【聖祭】どうか、もう一度だけ

北織 翼

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シナリオID:1725

オープニング

●
 ああ、今日は本当によく冷える。
 こんな日は、あなたを喪ったあの日を思い出す。
 叶うならば、あなたにもう一度会いたい。
 一夜限りの夢でも幻でもいい。
 私はただ、あなたに会いたい。

「まぁ、このキャンドルを焚いていたら眠くなっちゃって、ジョーゼフおじいちゃんは夢の中でイザベラおばあちゃんに会えたのね~? ふふ、嬉しそうねぇ」
 どっからどう見てもヤギなマダムがカウンター越しに老紳士に微笑んだ。

 ここはエラトゥーン都市同盟の何となく北部にある小さな謎のお店。
 店の看板? そんなものはない。
 店内の様子? カフェのようでもあるし飯屋のようでもあるし雑貨屋のようでもあるし人生相談所のようでもあるし簡易宿のようでもあるし、要するにカオスっていてさっぱり分からない。
 ただし、誰が見ても分かることが一つだけある。
 壁のコルクボードに貼り出されている何枚かの依頼書……そう、ここは一応冒険者ギルドの役割を担っている店なのだ。

「全く、不思議なこともあるもんだよ。このキャンドル、燭台の隣にいつの間にか転がっていて、息子や娘に訊いても買った覚えはないって言う。儂もこんなキャンドルには見覚えもない。だが、どういうわけか妙に火を灯してみたくなってな。それで息子らと火を点けてみたら、眺めているうちに皆寝入ってしまって……儂は夢の中でイザベラと川辺を散歩していたよ。いやぁ、川面がキラキラ光ってイザベラも嬉しそうで……」
「イザベラおばあちゃん、何か言ってた?」
 ヤギなマダムの問いに老紳士は目尻を細めた。
「ああ、『私はいつまでも待ってるから、焦ってこっちに来ちゃダメよ』ってね。イザベラに会えんのはちと寂しいが、孫たちのためにも長生きせんとな」
「ふふ。そうよ~、ジョーゼフおじいちゃんはお孫ちゃんたちの人気者なんだから、長生きしなくっちゃ~」
 ヤギなマダムは柔和な笑みを浮かべながら老紳士にホットミルクを差し出すと、代わりに彼から件のキャンドルを受け取る。
 キャンドルは金色で、蝶の模様が刻まれた不思議な見た目をしていた。
「息子や娘もイザベラと夢の中で会ったそうだよ。息子はイザベラと弁当を持ってピクニックに行って、娘はイザベラと誕生日パーティーをしたと言っておった」
「ふぅん……みんな、素敵な夢を見たのねぇ。ありがとうジョーゼフおじいちゃん。これ、めえこさんが預かっておくわね」

●
 老紳士が店を後にすると、「めえこさん」と名乗るヤギなマダムは早速壁のコルクボードに依頼書を貼った。

『不思議なキャンドルの調査依頼。見た夢の内容と、危険性及び重篤な副作用の有無について報告求む』

解説

オープニングをご覧になって頂き、ありがとうございます。 本シナリオはいわゆる「夢オチシナリオ」です。 夢から覚めた後に何となく一時的な気分の変化はあるかもしれませんが、現実に何ら影響を及ぼすものではなく、また予知予言の類でもありません。 ●達成目標  キャンドルに火を灯し、眠っている間に見た夢をめえこさんに報告する。   ●キャンドルを使用する場所  部外者を巻き込まず且つシナリオ参加者全員で安全に眠れる場所であればどこでも構いません。  場所が見つからない・思いつかない場合はめえこさんの謎店の一室を提供いたします。 ●キャンドルについて ※一部PL情報です  キャンドルは複数で使用しないと夢を見ることが出来ません。  本シナリオのキャンドルでは必ず「死者に会う夢」を見るため、その特性上皆様それぞれ違う夢を見る可能性が非常に高いですが、プレイングを合わせて同じ場面の夢を見るのも可能です。  なお、重篤な副作用や危険性は基本的にありませんが、まだ安全性が判明していないのでこれらの検証と報告が求められているといったところです。 ●プレイングについて  プレイングは死者とどこで何をしたかをメインに書いて下さい。  夢の内容では、必ず以下の2点を押さえて下さい。 ・死者と一緒に何かする(単に会話をするだけでも大丈夫です) ・死者は何か一言あなたの背中を押すような前向きな言葉を発する(死んだペットの場合は、言葉の代わりに仕草など)  夢の中で会う死者は、親でも親友でも恩師でもペットでも構いませんが、「現実世界で間違いなく死亡しており、二度と会えない相手」にして下さい。  公式NPCや他マスター担当のNPCなどは描写出来ません。  死者本人のことや死者との関係性については可能な限りプレイングに書いて頂けると助かりますが、字数的に厳しい方は参照ノベルやリプレイがあればプレイングにてお知らせ下さい。  今回のシナリオに限り、1PC様につき最大2つまでのノベルやリプレイを参照させて頂きます。 ●その他  リプレイでは皆様の夢の描写を以てめえこさんへの報告に替えさせて頂きます。  めえこさんとのやり取りを最小限にして、皆様の夢の内容に字数を割きたいので。 ●NPCについて  谷木・萌恵子(やぎ・めえこ)(女性/40歳)  どっからどう見てもヤギなマダムです。  謎な冒険者ギルドの謎な職員です。  謎だらけですがヤバイ人ではありません、ご安心を。

マスターより

マスターの北織です。 言い残したあの一言、一緒にやりたかったこと……それをひとつ、夢の中で叶えませんか。 これはきっと、ささやかな贈り物です。 皆様のご参加、心よりお待ちしております。

リプレイ

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 八木・萌恵子の謎な店の一室には、ふかふかのベッドが五つと五人の冒険者、そして不思議なキャンドルが一本。
 キャンドルに火を灯し、萌恵子は緩い笑みを浮かべて部屋を出る。
「みんな、素敵な夢を見られるといいわねぇ」

●
「おっ? 一発食らってきたか」
 額に擦り傷を負って帰ってきたヴィルヘルミナを、鍛冶師である彼女の祖父は酒の入ったグラス片手に陽気に迎える。
(おじいさんは既にこの世にいない筈……これが、キャンドルが見せる夢……ですか)
 ヴィルヘルミナは悟ったが、それでも祖父とまたこうして向かい合えるのは嬉しかった。
「はい……小型のクリーパー相手に頭上を取られました。それよりおじいさん、また飲んでいたのですか?」
「さっき大剣一振り仕上げて気分が良くなってな。なに、一杯だけだよ」
「あまり飲み過ぎないで下さいね」
「分かった分かった。ハハッ、可愛い孫娘に言われるとキツイなぁ」
 祖父は上機嫌に笑いながらグラスの酒を飲み干してテーブルに置くと、ふっと笑みを消す。
「ヴィルヘルミナ、このままじゃ納得出来んだろう? その気があるなら付き合ってやる」

 ヴィルヘルミナと祖父は場所を変え鍛冶場裏の野原で対峙した。
「また頭がガラ空きだ」
 祖父は足元に気が向くようヴィルヘルミナを誘導しながら、武器で頭上から強烈な打撃を入れる。
 ヴィルヘルミナは愛用の剣で凌ぐのが精一杯だ。
「握りに力が入り過ぎているから剣の可動域が狭くなり反撃に転じられんのだ」
 祖父の言葉に従い握力を緩めれば、今度は剣を弾き飛ばされる。
「力を抜き過ぎだ」
(夢の中でも相変わらず容赦ありませんね。思えば何度打ちのめされたことか……)
 鍛冶と武術は馬車の両輪の如し、共に極めるべしという部族の教えに倣い祖父は生前ヴィルヘルミナを鍛え上げた。
 だが、誰しもそうであるように祖父もまた老いには勝てなかった。
 いや……好きな酒をもう少し控えていたらまた違っていただろうか。

「剣を少し直せば握りの感触も変わるかもしれんぞ。やってみるか?」
 祖父は、地面に刺さった剣を抜くヴィルヘルミナを今度は鍛冶場に連れていく。
「やってみろ」
 言われるまま槌を持ち剣を叩いてみると、暫くして祖父が
「代われ」
 とヴィルヘルミナの横に座った。
「こっちを薄くして抵抗を減らすんだ。よく見ておけ」
「はい」
 きっとこれが最後の修行、全てを目に焼き付けておこうとヴィルヘルミナは食い入るように祖父の仕事を見つめる。
「さあ、どうだ」
 祖父は打ち終えた剣をヴィルヘルミナに渡した。
 振ってみると、確かに少し楽になった気がする。
「鍛冶と武術、私は両方を極められるでしょうか」
 ヴィルヘルミナの呟きに、祖父は「大丈夫だ」とでも言わんばかりの微笑を返した。
「ヴィルヘルミナよ、迷わず自分の信じた道を往け」
「おじいさん……」
(そうでした……「道は数あれど、選び取るのは自分だ」、おじいさんはいつもそう言ってました)
 ヴィルヘルミナは祖父に深く頷いてみせる。
「……はい。選んだ道を信じて、進んでいきます」

●
 そこは酷く荒んだ廃墟の街並みだった。
 壊れた石壁やその瓦礫の狭間で赤黒い布切れがたなびき、微かな怒号が風と共に抜けていく。
 雨など凌ぐ場所もなく、漂う死臭がそこに転がる者の存在を唯一主張していた。
 この街では、人の命は鳥の羽より軽かった。

(何故わたしは此処に……?)
 エリカ・プレトリウスにとってここは嫌という程見知った街だが、子爵夫妻に拾われてからは一度も戻ったことのない地だ。
 心は疑念を抱いているのに、彼女の足は自然とある石壁の裏に進む。
(わたしは知っている、この街のここにあるのは……)
「……!」
 そこに何が「いる」かは知っていた。
 それでもエリカは驚きを禁じ得ない。
「ぁ、なた、」
 ぽつりと零れた声を歪ませるエリカの前で毒々しいキノコを齧る一匹のリスが、そこにいた。
 互いに生きながらえるために、幼き頃のエリカはリスが集めてくる木の実やキノコをここで隠れて分け合っていた。
 大人たちは怖くて、見つかればどうなるかという恐怖に溺れながら、ただただ夢中で生き続けた。
 そんな過去を思い出すと同時に、込み上げる絶望。
(そう、わたしと貴女は必死で生きてきた……互いに、名前などないまま)

 幼き頃のある日に出会ってから、このリスと何年共に過ごしたかは定かではない。
 寿命だったのだろうか、やがてリスはエリカと……いつの間にか産んだ子リスを遺しこの世を去った。
 その後「ネム」と名付けた子リスは、今やエリカにとってかけがえのない相棒となっている。
「……貴女は死んだ、わたしとあの子を置いて」
(そう。貴女が生きている筈はない。ならばこれは――)
 ――夢。
 だが、それが何だというのか。
 あの時のリスは、今こうしてエリカの前で生きている。
「ああ……」
 エリカは、かつてそうしていたようにリスの前に座り込み、手を差し伸べた。
 キノコを齧るのをやめたリスは、円らな瞳でエリカを見つめながら小さな両手を彼女の指に添える。
「今なら分かる……貴女の気持ち。わたしも、あの頃はただ素朴な貴女の優しさだけが全てだった」
(ああ、思い出した……わたしは、貴女を呼ぶ音がないことがずっと心残りだった)
 溢れる涙そのままに真っ先に思い浮かんだ名は「シルク」。
 当時のエリカにとって唯一の持ち物だった木彫りのタグに掘られていた「SILK」が由来。
 今でこそ「シルク」と読めるがあの頃は読めなかった上に、それがエリカの名である保証もない。
 だが、全てにして唯一だった「貴女」に送るには相応しい名ではなかろうか。
「ねぇ、シルクって呼んでいい…?」
 「シルク」は足元に転がしていた物を一つ持ち上げるとエリカに差し出した。
 当時、彼女たちにとって一番のご馳走だった木苺を。

●
「サイラスー、オレの剣出来た?」
 鍛冶場の表口の方から快活な青年の声が響く。
 ああ、そういえば数日前に修復の依頼を受けたっけ。
 サイラスは鏃を研ぐ手を止めて応対に出る。
「ああ、もう仕上がって――え?」
 剣を受け取りに来た青年は、かつて共に育ったカイアスの面影の濃いリザードマンだった。
 おかしい……サイラスは首を傾げる。
 カイアスは既に亡くなっている筈、当時大人たちに命じられるままにこの手で彼の躯を捌いたのだから間違いない。
 サイラスは修復の依頼主を思い出そうとする……が、どういうわけかさっぱり記憶にない。
(依頼を受けた記憶はあるのにな……まぁいいや)
 色々と腑に落ちないながらもサイラスは割り切ることにした。
「ねーサイラス、早く剣見せてよ」
 やけに馴れ馴れしい態度と外見がどうしてもカイアスと結びつく。
「もしかしなくても……カイアス君?」
 剣を渡しながら尋ねてみると、客はきょとんとした後、
「何を今更!? やだなーサイラス、疲れてんの?」
 と笑い飛ばした。
 死んだ彼がこうして姿を現すなどあり得ないと思いながらも、サイラスは記憶の中の彼よりも成長した今の姿に妙に納得する。
 鱗を五枚剥がされるまで耐えるだけの根性といい、殺されるのも時間の問題という状況下で果敢に逃げ出すだけの反骨精神といい、生き延びて冒険者になっていても不思議ではない。
「刃こぼれが全部直ってる、グリップもいい素材巻いてくれちゃって!」
 剣を握り嬉しそうに目を細めるカイアスに、サイラスはフンと鼻を鳴らす。
「それだけじゃないぜ? 振ってみろよ」
 ひゅんっ、とキレのいい音を立てる剣にカイアスは小さな歓声を上げた。
「空を切る音が違う! 軽量化してるし、切れ味も増してるでしょ!」
「そりゃもう、庶民でもギリギリ手が届くレベルのイイ鉄仕入れて丁寧に打ち直したからな。どうよ? お値段以上、サイラス♪ ってな」
「ほんとお値段以上の出来栄えだよ、コレ!」

 幼馴染みの二人はそれから暫く軽口を叩き合っていたが、修理代を払いながらカイアスがふと神妙な顔つきになる。
「なぁ、相変わらず竜化のために結構イロイロ……やってるの?」
 サイラスは軽く目を眇めた。
「上手いことあの村出てたらしてなかっただろうけどな」
「そっか……まぁ、何にせよ目指すものがあるのはいいことだし、思うままに突っ走ってくのもお前らしいかもな。ただ、万事無事にやれよ。何事も命あっての物種だから」
(「命あっての物種」ねー……)
 竜になるために転生を繰り返す、そんな信仰の中にいた者の口から出る言葉ではない。
 もっともサイラスは無意識のうちにそんな信仰を否定しているところがあったが、だからこそその一言をカイアスが掛けてくれたことに意味がある気がした。
「おれもあんたも大概だな」
 サイラスはそう言いながらカイアスにニヤリと笑みを返した。

●
 午後のうららかな日差しが降り注ぐ実家の裏庭。
 芝の上に設えられたテーブルには見知らぬ二人の若い男女が座りティータイムを楽しんでいる。
 その状況に唖然としているイズル・M・ヴォルゴールに二人はにこやかに手招きし、優雅に紅茶を注いでイズルの前に置いた。
「失礼ながら……お二人は誰?」
 男女は顔を見合わせて苦笑する。
「そうか、まずは自己紹介からだな」
 男女はイズルの方を向くと、
「僕はザフィーアだ」
「私はペルレです。よろしくね、イズルくん」
 と告げる。
 二人は揃いの濃紺の髪をしており、ペルレの金の瞳とザフィーアの銀の瞳が髪色によく映えていた。
(まるで夜空の金月銀月のようだ……)
 紅茶に手を付けず見惚れているイズルにペルレが声を掛ける。 
「紅茶が冷めてしまいますよ?」
「そういえば、イズルは冒険者をしているんだったな? ペルレ、初対面に飲み物を出されてホイホイ口にする冒険者はいないよ。毒を盛られているかもしれないからね」
「まあ、毒なんて入っていませんよ? お菓子もね」
「仮に入っていても、イズルなら授けられた力ですぐ治せるんだろうけどな」
 笑顔でそう言うザフィーアの傍らで、ペルレはイズルに注いだティーポットから自分のカップにも紅茶を注いで飲み、卓上のお菓子も優雅に口に入れた。
「イズル、冒険者は大変か?」
「お友達は出来ました? そろそろ恋のお相手なんかもいるのかしら?」
「イズルは最近どんな本を読んでいるんだ?」
「お芝居なんかも観に行っているのですか?」
 何故かイズルを良く知る二人からの質問攻めにイズルがあたふたしていると、ふと二人の面(おもて)に淋しさが過(よ)ぎる。
「イズル、お前に全部背負わせることになってごめんな……父上と母上、二人にも済まなかった思う。いいか、張り切るのは結構だが、こっちに来るような馬鹿はするなよ?」
「そうですね、こちらは毎日すごく冷えますから」
 そう言って二人は徐ろに席を立った。
 二人が何者なのか明かさないままここを去ろうとしていることにイズルは焦る。
「あのっ、お二人は――?」
 ザフィーアは軽く息を吐(つ)いた。
「戻ってから父上にでも聞いてみるといい」
「かなり強引に聞かないと答えないでしょうけれど……聞くなら相応の覚悟をしたほうがいいですよ」
「あと、何で知ってるのか驚かれるだろうしな」
 そこまで言うと、ザフィーアは真っ直ぐにイズルを見つめ、名残惜しげに告げる。
「僕たちはいつも見守ってるからな――可愛い弟よ」
「えっ――待って!」
 ざーっと一陣の風が吹き抜けた時にはもう、二人の姿は裏庭から消えていた。
(「弟」って……それじゃ、あの二人は俺の兄姉……それも、俺が簡単に知ることの出来ないような……?)
 あまりに唐突な出会いと別れ。
 兄姉は風とともに去ってしまったが、「見守る存在」としてイズルの心に確かな温もりを残していった。

●
 「その子」はあの頃と変わらぬ愛くるしい瞳をローザリカ・L・ディオールに向け、ゆらりと白い尻尾を揺らしている。
 見間違いだろうか、いや、そんな筈はない。
 あれ程に可愛がったのだから見間違えるものか。
 だが、絶対に会える筈もないのだ……あれ程に赦されざる“罪”を犯してしまったのだから。
 だというのに、純粋に食事と愛撫を求めて柔らかい鳴き声まで上げて……その子は何もかもあの頃と同じだった。
「どう、して……」
 裏庭の一角、植え込みの陰に跪くローザリカの頬を一筋の涙が伝った。

『ダメじゃないか弱みなんて作っちゃ――』

 兄の言葉と笑顔が呪いとなってローザリカの胸に楔を打ち込む。
(分かってる、全て私のせいだって……)
 愛情と弱みは表裏一体……その惨い事実を知らないまま、幼い頃の彼女はただその子を可愛がった。
 家族や使用人の目を盗み、密やかに。
 そして、そのせいでその子は命を落とした……いや、兄の手によって命を「奪われた」。
 だが、ローザリカは兄を恨んではいない。
(……そう、私が軽率だった。私が考え足らずだった。あれは、幼き日の私の罪)
 許される筈などない。
 ローザリカに出会い、彼女に可愛がられ、彼女に懐いたりしなければ、その子は死ぬことはなかったのだから。
 嫌われ、恨まれて当然だ。
 なのに――。
「……っ」
 ローザリカは言葉を失った。
 その子はかつてじゃれ合ったあの頃のように無邪気に彼女に温かな身をすり寄せる。
「……め……さい……」
 嗚咽に混じり消え入りそうな声を出しながら、ローザリカは恐る恐るその子に手を差し伸べた。
 抱き上げられることに何の抵抗も見せず、その子はローザリカに身を預ける。
 小さな白い子猫の体は温かく……生きていた。
「ぁ……ああ……ぅう……っ!」
 その子に息遣いに、生きている証に、涙が溢れて止まらない。
「ごめ……さい、ごめんなさい、ごめんなさい……っ! 私のせいでっ」
 慟哭にも近い謝罪。
 そこには貴族としての体裁も、築き上げてきた虚勢も何もなかった。
「赦されなくていいっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
 そう、罪は赦されない。
 分かっていても謝りたかった、ただそれだけだった。
 なのに、その子はローザリカの涙を舐め取り頬ずりする……まるで、「もう泣くな」と言っているかのように。

 あの日に流せなかった涙は一度堰を切ればもう止まらない。
 頭の片隅で、これは夢だ、幻だと警鐘が鳴る。
 絶対に再会出来ない子猫を抱くなどあり得ないことだ、と。
 それでもローザリカは子猫の感触を確かめるように濡れた瞼を閉じる。
 あと、もう少しだけ――そう願いながら。

●
 冒険者たちはそれぞれ見た夢を萌恵子に報告し、店を出る。
「あれは喪った大切な存在と夢で会える不思議なキャンドルだったのね~。ふふ、今宵見た夢がみんなの心の支えになるといいわねぇ~」
 萌恵子は優しく微笑みながら報告書をまとめ上げ、店の明かりを消した。

マスターコメント

皆様、夢の報告お疲れ様でした。 皆様のお陰でキャンドルが危険なものではないことが判明しました……というのはもはや建前ですね。 喪った大切な存在、叶うならもう一度だけ会いたい存在に皆様会うことが出来て何よりでございます。 此度の夢が現実に何かをもたらすことはありません。 ……が、皆様の心を温める灯火にはなってくれることでしょう。 この世界を生きる皆様がその灯火を胸に更なる飛躍を遂げますよう、心より願っております。
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:標準5 / 4〜5人

2022年01月17日 04時38分53秒 公開

成功

相談掲示板

  1. No.1

    サイラスだ、よろしくなー とりま基本それぞれ自由に的なシナリオだしまあ好きにやるでいいよね?

  2. ヴィルヘルミナ

    ヴィルヘルミナです。よろしくお願いしますね。 示し合わせがない限りは各々別の夢を見るみたいですし、特に相談する事もないかと。

  3. エリカ・プレトリウス

    エリカ・プレトリウスです。 ええと…キャンドルを使用する場所だけは決めなくてはいけないのでは? 一応思いつかなければ場所を貸して下さるそうですが、それならそうと全員「そこで」と指定するべきかと…。

  4. ヴィルヘルミナ

    >使う場所 部外者を巻き込まず且つシナリオ参加者全員で安全に眠れる場所であればどこでも構わない……との事ですね。 ぱっと思いつくのは、宿の部屋とかでしょうか。

  5. イズル・M・ヴォルゴール

    イズルです。よろしく。 >使う場所 これは全員指定しなかったら、自動で謎店の部屋をあてがわれるってことでいいんだろうか? 俺はヴィルヘルミナの言った宿屋で問題ない。 (場所は決まるまでプレイングには書かないでおきます

  6. エリカ・プレトリウス

    なるほど。確かに今回の人数なら宿屋でも良さそうですね。私も異存ありません。 指定しなかった場合については…萌恵子様にお尋ねしてみないと何とも。指定なしで済むのであれば文字数は僅かなりとも浮くかもしれませんが今回は必要経費かと。 一応締切直前までは私も場所の部分については仮のつもりで書いておきます。

  7. No.7

    本題夢だしどこでも良いのでは? 書くなら他の人と同じく宿屋にしとけばええやろなと。

  8. ヴィルヘルミナ

    では、宿屋で良さそうですね。 場所に関してはこちらで書いておきましょう。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0