雪百合騎士団、シャルガネの温泉に行く

おおくまねこ

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シナリオID:2649

オープニング

●温泉旅行のお知らせ
「みんなにいいお知らせがあります。私達雪百合騎士団は今年の年末、シャルガネ自治区の九頭竜温泉(くずりゅうおんせん)』に遠征に行くことになりました」

 わあああああ!
 団長メイアの宣言に、百余名の騎士達は湧いた。
 シャルガネと言えば、東方大陸由来の独特の文化を持つ、辺境都市群の中でも特に有名な土地の名だ。一生に一度は行ってみたい観光地のランキング(領主調べ)でも、常に上位を維持しているエキゾチックな外国である。加えて温泉。騎士達がざわつくのも、むべなるかな。メイアはわざとらしく咳払いし、大騒ぎする騎士達が静かになったあと、こう続けた。

「こほん、みんな静粛に! 遠征と言ったでしょう。一応、これは遊びではないわ。リーンエス王国では王都が戦場になったり、リブラネスタの沿岸に巨大怪獣が出現したりと、最近は物騒ですから。来年は市街地での防衛戦を想定した訓練を強化することになったの」
「それと、シャルガネに何の関係が?」
 騎士の一人が質問すると、メイアの隣に立っていた雪百合騎士団の兵器開発顧問、ドクター・アルヴィースがカーン、とホワイトボードを叩いた。

「その質問には私がお答えするわ!」
 ドクターは身長を稼ぐ為の木箱に乗ったまま、騎士達に今回の旅行の目的を説明し始めた。
「今回の旅行先は『ニンジャ』が隠れ住んでいるという噂がある町なの。ニンジャは鉤縄とか、手裏剣とか、変わった道具をたくさん持ってる独自の科学技術をもった集団なの。彼らの技術を参考にすれば雪百合騎士団の市街地戦の対応力を強化できる道具を開発できるかもしれない……というわけよ。決して、私や団長の趣味で行先が決まったわけではないわ」
 おおー、と騎士達が再びどよめく。

「と、言うわけです、ここからシャルガネまでは遠く、それなりに危険なので、今回も冒険者さん達の協力を仰ぎます。冒険者さんは市街地戦の経験がある人もいるでしょうから、きっとそういった面でも私達の力になってくれるでしょう」
 団長がそう宣言すると、喜ぶ者と悲しむ者がはっきり分かれた。言うまでもなく、喜んでいる者は勤務態度が優秀で、安全圏にいるものたち。悲しんでいるものは、補修合宿の対象になった者や、パトロールをサボったりして、あまり勤務態度がよろしく無かった者達だ。
「では、今からアンケート用紙を配ります。シャルガネ遠征を希望するか否かを記入し、列の一番後ろの人に用紙を渡して下さい」
 メイアは形式上アンケートを取ったが、結局シャルガネ遠征は雪百合騎士団の全員が参加することになった。

解説

大目標:雪百合騎士団のシャルガネ観光(名目上は遠征)に付き合う。 副目標:市街地防衛戦で役に立ちそうなアイデアや道具を見つける。 舞台:辺境都市群・シャルガネ自治区辺境の温泉町『クズリュウ』 備考:雪が降っている。 背景:ベールコートの騎士団長、メイアは領主に対し、『市街地戦用の新装備を開発する為、シャルガネに忍者用の装備を見学に行く』という名目で、シャルガネの温泉に行く企画書を提出し、それが受理されました。冒険者は道中の護衛として雇われているので、現地では自由行動が許されています。 ※リプレイでは道中は描写されません。 ●クズリュウについて シャルガネ自治区にある温泉町。九頭竜温泉と呼ばれる温泉が湧き出ている。肩コリ解消によく効き、美容効果もあるとされている。 村には『忍具職人』が隠れ住んでいるという噂があり、何故か忍者刀、水蜘蛛、手裏剣、鉤縄などの忍者グッズが土産物屋で販売されている。普通のお土産屋もある。 ※アルコールは未成年には売ってくれない。 ●雪百合騎士団について 約百人。ベールコートの領主お抱えの自警団だが、今年は年末休暇を取っている(留守中の町の警備は外部に委託している)。現地領主にお土産の百合茶と領主の親書を持ってきており、挨拶を済ませてから観光する。 騎士達は温泉宿を一つ貸切って宿泊。浴衣卓球大会なども開催される予定。希望すれば冒険者も同じ宿に泊まれる。なお。温泉は混浴ではない。雪百合騎士団所属のネームドNPCはプレイング内容に応じてリプレイに登場する可能性がある。 ●ワールドガイドより抜粋 ミルドレッド領地はエラトゥーン都市同盟、都市ベールコートに属する。ミルドレッド領にはお抱えの騎士団『雪百合騎士団』が存在し、団員はミルドレッド領に住まう容姿端麗巨乳の若い女性のエルフとヒューマン合わせて25名を中心に、ベールコートから一般兵を募り、合計で100名ほどの規模を有している。 ●ドクター・アルヴィース ドワーフ 雪百合騎士団の兵器開発顧問の少女。ドワーフ王国の都市ハレウド出身。雪百合騎士団では珍しい貧乳。雪百合騎士団の市街地での機動力を強化すべく、エーテル無しで『母蜘蛛糸のロープ』や『壁歩き』『ホライゾナルジャンプ』などの動きを再現できないか模索している。その他、市街地戦で役に立ちそうなアイデアは積極的に取り入れる。また、市街地戦の「実戦」の話にも興味がある。

マスターより

こんにちは。おおくまねこです。今回はシャルガネ観光依頼です。温泉とか忍者グッズとかあります。さらに見目麗しい美女軍団までついてきます。ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。 なお、EXCキャラクターの関連PCの優先招待機能はOP提出時点でメイアさんの関連キャラクターが誰もいませんでしたため、使用しておりません。そのため、該当のPCが参加予約をした場合も確定参加とはなりませんのでご注意下さいませ。

リプレイ

●
「じゃあみんな、またあとでな! 俺はおねーちゃん達と一緒に回るぜ♪ これでも忍者だからな! 忍者道具の使い方とかレクシャーするぜ!」
 ハヤト=ガラン=ヴォルファングは雪百合騎士団たちの群れに混ざり、ご満悦だった。

「これが雪か……!」
 レピド・クロサイトは初めて見る雪に興味津々だった。ちなみに彼が一緒に連れて来たペットのキジトラ、ショウガは雪百合騎士団にも大人気の為、現在は名誉騎士として騎士団に出張中である。

「ニンジャ、というのを探しているのだが。この辺りで見かけなかっただろうか?」
 レピドは「忍者道具あります」と書かれた看板が立っていた店に入り、店のおじさんに尋ねてみた。
「あっはっは! 外国の人にはよく聞かれるね! ここに忍者はいないが、忍者グッズなら置いてるよ。こいつが鉤縄、これが水蜘蛛、あとこれが吹き矢だ。あっちに忍者刀と手裏剣もあるよ」
「ほう、これが……なかなか実用性が高い土産だな……ほう、忍者刀」
 レピドが店主が指差した方を見ると、ルイドがしげしげと忍者刀を眺めていた。

「やっぱ初見の道具が多いな、刀ぐらいは知ってるが……短ぇな」
 ルイドは特徴的な形の刀を見て唸っている。通常の刀とは異なり、忍者刀は刃が短く、刃も反りが少ない。携帯性や取り回しの良さを重視しているのだろう。
(暗殺用か護身用かは知らねぇが、こういうもの扱うのがニンジャって奴らか。あんま敵には回したくねぇ類だな……)

「……ん」
「おう」
 レピドと目が合ったルイドは軽く会釈を交わし、順番待ちしていたレピドに忍者刀を渡した。

「んでこっちは、と」
 今度は鉤縄と苦無を手に取るルイド。
(先が引っ掛かる縄と、打ち込み易そうな何か……これ悪くないんじゃねぇか? 普通に売ってるんで雪百合騎士団の方でも把握してるだろうが、一応買っていってみるか)
 ルイドが忍者道具一式を買い物カゴに入れた時、レピドが食い気味に店主に鉤縄の使い方を尋ねていた。

「これはどう使うんだ?」
「木の枝とか、屋根や塀に引っ掛けるんだ。高い所によじ登る為の道具だな。まあ、相当身軽な奴じゃないとシノビの真似はできんだろうがね」
「なるほど、武器かと思ったが……ここを引っ掛けるのか。エーテル無しで壁登りが出来るのはいいな」

 授恵者にとっては便利で携帯性も高い『母蜘蛛糸のロープ』があるのでほぼ下位互換だが、エーテルが尽きた時は役に立つかもしれない。レピドはそう思った。もっとも、雪百合騎士団は非授恵者が大半なので、けっこう使えるかもしれない。レピドは感心し、今度は棒手裏剣を手に取る。

「これは……暗器、か?」
「ああ。それは手裏剣と言って、投げて使うもんだ。こっちじゃ『打つ』って言うんだがな。小さくて懐に隠しやすいだろ?」
「なるほど、忍者というのはシーフの仲間なのだな……」

●
「それでは、うちのバカをよろしくお願いします」
 ゼラルム・エルホワイトはアルト=ミルドレッド=バ・ロッサにサニー・フォン・オルライトを預け、雑踏に消えていった。
 
「さてと、私も騎士団のお手伝いしっかりやったし……ここからは自由にしてていいんだよね。」
「よし、行こっか、アルト君」
「うん、デートね」
 アルトはサニーから差し出された手を握り返した。護衛は仕事は一旦終了。帰る日までは自由行動だ。二人はクズリュウの街でのデートを楽しむことにした。

(ゼー君にはちょっと悪いけど、別に一緒にお出かけするのはいつでも出来るしね)
 サニーはぼっちにしてしまったゼルラムに心の中で詫びた。二人は手を繋ぎながら、雪の舞うクズリュウの街を歩く。

「見て見て、サニー!」
「団子屋があるわ、お茶を飲んでいきましょう」
(いつもと違って周りの目がある訳だけど、気にしてないんだろうなぁ)
 はしゃいでいるアルトを見て、サニーは苦笑した。
「出会い茶屋……? 喫茶店かしら?」
「あ、あそこに小物屋があるよ。ちょっと見てみよう」

 アクセサリーを扱っている店に入った後、サニーは白百合を象った小指の爪程の小さなピアスを購入した。同じものを二つ購入したサニーはアルトに片方をプレゼントする。
「ありがと!」
「ふふ、付けるのは帰ってから。ね?」

●
「さて。アレの付き添いで来るはずが梯子を外されてやる事がなくなったな。まぁあちこち連れ回されるよりかはマシと考えるべきか」
 サニー達と別れた後、ゼラルムは嘆息した。元々はサニーと一緒にこの街をぶらつく予定だったが、サニーは恋人(アルト)とデートである。ほぼ女性ばかりの雪百合騎士団と行動を共にするのも疲れそうだし、ここは一人で街をぶらつくより他になさそうだ。

(雪百合騎士団と言えば……遠征に際し街(ベールコート)の警備を外部に委託しているらしいが大丈夫なのだろうか。まぁ王国でもあるまいに平気か。外部組織から情報が漏れたり留守の隙にどうこうという事もないだろう)

●
「研修旅行という体で実質休暇なので良い事なのだ」
 シャルガネはストレガ・L・リベルガストラも贔屓していた。シャルガネ人は食にこだわりがあるし、何よりここには温泉がある。人類の環境衛生の向上のため、未来にはシャルガネ文化の風呂が大陸中に普及すると良いとまで考えていた。

「時に、騎士団で偵察諜報部隊でも作るのだ?」
 騎士団と別れる前、ストレガはおもむろに団長のメイアに尋ねた。
「はい?」
 だが、メイアはきょとんとしていた。
「違うのか……いや色香は充分だしアリかなと」
 てっきりそういう目的でわざわざシャルガネに来たのかとも思ったが、メイアの反応を見る限り、ベールコートにクノ一部隊を作りたいとかいうことはなさそうだ。やはり主目的は視察名目の湯治なのだろう。

(表のニンジャは観光・宣伝向けであり、実働部隊シノビの存在は国家機密であるという事は言わないでおくのだ)
 一応ここにはシノビが隠れ住んでいるという話だが、観光客向けの作り話だとストレガは見ていた。
「とはいえ表でも忍。土産屋にある忍具は充分有用だし参考資料になるのだ」
 疑問を解消したストレガは騎士団と別れ、忍者グッズ屋を物色する旅に出た。

●
「ニコラ元侯爵の追跡依頼の時、ガルシアが一緒に旅行をしたかったと言ってくれて嬉しかったよ。今日は三人でゆるりと羽根を伸ばそう」
 シルヴィア・A・カペルはガルシアへと微笑んだ。
「シャルガネの温泉地ですか……温泉、私入ったことなくて、楽しみではあるのですが、緊張します。……ところで、ニンジャ……とはなんでしょうか?」
 ガルシアは首を捻っていた。
「シャルガネの事は江流に聞くのが一番だ」
 シャルガネ出身の海神 江流に水を向けるシルヴィア。
(シノビはシャルガネの諜報員と聞く。当家の仕事にも役立ちそうだ)
「忍者……忍者ねぇ……本当なのか眉唾だが、俺の知ってる忍者ってのは……お、あそこの土産屋に丁度忍者グッズが売ってるな。ちょっと入ろうか」
 シャルガネ生まれの江流は忍者グッズ屋を示し、三人は一緒に忍者グッズ屋へと入っていく。

「これは、水蜘蛛か。練習すればこれで水の上を歩けるのかな?」
 見た所、これを履いてバランスを取るのはかなり難しそうだ。とてもじゃないが、実用性のあるものには思えない。
(土産物とは別に本物の道具も作っているのだろうな)
 紋具科学などを利用した「本物」もどこかで作られているのではないか……シルヴィアはそう推察した。

「忍刀の鞘は目立たない様に艶消しされているね。鍔が大きめなのは踏み台にする為か。成程、色々と考えられている」
 シルヴィアは感心しながら、忍者刀を鞘から抜いてみた。すると、美しい刃紋を持つ真っすぐな刀身が現れた。
「刀身は江流や私の刀と比べて反りが少ないね」
「すごい……とってもきれいな刀身ですね。でもちょっと短いですね。江流様の得物とも違う感じですし、是非とも試し斬りしてみたいですね……」
 薄い刃の輝きにガルシアはうっとりと呟く。本場シャルガネで鍛えられた刀は噂に違わぬ美しさだった。ウォーリアが好んで使う『太刀』とは異なりサイズは小さいが、切れ味は勝るとも劣らないだろう。

「おや、嬉しいねえ。なら、試してみるかい?」
 店のおじさんは試し切り用の豚肉ブロックを持って来てくれた。ガルシアが試しに肉を切ってみると、刃は滑らかに豚肉を通り抜け、綺麗に真っ二つになった。ガルシアは他の刃が付いた道具も手に取り、しげしげと眺めている。

「鉤縄、こういったものとかもやはり持っていた方がいいのでしょうか。私としては……このナイフ状の手裏剣になんだか惹かれるものがありますね」
 ガルシアは手裏剣を一個手に取り、的に向かって投げてみた。手裏剣は綺麗に回転しながら飛びはしたものの、思った場所には飛ばなかった。使いこなすにはやはり訓練が必要なのだろう。
 ……。
 忍者グッズ屋を出た後、ガルシアは酒屋の看板を見つけた。
「江流様、シルヴィア様、シャルガネのお酒ありましたよ」
「お。いいね。こっちの酒は米が材料なんだけど、うまいぞ」
「ああ、私もシャルガネ酒は好きだよ。飲むのは宿をとってからにするつもりだが。ガルシアはどうする?」
「……私ですか? え、えと……私も宿でいただきます。シャルガネのお酒はすぐに酔ってお二人にご迷惑かけてしまいますから……」
「そうか。楽しみにしておくよ」
「そうだな。酒を飲むのは夜のお楽しみってことにしようか」

●
「ああ、さっぱりした。やっぱり冬は温泉よね」
 メイア達と同じ宿に宿泊したアルトとサニーは、騎士達より一足先に入浴を楽しんでいた。体を互いに背中を流したり、髪を洗いっこした後、二人で並んで岩に背を預ける。

「……っだ、誰のせいってわけでもないんだけど~……、最近やけに肩が疲れるようになっちゃったからねぇ~」
 サニーに背を預けながら、頬を上気させたアルトが呟くと、サニーは背後からアルトを抱き締めた。
「んー? なんの事かよくわかんなーい。それに、私はアルト君が望んでる事をしてあげてるだけだよ?」
 サニーはそう言って笑い、首筋に刻む様にキスをした。

●
「ほ、ほら…これ…さ、サニーに似合うかなって思って買ってみたんだけど……どうかな?」
 アルトは就寝前にサニーに赤と白の矢絣模様の髪留めリボンをプレゼントした。
「ありがとう。大事にするね」
 アルトはサニーにぎゅっと抱きついた。しばらくそうしていたが、なかなか寝付けないようだ。
「ね、ねぇ……サニー……ちょっとだけ」
 アルトはサニーにそっと口づけした。

●
「……ああ、とても気持ちいいのだ……」
 ストレガはのびのびとお湯に浸かり、日々の疲れを癒していた。彼女の周りでは半数ほどの騎士達が各自温泉を楽しんでいる。人数が多いので、宿自体を貸し切りにした上で時間をずらしているのである。
「人類がみな温泉に入れるようになればいいのだ……」

●
 シルヴィアとガルシアは騎士達とは時間をずらし、貸し切り状態の温泉に二人で入っていた。
(肌は他人には見せない。友人に見せるのも勇気が要る)
 シルヴィアは緊迫した表情で、浴場に立っている。

「なるほど、湯につかる前にここで体を洗うのがマナーのようだね」
「湯船で泳ぐのは禁止みたいです……さっき何人か廊下で正座させられていた騎士の方を見たので、もしかしたら誰かやっちゃったのかもしれませんね」
「ふふ、そうだね。ガルシア、君の背中は私が流すよ」
 緊張がほぐれたのか、シルヴィアはくすりと笑った。
 互いに背中を流した後、二人は温泉に浸かりながら、雪景色をを眺めていた。しばらくそうした後、ガルシアはふと、シルヴィアの体に視線をやり、溜息を吐く。
「私も、シルヴィア様のように大きくなるでしょうか?」
「ふふ。君はまだこれからだよ」

●
「ふう」
 男湯の江流は一人で温泉に浸かり、月を見上げながらとある人物の事を思い浮かべていた。
(旅で見聞きしたことを土産話で伝えてやるくらいしか出来ないのがもどかしい。領主になっちまったし、一緒に。と願うのは無理なお話だろうか)

「極北生まれのお前には過ごしやすい季節になったし、この冬もあちこち回れるといいな」
 風呂から上がった江流は嗜む程度に杯を傾けながら夜風に当たり、おやつにあげた鉱石を貪る揺満月(ゆりみつき)くんに話しかけていた。揺満月の方はというと、そんな江流の気も知らず、熱心に鉱石を啄んでいる。
「江流様」
「やあ、江流」
「おう。いい湯だったな」
 江流は湯上りのガルシアとシルヴィアにひょいと片手を上げて挨拶した。合流した三人は椅子に並んで座り、一緒に酒を飲み始めた。
「あ、酔ってしまう前に……お二人にこれを」
 顔を赤くするガルシア。もうだいぶ酒が回っているようだ。ガルシアは江流に常盤色に金の七宝模様の六角箱を、シルヴィアに留紺色鮫模様の江戸小紋の巾着袋を渡すと、そのまま気絶するように寝入ってしまった。
「ありがとう。……ん、寝ちゃったか」
「みたいだね。ガルシアは私が寝室まで運んでおくよ」

●
「さて、と。そろそろだな」
 街での探索はそこそこで切り上げ、早めに宿を取ったハヤトは徳利(とっくり)を放り、静かに立ち上がった。既に日は沈み、辺りは暗い。雲のかかった月だけが街を照らしている。だが、ハヤトには今宵成し遂げねばならぬ使命があった。それはもちろん――。

「温泉を覗きに行くぜ! うひょひょ♪」
 巨乳美女の集まりである雪百合騎士団の入浴を覗く! ハヤトはそのためにシャルガネに来たと言っても過言ではない。もしバレれば雪百合騎士団による処刑(アニエピカ史上初の日常シナリオで重体ステータス付与)が待っているかもしれないが、それでも男にはやらねばならぬ時があるのだ。
 ハヤトは静かに窓から部屋を抜け出すと、音もなく屋根の上に立った。彼の宿はもちろん雪百合騎士団と同じ宿だ。そうでなければ、騎士達が温泉に入るタイミングが分からない。

「百賀流免許皆伝ハヤト、参る!」
 ハヤトは己の装備する隠形術(スキル)を総動員し、屋根の上を飛んだ。今の彼の気配を捉えられるとすれば、リーンエス王国騎士級のシーフか、本物のシノビぐらいだろう。それほどハヤトの隠形は完璧だったのだ。音もなく屋根の上を飛ぶハヤトは、温泉の敷居を飛び越え、禁断の女湯へと――。

「あれ、誰もいねえ?」
 女湯に降り立ったハヤトは首を傾げた。なぜか湯舟には人っ子一人いなかったのだ。
「じゃああっちか?」
 ハヤトは気を取り直し、敷居の向こうへと跳び移るべく足を上げようとした。だが――。
「なんだこりゃ、動けねえ!」
 その時、ハヤトは自分の足がトリモチのようなものに絡めとられていることに気付いた。そう、女湯には侵入者避けのトラップが仕掛けられていたのだ。ハヤトはハイディングを解き、フルパワーでトリモチから逃れようともがくが、残念ながらトリモチはびくともしなかった。
「ま、まずい! 作戦失敗か!? やべえ、気付かれる前に撤退を――」
「こんばんは、ハヤトさん」
「そう来ると思い、女将に頼んで男湯と女湯を入れ替えて貰ったのだ。間抜けは見つかったようなのだ」
「なんだと!?」
 ハヤトが振り向くと、そこには怒りを滾らせたメイアと、冷めた目をしているストレガ、そして総勢百余名の雪百合の騎士達(※タオル着用)が立っていた。刺すような殺気。まるで殺界か、肉食獣の巣の中に放り込まれたようだ。

「あの、これはですね……」
 ハヤトはなんとかナイスな言い訳ができないものかと頑張って考えたが、残念ながら彼の頭には走馬灯しか浮かんでは来なかった。

「野郎! ぶっ殺してやる!」(注:騎士です)
「腹を切ってお詫びさせましょう!」
「それより、シャルガネには過熱した鉄板の上で謝罪させる道具があると聞きました!」

 殺気立つ騎士達。その時、一歩前に出たストレガが今にもハヤトに襲い掛かりそうな騎士達を制し、ハヤトの足元に一枚の紙とペンを投げ渡した。
「これは……?」
 ハヤトが尋ねると、メイアは目が笑っていない笑顔でハヤトに告げる。

「ハヤトさん、シャルガネには亡くなる前に『辞世の句』というものを残す風習があるそうですよ?」

●
「ああ、いい湯だった」
 風呂から上がったルイドは雪百合騎士団の卓球大会をぼうっと見学しつつ(なぜか顔面がボコボコに腫れ上がったハヤトが簀巻きにされて騎士達の後ろに転がされていたが、それは見なかったことにした)、ベンチに腰かけていた。しばらくそうしていると、初戦敗退したドクター・アルヴィースが呼吸を整えている姿が目に入った。

「お疲れさん。使えそうな道具があったんで、少し時間いいか?」
「ぜえぜえ。ええ。もちろん」
「……落ち着いてからでいい」
 ドクターが呼吸を整えた後、ルイドは買ってきた忍具を机の上に置いた。
「とりあえずこれ、鉤縄。登攀用に建物の屋上なり窓なりへ投げ込む他、もし一般人が相手なら制圧にも役立つんじゃねぇかなと」
「ああ、鉤縄ね。金属がちょっと安物っぽいけど形はそれっぽいわね」
「以前に暴徒を街中で抑えたことがあるんだが殺さないよう加減しつつ、かつ街中に逃げねぇように、って結構気を遣ったこと思い出してな。その点、これは足元を薙ぐなり引っ掛けるなりで先んじて動きを止めて、そのまま捕縛にも使えそうだ」
「なるほど。小型にしたら捕縛用品にも使えるかしら」
 続いてルイドは苦無をドクターへと示した。
「あと、これ、苦無ってやつも。投げて牽制とかの他、壁やらに打ち込んで足場にして、鉤縄と合わせて登攀にも使えねぇか? 鉤縄だけだとそれなりに習熟が求められそうなんで、補助の道具はあって損なさそうに思ったぜ」
「ん、ありがと。なんか開発するならやっぱり鉤縄をベースにした方がいいかしら。あとは移動の高速化ね……なんかいい方法はないかしら……」

 その時、忍具をいっぱい抱えてきたストレガが口を挟んだ。
「忍具の便利さは忍者の卓越した身体能力あってこそなのだ。エーテル無しでスキルを再現するなら、紋具研究が絡むと思うのだ」
「うーむ、紋具か……そっちは専門外なのよね……私も授恵者だから触媒があれば研究できなくはないけど……ちょっと領主様と相談してみようかしら」
「うむ、それがよいのだ」

 ストレガは忍具を抱えて騎士達の方へと移動すると、今度は騎士達に忍具の使用法を講義し始めた。

「忍具は個人が侵入の為に使うが勿論道具と使い方による。例えば撒菱。具足を履いてる戦士には効果が薄いがその他には充分な足止めになる。
 例えば鉤縄。梯子や橋の代わりになり、拘束具にもなる。市街地なら高台を乗っ取るに使える壁走りがあったとしてもその力を他に回せるのだ。
 あと防具。薄い布地にみえて鎖帷子を仕込んでいるので機動力を損なわずに防御力を上げている」
「ふむふむ。なるほど」
 メイアはメモを取りながら仕切りに頷いていた。

「個人的には苦無も良い」
 ダイヤ型の刃を持つの刃物を取り出したストレガは、苦無にはスコップや草刈り、枝打ちなど、多様な用途があることを力説した。

●
(人間の授恵者相手では市街地戦……特に機動戦では歯が立たないだろう。市民の補充なんて攻め落とした後にいくらでも出来るだろうし……俺が指揮官ならシーフを投入して機動力で掻き回す。なら、仮想敵は街に侵入したクリーパーとして……目標は市街地戦の機動力強化だったか)
 ゆっくり温泉に浸かりながら、ゼラルムは戦場になったベールコートで、一般人の非授恵者百余名で対クリーパー相手に戦う状況を想定してみた。正面から戦えば死体の山が築かれるだろうが、相手が知性の獣ならば、屋根の上から一方的に攻撃できる状況など持ち込めれば、なんとか撃破、あるいは市民が避難する間の時間稼ぎができる可能性はある。

(水平移動は如何ともし難いが、上から下に対してならば懸垂(けんすい)下降の道具を改造する事である程度改善されるか? 下から上に対しても同様に鉤縄などを元に下から引っ掛けて自力のみで登れる様にしたい。携行性の面からこれら二つは同じ器具或いは部品の代替で賄える事が望ましいか……)

 ゼラルムは風呂から上がった後、シノビの道具である鉤縄をベースに上下移動できるような器具を開発すべきだと、雪百合騎士団に提案したのだった。

●
 騎士達の卓球大会は続く。トーナメントを勝ち上がった者達に、騎士達は熱い声援を送っていた。雪百合の騎士達がそんな風に楽しい時間を過ごしていると、温泉パワーでいつもより血色よくツヤツヤになったレピドがドクターの元にやってきた。

「お、お兄さんツヤツヤね」
「ドクター・アルヴィースか。ちょうどよかった。話があったんだ」
「なんか面白いもの見つけた?」
「俺が見つけたものは他の連中も見つけたみたいだが、一つアイデアが浮かんだ」
「ほお」
 レピドは自分が思いついた新兵器のアイデアをドクターに語ってきかせた。

「市街地戦……敵が逃げた場合に追うのが大変なんだよな。予めスキルでマーキングしておけば良いが、誰もが使えるわけではない」
「ふむふむ」
「こう、敵の足跡が誰にでも見えるような…敵に当たると破裂するインクのボール……?……そんな道具があればな、と思うのだが、どうだろう?」

「なるほど、ひったくり犯などはベールコートでも時折出ますからね。使えるかもしれんせんね」
 横で聞いていたメイアが口を挟んだ。
「なるほど、ペイント弾ね。閃光塗弾よりはコストも安そうだし、ちょっと考えてみようかしら」

●
「皆さん、お世話になりました!」
「新兵器のアイデアもありがとうね! 領主様と相談して開発を進めてみるわ!」
 冒険者達にベールコートまで送ってもらった雪百合騎士団は綺麗に整列して礼を言った。

「おう、また会える日を楽しみにしてるぜ!」
 ハヤトは親指を立てた。あの日の晩、騎士達にフルボッコにされた彼だが、帰りの旅の間に傷は癒えたらしい。
「今度やったらベールコートの広場で公開処刑にすっからな!」
「はい、すみませんでした!」
 ヤンキー系の騎士に凄まれ、敬礼するハヤト。
(フッ……生きてて良かったぜ……)
 騎士達の慈悲で生き永らえたハヤトは遠い目をした。

「では、お元気で。ずっと街が平和だといいですね」
 騎士達に微笑み、手を振るゼラルム。他の冒険者達も騎士達に手を振り、それぞれビッグオウムに乗って帰路につく。こうして、雪百合騎士団とのシャルガネ温泉旅行は平穏無事に終わったのだった。

マスターコメント

皆さん思い思いのシャルガネ旅行を過ごされており、新兵器のアイデアも幾つか出ましたので、結果は大成功とさせていただきます。一応補足ですが、男女で混浴してるシーンはないです。お疲れ様でした。
ミドルシナリオ

ミドルシナリオ易しい 報酬:多い10 / 6〜10人

2022年12月20日 13時37分28秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. メイア

    皆様ご参加頂きありがとうございます。一日も経たずに満員となりとても嬉しく思います。 今回はリプレイが開始されたと同時にほぼお仕事としては終了となりますが、よろしければ騎士団のためだけでなく皆様の糧となるためにもアルヴィースと協力し市街地戦向きの武器の発掘やアイデアなど、九頭竜何かをで得られると嬉しい限りです 皆様に何か実りある依頼になることを期待しています

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0