鈴の絵付けに臨むところ。
「出来上がったの、持ち帰れるみたいだぞ」
卓につきながら、アルフィーは隣のネーヴェに目を向ける。
「なあ、お互いに絵付けしたやつを交換しないか?」
「まぁ、素敵ですわね! ええ勿論、喜んで」
これは頑張って絵付け致しませんと、と。
気合を入れたネーヴェは、紙にデザイン画を描いて構図を練り始めた。
内容は――少し迷ったものの、描き始めるとすらすらと手が進む。
アルフィーも、始めは何を描こうかと思案していた、けれど。
「!」
閃いたように尻尾をピーンとさせて。こちらは早速風鈴に絵付けを始めた。
描いたのは、海の中の魚たち。時に悠々と、時に優美に泳ぎ揺蕩う姿だ。
ネーヴェも絵付けを始め、完成させると……二人は互いのものを交換した。
そのアルフィーの絵に、ネーヴェは目を輝かす。
「綺麗で、可愛らしいですわ」
「ん……、今までネーヴェには白とか青とか、雪のようなイメージが強かったんだけど……」
と、アルフィーは想起する。
「この間海に行った時に、魚の事も詳しいんだなって思って」
新しく知ることができた君のイメージを描いてみたくなった、と。その言葉と思いに……ネーヴェは瞳を細めた。
「まぁ……とても、嬉しいですわ」
「ネーヴェのは――」
と、アルフィーが見る風鈴は……尻尾に赤いリボンを巻いた黒猫のシルエットが目を引く。
それからガトーショコラを始めとしたお菓子の絵――今まで一緒に作ってきたものだ。
「すごく良いな、これ」
「アルフィーさんとは色々と作る機会に恵まれて来たなと思いまして……。これも、その一つになりますわね」
ネーヴェはアルフィーの風鈴を面映ゆい気持ちで掲げ見る。その煌めきが、とても美しかった。
その後二人は、互いの風鈴を手に散策。
道々の風鈴が響いてきて――
「涼やかな音色が心地良いですわね」
ネーヴェが耳を澄ますと、アルフィーも頷く。
「風が吹くたびに綺麗な音色が響いてくる。凄いな」
「どれだけ沢山の風鈴が飾られているんでしょう――」
ネーヴェの言葉に、アルフィーは「分からないけど」と続けて。
「でも、この風鈴が一番好きだな」
ネーヴェから貰った風鈴を翳し、その音にふわりと微笑んだ。
「部屋に戻って飾るのが楽しみだ」
「私も、貴方が作って下さった、この風鈴が一番好きです。窓辺に飾ったこれを見る度に、きっと今日一日を思い出しますわ」
りん、りん、と。
響く風鈴の中で、二つの音が優しくハーモニーを奏でる。その音色にのって――二人は歩みを続けていった。
「風鈴の音が涼やかでいいね~」
りん、りんと優しく響く音の中――サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは夜道をゆく。
澄んだ夜闇を橙色に照らす灯籠。
ひんやりとした空気。打ち水が干上がる匂い。
五感で夏を感じていると、歩いているだけで心地良い。金魚の柄が可憐な、白の浴衣の袖を揺らし――サフィラは振り返って。
「水着で遊ぶのも楽しいけどこういうふーりゅーなのも夏って感じだねっ」
「ええ、本当に」
と、微笑むのは浴衣姿のコルネリウス・アーラだ。
「時間がゆっくり進んでいるようで……素敵な眺めですね」
それにいろんなお店もありますし、と。
言って隣を見ると――こちらも浴衣姿のリディリディ・トゥラ・イェレミースが、同じく店々を見回していた。
「ええ、お食事処もありますね……」
土産物店、氷菓店、屋台。
見ると確かに食事処も幾つかあって、暖簾のかかった軒が並んでいる。
(お肉はあまりなさそうですが……)
リディリディはそんな雰囲気を感じるも――
「雰囲気良さそうだし、入ってみようよっ」
サフィラが明るく言えば、リディリディも頷いて。三人で早速店内に入り……席についてお品書きを眺めた。
すると店員が鮎と鰻がおすすめというから――コルネリウスは小首を傾げ。
「あゆ、と……うなぎ……? ですか? 初めて聞きます」
「うなぎはね――にゃ?」
と、そこでサフィラがくんくんと鼻を鳴らした。
「この匂いは……もしかして蒲焼?」
「かばやき?」
リディリディが聞くと、サフィラは頷く。
「むかーし、食べた事あるけど……身がふわっとして脂が乗ってて美味しかったなぁ」
「これは試してみるしかないのでは?」
と、コルネリウスが鮎の塩焼きと一緒に頼むと――二人も同じものを注文。
手際よく捌かれた鰻が、串で焼かれる様子が垣間見られる。そのうちにタレと炭の香ばしい匂いが漂って……白米にのった蒲焼が登場した。
コルネリウスはまず、共に来た鮎を食べてみる。
すると皮はぱりっと、身はふわりとして――
「美味しいです……!」
程よい塩味、溢れる脂が美味だった。
サフィラは鰻をはふりと食べて「ん~!」と笑顔。
「やっぱりおいしいっ! ほら、食べて食べてっ!」
と、勧めると……リディリディは頷いて、お箸で一口分取ってみる。
「……」
それから暫し対峙して――あむり。
「……成程、これは」
呟いてから、もう一口ぱくり、更にぱくり。食べ進め始めた。
「どうっ?」
「そうですね。魚は骨が多いですし生臭い感じをうけるのですが……これは美味しいです。正直見た目は悪いのですが気に入りました」
肉好きなリディリディにとっては、手放しでは無いものの……紛れもない絶賛。
はむはむと食べる姿に――
(リディさんがお魚を食べている姿、ちょっとレアな気がしますね)
と、コルネリウスもそんな思いを抱くのだった。
自身も鰻を食べてみると……タレの甘み、山椒の香り。川魚は食してきたコルネリウスも、初めての風味で。
「いい香りですし、とても美味しいですね」
「にゃ、半分食べたらお出汁を掛けて――こうやってお茶漬けにする食べ方もおいしいからオススメだよっ」
と、サフィラがやってみると、二人も実践。
さらさらと啜れるそれは……出汁の旨味が加わり、また違った趣の美味だった。
サフィラはそれに満足しつつ――
「あ、おじさん! 白焼きもあったらちょーだい! 米酒とセットでねっ」
あいよ、と店主が答えて供すると……サフィラは白焼きの素材の味と共に、澄んだ一杯を楽しむ。
「ここはお酒もおいしいんだよねっ」
「シャルガネは、まだ知らない味覚が多いですね――」
コルネリウスも鮎と付け合せのお漬物を味わいつつ、実感に呟く。
だからこそ、来るたびに新しい発見があって。そんな楽しさと共に、緩やかな時を過ごしていった。
マスターコメント
お疲れ様でした。
各所で楽しんだことで、祭りは一層盛況となりました。
イベントシナリオ易しい 報酬:標準25 / 4〜25人
2023年08月16日 11時13分46秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
投稿はありません