【北乱】エスト・ポーラに潜む疑惑

革酎

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シナリオID:2868

オープニング

●困惑の震源
 リブラネスタに於けるエスト・ポーラ市長ローヴィス・クレイヴラーの言動は、余りに違和感が多過ぎた。
 過日、彼がリブラネスタに乗り込んできてメドゥの指先からの脅迫について協議を申し入れた際も、自分達北部諸都市を軽視するのかと一方的に怒りを募らせ、その後も北部諸都市各所を巡ってリブラネスタや南部諸都市を激しく口撃し続けている。
 クレイヴラー市長といえば、対南部政策で過激な言動の議員が多いエスト・ポーラ市政の中でも穏健且つ慎重な常識人であり、決して無謀な行動は取らないことで多方面から信頼されている人物だった筈だ。
 にも関わらず、現在の彼はリブラネスタと南部諸都市を一方的に悪と決めつけ、ともすればエラトゥーン都市同盟を南北に割る内戦すら辞さぬ構えを見せている。
 一体、何があったというのだろうか。
 リブラネスタの市政議員や有力な商人達の中にはクレイヴラー市長とかねてより懇意だった者も少なくなかった為に、彼らの間に流れる困惑はリブラネスタ市政上層部の間に、密かな暗雲を呼び寄せつつあった。
 そういったリブラネスタ市政議員のひとりエルムダール・スアレスは、クレイヴラー市長の心変わりが未だに信じられず、再度エスト・ポーラとの対話による解決を求めていた。
 しかし現状では、クレイヴラー市長はまるで聞く耳を持たない。彼は兎に角、北部諸都市を扇動して南部諸都市との開戦の機運をひたすら高めようと奔走している。
 このままではいずれ遠からず、都市同盟は南北に真っ二つに割れ、戦火の中に巻き込まれてゆくだろう。
 スアレス議員はリブラネスタ冒険者ギルドへと足を運び、クレイヴラー市長の動向を調べる為にエスト・ポーラでの情報収集を依頼したい旨を持ち掛けることにした。
「潜入して、状況を見てくるだけで良いの?」
 偶々リブラネスタ冒険者ギルドのロビーに居合わせたひとりの女性冒険者が、受付カウンターで依頼票作成の手続きを進めているスアレス議員の面を横合いから覗き込んできた。
 女性冒険者は、リーヴァー・シュランドルと名乗った。
 かつてはシルトラース帝国の子爵位にあった人物で、ロモズ歩兵団の発足に尽力したこともあるという。
 冒険者としての技量も確かな様だが、活動基盤が帝国内であった為か、都市同盟内では余りその名は知られていない様子だった。
「あたしで良ければ、見てくるわよ。エスト・ポーラでもほとんど面は割れてないから」
「助かるよ。是非お願いしたい」
 スアレス議員は更に数名の冒険者を雇い入れ、リーヴァーと共にエスト・ポーラの現状及びクレイヴラー市長の動向を調べてきて欲しい旨を、正式な依頼として冒険者ギルドに仲介して貰う手続きを進めた。

●あり得べからざる対面
 エスト・ポーラのクレイヴラー市長邸内。
 燭台の僅かな灯りの中で、ローヴィス・クレイヴラーがワインを満たしたグラスを片手に佇んでいる。その彼の斜め向かいで、もうひとつの人影がソファーにどっかりと腰を下ろして酒壺を豪快にあおっていた。
 メドゥの指先幹部『青の中指』ジルベルである。
 他に人影は無く、クレイヴラー市長とジルベルはサシで向かい合う格好となっていた。
「随分派手に暴れ廻ってるみてぇだな」
「いや、それ程でも」
 酒臭い息を撒き散らすジルベルに対し、クレイヴラー市長は温厚な佇まいで静かに苦笑を返した。ジルベルはそう謙遜するなよと、更に酒臭い空気を室内にばら撒いた。
「そういやあ、奥さんは今、あっちに居るんだっけ……えぇと、確か」
「南方辺境伯ラザフォード殿の御許です。良い加減、覚えて頂きたい」
 ローヴィス・クレイヴラーの妻クレア・クレイヴラーの実家は、リーンエス王国南方辺境伯ラザフォード家である。現在身重のクレアは里帰り出産の為に、ラザフォード家へと身を移している。
 いうなれば現在のクレイヴラー市長は自由気ままに動ける身分だ。その為、クレアが赤子を連れて戻ってくる頃までには、ある程度の策は進めておきたいというのが本音だった。
「けどよぉ、リブラネスタもそろそろ本腰入れて動き出す頃だぜ。お前さんもボロが出ねぇ様に気を付けるこったなぁ」
「そう思われるのであれば、幾ら美味い酒が多いからといって、気安く訪問するのは控えて頂きたい」
 クレイヴラー市長にぴしゃりといい切られ、ジルベルはすんませんと頭を掻いた。全く以て、ぐうの音も出ない様子だった。
 それからややあって、これ以上クレイヴラー邸内で過ごすのは流石に拙いと考え直したのか、ジルベルはそろそろお暇(いとま)させて貰うと腰を上げた。
 その去り際、クレイヴラー市長はジルベルの広い背中に龍逓架はどうなったのかと問いかけた。
「ん? あぁそれならご心配ご無用だぜ。猟姫殿とセティアお嬢がしっかり段取り進めてるよ」
「それは重畳……ま、私は私でリブラネスタを叩く為に邁進するのみではありますけどね」
 クレイヴラー市長の声を背後に聞き流しつつ、ジルベルは闇の中へと姿を消した。

解説

状況:  PCの皆様はリブラネスタ冒険者ギルド本部でエルムダール・スアレス議員からの依頼を受け、エスト・ポーラでの潜入調査に着手しようとしているところからスタートして頂きます。  今回はエスト・ポーラではほとんど無名の冒険者に過ぎないリーヴァー・シュランドルと共に調査に入り、エスト・ポーラの現状と、ローヴィス・クレイヴラー市長の動向を調べることが任務です。  果たしてクレイヴラー市長は本気で南北開戦を望んでいるのか。もしそれが事実であれば、クレイヴラー市長の本意はどこにあるのか。  それらの調査結果如何によっては、リブラネスタ市政もどう動くのかを臨機応変に変えていかなければなりません。  より正確に、そしてより細やかな情報収集が求められます。リブラネスタからの潜入調査であることを悟られぬ様に、上手く動いて下さい。 敵:  今回は調査活動がメインである為、余程のことが無ければ戦闘行為には及ばない筈ですが、それでも何かの弾みで刃を交える現場に居合わせる可能性があります。  敵が現れるとすればエスト・ポーラに常駐する武装兵ということになりますが、彼らと事を構えるのは決して得策ではありません。今後のエスト・ポーラに於ける冒険者の立場も危うくなる為、可能な限り敵対行為は控えるべきでしょう。 NPC:  主なNPCとしてはリーヴァー・シュランドルとエルムダール・スアレス議員が登場しますが、展開によってはローヴィス・クレイヴラー市長と接触することもあり得ます。  その他、エスト・ポーラ市内で有象無象のモブNPCが登場する可能性もあります。

マスターより

 皆様、こんにちは。  エラトゥーン都市同盟内で龍逓架と幽界分樹に端を発した南北開戦連動【北乱】のシナリオをリリース致します。  今まで多くのひとびとの努力で南北の平和を維持してきたにも関わらず、穏健派と見られてきたローヴィス・クレイヴラー市長の信じられない様なスタンドプレーで、その平和の努力が水の泡と化しつつあるというのが現状です。  一体エスト・ポーラで何が起こっているのか、皆様ご自身の目で確かめてみて下さい。  それでは、ご縁が御座いましたら参加のご検討を頂けますと幸いです。

リプレイ

●豹変の違和感
 エラトゥーン都市同盟内最大の都市リブラネスタ。
 その市政議員のひとりエルムダール・スアレスは、数名の冒険者を自宅近くのレストランに招いて、膝を突き合わせていた。自らが冒険者ギルドを通じて雇い入れた彼らに対し、依頼を持ち込むことになった経緯について説明する為である。
 同席していたのはシルヴィア・A・カペル、ヴァン・ローラント、リーヴァー・シュランドルの三名。
 スアレス議員は政治家であると同時に、豪商でもある。客人をもてなすことはお手の物で、今回も三人の冒険者達に対しては相応の礼を以て応対していた。
 この席で、最初に疑問を口にしたのはヴァンだ。彼はエスト・ポーラ市長ローヴィス・クレイヴラーがリブラネスタを電撃的に訪問する直前、何か変わったことや思い悩んでいる様子は無かったかと尋ねた。
 答えは、否だった。全くその様な気配は見受けられなかったというのがスアレス議員からの回答だった。
「つまり本当に、いきなり豹変した、と……」
「少なくとも私はその様に見ているが、他の議員も同意見じゃないかな」
 スアレス議員の渋い表情に対し、ヴァンは腕を組んで考え込んだ。これで益々、クレイヴラー市長本人かその周辺を当たらなければ有効な情報は得られないとの確信を抱いた。
 次いでシルヴィアが、エスト・ポーラ市内に市政議員御用達の店は無いかと尋ねた。スアレス議員もこれまでに何度か、市政外交の為にエスト・ポーラを訪れており、同市内にある議員向けのレストラン等に案内されたことがある。その店に潜入して情報を集めようというのがシルヴィアの狙いだった。
「それなら幾つか思い当たる店がある。秘書にリストを書かせよう」
「助かります。事前情報はどれだけあっても助けにはなりますが、邪魔にはなりませんので」
 シルヴィアは穏やかに笑みを湛えた。その美貌に得意のリュートが加われば、本物の吟遊詩人だと誰もが信じるだろう。
 それにしても、何から何まで不可解な点が多過ぎる。
 何故クレイヴラー市長は、あれ程までに極端な豹変を遂げたのだろうか。芝居か狂言でも打っているのでなければ、本当に人格が誰かと入れ替わったのかといわれてもおかしくない程の変貌ぶりだったという。
 リブラネスタを極端に敵視する議員が少なくないエスト・ポーラ市政に於いて、唯一の良心であり穏健派でもあったクレイヴラー市長が反リブラネスタに公然と舵を切ったとなれば、それまで頭を抑えつけられていた過激なエスト・ポーラ市政議員達は勢いを得て更に声高に、リブラネスタ打倒をぶち上げてくるだろう。
「そうなってしまえば、もう歯止めは効かなくなるわね」
 リーヴァーの神妙な顔つきに、一同は溜息交じりに頷き返すしかない。クレイヴラー市長の反リブラネスタ運動は単なる切っ掛けに過ぎず、南北の激突はいずれ時間の問題として避けられない局面へと突入してゆくことになるだろう。
 もし黒幕が居るとするならば、上手い具合に誘導したものだ――ヴァンもシルヴィアも、敵は想像以上にやり手であることを痛感せざるを得なかった。

●エスト・ポーラの抱える闇
 ハーフビーストの侍女というのは決して珍しくはないが、クレイヴラー市長宅に限っていえば、クレア・エクレールは初のハーフビースト種のメイドということになる。
(何とか上手く潜り込めたけど……肝心なのはここからだよね)
 落ち着いた色合いの侍女制服に袖を通したクレアは、先輩侍女から邸内の案内や作業説明を受けながらも、それとなく観察眼を四方八方に飛ばし続けていた。
 クレアは新人だから緊張気味の表情を見せていたところで何の不自然さも無いが、先輩侍女や家士の面々は奇妙な程に緊張していたり、或いは時折戸惑いの顔色を見せている。
 彼らはいずれも、クレイヴラー市長の豹変ぶりに困惑しているものと思われる。特段、邸内で暴言を吐いたり非道な振る舞いを見せる様なことは無かったが、以前に比べて顔つきが険しくなった為に、邸の主でありながら微妙に接し辛いというのが、彼らの本音であったろう。
 勿論、中にはクレイヴラー市長の豹変にはまるで動じず、淡々と日々の業務をこなしている者も居たが、そういった面々は長年クレイヴラー邸に務めているベテラン家士や執事である為、多少のことでは動じないのかも知れない。
 そう考えると、最初の情報源として突いてゆくのは、矢張り困惑している普通の家士や侍女であろう。勤務歴の長いベテラン相手に不用意に話を持ってゆくのは危険だ。
 まずは兎に角、普通の雇われメイドとして認知され、怪しまれない程度に雑談を交わすことが出来る様になるのが先決だとして、クレアはひたすら侍女業務に精を出すことにした。
 同じ頃、ローザリカ・L・ディオールはひとりの商人としてエスト・ポーラを訪れていた。
 都市同盟方面に新規の販路を獲得したい気鋭の若き商人という触れ込みで同市を訪れたローザリカは、早速幾つかの商工会議所や職能ギルドを訪れ、商談を持ち掛けると同時に市内情勢に関する情報収集も試みた。
「そういえば、市長がメドゥに脅されたという話も聞き及んでおりますが、本当にそんなことが?」
 挨拶回りで顔を合わせた商人達に問いかけると、彼らは一様に何ともいえぬ表情を見せた。
 クレイヴラー市長に対して嫌悪感を抱いている訳ではなさそうだが、余りに急な豹変ぶりに少々戸惑っているというのが正直なところであろう。
 エスト・ポーラは長年、リブラネスタをライバル視してきた――といえば随分穏便な印象だが、実際のところはもっと過激に、ストレートにいえば敵視していたという者も少なくない。
 実際、ローザリカが挨拶回りで顔を合わせた多くの商人は、大なり小なりリブラネスタに不快な感情を抱いている者が少なくなかった。否、大半が何らかの敵対的な思考を抱いていたと見ても良かっただろう。
 その為、今回のクレイヴラー市長の半ばスタンドプレーに近しい暴走に対しては、彼らエスト・ポーラ商人は不快に感じたり困惑したりする者は少数派で、その大半が『やっと動いたか』と変に胸を撫で下ろす者が多かったというのが、ローザリカの印象だった。
(つまり、それ程までにエスト・ポーラのリブラネスタに対する感情は負の方向に傾いていたというのか)
 勿論全ての商人がそうだとはいわないが、少なくとも今回ローザリカが接触した商人は、多くがそういう方向性を抱いていた。
 そうでなければ、エスト・ポーラが対リブラネスタ、及び対南部諸都市に対して戦端を開くかも知れないという噂が立った時点で、同市内は混乱の極致に陥っていたことだろう。だがそうではなく、比較的町全体が落ち着いているのは、同市が従来から抱いていた感情や方向性に、豹変した市長が同調したという感想が幅広く持たれているからだともいえる。
(これは……危険な兆候だな)
 商工会議所を出たところで、ローザリカは思わず天を仰いだ。
「市長を訪ねる客や、激務などで面会し辛くなった時期などもありませんでしたか?」
 この問いは結局、発すること無く終わった。下手に口に出せばスパイとして疑われたかも知れない。
 町全体が、クレイヴラー市長の現在の行動を肯定しているのだ。この大きなうねりを、果たして止めることが出来るのだろうか。

●市長の二面性
 エスト・ポーラ市内の下町の酒場を出たところで、男装に身を包んだアステルはたった今、店の主人から聞き出してきた内容をメモに素早く書き記した。
 この店で三件目の情報収集であったが、これまでに得られた情報と然程の差は無い。
 いずれの酒場の店主も常連客達も、現在のクレイヴラー市長の行動や同市の方向性、即ち対リブラネスタ、対南部諸都市の姿勢というものに対して概ね好感を抱いていた。
 アステルが、
「僕、冒険者なんだけど、最近南の方の悪い噂をよく聞くね。実は、次は南の方へ行こうと思ってるんだけど、実際の所どうなのかなぁ」
 などと問いかけると、どの店主も常連客達も一様に、南はやめておけと口を揃えるばかりだった。
 エスト・ポーラの武装船団が新規に人員を募集していることも、武器を新規調達し始めていることも公然と知られる様になっており、市民全体がそれらの動向に好意的な感情を抱いている。
 つまり、同市全体が南北開戦を否定していないということなのだろう。
 勿論、中には戦争反対の意見を持つ穏健派も居るには居たが、彼らは少数派で、自身の意見を堂々と口にするのも憚られる様な雰囲気の中で委縮している風にも見えた。
(北の市長にとって、南を悪い印象に取らせることで、どんな利益があるのか……)
 アステルは色々と考えたが、矢張り分からない。情報が少な過ぎる。
 或いは――。
(奥さんが帰ってくるタイミングを作らせない為、いざこざを起こしてるとか?)
 その線も無くはないだろうが、これも決定打に欠ける。
 と、その時、聞き慣れた声が夕闇の向こうから静かに飛んできた。小綺麗な良家子息風の衣装に身を包んだキオルティスがひと通りの情報収集を終えて合流してきたのである。
「あ……ルティスお兄ちゃん」
「お疲れ様。頑張ってるみたいだね」
 ふたりは連れ立って路地裏へと身を潜め、お互いの調査結果について交換し合った。
「貧民層と商人周辺は、これといった有効な情報は無かったよ」
 キオルティスが考えるに、クレイヴラー市長は極力市民生活には影響を出さない様に行動している。市民の支持を失えば対南部諸都市への強硬な態度は維持出来ないという計算があるのだろう。
 つまり強面の顔を出しているのは飽くまでもリブラネスタと南部諸都市に対してのみであり、エスト・ポーラ市内や北部諸都市に対しては依然として『良い市長』であり続けている。勿論、最近の豹変した行動ぶりには多くのひとびとが驚いているのだろうが、飽くまでも驚くだけであり、決して彼を嫌う様な者はひとりも居ないというのが、キオルティスがこれまでに得られた結果だった。
 それはアステルの側にも共通する。
「結局のところ、クレイヴラー市長がリブラネスタを捻じ伏せてくれたら自分達の生活はもっと良くなる……そう思ってる市民が結構な数で居る、ってことだよね」
「だからこそクレイヴラー市長もあれだけ派手な行動に出ていられる、というところだろうね」
 ところで、とキオルティスは幾分話題を変えた。クレイヴラー市長の妻、クレア・クレイヴラー夫人についてである。
 現在クレア夫人は出産の為に里帰り中なのだが、それまでの夫婦仲は良好で変わった点は無かったらしい。寧ろ、クレイヴラー市長が豹変を遂げたのはクレア夫人が実家に帰ってからなのだという。
 これは一体何を意味しているのか。

●ルトルガーという男
 数日後、ヴァンはエスト・ポーラ市内の警備隊収容所で不味い飯を食っていた。
 この少し前、彼はエスト・ポーラ市議会前で市政議員に突撃を敢行した。南北不和の噂に翻弄された市民であり、対リブラネスタ強硬方針に不満や困惑の念を抱いているという風を装って。
「都市同盟で内戦が起こるんじゃないかという噂を近頃、聞く様になった。しかもそれを焚きつけているのはここのローヴィス市長だという話もある。それは本当か? あんた達、他の議員も同じ意見なのか? 市長は狂ったのか!」
 ところがヴァンのこの行動を咎め、彼を取り押さえたのは周囲に居た他の市民達だった。彼らは一様にヴァンの行動がエスト・ポーラ市民としてはあり得ない態度であると、逆に糾弾してきたのである。
 結果、ヴァンはリブラネスタからのスパイであると見做され、その場で捕縛されてしまった。
 ヴァンにとっては想定外だった。クレイヴラー市長はその予想以上に、エスト・ポーラ市内では高い支持を得ていたということになる。
 その驚きは、同市内の高級レストランで吟遊詩人としてのステージを得たシルヴィアも感じていた。
 シルヴィアは、
「故郷が王国にあるので心配で……市長は何時も穏やかな方ですので、少し驚いています」
 との口実を用いて来店する市政議員らと接触したが、彼らは一様に今のクレイヴラー市長に対して好意的で、過去の慎重な態度から今の強硬な姿勢に転じてくれたことに寧ろ感謝しているとさえいい放った。
 店の内外にはクレイヴラー市長に対して違和感を覚えてはいるものの、反感を抱いている者は皆無であり、今のクレイヴラー市長を少しでも否定する様な言動を取れば即座にリブラネスタからのスパイだと断じられる風潮さえ漂っていた。
(これがクレイヴラー市長の影響力というものなのか……)
 恐るべき政治力だ、と内心で舌を巻くシルヴィア。この少し前、ヴァンが市民に取り押さえられたという情報はリーヴァーから聞き及んでいるが、同市全体がクレイヴラー市長の思惑に乗せられていると見て間違い無さそうであった。
 退勤後、シルヴィアはリーヴァーと合流し、ヴァンを脱出させる算段を取った。
「そういえばシルヴィア、先月パンクリアース学園を卒業したんだって?」
「うん、また今度ゆっくり話せたら良いんだけど……」
 話を振られたシルヴィアは、しかし浮かない顔。この様子ではのんびり卒業を祝える空気ではない。何とかヴァン脱出の手引きは出来たものの、ここから先が思いやられる。

 同じ頃、侍女として潜入を果たしていたクレアはクレイヴラー邸をこっそり抜け出し、近くの路地裏でローザリカ、アステル、キオルティスの三人と顔を合わせていた。
 彼女はクレイヴラー市長の執務室や寝室等で家探しをしてみたところ、思わぬ情報を入手していた。
 それは、クレイヴラー家の家系図であった。
「双子の弟?」
「うん。ルトルガーっていう弟が居て、親ですら見分けがつかない程の瓜ふたつだったらしいよ」
 だが、その双子の弟ルトルガーは現在行方不明で、どこで何をしているのかも一切分からないのだという。
 何かが、引っかかる。クレイヴラー市長の近親者でありながら、その動向が全く掴めていないというのは一体どういうことであろう。
 或いは、クレイヴラー市長自身がルトルガーの存在を表に出したくない事情を抱えていたのだろうか。
「そのこと、奥さんは?」
 アステルの問いに対し、クレアは曖昧にかぶりを振った。ローヴィスの妻クレア夫人は、ルトルガーの存在を知らない可能性があるらしい。それはそれで、極めて不自然な話であろう。
 愛する夫の双子の弟という存在を知らぬとは、尋常ではない。
「市内の情報も、概ね空振りばかりだ……今後は探る対象を、市長の周辺、そのもっと狭いところに絞り込む必要があるかも知れないな」
 キオルティスは渋い表情で腕を組んだ。

マスターコメント

 皆様お疲れ様でございました。  一応、各人それぞれが欲しい情報は出たとは思いますが、クレイヴラー市長の背後を探り切る為の決定的な証拠を得るには至りませんでした。  同じ様な内容、同じ様な方向性で複数人が同様の情報収集をしていた為、得られる結果も若干被っていたというのが主な要因です。  とはいえ、エスト・ポーラの全体の空気感も大体掴めたと思います。南北開戦は、今の段階では不可避といったところでしょうか。  後半、どの様な展開が待っているかは乞うご期待ということで。  尚、ヴァン・ローラントさんは無事に脱出を果たしていますので、ご心配なく。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2023年04月11日 13時57分57秒 公開

成功

相談掲示板

  1. クレア・エクレール

    シーフのクレアでっす、よろしくよろしくー。 さーて、どこでどうやって調査を行うか悩ましいねぇ。 市長邸宅、市庁舎、市長を良く知る街の人達の所……候補は色々あるけれど。 今の所下働きや商人、酒場の給仕とかそういった話を聞き出し易いヒトに扮して情報収集しようかなって考えてるよー。

  2. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。今回はよろしくね。 市長が元々穏健派だったならば尚更、強行的にリブラネスタや南部諸都市を激しく口撃する姿に違和感や反発を覚えている人もいるかと思う。人望ある人のようだから、話を聞く相手は選ばないといけないけれど……ね。 私は今の所、吟遊詩人に扮して調査する予定だ。又はリブラネスタからの潜入依頼だと悟られない為に王国からの旅行者という設定にするかもしれない……まだ考え中。 クレイヴラー市長の動向や動機を重点的に調査してみるつもり。

  3. ローザリカ・D・ケレス

    ローザリカ、よろしく頼もう。 市長と懇意だった有力商人もいるようだし、僕はそこに聞き込みがしたいな。 実家で商会を動かしているのもあって接点は作りやすそうな気がするし、 いつから様子が変わったかとかそういったことを探れれば。

  4. キオルティス

    シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。 今回はどうぞ宜しくね! うーん…俺は今のトコロ、貧民層…スラムとかだね…を中心に聞き込みかな。 他に思い付くのは街の商人ではなく、待ちと街を行き交う行商人。 それから気になっているのは市長の奥方。 本人であればベストだけれど、夫婦仲や、奥方が懇意にしていた人物に 当たってみるのも良いかな…と思ってみたりしているよ。 因みに街へはフェイクカバー、もしくは変装を使って行こうかな、と。 以降、この街に来た時に何らかの影響を与えてしまう可能性を込めてね。

  5. キオルティス

    ゴメン、誤字発見。 ×待ちと街 ○街と街

  6. ヴァン・ローラント

    探偵をやっているヴァンだ、よろしく頼む。 俺は主に王国の方で動いてるし、面が割れているって事はおそらく無いだろう。 市長は急に意見を180度ひっくり返したのか。 本人は「指先の奴らに脅迫された」って言ってるが、OPの様子を見るにジルベルとほとんど対等な感じで話してるしそうは思えないんだよな。(メタい) 俺はエスト・ポーラの他の議員達に話を聞いてみたいんだが、身分はどうするか…。

  7. No.7

    アステルです。よろしくお願いします。 現在南方に身重の奥さんがいるのに……。 …奥さん周りに話を聞いてみたいけど、ご本人は身重だし、直接は避けたいかな。 私は如何しようかな…現地を基盤に動いている冒険者や、行商人に聞き込み…かな? まだ色々考え中だから、何とも言えなくってごめんなさい。

  8. シルヴィア・A・カペル

    >現時点での行動予定 悩んでいるけれど、市長に賛同する議員に接近してみようと思う。 彼等が食事をする店を調べ、そこで吟遊詩人として活動。後腐れの無い芸人相手だから、意見に賛同しておだてれば市長について口を滑らせる事もあるかもしれない。最近の市長と議員達の動向や言葉、市長がエスト・ポーラにいる間に誰かと会っている様子はあったか等を質問したいな。 逆に市長に違和感や反発を覚えている人が店にいるようなら、其方にも話を聞いてみたいと思っているよ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0