【学騒】イチャイチャしないと壊せない教室
眞石ユキヒロ
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シナリオID:2025
オープニング
「まさか、廃校舎に隠し部屋があるなんて……これ、大発見じゃね?」
「見ろよ、宝箱があるぜ! きっとお宝だ!」
ここはパンクリアース学園・廃校舎。入寮したばかりの新入生達は寮内の仲良しメンバーを集め、廃校舎を探検していた。そしてなんと、老朽化して脆くなった壁の裏に隠し部屋を見つけてしまったのだ。新入生たちがわくわくしながら大きな木箱を開けると、中には古めかしいデザインの筆がたくさん入っていた。
「なんだ、筆かよ。伝説の剣とか魔導書とかだったら面白かったのに。それか、空飛ぶ絨毯とかさ」
「筆か……ぼく作文苦手だからなあ。ぼくはいいや。レナード君、いる?」
「ま、一本記念に貰っとくか。でもまだまだあるぜ。これ、どうする?」
「戻すのももったいないし、せっかくの戦利品よ。寮で友達とか先輩に配ればいいんじゃない?」
「そうだな。じゃあ、全部持って行こう」
そんなわけで、廃校舎から発見された筆たちは学園にばらまかれることになった。だが、これらの筆は実はれっきとした神具であった。名を『ドゥジンの筆』。画才や文才を持つ者が扱えば描かれた物語を一日限りだが現実にできるという、世界を塗り替える力を持つ伝説のマジックアイテムだったのだ……!
●イチャイチャしないと壊せない教室
ドゥジンダンジョン内部。
鳥籠型の檻が置かれている以外はごく普通の教室。その教壇に彼女はいた。
「起立、礼、着席!」
冒険者たちの身体が彼女の指示通りに勝手に動く。
「お集まりいただきありがとうございます。私は辺境都市群のギルド職員、ライリー・ベルです。ところで皆様はドゥジン信徒でしょうか?」
問われた瞬間、冒険者たちの顔と喉に自由が戻る。
「違いますね」
意味不明の状況に困惑する冒険者たちの返事を一瞬も待たず、ライリーは勝手に結論づけた。
「最初に説明いたしますと、このダンジョンを作った筆は皆様の愛がなくては破壊できません。お好きな方とイチャイチャしてください。ええ、存分に」
檻の中にはこのドゥジンダンジョンを作り出した女生徒二名が入っている。
ライリー同様ドゥジン信徒である彼女たちが、リーンエス王国での礼拝には写本だけを提供して一切姿を現さないというライリーを一目見てみたいと興味本位でドゥジンの筆を使用したのが事の始まりだった。
彼女らはこう記述した。『この教室にハーレムごろしが現れて愛を伝授してくれる』と。
「皆様の机の上に羊皮紙とペンとインクがございますね。そちらを使用することでいろいろなものを用意することができます! 背景や衣装を替えたり小道具や当て馬を出してみたり、どうぞご活用ください」
冒険者の上半身に自由が戻る。動揺する冒険者たちをよそに作られたライリーはギルド職員らしく状況の説明をどんどん進めていく。
「お相手がいらっしゃらない方はそちらを使って理想のお相手を作り出していただいてもかまいません」
笑顔でさらっととんでもないことを言う。
「もちろん! あなたが考える最高の理想のカップルを作っていただいてもかまいませんよ! 愛には様々な形がありますからね!!」
何がもちろんなのか。教壇に立つライリーはテンションを上げて言葉に力を込める。
「なお、あなた方の愛は教室の外に具現化します! 教室の外で起こったことは教室内の黒板に! 黒板に! ……にゅふふ!」
黒板に何だというのか。
「愛があってこそのドゥジン信徒! ドゥジンシ! ドゥジン礼拝! この教室を通して皆様の思う愛とは何か、今一度ご確認くださいませ!」
ライリーが両手を大きく広げ、極上の笑みを浮かべる。冒険者たちの下半身に自由が戻った。これで席を立つことができる。
(もしかしたら私たちはドゥジン神に魂を売った悪魔的存在を召喚してしまったのかもしれない……!)
女生徒の片割れが身震いした。もう一人の女生徒はその肩を抱き、このシチュエーションに瞳を輝かせていた。
解説
マスターより
リプレイ
ドゥジンダンジョン内、教室。
(この人が友達のいってたライリーさん、とドゥジン教ってやつかー……)
アルマ・ヴァレンタインは羊皮紙を見つめて、現状を再確認している。
(この羊皮紙に書いた事が具現化するー……ってことでいいのかな)
そう考えると俄然楽しい気持ちになる。
斜め後ろに座するエヴァン・ピオネロが、慈しむ眼差しを向けていることにはまだ気付かずに。
(ライリーは造形でもライリーですわね)
サシャ・テーリングは同好の士にこのことを話そうと思いながらペンを手にする。
妄想は無限に浮かんでくる。皇子に竜臣、王子に神匠……。
(やっぱり色物枠だなー)
本人に言ったら怒られるであろう感想を抱きながらサイラスもペンを握る。
現実で恋人を作り、竜化の研究を投げ出すつもりはないが、これは依頼だ。せっかくだから理想の相手を作ってみようとペンを走らせる。
(ふ、筆を破壊するのは気乗りしないけど……まあ、仕方ないよね)
ドゥジン信徒であるルブラ・ソンジュにとって、ドゥジンの筆は手にしてみたい品であった。
(それにしても檻の中の二人、気になる……ふひひ。これだけでキマシタワーが建立しそう……)
興奮はする。しかし性別に関係無くそういうのに踏み込みすぎるのは重罪だと理解しているので、それ以上は突っ込まない。
「イチャイチャですか……!」
エルナ・クルプファルツにはイチャイチャが具体的にどういったものかがわからなかった。隣にやってきたコハクに戸惑いを隠しきれない視線を向ける。
コハクは大きな尻尾をゆさゆさと揺らしながら、エルナの机に両手をのせた。耳をピクピクと動かして、母さんを期待の籠もった眼差しで見つめる。
「ならお外でピクニックですね! 美味しいお弁当も準備しましょう!」
エルナが花開くような笑みを浮かべる。
「母さんとピクニック、楽しみ」
コハクの表情はあまり動かないが、全身から喜びのオーラが溢れている。
「イチャイチャとかよくわかりませんがこの紙に書いたことがなんでも具現化して体験できると」
シルク・メイプルリーフは豊満な胸の前で両手を合わせ、隣の席に座るアリッグ・レイダーを見た。
(まーたろくでもない事が起こってやがる。この学園一度痛い目に遭った方がいいんじゃねーか?)
アリッグはすでに(学園長が)痛い目に遭っている学園に心の毒を吐きながら、羊皮紙に何かを書き込んでいる。
シルクは彼の横顔に笑みをこぼしてから、自分の羊皮紙に向き直った。
「小さくて可愛いアリッグさんですけど、この機会に大きくなった姿とか体験できるんじゃないでしょうか? ついでにちょっと気も大きくしちゃいましょう。よしこれで喜んでくれるはず」
アリッグはシルクの独り言にも気付かないほど羊皮紙に集中している。
(いちゃいちゃしないと出られないのか……。さて、理想のシチュエーションか)
ライナ・フレイヴァルツがチラリと横目でフロマーシュ・ダイヤドロップを伺うと、顔を真っ赤にした彼女と目が合った。
(い、イチャイチャしないと、なのですね!?)
「マーシュ、少しやってみたいことがあるんだ」
具体的に何をしていいのかわからないフロマーシュに、ライナは一つの案を持ちかけてみることにした。
「ライナ様が、やってみたいこと……?」
フロマーシュは身体ごとライナに向き直って、その提案に耳を傾ける。
(妄想を実現したくて飛び込んでしまった)
セオ・ウルジオは後先考えぬ自分の行動を思い出し、そんな自分を追いかけてくれたカルフ・オルヴォに申し訳なさげに視線を送った。
「も、勿論、助ける為です。でも……カフさんで妄想させて下さいね」
頬を赤らめながらのお願いに、カルフは後頭部に手を当てた。
「……んな真似しなくてもなぁ……っ」
おれが実現してやる。そう言いたかった。けれど過去の経験達がその言葉を飲み込ませた。
「……い、いや……こういう経験だ、あの子らを助けてやれ」
かわりに最もらしい言葉を吐き出す。おれは子供か。そう思ってもいるが、まだ手は出せない。
「エデルのやりたいことをして欲しい」
アルフレッド・エルグランドはエデル=マグノリアの前に立ち、そう告げた。
「やりたいこと……。たくさん悩んでしまうかもしれないけれど、それでいいの?」
「エデルの悩む姿ならいくらでも見守っていられるぞ」
エデルは熱い頬を隠すように俯いてペンを執った。
アルフレッドは「どんな風にイチャイチャしたいのか?」など適切な質問を投げかけ、そのたびにうんうんと悩むエデルを微笑ましく思った。
(ドゥジン? はさておき……。思い描く愛の理想の具現化がお二人を助ける……つまり愛は全てに勝る!?)
マリィ・スノードロップは天啓を得た、と言わんばかりに青い目を大きく見開いた。
(ふむ、私は信徒ではないから、ドゥジンについてはよく解らないが……愛が重要だというのはとてもよく解るよ!)
マリィの隣に座るザスキアも、マリィとほぼ同じように考えていた。違う点は、羊皮紙が白紙であることだけ。
(恋人か……思えばあまり考えた事が無かったな、私自身の恋については)
さて、何を書いたものかと周囲に目線を向けると、羊皮紙に何かを刻んでいるマリィの姿を隣に見つけた。
「おや? マリィじゃないか! 奇遇だね」
「ザスキアさん……!」
ローザリカ・L・ディオールには何が起きているのか意味がわからなかった。
(帰って寝たい)
どうせ本当には起こらないだろうと考えながら、素直な願望を羊皮紙に叩きつける。
(嫌な予感がするぞ……)
その様子を隣で見ていたジュスト・ヴェルジーはローザリカから目を離さないよう意識した。
●
(僕が考える最高の理想のカップル! ドゥジン作家の腕がなりますねぇ!)
王子×皇子推しのドゥジン作家、ギーゼラはペンを片手ににんまりと目を細めた。
と、細めた目の先に見覚えがありすぎるリリリリスが通り過ぎるのを目撃した。
「リース! 貴女どうせろくでもない事を書いてるでしょう!?」
反射的に立ち上がり、彼女を追ってしまう。
リリリリスはギーゼラの制止も聞かず、一番最初に廊下に出た。黒板に廊下の様子が映し出され、冒険者から驚きの声が上がる。
廊下の風景は変わっていない。リリリリスを踏む変わった人はいるが。
「なかなか悪くないですわっ」
しかし、こう……イマイチ足りないとも感じる。
追ってきたギーゼラは人の形をした何かを踏んでしまい、それから漏れた「うああん!」という声に絶望した。
「どうしてこんな事に」
「あら、あらあら、そこに居るのはギーゼラ様ですわね」
踏まれたままのリリリリスは後退したギーゼラを見逃さなかった。
「物足りなさそうですわね! そうですわ、私がソレの代わりになりますわ! さぁ思う存分踏んでも蹴ってもいいですわよ!」
(やっぱりろくでもない事だったじゃないですか!)
ギーゼラはリリリリスをゴミを見るような目で見下した。
「えっ!? 私じゃ足りない……? そんなひどいですわ! あんなに熱い接吻を(床に)交わした仲ですのに!」
「違う! 足りないとか言ってない!」
巨大な肉叩きもとい絶命暴虐をリリリリスの口めがけてフルスイングする。
「永遠に床と接吻を交わしていなさい!」
もちろんその程度で黙るリリリリスではない。
「やっぱりコレくらいは無いと滾りませんわね、ふふふ。私、まだ満足してませんわっ!」
廊下を去ろうとするギーゼラの足にリリリリスが纏わりつく。ギーゼラはリリリリスにご褒美を与えた。
(リースだけは絶対に回復してあげないですからね!)
なおも自分に縋り付くリリリリスをどうにか振り払おうとしながら、結局ギーゼラはリリリリスに与える次のご褒美を考えてしまっている。
●
「なんで寝室なんて書いたんだ?」
「まさか本当に寝室が現れるとは思わないじゃないか!」
ジュストはこめかみを押さえた。目の前にはふかふかのベッド。ローザリカの衣装はお気に入りのネグリジェに変わっている。
「出たものは仕方がないだろう! 僕はもう寝る!!」
ローザリカは困惑をジュストにぶつけて、そのままの勢いでベッドに飛び込んでしまった。枕に顔を埋める。
「この状況で寝る!?」
あまりに生々しい。ジュストは腕を組み、どうしたものかと考え込んだ。ベッドでイチャイチャって……。
「なんで来ない」
ジュストの思考に、焦れたローザリカの言葉が投げ込まれた。ローザリカの手がすぐ隣の誰もいない場所を撫でる。
「なんでって……あー、もう」
ジュストはため息と共にタイと襟元を緩めベッドに上がり、ローザリカを後ろから抱きしめた。
「……狡いやつめ」「狡いのはどっちだ。……そんなに煽っておいて」
耳元で囁くと愛しの春が強く香った。髪の中で密薔薇の瞳が揺れる音がする。
こんなことしたら本当に俺に嫁ぐしかなくなるのに。大切だから穢したくない。それも本音だ。
だが我慢には限界がある。
ジュストがローザリカの首筋に口づけ、強めに吸う。彼女の匂いに自分の琥珀色の光が少しずつ混じるような錯覚がした。
(痕、残るかな?)
ジュストは溶けた思考でそんなことを考える。ジュストの体温と行動と、なによりも伝わってくる感情にローザリカの鼓動が早くなっていることにも気付かずに。
と、「そこまでですよ」といつの間にか現れたライリーが二人を止めた。
●
教室内。黒板には廊下、もとい寝室の様子が映し出されている。
「このように僕たちの廊下での行動も黒板に映っていた、のですか?」
「まあ、でしたら皆様も私を踏んでくだされば更に効率的にイチャ……」「リースは黙ってて!」
教室に戻ったギーゼラとリリリリスを待っていたのは、冒険者達の困惑や興味や動揺だった。ギーゼラは改めて後悔し、リリリリスはそれでも我が道を行く。
しばらくして、そこにジュストとローザリカも合流する。
ローザリカは半分寝ていたが、ジュストは黒板を見ていた。それでも止まれなかった。若さとはそういうものでもある。
●
パヴェル・A・サムルガチェフはしっかりとした足取りで廊下に出た。
こういう時は恥ずかしがるとかえって情けなく見えてしまう。だから胸を張るべきだと心に刻んで。
廊下は緑に囲まれた小さな休憩所と、式場が存在する美しい場所へと姿を変えた。
パヴェルは休憩所のベンチの上であぐらをかく。滴る緑をくぐり抜けて、中性的な美貌を持つ華奢な恋人が現れた。
「パヴェル、待たせてごめんね」
「いやぁ。俺も今来たところだ、気にすんなぁ」
恋人を快活な笑みで気遣い、パヴェルはこっちに来いと両手を広げた。恋人はこくんと頷き、彼に促されるままベンチの上で丁寧に横抱きにされる。
二人を包むような春の風が吹いて、みずみずしい緑の香りが運ばれてくる。
「……私たち、結婚するんだね」
「これからの生活が楽しみだなぁ」
腕の中で恥ずかしげに俯く恋人を安心させるよう、パヴェルは落ち着いた声色で未来の希望を口にした。
「パヴェルといると、視点が大きく変わるなって。最近は特に思うんだ」
「こんな風にかぃ?」
パヴェルは悪戯っぽく笑って、恋人を抱えたままベンチから立ち上がった。鍛え上げた肉体は恋人を危なげなく支える。
「そうそう、こんな風に!」
グンと高くなった視界に、恋人が顔をほころばせる。その表情には一抹の不安もない。
「お前さんの笑顔が見られて、俺も嬉しいねぇ。……ありがとよ」
つられるようにパヴェルも笑顔になった。風が少し強くなり、花吹雪が舞い始める。
パヴェルは恋人を支えながら、式場へと続く舗装された道を一歩一歩踏みしめる。
白薔薇と緑で彩られたアーチをくぐる頃には、二人の衣装は白く輝くものへと変化していた。
「……幸せにしてね」
「おうよ!」
威勢の良い声が響く。けれどその面差しには慈愛が溢れていた。
●
シルクはアリッグが浮かべる意地悪な笑みすら受け入れ、ニコニコとしている。二人は手を繋いだまま廊下へ出た。
握る手の大きさと目線の高さが変わり、シルクもアリッグも動揺しながら互いを見る。
「ふへ?」
シルクが書いたとおり、アリッグが大きくなった。そしておそらく自分は小さくされてしまった。シルクは頬を染めて焦る。
そんなシルクに、少し気を大きくされたアリッグの鼓動は高鳴った。考える前にシルクをぎゅっと抱きしめてしまう。
シルクが腕の中でじたぱたと可愛らしい抵抗を続けている。それでも普段されている仕返しとばかりに、アリッグは絶対に彼女を離さなかった。
そのまま抱き上げ、小さなシルクを堪能する。
「え、ちょっとアリッグさんおろして」
シルクとしてもアリッグを殴るわけにもいかず、大きな抵抗はできなくなってしまった。
「普段はそっちが離さないくせに何を言ってやがる!」
(とは言ったが、少し罪悪感が沸くな……)
けれどここまでしおらしいシルクにはそうそうお目にかかれないだろう。
この状態のシルクをしっかりと目に焼き付けてから、アリッグは彼女をおろして教室へ戻った。二人の身長が元通りになる。
問題は心だ。アリッグが抱えた頭を壁に叩きつけはじめた。
「あああああ! 俺は何をやってんだ!」
シルクは行動や言葉で止めたが、アリッグの気持ちはしばらく落ち着きそうになかった。
●
「マーシュ、その手を繋いでもいいか……?」
ほんのりと熱を帯びた頬を自覚しながら、ライナはフロマーシュに手を差し出した。
「こういう時でもなければ、手を繋ぐ勇気がないというか…」
それでもライナの瞳はフロマーシュをまっすぐに捉えている。
「も、もちろんライナ様がご希望でしたらっ!」
胸を高鳴らせながらフロマーシュはライナの手に自分の手を重ね、優しく繋いだ。
互いのあたたかさを交換しながら、安心と緊張を育ててゆく。
「普段は主とメイドの間柄だがこうしていると本当に恋人みたいだな」
日当たりの良い廊下を支配するのは温もりと息遣いと鼓動と、ライナの言葉。
天井を見ながら放たれた言葉にフロマーシュは一気に顔を真っ赤にして俯いた。
「もう少し、近寄るか?」
ライナは繋いだ手を解いてフロマーシュに寄り添い、その頭を肩に引き寄せ撫でた。
フロマーシュもされるがまま、優しさと心地よさを享受する。
「なんだか心地良いな……」
「……は、はい。……私も、こうして触れ合えるのは、とっても……」
今度はフロマーシュが、自分を愛でるライナの手を取った。二人とも目を細めまどろみはじめている。
教室に戻った二人はライリーが教室の隅に用意したソファに並んで座り、手を繋ぎ寄り添い合って眠りに落ちた。
●
サイラスはさらさらとペンを走らせ、廊下に直行する。
彼女と街を歩くサイラス。他の男が彼女に熱視線を向けている。
サイラスは庇護翼を発動し、彼女の身体を覆い隠した。
「……敵でもいるの?」
「確かに敵っちゃ敵だなー。まぁ、おれが守るからいいけどなー」
「なにそれ、おかしい」
エーテルの翼の中でクスクスと笑う彼女を愛おしく思い、サイラスは翼でその背を撫でた。
場面は変わり、イェルノー荒野。サイラスと彼女は敵の群れに立ち向かっている。
「サイラス、私がしっかり援護するから!」
「いや、ここはおれだけでなんとかすっから!」
サイラスが製作した杖を構える彼女の前に立ち、鳥獣戯で作り出した紅玉竜たちに敵を始末させる。
更に場面は変わり、彼女の家。彼女とサイラスは同じソファに座っている。
「何かしてほしいこととか無いのかよ?」
「……サイラスがいてくれれば私はいいよ」
「そうじゃなくってさー。おれはもっと甘えていいって言ってんだよ」
サイラスは彼女の肩を抱き、身体をぐっと引き寄せた。
「ならサイラスと一緒に竜になって永遠に傍に、とか。そんな風に、甘えたい……」
彼女の口から零れたのは、サイラスが照れてしまうほどにストレートな愛の告白。
「そうだな、一緒に竜になろうぜ……」
サイラスは彼女をぎゅっと抱きしめた。
●
教室を出ると、日当たりの良い森だった。
「あの……手を繋ぎたい、の」
エデルの申し出に、アルフレッドはその手をそっと握ることで応えた。
日光と緑を浴びながら歩き、小川のせせらぎを堪能する二人の横を、リスが通りがかった。
「あ、リス。可愛い!」
嬉しそうにしゃがんでリスを眺めるエデルに、アルフレッドは正直な気持ちをぶつけた。
「そう言うエデルの方が可愛いと俺は思う、ぞ……」
口数の少ない彼の殺し文句に、思わずエデルも赤面する。
「私の故郷ね、こんな場所なのよ」
「そうか、なら挨拶に伺わないとな」
話を逸らそうとして出した話題で、むしろ逃げ場を失ってしまった。まさかそんな先のことまで考えていたなんて。
「……少し休憩しないか?」
なだらかな木の根を指さしアルフレッドがエデルの手を引く。エデルが木の根に腰を下ろし、アルフレッドがそれに続いた。
(少しだけ……)
エデルがアルフレッドに寄りかかる。アルフレッドは彼女の肩に腕を回して抱き寄せ、彼女からする白木蓮の香りを堪能した。
●
ぽかぽかとした、緑溢れるなだらかな丘陵。ピクニックをする家族連れが点在している。
「コハクさん用の5重の大盛り愛情弁当ですよ! お口をあけて下さいね!」
ピンク色のレジャーシートの上に二人は座っていた。お弁当の中にはコハクの好きなものがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
「はい、あーん……ふふ、美味しいですか?」
「あーむ。極限に美味しい」
コハクの表情がごくわずかに緩む。ピクニックだけでも嬉しいのに、愛情たっぷりのお弁当にあーんまでついてくる。
教室とかどうでもいい。重要なのはエルナとのお出かけ。
お日様のもと、ゆったりとした時間が流れていく。お重の中身のほとんどはコハクの胃に消えていった。
満腹になったコハクはエルナの膝に頭を乗せた。
「折角のきれいな毛並みですから! きれいきれいにしましょうね!」
エルナは櫛を取り出し、コハクの髪や尻尾を丁寧に梳いていく。あまりの心地よさに、コハクはここが天国だと錯覚する。
(ああいや、エルナといればいつも天国だ)
「鏡を見てください! ……ほら、見違えましたよ!」
コハクが起き上がって鏡を覗き込む。
「母さんの方が綺麗、カワイイ、美しい」
正直な気持ちを口にすると、エルナがはにかんだ。そんなエルナに突然現れた男が近づいてくる。
「君、カワ……!」
コハクの眉間に皺が寄り、目が鋭く細められる。今すぐ立ち去らないと殺しかねないという意を込めた視線を、モブ風情が受け止めきれるはずがない。
男が絶叫と共に走り去る。コハクは表情から鋭さを削ぎ落として、再度エルナの膝に甘えはじめた。
●
海神・江流は羊皮紙に何も書かず、カペル謹製・花言葉辞典だけを手に廊下へ向かった。
すとろんぐすたいる。まさに武士。
いや、彼が目指すのは仙人である。
(俺の愛は学園内で祝福されづらいモノだとわかった上で、語ってみせる)
江流は覚悟を胸に秘め、廊下の壁を背に教室の方へ向いた。
黒板には自分の姿が、表情が映し出されるであろう。愛しい人への思いを語る、自分が。
姿勢良く立ち、彼女の姿を思い浮かべる。それだけで心に愛しさが咲く。
「紫百合の彼女の2月29日に誕生石で作った腕輪を贈ったんだ」
青く煌めく石に込めた愛の言葉を思い、目を細めながら江流は話を続ける。
「前に桔梗の香りのする香水を貰ったから、桔梗色の和紙で包んでナズナの花飾りを添えて渡したんだけどね」
それぞれの花に、花言葉がある。江流はカペル謹製・花言葉辞典の表紙を撫でて、言葉を紡ぐ。
「贈り物なんて貰い慣れてる筈の彼女から、まともに御礼の言葉が出てこないくらい驚いてもらえたみたいで……贈ってよかったな」
その時の彼女の表情を思い出す。彼女への思いが江流の声色をどんどん優しく、暖かなモノへ変えていく。
「前にクリスタルシュガーを贈った時もそうだったんだけれど、その度慌てさせちゃってるみたいだから、次があるなら、心穏やかに受け取って貰える物を用意するべきか」
そう語る江流の表情こそ穏やかで、他人に反感を抱かせない、仮に抱いたとしてもその反感に疑問すら持たせてしまうモノであった。
「俺の話はこれでおしまいだ。聞いてくれてありがとう」
江流が深々と頭を下げる。
(貴族のご令息から殺意を向けられても気にしない!)
再び覚悟を固めてから顔を上げ、教室へ戻った。
ジュストはいるが、未だ悶々としている彼からこれといった注意は飛んでこなかった。
●
「私一人ではこのままずっと悩んでいたかもしれない。薫杏祭でも素敵な演技をしていた君の力を借りられるなら助かるよ!」
マリィから手渡された羊皮紙の内容を真剣に読み、ザスキアはこれだとばかりに微笑んだ。
「あの。恋人が出来た事のない身分で、そもそも縁遠いのですが…」
「……ふふ、実に素敵な光景だね。私も恋人がいた事の無い身ではあるが」
「わたし、お花が溢れる庭園で。あなたとお話したり踊ったりしてみたいのです!」
マリィは彼女となら性別を問わない愛を体現できると信じて申し出た。
「君の理想を汚さぬよう演じさせてもらおうか」
ザスキアは手袋に覆われたしなやかな手をマリィに差し出し、その申し出に返答した。
「それでは……お手をどうぞ、お姫様?」
「ありがとう、すてきな人!」
マリィは夢見心地のふわふわとした笑みで、ザスキアの手に自分の手をそっと重ねた。
廊下はマリィの書いたとおり、花で彩られた素敵な庭園になっており、ゆったりとした素敵な音楽が流れていた。
理想的な空間の中で、ザスキアがマリィの腰に手を当てる。
「それでは……僭越ながらリードさせていただくよ」
「ええ、喜んで!」
ザスキアの優雅なステップに導かれながら、マリィは流れる音楽に合わせて心地よいスキャットを口ずさむ。
「綺麗な歌声だね」
「そんな、下手の横好きです!」
マリィは謙遜するが、ザスキアは物語の王子様のように優しく微笑んで「そんなことはない」と否定した。
●
カルフはセオの羊皮紙をこっそりと覗き、その内容を読み取った。
その結果が、嫉妬。
(妄想の俺と……。それ……具現化するんだよな? やらせるか)
カルフは羊皮紙に対抗する展開を書き出した。
セオが廊下に出ると、スーツを着たカルフに出くわした。背景は教室である。
「学園カフさん……。スーツ、かっこいい……」
「おれに見とれるのはいいが、今は二人だけの補習の時間だぞ」
セオは椅子に座らされ、その後ろから妄想カルフが身を乗り出し「ここが間違ってる」と指摘する。セオはその横顔に見入り「先生……好きです」と呟いた。
困ったように笑う妄想カルフの顔が近づいてくる……。このまま唇を許してしまいたくなる。けれど。
(僕の最初はカフさんと……!)
「妄想でもよそ見をするな……」
セオの耳に低く甘い声が撃ち込まれる。本物のカルフは妄想カルフからセオを奪い、そのまま抱きしめた。
(……妄想に奪われなくて良かった)
二人とも殆ど同じ事を考えている。しかしカルフは安堵し、セオは本物の登場にドキドキしている。
今度は妄想のカルフと妄想のセオが二人一緒に現れた。二人だけの補習、指導、そして……。
「僕が実演しなくてもOKだったかぁ……。流石カフさん!」
隣に立つ本物の恋人に感心しながら、セオは妄想の二人をキュンキュンと見守った。
カルフがその肩を抱くべきか、そっと見守るべきか悩んでいることにも気付かずに。
●
廊下はあらゆる意味で熱かった。
溶鉱炉が存在する鍛冶場。ふいごに合わせ炎が踊る。そして男が四人。四人にはサシャは見えていない。
神匠は一心不乱に、エーテルの籠もった金属に槌を振るっている。
「この魔具が完成すれば父王を封じることができるのだな」
神匠の後ろに立つ皇子が進捗に安堵する。寄り添うように隣に立つ竜臣は頷いてこう申し出た。
「その任は拙に……」
(そう。竜臣様は裏切ったわけではなく、皇子の敵となる者たちの情報を集めていただけでした!)
妄想を形にしたサシャは彼らの一挙手一投足に熱い視線を送った。
「他の者に作業させ、お二人は……。僕も魔具の素材集めに奔走したし、使う権利はあるよね?」
刺のある笑みを浮かべた王子が三人の後ろに立つ。
「皇子への真なる忠誠を示すため、拙にお任せいただきたい……」
静かな物言いではあった。怒りや対抗心がそこかしこに滲んでいるが。
(素晴らしい三角関係です! 全てを記憶しなくては)
「ボウズ共、ここは神聖な場だ。喧嘩すんなら表に出るんだな」
ピリピリとした空気に最初に声を上げたのは神匠であった。
神匠は振り返らない。この作業は大切なのだ。大陸の命運がかかっていると言っても過言ではない。
「申し訳ありません、神匠殿。私にできることがあれば何でもお手伝いをさせてください」
神匠の横に立ち、真っ先に頭を下げたのは皇子であった。王子と竜臣に緊張が走る。
(三角が四角へ進化する……萌!)
「あふぅ」と上げた恍惚の声は廊下の男四人ではなく、教室の視聴者達にだけ届いた。
●
(それじゃあせっかくだからはねむーん! の予行演習で)
アルマは羊皮紙に男たちと雪の斜面を描く。それからはねむーんでの自分の衣装や髪型を描いた。
「アルマらしい選択です…ね」
生き生きとはねむーんを描くアルマを、隠れて見守るエヴァンがフフっと笑う。
とてとてと廊下に出て行くアルマを、エヴァンは教室の中から楽しむことにした。
廊下は恐ろしく寒かった。とある集落の奇祭を再現したらこのようなことになった。
けれど衣装は冬仕様にしてあるし、おしゃれになったのでアルマはウキウキだ。
男達は熱いかけ声と共に、アルマの小さな身体を運ぶ。キャッキャと楽しそうに笑うアルマが黒板いっぱいに映し出される。
(…アルマは逞しい人がお好きですか?)
アルマパゥワーを見に来たというのに、自分の体格を気にすることになるとは。エヴァンは自分の身体を撫でて、少し悲しい気分になった。
だが男達は彼の気分など知るよしもない。小さなアルマを雪深い斜面へ勢いよく投げ飛ばす。
(あー! ……楽しそうに飛んで行きます)
この空間でのダメージは現実に反映されないため、アルマの様子を単純に慈しむことができる。
飛ばされたアルマは深い雪の中にボスンと落ちた。
「イエーイ! エヴァくん見てるー?」
投げられた直後だというのにダブルピースで笑顔を見せる。彼女によってエヴァンの小さな悲しみが吹き飛ばされた。
エヴァンはドアを開き、雪景色へと駆けていく。
「はーい! 見ました……よ」
突然の来訪者にきょとんとする彼女を抱き上げ、エヴァンは微笑む。
(ぼくの身体は細いけど、アルマを抱き上げることはできますから)
「何時か本当の奇祭に参加しましょうね」
●
「……さて、架空の相手でも良いんだよね。じ、じゃあ……作っちゃうか。私の理想のお姉様。依頼にかこつけて」
ルブラは誰に聞かせるわけでもなく小声でそんなことを口にする。それからペンを手に取り、理想のお姉様を描きはじめた。
背が高く豊満で高飛車でわがまま。ルブラの理想を詰め込んだ美しい女学生ができあがった。
ルブラはこそこそと廊下に出て行く。ドアを開けた瞬間、廊下にいるお姉様はルブラにこう命じた。
「私と一緒に授業をサボりなさい、ルブラ」
「せ、拙者とでしょうか!?」
おどおどしてしまうルブラに、お姉様は指導をする。
「拙者じゃない。私でしょ! 何度言ったらわかるのよ……まったく」
あきれたように言いながらも、お姉様はルブラの手を引く。
場面転換して、夕暮れの校舎の片隅。二人だけのいつもの場所だ。
「たまには悪くないわね、庶民が作ったジャムパンも!」
「お姉様は貴族なのにこういうので満足できるのですか?」
お姉様はしゃがんで、ルブラの口の端についたジャムを親指で拭う。
「……ルブラと一緒に食べるからよ! そうじゃなきゃ買わないわよ、こんなもの!」
「せせせ、拙者と、だから!?」
お姉様が親指をペロリと舐めて、人差し指をルブラに向けた。
「拙者じゃなくて私でしょ! 私の可愛い恋人……」
「せっ……私が、妹……。身分違い、なのに……」
「私がいいって言っているからいいのよ! 私を好きになりなさい!」
お姉様は赤面しながらルブラに高圧的な告白をする。
「もう好き、なのですが……」
それっきりルブラは俯いて、何も言えなくなってしまった。
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「ふひ、ふひひ……」
しばらくはトリップできた。しかし教室に入り、他の冒険者達の視線を浴びた瞬間、ルブラは虚しさと羞恥心でしおしおになってしまった。
「皆様、素晴らしい愛でした。ありがとうございます」
教壇のライリーが深々とお辞儀をする。
「しかしあともう1ミクロン……」
「アルフレッド様! えっと、あのね。少しだけ、目を閉じていて?」
ライリーの言葉を遮るようにエデルが席を立ち、アルフレッドに近づいた。そして彼の頬に唇を近づけ……。
瞬間、不思議なことが起こった。教室の大爆発だ。演出なのでダメージはない。
エデルとアルフレッドに何が起こったかはわからない。ただ、無事ではある。
檻が消え、解放された女生徒にサシャが駆け寄り安否を確認する。
ソファも消え、ライナとフロマーシュは尻餅をついて目を覚ました。少し痛いけれど、それ以上にこそばゆい。
サイラスはドゥジンの筆を探したが、エーテルが感じられない輝く砂が残るだけであった。
肩を落とすサイラスに江流が歩み寄り、その背をポンと叩いた。
「サイラスなら竜になれるって、俺は信じているぞ」
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:標準23 / 4〜25人
2022年04月15日 01時40分43秒 公開
参加者
相談掲示板
No.1
シスターシルクです なにやら愛の力が必要と聞いて
No.2
サイラスだよろしくなー。 まあ適当に相手イメージしてやればええのなーと
サシャ・テーリングと申します。 お見知りおき下さいませ。 イチャイチャパゥワー解放@ソロで楽しく遊ばせて頂きますわ。
こんにちはセオ・ウルジオです イチャイチャ…初心者です! 挑戦、します! よろしくお願いしますね
皆様、お集まりいただきありがとうございます。 辺境都市群冒険者ギルド職員のライリー・ベルです。よろしくお願いします。 ……にゅふふ! 教室の外においては身長、年齢なども自由に変更いただけます。お好きなシチュエーションをお楽しみください!にゅふふ! なお、お相手として亜人や魔獣などを作ることも当然可能です。にゅふふ! 皆様のイチャイチャパゥワー、存分に爆発させてくださいませ。にゅふふ!
俺は一体なぜここに……? あ、えっと……アリッグ・レイダーと申します。 皆様よろしくお願いします。
私(ワタクシ)、リリリリスですわ!!!
「一人でイチャイチャトーク」ってのは惚気話とかをしろって事なんだろうか? お一人様での参加です。海神江流だよ。 取り敢えず宜しくね。
ギーゼラです。よろしくお願いします。 フフフフフ、ドゥジン信徒なので妄想は得意ですよぉ!
皆様、当依頼は明日4/9 12時出発となっております。 今一度、装備・スキル・プレイングのご確認をお願いいたします。 イチャイチャトークについてですが、惚気話も大いに歓迎です! にゅふふ! 皆様のイチャイチャパゥワー、楽しみにしております! にゅふふ!