【再起】わくわくビヒモーランド
馬車猪
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シナリオID:2735
オープニング
縄張り争いに負けた長とその群れが、空きっ腹を抱えたまま食に溢れた地から去って行った。
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「おっす!」
新人代官見習いにして商会の主。
姓はなくてもそこそこ名の知れた少年が元気に挨拶する。
「おはようっす兄貴!」
「おはようございます。……代官になったんだから言葉遣い直せよ」
前者が3割で後者が2割。
残る5割は行儀良く食事をするビヒモー達で特に反応はない。
「おめーらもうちょっと愛想良くてもいーんじゃねーか?」
リットは夜番の仲間や部下には身振りで挨拶に応え、古びた特大木製クシを両手で抱え上げる。
すると食事をしていたビヒモー達が食べる速度を上げて、特大桶を空にしてリットの元へ殺到する。
「待っ」
衝突である。
貴重な財産である特大クシを庇ったので回避も防御も受け身もとれずにリットが吹き飛ばされ帽子も飛ぶ。
地面にぶつかるときは器用に受け身をとったが当然のようにとても痛い。
「おめーらなー!」
さすがに米神をぴくぴくリットの前で座り込むのは、座っていても余裕で3メートル越えの巨体。
リットと丸2年組んできたビヒモーだ。
「ったく」
リットは舌打ち未満の息をもらしてクシを動かす。
相棒は最近の豊かな食生活で健康的になり、少しクシを通すだけで毛並みも艶々してくる。
「おい、ひょっとして喧嘩でもしたのか」
リットが真剣な目つきになる。
血や傷はないが普段よりもゴミが多く、暴力の残滓じみたものを感じた。
相棒は無表情を貫くが尻尾が神経質に動いている。
なお、そんなシリアスっぽいやりとりの間もリットは全身で中堅冒険者の身体能力を使ってクシを動かしているし巨体のビヒモーはクシの位置を考えて姿勢を変えている。
(人間に無関心なボスがリットの兄貴に気を許してるっす!)
(あれは気を許しているというより便利に使ってるんじゃないか?)
リットの部下と仲間が何やら話し込んでいるがリットは気付かない。
力加減に失敗すると凄まじく重い蹴りが飛んでくるからだ。
「そろそろでけー仕事もあるし、頼むぜ」
リットが真剣に頼み込むと、ビヒモーの群れの長がやれやれという態度で1度だけうなずくのだった。
●
リット一党の頭脳である少女は、ぎりぎり黒字な帳簿から目を離さない。
担当地域での輸送は半ば以上義務だが、ヴィントに行く途中の村々から輸送を請け負うことでかなりの利益を得ている。
しかし担当地域の維持には金がかかるしビヒモーの食費も膨大だ。
平均的なビヒモーより体格がよい分エネルギーが大量に必要で、干し草はもちろん豆まで買い付ける必要がある。
「儲かってはいるのよ」
顔をあげる。
大柄なビヒモー達には飼われている意識がない。
労働力を支払うことで食事が出てくる便利な縄張りと思っている雰囲気もある。
「安く飼え……じゃなくて雇えるビヒモーが欲しいのに」
群れの長にじろりと一瞥されたので言い直す。
今朝早くの縄張り争いでも外からやって来た群れが追い払われた。
ここ1月で3回目だ。
冒険者に教わった牧畜の知識と技術で飼い慣らしたかったのだが、大柄なビヒモー達がストライキじみたことをして運送事業を混乱させかねないので捕獲を試みるのも難しい。
諦めるのは簡単だ。
しかしリット一党の最大の武器は輸送手段なのだ。惰性で今のままを続けるのは危険すぎる。
「ビヒモー用装具や馬車の専門家にそれぞれ頼むとしたら金がかかりすぎるから、冒険者に依頼するしか、ないわよね」
冒険者に対する期待が大きくなりすぎているのを自覚はしているが、これまでの成果を考えると期待してしまうのも自然なことだ。
まだスレていない赤ん坊以上若者未満のビヒモーが、元気出してという雰囲気で少女にまとわりつき仕事の邪魔をしている。
ふわっふわで、とても暖かかった。
●
「わくわくビヒモーランドです!」
冒険者ギルドの受付嬢が興奮している。
「ちっちゃなビヒモーですよビヒモー!」
安全な寝床と安定的な食料供給を得た群れがやることは決まっている。
つまり数が増えるのだ。
「完全な野生だと警戒心が強いですし飼われているビヒモーは所有者にとって大事な財産ですからねっ。なかなかもふもふとかはさせてもらえないんですがっ」
今回の依頼はビヒモーの面倒を見ることだ。
今は風よけや雪よけはあるが特別な施設はなく、群れの数が増えると窮屈になる広さしかない。
また、馬車や背中に荷物を固定するための装具も古いものや安価なものばかりでビヒモーへの負担も軽くない。
「いいなー。私も依頼うけたーい」
受付嬢であることを忘れたような言動だが仕方がない。
ちっちゃなビヒモーは可愛いのだ。
「えーと、依頼はビヒモーの面倒を見ることなんですが」
依頼の資料を机の上に並べて少し真面目な顔になる。
「ビヒモーが使う背負子とか馬車だけじゃなく、移動や宿営の仕方の再検討までして欲しい、らしいんです」
いくらなんでも要求が大きすぎる。
だから、ビヒモーの食事を作ったりブラッシングしたり一緒に遊ぶだけでも依頼成功にはなる。
「依頼人が成功すればするほどビヒモーとふれ合える機会が多くなると思いますっ。だから是非いろいろがんばってみてください!!」
ビヒモー大好きな受付嬢が、熱心に依頼を勧めていた。
解説
マスターより
リプレイ
ベルク・オスマットは普通の冒険者である。
同時に、帝国のまともな部分のために動く人材でもある。
「別の群れを合流させる必要はない、独立した群れとして運用するしお前達より扱いのランクは下げる」
だから、そんな人物が真剣にビヒモーに対して説得している光景は衝撃的だ。
群れの長は特に反応を示さない。
ベルクは決して諦めず粘り強く説得を続けている。
小柄な体を使った身振りと数を示すための大小の石を使うと、遠くから見ると子供の遊びのようだが近くで見ると一地方の命運を左右する交渉だと直感させられる。
そんなベルクに向かってミゼリア・L・ステュクスが無表情のまま首を振った。
「おなかがへった、そうです……」
儚げな美貌と過酷な来歴を感じさせる装束に似合ってしまう、幼子程度の知能と常識を感じさせる言動だ。
なお、本人は珍しいビヒモーに触れてテンションが上がっているが顔には表れていない。
「……今日はここまでにしよう」
ベルクは付き合ってくれたことをビヒモーの長に感謝し、通訳をしてくれたことをミゼリアにも感謝し交渉の道具を片付ける。
ミゼリアと子供の視線が、玩具のようにも見える大小の石を無意識に追っていた。
「リット坊の商会が力を付ければそれはすなわち殿下の力にもなる、手を貸さない理由はない……のだがなぁ」
次の交渉内容と手段と他の冒険者が進めている計画の進捗を並行して検討しながら、ベルクは他人事のような顔をしているリットをじろりと見る。
「ビヒモー達に拒絶されるというが、彼らの利になる部分は説明してきたのかね? 人もそうだが、彼らとて自分たちの利より損が勝るなら頷きなどそうそうしないぞ?」
「きとくけん? がでけーんだよ」
リットの疲れた顔は、新進気鋭の代官には絶対に見えない。
「すっかり成長しているみたいでおじさんは嬉しいよ」
ディレイン・オールドケイジはそこはかとなく満足げだ。
「……っていうか、月日が経つの早すぎない?」
記憶の中にいる少年と目の前の代官を比較し愕然とする。
そして再会までかかった年月を思い出し薄ら汗を浮かべる。
「時間の流れ、速くないか?」
そう焦るディレインはそろそろ四十路であった。
「おっと」
ディレインは気付いてはいたが場の空気を壊さないために敢えて受けた。
非常に体格の良いビヒモーが勢い余って接触し、リットには塩対応なビヒモーの長も立ち上がり見下ろすのではなく視線をあわせてくる。
「おいおい、まさか」
ディレインが瞬きする。
「君等あのときのビヒモーか」
2年前はもう少し常識的な大きさだった気がする。
手土産として動物のおやつを渡して、再会を祝して特大のクシを手に取り腕まくりした。
「筋肉がすごいな。ビヒモーの授恵者にでもなったのか」
ハサミやクリームも使って毛の状態を改善する。
「別の群れを受け入れると利益もあると思うんだけどね。1頭ごとの仕事量が減らせるはずだし」
でも本能的に無理なら無理って言えよとディレインが飄々と続ける。
「食い扶持が増える分はリット君たちが稼がないといけないけど、頼まれ仕事が劇的に増えるわけもないし、麦だけじゃなくて豆も作付け増やしたほうがいいかもね。これだけの体格だ。荷車の牽引や荷物を背負うだけじゃなくて開墾の中心になるのもありかな」
信頼され肌に直接触れられるディレインは、このビヒモー達がどこまでできるかだいたい推測できる。
「ただ、治安が悪い村は気になるなー」
道中に見た別の村を思い出す。
「ビヒモー誘拐とかシャレになんないし、見回り強化も……人足りるのかねぇ」
ディレインの会話を聞いたリットが頭を抱えていた。
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「決闘に負けた上でなお縄張りを分けてほしいという要求は通らないというものだ」
ストレガ・L・リベルガストラを、リット一党と同盟関係にある群れよりみすぼらしく数も少ないビヒモーの群れが弱々しい足取りで後を追う。
「別働隊になることで人間とビヒモーの働き口を増やすのだ。……チャンスを与えるのだ。ヒトの役に立ち、切磋琢磨しライバルとなるといいのた」
(とはいえ難しいのだ)
ストレガが把握している問題点は大きく分けて2つ。ビヒモーと住民だ。
「これは学舎のっ」
寂れた村の中からゴブリン達が飛びだしてくる。
少し前にブラックデスから離反したゴブリンが賭博や窃盗で暴れたのでこの地域で肩身の狭い思いをしている人々だ。
ただし、例の刻印のリスクを考慮しても他の村よりマシだ。彼等はビヒモーを売り飛ばしかねない。
「ビヒモーの群れを1つ受け入れることを提案するのだ」
実績とカリスマを兼ね備えたストレガからの言葉に表情を明るくするゴブリン達に、ストレガは厳しい態度で接する。
「強そうに見えても臆病で戦えるのは自衛のみなのだ。外敵も増える」
ビヒモーは大きく、魔獣の群れの腹を満たせるほどの肉がとれる良い獲物だ。
獰猛な長と就寝時の護衛と頑丈な体を兼ね備えた群れとは事情が異なる。
魔獣の他に、ただの賊だけでなく家畜としてのビヒモーを捕らえる能力と売り飛ばすためのコネを持つ凄腕犯罪者まで遠くから遠征して来る可能性まである。
「リット商会に話は通しているのだ」
自分達用の畑の他にビヒモー用の畑や厩舎を建てるための支援もされることを伝えると、村人達は覚悟を決めてうなずくのだった。
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丁度良い固さの地面の上で寝転がるビヒモーはとても大きく、寝ぼけて触れただけで並の建物は粉砕されてしまう。
「手強いな」
鎧を脱いで作業着姿のアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトが、目は真剣なまま不敵に微笑んだ。
牧畜と土木と建築について深い見識と技術を持っているので、大柄ビヒモーのおうち建設には最適の人材だという自負がある。
「ビヒモーの飼育がやり易くなるようなビヒモー舎を建築するぜ」
最初に目的を明確にして言語化する。
「出産を控えた母親が過ごしやすい部屋が最優先だ」
彼の婚約者を見れば、子育て前の準備がどれほど重要で大変なのかは良く分かる。
自分自身の領地を手に入れようとするのはちょっとやり過ぎかもとは思うが。
「さあ、協力してビヒモー舎を建築しよう!」
アルベルトの言葉にリット達が雄叫びで答えてビヒモーの長にじろりと睨まれた。
「壊れても安全な設計でいく。風除け機能は高いが雪にはそれほど強くない。大雪になりそうなら専門家を呼べよ」
アルベルトの指示は可能な限り分かり易くしているがリットには半分も理解できない。
「はい。冒険者ギルドで間に合わないとはヴィントで探します」
非番のリット商会が総出で作業員となり、特大の厩舎を建設していく。
「うむ……」
人間と獣の食事を担当中のストレガは、料理の手つきは鮮やかでも目は深刻だ。
前者は味と量を確保しつつ安くできたが、既得権が大きい後者はストレガの腕があってもほとんど安くならなかった。
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背負子がみしりと鳴った。
その音はかなり大きく、しかし何かが致命的に壊れる音ではない。
「どう、かな?」
エルが尋ねると、見るからにお調子者の若いビヒモーが走って飛び跳ねる。
荷物を固定しビヒモーの背中に重さを伝える背負子は、使い込まれてはいくが機能は維持されるのはもちろんより使い易くなる。
「装具とかの不備、で、ビヒモーさんたちに負担がかかる、のは、良くない、し。輸送量、も、ちょっとは、増える?」
エルが質問する。
「輸送の改善は確実ね。兵站の改善に繋げられるかどうかは代官……の部下……は無理でも私がなんとかするわ」
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクはリットを見てその部下を見て、自分自身がやるしかない部分を再認識する。
道具の修理の頻度と1度に積める容量の要望をエルが叶えてくれたのだ。
それを領地経営全体の改善に繋げるのは帝国支配者層出身のアウレーリアの役目だ。
「がんばっ、て」
数字と戦う戦場へ向かうアウレーリアを、エルは精一杯応援していた。
「びひもーさんよろしくおねがいします」
美貌が物理的に傷つき心の欠けも明白なミゼリアは、儚く見えもするし無残にも見えもする。
しかし種が非常に離れたビヒモーには関係ない。
人なつっこい子供がミゼリアに向かって直進。
ほとんど勢いを緩めないままぶつかりぐりぐりと頭を押しつける。
痛くはない。
練習台で散々試したので子供もある程度なら加減できるのだ。
ビヒモーがミゼリアのもとへ集まってくる。
生命力で耐えて戦うリットとは違う見事な防御と丁寧な行動に驚いている。
「順番、に」
子供と若者がミゼリアに構って貰っている近くで、エルが紐を使って大人を身体測定している。
ここに来る前に馬車等を扱う職人に教えを請うてきた。
運送を主に担当するビヒモーにあわせた道具を作るための準備はできている。
必要なのは情報と作るための時間。そして外部の協力だ。
(金属部分は、専門業者に任せる、しかない、よね)
背負子に荷車に体の負担を和らげる装具にビヒモー用お手入れ道具と作りたいものは沢山ある。
エルもまた、リット達を労働力として徴集して可能なものを作らせそれ以外のものは外部へ発注する。
「修理のやり方、おぼえて」
依頼期間が終わるまでの間、エルもリット達も明かりを灯して制作に没頭していた。
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文武で超人に等しい活躍をする冒険者がいても、今のままでは間に合わないのがナハト・シュライバーには理解できてしまう。
「無理をしてもらいますよ」
ナハトはストレガが見つけた群れとは別の群れを捕捉する。
既に誰かから許可を得るなどしていたら間に合わない状況だ。
生き物としての格の差で上下関係を理解させ、小さな傷も全てヒールで癒やし、生活魔法で最低限の火と水を確保し汚れきった体を綺麗にする。
ブラシなどが悲惨な状態になったが手入れは依頼の後だ。
「あの縄張りは無理ですが荒野よりはずっと良い場所です」
南の村へ群れを誘導しながら言い聞かせる。
(機嫌はとれていますが……)
動物と交感可能なナハトは小さな群れの心情を読み取ることが可能だ。
ナハトに対する忠誠心に近い感情と生き抜く覚悟と希望は感じる。が、これらだけでは治安の悪い村という環境と外部からの脅威相手に生き抜けるとは思えない。
「いいでしょうか」
途中でミゼリアが合流したとき、貴族として高度な教育を受け今も自らを厳しく律するナハトが安堵の息を吐きかけた。
「いっしょにとっくんしましょう」
ミゼリアが行うのは訓練だ。
ただし教えるのは戦う技でも戦術でもない。心構えだ。
ミゼリアがビヒモー達をじっとみつめる。
虚ろな赤い瞳の底から蠱惑的な輝きが這い出て群れの長の精神をかき乱す。
継ぎ接ぎだらけの褐色の肢体が、これまでミゼリアが抑えていた気配に包まれ1つの完成した美となりビヒモーに執着を押しつける。
「かつまえにまけるのはだめ」
ミゼリアは漆黒の手枷を盾として使いこなして衝突を防ぐ。
アダマントボディを起動する必要すらない。膨大な生命力は衝突時に発生した衝撃ではほんのわずかな割合しか減らないのだ。
(時間をかければ万全になるでしょうが)
ナハトは群れに度胸がついたと判断してすぐ村に連れて行く。
「へい、代官様からの命令でしょうか」
上辺だけの丁寧さも維持しきれない村長は、ナハトの後ろにずらりと並んで爛々と瞳を輝かせる群れに押されて冷や汗を浮かべる。
「このあたりをリットさんの飼いビヒモーの縄張りにします」
ナハトの後ろでふんす、とビヒモーが鼻息を荒くしていると多少は強そうに見える。
「しばらくは僕の狼をつけておくのでその間に仕事を覚えるように。小さい荷物をスピーディに運んで、あの群れと棲み分けを目指しなさい」
言葉は通じなくても、意図は通じた。
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「他の群れを合流させずに縄張り外縁の新牧場で飼えない?」
アウレーリアはこれ以上なく真剣なのだが、追い詰められて瞳に妖しい光が浮かんでいるようにも見える。
いい加減見慣れてしまって白地図から何も見ずに書き起こした周辺地図に、区割り案を書いては没にするを繰り返している。
「頭が良いとはいえ獣です。ビヒモーに多くを望みすぎるのは危険だと思いますよ」
砦に顔を出したナハトが、新たに定住した2つの群れについて教えてすぐに外出する。
今は少しの時間も無駄にできない。
「計算のやり直しね」
アウレーリアはため息を吐くが直前よりは顔色は良いし目の色も普通だ。
「ヴィント以外の周辺地域の復興需要に応えるなら今が好機……いえ帝国軍にも需要はあるから税代わりに仕事を押しつけられる可能性も」
帝国全体に余裕がないので、成果が出れば出るほど負担も大きくなるのはやむを得ない。
ちらりと視線を横へ向ける。
リットの副官が外面を繕う余裕もなくし、アウレーリアの計画を実行に移すための命令書と報告書を延々書き続けている。
代官見習いの代理として上司に報告して運転資金を要求し、参加ビヒモーの数増大に対応した施設建築・装備調達・新規求人を実施。
リット商会として積極的に新規顧客獲得も目指し御用聞きか宣伝の準備までしている。
「根を詰めすぎてもミスが増えるだけよ」
アウレーリアは数カ所指摘して、休憩のため外へ連れ出す。
そこではミゼリアが黙々とブラシを動かし、子供が機嫌良く尻尾を揺らしていた。
(あー、疲れた)
外見は優雅さを保ってベンチに腰を下ろすと、ブラッシングが終わった子供が許可も得ずにアウレーリアの膝に顎を載せてくる。
無意識にもふもふを楽しむアウレーリアの手は、10分以上止まらなかった。
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「だからだな、このままでは嫁や婿の当てがなくなるかもしれんだろうが。貴様等の子や孫の代にここの土地が半ば荒野のままだと思っておるのか」
ベルクは説得を諦めない。
喉は痛いし心労も積み重なってはいるが、正攻法が最も近道なのだ。
エルは慎重に長の毛を編み直している。
飾り紐の編み込みを任されるのは大きな信頼の現れで、エルは本当に集中している。
終わったときには自然と大きな息が出た。
少しだけ体型でも分かるようになった妊婦が、お疲れ様とでも言うように柔らかく頭を下げた。
(赤ちゃん、が、生まれる……)
エルのやる気が燃え盛る。
一通り完成した装備の再確認を熱心に始めた。
「荒野が生存競争の場であると同じように、政治も経済も生き残りをかけた戦いの場だ。リットと組むならまずリットを勝たせねば餌場を失うぞ」
ベルクの言葉を長が聞くようにはなったが、通訳がいても半分理解しているかも怪しい。
(なんとかなるか? いや、なんとかしなければな)
帝国崩壊前とは比べものにならないほど人も物も実りも少なくなった土地を見下ろし、ベルクはやり抜く決意を改めて固めた。
今回の梃入れの効果が現れるまで、少し時間が必要である。
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:標準8 / 4〜8人
2023年01月16日 12時09分29秒 公開
参加者
相談掲示板
ナハトです、よろしくお願いします。 えーと、今リットさんのところにいるのは大柄ビヒモーの群れで、他ビヒモーの群れ2集団は縄張り争いに負けて丘近辺を徘徊中という認識で合ってますでしょうか? このままですと大柄ビヒモーの群れが出産期を迎えた時に労働力が減ってしまうのなら別の群れも迎えておきたいところですが、色々課題が多そうですね。 大柄ビヒモーの群れに関しても居住環境など整えてあげたいところではありますし……。 一応動物交感やブラシを使って世話も出来ますが、別の群れを迎える為の行動も差し込めたらと考えています。
ミゼリア……です。よろしく、おねがいします……ね。 そう……ですね。わたしも、その、にんしき……です。 こちらは、ひとまず……むれのおさビヒモーさんに、ごあいさつをしてから…… こどもビヒモーさんたちと、いっしょにあそんで、ストレス解消というか…… はたけや、みちを、こわしたりするのを……なるべく、しないように、できたらなと……。 あと、ほかのむれのビヒモーさんたちを、特訓して…… むれのおさビヒモーさんに、同じ群れに、合流させてもらうのを、めざしてみようかと、おもって……います。 「可能性は極めて小さい」……なら、かのうせいは、ゼロではない……のかな、と。 あとは……ちかくの、ほかのむらは……どうしましょう、か。 つかわせてもらったほうが、よさそうなかんじ……でしょうか……??
ディレイン・オールドケイジだ。よろしく。 リット君の輸送ビヒモーには会ったことあるんだけど、同じ群れかな? あのとき頑張ってくれたあの子がいるといいんたけと。 必ずしも群れを合流させる必要はないんじゃないかなあ。 小さい方は縄張りを分けてもらおうとしてるわけだし。 もちろん、大きい方だって縄張りを削りたくはないだろうけど、長が賢いなら交渉の余地があるかも…理解してくれるかわからないけども。 縄張りを分ける利点(働く頻度を減らせるとか)を理解…してくれればなんとか…なる…かなあ。
そうですね……合流は大柄ビヒモーさん達的に受け入れられるかという所が結構ハードル高そうなので、それこそ治安があまりよくない村の近辺で保護というか飼いならしてみるのはありかもしれません。 ディレンさんも触れてますが、効果の程は解らないにしろ大柄ビヒモーの長には交渉というか話を通しておく余地はありそうですから……一応、僕は動物交感と交渉があるので試してみようかと思います。
ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 群れの受け入れ問題も大事だが、ビヒモーの中には妊娠している雌がいたり、依頼の中には「宿営の仕方の再検討までして欲しい」ってものもあるみたいだな。 そこで今回俺は、ビヒモーの飼育がやり易くなるようなビヒモー舎の建築をやってみようと思っているぜ。 ビヒモー舎を整備すれば、より多くのビヒモーを飼育できるだろうからな。 ビヒモーの群れ問題については、別の群れを大型ビヒモーの群れに合流させることに賛成かな。
キャスター、アウレーリアです。宜しく。 群れの扱いについては、私も無理に合流させなくて良いのでないかな、と思います。 ちょっと土地の距離感が分かりませんが、別の群れは別の群れのまま飼うと言いますか。 代官屋敷の丘から離れた、周囲の村で混ざらないようにして面倒を見られないかしら。 間に柵くらいは設けて、住み分ける感じの。 元の群れが文字通り馬車馬の働きで余裕がないのでしたら、こちらの群れから運び手を出す。 交互に担当などということにすれば、休みも増えて妊娠出産の対応も出来ることでしょう。 住処の代わりに労働力を供出してもらう感じで、双方ウィンウィンなのではと。 問題は実質的に牧場増設になるので、集約のメリットが得られず初期投資が嵩む点でしょうか。 別口で輸送業の利益率を上げる施策を用意しないといけませんね。 そちらはそちらで、何か考えておきましょう……。
エル、です。どうぞ、よろしく。 …(ビヒモーの)赤ちゃん、が、生まれる、なら…。 商会の利益、を、増やす、には、どうすれば…? ええと、わたしは、今の所。 ビヒモーさんたちの、背負子とかの作成、を、しようか、と、思って、ます。 得意、と言う程じゃ、ない、ですけど…。 >群れの扱い わたしも、別々、でもいい、のかなあ、と。 ビヒモーさんたちの、意思次第、で。
ベルクだ、よろしく頼む。 ビヒモーの群れの合流ないし別々に存在させるにしても、ネックになるのがリット坊一派の地力(というか経済力と人財)の無さだな。 余裕があれば、それこそ輸送ルートの中継地とか別ルート開拓とかにビヒモーの群れを使えたのだろうが…。 まぁ分けたところで別動隊を率いれるのが、実質本隊を率いてる副官の嬢ちゃんだけなわけだから無理な話なのだが(溜息) 現実的なのはアウレーリア殿の言うように群れごとに独立させておいて仕事をローテーションやシフト制で回すことか? まぁビヒモーの各群れが納得すればの話になるが。
ストレガなのだ。よろしくなのだ。 私もビヒモーは合流させる必要はないのではと思うのだ。他の村に牧場を作るのがよいのだ。 私は他の村で牧場経営できるか視察してくるのだ。