【生祝】紅染まる葉を肴に〜新暦1222年11月〜
一乃口
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シナリオID:2602
オープニング
港へ吹き込む風に冬の気配も交じる頃、エスト・ポーラから近い平原にある紅葉が見頃の時期を迎える。
大々的な収穫祭からは一区切りを迎えるが、地域特有の小規模な祭りは幾つも行われているものだ。
そんな秋祭りのひとつに、シャルガネから伝わってきた『紅葉狩り』と元々行われた『感謝祭』が掛合し『秋祭り』として親しまれるようになっていた。
港と岬が一望できて、紅葉も楽しめる風景――港町であるエスト・ポーラならではの風景としても人気があるスポットだ。
パトラ=L=アルアータ自身も、その時期にしか無い風景はお気に入りのひとつだ。
そしてアルアータ商家として、祭りに参加するのは例年通りの事でもある。
パトラは書面で今年の祭りの予定を確認する――――去年同様、振る舞われる七面鳥の香草焼きは安心の一品だが。
「い、猪……?」
猟師がデカい猪を仕留め、自分達だけでは手に余るから祭りに出したいと要望があって受け入れたとの文面。
アルアータ商家以外にも出資する商家のある祭事では、あまり突っ込んだ意見が言えない所も多少はある。
例年通りな部分と、そうではない部分、相互に安心と意外さがあれども。
「問題ない、ですわね」
アルアータ商家として出した要望が通った事を確認したパトラは、ギルドを通して冒険者の招致を掛ける。
「それにしても――」
送られてきたスケッチを眺め、パトラは笑った。
「こんな顔してたんですわね」
ぶどう踏みに対して、必死過ぎたのが伝わってきて可笑しくなってしまう。
あの後、筋肉痛にはなったが――去年、数日寝込んだ事を思い出せば、それほど重度では無かったと言えるだろう。
少しの休憩を挟んだ後、パトラは祭りに向け現地の視察と打ち合わせにと出向いたのだった。
大々的な収穫祭からは一区切りを迎えるが、地域特有の小規模な祭りは幾つも行われているものだ。
そんな秋祭りのひとつに、シャルガネから伝わってきた『紅葉狩り』と元々行われた『感謝祭』が掛合し『秋祭り』として親しまれるようになっていた。
港と岬が一望できて、紅葉も楽しめる風景――港町であるエスト・ポーラならではの風景としても人気があるスポットだ。
パトラ=L=アルアータ自身も、その時期にしか無い風景はお気に入りのひとつだ。
そしてアルアータ商家として、祭りに参加するのは例年通りの事でもある。
パトラは書面で今年の祭りの予定を確認する――――去年同様、振る舞われる七面鳥の香草焼きは安心の一品だが。
「い、猪……?」
猟師がデカい猪を仕留め、自分達だけでは手に余るから祭りに出したいと要望があって受け入れたとの文面。
アルアータ商家以外にも出資する商家のある祭事では、あまり突っ込んだ意見が言えない所も多少はある。
例年通りな部分と、そうではない部分、相互に安心と意外さがあれども。
「問題ない、ですわね」
アルアータ商家として出した要望が通った事を確認したパトラは、ギルドを通して冒険者の招致を掛ける。
「それにしても――」
送られてきたスケッチを眺め、パトラは笑った。
「こんな顔してたんですわね」
ぶどう踏みに対して、必死過ぎたのが伝わってきて可笑しくなってしまう。
あの後、筋肉痛にはなったが――去年、数日寝込んだ事を思い出せば、それほど重度では無かったと言えるだろう。
少しの休憩を挟んだ後、パトラは祭りに向け現地の視察と打ち合わせにと出向いたのだった。
解説
●目的
紅葉狩りや秋祭りを楽しむ。
●解説
紅葉狩りを楽しめます、落ち葉を焼いてもOKです。そのための場所が用意されています。
秋祭りを楽しんだり、誕生日や記念日などのお祝いができます。
全般としてお酒や果実汁等の提供あり。
パトラは呼ばれれば顔を出しますが、基本遠巻きに過ごします。
●選択肢
【1】紅葉狩り
紅葉、もみじやイチョウの彩りに染まった木々が並びます。
集めた落ち葉で焚き火をして、お芋を焼いたりできます、持ち込みも可です。
焚火の火力は多少増やせますので、野営チックな楽しみ方もできます。
焼き場は所定の場所にあります、延焼の心配は無い。火遊びは怒られますダメ、絶対。
【2】感謝祭
香草焼きの七面鳥と猪肉、猪肉は鍋もやっています。
祭り主催側が調理を担当していますが、調理場に立ちたい方はお手伝いもできます。
木造のテーブルとベンチが並び、そこで飲食をするオープンスペース。
宴会的な楽しみ方や肉!! と言う方はコチラへどうぞ。
【3】レストラン
感謝祭の料理をこちらで提供することも可能です。
紅葉を眺めながら静かな時間を過ごしたい、間仕切りされた空間でのお祝い事など。
そういう雰囲気であればこちらを。
ケーキや芋や栗のスイーツなどを楽しむ場合はコチラへ。
マスターより
11度目まして、一乃口です! 今回はシンプルにお祭りです!!
『【豊穣】実りの上でステップを~新暦1222年10月』へのご参加もありがとうございました。
多数のお気遣いありがとうございました! リプレイ中のスケッチも手元へ届いているようです。
今回はぶどう踏みの時ほど、パトラも大変と言う事はありませんのでご安心ください。
また前回のシナリオを確認しなくても、今回のシナリオはお楽しみ頂けます。
皆様のご参加お待ちしておりますー!
リプレイ
秋と冬の気配が交じり、潮風には焼き上がった香草焼きの香りも混じり始める会場。
赤や黄色と、その中間の彩りを纏った木々を一望できるこの場所は、落葉観光客と冒険者達が訪れるより今は少し早い時間――準備中だ。
立ち並ぶ紅葉した木々から視線を流せば、岬と海――――振り返れば古都エスト、ポーラの景観も楽しめる。
パトラ=L=アルアータは、この場所はこの時期で最もエスト・ポーラでキレイな場所だと思っている。
聞かれればもちろん、『他にも良い所はいっぱいありますわと』話が長くなるのだが。
開場時間も近くなった所で、準備に不足が無いかを確認するのも彼女の仕事の1つであった。
「そちらの準備も……問題無さそうですわね」
「はい、大丈夫です!」
リサ・ベイカーの元気な返事を受けて、パトラは安心と感心する。
(よく働きますわね)
アルアータ商会以外にも、こうした祭事に関わり準備や出資をする商家はもちろんある。
その中のひとつがベイカー家のリサだった、開場の調理場や座席の準備と忙しない中で笑顔である。
パトラが知る年端の近しい商家の同性では、リサのようなタイプは多くないのがパトラの印象だ。
エスト・ポーラにある商家の中で、犬猿の仲になるような商家もあれば、親交や協調をする商家も珍しくない。
「もうすぐ開場時間ですわね、何かあれば仰ってくださいね」
リサにそう伝えるとパトラは他の会場へ足を向けた。
●
人々の眼を楽しませてくれる紅葉は、落ち葉となってもその眼を楽しませてくれるものだ。
こちらでは多くなった落ち葉を活用して、芋を焼く燃料として活用している所だった。
「落ち葉を集めるよー!」
ヤギのハーフビーストであるトゥーリが、貸出された熊手や荷車で落ち葉をガサガサと集めてはパカパカと蹄の音を立てて焼き場と木々を往復する。
紅葉の中で、その長く揺れる銀色二尾の髪は映える。
バサァと焼き場の一か所に集めた落ち葉を山積みにした。
「足りるかな?」
「もう少しあると良いですわね」
準備を手伝いに周って居たパトラは、既に会場に来ていたトゥーリと共に焼き場の準備に取り掛かっていた。
焼くための芋の準備や、使う道具のひと揃えを他にも手伝う街の人と行う。
「じゃぁ、もっと集めて来るよ!」
そう言って走り出すトゥーリはぴゅーっと木々の下へ駆け出すと、勢いよく落ち葉を集めて行く。
「いっぱい集めて来たよ!」
バッサァと詰まれた落ち葉。
「……充分ですわね」
パトラは加減を伝えるのって難しいですわね、と胸中で思う――が、コレだけあればこの後に訪れる面々が焼くのに不足は無いだろうとも思った。
「よーし、じゃぁお芋焼くよー!」
「あ、トゥーリ様、ちょっと止まってくれないかしら?」
意気揚々と焼き場へ運んだ落ち葉を抱えて良くトゥーリを見て、パトラが呼び止めてその立派なヤギの角の近くに手を伸ばす。
「紅葉がついてますわ」
髪飾りとしても映えたかも知れないと思いながらも、髪と角の間に刺さっていた紅葉を取った。
「いつの間に!」
元気いっぱいに落ち葉を集めていたので、こういう事もあるだろう。
次第に焼き場に人が訪れて、煙も上がり始め火にくべられた芋を見守るトゥーリ。
その近くではサイラスがのんびり集めた落ち葉で焚き火を始め、芋を焼き始めた所だった。
荷馬車に積み込んだ落ち葉は充分過ぎる量にも見えるが、これから一体どれ程の量の芋を焼くつもりなのだろうか。
銅色の鱗に覆われた手には、大福の手綱が握られている。
お利口そうに鎮座するその姿にも、サイラスはもし焚き火に突撃でもされたら危ないし厄介だと考えての事だ。
積上げた落ち葉が吹っ飛ばされても困る。
金色の瞳が上がる火と煙を見定めながら、火箸を手に芋の加減を確認すると空いた方の手で落ち葉を追加して行く。
待つ間にサイラスの後方、後足で首を掻く大福は大人しいものだった。
流れる煙を目で追ったサイラスの瞳に、岬の――切り立った崖が目に付く。
(突き飛ばして崖から落とすのにお誂え向きだな)
物騒である。
芋の加減を気にしながら、焼き上がるまでの時間はまだ長い。
「こんな風にゆっくり散歩できるなんて、羨ましい土地ね」
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクが立ち並ぶ色付いた木々を眺め、故郷を思いながら口にした。
山の向こう側にあるアウレーリアの故郷では、すでに冬景色が姿を見せ始めて沿岸沿いのこの場所はまだ暖かいと感じる。
はらりと落ちる落ち葉を、翠色の瞳が見付ける。
辺りを静かな白が埋め尽くす前の、鮮やかな赤や黄色が舞い彩る中を散策する――歩く足に、落ち葉の感触を感じながら。
「……ね、貴方もそう思わない?」
紅葉の中でも見落とらない金髪を揺らして、アウレーリアが共に歩くキリアン・フィッツジェラルドへと言葉を掛ける。
「はい、僕もそう思います」
普段から礼儀正しい印象のあるキリアンだが、彼にとっても主人と言える、彼女の言葉に粛々と言葉を返す。
(例えどんな温暖な地でも、冬の来ない日は無い)
キリアンの青い瞳が視るのは、季節の景観だけでなくそれよりも先にあるものなのだろう。
本格的に冬が訪れる事の厳しさを、知って居るからこそ今の時期はできる備えに注力すべきだと生まれ育った地で学んだのだ。
だからこその心構えと、そして夜が明ける度に春の訪れが何れ来る事を知って居る。
散策を楽しんだ2人は、焼き場を訪れるとキリアンが持ち込んだ野営セットを手早く準備する。
キリアンは焚き火の準備と座る場所を準備すると、アウレーリアへ椅子を差し出した。
「ありがとう」
微笑みながら椅子に腰を下ろしたアウレーリアは、キリアンが集めた落ち葉へ手を翳してエーテルへ意識を向け――生じた火が落ち葉を燃やし始める。
「焼き芋は勿論、お肉も用意できるなら串焼きにしましょうか」
焚き火が安定した所で、アウレーリアがキリアンへ言う。
その表情から、『そう言うのは得意でしょう?』と微笑みに込められていた。
「わかりました、貰ってきます」
芋を火にくべたキリアンは、肉の調達に走った。
焚き火の扱いをアウレーリアから教わりながら、キリアンもまた火箸で芋の具合を見る。
貰って来た串焼きの肉が頃合いになったと香りと音が告げる。
焚き火で暖を取るアウレーリアへ、キリアンが焼き上がった串焼きを1つ差し出した。
「ありがとう、キリアン」
静かに流れる時間を噛み締めながら、アウレーリアは澄んだ空を見上げる。
アウレーリアはこれからの大変な事、やらなくては成らない事を確認するように口にした。
「僕は従者として最後までついて行く次第です」
アウレーリアの実力と軌跡、その手腕を見て来たキリアンは静かに宣誓を口にして続ける。
「今はただ、一時の休暇を楽しみましょう」
その迷いのない微笑み。
「そうね」
アウレーリアは短く返す。
(うぅん、きっと全部こういう時間の為なのよ)
「……そろそろ芋も焼きあがってそうね」
「はい、見てみます」
キリアンが芋を焚き火から取り出し、串で刺して加減を見る。
抵抗感無く通った串で、加減を確認したキリアンが芋を調理器具でやけどしないように割った。
「こっちの芋も、良い品ですね」
外気に触れて舞った白い煙の断面、黄金の色艶を見て故郷の芋と比べてみたいと思うのだった。
「はふはふ――うん、甘くて美味しい!」
声の方を見るとトゥーリが焼きあがった芋を頬張っている所だった、大きい芋を両手に持っている。
落ち葉をあつめたお礼にと、農家の人が大きい芋をくれたのだが焼き上がりも相応に掛かった。
「……うん、美味いじゃん」
サイラスも焼きあがった芋を片手で食べ、そして次の芋の面倒を見ながら食べている。
冷ました芋を大福が食べているので。心配も少し減っただろう。
サイラスは焼きあがった芋を灰の上に転がして、次の芋を焚き火に投入して行く。
「――私たちも食べましょう」
「そうですね」
キリアンから焼き芋を受け取って、アウレーリアは焼き芋を頬張った。
●
焚き火の煙が見える場所よりも、もっと多くの煙や香りが立ち上る。
肉――満ちるのは肉の香りである。
肉だ――――食わずにはいられない。
その巨大なシルエットは、たまたま伸びた影です。小柄なハーフビースト、灰銀の髪を揺らすベルク・オスマットだ。
「香草焼きの肉はやっぱりうまいな」
焼き上がった肉を調理場から受け取るとガッとスペアリブの猪肉へ食らいつき、豪華に食い千切る。
噛むたびに口内で踊る肉汁は、香草をアクセントに深く味わえてクセを感じさせない。
もう片方の手には、杯の内にエールが並々と揺れる。
肉を粗方咀嚼したベルクはエールをぐいっと、煽り。
「――うん、合う!」
合格点だった。
しかし、香草焼き以外にも香りの源泉である肉料理の品々が多数あるのだ。
刃の傷痕、その半ばに輝く赤い瞳が次の肉料理を見定めて行くのだった。
「はい、どうぞ猪鍋ですよ!」
ハルハン・ツァガーンナルが器にどーんと盛った猪鍋を手渡す。
「おぉ……」
ファイサル・アル=ファルドがそれを受け取って、頂きますと口を付けると臭みの無い野生で培われた肉と鍋の風味が口に広がり感嘆として漏れた。
「ファイサルの住んでいた地方だと、猪みたいな動物は少ないでしょうか?」
ハルハンは自分の分も器によそうとファイサルの隣に座った、同じようにお肉とお野菜をたっぷりだ。
立ち上がる湯気と、出汁の効いた香りを楽しんで旬の野菜を口に運んだ。
温かさと野菜の旨味を堪能するハルハンの白くてふわふわの耳が、ぴこぴこと動いた。
「故郷じゃ鳥は食べますけど、猪は珍しいですね。干し肉を行商人が運んでくるくらいじゃないかな」
素材の旨味が詰まったスープの味も楽しみながら、ファイサルが答える。
冬を迎えるこの時期の獣肉は、冬への蓄えを行う為味が格別なのだとファイサルへ補足するハルハン。
「ボクみたいに、冬毛で寒さを耐える動物もいますけどね」
ちょっと得意気に、ふわ耳が主張する。
「へぇ……」
猪肉を再び口に運んだファイサルの蜂蜜色の瞳が、ぴこぴこ主張するもふ毛に向く。
(確かに、ふわふわしてそうだ……)
「……触ってみます?」
そのファイサルの視線に気付いて居たハルハンが、ちょっと悪戯っぽく聞いたのだった。
(おっと危ない危ない。ちょっと見つめすぎてしまった)
「大丈夫ですっ肉を食べよう。あ、野菜もっ」
視線を器に戻したファイサルは、湯気と共に口に放り込むように器の中の猪肉と野菜をもぐもぐと食べる。
「ふふ。ボクもお肉を食べましょう!」
そんな友の様子が少しおかしかったハルハンも、野菜とスープの味を楽しんだあと猪肉を食べる。
肉の脂は臭く無く奥行きのある味わい。思った通りに、この時期の肉の旨味は格別だった。
「柔らかくて、お肉と一緒に煮込んだ野菜と一緒に食べると、より美味しいですよね」
ハルハンの言葉に。
「あぁ、これは美味しいですね」
答えながらファイサルも鍋を楽しんだ、温かくて優しい味に2人の談笑は自然と弾みながら――鍋のおかわりをよそってからも続くのだった。
賑わう観光客の中、調理場の雰囲気に一線を貸すエリアでは、肉の香りとは別の物が混じっている気がする。
丸々とした鶏肉に詰め物をして、更に軽々と持ち上げて石窯の中へくべる。
じっくりと芯に火が通り焼き色が付いたそれを取り出せば、更に高温に達した油へと投入し表面をカリっと仕上げる頃合いを見て取り出す。
「よし、いい感じだ!」
ケン・Z・ブラッドリーの剣を振るい鍛えられた肉体は、今日は調理場で冴え渡る。
その見た目や所作の豪快さと、細部に気を使った一品に思わず声を上げる観光客が注目する。
「どうだ? 味見してくれないかエデル」
そう言うとナイフで、一番良い所を試食として切り取ったケンが、共に料理場に立っているエデル=マグノリアに小皿と共に手渡した。
「では、頂きますわ」
出来立ての湯気を、ふぅと粗熱を冷ましながら口へ運ぶ。
鶏肉の癖のない脂と、カリっとした食感――――噛む程に口内で香草の風味が香りと共に広がりエデルの舌を楽しませた。
「……美味しいです」
微笑みながらエデルは感想を伝え「そうか!」とケンは嬉しそうに笑った。
日頃エデルが作る料理と言えば、診療所勤めのため味付けは薄味慣れしているのだが。
病人食研究もしているので、しっかりした味付けに錯覚させることや彩りには気を使う工夫に一長の覚えがある。
今回、そんなエデルが作ったのは鶏粥だ。
ケンは今回のこの場で『お互いの味の好み』が分かれば良いと思っていたので、その鶏粥も味見したいと小皿をエデルへ渡す。
まだ湯気の上がる鶏粥を、ケンは息で少し冷ましたら頬張った。
「ケン様、この味付けはどうかしら? 好みに合いそう?」
静かに強くエデルの鼓動は高まる――ケンの誕生日に向け、好きな料理や味付けをひっそり探っていたのだった。
「こりゃ美味いな! 良いと思うぜ」
エデルの不安を吹き飛ばす、秋空のような笑顔をケンが向けてくれる。
ほっとしているエデルは、ケンが今の鶏粥と鶏肉を使った料理を考案しているのに気付く。
「私は薄味に慣れているけれど、しっかりした味も好きよ」
「そうか! そりゃ良かったぜ」
そう聞いたケンは嬉しそうに返事をして作る料理を決めた。
鶏粥の水分を少し減らし、鶏肉の中にその米を仕込んで焼くというスタイルを取ってみる事にした。
「こうやって二人で並んで料理作ったり、二人の味を作っていると新婚さんみたいだな」
「しんこ……ん…………」
エデルの頬が、紅葉にも見劣らない色に染まって、賑わう観光客は酒と飯が進んだと言う。
(レストランもいいが、今回はこっちで食うか)
沸き立つ祭りな雰囲気――――いや、ちょっと知ってる盛り上がりと違うなと、灰色と紫玉の瞳でルイドはその一角を観察し。
「お、美味そうなのあるな、貰ってくぜ」
ついさっき完成した鶏肉料理の皿を引き取ると、その料理達に合う酒を求めてふらり、猪肉の鍋を頂いてあちらの酒をと。
今、ずらりとルイドの眼前に並びつつ在るのだった。
(ちょっと集めすぎたか?)
テーブルにはこの会場で食べられる多様な料理が並び、そしてそれに合う酒を既に食べている観光客から聞き。
どれも美味しかったので、自分の分を確保した。
(そういや……今んとこ苦手な物ってねぇな)
猪肉の香草焼きも猪鍋も、鶏肉料理もどれも美味しかった。
これにはエール、これには米酒、これにはワインと合わせるとまた違う、ここで出される物が旨いからだろうか。
「……お、この組み合わせもありだな」
ルイドはパターンを変えて食べる楽しみを知ってしまった。
「お、それも美味しそうだ」
「アンタはたしか――」
気付けば同じテーブルにベルクが座っていた、その手には焼き芋や猪肉の蒸し焼きが乗った皿がある。
「そっちのも美味そうだな」
2人の取引はシンプルだった、互いにキープしている品をトレードして食べる。
美味い――。
互いに同じ会場で違う料理をまだ味わえて、そして酒は進む。
気が付けばテーブルの料理は徐々に減り、酒はおかわりだ。
紅葉を楽しみながら、何か料理を追加しようかと思っていた所だった。
「あ、ベルクさんに、ルイドさん」
声と共に振り返った2人は、声の主の姿――――リサの姿の前に、抱えた寸胴がベルクとルイドの眼に入る。
ズン。
とテーブルに伝わる重量感、鼻腔をくすぐる特有の香り。
「猪肉のシチューを作ったんです、一緒に食べませんか!」
パンもありますよと気が利いたリサの、思わぬ新たな伏兵にベルクとルイドは共に固唾を呑む。
これはここでしか味わえない一品だと、歴戦の経験が悟らせる。
限界はまだ迎えていない、食べるか食べないか? そんなのは一択だろう。
「「いただきます」」
「はい、どうぞ召し上がってください! あ、その鶏肉料理美味しそうですね」
こうしてテーブルの一角には会場の様々な料理が集まり、それを皆で味わって行く。
その中でも、ベルクのテンションは異様に高かったと言う。
この小柄な身体の何処に酒と飯は消えたのか――潮風にあてられたのかも知れない、感謝祭の熱気と賑わいはまだ終わりそうに無い。
●
外の賑やかさから乖離した落ち着いた、穏やかな時間が流れるレストラン。
窓の外には赤と橙と黄色に染まった木々と――岬が一望できる。
感謝祭の会場を一通り視察し終えたルーンス・ラグネルと、その視察するルーンスに同行していたカイン・ステラが同じテーブルに着く。
「山の幸もいいよね」
視察の実りにご機嫌な様子のルーンスは料理のオーダーをしてカインに視線を送るとカインも料理のオーダーを済ませた。
「今回も料理の意見、か?」
カインはルーンスがこう言う場所に、自身を誘う時は大体そうだと経験則で尋ね。
頼んだ料理、七面鳥の香草焼きと猪肉のママレード煮が並んで行く。
「そう、カインの意見が聞きたいんだよ」
オーダーに少し悩んだルーンスは、猪肉のカツレツに決めそれがテーブルに並んだ所で実食へ入る。
カインは料理を先ず素直に味わって食べる、味が舌へ伝わり香りが喉の奥へ広がるようだ。
作りたての料理の熱に、作り手の細部への気遣いを感じる、良い料理だ。
そしてカインはある程度を口に運ぶと味わうから考察へと思考は流転させる。
「下処理しっかりしてれば、これからの季節だし、ゆず塩、胡椒、味噌と組み合わせてもいいかな」
ルーンスがそのカインの言葉を聞きながら「なるほどね」とペンを走らせている。
(他だと煮るのも相性良さそうだ。あと、煮てもいいし、ハムやジャーキーも悪くない)
「ゆず塩は調味料だし、相性良さそうだね」
食事もしながら、カインの意見を書き漏らさないルーンスの手先は器用な物だ――何より、カインの様子を楽しんでいる節もありそうであるが。
メインを食べ終わった2人の前には、デザートが並んでいた。
ルーンスがモンブランの甘くしつこくない風味に舌鼓を打ったところで思い立つ。
「栗や芋料理のレシピ本出すのも悪くない……ね、カイン?」
カインは割った焼き芋の中に入っているミルクアイスの味わいを堪能してた――――そんな所にルーンスの無茶振りが訪れる。
「お手軽・庶民向け・図解でやればいいんだろ」
まぁ、別にいいけどさとカインは肩をすくめる。
無茶振りと言っても、カインに過去実績がある事を見越したルーンスの言だ実現は可能なのだろう。
「流石、カインだ楽しみにしてるよ」
レストランを出る所でパトラに出くわしたルーンスは、書き留めたメモを手渡し。
「塩は海岸部の方が強いからね」
カインの提案とも口添えて、レストランを後にした。
赤や黄色と、その中間の彩りを纏った木々を一望できるこの場所は、落葉観光客と冒険者達が訪れるより今は少し早い時間――準備中だ。
立ち並ぶ紅葉した木々から視線を流せば、岬と海――――振り返れば古都エスト、ポーラの景観も楽しめる。
パトラ=L=アルアータは、この場所はこの時期で最もエスト・ポーラでキレイな場所だと思っている。
聞かれればもちろん、『他にも良い所はいっぱいありますわと』話が長くなるのだが。
開場時間も近くなった所で、準備に不足が無いかを確認するのも彼女の仕事の1つであった。
「そちらの準備も……問題無さそうですわね」
「はい、大丈夫です!」
リサ・ベイカーの元気な返事を受けて、パトラは安心と感心する。
(よく働きますわね)
アルアータ商会以外にも、こうした祭事に関わり準備や出資をする商家はもちろんある。
その中のひとつがベイカー家のリサだった、開場の調理場や座席の準備と忙しない中で笑顔である。
パトラが知る年端の近しい商家の同性では、リサのようなタイプは多くないのがパトラの印象だ。
エスト・ポーラにある商家の中で、犬猿の仲になるような商家もあれば、親交や協調をする商家も珍しくない。
「もうすぐ開場時間ですわね、何かあれば仰ってくださいね」
リサにそう伝えるとパトラは他の会場へ足を向けた。
●
人々の眼を楽しませてくれる紅葉は、落ち葉となってもその眼を楽しませてくれるものだ。
こちらでは多くなった落ち葉を活用して、芋を焼く燃料として活用している所だった。
「落ち葉を集めるよー!」
ヤギのハーフビーストであるトゥーリが、貸出された熊手や荷車で落ち葉をガサガサと集めてはパカパカと蹄の音を立てて焼き場と木々を往復する。
紅葉の中で、その長く揺れる銀色二尾の髪は映える。
バサァと焼き場の一か所に集めた落ち葉を山積みにした。
「足りるかな?」
「もう少しあると良いですわね」
準備を手伝いに周って居たパトラは、既に会場に来ていたトゥーリと共に焼き場の準備に取り掛かっていた。
焼くための芋の準備や、使う道具のひと揃えを他にも手伝う街の人と行う。
「じゃぁ、もっと集めて来るよ!」
そう言って走り出すトゥーリはぴゅーっと木々の下へ駆け出すと、勢いよく落ち葉を集めて行く。
「いっぱい集めて来たよ!」
バッサァと詰まれた落ち葉。
「……充分ですわね」
パトラは加減を伝えるのって難しいですわね、と胸中で思う――が、コレだけあればこの後に訪れる面々が焼くのに不足は無いだろうとも思った。
「よーし、じゃぁお芋焼くよー!」
「あ、トゥーリ様、ちょっと止まってくれないかしら?」
意気揚々と焼き場へ運んだ落ち葉を抱えて良くトゥーリを見て、パトラが呼び止めてその立派なヤギの角の近くに手を伸ばす。
「紅葉がついてますわ」
髪飾りとしても映えたかも知れないと思いながらも、髪と角の間に刺さっていた紅葉を取った。
「いつの間に!」
元気いっぱいに落ち葉を集めていたので、こういう事もあるだろう。
次第に焼き場に人が訪れて、煙も上がり始め火にくべられた芋を見守るトゥーリ。
その近くではサイラスがのんびり集めた落ち葉で焚き火を始め、芋を焼き始めた所だった。
荷馬車に積み込んだ落ち葉は充分過ぎる量にも見えるが、これから一体どれ程の量の芋を焼くつもりなのだろうか。
銅色の鱗に覆われた手には、大福の手綱が握られている。
お利口そうに鎮座するその姿にも、サイラスはもし焚き火に突撃でもされたら危ないし厄介だと考えての事だ。
積上げた落ち葉が吹っ飛ばされても困る。
金色の瞳が上がる火と煙を見定めながら、火箸を手に芋の加減を確認すると空いた方の手で落ち葉を追加して行く。
待つ間にサイラスの後方、後足で首を掻く大福は大人しいものだった。
流れる煙を目で追ったサイラスの瞳に、岬の――切り立った崖が目に付く。
(突き飛ばして崖から落とすのにお誂え向きだな)
物騒である。
芋の加減を気にしながら、焼き上がるまでの時間はまだ長い。
「こんな風にゆっくり散歩できるなんて、羨ましい土地ね」
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクが立ち並ぶ色付いた木々を眺め、故郷を思いながら口にした。
山の向こう側にあるアウレーリアの故郷では、すでに冬景色が姿を見せ始めて沿岸沿いのこの場所はまだ暖かいと感じる。
はらりと落ちる落ち葉を、翠色の瞳が見付ける。
辺りを静かな白が埋め尽くす前の、鮮やかな赤や黄色が舞い彩る中を散策する――歩く足に、落ち葉の感触を感じながら。
「……ね、貴方もそう思わない?」
紅葉の中でも見落とらない金髪を揺らして、アウレーリアが共に歩くキリアン・フィッツジェラルドへと言葉を掛ける。
「はい、僕もそう思います」
普段から礼儀正しい印象のあるキリアンだが、彼にとっても主人と言える、彼女の言葉に粛々と言葉を返す。
(例えどんな温暖な地でも、冬の来ない日は無い)
キリアンの青い瞳が視るのは、季節の景観だけでなくそれよりも先にあるものなのだろう。
本格的に冬が訪れる事の厳しさを、知って居るからこそ今の時期はできる備えに注力すべきだと生まれ育った地で学んだのだ。
だからこその心構えと、そして夜が明ける度に春の訪れが何れ来る事を知って居る。
散策を楽しんだ2人は、焼き場を訪れるとキリアンが持ち込んだ野営セットを手早く準備する。
キリアンは焚き火の準備と座る場所を準備すると、アウレーリアへ椅子を差し出した。
「ありがとう」
微笑みながら椅子に腰を下ろしたアウレーリアは、キリアンが集めた落ち葉へ手を翳してエーテルへ意識を向け――生じた火が落ち葉を燃やし始める。
「焼き芋は勿論、お肉も用意できるなら串焼きにしましょうか」
焚き火が安定した所で、アウレーリアがキリアンへ言う。
その表情から、『そう言うのは得意でしょう?』と微笑みに込められていた。
「わかりました、貰ってきます」
芋を火にくべたキリアンは、肉の調達に走った。
焚き火の扱いをアウレーリアから教わりながら、キリアンもまた火箸で芋の具合を見る。
貰って来た串焼きの肉が頃合いになったと香りと音が告げる。
焚き火で暖を取るアウレーリアへ、キリアンが焼き上がった串焼きを1つ差し出した。
「ありがとう、キリアン」
静かに流れる時間を噛み締めながら、アウレーリアは澄んだ空を見上げる。
アウレーリアはこれからの大変な事、やらなくては成らない事を確認するように口にした。
「僕は従者として最後までついて行く次第です」
アウレーリアの実力と軌跡、その手腕を見て来たキリアンは静かに宣誓を口にして続ける。
「今はただ、一時の休暇を楽しみましょう」
その迷いのない微笑み。
「そうね」
アウレーリアは短く返す。
(うぅん、きっと全部こういう時間の為なのよ)
「……そろそろ芋も焼きあがってそうね」
「はい、見てみます」
キリアンが芋を焚き火から取り出し、串で刺して加減を見る。
抵抗感無く通った串で、加減を確認したキリアンが芋を調理器具でやけどしないように割った。
「こっちの芋も、良い品ですね」
外気に触れて舞った白い煙の断面、黄金の色艶を見て故郷の芋と比べてみたいと思うのだった。
「はふはふ――うん、甘くて美味しい!」
声の方を見るとトゥーリが焼きあがった芋を頬張っている所だった、大きい芋を両手に持っている。
落ち葉をあつめたお礼にと、農家の人が大きい芋をくれたのだが焼き上がりも相応に掛かった。
「……うん、美味いじゃん」
サイラスも焼きあがった芋を片手で食べ、そして次の芋の面倒を見ながら食べている。
冷ました芋を大福が食べているので。心配も少し減っただろう。
サイラスは焼きあがった芋を灰の上に転がして、次の芋を焚き火に投入して行く。
「――私たちも食べましょう」
「そうですね」
キリアンから焼き芋を受け取って、アウレーリアは焼き芋を頬張った。
●
焚き火の煙が見える場所よりも、もっと多くの煙や香りが立ち上る。
肉――満ちるのは肉の香りである。
肉だ――――食わずにはいられない。
その巨大なシルエットは、たまたま伸びた影です。小柄なハーフビースト、灰銀の髪を揺らすベルク・オスマットだ。
「香草焼きの肉はやっぱりうまいな」
焼き上がった肉を調理場から受け取るとガッとスペアリブの猪肉へ食らいつき、豪華に食い千切る。
噛むたびに口内で踊る肉汁は、香草をアクセントに深く味わえてクセを感じさせない。
もう片方の手には、杯の内にエールが並々と揺れる。
肉を粗方咀嚼したベルクはエールをぐいっと、煽り。
「――うん、合う!」
合格点だった。
しかし、香草焼き以外にも香りの源泉である肉料理の品々が多数あるのだ。
刃の傷痕、その半ばに輝く赤い瞳が次の肉料理を見定めて行くのだった。
「はい、どうぞ猪鍋ですよ!」
ハルハン・ツァガーンナルが器にどーんと盛った猪鍋を手渡す。
「おぉ……」
ファイサル・アル=ファルドがそれを受け取って、頂きますと口を付けると臭みの無い野生で培われた肉と鍋の風味が口に広がり感嘆として漏れた。
「ファイサルの住んでいた地方だと、猪みたいな動物は少ないでしょうか?」
ハルハンは自分の分も器によそうとファイサルの隣に座った、同じようにお肉とお野菜をたっぷりだ。
立ち上がる湯気と、出汁の効いた香りを楽しんで旬の野菜を口に運んだ。
温かさと野菜の旨味を堪能するハルハンの白くてふわふわの耳が、ぴこぴこと動いた。
「故郷じゃ鳥は食べますけど、猪は珍しいですね。干し肉を行商人が運んでくるくらいじゃないかな」
素材の旨味が詰まったスープの味も楽しみながら、ファイサルが答える。
冬を迎えるこの時期の獣肉は、冬への蓄えを行う為味が格別なのだとファイサルへ補足するハルハン。
「ボクみたいに、冬毛で寒さを耐える動物もいますけどね」
ちょっと得意気に、ふわ耳が主張する。
「へぇ……」
猪肉を再び口に運んだファイサルの蜂蜜色の瞳が、ぴこぴこ主張するもふ毛に向く。
(確かに、ふわふわしてそうだ……)
「……触ってみます?」
そのファイサルの視線に気付いて居たハルハンが、ちょっと悪戯っぽく聞いたのだった。
(おっと危ない危ない。ちょっと見つめすぎてしまった)
「大丈夫ですっ肉を食べよう。あ、野菜もっ」
視線を器に戻したファイサルは、湯気と共に口に放り込むように器の中の猪肉と野菜をもぐもぐと食べる。
「ふふ。ボクもお肉を食べましょう!」
そんな友の様子が少しおかしかったハルハンも、野菜とスープの味を楽しんだあと猪肉を食べる。
肉の脂は臭く無く奥行きのある味わい。思った通りに、この時期の肉の旨味は格別だった。
「柔らかくて、お肉と一緒に煮込んだ野菜と一緒に食べると、より美味しいですよね」
ハルハンの言葉に。
「あぁ、これは美味しいですね」
答えながらファイサルも鍋を楽しんだ、温かくて優しい味に2人の談笑は自然と弾みながら――鍋のおかわりをよそってからも続くのだった。
賑わう観光客の中、調理場の雰囲気に一線を貸すエリアでは、肉の香りとは別の物が混じっている気がする。
丸々とした鶏肉に詰め物をして、更に軽々と持ち上げて石窯の中へくべる。
じっくりと芯に火が通り焼き色が付いたそれを取り出せば、更に高温に達した油へと投入し表面をカリっと仕上げる頃合いを見て取り出す。
「よし、いい感じだ!」
ケン・Z・ブラッドリーの剣を振るい鍛えられた肉体は、今日は調理場で冴え渡る。
その見た目や所作の豪快さと、細部に気を使った一品に思わず声を上げる観光客が注目する。
「どうだ? 味見してくれないかエデル」
そう言うとナイフで、一番良い所を試食として切り取ったケンが、共に料理場に立っているエデル=マグノリアに小皿と共に手渡した。
「では、頂きますわ」
出来立ての湯気を、ふぅと粗熱を冷ましながら口へ運ぶ。
鶏肉の癖のない脂と、カリっとした食感――――噛む程に口内で香草の風味が香りと共に広がりエデルの舌を楽しませた。
「……美味しいです」
微笑みながらエデルは感想を伝え「そうか!」とケンは嬉しそうに笑った。
日頃エデルが作る料理と言えば、診療所勤めのため味付けは薄味慣れしているのだが。
病人食研究もしているので、しっかりした味付けに錯覚させることや彩りには気を使う工夫に一長の覚えがある。
今回、そんなエデルが作ったのは鶏粥だ。
ケンは今回のこの場で『お互いの味の好み』が分かれば良いと思っていたので、その鶏粥も味見したいと小皿をエデルへ渡す。
まだ湯気の上がる鶏粥を、ケンは息で少し冷ましたら頬張った。
「ケン様、この味付けはどうかしら? 好みに合いそう?」
静かに強くエデルの鼓動は高まる――ケンの誕生日に向け、好きな料理や味付けをひっそり探っていたのだった。
「こりゃ美味いな! 良いと思うぜ」
エデルの不安を吹き飛ばす、秋空のような笑顔をケンが向けてくれる。
ほっとしているエデルは、ケンが今の鶏粥と鶏肉を使った料理を考案しているのに気付く。
「私は薄味に慣れているけれど、しっかりした味も好きよ」
「そうか! そりゃ良かったぜ」
そう聞いたケンは嬉しそうに返事をして作る料理を決めた。
鶏粥の水分を少し減らし、鶏肉の中にその米を仕込んで焼くというスタイルを取ってみる事にした。
「こうやって二人で並んで料理作ったり、二人の味を作っていると新婚さんみたいだな」
「しんこ……ん…………」
エデルの頬が、紅葉にも見劣らない色に染まって、賑わう観光客は酒と飯が進んだと言う。
(レストランもいいが、今回はこっちで食うか)
沸き立つ祭りな雰囲気――――いや、ちょっと知ってる盛り上がりと違うなと、灰色と紫玉の瞳でルイドはその一角を観察し。
「お、美味そうなのあるな、貰ってくぜ」
ついさっき完成した鶏肉料理の皿を引き取ると、その料理達に合う酒を求めてふらり、猪肉の鍋を頂いてあちらの酒をと。
今、ずらりとルイドの眼前に並びつつ在るのだった。
(ちょっと集めすぎたか?)
テーブルにはこの会場で食べられる多様な料理が並び、そしてそれに合う酒を既に食べている観光客から聞き。
どれも美味しかったので、自分の分を確保した。
(そういや……今んとこ苦手な物ってねぇな)
猪肉の香草焼きも猪鍋も、鶏肉料理もどれも美味しかった。
これにはエール、これには米酒、これにはワインと合わせるとまた違う、ここで出される物が旨いからだろうか。
「……お、この組み合わせもありだな」
ルイドはパターンを変えて食べる楽しみを知ってしまった。
「お、それも美味しそうだ」
「アンタはたしか――」
気付けば同じテーブルにベルクが座っていた、その手には焼き芋や猪肉の蒸し焼きが乗った皿がある。
「そっちのも美味そうだな」
2人の取引はシンプルだった、互いにキープしている品をトレードして食べる。
美味い――。
互いに同じ会場で違う料理をまだ味わえて、そして酒は進む。
気が付けばテーブルの料理は徐々に減り、酒はおかわりだ。
紅葉を楽しみながら、何か料理を追加しようかと思っていた所だった。
「あ、ベルクさんに、ルイドさん」
声と共に振り返った2人は、声の主の姿――――リサの姿の前に、抱えた寸胴がベルクとルイドの眼に入る。
ズン。
とテーブルに伝わる重量感、鼻腔をくすぐる特有の香り。
「猪肉のシチューを作ったんです、一緒に食べませんか!」
パンもありますよと気が利いたリサの、思わぬ新たな伏兵にベルクとルイドは共に固唾を呑む。
これはここでしか味わえない一品だと、歴戦の経験が悟らせる。
限界はまだ迎えていない、食べるか食べないか? そんなのは一択だろう。
「「いただきます」」
「はい、どうぞ召し上がってください! あ、その鶏肉料理美味しそうですね」
こうしてテーブルの一角には会場の様々な料理が集まり、それを皆で味わって行く。
その中でも、ベルクのテンションは異様に高かったと言う。
この小柄な身体の何処に酒と飯は消えたのか――潮風にあてられたのかも知れない、感謝祭の熱気と賑わいはまだ終わりそうに無い。
●
外の賑やかさから乖離した落ち着いた、穏やかな時間が流れるレストラン。
窓の外には赤と橙と黄色に染まった木々と――岬が一望できる。
感謝祭の会場を一通り視察し終えたルーンス・ラグネルと、その視察するルーンスに同行していたカイン・ステラが同じテーブルに着く。
「山の幸もいいよね」
視察の実りにご機嫌な様子のルーンスは料理のオーダーをしてカインに視線を送るとカインも料理のオーダーを済ませた。
「今回も料理の意見、か?」
カインはルーンスがこう言う場所に、自身を誘う時は大体そうだと経験則で尋ね。
頼んだ料理、七面鳥の香草焼きと猪肉のママレード煮が並んで行く。
「そう、カインの意見が聞きたいんだよ」
オーダーに少し悩んだルーンスは、猪肉のカツレツに決めそれがテーブルに並んだ所で実食へ入る。
カインは料理を先ず素直に味わって食べる、味が舌へ伝わり香りが喉の奥へ広がるようだ。
作りたての料理の熱に、作り手の細部への気遣いを感じる、良い料理だ。
そしてカインはある程度を口に運ぶと味わうから考察へと思考は流転させる。
「下処理しっかりしてれば、これからの季節だし、ゆず塩、胡椒、味噌と組み合わせてもいいかな」
ルーンスがそのカインの言葉を聞きながら「なるほどね」とペンを走らせている。
(他だと煮るのも相性良さそうだ。あと、煮てもいいし、ハムやジャーキーも悪くない)
「ゆず塩は調味料だし、相性良さそうだね」
食事もしながら、カインの意見を書き漏らさないルーンスの手先は器用な物だ――何より、カインの様子を楽しんでいる節もありそうであるが。
メインを食べ終わった2人の前には、デザートが並んでいた。
ルーンスがモンブランの甘くしつこくない風味に舌鼓を打ったところで思い立つ。
「栗や芋料理のレシピ本出すのも悪くない……ね、カイン?」
カインは割った焼き芋の中に入っているミルクアイスの味わいを堪能してた――――そんな所にルーンスの無茶振りが訪れる。
「お手軽・庶民向け・図解でやればいいんだろ」
まぁ、別にいいけどさとカインは肩をすくめる。
無茶振りと言っても、カインに過去実績がある事を見越したルーンスの言だ実現は可能なのだろう。
「流石、カインだ楽しみにしてるよ」
レストランを出る所でパトラに出くわしたルーンスは、書き留めたメモを手渡し。
「塩は海岸部の方が強いからね」
カインの提案とも口添えて、レストランを後にした。
マスターコメント
ご参加ありがとうございました!!!(埋枯葉五体投地)
気付いたら11月が終わっていただなんて……お待たせいたしました!!
今回も素敵なプレイングを多数ありがとうございます!!
12月の「生祝」シナリオも予定しておりますが、もう少し先になると思います。
次回もご縁があれば嬉しく思います。
イベントシナリオ易しい 報酬:標準13 / 4〜25人
2022年12月05日 11時07分27秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
リサ・ベイカーです。 わたしは、今回は主催側で、調理を手伝わせて頂きますね。 【2】になるでしょうか。 よろしくお願いします。