【食探】清流のような前菜を
崎田航輝
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シナリオID:2253
オープニング
――エドゥノーグの一角にある料理店、「クワイア」。
小洒落た印象と大衆的な魅力、そのどちらも兼ね備えたその店は……この日もまた満席だった。
「今日の料理も美味しかったよ」
言って会計を済ませる客も満足の様子。
食堂やレストランが多く並ぶ一角の中でも、ここは十二分に存在感を放っており……訪れる多くの人々をその味で楽しませては笑顔にしている。
それを実現しているのが――
「ありがとうございました。新作のコースなんですが、好評いただけで良かったです」
言葉と共に、笑みを返して一礼する料理人がいた。
ペッパーという名で、三十にも満たない若者である。けれどきっちりとコックコートに身を包んだ姿は、料理長としての雰囲気を十分に備えていた。
現在クワイアの味を取り仕切るペッパーの料理は、評判も上々。こうして日々客足を途絶えさせないでいる。
ただ……客を見送りながら、ペッパーの内心は複雑でもあった。
客も丁度、ぽつりと口にする。
「ペッパーさんはよくやってるよ。“あの人”の料理にはまだ及ばないけど……、いや、失礼だったかな」
「いいえ」
ペッパーは首を振る。
「判っています。僕の師匠、ライスは――“至高の料理人”と言われるだけの実力を持った人でしたから」
そうしてペッパーは一人厨房に戻り、自身の料理を改めて味見する。
零れるのはため息だった。
「うーん。やっぱりまだまだ、遠く及ばないな」
感じるのは、師匠との実力差だった。
ペッパーは数年前、ふらりと街にやってきたライスという料理人に師事していた。
ライスはその頃、クワイアで時折腕を振るっていて……その味の良さに、多くの人が店へ詰めかけたものだった。
反面、ライスはかなりの自由人で――時折不意に姿を消すことがあった。
現在もライスが消えてからかなりの時間が経つ。
ペッパーも長い事ライスに会っておらず……完全に行方不明ともいえる状況。噂では、エドゥノーグを去ったと言われていた。
ペッパーがクワイアの料理長を務めているのは即ち――弟子としてそのライスの穴を埋めるためなのだ。
ペッパーも独り立ちのいい機会だと、師の味を越える為精進してきたのだが――作れば作るほど、自身の力不足を感じるばかりだった。
それは勿論修練不足もあるだろう。
だがペッパーは原因にも心当たりがあって……ぽつりと呟いた。
「やっぱり、食材かなぁ……」
ペッパーは普段、エドゥノーグでは定番の迷宮浅層の食用魔物や、他所から買った普通の食材を使っている。
だがライスは自身で迷宮に潜り、浅層では見た事のない食材をよく取ってきていた。
結局のところ、そこに味の差があるのではないか――と、最近は思い始めたのだ。
元々ペッパーは「腕の良い料理人は、材料を選ばない」という哲学の持ち主である。だから、この結論に至るには中々時間を要したが――
現状、どう作っても師の味に届かないのは事実。
「秘密は、浅層よりも下で手に入る味なのかもしれないな……」
危険な場所で手に入る、他にはない美味なもの。
そこに料理の腕をぶつけて、あの無二の味が生まれていたとしたら。
「――よし!」
ペッパーは悩みを断ち切るように、決意をした。
●依頼
「というわけで、浅層より下の食材をとってきて頂きたいんです!」
レストラン「クワイア」。
そこに招かれた冒険者達へ、ペッパーは依頼の経緯を話していた。
「僕は、戦闘力が無いので同行は出来ないのですが……良い枝場のアテはついているんです」
そう言って彼が見せたのは、上層のとある枝場の入口を記したメモだった。
「ギルドに出入りしている業者の友人に相談して、教えてもらったんですが――」
曰く未踏破の枝場らしい。
かなり前に出来た痕跡もあるようだが……入口の姿が長い時間をかけて変わるのか、最近まで発見もされていなかった場所だという。
そしてそこには――食材になりそうなものがわんさかいるのだとか。
「友人によれば、植物も魚も、あらゆるものが食べられそうだといいます」
といってもそれらは全て魔物で、危険地帯だ。
ただ、だからこそぴったりだと思った、とペッパーは言う。
「他の人がまだ知らぬ味。それで料理を作れるなら……師匠の味も越えられる気がするんです」
師匠は覇気に溢れる人物だったという。
未知の食材に挑戦するその意志が、常識を越えた味を生んでいたとしたら――自分も実践したい、と。
「何にせよ、溢れる程魔物がいるので……放っておくと他の冒険者の方々も討伐に入ってしまうかも知れませんし」
或いは別の料理人が目をつけてしまうかもしれない。
新しい味を作るなら「早いもの勝ち」という状況だ。
「なので、準備ができ次第、潜りに赴いてほしいと思います」
問題は食材の選別だが――
「食材の目利きも含めて、入手をおまかせしてもよいでしょうか」
曰く、ペッパーは普段から目利き自体は漁師や狩人には敵わないと思っているという。
「実際に獲物に触れる人が、その味の真価を理解できる……師匠もいつか、そんなふうに言っていました」
だから冒険者達に、良いと思う食材をとってきてほしい、と。
勿論、沢山取ってきて貰えればペッパー自身が選ぶ事も出来るので、その辺りは荷物や探索の度合いとも相談してほしいといった。
「一応、僕が作りたい料理の構想はあります」
それは選択式のフルコース。
「前菜からデザートまで、どれを選んでも美味しいコースが出来上がる……そんなものが理想です」
そこで後の構想の為にも、まずは前菜に適したものを探してほしいという。
実際に魔物の生態を見て、狩ってみて……どんな料理が良いかアイデアをもらえれば、もっと嬉しいと言った。
「僕の我儘に付き合って頂く形になってしまいますが、どうか至高の料理のために――力を貸していただければ嬉しいです」
解説
マスターより
リプレイ
「皆さん、どうかお気をつけて」
浅層の入口前。
出立する冒険者へ、見送るペッパーが言葉をかけていた。
「はいっ。ペッパー様にご満足いただけるような素材の採取、頑張ってきますね!」
料理は巧みでなくとも、美味しいものは大好きだから、と。
ゲルダ・クラインが心を込めて伝えると、ペッパーも頷いて。出発するこちらに手を振っていた。
そうして一行は迷宮へ進む。
場所は上層、今回の面々であれば苦戦はしない環境だが――
「警戒して行こう」
油断できぬと判っているから、エル=バ=ノイアンは呟いていた。
ああ、と応えつつサイラスは迷宮飯レシピ集も眺める。
「あとは料理だなー。コースだし、『クワイア』の作風も考えると王国のテイストもありつつって感じかなー」
「案はあるのだ」
と、ストレガ・L・リベルガストラは、日頃より食に向き合うだけ既に幾つもの考えを持っている。
「あとはお眼鏡にかなう食材があるかどうかなのだ」
だからその目で見る為に――枝場へ踏み出した。
第一階層。そこに見えるのは道と無数の花だった。
花は多様な色彩で美しい。が……それは僅かに揺れ動いてもいて。
「確かに魔物だな」
ローザリカ・L・ディオールは観察して呟く。
ただ、花は香り高さも感じられる。
何事も初めの印象というのは大切で、料理の前菜もそれは同じ。目や心を惹き付け次を期待させる……そんな一品に適合すると思ったから。
「注意して採取していこう」
「はい」
と、頷くのはエリカ・プレトリウス。
そっと隣のローザリカを見やっていた。
(またローザリカ様にお呼び頂けたんだから――)
今日は食いしん坊のリス、ネムもお留守番。しかと自身の仕事を全う出来るよう、意志と共に前進する。
花はこちらを察知すると針を飛ばす。が、予見したエリカはひらりと身を躱し。
「ローザリカ様――」
「ああ」
そこへローザリカが疾駆。別の花が攻撃をしようとしても――
「花の中では薔薇が好きでね、棘には慣れているんだ」
針を艶華扇で薙ぎ払い、茎から刈り取った。
「反対の花も来るぞ」
「任せて」
と、ノイアンの声に応えるのがシルヴィア・A・カペル。その花の攻撃より速く地を蹴って、ふわりと舞い降りながら一刀を振るって両断した。
ゲルダも針を盾で受けきり、槍で花を採取。漂う香りに思わず表情を華やがす。
「どれもいい香り……」
中でも落ち着いた香りや、爽やかな香りの花を中心に入手すると……ローザリカもまた食欲をそそる赤や橙、黄の花を摘んで籐籠へ。
ストレガも魔物のとしての生態も観察しつつ、幾つか摘んでいた。
「料理とは別に、場に彩を添えるのにも使えそうなのだ」
「どれも香りが違うってのは面白いな」
言ってメモをしているのはカイン・ステラ。
色、形の良いものを中心に分類しつつ、メモも取っていた。
「こうして珍しいもんが見られるだけでも、潜る甲斐はあるな」
「そうだね」
シルヴィアは頷きながら、皆の体調もつぶさに観察。
「少し休憩してから進もうか」
しかと体力に万全を期してから――前方を見据える。
道の先は河原が連なる水場だ。
清流の煌めく美観だが――
「魚にザリガニ、そして貝も、か」
シルヴィアは聴覚で魔物を察知していた。
サイラスは頷きながら無論、怯まない。敵なら倒すだけだし――食材としても魅力的だから。
「前菜っていったらあの辺りは狙い目かもなー」
言うと貝が水を飛ばしてくる前に、鎖で打ち据えて打倒。
カインも弓で貝を穿つと……ゲルダも小魚を槍で斬り伏せる。
ザリガニが連なってくると見れば――シルヴィアも靭やかに舞扇を翳し、光を流動させて。
「一掃させてもらおう」
瞬間、放つ光波でザリガニを巻き込み打倒した。
倒した魔物は勿論採取。ノイアンは貝を一枚一枚丁寧に荷に加えてゆく。
「これで良いサラダが作れそうだ」
「うん。この量だと余ってしまいそうだけれど――味見、していくかい」
シルヴィアが言うとストレガは頷いている。
「勿論なのだ」
言うと貝やザリガニは網、小魚は串で焼いて皆で実食。味の個体差を確認しつつ、魚の脂や貝の旨味を楽しんだ。
それから土壌の豊かな林を見つけて、エリカが口を開く。
「生でも加熱しても美味しく頂けるでしょうから、葉物野菜などは欲しいですね」
「よし、探すか」
カインの言葉に皆も同意し、林へ入ると……期待通り、丸々と生った葉物野菜が見えた。
ただ、ストレガは抜け目なく気配を感じて。
「擬態してるが、魔物なのだ」
言うと包丁刀で地面を刺す。
すると苦悶するように、地中からワームが姿を現した。
「これが野菜の根なんですね……!」
ゲルダは驚きながらも臨戦態勢。可食部を避けつつ根を穿つ。
カインも間合いを取って石の上から射撃を敢行し、確実にワームを貫いていた。
「ワーム自体は脆いな。スピード勝負だ」
「なら、一気に食い荒らしとこう」
と、サイラスが鳥獣戯の力でワイバーンを顕現し、ワームを食い千切ってゆく。
静かになると、皆は野菜を採取。
「色も沢山あっていいな」
カインが赤に黄色、緑と入手していくと……
「これも食べられそうなのだ」
ストレガはワーム部分も解体してしかと回収するのだった。
そうして林を越えた一行は、海辺に辿り着く。
「階層の終わりか。敵もいるようだね」
シルヴィアは浅瀬の道を見つけながら、海面に揺らめく影にも気づいた。
それは海老の群れを従える巨大魚だ。
「おそらくボスなのだ。警戒しておくのだ」
ストレガは前衛の面々をエーテルで包んで水上歩行を可能にさせる。
すると程なく巨大魚もこちらへ敵意を向け始めるから……ローザリカも迷わず、エーテルに炎馬の形を取らせて奔らせた。
踊り舞う爆炎に魚が包まれると――
「まだまだ体力はありそうだ」
「では、援護を」
エリカも輝く一矢を射出し魚を穿ってゆく。
巨大魚は波を立てようとするが……その挙動を、大鼬のファの視界を通して捉えていたカインが弓弦を引いて。
「させねぇよ」
放つ射撃で尾を貫き体勢を揺るがせた。
その間にノイアンが上を掛け、大太刀を振り抜いてエーテルをぶつける。
巨大魚は自然、そちらに狙いを向けるが――それこそ思惑通り。ノイアンは素早く後方へ跳んで波を回避した。
「頼めるか」
「了解なのだ」
応えるストレガも、壁で波を受けきりながら……無数の光を生み出して海老と巨大魚を貫いてゆく。
残る海老は、サイラスが殺界で押さえ込み――鎖で薙いで一掃して。
「後は任せる」
「判りました……!」
ひらりと跳んだゲルダが一閃、鮮烈な刺突で巨大魚を仕留めていた。
●思い思いの味を
「こんなに食材が沢山……! 本当にありがとうございます!」
料理店クワイア。
事後処理を済ませ、冒険者達が食材を運んでくると……ペッパーは瞳を輝かせていた。
「毒が無い事も確認済みなのだ」
ストレガが味の感想も共に伝えると、ペッパーは頷く。
「早速、料理を試作しましょう!」
という事で一行は厨房へ。
アイデアがあれば伺いたいというペッパーの言葉に……まずはゲルダが口を開いた。
「前菜なら、空腹の胃に優しくて食欲をそそるものが良いと思いますから……」
優しい味を、と。
提案したのは巨大魚のカマや頭の部分で出汁をとる事だ。
「身が硬い海老も出汁には出来ますし。花を一緒に煮出せば香りも付きそうです」
「やってみましょう」
ペッパーは鍋でそれらを煮始める。
花入りは別の鍋で試し……立ち昇る香りの違いを確認していた。
「この花はとても良い香りですね……」
「出汁は固めてジュレにするのも良いし、シャルガネのうどんや素麺に掛けても美味しいと思います」
「シャルガネの麺ですか。他にはない味になりそうですね――!」
ペッパーが期待を見せると……隣ではカインも鍋で海老を煮ている。
「煮出したスープは色々使えるよな」
カインは透明感に注意しつつ、そのスープを冷やしてゼリー状にした。
それから赤い葉野菜を花の飾り切りにして、プリンの容器へ入れる。そこにゼリーを入れて冷やし始めた。
「この間に、と」
次にゼリー液に細かく切った野菜を入れて混ぜ、先刻の容器に半分ほど入れて再度冷やす。
「美しい一品になりそうですね」
「ま、料理人から見てどうなるかは判らないが――」
カインはペッパーに応えつつ、巨大魚の身を茹でてペーストにして。メレンゲ、乳清チーズ、濃厚な牛乳と調味料を混ぜてムースを作った。
それを先程の容器に入れ、再度冷やせば――
「冷静ゼリーとムースの二層仕立てだ」
煌めくゼリーと、滑らかなムース。
そのコントラストに……ペッパーも「このまま店に出せそうです」と太鼓判を押すのだった。
ストレガは鍋に葉物野菜と二枚貝を敷いている。
「キャベツは胃もたれに薬効があるのだ。この葉野菜もおそらく同等の効能はあるのだ」
ペッパーもそれには興味を示す。
「前菜としては有り難いですね。それを蒸すんですか?」
「そうなのだ」
ストレガは短い小魚と、巨大魚の切り身も入れて火にかける。
食材の水分を利用する事で旨味も閉じ込めて……蒸し上がったら塩胡椒で味付けしてサラダに仕上げた。
野菜はハリのある瑞々しさと、鮮やかな色味で。
「美味しそうですね……!」
香りで判る旨味に、ペッパーも心躍っていた。
一方、サイラスは巨大魚の扱いは慎重でもある。
「前菜が良すぎると後ろも相応に格が必要だからなー」
「確かに……。抑えめにした品があっても良いかも知れません」
ペッパーが言うと、「じゃ、その辺りを」とサイラスは貝と海老を中心に勘案。透き通った生地を使って薄春巻きを作る事にした。
まず貝と海老は蒸して身を取り出して。
「花と野菜も足して、と」
それを緑の葉野菜で巻き、海老の赤白が映えるようにした。
花も綺麗な色をポイント的に加えて。
「閉じ込めるようにすると食べた時に匂いが出ていいと思う」
更に貝はワイン蒸しやキノコとのマリネも提案。小魚もカルパッチョにしてみる。
「貝と合わせてアクアパッツァも良いし。海鮮なら色々やりようはあるなー」
「前菜だけでもよりどりみどりですね……!」
色味も豊かな品々に、ペッパーも満面の笑顔だった。
ノイアンは花を積極的に利用して試作中。
「ん……良い香りだ」
柑橘系の爽やかな芳香が特徴的な、黄色とオレンジの花を野菜と合わせ……塩茹でした貝と柔らかな海老を添えて、美しい一皿の完成だ。
「清涼感があって素晴らしいですね……!」
「ハーブ塩で食べてもいいし、柚子ドレッシングもいいな。と――」
ノイアンはペッパーに応えつつ、隣のシルヴィアを見やる。
シルヴィアは巨大魚をそぎ切りにしようとして……少々緊張気味なのだった。
「……シルヴィア、それは手伝おう」
「いいのかい?」
「ああ。その、手元が……心配だ」
「ありがとう」
シルヴィアが微笑んで受けると、ノイアンは頷いて身を巧みに削いでゆく。
シルヴィアはそれを塩コショウ、白ワインビネガーでマリネにする。料理は不慣れだけど、マリネは作れる数少ない料理の一つでもあるのだ。
それをバケットにのせ、赤や橙、黄の小さな花弁と薄い色の野菜をトッピング。
長方形の皿に並べて――
「巨大魚のカナッペだ」
「とても可愛い一皿ですね……!」
ペッパーが目を見張ってると、シルヴィアは白ワインを取り出す。
「バケットのサクサク感と魚のしっとりとした食感が……白ワインにもよく合うはずだ」
私の故郷のものは如何かな、と。
言って渡すそれはカペル領産の“アルヴィン・カペル”。
「良いんですか? 是非、皆さんと一緒に味を確かめたいです!」
ペッパーは楽しみな様子でそう笑んでいた。
ローザリカはペッパーに作業を教わりつつアイデアを形にしてゆく。
作るのは花と海老のサラダだ。
「ティーカップに盛っても目を惹けるかもしれない」
「素敵ですね! 早速持ってきます」
ペッパーが下がっていくと……その間に隣のエリカは下拵えを続けていた。
「手の足りない所があれば補助させて頂きますね」
そう言うのは、自身に料理のアイデアなど出せないと思っているからだ。
そんなエリカを、ローザリカは見つめている。
エリカとは友人になりたいと思っている。今日誘ったのも、食の好みを知りたかったから。
「作ってみたいものとかはないのか? 単に、食の好みでもいいが――」
「好み、ですか」
エリカは少し声を静めた。
「強いて言うなら木苺でしょうか。でも、毒さえなければそれで良いので。……味見役向きではありませんね」
そう淡く笑う。
貧民街の孤児だったエリカにとっては――昔の食の経験と言えば木の実を糧に生き延びた事だったから。
「……」
ローザリカは表情からその幾らかを察して、一瞬だけ黙す。
けれど、だからこそと口を開いた。
「僕は君にこそ味見をしてもらいたいな。好みならこれから探せばいい」
味見であればお腹も膨れず種類を試せるのだから、と。
「折角なんだから。エリカ君自身が好きだと思える何かが増えたらいい」
「……、ご迷惑に、ならなければ」
エリカは「良いのだろうかと」思ってしまう。
“エリカではない自分”の好みが存在していても、と。
でも――
(多分この方は本当に“わたし”を見ている)
エリカという借り物の名前の奥にいる自分を。
その瞳と言葉は確かにそう感じられるものだった。
料理後は、皆で試食だ。
「美味しいです……!」
ゲルダはペッパーの仕上げたうどんを食べて笑顔を見せる。
「こちらのムースも、素敵ですね……!」
「ん、まあ良く出来たか」
カインも自身の作ったそれを味見して頷いていた。
サイラス作の春巻きもペッパーはお気に入りだ。
「香り高くて良いですね……!」
「材料は適宜調整するといいよ」
サイラスがそう言う横では、ストレガがサラダと共に、残りの材料で作った刺し身や煮魚を提供している。
「余さず食べるのだ」
「ありがとう」
ローザリカもそれを楽しみつつ……自分達のサラダもエリカと共に味見。
「どうだい、エリカ君」
「美味しい、です」
エリカは全てを表現する事は出来ないけれど。心からそう言って……ローザリカを微笑ませていた。
シルヴィアはノイアンの作ったサラダを実食するところ。
「見た目も美しいね。柚子のドレッシング? 試してみたいな」
「ああ。これを」
ノイアンが供したそれをつけて、シルヴィアは一口。「美味しいよ」と素直に伝えた。
「カナッペもその、食べて貰えたら」
「ん……お前の作ったものなら、喜んで」
ノイアンもそれを頂き、バケットと食材のハーモニーを楽しんでゆく。
また、ワインも好評。ペッパーが「継続的に買い求めたい」と申し出る程で。
「最高の前菜が出来そうです」
だから次の探索もまた、期待させて下さいと――ペッパーはそう、並ぶ美味の中で笑顔を見せるのだった。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人
2022年06月24日 21時52分33秒 公開
相談掲示板
カイン・ステラ、よろしく。 どこも興味深い食材があるな。 ペッパーの希望に合うか分からないが、俺もアイデア出すかな。 爽やかでもたれないものがいいらしいから、冷製の前菜を提案するつもり。
No.2
サイラスだ、よろしくなー とりあえずこれ全部回るのかね? なら馬車とかマジカルポケットみたいな容量増やす手段は欲しいなと。 テーマ的には軽く食べやすいもの、さっぱりしたものかね?
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 探索ポイントが複数提示されているし、ボス以外は冒険者にとってさほど強い敵ではないとも書かれている。各自が狙う食材を採りに行く(行きたい探索ポイントをプレに書く)ということで良さそうだ。 馬車やマジカルポケットで持ち帰る食材を増やすのは良い案だと思う。所持枠やコストと相談しつつ、持っていける人は持っていくという感じで。 >個人行動 私は料理には慣れていないから、当日はノイアンの採取の手伝いをしようと思っている。狙う食材も決まっていないけれど、採れた食材を使う人におすそ分け出来たらとも。前菜のアイディアも出してみるつもりだ。
ノイアンだ、よろしく頼む。 前菜にふさわしい、爽やかで、もたれない料理か… 俺は貝が気になっていて……それで何かつくれたらと思っている。
ローザリカ、よろしく頼もう。 料理の腕は持ち合わせていないが、採取やアイデア出しならばと参加させて貰った次第だよ。 僕も、それぞれがアイデアに基づいて気になる食材を採取しに行くようなイメージだった。 とはいえ持ち帰る際は協力など出来るだろうし工夫するのは良い案だと思う。 前菜、初めの印象付けは大切だし目で見ても楽しめるようなものを考えてみたいな。 道に咲いている花をいろいろ摘んで持ち帰りたいと思う。 具体的な案についてはまだ考え中なんだけどね。
俺は林と海に行く予定。 …とはいえ、(解説に)『階層数の不明な、未踏破の上層枝場』、(マスターよりに)『他者に先んじての踏破も目指す』とあるし、俺達が枝場の内部を把握しているかが判らない(メタ言うと、前回連作の音旅同様PL情報としての提示かもだし)から、行先はこうと言うより、(道と水場の先にある)林と海中心に食材を求めるって書き方になると思うが。 スキルは調理とマジカルポケットかな。 素材の鮮度大事。
シューター、エリカ・プレトリウスと申します。ローザリカ様のお誘いにて参りましたが…ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。 ええと、私でもお役に立てそうなことは食材採取くらいなものの、マジカルポケットも持って行けます。確か、一纏めに出来ればある程度量も格納できるのでしたよね? 調理スキルもありますがレベルが高くないので…持ち帰るにあたって必要な処理行動や調理で手の足りない下処理等の補助になればぐらいで考えております。 食いしん坊のネムはお留守番の方が良いかな…と少し迷っている所です。
顔出しが遅くなってしまいました、ごめんなさい……!! ウォーリアのゲルダです。よろしくお願いしますね。 お料理はあんまり詳しくないのですが、美味しいものは大好きなので 美味しいものができるようにたくさん頑張りたいなと思います! >踏破について そうですね。わたしも踏破は皆様で協力しながら、の認識でした。 あまり強くなさそうとはいえ、中の食材となるものはすべて魔物ですから、単独行動は少し危険かなと。 その上で、どのような食材をどのように持ち帰るのかについてを各個人でプレイングに記載する形になるかなと思っていました。 >前菜に合うもの ローザリカ様と同じく、わたしもお花が気になっています。 『香り』もお料理のアクセントを決める重要なものと聞いたことがありますので、お花を傷つけないように気を付けながら、『小さなもの』で『爽やかな香り』の物を狙っていきたいなと。 >マジカルポケット ひとつに纏めれば複数種類の格納も問題ない認識ですが、食材を出し入れする前後の匂い移りなどもありそうですし、あればあるだけ助かるかなと思います。 マジカルポケットはわたしも持ち込みますね。
>踏破について 成程……確かにダンジョンで単独行動は危険だ。ゲルダが言ってくれた通り、踏破は皆で協力する形なのだと思う。カインも指摘ありがとう。 踏破を狙うということは、階層ボスの巨大魚の魔物とも戦うということかな。戦闘の用意もしっかりしていくよ。 >前菜に合うもの 私もローザリカとゲルダと同じく、花が気になっている。印象付けや香りが大切というのも同感だ。 他の食材は、そうだな……ペッパーにダンジョンのボスの味を伝えるのも良いかもしれない。巨大魚を狙ってみよう(まだ悩んでいるから変更する可能性もあるよ)。 マジカルポケットも持っていくね。
ストレガなのだ。よろしくなのだ。 これ階層ボスも戦う必要あるのなら準備はしておく事なのだな。 ワームをどう倒すかな等考えている。 スキルは調理と超味覚。毒見は任せておくのだ。
林の葉物野菜はサラダにも使えますし、私でも何とか出来そうなので狙おうと思っておりました。 ネムをお留守番にして、孤高の零距離殺撃者で攻撃や回避を上げて挑めば良いかなと。 あの子を連れて行かないとなるとおやつなどの所持が要らなくなるのでバックパックや水袋などを持参して行こうと思っています。 あと踏破を考えたら調理よりも位置感覚の方が良いでしょうか…?
そうか、踏破があったな… 汎用は調理と…すまない、ダンジョン知識は取ってなかった。サバイバル知識はあるから調理補助に使おうと思う。 戦闘用のスキルは…強靭カバリングがいつもの構成だが、強靭シーザーロアで行くかもしれない。あとは強撃系と範囲、長射程スキルだな。
>スキルやアイテムについて 前半のダンジョン攻略も大事だけど、後半の料理も大事だ。今回は手強い敵は少ないようだし、スキルやアイテムは各自持っていきたいものを持っていくのが良いと思う。その方がきっと楽しい一日になるからね。 >個人行動 汎用はマジカルポケットと索敵用の超聴覚。 特性はハイパーヒーリングオーラとブルーフレア、アクションは回復スキルと魔法攻撃スキルを持っていく予定だ。
かしこまりました。では位置感覚ではなく当初の予定通り調理スキルで。 戦闘は炸光矢と強射、海辺ではスティンガーにてお手伝いできればと思います。炸光矢は少しお野菜を傷めてしまいそうですが、数を多く採りたいなと。 皆様どうぞよろしくお願いいたしますね。