【鬼哭】商売の仁義
紀藤トキ
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シナリオID:2750
オープニング
「……今は様子見だ。北へ向かわせた連中も返って来ねぇしな。なんだよ、グリーン何とかってのは」
「へぇ。幹部の皆さんはこんな状況でも理性的なんですね。取引先としては、その方が助かりますが」
苦虫を噛みつぶしたような顔で言うゴブリンは、ホワイトライフの幹部の一人で名前をノランという。その前でにこやかに糸目を細めているのは、王国南部の海洋貴族ディンドルフ家の三男エドガルだ。彼は王都でやらかした為に国内的には謹慎中だが、国外の商談は別という事なのだろう。
「とはいえ、現場の作業員らは話が分からん。ブラックデスの強面が居なくなったせいで、喧嘩を吹っ掛けに行こうとしてる奴らも多い」
「なるほどなるほど。かといって、貴方の立場で部下に自重を命じれば、弱気だと思われて足元が揺らぐ、と?」
「見てきたように言いやがる。その通りだ。オレのすぐ下の奴が煽ってるのは分かってるんだがな」
幹部のゴブリンは、ゴールディ郊外の三か所で薬物の畑を経営していた。そのうちの一つ、最大の畑を任せている老ゴブリンが妙な野心を燃やしているらしい。ブラックデス側に手を出させて最終的に相手の畑も乗っ取ろうとしている程度ならよし、上役のノランに事態の収拾ができないと見せてから自分の手で華麗に解決する事で、ノランを追い落とそうと企んでいる可能性もある。
「なるほど。ではその男にお引き取り願えば良い、と」
「殺す以外でな。あの爺さんにも使い道はある。アンタの方で事を収めてくれるなら、取引では少し譲ってやろう」
「ははは、商売にも仁義はあるって事ですね。結構な事です」
他のマフィアも商材として扱ってはいるが、その薬物に関してはホワイトライフに一日の長がある。エドガルのように質を重視する客にとっては、何も無くとも事態が拗れる事は避けたい。万が一、ブラックデスとの抗争で畑が焼けでもしようものなら、大損害だ。
「大丈夫です。事はクリーンに……。そうだ、冒険者ギルドの方々にお頼みしましょう。暴走しそうなゴブリンを穏便に抑えて下さい、とね」
「任せる。アンタにもオレにも繋がらないのが一番だろうが、最悪でもアンタの所で止めてくれ」
「ええ。お任せを。彼らは契約には忠実でしょうし、綺麗な仕事をやってくれるでしょうからね」
悪そうな顔で悪そうな2人が含み笑いをしているのだが、実際にやっている事は騒動を未然に止めるための話し合いである。薬物の畑も、表向きは薬の材料を作っているだけだ。ちょっと精製方法を変えれば毒にもなるが、それは薬草の罪ではない。冒険者ギルドはその辺りの事情も精査し、エドガルからの依頼を引き受ける事にした。
「ブラックデスの畑の作業員が、ホワイトライフの畑の作業員へ嫌がらせをしています。まあ、普段は逆なので意趣返しの面もあるのでしょうけれど……。それを穏便な手段で止めて欲しい、というのが依頼人の意向です」
作業員はどちらの集団も一般人のみ。畑同士は密林を隔てて離れているのだが、作業を終えて遊びに行く近隣の人里は同じ村。酒場は一軒しかない。とくれば殴り合い程度は日常茶飯事だったのだが、最近はそれが酒場の喧嘩の域を超え始めているのだそうだ。翌日以降に残るような怪我をする者も出始めている。
「ホワイトライフの作業員達はブラックデスの嫌がらせを止めて欲しいと担当幹部のノラン氏に訴えているそうですが、ホワイトライフの本部は動こうとしないので不満も高まっているようですね……」
被害者側のホワイトライフも問題を上に訴えるだけで、現場同士で交渉をするといった解決への動きを自主的に採ってはいないそうだ。末端の現場作業員は何もしてくれないホワイトライフ本部への不満も溜めつつあるらしい。まだ職務放棄などはしていないが、状況次第ではストライキに発展する可能性もあるという。もちろん、不満から上からの静止を聞かず、酒場だけでなく昼も夜も問わぬブラックデスとの本格的な抗争になる可能性もある。どちらにしてもホワイトライフにとっては頭の痛い状況だ。
「ブラックデス側の作業員のリーダーは、最近父親から代替わりしたゴルンという名の18歳の血の気の多い若者です。家族構成は、娘が二人、妻は死別しており日中は幼い娘だけが家に……、この情報って必要なんですかね?」
ギルドの受付は首を傾げるが、そのまま読み進む。ホワイトライフ側のリーダーはベススという長老格で身寄りは無いそうだ。両グループとも同じ村に拠点があるのだが、家の区画もきっちり分けられており普段の交流は無い。酒場での喧嘩以外には。
「いっそもう一軒酒場作ればいいんじゃないかと思うんですが、面子が邪魔するんでしょうね」
両マフィアが薬草畑を作りに乗り出してくる前からある店らしく、昔からその酒場をどちらの勢力下に置くかで争ってきたそうだ。酒場の主のブークは三代目で、両者から適度に距離を取り抗争には関わらないでいるという。そんな立ち回りが出来る辺り、できる男なのだろう。
「まあ、酔っ払いの素人の喧嘩なんだけどね。素人なだけに、加減が出来なくなるまで熱くなる前に、目を覚まして貰いたいのさ」
そのために手段は選ばなくても良いが、守って欲しい条件はあるという。農作業に支障がでてはいけないので、死人も怪我人もご法度だ。
「え? なんでそんなに口を突っ込むのかって? もちろん、商売の為さ。事故で商品が手に入らなくなるのは困るからね」
にこやかに語る依頼人のエドガルは、まっとうな事を言っていてもどこか胡散臭い。とはいえ、依頼は正規の物なのだ。どうにかして喧嘩を治め、できれば今後もおとなしくなるように釘を刺して欲しい。そう頭を下げられ、冒険者達は問題の村へ向かった。
解説
マスターより
リプレイ
「……悪いが、店の裏にしてくれ。新しい商売を始めたと思われると厄介だ」
ヨル・スレイマンとナハシュから、事態の収拾の為に協力を求められた酒場の主ブークはそう答えた。2人が要求したのは、携帯用のサウナとゲルの設置許可である。希望は店の前か横、表から見える場所で人の目を引きたかったのだが、ここは二つのマフィアの境界地帯であり、無断で何かを始めたと思われれば面倒になるという。
「ああ、それは仕方がないな。裏って言うのはどこなら良い?」
「水を汲みに通る道筋の邪魔にならん場所に置いてくれ」
ブークも客の間柄が険悪なこと自体はどうにかしたかったらしく、冒険者が勝手に私物を置いたという話であれば止めはしないという。
「私は踊り子として店にあがらせてもらいたいわ。喧嘩がエスカレートする前に止める役をするわね」
「……踊り子。あんたがか」
「こう見えても、一通りの経験はあるから大丈夫よ」
一見すれば、育ちの良い娘が冒険者になったという雰囲気のシンディー・ホシカの申し出に胡乱な目を向けたブークだったが、一室を借りて着替えて来た様子を見て口笛を吹く。
「いや、御見それした。どこぞでステージに立ってたのか?」
「色々とお仕事で、ね。それと、踊り子としての名前はツバキよ。よろしくね」
ツインテールに纏めた髪型は顔立ちとも合わせて実年齢よりも幼さを強調し、メリハリのついた肢体とのミスマッチからどこか妖しい雰囲気を醸し出していた。ステージに立つのは依頼解決の一環だから、出演料は不要だと言うとなるほどと頷く。
「そう言う事なら、アンタらの飲み食いは店の奢りでいい。やりすぎんよう、適当にやってくれ」
「あら、お兄さん話がわかるわね!」
「おう」
明るく、喋り方まで変わったツバキへ、ブークは気にするなというように片手を振った。
(依頼人の事を考えると、成功しても悪党を喜ばせるだけなんじゃ、って気もするけど……)
何を考えているか分からぬエドガルの糸目を思い出しつつも、ルベア・ベルニは仕方がないと切り替える。依頼人がうさんくさくとも、依頼は依頼だ。ルベアとゲルダ・クラインは午前中のうちに、ベススの人となりを確かめるべく旅の冒険者として接触を行っていた。その際の感触からすれば、ベススは骨の髄までの悪党だ。
「ブラックデスから嫌がらせがあるというお話について伺った時には、御顔は怒っていましたけれど、内心では喜んでいたように思いました」
「喜んでいた……? どんな感じだったの」
旅の冒険者として怪しまれぬよう演技に注力していたルベアと、話術で相手の情報を引き出すゲルダで役割は分担されている。ゲルダが洞察したところによれば、その時の老人の様子はうまくいったとほくそえんでいる様子だった。
「何か企んでるのかしら。そういえば、ホワイトライフからブラックデスへの意趣返しについて聞いた時の様子も、少しおかしかったわね」
「どういうことかって他の人に怒鳴り散らしていましたけれど、怒っているだけじゃなくて焦っているような感じもしたような……?」
「ベスス君は、出世しようと企んでいたのかな? 周りを煽っているのかと思ったが」
聞いていたヨルが考え込む。女性2人が聞いてきた限りでは、ベススは周囲を抑える側だったようで、「こちらから手を出すなと言っただろう」と凄い剣幕だった。体格から言えば小柄な老人に、大柄な若者がペコペコしていたと聞いて、今度はナハシュが疑問を呈する。
「おい、そんなやべぇジジイにガキを合わせて大丈夫か?」
「あ、そうですね。あのお爺さんが小さい子供を可愛がる様子は想像できない、かも……」
ゲルダもむむむと唸った。ルベア発案の作戦は、一方のリーダーであるゴルンの幼い娘を素性を明かさずにベススに引き合わせ、子供を仲介に双方の険悪な空気を流してしまおうというものだった。が、ベススは子供は可愛いという前提が通じない相手かも知れない。
「周りにいた人は、ちょっと気の荒い作業員って感じだったから、そちらなら話が通じるかしら」
ルベアの見た所、若者たちには本職の凄みのような物はない。多分、喧嘩はしても殺し合いはした事は無いのだろう。何人か殺していそうなベススとは会話もちぐはぐな感じだった。情に訴えるなら、ベススよりは手下の方かもしれないと思う。
(……なるほど、ベススというのは覚悟の決まった老人、か)
黙って聞いていたシャドウは、脳内の計画を修正する。シャドウは他の仲間よりも後ろ暗い策を考えていたが、依頼の本筋には忠実なのがポリシーである。拉致して脅したとしても、殺さぬように配慮しながらでは老人が屈することはないだろう。心を折れぬまま解放せねばならぬ可能性も踏まえ、マフィア以外の第三者に疑いを向けるといった小細工も考えてはみたのだが。
(身元の知れる物を現場で落とす、などと言う手段しか思いつかなかった。ディンドルフ家が貴族である以上、使えない手だ)
王国貴族の家紋入りの物を不正に作るなど、引き受ける職人がいる筈もない。素人細工ではさすがに無理があるし、この程度の依頼で王国に入りづらくなるのは御免だ。
(……。もう一人の方はどうだ?)
ブラックデス側のリーダーのゴルンの情報を得るべく、シャドウはもうしばらく耳を澄ませた。
「あんたらのやりたい事は分かった、が……うちは酒場で、夜にしか客はこんぞ」
「お昼は、ご飯を出さないのですか?」
ゴルンの娘を連れだしてホワイトライフ側と接触させたい、という案を聞かせられたブークは困った顔をしていた。ゲルダの質問にも首を振る。どちらのマフィア連中も、日中は自分達の畑に出ているようだ。
「ゴルンがいなくて、ホワイトライフの奴らが居る、というような時間帯はねぇのか?」
「風邪でも引けばたまたま来ないって場合はあるが、だいたいは一緒だな……」
ナハシュの問いにも渋面を浮かべた。仕事が終われば酒場に繰り出し、こっちの席はホワイトライフ、あっちの席はブラックデスで睨み合うという。
「自分達が来なければ、その日は相手が我が物顔で飲むって事になる。それは癪に障るんだろう」
「子供の喧嘩じゃないんだから……」
呆れたルベアはため息を吐いた。だが、子供のような言い分で手が出る日もあり、日に日に酒場でのトラブルもエスカレートしているらしい。ルベアの要望を叶えるのはそのままでは難しそうだ。
「ゴルン1人を足止めするなら、俺に考えがある。自宅に帰ったときに娘がいない状況を使って脅せばいいだろう」
そこまで聞いていたシャドウが、淡々とした口調でそう提案する。確かに時間は稼げるだろう。脅かす事で拗れる可能性もあるが、他に時間を調整できそうな案もなかった。それ以外の顔見知りに会わせないようにするのは、現場で工夫するしかない。
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「親父さんから伝言で、今日は酒場で待っててほしいんだってよ。店主もいい奴だ。沢山良くしてもらいな」
「……? 酒場って、ブークさんの? いつもは近づくなっていうのに、何だろう」
ゴブリンは一人前になるのが早く、結婚も然り。18歳のゴルンの娘は5歳か6歳といった所だろうが、同年代の人間の子よりはだいぶ大人びていた。上の娘は怪訝そうではあったが、フェイクカバーで近所の男性の顔を借りたナハシュを疑うほどではない。手早く支度して妹を背負い、外に出た所でゲルダとルベアに気付いて足を止めた。
「……この人たち、誰?」
「私達は旅の冒険者よ」
「うちにお金はないよ」
とっさにそう口にしたルベアへ、娘はせちがらい言葉を返す。
「酒場には知らないお兄さんやお爺さんがいると思うけれど、わたしたちが危ない事がないようにするわ」
「ふぅん……? 私が知らないっていうと、あっち側の人? 私が攫われたら、お父さんが困るんだけど」
と指差したのは、ホワイトライフの居住区がある方向だ。留守を任されるだけあって、何も知らぬ子どもという訳ではない。
「大丈夫だって、ガキがややこしい心配すんな」
「ええ。わたしもお守りしますから」
ナハシュとゲルダが何とか話術で言いくるめたが、少しばかり怪しんでいるようだった。
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酒場の中にいれば顔見知りの者に見つかる。娘たちはゲルへ隔離するしかなかった。警戒はまだしているようだが、ここまで来ると物珍しさが先に立つらしい。
「小さいけど家だ。凄い」
「気に入ったか? じゃあ、お前にここの主人を任せてやる」
持ち主のナハシュがそう言い、ヨルと共にサウナの設営に回った。2つのサウナで騒ぎにならぬよう見張るには、2人いた方が都合は良い。娘を預けられたルベアは腰を落とし、視線を合わせて語り掛ける。
「アナタには妹と一緒にこの家に来るお客さんをもてなして欲しい。でもお父さんのことは言わないで」
「わかった。酒場に来てるのは内緒にしないとね」
お仕事を任された感で満足そうに頷く。うまくやればお父さんも喜んでくれると言うと、少し不思議そうではあった嫌な顔はしなかった。
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帰宅したゴルンは、家に誰もいない事にすぐに気が付いた。慌てて飛び出しかけた前に、いやらしい笑顔を浮かべたシャドウが割り込む。
「だ、誰だあんた。邪魔しないでくれ」
「急いでいるのはかわいい娘の事か? 心配だろうなあ、いる筈のところにいないと」
「あんた……、何か知ってるのか?」
「さてねぇ。親のアンタがやらかしたことのせいで、いまごろ娘たちがどんな目に遭っているか……、なんて知らないぜぇ?」
シャドウの一言ごとにゴルンはいいように煽られていく。途中、殴りかかって来たが授恵者に叶う筈もなく、苦も無く取り押さえられてしまった。
「夜は長いんだ。のんびり待とうじゃないか。耳をすませば、可愛い娘の声も聞こえるかもしれないぜぇ?」
「やめてくれ。あの子達には何の関係もない。悪いのは俺なんだ」
無力感にむせび泣く相手に、シャドウは悪い笑顔を向ける。そろそろ酒場に連れて行く頃合いだろうか。
●
「喧嘩なんかしないでよね。踊る気なんてなくなっちゃう!」
「お。おう……」
「喧嘩で怪我をして、お仕事ができなくなってしまったら、大変だと思います」
ツバキの観衆への注意や、ゲルダの説得は聞き届けられていた。マフィア傘下と言ってもこの場にいるのは肉体労働者で、抗争の主役ではない。ベススは自分に挨拶なくステージを始めた事やサウナなど設置した事にイラついているようだが、ブークが彼女らを雇ったわけではないと聞いて怒りのぶつけ先に困っているようだった。
「……昼に来た奴らと言い、授恵者サマが何でこんな小ネタに食いついてやがるんだ……」
授恵者が珍しかった頃の常識からアップデートされていない老人はぶつくさいいながら酒を煽っている。物珍しいサウナに若者が興味を示しているのは仕方がないと見過ごしていた。血の気の多そうな若者からナハシュやヨルに引っ張られている事も見過ごしてしまっている。
「アツくなり過ぎて喧嘩するんじゃ折角の酒も不味くなる。折角飲みに来てんだ、楽しくやろうぜ」
「話せば、意外と話が分かるって事もあっただろう?」
「……まあ、な」
表立って他の面々の前では無理にせよ、和解したグループすらあった。いつもと違う賑わいを見せる酒場に、新たな人影がやってくる。
「ブークの酒場じゃねぇか。……娘はどこだ」
「よく耳を澄ませてみるんだな。いい声を聞かせてくれるだろうさ」
シャドウがゴルンを連れ込んだのは、酒場の裏手だった。歯噛みをしながらも、言われるがままに聴覚へ注意を払う。と、ゲルの中から微かに声が聞こえて来た。
『誰かにいじわるする人って、どう思いますか?』
『例えばどんな』
ゲルダと娘の会話が聞こえてくる。聞けば、ブラックデス側がホワイトライフに仕掛けた妨害について話しているようだ。
『大事な道具を隠されたとしたら、困ってしまいますね』
『ああ。ちょくちょくあるから困るんだよな。最近では二本持ってくようにしてるけどよお』
『おじさんも大変だね。酒は無いけど、お茶でも飲む?』
娘はゲルダと一緒にストレスをためた客を接待しているだけなのだが、ゴルンからすれば自分の所業を糾弾されているようなものだ。モノが抗争というよりはただの嫌がらせであるのも、こうして聞くとみっともなく思えてくる。だが、それよりも。
「こいつは、一体……? あ? おい、どこいったんだ」
シャドウの姿はいつの間にかなく、ゴルンは狐につままれたような顔で目を瞬いてから、はたと我に返った。
「あ、おい。お前達! 無事か!?」
「……父さん!? ま、まずっ」
禁じられていた酒場への出入りが見とがめられたと思い、慌てる娘をゴルンが抱きしめる。作戦立案者として、変に拗れたら抑えようと構えていたルベアがほっと息を吐いた。
「もうこりごりだ。俺は、親父とは違う。余計な事に手を出すのはやめとくさ……」
ゴルンの前にここを仕切っていた父親は、ベススのような強面マフィアだった。話術持ちの3人に促されて疲れ切った様子で語る内容からすると、代替わりのプレッシャーにつけこまれてベススに上手く転がされていたらしい。
「なるほどね。火種があると報告を挙げつつ、それはマッチポンプだったって訳か」
「だが、ベススがやる気でも手下が乗って来ないんじゃねぇか? この様子だと」
これまでも抗争にはならず、酒場で喧嘩する程度しかしなかった連中だ。一方の当事者だったゴルンが改心した上、適度にガス抜きをされた姿を見れば、今後はこれまでのようにヒートアップする事は無いだろうと思えた。
●
「やれやれ、冒険者というのは実にいい仕事をするじゃないですか。部下に欲しい位ですよ」
「おい、本当に手筈通りに進めたのか? だいぶ話が違うじゃねぇか」
苦笑する商人のエドガルに、ホワイトライフの幹部ノランは白い目を向ける。冒険者ギルドは依頼の背景をしっかり調査するので嘘はつけないが、彼らは自分達に都合の良い情報を選んで渡していた。
「そこをもう少し都合よく解釈してくれるかと思ったのですけれど。まさか本当に正直に仲裁するとはね」
「あそこにいるのは、ベススの爺ぃ以外は全員カタギに毛が生えたような連中だ。しょうがねぇと言えば、それまでなんだがよ」
何も知らぬ冒険者が勘違いしてブラックデスを弱体化させれば併合しやすくなる。その後に誤解の原因をベススに押し付ければ、併合に恨みも買わないと踏んでいたのだが。
「……まあいい。ゴランの息子はベススの爺ぃに踊らされただけで、爺ィはもう余計な事は出来まい。ブラックデスの縄張りまでは取れなかったが、良しとしてやらあ」
「それはそれは。彼らを推薦した私としても、有難い事です。次の取引は期待しておりますよ」
ため息を吐くノランに、報酬を要求するエドガル。狸と狐の化かし合いは、今回は狐側が利を得たようだった。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜8人
2023年01月24日 13時14分13秒 公開
相談掲示板
ヒーラーのヨル・スレイマン。宜しくね。 普段はブラックデス側が嫌がらせをしていて、この期にホワイトライフが意趣返ししているのか、逆なのか⋯⋯どっちも言及があるけど、つまるところどっちもやり合ってて仲が悪い状況ってことで良いのだろうね。 互いのメンツを潰さないいい案があればいいんだけど、覿面な手段はパッと思いつかないな。 リーダー同士で不可侵条約でも結んで貰うか、双方を上手く説得して手出ししたくなくなるように仕向けるか⋯⋯どっちもやってみてもいいのかもしれないな。 いっそ第三勢力でも演じて、酒場で派手に暴れてみてもいいかもしれないけどね。 普段敵同士でも共通の敵ができれば手を組まざるを得なくなる⋯⋯みたいな展開は小説ならあるけれど! んー、もう少し考えてみるね。難しいな。
シンディー・ホシカよ。 依頼の参加が遅くなったけど、よろしくね! 私は、酒場に雇われた踊り子として行動するつもり。 酒場のケンカが発展して抗争になりそうって状況だから、 「ケンカなんかされたら、踊る気なんてなくなっちゃう!」 とか 「私の踊りを見て楽しんでほしいの」 といった言動で、酒場の争いを未然に防いだりとか、間に入って取りなすとかね。 依頼の内容的にも、酒場に迷惑をかけないやり方が推奨されてると思うんだけど。 とりあえず、「酒場のケンカがエスカレートして、本格的な抗争になってしまった!」 のは食い止めるつもりよ。 他の方も、けっこう方法には苦戦してる?
シーフのナハシュだ。今回はよろしく。 ゴルンは家族構成まで割れてんのか。大丈夫かコイツ。 依頼としてはブラックデス側が一方的に嫌がらせをしている風に聞こえるが、OP見る限り殴ってほしいのはホワイトウルフ側だしな。この辺の情報は酒場での双方の言い分と合わせて下調べしておきたいところだと思う。 ベススが始終静観に徹するなら、必要なら釘をさしつつブラックデス側が吹っ掛けてこねえように出来れば一番とは思うな。 踊り子は聞き込みもしやすそうですげえ良いと思うし、最悪第三勢力としてドンチャンやるのもありな気はするが、出来たら穏便にってことだしな! とはいえ、第三勢力はかなりアリなんじゃねえか。要は此処が喧嘩すると得する存在をちらつかせられたらいいんだろう。ずっと続くかは難しい気がする。 もしくはゴルンのガキを酒場に連れてくるくらいはしてもいいのでは?お小遣い稼ぎを兼ねて働く、もしくは定期的に酒場に俺達が連れて行って此処の常連と仲良くさせる、辺りしておくとブラックデス側の抑止力にはならねえかね。少し危険か・・?
シーフのルベアよ、宜しく。 第三勢力って聞いて思ったんだけど、ゴルンの娘を酒場に連れて行くのはありじゃない? ゴルンが18歳だから幼いっていうのも相当だろうし、多分親がどういう状況かもあんまりちゃんと分かってないと思うのよね。 分かってたら分かってたでその辺は連れてくるにあたり伏せるよう言い含めておきたいけど。 とりあえず立場を伏せて連れてきて、ホワイトライフ、特にベズスと仲良くさせる。 このタイミングではゴルンが酒場にいないようにしたいけど…ベズスからすれば孫みたいなものだろうし、表面に出るかはともかく愛着は湧くんじゃないかしら。 で、情が湧いたらゴルンにも現場を見てもらって。 多分取り合いみたいな構図になるだろうけど、目の前で争うのは、何より娘が嫌がると思うのよね。 つまりまぁ、娘を抑止力に使えないかな…って。
>ゴルンの娘を酒場に連れて行く とても面白い案だと思う。「家の区画もきっちり分けられており普段の交流は無い」とあるので、少なくともホワイトライフ側は娘2人のこともそもそも知らない可能性が高そうだ。 娘さんの安全性に関しては、酒場へも事前に話を通しておくといいかもしれない。酒場のブーク君も現状には困っていると思うから協力してくれるんじゃないだろうか。わざわざレッドブーツ系列の店を仕入れに使っているのは、レッドブーツの関係者でない限りホワイトライフとブラックデスの小競り合いに対する処世術っぽいものな。 >個人 そうしたら俺は「第三勢力が存在し、武器を集めている」というような情報を流しつつ、今は小競り合いしている場合じゃないとベスス君とゴルン君を説得してみるのをメインで考えてみるよ。彼らにもメンツがあると思うので、そこも踏まえて一線を引くにはなんらかの大義名分が必要だろう。 娘さんを抑止力にする作戦が上手くいけば、合わせて一時的な協定まで持っていけるかもしれない。 加えて、余裕があればある程度両者の不満を穏便に発散する場を設けられたらと思う。 踊り子案もとても良いと思う。とりあえずそれぞれの思惑がいろいろ異なっているので、いろんな策を複合的に講じる方向がいいと思っているよ。
>ゴルンのガキ なら連れてきちまうか!抑止力の材料として優秀だと思うし。美味いことホワイトウルフ側の奴らと仲良くなってくれたらイイ感じになりそうだ。 酒場の店主には話を通しておく必要はあると思う。そもそも連れてきている最中は俺らのうち誰かしら目を光らせる形にしておければ万全じゃねえかな。 最初なるべくゴルンがいない時間帯に連れて行くのも賛成だ。この辺はゴルンが家を出た後にでも連れてくればまあいけると思う。 >個人 そしたら嫌がらせってのが具体的にどんな感じなのかの観察、必要ならゴルンのガキを酒場に連れてくるまでの役もやってもいい。同種のゴブリンなら少しは見慣れてるだろうしな。仲良くさせる方はたぶん俺よりほかの奴が向いてると思うぜ。 あとは喧嘩以外の発散法で良さそうなものを幾つか提案の他、店主の許可が下りればだが、酒場の隣か前に携帯サウナを置こうかと思っている。2人用と狭いが、喧嘩以外での発散法、愚痴り場、情報収集等色々使えるかもしれねえ。
顔出しが遅れてごめんなさい……! ゲルダです。よろしくお願いしますね。 >ゴルン様の娘 とっても面白い案だと思います! ブラックデス側のいやがらせを抑制する効果もありそうです。 >個人行動 では、わたしはホワイトライフ側のリーダーの狙いを探ってみますね。 ホワイトライフ側は本部が動こうとしない部分に不満を抱いているとのことですので、――その理由を従業員が理解できればホワイトライフ側の暴走についてはある程度までは鎮められるかも、と。 オープニングにある通り「ブラックデス側に手を出させて最終的に相手の畑も乗っ取ろうとしている」のか、「上役のノランに事態の収拾ができないと見せてから自分の手で華麗に解決」しようとしているのか、現時点でははっきりとは分かりませんが、有用な情報が得られたら他の方々にも共有できるように動いてみますね。
書き忘れてたけど個人行動。 連れてくるのはナハシュさんがやるみたいだから、その後うまいことベズスと引き合わせて情を湧かせる方向に持っていくつもり。 もちろんゴルンにはバレないように動く必要があるけど、その辺りも一応手段は講じてる。 情報が出揃って話し合いに持ち込めそうになったら、ヨルさんの説得も踏まえつつ娘のことを明かす。って感じにできれば。