【学騒】政治討論部と正式部活への道
紀藤トキ
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シナリオID:2075
オープニング
「我々も五年次だ。そろそろこの部活を今後どうするか、考える必要がある」
「今後……、と言っても。発起人であるトマス様がいなくなれば解散するのでは」
腹心のタイコモが当然のことを言う。政治討論部は部と称してはいるが、その実態は正式な部活と言う訳でもない。せいぜい学園に認知された同好会といった辺りだ。というのも、学園で正規の部活となる場合のハードルは結構高い。
「有力者の後援、というのはまあ、伯爵家でも何とか務まろう。部員諸氏の実家の立ち位置が許すなら、名を借りる手もある。パトロンについても、同様だな」
「……ダンテ家は普通の伯爵家よりは存在感がありますしね」
貴族裁判に関わる家柄故、ダンテ家は家格の割には知られた家ではある。汚職なりお家騒動なり相続問題なりで王家の手を煩わせてしまえば、王家の密偵や王国騎士と共にダンテ家などの法衣貴族が調査と執行にあたるのだ。ダンテ家は重罪の審理に関わる事も多く、毒杯を与える側であったことも多々ある。
「しかし、もう一つの問題はどうされるので?」
ちらりとタイコモが視線を向けた先、彼同様にトマスの腹心であるシオンとカナンがぐったり机に突っ伏している姿があった。五年次進級試験で補習とレポート提出を命じられた落第ギリギリの生徒がそこにいる。パンクリアース学園の正式な部活動では、部員は成績優秀者でなくてはならないという規定があった。
「……今からあの2人を成績上位四分の一に叩きあげるのは、無理だろうな」
「死にますよ、知恵熱で」
「うにゅるるるぁー」
笑っていない目でそう言うシオンに、言葉にならぬカナンの悲鳴が被さる。それに、現在部員として受け入れている学生達も、成績を調査したわけではない。全員がそのまま部員に留まれるかどうか、と言う疑問はあった。
「しかし、だ。聴講生であれば部員にはなれる、と言う時点であの条項には意味がないと思うのだが」
「聴講生と言う制度自体、やっつけで作られたところでしょうしね。その聴講生が学生になった途端に自由が無くなるのでは、何のための制度かという疑問も出ますか」
「一部の部活動は、上位貴族が『学業を優秀にこなしながら余技も疎かにせぬ』という所属学生の箔付の為にやっているような所はある。しかし、広く門戸を広げる以上はそうでない部活があっても良いのではないか」
「なるほど……」
つまり、政治討論部を正規の部活にすることそのものが目的と言うよりは、部活の承認を容易になしうるような制度改善を目論んでいるのだとタイコモは理解した。現行の生徒会であれば申請を握りつぶしはするまいし、学園執行部まで届けば一考されはするだろう。
「まあ、現状の部員と、協力してくれている諸兄の意見次第ではある。次回はこれを私からの議題にするとしようか」
「トマス様も、物好きになられましたね。得も無い事に随分肩入れされる」
「そうかもしれないな。私にとって、この部活は中々面白い場所だった。ここが無ければ、得られなかった知己もある」
まあ、実態はあってなきがごとしのお茶会のような部活である。もしも正式化されずとも、彼らが学生としてある間にはどうこうなることはあるまい。
「勉強の合間に、準備はしておきますね……」
「うゆぬるにゅ……」
「無理はせずとも、誰か出来そうなものがいるかもしれん。学生は勉学が本分故、疎かにはしないようにな」
苦笑しつつ、トマスはシオンとカナンへそう釘を刺した。
「今後……、と言っても。発起人であるトマス様がいなくなれば解散するのでは」
腹心のタイコモが当然のことを言う。政治討論部は部と称してはいるが、その実態は正式な部活と言う訳でもない。せいぜい学園に認知された同好会といった辺りだ。というのも、学園で正規の部活となる場合のハードルは結構高い。
「有力者の後援、というのはまあ、伯爵家でも何とか務まろう。部員諸氏の実家の立ち位置が許すなら、名を借りる手もある。パトロンについても、同様だな」
「……ダンテ家は普通の伯爵家よりは存在感がありますしね」
貴族裁判に関わる家柄故、ダンテ家は家格の割には知られた家ではある。汚職なりお家騒動なり相続問題なりで王家の手を煩わせてしまえば、王家の密偵や王国騎士と共にダンテ家などの法衣貴族が調査と執行にあたるのだ。ダンテ家は重罪の審理に関わる事も多く、毒杯を与える側であったことも多々ある。
「しかし、もう一つの問題はどうされるので?」
ちらりとタイコモが視線を向けた先、彼同様にトマスの腹心であるシオンとカナンがぐったり机に突っ伏している姿があった。五年次進級試験で補習とレポート提出を命じられた落第ギリギリの生徒がそこにいる。パンクリアース学園の正式な部活動では、部員は成績優秀者でなくてはならないという規定があった。
「……今からあの2人を成績上位四分の一に叩きあげるのは、無理だろうな」
「死にますよ、知恵熱で」
「うにゅるるるぁー」
笑っていない目でそう言うシオンに、言葉にならぬカナンの悲鳴が被さる。それに、現在部員として受け入れている学生達も、成績を調査したわけではない。全員がそのまま部員に留まれるかどうか、と言う疑問はあった。
「しかし、だ。聴講生であれば部員にはなれる、と言う時点であの条項には意味がないと思うのだが」
「聴講生と言う制度自体、やっつけで作られたところでしょうしね。その聴講生が学生になった途端に自由が無くなるのでは、何のための制度かという疑問も出ますか」
「一部の部活動は、上位貴族が『学業を優秀にこなしながら余技も疎かにせぬ』という所属学生の箔付の為にやっているような所はある。しかし、広く門戸を広げる以上はそうでない部活があっても良いのではないか」
「なるほど……」
つまり、政治討論部を正規の部活にすることそのものが目的と言うよりは、部活の承認を容易になしうるような制度改善を目論んでいるのだとタイコモは理解した。現行の生徒会であれば申請を握りつぶしはするまいし、学園執行部まで届けば一考されはするだろう。
「まあ、現状の部員と、協力してくれている諸兄の意見次第ではある。次回はこれを私からの議題にするとしようか」
「トマス様も、物好きになられましたね。得も無い事に随分肩入れされる」
「そうかもしれないな。私にとって、この部活は中々面白い場所だった。ここが無ければ、得られなかった知己もある」
まあ、実態はあってなきがごとしのお茶会のような部活である。もしも正式化されずとも、彼らが学生としてある間にはどうこうなることはあるまい。
「勉強の合間に、準備はしておきますね……」
「うゆぬるにゅ……」
「無理はせずとも、誰か出来そうなものがいるかもしれん。学生は勉学が本分故、疎かにはしないようにな」
苦笑しつつ、トマスはシオンとカナンへそう釘を刺した。
解説
政治討論部は学園のルール的には正式の部活では無かった!
落第ギリギリが二名も創設時の部員にいて、片方が副部長ですからね……。
■設立条件と入部条件
クラブ設立には、最低限、代表在校生1名を含む合計3名以上の部員登録が必要となります。 入部条件には、代表在校生の承認を受けた上で、学業成績が全体の4分の1以上であることが求められます。 聴講生の場合、部員の人数に含むことは許可されていますが、あくまで平部員扱いです。
(ワールドガイドより)
というわけで、部活動の自由化を求めて議論をしてみようとトマスは思い立ったようです。
後援とパトロン、自由化についての説得力が強いと正式部活になれるかもしれません。
なれなくても今後のシナリオは出ます。
なお、政治討論部は分からない事を持ち寄ると分かる人が解説してくれる場所でもあります。
それ以外の質問やら疑問やらを持ち込んだ場合、有識者がいればその人が答えてくれるでしょう。
誰もいない場合はトマスが分かる範囲でお応えします。
トマスが強い守備範囲は多分王国周りの政治で、タイコモが経済系もある程度抑えています。
普段はお茶やお菓子の準備を主にシオンとカナンがしておりますが、今回は多忙なようです。
お手伝いは普段以上に喜ばれる事でしょう。
※注意書き
政治討論部の入部希望者はプレイングでその旨をお書き下されば、称号を付与いたします。
入部は聴講生でも、初参加の方でも大丈夫です。
●政治討論部って何するとこ?
名前は政治討論ですが政治に限らず、いろいろ質問したり回答したり意見を募ったりできるような場所です。
今回もそんな感じですが、基本的に部室で喋ってるだけみたいなシナリオが多いです。
関連NPCにトマス(部長)やリヴァマス(顧問)が良くついてきます。
もっと詳しくという方は少し前のシナリオ「政治討論部の新年へ向けて」に質疑がありますので宜しければご確認くださいませ。
●トマス・ダンテ周辺NPC
タイコモ・チー
酷い名前だがトマスの懐刀で同学年同い年。子爵子息。ヒーラー。学業実技とも良い。
シオン、カナン
トマスの子飼いで同学年同い年。孤児院出。ウォーリア、シーフ。実技優秀。シオンは討論部副部長。
サラ・ドルトン(15)
男爵令嬢。己を磨く系意識高め女子。テオドールと婚約中
テオドール・ディンドルフ(テオ)(28)
討論部副顧問。筋金入りのハフビ大好きなくせに貴族の子。五男。学園派にも公平に当たる。サラと婚約中
マスターより
学園で騒動が起きたりしているようですが、政治討論部は平常運転です。
ドゥジン関係に間に合わなかったので、真面目な話を出します。多分真面目です。
細かい規定を見落としていたので辻褄合わせの為に学内改革のシナリオを出す私のうっかりも平常運転でした。
そこのページだけ、私が書いたんじゃないんです……。と遠くに言い訳しつつ、今年も元気に生きています。
皆様の楽しいプレイングをお待ちしております。
リプレイ
「……という訳で部活と言っても非公認なのが、現在の政治討論部の状況だ。これについて、意見を求めたい」
「ご迷惑をおかけいたします」
部長のトマスが説明を終えると、隅で勉強に勤しんでいたシオンが頭を下げる。カナンの方は、机に突っ伏したまま拝むように手を合わせていた。
「……この部、正式な部活じゃなかったのね。まあ、臨時の部活だったみたいだしね……」
「正式な部活になると何が変わるんでございますか? お金が貰えたりするのでございましょうか」
ルベア・ベルニの呟きに、ハリーヌ・ヨツユビが根本的な疑問を呈する。多少の部費は確かにつくが、もとより貴族子弟は私費で身の回りを整えることは良くある。この政治討論部に関していえば、そこは大した差にはならないとトマスは答えた。
「いま使っている教室の貸与申請、さらには学園外での活動申請など、学園に届けを出す際の信用に関わる部分がもっとも大きいかもしれない。まあ、私が在学中は私の名前である程度は通るだろうが……」
「トマス様やわたし達、今の五年生が卒業したら、このような活動はなくなってしまうかもしれないのですね?」
「そういう事だな」
確認したゲルダ・クライン自身にとっては、影響はないとは言える。しかし、今後の開かれていく学園を考えるに、この場所が必要な人はこれから増えていくだろうとも思った。
「……つまり部活には承認が必要ってコトか」
そうナキルが言うも、現状の規定では学園の部活は簡単に承認されるものではない。先ほど頭を下げていたシオンやカナンのような成績上位で無い者は、部活動に従事できないというのが現在の学園のルールである。
(正式部活となるとシオン様やカナン様が参加できなくなるのですよね……)
優秀な成績をあげているゲルダにはこれも影響はないのだが、自分だけ良ければ良いと考えるような少女ではなく、2人に向ける視線は同情的だ。ちなみに他の部員はといえば、難関の編入試験を潜り抜けてきたナキルや海神・江流、ハリーヌも少なくとも現時点での成績に不安は無いだろう。そして、他の部員はといえば。
「でも、その『部員は成績優秀者でなくてはならない』って規定、ボクらみたいな聴講生は構わないって言う時点で形骸化してはいるよね?」
「ですが、守るべき規則と得られる自由は不可分です。聴講生であれば不問でも学生には課されるルールというものが、一定のラインで示される点は理解できます……」
エルゼリオ・レイノーラが言うように聴講生の面々にとっては気にならない規定ではあった。しかし、学生と言う身分を保証されるなら、コルネリウス・アーラのルールは守るべきと言う事も一理ある。もっとも、成績が悪いと不可という線引きがいささか厳しすぎるとは彼女も思っていた。そして、ナキルにとってはそんな規約がある事が初耳ですらある。
「……学業成績の全体の四分の一って、学年毎だよな?」
ナキルも暗記には自信があるが、さすがに上級生と混ぜてになれば、上位に食い込むのは難しいかもしれない。編入試験は詰め込みと一夜漬けでクリアしたものの、応用まで考えれば積み重ねた年月は無視できまい。しかし、それを制限では無く箔付として海神・江流は考えた。
「気になったんだが、入部条件の成績上位に含まれるかどうか、というのは何処かで聞けば教えて貰えるって事なんだろうか?」
学園内での客観的な評価が分かるのであれば、それは知りたいと江流は思う。
「うむ。吾輩も部活の顧問などするのは初めて故な。先だって聞いてきたのだが、具体的な順位を教えて貰えるわけではなさそうじゃよ」
リヴァマス老人によれば、希望者の名前を顧問が学園側に提出すると、可か不可の返答が戻ってくる程度のものらしい。テストの点数まで張り出す教科もある一方、会議で評価を定めているような教科もあるが故に詳細をつまびらかにはできないのだろう。
「なるほどね。そういう事ならば、俺は正攻法として正規の部員に数えられるよう、勉学に励んでいきたいとは思うのだけど」
個々人の努力取り組みでどうにかなるものなのだろうか、と江流は首をひねる。一昨年までなら、他国の平民である彼が優秀者と評価される道はなかったはずだ。それを言えば、そもそも編入すら不可能だっただろう。学園改革の結果、少しでも門戸が開かれたのならば、リーンエス王国内で認められるような実績を積みたいという意志はひと際強い。
「難しいのは、分かっているけどね」
「そうだな。王国貴族の子弟である私に言われるのも業腹かもしれないが、君の目指す道は困難だろう」
トマスも渋い顔をしていた。貴族内で敬遠されるダンテ家のトマスや異種族であるゲルダが、上位評価を受けていた辺り、学園の評価軸も忖度が全てではない。しかし、彼らは王家に信を置かれた由緒ある伯爵家の嫡男と、王国内で有数の商家の令嬢でもある。何の後ろ盾もない江流が同じ評価を受けるのは、困難であろうとも思った。
「なるほどのう。自分を知る為に、部活許可の申請を利用するというのは面白いかもしれん。皆がそうやって立ち位置を気にするようになれば、成績の操作などは難しかろうなあ」
リヴァマス老は楽しそうに話していたが、その仕組みにはいささか困ったような顔をする者もいる。
(評価者受けまで考えると僕は上位に入れないかもしれないな。……従弟殿はどうだろうね)
ローザリカ・L・ディオールとジュスト・ヴェルジーはチラチラと互いを値踏みする視線を交わしていた。少なくともかつての学園内の成績評価は、特に貴族子弟であれば試験結果だけでは決まっていなかっただろう。その時代も含めた5年間の累積で評価されるのだとしたら、悪目立ちしていた自分が上位に届かぬ理由は幾つも思いついた。一方のジュストには、全力を尽くして頑張るような殊勝な学生では無かった自覚がある。
(これまで次男らしく目立たぬ程度にこなして来たけれど。これで、俺が駄目でロゼが成績上位だったらカッコ悪くない?)
心を交わして気持ちを伝えあったとはいえそれはそれ、これはこれ。幼い頃からの関係性は変わらない。端的に言えば、諸事情鑑みて自分が上位評価に含まれないのはまだ許せるが、相手と差がついてしまうのはいささか気になる。
「学業は本分ですから、成績の事は皆さま気になるところでございましょう」
「確かに、今となっては懐かしくもあるけれどね」
手ずから紅茶の用意をしているレティシア・レインフィールと、悩める後輩たちを微笑まし気に見やるシルヴィア・A・カペル。OGのレティシアと、とうに卒業していておかしくないシルヴィアにとっては過ぎ去りし日々の思い出であった。
「私も手伝うわ。購買でお菓子を買い足して来ようかしら」
「猫の手ならぬハリネズミの手でございますが、ワタクシでも荷物持ち位にはなるでございましょうか」
「ありがとうございます。チョコレートを用意してきましたから、焼き菓子などありましたら是非」
「話をすれば喉が渇くからな。俺はシャルガネ土産の煎茶を振舞おうか」
率先して席を立つルベアとハリーヌにレティシアが礼を言い、江流も厨房へ足を向ける。普段ならばお茶係のシオンとカナンは、タイコモの監視の下で勉学に専念していた。本当に専念するならば部活にも出ずに自室で励めば良いのだろうが、せめて話だけでも聞いていたかったらしい。
「お勉強を頑張っていらっしゃるシオン様とカナン様には一つ多めに差し上げますね」
「ありがとうございます……」
「優しさが身に染みる。タイコモは鬼」
そっとチョコを置いたレティシアに、地獄に仏と手を合わせる2人。良い紅茶と珍しい煎茶とお茶菓子とが、各テーブルに行き渡って一同はほっと一息ついた。
●
「さて、この部活を残すだけならば、愛好会にする手もあるだろうが。それは検討するのかい?」
正式に部活にする流れが既定路線化する前に、念のためとローザリカが議論へ一石を投じる。
「政治討論部を通して学んだ事も多く、私が生徒会役員になろうと考えたきっかけでもあります。できれば正式な部活としてこれからも活動してほしいですね」
背筋を正してコルネリウス・アーラが語った言葉へ、幾人かが我が意を得たりと頷いた。少なくとも、首を振る者はいないようだ。
「……と、言うからには、私も部員であるべきと思います。当事者として、意見を言いたいですから」
「あるべき、と言う程堅く言うような部では無いのだが。ともあれ、歓迎しよう」
飛び入りのコルネリウスの入部希望へ、トマスが頷き返す。ローザリカは場の空気を確認するように、一つ頷いてから話を続けた。
「結構。派閥関係なく意見交換できる場は貴重だし、知己やら知見やらを得る場として僕もこの部には世話になっているからね。その方向性に異論は無いよ」
これまでの会話を聞くに正式に部活としたいのが皆の総意と予測していたが、ローザリカとしては勢いで天秤の片側に寄り過ぎる懸念については一言表明しておきたかったのだろう。方針がそうと決まれば、方法の話になる。
「部活ってするなら、パトロンは多い方がいいんだよね? ダンテ伯爵家やディンドルフ侯爵家、部員の貴族子弟から後援を募ってみるのが手堅いんじゃないかなー?」
エルゼリオがそう言ってから、そう言えば自分も男爵家になったのだったと思い出す。とはいえ、新参の男爵が出しゃばってよい物かどうか、他を立てた方が良いかもしれないのかと首を傾げた。
「吾輩の家は今どういう扱いなんじゃろうな? まあ、収入はないから役には立たんか」
「いやあ、うちは無理だろう。私は家を出て久しいからな……」
「新参の男爵家に過分な期待はなさらないで下さいませ」
正副顧問が頼りなさげな事を言い、サラも難しい顔をする。この場にいない者を除けば、あとはジュストのヴェルジー伯爵家、ローザリカのディオール伯爵家が候補であった。
「後援につくだけなら、伯爵家でも存在感があり、尚且つ中立のダンテ家で十分な気はするよ。ただ、負担やリスクの分散を考えるなら確かに複数連名というのもありだね」
派閥が偏らない方が良いというところまで考えるなら、王党派とはいえ中立よりのヴェルジー家は選択肢としては良い、とジュストは言う。ローザリカは、希望を言えば通るかもしれないがあまり実家に、というか兄に物申したくはない、という所も考えて保留のようだ。
「そういえば貴族の後援ってのが必要なのか?」
「ナキルは何か部活動を興すつもりなのか?」
独り言を耳にして、トマスが水を向ける。どうやら仲間を集めて、『多文化交友部』という活動を始めようという所らしいナキルにとって、政治討論部の直面している状況は他人事ではないようだ。しかし、異種族であるナキルにはそれとは違うハードルもある。そんな話を耳にして、ハーフビーストであるルベアが首を傾げた。
「そもそも、学園改革で異種族の扱いは何か変わっているの? 貴族のゴタゴタは幾らか、冒険者も絡んで騒動になっていたけど」
この相談に同席しているのは、トマス一派を含めて王国貴族関係者が9名。平民でハーフリングとはいえ豪商の娘のゲルダも、王国内での足場はしっかりしている。対して、異種族となるコルネリウス、ナキル、ハリーヌとルベア、それにヒューマンではあれど他国民の江流が見ている景色は少し違うかもしれない。
「そういえば、エルフの外見だけ見て礼賛する人達が現れていたようですね……」
コルネリウスが一部学生の暴走を念頭にそう言う。ハーフビーストのルベアとハリーヌにも思う所があるようだ。
「確かに、愛玩動物か何かのように見てくる人はいるわね」
「ワタクシも、珍しいものを見るような目でじろじろ見られる事もございますね」
珍獣扱いはともかく、ハリネズミはハフビの中でもかなり珍しいためハリーヌ自身は奇異の目もそこまで気にしてはいないようだ。しかし、見るだけならともかく、断りもなく尻尾や耳を触りに来るかつての副顧問のような人間もいなくはない。
「そうですね。背が低い事で、ヒューマンに合わせた作りに困る事はあります、けど……」
「子ども扱いされる時はあるな。でもそれは学園に限らないぜ? あ、いや。限らないですね」
ゲルダの言葉にナキルが相槌を打ってから、とってつけたように丁寧口調に変えた。部活内では好きに喋ってよいのだが、ナキル的には礼法の練習期間であるらしい。エルフもハーフビーストもハーフリングも、見た目の部分で居心地の悪さを感じる事はままあるようだ。
「ロスガリアには、パンクリアース学園以外の学校はないの? 帝国とか、あとヴェルクリエにも凄い学校がありそう!」
他の場所であれば、王国とは違った空気があるかもしれないとエルゼリオが興味を向けるが、トマスは首を振った。
「それが、ヴェルクリエには民が広く学べる場は無いのだ。帝国にもおそらくここと同等の場は存在しない」
あるいはトマスが知らないだけでどこかに秘密の教育機関があるかもしれないが、少なくとも開かれた学びの場は他国にはないらしい。まあ、ヴェルクリエの学者たちは、人に教えるより自分が研究する方を優先しそうではある。帝国でもパンクリアース学園のような場所があると聞いた事は無かった。
「とすると、学園同士の交流みたいなのはできないのかー。ちょっと残念」
エルゼリオはがっかりしたように言う。この分野に関していえば、他国に比べてリーンエス王国、……というよりはリーンエス王家が、だいぶ先進的だったのだろう。
「帝国に学園みたいな場所があれば、異種族だからって変な目で見られる事も無かったかもしれないわね」
と考えてみたものの、自己評価の低いルベアからすれば、実力主義の帝国はそれはそれで居心地が悪かったかもしれない。亡国の民であるハーフビーストだけでなく、ハーフリングも母国と言うものが存在しない。エルフやドワーフ、この場にはいないゴブリンやリザードマンとは異種族という言葉の重みがまた違っている。
「そう考えると、正式な部活になるのは賛成かな。新興の部活だからこそ、それこそ異種族でも平民でも新入生は入りやすいだろうしね」
ルベアが言うように、貴族とそれ以外が並んで喋っている図は、伝統ある部活ではなかなかみられない物ではあろう。この部活が正式に認められれば、それが呼び水となって貴族以外も参入しやすい集いを認める流れができるかもしれない。後の事も考えて、ルベアはそう後押しした。一方、後の未来では無く、今まさに壁にぶち当たっているナキルは先ほどから唸っている。
「オレが部長で承認を通すには、まだまだ全体の空気が邪魔しそうだなァ……。いや、邪魔しそうですね。貴族の後援というのもオレには難しそうですし……」
「ふむ。手立てとしては、少し前のエルゼリオの発言が参考になるやもしれないな」
「え。ボクの?」
ナキルの悩みを聞いたトマスが自分の名前を口にした事に、エルゼリオが目をぱちぱちさせた。当人が平民で難しくとも、貴族の関係者を顧問なり部員なりに迎え入れる事が出来れば、後援のあてにはなろう。顧問であれば、数年で卒業してしまう事がないのもその意味ではメリットと言える。
「私もジュストも五年次だ。卒業後もこの部活を支援する事はやぶさかではないが、後輩にとって頼れる先が身近にあるに越した事は無い。顧問にも名前は貸していただきたい所だが?」
「吾輩は異存はないが」
「まあ、名前だけなら家には黙って書いておくよ」
リヴァマス家には思う所のあるだろうトマスにそう言われ、老人は肩を竦めて頷き、副顧問も仕方がないと苦笑した。ひとまずこれで名前の並びに箔はついたとして、もう一つの難題が部員の成績問題である。
●
「条件を撤廃……というのは、現在の部活の立ち位置から考えて、難しいと思います」
ゲルダの言に、一流どころの部活とも縁がある面々が考え込む。江流の想い人をはじめ、その座に存る為に並々ならぬ努力を払っている貴族子弟が存在する事は間違いない。彼らの努力を無にする方向の改革は、悪平等になりかねないだろう。
「現在の部活は公認部活として残し、それ以外の集まりも部活として認めるような制度があればいいな、と」
「そうですね。これまでの制度を箔付として利用されていた方がいたのでしたら、完全な廃止は反発を招くかもしれませんね」
レティシアも幾人かの高位貴族の子弟を念頭に、そう述べた。貴族にとっては名誉が重要であり、不用意にそこを侵せば争いを生みかねない。その名誉を保持する為に、彼ら自身の力だけではなく、家の権勢による威圧、学園への援助による忖度など様々な努力が費やされている。
「つまり、現在存在する部活はそのままに、新規の部活は制限を軽くすべき、と言う事かな?」
トマスの確認に、ゲルダとレティシアはコクリと頷いた。まるで示し合わせたかのように、2人は揃って口を開く。
「……今ある皆様は『公認部活』として。新しい部活の名称としては、『非公認部活』で良いでしょうか?」
「成績上位者の多い部活を『優良部活』として優遇するのは如何でしょう?」
内容は別に示し合わされていなかった。そして、ゲルダのネーミングセンスは中々の破壊力だ。想像してみよう。クライン商会公認の店の横に、非公認と書かれた商店が並んでいる様を。想像の中の『非公認』商会の店員は実に居心地が悪そうだった。
「……あの、わたしの発言はなかったことに」
「ああ、うむ。そうだな。優良部活という名称は、彼らの自尊心も満たすだろうし、良いかもしれない」
そして、トマスの気配りはわざとらしすぎて下手だった。ジュストが気まずい空気を払うように咳ばらいを一つ。
「ともあれ、クラブの設立条件を緩和するのは、幅広く生徒を受け入れることにした学園の指針に適うものだ。制度改善を訴えれば叶う見込みはあるんじゃないかな」
どうだろうか、と言うように水を向け、ジュストは如才なく話の流れを新規の部活申請条件の方へと戻していく。
「部活動の設立を自由にすることで、増えた部活の後援につく者も、これまでに無かった顔ぶれが増えるはずだ。ひいては学園の収入源が増える……という理屈はどうだろう」
「もともと王家の懐だけでは運営できなかった事が、学園の推薦が貴族派閥の利権化される切っ掛けだった。学園自体の収入が増加する事は歓迎されるだろう」
唇に指をあてたローザリカがジュストの話を受け、学園側の利益もあればよいと理屈をこねた。どのように収入にするのか、といったところまではトマスには分からないが、学園の経営が健全化する事は、フォルトゥナ学長らも歓迎するはずだと思う。実際に提案を取りまとめて、学園側にもっていく手筈についてはこの場には頼もしい顔ぶれもいた。
「提案については、私は生徒会役員の提案の権利を行使するつもりだよ」
「私も、出た意見は役員としてお預かりしますし、申請は必ず届けます」
「そうか。学園側に要望が届くのが確実なだけでもありがたい」
シルヴィアとコルネリウスの宣言に、トマスが礼を述べた。なにせ、要望の元となる理由が手の者の成績不備とあっては、以前であれば他派閥に借りを作る事が必至であった。相手次第では交渉にすらならない可能性もあっただろう。しかし、実際にどのような内容で提言するのかとなるとまだまだ議論が必要だ。
「部活動は様々な方との交流の切っ掛けとなりますし、私も承認容易化に賛成致します、ただ、それを悪用される事は考えておられますか?」
「そうだね。設立条件全てを撤廃すると好き勝手にクラブが増えてしまいそうだ」
レティシアの念頭にあったのは、部費を使う事が目当てのクラブが横行する件。あるいは子供に甘い実家が後援について、遊興費を湯水のごとく垂れ流すような部活が承認されても学業に触りがあろう。シルヴィアはそこまで具体的な悪意を考えていなかったが、単に部活が増え過ぎる弊害は念頭にあった。
「確かに、今でさえ第一、第二のように複数存在するクラブもある。申請すればするだけ部活が出来ては面倒になるか……」
トマスが考え込む。『実家と違う派閥の部長の下につきたくない』とかの貴族子弟にありがちな理由で部活をポコポコ作られては、せっかくの緩和も学園改革の流れに逆行する物となろう。
「それについては、『代表在校生1名を含む合計3名以上』の条件をそのまま残すのはどうでしょうか」
「そこは変えず、学業成績は求めないという事だね。それには私も賛成だよ。ただ、学業を放棄するというのも問題だ」
コルネリウスとシルヴィアは、とりあえず人数を3名集めるというハードルについては残すことを提案した。そのうえで、シルヴィアは学問を部員となる条件ではなく部の存続の条件としてはどうかと言う。
「それはどう違うのだろう?」
「うん? つまり、部活で学業の後押しをすればいい。テストの二週間、あるいは一週間前から休止して勉強に専念するとか、勉強会や交流会などを開催するのも良いね」
「なるほど。そういう事か」
説明されればトマスにも内容の想像がついた。
「そう言った優良な部活には部費を加算する、というのはどうかな。無論、顧問の監督下で、ズルはできないようにしてね」
「……部活動としての活動の監督も必要かと思います。活動日誌の提出義務や定期監査を課してはいかがでしょうか」
加点する側の意見をシルヴィアが述べると、部の設立の悪用に対する防止策を考えていたレティシアが制限側の提起を行う。
「ふむ。活動報告などを義務化すれば、名ばかりの部活動の乱立を淘汰する事は出来そうだな」
頷くトマスの発言を聞いたジュストが、別の角度からまた一石を投じた。
「先のナキル君の話。冒険者や庶民だけの部活というのは後援者がいない分活動に支障がでる恐れがあるのは気になるんだよね。きちんと管理評価して、見合う支援があればやりやすくなるんじゃないかな?」
女性二人が言うように成績優秀な学生を学園側からの支援の目安にすれば、部活動と学業との両立も果たせるのでは、というジュスト。対して、エルゼリオが楽し気に言葉を足した。
「じゃあ、部員には一定期間毎にレポート提出を義務付けるとかはどうだろう? 後は弁論大会みたいなのを開催して参加するとか? 何かしら成果を出したら、御褒美があると楽しいんじゃないかな」
「成績上位者の多い部活への優遇措置は、あるとよろしいかもしれません。限度は必要でしょうけれど……。部費の増額や部室の場所などであれば良いでしょうか?」
まだ提案ベースでしかない話でも、横で聞いていた夢多き一年生はやる気をみせている。
「成果に見合った評価って奴か。オレが部活を立ち上げるなら、学年一位くらいは目指さないとか……?」
「なるほど、ワタクシでも成績を上げれば部活の皆様に引っ張りだこ、高値で売れると言う事でございますね?」
などと同学年の面々に睨まれそうな事をナキルが呟く横で、ハリーヌが目を輝かせている。先の発言からすれば、江流も上を目指すつもりは強く、この場の一年生ではガツガツしていないコルネリウスの方が少数派らしい。まあ、難関の編入試験を潜り抜けてきた面々ならば、貪欲なのも頼もしいのかもしれないが。
「……学業は勿論大切ですが、部活動は己を磨き、交流し、楽しむ場所であれば良いと私は思っています」
「優遇措置を目当てに、優秀な学生が入部を強制されるようでは本末転倒ですしね……」
コルネリウスが憂い顔で言い、レティシアも眉根を寄せる。あくまで部活動の後押しの筈が、行き過ぎれば過当競争になりかねない。優遇措置に言及したレティシアも、悪意への対策も考える必要はあると思った。
「まあ、行き過ぎた際の歯止めの部分まで我々で考えずとも構うまい。提言としては十分な内容になったのではなかろうか」
トマスがそう締め、書記役のゲルダがここまでの提案や討論の内容をまとめていく。それを見ていたローザリカが芝居がかった口調で一同へ言葉を掛ける。
「発起人の彼に、部活動の仕組みを改革したという華をプレゼントするのも粋なのでは?」
普通の貴族令嬢よりもローザリカは肩ひじ張った生き方をしてきた。誰かを頼って案を出し合えるような場と空気は、彼女にとって意外と居心地が良かったようだ。
「政治討論部の活動に参加することは楽しいよ。この場を作ってくれてありがとう」
シルヴィアもトマスへそう笑いかける。学園の部活と言えばもう少し色々な意味で引き締まっている所が多くはあった。政治的意味で火花散る場や、自他の研鑽の為に気のゆるみも許されぬ場、己の信仰を試される場など、確かに思い当たるところではある。
「まあ、提案が通るかどうかは分からないが……。では、この政治討論部の部長として、皆の意見を預からせてもらおう」
いささか照れくさい様子で、トマスはゲルダから議事録を受け取った。内容に目を通してサインを入れる。提案書としての表書きは、シオンとカナンの勉強を見る合間にできる男のタイコモが書いていたらしい。かくして、設立から一年程にして、政治討論部は議論の中身を学園あてに提案する事となったのである。
「ご迷惑をおかけいたします」
部長のトマスが説明を終えると、隅で勉強に勤しんでいたシオンが頭を下げる。カナンの方は、机に突っ伏したまま拝むように手を合わせていた。
「……この部、正式な部活じゃなかったのね。まあ、臨時の部活だったみたいだしね……」
「正式な部活になると何が変わるんでございますか? お金が貰えたりするのでございましょうか」
ルベア・ベルニの呟きに、ハリーヌ・ヨツユビが根本的な疑問を呈する。多少の部費は確かにつくが、もとより貴族子弟は私費で身の回りを整えることは良くある。この政治討論部に関していえば、そこは大した差にはならないとトマスは答えた。
「いま使っている教室の貸与申請、さらには学園外での活動申請など、学園に届けを出す際の信用に関わる部分がもっとも大きいかもしれない。まあ、私が在学中は私の名前である程度は通るだろうが……」
「トマス様やわたし達、今の五年生が卒業したら、このような活動はなくなってしまうかもしれないのですね?」
「そういう事だな」
確認したゲルダ・クライン自身にとっては、影響はないとは言える。しかし、今後の開かれていく学園を考えるに、この場所が必要な人はこれから増えていくだろうとも思った。
「……つまり部活には承認が必要ってコトか」
そうナキルが言うも、現状の規定では学園の部活は簡単に承認されるものではない。先ほど頭を下げていたシオンやカナンのような成績上位で無い者は、部活動に従事できないというのが現在の学園のルールである。
(正式部活となるとシオン様やカナン様が参加できなくなるのですよね……)
優秀な成績をあげているゲルダにはこれも影響はないのだが、自分だけ良ければ良いと考えるような少女ではなく、2人に向ける視線は同情的だ。ちなみに他の部員はといえば、難関の編入試験を潜り抜けてきたナキルや海神・江流、ハリーヌも少なくとも現時点での成績に不安は無いだろう。そして、他の部員はといえば。
「でも、その『部員は成績優秀者でなくてはならない』って規定、ボクらみたいな聴講生は構わないって言う時点で形骸化してはいるよね?」
「ですが、守るべき規則と得られる自由は不可分です。聴講生であれば不問でも学生には課されるルールというものが、一定のラインで示される点は理解できます……」
エルゼリオ・レイノーラが言うように聴講生の面々にとっては気にならない規定ではあった。しかし、学生と言う身分を保証されるなら、コルネリウス・アーラのルールは守るべきと言う事も一理ある。もっとも、成績が悪いと不可という線引きがいささか厳しすぎるとは彼女も思っていた。そして、ナキルにとってはそんな規約がある事が初耳ですらある。
「……学業成績の全体の四分の一って、学年毎だよな?」
ナキルも暗記には自信があるが、さすがに上級生と混ぜてになれば、上位に食い込むのは難しいかもしれない。編入試験は詰め込みと一夜漬けでクリアしたものの、応用まで考えれば積み重ねた年月は無視できまい。しかし、それを制限では無く箔付として海神・江流は考えた。
「気になったんだが、入部条件の成績上位に含まれるかどうか、というのは何処かで聞けば教えて貰えるって事なんだろうか?」
学園内での客観的な評価が分かるのであれば、それは知りたいと江流は思う。
「うむ。吾輩も部活の顧問などするのは初めて故な。先だって聞いてきたのだが、具体的な順位を教えて貰えるわけではなさそうじゃよ」
リヴァマス老人によれば、希望者の名前を顧問が学園側に提出すると、可か不可の返答が戻ってくる程度のものらしい。テストの点数まで張り出す教科もある一方、会議で評価を定めているような教科もあるが故に詳細をつまびらかにはできないのだろう。
「なるほどね。そういう事ならば、俺は正攻法として正規の部員に数えられるよう、勉学に励んでいきたいとは思うのだけど」
個々人の努力取り組みでどうにかなるものなのだろうか、と江流は首をひねる。一昨年までなら、他国の平民である彼が優秀者と評価される道はなかったはずだ。それを言えば、そもそも編入すら不可能だっただろう。学園改革の結果、少しでも門戸が開かれたのならば、リーンエス王国内で認められるような実績を積みたいという意志はひと際強い。
「難しいのは、分かっているけどね」
「そうだな。王国貴族の子弟である私に言われるのも業腹かもしれないが、君の目指す道は困難だろう」
トマスも渋い顔をしていた。貴族内で敬遠されるダンテ家のトマスや異種族であるゲルダが、上位評価を受けていた辺り、学園の評価軸も忖度が全てではない。しかし、彼らは王家に信を置かれた由緒ある伯爵家の嫡男と、王国内で有数の商家の令嬢でもある。何の後ろ盾もない江流が同じ評価を受けるのは、困難であろうとも思った。
「なるほどのう。自分を知る為に、部活許可の申請を利用するというのは面白いかもしれん。皆がそうやって立ち位置を気にするようになれば、成績の操作などは難しかろうなあ」
リヴァマス老は楽しそうに話していたが、その仕組みにはいささか困ったような顔をする者もいる。
(評価者受けまで考えると僕は上位に入れないかもしれないな。……従弟殿はどうだろうね)
ローザリカ・L・ディオールとジュスト・ヴェルジーはチラチラと互いを値踏みする視線を交わしていた。少なくともかつての学園内の成績評価は、特に貴族子弟であれば試験結果だけでは決まっていなかっただろう。その時代も含めた5年間の累積で評価されるのだとしたら、悪目立ちしていた自分が上位に届かぬ理由は幾つも思いついた。一方のジュストには、全力を尽くして頑張るような殊勝な学生では無かった自覚がある。
(これまで次男らしく目立たぬ程度にこなして来たけれど。これで、俺が駄目でロゼが成績上位だったらカッコ悪くない?)
心を交わして気持ちを伝えあったとはいえそれはそれ、これはこれ。幼い頃からの関係性は変わらない。端的に言えば、諸事情鑑みて自分が上位評価に含まれないのはまだ許せるが、相手と差がついてしまうのはいささか気になる。
「学業は本分ですから、成績の事は皆さま気になるところでございましょう」
「確かに、今となっては懐かしくもあるけれどね」
手ずから紅茶の用意をしているレティシア・レインフィールと、悩める後輩たちを微笑まし気に見やるシルヴィア・A・カペル。OGのレティシアと、とうに卒業していておかしくないシルヴィアにとっては過ぎ去りし日々の思い出であった。
「私も手伝うわ。購買でお菓子を買い足して来ようかしら」
「猫の手ならぬハリネズミの手でございますが、ワタクシでも荷物持ち位にはなるでございましょうか」
「ありがとうございます。チョコレートを用意してきましたから、焼き菓子などありましたら是非」
「話をすれば喉が渇くからな。俺はシャルガネ土産の煎茶を振舞おうか」
率先して席を立つルベアとハリーヌにレティシアが礼を言い、江流も厨房へ足を向ける。普段ならばお茶係のシオンとカナンは、タイコモの監視の下で勉学に専念していた。本当に専念するならば部活にも出ずに自室で励めば良いのだろうが、せめて話だけでも聞いていたかったらしい。
「お勉強を頑張っていらっしゃるシオン様とカナン様には一つ多めに差し上げますね」
「ありがとうございます……」
「優しさが身に染みる。タイコモは鬼」
そっとチョコを置いたレティシアに、地獄に仏と手を合わせる2人。良い紅茶と珍しい煎茶とお茶菓子とが、各テーブルに行き渡って一同はほっと一息ついた。
●
「さて、この部活を残すだけならば、愛好会にする手もあるだろうが。それは検討するのかい?」
正式に部活にする流れが既定路線化する前に、念のためとローザリカが議論へ一石を投じる。
「政治討論部を通して学んだ事も多く、私が生徒会役員になろうと考えたきっかけでもあります。できれば正式な部活としてこれからも活動してほしいですね」
背筋を正してコルネリウス・アーラが語った言葉へ、幾人かが我が意を得たりと頷いた。少なくとも、首を振る者はいないようだ。
「……と、言うからには、私も部員であるべきと思います。当事者として、意見を言いたいですから」
「あるべき、と言う程堅く言うような部では無いのだが。ともあれ、歓迎しよう」
飛び入りのコルネリウスの入部希望へ、トマスが頷き返す。ローザリカは場の空気を確認するように、一つ頷いてから話を続けた。
「結構。派閥関係なく意見交換できる場は貴重だし、知己やら知見やらを得る場として僕もこの部には世話になっているからね。その方向性に異論は無いよ」
これまでの会話を聞くに正式に部活としたいのが皆の総意と予測していたが、ローザリカとしては勢いで天秤の片側に寄り過ぎる懸念については一言表明しておきたかったのだろう。方針がそうと決まれば、方法の話になる。
「部活ってするなら、パトロンは多い方がいいんだよね? ダンテ伯爵家やディンドルフ侯爵家、部員の貴族子弟から後援を募ってみるのが手堅いんじゃないかなー?」
エルゼリオがそう言ってから、そう言えば自分も男爵家になったのだったと思い出す。とはいえ、新参の男爵が出しゃばってよい物かどうか、他を立てた方が良いかもしれないのかと首を傾げた。
「吾輩の家は今どういう扱いなんじゃろうな? まあ、収入はないから役には立たんか」
「いやあ、うちは無理だろう。私は家を出て久しいからな……」
「新参の男爵家に過分な期待はなさらないで下さいませ」
正副顧問が頼りなさげな事を言い、サラも難しい顔をする。この場にいない者を除けば、あとはジュストのヴェルジー伯爵家、ローザリカのディオール伯爵家が候補であった。
「後援につくだけなら、伯爵家でも存在感があり、尚且つ中立のダンテ家で十分な気はするよ。ただ、負担やリスクの分散を考えるなら確かに複数連名というのもありだね」
派閥が偏らない方が良いというところまで考えるなら、王党派とはいえ中立よりのヴェルジー家は選択肢としては良い、とジュストは言う。ローザリカは、希望を言えば通るかもしれないがあまり実家に、というか兄に物申したくはない、という所も考えて保留のようだ。
「そういえば貴族の後援ってのが必要なのか?」
「ナキルは何か部活動を興すつもりなのか?」
独り言を耳にして、トマスが水を向ける。どうやら仲間を集めて、『多文化交友部』という活動を始めようという所らしいナキルにとって、政治討論部の直面している状況は他人事ではないようだ。しかし、異種族であるナキルにはそれとは違うハードルもある。そんな話を耳にして、ハーフビーストであるルベアが首を傾げた。
「そもそも、学園改革で異種族の扱いは何か変わっているの? 貴族のゴタゴタは幾らか、冒険者も絡んで騒動になっていたけど」
この相談に同席しているのは、トマス一派を含めて王国貴族関係者が9名。平民でハーフリングとはいえ豪商の娘のゲルダも、王国内での足場はしっかりしている。対して、異種族となるコルネリウス、ナキル、ハリーヌとルベア、それにヒューマンではあれど他国民の江流が見ている景色は少し違うかもしれない。
「そういえば、エルフの外見だけ見て礼賛する人達が現れていたようですね……」
コルネリウスが一部学生の暴走を念頭にそう言う。ハーフビーストのルベアとハリーヌにも思う所があるようだ。
「確かに、愛玩動物か何かのように見てくる人はいるわね」
「ワタクシも、珍しいものを見るような目でじろじろ見られる事もございますね」
珍獣扱いはともかく、ハリネズミはハフビの中でもかなり珍しいためハリーヌ自身は奇異の目もそこまで気にしてはいないようだ。しかし、見るだけならともかく、断りもなく尻尾や耳を触りに来るかつての副顧問のような人間もいなくはない。
「そうですね。背が低い事で、ヒューマンに合わせた作りに困る事はあります、けど……」
「子ども扱いされる時はあるな。でもそれは学園に限らないぜ? あ、いや。限らないですね」
ゲルダの言葉にナキルが相槌を打ってから、とってつけたように丁寧口調に変えた。部活内では好きに喋ってよいのだが、ナキル的には礼法の練習期間であるらしい。エルフもハーフビーストもハーフリングも、見た目の部分で居心地の悪さを感じる事はままあるようだ。
「ロスガリアには、パンクリアース学園以外の学校はないの? 帝国とか、あとヴェルクリエにも凄い学校がありそう!」
他の場所であれば、王国とは違った空気があるかもしれないとエルゼリオが興味を向けるが、トマスは首を振った。
「それが、ヴェルクリエには民が広く学べる場は無いのだ。帝国にもおそらくここと同等の場は存在しない」
あるいはトマスが知らないだけでどこかに秘密の教育機関があるかもしれないが、少なくとも開かれた学びの場は他国にはないらしい。まあ、ヴェルクリエの学者たちは、人に教えるより自分が研究する方を優先しそうではある。帝国でもパンクリアース学園のような場所があると聞いた事は無かった。
「とすると、学園同士の交流みたいなのはできないのかー。ちょっと残念」
エルゼリオはがっかりしたように言う。この分野に関していえば、他国に比べてリーンエス王国、……というよりはリーンエス王家が、だいぶ先進的だったのだろう。
「帝国に学園みたいな場所があれば、異種族だからって変な目で見られる事も無かったかもしれないわね」
と考えてみたものの、自己評価の低いルベアからすれば、実力主義の帝国はそれはそれで居心地が悪かったかもしれない。亡国の民であるハーフビーストだけでなく、ハーフリングも母国と言うものが存在しない。エルフやドワーフ、この場にはいないゴブリンやリザードマンとは異種族という言葉の重みがまた違っている。
「そう考えると、正式な部活になるのは賛成かな。新興の部活だからこそ、それこそ異種族でも平民でも新入生は入りやすいだろうしね」
ルベアが言うように、貴族とそれ以外が並んで喋っている図は、伝統ある部活ではなかなかみられない物ではあろう。この部活が正式に認められれば、それが呼び水となって貴族以外も参入しやすい集いを認める流れができるかもしれない。後の事も考えて、ルベアはそう後押しした。一方、後の未来では無く、今まさに壁にぶち当たっているナキルは先ほどから唸っている。
「オレが部長で承認を通すには、まだまだ全体の空気が邪魔しそうだなァ……。いや、邪魔しそうですね。貴族の後援というのもオレには難しそうですし……」
「ふむ。手立てとしては、少し前のエルゼリオの発言が参考になるやもしれないな」
「え。ボクの?」
ナキルの悩みを聞いたトマスが自分の名前を口にした事に、エルゼリオが目をぱちぱちさせた。当人が平民で難しくとも、貴族の関係者を顧問なり部員なりに迎え入れる事が出来れば、後援のあてにはなろう。顧問であれば、数年で卒業してしまう事がないのもその意味ではメリットと言える。
「私もジュストも五年次だ。卒業後もこの部活を支援する事はやぶさかではないが、後輩にとって頼れる先が身近にあるに越した事は無い。顧問にも名前は貸していただきたい所だが?」
「吾輩は異存はないが」
「まあ、名前だけなら家には黙って書いておくよ」
リヴァマス家には思う所のあるだろうトマスにそう言われ、老人は肩を竦めて頷き、副顧問も仕方がないと苦笑した。ひとまずこれで名前の並びに箔はついたとして、もう一つの難題が部員の成績問題である。
●
「条件を撤廃……というのは、現在の部活の立ち位置から考えて、難しいと思います」
ゲルダの言に、一流どころの部活とも縁がある面々が考え込む。江流の想い人をはじめ、その座に存る為に並々ならぬ努力を払っている貴族子弟が存在する事は間違いない。彼らの努力を無にする方向の改革は、悪平等になりかねないだろう。
「現在の部活は公認部活として残し、それ以外の集まりも部活として認めるような制度があればいいな、と」
「そうですね。これまでの制度を箔付として利用されていた方がいたのでしたら、完全な廃止は反発を招くかもしれませんね」
レティシアも幾人かの高位貴族の子弟を念頭に、そう述べた。貴族にとっては名誉が重要であり、不用意にそこを侵せば争いを生みかねない。その名誉を保持する為に、彼ら自身の力だけではなく、家の権勢による威圧、学園への援助による忖度など様々な努力が費やされている。
「つまり、現在存在する部活はそのままに、新規の部活は制限を軽くすべき、と言う事かな?」
トマスの確認に、ゲルダとレティシアはコクリと頷いた。まるで示し合わせたかのように、2人は揃って口を開く。
「……今ある皆様は『公認部活』として。新しい部活の名称としては、『非公認部活』で良いでしょうか?」
「成績上位者の多い部活を『優良部活』として優遇するのは如何でしょう?」
内容は別に示し合わされていなかった。そして、ゲルダのネーミングセンスは中々の破壊力だ。想像してみよう。クライン商会公認の店の横に、非公認と書かれた商店が並んでいる様を。想像の中の『非公認』商会の店員は実に居心地が悪そうだった。
「……あの、わたしの発言はなかったことに」
「ああ、うむ。そうだな。優良部活という名称は、彼らの自尊心も満たすだろうし、良いかもしれない」
そして、トマスの気配りはわざとらしすぎて下手だった。ジュストが気まずい空気を払うように咳ばらいを一つ。
「ともあれ、クラブの設立条件を緩和するのは、幅広く生徒を受け入れることにした学園の指針に適うものだ。制度改善を訴えれば叶う見込みはあるんじゃないかな」
どうだろうか、と言うように水を向け、ジュストは如才なく話の流れを新規の部活申請条件の方へと戻していく。
「部活動の設立を自由にすることで、増えた部活の後援につく者も、これまでに無かった顔ぶれが増えるはずだ。ひいては学園の収入源が増える……という理屈はどうだろう」
「もともと王家の懐だけでは運営できなかった事が、学園の推薦が貴族派閥の利権化される切っ掛けだった。学園自体の収入が増加する事は歓迎されるだろう」
唇に指をあてたローザリカがジュストの話を受け、学園側の利益もあればよいと理屈をこねた。どのように収入にするのか、といったところまではトマスには分からないが、学園の経営が健全化する事は、フォルトゥナ学長らも歓迎するはずだと思う。実際に提案を取りまとめて、学園側にもっていく手筈についてはこの場には頼もしい顔ぶれもいた。
「提案については、私は生徒会役員の提案の権利を行使するつもりだよ」
「私も、出た意見は役員としてお預かりしますし、申請は必ず届けます」
「そうか。学園側に要望が届くのが確実なだけでもありがたい」
シルヴィアとコルネリウスの宣言に、トマスが礼を述べた。なにせ、要望の元となる理由が手の者の成績不備とあっては、以前であれば他派閥に借りを作る事が必至であった。相手次第では交渉にすらならない可能性もあっただろう。しかし、実際にどのような内容で提言するのかとなるとまだまだ議論が必要だ。
「部活動は様々な方との交流の切っ掛けとなりますし、私も承認容易化に賛成致します、ただ、それを悪用される事は考えておられますか?」
「そうだね。設立条件全てを撤廃すると好き勝手にクラブが増えてしまいそうだ」
レティシアの念頭にあったのは、部費を使う事が目当てのクラブが横行する件。あるいは子供に甘い実家が後援について、遊興費を湯水のごとく垂れ流すような部活が承認されても学業に触りがあろう。シルヴィアはそこまで具体的な悪意を考えていなかったが、単に部活が増え過ぎる弊害は念頭にあった。
「確かに、今でさえ第一、第二のように複数存在するクラブもある。申請すればするだけ部活が出来ては面倒になるか……」
トマスが考え込む。『実家と違う派閥の部長の下につきたくない』とかの貴族子弟にありがちな理由で部活をポコポコ作られては、せっかくの緩和も学園改革の流れに逆行する物となろう。
「それについては、『代表在校生1名を含む合計3名以上』の条件をそのまま残すのはどうでしょうか」
「そこは変えず、学業成績は求めないという事だね。それには私も賛成だよ。ただ、学業を放棄するというのも問題だ」
コルネリウスとシルヴィアは、とりあえず人数を3名集めるというハードルについては残すことを提案した。そのうえで、シルヴィアは学問を部員となる条件ではなく部の存続の条件としてはどうかと言う。
「それはどう違うのだろう?」
「うん? つまり、部活で学業の後押しをすればいい。テストの二週間、あるいは一週間前から休止して勉強に専念するとか、勉強会や交流会などを開催するのも良いね」
「なるほど。そういう事か」
説明されればトマスにも内容の想像がついた。
「そう言った優良な部活には部費を加算する、というのはどうかな。無論、顧問の監督下で、ズルはできないようにしてね」
「……部活動としての活動の監督も必要かと思います。活動日誌の提出義務や定期監査を課してはいかがでしょうか」
加点する側の意見をシルヴィアが述べると、部の設立の悪用に対する防止策を考えていたレティシアが制限側の提起を行う。
「ふむ。活動報告などを義務化すれば、名ばかりの部活動の乱立を淘汰する事は出来そうだな」
頷くトマスの発言を聞いたジュストが、別の角度からまた一石を投じた。
「先のナキル君の話。冒険者や庶民だけの部活というのは後援者がいない分活動に支障がでる恐れがあるのは気になるんだよね。きちんと管理評価して、見合う支援があればやりやすくなるんじゃないかな?」
女性二人が言うように成績優秀な学生を学園側からの支援の目安にすれば、部活動と学業との両立も果たせるのでは、というジュスト。対して、エルゼリオが楽し気に言葉を足した。
「じゃあ、部員には一定期間毎にレポート提出を義務付けるとかはどうだろう? 後は弁論大会みたいなのを開催して参加するとか? 何かしら成果を出したら、御褒美があると楽しいんじゃないかな」
「成績上位者の多い部活への優遇措置は、あるとよろしいかもしれません。限度は必要でしょうけれど……。部費の増額や部室の場所などであれば良いでしょうか?」
まだ提案ベースでしかない話でも、横で聞いていた夢多き一年生はやる気をみせている。
「成果に見合った評価って奴か。オレが部活を立ち上げるなら、学年一位くらいは目指さないとか……?」
「なるほど、ワタクシでも成績を上げれば部活の皆様に引っ張りだこ、高値で売れると言う事でございますね?」
などと同学年の面々に睨まれそうな事をナキルが呟く横で、ハリーヌが目を輝かせている。先の発言からすれば、江流も上を目指すつもりは強く、この場の一年生ではガツガツしていないコルネリウスの方が少数派らしい。まあ、難関の編入試験を潜り抜けてきた面々ならば、貪欲なのも頼もしいのかもしれないが。
「……学業は勿論大切ですが、部活動は己を磨き、交流し、楽しむ場所であれば良いと私は思っています」
「優遇措置を目当てに、優秀な学生が入部を強制されるようでは本末転倒ですしね……」
コルネリウスが憂い顔で言い、レティシアも眉根を寄せる。あくまで部活動の後押しの筈が、行き過ぎれば過当競争になりかねない。優遇措置に言及したレティシアも、悪意への対策も考える必要はあると思った。
「まあ、行き過ぎた際の歯止めの部分まで我々で考えずとも構うまい。提言としては十分な内容になったのではなかろうか」
トマスがそう締め、書記役のゲルダがここまでの提案や討論の内容をまとめていく。それを見ていたローザリカが芝居がかった口調で一同へ言葉を掛ける。
「発起人の彼に、部活動の仕組みを改革したという華をプレゼントするのも粋なのでは?」
普通の貴族令嬢よりもローザリカは肩ひじ張った生き方をしてきた。誰かを頼って案を出し合えるような場と空気は、彼女にとって意外と居心地が良かったようだ。
「政治討論部の活動に参加することは楽しいよ。この場を作ってくれてありがとう」
シルヴィアもトマスへそう笑いかける。学園の部活と言えばもう少し色々な意味で引き締まっている所が多くはあった。政治的意味で火花散る場や、自他の研鑽の為に気のゆるみも許されぬ場、己の信仰を試される場など、確かに思い当たるところではある。
「まあ、提案が通るかどうかは分からないが……。では、この政治討論部の部長として、皆の意見を預からせてもらおう」
いささか照れくさい様子で、トマスはゲルダから議事録を受け取った。内容に目を通してサインを入れる。提案書としての表書きは、シオンとカナンの勉強を見る合間にできる男のタイコモが書いていたらしい。かくして、設立から一年程にして、政治討論部は議論の中身を学園あてに提案する事となったのである。
マスターコメント
お疲れ様でした。
今回は珍しく結論をだす必要のあるお題だったので、どんな話になるだろうと思っておりましたが、蓋を開けてみれば色々なプレイングがあり、それぞれ頂いたものをまとめてキャラクター味をつけるだけでさらさらとリプレイが書けてしまいました。
などとお茶漬けじみた事を言っておりますが、政治討論部は気軽に箸が伸びる軽食風味だからそれで良いのです、きっと。多分。
なお、議論が色々面白かったので大成功にしましたが、学園側が提案をどう受け取るかはこの後で(運営で)討議されますのでまだ未定です。続報をお待ちくださいませ!
次回辺りは今度こそ課外活動にしようかな、と思っておりますが予定は未定です。
ご参加ありがとうございました!
イベントシナリオ普通 報酬:標準11 / 10〜25人
2022年04月21日 16時34分20秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
「ナキルだ、よろしくなー…………あーーーーーー。(ワールドガイド読まずに何時もノリと勢いでいろいろとやってくる後先考えないでやっちゃうタイプのPLとPCの図) あーー。 まぁ、諸々の事情(異種族区別)で、実際大丈夫だろう、うん、きっと、そう。 そういう訳て 「多文化交友部」を非公認です!(っていう公認設定)でやり始めたナキルです。はい。 そういう方向性で遊びます。」