【南乱】南方辺境伯は夜会が苦手
紀藤トキ
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シナリオID:2833
オープニング
南方辺境伯カーチス・ラザフォードの姉、クレアが嫁いだのは国外である。有力貴族でありながら、娘を異国の若者と婚約させた先代ラザフォード辺境伯の目は確かだった。その若者、ローヴィス・クレイヴラーはエスト・ポーラ市で頭角を現し、今では市長の座についている。
「ローヴィスが実家でお産をする方が休まるだろうと気遣ってくれたのに、まさかウチの庭先で海賊に襲われるなんてね」
「……姉さんにつけていた護衛騎士が裏切っていたのがまだ信じられないよ」
エスト・ポーラ側がつけていた執事兼護衛も裏切っていたのだから、随分用意周到にクレアは狙われたのだろう。事態の背景を調べているものの、捕縛された連中は背後の首謀者については口を割っていない。自分達だけで考えた金銭目当ての誘拐だった、などという言い分については誰も信じてはいなかった。
「襲撃の件を伝えたらすぐ、エスト・ポーラから海軍の船団が来るという知らせが付いたよ。多分、姉さんの帰路の護衛を兼ねてだろうな。愛されてるね、姉さん」
「嬉しいけど、まさかその為だけなんて言う事はないでしょう」
「もちろん。表向きの理由はリブラネスタの権益を伺う商船団の護衛、ということのようだね。姉さんはその代表として先着したって言う事にしたようだ」
「なるほど。お腹が大きくても、頭は働くわよね」
「弟としては、おとなしくしておいてほしいんだけどな」
お産の為に実家に帰してくれるあたりからしても過保護なのかもしれないが、姉はもともと貴族令嬢の枠に収まるには奔放に過ぎた。自由な空気の同盟に嫁いだのは、姉にとって良い事だったのかもしれないと弟は思う。その結果として、カーチスは一人で家を支える事になったのだが、姉が婚約した頃にはこんな未来は見えなかったのだから仕方がない。
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「……というか、商売の話も大事だけれど。あなた、私を助けてくれたっていう船長は逃がさなかったんでしょうね? 私は気絶していたから見ていないけど、あの状況から逆転するなんて只者じゃないわよ」
「もちろん。礼を尽くして麾下に請うたよ。来月に進水する大型船の船長が未定だったからね。優秀な船乗りは一人でも多いに越したことはない」
クラーケンと名乗る仮面を身に着けた怪しい男の、育ちの良さは見る人間が見れば分かる。当主一族が船に乗る海洋貴族はラザフォード辺境伯家以外にもいくつかあるが、把握しきれないほどに係累が多い隣領のディンドルフ侯爵家の縁者だろうとカーチスは推測していた。想像しているよりも数十年は年齢が違っている事や、魔法使いの塔からの脱走者である事までは想像できないのはまあ、仕方がない所だろう。
「ならば良いわ。父の代の提督や船長に、いつまでも頼り続ける訳にはいかないもの」
「次の世代が育つまでは、頑張って貰わないとだけどね」
「次の世代と言えば、あなた。身を固める気は無いの?」
「……今はそれどころじゃない」
「そう言って、もう10年になるわよね?」
カーチスは渋面を浮かべる。父と母、弟の訃報が届いたのは、学園卒業を控えた時だった。山道のがけ崩れという死因は、海の一族の男としてはさぞ無念な死であったろう。カーチスは予期せぬ速さで南方辺境伯を継ぐ事となった。当時、奥方の座を巡る暗闘は熾烈を極め、カーチスが婚約していた女性はそれに耐えきれなかった。以来、カーチスは一人身を続けている。
「彼女の事はもういいんだ。今では良い結婚生活を送っていると聞くし。ただ、家に言われて近づいて来る女性がどうにも可哀想でね……」
10年前でこそ若くして当主となったカーチスは狙い目だったが、カーチスの世代の未婚男性には、今やウィリアム・リーンエス第二王子やトマス・アーチボルト北方辺境伯といった綺羅星の如き顔ぶれが並ぶ。野心家の令嬢には自分では物足りないだろうと苦笑した。
「どうせそのうち、王命でどこかの令嬢と婚姻する事になるさ。それまで波風を立てない方が良い気もするんだ」
「そこには愛がないじゃない! 愛が!」
上流階級の婚姻だからこそ、愛が芽生える事がどれだけ大事かと姉は力説する。姉の幸せそうな顔を見ているに、無いよりも有る方が良いだろうとは、カーチスも理解してはいるのだが。相手を選ぶためには社交の場に行かねばならず、王都の社交というのは若き南方辺境伯にとって嫌な場所だ。帝国や蛮族の侵攻に対する北、東、西に比べて、海賊や魔獣が相手の南方は楽で良い、などという口さがない噂も根強い。しかし、もうすぐ母になる姉は強かった。
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「……ヴァーゲナー家主催の夜会か。昔の婚約者が、そこの嫡子と結婚しているんでかなり行きづらいんだが」
「だからこそ、姉君はその家を選んだのではないかね? 案外怖いお方のようだな」
「まあ、君をウチの麾下に加えたと、周囲に示しておくのは意味があるだろう」
「そこは私を言い訳に使わないでいただきたい」
王都へ向かうカーチスの随行は、怪しい仮面の男。彼の素性を明かせば色々と問題になるだろうが、伏せている限りは表立っての糾弾はないだろうとクラーケンは考えている。魔法使いの塔が破られたという話が表沙汰になる方が、王家にとってダメージが大きい。
「姉君への申し訳の為だけであれば、相手を偽装して適当に済ませてしまえば良いのでは?」
「……そうは言うが、偽装の当てもない。学園時代に親しかった同窓生はだいたい既婚だし、その娘ではさすがに若すぎるだろう」
「なるほど、幼児趣味と思われたくないと?」
「私がどう思われようと構わないが、その子の将来を不意にするのは哀れだろう。まだ未来のある年頃じゃないか」
案外真面目な青年にクラーケンは苦笑しつつ、それならば偽装相手を無から用意すればよい、と提案した。冒険者ギルドに『パーティの随行者』として依頼し、仕立て上げれば嘘ではない。その令嬢自体を探ろうとして冒険者ギルドに行きつくころには、カーチスのお勤めは終わっている。随行の仮面の男も身元不明なのだから、いっそ身元不明の令嬢を伴っても良いだろう。
なお、この計画はクラーケンではなく、何か言い訳をして当日は欠席しようと企む弟の退路を断つための姉のクレアの発案だった。クラーケンが彼女を救うために冒険者を雇ったと説明され、冒険者ギルドの取り扱う依頼の幅の広さも聞いたことから思いついたそうだ。弟が知れば嫌な顔をするだろうから、という事で依頼に関わる金銭の出所などはカーチスには内緒である。
「……成程、一晩誤魔化せればよいだけならば、良い手かもしれんな。冒険者であれば、着飾っても場に浮くだろうから、正式な婚約者だという誤解で迷惑を掛けてしまう事もあるまい」
七割くらい笑い飛ばされると踏んでいた話を、真剣に検討し始めたカーチスにへクラーケンは生暖かい目を向けていた。彼が敢えて言わなかった事は、姉の関与以外にもう一つある。今の冒険者ギルドには貴族の子弟もそれなりに属しているし、学園に通っている者であれば礼法を身に着けている場合も多い。もしかしたら、カーチスの隣に立ってもおかしくない『謎の令嬢』が出てきそうだ、と面白がりつつ依頼を出すのであった。
解説
マスターより
リプレイ
今回の依頼、裏で手を引いていたクレアは不在である。救出された時はまだお腹が目立っていなかったが、今はすっかり妊婦さんである。転んでもしもの事があっても大変だし、口撃でストレスを受けても問題なので留守番だ。狙われていた経緯から、辺境伯の屋敷で厳重に守られている。
「そうですか。御挨拶できればと思ったのですけど、残念です」
「そうですね。わたしも御縁はある方なので」
双方ドレスアップしたコルネリウス・アーラとリサ・ベイカーがそう言葉を交わす。
「確かに、王党派も貴族派もいるようだな……。南方の権益に野心がありそうといえば……」
さすがに夜会参加者の全てというのは無理にせよ、大きな家の当主と関係性などを記憶してきたナハティガル=ラーは、会場に現れる顔をさり気なく確認していた。なお、エルフのコルネリウスは種族の特徴を隠していないが、ゴブリンのナハティガルはヒューマンの変装をしている。
「そこで僕の父を真っ先に見るのはやめてくれないかな。興味はあるけれど、野心と言う程ではない」
考え込むナハティガルへ、今日は父親と共に訪れたローザリカ・L・ディオールが、しっかり被った貴族令嬢の振舞を外して、周囲には聞こえぬ程度の小声で言う。目立たぬように歩み寄った使用人の風体のナハシュが、彼女の空いたグラスを受け取った。
「お飲み物の替えは如何ですか? ……例の利益系の奴、あっちの端にいたぜ」
「ああ……、なるほどね。彼なら南方航路に是非とも食い込みたいだろうな」
「カーチスに伝えよう。……踊りの手が空いたらな」
立場上、幾らかは踊らないと失礼に当たるらしい。ローザリカとナハティガルが向けた目の先では、南方辺境伯と踊るマレーネ・シェーンベルグが衆目を集めていた。
「うふふ、こんなにみられてしまうと、てれてしまいますわ」
「それだけ、貴女の存在が意外だったという事でしょう。マレーネ嬢」
周囲の令嬢への牽制の意味で名前を出したマレーネの意を汲み、仲睦まじげに声を掛けるカーチスだが、内心では大層困惑していた。クラーケンからは冒険者を雇うと聞いていたのだが、貴族の所作振舞に通じた同年代の女性がいるとは思っていなかったらしい。
「わたくし、きちんとてきにんでございましたでしょう?」
「確かに。ここまで目立ってしまうと、あるいは迷惑をかけるかもしれないが……」
「もんだいごさいませんわ。わたくしひとりのことですもの」
特別な相手もいないし、作るつもりもないので噂が立っても問題はない、とマレーネは微笑する。普通でない経験ができるのは、楽しいようだ。
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「お久しぶりです、シルヴィア様」
「お招き頂きありがとうございます。アーデルハイド様。卒業前にお会い出来て良かったです。在学中は大変お世話になりました。貴女の進む道が良いものであるよう願っております」
父と連れ立ち、侯爵への挨拶を済ませたシルヴィア・A・カペルはアーデルハイドへ話しかけていた。カーチスは辺境伯家の当主で、格の上では主賓だ。おそらく主催側のアーデルハイドと一度は踊る事になるだろうと考え、南方辺境伯への印象を尋ねてみる。
「カーチス様の事は余り存じ上げませんけれど、悪い人ではないと聞いておりますわ。それよりも、今踊っているお相手の方が気になります」
「なるほど……」
婉曲的に言っているが、要するに興味がないらしい。接触しても、カーチスが恐れているような問題にはなるまいと安堵した。
「何も考えなくて良ければ、シルヴィア様に誘って頂きますのに」
「確かに、今日の立場では家の事を配慮しないのは難しいな。お互いに」
苦笑を返す。シルヴィアもカペル侯爵家の令嬢として訪れている以上、相応に務めというものがある。例えば、どこにも波風が立っていないと示す事も大事なことだ。
「……耳聡い連中が興味津々でね。両家がおかしな仲で無いと示す為に、踊って頂けないかな」
「お兄様、そのお誘いの仕方は最低では?」
「いえ、お誘いありがとうございます。喜んで」
妻と一曲踊った後に、主催者の侯爵令息はシルヴィアへ声を掛けた。妹のジト目を気にせぬ笑い方は、どこかウィリアム王子を彷彿させる。招待客に公爵はおらず、辺境伯も身内の女性を伴ってはいないとなれば侯爵令嬢が最高位。主催側が最初に声を掛ける来賓として選ぶには、それだけでも十分な理由ではあった。
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「謹慎中のトマス様がこのような場所にいらっしゃるとは、驚きました」
「今日は公式の夜会ではないからな。……こういった小道具も許されているし」
父や兄に伴われ、貴族令嬢として主賓に挨拶を終えたレティシア・レインフィールは、会場にいたトマスへ声を掛けていた。似合わぬ仮面をつけたトマスは苦笑を返す。王家主催でもなく、仮面をつけていれば詮索無用と言う辺りに逃げ道があったようだ。
「それより、レティシア嬢こそお一人か? こういった場でお見かけするのは珍しいのでは?」
「私は別件で、依頼がありましたので……」
婚約者が決まっているのに一人で来場している令嬢は、まあまあ珍しい。そんな話をしていれば、ローザリカが声を掛けて来た。
「そうは言うが、急に出る事になって相手に都合がつかない事もあるだろう? まあ、僕も依頼絡みなんだがね」
「なるほど……。私は聞かない方が良い話かな?」
「いえ、ご協力いただけるならばお願いしたい事もございます。お話しても良いでしょうか?」
レティシアにそう言われれば、トマスも頷いた。他の客に聞こえない程度に離れて状況を聞く。
「そういえば、南方辺境伯がいらっしゃると聞いたな。そう言う事か」
「もしも宜しければ、カーチス様の元に向かわれた方へ、雑談やダンスのお誘いをして頂けないでしょうか」
「……主賓各の辺境伯当主と伯爵家の同行者では格が違い過ぎる」
ぶつぶつ言いつつも、立つ場所を変える程度の協力はするようだ。顔見知りを見かけたら声を掛けても見る、という。彼に出来るのはその程度がせいぜいであろう。
「トマス様にも、良縁があるかもしれませんし」
「さて、何かあれば父は喜ぶだろうがな」
そんな話をしつつ、カーチス御一行様の元へ向かう。それを見送って、ローザリカはアーデルハイドの方へ。
「僕は、せっかくの機会だしアーデルハイド嬢に御挨拶を……」
とはいえ、こういう場で伯爵令嬢と侯爵令嬢だと、いきなりローザリカ側から話しかける訳にもいかない。誰かの紹介を受けるか、高位の側から先に声を掛けられるかのどちらかになる。この場合は後者。目の合ったアーデルハイドから、先に声が掛かった。
「夜会は楽しんで下さっているかしら? 学内でお目に掛かったかもしれないけれど、お話するのは初めてですわね」
「ディオール伯爵家のローザリカと申します。シルヴィア様が戻られるまで、お話させて頂いても宜しいでしょうか?」
「まあ、あのローザリカ様ね。ヴァーゲナー侯爵家のアーデルハイドよ。噂のご本人にお会いできるなんて、嬉しいわ」
「う、噂ですか」
アーデルハイド曰く、学園内の熱愛カップルの片割れとしてぼちぼち有名らしい。音楽の流れる中、少しの間だけ話を弾ませる。
「お話できて楽しかったわ。シルヴィア様と踊っている兄が戻って来たら、ホスト側の務めとして貴女もお誘いするかもしれないけれど……。大丈夫かしら?」
「大丈夫では、……ない、かもしれません。いえ、ありがとうございます。またお目に掛かる機会を楽しみにしております」
そんな注意をしてくるあたり、やはり色々知っている気がする。存外に嫉妬深い婚約者の顔を思い浮かべ、ローザリカは問題が生じる前に辞去する事にした。
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トマスを連れたレティシアは、もう一つ。会場にいるクラーケンへ彼が気づく事を恐れていた。直接的には謹慎に繋がる事件で関わりのある相手であるし、法を守らせる側のダンテ家的に、クラーケンを見逃せるものかどうか分からないというのもある。そのクラーケンはとっとと庭へ引っ込んでいたようなのだが、給仕で回っていたナハシュに見つかっていた。
「良い場所じゃねーか。俺も休憩とさせてもらおうか」
「人の酒を狙うな。……まあ、元を言えば侯爵家の酒だがな」
ぶつぶつ言いつつも、注いでくれる辺りは案外付き合いが良い男なのかもしれない。代わりにナハシュが持ち込んだナッツに手を伸ばしている。
「例の骸骨共でショーとかやんねえの? きっと大ウケだぞ」
「私は貴族は好かないが、何もしていない相手に迷惑を掛けようとは思わんよ。面倒を掛けてくる奴がいれば叩き潰すがね」
良識があるのかないのかは分からないが、とりあえず周囲に聞こえてはまずそうな事を言うクラーケンに、ナハシュはケラケラと笑い返した。
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「こういった席は久しぶりだが、思ったよりも落ち着いて楽しめる物だね。ありがたいことだ」
「それはよかったですわ、かーちすさま」
常に同行しているマレーネは、年の頃から見てもお似合いである。ありていに言えば、隠し玉が出てきたように見えた。会場にウィリアム王子のお忍びがある、というような噂を撒いたレティシアのサポートもあって、物見高いだけの令嬢は近寄ってきていない。
(本当に南方辺境伯様を想われている御令嬢は、それでもご挨拶に訪れたようですけれど……)
以前からカーチスの身元を簡単にでも調べていれば、これまで女の影など無かった事はわかる筈。マレーネの存在に怯えていないのはそういう家の娘であろうか。じっくり構えたそういった令嬢はそれはそれで手ごわい。カーチスも心得たもので、特に言質は与えずに挨拶を交わしていく。途中、マレーネからアーデルハイドへダンスパートナーを変えた際に、残ったマレーネへ声を掛けてくる男性がいたのが想定外ではあった。
「もうしわけありません。かーちすさまに、ほかのとのがたにはちかづかないよう、もうしつけられておりますの」
ただ断るのではなく、意味深に。マレーネはさりげなく噂を立ててはくすくすと笑う。帰って調べればカーチスが冒険者を雇ったとすぐに調べがつくだろうが、この場ではマレーネは謎の女だ。その立場を彼女は存分に楽しんでいた。
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「アドリアンと申します。1曲お相手頂けますか? ヴァーゲナー侯爵令嬢」
義務的にカーチスとの踊りを終えて戻ったアーデルハイドへ、ナハティガルが偽名を名乗り声を掛ける。
「あなたはどなたかしら? お目に掛かった事は無いと思うのですが?」
「彼は私の護衛だよ。どうやら、貴女の美しさに心を奪われてしまったようだね」
「お上手ですわね。では、カーチス様の御顔を立ててお受けいたしますわ」
怪訝そうに言う令嬢にカーチスがフォローを入れた。薄く笑みを浮かべて令嬢はナハティガルの手を取る。身分から言えば謝絶してもおかしくは無いのだが、カーチスへの貸し一つを取ったらしい。
「私、回りくどい事は嫌いでしてよ。目的次第では協力して差し上げるわ」
ナハティガルの目的は、カーチスのかつての婚約者の動向だ。カーチスがわだかまりを感じているのなら、解消する機会を作りたいと思った。しかし、さりげなく彼女の予定を聞き出そうとしたナハティガルへ、アーデルハイドは鋭く先手を打つ。口に関しては相手の方が上のようだ。
「なるほど。そう言う事ですのね。……先ほどの御挨拶の様子からすれば、お義姉さまもカーチス様も、あまり引きずってはおられない気もするけれど」
「私の考えすぎであるなら、問題はないのですが」
しばし考えてから、アーデルハイドは条件付きで同意した。かつての婚約者を2人きりで合わせるのは、火の無い場所に煙を立ててしまいかねない。が、先ほどのシルヴィアと兄のように踊りに誘うことを勧めれば、言葉を交わす位は出来るだろう。
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使用人に化けたナハシュが休憩に入れる程度に、カーチスの周囲は穏やかな状態だった。表面には出てこないだけで、ちょっかいを出そうとする者はいた。しかし、女性のドレスにワインを引っ掛けるが如き直接攻撃を狙ったやんちゃな令息は、さりげなく立ち位置を変えるコルネリウスに導線を塞がれる。一度でなく二度、三度となればその意図は周囲にも分かってしまう。
「南方は荒っぽい場所なのでしょうが、このような場に護衛など連れて来るとは無粋な。……しかも、異種族とは」
すぐには気づかなかったようだが、コルネリウスに注目すればエルフの特徴は隠していない。鬼の首でも取ったかのように甲高い声で言う令息に、コルネリウスは落ち着いた微笑を返す。
「無理を言って、勉強のために連れて来て頂きました。すぐに私の種族に気が付くとは、さすがの観察眼ですね」
「あ。ああ……」
せいぜいが同年代の令息は、挑発に褒め返されて調子が狂ったようだ。普段の物理鉄壁は影を潜め、今のコルネリウスは釘をやんわり受けとめる糠である。彼女ではうかつに対せないような相手もいなくはないが、そう言った相手が求めているのは実際に辺境伯を潰す事ではなく単なる暇つぶしのようだ。
「まだお若い辺境伯の為にご助言をしようとなさる優しい御心に感服致しました」
「ふむ、そうかね? まあ、私であれば姉君の護衛にもう一隻つけたであろうなあ」
「海は陸とは戦い方がまるで違うのです」
などと、シルヴィアに煽てられればカーチスに絡むよりも若い令嬢との知的な会話を楽しむ方にシフトしていく。
「一人の海の商人として、ラザフォード辺境伯とは懇意にしたいものです。実は私1人では、いささか大きな商談を抱えておりまして……」
隙を見て、糸目の男が胡散臭い話を持ち掛けて来た。が、そこへローザリカが割って入る。
「あら、とても楽しそうなお話。私も混ぜていただけますか?」
「これは男同士の話ですので……、む。むむ? 貴女とは、どこかでお会いしたでしょうか?」
「ふふ、随分と月並みな口説き文句ですこと」
すぐには記憶が結び付かなかったようだが、視界にトマスが入った時点で思い出せたらしい。男の頬に汗が一滴伝った。
「失礼、この件はまた後程……」
「楽しいお話を伺えると期待していたのですが、残念です」
ローザリカが言葉で塩を撒く。当主であればともかく、嫡男でもない相手が商人として来るのであれば、やすやす譲るつもりもない。そのままリサを巻き込んで『有象無象の令息程度が割って入れば無知を晒す羽目になりかねない中身の無い会話』を振りまいた。
「女の癖に、商売の真似事とは。歴史の重みの無い家はこれだから」
効果は抜群。聞こえよがしに言う程度が関の山のようだ。
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カーチスは最後に侯爵令息夫人を踊りに誘った。表情を変える事もなく穏やかに、短く言葉を交わしている。
「今は、幸せかな?」
「ええ」
「それは、良かった」
そんな月並みな会話が、何かの柵を説いたのかどうかは当人たちだけが知る所だった。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人
2023年03月09日 17時05分02秒 公開
相談掲示板
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 【3】の同行者枠で参加する予定だよ。 令嬢による接触や、中央貴族の口撃から南方辺境伯を守れればと思う。 あと、どこかのタイミングでアーデルハイド様にご挨拶をするつもりだ。既知の間柄ということにさせて貰えたら、と。フリーとの事だし、南方辺境伯の印象を聞いてみたいな。
なぞのびじょ……ふふ、じぶんでいうものではございませんね。 あらためまして。まれーねと、もうします。まれーね・しぇーんべるぐ、ですわ。 いご、おみしりおきいただけると、うれしいですわ。 ふだんは、このようにしかおはなしができないのですが……。いろいろとふべんがございますので、いこうはなぞのおちからをおかりして、ふつうにおはなしいたしますね。 ◆◆◆ ええ、ええ。わたくしは【1】にてお邪魔する予定ですわ。 カーチスさまのお隣に立つ『謎の令嬢』として、主に地位を狙っていらっしゃる令嬢の方々を、……けんせ、い? そう、牽制、してみようかと。 うふふ。わがままなご令嬢のふりをして、カーチスさまを振り回してみたりなんかしたら、もしかしたら楽しいかもしれませんわ。……なんて。
リサ・ベイカーです。宜しくお願いします。 今のところ【1】かなぁ?と。 エスト・ポーラがらみで、クレア様とは多少なりとも縁があると思うので… 謎の令嬢枠はマレーネさんにお任せするとして(笑)、わたしは話術で権益絡みの対応とか、ですかね。 身分は誤魔化さずベイカー商会のリサでそのままかなと。学園絡みやらで面識ある人いそうですしね。
シーフのナハシュだ。今回はよろしく。 今んとこ【2】か【4】のつもりでいるな。 【4】の場合はディスや接触の妨害、【2】で行く場合は直接の妨害よりは夜会全体の観察と、ディスにしろ接触にしろ仕掛けようとしてる奴らを割り出し共有できればいい感じかなと考えてるぜ。
ナハティガル=ラーだ。――宜しく頼む。 俺は【1】か【2】での参加を検討中だ。 【2】で行く場合、フェイクカバーで擬態し臨時雇いとして潜入しようかと。
コルネリウスです、よろしくお願いします。 私は【1】か【2】の予定でいます。 【1】だと偽名は使わずの参加になるかなと。
あら?意外とダンテ家同行が少ない? では、わたしは【4】にしましょう
あ、それでしたらリサさんはやりたいことも固まっているようでしたし、私が【4】にしても構いませんが如何でしょうか。
あ、コルネさん、ありがとうございます。 でも、お気にならさずで大丈夫ですよ? わたしとしては、どちらでもベイカー商会としての立場は使えるので。 トマス様の研究室事務方でもありますから、付き人としても、トマス様に着いて動きますね。
解りました、私もちょっと悩んでいて、ギリギリまで考えて選択肢が変わったりするかもしれません。 リサさんも良い時間を過ごせますように。
ローザリカ……ローザリカ・L・ディオールだ。 遅くなったがよろしく頼もう。 どう振る舞った方が得策かで悩んでいたんだが、素直に【3】で行こうかな。 商会を抱えるディオールとして権益絡みの話をしているところに割り込んで牽制するとか、 他の貴族の対応とかかな……
なるほど、ではエスト・ポーラ、ベイカー商会のリサとして、ディオール家のご令嬢であらせられるローザリカ先輩と仲良くお話をさせて頂けば良さそうですかね?(笑)