遠き山に陽は落ちて
コースケ
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シナリオID:1537
オープニング
ここはリーンエス王国とエラトゥーン都市同盟の間の山間部。10月も下旬となり、木々は葉の色を緑から黄色、紅に変え、その枝にはたわわに果実を実らせているものもあった。
「大分涼しくなってきたな」
そんな山道を歩いている一人の男がいた。
目付きが悪く、やる気無さそうな雰囲気を纏った男で名をオッターという。
オッターが目指す先は谷間になっており、せせらぎが聞こえていた。やがて木々の間を抜けると川が流れており、岩だらけの川原のあちこちから湯気が上がっている。
オッターは川原の岩をどけ、スコップで掘ると熱い湯が湧き出てきた。その湯溜まりに川の水を引き込み、ぬるめの湯加減に整えると服を脱ぎそこに浸かる。
「あ”ー……、準備は面倒だけどそんだけの価値はあるよなー」
じわじわと身体が温まり、汗と一緒に溜まった疲れや毒素が抜けていくのを感じながら目を閉じる。
ここは都市から大きく離れた秘湯であり、土地を所有している王国の貴族と面識があるオッターは、たまにこうやって湯治に来るのだ。
●来客
「……ん? 人の声がするな」
湯から上がり、身体を拭いていたオッターの耳に人の声が聞こえてきた。稀に同じ目的の人と会うことはあったが、話し声は複数聞こえてくる。
(そう言えばあいつ、ここに人を呼びたいとか言ってたっけ)
もしかしたら温泉やキャンプに来た貴族や冒険者かもしれない。幸い温泉の湧く川原はかなり広い上、あちこち大きな岩が張り出しているため天然の仕切りもある。お互い気を付けていれば裸で鉢合わせして気まずい思いをすることも無いだろう。
(けど、ここが騒がしくなるのは残念かもな)
そんな事を考えながら、オッターは野営場所を確保すべくその場を離れるのだった。
解説
マスターより
リプレイ
白狼の耳と尾を持つ少女が佇んでいた。湯煙に紛れ川面に目を落としている様はどこか消え入りそうな雰囲気を纏っている。
「あれは……ティトさん?」
少女と同じ歩兵団に所属するコルネリウス・アーラが、声をかけようとすると茸狩り同行していたララノアがやって来る。
「ど、どうされたんでしか?」
「あそこの岩の上にティトさんが……」
「? 誰も居ないでしよ?」
コルネリウスが振り返ると、少女は霞のように消えていた。
「……いえ、見間違いだったかもしれません」
「お。いい岩あんじゃねぇか」
温泉を掘りに来たナハシュは、平たい岩を見つけると周りを掘り始める。
「ゆっくり浸かれるよう、深い所も作りてぇな」
中々に凝り性なのか試行錯誤しながら掘り進んでいく。
「湯船の準備は任せてよ!!」
ララベル・サン・ディーベルも川原を掘る。
「では、私は肉でも周囲へ狩りに行きましょうか。兎や野鳥辺りが狩れたら良いですかね。行きましょうハヤテ」
「じゃあ、私も薪を集めてくるわ」
「それじゃあボクは、皆が温泉掘りや狩りをしている間にバーベキューの準備をしておこうかな」
楓月・千弦とテュリン・ヴィングが森へ向かい、料理担当のルーシカはララベルがどかした石を集める。
「うん、テュリン姉と千弦も気を付けてね! よーし、頑張って広い湯船を作らなきゃ!」
「大物期待してるよー?」
二人に手を振り、ララベルは湯船掘りを再開する。皆と楽しむ温泉とバーベキューはきっと最高に違いない。それを思えば自然と穴掘りにも力が入る。
「こういうところは男の子だね」
少し年下で一見女の子にも見える恋人に微笑みながら、ルーシカは石でかまどを組み始めた。
離れた場所に湯船を掘ったナキルは、一人温泉に入っていた。
「熱つ、でも気持ちいいな!」
冷えた身体に、湯船の底から湧いてくる熱めの湯が心地いい。
見上げると雲ひとつない秋空が広がっていた。
「綺麗な景色に、川のせせらぎ、風が少しひんやりとして気持ち良いですわね。お肌もすべすべです」
ネーヴェ・グラヌローザも一人露天風呂を堪能している。
「にゃーん」
失礼。黒猫のアーテルも一緒でした。とはいえ、アーテルは岩の上から主人の様子を眺めているだけである。
「一緒に入りたいのかしら?」
「にゃー?」
ネーヴェの問いにアーテルは首を傾げる。首の鈴がちりん、と鳴った。
●川の恵みを
海神・江流とエル=バ=ノイアンは、上流の岩上で釣り糸を垂れていた。
「ノイアン、引いてるぞ」
「む?」
ノイアンが竿を上げると、餌だけが取られていた。
「釣りというのは、釣果を求めるのではなく、釣り糸を垂らしてぼうっとしたり話をしたりすることだと聞いたんだが……」
「だから全然見てなかったのか。確かに、ここはそういうことをするにはいい場所かもな」
「最近慌ただしかったからな、こうしてゆっくりできるのはいいことだ」
餌を付け直しノイアンが仕掛けを投入する。今度は釣り糸に視線をやり、当たりを見逃さない様に気を配る。
「………」
「…………」
無言の時間が過ぎ、川のせせらぎと風が草木を撫でる音だけが流れていく。
「ところで江流、学園の御令嬢と仲良くしていると聞いたんだが……大丈夫か?」
ノイアンがぽつりと口にした言葉に、江流は視線を釣り糸に向けたまま答える。
「仲良く……って程、私的に会えてない筈なんだが……。何が心配なんだ?」
ノイアンも糸から目を離さず返す。
「相手は貴族となれば面倒ごとも多いだろう。それとも、面倒ごともひっくるめて付き合っていきたいという相手なのか……?」
ノイアンの言葉に、江流はああ、と納得したように唸る。
「他所でも同じ事を言われた気がするが……今の所面倒に感じた事はない。学び舎ってのは面白い場所でさ、学生でさえあれば、身分も何も関係ないんだよな。あの娘は俺の知らない世界で生きてる。せめて学生であるうちくらいは拓けた世界を見る手助けをしてやれたらとは思うよ」
江流が竿を上げると、針に餌が付いていなかった。餌を付け直し同じポイントに投入する。
「というか、その貴族を追いかけては面倒な肩書まで背負う羽目になってるお前さんが言うかね」
江流に倣いノイアンも竿を上げると、また餌を取られていた。
「……俺? 俺は、まあ……仕方ないだろう、惚れてしまったんだから」
「一代限りでも爵位が貰えればか? まぁ、お互いに似合わないよな」
笑いながら江流は竿先を軽く動かして魚を誘う。
「で、釣れないと夕飯が米だけになるからな。2匹は釣るぞー」
「米だけの夕飯……それは少し寂しいな……。釣るか……」
ノイアンも餌を付け直し、今度は別のポイントに仕掛けを投げる。
そこへ、ガルシアがバスケットと水筒を持ってやって来た。
「江流様、そろそろお昼にしませんか? ノイアン様の分もありますので」
江流とノイアンは顔を見合わせる。
「2匹では足りないようだな……」
「場所を変えて本気で釣るか?」
ノイアンの膝の上で寝ていた猫のみつきも、自分の分もとばかりに『にゃー』と声を上げた。
下流の淵に浮かぶ鴨の群れを見つけたストレガは、静かに魔法の射程まで近付くと魔導書を開いて魔法を発動させる。
『そこにとどまれ』
重力場に囚われた鴨は飛び立とうとするが、ストレガはエーテルで青藍に光る鎖付の錨を生み出し、正確に頭に命中させ仕留める。
「肉を傷めないよう一羽ずつ丁寧にいくのだ」
ストレガは錨を投擲し、次々と鴨を撃ち落としていく。
「早めに処理しておくのだ」
鴨を回収したストレガは、短剣で首を切り血抜きをすると、肛門の回りをぐるりと切開し、肉を汚さないよう慎重に内蔵を取り出す。
「ほう、上手いもんだね」
そこへ通りがかったヨル・スレイマンが声をかける。
「狩猟鳥獣の肉は仕留めた後の処理が大事なのだ。肉に臭みが移らないよう、血と内蔵は早く抜いた方がいいのだ」
「そうか。俺もやらせて貰おうかな」
ヨルの手には雉が下がっている。ストレガの手順を真似て内蔵を抜いていると、ストレガは火を起こし羽根を毟った鴨を炙り始めた。
「こうやって産毛を焼くと食べるとき口に残らないのだ」
「なるほど。参考になるね。連れに美味いものをご馳走出来そうだ」
「出した心臓と肝臓、砂肝も串焼きにすると美味いのだ」
「ありがとう。そうだ。よかったら酒に合う料理なんか教えてもらえないかな」
ストレガは快く頷く。知識は蓄えるだけでなく広めることも大事であると考えているからだ。何より、食は万世共通の幸福なれば、多くの人に知って貰ってこそ意味がある。
「……退屈じゃないか?」
「釣りですか……? いえ、私はそういうのがよくわからなくて……ただ、江流様が何をお釣りになるのかは見てみたいな、と」
再び上流。ノイアンは別の場所へ移動したため、江流の隣にはガルシアが座っていた。
「とはいっても、一匹も釣れてないんだけどな」
「ということは、一匹目が釣れるところから見せてもらえるんですね」
苦笑する江流のぼやきにも、ガルシアはまっすぐに返してくる。
場所を変えるのがいいのかもしれないが、ノイアンが戻ってきた時に居ないのも良くないかと思い、ここで続ける事にする。
「……」
「………」
時折ガルシアの様子を伺うが、退屈している様子もなくこちらを見ている。それに気を取られ、餌が取られている事に江流は気付いていなかった。
「釣れますか?」
フラム・アニムスは、釣り糸を垂れていたオッターへ声をかける。
オッターは自慢げに魚籠を掲げる。中には鱒が数匹入っていた。
「凄い! 俺もここで釣らせて貰っていいですか?」
「おう。あの辺りとか大物がいると思うぜ?」
フラムは礼を言い、やや外れた鼻歌を歌いながら糸を垂らす。
「人数分は釣らないとな! ……って、もう来た!」
「その引きは大物だぜ、焦るなよ!」
格闘の末に竿を上げると、銀色の魚体をくねらせ大ぶりな鱒が宙に舞った。
「……む」
江流と別れ場所を移動したノイアンは戸惑っていた。糸の先に白い斑点のある30センチほどの魚がかかっている。
「見たことのない魚だが、食えるだろうか……。江流に聞けばいいか」
逃がさないよう慎重に針を外し、魚籠へ入れると再び釣り糸を垂らす。ゆっくりは出来ないが、こういうのも悪くないかもしれない。
(こういうのは、彼女も好むだろうか……)
想い人の顔を思い浮かべ、誘ってみるか思案していると竿にぐぐっと反応がある。この調子なら三人と一匹の夕飯が寂しくなる事は避けれそうだ。
●山の幸を
「粽、みんなとばーべきゅーに行くのだ! 大福達はお肉担当なのだ! 大物狩るぞ! えいえいおー! なのだ!」
狼の粽を連れた大福は、荷車を引きながら森を進んでいた。大勢の仲間のため、荷車一杯に獲物を狩る気満々である。
そんな大福の先を歩いていた粽がぴたりと足を止める。
「粽、何かいるのだ?」
粽の見つめる繁みの先から歌声らしき声が聞こえて来る。やがて、がさりと繁みの中から男が現れた。手には毒々しい色の茸や野草が入った篭と、まだ血の滴る鳥を持っている。
男は大福に気付くと、にやぁっと笑い話し掛けて来た。
「い、いい天気だね?」
「あ、怪しい奴なのだーーっ!?」
スタコラ逃げ出す大福を追いかけ誤解を解くか考えたシェオルだったが、かえって怯えさせそうなので諦める。あと連れていた狼に怖い顔で睨まれたし。
ヤマドリを仕留め上機嫌で歌っているところを見られ、誤魔化そうと笑みを返したのがまずかった。シェオルが受けた『不義の呪い』は、他人からの印象を悪くする(らしい)のだ。
「きのこっのっこーのこどこにあるー?」
「キノコ採集はお任せでし! 森育ちでしゅ!」
「そんなに慌てなくても、茸は逃げませんよ?」
仲良く茸狩りに森に入ったサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブとララノア、コルネリウスのエルフ三人娘は、慣れた様子で茸や山菜、果実などを採取していく。
「ふっふっふ。あたしにかかれば茸なんて菌糸までお見通しなのだよ!」
高らかに宣言し、エーテルを張り巡らせたサフィラは、くわっと目を開いて叫んだ。
「うむ、分からーん!!」
「分からないんでしか?」
ががーんと驚くララノアに、にゃははーとサフィラが笑う。
「人や動物みたいにはいかないねぇ。眼と経験で探すのが一番かな」
「この山は豊かで十分な実りがあるみたいですし、探すのに苦労はしないでしょう」
コルネリウスはアケビや棗を籠に入れつつ辺りを見回す。あちこちの落ち葉の下や朽ち木から茸が顔を出しており、見上げれば木々には実を付けているものも多い。
「ラーラが採ったのこれ毒茸だー!?」
「えぇっ!し、しっかり確認したはずなのに……違うキノコがなぜ……」
アクシデントが起きつつも、三人は賑やかに茸や果実を籠に入れていく。
「やっぱキャンプはバーベキューに限るよな!! 火の番なら俺に任せておけ!!」
胸を叩いて石を組むカズマ クレセントブラッドに火起こしを任せ、アリシア・リターナーはバーベキューの獲物を探して森に入った。
「この足跡は……、猪じゃな」
身に付けた狩猟の技術で足跡を辿り、藪の中で寝ている猪を発見する。アリシアは脳天に一撃入れて仕留めると、動脈を切って血抜きをする。
「うむ。これで皆に腹一杯食わせてやれそうじゃな!」
「キャンプでバーベキューするなら、やっぱり現地で食材を集めて盛大に焼いて食いたいよなぁ」
シグルド・オルセンも森に入っていた。肉や魚は仲間に任せ、山菜や茸狙いである。肉や魚を焼くなら香草も欲しい。
「あった。ならこの辺りに……」
シグルドは目当ての木を見付けると、周りの落ち葉をかき分け目当てのものを探す。やがて落ち葉の下から目当ての茸を見付けると、その周りを更に注意深く掘り返し同種の茸を発見する。
「よし。十分数は揃うな」
この茸は特定の木の周りに生えるため、木を取り囲んで生えていることが多い。ひとつ見つければ他を探すのも容易な種類だった。
「次は何を探そうかね」
バーベキューに集まったメンバーは多い。数だけでなく種類もあった方がいいだろうと思い、シグルドは他の食材を求めて歩き出した。
●夕暮れの川原で
赤銅の肌のゴブリンが、真剣な表情で岩を駆け上がっていた。登りきると岩陰に滑り込み、鋭い視線を辺りにやる。目的の為にも、行動は密かに迅速に。かつ大胆に行わなければならない。
「よし、気付かれてねぇな」
安全を確認すると岩の頂上に立ち、眼前を見下ろす。湯煙で詳細は分からないが、何組かが温泉に入っているのが見える。彼の鋭敏な嗅覚は、その中から目的の匂いを嗅ぎ取っていた。
「ムヒョヒョ~♪ 久々の混浴だぜぃ♪」
でれ~っと鼻の下が伸ばす彼の名はハヤト=ガラン=ヴォルファング。同じキャンプ地に彼女がいようとも勇敢に混浴に挑む『やるときはやる漢』である。
「いっただっきまーすっ!」
今がやるときと温泉にダイブし空中で服を脱ぎ捨てるハヤト。己の身体も隠さず正面から挑む姿は、まさに漢であった。
「させるかーっ!!」
「ぶおっ!?」
突っ込みとともに飛んできた毬栗がハヤトの顔面に命中し、バランスを崩したハヤトは受け身を取れず、石に強かに頭をぶつける。
「あら、ハヤト団長も来てたんですね。お背中流しますよー」
落ちたのはハヤトが率いる傭兵団に出入りするシルク・メイプルリーフの隣だった。ちょうど温泉に入ろうと服を脱ごうとしていた所だったようで、肌着のままハヤトへにじり寄って来る。
「いや、今はマズい!」
「え、何がマズいんです? さあ裸の付き合いと参りましょう!」
シルクの豊穣の恵体とせいなるちからは、ハヤトでなくともダイブしたくなる神の造形だが、彼女であるサフィラが近付いている今、流石のハヤトもそれどころではない。
「あら、サフィラさんも一緒に入ります?」
ゴゴゴと暗黒の圧を伴いサフィラが現れる。せいなるちからと暗黒の圧がぶつかり合い、あわや大惨事になるかと思われたが、矛先はハヤトに向かったため事なき(?)を得た。
やっぱり彼女いるのにこんな事しちゃ駄目ですよね。
「何処かで悲鳴が聞こえない?」
「誰かはしゃいでるんじゃない?」
ララベルが掘った露天風呂浸かっていたルーシカが耳を澄ますが、テュリンは気にせず温泉を堪能している。
「こういった場ですし開放的になるのもいいですが、羽目を外し過ぎるのも考えものですね」
千弦も湯船で気持ち良さそうに目を閉じている。
「それより、ルーもテュリン姉も近くないかなっ?」
皆と入れるよう頑張って大きな湯船を作った筈なのに、ララベルはルーシカとテュリンにぴったり挟まれる形で湯船に浸かっていた。
「だって、こっちだとお湯が湧き出してちょっと熱いのよ」
「こっちは水が流れて来て冷たいんだよね」
焦るララベルに構わず、二人はさらに肩を寄せてくる。嫌ではなくむしろ嬉しいララベルだったが、温泉に浸かった二人の肌はすべすべで、いつも以上に意識してしまう。
「じ、じゃあ、一回お湯を混ぜようか! 冷たい水は入り口を塞げばいいんじゃないかなっ!」
ざばっと立ち上がるも、ララベルも全身つるつるだったため、足を滑らせてテュリンに倒れ込んでしまう。そして掌に柔らかい感触。それはいつもよりすべつるだった。
「……まあ、何時もの事ではあるけど、それに慣れてしまっている自分もある意味で怖いわよね」
「ごっ、ごめん……って、テュリン姉!?」
達観が見えるテュリンから慌てて身を起こすララベル。だが再びつるっと倒れそうになり、後ろからルーシカに支えられる。
「あまりクッションにならない身体で残念だったね?」
「そんなこと無いよ!? ルーの体だって、その……、柔らかいものが背中に当たってつるすべで気持ちいいし……」
顔を赤くしながら口ごもるララベルに、ルーシカは思わずその背中を突き飛ばした。その頬が赤かったのは温泉のせいだろうか。
「……ベル君?」
確認しようとしたララベルだったが、千弦の冷たい声に我に返る。そういえば掌に感じるタオル越しでも分かる柔らかい感触は……?
「ちょっとどこ触ってますか」
「えっと……、ごめんなさい」
その後ララベルを待っていたのは、千弦のお仕置きとルーシカの特製料理だった。
「兎はパイにしてみたよ。鳩は串焼きだね。あ、ベルの分はこっちね」
「美味しい! こういう美味しい料理を食べれるのも、冒険者の醍醐味の一つよね」
「ルーシカ君の料理の腕は見事ですね。ハヤテも満足そうです」
「ルーの料理今日も美味しい……冒険中の野営とは違って、気も張らないし楽し……って辛!?」
「はあ…気持ちいいです……悩みとか、いろんなことが流されていくようなこの感覚……」
ミア=リゼルはアビと名付けたペットの冬眠鼠と静かに足湯を楽しんでいた。足を浸けているだけでも、身体がぽかぽかと温たかい。
「アビさんも気持ちいいですか? それはよかった」
自作のミニミニ桶の中で、気持ち良さそうに目を細めるアビに微笑む。本来なら冬眠している頃なのだが、アビはミアに付き合ってか冬眠の様子はない。
「アビさん、森に帰りたいとは思いませんか……?」
思わず聞いてしまう。それに答えてなのか、アビはミアの肩に登り、襟巻きの間に潜り込むとくしくしと毛繕いを始める。
ミアは濡れたアビにもう、と苦笑いしつつも、そっと手をあてて濡れた体が冷えないよう奥へ入れてやる。
「いえ……野暮でしたね」
●陽は落ちて
「温泉、本当にできてる……すごいなテーブルまである」
「どうよ、マジで温泉だろうが」
中央の岩に料理を置けるよう苦労して作ったナハシュは悪戯を成功させた子供のように笑みを浮かべる。
「さっさと入ろうぜ。ずっと掘ってたから腹減ってんだよ」
「そうだね。料理が冷めない内に入ろうか」
ナハシュは温泉に浸かると雉の串焼きを頬張り、ワインで流し込む。野生の雉の力強い味を香辛料が引き立て、それをチーズが包み込んでいる。心臓や砂肝もコリコリとした歯応えが心地好い。
ガラで出汁を取ったスープにも酒が入っており、旨味とコクがよく出ていた。
「肉多めにしたけど野菜もちゃんと食べてね」
「旨え。飯と酒と風呂のトリプルコンボだ。最高に決まってんだよな」
トリプルコンボに夢中で聞いていないナハシュに、ヨルは小さめの容器に何かを入れ、温泉で温めた酒を注ぐとナハシュに渡す。
「面白い呑み方を教わったんでね。ちょっと試してみようと思って」
「何だこりゃ?」
器には指先ほどの薄茶色い物体が入っており、透明の酒が注がれている。口を付けると酒の芳醇な香りと共に香ばしさが口に広がり、同時に旨味が舌を刺激する。キリッとした辛口の酒との相性もいい。
「熱ちっ。けど旨ぇな!?」
「もっと落ち着いて呑みなよ」
ぐいっと飲み干し茶色い物体もがしがし噛んで飲み込むナハシュに苦笑しつつ、差し出された器にお代わりを注ぐと自分にも同じものを注ぐ。
「雉酒と言うんだって。塩揉みをしたササミを狐色に焼いて、それに熱いシャルガネの米酒を注ぐんだそうだ。しばらく待てばもっと美味しくなるよ?」
「……本当だ。さっきより旨ぇ」
二人はゆったりと温泉に浸かりながら酒を呑み、星の瞬き始めた空を見上げ揃って息を吐き出す。
「……いいな。これ、いいな。もうここから動きたくねえ……」
「溶けそう…………温泉はいいな……うちの庭も掘ったら出ないものかな」
「……いいなそれ。雉も捕れる森も作ろうぜ。神サマとかの力で出してくれよ……(ぶくぶく)」
「うん……、今度頼んでみる、よ(ぶくぶく)」
温泉でお酒を呑むのは風情があるけど、酔いが回りやすいので気を付けましょうね?
「わぁ〜良い匂い。美味しそうなのでし…ッ」
「ふっふっふ。茸鍋は豚汁風にしてみたのだよ!」
ララノアとサフィラが蓋を開けると味噌と茸の香りが広がる。そこへコルネリウスも追加の一品を持って来た。
「アケビの皮も茸と炒めてみました」
「皮も食べれるんでしか?」
ララノアに微笑んで頷き、コルネリウスは料理を器に盛る。
「さあ、冷めない内に頂きましょう」
「いっただっきまーす!」
まずは茸鍋。茸の旨味と豚肉の油が溶け出たスープは絶品で、茸から出る土の匂いも、後から散らした香草が消して気にならない。
「熱っ、でも美味しいれふ……!」
「温まるねぇ」
数種類いれた茸はシャキシャキやクニクニと食感も楽しく、出汁を吸って旨味も増していた。それに、寒空の下を歩き回って冷えた身体を内側から温めてくれるのも嬉しい。
「茸とアケビの皮もどうぞ。アクも抜いてあるので美味しいですよ」
「ん! ほろ苦いけど茸とも合うね!」
依頼での夜営経験はあっても、こうして友達と過ごす夜はコルネリウスにとって初めてのものだった。ララノアもサフィラも笑顔を浮かべており、きっと自分も同じ顔をしているのだろう。
夕食のあとはゲルに入り、並んで手を繋ぎ横になる。一日中一緒に居たけれど話題は尽きない。
昼間のこと、夕食のこと、自分や相手のこと。……そして恋のはなし。
「そういえば、ハヤトさんは大丈夫なのですか?」
「そうでした! もう許してあげた方が……?」
「いーのいーの! 解放したらまたやらかすから。今日は三人水入らずで過ごすの! そうだ。コルネもお手手つなごー!」
ララノアを挟んで反対側に居たコルネリウスの手を握ると、当然二人に覆い被さる形になる訳で。
「サフィラ様……むぎゅっ……ふぇぇ、やわこい」
「サフィラさんたら!」
「にゅふふ。逃がさないよー!」
はしゃぎ疲れて眠るまで、三人はゲルの中でわちゃわちゃするのだった。
「……ちっと冷えて来たか」
マントを羽織り、ナキルは焚き火に薪をくべる。参考書に集中していたせいか、気温が下がっていた事に気付かなかったようだ。
火にかけていたスープを飲んで身体を温め、ふと空を見上げると星が瞬き出していた。
「……見える星が変わって来たな」
パチ、と木が音を立て、焚き火の周り以外は闇に包まれていく。ナキルは割とこういう時間は好きだった。
冷たい空気、煙の匂い。こういう場所だと妙に集中力を発揮する性分を活用して、再び参考書に目を落とす。
「お、また面白そうなモン書いてあるな……ちっと読めねェな……今度聞くか……」
目印を付け次の項を捲る。止まってはいられない。ナキルには大きな目標があるのだから。
「どうぞどうぞ。釣りすぎてしまって食べきれないところでしたので」
「……はあ、頂きます」
足湯だけで帰ろうとしたミアだったが、何故かシルクに引っ張られて、鱒をご馳走になっていた。
「……! 美味しい……」
「でしょう? これも豊かな山の恵みですよね。ん~なんたる豊穣」
鱗と内臓を取り、塩を振って焼いただけなのに皮はパリッと香ばしく、油ののった身は川魚独特の風味はあるが、個性として楽しめる風味だった。
シルクはあっという間に一匹平らげ、次の鱒に手を伸ばす。
「ええと、よかったらどうぞ」
「おお、レモンですね。ありがたく使わせて頂きましょう」
シルクはレモンを絞って鱒を一口。
「酸味と香りが鱒の風味を別のものに変えて、さっぱりと食べれますね。油がのってるのにいくらでもいけちゃいそうです~」
「レモンの皮を削って振りかけてもいいですよ」
「なるほど! それでは早速」
食べきれないと言っていたシルクだが、信じられない勢いで鱒を食べていく。もしかしたらミアが一人でいるから声をかけてくれたのかもしれない。
そしてゲルに泊まって行くよう勧められ、ミアはシルクの隣で横になる。
(せんせい、今日は優しい人に会えました。いつか……「むぎゅっ?」
「豊穣神さまに感謝です~、むにゃ」
ミアの物思いは、寝惚けたシルクの豊穣の恵体のぼんっの部分で顔を覆われ中断された。抜け出そうにも、思いの外強い力で抱き付かれ抜け出せない。つるすべのぼんっに埋もれ、ミアは意識を失った。
(せん、せ……い)
バーベキューには多くの獲物が集まっていた。
鴨と猪に鱒、各種茸や野草などの食材が盛り沢山である。そこへ、大福が台車を引いて戻って来る。
「あら、大福さん、どうかなされました?」
ネーヴェが声をかけるが、大福はしょんぼりと俯いており、粽も申し訳なさそうにしている。
「皆に一杯お肉食べて貰いたかったのに、全然だったのだ……」
台車には目の辺りに黒い線がある50センチ程の獣が一体乗っているだけである。ネーヴェがどう声をかけようか思案していると、シグルドが声を上げる。
「お。穴熊じゃないか。これ脂が美味いんだよな」
「うむ。食う者は少ないが知る人ぞ知る上物なのだ」
「でも、ちょっとしかお肉にならないのだ……」
一瞬ぱあっと顔を明るくした大福だが、他の獲物の山を見て再び俯く。
「大福さん、ちょっとでも皆で食べれば美味しいですよ?」
「そうだよ! それに、お鍋にしたら皆で一杯食べられると思うよ!」
ネーヴェとフラムの言葉に大福が顔を上げると、シグルド達も笑顔で頷く。
「皆、ありがとうなのだー!」
大福がネーヴェとフラムにひしっと抱き付き、二人も背中をぽんぽんと叩く。そこへカズマとアリシアの声が飛んで来る。
「おーい、もう火の準備はばっちりだぜ!」
「うむ。カズマが用意したからの。早く焼くのじゃ!」
「では早く解体してしまうのだ」
「大福もお手伝いするのだ!」
ストレガと大福は穴熊を解体し、シグルドが採ってきた茸と鍋にする。
「味見してみるのだ」
茸と肉の旨味が出汁に溶け出し、それを吸った野菜と茸の旨味が増している。肉も野生動物としてはクセがなく、サクサクとした不思議な食感の脂は甘味のある上質のものだった。
「美味しいのだ! 皆に食べて貰うのだ! どうぞなのだ! 大福と粽で捕ってきた穴熊なのだ!!」
「さあ、焼けたからどんどん食ってくれ。空いた場所で次を焼くからな!」
カズマは焼き専に徹していた。鍛冶として火の扱いに拘りがあるのか、石でかまどというより炉とでも言うべきものを組み、着火から手間をかけ、丁寧に育てた火は見事な熾火となっていた。焼かれた肉や魚から滴った脂が煙を上げ、香ばしい香りが漂う。
「カズマも食うのじゃ。はい、あーん」
「むぐっ、……ごくん。お、俺はいいから!」
力強い旨味と歯応えの肉を飲み込み、カズマは火に向き直る。上目使いで猪肉の串を差し出すアリシアに思わずドキっとした事を悟られ無いように。
だが人生経験の差か、アリシアにはお見通しだった。
「面白いやつじゃ。ひゃっひゃっひゃ」
「って、やっぱりからかってたな!」
楽し気に笑う眼は子や孫を見るそれだ。
「どれ、カズマが臍曲げん内に行くかの。グラヌローザ卿もリベルガストラ卿も中々の素質を感じるでな。そういえば、あのゴブリンの女子も……」
「程々にしとけよ……」
呆れつつも、楽し気に歩いて行くアリシアを見送るカズマだった。
ネーヴェは皿に盛られた料理に目をやる。
焼いた肉や茸、鱒の塩焼き。ワイン煮に穴熊鍋。お好み焼き。先程食べた鴨も鶏と違って味が濃く野性味があるが、処理が丁寧なため気になる程ではない。むしろ香草と合わさって風味が引き立っている。どれも美味しくて食べ過ぎてしまいそうだ。
「ネーヴェさん、鱒美味しい?」
「ええ、フラムさんの釣って来られたお魚もとても美味しいですわね。アーテルも喜んでいますわ」
ネーヴェの足元ではアーテルが鱒に夢中になっており、隣でフラムの飼い猫のビビもちゃっかりご相伴に預かっている。
「いやぁ、美味いなこれ。賑やかだし、やはりこういう賑やかさは良いな」
シグルドもハーブ塩をかけて焼いた鴨にかぶり付いている。シンプルな味付けは素材の味を引き立たせ、随分とワインが進んでいた。
「こうして和気藹々と頂くご飯は美味しいですわね。皆様の笑顔と豊かな自然が最高の調味料でしょうか」
「混ぜてくださりありがとうございます……! 皆さんとたくさんお話できて嬉しいです」
「ああ。楽しんでくれたなら何よりだ」
夜も更けるとあれだけあった料理も無くなり、皆で雑談に興じる。随分と冷えてきたがカズマは火を絶やさず、皆でそれを囲んで暖をとる。
興が乗ったネーヴェが歌を披露すれば、その落ち着いた歌声に誘われ、大福とフラムが粽に凭れかかって寝息をたて始める。
やれやれとアリシアが毛布をかけると、ビビとアーテルもそこへ潜り込んだ。
ストレガは残った食材を無駄にしないよう、裏で朝食の仕込みに入る。
シグルドはそれらを眺めながら、残ったミードを流し込む。
「いやあ、今日はいい日だ」
シェオルは一人焚き火にあたっていた。
「美味っ! ヤマドリ美味っ!」
自分で捕って料理した最高の食材に、野外というシチュエーションなのだから不味い筈がない。
「茸と野草のスープも最高だな!」
料理を堪能し、蜂蜜酒で身体を温めれば酔いも相まって気も大きくなる。
「……ふはぁ、美味しいし温まるー……あ、そうだ温泉。へへー、足湯作っちゃおっかなー」
夜中で人の居ないことを確認し、川原を掘って足湯に浸かる。
「温かーい。星も綺麗だし最高だ……なぁっ!?」
「………よう」
空を見上げたシェオルだったが、自分を見下ろしていた何者かと目が合う。それが声をかけてきたものだから酔いが冷めるほど肝を冷やし、全速力でスタコラ逃げ出した。
「おい待てよ! せめてこれ解いてってくれよ! なあっ!?」
サフィラに簀巻きで吊られていたハヤトは、怪しい奴に声をかけるか迷っていたところ目が合ったので声をかけたのだが、夜中でもあり驚かれるのも無理はない。
「クソッ、誰かこれ解けよー!」
結局。ハヤトが解放されたのは翌日だったという。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:無し25 / 4〜25人
2021年11月09日 18時13分34秒 公開
参加者
相談掲示板
シグルド・オルセンだ。よろしく頼む。 キャンプと言えばバーベキューということで、バーベキューメインのキャンプをしようと思う。とりあえずタグは【BBQ】にしとく。
「ナキルだ、よろしくな!! …キャンプと温泉に興味あるんだけどな…両方できっかな…(むむ)」
おーっす。 何か昨日の接続不良?とかの影響で出発が一日延びたそうだ。 間違えないよう気を付けてなー。
ミア=リゼルです。キャンプか温泉か迷いますね… 同行者さんの都合がつかなくなってしまったので今回はおひとり様ですが、皆様楽しい時を過ごされますよう。
No.5
さてゲルを建ててキャンプを楽しむとしましょうか 泊まるところのない方はどうぞ
アリシアじゃ。 知り合いも何人かおって心強いぞな。 わしは混浴でも構わん。
よし、混浴しよう!!← っつーわけでブレイブファング傭兵団のハヤトだ、みんなよろしくな!!
俺もバーベキュー楽しむぜ! 【BBQ】参加するぜ 火の当番は任せな(やりたいだけ()
ネーヴェ・グラヌローザと申します。どうぞ宜しくお願いいたします。 今のところ単独なのですが、とりあえずは温泉を楽しみたいですわね。 そしてシグルド様、もし宜しければ【BBQ】、私も参加させて頂けますと嬉しいです。
>カズマ、ネーヴェ お、二人ともよく来たな。おぅ、好きに焼いてガンガン食おうぜ。 食い物は持参か、現地で活きの良いやつが食いたきゃ狩りか漁か。それは任せるぞ。
大福と粽なのだ。 シグルド、大福たちもばーべきゅーに参加しても良いのだ? 粽と狩りして大物獲ってくるくるのだ!たぶん!
「さて、温泉は堪能した後に キャンプ。こうだな。(うんうん) ちょっと久しぶりの野営だな。」
フラムですー! 大福さんがチラッと見えたので来ちゃいました。 >シグルドさん、カズマさん 大福さんやネーヴェさんもいらっしゃるので、 よろしければ俺も【BBQ】に混ぜてもらえると嬉しいです! 狩りの方は大福さんが大物を獲ってきてくれるのを信じて 俺は漁に行きますー!
>ヴォルファング卿 スケベ心が丸出しじゃぞ!?お主、彼女おらんかったか!?(様式美)
はーやーとー!!!!(#゚Д゚) 何すけべ心丸出して温泉入ろうとしてるのっ! (耳を引っ張る) あ!サフィラだよっ! 今回はキャンプを楽しみに来たけど ハヤトは後でお説教ね?(´^ω^`#)
「>ハヤト ……(そうなるだろうなぁって顔)…。」
>大福、フラム お、二人とも歓迎するよ。これは新鮮な肉と魚を期待できるかね。 俺は野菜代わりに山菜や茸でも採ってこようか。
コルネリウスです、よろしくお願いします。 お友達とキャンプを楽しみます! 皆さんも良い時間を過ごせますように。
>オルセン卿 わしも【BBQ】に行っても良いかの? ヴォルファング卿をからかってやろうと思ったがナハルハルアリーブ卿との時間を邪魔するのも野暮かと思うてな。
>アリシア おぅ、大丈夫だぞ。大所帯になってきたなぁ。