【甘壇】白染めの節、甘香・輝石は想い運ぶ【生祝】
一乃口
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シナリオID:2785
オープニング
灰色の分厚い雲から舞い落ちる雪が、古都エスト・ポーラの街並みを白く染めて久しい。
晴れ間に溶けた雪解け水が、氷柱となって窓の前に伸びているのにパトラ=L=アルアータは、紅茶を飲んでいる時に気付いた。
繁忙期も一区切りを迎え、ようやく周りの景色を見る余裕もできたのだと。
パトラは一息付いた溜め息の重たさに、まだ残る疲労感を覚えた。
「……! そうですわ」
がたっと一度席を立ち、ティーセットがカチャりと音を立てた所で――慌てても仕方ないと、眉間を指先で抑えつつ着座した。
先月の案内が出来なかった事を、思い出したパトラ。
せめて先月の分も、今月で――と思いながら、パトラはペンと羊皮紙を手に取った。
冒険者ギルドへと送る依頼書を、書き連ねていく。
(そう言えば――『甘輝祭』の時期ですわね)
カカオブームが始まれば、それに併せた仕入れや商品を取り扱い。
エドゥノーグを中心に宝石ブームが巻き起これば、それに付随する様々な工場や物流に関わった。
繁忙期が終われば、次の商戦期が訪れる。
『仕事が忙しいと言うのは、それだけで有り難い事だ』と祖父が言っていたのを、パトラは思い出した。
特に市場の変動が著しいこの時期は、様々な事を試すべきだとも考えるのだった。
エスト・ポーラにある他の商会や馴染みの店と連絡し、パトラは『甘輝祭』を街の人と冒険者が楽しめるように。
必要な出資や人材の引き入れ、また冒険者に来て欲しい店を探しては、共同出資や調整を行い準備を進めた。
カカオや宝石の物流は、去年と比べると厳しい側面もあるようだが。
会場を訪れる冒険者達が、不足を感じないくらいには準備ができたハズだ。
甘輝祭のエスト・ポーラは――今年も訪れる人々で賑わうだろう。
パトラはこのエスト・ポーラが、賑わい活気に溢れてくれる事が、何よりの誇りなのだ。
晴れ間に溶けた雪解け水が、氷柱となって窓の前に伸びているのにパトラ=L=アルアータは、紅茶を飲んでいる時に気付いた。
繁忙期も一区切りを迎え、ようやく周りの景色を見る余裕もできたのだと。
パトラは一息付いた溜め息の重たさに、まだ残る疲労感を覚えた。
「……! そうですわ」
がたっと一度席を立ち、ティーセットがカチャりと音を立てた所で――慌てても仕方ないと、眉間を指先で抑えつつ着座した。
先月の案内が出来なかった事を、思い出したパトラ。
せめて先月の分も、今月で――と思いながら、パトラはペンと羊皮紙を手に取った。
冒険者ギルドへと送る依頼書を、書き連ねていく。
(そう言えば――『甘輝祭』の時期ですわね)
カカオブームが始まれば、それに併せた仕入れや商品を取り扱い。
エドゥノーグを中心に宝石ブームが巻き起これば、それに付随する様々な工場や物流に関わった。
繁忙期が終われば、次の商戦期が訪れる。
『仕事が忙しいと言うのは、それだけで有り難い事だ』と祖父が言っていたのを、パトラは思い出した。
特に市場の変動が著しいこの時期は、様々な事を試すべきだとも考えるのだった。
エスト・ポーラにある他の商会や馴染みの店と連絡し、パトラは『甘輝祭』を街の人と冒険者が楽しめるように。
必要な出資や人材の引き入れ、また冒険者に来て欲しい店を探しては、共同出資や調整を行い準備を進めた。
カカオや宝石の物流は、去年と比べると厳しい側面もあるようだが。
会場を訪れる冒険者達が、不足を感じないくらいには準備ができたハズだ。
甘輝祭のエスト・ポーラは――今年も訪れる人々で賑わうだろう。
パトラはこのエスト・ポーラが、賑わい活気に溢れてくれる事が、何よりの誇りなのだ。
解説
●解説
各項目で『お祝い事』、『記念日を過ごす』と言った事は可能です。
お気軽にプレイングをお出し下さい。
飲食系の項目では、酒類の提供可です。
複数個所での活動は描写量が減ってしまう場合がございます、ご了承ください。
【1】お菓子工房
『甘輝祭』のカカオブームに乗っかり、チョコレートを用いたお菓子を作れるお菓子工房が開かれました。
キッチンやオーブン、紋具を使った『物を冷やす』設備が使用可能です。
一通り材料の提供もありますが、持ち込んだ食材を使用しても大丈夫です。
贈り物や、一緒に作ったお菓子を食べる方等はこちらへ。
飲食スペースでは紅茶や珈琲の提供もあります。
【2】アクセサリー造り
手作りアクセサリーが作れる出張所。
大きな『宝石』は扱えませんが、小さな『宝石』は多種多彩に取り揃えています。
アクセサリー作りを自身でも、デザインを決めたあと職人へ依頼もできます。
(フレーバーとしての扱いがメインになると思われます)
【3】レストラン
レストランで今年『踏まれたワイン』の提供が始まりました、今年の出来も良いとの評判。
寒いのでグリューワインとしても振る舞われます。
レストラン料理として肉がメインディッシュのコース料理、お好みに併せて素敵な一時を過ごせるようお店が協力してくれます。
【4】港街の海鮮鍋屋
漁港から近い場所で商いをしている海鮮鍋屋です、レストランと比べれば宴会向けの店内になります。
鮟鱇鍋、鱈、鯛、海老や蟹のなど海鮮鍋のお店。生牡蛎は扱ってないよ。
酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞ〜。
【5】街で自由に過ごす。
エスト・ポーラの街の散策ができます。
自由に買い物をしたり、買い食いをしたりと街での一時を過す事ができます。
時勢もあり、チョコレートのお菓子や、贈り物のアクセサリー等のお店が賑わっています。
大抵の事は出来ますが、特殊な内容や場所の指定等は、マスタリングの対象になる場合もございます。
マスターより
14度目まして!! 一乃口です。
元気です。ご心配お掛けしましたっ(埋没五体投地)
1月の【生祝】をお出しできなくて申し訳ないです。
2月になってしまいましたが、1月お誕生日の方のお祝いも大歓迎です!
お気楽にご参加くださいませ!!
ご質問等がございましたら、当NPC『パトラ=L=アルアータ』がお答え致します。
なお、出発時間が差し迫りますと、お答えし損ねる場合もあります。ご了承ください。
では、楽しい『甘輝祭』の一時をお過ごしください。
リプレイ
雪が降っては止んで、今は雲間から澄んだ青空が垣間見える。
雪で白く染まった古都エスト・ポーラの街並みは『甘輝祭』に纏わる品々を扱う店先が、この時期特有の装飾で訪れる買い物客の目を引いていた。
その中でも、『甘輝祭』のためのお菓子を作るために、一般客向けにお菓子工房を開放したイベントはそれなりの盛況さを見せて居た。
材料を揃える事が出来ても、普段作らない人には調理器具や専用の設備が必要なお菓子作りは難易度が上がってしまう。
そんな事情を知る人の声が形となった企画だった。
「物を冷やす設備……これはうちの店には無いものです! 是非使ってみたいですね!!」
ルアンナ・ミュラーもその1人だった。
上手に焼き上げる事に定評のある吸血鬼狩りの魔女で、パン屋でもある彼女も、思うままに創作できる設備には心が躍る。
設備の整った場所で、『甘輝祭』の代表格とも言えるとチョコレートケーキを作る予定だ。
「さぁ、やりましょー!」
おーっと気合を入れるルアンナの、楽しそうな笑顔が厨房を賑わせた。
パン作りを日頃からするルアンナの、手捌きは流石のものだった。
冷やす設備のおかげで、チョコレートを思うままの形に造形するルアンナの手腕は、まさに魔法のようで。
それを見た職人が、『鬼に金棒、魔女に厨房』と言う言葉を思い浮かべたそうだが、口にはしなかった。
大事な人達の喜ぶ顔を思い浮かべながらのチョコレートケーキ作りを、ルアンナは終始楽しみながら作って行く。
お菓子工房の中は、様々な菓子の香りが漂い満ちて甘く感じる。
その中でもひと際賑わっている一角で、チョコレート作りに挑戦する女子達が集っていた。
「よーし、今日は頑張るぞ♪」
ヒロ・テスタロッサが、結った赤い髪を揺らして気合を入れた。
(お菓子作りってことだけど、ぶっちゃけちゃんと作ったことないんだよねー)
初めてでも、ちゃんと完成させられる事を目標にするヒロは、比較的簡単そうなレシピを探し、その中からトリュフチョコ作りに挑戦するのだった。
ヒロのようにあまりお菓子作りに明るくない参加者も多いイベントだったため、施設内には講師の職人の姿もあるので必要であれば手順などのサポートもある。
「手伝おうか?」
だが彼女達は共にこの場所を訪れた仲間が多い、ヒロに声を掛けたのはアリエッタやテュリン・ヴィングだ。
作るチョコレートを決めて準備を進めていたルーシカも、ヒロ達の手伝いが必要なら手を貸そうと思っていたが。
「うん、こんな感じかな」
ルーシカはチョコ作りに使えそうなフルーツを準備した。
フルーツの種類は豊富に準備できた、多くなるとそれだけ下拵えの量、手順がどうしても多くなる。
「大丈夫? そっちも手伝うよ」
「じゃぁ、こっちのフルーツのカットをお願いしてもいいかな?」
アリエッタの申し出にルーシカが答え、またその様子を見ていたテュリンとアルラ・ニグラスも自分達のチョコレート作りをしながら談笑を交えて作業は進む。
そんな女子達は『ふしぎ亭』と言う、面々の集いだ。一見すると女子会だ。
お菓子工房へ立ち寄った客と言えば、パティシエの紳士を除けば大半が女性と言う環境だったが。
ララベル・サン・ディーベルに関しては、その中でも『女子枠』で押し通せそうな外見をしているため違和感無く輪の中で手伝っている。
「これで大丈夫かな?」
ララベルは慣れないチョコの湯煎を手伝い。
「うん、良いと思うわ」
猫のハーフビーストの、アリエッタが湯煎で程よく溶けたチョコレートを見て頷いた。
アリエッタの手元でも、同じように湯煎されたチョコレートがその手でゆるりと回されていた。
自分の手元にも気を配りながら、ララベルの湯煎したチョコをチェックしていた深緑色の瞳が、ララベルとぱっと合う。
「――っ」
「はわわ」
思った以上に近かった顔に、2人の距離はぱっと開いた。
「下拵えはこんな所だよね」
丁度ルーシカの作業で、皮などの下処理がされたフルーツがあった。
そのなかにバナナの皮があった。みんなで使っていた作業台の隅からたまたま落ちたそれは、なぜかララベルの足元に落ちてくる。
「わっ!?」
ズルりと滑るララベルは、当然のようにすっ転び。
「ねぇ、ベル――」
湯煎作業中のホワイトチョコを手にしていたアルラの手元に、ララベルがぶつかり、中身が運悪く零れる。
「はわわわわ、チョコが胸にっ」
(まぁ、ベルだし)
そう思うくらいにアルラもこの状況に慣れている。
その胸元に、手元にあったホワイトチョコが零れてしまう――アルラはそれを指摘したララベルの眼を見て言葉を続ける。
「柔らかくてまるーい中に、真っ白いの……ベル好きでしょ?」
それはララベルに拭き取ってもらうようお願いする意図だった、ララベルはさらに顔を赤くしていく。
(やっぱり何か起こった)
同じくチョコレート作りに参加していたテュリン、作業を続けながらそう思っていた。
ララベルが居る、つまり何かが起こる。
そう、物を落とせば落下するような話だと、テュリンは何かを悟った眼差しで状況を静観した。
ルーシカも起こったハプニングに対して、いつも通りのことだから気にせず笑っていた。
その眼の前には色取り取りのフルーツが並ぶ、皮を向き食べやすい大きさに切り揃えたりと下拵えはバッチリだ。
フルーツソースに使う分と、チョコレートに入れる果肉をそれぞれ準備する。
これからフルーツソース作りをして、それからチョコレートの出番になるだろう。
案外作業してみると、チョコのシンプルさに対して丁寧な作業を必要とする工程は多かったかも知れない。
作業がほどほどに進んだ頃だった。
「はーい、味見だよー♪」
とヒロが未完成のチョコを手に取ると、作業中のみんなの口へと運んで居た。
ひとり、ふたりと味見に協力してもらう。みんなヒロの作ったチョコを、美味しいと褒めてくれた。
しかし味見と称してみんなに振舞ったチョコはすでに無くなりつつあり。
「また作り直しだねー」
そう言うヒロは楽しそうに笑っていた。
みんなの作ったチョコレートが完成すれば、それぞれの作った物をみんなで食べるお茶会が始まる。
お菓子工房の施設には、カフェスペースがあるので今はテーブル席にみんなで移動したあとだ。
試食した時よりも美味しくなっているヒロのトリュフチョコ。
多彩なフルーツを乗せたシンプルだが味わい豊かなルーシカのフルーツチョコ。
ホワイトチョコのガナッシュを作ったアルラ。
持ち込んだ蒸留酒を、ひとくちチョコの中に入れたテュリンのチョコ。
ねこの形をしたチョコレートクッキーを作ったアリエッタ。
ララベルもみんなに食べて貰えるように、ひと口サイズに模ったチョコを作った。
みんなでそれぞれが作ったチョコを食べ合うのも楽しんでいるが、彼女達は自分の作ったチョコをララベルに食べてもらうよう促す。
「どれも美味しいよ」
ララベルはみんなのチョコを食べる、その合間合間に、またハプニングが幾度か発生したりもする。
主にテュリンのチョコレートに含まれているアルコール度数が原因だったかも知れないが、素面でも同じだと知る者は語る。
お菓子工房を後にしたララベルは、贈り物のアクセサリーを買いに行く。
その買い物の間もなにも起こらないなんて事は無かった、無かったよ、けど無事にみんなにアクセサリーを贈ったのだった。
「まぁ、あの時のワインが売られているんですのね」
ワインのラベルと宣伝文句を目にしたネーヴェ・グラヌローザ。
ネーヴェもあの日、『ワイン踏み』に参加した1人だった。
今日はお菓子作りに参加する予定。見付けたワインを購入したネーヴェはアルフィー・リッパーと共に会場へ向かった。
「二人で力を合わせればお菓子何てあっという間だ!」
エプロン姿のアルフィーから自信のある宣言。
料理はできるので、きっとお菓子作りも大丈夫だろう。
「まぁ、頼もしいですわ。頼りにしておりますわね」
自身では人並みくらいの腕前だと思うネーヴェに、アルフィーの自信は輝いて見える。
持ち込んだワインの話をネーヴェから聞いたアルフィーが、折角だからワインもチョコに使おうと言う話になり。
「豪華ですわね」
ガトーショコラとボンボンショコラ作りに決まる。
「ワインに合わせるならビターチョコがいい?」
ただワインに関してだと、アルフィーはまだその味が想像するのが難しかった。
「でしたらサングリアはいかがでしょう? ワインそのものに甘味が出ますから合わせ易いですし、何よりアルフィーさんも飲み易いかと」
そうと決まれば、アルフィーが必要な手順や器具をテキパキと揃え。
ネーヴェと共にチョコレート作りは進む。
持ち帰り用のチョコまで作り終えた2人は、カフェスペースで完成した2種類のチョコを並べた。
そのテーブルにはサングリアの入ったグラスが、今両名の手に取られる。
「ハッピーバースデー」
乾杯の代わりにアルフィーがそう言って、ネーヴェのグラスを小さく鳴らす。
「ふふ、ありがとうございます。こうしてお祝いして頂けて嬉しいです」
誕生日を迎えていたネーヴェに、アルフィーはそのお祝いをする。
ネーヴェが提案してくれたサングリア、アルフィーは少しその鮮やかな紅を眺めると口を付けた――飲みやすかった。
「苦くないお酒もあるんだな……」
飲みすぎに気を付けた方がいいなと、思うアルフィーの尻尾がひゅんひゅんしていた、気を付けますよ? はい。
ネーヴェもサングリアを飲んだ後、完成したガトーショコラを口へと運ぶ。
「幸せの味が致しますわ」
美味しそうに、言葉通りの様子を見て、アルフィーもチョコを手に取ると一緒に食べる。
「うん、上手にできた」
チョコとサングリアの香りのひと時は、ゆっくりと甘く流れる。
●
チョコレートの方が気軽に贈れると言う意見もあれば、『甘輝祭』と言えば宝石を用いたアクセサリーだ、と言う職人は居る。
ここはアクセサリー造り会場、訪れた人々はデザインを考えたり、贈る相手に似合う宝石を探したりと賑わっていた。
流浪の吟遊詩人、キオルティスの手が今日は楽器では無く、アクセサリー造りに動いている。
愛する妹へ贈るアクセサリー造りだ。キオルティスの気合はすごい、可愛らしく可憐な色選びと形を目指す。
「この一際輝く、けれど可愛らしさも残す石を中心にしようかな」
宝石選び、ひとつひとつを見て妹に似合う石を探して作業台へ。
「指輪……だと重いよね。ブレスレット、ペンダント……そうだ!」
悩みを経て、解は天啓を得る。
「ピアスにするのも良いかもね!」
モルガナイトの煌きを彩るピアス、その完成にキオルティスは妹の喜ぶ顔を想像して微笑んだ。
●
「ワインを飲みに行こう。前に葡萄を踏んだやつだよ。ついでに肉料理も食べられるらしい」
ヨル・スレイマンが、ナハシュを今年のワインと肉のコース料理を食べるデートに誘って、レストランを2人で訪れていた。
暖炉の火が、外気の冷たさを忘れさせてくれる。
煉瓦と木造のレストラン、派手過ぎない落ち着いた内観は訪れた人々が静かなひと時を過ごせる様にと造られている。
レストランを訪れたヨルとナハシュの2人は同じテーブル席に腰を降ろした、オーダーを伝えればあとは待つだけだ。
「あのブドウがどうなったか気になってたんだよな! 丁度良かったぜ」
しばらくすれば、料理が運ばれ――ワインの封が切られてグラスへ注がれる。
逸る気持ちと期待のように2人は『乾杯』とグラスを鳴らした。
「美味しい。あれでちゃんとワインになるものなんだな⋯⋯」
ヨルはあの日の光景を思い出しながら、口にしたワインを感慨深く味わう。
早速肉料理を味わい、ワインを飲むナハシュ。
「肉と一緒に食うとこれがまた! 合うんだよ!!」
「そうだな」
ナハシュの美味しそうに食べる姿を見るのが、ヨルは好きなのだと、その笑顔を見るたびに思うのだ。
「甘輝祭のおかげで、自分の誕生月が覚えやすくなったな」
今日はヨルのお祝い、だから普段よりも特別な料理でナハシュと共に時間を過ごす。
(本当に生まれた月なんて覚えてもいないわけだが……)
とは、ヨルの内心のつぶやきだ。
「別に誕生日を何回やろうが、歳は取らねえと思うけどな。まあその分俺が年に12回くらい誕生日になればいいな」
ナハシュの砕けた笑顔に、ヨルは釣られて笑顔になる。
誕生日は美味しい料理を食べられる日だと思っているナハシュの明るい声。
「君は気分ですぐ誕生日を増やしてしまうけど、俺は年に一度でいい。下手に歳をとりたく無いからね」
ワインを片手にヨルは普段通り微笑む。
「いいじゃねーか、それならちゃんと飯を食うだろ!」
ナハシュの言葉に、『そうかもな』とヨルは笑って答えた。
ヨルに取っては、ナハシュと共に摂る食事なら、自然と進むかも知れない。
レストランで料理をワインを楽しんだ帰り道、ヨルは自宅でも楽しめるように今年のワインを買って帰るのだった。
●
漁港から近い場所、そこは潮風も吹き込んで寒さをひと際強く感じる事もあるだろう。
そんな場所では、より温かい物が美味しい。
「漁港がある、つまり海鮮が食える、=酒が飲める」
ベルク・オスマットの方程式を、全肯定するように漁港から少し歩けば居酒屋や飯屋が並ぶ。
鍋の香りが、潮風に乗ってベルクの鼻に届き。噂の海鮮鍋屋へとその足を向ける。
すこし遅れて、ルイドも『鮟鱇鍋』を食べに、同じ店を訪れたのだった。
寒い時期は、エサが豊富な時期に食べて蓄える魚種は多く、その旨味は自ずと増すのだとルイドは学ぶ。
程よく煮立つ鍋の香り。
(さすが、具の種類も豊富だな……鮟鱇ってのは確か、肝が旨いんだっけか)
どれどれと、ひと口。
「――」
ルイドは天を仰いだ、いや屋根の向こうの蒼天がルイドの眼には見えている。
(あぁ、なるほど、これは駄目だ)
酒だ、ルイドの片手が上がり店員が威勢のいい返事でオーダーを承った。
「――いやほんと駄目だわ、これだけ食っちまうじゃねぇかこんなの」
箸が止まらない、なんて大袈裟な物言いをするヤツがいたもんだと思ってた。
味噌と共に引き立つ肝の味が深みを与えた鍋汁、それは。そうした食材の味を引き立てる酒は、無論それを見越した品揃え。
「良い食べっぷりだな兄ちゃん、コレも試してみろよ!」
近くの飲兵衛がルイドにおすそ分けしてくれた。
「……これは?」
「アンコウの肝を茹でて切ったヤツと、ハギの生肝だ――トブぞ」
その言葉に、普段のルイドなら『ヤバイやつなのでは?』と止まったかも知れないが、既に箸はノンストップだった。
薬味もあるし、酢を利かせたタレもあるが、飲兵衛は言った。『まずは何も付けずに食べな』と。
ルイドはその言葉頷き、箸で口に運び――『肝は旨い』と再び空を仰ぐ。
この日の酒量は、ルイドの新記録を更新する事になる。
そんな店内の様子を、守護神のように見守っていたベルク。
「一人で飯を食い酒を飲むときはな、静かな、それでいて救いの時でないといかんのだ」
最初からそう言う集まりだと言う時を除けば、美味しい物を食べる。
その事に集中していたいのだ。
鍋の湯気と香り、口に運べば広がる魚肉や野菜の味が噛むたびに滲み。そして味噌の風味に鮟鱇の肝が深みとコクを奏でる。
熱い――。
それ以上に、美味しい。
ベルクはその悉くを、静かに味わい。熱さを逃がすように口から白い吐息を吐いた。
「うん、酒も美味い」
シャルガネで多い酒造の酒、見た目が同じでも甘い奥行きのある酒から、鋭いキレのある物と種類も多い。
鍋の締めまで、まだ腹に余裕を感じたベルクは、見守っていた店内で見付けた品。
「我にもあの品と、アレに合う酒を――」
見守る中で見付けた一品、酒飲みとしては頼まずには居られなかったと言う。
●
積もった雪を、道端へと掻き分ける人の姿もまばらに見える古都の冬景色。
白の下に本来の色がちらりと見える中を、白い息を連れて歩く。
妹への『贈り物』を大事にしまって、キオルティスは街を回遊。
気になった屋台で買った香草串焼きと、グリューワインを片手に他にも何か無いかと散策していた。
そんな彼の眼が留まったのは、可愛い猫の小物達だ。
「おや、この仔もそっくりだね」
旅するキオルティスが現在身を寄せているオーベルジュに居る黒猫と似た物を見付けて楽しんでいた。
寒空の中であっても、商魂と言う情熱は下がらない。
「咲く花も勿論違うし、各都市の色は大事だと思う」
(何でも手に入るのはつまらないってことだよ、リブラネスタ)
『甘輝祭』と言う季節、その場所でしか無い品。ルーンス・ラグネルの目は厳しい。
「グッズのモチーフも海に由来するものが多いね」
ヴィナスが訪れた雑貨屋の品揃え、そのひとつの茶器を手に取りながら共に街の視察をしているルーンスと話す。
今は、まだ少し先の事だが――ヴィナスは何れ弟が家督を継ぐ際には、商人として復帰したいと決めていた。
今回のエスト・ポーラの視察も、その時を迎えた際に『目を鍛える』と言う名目もあり、色々と見て回っていた。
「冷やしたお茶を飲むのに向いてそうかな」
海のような色合いのガラス製のティーポッドを手に取る。その感触を確かめるヴィナス。
「茶器というとどうしても陶器の高いものに目がいくけど、気軽にお茶を楽しむ文化が僕ら庶民に広まってもいいよね」
ルーンスも茶器の品定めに真剣だった。
お目に留まったのは、鮮やかな夕焼け色のティーポッドだった。
「これは果実茶を飲むのに楽しそうでしょ?」
ヴィナスへ向けるルーンスの笑顔は、無邪気に輝いている。
2人はそれぞれ手に取った茶器を購入すると、マジカルポケットへと収めて行く。
他の店を周り、また気に入った品を見付けたルーンスが、ビーズ細工が綺麗な『リボンの髪飾り』を買ったあとの事だ。
「あれ?」
ルーンスがヴィナスの姿を探す。
気付けばヴィナスは、ルーンスとはまた違う品を見付けて会計をしていたようだった。
その様子を見ていたルーンスの眼に、2個の『夜空色のアンクレット』が目に入る。
(……なるほど)
会計を終えたヴィナスに、ルーンスが言う。
「左足につけてもらうんでしょ」
悪戯っぽい顔をしたルーンスは、的確にヴィナスの意図を見抜いていた。
「俺は独占欲が強いからね」
そう答えるヴィナスの顔を見ながら。
(にいさまも僕のことなんて言えないと思うけどなー)
そうルーンスは思いながら、街を歩いた。
●
「こんにちは」
街を歩いて居たルーンスとヴィナスは、見覚えのある背中に声を掛けた。
振り返ったのは、パトラッシュ=L=アルアータだ。
「あら、こんにちは。2人共、楽しんで貰えてるようですわね」
微笑みと共に白い息が舞う。
「うん、良い買い物ができたよ。ね、にいさま」
「あぁ、勉強にもなった」
パトラ独りであれば、そのまま商人談義に花を咲かせたかも知れない。
だが、そのパトラの後ろに居るルアンナに気付くと、挨拶をそこそこに2人は街の散策に歩き出すのだった。
「じゃ、また」
「えぇ――では、行きましょうか、ルアンナ様」
「はーい!」
ルアンナはレストランでも扱われているワインを買おうと街を散策している所をパトラに発見されたのだった。
欲しい物を伝えれば、適宜お店を案内してくれるパトラは、便利な買い物ナビとなっていた。
「そう言えば、良い小麦粉を扱ってるお店は――興味あるかしら?」
「それは気になりますね……」
パトラの提案する品々を前にルアンナの懐に、寒波が訪れそうになった。
雪で白く染まった古都エスト・ポーラの街並みは『甘輝祭』に纏わる品々を扱う店先が、この時期特有の装飾で訪れる買い物客の目を引いていた。
その中でも、『甘輝祭』のためのお菓子を作るために、一般客向けにお菓子工房を開放したイベントはそれなりの盛況さを見せて居た。
材料を揃える事が出来ても、普段作らない人には調理器具や専用の設備が必要なお菓子作りは難易度が上がってしまう。
そんな事情を知る人の声が形となった企画だった。
「物を冷やす設備……これはうちの店には無いものです! 是非使ってみたいですね!!」
ルアンナ・ミュラーもその1人だった。
上手に焼き上げる事に定評のある吸血鬼狩りの魔女で、パン屋でもある彼女も、思うままに創作できる設備には心が躍る。
設備の整った場所で、『甘輝祭』の代表格とも言えるとチョコレートケーキを作る予定だ。
「さぁ、やりましょー!」
おーっと気合を入れるルアンナの、楽しそうな笑顔が厨房を賑わせた。
パン作りを日頃からするルアンナの、手捌きは流石のものだった。
冷やす設備のおかげで、チョコレートを思うままの形に造形するルアンナの手腕は、まさに魔法のようで。
それを見た職人が、『鬼に金棒、魔女に厨房』と言う言葉を思い浮かべたそうだが、口にはしなかった。
大事な人達の喜ぶ顔を思い浮かべながらのチョコレートケーキ作りを、ルアンナは終始楽しみながら作って行く。
お菓子工房の中は、様々な菓子の香りが漂い満ちて甘く感じる。
その中でもひと際賑わっている一角で、チョコレート作りに挑戦する女子達が集っていた。
「よーし、今日は頑張るぞ♪」
ヒロ・テスタロッサが、結った赤い髪を揺らして気合を入れた。
(お菓子作りってことだけど、ぶっちゃけちゃんと作ったことないんだよねー)
初めてでも、ちゃんと完成させられる事を目標にするヒロは、比較的簡単そうなレシピを探し、その中からトリュフチョコ作りに挑戦するのだった。
ヒロのようにあまりお菓子作りに明るくない参加者も多いイベントだったため、施設内には講師の職人の姿もあるので必要であれば手順などのサポートもある。
「手伝おうか?」
だが彼女達は共にこの場所を訪れた仲間が多い、ヒロに声を掛けたのはアリエッタやテュリン・ヴィングだ。
作るチョコレートを決めて準備を進めていたルーシカも、ヒロ達の手伝いが必要なら手を貸そうと思っていたが。
「うん、こんな感じかな」
ルーシカはチョコ作りに使えそうなフルーツを準備した。
フルーツの種類は豊富に準備できた、多くなるとそれだけ下拵えの量、手順がどうしても多くなる。
「大丈夫? そっちも手伝うよ」
「じゃぁ、こっちのフルーツのカットをお願いしてもいいかな?」
アリエッタの申し出にルーシカが答え、またその様子を見ていたテュリンとアルラ・ニグラスも自分達のチョコレート作りをしながら談笑を交えて作業は進む。
そんな女子達は『ふしぎ亭』と言う、面々の集いだ。一見すると女子会だ。
お菓子工房へ立ち寄った客と言えば、パティシエの紳士を除けば大半が女性と言う環境だったが。
ララベル・サン・ディーベルに関しては、その中でも『女子枠』で押し通せそうな外見をしているため違和感無く輪の中で手伝っている。
「これで大丈夫かな?」
ララベルは慣れないチョコの湯煎を手伝い。
「うん、良いと思うわ」
猫のハーフビーストの、アリエッタが湯煎で程よく溶けたチョコレートを見て頷いた。
アリエッタの手元でも、同じように湯煎されたチョコレートがその手でゆるりと回されていた。
自分の手元にも気を配りながら、ララベルの湯煎したチョコをチェックしていた深緑色の瞳が、ララベルとぱっと合う。
「――っ」
「はわわ」
思った以上に近かった顔に、2人の距離はぱっと開いた。
「下拵えはこんな所だよね」
丁度ルーシカの作業で、皮などの下処理がされたフルーツがあった。
そのなかにバナナの皮があった。みんなで使っていた作業台の隅からたまたま落ちたそれは、なぜかララベルの足元に落ちてくる。
「わっ!?」
ズルりと滑るララベルは、当然のようにすっ転び。
「ねぇ、ベル――」
湯煎作業中のホワイトチョコを手にしていたアルラの手元に、ララベルがぶつかり、中身が運悪く零れる。
「はわわわわ、チョコが胸にっ」
(まぁ、ベルだし)
そう思うくらいにアルラもこの状況に慣れている。
その胸元に、手元にあったホワイトチョコが零れてしまう――アルラはそれを指摘したララベルの眼を見て言葉を続ける。
「柔らかくてまるーい中に、真っ白いの……ベル好きでしょ?」
それはララベルに拭き取ってもらうようお願いする意図だった、ララベルはさらに顔を赤くしていく。
(やっぱり何か起こった)
同じくチョコレート作りに参加していたテュリン、作業を続けながらそう思っていた。
ララベルが居る、つまり何かが起こる。
そう、物を落とせば落下するような話だと、テュリンは何かを悟った眼差しで状況を静観した。
ルーシカも起こったハプニングに対して、いつも通りのことだから気にせず笑っていた。
その眼の前には色取り取りのフルーツが並ぶ、皮を向き食べやすい大きさに切り揃えたりと下拵えはバッチリだ。
フルーツソースに使う分と、チョコレートに入れる果肉をそれぞれ準備する。
これからフルーツソース作りをして、それからチョコレートの出番になるだろう。
案外作業してみると、チョコのシンプルさに対して丁寧な作業を必要とする工程は多かったかも知れない。
作業がほどほどに進んだ頃だった。
「はーい、味見だよー♪」
とヒロが未完成のチョコを手に取ると、作業中のみんなの口へと運んで居た。
ひとり、ふたりと味見に協力してもらう。みんなヒロの作ったチョコを、美味しいと褒めてくれた。
しかし味見と称してみんなに振舞ったチョコはすでに無くなりつつあり。
「また作り直しだねー」
そう言うヒロは楽しそうに笑っていた。
みんなの作ったチョコレートが完成すれば、それぞれの作った物をみんなで食べるお茶会が始まる。
お菓子工房の施設には、カフェスペースがあるので今はテーブル席にみんなで移動したあとだ。
試食した時よりも美味しくなっているヒロのトリュフチョコ。
多彩なフルーツを乗せたシンプルだが味わい豊かなルーシカのフルーツチョコ。
ホワイトチョコのガナッシュを作ったアルラ。
持ち込んだ蒸留酒を、ひとくちチョコの中に入れたテュリンのチョコ。
ねこの形をしたチョコレートクッキーを作ったアリエッタ。
ララベルもみんなに食べて貰えるように、ひと口サイズに模ったチョコを作った。
みんなでそれぞれが作ったチョコを食べ合うのも楽しんでいるが、彼女達は自分の作ったチョコをララベルに食べてもらうよう促す。
「どれも美味しいよ」
ララベルはみんなのチョコを食べる、その合間合間に、またハプニングが幾度か発生したりもする。
主にテュリンのチョコレートに含まれているアルコール度数が原因だったかも知れないが、素面でも同じだと知る者は語る。
お菓子工房を後にしたララベルは、贈り物のアクセサリーを買いに行く。
その買い物の間もなにも起こらないなんて事は無かった、無かったよ、けど無事にみんなにアクセサリーを贈ったのだった。
「まぁ、あの時のワインが売られているんですのね」
ワインのラベルと宣伝文句を目にしたネーヴェ・グラヌローザ。
ネーヴェもあの日、『ワイン踏み』に参加した1人だった。
今日はお菓子作りに参加する予定。見付けたワインを購入したネーヴェはアルフィー・リッパーと共に会場へ向かった。
「二人で力を合わせればお菓子何てあっという間だ!」
エプロン姿のアルフィーから自信のある宣言。
料理はできるので、きっとお菓子作りも大丈夫だろう。
「まぁ、頼もしいですわ。頼りにしておりますわね」
自身では人並みくらいの腕前だと思うネーヴェに、アルフィーの自信は輝いて見える。
持ち込んだワインの話をネーヴェから聞いたアルフィーが、折角だからワインもチョコに使おうと言う話になり。
「豪華ですわね」
ガトーショコラとボンボンショコラ作りに決まる。
「ワインに合わせるならビターチョコがいい?」
ただワインに関してだと、アルフィーはまだその味が想像するのが難しかった。
「でしたらサングリアはいかがでしょう? ワインそのものに甘味が出ますから合わせ易いですし、何よりアルフィーさんも飲み易いかと」
そうと決まれば、アルフィーが必要な手順や器具をテキパキと揃え。
ネーヴェと共にチョコレート作りは進む。
持ち帰り用のチョコまで作り終えた2人は、カフェスペースで完成した2種類のチョコを並べた。
そのテーブルにはサングリアの入ったグラスが、今両名の手に取られる。
「ハッピーバースデー」
乾杯の代わりにアルフィーがそう言って、ネーヴェのグラスを小さく鳴らす。
「ふふ、ありがとうございます。こうしてお祝いして頂けて嬉しいです」
誕生日を迎えていたネーヴェに、アルフィーはそのお祝いをする。
ネーヴェが提案してくれたサングリア、アルフィーは少しその鮮やかな紅を眺めると口を付けた――飲みやすかった。
「苦くないお酒もあるんだな……」
飲みすぎに気を付けた方がいいなと、思うアルフィーの尻尾がひゅんひゅんしていた、気を付けますよ? はい。
ネーヴェもサングリアを飲んだ後、完成したガトーショコラを口へと運ぶ。
「幸せの味が致しますわ」
美味しそうに、言葉通りの様子を見て、アルフィーもチョコを手に取ると一緒に食べる。
「うん、上手にできた」
チョコとサングリアの香りのひと時は、ゆっくりと甘く流れる。
●
チョコレートの方が気軽に贈れると言う意見もあれば、『甘輝祭』と言えば宝石を用いたアクセサリーだ、と言う職人は居る。
ここはアクセサリー造り会場、訪れた人々はデザインを考えたり、贈る相手に似合う宝石を探したりと賑わっていた。
流浪の吟遊詩人、キオルティスの手が今日は楽器では無く、アクセサリー造りに動いている。
愛する妹へ贈るアクセサリー造りだ。キオルティスの気合はすごい、可愛らしく可憐な色選びと形を目指す。
「この一際輝く、けれど可愛らしさも残す石を中心にしようかな」
宝石選び、ひとつひとつを見て妹に似合う石を探して作業台へ。
「指輪……だと重いよね。ブレスレット、ペンダント……そうだ!」
悩みを経て、解は天啓を得る。
「ピアスにするのも良いかもね!」
モルガナイトの煌きを彩るピアス、その完成にキオルティスは妹の喜ぶ顔を想像して微笑んだ。
●
「ワインを飲みに行こう。前に葡萄を踏んだやつだよ。ついでに肉料理も食べられるらしい」
ヨル・スレイマンが、ナハシュを今年のワインと肉のコース料理を食べるデートに誘って、レストランを2人で訪れていた。
暖炉の火が、外気の冷たさを忘れさせてくれる。
煉瓦と木造のレストラン、派手過ぎない落ち着いた内観は訪れた人々が静かなひと時を過ごせる様にと造られている。
レストランを訪れたヨルとナハシュの2人は同じテーブル席に腰を降ろした、オーダーを伝えればあとは待つだけだ。
「あのブドウがどうなったか気になってたんだよな! 丁度良かったぜ」
しばらくすれば、料理が運ばれ――ワインの封が切られてグラスへ注がれる。
逸る気持ちと期待のように2人は『乾杯』とグラスを鳴らした。
「美味しい。あれでちゃんとワインになるものなんだな⋯⋯」
ヨルはあの日の光景を思い出しながら、口にしたワインを感慨深く味わう。
早速肉料理を味わい、ワインを飲むナハシュ。
「肉と一緒に食うとこれがまた! 合うんだよ!!」
「そうだな」
ナハシュの美味しそうに食べる姿を見るのが、ヨルは好きなのだと、その笑顔を見るたびに思うのだ。
「甘輝祭のおかげで、自分の誕生月が覚えやすくなったな」
今日はヨルのお祝い、だから普段よりも特別な料理でナハシュと共に時間を過ごす。
(本当に生まれた月なんて覚えてもいないわけだが……)
とは、ヨルの内心のつぶやきだ。
「別に誕生日を何回やろうが、歳は取らねえと思うけどな。まあその分俺が年に12回くらい誕生日になればいいな」
ナハシュの砕けた笑顔に、ヨルは釣られて笑顔になる。
誕生日は美味しい料理を食べられる日だと思っているナハシュの明るい声。
「君は気分ですぐ誕生日を増やしてしまうけど、俺は年に一度でいい。下手に歳をとりたく無いからね」
ワインを片手にヨルは普段通り微笑む。
「いいじゃねーか、それならちゃんと飯を食うだろ!」
ナハシュの言葉に、『そうかもな』とヨルは笑って答えた。
ヨルに取っては、ナハシュと共に摂る食事なら、自然と進むかも知れない。
レストランで料理をワインを楽しんだ帰り道、ヨルは自宅でも楽しめるように今年のワインを買って帰るのだった。
●
漁港から近い場所、そこは潮風も吹き込んで寒さをひと際強く感じる事もあるだろう。
そんな場所では、より温かい物が美味しい。
「漁港がある、つまり海鮮が食える、=酒が飲める」
ベルク・オスマットの方程式を、全肯定するように漁港から少し歩けば居酒屋や飯屋が並ぶ。
鍋の香りが、潮風に乗ってベルクの鼻に届き。噂の海鮮鍋屋へとその足を向ける。
すこし遅れて、ルイドも『鮟鱇鍋』を食べに、同じ店を訪れたのだった。
寒い時期は、エサが豊富な時期に食べて蓄える魚種は多く、その旨味は自ずと増すのだとルイドは学ぶ。
程よく煮立つ鍋の香り。
(さすが、具の種類も豊富だな……鮟鱇ってのは確か、肝が旨いんだっけか)
どれどれと、ひと口。
「――」
ルイドは天を仰いだ、いや屋根の向こうの蒼天がルイドの眼には見えている。
(あぁ、なるほど、これは駄目だ)
酒だ、ルイドの片手が上がり店員が威勢のいい返事でオーダーを承った。
「――いやほんと駄目だわ、これだけ食っちまうじゃねぇかこんなの」
箸が止まらない、なんて大袈裟な物言いをするヤツがいたもんだと思ってた。
味噌と共に引き立つ肝の味が深みを与えた鍋汁、それは。そうした食材の味を引き立てる酒は、無論それを見越した品揃え。
「良い食べっぷりだな兄ちゃん、コレも試してみろよ!」
近くの飲兵衛がルイドにおすそ分けしてくれた。
「……これは?」
「アンコウの肝を茹でて切ったヤツと、ハギの生肝だ――トブぞ」
その言葉に、普段のルイドなら『ヤバイやつなのでは?』と止まったかも知れないが、既に箸はノンストップだった。
薬味もあるし、酢を利かせたタレもあるが、飲兵衛は言った。『まずは何も付けずに食べな』と。
ルイドはその言葉頷き、箸で口に運び――『肝は旨い』と再び空を仰ぐ。
この日の酒量は、ルイドの新記録を更新する事になる。
そんな店内の様子を、守護神のように見守っていたベルク。
「一人で飯を食い酒を飲むときはな、静かな、それでいて救いの時でないといかんのだ」
最初からそう言う集まりだと言う時を除けば、美味しい物を食べる。
その事に集中していたいのだ。
鍋の湯気と香り、口に運べば広がる魚肉や野菜の味が噛むたびに滲み。そして味噌の風味に鮟鱇の肝が深みとコクを奏でる。
熱い――。
それ以上に、美味しい。
ベルクはその悉くを、静かに味わい。熱さを逃がすように口から白い吐息を吐いた。
「うん、酒も美味い」
シャルガネで多い酒造の酒、見た目が同じでも甘い奥行きのある酒から、鋭いキレのある物と種類も多い。
鍋の締めまで、まだ腹に余裕を感じたベルクは、見守っていた店内で見付けた品。
「我にもあの品と、アレに合う酒を――」
見守る中で見付けた一品、酒飲みとしては頼まずには居られなかったと言う。
●
積もった雪を、道端へと掻き分ける人の姿もまばらに見える古都の冬景色。
白の下に本来の色がちらりと見える中を、白い息を連れて歩く。
妹への『贈り物』を大事にしまって、キオルティスは街を回遊。
気になった屋台で買った香草串焼きと、グリューワインを片手に他にも何か無いかと散策していた。
そんな彼の眼が留まったのは、可愛い猫の小物達だ。
「おや、この仔もそっくりだね」
旅するキオルティスが現在身を寄せているオーベルジュに居る黒猫と似た物を見付けて楽しんでいた。
寒空の中であっても、商魂と言う情熱は下がらない。
「咲く花も勿論違うし、各都市の色は大事だと思う」
(何でも手に入るのはつまらないってことだよ、リブラネスタ)
『甘輝祭』と言う季節、その場所でしか無い品。ルーンス・ラグネルの目は厳しい。
「グッズのモチーフも海に由来するものが多いね」
ヴィナスが訪れた雑貨屋の品揃え、そのひとつの茶器を手に取りながら共に街の視察をしているルーンスと話す。
今は、まだ少し先の事だが――ヴィナスは何れ弟が家督を継ぐ際には、商人として復帰したいと決めていた。
今回のエスト・ポーラの視察も、その時を迎えた際に『目を鍛える』と言う名目もあり、色々と見て回っていた。
「冷やしたお茶を飲むのに向いてそうかな」
海のような色合いのガラス製のティーポッドを手に取る。その感触を確かめるヴィナス。
「茶器というとどうしても陶器の高いものに目がいくけど、気軽にお茶を楽しむ文化が僕ら庶民に広まってもいいよね」
ルーンスも茶器の品定めに真剣だった。
お目に留まったのは、鮮やかな夕焼け色のティーポッドだった。
「これは果実茶を飲むのに楽しそうでしょ?」
ヴィナスへ向けるルーンスの笑顔は、無邪気に輝いている。
2人はそれぞれ手に取った茶器を購入すると、マジカルポケットへと収めて行く。
他の店を周り、また気に入った品を見付けたルーンスが、ビーズ細工が綺麗な『リボンの髪飾り』を買ったあとの事だ。
「あれ?」
ルーンスがヴィナスの姿を探す。
気付けばヴィナスは、ルーンスとはまた違う品を見付けて会計をしていたようだった。
その様子を見ていたルーンスの眼に、2個の『夜空色のアンクレット』が目に入る。
(……なるほど)
会計を終えたヴィナスに、ルーンスが言う。
「左足につけてもらうんでしょ」
悪戯っぽい顔をしたルーンスは、的確にヴィナスの意図を見抜いていた。
「俺は独占欲が強いからね」
そう答えるヴィナスの顔を見ながら。
(にいさまも僕のことなんて言えないと思うけどなー)
そうルーンスは思いながら、街を歩いた。
●
「こんにちは」
街を歩いて居たルーンスとヴィナスは、見覚えのある背中に声を掛けた。
振り返ったのは、パトラッシュ=L=アルアータだ。
「あら、こんにちは。2人共、楽しんで貰えてるようですわね」
微笑みと共に白い息が舞う。
「うん、良い買い物ができたよ。ね、にいさま」
「あぁ、勉強にもなった」
パトラ独りであれば、そのまま商人談義に花を咲かせたかも知れない。
だが、そのパトラの後ろに居るルアンナに気付くと、挨拶をそこそこに2人は街の散策に歩き出すのだった。
「じゃ、また」
「えぇ――では、行きましょうか、ルアンナ様」
「はーい!」
ルアンナはレストランでも扱われているワインを買おうと街を散策している所をパトラに発見されたのだった。
欲しい物を伝えれば、適宜お店を案内してくれるパトラは、便利な買い物ナビとなっていた。
「そう言えば、良い小麦粉を扱ってるお店は――興味あるかしら?」
「それは気になりますね……」
パトラの提案する品々を前にルアンナの懐に、寒波が訪れそうになった。
マスターコメント
ご参加ありがとうございました!!(五体投地)
『甘輝祭』に賑わう街を楽しんでいただけたでしょうか。
様々な方々に楽しんでいただければ幸いです。
イベントシナリオ易しい 報酬:少ない16 / 6〜25人
2023年02月28日 20時34分05秒 公開
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