【学乱】パンクリアース音楽祭
陵かなめ
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シナリオID:1503
オープニング
「『パンクリアース音楽祭開催のお知らせ』が掲示できますね。ようやく、ここまで辿り着きました」
ティアンナ・バニスターは完成した音楽祭のパンフレットを嬉しそうに眺めた。
『パンクリアース音楽祭』を企画して、練習とリハーサルを行い、父の妨害を阻止したことを思い出す。
あとは音楽祭本番を待つのみとなっているようだ。
隣で作業をしていたアーニー・グレイス・フラートンが顔を上げる。
「これも全て冒険者たちのおかげです」
「ええ、その通りですね。音楽祭当日も、皆さん来てくださると良いのですけれども」
パンクリアース音楽祭はどのような楽器でも参加可能だ。
勿論、歌でも問題ない。
練習に参加していなくとも、当日飛び込みでも構わないという。
「当日は奏者だけではなく、警備もお願いしたいですね」
「ええ、きっと観客も多く集まるでしょう。出演者の演奏を聞きながら、会場を巡回していただけると良いかと思います」
ティアンナとアーニーは音楽祭の開催を思い描きながら笑いあった。
●パンクリアース音楽祭への参加募集のお知らせ
『このたびパンクリアース学園祭の催しの一環としまして、パンクリアース音楽祭を開催いたします。
つきましては、音楽祭の出演者を広く募集いたします。
楽器での演奏や歌などを、ぜひ学園内の舞台で披露してください。
グループでの参加も歓迎です。
また、当日観客の中で警備をしてくださる方も募集いたします。
出演者の演奏を聞きながら、会場の整理や巡回をお願いしたいです。
冒険者の皆様、パンクリアース音楽祭をよろしくお願いいたします。
ティアンナ・バニスター並びにアーニー・グレイス・フラートン』
「無事、音楽祭が開催されるようだね」
ギルドの受付係がパンクリアース音楽祭への参加募集を指差した。
「依頼主である令嬢の二人は随分と色々あったらしいけれど、ひとまず音楽祭の運営ができる状態のようだ」
パンクリアース学園祭当日はさぞ盛り上がることだろう。
派閥争いの行方が気になる者もいるだろう。
とはいえ、この音楽祭は支持する派閥の垣根はない。
出演者が音楽を披露し、楽しむための場になるだろう。
「どうだい? 楽器が使えるなら演奏を披露してみたら? 当日は楽器の貸し出しもあるようだね。楽しい一日にしておくれ!」
待ちに待ったパンクリアース音楽祭が、いよいよ開催されるのだ。
解説
マスターより
リプレイ
パンクリアース学園の生徒が『パンクリアース音楽祭』と書かれた看板が飾られている会場へと集まってきた。
会場内は美しく飾り付けが施されており、生徒たちは今から始まる音楽祭への期待で胸を膨らませているようだ。
配られているパンフレットには、音楽祭の理念や演目の順番などが紹介されている。
出演する者たちは、思い思いの楽器を抱えてステージ近くへと集まっていた。
さて多くの者が集まる中、キーゼが先頭に立って警備の指揮を取っている。
「見回りのルートはこちらを参考にしてください。警備はローテーションで行いましょう」
会場や控室の出入り口はもちろんのこと、観客や舞台袖、音響設備周辺までも視野に入れたルートのようだ。情報の漏洩防止のため、今日決定したものを共有している。
警備を担当する冒険者たちはそれぞれキーゼの提案を聞きながら持ち場へと向かった。
準備期間に提案していたものがあるため、混乱はない。
「僕は会場入口に立つことにします」
本来、警備は会場内で目立たないことが求められる。しかしキーゼは、あえて自分が目立つことにより牽制の意味をもたせると考えた。
その目論見は概ね成功しているといえるだろう。
「持ち物検査のご協力をお願いします」
「はい、持ち物はこちらですわ。中身を検めてくださいませ」
上品そうな学生は、嫌な顔をせずにかばんの口を開けた。
「ありがとうございます。どうぞお通りください」
身分が高い者であっても、平等に検査しなければ意味がない。キーゼは怪しい人物が紛れ込まないよう目を光らせている。
その時、ふと会場へ向かっていた学生が振り返った。
「丁寧な警備をありがとうございます。音楽祭、楽しみにしておりましたの」
「こちらこそ、ご協力に感謝します」
会場に向かってくる学生はますます増えている。
会場入り口ではイヴェール・イリュジオンも警備にあたっていた。
「お手荷物の検査にご協力をお願いします」
「承知いたしました」
目の前の女生徒は頷き持ち物を差し出してくる。
イヴェールは慎重に荷物を確認して頷いた。音楽祭のパンフレットといくつかの小物が入っている。持ち物に問題はないようだ。
「ありがとうございます。客席へはこちらの通路をお使いください」
「ありがとうございます」
女生徒は軽く頭を下げて客席へと向かっていった。
音楽祭の観客の数は多い。
入り口で手荷物検査をしていては、席につくまでに時間もかかるだろう。
しかしイヴェールは荷物検査の手を休めることはなかった。
「演奏をゆっくり楽しんで貰うため、楽しむため、ここは手を抜かずにですね」
入り口で危険なものの持ち込みや危険人物を排除することができれば、音楽祭は何事もなく終えることができるだろう。
何も騒動が無いということは、それだけキーゼやイヴェールのチェックが行き届いているということなのだ。
もちろん、会場で騒ぎを起こす者が居たときの事も考えている。
妨害行為をするような輩は、どんな時でもやる。
それを知っているイヴェールは、丁寧に一人一人の荷物検査を行った。
皆の期待した音楽祭が始まろうとしていた。
「会場がにぎわってきましたわ」
「警備の方たちが上手くやってくださっているようですね」
アーニーとティアンナが頷き合う。
そこにやってきたのはサマエラ=フォリウムだ。
「準備等、お疲れ様、だ」
「これはサマエラ様」
「ごきげんよう」
令嬢二人は美しいカーテシーをサマエラに見せる。
「音楽祭、いよいよ本番か……ふふ、私も何だか、感慨深いものがあるな」
サマエラはここまでのいきさつをしみじみと思い出した。
婚約破棄を言い渡され攫われそうになったアーニーを助けたのが始まりだ。その時から彼女は冒険者たちに信頼を寄せるようになった。
アーニーのふりをした仲間と共に受け渡し場に乗り込んだこともあった。
音楽祭の準備を整えつつ、人質となっていたアーリス家の母と娘を助け出したのも記憶に新しい。
「はい。サマエラ様はじめ、冒険者の皆様に良くしていただきました。わたくし、馬車を走らせていたことが昨日のように思いますわ」
アーニーは穏やかな笑顔をサマエラに向けた。
「わたくしは父が乗り込んできたことも、今はすっかり昔のことのように思いますわね。サマエラ様、その節は周囲への訴えもありがとうございました」
優雅な所作でティアンナは語る。
「最後まで、微力ながら手伝わせてもらえたらと、思う」
そう伝えると、令嬢たちは嬉しそうに笑った。
今日が良い日になるように、頑張ろうとサマエラは警備へ向かった。
「音楽祭とは、さすがお貴族様の学園祭は優雅でございますねぇ」
ハリーヌ・ヨツユビは会場内をぐるりと見回した。
会場入口では仲間の冒険者がしっかりと入場者のチェックをしているようだ。今のところ不審な動きをしている者はいない。
「さて、ワタクシもパンクリアース学園生の一員として、学園祭をしっかり盛り上げるでございますよ!」
ハリーヌはきちんとした服装に着替えて客席の中を行ったり来たり、次々に座席に向かう生徒たちを誘導した。
「皆様、座席は十分に確保してございますので、どうぞごゆっくりお進みくださいませ」
「まだ席はあるかしら? 私達、並んで座りたいのだけれど」
「それなら、こちらの席はいかがでございましょう」
「そうね、ありがとう」
会場には十分な席が用意されている。
とはいえ、観客が固まってしまうと後々混乱のもとになるだろう。
入場者の希望を聞きながら、満遍なく着席するように誘導を行う。
「前の方は迫力ある演奏を楽しめるでございますが、後ろの方も全体が見渡せてゆったりと過ごせるでございますよ」
舞台袖からは、楽器の音合わせの音が聞こえてきた。
出演者たちの準備も整い始めているのだろう。
ハリーヌは聞こえてくる音を聞きながら、観客の誘導を続けた。
●
音楽祭の会場が観客で埋め尽くされた。
パンフレットを熱心に見ている者や出演者について語り合う者、音楽を楽しもうと深く椅子に座っている者など、観客は皆この音楽祭を楽しみにしているようだ。
そして、いよいよ開演時間になった。
この音楽祭の主催であるティアンナがしずしずと舞台中央へ歩む。
観客たちは波を打ったように静まり返り、令嬢の姿を見つめた。
「皆様、ご来場ありがとう存じます。本日、パンクリアース音楽祭を開催できることを嬉しく思っております。出演して頂く皆様のすばらしい演奏を、ご堪能ください。そして、音楽祭にご尽力いただきました冒険者の皆様には感謝を。これより、パンクリアース音楽祭を開催いたします」
ティアンナは会場を警備している冒険者にも礼を言った。今この音楽祭が開催されるのは、冒険者たちの協力があってこそなのだから。
そうして、音楽祭は幕を開けた。
●
出演者として、最初に舞台に立つのはレティシア・レインフィールだ。
ティアンナから舞台を引き継ぎ、レティシアが美しく挨拶をする。
「リハーサルでの事件も含め、この学園では様々な事件がございましたが、こうして学園祭の日を迎える事が出来ましたのは何よりでございました」
在学時代には白百合の君と呼ばれていたレティシアの立ち居振る舞いは、堂々としたものだった。
「音楽は共通の言葉であり、癒やしの源」
レティシアの凛とした声が心地良く皆の耳に届く。
「そのお考えを元にこのような素晴らしい催しを企画して下さったティアンナ様とアーニー様に、心から感謝を」
訴えかける言葉が皆の注目を集めた。
「皆様の心にも、どうか癒しが齎されますように」
それは祈りにも似た思い。
「歌にはこの学園でも皆様に多くの学びという実りがありますように。そしてティアンナ様とアーニー様の友情が末永く続くよう願いを込めて」
レティシアが深く息を吸い込んだ。
そして歌が始まる。
今日披露するのは、収穫祭の歌をアレンジした歌唱。
透き通った歌声が会場内に響き渡った。
レティシアの歌声を聞いた観客は、その美しい歌声に酔いしれるのだった。
演奏が始まり、警備をしていた冒険者たちはいっそう気を引き締めて周囲に目を光らせた。
シグルド・オルセンは舞台の近くから観客席を見ていた。
「ここからなら、何かあればすぐ気付けるだろ」
舞台からは美しい歌声が聞こえてきている。
じっくりと見ることができなくても、心地良い歌声を堪能することができそうだ。
観客は歌唱を聞き逃すまいと舞台に集中している。
入口で仲間たちが持ち物検査を行っているためだろう、今は会場内で混乱は起きていない。この様子ならあまり厄介な事態は起こらないだろう。
「そんなことはないと思うけど、不審者とかいないだろうな」
それでもシグルドは気をつけて舞台から遠い場所まで視線を走らせる。
怪しい動きをしている者はいないようだ。
ほっと胸をなでおろし、再び舞台の様子を確認する。
舞台からは様々な音楽が聞こえていた。出演者は思い思いの演奏を披露して観客からありったけの拍手をもらっている。
「皆、楽しそうに演奏しているな。それに観客も笑っている」
思わずシグルドの口元が綻んだ。
自分は舞台に立つのは苦手だが、出演者たちから見える景色を想像してみる。
「特等席で観客の笑顔を見られる演奏者達は、より楽しそうだな」
そして実際に演奏を終えた出演者の顔を見て、それが間違っていないと感じた。
「さて、ヒュー坊はアーニー嬢に漢を見せられるのかね?」
ベルク・オスマットは少し遠くからアーニーとティアンナを見た。
ベルクもアーニーやティアンナのことをずっと見守っていたうちの一人だ。
人質を取られ、アーニーに婚約破棄を伝えてしまったヒュー・K・アーリスのこともずっと気にかけてきた。
彼がアーニーに見捨てられないように、陰ながら気を配ったこともある。
音楽祭のリハーサル時には、ヒューも勇気を出しアーニーに話をした姿も見た。
ずっと彼らを見てきたベルクだが、今日は遠くから令嬢達を眺めている。
「ま、あの二人ならよほどのことがないかぎりはうまくいくことだろう、あとは祝福するのみだ」
舞台袖ではティアンナと談笑するアーニーの姿。
馬車の中で恐怖に顔をひきつらせていた表情はない。
おそらく心に憂いをもたらしていた様々な懸念事項に、決着がついたのだろう。
「ヒュー坊の姿は見当たらないが、会場のどこかにいるのだろうな」
ベルクは懐から横笛を取り出した。
奏でるのは祝福の曲だ。
二人の未来が幸多き物であることを祈願し結ばれた縁を祝福する。
いくつもの試練を乗り越えた二人は、共に手を取り合っていくことだろう。
優しい笛の音が会場を包み込んだ。
次に舞台へ出てきたのはロゼットとキオルティス、そしてシルヴィア・A・カペルだ。
ロゼットはチェンバロを用意した。
(正直、大変だったという言葉だけでは済まない騒動だったけど、この先は彼ら学生がこの学園をより良く変えていって欲しいわね)
ロゼットから見える客席には、多くの生徒が座っている。いくつかの騒動があったにもかかわらず、その瞳は期待で輝いているようにも見えた。
さて、ロゼットたちは三人がそれぞれ楽器を持ち寄り、一つのステージにするようだ。
キオルティスは竪琴を構えている。
舞台の中央へ歩くたび、足首に付けた鈴が上品に鳴った。
「シルヴィさん、ロゼットさん行こうか」
「そうだね、準備はいいかな?」
シルヴィアはフィドルを抱えている。
「いつでもいけるわ」
ロゼットも頷き、三人揃って客席へ向いた。
最初は視線で合図をして、それぞれの楽器へと手を伸ばす。
滑り出しはゆっくりとした前奏から。
やがて三つの音が重なると、キオルティスとシルヴィアが歌い出した。
明るい歌詞に合わせたように、曲調がリズミカルになる。
シルヴィアはフィドルを弾きながらステップを踏んだ。合わせるキオルティスは軽やかに舞い足首の鈴を鳴らす。キオルティスの竪琴がシルヴィアのステップに合わせて弾かれた。二人の舞いと演奏が楽しい雰囲気を作っていく。
「街角でフと見上げた空、今日はキラキラ晴れていて、明日は雨が泣いてる」
それでも、どんな空模様も一長一短。素敵な1日を約束してくれると、二人の声が重なった。
「キミもお天気と同じさ」
くるりくるり、時には背中合わせになりながら。
次の歌詞はロゼットの歌声で。
「今日はキラキラ笑っていて、明日はしとしと涙顔」
「それでも、それでもやっぱり、どんなキミも一長一短」
シルヴィアが笑顔でロゼットに近づいて歌声を重ねる。
キオルティスの書いた歌詞は、まるで目の前にいる誰かに明るく呼びかけるように素敵。キラキラ明るい言葉がリズムに乗った。
ロゼットの指先が楽しく跳ねる。
リズミカルに鍵盤を弾き、シルヴィアと調子を合わせて声を出した。
ゆったりとした前奏から、あっという間に踊るような曲調へ。
三人の奏でる音楽を聞いていた観客が肩を揺すってリズムを取り始める。
かと思えば、間奏は再び静へ。
観客は三重奏に耳を傾け、しっかりと音色を心に刻んでいるようだ。
やがて軽快なリズムが戻ってくる。
次に歌うのはロゼットとキオルティス。
「サイコーにイケてるキミも、サイテーに沈んでるキミも、キミはキミ」
キオルティスが心から楽しそうに舞台で舞った。
足首の鈴を鳴らし、ロゼットのもとへ。
背中を反らせて共に歌っている感覚を共有する。
「どんなキミも大好きさ」
ロゼットとキオルティスの歌声が綺麗に重なって会場の奥の奥まで響いていった。
シルヴィアがステップを踏んで大きくジャンプする。
劇にも使えそうな広い舞台が、今は小さく感じた観客も居ただろう。
舞う二人の動きは大きく、舞台から遠い席の観客にもしっかりと届いた。
ロゼットは楽しく鍵盤を弾き、音を表現する。
最後は大きく盛り上がり、三人の演奏が終わった。
観客からは惜しみない拍手。
息のあったステージを披露した三人は、互いに成功を労いながら舞台を降りた。
コルネリウス・アーラはキーゼの配置配分を守りながら会場の警備をしていた。
音楽祭のことを聞きつけて、途中入場を希望する者もいる。落とし物をして困っている者や、他にもどうしても席を離れなければならない者も。
なにせ、これだけの人数を動員しているのだ。
危険な行為をする者以外にも気を配る必要はある。
コルネリウスはよく耳を澄ませた。周囲の声に気を配り、助けを必要としている者がいれば、そっと手を差し伸べた。
「何かあればいつでも言ってください」
「ありがとうございます。助かりました」
席までたどり着けず困り果てていた学生を案内し、再び周辺の様子を探る。
舞台近くには進行を確認するティアンナとアーニーの姿があった。
色々あったけれど、少なくともあの二人は上手くやっているようだ。
本当に、この音楽祭が無事に開催できてよかったと思う。
令嬢二人が笑いあえるようになって安心もした。
(最後まで皆さんが楽しめるよう、私も見守らせて頂きますね)
舞台の邪魔にならないよう、心のなかで令嬢達にエールを送る。
聞こえてくる音楽は軽快なものだった。
思わず体が揺れる。
歌声に合わせてリズムを刻みたくなるような明るい音楽だ。
ふと警備をしている冒険者たちの姿を目で追う。
すると、キリアン・フィッツジェラルドも同じように体を揺らしているようだった。
キリアンはコルネリウスからの視線に気づきそっと肩をすくめた。
コルネリウスもリズムを刻んでいたことを確認して互いに小さく笑い合う。
「気の緩み過ぎはいけませんね」
キリアンは誰にも聞こえないような小さなつぶやきを漏らした。
冒険者たちのステージは圧巻だ。
それぞれが思い思いの音楽を披露して、観客の心を掴んでいる。
美しい歌声も、優しい音色も、楽しいリズムも。
すべてが観客の心を魅了しているかのよう。
会場を常に見渡せるよう感覚を研ぎ澄ましていたキリアンは、もちろん舞台の様子も十分に見ることができた。
だから、無意識のうちにリズムを刻んでいたというわけだ。
「舞台は順調に進んでいるようですね」
この日のためにリハーサルも行い、抜かり無く準備が進められたのだろう。舞台の進行も、会場の誘導も、そして警備の配置も順調に運んでいると感じる。
キリアンの目から見ても、会場に不審者は居ないようだ。
とはいえまだ舞台は続く。
最後まで何事もなく楽しい舞台が続くように。キリアンは表情を引き締め、警備を再開した。
●
「……ついに本番ね……、私も微力だけど精一杯頑張るわ」
アルト=ミルドレッド=バ・ロッサはバイオリンを抱えて舞台袖までやってきた。
見上げると、準備中にアルトが飾り付けをした柱がある。
準備会ではバイオリンのチューニングや演奏の練習も行ったのだ。
「飾りつけだって、練習だってやってきたんだしさ……絶対成功させないとね」
華やかなステージでは出演者が次々と音楽を披露している。
そして、いよいよアルトの番が来た。
「ここまで来たら……練習通りに演奏するだけよね」
弓をそっと弦に乗せる。
まずは譜面通りにゆっくりと。
弦を押さえる指が今日はいつにも増して軽快に動く気がする。舞台を見つめる学生たちの視線は、なんと真っ直ぐなことか。その期待に応えるかのように、アルトの演奏は滑らかに。
強弱をつけた美しい旋律が会場に響く。
バイオリンの音に合わせ、観客の体がゆったりと揺れた。
二度目の旋律は少しアレンジを加えて。
観客を飽きさせないよう、そして何より音を楽しんでもらえるよう、バイオリンを奏でた。
曲は徐々にクライマックスへ。
いくつもの音が重なったまま、一気に最後まで走る。
アルトが最後の音を奏で、そして曲が終わった。
「ど、どうかしら……」
小さく呟いて顔を上げる。
見えたのは大きく拍手をする観客の笑顔だった。
次に舞台へと向かったのはリディリディ・トゥラ・イェレミースだ。
実は演奏よりも歌のほうが自信はある。技術も伴っている。
とはいえ、自分にはそうそうできるものではない。
「リディリディ様はチェロを演奏されるのですね」
「……はい、……それでは舞台へ出ます」
進行係に促され、リディリディは舞台の中央にセッティングされた椅子に座った。
譜面台に楽譜を置き、静かに演奏を始める。
披露するのは、低い音を響かせるチェロの独奏。
チェロの中で深く響いた旋律が会場に流れていく。
激しくかき鳴らす旋律ではない。ハッキリとしたダンス音楽でもない。
その音は、ゆったりと心に染み込んでいくようだった。
学生たちは目を閉じてリディリディの音楽に聞き入っている。
もしかしたら、あまりの心地よさに眠ってしまう者さえいたかもしれない。
けれど、リディリディはそれならそれで構わないと思う。
学生はこういった曲は退屈かもしれないと。
そして、寝ていてもらえた方が演奏に集中できるとも。
旋律は静かに始まり静かに終わった。
譜面台から楽譜を取り立ち上がる。
リディリディは一礼をして、そそくさと舞台を後にしようとした。
その時、大きな拍手が会場を包み込んだ。
「控えめだけれど、素晴らしい演奏でしたわね」
「なんて心地の良い響きなんだろう」
観客はしっかりとリディリディの演奏を聞いていたのだ。
リディリディは今度こそオロオロとしながら舞台を去った。
「……さ、如何でしょう? 舞台映えするように仕上げてみましたわ。お揃いのプラチナカラーのリボンがアクセントです」
ネーヴェ・グラヌローザは自らがドレスアップをした仲間たちの姿を順に見た。
「ねべちゃんしゅごい……というより他の三人も綺麗すぎる」
コハクがうっと目を押さえる。
ネーヴェはもちろん自分もドレスアップしていた。
そして、ララノアとハルハン・ツァガーンナルの姿も、いつにも増して輝いているのだ。いや、もはや輝きに耐えられない。綺麗すぎると思う。
「お洋服が違うだけで……ちょっと心が強くなった気がいたしますね……」
ララノアはヴェールをかぶりながらドレスの裾を触ってみた。眼鏡がないのは緊張するのでヴェールをかぶったのだが、それでもこうやって着飾ってもらえるのは素敵なことだと感じる。
ツァガーンナルも自分のドレスをまじまじと見た。
こうやってドレスアップしてもらうのは、嬉しくて少し恥ずかしい。
「でも、ありがとうございます! ステージに立つ勇気が、ぐっと湧いてきますね」
今から立つ舞台は、日常ではない特別な場所だということが実感できる。
そしてこのドレスは、そこに立ち向かうためのひと押しになるのだと思った。
「三人とも、とても似合っていて可愛らしいですよ」
「あ、ありがとう」
プラチナカラーのリボンで結んだコハクのサイドテールが揺れる。
黒を基調としたドレスは、彼女にとても似合っていた。
ツァガーンナルがネーヴェに言う。
「ネーヴェのセンス、とても素敵です!」
「ありがとうございます。いよいよ出番ですわね」
美しくドレスアップした四人が舞台を見た。舞台は明るくライトアップされているようだ。
「話していると、緊張もいつの間か忘れてしまいますね」
ツァガーンナルが皆に手を伸ばした。
「程よくほぐれたら、あとは歌うだけです! みんなで、楽しみましょう!」
「は……はい、でしゅ」
ララノアがビクリと肩を震わせる。
そして決意したように一歩踏み出し、アーニーとティアンナを見た。
「アーニー様、ティアンナ様……わ、私……今日はお二人の為に歌いましゅ!」
「まあ、ありがとうございます」
「とても嬉しいですわ」
舞台横で様子を見ていた令嬢二人が笑顔を浮かべる。
「さあ、ララノアはセンターで」
コハクが手招きをした。
そして、四人は並んで舞台に立った。
歌い出しはソプラノのララノアから。
緊張で指先が震えているのが分かる。
しかし、両側にいる友の姿がララノアを励ましているかのように感じられた。
(緊張してしまうかも……でも……お友達も一緒です。勇気をだして……)
ララノアは両手を胸の前で組み、思い切って歌い出す。
祈るように心を込めて、友情を歌う。
その声に重なるのはコハクの高音。
美しい二人のソプラノの音律が調和する。
コハクの歌い方は、あくまでもララノアの歌声を主役にした。だがそれがコハクの上手さでもある。目立ちすぎず、さりとてハーモニーを失うこともせず。絶妙な歌声でララノアを支えた。
二人のソプラノをしっかりと印象づけるのはアルトパートのネーヴェだ。
歌だけというのは初めてだから、少し緊張はしていた。
だが仲間と一緒というのは心強い。
ネーヴェは心を込めて歌い続けた。
手を取り合って協力している令嬢二人の、そしてこの場にいる皆の幸先を祈って。
そして、ソプラノとアルトパートの橋渡しをしているのがツァガーンナル。皆の調子を見ながら、高い音や低い音に繋げていく。
遊びで歌うことはあっても、実はこのような大舞台で歌うというのは初めてだ。
観客の目は舞台に釘付けで、自分たちの歌を聞き逃すまいと真剣な視線がいくつも感じられる。
けれど、お揃いのプラチナカラーのリボンが揺れるたび、仲間がいるのだと感じられた。
いよいよ曲も中盤だ。
四人の声が綺麗に重なり、美しい合唱となって会場に響いた。
体でリズムを取ったララノアのヴェールが大きく揺れる。
けれどもう気にしない。
自分にできることはこれくらいだからと、歌に思いを乗せる。
ララノアがコハクとネーヴェ、ツァガーンナルを見た。
コハクはネーヴェとツァガーンナル、そしてララノアを見る。
ネーヴェはツァガーンナル、ララノア、コハクを見て――。
ツァガーンナルがララノア、コハクとネーヴェを見る。
四人は笑い合い、ますます大きな歌声を響かせた。
会場からは割れんばかりの拍手。
美しい友情の歌も、素晴らしい恋の歌も、四人は見事に歌い上げた。
こうしてパンクリアース音楽祭は大成功をおさめた。舞台を見ていた観客たちはすっかり満足して演目について語り合った。その手には、今日のために作られたパンフレットがある。
一連の事件に関わった令嬢二人は自分たちの物語に決着を付け。
冒険者たちは新しい道を歩み始めた彼女たちを見た。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:少ない18 / 4〜25人
2021年10月24日 13時05分38秒 公開
参加者
相談掲示板
ロゼットよ。学乱イベントがたくさん募集してるわね。 出演側に興味があるのだけど、関連依頼は参加していないから、 もう既存のグループがあるのなら出演にはこだわらないわ。 逆に、どなたか歌手、奏者の組む人を探していたら挙手したいわ。
キオルティスと言うよ。キオでもルティスでもお気軽に。 今回はどうぞ宜しくね。 基本的には竪琴と鈴での奏者(+歌)として出ようかと思うんだけれど 一緒にコラボして出てくれそうな方が居れば、お誘いは大歓迎。 もし良ければ宜しくね!
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 >ロゼットとキオ 私もフィドルと歌で出演してみようと思ってるんだけど、もし良かったら一緒に出演してみないかい? 曲が決まっている訳ではないから、二人が演奏したい曲を演奏しようと思っているよ。是非検討よろしく。
>シルヴィア 声かけありがとう。私はもちろん良いわ。 シルヴィアが弦楽器なら、私は鍵盤のチェンバロとかにしようかな。 私が曲を選ぶと讃美歌風になってしまうわ。他の人に合わせる分には クラシックぽいのでも、リズミカルなのでも。
>シルヴィさん お声掛け有難う。また一緒に音楽を奏でられると思うとわくわくするよ(ウィンク 俺は先にも言った通り、竪琴と足首の鈴で演奏。歌入れも出来るよ。 …って知ってるか(笑 >ロゼットさん レディが良ければ俺も混ぜてやってくれると嬉しい(微笑 讃美歌…素敵だね。クラシックもリズミカルなのも良いし。 リズミカルなものに讃美歌要素やクラシック要素をさらっと 入れ込むのも楽しいかも!!
アルトよ バイオリン演奏するわ
>ロゼットとキオ 二人とも、快諾ありがとう。 楽器はロゼットがチェンバロ、キオが竪琴と足首の鈴、私がフィドルだね。其々の楽器を活かした素敵な三重奏になりそうだ。改めてよろしく頼むよ。 キオは踊る動きで鈴を鳴らすんだよね。メインボーカルをキオにお願いして、私はコーラスをしよう。芸術祭の時の君の演奏は素晴らしかったし、また一緒に音楽を奏でられるのも嬉しい。今回も楽しみにしているよ。 ロゼットは歌はどうかな? パート分けをしてキオとロゼットが交互に歌うのも素敵だなと思ったんだ。チェンバロを弾くロゼットの所にキオが近付いていって歌を重ねるパフォーマンスも見てみたいなって。 曲については……お客さんが殆ど学生だから、キオが言ってくれたように基本はリズミカルなものにして讃美歌要素やクラシック要素をさらっと入れ込むのが良いかもしれないね。 共通タグは何が良いだろう……何か良い案があれば是非←
>シルヴィア、キオ よろしくね。複雑ならリズミカルな曲にまとめてくれても大丈夫よ。 客層も学生だし、身体を揺らせるような曲の方が楽しいでしょう。 ただ混ぜるなら、最初はゆっくりスローな演奏の前奏から入って、 歌い出しからリズミカルに曲調を変えるアレンジとかもありかな? 静から動への切り替えみたいな。リズミカルな曲には賛成よ。 歌も大丈夫よ。メンバーで2人組をパートで順にまわしても良いし。 キオを主ボーカルで、シルヴィアと私でパート分けしても良いし。 タグ…シンプルに【三重奏】とか? 人が増えたら四、五重奏ってなるかもしれないけど。 英語のトリオとかも良いのだけどね。 デュオ、トリオ、カルテット、クインテット、かっこいい(
No.9
リディリディです・・・。 その、よろしくお願いします・・・。 私は弦楽器の・・・、チェロを弾いているかもしれません。 舞台に出る勇気が湧けばの話ですが・・・。
>ロゼットとキオ 静から動へ曲調を変えるアレンジ、良いね。会場全体で盛り上がれそうだ。 ロゼットにも歌って貰えると聞いて喜んでいる。メンバーで2人組をパートで順に回すか、キオがメインボーカルで、ロゼットと私でパート分けするか、か……私もどちらでもOKだから、もし良ければキオに決めてもらいたいな。 タグは漢字も英語も格好良いね……! 悩ましいけど、字数的には参加してくれる人が増えた場合を考えて漢字にするのが良いかも。
>シルヴィア 了解。じゃあ【三重奏】で仮決定としておきましょうか。
>シルヴィさん、ロゼットさん 当日は宜しくね。勿論、まだ何重奏になるかは分からないけれど(微笑 曲の形式については了解。静から動へ…躍動感溢れるカンジだね! 歌については折角の機会だし、俺はシルヴィさんの歌も聴きたいな。 素敵なレディ2人のハーモニーも捨て難いしね。
さてよろしくお願いします こちらは提案した以上、警護で動きますね
ネーヴェ・グラヌローザと申します。宜しくお願い致します。 今回は4人組で合唱する予定です。
>シルヴィア、キオルティス プレイングは出してあるわ。歌は3人のうち2人で順番ね。 後は当日、よろしくね。
>ロゼットとキオ 手紙ありがとう。私もプレイングは出してあるよ。 ふふ、それなら私も歌わせて貰うね。歌の順番についても了解だ。 当日はよろしく頼むよ。
すみません、すっかり出遅れてしまいました! シューターのキリアン・フィッツジェラルドと申します。 僕も演奏側に参加したかったのですが、タイミングを逃した上にOR化の余裕が無いという事で。 音楽会の警護任務にあたるつもりです。
>シルヴィさん、ロゼットさん 手紙、受け取ったよ。 シルヴィさんはお気遣い、有難う。それじゃ有難く甘えさせて貰うね。 俺もプレは完了、あとは当日を待つのみ! 美しいレディ2人との共演、楽しみにしてるね。
コルネリウスです、宜しくお願いします。 警護に回ろうかなと考えています。