桜の街の新年祭
崎田航輝
コメント 7
シナリオID:1799
オープニング
爽やかな風に、新年の息吹が香る。
桜の木々が葉を落とし、次の芽吹きの為に休みを迎える時節。
代わりに咲いた冬の花の色彩が、景色に鮮やかな叙情を加えるその街に――明るく賑やかな年明けが訪れていた。
鹿威しに、どこかから聞こえる琴の旋律が快く響く。
――倭桜ノ街。
シャルガネの一端に位置するその街区には、瓦屋根に灯籠、石畳が風流な景色を作り、東方風の色濃い街並みが広がっている。
道行く人々は着物に羽織を重ね、足元は下駄や草履。小気味良い足音を響かせながら、過ぎゆくその表情は心も新たに明るい面持ちだ。
長らく平和を保ってきた街だけに、雰囲気はおおらかで。
人々の気風もあってか、道々が楽しげな空気だけれど――
「今年も賑やかな始まりになりそうだ」
そう言いながら、町長が眺める街の中心部は……平素よりも活発な賑わいに満ちている。
というのも、神社の前を通れば初詣に向かう人々の列があり。
食料品店の前を通ればおせちの材料を運ぶ人々がいて。
温かな湯気を昇らす屋台や、餅つき大会のための準備を進める者達の姿も見えていた。
「新年の祭り、盛り上がるといいな――」
町長は声を零す。
そう、倭桜ノ街はこれから新年の祭りを開くところ。
気軽な気持ちで訪れて、東方から伝わった文化に直に触れてほしい。そして心から楽しみ、この一年に向けて英気を養って欲しい。
そんな思いと共に開かれる催しで……食べ物だけでなく、書き初めや東方の遊びを楽しめる場所も用意されている。
そして……観光地として名も知られつつこの街を、もっと知ってほしいという思いもあるから。
「やはり、彼らを招かなくては始まらないな」
町長はそう心から声を零す。
それは他でもない、この街を盛り立てて、その魅力を引き出してくれた……冒険者達の事。
今は、桜の季節はお休みだけれど。彼らなら新年の門出をこの街で楽しみ、そしてさらなる魅力を知ってくれるに違いないから、と。
町長は早速その為に歩み出してゆく。
そして新年のその日、冒険者達は桜の街へ招かれた。
冬の花、温かな香りの漂う屋台、そして一年への期待に満ちた笑顔の人々。
そんな中へ冒険者達は、それぞれに歩み出してゆく――
桜の木々が葉を落とし、次の芽吹きの為に休みを迎える時節。
代わりに咲いた冬の花の色彩が、景色に鮮やかな叙情を加えるその街に――明るく賑やかな年明けが訪れていた。
鹿威しに、どこかから聞こえる琴の旋律が快く響く。
――倭桜ノ街。
シャルガネの一端に位置するその街区には、瓦屋根に灯籠、石畳が風流な景色を作り、東方風の色濃い街並みが広がっている。
道行く人々は着物に羽織を重ね、足元は下駄や草履。小気味良い足音を響かせながら、過ぎゆくその表情は心も新たに明るい面持ちだ。
長らく平和を保ってきた街だけに、雰囲気はおおらかで。
人々の気風もあってか、道々が楽しげな空気だけれど――
「今年も賑やかな始まりになりそうだ」
そう言いながら、町長が眺める街の中心部は……平素よりも活発な賑わいに満ちている。
というのも、神社の前を通れば初詣に向かう人々の列があり。
食料品店の前を通ればおせちの材料を運ぶ人々がいて。
温かな湯気を昇らす屋台や、餅つき大会のための準備を進める者達の姿も見えていた。
「新年の祭り、盛り上がるといいな――」
町長は声を零す。
そう、倭桜ノ街はこれから新年の祭りを開くところ。
気軽な気持ちで訪れて、東方から伝わった文化に直に触れてほしい。そして心から楽しみ、この一年に向けて英気を養って欲しい。
そんな思いと共に開かれる催しで……食べ物だけでなく、書き初めや東方の遊びを楽しめる場所も用意されている。
そして……観光地として名も知られつつこの街を、もっと知ってほしいという思いもあるから。
「やはり、彼らを招かなくては始まらないな」
町長はそう心から声を零す。
それは他でもない、この街を盛り立てて、その魅力を引き出してくれた……冒険者達の事。
今は、桜の季節はお休みだけれど。彼らなら新年の門出をこの街で楽しみ、そしてさらなる魅力を知ってくれるに違いないから、と。
町長は早速その為に歩み出してゆく。
そして新年のその日、冒険者達は桜の街へ招かれた。
冬の花、温かな香りの漂う屋台、そして一年への期待に満ちた笑顔の人々。
そんな中へ冒険者達は、それぞれに歩み出してゆく――
解説
●概要
シャルガネにある「倭桜ノ街」へ観光に招かれました。
祭りを自由に楽しんでゆく事が出来ます。
時間帯、訪れる場所などは自由です。
●倭桜ノ街について
シャルガネの一端にある街区。東方文化の色濃い街並みが特徴的。
新年の祭りが催されており賑わっています。また冬の花が旺盛を迎えていて風流な眺めが楽しめます。
長らく平和を保っており、おおらかな人々が多い印象です。
夜は灯籠、提灯に照らされます。
●行える事
街を自由に散策する事が出来ます。
以下、立ち寄れる場所などの例を示します。
1.初詣
神社にて、初詣を行えます。
お参りの手順を知らない人も、教わって行う事が出来ます。
お参りをした後はお守りを買ったりおみくじも引いていく事が出来ます。
お参りにあたって、近くの貸衣装店で和装の着付けをしてもらう事も出来ます。
また、境内では、温かな七草粥を頂いていく事も出来ます。
2.歓迎の宴
お祭りに訪れた人々に向けて大きな食事会が催されます。
参加すると小さなおせちセットを供してもらえるので、持ち帰ったり食べていく事が出来ます。おとそも出ます。
おせちは伊達巻やかずのこ等、一般的な品が一揃いになったものです。
3.屋台
鯛焼きや大判焼き、おやき、せんべいにたこ焼きなど、温かな品を中心に楽しめます。
屋台以外にも食事処や甘味処も営業中で、東方風の食事やぜんざいなどの甘味を楽しんでいけます。
4.餅つき大会
巨大な臼で皆で餅をついたり、普通の臼で少人数で餅を作れます。
出来た餅はその場で雑煮や磯辺焼き、揚げ餅などにして食べていく事が出来ます。
5.書き初め
小屋にて集まり、皆で新年の書道を行います。
書く内容は自由ですが、おめでたい言葉や詩歌、新年の抱負などが主なようです。
6.遊戯・制作
羽子板やコマ、面子、凧などを購入したり遊んでいく事が出来ます。
お店の近くに小川沿いの広場があり、子供を中心に各種遊具で楽しんでいます。そこに参加したり、参加者同士で連れ立って遊んでも良いでしょう。
各種遊具は工房にて制作体験も行われています。オリジナルの凧を作って空に揚げるのが特に人気なようです。
7.翠の園
冬の花が咲く穏やかな庭園です。
のんびりとした時間を過ごす事が出来るでしょう。
8.土産巡り
東方風の物品を求める事が出来ます。
ミニ門松など新年グッズの他、装飾品や日用品、食料品なども人気です。
マスターより
シャルガネの一地区で観光を楽しむシナリオとなります。
今回は新年のお祭りが行われる中を散策します。
行わなければならない事などはないので、自由に過ごしてみて下さい。
街には例として示した以外にも、普通の街にありそうな機能を持った施設なら存在します。
適宜過ごしたい場所を訪れてみると良いでしょう。
同行者がいらっしゃる場合は、お名前や共通のグループ名(人数なども併記して下されば確実です)などを記載して頂けると助かります。
皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。
リプレイ
「中々良さそうじゃないか」
長閑な広場にて、羽子板を握っているのはヨル・スレイマン。
こつん、と羽根をつく仕草に――向き合うナハシュも「ああ」と頷く。
こちらも羽子板を手にしていて……共に着物も召しており、一見には風流な大人の遊びのひと場面、だけれど。
「手加減はなしでいいんだな」
「ああ、体が鈍っても良くないしね」
ナハシュの問に答え、ヨルは構えを取った。
それに、と言葉を続けて。
「よく動いた後の酒は美味い。そうだろ?」
「違いねえ。負けた方が奢りだからな?」
言い返すナハシュもまた、腰を低く落とす。
瞬間、ヨルが一打、強烈なスマッシュを放った。
そう、それは酒を賭けた――大人げない本気の勝負。
「!」
ナハシュはその威力に目を見開く、が。
「お返しだ!」
こちらもまた体を捻り――来た以上の速度で打ち返す。
それは剛速。だがヨルは勝利眼で動きを予測。先んじて板を出して弾き返している。
「速度だけじゃだめか。なら!」
ナハシュは上半身がはだけるのも構わず――宙を駆けて廻転しながら打った。
ヨルはすんでで届かず、羽根を落とす。
「じゃ、顔出せ」
と、落書きタイム。ナハシュはヨルに丸やバツを書き込んでいく。
ヨルは甘んじて受けながら――次は大きく別方向へ羽根を打った。ただ、ナハシュも高々と跳んで対応してくる。
「流石の足だな」
「ガチでやれっつったのはそっちだからな」
「なら――」
と、ヨルは次のターンで光縛封。動きを抑えて羽根を落とさせた。
「うぉっ! 卑怯だぞ!」
「こっちもガチだよ」
というわけで、今度はヨルが落書き。
そんな事を繰り返している内に――
「はははっ!」
ナハシュは墨だらけのヨルの顔に笑いを零す。
ただ、それはヨルの方も同じ。
「そっちこそもう書く場所がないよ」
と、落書きだらけのナハシュの顔に笑いを堪えきれなかった。
「この辺にしておこうか。笑って勝負にならないよ」
「だな。んじゃ、一汗かいたことだし飲みに行こうぜ!」
はー笑った、と伸びをするナハシュは――また期待の表情になって。次の楽しみへと、ヨルと共に歩み出してゆく。
愉しげな掛け声と、ほわほわと空に昇る白い湯気。
「ネリー、見て下さい」
イズレンディル・パラリムはコルネリウス・アーラの手を優しく引いて、餅つきの会場を訪れている所。
「大きな臼がありますよ!」
浮き立つ気持ちでそれを望むと……コルネリウスも迫力あるその造形に興味津々。
「シャルガネにはまだまだ初めてのものが沢山ありますね――これで、お餅をつくんですか?」
「ええ、やってみましょうか!」
異文化の初体験。
それにイズレンディルが楽しそうな表情だから、コルネリウスもまた嬉しくなって、「はい!」と声音に花咲かせた。
手順を教わると――イズレンディルは成程と応える。
「二人でリズムよくつくものなのですね」
「上手くできるでしょうか……?」
いざ杵を持ってみると、その重さにコルネリウスはドキドキ。それでも頑張りましょう、と伝えるとイズレンディルも笑顔で頷いた。
そうしてぺたん、とついてはその合間に餅を返し。
二人で交代しつつ、慣れないけれど一所懸命。
何よりも――
「二人でやると、とても楽しいですね」
「ええ」
だから二人は止まらず続ける。
完成した餅は大きな皿へ。食べ方も自由だから……イズレンディルは並ぶ調味料や具材へ視線を巡らせていた。
「お餅も様々な料理があるのですね」
「ええ。どれにしましょう――」
コルネリウスも少々悩ましげにする中、イズレンディルはシンプルな餡子餅を作る事に。
それを眺めつつ、コルネリウスは餅を網焼きして。醤油を塗ってから海苔で巻き、香ばしい磯辺餅を作った。
早速食べると――
「美味しいですね!」
イズレンディルは再び笑顔。
優しい甘さと、出来たての食感が贅沢だ。
コルネリウスの磯辺餅も、醤油と海苔の相性が抜群で。
「もちもちしていて、とても美味しいです……! ディリー、こちらも如何ですか?」
「では、交換しましょうか?」
二人で笑み合って、味わう互いの餅もまた美味しいから。
つい沢山食べてしまいそうで、幸せが溢れる。新しい年の風に撫ぜられながら、二人はそんな時間を楽しんでいった。
歓迎の宴。
その会場は朱の敷物が敷かれた華やかなものだった。
「楽しそうですね!」
訪れたエルナ・クルプファルツは、その雰囲気にわくわくと見回す。
隣に立つレシュノルティア・ピオジェレラもまた……新年に宴を楽しむ文化には、親しみを感じるから。
「楽しみましょ、エルナ、織枝」
「ええ」
今年一年、無病息災で冒険者生活をエンジョイできるように、と。城崎・織枝も応えて皆で席へ。
レシュノルティアが座ると、隣に織枝、そしてエルナも並んで――早速そこへ、おせち料理が供されてきた。
「オセチというのですか! すごく綺麗な箱に入っていますね!」
エルナは早速興味津々。漆と金細工の美しい重箱にまずは目を奪われつつ……料理も初めて見るものばかりで、瞳を輝かす。
「この黒い宝石のようなものは!」
「それは黒豆です。甘くて美味しいですよ」
織枝が言うと、エルナは頷いてぱくり。「ん!」と目を見開いた。
「美味しいです! こちらは……ダテマキと、クリキントンですか!」
それから鮮やかさが美しいその二つをあむり、あむり。柔らかな触感と甘味に、また笑顔を浮かべていた。
「ニシキタマゴも優しい甘さですね!」
「ええ。とても美味しいです」
織枝も頂きつつ……特に選び取るのが海産物。
まずはお目出度いという事で鯛の塩焼きを一口。
「ん、身が柔らかくて……塩加減もいいですね」
立身出世を司る鰤は、旨味の強い照り焼き。更に長寿を願っての海老は、煮物でもプリプリの食感で。
「どれも丁寧に作られていますね――」
「いい彩りよね。私は……これがいいかしら」
と、レシュノルティアのお気に入りは数の子だ。
見目が綺麗なだけでなく、口に運ぶとこりっとした小気味良い食感で。濃すぎない風味に、丁度良い塩味が――
「これは間違いなく、酒に合うわぁ……」
欲しくなる、けれどそこは我慢して。ちらりとエルナを見ると、カマボコやクワイもはむはむと味わっているようだった。
レシュノルティアもカマボコは頂きつつ。
「エルナは幅広く食べてて偉いわねぇ……私は酒に合うものしか食べてないわね……?」
「ふふ、レシュさんはやっぱりお酒なのですね!」
「まあね。お酒は、無いようだけれど……」
「お屠蘇なら出ますよ」
と、織枝がそれを告ぐ。
「様々な生薬を混ぜ込んだ薬草酒です。新年に頂くものです」
「あら、お酒あるのね……」
レシュノルティアが興味を示すと、エルナも「お薬のお酒! シャルガネの神秘です!」と注目。
「健康管理も兼ねますから――」
と、織枝自身も呟きつつ賞味。新年の味を堪能した。
食事も一段落すると、レシュノルティアは伊達巻をお土産に。
「楼で働く子たちにもあげたくなるのよね」
楼主として……或いは姉貴分として、と。
「では、こちらもどうでしょうか?」
と、織枝も栗金団をお勧めして。それぞれにお土産を手に、宴を最後まで十二分に味わっていった。
「ロイこっちこっち!」
テス・クラルスが楽しげに指をさす。
その反対の手に、自身の手を引かれて――ロイ・アウレアも共に書道小屋へと向かっているところだった。
「シャルガネには何度か来たけど、カキゾメって初めてだね」
「ああ――」
テスは応えながらも、にやけ顔になってしまう。
(どれだけ贅沢だ……)
ただでさえ可愛いテスがはしゃぐ姿に、そんな事を思ってしまうから。
と、その内に二人は机につき、指導を受ける。
テスは興味津々で、周りにもキョロキョロ。
「絵筆のような筆記具だね。それに変わった文字だ……」
「そうだな」
ロイも頷きつつ、何を書くか少々悩んだ。
すると隣のテスが「今年の、目標……」と呟きつつ見回して。
「ああ、そうか、そうだね」
ふとロイを見てから、すぐに筆を取った。
「これしかないよ。カンジで書くのは難しそうだから、私達の文字で、と――」
そうして流れるように書き上げたのは――
「ちょっ……」
ロイが赤面したのも無理はない。
テスが照れつつも嬉しそうに見せた文字は――『テス・アウレア』。
「これが私の、抱負だよロイ」
「……ぅっ」
ロイは一瞬、変な声が出てしまう。
婚約した自分達だけれど――どちらの名字にするかとか、家族への報告といった細かい点は未定だったから。
テスがどう考えてるかを知れた、それが嬉しいやら恥ずかしいやらで。
「オレの方が変えても良いんだが……」
なんて言いつつ、その一枚は汚さぬように持ち帰る準備。
「結婚を改めて身近に感じたよ……嬉しいもんだね」
思いながら「テスが二人分してくれたから」と、自身は書かずに満足して――小屋を出ると、翠の園へ。
指を絡めてゆったり歩きながら、テスは微笑んだ。
「ふんわりしていた目標が、見据えるものに変わった気がするよ」
そしてロイを、首を傾げながら見上げて。
「その時が来たら、本当に君のラストネームにしようと思っているんだ……いいかな?」
「ああ」
冬だけれど、ロイは寒さすら感じずに。
「オレの名を名乗って欲しい」
言って、キスを交わす。
新しい年の風が、門出に優しく吹いていた。
新年には、神社も明るく賑わう。
アルバス・ロウルとルルト・アーキスは、そんな中で参拝を終えて――
「それじゃあ、お守り選ぼっ!」
「ああ」
と、楽しみにしていた一角へやってきた所。
御守りは色も内容も多様で、ルルトはわくわく。
「何がいいかな――」
「シャルガネといえば桜だな」
アルバスも言いつつ選んでゆく。桜柄も数あるけれど、迷ったものは一通り購入して。
ルルトも買い終えると、見せ合いだ。
「ボクはこれ!」
じゃーん、とルルトが示したのは桜の花を模った可愛らしい御守り。安全祈願と、様々な縁結びにもご利益があるものを揃えていた。
「かわいいでしょ♪」
「ああ、ルルトらしくて良い」
応えたアルバスの御守りは、戦勝や無病息災のもの。こちらも桜柄を中心に、春夏秋冬の図柄を揃えていた。
「うわぁ……どれも綺麗だね!」
そんなルルトの反応にも、アルバスは満足の心持ちで。
後は羽根付きをして遊ぼうと、歩み出した所で――
「あっ!」
と、ルルトは見知った顔を発見する。
パルドとウォーゼルも、手順を習って参拝に来ている所だった。
手水舎の水に、パルドが触れてみると――
「冷たっ!」
その刺激に驚き、反射的に毛が逆立つ。
「そんなに冷たいの?」
ウォーゼルが覗き込むのに、パルドは頷いて。
「やっぱり冬だなー……」
耳をぺたりと伏せながらも、御手水を完遂。猫のショコラで暖を取ろうとしたら、にゃ~と拒否られたりしているのだった。
そんな様子に微笑みつつ、ウォーゼルもミニコボのチョコと一緒にお清め。
「確かに冷たいね――」
言いつつも手順を済ませていると……突如、首筋に冷たい感触。
「ひゃっ!!」
尻尾の毛がぶわっと逆立って震え、ウォーゼルは思わず首を押さえて周りを見る。
と、首に手を当ててきているパルドと目が合った。
「パールードー……」
パルドがにんまりしているので、ウォーゼルもまた悪戯っぽく笑って仕返し。やり返し、やり返され、暫しじゃれ合うのだった。
それから二人でお参りを終えると――そこでアルバス達を見つけた。
「折角だ。羽根付きで対決しないか」
アルバスが声をかけると、パルドとウォーゼルは見合って「勿論!」と頷いた。
「皆でやった方が楽しいもんね!」
と、ルルトも期待の面持ち。
早速皆で羽子板を持ち、広場で向かい合った。
チームAは、アルバスとパルド。
「頼んだぞ相棒」
「任せろ」
そう笑み合って、二人で構える。
対するチームBは、ウォーゼルとルルトだ。
「よろしくね」
「うん、頑張ろうねー!」
言ってルルトがぽん、と羽根を上げたのが開始の合図。
すると――
「俺が行こう!」
と、まずはアルバスがそれを拾い、高く打ち返してみせる。
それはルルトの頭上を越えたけれど……ウォーゼルがカバー。皆を応援するチョコの鳴き声も、力に変えて――しっかり弾き返した。
そこに走るパルドだけれど……ぎりぎりで落としてしまう。
「あー! 駄目だったか!」
まずはチームBの勝利。
という事で――罰ゲーム。ルルトがアルバスの頬に猫髭を描いてみせた。
「タマさんとお揃いだよ、アルにゃん♪」
タマさんが『にゃー♪』と鳴けば、アルバスも「にゃん」と楽しげに猫の真似。
「似合ってるよ」
と、微笑むウォーゼルは、チョコの手に墨を付け……パルドのほっぺにぺたり、肉球スタンプ。
「上手に描けたね」
チョコが『わふ♪』と鳴くと、パルドも楽しげ。
「これなら大歓迎だ♪」
と、お返しにチョコの頬をちょっと突いて、笑うのだった。
そうしてショコラが羽根を運んでくると――二試合目。今度は逆に、パルドがうまくアルバス達に落とさせて――
「え、ちょっ!? まっ……!?」
慌てるウォーゼルの顔を、パルドが墨で真っ黒に。
「オレとお揃いだ♪」
「お揃いって……ふふ、これはやりすぎでしょ」
ウォーゼルは何だかおかしくて、笑いがこみ上がる。
真っ黒さに「うわわ」と驚いていたルルトも、二人に釣られて笑顔になれば……アルバスもまた笑った。
「思い切ったな! これだけ真っ黒なら厄も寄り付くまい」
それから、自身も筆をとって。
「厄除けと言えば」
と、ルルトの顔に虎柄を描いてみせた。
「可愛くなったな!」
「かっこよくもなったじゃん」
パルドも言えば、ルルトは楽し気に「がおー♪」と虎の真似。
それに皆もまた笑って、明るい気持ち。新年を笑顔で過ごす、そんな時間が何より楽しく思えるのだった。
「にゃ! ハヤト……いつもと違ってキリッとしてる……!」
境内への参道。
サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは……衣装を調えてきたハヤト=ガラン=ヴォルファングに瞳を輝かせていた。
「いつもの野性的な感じもいいけど……紋付袴でちゃんとしてるのもかっこいい……!」
「おう。サフィラこそ振袖似合ってるな!」
と、笑んでハヤトが見返すサフィラもまた――振り袖姿。
緑地に牡丹の柄が咲き乱れる様が、何とも可憐で。
「一段と綺麗だぜ♪」
「えへへ♪ ありがとっ!」
応えたサフィラは上機嫌に、ハヤトと並んで……初詣へ。ハヤトが作法を教えて上げる形で、二人で参拝。柏手を打った。
(ハヤトのパパとママが見つかりますように……)
見つかったら挨拶しなきゃ、と。
思いと共にサフィラが願う隣では――
(今年もサフィラをたくさん笑顔に出来ますように!)
ハヤトも心の中でお祈り。
「にゃ、ハヤトは何をお願いしたのかなっ?」
「さあな」
と、そんなサフィラの問には笑顔で返して……後はおみくじへ。
揃って大吉を引き、『良き一年となる』という文言に笑顔を交わすと――次は餅つき大会へ。
「シーフコンビの高速餅つきを見せたげる!」
「おう、行くぜ!」
つく役とこねる役を交代しながらぺったん、ぺったん、ぺたたたたっ。残像が見えるほどの高速さで餅を仕上げた。
後はもちろん、実食。磯辺焼きに雑煮を手早く用意して。
「ど~だ?」
「ん! 美味しいっ!」
サフィラが笑顔で応えると、ハヤトももちもち食感を味わってご満悦。更にデザート代わりの砂糖醤油やきなこ餅も食べ比べして。
「どれが気に入った?」
「にゃ……どれも!」
サフィラの言葉に、ハヤトも満足すると――そこからまた屋台巡りへ。
「折角来たんだし楽しまね~とな!」
「うんっ!」
二人寄り添い、鯛焼きにたこ焼きにと、美味を味わって。甘く温かく、心までほかほかで……新たな一年へと歩んでいった。
芳しい香りの漂う屋台へ、ヴィナスとルーンス・ラグネルは訪れていた。
最初の用向きは……買い物。
「たい焼きは見つけた。たこ焼きはあった?」
「うん。にいさま」
戦利品を示して聞くヴィナスに、ルーンスも確保したそれを見せて。ヴィナスの持つ麻袋にそれらを入れた後、鍋に纏めてマジカルポケットへ。
ヴィナスはふぅと息をつく。
「カーチャンの指示には逆らえないからね……」
「うん……」
『――たい焼き、たこ焼き、おせちは任せた。確保してなかったらもう料理のレシピ教えてやんねえ』
特にルーンスには低コスパのレシピ沢山教えたんだから働け――と。
そう言って去ったカイン・ステラの顔を二人は思い返す。
「カイン……こういう所がオカンだっていうの、気づいてないよね……」
「そうだね……」
二人で何となく気持ちを共有しつつも――次は自由時間。
別に買ったたい焼きを、お腹いっぱいにならないようにシェア。
「ん、美味しい」
ほかほかの美味にヴィナスが舌鼓を打つと、ルーンスもはふ、と食べて頷く。
「餡は小豆と白でも印象変わるね」
「うん。風味が違って面白い」
応えるヴィナスがおやきを半分こすると、ルーンスは受け取って中を見て。
「大判焼きと似てそうだったけど、中身が色々在るんだね。奥深い……」
きんぴらごぼうの一品を食べると、香ばしさと旨味に満足の吐息。
たこ焼きもまた美味だ。
「お祭りの出店にいいね、型の再現は同盟内だと難しそうだけど」
「タコも手に入らなさそうだけど――他のものにすればちょっとしたおやつにいいかも」
ヴィナスも、ソースの味を楽しむのだった。
後は、宴へ向かうと――おせちセットもヴィナスの分をシェア。伊達巻に黒豆、数の子と風流な味わいを楽しんでいく。
「あっ、これ桜塩使ってるんだ」
ルーンスが鯛の塩焼きの彩りと香りに気づくと、ヴィナスもそれを味わって、「優しい味わいだね」と満足。
ルーンスの分のおせちはというと――
「餅つき会場にいる10代のオカン男子に頼まれてまして」
ルーンスはそんな説明をしつつ、重箱を包むのだった。
カインは餅つき会場に立ち寄り、料理研究。
現場の町人に手伝いを申し出て、共に作業しつつ学んでいた。
「醤油の澄まし汁と味噌汁、両方あるのか……」
見目も香りも、そして味も異なる雑煮を時折味見しつつ――餅も観察。
勿論、餅もただ入れるだけじゃない。
普通に煮るのと、焦げ目がつくくらい焼くのでは香ばしさと食感も変わってくるし――出汁との相性も変わる。
「材料こそシンプルだけどな――」
それ故の機微を感じ取りつつ、カインは一生懸命にメモを取る。
「あ、なんかタレが入ってる小皿がある。これは……胡桃のタレか!」
澄まし汁の雑煮を食べる際につけると聞いて、勿論レシピも教えてもらい……味見。
少しの粒感と、なめらかな旨味が何とも美味で。
「このタレ、隠し味は味噌?」
料理人が頷くと、なるほどなるほどーと頷いて。
「甘じょっぱくて俺は好きだな」
他にも揚げ餅や、酒粕を使った雑煮など、多種の作り方を習得。
「よし――楽しかった!」
満足の心持ちで……兄弟との合流に向かうのだった。
「おー、ここだここだ♪」
ヒロ・テスタロッサが笑顔で見上げるのは貸衣装店。
ふしぎ亭の皆と共に――初詣の前にと訪れた所だ。
「ここではこの季節にフリソデっていうのを着るんだって! みんなで着よーぜー♪」
「いいね」
そう言って店内を見てみるのはルーシカ。
振袖を着るのは初めてだし……飾られているものを見回せば、どれもが華やかだから少し心躍る気持ち。
「皆の振袖かぁ、楽しみだな……」
と、そんな風にララベル・サン・ディーベルもわくわくしていた。
けれど……隣のテュリン・ヴィングが「あら」と目を向ける。
「振袖、ベルにも着てもらうわよ?」
「え? いやいやちょっと待って。僕男……」
「そんなの気にしたら負けよ」
テュリンが言うと皆も当然と頷くので……ララベルは赤面しつつも「じゃあ、初詣の間だけ」と了承。
皆と共にデザインを選んだ、けれど――
「素敵なお客様ですね。着付けはあちらへどうぞ!」
そこで店員が案内。皆と同じ部屋に入れられてしまった。
「あ、あの、僕――」
「まあ、問題ないよね♪」
ララベルは訴えるけれど、隣ではヒロが既に服を脱ぎ始めていて。
「寒いし、早めにしましょ」
アルラ・ニグラスもさらりと服をほどくから――ララベルは「はわわ」と背を向けるばかりなのだった。
それでも何とか着付けて外に出ると……皆も終えて出てくる。
「振り袖って動きにくいけど綺麗でふわふわするね」
そう言ってくるりと回ってみせたのは、アリエッタ。
淡い色使いがなんとも可憐な、桃の花の柄の振袖姿で。
「どう?」
はにかんでみせると、ララベルは少し見惚れてから……うん、と頷いた。
「凄くよく似合ってる」
「ありがと」
アリエッタが笑み返すと……皆も登場。
アルラは瑞々しい萌木色の振袖で、「こういうのもいいわね」と、胸元の窮屈感と感動を味わっている様子で。
「特別感というものを感じるね」
自身を見下ろすルーシカのものは白を貴重に、雪の華の柄があしらわれている。
ヒロは紅色が新年らしい華やかさで――テュリンは金糸の花が美しいデザインだ。
「皆、本当に綺麗だよ」
と、そう言うララベル自身もまた、薄紅の花柄が可憐な振袖姿なのだった。
参道は賑わいに満ちている。
「結構人が多いわね」
テュリンの言葉に、アリエッタも「うん」と興味津々に見回して。屋台に買い食いに走りたいところだけど……綺麗な服なので今は我慢だ。
そうして列が進むと――皆で拝殿へ。
「立派なものだね」
ルーシカが言う通り拝殿は荘厳だ。
そこに皆で二礼二拍手一礼。
テュリンは『魔術師としてもっと成長出来ますように』と祈りつつ……本命として『これからも皆と過ごせますように』とも祈願。
同じく、ララベルが『今年も皆と幸せに過ごせますように』と願えば――アリエッタもまた、今年もララベル達と一緒にいられるようにとお願い。
アルラも『今年は皆ともっと親密になれますように』と祈り――皆と笑顔を交わしていた。
ヒロもルーシカと共にお祈りを済ませて歩み出す、と。
「あれ何? オミクジ?」
と、御神籤を発見。
「へー、運勢がわかるんだ、やってみようよ♪」
「良いわね。それじゃ、順番に……」
アルラがまず引いてみると――
「あら、大吉よ。これが一番みたい」
「面白い運試しだね。それじゃボクも」
言って、ルーシカも引いてみるとこちらも大吉。研鑽を欠かさぬ事で順風満帆な日々が訪れるという文言を、心に留めた。
「私は吉。まずまずね」
と、テュリンがそれを示せば――ヒロは大吉。
「おっ、良いやつだよね。やった♪」
「僕も大吉だったよ」
それにララベルが微笑んで返せば、最後に引いたアリエッタも大吉。
「みんなよかったね」
アリエッタの言葉に皆で頷いていると……アルラはふと、先刻からの窮屈感が若干増してきたような気がして。
「胸元がきつくなってきた……ちょっと緩めてもいいかしら?」
くいっと緩めて、豊かな谷間を少々露わにした。
するとララベルが思わず目をやってくるから、微笑み返す。
「そんなに気になる?」
「い、いやっ……その、ごめん!」
ララベルはびくっとして、大きく後ろに向いた。と、その勢いで今度は真後ろにいたヒロに頬同士がぶつかって……抱き留めてしまう形に。
「おや? ベル君、急に?」
「そ、そうじゃなくて……」
ララベルは再び謝ってから離れようとする。
が……次は慣れぬ振袖に足を取られて転倒。思わずアリエッタを後ろから抱きしめながらごろごろと転がった。
「ララベル、大丈夫?」
「う、うん。ごめん……」
ララベルは何となく情けない気持ちで、触れていたアリエッタの胸から手を離し、ようやく立ち上がろうとする。
そこでふわりと、顔に生地の感触。
「……まぁ、分かってたわ。初日の出、初詣ならぬ初ラキスケね」
頭上からテュリンの声。
ララベルは丁度、テュリンの股下に頭から倒れ込んでいたのだった。
「おみくじにも注意は書かれてたけど、こればっかりは避けようがないのよね――」
「わっ! ご、ごめん!」
ララベルは真っ赤になって起き上がり……ため息をついているテュリンにまた何度も謝るのだった。
「ん、美味しいね」
ルーシカは七草粥を口に運び、その温かさに微笑み。
境内で供されているものを頂いているのだ。
仄かな塩味と、淡い香りが風流で美味で。
「作り方は覚えたから、来年はボクが振る舞ってあげるよ」
「わぁ、楽しみにしてるね」
アリエッタもそれを頂きつつ……たい焼きもはむはむ。ヒロが出店を巡るので、一緒に買ってもらったのだった。
そんなヒロは甘酒を持ってきて一口。
「ほんのり甘くて体あったまるね。ほらほら、ベル君も♪」
「あ、ありがとう」
ヒロの飲んでいたものを渡され、ララベルは赤らみつつもその美味を楽しむのだった。
そうして寛いだ時間の後――ララベルはおそろいの御守りを買って、皆にプレゼント。
「今年も宜しくね」
皆の頬へキスを贈ると、ルーシカも笑みを浮かべて――「今年も1年よろしく」の意味で、頬へキスを返す。
「それじゃ、街も見ていきましょ?」
テュリンが言うと皆も頷いて……再び歩み出してゆく。
「ここか」
小綺麗な店構えの酒屋を見つけて、スー・ルーは足を止める。
入るぞ、と目を向けて……連れ立つのがパヴェル・A・サムルガチェフ。共に店に入ると、多様な銘柄の酒瓶を眺め始めていた。
目的は他でもない、買い物。
正確にはスーがパヴェルへ贈る物を見繕う機会。
事あるごとにパヴェルに贈り物を貰っているから――同じだけ返さないと割りに合わない、という理由だ。
だからパヴェルの好きな酒なのだが……スー自身は飲まないから良し悪しも判らず、後は本人に任せるつもり。
「俺が買うから、お前は選べよ」
「おぉ。本当にいいのか?」
「ああ。いろいろ書いてあるけどよぉ……俺にはなにが違うのか、さっぱりだからな」
スーの言葉にパヴェルは「悪いなぁ」と言って――店員のお勧めを幾つか試飲。銘に町の名が入った、その名も『倭桜』を記念に選んだ。
「ありがとうなぁ」
「気にするな。それが一番良かったのか?」
「あぁ。飲んでみたらどうだぁ?」
スーが首を振って遠慮するから……パヴェルは改まって聞いてみる。
「なぁ、なんで酒を飲まないんだ?」
「いや……」
スーは言い難げに、少々困り顔を見せた。
「水の方が美味いだろ、舌もびりびりしねぇし……」
でも、と酒瓶に視線を巡らせる。
「お前が好きなものなら美味いのかもな」
と、自分も小さな一つを、記念に買ってみたりして。店を後にすると、またぶらりと二人で歩み出した。
「あっ、貸衣装屋さんもあるんだ」
これは見過ごせない、と。
エヴァン・ピオネロと共に神社の傍にやってきたアルマ・ヴァレンタインは、その店に早速寄る事にしていた。
「どんなのがいいかなー」
「ぼくのは、アルマの好みで選んで下さい」
エヴァンがそう笑むと、アルマは頷いて沢山の衣装から選択。
着替えて出てきたエヴァンは――
「大人っぽくて似合ってるよー、ハイカラさんって感じ!」
アルマが笑顔で迎えるその衣装は、シックな着物にトンビコート。モダンで洗練された印象だ。
「ボクも可愛いの選んでくるね!」
と、自身も着替えて出てきたアルマは――
「お待たせー!」
言ってくるりと回る姿も可憐な、花柄の着物姿。
色は明るめで、アルマの丈にしっかりあっているのが可愛らしい。帯や半衿にも上品な桜があしらってあって。
「シャルガネの女性衣装は華やかなのですね……とても可愛いです」
エヴァンは照れながらも、素直に言ったのだった。
それにありがとう、とアルマが笑み返して――二人は初詣へ。手順を教わって二礼二拍手一礼。
――エヴァくんともっと仲良くなれますよーに。
アルマがそう願えば、エヴァンも二人が出会えた感謝を述べてから――『今年も仲良く過ごせるよう見守ってください』と祈ったのだった。
その後はおみくじを引いてみる、と。
「あっ……凶?」
「ぼくも、凶……」
二人で見合う。
曰く『試練が訪れる』そうで……何か二人を試す出来事が起こるのかも知れなかった。
何にせよ、良い運勢とは言えないので――
「利き腕と反対の手で結べば、凶を吉に変えることが出来るそうです」
「そうなんだ! エヴァくん物知りー」
という事で近くの木へ。
ただ、既に沢山のおみくじが結ばれていて隙間が少ない。
「高い位置なら空いてますね」
と、思案したエヴァンは、アルマを抱き上げて。
「これでどうですか?」
「わっ、たかいたかーい! ありがとー!」
アルマははしゃぎつつ、二人分を隣同士に結びつけたのだった。
これで、安心。後は七草粥の素朴な味を楽しみ、更に屋台へ。新年の時間を、二人で目いっぱいに楽しんでいった。
「わ! これ可愛いさぁ♪」
声が華やぎ、笑顔が零れる。
フリューリングスルフト=ティエラは貸衣装店で袴を着付けていた。
姿見で見ると鮮やかで、上品で。
気に入ったので購入もすると――
「これも素敵さぁ」
一緒に借りた番傘を手に、扇も挿して……風流な佇まいで参拝へ。
――新しい一年の日々を、健やかに過ごせますように。
これまでの日々に感謝を、これからの日々に願いを込めて。
「あ、風より疾くなれますように」
と、付け足しつつ……終われば散策。
人の声、琴の音、鹿威し。響く音に酔いながら翠の園へ。
「お酒はまだ飲めんけど……きっとこれからもうちを一番酔わせるのは音なんやろうなぁ」
風に踊る冬花に合わせ、自身も番傘をくるりと回し。
浮かぶ音を言葉に換えて。
『日々に区切りをつけましょう 過ぎた日々に感謝を これからの日々に祝福を』
扇を開き、舞踊し歌う。
『澄んだ空に響け声 広がれ笑い声 届け願い』
扇に声や願いを乗せ、空へ贈るように。
軽やかに、優美に。その舞いと歌が新年を彩っていた。
石畳の参道を歩み、途中にある社を眺めてゆく。
ミア=リゼルは明るく賑わう神社へと、初詣に訪れていた。
「シャルガネで神様に参拝するとなると、こういう形になるのですね……」
何とも趣深い景観と、教わった手順に興味深い気持ちを抱きながら――辿り着いた拝殿で参拝。
「ええっとお辞儀をして……お賽銭を」
そして二礼二拍手一礼をして。
――今年こそ、せんせいと出会えますように。
ミアは真摯に願う。
(……せんせい、今どこにいるんでしょうか)
静かな感情が渦巻くけれど――
「……聞き届けてくださり、ありがとうございます、神様」
しっかりと最後にお辞儀をして。
「さあ、次はおみくじを引きましょう!」
気持ちを新たに運試し。
早速御神籤を引くと……ヤマネのアビが興味を示した。
「アビさんも気になりますか? では、開封をお願いします!」
それに尾を振って、アビが開けると――大吉。
「良い運勢なのですね……!」
ミアは嬉しい気持ちで微笑んで。それを手に、新たな一年へと歩んでいった。
「確か……賽銭を入れてから、鈴を鳴らして……と」
鈴緒を引いて、清廉な音を鳴らす。
ロゼットは神社へ初詣に訪れている所。
前回も訪問はしていたので、覚えている手順通りに二度拍手を打って――
(……西のシグモル火山から参りました。ロゼットと申します)
そっと目を閉じ、心に紡ぐ。
(今年は私の故郷が災難に見舞われています)
思いながらも、ロゼットはただ救われる事を請いはしない。
(偉大なシグモル様が遺したものは必ず、守ってみせます)
――どうか私たちとボルガニスク様を、お見守りください、と。
それは祈りであり、意志であった。
「……よし。神前に誓いを立てて、自身への励みとする――この信仰のあり方は、遠いこの土地でも変わらないのね」
だからこそ、ロゼットは迷わずそれを誓えた。
「さ、七草粥というのを頂いてきましょ」
楽しみだわ、と。
後は心新たに七草粥を賞味。
素朴ながら、連綿と受け継がれてきた優しい味を楽しんで――新年の時を過ごした。
冬の花が優しく揺れる、翠の園。
折に触れて訪れているそこへ、恋人達はこの季節もやってきた。
「なるほど、冬なのでどうなのだろうと思っていましたが……かなり咲いているのですね、この時期でも」
言って視線を巡らせるのはキーゼ。
そっと隣を歩むネーヴェ・グラヌローザは――言葉に「ええ」と頷く。
「流石に種類は少ないようですけれど、その分、色鮮やかで目を惹きますわね」
葉牡丹、黄梅、山茶花。
他の季節とは違う、園の冬の佇まいをゆっくりと眺めながら。
「周りの色が少ないのもあり、良く映えると申しましょうか」
それは寒空だから生き生き咲いているように見えて。
キーゼも「そうですね」と応える。
「この地域だからこそなのかも知れませんね」
耐え忍び芽吹かないイメージの強い花々が、力強く咲いている――その様に感心したように。
ネーヴェも心同じく、穏やかに笑んで。
花に顔を近づけて、その匂いを楽しみながら。
「良い香り――」
ふ、と吐く息は白く。
それが燦めくように空に昇るのを見ると――キーゼはもう一歩、傍に近づいた。
「たまには腕をつないでみましょうか」
そうして腕を取られれば、ネーヴェは自分からもぎゅっと絡めて。
「ふふ、温かいです」
触れる優しい温度が、何より心地よく。
キーゼも表情を和らげて、そのまま歩みを続ける。
「このところ、ゆっくり時間を取ることも難しかったですからね、今日はのんびり見て回りましょうか」
「こういうゆったりとしたひと時も暫く振りですものね」
応えるネーヴェは、甘えるように肩に頭を軽く乗せて、寄り添う。
「今日一日は私に下さいましね」
「ええ」
寒かったら言ってくださいね、と。
キーゼは中に入れるよう、外套を少し開ける。
微笑んだネーヴェは――少し考えてからおもむろにマフラーを外してキーゼの首元へ。巻いてあげてから、キーゼの外套へ入った。
「これなら二人共暖かいと思いますわ」
見上げての笑顔に、キーゼも「確かに」と瞳を穏やかに細めて。
二人で冬の道を、暖かに歩んでゆく。
アルフィー・リッパーとアーシェル・G・クラインは、共に着付けを済ませた所。
「シャルガネではこれが正装なんだな」
着慣れぬ紋付袴に、アルフィーは尻尾を仄かに左右に揺らしつつ。アーシェルを見ると、精悍且つ上品な成りで。
「あんたはどんな服も着こなすな……」
「アルこそ良く似合ってる」
男っぷりが上がったな、と。
アーシェルもアルフィーの雅さを満足気に見つめ、その頭をわしゃっと撫でているのだった。
それから二人は散策を始め……広場で羽子板を手にする。
「負けた方が奢るっていうのでどうだ?」
「構わないぞ。真剣勝負だな」
言ってアーシェルは、こつん。羽根を打ち上げる。
打ち返すアルフィーは、身軽さで翻弄しようとする、が……いつもと服が違う為か。
「わっ!」
転びかけて羽根を落とした。
そうなれば勿論、墨で顔に落書き。アーシェルが一筆終えると――アルフィーは次は負けじと、急角度で羽根を打って。
「おっ、と」
今度はアーシェルが落とし、アルフィーが筆をとる。
そんな事を繰り返すと――
「ひっでぇ顔だな ほら鏡を見てみろよ」
アーシェルが映すアルフィーの顔は墨だらけ。
ただ、アーシェルの顔もそれは同じで。
「おいこらアル、いつの間にか猫髭も書きやがったな……!」
「これで猫の仲間入りだろ?」
アルフィーが笑いを堪えつつ言うと、アーシェルも吹き出して。暫し笑いが止まらないのだった。
「くっ……ははっ。あー腹痛ってぇ……。で、結局どっちが勝ったんだ?」
「これは、引き分けだな」
という訳で、仲良く屋台へ。
アーシェルは焼き鳥に牛串にと、次々に肉をチョイス。
「肉ばかり食うな! 野菜も食べろ!」
アルフィーが言うと、アーシェルは少しだけ野菜も入っているからと何とか許してもらい……美味を堪能。
アルフィーも付き合ってそれらを買いつつ、楽しんで。
アーシェルがたい焼きを買ってくると、その甘味も味わいながら、並んで歩む。
「アーシェル、今年も……側にいてくれるよな?」
「ああ。今年もよろしくな、アル」
明るい空気が流れている。二人はそんな日を、緩やかに過ごしていった。
鳥居をくぐり、賑やかな参道を並んで歩む。
御邑 奈月とシモン=プレーディは一緒に初詣に訪れていた。
「寒くない?」
風がまだまだ冷たい季節。
シモンは言って奈月の肩を抱きながら、風よけになってあげる。
「は、はいっ……」
奈月は恥ずかしいながらも、嬉しくて。寄り添う形で……共に参拝。
「また新しい一年をナツと迎えられるのは嬉しいよ」
来年も、またその次の年もそうやって過ごしていきたい。
思いと共にシモンが祈りを済ませれば、奈月もまた同じ気持ちで、二礼二拍手一礼を済ませたのだった。
その後は宴へ。
「わ……彩り、豊かです……」
並ぶおせちに奈月は瞳をきらきら。
シモンと隣同士で座って味わえるから、それが嬉しくて。甘いものにも目がないゆえに、栗金団や黒豆を口に運んで満面の笑み。
「わふ~♪ と、とっても、美味しい……です♪」
「本当だね」
と、シモンも数の子や海老を食べて満足。
伊達巻も甘めで美味だったから――
「こっちのも美味しいよ。取ってあげようか」
「……は、はひ……」
奈月が頷くと、シモンはそれをお箸で掴んで口元へ。
「はい、食べさせてあげるね」
「よ、よろしゅくお願い……しま、ふ」
奈月は心臓が高鳴り、耳まで真っ赤になりながら――それでもあむりと食べて。
「……お、美味しい……♪」
「良かった」
シモンが笑むと、奈月は今度は自分のお箸で栗金団をお返し。間接キスだと意識すると緊張してしまうけれど……しっかりシモンに食べさせてあげた。
それから「少し運動を」と理由をつける形で、奈月はシモンを連れて翠の園へ。
「とっても、綺麗、ですね……」
「うん」
澄んだ空気と花の色彩を楽しんで、散策を。
途中でシモンに手を握られると、どぎまぎしてしまうけれど。
「……はぅ…」
それでも自分もそっと、握り返して。温かな心で歩んでいった。
初詣を済ませたジル=クィネルと御邑 都は……都の見つけた書道小屋に立ち寄って、書き初めをする所だ。
「んー、抱負か……」
ジルは少々考えてから筆を動かす。
字を書くのは得手でも不得手でもない。故に出来映えを意識し過ぎる事もなく――さらさらと筆を滑らせて、『笑顔』の言葉が完成。
「よし、っと。どうだ、ヤコ?」
と、隣を見ると、都は紙を前に固まって動いていなかった。
あれこれ考えているようだ。真剣な様子に、ジルは苦笑して……暫し見守る。
すると――
「あっ、そうだぁ~」
都は結論に至ったように、一筆。
「できたぁー!」
と、ジルに見せたその達筆な文字は――『家内安全』。
「……悩んでそれかー」
それを書くのは俺の方じゃないかなあ、と。
ジルは心に思いながらも、「ほら、ヤコ」と、都の顔についた墨を優しく拭ってあげた。
「……おー! ありがとぉーねぇ~♪」
ほにゃあと笑う都を見ると、ジルも表情を和らげて。
(うん、やっぱりこいつの笑顔は好きだなあ)
思いと共に、書を手にして小屋を後にする。
その後も、都の足の向くままについていく。すると広場で遊ぶ子供達の声が聞こえて……立ち寄ってみる事に。
「ああいうの、昔よくやったな……いや、昔ってほどでもない、か」
コマを回す子供を見つつ、ジルは呟いて……折角だからと自分も参加。
「こうやって、と」
感覚は残っていて、一気に紐を引くと……コマが勢いよく回った。
「おー! ジルちー器用だねぇ~。すごぉーい!」
「やってみるか?」
ジルが手取り足取りで教えてあげると、都はふんふんと頷いて見様見真似。
「……なるほどぉ~……こーかぁー!」
言って、コマを放つと――それはころころと縦に転がってしまったけれど。
「ここをこうして……」
と、もう一度教えると今度はうまく行って、笑顔を交わし。
「次は凧だ」
「……おー、高ーい!」
二人で空に凧を揚げて……その楽しさに、また笑み合うのだった。
香ばしい匂いに、鉄板からじゅうじゅうと響く音。
水瀬・希と共に屋台のある通りへ訪れたレイラ=ルナフィニスは……並ぶ食べ物の物珍しさに、思わず目移りしていた。
「あちらも、こちらも、故郷には無い物ばかりですわ♪」
「こげん場所は初めてと?」
なら、と。希は頼れる声音で歩み出して。
「ウチが美味か思っとーもんを、御馳走しちゃあ♪」
早速、目についた物を買ってあげる事にする。
最初は、たい焼きだ。
「ほら、熱かうち、食べるとよかよ♪」
「まあ! 頂きますわね!」
受け取ったレイラは、見た目にも楽しみつつ……あむり。
かりっとした香ばしさと――甘味に少々、目を見開いて。
「これ、中身は魚ではありません……の?」
「餡子ば、言うとよ」
そんな情報にも感心。改めて美味を堪能すると――次にたこ焼きを実食。
「どーやか?」
「……はふ、はふ……」
たこ焼きの名に首をかしげていたレイラだが……その理由もすぐに分かって。
「ん、これは蛸が入ってますのね? なるほど♪」
と、その歯ごたえに納得の心持ち。
濃いめのソースと青のりの風味も、相性ばっちりで……美味を存分に楽しむのだった。
それを見ていると、希も楽しくなって――次には大判焼きを。
「美味かねぇ~? レイラ」
「もぐ、もぐ……これも美味しいですわ。ほくほくして美味です♪」
と、優しい甘味にレイラも満足の面持ちだった。
途中で緑茶や麦茶、さっぱりとした飲み物で喉を潤しつつ、希もまたたい焼きやたこ焼きを共に食べ歩いて。
最後はぜんざいで体を温めて、小休止。
「満腹やね~」
希は言いつつ、ふとレイラを見る。時折上の空らしかったからだ。
ただ、その理由は判る。
レイラは……恋人の事を考えているのだ。
「……♪」
ついついその顔を思い浮かべてしまう、そんなレイラは幸せそうで。
「よかねぇ~♪」
その顔を見る希もまた、幸せを分けて貰った気持ちで――ゆるりと時間を過ごしていく。
まずは氏神様にお参りを――と。
エルシー・サリバンとハル・チフは二人で神社を訪れていた。
「いい天気で良かったのです」
「うん、そうだね」
エルシーは頷いて、手を合わせて。
(睡狼の皆が無事に過ごせた1年をありがとうございました)
お礼を伝えてから願う。『今年も無事でありますように』と――そして『ハルと仲良く過ごせますように』と。
ハルもまた、『今年も1年、エルと素敵な日を重ねられますように』と祈り、隣を見る。
そこに、目を閉じて祈る恋人がいて。
(昨年はなんて幸せな年だったんだろ)
だから今年ももっとエルシーと共に幸せになれるといい……そう願った。
それから共に散策に出る、と。
「空になにかが浮いてます。行ってみましょう!」
ハルが空に揺れる影を見つけ、ぱたぱたと駆け出す。
エルシーも急いで続いた。
ジャケットとセーター、自身の活動的な服装を見下ろしながら。
(着飾らなくて良かったな)
と、くすくすと笑みを零したりして。
広場に着くと、それが凧だと判明する。
「面白いのですよ! エル、一緒に作ってみませんか?」
「うん!」
という訳で制作。
ハルの凧は三角形で紅から黒へのグラデーションをあしらって。
赤いファー尻尾をつければ――
「エルシー号なのです!」
それにエルシーはまたくすくす。照れくさいけれど「嬉しい」と微笑んで。
「私も――」
と、エルシーが作るものも黒で、耳がピンと伸びて、金の瞳で……。
「あれ、黒猫になっちゃった。……でも、これはハルなの!」
「ふふ、エルが言うならそうなのです」
そして完成後は空に揚げる。
「空の青と合わさって、とても美しいのです」
「――あ、並んだー!」
エルシーが沢山の凧と絡まぬよう、隣同士に近づけると……ハルも嬉しそうに、また笑みを交わしたのだった。
凧を回収した頃には夕暮れで――二人は帰路につく。
「楽しかったね」
「はいっ」
応えながらハルは隣の横顔を見て。
「エルは……夕日も似合うなんて反則です」
思わずそっと頬を撫で、キスを。
エルシーもキスを返し、寄り添って歩む。そんな二人の影が、暮れに長く伸びていた。
「綺麗なデザインね」
エミリア・シバは貸衣装店にて着付け中。
手伝ってもらいながら襦袢を来て、振袖を着て。帯の巻き方も見つつ、自身を姿見で確認している。
花菖蒲が上品な、紫地の柄だ。
目立たぬ程度の金糸も何ともあでやかで、気に入った。
「上品だし、場所を選ばなさそうだわ」
故に購入もしたいけれど――
「これ、練習しなきゃ駄目そうよね」
という訳で今回は借りるだけで我慢。また来ようと決めて、神社へ向かった。
参道は賑わっていて、皆着物で風流。そんな中、拝殿の前に立ったエミリアは賽銭を入れて手を合わせ――
(今年も冒険者家業を一生懸命やるので、美味しいお酒ともめぐりあえますように!)
お願い事というより自身の決意を見守ってもらうのがいい、と聞いたので……そんな思いを心に唱えつつ。
終わると御神籤を引いて、大吉を得る。
「幸先が良いわね。後は……そうだ、お屠蘇ってやつを頂きに行きましょう!」
という訳で、宴へ。
薬草の香味が豊かな酒を楽しんで……一年の景気づけとするのだった。
「今年も人が多いですね!」
やおよろず亭は、初売りから繁盛の兆し。
午前中から多くの客が訪れて――フラム・アニムスは忙しく立ち回り始めていた。
「大福さん、一緒に頑張りましょう」
腕捲りし、とびきりの笑顔でサムズアップするフラムに、大福も「勿論なのだ!」と元気に答えて。
「いらっしゃませなのだ~!」
ブローチ、簪、キーホルダー、首飾り、腕輪。二人で作った雑貨を売ってゆく。
フラムの個人スペースも千客万来で、特に桜ジャムをサンドした手作りクッキーが好評。
大福が「子供の健康祈願と魔除けのお守りに」と作った犬張子も、注目を浴びていて。大福に似ているからか……子供達には本人含め、人気になるのだった。
ハズレなしのくじ引きで、熊手や達磨も当たるからと――商品は次々に完売。
「ありがとうございますなのだ~!」
「……お疲れ様でした!」
一段落つくと、フラムは大福と共に客を見送り……自分達も散策に出た。
向かったのは書道小屋。
「んー、ここはやっぱりこれかな…」
フラムが思案しつつ筆をとると……隣では大福も筆を握っていて。
「ふ。大福は少し大人になって新しい字を覚えたのだ」
勢いよく、太く、多少不格好ではあるけれど――『粽』と書いた。
「粽が戦ってる所を表現してみたのだ」
えっへんと胸を張ると、最後に『大福』と名を記し……肉球をぺったん! わふ、と粽も満足気に鳴いて見守るのだった。
「そういえば、抱負や目標を書くものだったのだ?」
「好きな事で良いんじゃないですか? 俺は、これです」
言ってフラムが見せたのは『来福』の二文字。
「へへ、一文字お借りしちゃいました♪」
「何だか嬉しいのだ!」
と、それに大福も喜ばしげなのだった。
夕刻には、桜の提灯片手に初詣。
(これからも大福さん、粽さんと一緒に楽しく過ごせます様に)
フラムが祈れば、大福もまた『今年も皆元気で過ごせますように』と祈りを込めて。
(強くなって皆を守れるシューターになれるよう頑張ります、なのだ)
と、そんな誓いも立てるのだった。
「おみくじ、引いていきませんか?」
「賛成なのだ!」
ということで二人で引くと、共に大吉。
フラムはそれを財布に大事にしまうと、桜印のお守りも購入。
「今年も楽しくなりそうですね!」
笑顔を見せると、大福また頷いて。二人はまた新年の道へと歩み出す。
仄かに漂う甘い香りに、再び惹かれるように。
エル=バ=ノイアンとシルヴィア・A・カペルはその甘味処へと訪れていた。
「何にしようか」
「そうだな――」
共に席について、二人で選び始める。
ノイアンの衣装は、雅な松葉色の紋付袴。シルヴィアも花柄の振袖に、アップスタイルのラフな編み込みで……上品で、可憐。
故にだろうか、決めた品も正月使用の練りきりと抹茶。可愛い花の形と、深く鮮やかな緑を、二人は暫し眺めた。
「ここの甘味は見目も見事だね」
「ああ」
そんな短い遣り取りに、感じるのは穏やかな空気。
その心地に、ノイアンは言った。
「前訪れた時は、皆で……だったが。二人きりというのも、悪くないな」
「そうだね。時間が緩やかに流れている気がするよ」
シルヴィアも応えて実感する。
(あの時とは関係性が違うんだな)
そう思うとつい、微笑が零れて。
ノイアンは少し、それに目を向けてくるけれど――
「いいや、何でもないよ」
言ってシルヴィアが、練りきりの甘さと抹茶の渋さを楽しむと……ノイアンも「そうか」とだけ言って、自身もまた美味を味わっていた。
その後は、二人で梅を眺めながらのんびりと過ごす。
「ここは……良いところだ」
優しく風に揺蕩う枝に、ノイアンは口を開いた。
「……状況が許せば移住したいくらいだな」
もちろん、それは叶わない。カペルと運命を共にするという彼女の、その生き方を支えようと思ったから。
ただ――
「……ああ、俺が出世して別荘を持てば良いのか」
なんてな、と。
それは半分冗談のつもりでもあったけれど。
「成程、それは良いね」
シルヴィアは驚きつつも、すぐに頷いていた。
「どの辺りに買おうか? 花が咲く場所が良い」
「……出来るとは、限らないぞ」
「君なら間違いなく叶えるだろう」
だから、「今から色々と考えておかないとね」と笑んでみせる。
ノイアンの想いが嬉しくて……彼と共にいるために力を尽くそうと、改めて思ったから。
ああ、とノイアンも頷く。
その先に、共に歩む未来があると思えた。
「餅つき、か」
活気に溢れる餅つき会場へと、だわはサラと共に立ち寄っていた。
以前シャルガネ辺りまで来た時も、餅は食べた事が無かった。
だから丁度いい、と。
だわは早速小さい臼を借りて、蒸した餅米もセットする。
「これをつけば出来るんだったな」
「ん。……頑張る」
サラは初めての機会にちょっぴり緊張しつつ……それでもぐぐ、と拳に力を込める。
それから餅米に触れようとすると――だわが止めた。
「待て、何故手を入れる?」
「……え? こうやるんだ、って、教えて貰った、よ? 合いの手、って言うんだ、って」
「そういうものなのか」
だわも詳しくない身としては、成程と頷くしかない。
「これは怖いな」
「怖い、かな」
サラは、少しだけ同意するように言う。
「……でも、ね、大丈夫。いざって時は、えいやって、かわすし、ヒールもする、よ。だから、一思いに、どうぞ」
「分かった。止めてほしかったら言ってくれよ」
「……ふふ、だわおにいちゃん、優しい、ね」
そうして二人でぺったん、ぺったん。
幸いにもスムーズにつき終わり――
「わぁ、完成だ、ね!」
「お疲れ様。ここで頂いていこう」
と、だわがお皿に載せ、茶も貰ってきて食事の準備。サラはわくわくと見つめる。
「ぺたぺた、モチモチ、どんな味、かな……」
「色々と調味料もあるな」
「わたし、甘いのが、いい。……きなこに、あんこ?いい匂いだ、ね」
という訳でサラはそれをつけて実食。
「……わ、みよーん、って、のびる」
「確かに……の、伸びる。面白い食品だな……」
「うん。それに……ふふふ、おいしい、ね」
サラはもちもち食感にご満悦。きなこの芳しさと餡子の甘さにも表情を和らげていた。
だわはプレーンで食べてから、次に磯辺焼き。
海苔と醤油が何とも相性抜群で。
「……うん、これも美味い。そっちはきな粉と餡子、か」
「うん、わたしもだわおにいちゃんの、食べてみたい、な」
「ふむ。……少し交換しないか?」
「……ありがとう、いただきます」
と、最後には交換してお互いのも味わって。
「こっちも、いい匂い」
「美味だな」
穏やかな風の中、美味を沢山堪能して。二人で長閑な時間を過ごしていった。
長閑な広場にて、羽子板を握っているのはヨル・スレイマン。
こつん、と羽根をつく仕草に――向き合うナハシュも「ああ」と頷く。
こちらも羽子板を手にしていて……共に着物も召しており、一見には風流な大人の遊びのひと場面、だけれど。
「手加減はなしでいいんだな」
「ああ、体が鈍っても良くないしね」
ナハシュの問に答え、ヨルは構えを取った。
それに、と言葉を続けて。
「よく動いた後の酒は美味い。そうだろ?」
「違いねえ。負けた方が奢りだからな?」
言い返すナハシュもまた、腰を低く落とす。
瞬間、ヨルが一打、強烈なスマッシュを放った。
そう、それは酒を賭けた――大人げない本気の勝負。
「!」
ナハシュはその威力に目を見開く、が。
「お返しだ!」
こちらもまた体を捻り――来た以上の速度で打ち返す。
それは剛速。だがヨルは勝利眼で動きを予測。先んじて板を出して弾き返している。
「速度だけじゃだめか。なら!」
ナハシュは上半身がはだけるのも構わず――宙を駆けて廻転しながら打った。
ヨルはすんでで届かず、羽根を落とす。
「じゃ、顔出せ」
と、落書きタイム。ナハシュはヨルに丸やバツを書き込んでいく。
ヨルは甘んじて受けながら――次は大きく別方向へ羽根を打った。ただ、ナハシュも高々と跳んで対応してくる。
「流石の足だな」
「ガチでやれっつったのはそっちだからな」
「なら――」
と、ヨルは次のターンで光縛封。動きを抑えて羽根を落とさせた。
「うぉっ! 卑怯だぞ!」
「こっちもガチだよ」
というわけで、今度はヨルが落書き。
そんな事を繰り返している内に――
「はははっ!」
ナハシュは墨だらけのヨルの顔に笑いを零す。
ただ、それはヨルの方も同じ。
「そっちこそもう書く場所がないよ」
と、落書きだらけのナハシュの顔に笑いを堪えきれなかった。
「この辺にしておこうか。笑って勝負にならないよ」
「だな。んじゃ、一汗かいたことだし飲みに行こうぜ!」
はー笑った、と伸びをするナハシュは――また期待の表情になって。次の楽しみへと、ヨルと共に歩み出してゆく。
愉しげな掛け声と、ほわほわと空に昇る白い湯気。
「ネリー、見て下さい」
イズレンディル・パラリムはコルネリウス・アーラの手を優しく引いて、餅つきの会場を訪れている所。
「大きな臼がありますよ!」
浮き立つ気持ちでそれを望むと……コルネリウスも迫力あるその造形に興味津々。
「シャルガネにはまだまだ初めてのものが沢山ありますね――これで、お餅をつくんですか?」
「ええ、やってみましょうか!」
異文化の初体験。
それにイズレンディルが楽しそうな表情だから、コルネリウスもまた嬉しくなって、「はい!」と声音に花咲かせた。
手順を教わると――イズレンディルは成程と応える。
「二人でリズムよくつくものなのですね」
「上手くできるでしょうか……?」
いざ杵を持ってみると、その重さにコルネリウスはドキドキ。それでも頑張りましょう、と伝えるとイズレンディルも笑顔で頷いた。
そうしてぺたん、とついてはその合間に餅を返し。
二人で交代しつつ、慣れないけれど一所懸命。
何よりも――
「二人でやると、とても楽しいですね」
「ええ」
だから二人は止まらず続ける。
完成した餅は大きな皿へ。食べ方も自由だから……イズレンディルは並ぶ調味料や具材へ視線を巡らせていた。
「お餅も様々な料理があるのですね」
「ええ。どれにしましょう――」
コルネリウスも少々悩ましげにする中、イズレンディルはシンプルな餡子餅を作る事に。
それを眺めつつ、コルネリウスは餅を網焼きして。醤油を塗ってから海苔で巻き、香ばしい磯辺餅を作った。
早速食べると――
「美味しいですね!」
イズレンディルは再び笑顔。
優しい甘さと、出来たての食感が贅沢だ。
コルネリウスの磯辺餅も、醤油と海苔の相性が抜群で。
「もちもちしていて、とても美味しいです……! ディリー、こちらも如何ですか?」
「では、交換しましょうか?」
二人で笑み合って、味わう互いの餅もまた美味しいから。
つい沢山食べてしまいそうで、幸せが溢れる。新しい年の風に撫ぜられながら、二人はそんな時間を楽しんでいった。
歓迎の宴。
その会場は朱の敷物が敷かれた華やかなものだった。
「楽しそうですね!」
訪れたエルナ・クルプファルツは、その雰囲気にわくわくと見回す。
隣に立つレシュノルティア・ピオジェレラもまた……新年に宴を楽しむ文化には、親しみを感じるから。
「楽しみましょ、エルナ、織枝」
「ええ」
今年一年、無病息災で冒険者生活をエンジョイできるように、と。城崎・織枝も応えて皆で席へ。
レシュノルティアが座ると、隣に織枝、そしてエルナも並んで――早速そこへ、おせち料理が供されてきた。
「オセチというのですか! すごく綺麗な箱に入っていますね!」
エルナは早速興味津々。漆と金細工の美しい重箱にまずは目を奪われつつ……料理も初めて見るものばかりで、瞳を輝かす。
「この黒い宝石のようなものは!」
「それは黒豆です。甘くて美味しいですよ」
織枝が言うと、エルナは頷いてぱくり。「ん!」と目を見開いた。
「美味しいです! こちらは……ダテマキと、クリキントンですか!」
それから鮮やかさが美しいその二つをあむり、あむり。柔らかな触感と甘味に、また笑顔を浮かべていた。
「ニシキタマゴも優しい甘さですね!」
「ええ。とても美味しいです」
織枝も頂きつつ……特に選び取るのが海産物。
まずはお目出度いという事で鯛の塩焼きを一口。
「ん、身が柔らかくて……塩加減もいいですね」
立身出世を司る鰤は、旨味の強い照り焼き。更に長寿を願っての海老は、煮物でもプリプリの食感で。
「どれも丁寧に作られていますね――」
「いい彩りよね。私は……これがいいかしら」
と、レシュノルティアのお気に入りは数の子だ。
見目が綺麗なだけでなく、口に運ぶとこりっとした小気味良い食感で。濃すぎない風味に、丁度良い塩味が――
「これは間違いなく、酒に合うわぁ……」
欲しくなる、けれどそこは我慢して。ちらりとエルナを見ると、カマボコやクワイもはむはむと味わっているようだった。
レシュノルティアもカマボコは頂きつつ。
「エルナは幅広く食べてて偉いわねぇ……私は酒に合うものしか食べてないわね……?」
「ふふ、レシュさんはやっぱりお酒なのですね!」
「まあね。お酒は、無いようだけれど……」
「お屠蘇なら出ますよ」
と、織枝がそれを告ぐ。
「様々な生薬を混ぜ込んだ薬草酒です。新年に頂くものです」
「あら、お酒あるのね……」
レシュノルティアが興味を示すと、エルナも「お薬のお酒! シャルガネの神秘です!」と注目。
「健康管理も兼ねますから――」
と、織枝自身も呟きつつ賞味。新年の味を堪能した。
食事も一段落すると、レシュノルティアは伊達巻をお土産に。
「楼で働く子たちにもあげたくなるのよね」
楼主として……或いは姉貴分として、と。
「では、こちらもどうでしょうか?」
と、織枝も栗金団をお勧めして。それぞれにお土産を手に、宴を最後まで十二分に味わっていった。
「ロイこっちこっち!」
テス・クラルスが楽しげに指をさす。
その反対の手に、自身の手を引かれて――ロイ・アウレアも共に書道小屋へと向かっているところだった。
「シャルガネには何度か来たけど、カキゾメって初めてだね」
「ああ――」
テスは応えながらも、にやけ顔になってしまう。
(どれだけ贅沢だ……)
ただでさえ可愛いテスがはしゃぐ姿に、そんな事を思ってしまうから。
と、その内に二人は机につき、指導を受ける。
テスは興味津々で、周りにもキョロキョロ。
「絵筆のような筆記具だね。それに変わった文字だ……」
「そうだな」
ロイも頷きつつ、何を書くか少々悩んだ。
すると隣のテスが「今年の、目標……」と呟きつつ見回して。
「ああ、そうか、そうだね」
ふとロイを見てから、すぐに筆を取った。
「これしかないよ。カンジで書くのは難しそうだから、私達の文字で、と――」
そうして流れるように書き上げたのは――
「ちょっ……」
ロイが赤面したのも無理はない。
テスが照れつつも嬉しそうに見せた文字は――『テス・アウレア』。
「これが私の、抱負だよロイ」
「……ぅっ」
ロイは一瞬、変な声が出てしまう。
婚約した自分達だけれど――どちらの名字にするかとか、家族への報告といった細かい点は未定だったから。
テスがどう考えてるかを知れた、それが嬉しいやら恥ずかしいやらで。
「オレの方が変えても良いんだが……」
なんて言いつつ、その一枚は汚さぬように持ち帰る準備。
「結婚を改めて身近に感じたよ……嬉しいもんだね」
思いながら「テスが二人分してくれたから」と、自身は書かずに満足して――小屋を出ると、翠の園へ。
指を絡めてゆったり歩きながら、テスは微笑んだ。
「ふんわりしていた目標が、見据えるものに変わった気がするよ」
そしてロイを、首を傾げながら見上げて。
「その時が来たら、本当に君のラストネームにしようと思っているんだ……いいかな?」
「ああ」
冬だけれど、ロイは寒さすら感じずに。
「オレの名を名乗って欲しい」
言って、キスを交わす。
新しい年の風が、門出に優しく吹いていた。
新年には、神社も明るく賑わう。
アルバス・ロウルとルルト・アーキスは、そんな中で参拝を終えて――
「それじゃあ、お守り選ぼっ!」
「ああ」
と、楽しみにしていた一角へやってきた所。
御守りは色も内容も多様で、ルルトはわくわく。
「何がいいかな――」
「シャルガネといえば桜だな」
アルバスも言いつつ選んでゆく。桜柄も数あるけれど、迷ったものは一通り購入して。
ルルトも買い終えると、見せ合いだ。
「ボクはこれ!」
じゃーん、とルルトが示したのは桜の花を模った可愛らしい御守り。安全祈願と、様々な縁結びにもご利益があるものを揃えていた。
「かわいいでしょ♪」
「ああ、ルルトらしくて良い」
応えたアルバスの御守りは、戦勝や無病息災のもの。こちらも桜柄を中心に、春夏秋冬の図柄を揃えていた。
「うわぁ……どれも綺麗だね!」
そんなルルトの反応にも、アルバスは満足の心持ちで。
後は羽根付きをして遊ぼうと、歩み出した所で――
「あっ!」
と、ルルトは見知った顔を発見する。
パルドとウォーゼルも、手順を習って参拝に来ている所だった。
手水舎の水に、パルドが触れてみると――
「冷たっ!」
その刺激に驚き、反射的に毛が逆立つ。
「そんなに冷たいの?」
ウォーゼルが覗き込むのに、パルドは頷いて。
「やっぱり冬だなー……」
耳をぺたりと伏せながらも、御手水を完遂。猫のショコラで暖を取ろうとしたら、にゃ~と拒否られたりしているのだった。
そんな様子に微笑みつつ、ウォーゼルもミニコボのチョコと一緒にお清め。
「確かに冷たいね――」
言いつつも手順を済ませていると……突如、首筋に冷たい感触。
「ひゃっ!!」
尻尾の毛がぶわっと逆立って震え、ウォーゼルは思わず首を押さえて周りを見る。
と、首に手を当ててきているパルドと目が合った。
「パールードー……」
パルドがにんまりしているので、ウォーゼルもまた悪戯っぽく笑って仕返し。やり返し、やり返され、暫しじゃれ合うのだった。
それから二人でお参りを終えると――そこでアルバス達を見つけた。
「折角だ。羽根付きで対決しないか」
アルバスが声をかけると、パルドとウォーゼルは見合って「勿論!」と頷いた。
「皆でやった方が楽しいもんね!」
と、ルルトも期待の面持ち。
早速皆で羽子板を持ち、広場で向かい合った。
チームAは、アルバスとパルド。
「頼んだぞ相棒」
「任せろ」
そう笑み合って、二人で構える。
対するチームBは、ウォーゼルとルルトだ。
「よろしくね」
「うん、頑張ろうねー!」
言ってルルトがぽん、と羽根を上げたのが開始の合図。
すると――
「俺が行こう!」
と、まずはアルバスがそれを拾い、高く打ち返してみせる。
それはルルトの頭上を越えたけれど……ウォーゼルがカバー。皆を応援するチョコの鳴き声も、力に変えて――しっかり弾き返した。
そこに走るパルドだけれど……ぎりぎりで落としてしまう。
「あー! 駄目だったか!」
まずはチームBの勝利。
という事で――罰ゲーム。ルルトがアルバスの頬に猫髭を描いてみせた。
「タマさんとお揃いだよ、アルにゃん♪」
タマさんが『にゃー♪』と鳴けば、アルバスも「にゃん」と楽しげに猫の真似。
「似合ってるよ」
と、微笑むウォーゼルは、チョコの手に墨を付け……パルドのほっぺにぺたり、肉球スタンプ。
「上手に描けたね」
チョコが『わふ♪』と鳴くと、パルドも楽しげ。
「これなら大歓迎だ♪」
と、お返しにチョコの頬をちょっと突いて、笑うのだった。
そうしてショコラが羽根を運んでくると――二試合目。今度は逆に、パルドがうまくアルバス達に落とさせて――
「え、ちょっ!? まっ……!?」
慌てるウォーゼルの顔を、パルドが墨で真っ黒に。
「オレとお揃いだ♪」
「お揃いって……ふふ、これはやりすぎでしょ」
ウォーゼルは何だかおかしくて、笑いがこみ上がる。
真っ黒さに「うわわ」と驚いていたルルトも、二人に釣られて笑顔になれば……アルバスもまた笑った。
「思い切ったな! これだけ真っ黒なら厄も寄り付くまい」
それから、自身も筆をとって。
「厄除けと言えば」
と、ルルトの顔に虎柄を描いてみせた。
「可愛くなったな!」
「かっこよくもなったじゃん」
パルドも言えば、ルルトは楽し気に「がおー♪」と虎の真似。
それに皆もまた笑って、明るい気持ち。新年を笑顔で過ごす、そんな時間が何より楽しく思えるのだった。
「にゃ! ハヤト……いつもと違ってキリッとしてる……!」
境内への参道。
サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは……衣装を調えてきたハヤト=ガラン=ヴォルファングに瞳を輝かせていた。
「いつもの野性的な感じもいいけど……紋付袴でちゃんとしてるのもかっこいい……!」
「おう。サフィラこそ振袖似合ってるな!」
と、笑んでハヤトが見返すサフィラもまた――振り袖姿。
緑地に牡丹の柄が咲き乱れる様が、何とも可憐で。
「一段と綺麗だぜ♪」
「えへへ♪ ありがとっ!」
応えたサフィラは上機嫌に、ハヤトと並んで……初詣へ。ハヤトが作法を教えて上げる形で、二人で参拝。柏手を打った。
(ハヤトのパパとママが見つかりますように……)
見つかったら挨拶しなきゃ、と。
思いと共にサフィラが願う隣では――
(今年もサフィラをたくさん笑顔に出来ますように!)
ハヤトも心の中でお祈り。
「にゃ、ハヤトは何をお願いしたのかなっ?」
「さあな」
と、そんなサフィラの問には笑顔で返して……後はおみくじへ。
揃って大吉を引き、『良き一年となる』という文言に笑顔を交わすと――次は餅つき大会へ。
「シーフコンビの高速餅つきを見せたげる!」
「おう、行くぜ!」
つく役とこねる役を交代しながらぺったん、ぺったん、ぺたたたたっ。残像が見えるほどの高速さで餅を仕上げた。
後はもちろん、実食。磯辺焼きに雑煮を手早く用意して。
「ど~だ?」
「ん! 美味しいっ!」
サフィラが笑顔で応えると、ハヤトももちもち食感を味わってご満悦。更にデザート代わりの砂糖醤油やきなこ餅も食べ比べして。
「どれが気に入った?」
「にゃ……どれも!」
サフィラの言葉に、ハヤトも満足すると――そこからまた屋台巡りへ。
「折角来たんだし楽しまね~とな!」
「うんっ!」
二人寄り添い、鯛焼きにたこ焼きにと、美味を味わって。甘く温かく、心までほかほかで……新たな一年へと歩んでいった。
芳しい香りの漂う屋台へ、ヴィナスとルーンス・ラグネルは訪れていた。
最初の用向きは……買い物。
「たい焼きは見つけた。たこ焼きはあった?」
「うん。にいさま」
戦利品を示して聞くヴィナスに、ルーンスも確保したそれを見せて。ヴィナスの持つ麻袋にそれらを入れた後、鍋に纏めてマジカルポケットへ。
ヴィナスはふぅと息をつく。
「カーチャンの指示には逆らえないからね……」
「うん……」
『――たい焼き、たこ焼き、おせちは任せた。確保してなかったらもう料理のレシピ教えてやんねえ』
特にルーンスには低コスパのレシピ沢山教えたんだから働け――と。
そう言って去ったカイン・ステラの顔を二人は思い返す。
「カイン……こういう所がオカンだっていうの、気づいてないよね……」
「そうだね……」
二人で何となく気持ちを共有しつつも――次は自由時間。
別に買ったたい焼きを、お腹いっぱいにならないようにシェア。
「ん、美味しい」
ほかほかの美味にヴィナスが舌鼓を打つと、ルーンスもはふ、と食べて頷く。
「餡は小豆と白でも印象変わるね」
「うん。風味が違って面白い」
応えるヴィナスがおやきを半分こすると、ルーンスは受け取って中を見て。
「大判焼きと似てそうだったけど、中身が色々在るんだね。奥深い……」
きんぴらごぼうの一品を食べると、香ばしさと旨味に満足の吐息。
たこ焼きもまた美味だ。
「お祭りの出店にいいね、型の再現は同盟内だと難しそうだけど」
「タコも手に入らなさそうだけど――他のものにすればちょっとしたおやつにいいかも」
ヴィナスも、ソースの味を楽しむのだった。
後は、宴へ向かうと――おせちセットもヴィナスの分をシェア。伊達巻に黒豆、数の子と風流な味わいを楽しんでいく。
「あっ、これ桜塩使ってるんだ」
ルーンスが鯛の塩焼きの彩りと香りに気づくと、ヴィナスもそれを味わって、「優しい味わいだね」と満足。
ルーンスの分のおせちはというと――
「餅つき会場にいる10代のオカン男子に頼まれてまして」
ルーンスはそんな説明をしつつ、重箱を包むのだった。
カインは餅つき会場に立ち寄り、料理研究。
現場の町人に手伝いを申し出て、共に作業しつつ学んでいた。
「醤油の澄まし汁と味噌汁、両方あるのか……」
見目も香りも、そして味も異なる雑煮を時折味見しつつ――餅も観察。
勿論、餅もただ入れるだけじゃない。
普通に煮るのと、焦げ目がつくくらい焼くのでは香ばしさと食感も変わってくるし――出汁との相性も変わる。
「材料こそシンプルだけどな――」
それ故の機微を感じ取りつつ、カインは一生懸命にメモを取る。
「あ、なんかタレが入ってる小皿がある。これは……胡桃のタレか!」
澄まし汁の雑煮を食べる際につけると聞いて、勿論レシピも教えてもらい……味見。
少しの粒感と、なめらかな旨味が何とも美味で。
「このタレ、隠し味は味噌?」
料理人が頷くと、なるほどなるほどーと頷いて。
「甘じょっぱくて俺は好きだな」
他にも揚げ餅や、酒粕を使った雑煮など、多種の作り方を習得。
「よし――楽しかった!」
満足の心持ちで……兄弟との合流に向かうのだった。
「おー、ここだここだ♪」
ヒロ・テスタロッサが笑顔で見上げるのは貸衣装店。
ふしぎ亭の皆と共に――初詣の前にと訪れた所だ。
「ここではこの季節にフリソデっていうのを着るんだって! みんなで着よーぜー♪」
「いいね」
そう言って店内を見てみるのはルーシカ。
振袖を着るのは初めてだし……飾られているものを見回せば、どれもが華やかだから少し心躍る気持ち。
「皆の振袖かぁ、楽しみだな……」
と、そんな風にララベル・サン・ディーベルもわくわくしていた。
けれど……隣のテュリン・ヴィングが「あら」と目を向ける。
「振袖、ベルにも着てもらうわよ?」
「え? いやいやちょっと待って。僕男……」
「そんなの気にしたら負けよ」
テュリンが言うと皆も当然と頷くので……ララベルは赤面しつつも「じゃあ、初詣の間だけ」と了承。
皆と共にデザインを選んだ、けれど――
「素敵なお客様ですね。着付けはあちらへどうぞ!」
そこで店員が案内。皆と同じ部屋に入れられてしまった。
「あ、あの、僕――」
「まあ、問題ないよね♪」
ララベルは訴えるけれど、隣ではヒロが既に服を脱ぎ始めていて。
「寒いし、早めにしましょ」
アルラ・ニグラスもさらりと服をほどくから――ララベルは「はわわ」と背を向けるばかりなのだった。
それでも何とか着付けて外に出ると……皆も終えて出てくる。
「振り袖って動きにくいけど綺麗でふわふわするね」
そう言ってくるりと回ってみせたのは、アリエッタ。
淡い色使いがなんとも可憐な、桃の花の柄の振袖姿で。
「どう?」
はにかんでみせると、ララベルは少し見惚れてから……うん、と頷いた。
「凄くよく似合ってる」
「ありがと」
アリエッタが笑み返すと……皆も登場。
アルラは瑞々しい萌木色の振袖で、「こういうのもいいわね」と、胸元の窮屈感と感動を味わっている様子で。
「特別感というものを感じるね」
自身を見下ろすルーシカのものは白を貴重に、雪の華の柄があしらわれている。
ヒロは紅色が新年らしい華やかさで――テュリンは金糸の花が美しいデザインだ。
「皆、本当に綺麗だよ」
と、そう言うララベル自身もまた、薄紅の花柄が可憐な振袖姿なのだった。
参道は賑わいに満ちている。
「結構人が多いわね」
テュリンの言葉に、アリエッタも「うん」と興味津々に見回して。屋台に買い食いに走りたいところだけど……綺麗な服なので今は我慢だ。
そうして列が進むと――皆で拝殿へ。
「立派なものだね」
ルーシカが言う通り拝殿は荘厳だ。
そこに皆で二礼二拍手一礼。
テュリンは『魔術師としてもっと成長出来ますように』と祈りつつ……本命として『これからも皆と過ごせますように』とも祈願。
同じく、ララベルが『今年も皆と幸せに過ごせますように』と願えば――アリエッタもまた、今年もララベル達と一緒にいられるようにとお願い。
アルラも『今年は皆ともっと親密になれますように』と祈り――皆と笑顔を交わしていた。
ヒロもルーシカと共にお祈りを済ませて歩み出す、と。
「あれ何? オミクジ?」
と、御神籤を発見。
「へー、運勢がわかるんだ、やってみようよ♪」
「良いわね。それじゃ、順番に……」
アルラがまず引いてみると――
「あら、大吉よ。これが一番みたい」
「面白い運試しだね。それじゃボクも」
言って、ルーシカも引いてみるとこちらも大吉。研鑽を欠かさぬ事で順風満帆な日々が訪れるという文言を、心に留めた。
「私は吉。まずまずね」
と、テュリンがそれを示せば――ヒロは大吉。
「おっ、良いやつだよね。やった♪」
「僕も大吉だったよ」
それにララベルが微笑んで返せば、最後に引いたアリエッタも大吉。
「みんなよかったね」
アリエッタの言葉に皆で頷いていると……アルラはふと、先刻からの窮屈感が若干増してきたような気がして。
「胸元がきつくなってきた……ちょっと緩めてもいいかしら?」
くいっと緩めて、豊かな谷間を少々露わにした。
するとララベルが思わず目をやってくるから、微笑み返す。
「そんなに気になる?」
「い、いやっ……その、ごめん!」
ララベルはびくっとして、大きく後ろに向いた。と、その勢いで今度は真後ろにいたヒロに頬同士がぶつかって……抱き留めてしまう形に。
「おや? ベル君、急に?」
「そ、そうじゃなくて……」
ララベルは再び謝ってから離れようとする。
が……次は慣れぬ振袖に足を取られて転倒。思わずアリエッタを後ろから抱きしめながらごろごろと転がった。
「ララベル、大丈夫?」
「う、うん。ごめん……」
ララベルは何となく情けない気持ちで、触れていたアリエッタの胸から手を離し、ようやく立ち上がろうとする。
そこでふわりと、顔に生地の感触。
「……まぁ、分かってたわ。初日の出、初詣ならぬ初ラキスケね」
頭上からテュリンの声。
ララベルは丁度、テュリンの股下に頭から倒れ込んでいたのだった。
「おみくじにも注意は書かれてたけど、こればっかりは避けようがないのよね――」
「わっ! ご、ごめん!」
ララベルは真っ赤になって起き上がり……ため息をついているテュリンにまた何度も謝るのだった。
「ん、美味しいね」
ルーシカは七草粥を口に運び、その温かさに微笑み。
境内で供されているものを頂いているのだ。
仄かな塩味と、淡い香りが風流で美味で。
「作り方は覚えたから、来年はボクが振る舞ってあげるよ」
「わぁ、楽しみにしてるね」
アリエッタもそれを頂きつつ……たい焼きもはむはむ。ヒロが出店を巡るので、一緒に買ってもらったのだった。
そんなヒロは甘酒を持ってきて一口。
「ほんのり甘くて体あったまるね。ほらほら、ベル君も♪」
「あ、ありがとう」
ヒロの飲んでいたものを渡され、ララベルは赤らみつつもその美味を楽しむのだった。
そうして寛いだ時間の後――ララベルはおそろいの御守りを買って、皆にプレゼント。
「今年も宜しくね」
皆の頬へキスを贈ると、ルーシカも笑みを浮かべて――「今年も1年よろしく」の意味で、頬へキスを返す。
「それじゃ、街も見ていきましょ?」
テュリンが言うと皆も頷いて……再び歩み出してゆく。
「ここか」
小綺麗な店構えの酒屋を見つけて、スー・ルーは足を止める。
入るぞ、と目を向けて……連れ立つのがパヴェル・A・サムルガチェフ。共に店に入ると、多様な銘柄の酒瓶を眺め始めていた。
目的は他でもない、買い物。
正確にはスーがパヴェルへ贈る物を見繕う機会。
事あるごとにパヴェルに贈り物を貰っているから――同じだけ返さないと割りに合わない、という理由だ。
だからパヴェルの好きな酒なのだが……スー自身は飲まないから良し悪しも判らず、後は本人に任せるつもり。
「俺が買うから、お前は選べよ」
「おぉ。本当にいいのか?」
「ああ。いろいろ書いてあるけどよぉ……俺にはなにが違うのか、さっぱりだからな」
スーの言葉にパヴェルは「悪いなぁ」と言って――店員のお勧めを幾つか試飲。銘に町の名が入った、その名も『倭桜』を記念に選んだ。
「ありがとうなぁ」
「気にするな。それが一番良かったのか?」
「あぁ。飲んでみたらどうだぁ?」
スーが首を振って遠慮するから……パヴェルは改まって聞いてみる。
「なぁ、なんで酒を飲まないんだ?」
「いや……」
スーは言い難げに、少々困り顔を見せた。
「水の方が美味いだろ、舌もびりびりしねぇし……」
でも、と酒瓶に視線を巡らせる。
「お前が好きなものなら美味いのかもな」
と、自分も小さな一つを、記念に買ってみたりして。店を後にすると、またぶらりと二人で歩み出した。
「あっ、貸衣装屋さんもあるんだ」
これは見過ごせない、と。
エヴァン・ピオネロと共に神社の傍にやってきたアルマ・ヴァレンタインは、その店に早速寄る事にしていた。
「どんなのがいいかなー」
「ぼくのは、アルマの好みで選んで下さい」
エヴァンがそう笑むと、アルマは頷いて沢山の衣装から選択。
着替えて出てきたエヴァンは――
「大人っぽくて似合ってるよー、ハイカラさんって感じ!」
アルマが笑顔で迎えるその衣装は、シックな着物にトンビコート。モダンで洗練された印象だ。
「ボクも可愛いの選んでくるね!」
と、自身も着替えて出てきたアルマは――
「お待たせー!」
言ってくるりと回る姿も可憐な、花柄の着物姿。
色は明るめで、アルマの丈にしっかりあっているのが可愛らしい。帯や半衿にも上品な桜があしらってあって。
「シャルガネの女性衣装は華やかなのですね……とても可愛いです」
エヴァンは照れながらも、素直に言ったのだった。
それにありがとう、とアルマが笑み返して――二人は初詣へ。手順を教わって二礼二拍手一礼。
――エヴァくんともっと仲良くなれますよーに。
アルマがそう願えば、エヴァンも二人が出会えた感謝を述べてから――『今年も仲良く過ごせるよう見守ってください』と祈ったのだった。
その後はおみくじを引いてみる、と。
「あっ……凶?」
「ぼくも、凶……」
二人で見合う。
曰く『試練が訪れる』そうで……何か二人を試す出来事が起こるのかも知れなかった。
何にせよ、良い運勢とは言えないので――
「利き腕と反対の手で結べば、凶を吉に変えることが出来るそうです」
「そうなんだ! エヴァくん物知りー」
という事で近くの木へ。
ただ、既に沢山のおみくじが結ばれていて隙間が少ない。
「高い位置なら空いてますね」
と、思案したエヴァンは、アルマを抱き上げて。
「これでどうですか?」
「わっ、たかいたかーい! ありがとー!」
アルマははしゃぎつつ、二人分を隣同士に結びつけたのだった。
これで、安心。後は七草粥の素朴な味を楽しみ、更に屋台へ。新年の時間を、二人で目いっぱいに楽しんでいった。
「わ! これ可愛いさぁ♪」
声が華やぎ、笑顔が零れる。
フリューリングスルフト=ティエラは貸衣装店で袴を着付けていた。
姿見で見ると鮮やかで、上品で。
気に入ったので購入もすると――
「これも素敵さぁ」
一緒に借りた番傘を手に、扇も挿して……風流な佇まいで参拝へ。
――新しい一年の日々を、健やかに過ごせますように。
これまでの日々に感謝を、これからの日々に願いを込めて。
「あ、風より疾くなれますように」
と、付け足しつつ……終われば散策。
人の声、琴の音、鹿威し。響く音に酔いながら翠の園へ。
「お酒はまだ飲めんけど……きっとこれからもうちを一番酔わせるのは音なんやろうなぁ」
風に踊る冬花に合わせ、自身も番傘をくるりと回し。
浮かぶ音を言葉に換えて。
『日々に区切りをつけましょう 過ぎた日々に感謝を これからの日々に祝福を』
扇を開き、舞踊し歌う。
『澄んだ空に響け声 広がれ笑い声 届け願い』
扇に声や願いを乗せ、空へ贈るように。
軽やかに、優美に。その舞いと歌が新年を彩っていた。
石畳の参道を歩み、途中にある社を眺めてゆく。
ミア=リゼルは明るく賑わう神社へと、初詣に訪れていた。
「シャルガネで神様に参拝するとなると、こういう形になるのですね……」
何とも趣深い景観と、教わった手順に興味深い気持ちを抱きながら――辿り着いた拝殿で参拝。
「ええっとお辞儀をして……お賽銭を」
そして二礼二拍手一礼をして。
――今年こそ、せんせいと出会えますように。
ミアは真摯に願う。
(……せんせい、今どこにいるんでしょうか)
静かな感情が渦巻くけれど――
「……聞き届けてくださり、ありがとうございます、神様」
しっかりと最後にお辞儀をして。
「さあ、次はおみくじを引きましょう!」
気持ちを新たに運試し。
早速御神籤を引くと……ヤマネのアビが興味を示した。
「アビさんも気になりますか? では、開封をお願いします!」
それに尾を振って、アビが開けると――大吉。
「良い運勢なのですね……!」
ミアは嬉しい気持ちで微笑んで。それを手に、新たな一年へと歩んでいった。
「確か……賽銭を入れてから、鈴を鳴らして……と」
鈴緒を引いて、清廉な音を鳴らす。
ロゼットは神社へ初詣に訪れている所。
前回も訪問はしていたので、覚えている手順通りに二度拍手を打って――
(……西のシグモル火山から参りました。ロゼットと申します)
そっと目を閉じ、心に紡ぐ。
(今年は私の故郷が災難に見舞われています)
思いながらも、ロゼットはただ救われる事を請いはしない。
(偉大なシグモル様が遺したものは必ず、守ってみせます)
――どうか私たちとボルガニスク様を、お見守りください、と。
それは祈りであり、意志であった。
「……よし。神前に誓いを立てて、自身への励みとする――この信仰のあり方は、遠いこの土地でも変わらないのね」
だからこそ、ロゼットは迷わずそれを誓えた。
「さ、七草粥というのを頂いてきましょ」
楽しみだわ、と。
後は心新たに七草粥を賞味。
素朴ながら、連綿と受け継がれてきた優しい味を楽しんで――新年の時を過ごした。
冬の花が優しく揺れる、翠の園。
折に触れて訪れているそこへ、恋人達はこの季節もやってきた。
「なるほど、冬なのでどうなのだろうと思っていましたが……かなり咲いているのですね、この時期でも」
言って視線を巡らせるのはキーゼ。
そっと隣を歩むネーヴェ・グラヌローザは――言葉に「ええ」と頷く。
「流石に種類は少ないようですけれど、その分、色鮮やかで目を惹きますわね」
葉牡丹、黄梅、山茶花。
他の季節とは違う、園の冬の佇まいをゆっくりと眺めながら。
「周りの色が少ないのもあり、良く映えると申しましょうか」
それは寒空だから生き生き咲いているように見えて。
キーゼも「そうですね」と応える。
「この地域だからこそなのかも知れませんね」
耐え忍び芽吹かないイメージの強い花々が、力強く咲いている――その様に感心したように。
ネーヴェも心同じく、穏やかに笑んで。
花に顔を近づけて、その匂いを楽しみながら。
「良い香り――」
ふ、と吐く息は白く。
それが燦めくように空に昇るのを見ると――キーゼはもう一歩、傍に近づいた。
「たまには腕をつないでみましょうか」
そうして腕を取られれば、ネーヴェは自分からもぎゅっと絡めて。
「ふふ、温かいです」
触れる優しい温度が、何より心地よく。
キーゼも表情を和らげて、そのまま歩みを続ける。
「このところ、ゆっくり時間を取ることも難しかったですからね、今日はのんびり見て回りましょうか」
「こういうゆったりとしたひと時も暫く振りですものね」
応えるネーヴェは、甘えるように肩に頭を軽く乗せて、寄り添う。
「今日一日は私に下さいましね」
「ええ」
寒かったら言ってくださいね、と。
キーゼは中に入れるよう、外套を少し開ける。
微笑んだネーヴェは――少し考えてからおもむろにマフラーを外してキーゼの首元へ。巻いてあげてから、キーゼの外套へ入った。
「これなら二人共暖かいと思いますわ」
見上げての笑顔に、キーゼも「確かに」と瞳を穏やかに細めて。
二人で冬の道を、暖かに歩んでゆく。
アルフィー・リッパーとアーシェル・G・クラインは、共に着付けを済ませた所。
「シャルガネではこれが正装なんだな」
着慣れぬ紋付袴に、アルフィーは尻尾を仄かに左右に揺らしつつ。アーシェルを見ると、精悍且つ上品な成りで。
「あんたはどんな服も着こなすな……」
「アルこそ良く似合ってる」
男っぷりが上がったな、と。
アーシェルもアルフィーの雅さを満足気に見つめ、その頭をわしゃっと撫でているのだった。
それから二人は散策を始め……広場で羽子板を手にする。
「負けた方が奢るっていうのでどうだ?」
「構わないぞ。真剣勝負だな」
言ってアーシェルは、こつん。羽根を打ち上げる。
打ち返すアルフィーは、身軽さで翻弄しようとする、が……いつもと服が違う為か。
「わっ!」
転びかけて羽根を落とした。
そうなれば勿論、墨で顔に落書き。アーシェルが一筆終えると――アルフィーは次は負けじと、急角度で羽根を打って。
「おっ、と」
今度はアーシェルが落とし、アルフィーが筆をとる。
そんな事を繰り返すと――
「ひっでぇ顔だな ほら鏡を見てみろよ」
アーシェルが映すアルフィーの顔は墨だらけ。
ただ、アーシェルの顔もそれは同じで。
「おいこらアル、いつの間にか猫髭も書きやがったな……!」
「これで猫の仲間入りだろ?」
アルフィーが笑いを堪えつつ言うと、アーシェルも吹き出して。暫し笑いが止まらないのだった。
「くっ……ははっ。あー腹痛ってぇ……。で、結局どっちが勝ったんだ?」
「これは、引き分けだな」
という訳で、仲良く屋台へ。
アーシェルは焼き鳥に牛串にと、次々に肉をチョイス。
「肉ばかり食うな! 野菜も食べろ!」
アルフィーが言うと、アーシェルは少しだけ野菜も入っているからと何とか許してもらい……美味を堪能。
アルフィーも付き合ってそれらを買いつつ、楽しんで。
アーシェルがたい焼きを買ってくると、その甘味も味わいながら、並んで歩む。
「アーシェル、今年も……側にいてくれるよな?」
「ああ。今年もよろしくな、アル」
明るい空気が流れている。二人はそんな日を、緩やかに過ごしていった。
鳥居をくぐり、賑やかな参道を並んで歩む。
御邑 奈月とシモン=プレーディは一緒に初詣に訪れていた。
「寒くない?」
風がまだまだ冷たい季節。
シモンは言って奈月の肩を抱きながら、風よけになってあげる。
「は、はいっ……」
奈月は恥ずかしいながらも、嬉しくて。寄り添う形で……共に参拝。
「また新しい一年をナツと迎えられるのは嬉しいよ」
来年も、またその次の年もそうやって過ごしていきたい。
思いと共にシモンが祈りを済ませれば、奈月もまた同じ気持ちで、二礼二拍手一礼を済ませたのだった。
その後は宴へ。
「わ……彩り、豊かです……」
並ぶおせちに奈月は瞳をきらきら。
シモンと隣同士で座って味わえるから、それが嬉しくて。甘いものにも目がないゆえに、栗金団や黒豆を口に運んで満面の笑み。
「わふ~♪ と、とっても、美味しい……です♪」
「本当だね」
と、シモンも数の子や海老を食べて満足。
伊達巻も甘めで美味だったから――
「こっちのも美味しいよ。取ってあげようか」
「……は、はひ……」
奈月が頷くと、シモンはそれをお箸で掴んで口元へ。
「はい、食べさせてあげるね」
「よ、よろしゅくお願い……しま、ふ」
奈月は心臓が高鳴り、耳まで真っ赤になりながら――それでもあむりと食べて。
「……お、美味しい……♪」
「良かった」
シモンが笑むと、奈月は今度は自分のお箸で栗金団をお返し。間接キスだと意識すると緊張してしまうけれど……しっかりシモンに食べさせてあげた。
それから「少し運動を」と理由をつける形で、奈月はシモンを連れて翠の園へ。
「とっても、綺麗、ですね……」
「うん」
澄んだ空気と花の色彩を楽しんで、散策を。
途中でシモンに手を握られると、どぎまぎしてしまうけれど。
「……はぅ…」
それでも自分もそっと、握り返して。温かな心で歩んでいった。
初詣を済ませたジル=クィネルと御邑 都は……都の見つけた書道小屋に立ち寄って、書き初めをする所だ。
「んー、抱負か……」
ジルは少々考えてから筆を動かす。
字を書くのは得手でも不得手でもない。故に出来映えを意識し過ぎる事もなく――さらさらと筆を滑らせて、『笑顔』の言葉が完成。
「よし、っと。どうだ、ヤコ?」
と、隣を見ると、都は紙を前に固まって動いていなかった。
あれこれ考えているようだ。真剣な様子に、ジルは苦笑して……暫し見守る。
すると――
「あっ、そうだぁ~」
都は結論に至ったように、一筆。
「できたぁー!」
と、ジルに見せたその達筆な文字は――『家内安全』。
「……悩んでそれかー」
それを書くのは俺の方じゃないかなあ、と。
ジルは心に思いながらも、「ほら、ヤコ」と、都の顔についた墨を優しく拭ってあげた。
「……おー! ありがとぉーねぇ~♪」
ほにゃあと笑う都を見ると、ジルも表情を和らげて。
(うん、やっぱりこいつの笑顔は好きだなあ)
思いと共に、書を手にして小屋を後にする。
その後も、都の足の向くままについていく。すると広場で遊ぶ子供達の声が聞こえて……立ち寄ってみる事に。
「ああいうの、昔よくやったな……いや、昔ってほどでもない、か」
コマを回す子供を見つつ、ジルは呟いて……折角だからと自分も参加。
「こうやって、と」
感覚は残っていて、一気に紐を引くと……コマが勢いよく回った。
「おー! ジルちー器用だねぇ~。すごぉーい!」
「やってみるか?」
ジルが手取り足取りで教えてあげると、都はふんふんと頷いて見様見真似。
「……なるほどぉ~……こーかぁー!」
言って、コマを放つと――それはころころと縦に転がってしまったけれど。
「ここをこうして……」
と、もう一度教えると今度はうまく行って、笑顔を交わし。
「次は凧だ」
「……おー、高ーい!」
二人で空に凧を揚げて……その楽しさに、また笑み合うのだった。
香ばしい匂いに、鉄板からじゅうじゅうと響く音。
水瀬・希と共に屋台のある通りへ訪れたレイラ=ルナフィニスは……並ぶ食べ物の物珍しさに、思わず目移りしていた。
「あちらも、こちらも、故郷には無い物ばかりですわ♪」
「こげん場所は初めてと?」
なら、と。希は頼れる声音で歩み出して。
「ウチが美味か思っとーもんを、御馳走しちゃあ♪」
早速、目についた物を買ってあげる事にする。
最初は、たい焼きだ。
「ほら、熱かうち、食べるとよかよ♪」
「まあ! 頂きますわね!」
受け取ったレイラは、見た目にも楽しみつつ……あむり。
かりっとした香ばしさと――甘味に少々、目を見開いて。
「これ、中身は魚ではありません……の?」
「餡子ば、言うとよ」
そんな情報にも感心。改めて美味を堪能すると――次にたこ焼きを実食。
「どーやか?」
「……はふ、はふ……」
たこ焼きの名に首をかしげていたレイラだが……その理由もすぐに分かって。
「ん、これは蛸が入ってますのね? なるほど♪」
と、その歯ごたえに納得の心持ち。
濃いめのソースと青のりの風味も、相性ばっちりで……美味を存分に楽しむのだった。
それを見ていると、希も楽しくなって――次には大判焼きを。
「美味かねぇ~? レイラ」
「もぐ、もぐ……これも美味しいですわ。ほくほくして美味です♪」
と、優しい甘味にレイラも満足の面持ちだった。
途中で緑茶や麦茶、さっぱりとした飲み物で喉を潤しつつ、希もまたたい焼きやたこ焼きを共に食べ歩いて。
最後はぜんざいで体を温めて、小休止。
「満腹やね~」
希は言いつつ、ふとレイラを見る。時折上の空らしかったからだ。
ただ、その理由は判る。
レイラは……恋人の事を考えているのだ。
「……♪」
ついついその顔を思い浮かべてしまう、そんなレイラは幸せそうで。
「よかねぇ~♪」
その顔を見る希もまた、幸せを分けて貰った気持ちで――ゆるりと時間を過ごしていく。
まずは氏神様にお参りを――と。
エルシー・サリバンとハル・チフは二人で神社を訪れていた。
「いい天気で良かったのです」
「うん、そうだね」
エルシーは頷いて、手を合わせて。
(睡狼の皆が無事に過ごせた1年をありがとうございました)
お礼を伝えてから願う。『今年も無事でありますように』と――そして『ハルと仲良く過ごせますように』と。
ハルもまた、『今年も1年、エルと素敵な日を重ねられますように』と祈り、隣を見る。
そこに、目を閉じて祈る恋人がいて。
(昨年はなんて幸せな年だったんだろ)
だから今年ももっとエルシーと共に幸せになれるといい……そう願った。
それから共に散策に出る、と。
「空になにかが浮いてます。行ってみましょう!」
ハルが空に揺れる影を見つけ、ぱたぱたと駆け出す。
エルシーも急いで続いた。
ジャケットとセーター、自身の活動的な服装を見下ろしながら。
(着飾らなくて良かったな)
と、くすくすと笑みを零したりして。
広場に着くと、それが凧だと判明する。
「面白いのですよ! エル、一緒に作ってみませんか?」
「うん!」
という訳で制作。
ハルの凧は三角形で紅から黒へのグラデーションをあしらって。
赤いファー尻尾をつければ――
「エルシー号なのです!」
それにエルシーはまたくすくす。照れくさいけれど「嬉しい」と微笑んで。
「私も――」
と、エルシーが作るものも黒で、耳がピンと伸びて、金の瞳で……。
「あれ、黒猫になっちゃった。……でも、これはハルなの!」
「ふふ、エルが言うならそうなのです」
そして完成後は空に揚げる。
「空の青と合わさって、とても美しいのです」
「――あ、並んだー!」
エルシーが沢山の凧と絡まぬよう、隣同士に近づけると……ハルも嬉しそうに、また笑みを交わしたのだった。
凧を回収した頃には夕暮れで――二人は帰路につく。
「楽しかったね」
「はいっ」
応えながらハルは隣の横顔を見て。
「エルは……夕日も似合うなんて反則です」
思わずそっと頬を撫で、キスを。
エルシーもキスを返し、寄り添って歩む。そんな二人の影が、暮れに長く伸びていた。
「綺麗なデザインね」
エミリア・シバは貸衣装店にて着付け中。
手伝ってもらいながら襦袢を来て、振袖を着て。帯の巻き方も見つつ、自身を姿見で確認している。
花菖蒲が上品な、紫地の柄だ。
目立たぬ程度の金糸も何ともあでやかで、気に入った。
「上品だし、場所を選ばなさそうだわ」
故に購入もしたいけれど――
「これ、練習しなきゃ駄目そうよね」
という訳で今回は借りるだけで我慢。また来ようと決めて、神社へ向かった。
参道は賑わっていて、皆着物で風流。そんな中、拝殿の前に立ったエミリアは賽銭を入れて手を合わせ――
(今年も冒険者家業を一生懸命やるので、美味しいお酒ともめぐりあえますように!)
お願い事というより自身の決意を見守ってもらうのがいい、と聞いたので……そんな思いを心に唱えつつ。
終わると御神籤を引いて、大吉を得る。
「幸先が良いわね。後は……そうだ、お屠蘇ってやつを頂きに行きましょう!」
という訳で、宴へ。
薬草の香味が豊かな酒を楽しんで……一年の景気づけとするのだった。
「今年も人が多いですね!」
やおよろず亭は、初売りから繁盛の兆し。
午前中から多くの客が訪れて――フラム・アニムスは忙しく立ち回り始めていた。
「大福さん、一緒に頑張りましょう」
腕捲りし、とびきりの笑顔でサムズアップするフラムに、大福も「勿論なのだ!」と元気に答えて。
「いらっしゃませなのだ~!」
ブローチ、簪、キーホルダー、首飾り、腕輪。二人で作った雑貨を売ってゆく。
フラムの個人スペースも千客万来で、特に桜ジャムをサンドした手作りクッキーが好評。
大福が「子供の健康祈願と魔除けのお守りに」と作った犬張子も、注目を浴びていて。大福に似ているからか……子供達には本人含め、人気になるのだった。
ハズレなしのくじ引きで、熊手や達磨も当たるからと――商品は次々に完売。
「ありがとうございますなのだ~!」
「……お疲れ様でした!」
一段落つくと、フラムは大福と共に客を見送り……自分達も散策に出た。
向かったのは書道小屋。
「んー、ここはやっぱりこれかな…」
フラムが思案しつつ筆をとると……隣では大福も筆を握っていて。
「ふ。大福は少し大人になって新しい字を覚えたのだ」
勢いよく、太く、多少不格好ではあるけれど――『粽』と書いた。
「粽が戦ってる所を表現してみたのだ」
えっへんと胸を張ると、最後に『大福』と名を記し……肉球をぺったん! わふ、と粽も満足気に鳴いて見守るのだった。
「そういえば、抱負や目標を書くものだったのだ?」
「好きな事で良いんじゃないですか? 俺は、これです」
言ってフラムが見せたのは『来福』の二文字。
「へへ、一文字お借りしちゃいました♪」
「何だか嬉しいのだ!」
と、それに大福も喜ばしげなのだった。
夕刻には、桜の提灯片手に初詣。
(これからも大福さん、粽さんと一緒に楽しく過ごせます様に)
フラムが祈れば、大福もまた『今年も皆元気で過ごせますように』と祈りを込めて。
(強くなって皆を守れるシューターになれるよう頑張ります、なのだ)
と、そんな誓いも立てるのだった。
「おみくじ、引いていきませんか?」
「賛成なのだ!」
ということで二人で引くと、共に大吉。
フラムはそれを財布に大事にしまうと、桜印のお守りも購入。
「今年も楽しくなりそうですね!」
笑顔を見せると、大福また頷いて。二人はまた新年の道へと歩み出す。
仄かに漂う甘い香りに、再び惹かれるように。
エル=バ=ノイアンとシルヴィア・A・カペルはその甘味処へと訪れていた。
「何にしようか」
「そうだな――」
共に席について、二人で選び始める。
ノイアンの衣装は、雅な松葉色の紋付袴。シルヴィアも花柄の振袖に、アップスタイルのラフな編み込みで……上品で、可憐。
故にだろうか、決めた品も正月使用の練りきりと抹茶。可愛い花の形と、深く鮮やかな緑を、二人は暫し眺めた。
「ここの甘味は見目も見事だね」
「ああ」
そんな短い遣り取りに、感じるのは穏やかな空気。
その心地に、ノイアンは言った。
「前訪れた時は、皆で……だったが。二人きりというのも、悪くないな」
「そうだね。時間が緩やかに流れている気がするよ」
シルヴィアも応えて実感する。
(あの時とは関係性が違うんだな)
そう思うとつい、微笑が零れて。
ノイアンは少し、それに目を向けてくるけれど――
「いいや、何でもないよ」
言ってシルヴィアが、練りきりの甘さと抹茶の渋さを楽しむと……ノイアンも「そうか」とだけ言って、自身もまた美味を味わっていた。
その後は、二人で梅を眺めながらのんびりと過ごす。
「ここは……良いところだ」
優しく風に揺蕩う枝に、ノイアンは口を開いた。
「……状況が許せば移住したいくらいだな」
もちろん、それは叶わない。カペルと運命を共にするという彼女の、その生き方を支えようと思ったから。
ただ――
「……ああ、俺が出世して別荘を持てば良いのか」
なんてな、と。
それは半分冗談のつもりでもあったけれど。
「成程、それは良いね」
シルヴィアは驚きつつも、すぐに頷いていた。
「どの辺りに買おうか? 花が咲く場所が良い」
「……出来るとは、限らないぞ」
「君なら間違いなく叶えるだろう」
だから、「今から色々と考えておかないとね」と笑んでみせる。
ノイアンの想いが嬉しくて……彼と共にいるために力を尽くそうと、改めて思ったから。
ああ、とノイアンも頷く。
その先に、共に歩む未来があると思えた。
「餅つき、か」
活気に溢れる餅つき会場へと、だわはサラと共に立ち寄っていた。
以前シャルガネ辺りまで来た時も、餅は食べた事が無かった。
だから丁度いい、と。
だわは早速小さい臼を借りて、蒸した餅米もセットする。
「これをつけば出来るんだったな」
「ん。……頑張る」
サラは初めての機会にちょっぴり緊張しつつ……それでもぐぐ、と拳に力を込める。
それから餅米に触れようとすると――だわが止めた。
「待て、何故手を入れる?」
「……え? こうやるんだ、って、教えて貰った、よ? 合いの手、って言うんだ、って」
「そういうものなのか」
だわも詳しくない身としては、成程と頷くしかない。
「これは怖いな」
「怖い、かな」
サラは、少しだけ同意するように言う。
「……でも、ね、大丈夫。いざって時は、えいやって、かわすし、ヒールもする、よ。だから、一思いに、どうぞ」
「分かった。止めてほしかったら言ってくれよ」
「……ふふ、だわおにいちゃん、優しい、ね」
そうして二人でぺったん、ぺったん。
幸いにもスムーズにつき終わり――
「わぁ、完成だ、ね!」
「お疲れ様。ここで頂いていこう」
と、だわがお皿に載せ、茶も貰ってきて食事の準備。サラはわくわくと見つめる。
「ぺたぺた、モチモチ、どんな味、かな……」
「色々と調味料もあるな」
「わたし、甘いのが、いい。……きなこに、あんこ?いい匂いだ、ね」
という訳でサラはそれをつけて実食。
「……わ、みよーん、って、のびる」
「確かに……の、伸びる。面白い食品だな……」
「うん。それに……ふふふ、おいしい、ね」
サラはもちもち食感にご満悦。きなこの芳しさと餡子の甘さにも表情を和らげていた。
だわはプレーンで食べてから、次に磯辺焼き。
海苔と醤油が何とも相性抜群で。
「……うん、これも美味い。そっちはきな粉と餡子、か」
「うん、わたしもだわおにいちゃんの、食べてみたい、な」
「ふむ。……少し交換しないか?」
「……ありがとう、いただきます」
と、最後には交換してお互いのも味わって。
「こっちも、いい匂い」
「美味だな」
穏やかな風の中、美味を沢山堪能して。二人で長閑な時間を過ごしていった。
マスターコメント
お疲れ様でした。
祭りは大いに盛り上がり、明るい賑わいを見せました。街にとっても新年の良い景気づけとなったことでしょう。
イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:標準50 / 4〜50人
2022年01月13日 21時50分35秒 公開
大成功
参加者
ヨル・スレイマン
コルネリウス・アーラ
レシュノルティア・ピオジェレラ
エルナ・クルプファルツ
ナハシュ
テス・アウレア
パヴェル・A・サムルガチェフ
ルルト・アーキス
イズレンディル・パラリム
サフィラ・アズラク・ヴォルファング
ロイ・アウレア
ヴィナス
ヒロ・テスタロッサ
- ルー スー
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
アルマ・ヴァレンタイン
アルラ・ニグラス
ララベル・サン・ディーベル
カイン・ステラ
フリューリングスルフト=ティエラ
ルーシカ
テュリン・ヴィング
ロゼット
- キーゼ
アーシェル・G・クライン
御邑 奈月
御邑 都
レイラ=ルナフィニス
アリエッタ
- ジル=クィネル
- シモン=プレーディ
水瀬・希
エルシー・サリバン
ハル・チフ
エヴァン・ピオネロ
エミリア・シバ
ネーヴェ・グラヌローザ
フラム・アニムス
大福
城崎・織枝
エル=バ=ノイアン
シルヴィア・A・カペル
アルフィー・リッパー
ルーンス・ラグネル
アルバス・ロウル
パルド
ウォーゼル
ミア=リゼル
だわ
サラ
相談掲示板
今年もよろしくお願いします。新年初だから一応までに。 【初詣】に行かせてもらうわ。同じ人はよろしくね。
あけましておめでとうございます 本年もどうぞよろしくね 私はロイと書き初めをしようと思うよ 初挑戦でドキドキするよ
明けましておめでとうございます。だな。 俺は羽子板でアーシェルと勝負をする予定だ。負けた方が屋台でご飯を奢る!だからな!
お、おめでとう…ございます。こ、今年もよろしく…です。 み、御邑 奈月です。よ、よろしく…です…。 (赤い顔で、ぺこぺこお辞儀する) えと。わ、私は…シモンと、翠の園…か、歓迎の宴か…で迷っていて…。 …いっそのこと、両方…しようかな、と考えて…ます…。 …な、流れは…宴の後、に…翠の園の散歩…で…すね。
おめでとぉーだねぇ~♪ 御邑都だよぉ~。 僕はねぇ~。恋人のジルちーと一緒に行動しよーと思ってる~。 えっとぉー…書初めをしてから、遊戯・制作ってゆー流れになるよぉー。 よろしくおねがいしまーす!
まだ松の内 あけましておめでとうございます。 みなさま、今年度も宜しくお願いします。 テスと書初めをしてくるよ。有意義な正月で嬉しい限りだ。
明けましておめでとう。 今年もよろしくな。 先にアルが言ってくれてるが、二人で羽子板勝負をしてから屋台で飯を食う予定だ。 兄貴分として負けてらんねぇな。