雪百合の抜け忍

おおくまねこ

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シナリオID:2845

オープニング

●
「なあ団長(メイア)、ユズリハのヤツ、男いるんじゃね?」
 雪百合騎士団のエース、エルディアはふとそんなことを口にした。
「え、ユズリハが?」
「ああ。夜中に何回かあいつがコソコソと宿舎から出ていくのを見かけたんだよ。あれはきっと、逢引に違いねえ」
「なるほど……」

 ユズリハと言えば、つい最近入団したシャルガネ人の新入りだ。近年増えたとはいえまだまだ貴重な授恵者(レシーバー)であり、さらに、雪百合騎士団員にふさわしい容貌(巨乳美女)だったので、領主が即採用を決めたという逸話もある大型新人である。ちなみに勤務態度も良好で、希少なシャルガネ人だったので最近新設されたエルフくの一部隊『雪影』の総隊長にという声もあったのだが、「新人があまり大きな顔をするのは先輩に悪いから」という理由で本人が辞退した為、結局総隊長はエルディアになった。閑話休題。

「それは――由々しき事態ね」
「ああ、『雪影』の恋愛禁止の鉄の掟を破るとは、許せねえ」
 暗く笑ったメイアの言葉に、エルディアは頷いた。なお、雪影(くの一部隊)に恋愛禁止の掟なんてのはない。単にメイアとエルディアに恋人がいないだけである。二人とも巨乳美女エルフなのに二人が何故モテないのか? それは誉(ほま)れ高き雪百合騎士団のメンバーは高嶺(たかね)の花過ぎて声をかける度胸がある男がなかなか現れないからだと、まことしやかに囁かれている。

「というわけで、今度ちょっとあいつを尾行してみようと思う」
「分かった。私も付き合おうか?」
「いや、アタシ一人で行くよ。言っちゃあ悪いが、アンタじゃ確実に気づかれるぜ。ここは狩人のアタシに任せろ」
「分かったわ。シューターの尾行は同じ授恵者にしかできないものね……」

●
 そして数日後。エルディアは幸運の星を味方につけたのか、奇跡的に夜な夜なと宿舎を抜け出すユズリハの尾行に成功した。

「時間通りだな、ユズリハ」
「ええ、見張りは非授恵者の子だしね。巡回ルートも決まってるし、外から入るならともかく、抜け出す分には別に苦労しないわ」

「ユズリハ、マニアックな好みだな……お相手はまさかのリザードマンとは……」
 ユズリハの密会相手はまさかのリザードマンであった。青い体色の、トカゲというより恐竜っぽい顔立ちの男だ。そして、エルディアはその竜人の顔に見覚えがあった。

「てかあれターバス教官じゃねえか。懐かしいな」
 エルディアの脳内に忌まわしき記憶(「雪百合騎士団・強化合宿~真冬のデスロード~」)がよみがえる。彼のトレーニングは授恵者のエルディアにとっても、大変なスパルタだった(非授恵者の死人が出たりはしなかったので、個人個人の限界に合わせて手加減していたのだろうが)。

(ん? 待てよ。ターバス教官って、お尋ね者だったような――)
 その時、エルディアは堅物な同僚に見せられた手配書を見せられたことを思い出した。確か、帝国過激派の一味で、フィルエス大森林のエルフの村を焼いたとかいう罪状で――。

「――ユズリハよ。後を尾けられたようだな。お前の後ろの建物の影に、誰かいるぞ」
「えっ!?――あ」
(げっ!? しまった、ターバス教官は捜波が――!)
 エルディアがターバス教官の探知能力の高さを思い出した時にはもう遅かった。エルディアの気配に気づき、一瞬で間合いを詰めてきたユズリハはエルディアの鳩尾(みぞおち)に拳を叩き込み、意識を刈り取った。
「か、は……」
「……」
 ユズリハは気絶したエルディアを抱き留め、複雑な表情をしていた。
 
「おい、尾行されちまうなんてがっかりだぞ、『歩き巫女』。だが、そいつの顔は見覚えがあるな。一応俺の教え子だ……」
「……まさか私の正体に感づいてるなんてね。正直、見くびってたわ」
「エルディアは俺が訓練した連中の中でも一番優秀だったからな。なぜか混ざっていた冒険者を除いて、だが。コイツは訓練不足ではなく、勤務態度の悪さで強化合宿に放り込まれたらしい」
 昏倒したエルディアを見下ろしながら、ターバスは溜息を吐いた。

「――さて、どうする? この子が消えたら騒ぎになるわよ」
 消すのか、という意味合いも込めてユズリハはターバスへと問いかける。
「止(や)むを得んな。ここは予定を早めるとしよう。今夜決行だ。俺は逃げる準備をしておく。ユズリハ、お前は例の技術顧問を連れてあの場所に来い。このエルフは……俺が拘束しておこう。最悪お前が取っ捕まった時に人質交換の保険にできる」
「分かった。それでいいわ。じゃあ、例の場所で」
「ああ、頼んだぞ。我らの王の願いを叶える為には、強い武器が必要だ」

●
「エルディア、戻ってこないわね……まさか朝まで密会を覗くつもり……!?」
 その頃、メイアは自室のベッドでごろごろしながら、エルディアの帰還を待っていた。
 コンコン。コンコン。窓を叩く音がした。メイアが窓の外を見ると、どこか不安げな顔のゴリラが窓を叩いていた。
「この子は、アヤメ(エルディアのペットのゴリラ)……!? エルディアに何かあったの!?」
 
●
 メイアが異変に気付いてから数十分後。ユズリハはベールコートの郊外にある雪百合騎士団の兵器研究所を訪れていた。ここには、住み込みで兵器研究を行っている雪百合騎士団兵器開発顧問の少女、ドクター・アルヴィースがいる。時刻は深夜だったが、不健康上等な生活リズムを送っているドクターは普通に起きていた。

「こんばんは、ドクター、夜遅くにごめんね」
「ユズリハ? どうしたの?」
「ちょっとヘッドハンディングに来たの。給料はここの三倍出すから一緒に来て、って言ったらついてきてくれるかな?」
「いや、ないでしょ……」
「だよね。……なら仕方ない!」
 ユズリハはシーフもかくやという足さばきでドクターに駆け寄ると、怪しい薬品がしみ込んだハンカチを押し当て、彼女の意識を刈り取った。
「さて、この子を担いで合流地点までダッシュ、かあ……間に合うかしらね?」

●
「夜中にすみません! 緊急の依頼です!」
 メイアはベールコートの冒険者ギルドへと駆けこんでいた。依頼内容は、エルディアとユズリハの捜索である。

「ユズリハのヤツ、無事にドクター・アルヴィースを連れ出せるか? ベールコートの連中に事が露見する前にここに来れればいいのだが……一応、保険は用意してあるが」
 月灯りだけが照らす平原にて。ターバスは気絶したエルディアを地面に転がし、相方の到着を待っている。
「ホーホー、ホーホー」
 獅子を模した仮面を被ったターバスの周囲には、夥(おびただ)しい数の『ルフ鳥』が宙を舞っていた。

解説

作戦目標:エルディアの奪還。 大成功条件:エルディア・ドクターアルヴィース両名の奪還。 ●地形について ミルドレッド領・領境付近の平原。見通しは良いが、草がそれなりに生えており、岩も点在している為、姿を隠すことは不可能ではない。 ●登場NPC ルフ鳥 数十体 帝国北部の山脈地帯に生息する、ビッグオウム並の巨体を誇る鳥型の魔獣。いわゆるトリ目ではない為、夜目も普通に効く。ターバスの忠実なペットであり、彼の意志に従う。 半数以上が倒されると帝国過激派達はドクターの拉致を断念する。 攻撃手段:竜巻(『吹飛』効果が付属した単体魔法攻撃)、格闘 基本移動力:7(空中にも移動可能。ヒトを掴んでいても移動力は落ちない) ターバス 青い体表を持つ大柄なリザードマン。戦闘力は非常に高い。 帝国過激派のメンバーの一人であり、アルルカンやザフィーアに協力する形で冒険者の前に姿を見せたことがある。また、素性が露見する前には雪百合騎士団の訓練キャンプの教官を務めたこともある。 気絶したエルディアと同じへクスにおり、見晴らしの良い平原でユズリハを待っている。 ユズリハ くの一部隊『雪影』の隊員……だった。雪百合騎士団には秘匿していたが、『疾風速』などのシーフクラスのスキルも使いこなす。ドクターを連れて馬(移動力5)に乗っており、PC到着時にターバスのいる地点まであと30へクスの地点にいる。 ドクター・アルヴィース ドワーフ・キャスター 雪百合騎士団の兵器開発顧問の少女。研究畑の授恵者であまり強くはない。気絶したフリをしており、『行動不能』(声を出したり目を開けたり閉めたりするぐらいは可能)の状態で馬に乗せられている。 メイア 非授恵者 雪百合騎士団の団長。依頼に同行する。非授恵者だが鍛錬を積んでおり、ルフ鳥とタイマンはギリギリ可能。囲まれると危ない。また、ターバスやユズリハが相手だと秒殺される。 エルディア シューター くの一部隊の総隊長。気絶(戦闘不能)状態でロープで拘束されている。気絶したままターバスやユズリハに攻撃された場合、即死する。 アヤメ エルディアのペットのゴリラ。エーテルリンクは切れた状態。 ●対魔獣用兵器『タイガーリリィ』壱式 ドクター・アルヴィースが開発している対魔獣用のバリスタ。さらなる小型化に成功したことにより、『マジカルポケット』への収納が可能となった。弾が装填された状態でドクターのマジカルポケットに収納されている。

マスターより

 こんにちは。おおくまねこです。今回は「非常に難しい」難易度のシナリオとなります。OPノベルでは依頼の内容は「捜索」となってますが、「エルディアさんいましたね、じゃあ私達はこれで」と帰るわけには行かない状況なので、実質的には人質奪還の依頼となります。  前回入団していきなり裏切った女ユズリハと、久々に登場したターバス。二人は同じ派閥の仲間です。もう一人ゴブリン・キャスターのアルヴァス君という破壊工作員もいたんですが、そいつは決戦シナリオで先に逝きました。  さて、今回は人質を取られている上、カンストPCより格上の授恵者達からNPCを保護しなければならないというシチュエーションです。ちなみにターバス君が過去に登場した時のカタコトをやめて流暢にしゃべっているのは、キャラ作りをやめたからです。ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。

リプレイ

●
 集まった冒険者達はさっそくエルディアとユズリハの捜索を始めた。
「逢引の出歯亀(デバガメ)しに行って行方不明? 出歯亀に怒ったユズリハに吊るし上げられて遅くなっているだけではないか?」
 冒険者集団の先頭を歩きながら、ベルク・オスマットが言った。
「ええ、それならいいんですが……アヤメ(この子)の様子が気になって。エーテルリンクも切れてるみたいなので」
 雪百合騎士団の団長メイアは、不安げな顔をしているエルディアのゴリラを指差した。
「ともかく、エルディアとユズリハの匂いを追ってみよう……ん? 街の外に向かっているな。二人ともだ。しかも、馬で外に出たようだぜ」
 超嗅覚スキルを発動していたルイドは眉をひそめた。
(どういうことだ? 逢引に行く途中だったはずが、目撃者と二人で馬で街の外に出ただと? まさか、誘拐か?)
 ゼラルム・エルホワイトも目を細める。

「なんかよくわからんが、急いだ方がいいかもな! 案内してくれ、ルイド!」
 ハヤト=ガラン=ヴォルファングが叫んだ。冒険者達は頷き、二人の匂いを頼りに、騎士達の後を追ってベールコートの外に出た。

「ん、あの鳥の群れ……なんかあるか。……もしかして、アレかあ?」
 アーテミシアの暗視と超視覚を兼ね備えた目は真っ先に前方の異常を捉えた。ビッグオウムに匹敵するほど巨大な鳥が大量に上空を舞っている。夜にもかかわらず、である。そして、鳥の集まっている場所の真下あたりに、やたらと派手な仮面を被った一人の大柄なリザードマンが立っていた。その傍らには、動く気配がないエルディアが転がっている。彼女の生死までは、この距離ではわからない。
「確かに緊急だったけどマジモンの誘拐かよ。ったく、面倒くせえ。おい! どうやら誘拐だったらしい! エルディアはあの鳥の集まってるトコだ!」
(なーんか、あのデカイのどっかで見たような気がすンな)
「なんですって!?」
 冒険者達とメイアとの間に緊張が走る。

「なんだと!? 俺のぷるるん達は無事か!?」
「いや、ユズリハの匂いはあそこじゃない! あっちの方だ!」
 ルイドは別の方向を指差した。その方角には、鳥の方角に向かって駆けていく一頭の馬の姿があった。その背には、ユズリハと、拘束されて馬に括り付けられているドクター・アルヴィースの姿が!
「……制空権を取られているなんて業腹なのだわ」
 バンビは憮然と呟いた。彼女の服装は夜陰に紛れやすい黒ローブだ。それを腰のあたりで荒縄で縛っただけという簡素な物。つまりは一応コンセンサスの取れたものであるといえよう。もっともフードを持ち上げてしまえば金髪豊かな縦ロールが非常に目立つわけではあるのだが。
「メイアさん、あなたは前に出ないで下さい。相手は恐らく授恵者です」
「あんたは後ろに控えていてくれ、救助できたら二人を渡す」
「わかりました」
 ゼラルムとルイドの言葉に、メイアは頷く。
 冒険者達は二手に分かれ、エルディアとドクター・アルヴィースを奪還すべく行動を開始した。

●
「ユズリハ! 例えぷるるんでも、俺のぷるるんに手を出しやがった奴は許さねぇぜ!!」
「エルディア殿がハヤト殿のものになったとは聞いてないが、抜け忍的な行いは死罪相当でござるよ~」
 全速力で突っ走ったハヤトとベルクは他の冒険者達より先に、ユズリハの馬に追いついた。
「残念! 気づかれたちゃったか!」
 二人の接近に気づいたユズリハは馬から飛び降り、大地に着地した。馬の方はドクターを括り付けたまま、リザードマンと巨鳥が群れている方へと駆けていく。

「あの馬は我が追う! ハヤト殿はユズリハの相手を頼む!」
「わかった、任せろ!」
「させない!」
 ユズリハはハヤトから視線を切らないようにしながら、横目でベルクに向かって苦無を投擲した。ベルクの背に光を纏った苦無が突き刺さり、ベルクは苦悶の表情を浮かべる。
(この巫女、本当に何者だ!?)
 本気を出したユズリハの実力にベルクは驚愕した。そして――ユズリハの正体を示す証拠は、ベルクの視線の先にあった。

「あれは……!」
 ベルクは馬の先にいたリザードマンを視認した瞬間、シグモルでの騒動の際に出会った覆面のリザードマンを思い出していた。
「あの蜥蜴(トカゲ)……そうか貴様の正体は過激派の汚物共か、澱みの底に沈め!」

●
「ドクター……毒を盛られているのか!? くそ!」
 ベルクはドクターを乗せたまま暴走している馬に飛び乗ると、拘束を引きちぎって痺れた様子のドクターを担ぎ上げ、ユズリハとハヤトが対峙している場所を避け、味方の方へとUターンした。気持ちとしてはそのままターバスに突撃したいのだが、この状態のドクターを放置するわけにはいかない。
(『狐惑幻影(プリズムシャドウ)』は……今はまだ温存したい)

(さて、どう動く?)
 ハヤトは戦場を見渡し、状況を確認した。救出対象の一人であるドクターは馬を倒し、ベルクが奪還に成功した。ユズリハを抑えているのは自分のみ。バンビ、サマエラ=フォリウム、ゼラルム、ルイドは迎撃に出てきたルフ鳥に妨害されそうだが、何人かは鳥を抜けてここに来れそうだ。アーテミシアは一直線にリザードマンの方へと向かっている。メイアはユズリハから数十メートル離れたところにいるが、メイアの方にも十体ほどの巨鳥が向かっている……。そして、エルディアは巨鳥に持ち上げられ、上空に運ばれつつある!

「……ッ! またなッ!」
 今はエルディアの安全確保が最優先と判断したハヤトはユズリハを無視し、ターバスの方へと突進した。
「ちょっと! 私は無視!?」
 意表を突かれたユズリハはハヤトの背に向け、光の苦無を投げ放った。背中に苦無が突き刺さり、ハヤトは苦悶に顔を歪ませたが、そのまま減速することなくエルディアの元へ急ぐ。
「二人そろって……! 傷つくんですけど!」
 ユズリハが怒鳴ると、その瞬間、セリオス・オーガストの放った濃煙炸弾が飛来し、ユズリハの周囲に煙幕が立ち込めた。これでユズリハは飛び道具でベルクやハヤトへの追い打ちするのが難しくなったはずだ。
「あれを使う!」
 セリオスは閃光塗弾を使った。鳥たちが空中に広く散開しているせいで劇的な効果は望めなかったが、すでに接敵していた数体のルフ鳥たちの目が眩み、ぼとぼとと落ちてきた。
(ユズリハには……回避されたか)

「ベルク! ドクターを私に!」
 サマエラはベルクに向かって叫びつつ、ウェイブ・オブ・インフィニティロアを発動した。射程内にいたサマエラ、ルイド、ゼラルムを黄金色のエーテルが包み込む。

「まずい状況だな……」
 ルイドは煙幕の中に飛び込むと、ユズリハに向かって暗い霧を纏わせた鎌を一閃した。突然現れたルイドにユズリハは驚いた表情をしたが、斬撃をひらりと躱した。しかし、接近してきていたルフ鳥の一体が余波で真っ二つに両断された。

●
「さっさと焼き鳥にするのだわ」
 魔法の射程距離ギリギリの位置にルフ鳥達を捉えたバンビは魔導書を掲げた。魔導書に収束したエーテルが空間を波紋のように伝わっていき、ルフ鳥の密集地帯で大爆発を引き起こす。既に戦端は開かれているが、上空に舞うルフ鳥の群れ。巨乳騎士を拘束するとトカゲと、何かを誘拐しようとする女。それだけ見て取れればバンビにとっては十分だった。

「たまやー」
 天地のエーテルをかき集め、限界を超えた出力で放たれたバンビの空間爆砕は、ルフ鳥達を一撃で撃ち落とすには十分な威力だった。爆発が収まった後、ぼとぼとと十体のルフ鳥が地上に落下してきた。これだけあれば、半年ぐらいは鶏肉だけで食い繋げるだろう。倒した分は全部バンビがもらえるのかどうかは定かではないが、領主と交渉すれば十分な量の肉にはありつけるはずだ。
「さあ、こんばんは焼き鳥パーリィナイトですわよ」
 涎(よだれ)をぬぐい、バンビは次の標的へと目を向けた。すると……。
 バシュルルルル!
「あーれー」
 生き残っていたルフ鳥が放った竜巻が直撃し、バンビは十メートルほどロマン飛行した。竜巻に巻き込まれ、くるくると何度も空中でターンするバンビ。だが幸運にもバンビの小柄な体躯がいい方向に作用し、吹き飛ばされはしたものの、バンビは無傷で華麗に着地した。

●
 ハヤトとベルク以外の冒険者がユズリハに追いついてきたのとほぼ同じタイミングで、大量の巨鳥が冒険者達に殺到した。

「このルフ鳥……なかなか厄介ですね」
 ゼラルムは空からやってくるルフ鳥の群れに狙いを定め、杖を構えた。どういう仕組みなのかは定かではないが、リザードマンもユズリハも命令を下している気配がないにも関わらず、ルフ鳥達は統制の取れた動きで冒険者達へと襲い掛かってきている。あまり一か所には固まらないように飛んでいるのは、明らかに範囲攻撃対策だ。
「減らせるぶんから確実に減らしていくしかないですね」
 ゼラルムは上空に狙いを定め、氷嵐を放った。荒れ狂うエーテルの冷気に巻き込まれ、五体のルフ鳥が撃墜され、地上へと降ってきた。
(威力は十分か。だが、数が多すぎる)
 バシュルルルル!
「ち」
 生き残りのルフ鳥の放った竜巻に十メートルほど吹き飛ばされ、ゼラルムは舌打ちした。

「く!」
 メイアもルフ鳥に襲われ、ゼラルムとは反対方向に吹き飛ばされていた。
(だらだら戦っていたらどんどん離されてしまう。クレネルウォールも殺到されれば全方位は守れない。本当に厄介だな、くそ)

「サマエラ殿! ドクターを頼む!」
 サマエラの近くまで戻ってきたベルクは思いっきりドクターを放り投げた。そのまま振り返らず、エルディア奪還の為、ターバスの元へと駆ける。
「ドクター、無事か!?」
 ドクターをキャッチしたサマエラは、彼女に『解呪』を施し、彼女の体を自由を奪っていた毒を除去した。
(裏切り……か。彼女らと関わるのは初めてではあるが、ショックであろうことくらいは分かる。が、今は全て後回しだな……何もかも、状況解決してからだ)
「ドクター、君は戦えそうか?」
「ええ、これを……」
 ドクターは頷くと、マジカルポケットからバリスタを引っ張り出した。
「弾は入ってる。一発ならすぐ撃てるわ」

●
「この感じ……テメー、いつぞやのゾンビの時に居たトカゲヤローか……拐(かどわ)かしに手ェ出すたあ、落ちたもんだな、おい」
 ルフ鳥との接触を極力避け、なんとかターバスの元にたどり着いたアーテミシアは彼を睨み付けた。
「貴様とは三度目だな、エルフ」
「チッ」
 アーテミシアは舌打ちしつつ、しゃしゃり出てきたルフ鳥の一体へと戦槌を叩きつけた。その直後、ルフ鳥は竜巻を放ち、アーテミシアは十メートルほど後ろへと飛ばされた。

「エルディア殿! くそ、届くか!?」
 ベルクはギリギリまでエルディアに近づくと、空高く上昇中のエルディアと自分の位置を入れ替えた! ベルクはルフ鳥の足を切り裂き、自由落下を開始する。
「よし、エルディアは任せろ!」
 ハヤトはすかさず倒れているエルディアを担ぎ上げると、仲間と合流すべく、Uターンを開始した。
「チィ!」
 舌打ちするターバス。その瞬間、ハヤトの周囲にルフ鳥が殺到する。ターバスもハヤトの妨害に入ろうとしたが――。
「邪魔はさせねえぞ! このトカゲが!」
 アーテミシアがそれを許さない。ターバスはアーテミシアに道を塞がれ、ハヤトの妨害をする機会を逸した。

「よし、あとはエルディアとドクターを連れて――……ッ! メイア!?」
 その時、ハヤトはメイアが大量のルフ鳥に包囲され、死にかけていることに気づいた。

●
 冒険者達はドクターとエルディアを確保したまま、急いでメイアと合流しようとしたが、ルフ鳥が死に体のメイアを上空へと連れ去る方が早かった。

(くそ、メイアとドクターの位置がもう少し近ければ……!)
 サマエラは歯噛みした。メイアのカバーをゼラルム一人に任せっきりになってしまっている状況に気づいてはいたが、サマエラ自身はその場を離れられる状況ではなかったのだ。

「全員、動くな! 上を見ろ!」
 ターバスが指差した方向には、ルフ鳥に捕獲され、百メートルを超える高さに吊り上げられたメイアがいた。冒険者達はドクターとエルディアの奪還には成功したが、ターバス達は手薄になっていたメイアの方もルフ鳥に攻撃させていたのだ。冒険者達はやむをえず、戦闘を中断した。
「……」
 セリオスの炸光矢に巻き込まれ、手傷を負っていたユズリハは素早くターバスの元へと逃げ去った。

(くそ、あの高さではルフ鳥を撃ち殺してもメイアが地面に叩きつけられてしまう)
 セリオスは狙撃を諦め、歯ぎしりした。
「くっ……殺せ! 皆さん、私に構わずドクターとエルディアを……!」
「要求はなんです?」
 ゼラルムはターバスへと問いかけた。
(先にメイアを回収できれば、奴らの背中を撃ち抜くチャンスはまだある)
「ドクター・アルヴィースを渡してもらおう……と言いたいところだが、あのエルフとの交換になど貴様らは応じはすまい。ここは、痛み分けと行こうじゃないか。あのエルフは返すが、俺とユズリハはこのまま帰らせてもらう」
「てめぇ、前は真っ先に逃げやがった癖に、あいつは特別かよ」
 アーテミシアは舌打ちした。

「お前達が約束を守る保証は?」
「意味のある保証などできん。だが、あのエルフを殺してもこちらには何の得もない」
 ルイドが問うと、ターバスは淡々と答えた。その時、ドクターが冒険者達に目配せした。

「わかった、行っていいわ。みんな、こいつの言う通りにして。責任は私が取るから」
「それでいい。こちらも約束は守ってやる」
 ドクターがそう言うと、ターバスとユズリハはルフ鳥へと飛び乗り、いずこかへと去っていった。そして、ターバス達が豆粒のように小さくなった頃、ゆっくりとメイアを掴んだままのルフ鳥が降りてきた。
「メイア! すぐに治療を!」
 サマエラはすぐにメイアの治療を開始した。メイアは相当深い傷を負ってはいたが、命には別条はなかった。

「ぐぬぬぬぬ! あんなトカゲに後れを取るなんてぇええ」
 バンビは腹いせに、降りてきたルフ鳥にメテオライトを叩きこみ、でかい照り焼きを作った。
「ぐぎぎ、過激派の汚物なら隙を見て手足の一本や二本、毒でも盛って使い物にならなくしとくべきじゃった」
 ユズリハに付けられた背中の傷の痛みに耐えながら、ベルクは地団太を踏んだ。
 ……。
「すみません……皆さんの足を引っ張ってしまって……!」
「団長! アタシこそすまなかった! こんなことになるなんて……」
 サマエラのヒールで意識を回復したエルディアは団長の胸で泣いていた。
「ごめんね、団長。全員無事だったんだから、今は喜びましょう。冒険者のみんな、ありがとうね」
 泣き笑いのような表情を浮かべ、ドクターが言う。冒険者達は無事に再会できたことを喜びあうメイア達を、複雑そうな表情で見ていた……。

マスターコメント

解説欄にて、大成功条件は「エルディア・ドクターアルヴィース両名の奪還」と明示しており、条件はクリアしておりましたが、依頼人であるメイアが重体となったため、結果はワンランク下げて「成功」とさせていただきました。死者は出ておりませんので、依頼としては成功です!
ショートシナリオR

ショートシナリオR非常に難しい 報酬:多い8 / 4〜8人

2023年04月03日 10時59分59秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ベルク・オスマット

    お?成立だな。 シーフのベルクだ、よろしく頼む。 とりあえず片方の救出なら我のプリズムシャドウの入れ替わりでいけるかな? それにしても、ユズリハは過激派の一員だったか。 よし殺すか♪(爽やかな笑顔で殺意増増、青筋たっぷり)

  2. ルイド

    ウォーリア、ルイド。良しなに。 裏切るまで早ぇな……。 >捜索 とりあえずこっから始めるんだよな? エルディアが尾行始めたあたりから、超嗅覚なりのスキルで追っていく感じになんのかね。 発見した時点でユズリハ・ターバス間は30へクス、と。 >奪還 プリズムシャドウ使ってもらえるんならありがてぇな。どっちに使うにしろ強敵に最接近することになるんで、できるだけカバーできる状態も整えておきたいとこ。 大成功狙うんならドクター奪還からの、ユズリハ捕縛してエルディアと交換、とかでもいけるのか。本目標はエルディアの方なんで、そっち最優先でもいいが。 姿隠して近付くこともできそうだが、先にエルディアが尾行見破られたこと考えるとターバスに近付くのは結構難易度高めなのかね。 >戦闘 ユズリハはシューターながらシーフのスキルも使う……あとステシ見た感じ魔法も使う可能性あんのか。回復してくる場合もありそうなんで、倒すなら状況的にもあんま時間はかけたくねぇな。 ルフ鳥の方も、数十体で吹飛使われると追撃もし辛ぇ。なるべく早めに数減らしてぇとこ。

  3. アーテミシア

    ウォリアーのアーテミシアだ。 あのトカゲまだ生きてたンだな とりあえず入れ替わるのは実際ピヨってる奴の方がいいか? 馬はチャージングとダッシュで何とか追いかけられるかね… 戦うならトカゲはオレが相手するぞ。

  4. サマエラ=フォリウム

    ヒーラー、サマエラだ。よろしく頼む。 >捜索 人質奪還部分が主になるとは思うので、捜索自体はそこまで手間取らないことになる……やもしれないな。 >奪還 プリズムシャドウ、助かる。 そうだな、どちらかというと、緊急で必要そうなのはエルディアの方か。 ターバスの出方次第にもなりそうなので、文字数が許すのであれば、 状況によって切り替えるのも、良いやもしれない。 エルディアやドクター・アルヴィースにしても、プリズムシャドウ使用者にしても、 保険としてスケープセイントの使用は、可能だ。 戦いも同じく、ターバスは出方次第だろうか。 ただ、こちらから仕掛けてやることで、ルフ鳥への指示などを乱せる可能性も、あるか……? 一番阻止すべきはユズリハとの合流だと思うので、さしあたって優先はそちらかな、とも。

  5. ゼラルム・エルホワイト

    エルホワイトと申します。クラスはキャスター どうぞよろしくお願い致しますね >プリズムシャドウ こちら使用していただけるのなら有難いですね 差し当たり優先すべきは優先目標であるエルディアさんの方でしょうか >方針 現状敵の撃退方法としては、ルフ鳥の半数以上の撃破と、授恵者二名の撃破がありますね 情報を得る事を考えると授恵者の捕縛をしたくはありますが、難易度的にどうなのかという懸念は残るでしょうか あとは留意して置くべき点として、夜間の作戦行動となりますので暗視等の対策は必須になるかと

  6. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえずエルディアの奪還が最低限だからそちらを優先したいところだな 移動力5で向こうまで30だから最低6ターンだが、向こうから近づいてくることも考えて半分ぐらいまでの距離でどうにかしたいところだな ルフ鳥は夜目がきくから閃光手りゅう弾で目くらましをしてもいいだろうな

  7. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! さて、発見時点でユズリハの乗った馬までの距離が30ヘクスっつーと、《疾風足》やらを使えば俺やベルクなら2ターンで辿りつける距離感だな。 まずはユズリハに追いつき逃亡阻止が最優先と考えて動くつもりだぜ! ルフ鳥も厄介そーだが各個撃破で集中して倒さなきゃなんねーな。

  8. ルイド

    >捜索 んじゃこれは俺の方で軽くだけ触れておくか。 >方針 ユズリハ・ターバスの両名捕縛できそうならそれに越したことはねぇが……難易度は確かにな。 とりあえず合流阻止でユズリハ相手して、倒せたならその時の消耗具合次第でターバスとも戦うか、あるいはユズリハとエルディアの人質交換に乗るかどうか判断。 阻止できず合流されちまった場合も状況次第だが、厳しそうならどうにか隙見てエルディアだけでもプリズムシャドウなりで奪還して撤退、とか。 閃光塗弾の使用は良さげだな。 ルフ鳥もそうだし、ユズリハの馬の足を止めさせる手にもできそうだ。 夜間の対策も了解だ、暗視にするか光源を持つかはちょい考えるわ。 >メイア 戦闘参加させるのは危なそうなんで、奪還したエルディアやドクターの保護を頼むのがいいか? ドクターにゃすぐ対魔獣バリスタで援護に回ってもらえるかもしれねぇが。

  9. アーテミシア

    探索で尺は取らねえだろうし、すぐ接敵でいいンじゃねえの? とりあえず最低限の条件は達成しねえとな オレはどのみち合流はちょい遅れそうだけど、とりあえずトカゲヤローのところまではダッシュするかね。鳥はどうすっかね…あんまり合流に時間かかりそうならそっちの相手するか

  10. サマエラ=フォリウム

    >ルフ鳥 初期位置にもよるが、移動力も考えるとすぐに寄ってくる、のだろうな。 ドクター・アルヴィースを掴んで、飛び去られるのを防ごうと思えば、 ひとまず、ユズリハ付近で並行して戦うことには、なりそうだ。 対策に閃光塗弾、良いと思う。私も所持しておこう。 >方針 相手の主目的は、ドクター・アルヴィースなので、 それさえ果たしたなら、ルフ鳥を倒さずとも撤退していく……のだろうか。 何れにせよ、人質としての価値があるうちに、エルディアは奪還せねばならないが。 授恵者二名の撃破は、確かに相応に難しそうだ。 もし狙うならば全力は尽くすが、苦戦した場合に目標を落とす条件などは、 できれば設定しておきたいな。 >戦闘 ヒーラーが一名なこともあり、私は戦線維持に注力しようと思う。 ヒール多めと、サイドヒールも持とう。 攻撃は最低限……魔矢か、ルフ鳥用に闘気槌あたりか。

  11. セリオス・オーガスト

    <メイア まあルフ鳥はともかくそれ以外だと話にならんようだからドクターを助けたら下がってその面倒を見てもらってたほうがいいだろうな ターバスとかはこっちより格上と明言されてるから下手に相手取らない方がいいだろうから、ベルクがプリズムシャドウで入れ替えたら距離を取ってもらったほうがいいか その際濃煙作弾で煙幕張って離脱する隙をつくろうと思うがいいだろうか?

  12. ルイド

    了解、そんじゃメイアへの依頼はそれで書いておくな。 濃煙炸弾助かる。 一応こっちもカバリングとチャージング持って、必要なら接近してカバーできねぇか試せるようにはしておくわ。 基本的にゃ足止めとしてユズリハ相手にしつつ、ルフ鳥が近けりゃ範囲攻撃で巻き込む予定。

  13. ベルク・オスマット

    では、プリズムシャドウの対象はエルディア殿ということで。 ドクターは、……頑張って奪還しようか。 了解した、入れ替わり後は全速で離脱する。

  14. バンビ

    すっかり出遅れたバンビですので、鳥狩りをしたいと思いますわ。 こんだけ群れていれば入れ食いなので、空間爆砕で焼き鳥にして差し上げますわ。

  15. ターバス

    冒険者が集まっている......出発は今日の昼12時、だ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0