想いが薫る、薔薇色に
奇古譚
コメント 0
シナリオID:2214
オープニング
●
リーンエス王国の片隅に、紅茶を嗜む者御用達の喫茶店がある。
「ヴェリローズ」。
ひっそりと佇む其の店では、この時期に“薔薇紅茶”なるものが期間限定で出され、人気を博しているのだという。
ただのローズティーではない。薔薇の花弁で紅茶を煮出して、上に薔薇の花を任意の数載せるのだ。
砂糖でコーティングされた食せる花弁は、紅茶の暖かさで花開く。ふんわりと開いた其の薔薇から楽しむもよし、紅茶の香りと味を楽しむもよし。様々な人が訪れては、喫茶店で薔薇を楽しみ、或いは小さな缶に指定した薔薇の花弁や花を詰めて貰って持ち帰る。
庶民はこぞってこの時期にはヴェリローズを利用し、時には変装した貴族が来ることもあるとか。
バザーの類にはこの薔薇紅茶は出品されず、店でこの時期のみ楽しめる紅茶として有識者の間で有名なのだ。
薔薇といえば愛の花として有名だが、愛に無縁な者だろうとも、薔薇の美しさは楽しめるだろう。
自分で楽しんでも良い。
誰かに渡す為に持ち帰りを頼んでも良い。
或いは――秘めた思いの形として、ひっそりと自分で持っておくのも良い。
●
例えば赤い薔薇で統一する。「情熱、熱烈な恋」。
例えば二輪の薔薇を添える。「貴方を愛しています」。
例えば白い花弁で統一する。「私は貴方に相応しい」。
例えば花弁を入れずに、添える薔薇で缶を埋める。――「何度生まれても、貴方を愛する」。
他にも八本の薔薇だと「貴方の思いやりに感謝します」、十三本の薔薇なら「永遠の友情」なんて意味がある。
薔薇の花と茶葉の花弁、組み合わせで様々なメッセージの伝え方があるだろう。
単に美しいと思う組み合わせでも良い。思い思いの薔薇紅茶を作ろう。
リーンエス王国の片隅に、紅茶を嗜む者御用達の喫茶店がある。
「ヴェリローズ」。
ひっそりと佇む其の店では、この時期に“薔薇紅茶”なるものが期間限定で出され、人気を博しているのだという。
ただのローズティーではない。薔薇の花弁で紅茶を煮出して、上に薔薇の花を任意の数載せるのだ。
砂糖でコーティングされた食せる花弁は、紅茶の暖かさで花開く。ふんわりと開いた其の薔薇から楽しむもよし、紅茶の香りと味を楽しむもよし。様々な人が訪れては、喫茶店で薔薇を楽しみ、或いは小さな缶に指定した薔薇の花弁や花を詰めて貰って持ち帰る。
庶民はこぞってこの時期にはヴェリローズを利用し、時には変装した貴族が来ることもあるとか。
バザーの類にはこの薔薇紅茶は出品されず、店でこの時期のみ楽しめる紅茶として有識者の間で有名なのだ。
薔薇といえば愛の花として有名だが、愛に無縁な者だろうとも、薔薇の美しさは楽しめるだろう。
自分で楽しんでも良い。
誰かに渡す為に持ち帰りを頼んでも良い。
或いは――秘めた思いの形として、ひっそりと自分で持っておくのも良い。
●
例えば赤い薔薇で統一する。「情熱、熱烈な恋」。
例えば二輪の薔薇を添える。「貴方を愛しています」。
例えば白い花弁で統一する。「私は貴方に相応しい」。
例えば花弁を入れずに、添える薔薇で缶を埋める。――「何度生まれても、貴方を愛する」。
他にも八本の薔薇だと「貴方の思いやりに感謝します」、十三本の薔薇なら「永遠の友情」なんて意味がある。
薔薇の花と茶葉の花弁、組み合わせで様々なメッセージの伝え方があるだろう。
単に美しいと思う組み合わせでも良い。思い思いの薔薇紅茶を作ろう。
解説
●目的
薔薇のお茶を楽しもう
●立地
リーンエス王国にある喫茶店「ヴェリローズ」です。
この時期になると薔薇のジャムを混ぜて薔薇を一輪贅沢に乗せた「薔薇紅茶」が出されます。
紅茶に薔薇が咲き誇る様は非常に美しく、其の花は砂糖でコーティングされているので食する事が可能です。
また、茶葉を持ち帰る事も出来ます。載せる花などは指定可能で、伝えたいメッセージに合わせた仕様に出来ます。
例えば赤は「純粋な愛情」などです。
●できること
1.紅茶を楽しむ
喫茶店で薔薇紅茶…のみならず様々な紅茶を楽しむ事が出来ます。
オーダーはカスタム自由なので、様々なメッセージを込める事が出来ます。
紅茶はローズティーが有名ですが、他にも色々な紅茶がありますので是非。
2.持ち帰り
茶葉の花弁と添える薔薇を指定して茶葉の持ち帰りが出来ます。
それぞれの色と、添える薔薇の数を指定して下さい。
他にも、通常の茶葉の指定が可能です。普通の紅茶に薔薇を添える、なんて事も出来ます。
●注意事項
迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは判るように合言葉などを添えて下さい。
また、やりたいことは一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。
マスターより
こんにちは、奇古譚です。
お花のイベシナが連続になってしまいましたが、これから薔薇の季節と聞いたらいてもたってもいられなくなりました。
躑躅の次は薔薇。其の次は……なんだろう? 夏の緑ですかね。
●
イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってイベントを楽しみましょう。
では、いってらっしゃい。
リプレイ
●
アステルが見上げたのは、“ヴェリローズ”の古びた看板。
薔薇の季節を迎えた今、この喫茶店には冒険者たちだけではなく、多数の客が訪れていた。
●
サイラスはローズティーを飲み終えて、ふう、と息を吐いた。研究の合間に飲む紅茶や珈琲にはない味わい深さがある。研究の合間に飲むものは、結局“次に何をしよう”に意識を持って行かれてしまうから。
そう言えば薔薇は女性人気が良いな、と思い返す。置いておけば話題に使いやすいし、彫り物で薔薇をモチーフに、と頼んでくる女性は少なくない。
「……持ち帰るか」
サイラスはカウンターでローズティーの持ち帰りを注文する。咲かせる砂糖細工の花は、蕾を三つと咲くものを一つ。色は橙。咲くだろうという信頼を持ち帰る。
「秘密ですか?」
店員に聞かれた。
「ああ」
サイラスは答えた。そう、秘密。当分に、永遠に。
●
ルアンナ・ミュラーは紅茶を一口含むと、ほう、と息を吐いた。
薔薇のジャムがとろりとしていて、紅茶の甘みを引き立たせてくれている。ほんわかと胸の辺りが暖かく、美味しい、と思った。
これが家で楽しめるなら、持ち帰るのも良いかもしれない。ああ、そうだ。友人にも勧めてみよう。きっと気に入ってくれるだろうから。
カウンターで頼んだのは、茶葉とジャムのセットを2つ。友人に渡す方の一つには、紅い薔薇を一本添えて欲しいと頼んだ。
はて。其れがどんな意味を持つのか、ルアンナは知っているのだろうか。
●
ベルク・オスマットは余り薔薇に関する知識はない。
生きる事、そして信仰に関するもの以外のものに知識を割く暇は、余りベルクにはなかったからだ。
花の紅茶、というからどんなものかと思ったが――
「ふむ。悪くない」
甘みの中に薔薇のかぐわしい香りが混じり入る様は、味覚と嗅覚から安息を齎してくれる。たまにはこういう洒落たものも良いものだと、ベルクは僅かに口元を緩めた。
暖かい紅茶を飲みながら過ごしていると、時間も何故かゆったり進んでいるように感じて。かち、かち、かち、と時計の針の音もいつもより遅く感じるのは不思議だ。
そうだ。レイウェスト殿下にもこの味を楽しんで貰うのはどうだろうか。
今もまだ帝国は激務ばかり。過激派の処理に追われている事だろう、心労のネタには事欠かぬ。この薔薇茶で少しでも気休めになってくれれば良い。
店員と確認し合って、緑色の薔薇の茶葉を選び、咲く花も緑色に。そうして「あなたは希望を持ち帰る」を意味する薔薇の葉を添えて、丁寧に梱包して貰った。
――喜んで貰えるだろうか。ベルクは円筒状のケースに入った薔薇茶を見て、僅かに笑むのだった。
●
「このようなお店があったのですね」
レティシア・レインフィールはかろり、とドアベルを鳴らしながら喫茶店に踏み入る。
空いている席に腰を落ち着けて、ふと取り出したのは一枚の手巾。白い生地の片隅に、銀色の糸で薔薇の刺繍が為されている。
――彼は、薔薇がお好きなのでしょうか。
好きならば、今度会えた時に贈るべきだろうか。そう考えて、莫迦な事をと己で否定する。
彼が敵に囚われたのは、策に嵌った私たちを守る為だった。其の後、どうして主への反逆も同然の事を行ったのか――訊けないまま。でも、きっとそもそも囚われなかったら、あんなことにはならなかった筈なのだ。
罪人として騎士の資格を奪われ、領地を追放されて。全てを失わせた私たちを責めない彼の優しさが辛かった。
――せめてとの思いで、レティシアは薔薇茶を持ち帰る。
咲かせる花は白を八本。“あなたを支える”を意味する其の薔薇……どう償えば良いのかはまだ判らないけれど、其れでも力になりたいというメッセージを込めて。
次に会えた時、この紅茶を飲みながら貴方に言えるように、願っています。
●
フリューリングスルフト=ティエラは店員から薔薇が表現する意味のレクチャーを受け、うんうんと頷く。
誰に送ろうか。ぱっと浮かんだのは、最近気になっているあの人の事。
己の気持ちが恋なのか、違うものか。答えを探している最中で。
色に関わらず一輪の薔薇は「一目惚れ」「運命の人」という意味。
そして橙色の薔薇は「絆」という意味を持つらしい。
「運命の、人……」
橙色は、あの人を連想させる色の一つ。
其の意味と色から目が離せなくて、
「この組み合わせでお願いするさぁ」
「かしこまりました」
運ばれてきた薔薇紅茶。花開く橙色の薔薇一輪を見て。
――この場にいないのにね、頭から離れてくれないのさぁ。
「うちは、……どう、したいんやろう」
選び取った、其れ自体がもう答えなのかもしれないけれど、まだ悩んでいたいような不思議な気持ちでいる。
考えながら紅茶を飲んでいると、気付けば残り一口となっていた。
フリューは秘めた思いを呑み込むように、カップを傾けて……花弁を奥歯で噛み砕いた。
……甘い。
●
「……うん、素敵な店だ」
これなら彼女も喜んでくれるだろう。ハーフビーストの友人を思いながら、ザスキアは満足げに頷いた。
カウンターで選び取る、あの子の雪のような髪に似合うもの。添える薔薇は――これからもっと仲良くなれるように、黄色とオレンジを。“友情”、“絆”。ああ。“恋愛の達人”――なんて言葉、恋バナが大好きな彼女にはとても“らしい”と思う。
以前頂いたハーブティーに負けないような、美味しいローズティーを持ち帰ろう。今度は手土産を持って来るって約束したから。そうして添えた薔薇を見せたら、彼女はどんな顔をするだろうか。其の意味するところを分かってくれて、笑みを見せてくれれば良いのだが。
●
「薔薇紅茶かぁ」
御婦人方が喜びそうなロマンチックな品だね、とクロンダイクは頷く。ふわりひらり、蝶のように女性たちの間を遊び歩く彼らしい感想である。
カウンターで薔薇を選んでいる人は、誰かに贈るのだろうか。其れとも自分へのご褒美かな? 美食は良いものだ、心も潤してくれる。――そうだ、僕もお土産に見繕っていこうかな。
相手は今お世話になっているパトロンのマダムと、其の小さなレディに。優雅なティータイムに花を添えてあげられそうだ。
余り思わせぶりな花はいけない。あくまで感謝と話題作りのためのものだから。だからクロンダイクは橙色の薔薇を選ぶ。茶葉も添える薔薇も同じ橙で、添える薔薇は5つ。
意味するところは“貴方に出会えたことが心からの喜び”。そして“魅惑”“信頼”。うん、適度に感謝を表しつつ思わせぶりでないチョイスになったんじゃないかな。
女性だからね、薔薇の数や色に込められたメッセージを読み取ってくれるかもしれない。或いは薔薇だから、後から調べて楽しんでくれるかもしれない。判らなくても其れは其れ、花と紅茶を喜んでくれたらそれでいいや。
――薔薇に似合う曲はなんだろう? 薔薇薫るティータイムに相応しい曲の練習もしておかないとね。
●
「薔薇紅茶……人気だって話は聞いていたけど」
プロロは一口、薔薇から溶け出した砂糖で甘くなった紅茶を啜りながら店を見回した。カップルに、友人同士。様々な人で“ヴェリローズ”は賑わっている。
自分はお任せにして店員さんにお願いしたけれど、他の人はどうなんだろう? 自分で選んだりしたのだろうか。
白い薔薇に葉が付いたもの、其の花弁の一枚を千切り取り口に運ぶと、花の濃厚な香りの中に砂糖の甘みが美味しい。
――そういえば、この紅茶はお任せだけれど……何か意味はあるのかな?
「ああ、先程の紅茶ですか?」
会計の際に、幸いにも注文した時と同じ店員だったので訊いてみる。すると少し恥ずかしそうに笑って、意味はありますよ、と言った。
「どんな意味なんですか?」
「添えた薔薇が一輪なのは、単純に多すぎると困るだろうと思ったからなんですが……白い薔薇には“深い尊敬”という意味があります。それから、葉には“あなたは希望を持ち帰る”という意味も」
――お持ち帰りはいかがですか?
そう訊いてくる店員に、成る程、この人は商売上手だな。と、プロロは感嘆したのであった。
●
「わあー……!」
エフィルミアは紅茶に落とした花がふんわり開くのを見て、感嘆の声をあげた。
「紅茶の暖かさで花開くんだね。とってもロマンチック……!」
「本当だな。しかもこれ、食べられるんだろ?」
「うんうんっ、砂糖でコーティングされてるんだって!」
ナキルが問うと、きらきらした瞳でエフィルミアは頷く。選ぶ花に意味があると聞いて、迷いながらナキルが選んだのは桃色の薔薇。特に意味を気にした訳ではなく、単純に目の前にいる彼女のような色だったから。
エフィルミアが選んだのは、花先が桃色に染まった黄色い薔薇。ぺり、と一枚剥がして、花弁を口の中に運ぶと、ほんのりと甘い砂糖の味がして。
「~~~~! 美味しい! ねえナキルくん、トレードしようよ! 違う味がするかもしれないよ!」
「ん? ああ、そうだな。ミアのローズティも美味しそうだ」
二人、それぞれトレードして互いの薔薇を観察する。
「ナキルくんはどうしてピンクにしたの? 可愛い色だけど……」
「ん? ああ。ミアに似合いそうだなって思って選んだんだよ」
はわ!
頬をぽぽぽ、と桃色に染めたエフィルミアは、本当に薔薇のようで。
「わ、私も、黄色にピンクが混じってるの……ナキルくんと私みたいだなって……」
目を逸らしながら言う様は愛らしい。結局、考えている事は二人ともほぼ同じだったという訳だ。
恥ずかしい! とあわあわするエフィルミアに、ナキルはそっと声を掛ける。
「なあミア、ちょっとしゃがんでくれねーか?」
「?」
言われた通りしゃがんだ彼女の髪に、そっとピンクの薔薇を飾る。
ぽぽぽ、と今度こそ赤く染まった彼女の頬を指先がそっと撫でて、うん、とナキルは頷いた。
「ミアは薔薇も似合うな」
そう笑った彼が、とってもとってもかっこよく見えてしまって。
「な、な、ナキルくんはまだまだ可愛いひよこちゃんだよーっだ!」
私を翻弄しようだなんて、100年早いんだから!
いつまでもひよこじゃねーよ、と。彼が言ったのを聞こえないふりした。
●
スー・ルーとシルヴィア・A・カペルは二人、薔薇紅茶を楽しんでいた。
というより、此処に至る道で偶然出会ったというのが正しいかもしれない。スーは以前“タンジョウビ”の贈り物、ガラス製のインク壺をシルヴィアから貰っていた。其のお返しを探していたのだが、結論としては「本人に訊いた方が早い」。として、同行に誘ったという訳である。
喫茶店は何処となくお洒落な雰囲気で、スーは落ち着かない。
「……こういう場所は嫌いかい?」
シルヴィアが問う。
誘って貰ったのは純粋に嬉しかった。薔薇に込められた幾つもの意味はまだ彼には難しいかもしれないが、自分が贈ったものに何かを返してもらえる事そのものが嬉しかったから、自分は良いのだけど……其の為に彼が難しい思いをしているのはいかがなものか、と思ったから。
「や、別に。嫌いじゃねぇけど、難しいってだけだ、……なんか……味とか、色々よ」
いつだって真っ直ぐな彼は、こういう“意味を含ませる”という事には慣れていないのだろう。花の種類も、“キレイ”という感覚も良く判らないから、取り敢えず色々持ってきてもらって、一つ一つ香りを嗅いだ。
幾つか選び取った花の香りは、シルヴィアの香りに似た薔薇なのだという。
「前も言ったろ。あんたは花っぽいって。だから……つまり、そういう感じの匂いを選んでみた。お前の好きな花はあるか?」
「好きな花? ……君が一番綺麗だと思った花を貰えたら嬉しいけれど」
「俺が選んで良いのか? なら、其れでも良いけどよ」
其れは其れで悩むモンだな。
うんうん、とあれこれ手に取って悩み始めるスーを見て、シルヴィアは何だか微笑ましくなってくすくすと笑う。なんだよ、と睨まれて、何故だかますますに笑ってしまうのだった。
●
リピストーク・クロフは普段、大森林の片隅に住んでいる。
けれど今回、友人のリーザヴェールに誘われて、この“ヴェリローズ”に足を運んだ。
「お土産でも良かったんだけど、折角だもの」
リピスちゃんにも好きなお茶葉を選んでほしかったの、とリーザヴェールは笑う。
「森の外に出るのは久し振りなの。だから、今日の催しも楽しみだわ」
リピストークがそう言うと、嬉しそうにリーザヴェールは笑って、彼女を喫茶スペースに誘う。
兎に角、リピストークには見るものすべてが新鮮だった。
薔薇のお茶。花のような香り。紅茶の暖かさで開く砂糖漬けの花弁。
リーザヴェールも自分で薔薇の紅茶を作ってはいるけれど、いつも同じものでは飽きてしまうしつまらない。
だから、たまに新しいものを口にするのも必要な事だと思うの、と、薔薇紅茶を一口飲むと笑みを浮かべる。
「そうね、同じモノばかりだとどんなに好きだと飽きてしまうわね。……この薔薇って、食べても大丈夫なの?」
「ええ、砂糖をまぶしてあるから大丈夫よ。食べてみたら?」
くすくすと笑うリーザヴェールに、つんつんと花をつつくリピストーク。一枚花弁を取って食べてみると、甘みがじわり、と舌に広がった。
「……美味しい」
「でしょう? そうだ、いま森ではどんなお花が咲いているの?」
「むぐ」
薔薇を咀嚼していたリピストークが、問いに花弁を呑み込む。
「……そうね。今だと淡い色のお花が多いかしら」
「まあ。じゃあ、また種を分けて下さらない?」
「種? ええ、勿論よ。貴女が育てやすそうなものを選んでおくわ」
「ありがとう」
リーザヴェールは桃色のジャムを紅茶に混ぜる。花開いた紫の花弁を見下ろして、懐かしむように笑った。
――お土産はどうしようかしら。色々あって、迷っちゃうわねぇ。
●
キーゼとネーヴェ・グラヌローザはデート中に、偶然この店を見付けた。
「ちょっと一息入れましょうか? 変わった紅茶もあるようですからね」
キーゼの其の一言にネーヴェは頷いて、喫茶スペースへと座る。
「薔薇が咲く紅茶……薔薇の季節だからでしょうか。見た目にも華やかで素敵な紅茶ですわね。……そうですわ! お互いに向けてメッセージを込めたお茶を注文致しませんか?」
ネーヴェの其の提案に、良いですね、とキーゼは頷いて。メニューに視線を落とすと、色や数、葉にも意味があるらしい。ほう、と其の奥深さにキーゼは感嘆の息を吐き、丁寧に選び抜いていく。
「オーダーはこっそり、ですわよ」
「判りました」
お互い、店員にこっそりとお茶をオーダーする。暫くしてキーゼの前に運ばれたのは、白薔薇のジャムをバタフライピーティーの青に浸したもの。
ネーヴェの前には薄い緋の色をした紅茶の中に、黒い薔薇を一輪。
「青薔薇は自然界には存在しないそうですね。故に“奇跡”と呼ぶのだとか」
「成る程、だから青いお茶に白い薔薇を?」
「ええ」
「成る程、……こういう花言葉は僕よりあなたのほうがお詳しいでしょう」
黒薔薇一輪が意味するところは“貴方はあくまで私のもの”。思わずネーヴェは其の白皙の頬を桃色に染めて。
「まぁ……でしたら、繋いだこの手をどうか離さないで、手元で大切に愛でて育んで下さいな。そうしたら黒薔薇はやがて、永遠の愛と成りましょう」
それから、白薔薇にはこんな意味もありますのよ、とネーヴェは唇に言葉を乗せる。
――“私はあなたにふさわしい”……なんて。
●
ティトリー=R=アルバートがヴェリローズを訪れると、喫茶スペースに知った顔を見付けた。ルベア・ベルニだ。
窓際席で縮こまるように紅茶を飲んでいる。其の気持ちはティトリーには痛い程よく判った。彼もまた、人見知り解消の為に外に出た身だからだ。人が沢山いたので逃げ込んだつもりの喫茶店、其処も人で溢れていて。ティトリーは更に逃げ込むように、ルベアの方へと歩み寄ったのだった。
「あの……ルベア嬢?」
「?」
そっと名を呼ばれて、ルベアは顔を上げる。ティトリーが其処にいた。彼は学園では上級生に当たるし、貴族の身らしいのだけど、それらしくなくおどおどとしていて。
相席しても良いですか、とも訊けずにあの、その、と言葉を詰まらせる彼に、向かいにどうぞ、と言ったのは結局ルベアの方だった。
「あの……が、学園にはもう慣れましたか? その……意地悪とか、されてない?」
ティトリーはなんとか注文を済ませ、薔薇紅茶が運ばれてきたところでそう口を開いた。
「えっと……変な視線は時々感じるけど、嫌がらせはない、かな。……心配してくれて、ありがとう」
ルベアはそう言って、自然に笑った。つもりだ。貴族でもない彼女の事を、きっとティトリーなりに心配してくれているのだろう。
出自だけではなく、ルベアもやや人見知りな性格だ。学園の門戸を叩いたのだって、本当に、すごく、勇気を出しての事だった。
「そ、そう……」
良かった、とティトリーは小さく呟く。知人に何かあれば力になりたい。そう思う心に貴族も庶民もないと思う。でも其れを口にするには、ティトリーには勇気が足りなかった。薔薇紅茶の味も良く判らない。照れ隠しのようにジャムを紅茶に……
「あ、い、入れすぎた……!?」
「え?」
「あ、じゃ、じゃなくって。えっと。何かあったら、監督生とかに……もし種族を理由に断られたら、……ゆ、友人を紹介します!」
自分ではきっと頼りないから。
言葉の裏にありありと見えてしまう彼の自信のなさと、其れでもと願う彼の優しさに、ルベアは今度は心から笑みを浮かべて。
「……助けてくれる、気持ちだけでも十分に嬉しい。ありがとう」
「……。ど、どういたし、まして」
●
ジュスト・ヴェルジーがローザリカ・L・ディオールをエスコートして喫茶店に入る様は、其れだけでも絵に成る程だった。
とはいえ、二人は目立とうとおもっている訳でもない。ジュストはいつもよりラフな衣装を纏って、眼鏡をかけているし、ローザリカは目立つ髪を纏め上げて、服装も上品ながらシンプルなものを身に着けている。
なんだ、ただのカップルか……と視線を向けた客がばらばらに己の向きたい方を向いたのをちらりと見ながら、ジュストはローザリカと共に席に着く。
そうしてジュストが注文したのは、赤とオレンジの薔薇が美しく咲き誇る薔薇紅茶。勿論、これは彼女の髪と瞳の色をイメージしたものだ。
「意味は分かっているかな?」
カップを手に、まだ飲まず、ローザリカを見る。
ローザリカのカップには赤い薔薇が一輪咲いている。其れを琥珀色の瞳でちらり見下ろしながら、
「……。さあ、どうだろう。判らない事にしておこうかな」
「君にしては随分と“目が悪い”ね」
一口紅茶を飲むジュスト。勿論伝わっているだろう、と確信はしている。今まで素直に伝えられなかった分、少し過剰かと思う程度に想いを注いでいるつもりなのだが。
一方、ローザリカは染まる頬を押さえる事が出来ない。色や本数に込めるメッセージ。己が注文した薔薇紅茶に込めた想いの事も合わせて考えれば――判るなどと明確に頷いてやる訳にはいかない。一方的なのは今だって癪なのだ。
己だって、と、ローザリカも一口紅茶を啜る。一方的なのは癪だからと、薔薇に込めた想いは包み隠さぬ本心なのに。曝け出す? そんなの、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
「ああ、そうだ」
お待たせいたしました、と店員が傍に来る。何を注文したのか、とローザリカが視線を向ければ……なんとまあ。赤とオレンジの薔薇が違わず11本、緑のリボンで束ねられたブーケではないか。
ジュストは其れを受け取ると、ローザリカへと差し出す。
「これも君に」
“最も愛おしい人へ”。
11本が意味する其のところを知らぬほど、ローザリカは無知ではなかったから。
だからついに、顔を其の名の如く薔薇色に染め上げて、言葉に詰まってしまったのだった。
――こんなもの、聞いていない!
アステルが見上げたのは、“ヴェリローズ”の古びた看板。
薔薇の季節を迎えた今、この喫茶店には冒険者たちだけではなく、多数の客が訪れていた。
●
サイラスはローズティーを飲み終えて、ふう、と息を吐いた。研究の合間に飲む紅茶や珈琲にはない味わい深さがある。研究の合間に飲むものは、結局“次に何をしよう”に意識を持って行かれてしまうから。
そう言えば薔薇は女性人気が良いな、と思い返す。置いておけば話題に使いやすいし、彫り物で薔薇をモチーフに、と頼んでくる女性は少なくない。
「……持ち帰るか」
サイラスはカウンターでローズティーの持ち帰りを注文する。咲かせる砂糖細工の花は、蕾を三つと咲くものを一つ。色は橙。咲くだろうという信頼を持ち帰る。
「秘密ですか?」
店員に聞かれた。
「ああ」
サイラスは答えた。そう、秘密。当分に、永遠に。
●
ルアンナ・ミュラーは紅茶を一口含むと、ほう、と息を吐いた。
薔薇のジャムがとろりとしていて、紅茶の甘みを引き立たせてくれている。ほんわかと胸の辺りが暖かく、美味しい、と思った。
これが家で楽しめるなら、持ち帰るのも良いかもしれない。ああ、そうだ。友人にも勧めてみよう。きっと気に入ってくれるだろうから。
カウンターで頼んだのは、茶葉とジャムのセットを2つ。友人に渡す方の一つには、紅い薔薇を一本添えて欲しいと頼んだ。
はて。其れがどんな意味を持つのか、ルアンナは知っているのだろうか。
●
ベルク・オスマットは余り薔薇に関する知識はない。
生きる事、そして信仰に関するもの以外のものに知識を割く暇は、余りベルクにはなかったからだ。
花の紅茶、というからどんなものかと思ったが――
「ふむ。悪くない」
甘みの中に薔薇のかぐわしい香りが混じり入る様は、味覚と嗅覚から安息を齎してくれる。たまにはこういう洒落たものも良いものだと、ベルクは僅かに口元を緩めた。
暖かい紅茶を飲みながら過ごしていると、時間も何故かゆったり進んでいるように感じて。かち、かち、かち、と時計の針の音もいつもより遅く感じるのは不思議だ。
そうだ。レイウェスト殿下にもこの味を楽しんで貰うのはどうだろうか。
今もまだ帝国は激務ばかり。過激派の処理に追われている事だろう、心労のネタには事欠かぬ。この薔薇茶で少しでも気休めになってくれれば良い。
店員と確認し合って、緑色の薔薇の茶葉を選び、咲く花も緑色に。そうして「あなたは希望を持ち帰る」を意味する薔薇の葉を添えて、丁寧に梱包して貰った。
――喜んで貰えるだろうか。ベルクは円筒状のケースに入った薔薇茶を見て、僅かに笑むのだった。
●
「このようなお店があったのですね」
レティシア・レインフィールはかろり、とドアベルを鳴らしながら喫茶店に踏み入る。
空いている席に腰を落ち着けて、ふと取り出したのは一枚の手巾。白い生地の片隅に、銀色の糸で薔薇の刺繍が為されている。
――彼は、薔薇がお好きなのでしょうか。
好きならば、今度会えた時に贈るべきだろうか。そう考えて、莫迦な事をと己で否定する。
彼が敵に囚われたのは、策に嵌った私たちを守る為だった。其の後、どうして主への反逆も同然の事を行ったのか――訊けないまま。でも、きっとそもそも囚われなかったら、あんなことにはならなかった筈なのだ。
罪人として騎士の資格を奪われ、領地を追放されて。全てを失わせた私たちを責めない彼の優しさが辛かった。
――せめてとの思いで、レティシアは薔薇茶を持ち帰る。
咲かせる花は白を八本。“あなたを支える”を意味する其の薔薇……どう償えば良いのかはまだ判らないけれど、其れでも力になりたいというメッセージを込めて。
次に会えた時、この紅茶を飲みながら貴方に言えるように、願っています。
●
フリューリングスルフト=ティエラは店員から薔薇が表現する意味のレクチャーを受け、うんうんと頷く。
誰に送ろうか。ぱっと浮かんだのは、最近気になっているあの人の事。
己の気持ちが恋なのか、違うものか。答えを探している最中で。
色に関わらず一輪の薔薇は「一目惚れ」「運命の人」という意味。
そして橙色の薔薇は「絆」という意味を持つらしい。
「運命の、人……」
橙色は、あの人を連想させる色の一つ。
其の意味と色から目が離せなくて、
「この組み合わせでお願いするさぁ」
「かしこまりました」
運ばれてきた薔薇紅茶。花開く橙色の薔薇一輪を見て。
――この場にいないのにね、頭から離れてくれないのさぁ。
「うちは、……どう、したいんやろう」
選び取った、其れ自体がもう答えなのかもしれないけれど、まだ悩んでいたいような不思議な気持ちでいる。
考えながら紅茶を飲んでいると、気付けば残り一口となっていた。
フリューは秘めた思いを呑み込むように、カップを傾けて……花弁を奥歯で噛み砕いた。
……甘い。
●
「……うん、素敵な店だ」
これなら彼女も喜んでくれるだろう。ハーフビーストの友人を思いながら、ザスキアは満足げに頷いた。
カウンターで選び取る、あの子の雪のような髪に似合うもの。添える薔薇は――これからもっと仲良くなれるように、黄色とオレンジを。“友情”、“絆”。ああ。“恋愛の達人”――なんて言葉、恋バナが大好きな彼女にはとても“らしい”と思う。
以前頂いたハーブティーに負けないような、美味しいローズティーを持ち帰ろう。今度は手土産を持って来るって約束したから。そうして添えた薔薇を見せたら、彼女はどんな顔をするだろうか。其の意味するところを分かってくれて、笑みを見せてくれれば良いのだが。
●
「薔薇紅茶かぁ」
御婦人方が喜びそうなロマンチックな品だね、とクロンダイクは頷く。ふわりひらり、蝶のように女性たちの間を遊び歩く彼らしい感想である。
カウンターで薔薇を選んでいる人は、誰かに贈るのだろうか。其れとも自分へのご褒美かな? 美食は良いものだ、心も潤してくれる。――そうだ、僕もお土産に見繕っていこうかな。
相手は今お世話になっているパトロンのマダムと、其の小さなレディに。優雅なティータイムに花を添えてあげられそうだ。
余り思わせぶりな花はいけない。あくまで感謝と話題作りのためのものだから。だからクロンダイクは橙色の薔薇を選ぶ。茶葉も添える薔薇も同じ橙で、添える薔薇は5つ。
意味するところは“貴方に出会えたことが心からの喜び”。そして“魅惑”“信頼”。うん、適度に感謝を表しつつ思わせぶりでないチョイスになったんじゃないかな。
女性だからね、薔薇の数や色に込められたメッセージを読み取ってくれるかもしれない。或いは薔薇だから、後から調べて楽しんでくれるかもしれない。判らなくても其れは其れ、花と紅茶を喜んでくれたらそれでいいや。
――薔薇に似合う曲はなんだろう? 薔薇薫るティータイムに相応しい曲の練習もしておかないとね。
●
「薔薇紅茶……人気だって話は聞いていたけど」
プロロは一口、薔薇から溶け出した砂糖で甘くなった紅茶を啜りながら店を見回した。カップルに、友人同士。様々な人で“ヴェリローズ”は賑わっている。
自分はお任せにして店員さんにお願いしたけれど、他の人はどうなんだろう? 自分で選んだりしたのだろうか。
白い薔薇に葉が付いたもの、其の花弁の一枚を千切り取り口に運ぶと、花の濃厚な香りの中に砂糖の甘みが美味しい。
――そういえば、この紅茶はお任せだけれど……何か意味はあるのかな?
「ああ、先程の紅茶ですか?」
会計の際に、幸いにも注文した時と同じ店員だったので訊いてみる。すると少し恥ずかしそうに笑って、意味はありますよ、と言った。
「どんな意味なんですか?」
「添えた薔薇が一輪なのは、単純に多すぎると困るだろうと思ったからなんですが……白い薔薇には“深い尊敬”という意味があります。それから、葉には“あなたは希望を持ち帰る”という意味も」
――お持ち帰りはいかがですか?
そう訊いてくる店員に、成る程、この人は商売上手だな。と、プロロは感嘆したのであった。
●
「わあー……!」
エフィルミアは紅茶に落とした花がふんわり開くのを見て、感嘆の声をあげた。
「紅茶の暖かさで花開くんだね。とってもロマンチック……!」
「本当だな。しかもこれ、食べられるんだろ?」
「うんうんっ、砂糖でコーティングされてるんだって!」
ナキルが問うと、きらきらした瞳でエフィルミアは頷く。選ぶ花に意味があると聞いて、迷いながらナキルが選んだのは桃色の薔薇。特に意味を気にした訳ではなく、単純に目の前にいる彼女のような色だったから。
エフィルミアが選んだのは、花先が桃色に染まった黄色い薔薇。ぺり、と一枚剥がして、花弁を口の中に運ぶと、ほんのりと甘い砂糖の味がして。
「~~~~! 美味しい! ねえナキルくん、トレードしようよ! 違う味がするかもしれないよ!」
「ん? ああ、そうだな。ミアのローズティも美味しそうだ」
二人、それぞれトレードして互いの薔薇を観察する。
「ナキルくんはどうしてピンクにしたの? 可愛い色だけど……」
「ん? ああ。ミアに似合いそうだなって思って選んだんだよ」
はわ!
頬をぽぽぽ、と桃色に染めたエフィルミアは、本当に薔薇のようで。
「わ、私も、黄色にピンクが混じってるの……ナキルくんと私みたいだなって……」
目を逸らしながら言う様は愛らしい。結局、考えている事は二人ともほぼ同じだったという訳だ。
恥ずかしい! とあわあわするエフィルミアに、ナキルはそっと声を掛ける。
「なあミア、ちょっとしゃがんでくれねーか?」
「?」
言われた通りしゃがんだ彼女の髪に、そっとピンクの薔薇を飾る。
ぽぽぽ、と今度こそ赤く染まった彼女の頬を指先がそっと撫でて、うん、とナキルは頷いた。
「ミアは薔薇も似合うな」
そう笑った彼が、とってもとってもかっこよく見えてしまって。
「な、な、ナキルくんはまだまだ可愛いひよこちゃんだよーっだ!」
私を翻弄しようだなんて、100年早いんだから!
いつまでもひよこじゃねーよ、と。彼が言ったのを聞こえないふりした。
●
スー・ルーとシルヴィア・A・カペルは二人、薔薇紅茶を楽しんでいた。
というより、此処に至る道で偶然出会ったというのが正しいかもしれない。スーは以前“タンジョウビ”の贈り物、ガラス製のインク壺をシルヴィアから貰っていた。其のお返しを探していたのだが、結論としては「本人に訊いた方が早い」。として、同行に誘ったという訳である。
喫茶店は何処となくお洒落な雰囲気で、スーは落ち着かない。
「……こういう場所は嫌いかい?」
シルヴィアが問う。
誘って貰ったのは純粋に嬉しかった。薔薇に込められた幾つもの意味はまだ彼には難しいかもしれないが、自分が贈ったものに何かを返してもらえる事そのものが嬉しかったから、自分は良いのだけど……其の為に彼が難しい思いをしているのはいかがなものか、と思ったから。
「や、別に。嫌いじゃねぇけど、難しいってだけだ、……なんか……味とか、色々よ」
いつだって真っ直ぐな彼は、こういう“意味を含ませる”という事には慣れていないのだろう。花の種類も、“キレイ”という感覚も良く判らないから、取り敢えず色々持ってきてもらって、一つ一つ香りを嗅いだ。
幾つか選び取った花の香りは、シルヴィアの香りに似た薔薇なのだという。
「前も言ったろ。あんたは花っぽいって。だから……つまり、そういう感じの匂いを選んでみた。お前の好きな花はあるか?」
「好きな花? ……君が一番綺麗だと思った花を貰えたら嬉しいけれど」
「俺が選んで良いのか? なら、其れでも良いけどよ」
其れは其れで悩むモンだな。
うんうん、とあれこれ手に取って悩み始めるスーを見て、シルヴィアは何だか微笑ましくなってくすくすと笑う。なんだよ、と睨まれて、何故だかますますに笑ってしまうのだった。
●
リピストーク・クロフは普段、大森林の片隅に住んでいる。
けれど今回、友人のリーザヴェールに誘われて、この“ヴェリローズ”に足を運んだ。
「お土産でも良かったんだけど、折角だもの」
リピスちゃんにも好きなお茶葉を選んでほしかったの、とリーザヴェールは笑う。
「森の外に出るのは久し振りなの。だから、今日の催しも楽しみだわ」
リピストークがそう言うと、嬉しそうにリーザヴェールは笑って、彼女を喫茶スペースに誘う。
兎に角、リピストークには見るものすべてが新鮮だった。
薔薇のお茶。花のような香り。紅茶の暖かさで開く砂糖漬けの花弁。
リーザヴェールも自分で薔薇の紅茶を作ってはいるけれど、いつも同じものでは飽きてしまうしつまらない。
だから、たまに新しいものを口にするのも必要な事だと思うの、と、薔薇紅茶を一口飲むと笑みを浮かべる。
「そうね、同じモノばかりだとどんなに好きだと飽きてしまうわね。……この薔薇って、食べても大丈夫なの?」
「ええ、砂糖をまぶしてあるから大丈夫よ。食べてみたら?」
くすくすと笑うリーザヴェールに、つんつんと花をつつくリピストーク。一枚花弁を取って食べてみると、甘みがじわり、と舌に広がった。
「……美味しい」
「でしょう? そうだ、いま森ではどんなお花が咲いているの?」
「むぐ」
薔薇を咀嚼していたリピストークが、問いに花弁を呑み込む。
「……そうね。今だと淡い色のお花が多いかしら」
「まあ。じゃあ、また種を分けて下さらない?」
「種? ええ、勿論よ。貴女が育てやすそうなものを選んでおくわ」
「ありがとう」
リーザヴェールは桃色のジャムを紅茶に混ぜる。花開いた紫の花弁を見下ろして、懐かしむように笑った。
――お土産はどうしようかしら。色々あって、迷っちゃうわねぇ。
●
キーゼとネーヴェ・グラヌローザはデート中に、偶然この店を見付けた。
「ちょっと一息入れましょうか? 変わった紅茶もあるようですからね」
キーゼの其の一言にネーヴェは頷いて、喫茶スペースへと座る。
「薔薇が咲く紅茶……薔薇の季節だからでしょうか。見た目にも華やかで素敵な紅茶ですわね。……そうですわ! お互いに向けてメッセージを込めたお茶を注文致しませんか?」
ネーヴェの其の提案に、良いですね、とキーゼは頷いて。メニューに視線を落とすと、色や数、葉にも意味があるらしい。ほう、と其の奥深さにキーゼは感嘆の息を吐き、丁寧に選び抜いていく。
「オーダーはこっそり、ですわよ」
「判りました」
お互い、店員にこっそりとお茶をオーダーする。暫くしてキーゼの前に運ばれたのは、白薔薇のジャムをバタフライピーティーの青に浸したもの。
ネーヴェの前には薄い緋の色をした紅茶の中に、黒い薔薇を一輪。
「青薔薇は自然界には存在しないそうですね。故に“奇跡”と呼ぶのだとか」
「成る程、だから青いお茶に白い薔薇を?」
「ええ」
「成る程、……こういう花言葉は僕よりあなたのほうがお詳しいでしょう」
黒薔薇一輪が意味するところは“貴方はあくまで私のもの”。思わずネーヴェは其の白皙の頬を桃色に染めて。
「まぁ……でしたら、繋いだこの手をどうか離さないで、手元で大切に愛でて育んで下さいな。そうしたら黒薔薇はやがて、永遠の愛と成りましょう」
それから、白薔薇にはこんな意味もありますのよ、とネーヴェは唇に言葉を乗せる。
――“私はあなたにふさわしい”……なんて。
●
ティトリー=R=アルバートがヴェリローズを訪れると、喫茶スペースに知った顔を見付けた。ルベア・ベルニだ。
窓際席で縮こまるように紅茶を飲んでいる。其の気持ちはティトリーには痛い程よく判った。彼もまた、人見知り解消の為に外に出た身だからだ。人が沢山いたので逃げ込んだつもりの喫茶店、其処も人で溢れていて。ティトリーは更に逃げ込むように、ルベアの方へと歩み寄ったのだった。
「あの……ルベア嬢?」
「?」
そっと名を呼ばれて、ルベアは顔を上げる。ティトリーが其処にいた。彼は学園では上級生に当たるし、貴族の身らしいのだけど、それらしくなくおどおどとしていて。
相席しても良いですか、とも訊けずにあの、その、と言葉を詰まらせる彼に、向かいにどうぞ、と言ったのは結局ルベアの方だった。
「あの……が、学園にはもう慣れましたか? その……意地悪とか、されてない?」
ティトリーはなんとか注文を済ませ、薔薇紅茶が運ばれてきたところでそう口を開いた。
「えっと……変な視線は時々感じるけど、嫌がらせはない、かな。……心配してくれて、ありがとう」
ルベアはそう言って、自然に笑った。つもりだ。貴族でもない彼女の事を、きっとティトリーなりに心配してくれているのだろう。
出自だけではなく、ルベアもやや人見知りな性格だ。学園の門戸を叩いたのだって、本当に、すごく、勇気を出しての事だった。
「そ、そう……」
良かった、とティトリーは小さく呟く。知人に何かあれば力になりたい。そう思う心に貴族も庶民もないと思う。でも其れを口にするには、ティトリーには勇気が足りなかった。薔薇紅茶の味も良く判らない。照れ隠しのようにジャムを紅茶に……
「あ、い、入れすぎた……!?」
「え?」
「あ、じゃ、じゃなくって。えっと。何かあったら、監督生とかに……もし種族を理由に断られたら、……ゆ、友人を紹介します!」
自分ではきっと頼りないから。
言葉の裏にありありと見えてしまう彼の自信のなさと、其れでもと願う彼の優しさに、ルベアは今度は心から笑みを浮かべて。
「……助けてくれる、気持ちだけでも十分に嬉しい。ありがとう」
「……。ど、どういたし、まして」
●
ジュスト・ヴェルジーがローザリカ・L・ディオールをエスコートして喫茶店に入る様は、其れだけでも絵に成る程だった。
とはいえ、二人は目立とうとおもっている訳でもない。ジュストはいつもよりラフな衣装を纏って、眼鏡をかけているし、ローザリカは目立つ髪を纏め上げて、服装も上品ながらシンプルなものを身に着けている。
なんだ、ただのカップルか……と視線を向けた客がばらばらに己の向きたい方を向いたのをちらりと見ながら、ジュストはローザリカと共に席に着く。
そうしてジュストが注文したのは、赤とオレンジの薔薇が美しく咲き誇る薔薇紅茶。勿論、これは彼女の髪と瞳の色をイメージしたものだ。
「意味は分かっているかな?」
カップを手に、まだ飲まず、ローザリカを見る。
ローザリカのカップには赤い薔薇が一輪咲いている。其れを琥珀色の瞳でちらり見下ろしながら、
「……。さあ、どうだろう。判らない事にしておこうかな」
「君にしては随分と“目が悪い”ね」
一口紅茶を飲むジュスト。勿論伝わっているだろう、と確信はしている。今まで素直に伝えられなかった分、少し過剰かと思う程度に想いを注いでいるつもりなのだが。
一方、ローザリカは染まる頬を押さえる事が出来ない。色や本数に込めるメッセージ。己が注文した薔薇紅茶に込めた想いの事も合わせて考えれば――判るなどと明確に頷いてやる訳にはいかない。一方的なのは今だって癪なのだ。
己だって、と、ローザリカも一口紅茶を啜る。一方的なのは癪だからと、薔薇に込めた想いは包み隠さぬ本心なのに。曝け出す? そんなの、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
「ああ、そうだ」
お待たせいたしました、と店員が傍に来る。何を注文したのか、とローザリカが視線を向ければ……なんとまあ。赤とオレンジの薔薇が違わず11本、緑のリボンで束ねられたブーケではないか。
ジュストは其れを受け取ると、ローザリカへと差し出す。
「これも君に」
“最も愛おしい人へ”。
11本が意味する其のところを知らぬほど、ローザリカは無知ではなかったから。
だからついに、顔を其の名の如く薔薇色に染め上げて、言葉に詰まってしまったのだった。
――こんなもの、聞いていない!
マスターコメント
お疲れ様でした。
薔薇には色んな意味がありますね。
個人的に好きなのは、蕾と開いた花の組み合わせでしょうか。
あの事は当分に、永遠に秘密、なんてね。
皆様のチョイスににやにやしながらリプレイを書かせて頂きました!
ご参加ありがとうございました!
イベントシナリオ易しい 報酬:標準21 / 4〜25人
2022年05月30日 09時26分09秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
投稿はありません