【生祝】迎月祭と港湾の水月〜新暦1222年9月〜
一乃口
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シナリオID:2469
オープニング
エラトゥーン都市同盟の北東部の、さらに沿岸沿いにある立地が一長一短である事は事実だった。
商人や旅をする者にとっては有り難い位置だが、ちょっとした観光としては足を伸ばす事を遠く感じる立地にあると言えるだろう。
そんな古い港町は、長い歴史の中で船の大きさが変わるように、港の設備に増改築が施される。
アルアータ商会の次期当主、パトラ=L=アルアータがその寂れた造船所のひとつを買っていた。
その時は、わざわざ取り壊す費用を、自ら被る変わり者だとすらウワサされた程だった――。
そんな話も1年程前の事となる。
9月、翌月に控える収穫祭を間近に控えたエスト・ポーラでは前祝いの祭り『迎月祭』が開かれている。
今年は特にエールの出来が良いとの事で、エールを飲むのに合うだろうと屋台が立ち並んだ。
街の商会もこぞって店を出す、その中には勿論、アルアータ商会も含まれた。
大人だけが楽しい、とならないよう。
子供も楽しめようにアルコールを抜いた子供用のエールも振る舞われていた。
一年の中でも月が綺麗に見えるこの季節は、それを見て団子を食べる風習がシャルガネより伝わり。
ここエスト・ポーラでシャルガネの文化に関心を持つ町民の一部が気に入り、食べ歩きの屋台の一品と親しまれている。
肉や魚等も扱われるが、この時期から旬を迎える品々と団子に至るまで。
『食べ歩き』がしやすいようにと、串焼きで提供されることが多く。
別名、『串焼き祭り』と呼ぶ者が一定数存在するらしい――。
そんな祭りを楽しむ酔っ払いとゴミなどの問題、諸々の対策に頭を使った少女が1人。
祭りの活気賑わう場所から乖離した冒険者ギルド。
そこへ要項をまとめた羊皮紙を提出しにやって来たパトラがいた。
「では、場所は案内に記しましたので……」
受付は応対しそれを受け取り、ギルドへの掲示を引き受ける。
祭りの細かい雑務全般が、今年の裏方担当となったアルアータ商会、パトラは一任され多忙であった。
ギルドを後にする彼女の足取りはちょっと怪しかったという。
すべては祭りの評判を良い物として終わらせる為、とうわ言のように言って居たそうな。
解説
マスターより
リプレイ
この街のイメージと言えば古都の名に相応しい古い造りの建物、落ち着いた雰囲気のある街並みだと言う者は多いだろう。
しかし、今日に限っては『迎月祭』と言う別名、『串焼き祭り』と言う催しで、何時も以上の人と活気に街は賑わっている。
往来を出歩く老若男女の街の人々と、少し遠方から立ち寄った観光客。
祭りの名物である出店の数々が漂わせる、旬の食材や風変わりな一品の香り達が行きかう人々を誘い活気に満ちている。
食べ物の出店以外にも、今日のこの日に足を運ぶ客層に売り込む露天商。
港町の一画の賑わいは普段の落ち着いた雰囲気からは大きく異なっていた。
串焼きの1つを楽しむ笑顔の裏方で、今回の祭りの仕切りを担う者は様々な雑務で奔走しているのは――ここから遠い所の話。
そんな裏方に居る少女が招致し、訪れた冒険者の面々が、このエスト・ポーラの地を訪れて各々思い思いの時を過ごしていた。
『串焼き祭り』と呼ばれるこの祭りの場を訪れたホムンクルスのルイド。
異色異体の双眸はその呼び名を受けて、やはり楽しむなら串焼き達だろうと思い至る。
露店に並ぶ肉や魚に、団子――多種多様に並ぶそれらを見て回る。
甘味から塩味の効いた物の陳列を目で捉え。
(交互にいけば飽きが来ねぇか――)
そう決めたルイドは、物色の傍ら最も印象に残った肉の串焼き屋を目当てに、一度来た道を戻る。
人だかりが割れた所で目当ての肉串屋が視界に入った。
するとそこに祭り客とは異色の雰囲気を纏った面々を見付ける。
「アンタ達も来てたのか」
ルイドは冒険者として見知った顔を見付けたので声を掛けた。
金髪の結った髪がルイドの声に気づいて揺れる、緑色の瞳はルイドの顔を見ると隔てない笑顔を向けた。
「あ、あなたも来てたんですね!」
リサ・ベイカーがルイドへと声を掛けた、その後ろにリディリディ・トゥラ・イェレミース、そしてミゼリア・L・ステュクスの3人とルイドは祭り会場で顔を合わせた。
リサとリディリディは友達同士だ、エスト・ポーラでもそこそこ高名な商家、ベイカー家のお嬢様でもあるリサは友達を街案内していた。
共に居るミゼリアは、街を訪れたものの「どうしたらいい」のか途方に暮れて居る所をリサが発見して声を掛けたのだった。
ミゼリアは、同じホムンクルスだと直ぐに分かったルイドの顔を見ると会釈をする。
長い漆黒の髪がその動作に合わせて流れ、紅い石が髪の合間に静かに光る。落ち着いた雰囲気を閉じ込めたような紅玉の瞳を向けられルイドもまた礼を返す。
「街を案内してくれるなら助かるな、俺も同行して構わないか?」
「もちろん! 大歓迎ですよ!」
屈託のない真っ直ぐなリサの笑顔、そんな雰囲気とは一歩引いた所でリディリディの澄んだ藍玉のような瞳が真剣に串焼きの肉達を凝視していた。
意を決した金髪の見目麗しいエルフが店主へ向かって控えめな声音で「あの――」と声を掛け。
片手の指を、掲げて見せる。
「はいよ! 注文だな? 1種類1本ずつか?」
リディリディの片手の指が5本、真っ直ぐに伸びている、その片手は先刻購入したエールがまだ波々と入っているので開いているのはこの片手だけだった。
女性らしいその雰囲気、見掛けから店主のオジサンは、そうリディリディに確認をした。
この店では香草を利かせた牛肉の部位毎に違う食感を楽しめる5種類が売り、故に店主は歴戦の勘でオーダーの意図を汲んだ――つもりだった。
「いえ、5種類を――一先ず10本ずつ」
迷いのない食欲の眼差しが、店主に冗談ではないと悟らせる。
あぁ、と店主は思った、早合点だったのだと。
連れの人達と一緒に食べるために、まとめてオーダーを取ったんだな、と思えば疑うこと無くオーダーに応じ。
「大盛りオマケお願いね!」
そう言ったリサの言葉にも「ベイカー家の嬢ちゃんか、今回だけだぞ!」と店主が笑いながら応じた。
焼き上がった肉串焼きを手渡した瞬間のリディリディの瞳は春の陽射しのように輝き、その一式を手提げの紙袋ごと受け取る。
「じゃ、みんなで仲良く食べな!」
勘違いしたままの店主の言葉に、リディリディの瞳は山の天気のように移り変わる。
「なんで私のお肉を分けなきゃいけないんですか?」
リサを除く面々は、意外に思ったかも知れない。
既にお肉を食べ始め肉汁の味を引き立てる香草の風味に、リディリディの表情はご満悦であった。
本当に、美味しそうに、幸せそうにもぐもぐしている。
「あー、おっさん、俺の分も頼んでいいか?」
ルイドの声に、まだどこか遠くの何かを見るような顔で膠着していた店主のマインドが帰ってくる。
「では、わたしの分も!」
「わ、わたしも……注文を」
リサがはーいっと手を挙げながら、ミゼリアが控え目に手を挙げて共にオーダーを告げる。
その内容もぶっ飛んでいたら店主へとトドメが入っていたかも知れないが、そんな事のない普通のオーダー。
ミゼリアは本命が別にあるので、5種類1串をひとつ。
「まいど!」
各々のオーダーが焼き上がった頃、リディリディのおかわりオーダーが、串交換付きで肉串焼き店主のタスクを襲う――。
「そう言えば向うにも違う肉の串屋があったな」
ルイドがふと言った一言に「どこですか?」串交換分の肉と追加された串焼きの肉とエールを堪能していたリディリディが聞く、ルイドはその目力に気圧された。
「わたし、案内しますよ!」
リサが言うと「お願いします」と言うリディリディのINIがとても早い。
規格外とは、こういう人のことを言うんだろうと、初対面ながらインパクトの強い出会いとなったミゼリアが共に歩き。
「あ、甘いのも……食べてみたい、です」
控え目に主張しながら、手にした肉にも手を付ける。香草の効いた串焼きの牛肉が噛むたびに香りとスパイスで舌を楽しませる。
少し熱いのも、できたてを食べられる醍醐味として、はふはふと頂く――ひとつひとつ異なる部位の牛肉の食感が不思議だった。
「俺も甘いのも気になるな」
香草の効いた肉を咀嚼しながら強い辛味を感じた折りにエールを飲む。
塩味と酒のローテーション、肉の食感が異なるのも飽きずに楽しめる。
「甘い物ですね! そっちも抑えて行きましょう!」
リサが先頭に立って街並みを合わせて紹介して歩く。美味し屋台は勿論、美味しいカフェやレストラン、雑貨屋なども詳しい。
祭りの雰囲気も相まってか、エスト・ポーラを紹介するリサは終始笑顔で嬉しそうに紹介し、そして風変わりな屋台が見付かると一緒になって驚き、楽しんだ。
そんなリサの紹介にミゼリアは興味が尽きず、気が付けば両の手には梨の果実酒、梨と桃の団子の串、みたらし団子とシャルガネ風のお団子のひとつ、煮込んだ豆が甘いのは意外だった。
リサの話を聞いている間にももぐもぐと食べてはいるが、新しい屋台の一品が気になると、ついつい頼んでしまっていたミゼリアの手からは食べ物が尽きない。
肉のストックは足りているリディリディも、リサのオススメのお店に興味がある。
「今年のベイカー商会は役割無しなので、ゆっくり祭りを楽しめます!」
リサの話を聞いていたルイドが、その言葉を聞いてエスト・ポーラに詳しい理由を悟った。
串団子の連れにワインを試しに飲んでいた、これはアタリな組み合わせだと思った、そして次に見付けた秋刀魚の串焼き。
食べ終わった串団子で10本目の串となる。
(塩味、酒、塩味、甘味……とローテーション、串交換のシステムも理に適ってていい)
貯まった串を早速交換して手にした秋刀魚にかぶりつく――魚とは思えない脂と塩の風味が熱と共に口内に広がる。
「……これはエールだな」
ワインを飲み干したルイドはエールを追加で買いに行くために、女子向けのお店の話で賑わう面々に一言伝える。
ついでにエールを飲み切った様子のリディリディの分のエールも買いに行った。
普段より多く食べているミゼリアは、丁度揃った串の交換をどうするか悩む。
そこへ秋刀魚の追加とエールを買い戻ったルイドが戻って来た。
リディリディが肉を堪能しながら会釈をしてエールを受け取り、ルイドもまた秋刀魚とエールを楽しもうとする。
「秋刀魚も美味しいんですよね! 街のオススメですね!」
と言ったリサの言葉で、ミゼリアの交換は決まった。
焼きたてだと音で解る秋刀魚を口に運ぶと、また知らないような、懐かしいような気持と肉とは違う脂と塩の風味を味わった。
お勧めの秋刀魚、リサも美味しそうに食べる様子を前に、リディリディは肉と魚肉の間で心が揺らいで居たかもしれない。
「リサさん……今日はありがとうございます」
ミゼリアの表情が、嬉しそうに見えたリサは「どういたしまして!」と嬉しそうに答えた。
賑わう祭りの雰囲気、その中を銅色の鱗のリザードマンのサイラスが白に黒い斑模様のある狼の大福を伴って歩いて居る。
その手には既に幾つかの串団子がひとつ、ふたつと咀嚼され、その逆の手には梨の果実汁――飲み終わったら桃にしてみようと屋台の目先を金色の瞳が考察しながら祭りを楽しんでいた。
(甘いもの楽しむ為に来てるしなぁ)
サイラスの目当ては甘味なお団子が中心だった。
超味覚を使って大丈夫だと判断出来るものはペットである大福――福太郎も腹を空かせるだろう、与えてあげたいのだが。
基本的に、甘味がある団子は狼である福太郎にはあまり良くないと言うジレンマの存在がサイラスを困らせた。
くんくんと鼻をならす大福が屋台の一つを通りの角で見付けたとサイラスに呼び掛けるように控え目に吼える。
周りを気遣った福太郎の吼え方を撫でて褒めたサイラスが、その通りへと向かう。
「おっ」
お目当ての甘味な団子は混ぜ物が中心故に、大福へ与えるのが難しかったが、素の団子を扱っている店が見付かる。
丁度食べ終わった串が10本ある――交換にも丁度いい。
「十本分とか1匹で余裕だよ。な、福太郎!」
福太郎は独特な吼え方で返した――10本、ホントに食べるの福太郎?
それはさておき、お腹を空かせた大福は団子を美味しそうに食べている、その様子にサイラスも追加の団子を安心して食べ。
「民芸品も見て周るか」
インスピレーションとかそんなのを求めて。
人が使うための道具である以上、人がいる場所のほうがいろいろと見応えがある。
「行くぞ、福太郎」
歩き出した1人と小さく吼えて返事をする1匹は、次なる目的地へと向かった。
●
ルーンス・ラグネルは祭り飲食屋台よりも民芸品達が並ぶ露店商の方に興味があった、自身の目線以外の意見を求めるのは彼の気質であり、商人としての在り方だろうか。
同行への要望を快く受けたシルヴィア・A・カペルと海神・江流の3者が並ぶ品々を話題の種に、歓談に花を咲かせる。
女性へのお土産の見立て、ルーンス自身は商人としての女性物の知識や流行りは推し測れる。
と経験からの矜持は確か、だが『男として』となるとその経験から物を選ぶ事を躊躇したのだ。
「頼ってくれて嬉しいよ――さて、お眼鏡にかなうものがあるかどうか」
微笑むシルヴィアの青く澄んだ空のような瞳がルーンスへと向けられ、次いで真剣な眼差しで品々へと目を配る。
その真剣さは商会の次期会頭でもあるルーンスの為でもあり、以前そんな彼から贈られたNarcissusと颯のお礼をできる貴重な機会。
品を定めるために姿勢を下げたシルヴィアの白い髪が浅葱色のストールの上を流れる。
良き品を貰い、そのお礼をするとなれば、良い品を見付けたいとクールな瞳は厳しく目利きを行って行く。
「婚約者に贈るって言うと悩んでね」
「婚約……か」
ルーンスの言葉に、海神が感慨深げに言葉の一部を復唱する。シルヴィアとは対照的な黒い整った髪、黒い瞳が物思い遠くへ向いた。
「ルーンス君達のそれは、当人達が喜んで迎えられる幸福な約束なんだな」
その吐息にもし色があったとしたら、それは目に付いたスターチスの花飾りに似ていたかも知れない。
その言葉を口にした心は、身体とはどこか違う場所へと赴いて居るようにも思えたが。
「商会継ぐまで内緒だけどね!」
ルーンスの顔を見て居ると、海神は素直に羨ましい気持ちと祝福の念を彼等へと送る。
シルヴィアがルーンスへ「婚約者がいるとは初耳だね」と驚きと喜びを混ぜて言う。
どんな女性なのか、シルヴィアがルーンスへと話を伺いながら、露店の前を歩き、立ち止まって品々を見立てて行く。
「僕の2歳年上なんだ、にいさまとも仲良しの、可愛くておっかない、僕の共犯者」
悪戯っぽく言うルーンスに、シルヴィアは可笑しくなって控え目に笑う。
「共犯者? ふふ、婚約者さんにも会ってみたいな」
そんな会話の折に髪飾りを贈ると言うひとつの着地点を得たシルヴィアが、その見立てを手伝うべく手に取った髪飾りを付けてみせる。
アベリアの花飾り。
「開花期が長い花だからね、二人が末永くあるように――これはどうだい?」
「あぁ、とても似合いそうだ、今度紹介するね」
ルーンスはアベリアの花飾りを購入する。
「それで、シルヴィの方はいつ頃になるのかな?」
婚約者への贈り物が決まり、嬉しそうなルーンス様子を見守っていた海神が、シルヴィアへと茶化すように言う。
「お祖母様には認めて頂いたけれど、周りの人達はこれからだからね。しっかり根回しをしないと。難しくとも頑張ってみるよ」
迷いの無く淀みも感じない澄んだ青い眼差しでシルヴィアは微笑みながら海神へと返し。
「そうか、ご馳走様だ」
茶化した雰囲気のまま返す海神、その胸中はまた遠くある決意へと注ぐ決意を改める。
その影潜む決心の様子を察してか知らずか、ここまでの物色で気になった品があるとルーンスが言うと。
奇遇にもシルヴィアもあると言い、海神が「じゃぁ、またここで合流するか」と3人が自由行動を各々に取り。
そして、合流した3者はそれぞれが、それぞれへと贈り物を買って来て戻って来た。
ルーンスはシルヴィアに白と浅葱のモザイクガラスのポットを。
「飴細工なんかいれるといいんじゃないかな」
ありがとうと、ルーンスから受け取ったシルヴィア。
そんなシルヴィアからルーンスへ爽やかな青色で花々が描かれたティーカップとソーサーのペアをルーンスにプレゼントした。
「これからもよろしくね」
「ありがとう! 2人のお茶会に使うね」
シルヴィアの言葉にルーンスが笑顔で返し、シルヴィアが江流には――と帆船のサンドアートを海神へと贈る。
ルーンスも江流への贈り物で黒と紫のモザイクランプを購入していた。
「家で書物読む時にどうかな」
ルーンスが江流に微笑みながら言う。
「江流、何か気になるものはあったかい?」
そんな彼等が秋の夜長を2人で過ごす姿を思い浮かべ、モザイクガラスのキャンドルグラスをルーンス君とシルヴィの2人へ贈る。
「読書向けではないけれどね。秋の夜を二人で過ごすなら、これくらいの慎ましい灯りの方がいいかと思って」
互いに贈り物を贈りあい、今日この日の事はお互いに大事な誰かに話す話題にもなる。
贈り物に込められた、互いに相手へを思う感謝の念は、胸に熱く灯って褪せる事はないだろう。
●
宵の口を迎えた頃に祭りを訪れて、散策していて祭りを楽しんで居たネーヴェ・グラヌローザが賑わう会場の中で銀の瞳が見知った顔を見付ける。
「そこにいらっしゃるのは……アルフィーさん?」
振り返った黒い髪には特徴的な同じ毛色の猫の耳、アルフィー・リッパーは声の主に気付くと尻尾を揺らして元気よく返事をする。
「ネーヴェか、奇遇だな」
「ふふ、やっぱり。奇遇ですわね」
人違いではない安堵感、気心の知れた知人と思わぬ所で一緒になれた、妙な嬉しさを感じる。
「屋台でつまみを買って月を見にいこうと思ったんだ。よかったらネーヴェもどうだ?」
「左様に御座いますね、ええ、私で宜しければ」
共に屋台で料理数品と梨の果実汁や月見酒を購入――そうこうしてる内に、月見の頃合いの良い時間に気付き、お月見スポットである港の一画へ共に足を向けた。
その道中に、アルアータ商会が手配していたシャルガネ料理の料亭がある。
「飲もう飲もう! 乾杯! おめでとーぅ!」
「かんぱーい!」
杯が元気な声に負けない音を奏でて、個室のひとつが賑わっている。
乾杯の音頭を取ったシャルロット・エクレールが景気よくぐいーっと行く、行っちゃった。
フリューリングスルフト=ティエラもそれを見て程々でステイした。
「乾杯。出会って2年、もうそんなに経ったか」
エイル・ビュセファスはそんなシャルロットとは対照的に落ち着いたペースで喉を潤し。
イュンは水で薄めた梨果汁をちびちびと飲む。
成人のお祝いを三人で!
と誘ったシャルロットはご機嫌、甘いお酒がご所望のフリューのために、果物一杯のサングリアのピッチャーの余力はまだまだある。
その出自の背景相まって、年齢が曖昧なエイルはお祝いムードに水を差す無粋を嫌ってその事実は胸にしまう。
「ただ稼ぎは少し悪くなったな」
エイルはここ最近の儲けが気になった、理想的な稼ぎが無いと言うのは精神的に来るモノがある。
「もっと稼げると思うからエイル、また1年よろしくさぁ」
「よろしくねーエイル!」
稼ぎの悪さを忘れさせるような景気の良い2人を前に、エイルも「よろしく」と呆れ半分に返す。
「あっという間の2年間さぁ」
フリューが机上の料理と、初めてのお酒を味わいながら歳月を振り返る。
出会った頃よりきっと強まった絆、二人の事を一層好きになった――イュンも増えて楽しくなった。
その嬉しさは自然と丸みを帯びた先端が黒い尻尾がゆらりゆらりと揺れる。
「うちも風みたいに速くなったさぁ♪」
実力がついて、自信がつく。
「白い風を追うんやなくて、自分の風で駆けようと思うさぁ」
彼方に見えた白い情景、追い付く為に磨かれた理想形の姿よりも一歩先を思い描く、そのイメージはこれからの自身だ。
そんなフリューの心機一転の宣言にシャルロットが「良いね! 偉い凄い!」と乾杯を再びフリューとする。
お酒の進みが早いのは、それだけ2人と共に泣いて笑いあって、我が儘も言えて。
2人へとシャルロットが思う、2人への感謝が、幸せな思いがそうさせているのかも知れない。
「次のステップか? いいんじゃねぇか」
サングリアを景気よく飲むシャルロットに当てられたのか、エイルのグラスが追うように空く。
「追いつくつもりでやってりゃ届かねぇだろ。やっぱ追い抜く気概じゃねぇとな」
その言葉に、力強く頷くフリューと揺れる尻尾が答える。
『応援してる』とハッキリ伝えないエイルの声援は、付き合いが長い2人には伝わっているだろう。
そんなエイルがメニューの、酒のページへと視線を落としたのをシャルロットが見逃さなかった。
「エイル、これじゃ弱い? 好きなのはどんなお酒? 憧れてるのとかないの?」
「酒の好み? 高ぇ酒だな」
熱そうに串焼きに手を付けるシャルロットに聞かれたエイルが答える。
「そもそも酔う程は飲まねぇな。シャルは強ぇのか? 弱いならあんまり飲みすぎんなよ」
「はいほうふー!」
あつそうに串焼きを頬張ったシャルロットの呂律の怪しさがハンパ無かったが、エイルは気にしないことにした。
エイルのメニューを見る眼は、酒の味と言うよりは酒の価値に向いているが、折角だから頼んでみる事にした。
今日の為に準備してもらった、旬のマスカットとイチジクを飾ったケーキ。
3人と1匹で切り分けて、イュンにはフルーツを分けて食べる。
マスカットはエイルの使う術のイメージ。癒やしの緑。イチジクはフリューの艶々の髪の色。なびくと綺麗。
「払った分は食わねぇとな」
切り分けられたケーキを食べるエイル。シャルロットもフリューもそのケーキを口に運ぶ。
フルーツの食感とは別の風味が、口広がる――スポンジの中に砂糖漬けのブルーローズの花弁が混じる。
その色はシャルロットの瞳の色に似ているように見えた。
「シャル、今度新しいマント一緒に選んで!」
思い出すようにフリューがシャルロットに言うと「もちろん!」と返事が返り。
サングリアのピッチャーの中身が心許なくなった頃、ワルツを賑やかに踊り出す。
失敗したって陽気ならいい――イュンだって足元でステップを踏んでる。
3人と1匹の宴会は、まだ終わりそうにない。
●
元造船所と言われなければ想像できない造り。
強いて言えば、後付けで作られた敷居の段差が不意にある所に面影があるのかも知れない、そんな段差に気付いたセロンガード・シュタインドルフが共に訪れたティトの手を取ってエスコートする。
屋台で買込んで来た山ほどのお月見団子と茶葉を片手に支えるセロンガードが、ティトの為に空けている手を伸ばす。
その手を掴むティトに、足元の不安なんて微塵も感じることなく歩くことができる。
「ありがとう」
と自然と出てくる言葉に何よりも信頼感から微笑むティト。
その笑顔を照らす月明かりの強さに気付くと、セロンガードは「どういたしまして」と、その手を引いて行く。
風を遮った事で、水面に月が揺蕩い。見上げる空にも満月の明かりが夜を優しく照らしている。
屋台でいい茶葉を見付け、淹れたてのお茶と一緒に月見団子を楽しむ。
もぐもぐもぐもぐ。
花より、では無く月より団子と不言実行にお団子を食べる、雪のように白い毛並みな狼のハーフビーストはその小柄な見掛け以上にお団子に夢中な様子。
セロンガードはそんなティトと月を同時に楽しみながら、自分のペースで団子と茶を味わっている。
綺麗な月夜に、可憐なティトを同時に楽しめる――過剰供給と言う幸せな時間を噛み占める。
「ティト、お団子が喉に詰まらないようにお茶も飲みましょう」
お団子を頬張ったティトは頷きながらお茶を受け取るとコクコクと小さな喉を鳴らして飲む。
頬張った頬のぷっくりとしたところが、また可愛らしくてセロンガードのティト供給値は天井知らずだった。
気が付けば月よりもティトを見ていたセロンガードの視線がティトと見詰あう形になった。
山ほどあった月見団子を食べ終えてしまっていた事に、少しだけ遅れて気付く。
「美味しかったですか?」
「うん」
2人の時間はゆっくりと流れ、しばらくの間空の月と、海の月を見て綺麗だと素直な言葉を重ね合った。
不意にセロンガードの肩にティトの頭が預けられる。
黒い瞳で様子を伺うと、寝息を立てているティトに気付く。
過剰供給、贅沢な過剰供給だ――。
セロンガードは風が冷たくなる前に、ティトを借りた毛布を優しく掛けて抱えると港湾を後に、起こさないようにゆっくりと歩いて行く。
●
満月が見頃な、丁度良い時間に祭りで偶然会ったネーヴェとアルフィーの両名は月見を楽しむ準備ができた所だった。
風が凪いだ港湾、水面に映る月の丸さに、見上げた夜空に浮かぶ月――運よく雲も少なく遮るものが無い。
「静かでゆったりとして、素敵な場所ですわね……」
選別も楽しんだ屋台料理を広げて、ひとつを手に取って早速一口。
美味しかった串焼きのお肉をアルフィーにも勧めて、同じようにアルフィーも食べる。
幾つかの品を味わって喉が渇いた頃に、アルフィーがネーヴェへと気になった事を訪ねる。
「ネーヴェはもう酒が飲める年なのか?」
疑問に合わせて尻尾が曲がってふわりと揺れる。
「勿論。アルフィーさんよりは幾らか歳上ですから」
微笑みと共に返答が来る、それを受けて月を見ながらアルフィーは言う。
「俺はこの間飲めるようになったんだ」
「まぁ、おめでとうございます」
言葉の意味から、祝うネーヴェにありがとうとアルフィーが返して、それでと続く。
「故郷に帰って飲んでみたけど、一人だと味がよくわからなくて、もしよかったらちょっと付き合ってくれないか?」
今度はネーヴェの表情を見ながら訪ねた。
「はい、少しだけでしたら大丈夫ですよ」
2人の月見酒が、静かに乾杯の音を立てて始まる。
月を見て杯を傾けるネーヴェの所作を横目に、見様見真似――は酒に不慣れな身として踏み止まって、ぺろっと舐めて確かめる。
舌にぐっと抉るように感じる苦い味にうぇーっとなりながらもちびちびと口を付けた。
見上げた月の明かりが、その風情が自分の背中を押してくれるような気がした。
ふと、月では無く自分を見ているネーヴェと視線があって、その微笑ましい表情がムズ痒くなって「まだ慣れてないだけなんだ」と口を尖らせて言う。
そんなアルフィーの反応に、ネーヴェは他意は無いんですと謝罪をして。
「殿方の可愛らしい一面、というのも。私は魅力的だと思いますわ」
大人の余裕を感じたアルフィーだった。
少しずつお酒に慣れる――酒の肴と歓談に花を咲かせる。
話の節目、月を静かに眺めて過ごす間に遠くの祭りの賑やかすら聞こえなくなった頃、静か過ぎる隣へとネーヴェが視線を流す。
アルフィーは静かに寝息を立てていた、そんなアルフィーにブランケットを借りて来たネーヴェはそっと掛けてあげる。
「お休みなさいまし、良い夢を」
盃に残る酒に、小さな月が浮いていた。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:少ない15 / 4〜25人
2022年09月21日 21時11分35秒 公開
参加者
相談掲示板
エスト・ポーラへようこそ! 最近自分でも忘れがちですが、エスト・ポーラ、ベイカー商会のリサ・ベイカーです。 よろしくお願いしますね。 今回は、アルアータ商会さんが仕切ということで、 とくにやること無いので一個人として楽しみたいと思います! 今のところ【1】ですが、色々未定ですので、同行者募集中です(笑) 多少、街のご案内は出来ると思いますよ!
No.2
串10本につき1本と交換ですか。 お得ですね・・・。 あ、その・・・。 リディリディです。よろしくお願いします。 えっと、私も【1】へ参加する予定です。 ベイカーさん、もしよろしければ・・・。 その・・・、ご一緒して頂いても良いでしょうか。
は!リディさん!もちろん、歓迎ですよ! 美味しい屋台に案内しますね!!
あの…リサさん、わたしも、案内、おねがいさせてもらえ…ますか。 街のことも、知りたいですし…屋台で、おいしいもの、いろいろ、食べたい…です。
ご参加頂きありがとうございます。 皆様が楽しめますように務めさせて頂きますわ。
はい!ミゼリアさんもご一緒にどうぞ! パトラさんは、裏方主幹お疲れ様です。よろしくお願いしますね。
っと、文字数考えたら同行の目印(タグ)あったほうが良いですかね? うーんと・・・ 【街巡】 とでもしましょうか。 飛び入りも歓迎ですので、途中見かけて参加とかでもOK ゆるっとご案内な感じで考えますね。
…ありがとう、ございます。 【街巡】のたぐも、しょうち…しました。 初めて来た街で、勝手が分からず、途方に暮れてる所を拾っていただいた感じで合流させていただこうかなぁと…。
ルイド。よろしく頼むわ。 【1】で食い歩こうかと思ってたが、美味いとこに案内願えるんなら頼みてぇな。 良けりゃ俺も適当なとこで【街巡】に入らせてもらえりゃ幸い。