【学乱】狩りとお茶は貴族の嗜み
京乃ゆらさ
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シナリオID:1140
オープニング
転じて大地に目を向ければ、そこで繰り広げられているのは動物たちの生存競争。栗鼠が樹のウロに潜って狐をやり過ごせば、狩人であった狐は狼に急襲されて逃げ惑う。木陰からのそりと付け狙うのは大蛇で、その頭上では巣を張った大蜘蛛が待ち構えている。
美しくも残酷な、何の変哲もない森の日常。
その日常に踏み入ったのが彼女ら――パンクリアース学園の面々であった。
泉の畔には急ごしらえながらお茶会をできる空間が作られ、早くも菓子やお茶の美味しそうな香りが立ち始めている。
ザカラート・ファウドクはその様子を視界に入れながら、周囲を警戒していた。いやどちらかと言えば逆か。周囲を警戒しながら、持ち込まれた椅子に座っている女子生徒の様子を探っている。
その女子生徒はシルトラース帝国からの留学生だった。名はシュレーディレ・ルンスヴェート。白銀色の長い髪が木漏れ日に瞬き、揺れている。一見して儚げな雰囲気だがその実は芯の強い女性らしい。
実際、この森に来ることになったのも彼女が狩猟大会を企画したからで、その下見として総勢60名超の人間が彼女に合わせて動いている。そう考えると、なるほど行動力のある女性なのだろうと思えた。
ザカラートはそんな彼女を見つめ、目が合いそうになってそっと視線を泉の方へ外した。
「はぁ……」
「何を溜息ついているんですか、ファウドク様。さぁさぁ、とっとと頑張ってくださいませ。無理を強いるのは私の主義ではない、なんておっしゃったのはファウドク様ですよ」
「……分かっている」
「だったら早く良い所を見せてくださいませ。婚約したいのでしょう?」
慇懃無礼に話しかけてくるウィストラータ・メルシャートに顔をしかめ、ザカラートはもう一度シュレーディレに目を向ける。
そしてぐっと胸を張ると、大きく一歩を踏み出した!
「私は狩りに行く。どんな動物が狩れるか、どれが大物か等を調べるのは重要だからな。冒険者諸君も頼む。実際に狩ってみて、安全に狩れるものと大物の仕分けをしたい。万が一魔獣や這者を発見した場合はその処理もだ」
泉とは逆、森の方へと……。
●ザカラート・ファウドク伯爵令息は派閥を変えたい
「昨今の生徒会総選挙情勢をどう思う?」
ザカラート・ファウドクがぽつりと尋ねたのは、森に下見に行くことになるより数日前のことだった。
相手は同じ少人数演習に所属するウィストラータ・メルシャート子爵令嬢。彼女は小首を傾げて数秒停止した後、得心したように心配そうな声色で返してきた。
「そういえばファウドク伯爵家は少々お盛んな家の寄り子でしたね。それはご愁傷様です」
一足飛びにこうのたまってくる子爵令嬢。ザカラートは眉根を寄せて頷き、愚痴をこぼす。
「我が家はあちらの方々の本流ではないのだがな。傍流とはいえそれなりのことには手を染めているようだ」
「あら、それでは『様』が取れる日も近そうですね、ファウドク様?」
「……」
この女はこれ程に辛辣だったか?
ザカラートは首を捻りつつ机に肘をつき、額に手を当てる。研究室仲間はそれを見て笑みを深め、
「はっきりとおっしゃったらいかがです? 派閥を変える妙案はないか、と」
「……一応聞くが、メルシャート、君に腹案があるのか? ただ傘下に入れてくださいと申し出るわけにはいかんのだぞ」
「私を馬鹿にしておられます?」
「それは見解の相違だな」
じとりと半目で睨めつけてきたメルシャートは、その後ににっこりと笑って提案した。
「では――帝国からの留学生を娶りましょう、ファウドク様」
子爵令嬢曰く、今から国内の有力貴族と新たに縁を結ぶのは時間が足りなさすぎる。故に外に全く異なる人脈を持つことでファウドク家の価値を底上げし、それを手札に他派閥と交渉するのだと。
ザカラートは瞑目してその案を吟味し、渋々と頷く。一理ある……が。
「相手に無理を強いる気はないぞ」
「……面倒な人ですね、ファウドク様。政略結婚なんて世の常でしょう」
「あちらは高貴なる方がご健在であらせられるとはいえ、国家存亡の秋。そこで弱みに付け込むような真似はできん」
「仰せのままに」皮肉げに頭を垂れ、「それでは普通に知り合い、恋仲となればよいのです」
こともなげに言ってのけるメルシャートは、まさしく中立派貴族に相応しい思考の持ち主である。
かくしてザカラート・ファウドクは帝国人留学生シュレーディレ・ルンスヴェートの主催する狩猟大会の運営側に急遽潜り込み、現地の下見に同行することになったのだった。
●策動
リーンエス王国、王国騎士団本部。その一室で、イエンゼン・メルシャート子爵は騎士と話をしていた。
内容は、少し前にイエンゼンの依頼で冒険者たちが捕縛した者たちと、そこから手繰り寄せて捕まえた貴族派学生の処遇や、聞き出した情報について。
イエンゼンはパンクリアース学園で騒ぎを起こしかけた者たちを騎士団に引き渡すことで王党派への点数を稼ぎ、ついで娘が巻き込まれたことから今回の件に限りその後も騎士団と協調してことに当たれるよう立ち回っていた。
「何か情報は……ございましたか」
言葉少なに訊くイエンゼンに、騎士が勿体ぶったように頷く。
「学生の方は黙秘を続けているが、ウィロウ・バルゼルからは聞き出せた。己がやったことを、な」
あくまで自分がやったこととして、自供しているらしい。
その主家に対する忠誠心に免じ、貴族派学生もウィロウも処分を軽くする方向で話は進んでいるようだ。騒ぎを未然に防げていたことも大きい。
「カトレル・ジャターハは?」
「聞くまでもなかろう」
イエンゼンが椅子の背もたれに身体を預け、腕を組んで安堵の息を吐く。
冒険者らがウィロウまで生きたまま捕縛してくれていて助かった。しかも協力してくれるようある程度まで話を詰めた上で、だ。
「……それで、ウィロウは何と?」
「おそらくだが、貴族派とは異なる理で以て動いていた節がある……いや動かされていたと言うべきか」
「異なる理……?」
「古き神の信徒。口外は無用に願いたいが、此度の学園騒乱に端を発した幾つかの事件において、彼奴らの影が見え隠れしている」
(つまり、この件は貴族派に利する騒動ではない?)
苦々しく眉根を寄せる騎士。イエンゼンは「そういえば」と冒険者から報告された言葉を思い出す。
「騒動を起こすこと自体が目的かもしれませんな」
「こちらもそう見ている」
たとえば今の学園で新旧の両学園長が襲撃されれば、見るに堪えない泥沼の抗争に発展し得る。また実質的に学園を回していたと噂の校長が殺されれば学園は大混乱に陥るだろうし、両公爵の令息令嬢が襲われようものなら騒乱は王国全土に波及しかねない。
しかし騒動こそが目的だとすればこの件はまだ終わっていない。手駒を失った敵が自ら乗り込んでくる可能性は充分に考えられよう。
(ウィータは無事であろうか……いや、冒険者を信ずるしかあるまい)
奇しくも学園では生徒会総選挙に関連して様々な盛り上がりを見せ始めている。
それは――騒乱を起こす者にとって絶好の機会に違いない。
解説
マスターより
リプレイ
ナハシュは揺れる木漏れ日に目を細め森の空気を吸った。
「俺はロープで樹に目印付けとこう。一定距離ごとに白、青、黄。危険な所に赤って感じか」
「とか言って単独で先行して散策したいだけなんだ、彼は。こっちはこっちで詳細な地形図を描いていこうか」
そんなナハシュを揶揄うのは骨でなくフードを目深に被ったヨル・スレイマン。友人らしい気の置けないやり取りに場の空気も解れたか、帝国人留学生も交えた打合せは円滑に進む。
「地形の把握は重要ですね。お願いします」
「獣の種類、分布も、です。獣なら、ワタシ達の視点も役に立つと思う、です」
蒋・璃龍がシュレーディレに言うと、留学生は儚げな顔を綻ばせる。途端に伯爵令息が眉根を寄せ視線を逸らすのをレティシア・レインフィールは捉え、何とも甘酸っぱい物語を想像した。
「……緊急時の合図と対応は決めておきましょう。笛か、上空に光……」
「まあ、基本は光だろうけど、それ以外でも何か異常事態だと思えば合流を目指そう」
ヨルがシュレーディレから預かった森の地図――と言っても外縁部の特徴的な地形が記されているだけだが――を広げ、狩猟班の予定路を指でなぞっていく。
璃龍はその道を目で追い、定期連絡もすべきと考える。詳細不明の中心部に進出する予定だけに合図は頻繁に送りたい。それに何より、
(学園の騒乱は終ってない、です)
むしろ総選挙を後に控える今、些細な事1つで炎上しかねないのだから。
「ファウドク様、拙に秘策があります」
打合せの最中、秘かにザカラートに近付いたガッコウは自信を漲らせて耳打ちした。
対する男は胡乱な眼差し。当然である。何せこのガッコウ、伯爵令息主催の会で蛙料理を所望している。故にザカラートがこう返すのは必然であった。
「やめろ」
「この文好きガッコウにお任せあれ。古典に曰く、転寝をする彼女を介抱して街を観光すれば恋に落ちます」
「さっぱり解らん」
「では迷宮の魔獣を2人で退治、その肉を共に食べる……」
「何だ? お前あの娘に惚れてんのか?」
そこにナハシュが首を突っ込んでくる。
本狂いと愉悦を求めそうな男、2人の攻勢は絶対に防ぎきれない。悟ったザカラートは咳払いし打合せに集中した。
セロンガード・シュタインドルフは帝国人留学生の後ろに佇み、周囲を警戒する。
この場で最も経験豊富で鋭敏な察知能力を持つセロンガードの意識は、完全に留学生を中心としている。異国で生き延びている同郷の者。それだけでも護衛対象として優先度が高いが、さらに彼女は何やら総選挙に関わらんとしている。
帝国の為となる活動ならばそれこそ護衛せねばならないし、その逆なら……。
(後で少し会話をさせて頂きましょう)
セロンガードは同朋である事を願い、彼女の艶やかな銀糸を見やった。
●長閑な狩猟
「ホーウホウホウホウ!!」
勢子声が森に木霊し、ザカラートが弓を引く。灌木の中から狼が飛び出てくるや、彼は引き絞った弦を解き放った。短い悲鳴。獲物の胴に突き立つ矢。だが止まらない。牙を剥いた狼を魔矢が貫く。それでも尚数秒駆けた獲物は、ザカラートの5m先で力尽きた。
従者が解体に向かうのを眺めながら、璃龍は遭遇地点を地図に記す。解体が終れば移動し、先行するナハシュと数人の護衛が勢子役となって獲物を探す。
この役割分担で仕留めた獲物は既に5体。ナハシュ以外に冒険者の手助けはなく、怪我人もいない事を考えれば優秀と言えよう。
「やるね。油断なく攻めが連続するのが良い」
「当然だ」
適当に持ち上げるヨルに尊大に返す学生だが嬉しげな表情は隠しきれていない。その若さにヨルは口元を緩めた。
「実はこういう狩猟は初めてなんだよね。コツを教えてもらえると嬉しいのだけど」
「む? 仕方ないな、冒険者に指南してやるのも貴族の務め」
哀れヨルの掌中で踊る学生だが周囲の学生も似たようなもの。そわそわして次の獲物を探す狩猟班一行はヨルにすっかり場の空気を握られていた。
「そうだ、この森に詳しい人はいるの? いやこの森でなくてもいいか。どちらかというと俺は街歩きの方が得意でね、森の事を知りたい」
友人が聞けば大笑いしそうな言でこの森に詳しい者を一本釣りしようとするが、流石に名乗り出ない。森全般の話を得意げに語る学生の話を聞き流し、後方を歩く璃龍に休憩を提案するよう目配せした。
「ザカラート、お前も来い。良いとこ魅せなきゃならねんだろ? 2人で何か狩っていくぞ」
「あ、ああ……」
ナハシュが顔を顰めたザカラートを連れて狩りと本部との定期連絡に行く。ヨルがにやにやとそれを見送り、一行は休憩する事になった。
青の縄が結ばれた樹の傍、岩場に布を敷いて腰を下す学生達を横目に、璃龍とヨルは道中にメモした事を資料として書き直す。
目印となる地形、危なそうな傾斜、獣の種類や遭遇した場所。幸い沼や崖といった明らかに危険な所はなさそうだが、下生えが深く視界を遮られる場所が多い。そうした茂みからは離れた所を推奨経路としたい。
「どこまでの獣を狩れるか、それが問題、です」
「さっきの狼はまだ余裕があったけど、今日はやや人数が多いからね」
「狼複数を相手取れるか、その見極めを彼らができるかが大事、です」
懇切丁寧に複数の情報を地図に起していく璃龍。ヨルはそれを確認し、学生らの方へ向かった。さり気なく岩場を触りながら、
「そういえば選挙があるんだってね。なかなか面白い試みだ」
「ハ、選挙。今までと違うなどと嘯いているが何も変わらん」
「どういう事?」
「結局有名な――かの方々が当選するだけなのさ。今日は友人の発案故に協力したがな」
「……成程。個人が票をどうするかは決まってないけど、全体として票がどうなるかは想像がつくと」
強制がなくとも有名人に票が集まるのは必然。ならば結局は上級貴族の令息令嬢が当選する。全体の雰囲気は解らないが、そんな諦念を持つ者もいるようだ。
(王党派がこれを盛り上げていけるか。見ものだね)
●令嬢達の秘め事
伯爵令息を連れたナハシュが留学生に定期連絡の報告をする間、セロンガードは変らず彼女の後ろに控えて周囲を警戒していた。
ザカラートの狩った狐の毛並が良いだの何だのという話を楽しげに聞いている留学生。そこでセロンガードは同郷の者に近付く男という観点で伯爵令息を見てみる。能力はそれなりにありそうだが問題はその思想。帝国に野心を抱く男はいけない。
ナハシュらが戻っていくのを見送り、セロンガードは彼女に声をかけた。
「実のところ私も一応帝国貴族でして。このご時世に留学生活は大変なのでしょうね」
「そう、ですね。出資者を探す経験はなかなか貴重でした」
出資者。実家の支援が途絶えて金の無心をしたと。瞑目してその労苦を想像する。
「その柵から狩猟大会の主催を?」
「まさか。隣国の学園の選挙なんて、関わらなくては損でしょう?」
……同情する必要もなかった。満面の笑みで宣う彼女は、成程お淑やかとは言い難い。
この令嬢が王国人に操られる事はなかろう。セロンガードは一礼して警備に戻った。
「お前さんにも家族がいるだろう。森の奥に隠れておけ」
ガッコウはお茶会の警備がてら、泉が見える範囲で森を散策しては小動物を逃がしていた。
娯楽的狩猟には個人的に賛同できない。1匹でも多く救えればと思うが、大会を中止に追い込むまではできない。慈悲なのか自己欺瞞なのか。そんな自省をしつつも情報収集は欠かさない。
交感したところ現状小動物に危機感はない。何かを仕掛けるとすれば今後だ。
セロンガードや学生従者らと意見交換し、そうしてガッコウはごく自然にお茶会の席についた。
「ふぅ……お茶、有難く頂きます」
それまで警備していた者が、しれっと会に加わる。妙技である。
ぽかんとするレティシアらを尻目にガッコウはウィータに話しかける。
「あれから何度か学園を訪れましたが、未だ図書館には辿り着けず。特別な魔法で隠されていませんか?」
「…………、いえ。普通にありますけれど?」
「おかしい……」
「おかしいのはあな……ぁんでもありません。お茶を淹れ直して楽しみましょう。私もお菓子を持って参りましたよ」
ウィータが無理矢理空気を戻すと、和やかにお茶会が再開された。
(不審な方はおられないようですね……)
レティシアは完全に聞き役としてお茶会に参加しつつ、少しずつカップと小皿の残留思念を調べていった。場の思念的雰囲気も良く、本当に善意で留学生に協力しているだけに見える。
貴族が人を害する時、身近な手段の1つに毒物がある。その可能性を潰せるのは大きい。大会本番でもこの警備態勢は有効か、と思案していた時、レティシアの耳に黄色い声が入ってきた。
話に意識を戻せば、女学生らが定番の話をし、シュレーディレが微笑ましげにそれを見ている。ついでに何故かガッコウが盛り上がっていた。
「この下見も言うなればピクニック。お前さんらは同行者の中に気になる異性はいるのかな?」
「えぇえ? うぅーん、なくはないですけれどぉ、でもねぇ?」
「その反応は……いや言わぬが花」
妙に馴染んでいるガッコウ。レティシアが苦笑する傍ら、彼はそういえばと留学生に話を振る。
「先程報告に来た男子。伯爵令息にして狩猟の腕も見事に思えたが、ユウリョウブッケンとやらではないでしょうか?」
「ファウドク様ですね。狐を一矢で仕留めた腕はなかなかのものかと」
反応はまずまずか。などと思っていたらその彼女がにっこりと笑いかけてきた。
「私、お姉さまのお話が聞きたいですね。冒険者ですもの、燃えるようなお話があるのでは?」
「いえ、私は……」
咄嗟に断りかけ、思い直す。周囲の娘達の輝くような瞳に負けたとも言う。
「……卒業前に婚約しておりますので……色々と……」
黄色い声が爆発する。レティシアは居心地の悪さを感じ、そっと息を吐いた。
●兆し
ナハシュは可能な限り多くの学生に印を打ち、璃龍とヨルの3人で森の中心方向へ向かった。
印は1分保たないとはいえ、授恵者の瞬発力を鑑みれば500m後方の人の動きを大まかに探れる事になる。50秒で行動を起すかは怪しいが、その兆候を探れる可能性はあった。
「この辺はもうダメだな。熱い気配を感じる」
「魔獣がいる、ですね……」
ナハシュが赤の縄を樹に括り付ける一方、璃龍とヨルが得物を構え腰を落す。瞬後、殺意が押し寄せた。
下段から斜めに閃く銀閃。落葉が舞い、宙で槍と影が交錯する。敵、脚に刃の生えた大蜘蛛。ヨルから放たれた魔矢が着地直後の敵横腹を打ち付ける。ギヂギヂと歯を擦るような唸り声。地を這うが如く肉薄するナハシュ。敵刃が払われ、それすら潜り抜けたナハシュは伸び上がりながら敵を裂いた。
森に朱が散り、どうと敵が倒れ伏す。短く息を吐き、ナハシュは周囲に澱を奔らせた。――反応は、
「上ッ!」
「急に多い、です!」
前衛にナハシュと璃龍、後ろにヨル。僅か3人だがバランスは良い。武人が正面から斬り合い遊撃が横から敵を裂く。後衛が魔矢と快癒で援護すれば、前衛2人が敵を防ぐ。
3体を屠ったところで大蜘蛛の波が止む。ヨルは屈んで土に触れ、周辺の地面に目を落した。
「人の痕跡はない、ね」
「じゃあ何だ、大蜘蛛の巣があるのか?」
「……仮にあっても大会中に立ち入らなければいい」
「何者かが香を焚いたりして、あれを追い立てなければ、です」
槍の穂先を拭い、璃龍。
工作される余地があるという不安。かといって大蜘蛛を全滅できる程の人員はおらず、領主に報告してもそこまでの対応をしてもらえるとは思えない。
「一応ここの領主も警戒しておきたいところだね」
ヨルが結論付け、璃龍が大蜘蛛の骸を埋める。ナハシュが周囲を隈なく探っていたその時、それを見つけた。
周囲を確認しながら、されど恐る恐るという雰囲気でもなく歩く男。確か学生の護衛の1人だった。ヨルが呟く。戦闘音を聞き付け探しに来たのか、あるいは?
暫く観察した3人だが、決定的なボロを出しそうな様子はない。ナハシュは目配せすると、自分だけ立って軽く声をかけた。
「どうした? あっちに何かあったか? それとも心配して来てくれたのか」
「せ、戦闘が終ったようだったので……」
妙におどおど答える男。ナハシュが礼を言って肩を組もうと近寄ると、男は嫌がるように距離を取った。
「……じゃ、戻るか。この辺は大会では立入禁止にしねえとなー」
ナハシュはこの男が黒である確信を以て、呵々と笑いかけた。
●総選挙
狩猟班が戻り留学生に次々と報告を上げていく。特に璃龍が描いた獲物の分布図と地形情報は狩猟大会の最重要資料となった。
「これで本番は盛り上がるでしょう。やはり事前情報がなくてはね、狩猟も――選挙も」
留学生が水を向けると誰ともなく選挙の話を始めた。が、熱意は薄いようにレティシアには感じられる。選挙を盛り上げる一環で大会を開く留学生に協力するのだから関心はある筈だが。
レティシアは何度か口に出そうか迷い、それでも己を奮い立たせて言ってみた。
「……私は学園には純粋な学びの園で在ってほしいのです。少なくとも政治介入をされない、本来在るべき姿を目指したく存じます」
「聴講生の間で聞かれる『学園派』ですね」
シュレーディレはそれを認識していた。そしてその現状も。
学府としての理想ではある。だがこの学園がそう在った時など創立以来どれ程あったものか。
帝国人が慈愛の如き微笑を浮かべ両手を広げた。
「道は険しい。けれどそれ故に、お姉さま、私は貴女を応援しましょう」
「ありがとう存じます」
レティシアは解ってくれる人がいる事に安堵する。困難を極めるのは百も承知。反論など充分聞いた。だから異論を飲んで応援してくれる事が嬉しい。
学園派の理念は王国に馴染まない。どちらかと言えば帝国人に共感されやすかろう。無論全ての両国民がそうだという訳ではないが……。
と考えた時、レティシアの脳裏に1つの想像が浮かんだ。選挙、ではなくこの騒動について。
(騒ぎを大きくするなら両国の憎悪を煽ればいい。例えば……帝国人留学生を殺害してヴィントで喧伝する)
これが火種だ。絶対に彼女を害されてはならない。
そんなレティシアを見つめていたウィータが、カップで口元を隠して言う。
「レインフィール家は同じ中立派と伺いましたけれど、我が家とは中立の在り方が異なるようですね」
レティシアが頷く。父への謝罪を内心で繰り返しながら。
「そうでございますね……子爵様は両者を渡り歩く事で中立としておられるようですから」
「興味深いです」
微笑むウィータの表情はレティシアには見えなかった。
狩猟大会の下見を終えた一行は帰途に就く。
幾つかの問題を孕みながらも、生徒会総選挙は刻一刻と近付いていた……。
<了>
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:多い6 / 4〜6人
2021年07月25日 20時14分13秒 公開
相談掲示板
ごきげんよう。 ヒーラーのレティシア・レインフィールと申します。 皆様、よろしくお願い致します。 >班分け 基本的には狩猟班とお茶会班の二班に分かれる形となりますでしょうか? 私は僭越ながら、お茶会班の方を希望させて頂きます。 >合図 念の為、二班間の有事の際の連絡方法があった方がよろしいと思うのですけれど 現時点で思い付く物ですと、笛を始めとした楽器と超聴覚の組み合わせでしょうか……?
ウォーリアの蒋・璃龍、です。よろしくお願いする、ます >班分け 班分けは、レティシアさんの言う通りで良いと思う、ます ワタシは狩猟班の方を考えてる、ますけれど、変更は可能、です >合図 持ってないので詳しくはわからない、ですけれども、テレパシーも使えるかもしれない、です >目的 今回の目的は狩猟大会の下見を無事完遂すること、ですけれども、そのために何をしなければならないか、予め相談しておきたい、です トラブル対応が主な内容になりそう、ですけれども、それ以外にも成功のために働きかけられれば、良さそうだと思う、ました
ヒーラーのヨル・スレイマン。宜しく頼む。 >班わけ 配分は、厳密に3:3ではなくても良さそうな感じするね。 『狩りをしてもいいし、お茶会に参加してもいいし、適当に散策してもいい』とあるのを考えると、お茶会2、狩り(散策)4とかでもいいのかも。もうちょい自由でもいいかもだけど。 規模的に多めになりそうな狩猟班を希望しておこうかな。とはいえどっちでもいい。偏るようなら移動をしよう。 >合図 班員に一人ずつでもテレパス持ちがいれば安心かも。 とはいえ個々の動きに寄っても変わりそうだし、必要なら定期合流するようにしつつ、緊急合流用に楽器なり音の鳴るものを準備するのがいいかもしれないね。 ちなみに俺はテレパスは持っていない。 >下見の完遂 「怪我人が出ない」「いざこざが起きない」「ザカラート君とシュレーディレ君が仲良くなる」あたりが必要なのかな。最後は要らない?? とりあえず未踏になってる森の中心部を含めた安全確認とかはしておきたいね。 あとはウィストラータ君とシュレーディレ君の護衛。他でトラブルが起きた場合の沈静とかになるかな⋯⋯(むむ
>テレパス 便利なのですけれど、効果範囲が100m以内と以外と狭い為 別班への合図よりも同班内での内密の話などの利用の方が適切かもしれません。 >下見の完遂 ヨル様が挙げて下さった「怪我人が出ない」は大前提となりますでしょうか。 「いざこざが起きない」は多少の範囲内で治める事が出来れば問題はございませんし。 ザカラート様とシュレーディレ様に関しては 少なくともお邪魔になるような事はなさらなければよろしいかと存じます。 >有事の際の対応 あと、これは私の杞憂であればよろしいのですけれど。 狩猟とお茶会の内、どちらかで他班の援護が必要となった場合。 最初に問題が起きた方が誘導で 護衛役が不在となった所の方が本命であった場合が気掛かりでございます。 こちらの対策としては護衛役を最低一人は残されるか。 あるいは、護衛対象の方と共に向かうかの、どちらかでございましょうか。 >予想されるトラブル 六十人以上も集まれば何かしら対人問題は起きるのは予想されますね。 あとは森に招かざるお客様がいらっしゃるか、でございましょうか。 お茶会の方で仮に問題を起こそうと方がいらっしゃる場合は 主催者であるシュレーディレ様の面目が潰れるような事をなさるでしょうか……。 過激な方法ですと、毒を仕込まれるとか。
シーフのナハシュだ。よろしく。 狩猟班とお茶会で分かれる感じな、了解だ。 お上品な場はあんま得意じゃねえから、出来れば狩猟班の方だと助かる。 >下見の完遂 言われてる「怪我人が出ない」「主催者の面目が潰れる事態が起きない」の2つはおさえておきたいところだとは思うな。あとは中心部の調査も。未調査の所を残しておくのは突かれる材料になっちまうだろうしな。 >合図について 使用内容にもよると思うんだが、基本は定期合流でもいいのでは・・?ペットがいるならそれを仲介すればだいぶ楽に出来る気もするが。 もしくはこれ、有事の際即片方に連絡を取るとなると、それは8割方明らかなトラブルが起きているってことだろう?ならザガラート、シュレーディレ側にあらかじめ「緊急時の手段」として伝えた上で分かりやすい方法を取ってもいいと思うな。それこそエンライトを投げる、サウンドボマーで叫ぶ等でも。 >有事の際の対応 片方に寄せる場合、一人は確実に護衛で残る形でいいんじゃねえかな。 もしそれほどの何かがザガラート側で起きた場合、お嬢様を連れてすぐ駆けつけられる位置かもわからねえしよ。基本此方だけで動く方が他参加者の動揺も少なくてすむんじゃねえ?
文好きのガッコウ、俺の呼び名だ。ヒーラーをしている。 意味なく殺生するのは俺の教えに背くため、 お茶会の護衛か、森の散策だけで許してくれると嬉しい。 >班分け とは言ったものの、下見だからどっちでも良いな…。 一応、お茶会の護衛に挙げておこうか。 >有事 狩猟側が別の狩猟側あるいはお茶会側に援護に行くのは良いが、 お茶会側は狩猟側に援護に行かない、ぐらいでいいんじゃないか?
>合図 ナハシュさんの言うとおり、基本的にはその場の小さなトラブルだけで、他班を呼び寄せるほどの大事は起きづらいとは思う、ますので、いずれにせよ、お茶会で下見の様子を確認しながら、ということであれば、連絡を随時取り合いながらが良さそう、です 有事の際の合図は、上がっている意見のとおり、お互いに把握しやすいもので、で良さそう、です >有事 片方に寄せるのであれば、出ている意見のとおり、1名残すのは良いと思う、ます 狩猟班の方でトラブルが出た場合は、状況次第、ですけれど、その場での対処をしつつお茶会班と合流して撤退、お茶会班側で以上が発生した際は、足が速い護衛が先行して、残った一人が護衛しながらお茶会に合流して、撤退、で良いと思う、です >予想されるトラブル 虫が混入していたり、お茶会で使うはずだったものが足りなかったり、ちょっとした諍いの種になるものだと思う、です。 あまり大事になると、帝国の方も巻き込むので、そこまで問題を大きくするのは誰にとっても利点は少ないと思う、ます。 狩猟側は、集団の統率を失わせたり、獣をおびき寄せる行為をしたりが、とりあえず思いつくところ、です
>合図 確かにナハシュ様の仰る通り、ザカラート様とシュレーディレ様に予めお伝えし 目立つ合図手段をとっても問題はございませんでしたね。 参加者の中にその、ある組織(メドゥの指先)の関係者がいらっしゃる可能性が気掛かりで つい、私達のみで通じる合図の方向に意識が向いておりました。 >有事 こちらについては、璃龍様が纏めて下さった方針がよろしいのではないかと存じます。 そうなりますと各班、どなたが動かれるのか予め決めておく必要がございますね。 お茶会の方では、他の参加者の皆様の中には貴族の方が多くいらっしゃるでしょうし 同じ貴族ならば色々と話も通しやすいでしょうから、僭越ながら私が護衛として残ろうかと。 勿論、ガッコウ様のご希望次第では私の方が動いてもよろしいですし。 >予想されるトラブル 私も基本的には璃龍様の仰るような程度のものになると予想しているのですけれど 万が一、派閥あるいは国すらも関係なく騒動が起きれば良いと考えている方…… それこそ、先程申し上げたような組織の関係者の方がいらっしゃる可能性も考慮致しますと 警戒をするに越した事は無いと考えてしまうのは、流石に私が心配をしすぎなのかもしれません。
>合図 現行のもので賛成を。 クリーパーの発生とか、戦闘力を持った人間が暴れ始めるとか、明らかにやばい事例になった場合は大会自体を継続しない方が賢明だ。緊急時は派手な方法で伝達、各自でできる動き(戦闘・避難誘導など)をすることになるのかな。 何が来ても事前に食い止められるように、出来るだけあれこれ気にして見てはおきたいね。 >定期連絡 数時間に一回くらいかな。基本は護衛役から目は離さずに、本部とかでやるのが良いのかな。 シュレーディレ君に伝えた方がいいことも出てくるかもしれないし。 >狩猟側 人同士の諍いとかも出てくるかな。人数が多いのはなんとも。 とはいえらしく過ごすのが良いみたいではある。基本は楽しく狩りに興じるなり散策するなりでいいのかも。
>有事 茶会側は一人だけ残すのだな。あいわかった。 話したいのなら俺が移動するのも問題ない。 一人のときが一番危ないと思うから、合図はいつでも出せるようにな。 >毒・虫 出した物を改められる、というのは貴族的に失礼に当たるんじゃないか? メドゥの指先という連中がそういう陰湿な手を好むのかは知らないが、 対策より処理に言葉を割いた方が良いと思うな。
合図・有事についてはどちらも了解だ。 >定時連絡 数時間に1回くらいで良い気はするな。 >予想されるトラブル 同じく基本小事が主だと思うが、レインフィールが言うような連中がいるならそいつらが何を目的とするかに寄るんじゃねえかと思うかな。下見の段階でトラブル起こしてぶち壊すか、下見で仕掛けを施し本番で台無しにするかみたいな感じで。どちらにしろ双方で護衛や散策ついでに警戒・処理は出来るんじゃねえかね。 >個人 今んとこ散策がてら未調査の中心部を見て回ろうかと思ってる。 ただ他に行く奴がいるなら任せるし、その場合はまあ適当にふら付くかな。 迷子者や何かしら起きた時用の監視員みたいな動きになるとは思うぜ。
>定時連絡 開始時は昼過ぎですので、終了時間は恐らく夕方近くとなりますでしょうか。 そうなりますと大体約六時間程度と推測が出来ますので 数時間……二時間に一度行うと、二度行う形となりますね。 最後の二時間は何事も無ければそのまま合流する形となりますので。 >対策・処理 流石に毒見を始めとした直接的な手段は取りませんけれど 気になる物に対し、さり気なく【残留思念感応】での悪意の有無の確認し 必要に応じた対応を想定しております。 もし狩猟の方でも気になる物を入手などされましたら 私の方で確認を致しますので、よろしければお持ち下さいませ。 >予想されるトラブル ナハシュ様の仰る通り、どちらの可能性もございますね。 私の方でもどちらの可能性を考慮した上で行動をさせて頂きます。 >個人 私はメルシャート子爵様に雇われたウィストラータ様の護衛として参加し 彼女とシュレーディレ様のお側で護衛をさせて頂こうかと。 お二人にはご一緒に居て頂いた方が有事の際、共に護衛しやすいでしょうし。