【花戦】馬酔木の杜に花の籤を

空色みなも

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シナリオID:2123

オープニング

●
「馬酔木の花を見ると、はないくさの季節がやってきたんだな、と実感しますね」
 神社の境内を掃き掃除する巫女、アセビが杜に咲く花を眺めて呟く。
 アセビはその実、正体がシノビであったりもするのだが、この際、それは関係ないので脇に除けておこう。

 それよりも気にするべきは、アセビが今しがた口にした『はないくさ』だ。
 シャルガネを中心とし、辺境都市群一帯で新緑の季節に開催される祭りである。
 今となっては原義もおぼろげなそれは、豊穣祈願祭や花祭りの類として、地域によって様々な解釈で開催されている。
 そしてアセビが神社の巫女として生活する地域では、その実態は花祭りに近い。

「籤をお求めですか? ではこちらへ」
 そこへ訪れた参拝客に声をかけられ、アセビが神社の一角にある建物へ案内する。

「第五十九番ですね、こちらになります」
 参拝客が筒を振って出した棒を確認し、アセビは一枚の栞を差し出す。
 そこには、ツツジが押し花にしてあった。
 白い和紙を背景に、慎ましやかに開く赤い花――。

「そこに込められたお告げの解釈を、あえて私からはお伝えしません。ご自由に読み取られてください」
 アセビにそう告げられて参拝客が思い浮かべたのは、節度を持つことの大切さか、あるいは恋の喜びの予感か。
 その答えは、参拝客の心の中にあるのだろう。

「もしよかったら、馬酔木の枝に文を結び付けていきませんか?」
 今度は参拝客を花咲く馬酔木のもとへ案内するアセビ。
 見れば、その枝にはいくつもの紙片が結び付けてあった。

「ここに伝えられなかった想いを文にして結べば、想いの供養になると言われています」
 アセビによると、文には宛名も差出人も記す必要はなく。
 ただ、想いを書き記しさえすればいいと言う。

「万が一にも人に見せたくない、という想いについては無理強いはしませんが、よろしかったらどうぞ」
 アセビの勧めに、参拝客は馬酔木の花を見上げながら思案する様子を見せる。
 誘いに乗って文を記すか悩んでいるのだろうか。
 はてまた、文に記すべき思いを何にするか悩んでいるのだろうか。

 杜の緑も目に眩しく。
 アセビの神社に訪れるそうした人々を、馬酔木の花が見守っていた――。

解説

●目的  馬酔木が咲く神社で豊穣を祈る祭りを過ごす。 ●状況  舞台はシャルガネ居住区のある地域でアセビが勤めている神社です。  ここでは、馬酔木の花がそろそろ終わろうかという頃に豊穣を祈るささやかなお祭りが開かれます。 ●できること  ▽馬酔木の枝に文を結ぶ  伝えたかったけど、伝えられなかった想い。  伝えたいけど、伝えられない想い。  そうした想いを文に書いて、神社に植わった馬酔木の枝に結ぶことができます。  ▽花の籤を引く  様々な季節の花が押し花にされて、台紙に貼り付けた栞が、籤で一種類貰えます。  花言葉の解説などはついてきません。  引いた人が、そこに込められたお告げを自由に解釈することができます。  籤なので、実際にどんな花を引くかはマスターからの贈り物となります(プレイングで指定しても採用できるとは限りません)。  栞はアイテムとしての配布はありませんが、ロールプレイとして持ち帰って頂くことはできます。 ●NPC  ▽アセビ  辺境都市群に仇なす存在を秘密裏に排除する役目に付いている、シャルガネ居住区のシノビの一員。  現在、表の顔として神社の巫女をしており、時には地域住民の相談に乗っている。  それもシノビとしての情報収集の一環であるとかないとか。

マスターより

 お世話になっております、空色みなもです。  連動【花戦】でのリリースとなります。  馬酔木の枝に届かぬ思いを引き結んだり、花の籤を引いて解釈に一喜一憂しましょう。  関連NPCにアセビが紐づけられています。  相談掲示板では基本的に出発48時間前までに行われた質問に回答します。  祭りに華やぐ皆さんのプレイングをお待ちしております。

リプレイ

●
 馬酔木の花に見守られた神社で、籤引きの受付にサイラスはいた。

「まあ何が来ても楽しいだろうな。クロユリでもユキノシズクでもヒガンバナだのみたいな内容だろうと、いつもそれ以上に欲と悪意持って好きにやってるし、本当に縁起悪くて贈るもんじゃない物でもいいかなって」
「実際そういう花が来るかどうかは、引いてみてのお楽しみ、ですね」
 サイラスが筒から出した棒の番号を確認し、アセビは引き出しから一枚の栞を取り出した。

「またちんまいのが来たね? ええと――」
 サイラスに手渡された押し花は、可愛らしい青の花だった。
 その青は、例えるとするならば瑠璃色の――。

「ルリハコベ、ですね。どうぞお持ち帰りください」
 アセビは花の名前を教えるも、花言葉を解説することはしない。
 手に入れた花に何を見るかは、籤を引いた者の自由なのだ。

「あんがと。それにしもルリハコベ、ね?」
 サイラスは大きな手に収まった、小さな栞をしげしげと眺める。

「変わり身、変化、と。ま、その通りになるかはともかく、これも何かの縁ってことで」
 栞を荷物にしまうサイラスは、少しだけ目を細めているように見えた。

「じゃあ、ま、後は適当に演奏でもしてますか」
 代わりにサイラスが取り出したのは、竜と花をモチーフとした装飾の弓だ。
 サイラスがその弦を弾くと、ハープのような音色が祭りの会場に響いた。

●
「はないくさの季節……はないくさとは何なのでしょうね? 啓示にも出ていませんし、既に原義は忘れられてしまったのでしょうか」
 はないくさの意味についてフリーダ=ブロムヴィストは首を捻るも、形はなんであれお祭りとして今に伝わっているのは良いことなのかもしれない、と納得する。

「今回、啓示には『特に短縮要素はありませんが、今後のチャ=トの行く末を占ってみましょう』と出ていました」
 というわけでと、フリーダは早速、アセビの待ち受ける籤の受付へと向かう。

「タンポポですね」
「タンポポ、ですか。どういう謂れがあるかは図書館などで調べてみましょう」
 アセビが手渡した押し花は、黄色い花が毬のように集まったタンポポであった。
 フリーダはその意味するところを、帰ってから調べてみることにした。

「タンポポ……タンポポ……ありました」
 後に、フリーダは花にまつわる言葉をまとめた書籍で、タンポポに関する花言葉を見つけることになる。

「色々とありますが……神託、ですか」
 花言葉の一覧を追いかけるフリーダの目に、ある単語が留まった。
 どうやら、一説にはタンポポは神託にまつわる花ということになっているらしい。

「啓示ならいつも受けていますけどね」
 フリーダは日頃、啓示を授ける神に思いを馳せながら。
 パタリ、と花言葉辞典を閉じたのだった。

●
「こっちのはないくさは穏やかだね」
 ヨル・スレイマンはのんびりと神社の境内を歩きながら、馬酔木の花を眺めている。
 その手には、馬酔木に結び付ける文を書くための紙片が握られていた。

「さて、ここに誰もいないうちにと」
 辺りを見渡して、人の気配がないことを確認したヨル。
 友のことを思い、ヨルがこっそりとしたためた文に書かれていた文字は。

『これからも、共にあれますように』

(伝えられないというよりは、伝えるつもりがないしね……)
 ヨルは大切そうに文を畳む。
 なにもわざわざ伝える必要などないのだ。
 友は何も知らないままでいい。
 ただ、できたらこれからも。
 隣にいることが叶うなら――。

「――なんてね。ちゃっちゃと結んでおこう」
 感傷に浸っていてもなんだと、ヨルはテキパキと文を枝に結び付けた。
 馬酔木の花の間に、引き結んだ文が揺れる。

「せっかくだから、籤も引かせてもらおうか」
 そうしてヨルが手に入れた栞に押されていた花は――。
 白のニチニチソウ、二輪。

「ずいぶんと仲よさそうじゃない。悪くないね」
 ヨルは満足げに呟くと、そっと栞を荷物にしまいこんだ。
 まるで肩を組んで歩くように二つ並んだ押し花に、生涯の友情、を見出して――。

●
「殿下の危機と聞き及びシャルガネまで来たものの……花嫁にされた、とはどういうことでございましょうね」
 はないくさを風の噂で知ったレティシア・レインフィールは、困惑の中、神社の祭りに巡り合っていた。

「……やはり、やめておきましょうか」
 レティシアは一度は文を書こうとしたものの、思い直して文を記すための紙片を返す。
 縒られた糸のように絡まり合った想いを解きほぐし、形にするのは難しく。
 人の目に触れる可能性を考えれば、やはり形にすべきではないと向かうは花の籤。

「お告げに縋るべきではないと理解はしているのですが……」
 レティシアは思う。
 どうすれば『彼』を救い、守れたのか。
 これから『彼』の為に、自身に何ができるのか。

「僅かでも、糸口になれば」
 祈るように籤を引くレティシアの手には、白の手巾。
 端に銀色の薔薇が一輪、描かれたそれは『彼』からの贈り物。

「どうぞ」
「これは……ソバの花、ですか」
 アセビからレティシアに渡された押し花は、白い小さな花の集まりだった。

「喜びも悲しみも……あなたを救う……いえ、それとも」
 レティシアは『懐かしい想い出』を顧みた。
 命を救われて、その恩を返す筈が。
 更に恩は積み重なって――。
 失いたくないと、そう思うほど。
 いつの間に自分は『彼』に近づいてしまったのだろうか。

「どうか、おそばにいられたなら――」
 ソバの花を胸に抱えたレティシアは、静かに神社を後にした。

●
「あの子は元気にしているでしょうか。村に独り残してしまった私のことは恨んでいるでしょう……」
 神妙な面持ちで、リディリディ・トゥラ・イェレミースは文をしたためていた。
 あの子、というのはリディリディが村に置いてきた双子の妹のこと、であるらしい。
 もし文を読むことができたなら、そこには妹の無事を願う祈りが書かれているのを見ることができたであろう。

 しかし、リディリディは知らない。
 一所の噂によると、その妹というのがすでに村を飛び出している、ということを。

 つまりリディリディは、妹が村にいるものとすっかり思い込んで手紙を書いていたのだ。
 これが実際に妹へ宛てて村へ送られる手紙ではなく、馬酔木の枝に結ばれる文であったことはある意味、幸いだっただろう。

 リディリディは文の最後に付け加える。
 そこには『傷薬を必ず持ち帰るからね』との言葉が書き記されていた。

 この世界において、病を治すには主に薬に頼る。
 しかし、傷を治すには授恵者であればエーテルを用いた手段を扱うこともできる。
 そうした状況にあって探される傷薬というのは、あるいは特殊な存在なのであろうか。
 治療術でも治せないような傷を綺麗にするだとか――例えば、そういった。

「待っていてくださいね」
 リディリディはキュッと固く、文を枝に引き結んだ。
 その決意の固さを、表すように。

●
「花言葉で想像して楽しめ、ってやつかな?」
 海神・江流は籤の受付を目に留めて、ふらりと神社に立ち寄っていた。

 籤を引いて受け取った栞の押し花と、手許にある花言葉辞典を見比べる江流。
 花言葉辞典に残る、両親が挟んだ栞の跡。
 そして、自分で調べものをしたときについた跡。
 それらを見て江流が思い出したは『彼女』のこと。

「我ながら思い切ったことをしたものだね」
 江流の記憶から、桔梗色で包んだ誕生石の腕輪にナズナの花飾りを添えて『彼女』に贈ったことが呼び起こされる。

「伝えられない想い、ね」
 不意に泳がせた江流の視線の先で、馬酔木の枝に結ばれた文たちが風に揺れていた。

「……そんなナイーヴな歳でもあるまいよ」
 江流は決めているのだ。
 この想いは直接、伝えるのだと。
 仮に願うとするならば、それを許される機会の到来か。

「もう今年も三分の一、終わっちまったか」
 江流の肩の上で、白い羽毛の丸っこい小鳥――揺満月がコロコロとさえずった。
 揺満月をそっと指で撫でた江流は、花言葉辞典を閉じて先を急ぐ。

 辞典に挟まれた栞の花はカッコウアザミ。
 閉じられたページには『あなたの返答を待ちます』の花言葉が記されていた。

●
「さて、ふらりと立ち寄って籤を引いてみたはいいが」
 ベルク・オスマットが空にかざして眺めている栞に開くはウメの花。
 とはいえ、ベルクは花言葉に詳しいわけでもなく、お告げの類にも詳しいわけではないらしい。
 解釈に困っているのか、延々と首を捻っている。

「ここで悩んでいても埒が明かぬな」
 ベルクは栞を持ち帰り、人から借り受けた花言葉辞典で調べものをすることにしたようだ。

「ずいぶんと沢山あるな……かえって困る」
 ベルクの開いた、ウメについて記すページには。
 ずらりと無数の花言葉が列記されていた。

「厳しい美しさ……厳しくすればいいのか? しかしそれだと美しさはなんだ」
 一つ一つの花言葉をお告げと解釈しようとして悩むベルク。
 言葉通りに捉えればいいのやら、それとも迂遠な言い回しで捉えればいいのやら。

「忍耐……約束を守る……美と長寿……」
 しかし一つの花にずいぶんと多くの意味を与えたものだ、とベルクが呆れかけたとき。

「忠義、忠義……か」
 ある言葉を見つけたところで、ベルクの動きが止まった。
 自身はいかに一族の務めとして忠義を果たすべきか――そのようなことを考えて。
 ベルクはしばし、物思いに耽ったのだった。

●
「はないくさ……ですか。祭りであるならば、何者かに捧げる儀礼でもあるのでしょうが」
 ぶらぶらと馬酔木の杜を散歩していたヴィルヘルミナは、風の吹くままと、籤の受付へ向かう。

「籤でも引いてみますか。何が出るかは引いてからのお楽しみですね」
 そうしてヴィルヘルミナが手に入れたのは、タチアオイの栞。
 薄紅の花が押されて、栞の上に広がっている。

「気高く威厳に満ちた美……などと自分で言い出すのも憚られますよね」
 ここは平安のお告げということにでもしておきましょう、とヴィルヘルミナは小さく頷いて。
 栞を荷物にしまう代わり、ヴィルヘルミナが取り出したのは瓢箪だ。
 瓢箪の口から杯に注がれたのは、もちろんのこと酒である。
 どうやらヴィルヘルミナはシャルガネの地酒を手に入れていたらしい。

「あとは花でも見て風情を感じながらお酒でも。まあ、私はそこまで酒に強いわけでもないのですけどね」
 そう言いながらも、ヴィルヘルミナはくいっと酒を呷って杯を空にした。
 酒に強いわけでもない、というのもあくまで自己申告であるので、どれほどのものかは分からない。
 ヴィルヘルミナの種族を鑑みるに、あるいはドワーフ基準の話かもしれないが。

「風が心地よいですね」
 ヴィルヘルミナへ風が春の匂いを運び。
 馬酔木の枝を、ゆらゆらと揺らしていた。

●
「馬酔木! このお花、知ってる~。可愛いけど食べちゃ駄目なお花ネ」
「食べちゃダメなのね……じゃあ匂いだけにしとこ」
 梅・雨陽から教えられ、サシャ・テーリングは鼻先を馬酔木の花に近づけてひくひくさせていた。
 すると枝に結びつけられた文が、サシャの目に留まる。

「うよたんは秘めたままの想いってあるのかしら?」
「ハハーン、伝えられない想い……ううん~」
 ふと思いついて、サシャがそんなことを尋ねてみると。
 雨陽は腕を組んで考え込んでしまった。

「……いざとなると思いつかないワ。ワタシ、思いの外お気楽に生きていたワ」
 やがて雨陽は考えるのを諦めたようで、肩をすくめてみせた。

「ふふ、お揃いね。私も気楽に生きてるわ~」
「サッシャんもないの? じゃあ結びたいことできたら、また一緒に来ヨウ?」
 それを見たサシャがくすくすと笑う。
 雨陽が持ち掛けた提案に、サシャもそうね、と約束を交わし。

「馬酔木は食べられないから、代わりに美味しいごはん食べようネ」
「そうしましょ」
 雨陽とサシャは辺りで腰を下ろせそうな場所を見繕い、昼食をとることにした。
 そんな二人のご飯は、屋台で手に入れた焼きおにぎりと、具だくさんの汁物。
 竹皮に乗ったホカホカの焼きおにぎりを手に取り、頬張る二人。
 そこへ熱々の汁物を流し込めば、味が合わさってグッと美味しさを引き立ててくれる。

「スープあったかい! お友達と食べるのも、外で食べるのも、どっちも楽しいネ」
「ええ、今日がいい天気でよかったわ」
 互いに顔を見合わせて、にっこりと微笑む雨陽とサシャ。

「あ、あれお花の籤だって! かわいい~、やる~」
「え、なにそれ可愛い~」
 雨陽が籤の受付に気付き、サシャを伴って向かう。

「この棒で引くのが、ドキドキが二回って感じでイイネ。どんなお花かな?」
 シャカシャカと筒を振って籤を引く雨陽とサシャ。

「これ、ヤマツツジ? 訓練、努力、燃える想い……」
 サシャが手にした栞には、燃えるように赤い花が押されていた。

「えー!? あんまりご縁がなさそうなんだけど……さらに推し愛をメラメラ燃やすってこと……かしら?」
 この結果は思いがけないものであったようで、サシャは目をぱちくりさせている。

「ご縁がなさそうっていうのは、サッシャんがまだ気づいてない魅力ってことダヨ!」
 そしてフォローを入れる雨陽の手には、青いガクアジサイの栞。

「青のアジサイなら辛抱強い愛情、だと思うんだけど……ガクアジサイなら謙虚、とかだったかしら」
 サシャは雨陽の手にした栞をまじまじと見つめて。

「にしても綺麗ね、それ。私のと交換してくれない?」
「ンフフ、サッシャんと交換ネ。もちろんヨ!」
 サシャによって栞の交換が提案されると雨陽もそれを了承し、栞が二人の手を行き交う。

「ありがとう、お部屋に飾るわね」
「ワタシもお部屋に飾っとくネ」
 サシャと雨陽は、交換した栞を手に微笑み合ったのだった。

●
「表通りの華やかな祭りもそれはそれでいいものですが、こういう小規模のものも趣があっていいですね」
「ええ、落ち着いて散策できますし。地域に根差したお祭り、という感じが致しますね」
 キーゼの言葉に、ネーヴェ・グラヌローザが相槌を打ちながら馬酔木の木を見やる。
 馬酔木の枝には、葉の緑に交じって、白く小さな花が鈴なりに咲いている。

「馬酔木ですか……綺麗な花には棘がある、とは言いますが。この場合は毒、ですかね」
「たしか、枝葉に毒があるのですよね」
 キーゼとネーヴェの会話が示すように、二人の目前にある木は毒を持っている。
 馬が食べれば毒にあたり、酔うが如くにふらつく――それが馬酔木という木なのだ。

「こちらの華には魅了の毒がありますかね?」
 キーゼが視線をネーヴェに移し、冗談めいた言葉を真顔で口にする。

「まぁ、毒だなんて。毒も使い方次第で薬になりましてよ」
 言外に、失礼ですね、とでも言いたげにネーヴェは人差し指を伸ばす。
 その指でちょん、とキーゼの鼻先がつつかれた。
 指の動きを目だけで追ったキーゼが、無表情ながら少し普段と違った顔つきとなったため、ネーヴェはそれがおかしくて、くすりと笑んだ。

「押し花の栞を御神籤にするなんて素敵ですわね。何のお花が当たるでしょう」
 ネーヴェはキーゼを連れて、籤の受付に向かう。
 それぞれ引いた番号をアセビに照会して貰い、押し花を受け取った。

「ヒイラギ、ですか。分かるような分からないような、絶妙なところを攻めてくるのが、こういう籤のお告げの醍醐味ですよね」
「ふふ、そうですね。受け取り手の想像力が試されましょうか。私はユキワリソウでした」
 キーゼの手には、棘のついた葉と白い花を並べた栞が。
 ネーヴェの手には、紅紫色の花を押した栞が在った。

「キーゼさんのことですから、先見の明があるということでしょうか」
「どうでしょう。何か起こるので用心深くあれ、ということかもしれませんよ? 捉え方ひとつでよくも悪くも見て取れるのは、まるで社会の在り方そのままですね」
 ネーヴェがヒイラギの花言葉を思い出し、キーゼに伝える。
 その意味するところを、キーゼはあくまで多面的に捉えていた。

「私が引いた花は、色々あるようですが、そうですね――あなたを信じます、というのはどういうお告げでしょうね?」
「さて、自由に解釈されるといいのではないですか」
 ネーヴェは悪戯っぽくそんなことを聞いてみるが、キーゼは涼しい顔をして返した。

「折角なら交換しましょうか」
「ええ、是非」
 ここで行われたキーゼの提案をネーヴェが快諾し、二人の手の中にあった栞が取り交わされる。

「私は日記に使いますわ。そうしたら毎日、目に入りますもの。キーゼさんは?」
「使い道、ですか……おいおい考えますよ」
 そうして並び歩いたまま、ネーヴェとキーゼは神社を後にした。

●
「想いの供養、か」
 ローザリカ・L・ディオールは馬酔木の枝に結ばれた文を眺めて、ふむ、と考え込む。

「折角なら、何か結んでいこうか」
 隣に並ぶジュスト・ヴェルジーの手には、文を書き込むべき紙片が二人分。

「そうだな……」
 そのうち一枚を受け取ったローザリカが黙々と紙片に想いを乗せ始める。
 緊張で震えてしまう手が、ジュストには見えないようにして。

『ひどいことばかり言って、ごめんなさい』
 ローザリカが小さく文に記したのは、幼少期にジュストと喧嘩になってしまった後のこと。
 後先も考えず言葉を投げてしまったのも、幼さ故か。
 それは今思えば、ささいな意地の張り合いで。
 しかしずるずると機会を逃しては、謝るきっかけも見いだせず――。

『本当はずっとずっと。迷子になった時にまっすぐ前を向いて手を引いてくれたあの時から……』
 当時のローザリカが、これ以上の言葉を綴れずに手紙をクシャクシャにしてしまっていた、その続き。

『大好き』
 ローザリカは最後にそう書き添えると、文を馬酔木の枝に結び付けた。
 文を小さく書いたのは照れもある。
 しかし、それだけではない。
 その言葉は直接、伝えるべきだから。
 どうか勇気を出せますようにと、願いを込めて。

「……よし、決めたよ」
 一方のジュストも、文を結ぶローザリカの背を見て想いを固める。

『ごめん。本当は大好きだよ。結婚しても良いって思える男になるように頑張るから、もう少し待ってて』
 ジュストが文に綴るのもまた、ローザリカと同じ幼少期のこと。
 売り言葉に買い言葉で、大嫌いと言ってしまった後。
 本当は、謝りたかった。
 でも貴族なら軽率に謝罪するな、本音を晒すな、約束するなと言いつけられて。
 だから手紙ごと、その想いを捨てようとした。

(ただ拒絶されるのが怖くて、逃げ出しただけなんだけどね)
 ジュストは結んだ文に祈りを込める。
 逃げるのをやめた今年こそ、ちゃんと伝えられますように、と。

「君は何を書いたんだ?」
「内緒。ロゼだって教えてくれないんだろう?」
 ローザリカに問われ、ジュストは悪戯っぽく笑って答えをはぐらかす。

「まあな」
「ならおあいこだ」
 ローザリカとジュストは隣り合うように結ばれた二通の文に背を向け。
 籤の受付へと向かった。

「こちらなら俺も見せてもいいよ。ロゼはなんだった?」
 ジュストはそう言って、自らの引き当てた栞を見せる。
 それは、薄く黄色に色づいたモッコウバラの押し花であった。

「僕のはこれだな」
 ローザリカの栞を見れば、白のヒナギクが。

「ロゼはこの花に何を見る?」
「さてね」
 ジュストとローザリカは、それぞれの想いを胸に神社を後にした。
 己があなたにふさわしい人、であればよい。
 そして、あなたが同じ気持ちであればよい、と――。

マスターコメント

 お疲れ様でした。空色みなもです。  このたびは当シナリオにご参加頂き、誠にありがとうございました!  栞を持ち帰られた方は、対応する称号をお配りしております。  どんな花が当たるかは解説で触れました通り判定項目となっておりましたので、その点につきましては悪しからずご了承ください。  また皆さんにシナリオ参加して頂けるのを心よりお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
イベントシナリオ(50人)

イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:標準14 / 4〜50人

2022年05月06日 17時09分55秒 公開

大成功

相談掲示板

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0