【虚夢】終焉ニ至ル幸福論
明乃そら
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シナリオID:3082
オープニング
ドルトン伯爵との会談を終えたドミニク・ログナーは、アルベール伯爵令嬢ロレッタの許に赴き、会談中に起きた出来事の一部始終を報告した。
「そう、大変でしたわね。よもやあの女が自ら出向いてくるとは……ですが、逆にそれだけ焦っているとも言えますわ」
メドゥの指先幹部であるマリアベルが姿を見せた事実は、ロレッタにとっても驚きであり、大きな関心を抱かせる。
「王国での計画まで妨害されたわけだから、目の敵にしてくるのは仕方がないね。しかも、相手はクロエさんだけでなく、〝キミ〟も一緒にご所望らしい」
マリアベルが現れた理由。その目的はクロエの回収のみならず、ロレッタの身柄を確保すること――むしろそっちが本命だろうとドミニクが推測を述べる。
「私をご指名とは、随分と気に入られたようですわね。その要求が条件であれば、答えは一つしかありませんわ」
自分が標的と知って尚、ロレッタは臆することなく、挑戦を敢えて受けて立とうと不敵に笑う。
マリアベルが欲するからには、対象を危険に晒すような真似はしないだろう。とはいえ、万全を期すべく、事前に対策を講じる必要がありそうだ。
そしてもう一つ。クロエの存在も、大きな懸念材料であるのは間違いない。
「相手の居場所を知っているのは彼女だけしかいないからね。ただ、あの話をそのまま伝えていいものか……」
会談の席でマリアベルが語った話――クロエの母親は、病死ではなく、マリアベルに毒を盛られて殺された。
親と慕っている吸血鬼が本当の親を殺した犯人だった。もしそのことを知ったら、クロエは一体どう思うか――。
彼女も協力者である以上、事前に余計な情報を入れて動揺させたくない。だがずっと隠したとしても、何れマリアベルの口から真相を聞かされることになるだろう。
顎に手を当て、考え込んで悩むドミニク。そんな彼に対して、ロレッタが落ち着いた口調で提言する。
「彼女に真実を明かすなら、その役目はあの方達に任せてみるのはどうかしら? もし何かあったとしても、彼らだったら良き方向に対処してくれるでしょう」
これまで幾度となく、依頼した事件を解決に導いてくれた冒険者達。
ロレッタが抱く信頼感は絶大で、必ずクロエの力になってくれると考えたのだ。
ただし、ここで問題点を挙げるとすれば、今後のクロエ自身の処遇に尽きる。
マリアベルとの決着をつけた後、吸血鬼である彼女をどう扱うか。
例え人を襲う危険がないとしても、決して野放しに出来る存在ではない。
かと言って、このまま監視下に置いた状態で、永遠に囚われの身として暮らしていくことを、当の本人は望むだろうか。
「その辺りも全て含めて、彼らの裁量に期待したい……そんなところかしら」
今までクロエに関わってきた冒険者達の意見も加味した上で、最終的な判断を下したい。
この件は個人の一存だけで決める問題ではなく、ロレッタは冒険者達の気持ちも汲み取りたいと思案する。
それには概ね同意だと、ドミニクも大きく頷きながら、そういえば……と、ふと思いついたように口を開く。
「クロエさんは他の娘達と違って、マリアベルを〝ご主人様〟と呼んでいた。おそらく、本当の母親への想いが強く残っていて、そうした人間らしい部分を壊したいんじゃないかな」
情に訴え掛けるのも手段であり、解決策の一つにでもなれば――。
ロレッタはドミニクの話を訊きながら、気持ちが吹っ切れたように微笑んだ。
「……最優先なのは、幹部のマリアベルを討伐すること。任務を果たせば、万が一クロエさんを取り逃したとしても、改めて討伐依頼を出すことなどで対処する。全ての責任は――この私が背負いますわ」
それで勘当されても構わない。ロレッタが示す決意は、冒険者達への意思表明。
全ては自分が招いたことにある。だから心配しなくても、思うが侭に行動しなさい――。
●揺れる想いと乙女の憂鬱
屋敷の薄暗い一室で、一人佇む吸血鬼の少女。
冒険者達を招き、マリアベルの居城で催される晩餐会。その報せはクロエ・ルクレールの耳にも伝わっていた。
いつかこうなることは予感していた。更には、マリアベルの狙いがロレッタにも向けられていることも――。
「……ご主人様は、ロレッタ様を自分の娘にしようと思っているのでしょう。とてもご熱心なようでしたから」
だがロレッタは、自分にとっても今や掛け替えのない存在だ。
生まれて初めて出来た、お友達。その彼女が自分と同じ吸血鬼になったとしても、それでも私は、喜べる――?
葛藤し、惑う心は虚ろに彷徨い……胸元で揺れる首飾りに、縋る思いで手を添える。
「私は、どうしたら……」
憂いを帯びた瞳に映る、亡き母親の忘れ形見。
進む未来は未だ視えず。クロエは掌の中で赤く輝く宝石を静かに見つめ、祈りを込めるように握り締めた。
●悪女は夢をかく語る
――昏き闇夜の紗幕から、漏れて射し込む月明かり。
淡い光に照らされて、廃墟と化した城の影が無気味に浮かぶ。
此処はメドゥの指先幹部『黄の示指』を冠する女吸血鬼、マリアベル・トロワの活動拠点。
百年前、彼女は城の主たる王国貴族の夫を殺し、一族の血までも根絶やしにして、歴史の闇に葬った。
それから現在に至るまで、裏の世界に潜伏しながら謀略を巡らせ、王国を欲望という名の毒で今も蝕み続けている。
「いよいよだわ。ロレッタが私のモノになるまで、もう少し……」
城の最上階のバルコニーから身を乗り出し、月を仰ぎ見ながら、想いを抱くマリアベル。
髑髏を杯代わりに、注いだ生き血を啜りつつ、〝その日〟を今や遅しと待ち侘びていた。
ロレッタを手に入れ、自分の娘にすることこそが、マリアベルの真の狙い。
「クロエを送り込んだのは正解だったわね。吸血鬼一人すら碌に殺せやしない小娘風情が、この私を斃すだなんて……笑い話にもならないわ」
所詮は世間知らずのお嬢様でしかないと、見下すように吐き捨てながら、どう弄ぼうかと嗜虐的に笑む。
「私に歯向かうことがどれ程愚かで、浅はかなのか……せいぜい思い知らせてあげるわよ。あの娘の苦痛に歪んだ絶望的な顔を見れるなら、想像するだけでも愉しみね」
令嬢達を持て成す為に催す晩餐会。その招待客には、冒険者達も含まれている。
マリアベルが軽く手招きすると、黒いローブを纏った少女――『イドラ』が姿を現し、側に近寄り、跪く。
「ロレッタとクロエ以外の連中は、貴女達に相手を頼んでいいかしら。好きに遊んであげて構わないから。その代わり――誰も生かして帰さないこと。一人残らず、ね」
「……母上がお望みとあらば、仰せのままに」
冒険者達の始末を命じるマリアベル。彼女の言葉を受け止めて、イドラは深く頭を下げる。
「いい子ね、イドラ。貴女は本当に美しい……顔や全身に浮かぶその痣も、どんな宝石より綺麗に輝いて見えるわよ」
嘗て毒を盛られた影響から、イドラの身体は斑模様の痣が今も消えることなく残っている。
この醜い容姿を褒めてくれるのは、唯一マリアベルだけであり、愛しい母の為なら命を賭して、晩餐会を冒険者達の血で満たしてみせると強く心に誓うのだった。
驕る貴族を誘惑し、堕落の途に導こうとする悪女の計画。
思い描くのは、快楽と背徳感に満ちた退廃的な理想郷。
そしてその先にある、吸血鬼の楽園を創り上げる為に――。
解説
マスターより
リプレイ
深藍色の闇が視界を覆う、夜の世界。
冒険者一行は吸血鬼の少女の道案内に従うがまま、決戦の地である敵の居城を目指して進軍する。
全ては、城の主たるメドゥの指先幹部『黄の示指』マリアベル・トロワとの因縁に決着をつける為。
「見えてきました。あそこがご主人様のお城です」
案内役のクロエ・ルクレールが指差した先、月の光に照らされて浮かぶ影――夜の静寂に聳える廃城こそが、目的地であるメドゥの指先の拠点。
立ち止まり、城を見つめるクロエの表情は、平静を装いながらも複雑な想いで憂いを帯びる。
しかし、彼女が母と慕う女性こそ、実の母親を殺した張本人だと知ったら――。
真相を何れ本人の口から聞かされるのは確実だ。ゲルダ・クラインは心の準備だけでも、と例え話を挙げて仄めかす。
「……ある男の子から、母親のように慕われていた女性がいました。でも女性は男の子の両親を殺して、親に成り代わっていたそうです」
クロエは不思議そうな顔をして、どうしてそんな話をこの時に、と小首を傾げながら視線を向ける。
しかしゲルダは何も答えず、この話が真相に辿り着く切欠として、後は自力で気付いてほしいと願うのだった。
理不尽な理由で吸血鬼にされたクロエを案じるのは、ルチル・プルメリア・グレイハーツも同様だ。
彼女と幾度か関わる中で、掛ける言葉は持たずとも、これ以上不幸になってほしくないと心の中で望んでいた。
「おっと……あちらさんもお出迎えみたいだな」
ルチルの頭蓋の仮面の奥の瞳が、鋭く光る。
城へ近付くにつれて輪郭を表す、一行を待ち受ける敵の影。その者達の姿には、見覚えがある冒険者もいるようだ。
「マリアベルの娘達ですか。歓迎してくれる雰囲気ではなさそうですね」
これまでの任務の中で、リコリス・アデュラリアはそこにいる全員と面識がある。
マリアベルの娘となった少女達。彼女らが外に出向いているということは――。
「晩餐会、か。つまり奴らにとって、俺達の血こそが最高のご馳走になるわけだ」
簡単に城へ入れてもらえる訳などあるはずなく。最初から皆殺しにする気だろうことは分かり切っていた。
ナハティガル=ラーは離れていても感じる敵の殺意を察知しながら、武器を手にして歩みを進める。
やがて城の前まで到着し、冒険者達はベラドンナの花咲く庭園に足を踏み入れる。
「待っておったぞ、冒険者共。主らの相手は儂らじゃ。……クロエはその娘と一緒に、母上のところへ向かうがいい」
相対するのは、マリアベルの娘が一人、黒いローブを纏ったイドラだ。
彼女は他の娘達と共に冒険者の前に立ちはだかり、マリアベルの指名で同行してきた伯爵令嬢、ロレッタ・アルベールを城内に連れて行くよう、クロエに促すのだった。
「では、私達は一足先に行かせて頂きますわ。冒険者の皆様方も、どうかご武運を」
自分が標的であるからには黙って救出を待つのみと、ロレッタは一行を信じてエールを送り、振り返ることなくクロエと共に城へと向かった。
「ずっと楽しみだったんだよ、アンタらと殺り合える機会がさ。血が疼いて我慢できないんだよねぇ」
兎耳の半獣人の少女カリギュラが、赤い眸を爛々と輝かせながら、血染めの棘付きハンマーをくるりと回す。
城への道を通すのは、あの二人のみ。残りは餌になるだけだとニタリと嗤い、殺気を漲らせて行く手を阻む。
「ここはわたし達が引き受けます。だから、ロレッタさん達の後を追って下さい!」
「……仲間を送り出すのが、俺の役目だ。こっちのことは心配するな」
トーラとレピド・クロサイトが足並みを揃えて前に立ち、壁役として敵と一戦交える気概だ。
「どうやら二手に分かれて行動するのが賢明かな。幸い、王国騎士の助力も見込めるようだしね」
ドミニク・ログナーも庭園に留まり、娘達との戦闘に挑む冒険者達の補佐役となる。
今回は王国騎士団の面々も、戦いに手を貸してくれる。ならばマリアベルとの戦いに万全を期す為、戦力を分散させて、被害を最小限に抑えるようにするのが最適解だ。
「それじゃ、お言葉に甘えて任せるわね。私はロレッタさん達に付いていくから、後でまた会いましょう」
ザザ=ステルヴィナはトーラ達の意を汲み、この場を託してロレッタ達の許へと急ぐ。
「僕も行くよ。クロエお姉さん……この先何があっても、僕達が守ってみせるからね」
クロエの母親の件を知った以上、アドルフ・ジーノは彼女のことが気掛かりで、自身も同行を申し出る。
そこへゲルダとナハティガル、リコリスも加わり、五人は揃って城内に直行するべく走り出す。
「それでは、幕を引くと致しましょう」
バル・ヌール・スケアクロウが剣を抜く。城に向かった仲間を援護する為、外に残って吸血鬼の娘達を迎え撃つ。
「……今度こそ、アナタ達みんな、ワタシのオトモダチにしてあげる。覚悟はいい?」
白いワンピースを纏った少女、フィリアが抑揚のない口調で呟き、手を翳す。すると地面が蠢き、下に眠っていた死人の群れが次から次へと起き上がってくる。
「吸血鬼三体に加えてゾンビの集団か。相手にとって不足はないな」
単純な数だけで言えば吸血鬼側が圧倒的に優位だが、ルチルは微塵も怯まず、むしろ丁度いいくらいだと不敵に笑う。
立ち向かうのは、五人の冒険者と王国騎士団。満天の星と月の光が射す庭園で、美しくも凄惨な血の晩餐会が、斯くして幕を開けるのだった――。
一方、ロレッタ達との同行を決めた冒険者達は、城の入り口まで来たところで襲撃に遭う。
「入城の許可を認められているのは、クロエ様とロレッタ様のみ。他はお引き取り願います」
待ち伏せていた配下の暗殺者達が、警告しながら進路を妨害。が――伏兵の存在を見越していた王国騎士が、間に割って入って冒険者達への道を作る。
「この者共の相手は我らが致す。諸君らは今のうちに早く奥へと急がれよ」
王国騎士の助けもあって、冒険者達は城の中への侵入に成功。後はこの狂った晩餐会の主賓、マリアベルが待つ城の最上階まで駆け上がるのみ――。
●狂騒曲〜月下に踊る乙女達
夜闇に響き渡る雄叫びと、剣戟の音。
「只の足止めとは思わないでくださいね? わたしは本気です!」
小柄なハーフリング故、侮られることの多いトーラが対抗策として体得した威圧術。
迸る気迫は荒々しくて、多くの戦場を潜り抜けた強者の佇まいを感じさせる。
「いいねぇ……強そうなヤツは大好きだよ。殺し甲斐があるってモンさ」
トーラの気迫にカリギュラは怖気付くどころか興奮し、大きく目を見開き、トーラを狙って牙を剥く。
娘達の中でも一番好戦的な彼女が攻撃してくるのは、思惑通り。注意を引き付け、自分が獰猛な兎女の相手を担う。
案の定、敵は接近戦で攻めてきた。体重を乗せて豪快に振り回されるハンマーの軌道を、トーラは瞬時に見切り、小さな身体を活かした軽やかな動きで回避する。
「――ガラ空きですよ」
攻撃直後に生じた隙を突き、すかさず反撃に出るトーラ。
後ろに下がって距離を取り、指先に魔力を込めて、光の矢弾を発射する。
「くっ……!? アタイに攻撃を食わらすたぁ、チビの割にはやるじゃない」
カリギュラの上体が僅かに揺らぐが、受けた傷は浅くて軽口を叩く余裕すら見せる。
「甘く見てもらっては困ります。悪いですけど、あなたを倒して先に行かせて頂きます」
片やトーラも、彼女は自分が倒すと決意を強く、気炎を上げて戦いの続きを挑むのだった。
「外法から生み出された生命とは面白い。どんな血の味がするのかのぅ」
ホムンクルスであるレピドに興味を抱いたイドラが、術を駆使して攻撃を仕掛ける。
召喚士である彼女がこの世界に呼び出す異形の存在――巨大な蜘蛛に、頭部が裸体の女性の上半身といった禍々しい姿。
「クリーパーを操る術も、外法のようなものではないか? しかも、術者が吸血鬼であれば尚更だ」
それは世界に災いを齎す、負の力。
自分がヒトの手で造り出された生命だろうと、魔物と同等に思われてしまうのは心外だ。
「ほざくな、お主なぞ所詮は術者の人形にしか過ぎぬ。大人しく贄になるが良い」
結局は外法の実験体でしかないと見下しながら、イドラが蜘蛛型クリーパーに攻撃を命じる。
異形の蜘蛛は、女性の口から濁った緑色の毒を含んだ粘液を吐き出し、撒き散らす。
対するレピドは飛んでくる毒液の方向を予測、本能的に反応し、身体を捻って素早く躱す。
記憶はなくとも、暗殺者としての生前の魂が無意識の内にそうさせるのか。何れにしても、相手の追撃が来るより先に、今度はこちらが仕掛ける番だ。
召喚されたクリーパーはすぐこの世界から消えてしまう。であれば、術者本人に攻撃を集中させた方が手っ取り早い。
漆黒の短刀に魔力を纏わせ、疾走しながらイドラの喉元に刃を奔らせる。
「ッ……!?」
レピドの攻撃を仰け反って、辛うじて避けるイドラ。しかし刃は顔を掠めて、血が頬を伝って滴り落ちる。
イドラの顔に浮かぶ痣。毒が原因だという話らしいが……攻撃方法が毒というのも何やら関係がありそうだ。
「この痣が気になるか? どうせお主も、醜い顔だと思っておるのだろう」
レピドの視線を感じたか、不快そうに顔を顰めて憎々しげに睨み付ける。
どうやら訳ありみたいだが……察しはすれども、容赦は出来ない。
唯一、自分が彼女にしてやれるのは、ひと思いに殺すことのみ――。
庭園を埋め尽くさんばかりに群がる死の尖兵。
冒険者達を取り囲み、生きとし者を仲間に引き摺り込もうと襲い掛かる。
「数は多くても、個体の力はそれ程強くないはず。纏めて始末していきましょう」
バルの愛用の剣が、光の魔力を帯びて長く伸びている。
青白く輝く刃が月光を浴びて、剣を力強く振り回すと、鮮麗な光彩を放ってゾンビの集団を薙ぎ払う。
その剣は、死の使いの名を冠し、煌めく剣閃は偽りの生に死を刻み込む。
「ワタシのオトモダチを虐めるなんて、許せない。やっちゃって……イリヤ」
淡々と呟くフィリアだが、言葉に隠し切れない怒りを孕む。
彼女は隣に従える少女のゾンビに命令し、イリヤと呼ばれたゾンビは指示を受けると、バルに向かって猛突進。
鋭利な爪で身体を引き裂こうを手を伸ばす。が、バルは咄嗟に剣で死人の爪を受け流し、攻撃を弾かれたイリヤはすぐにフィリアの近くまで飛び退る。
「他のゾンビより動きが早く、威力も高い……ソレだけ特別みたいですね」
一体だけ名前で呼んで、力も違う少女のゾンビ。フィリアにはよほど大切なのだろう。なら、ソレさえ倒せば――。
「これだけ数が多いと鬱陶しいな。先に雑魚共を一掃するか」
ルチルが構えた弓を引く。魔力を込めた矢を番え、ゾンビの群れの頭上目掛けて撃ち放つ。
飛来する矢が空間で爆発、砕けた光の破片が降り注ぎ、身体を貫かれたゾンビが一体、二体と崩れて落ちる。
――互角の攻防が繰り広げられる戦場は、混戦模様と化していた。
その均衡を破ったのは、王国騎士団の支援を受けた冒険者達。
吸血鬼側は開始時よりも戦力を大きく殺がれ、次第に勢いを失い、圧倒される。
「……ったく、しぶといねえ。いい加減くたばれっての!」
カリギュラに先程までの余裕は見られず。傷を負い、痛みと苛立ちに顔を歪ませ、残った力を振り絞って吼え猛る。
「わたしは、あなたなんかに負けません!」
トーラも相手の殺気に一歩も退かず、重心を低く落として身構える。
先に動いたのはカリギュラの方だ。ハンマーを振り上げ、トーラの脳天を圧し潰そうと死に物狂いで叩きつける。
しかしトーラは冷静に見極め、後ろに飛んで、紙一重の差でこの攻撃を躱し切る。
そして着地と同時、両手に備えた神材の筒にエーテルを通わせ、刃を形成。地面を蹴ってカリギュラの間合いの内に踏み込み、二刀から超高速の連撃を繰り出し、その強靭な肉体を斬り刻む。
「ガッ……!?」
華麗に舞うかのような剣技が決まり、深手を負ったカリギュラはその場に蹲って倒れ込む。
血を吐きながら力尽き、息絶えるカリギュラの口元は、どこか満足そうに笑っていた――。
イドラの操る無数の妖精の如き蜂の異形が、レピドに群がり、毒針の雨を打ち付ける。
しかしレピドは機動力を活かして回避を試み、全身を掠める毒針も構わず、イドラの懐に潜り込む。
「俺の毒は何も変えたりはしない。ただ、命を蝕むだけだ」
生前身体に染み付いた動きを、今生で極限まで洗練させた暗殺術。
撓るような体捌きから二本の短刀を巧みに振るい、その煌めきがイドラの瞳に映った瞬間――彼女の体躯が斬り裂かれ、朱い血の華が狂い咲く。
「よもや、外法の人形如きにやられるとは……口惜し、や……」
致命傷を負い、イドラは苦悶の表情を浮かべながら、地に伏せる。
地べたを這い、必死に起き上がろうと伸ばす手は、虚しく土を掴むのみ。
悔しげに唇を噛み締めながら、命尽きてゆくイドラの最期を、レピドは黙って俯き、見届けた。
「オトモダチとやらも少なくなりましたね。寂しくないよう、貴女も直に送ってあげます」
バルとルチルが連携しながら、ゾンビの集団を駆逐していく。
残すはフィリアと、彼女が大切にしている少女の死人。
「だったら新しく作ればいいだけ。使えないモノは、必要ないから」
フィリアにとって、死人は単なる道具に過ぎない。その歪んだ妄念が、どれだけ多くの犠牲を生んだのか。
このゾンビ達もそう……これ以上、哀れな犠牲者を出させはしないと、冒険者達は火力を集めて畳み掛ける。
肉弾戦を挑むイリヤに、バルが応戦。力任せに掴みかかってくるイリヤを正面から剣で受け止め、身を翻し――返す刃で狙うは、その頸だ。
研ぎ澄まされた一閃は、月夜に鮮やかな弧を描き――地面にゴロンと、刎ね飛ばされたイリヤの頸が転がり落ちた。
「コイツで止めだ」
間髪を入れず、ルチルがフィリアに的を絞って、矢を穿つ。
凝縮させた魔力を一点に注ぎ、威力を増幅させた矢弾が一直線にフィリアの胸に突き刺さる。
「……ぁ」
胸を射抜かれ、フィリアは意識が遠退きながら、仰向けに倒れて動かなくなる。
瞳がゆっくり閉じてゆき、霞む視界の中で最後に見たのは――魂を導くようにまばゆく輝く月だった。
●夢想曲〜幸福に至る死の眠り
城の螺旋階段を上って辿り着いた先、そこは城の主たるメドゥの指先幹部、マリアベルが待つ最上階の大広間。
壁には目を模った紋様が一面に描かれており、不気味な雰囲気を醸し出している。
「ようこそ、私のお城へ。クロエにロレッタ嬢、そして貴方達が来るのも、想定内――改めて、歓迎するわ」
黒いドレスを優雅に靡かせ、マリアベルが冒険者達に挨拶を交わす。
「お久しぶりです、ご主人様。それと……私のお母様の話、お聞きしました」
マリアベルとの再会を果たすクロエだが、広間に入る直前、アドルフから母親の死の真相を教えてもらった。
病気を患った母を、救うどころか毒を飲ませて殺害した。全ては自分を娘にする為に――。
真実を知った衝撃で復讐に走らないかと、一行は懸念を抱いていたが――当のクロエは驚く程に冷静だった。
「……薄々とですが感じていました。吸血鬼となって、貴女から毒薬の生成を学んだ時……母の服用していた薬が、その毒薬と色も匂いも似ていましたから」
クロエは既に気付いていたのだ。しかし彼女は自分の心を押し殺し、マリアベルの娘として生きる道を選択した。
そのことにはマリアベルも意外だったか、小さく息を吐いた後、指を鳴らすと、仕えるメイドがクロエとロレッタの側に寄り、二人をバルコニーまで誘導する。
「少し計画が狂ったけど、絶望を味わってもらうのは変わらないわ。今度は私が直々に、貴方達の相手をしてあげる」
五人の冒険者を前にしながら、全身から溢れ出る殺気と威圧感は、先程の娘達との比ではない。
メドゥの指先幹部『黄の示指』を冠する女吸血鬼。彼女との因縁に決着を付けるべく、最後の戦いが今始まった――。
「クロエお姉さんがどんな気持ちでいるか……でも僕達は、見捨てるようなことはしないよ」
母親の死の真相に以前から気付いていたなら、それだけ長く苦しんでいたに違いない。
だったらその苦しみからもう解放してあげたい。アドルフがクロエへの思いを込めながら、魔力の波動を周囲に展開。
冒険者達から青白いオーラが立ち上り、力の昂りを感じ取る。
「さて、一体どんな能力を使ってくるやら。最初は出方を窺うか」
相手の未知の力を警戒し、ナハティガルが俊敏な動きで跳ね回り、攪乱戦法で手の内を探ろうとする。
「目障りね。じっとしていてもらえるかしら」
マリアベルの掌から、魔力の雫が地面に落ちる。すると黒い荊棘の鎖となって、ナハティガルを絡め取ろうと伸びてくる――が、自分に攻撃が来るのは読んでいた。足下に迫る荊棘の鎖を、真上に跳んで間一髪で躱すのだった。
「参ります!」
ゲルダが小柄な体躯に不釣り合いな大太刀を担いで、全力疾走しながらマリアベルに突撃。
「こちらも援護します」
リコリスが魔力の塊を杖から射出し、相手の護りの力を脆弱化させる。そこへゲルダが一気に近付き、全身全霊を込めて太刀を薙ぐ。その一撃は稲妻すらも叩き斬ると謳われる程に、鋭く強い、迅速の太刀。
「攻撃の手を緩めないでいくわよ」
ゲルダの浴びせた一太刀で、マリアベルが一瞬、態勢を崩す。次いでザザが光の魔弾を放って追撃。
冒険者達は最初から手数で攻めて、マリアベルの力を削っていこうとする算段だ。
戦闘中も思考を休めず、敵の行動把握に努める冒険者達。
荊棘の鎖は直線上にしか撃てない。であれば密集を避けて散開し、一定の距離を保って戦うことが効果的と判断。
「指示は任せて」
ザザは敵の攻撃に備えて光の壁を配置しつつ、後方から戦場を見渡しながら司令塔の役割を担う。
「ふぅん……だったら、こんなのはどうかしら?」
マリアベルが煙管を咥えて一服し、ふぅっと煙を吹きかける。吐いた煙は紫色の蝶と群れと化し、羽搏きながらゲルダの周りに纏わりつく。
飛び交う蝶達を振り払おうとするゲルダだが、突然、彼女の脳裏に過去の記憶が蘇る。
――褪せた当時の景色の中で、ゲルダの目の前にいるのは、幼い外見の女の子。
しかしその足下には、そこだけ鮮明に真っ赤な血溜まりが広がっていた。
女の子は虚ろに笑って、わたしをじっと見つめている。
……ごめんなさい。決してあなたが悪かったわけではないの。
危険だったから、魔物と同じように『倒す』ことを選んだ。
だけど、本当にそれで良かったのかな……。
罪悪感に心を抉られ、身体が締め付けられるように重くなる。
でも……わたしは後悔なんかしていない。全ては自分が決めたこと。
それを絶対忘れずに、ちゃんと背負って生きていくんだって――。
惑わしの蝶が視せる、記憶の傷痕。
だがゲルダは強い精神力で術に打ち勝ち、蝶が霞のように消えてゆく。
「幻術ですか。そうやってヒトの心を弄び、どれだけ多くの命を奪ってきたんですか」
本来ならば、心の奥に秘めたままでいたい過去。
大切な想いを利用し、虐げる惨いやり方に、ゲルダは憤りを露わにしながらマリアベルに刃を向ける。
「皆さん無事ですか! 三人の娘達は倒してきました!」
勢いよく部屋に飛び込んできたのは、トーラを含め、庭園で戦っていた冒険者達。
「配下の暗殺者達は王国騎士団が相手をしています。その間に、私達の手で事件の元凶を倒しましょう」
バルが下の状況を伝える。ロレッタ嬢の救出も頼まれたことも。ともあれ、援軍が加わることは頼もしい限りだ。
これで戦力は倍となり、形成は冒険者側が断然有利。全員でマリアベルを取り囲み、もはや彼女に逃げ場はない。
ところがマリアベルは少しも動じず、口角を吊り上げ、冷たい笑みを浮かべて舌舐めずりする。
「あの子達も殺されたなら、それまでの運命。さて……貴方達には、〝特別な夢〟を視せてあげるわ」
マリアベルの舌に浮かび上がった魔術紋。彼女の発する声が歌となり、紡ぐ旋律は広間中に鳴り響く。
冒険者達は精神を集中させて抗うが、それを嘲笑うかのように、魔性の音色が眠気を誘う。
意識が飛んで、糸が切れたように崩れ落ち、やがて一人残らず、深い眠りの世界に堕ちてゆく――。
「この術にかかった者は、眠ったまま、溺れるように死んでゆく。もう二度と目を覚ますことはないわ」
眠りに就いて横たわる冒険者達を一瞥しながら、マリアベルはロレッタ達にも、もう救いはないと暗に伝えるのだった。
――永遠に醒めないまやかしの夢。微睡みの中で彼らが視るのは、心に願う幸せな世界。
●終曲〜廻る運命、想いは永久に
『――王国内の、とある酒場』
酒が注がれたグラスに、優雅な仕草で口付けるザザ。
同じテーブルでは、白いスーツ姿の端麗な女性が、ザザと一緒に飲み交わす。
任務で彼女を救出し、互いに生還した後、二人っきりで祝杯を上げて勝利の美酒に酔い痴れていた。
共に過ごせる幸せな時間。彼女の嬉しそうな笑顔に、ザザも自然と顔が綻んで。
どちらが先に潰れるか、今夜は飲み明かそうなんて競ったり。
飲み過ぎて酔いが回ってきたのだろうか、ザザは胸が圧迫されるような息苦しさを感じつつ、ふと、今見ている光景に、奇妙な違和感を覚え始める。
確か彼女は――何かを思い出そうと考える。その時、白騎士の女性がザザに寄り添い、手を握る。
嗚呼、そうだった。彼女はもう、こっちに戻ってくることは――。
触れたその手は死体のように冷たくて、おかげで此処が偽りの世界だと漸く分かった。それに何よりも。
「……貴女ならきっと、『いつまでくよくよしてんだよ』って言うわよね?」
だから、戻らなくてはいけないの。貴女との約束を守る為に――。
『――大森林の集落にて』
雲一つない青空の下、暖かな木漏れ日が降り注ぐ穏やかな日常。
生まれ育ったこの森で、両親や双子の姉に囲まれながら暮らす生活に、リコリスはささやかな幸せを感じていた。
そしてもう一人、好意を抱く幼馴染の青年が、いつも隣に寄り添ってくれる。
いつの日か、私も彼と――何て、仄かに将来への想いを馳せながら、お互いの関係が続けばいいとただ願う。
私を見守るように、絶えず笑顔を向ける姉と母。
でも何故か、靄がかかったような漠然とした不安に、鼓動が高鳴る。
心の底にある罪悪感、胸に突き刺すような辛い痛みが襲い掛かった。
森での幸せな日々の営みも、家族も幼馴染も、全てが幻。
現実の世界で、私はとある事情で幽閉された。
母は私の身代わりに、姉はクリーパーから私を庇って、亡くなった。
二人の死の原因は、私にあると、父と幼馴染はひどく憎んだ。
私は生まれた時から、一族にとって忌むべき存在だったのだ。
この世界が本物だったら嬉しかったのに。でも実際は――非情な現実を思い出し、景色が瞬く間に彩を失くす。
――すると、姉が私の手を取り、森にずっといてほしいと、目を潤ませながら懇願する。
だけど此処は偽りの夢。私には元の世界に戻って、為すべき役目が残っている。
姉の死後、消息を絶った幼馴染を探し出し、彼から姉の遺体を取り戻す為に――。
『――王国内の港町』
「ねぇ、お兄様。今日は天気もよろしいですし、これから海水浴に行きませんか?」
洗濯物を干しながら、朗らかな声で話し掛けてくるのは、可憐な服を纏ったゲルダ。
彼女の誘いに、ナハティガルは頬を緩めて小さく頷き、共に暮らす凛々しい雰囲気の金髪の少年と目を合わせる。
三人とも種族は違えど『家族』の絆で結ばれて、一庶民として慎ましやかに幸せな生活を送っている。
だったら水着も用意しないとな。と言ったら、ゲルダは顔を赤らめ、照れ臭そうに微笑んで。
そのやり取りを金髪の少年は傍らで眺めながら、クスッと可笑しそうに若気ていた。
――家族とは、こんなにも温かい存在だったのか。まるで〝夢〟みたいだな。
「お兄様。あの……わたしと一緒に泳ぎませんか?」
訪れた海の浜辺を散策しながら、ゲルダが手を差し出してナハティガルを誘う。
無下に断る理由もなく、手を握り返すと、無邪気に引っ張って浅瀬に向かった。
波打つ水面をふと覗き込む。と、そこに映った自分の顔が、何かを訴えているように見えた。
大事なことを忘れている気が――そう思った時には、既に海の中まで引き込まれ、ゲルダは更に深い底へと潜っていく。
水底に近付く程に呼吸が苦しくなって、手を振り解こうとしても離そうとしない。
――これは夢。永遠に醒めない幸せに溺れる、残酷な悪夢だ。
見た目を似せただけの紛い物。欲望が産んだ醜悪な影――夢の中の少女が闇に溶け、吸血鬼の魔女の姿に変化する。
「此処にいては現実の彼等を護る事はできん。悪いが出させてもらう」
術の呪縛を打ち破り、剣を振り抜くナハティガル。
夢の世界の魔女を断ち、現実世界のマリアベルにも、放つ刃が彼女の肩を捉えて裂いた。
「……まさか、夢から覚めるなんて!? ならもう一度、いや……ここは先にあの娘を戴く方が」
秘策の術が解かれることは計算外だったか、マリアベルは冒険者に初めて脅威を覚え、表情に焦りの色を滲ませる。
この状況で無理に戦うことはない、ロレッタを手に入れる目的さえ果たせば――。
標的を切り替え、急いでバルコニーに向かおうとするが――しかし、何故か配下のメイドが気を失っていて、ロレッタを庇うように、クロエが前に立ち塞がる。
「そう、貴女にはそっちの方が大事なの。素直にそこをどいてくれないかしら」
娘に圧を掛けるマリアベル。だが、その僅かな隙が、冒険者達の勝機を生む。
「今度こそ、決着を付けさせてもらうわよ」
「貴女ももう、お終いですね」
自力で夢から抜け出したザザやリコリス、更にはアドルフの解呪の力で、彼らは再び現実の世界に戻っていた。
態勢を立て直した冒険者に対し、マリアベルは手詰まり状態。必死の抵抗も虚しく、追い詰められる吸血鬼の魔女。
息も絶え絶えに、凄まじい形相で睨む彼女に最期の時を刻むべく、銀髪の鬼人が勝負を賭ける。
――この女も俺と同様、地の底を這いずって生きてきた類だろう。
けれども、今の彼女は欲望だけが肥大した、虚っぽで中身のないただの化け物だ。
「アンタは愛し方を間違えた。もう無間地獄で生きる事はない――眠れ、永遠に……!」
烈火を纏うが如く、ナハティガルの渾身の力を込めた一撃が炸裂――マリアベルの生を断ち、その死を以て、長きに渡る因縁に終止符を打った。
――メドゥの指先幹部を討ち倒し、最高の成果で大任を遂げた冒険者達。
後は、マリアベルが遺した娘、クロエの処遇についてだが――。
「お咎めなし、ってわけには流石にいかないか。アンタ個人としては死なせたくないんだろう?」
ルチルが依頼人の意思を配慮して、当人の本心をさり気なく訊ねる。
「折角お友達になれたんですもの。私の覚悟は決まっていますわ」
やはりロレッタにクロエを処罰する心算はない。だが取り逃したとあらば、伯爵家から廃嫡されることは免れない。
「ですので、こうしましょう。貴方達は度重なる激闘により、満身創痍で継戦も困難。吸血鬼クロエの逃亡は最善を尽くした結果で落ち度はなく、依頼主であるこの私が全責任を負う――といったところでどうかしら」
領民に危害を及ぼす吸血鬼を逃したからには、けじめを付けるのは当然の話だ。
そしてその後は伯爵側が、クロエの捜索や討伐依頼を引き継ぐ形になるだろう。
一方、クロエの気持ちはどうなのか。
マリアベルが死に、一人になった彼女がこの先何を望むのか。
「……もし生きたいと望むのなら、その道を模索してもいいのでは、と思う」
レピドがポツリと思いを吐露する。
罪の重さを測るなら、生前に暗殺者を生業にしていた自分の方が罪人だ。
だから彼女にも、生きる権利があるのだと。
「僕達はクロエお姉さんを最後まで助けるって決めたんだ」
彼女も騙され利用された側であり、殺すのは流石に重いと処分を否定するアドルフ。
記憶を失くして両親がいない身だからこそ、クロエのことも放っておけない性分なのだ。
「これからどうするかは、自分で決めないと行けないよ」
どう決断するかは、本人次第。僕もそうだから、と自分に重ね合わせて励ますのだった。
「今後はロレッタの友人としてもう少し生きてみては。そう、死が二人を別つまで」
リコリスが一つの提案をする。生きる目標を見出せなければ、クロエはきっと、死を選ぶだろう。
心の支えになってくれるのは、ロレッタをおいて他にいない。
「仮に彼女が亡くなった後、他に生きる目的が見つからなければ、殺してあげますよ。生の長い、友人同士として」
命ある者はいつか死ぬ。だが長命のエルフである自分なら、少しはクロエの相手になれるのではないか。
そう語るリコリスに、クロエはお礼を述べつつ、心に秘めた想いを打ち明ける。
「私が死を迎えるなら、最も大切な友達の腕に抱かれながら眠りたい……それが私の望みです」
自分が最も愛する友達に討たれて、看取られながら逝くなら本望、と――。
クロエの告白に、ロレッタは納得したように笑みを携え、返答する。
「……いいですわ。私が逃げる貴女を探し出し、この手で葬ってあげましょう」
互いに想いを伝え合い、笑顔で見つめ合った後――クロエは別れを告げず蝙蝠になって、城の外へと飛び去っていく。
ロレッタもまた、行方を目で追いながら見送って、静かに心の中で祈るのだった。
その日が来るまで生き延びて――どうか、世界の涯までお往きなさい。
マスターコメント
ロングシナリオ非常に難しい 報酬:多い9 / 6〜12人
2023年07月22日 18時10分24秒 公開
相談掲示板
ヒーラーのドミニク・ログナーだよ。 マリアベルに関わる事件にこれで決着をつける形になるけど、最後までどうかよろしくね。 もし何か聞きたいことなどあれば、出来る限り可能な範囲でお答えするよ。 それと、私の行動方針だけど、特に指示がなければ庭園側での戦闘支援に回る予定で考えている。 その辺りも含めて、改めてよろしくお願いするよ。
シーフのトーラです。 よろしくお願いします! まだ成立人数に達していませんけれど、連戦となりますし出来れば多くの人に来て欲しいですね……。 庭園での戦いはマリアベルの娘三人に加えフィリアの操るゾンビの群れに加え、暗殺者十数名も居ますので王国騎士の方々にはそれらの対処もお願いしたいですね……。
シーフのナハティガル=ラーだ。 ――成立まであと2名だが、今回も宜しく頼む。 >戦闘 戦場は二箇所となり、庭園⇒城の最上階の順で連戦となる。 何れにしても厳しい戦いとなるだろう。 ●庭園 【敵戦力】 ・マリアベルの娘三人 ・マリアベル配下の暗殺者達 【味方戦力】 ・ドミニク ・王国騎士 ●城の最上階 【敵戦力】 ・マリアベル 【その他】 ・ロレッタ&クロエ ※マリアベルの所まで連れて行くことが前提 戦闘時は配下のメイドが二人を安全圏まで退避 >ドミニク クロエの監視目的で同行している王国騎士達の人数と能力を教えて貰う事はできるだろうか?
>ナハティガルさん 同行する王国騎士は数名程度で、近接・遠距離共にバランス良く揃っている。そして個々の戦闘力もキミ達冒険者より高い。言わば少数精鋭といったところだね。 それと、私も嘗ては彼らに憧れていた時期があってね……と、これはどうでもいい話だったね。
ウォーリアのゲルダです。人数が足りていなさそうでしたのでお邪魔しますね。 王国騎士の方々の助力をいただけるのは、とてもありがたいです……! どちらも一筋縄ではいかない相手ですし、マリアベル様側対応の方々が万全に臨むために スキル制限などもありますし、庭園側の対応に注力する班とマリアベル様側対応に注力する班に別れて庭園側は陽動+足止めに留め、その隙にマリアベル様対応の方が城の最上階に向かう、という形、はいかがでしょうか。
ヒーラーのアドルフだよ。よろしくね。 これまでの内容を見てきたけれど、僕は最上階組に行くことになるかな。 庭園組のヒールやBSの対処はドミニクお兄さんに任せてもいいんじゃないかしら? それで、マリアベルのBS付きの魔法の対策でBS解除を多めに持ち込んで、ヒールとバフ役に徹する方向で行こうと思ってるよ。 あとは、夢葬ノ揺籃の対策で、一箇所に固まらないでバラけて戦闘するくらいかな? 持ち込むスキルは今の構成にするつもりだけど、特性が一枠余ってるから欲しい支援とかあったら遠慮なく言ってね。 あとは、クロエお姉さんのケアだけど…難しいね。 いつまでも隠しておけないことではあるから事前に伝えたいけど、内容が内容だけに全部伝えるのも怖いし。 実はお母さんは病気で死んだわけじゃないってことをある程度ぼやかして伝えて、ショックを軽くするとかはできるかしら?
――成立したな。 ゲルダとアドルフは改めて宜しく頼む……! >ドミニク 回答感謝する。 成程、近接・遠距離共にバランス良く揃った少数精鋭か。かなり頼りになりそうだ。 >班分け 現状の人数だと厳しいが、庭園側とマリアベル側の2班編成にできるなら理想的だな。 もっと参加者が増えてくれると良いんだが……。 >クロエ 突然真実を伝えるよりは、アドルフが言うように段階を踏んで少しずつ伝えて行く方が心理的ダメージが少ないかも知れないな。
成立ですね。 二班に分けるとして、マリアベルは黄色の示指ですし、少数で挑んで倒せるかは難しいのではないでしょうか。 庭園を足止めと割り切るなら、冒険者からは一人と王国騎士の方の協力をお願いする形にするのはどうでしょう? ドミニクさんもマリアベルの所へ向かって貰って。 もしくは、騎士の方の協力の上、全員で庭園を攻略してマリアベルと対峙するか。 とりあえず、わたしは庭園側に回りますね。 それと、マリアベルの夢葬ノ揺籃などは精神に干渉する効果のように思えますし、ジャマーでの効果低下を狙えないでしょうか?
>二班 そうですね、王国騎士の方もいらっしゃいますし、トーラ様の仰る通りで二手に分かれる場合も庭園は少なめに、マリアベル様対応の方を多めに、と言う認識でした。 トーラ様に庭園対応に行っていただけるのであれば、わたしはマリアベル様対応でしょうか。 行動の希望は特にありませんので、この後の流れに応じて変更も可能です。 >クロエ様 そう、ですね。まずは例え話として『とある女の子が心から慕っている相手が、大好きな肉親を殺した仇だったら』というお話をしてみる、というがよさそうでしょうか。 お話した上で、クロエ様ならどうしたいかを考える時間を作る――のが良いかなと思いました。 クロエ様の気持ちの整理に時間が掛かりそうなら、庭園での戦闘を長引かせる(騎士団の力をお借りして全員で攻略)も、選択肢としてはありかもと思いました。 >ジャマー ジャマーはアンチサイと違って抵抗判定が発生するものにも効果がありそうですし、有効だと思いました。わたしは取得していないので、他の方にお任せする形になってしまいますが……。
>気持ちの整理 こういうことは、クロエお姉さんが自分でどうしたいかと選ぶことが大事だから、急げないのも問題だね……。恨みで復讐に先走るようなことだけは避けないと…。 あとは、クロエお姉さんの処遇かしら?吸血鬼になった以上、これまでやってきたことを考えると罰を与えられることになるんだろうけど……、お母さんのことを考えると助けてあげたい気持ちも……。 >ジャマー そうだジャマーで思い出したけど、できるだけパッシブで抵抗を上げるスキルを持ってきてくれると助かるよ。
依頼成立したようで良かったわ。 キャスターのザザ=ステルヴィナよ、どうぞよろしくね。 >二班 このまま増員がないなら↓みたいな振分けにした上で、庭園の方達には余力があれば(かなり負担が掛かってしまうけれど……。)マリアベル戦にも連戦して頂くしかないかしら? ・庭園 冒険者1~2名+ドミニクさん+王国騎士様(数名) ・マリアベル 冒険者4~5名 とりあえず、私はマリアベル側を希望しておくわね。 戦力バランス次第では移動も可能よん。 >抵抗 マリアベルはBS系の技をメインに使ってくるみたいだし、抵抗はできるだけ上げて行った方が良さそうね。
レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 最終回でいきなり参加はどうだろうと迷っていたが、戦力が必要と聞いたので…… >班分け 庭園の方を希望する。 俺はマリアベルの事をよく知らない、マリアベルを知る者をより多くそちらに送り出せればと思う次第だ。
レピドさんもありがとう。初参加でも大丈夫、というかむしろ嬉しい限りだよ。 庭園側は純戦闘になるね。王国騎士の支援もあるから、比較的戦い易いだろう。 一方、マリアベルとの戦闘は相手の能力的にも、心情に重きを置いた形になりそうかな。 純粋な戦闘力だけでなく、心の強さやその在り方なども大事になってくると思うよ。
>レピド 参戦に感謝する。――改めて宜しく頼む……! >班分け 俺はマリアベル対応を希望する。 戦闘時は範囲攻撃を警戒し、可能な限り分散して攻撃(物理攻撃の方が有効?)を当てて行きたい所だ。 彼女の放つBS(火力も)は強力そうだが、勝機は俺達の心の在り方次第で掴む事もできる筈。 >個人 特性:真トリプルファング、(残り1枠) アクション:フェザーステップ、疾風足、見切り3、(残り1枠) 汎用:戦術眼、看破or洞察 現時点では上記の構成を考えている。 何か希望があれば遠慮なく言って欲しい。
レピドさんよろしくお願いします! わたしもクロエさんの事情については関わっていないので、マリアベルの所へは因縁がある方が行って貰えたらと思います。 ただ、7人になったので状況が変わりましたね…… 足止めのつもりでしたけど、討伐してのマリアベル戦に加わることも考えるべきでしょうか。 明日いっぱいくらいまで情況を見つつどうするか考えてみます。
では、お手伝いまでに ウォーリアのバル・ヌール・スケアクロウです。 配下潰しを主に考えておりますがいかがでしょうか?
バルさん応援ありがとうございます。 庭園の希望が3人になりましたね……。 ここは庭園の吸血鬼を倒した後で、マリアベルとの決戦に合流するという事でどうでしょうか? その場合、ドミニクさんにも庭園に加勢して貰えたら。 それと上手く対戦出来るかは分かりませんが、わたしはカリギュラを狙ってみようと思います。 ウォーリア相手なら魔法攻撃が有効でしょうし。
挨拶が遅れ、失礼しました。 キャスターのリコリス・アデュラリアと申します。 ……よろしくお願いします。 >班分け 何度か縁もありましたし、マリアベル対応班を希望します。 攻撃よりもBS付与による弱体化と ヒールでの回復の援護が中心になると思います。 >個人 特性スキルでマジックディソナンス改(魔法攻撃と魔法防御低下)に 呪法強化で付与の底上げを予定しています。 スキルに関しては魔錆4(物防低下)とヒールは確定で 汎用スキルも含め、残り二枠も少し検討中です。
三人もいれば早く済みそうですからね 了解いたしました、庭園での処理が完了しましたら合流するようにいたしましょう
俺はイドラを狙ってみるかな。 抵抗を上げるだけ上げて……相手のトラウマを責める罪悪感はあるが、こちらも毒を撃ち込めればと思う。 >合流 賛成だ、三人いれば合流も現実的だろうし。
すみません。 マリアベルのところに行く事になるならもう少し抵抗を上げたいんですけれど、アドルフさんの魔攻+抵抗4か、ナハティガルさんの回避+抵抗6をエーテルイミテイトで模倣させて貰って大丈夫でしょうか?
>バル 参戦に感謝する、厳しい戦いとなるが宜しく頼む。 >トーラ >>回避+抵抗6 問題ない、必要なら模倣してくれ。 >班分け 応援が来てくれたお陰で大分戦力が整って来たな。 吸血鬼討伐後に庭園側メンバーにもマリアベル戦に合流して貰えるのは非常に助かる。 ●庭園 トーラ(カリギュラ対応) レピド(イドラ対応) バル(配下対応) 【NPC】 ドミニク 王国騎士様(数名) ●マリアベル アドルフ ゲルダ ザザ リコリス ナハティガル >個人 範囲攻撃を警戒し、仲間とは分散しつつ回避盾(タンク役の負担軽減)兼アタッカーとして行動。 基本的には真トリプルファングで一撃離脱しながら攻撃する形になる。 『夢葬ノ揺籃』の夢の内容は考え中だ。
急な参戦だが、流れは把握している。 情報屋のルチルだ。よろしく。 王国騎士団の精鋭達もいるが、娘達と配下への戦力はまだ少ないと見たのでそちらに参戦する。 死霊術士の娘辺りは放置もできないが肉壁を使って長く居座りそうに見えたので、アタイはこっちを対処しておこうかと。 庭での戦いが終わったらアタイもマリアベルの方に合流するつもりさ。
ルチルさん、参戦して下さってありがとう。 頼りにさせていただくわね。 >個人 特性は防御壁にクレネルウォール、移動阻害用にグラビティフィールド 汎用は天眼、戦術眼 アクシヨンはメテオライト4、魔弾3×2、ヒール 攻撃チャンスを作るため(場合によっては撤収するため)、閃光塗弾も使用する予定よ。(タイミングは戦術眼で判断) 使用する際は左手を上げて合図するわね。
皆勤賞とはいかなかったが最後だからね。 まあギリギリに来た助っ人らしくきっちり仕事をやり遂げるさ。 >庭園側 ドミニク、王国騎士らは庭園側に加勢という話でまとまっているが、 王国騎士達は配下やフィリアの操るゾンビの群れといった多数との戦いが想定される場へ、戦況を見て人手が必要な戦闘に加勢する。 ドミニクは全体の回復、BS解除での支援で動いてもらう方向で構わないだろうか? こっちのプレイングでNPC達への行動依頼を書くつもりだが、字数の余っている者や担当したい者がいればそちらに任せよう。
>NPC達 俺としてはルチルの挙げてくれた方針で異論はないし、ルチルに行動依頼して貰えるなら非常にありがたい。 ……その分、自分の仕事をしっかり果たせるように頑張ろう。
ナハティガルさんありがとうございます! では模倣させて貰いますね。 ドミニクさんと王国騎士の方への要請はルチルさんにお願いできると助かります。
顔を出す回数が少なくてごめんね。 応援に来てくれた人ありがとう。とても助かるよ。 >模倣 もちろんだとも。 数値的にはナハティガルお兄さんのほうが高いから、もしもの時にで大丈夫だよ。 >戦術 特に要望はないみたいだから、空き枠の1つは輝刃を持っていくことにするね。 >例え話 その切り口から始めてみよっか。 話術を持ち込むから、ある程度役には立つ…と思いたいね。
ありがとうございます! ぎりぎりですけど、攻撃力を上げたかったのでアドルフさんからお借りしますね!