【燃纛】怨讐の異民族達
望月誠司
コメント 25
シナリオID:692
オープニング
授恵者達の活躍によりアルサーラムの町は押し寄せて来たクリーパー達を打ち払い、占拠された森を奪還して燃料を確保し、無事に冬を越えようとしていた。
しかし長い冬の為、食料の備蓄は残り少なくなっていた。
そこで町長は町民達を餓えさせぬ為に使者を飛ばし、旧知の王国商人へ大口の食料の販売を依頼した。
主な財源は冬の間に町の衆で協力して制作した木彫りの工芸品や毛皮製品、手放す事を決意した貴金属品などである。
厳しく激しい値段交渉の末、王国商人は依頼を受諾した。
かくて、アルサーラムの町よりニ十頭の荷馬の群れに交易品が満載され、リーンエス王国の某街を目指して出発した。
街へと辿り着いたら商人へと交易品を引き渡し、引き換えに空になった荷馬に食料品らを積み込み、余剰の金銭を受け取ってアルサーラムへと帰って来る予定だった。
●
さて、ここに一人のバルバロイが居る。
帝国辺境の山に住む極少数民族の若長だ。
名をノリクムという。
ノリクムの先祖はかつて草原に割拠していたが、シルトラース帝国との戦いに敗れ山へと追いやられたと伝えられている。
似たような境遇の民族の多くは帝国に恭順したが、しかしノリクムの民族は決して帝国に降ろうとはしなかった。
なんやら容易には降るを良しとせぬ因縁があるらしい。
既にその原因となった相手も墓の中で、どんな因縁だったのかも正確な所は忘れ去られたが、それでも彼等は戦い続けた。今でも戦い続けている。
かつては数十万と居た民族が十万を割り、千すらも割って、数百までに頭数が討ち減らされていても。
始まりがなんであっても、戦い続けていれば、戦うに足る理由というのは泉の水の如くにこんこんと湧き出て来るものだ。
流された血は血を求める。
故に手の入りにくい山内を流浪して今日まで反抗を続け、しばしば隊商や大平原に建つ村や町をゲリラ的に襲い、故に人類の敵と指定されて久しい民族である。
彼等は帝国人からは”フィルエスタン・サリアンシア人”あるいは単に”アンシア人”と呼ばれ、知られている。
先の帝国の崩壊以降、多くの者達が授恵者となったが、アンシア人の中にもかなりの数の授恵者が発生していた。
「死にぞこないの帝国の残党どもから町を掠め取る」
帝国の西方にあるとある山内の集会所にて、ノリクムは集まった山の民達へと告げた。
クリーパーの動きが気になっていた為――例え町を占拠してもその後に町がクリーパーによって襲われ自分達が皆殺しにされたら意味が無い為――動かなかったが、どうやら帝国辺境『アルサーラム』の近辺ではクリーパー達の大量発生は落ち着いたと見て取れた。
故にノリクムは言った。
「俺達の国を建てるのだ。今が機だ」
帝国には既に力無く、王国も諸侯や他国間での利害調整から動きが鈍い。
この状況下ならば、帝国辺境の町一つくらいなら、ノリクム達が掠め取ったとしても、わざわざ危険や厄介事を背負ってまで討伐の兵を差し向けてはこないだろう。
そうして実効支配し、小都市国家として旗揚げし独立するのだ。
そのように、ノリクムはサリアンシアの民達へと語った。
実際の所は、その通りになるか大いに怪しい予測だったが、民達はそれで納得した。動くなら帝国が崩壊している今以上が無いのは確かだったからだ。今動かなければやがて自分達はただ時の流れの中に埋もれて消滅するだけになると知っていた。サリアンシアの終焉だ。
座して終わりを待つくらいならば、最後に賭けてみよう、という訳だ。
そして、ノリクムは民達の大多数には告げなかったが、王国辺境のとある貴族と密約をかわしていた。
その密約があればこそ、近隣の王国貴族は確かに動かない筈だった。
ノリクムと密約をかわしている王国貴族は王国法で禁止されている物品を扱っているのだが、それを売り捌く為の――表向きは彼と関係が無いが裏では彼の息がかかっている――拠点が国外に欲しいらしい。
その為、シルトラース帝国の旧領に影響力を及ぼそうとしていた。
王国貴族は王族や他の貴族、他国との取り決めがある為、自ら表だって帝国の領土を切り取る訳にはいかない。
だからノリクム達を使って切り取ろう、という訳だ。
ノリクムが動く事を決意したのは、王国貴族からの多大な支援を得られた為だ。
元々、帝国崩壊の以前から若干の繋がりはあったのでパイプを強化した形である。
(まぁ実際にあの閣下がどこまでどういう腹なのかはわからんが……)
王国貴族は信用がならない。
ノリクム達が首尾良くアルサーラムの町を奪ったとしても、そのまま盟約通りに支援を続け取引を行ってくれるかわからない。
最悪、その王国貴族自身の兵がサリアンシアを討伐しにアルサーラムへと押し寄せて来るかもしれない。
『帝国の残党の町を奪う訳にはいかないが、バルバロイ達の町を攻めて占拠するのなら問題なかろう』
という寸法だ。
あまりにも見え透いた強引な論法だが、それを押し通そうとするのが貴族という連中だ。
信用はできない。
(上手くやらねばならん)
アルサーラムの町は奪う。
奪った上で、被害は最小限にとどめ、王国貴族へと自分達を潰すよりも、密約通り生かして使った方が得だと思わせねばならない。
そうでなければサリアンシア人の独立と未来への生存は勝ち取れない。
そう考えていたノリクムのもとへ、アルサーラムに潜入させていた手の者より、町長が王国へと大規模に交易隊を出発させたとの報が届いた。
これを受けたサリアンシアの若長は当然、アルサーラムの町を弱体化させる為に、隊商への襲撃を計画したのだった。
●
帝国の冬季は厳しい。
特に十二月から二月にかけては最高気温ですら氷点下に至る。
時は既に三月であり、アルサーラムは帝国内でも南部にあったから、平均のそれよりは若干気温も和らいでいたが、まだまだ寒い事に変わりは無い。
「この交易の成功と失敗が町が生き残るか滅ぶかに直結する!」
早朝、野営を終え出発となった時、隊の先頭部に立つ毛皮のマントを羽織った壮年の男が馬上より激励を飛ばした。
元は聖騎士だという傭兵隊長ウィリアム・ブレイズだ。
町の守備隊長が自ら護衛に参加する程に交易隊には随分と気合を入れた守りがつけられていた。
おそらく、彼が今発している言葉は事実で、それが理由なのだろう。運命の分水嶺だ。
アルサーラム守備隊から選抜して引き抜かれ構成された歩兵五十名、弓騎兵十騎、そして大枚を支払い「腕利きを寄越してくれ」と冒険者ギルドへと頼み込んで派遣されてきた『腕利き』というギルドからの触れ込みの十名の授恵者達である。報酬は割り増し料金で支払われる事になっているが実際に腕利きかどうかは不明だ。ギルドがテキトーな事を言ってねじ込んだ可能性は勿論あった。
辺境の小町の規模からすれば、出撃させるには限界に近い戦力である。彼等が留守の間でも町の守りを空にする訳にはいかないからだ。帰ってきたら町がクリーパーやバルバロイによって攻め落とされていたとなったら笑い話にもならない。
「今日から難所だ! 周囲へ見通しが効かんし弓騎兵の足も鈍る! 特に気を引き締めていけよ野郎ども!」
アルサーラムの交易隊とその護衛隊は長い列を成し、蛇行する山道を進んでゆくのだった。
解説
マスターより
リプレイ
案内人は言う、険しい斜面を削って敷かれた山道は、北の帝国より南の王国へと続いているのだと。
南西への道は山肌に沿って蛇のように曲がりくねり、遠き路をゆく旅人達の心までをも折り曲げんと陰鬱に彼方まで伸びている。
蛇行する荒れた道、大量の交易品を背に積んだ荷馬が列を成して進み、荷場列の左右をアルサーラムの兵達が固めていた。
冒険者達もまた、守護の任を果たすべく共に歩いた。
(視界が悪く、隊も長く伸びて連携も取り難い……何かあるとすればここでしょうか)
冒険者達のうちの一人、艶やかに長い銀髪の十七歳の娘、イヴェール・イリュジオンは心を研ぎ澄まし山の音に耳を傾けていた。
常人では微かにしか聞こえぬ音でも彼女ならば気づく。
(この地形なら……襲撃があるならまず上から来るのが定石)
銀髪少女はその宝玉の如き金瞳を右手側に広がっている結構な角度の山肌へと向けた。
(でも、上を見ている間に下から来る、というのはあり得そう)
兵達も上は警戒している。なのでイヴェールは逆側へと特に注意を払うのだった。
他方、
『レイズ、このあたりは特に奇襲に備えておいた方が良いんじゃないか』
ナハティガル=ラーは総指揮官である傭兵隊長へとテレパスを飛ばしていた。
冒険者達は皆、一様にスキルを使って周囲を警戒している。
超聴覚を用いての警戒にあたっているのはイヴェール、ララベル・サン・ディーベル、エミリア・シバの三名。
ホークアイはノックス・マグナ、セリーヌ、アクティオンの三名。
アクティオンは超視覚を用い、看破とホークアイも併用している。ノックスは感波も使っていた。
セリーヌは自身とペットの狼の目と耳とで周囲を探っている。エーテルリンクは狼の鼻を人並に低下させてしまっているが、そちらはハヤト=ガラン=ヴォルファングとエミリアの超嗅覚で補っていた。
ヴィルヘルミナはサーマルアイを、アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは透視を、ナハティガル自身も天眼で周囲の気配を探っている。
どんだけ索敵能力あるんだこいつら、と授恵者に詳しくない人間が知ったら驚愕に目を剥いたに違いない。
しかしそれでさえ誰の目にも耳にも鼻にも反応は未だなかった。
それならばこの辺りには怪しいものは潜んでいないのだろうか……されどナハティガルは嫌な感覚を覚えていた。
『この山林の深さ……斜面……曲がりくねった道……賊が仕掛けるには絶好の地形だ――俺が賊ならそうする』
「ふむ……」
先頭部にてテレパスを受け取ったレイズは軍馬の鞍上にて一つ唸ると、
「――だ、そうだが、どう思う?」
彼はアウレーリアへと振り返りナハティガルからの要請内容を説明し、問いかけた。
戦術に知識のある十四歳のブロンド緑瞳少女は道を歩きつつ少しの間考える。
人間というのは、あまり集中して警戒し続けても疲労が蓄積していざという時の集中が逆に低下してしまう。
だが、
「……少しの間なら良いんじゃないの。ここは危険よ」
警戒を払う価値がある難所だった。万一奇襲されたら目もあてられない。
アウレーリアがぶっきらな返答を投げると壮年騎兵は「わかった」と返事をした。
(木々を見通せれば、そこまで気を張らなくても良いのでしょうけど……)
このあたりの木々は見目は陰鬱だったが、元気いっぱいに生きているらしい。無生物でないと透視は出来ない。
アウレーリアが嘆息している最中、隊の中央部を兵達に混じって進んでいるセリーヌの元へとレイズからテレパスが飛んで来た。
『こちらレイズ。セリーヌ、2Fを頼む』
『――了解したのよ』
アウレーリアと同年の小柄な茶髪緑瞳の少女は、管楽器に口をつけ思い切り吹き鳴らした。
少し罅割れた低音が風に乗って山の道に響き渡ってゆく。
誰の歩みにも変化は無かった。
しかし、指示は行き届いた筈である。
「警戒指示かぁ……何かこの辺りって危ないものでも潜んでるのかしら」
ショームを吹き終えたセリーヌは小首を傾げた。
なんせ総勢七十名を超える数で守りについているのだ、並大抵のものなど襲ってはこない筈なのだ。
「――この地域はバルバロイが巣食っていると聞いたことがあります」
荷駄から落ちた荷物を拾う為にたまたま近くへと列を下がって来ていたノックスがセリーヌへと答えた。
「バルバロイ?」
「ええ、サリアンシアという名の異民族……シルトラース帝国にまつろわぬ者共です。帝国の旗を掲げるこの商隊へとこの山で襲撃を仕掛けて来る者があるとすれば彼らなのでしょう」
「そうなの……」
帝国生まれの黒髪銀瞳の青年は、足を早めて再び前方へと向かう。
「異民族……エルフの私としては、決して他人事ではないのよね……」
遠ざかってゆくノックスの背を見つめつつセリーヌはぽつりと呟いた。
「サリアンシア、ですか……彼らの事情は知りませんが、民からしてみれば野盗と変わりないでしょうね」
会話を耳に拾っていたらしいヴィルヘルミナが戻ってきたノックスへと言う。
「――その通りです」
銀瞳の青年は鋭い面差しで頷いた。
●
「あら警戒指示……まぁ地形的にも結構厄介な場所だし、盗賊とかそんなのが出るとしたらこんな場所の可能性はあるわね」
最後尾を固める冒険者の一人、エミリアが音色を聞き呟いた。
夜空を凝縮したような濃い紫色の髪に金瞳の若い女である。
実年齢よりやや年上に見える為、若い女、というよりはその一人称の通り「おねえさん」と現すのが最も的確な雰囲気だろうか。
音の意味は『警戒せよ。有事の際は兵は防御重視隊形を取るべし、攻撃は冒険者に任せよ』だった。
出発前にハヤトとレイズが話し合って決めた手筈である。
なんでもその時には「俺達が必ず敵を撃退する」とハヤトはレイズへと言い切ったらしい。
「もし賊が来るなら道からでは無く、斜面からでしょうね」
フードとゆったりとした外套に身を包んだ白肌のリザードマン――アクティオンは隣を歩いている紫髪のお姉さんの呟きに答える。
彼もまた最後尾を固めていた。
道は鬱蒼とした樹々が生える斜面に挟まれた位置を通されている。
アクティオンは殿なら、後ろから隊列を視界に収めつつ、隊列の左右の斜面も見れるので、カバー出来る範囲が広いのではないかと考えたのだ。
「まぁそうなるわよねぇ。もし何かこっちに来るなら、上手くカバーしたい所ね」
「はい。自負はともかく、ギルドの売り込みが嘘ではなかったと思わせる仕事はしないと、と思います」
「あぁ、腕利きって奴? そうねぇ、依頼人を失望させないぐらいには頑張らないとねぇ――お仕事終わった後においしいお酒を飲むためにも」
そういえばおねえさんあんまり人と比べたことが無いから、どのくらいなのかしらねぇ? なんて事を疑問に思いつつも酒好きの女は頷く。
「腕利きとか言われるとなんか照れちゃうよね。頼られるのは嬉しいけど」
アクティオン達の少し前を歩いているララベルが笑った。
実際、記録を辿るなら彼は腕利きだろう。まだ新人の頃でも幾つかの依頼で良い動きをしていた。それに加えて今では中堅以上と言って良い力を身につけている。
過去が良かったからといって今日も良い動きが出来るとは限らないし、勝敗はスペックだけで決する訳でもないが、少なくともララベルや他のメンバーの評判は悪くない。
どうやら冒険者ギルドは今回は良心的な人材派遣をしたらしい。
一同は警戒を密にしつつ曲がりくねった山道を進んでゆくのだった。
●
最初に異変に気づいたのは――ヴィルヘルミナだった。
音を消し、匂いを消し、その姿を森に溶け込ませ、されど体温ばかりは隠しきれていなかった。
幾度か緑髪紫瞳の娘の視線が斜面の登り側へと向けられた時、彼女のサーマルアイは樹々と低い常葉の灌木の枝葉の陰――およそ十メートル程離れた位置――に温度の高い色を捉えた。
――何か生物がいる。小動物ではない。大型の生物だ。
木の葉の陰から漏れ出す温度の高い色は、徐々にその数を増やしてゆく。大勢が、近づいて来ている。
ヴィルヘルミナが大声を上げている姿はあまり見た事がないが、流石にこの時ばかりは周囲の兵に異変を報せる為に声を張り上げた。
「上方側の斜面に未確認存在多数です!」
ドワーフ娘の声を聞いたセリーヌは、弾かれたように管楽器に口をつけるとサウンドボマーを発動させ思い切り定められた音程と拍子で吹き鳴らした。
鬱蒼とした山林の道に少し罅割れた音色が爆音で響き渡ってゆく。
意味は『全体停止』と『至急防御態勢を取るべし』である。
荷馬が嘶いて停止し、居並ぶ兵達は抜刀して斜面側へと盾を向け、盾の端と端を重ね合わせるように密集して整列した。
いわゆる『盾の壁』の戦列隊形だ。
鬱蒼とした山林の奥より遠吠えの如き大声が轟いた。
次の刹那、お頭付きの獣の毛皮をかぶった屈強な男達が、武器と盾を手に次々に山林の陰から飛び出して来る。
どうやら気づかれたと見て奇襲を仕掛ける事は諦めたらしい。強襲突撃して来た。
セリーヌはさらに管楽器を吹き鳴らした。意味は『敵襲! 敵襲!』である。
(確かに伝え聞くアンシア人の風貌だ)
闇色の水が沁み出て来るかの如く、斜面に生える濃い灌木の陰より出で迫り来る獣皮の男達に対し、ノックスは大太刀を振り上げ進み出た。
――サリアンシアとシルトラースの関係は知っている。
帝国が弱った間隙をつくのは戦術としては正しいのだろう。
だが、ノックスはそれを許せなかった。
「ここで一人残らず殲滅します」
大太刀の切っ先より巨大な光塊が膨れ上がる。
ノックスは視認しているすべてのアンシア人を標的に定め、猛然と振り下ろした。
直径十五メートルにも及ぶ輝く光の巨塊は樹々をすり抜け、喚声を上げながら突撃して来た無数の獣皮の男達だけを一撃で夥しい数を叩き潰した。凶悪な破壊力とでたらめな攻撃範囲を兼ね備えている、圧倒的な面制圧力だ。
アンシア人達の出鼻が盛大にくじかれた。
そこへヴィルヘルミナが踏み込んでゆく。
ノックスの視認から漏れていた男達を狙い、ダマスカス鋼の大太刀より光の刃を伸ばし一閃する。
鋭く閃いた刃が獣皮を纏った男の身を両断し、もう一人の男の腹を深々と斬り裂き、灌木を断ち斬ってその奥に居た男の首を刎ね飛ばし、大きな樹木の幹に喰い込んで止まる。
腹を裂かれた男が臓腑をぶちまけながら倒れ、首を失った胴が噴水の如くに真っ赤な鮮血を噴き上げながら倒れてゆく。
ノックスとヴィルヘルミナの剛撃に、サリアンシア人達の間に明らかに戦慄が走ったようだった。
樹々の奥のざわめきが止まる。
足を止めたのだ。
しかし、雄叫びと共に一人の男が突っ込んで来た。
長柄の戦斧を大きく振り上げ突撃し、爆風を巻きながら振り下ろして来る。
ヴィルヘルミナが掲げた大太刀と激突して轟音と共に火花が巻き起こった。
小柄なドワーフ娘の身が押され、その細い足が履く靴の底が斜面の土を削ってゆく。
さらにその瞬間、ヴィルヘルミナの後方から馬の嘶きが響き渡った。
斜面側からの突撃は、ノックスとヴィルヘルミナの剛撃によってほぼほぼすべて押しとどめられていたので、兵達は余裕で防いでいたが、その隙に斜面下からサリアンシア人達が忍び寄って来ていたのだ。
敵は斜面上だけでなく、斜面下にも伏せていた。
上に注意を寄せてから、下から突き刺す――挟撃である。
わらわらと獣皮をまとったアンシア人が道の上へと登り、そして屈強な男が長柄戦斧を振り回して荷馬ごと不意を突かれた兵達を薙ぎ払った。
●
中央部が挟撃に晒される中、後方部もまた襲撃を受けていた。
後方部の兵達のうち半数は剣と盾ではなく、アクティオンからの指揮を受け弓を構えていた。
敵襲を報せるセリーヌの管楽器の音を聞いた彼等は足を止め、矢を右手に引き抜き備えている。
「来ます!」
風とは違う木々の動きを感じ取ったアクティオンは叫び、弓に矢を番え引き絞った。兵達も彼と同様に一斉に弓に矢を番え引き絞る。
瞬間、獣皮を頭からかぶった男達が斜面上に濃く立ち並ぶ樹木の陰より飛び出して来た。
視認からの間合いはおよそ10M、駆け突撃して来る相手が接近し刃を振り下ろすよりも前に、矢筒から矢を引き抜き、弓に番え狙いを定め放てるか、微妙な間合いだ。
――が、しかし、この時は既に弓に矢を番え終わっており、なおかつアクティオンから『狙いすます必要はない』と速射の指示が出ていた。
「――テェッ!」
フードをかぶったリザードマンが叫ぶと同時、弓から旋転する矢が射出され、同様に弓矢を引き絞っていた居並ぶ兵達より一斉に矢が解き放たれる。
豪雨の如くに無数の矢が飛び出し、突撃して来たアンシア人達を迎え撃つ形で次々にその身を射抜いてゆく。痛烈なカウンターだ。
苦悶の悲鳴が一斉に巻き起こり、バタバタと獣皮の男人達が倒れてゆく。
「たいした数のようねぇ」
エミリアが風と化して踏み込んだ。矢を受け動きが鈍ったアンシア人達へと迫り、夜空に似た紫色の長い髪を靡かせながら、鋼の細剣を振り回し薙ぎ払う。
獣頭の皮を被った男達が鮮血を噴出しながら次々に倒れ伏してゆく。
女は舞うようにステップし兵士達の戦列の前まで素早く後退する。
怒りの咆吼を轟かせながら長柄戦斧を振り上げ屈強な大男が突撃して来る。
紫色と入れ替わるように陽のような赤が空間を貫いた。ララベル・サン・ディーベルだ。
「喰らえ、疾風三角斬り!」
火色の髪の少年は跳躍して付近の樹木の幹へと着地すると――壁歩きだ――幹を蹴って跳び、大男へと空中から斬りかかった。
大男が咄嗟に振り仰いで長柄戦斧を掲げ、柄の部分で斬撃を受け止める。
ララベルは斜面に着地すると同時、左右の剣を閃かせた。大男の両腿が斬り裂かれて血飛沫が飛ぶ。
大男は長柄戦斧を振り上げ、一瞬、燃え上るように激しく輝かせた。戦士の一断。
爆風を巻いて戦斧が振り下ろされ、斜面を爆砕する。
が、その時には既にララベルはその場所にいなかった。軽やかに後退している。フェザーステップだ。
「――下からも来ています!」
アクティオンが気づいた。
声を受けて兵士達が振り向き、何人かが慌てて荷馬の前へと出る。アンシア人の斧や槍や剣が兵達の盾と激突して鈍い音を響かせる。
兵士達は防御を固めて良く防いだが、下方から登って来たもう一人の大男が長柄戦斧を振り回すと複数人がまとめて吹き飛んだ。
●
さて、戦いの最中だが一つ昔話である。
かつてシルトラース帝国には大平原の門番たる伯爵家があった。
彼の伯爵家は山裾で邪竜や這者、まつろわぬ民を退けてきた。
しかしそれも最早、かつての話。
帝国が崩壊した際に、その武門の家もまた一人を除き、悉くが死に絶えた。
故に現在、彼等が守護していた領域において門番というのは不在となっている訳だが――
――あぁ、やはり『あの』アンシア人ね? なんて素敵なの。
ネーベルベルク伯爵家令嬢アウレーリア・フォン・ネーベルベルク、同家唯一の生き残り。今は冒険者に身をやつしている。
少女はわらわらと樹木の陰より湧き出てきた獣皮をまとったバルバロイ達の姿を認めて、その翠玉のような双眸に輝く炎を揺らめかせた。口元が笑みに象られる。
かつて誰かが言った。
『ネーベルベルク伯爵家は大平原の門番である』
当然、その過去、一族はフィルエスタン・サリアンシア人とも幾度となく矛を交えてきた。アウレーリアの父も兄達もそうである。もしかしたらアルサーラムの周辺で戦った事もあったのかもしれない。
しかし、病弱だったアウレーリアにその経験は無かった。窓の内側にいて家族や使用人達から話に聞く事くらいしか出来なかった。
かつては。
けれど、今は違う。
彼女は変わった。崩壊の火が変えた。すべてを焼き落とした燃え盛る焔が、かつて病弱だった少女を凄絶なる授恵者へと変えていた。
(一族が戦った敵を相手取る名誉が、漸く私にも)
火光を緑瞳に宿す少女は歓喜した。
帝国の残党と蛮族の残党、運命を決するには最適の盤面だ。
――さぁ、始めよう。
「滅ぼすわ、私がここで」
泥に塗れ擦り切れたローブを身に纏う煌めく金色の髪の少女は、澱を練り上げ杖を振りかざすと、前方に輝く光球を出現させた。
次の刹那、光球は全方位へと向かい、激しく明滅する稲妻のような光を無数に走らせる。アーケインテンペストだ。
獣皮を頭からかぶった粗野な男達の身に蒼白い雷光がからみつき、その前進速度を鈍らせてゆく。
アウレーリアはさらに杖の先に澱を凝縮すると紅蓮に燃える火の球を形成し投射した。
炎弾は樹の幹にあたると爆裂し、荒れ狂う熱波と共に紅蓮を膨れ上がらせてゆく。
蒼白い稲妻に絡まれているバルバロイ達がさらに赤い炎に包まれ絶叫をあげ次々に倒れてゆく。炎は樹々をも飲み込んで、瞬く間に世界を爆熱空間へと変えた。
「派手だな!」
銀髪金瞳のゴブリンとハーフビーストの混血児が、口元に不敵な笑みを浮かべながら、左右の手に剣を携え、紅蓮に輝く斜面へと突撃した。
ブレイブファング傭兵団団長ハヤト=ヴォルファングだ。偉大なるゴブリンの祖の一人ガランの血を引く事を誇りにしている。今はまだ真の英傑を名乗る事をファミリーから認められていないが、いつか認めさせる所存である。
多くが炎に焼かれ倒れ伏す中、樹木の幹を盾にして爆炎を避け出てきたアンシア人へと、ハヤトは高速で機動しながら電光石火の如く襲い掛かった。
右手に握るダマスカス鋼の剣を左へと振りかぶり、すれ違いざま右へ水平一閃、男が防御に掲げた盾を巧みにかわして打ち込み、その首を刎ね飛ばす。
さらにハヤトは振り抜いた勢いで右へと身を捻りつつ踏み込んで、迎え撃つよう繰り出された二人目の男の槍の穂先を紙一重かわしざま、素早く身を切り返し、左の短剣を右から左へと振るった。
二人目の男が喉を短剣で深々と斬り裂かれ、血飛沫を噴出しながら倒れてゆく。
ハヤトはなおも止まらず、短剣を振り抜いた勢いを利用し高速でステップしながら踏み込み、今度は勢いに任せ、そのまま竜巻の如く一回転した。
旋回する右手の鋼刃が唸りをあげ、三人目のバルバロイへと襲い掛かる。
獣皮の男は、石火の如き高速で、右に左に切り返しながら迫り来た果てに回転したハヤトの、そのトリッキーな動きを見切れなかった。
不意をうたれた形で防御し損ない、弧を描いて一閃された右剣の裏刃を首に受け、凶悪な切れ味を誇るダマスカスの刃が、男の骨肉を断ち斬りながら抜けてゆく。
首を失った男の胴体が鮮血を天へと噴き上げながら倒れ、ハヤトはそのまま赤い稲妻の如くに駆けた。
ハヤトが縦横無尽に暴れ回る中、ナハティガルは壁歩きで樹木の幹に張り付き、巧みにその枝葉に紛れ込んで身を隠しながら、アンシア人達の後背へと回り込んでいた。
音も無く頭上よりアンシア人の後背へと迫ると、右のダマスカス鋼剣を落雷の如くに一閃し、脳天を唐竹割りに打ち砕く。
着地と同時に左の短剣を振るって隣に立つ男の喉を切り裂き、再び駆け出しざま引き抜いた右の剣を弧を描いて振るい三人目の男の首を刎ね飛ばす。
そして樹木へと向かって跳躍し、幹に張り付いて駆け、再び常緑樹の枝葉の陰にその姿を消してゆく。
他方、長柄の戦斧を手にした大男が蒼い稲妻を突き破って、樹木の陰よりレイズ目掛けて突撃して来ていた。
アルサーラム兵達が盾を並べて立ち塞がり、大男は長柄戦斧を燃え上るように激しく輝かせると嵐の如くに振り回した。轟音と共に盾が粉砕され、血風が吹き荒れ、兵士達が吹き飛んでゆく。盾の壁に穴が空く。
大男の陰より、鍛え抜かれた体躯を持つ偉丈夫が疾風の如く飛び出して、生じた穴へと入り込んだ。獣皮を頭から被り、手に長剣を持った男は、壁を抜けると跳躍し、馬上のレイズへと迫り長剣を掻き消した。
レイズが稲妻の如き速さで身を捻り長剣を眼前に翳す。刹那、その剣が半ばから切断され折れ飛んだ。兜が巨人の鉄拳でも打ち込まれたかの如き轟音と共に爆ぜ割れ、壮年男の額から鮮血が噴出してゆく。
獣皮男の長剣が何時の間にか振り抜かれており、赤い線が宙に鮮やかに描かれていた。傭兵隊長の身がよろめき、軍馬の鞍上から転がり落ちてゆく。
「た、隊長ーっ!!」
先頭部のアルサーラム兵達に動揺が走ってゆく。
斜面の下方側の樹木の陰より大量のバルバロイ達が姿を現し飛び出して来る。
一同の背を狙い猛然と斜面を駆け登って来た。
――だが、彼らの前進は唐突に止まった。
長い銀髪を持つ金瞳の娘が、不可視のエーテル領域を己の周囲へと展開すると同時、手に持つダマスカス鋼の大剣にエーテルを収束させ長大な光の刃と成し、構えていたのだ。
イヴェール・イリュジオンは展開したエーテル領域によってアンシア人が踏み込んで来たのを感知すると、その瞬間、高速で光の刃を振り下ろした。
エーテルによって加速した娘は、領域へと押し寄せて来るすべてのアンシア人達に対して突き、斬り、払い、嵐の如くに光刃を振るった。
アンシア人達は踏み込んだ瞬間から血しぶきを噴き上げて次々に斃れてゆき、斜面を夥しい数の躯で埋め尽くし、真っ赤に染め上げてゆく。
●
血風吹き荒れ阿鼻叫喚が渦巻く商隊中央部、セリーヌは先に輪っかを作ったロープを付近の樹木から伸びている枝にひっかけスルスルと枝上に登っていた。
眼下では斜面下より突撃してきて味方の背後を突いた大柄なアンシア人が長柄戦斧を振り回し、また他のアンシア人も刀槍や斧を振るって荷駄や兵を斬殺してまわっている。
隊は窮地にあったが登り斜面側より黒髪銀瞳の青年――ノックスが大太刀を手に駆けて来た。
眩く輝く光を大太刀の先端に集め神の鉄槌の如くに振り下ろす。
それはまさに雷神の一撃もかくやの如き凶悪さだった。
直径十五メートルにも及ぶ眩いエーテルの光塊は、味方の兵や荷馬をすり抜け、群がるアンシア人達だけを一撃で天雷の如く叩き伏せた。屈強な大勢の男達が一斉に大地に叩き伏せられる。
劣勢だった戦局が一発で立て直された。
「荷馬を端に寄せてください! 態勢を立て直しましょう!」
ノックスの指示を受け、生き残りの兵達が荷馬の誘導を開始する。
上方側の斜面ではヴィルヘルミナと長柄戦斧の大男が激しく斬り結んでいた。
ヴィルヘルミナは光刃の長さを活かし間合いを取って立ち回らんとするが、長柄戦斧の男は引き離されぬように果敢に踏み込んでゆく。
枝上よりその様子を見下ろしていたセリーヌは、魔弓を手に狙いを定めるとエーテルを収束させ魔矢を射出した。
男の顔面へと向かって閃光が走り、男は咄嗟に長柄戦斧を顔の前へと掲げ上げた。戦斧と光矢が激突して光が吹き散らされ、その瞬間、ヴィルヘルミナはエーテルを爆発的に解き放った。
光を収束させた大太刀を下段から逆袈裟に一閃。空間を断裂する唸りを上げて走った鋭撃の刃は、長柄戦斧の男の脇腹から入って、その胴を深々と斬り裂きつつ抜けた。
男の腹から赤色がぶちまけられ、口から鮮血が迸ってゆく。
大男は一瞬、身を揺らがせたが、しかし踏みとどまって倒れず、大きく後ろに飛び退った。
そして――セリーヌとヴィルヘルミナを一瞥すると踵を返し、灌木の中へと飛び込んで姿を消した。
●
アクティオンは斜面下より登って来た大男へと向かい弓を手に接近していた。
迫りくるリザードマンに気づいた大男は、けたたましい奇声を発しながら猛然と長柄戦斧を振り上げ、斬りかかる。その大斧が燃え上るように激しく輝く。戦士の一断。
瞬間、アクティオンは目にも止まらぬ速度で弓に矢を番え二連射した。カウンター。
鋭く放たれた矢の一本は大男の腕に突き立ち、そしてもう一本は眉間をぶち抜いた。ヘッドショット。長柄の戦斧がアクティオンの肩口から入り、その身を掻っ捌きながら抜けてゆく。
赤色が盛大にぶちまけられた。
至近距離にて大男とアクティオンは睨み合い――そして両者ともに同時に倒れてゆく。昏倒した。
周辺のバルバロイを薙ぎ払ったエミリアは、飛燕の如く軽やかに、ララベルと斬り合っているバルバロイへと素早く迫った。
長い紫色の髪を宙に躍らせつつ、舞うように流麗な足運びで、細剣と短剣を連続して振るう。
細剣による下段の斬り上げからの間髪入れぬ振り下ろし、そして短剣での雷光の如き突き。
長柄戦斧のバルバロイの身から血飛沫が上がり、心臓を狙って突き出された短剣の切っ先が、咄嗟に身を捻ったバルバロイの左肩に突き立つ。
「町の人々の生活の為にも、君たちに渡すわけには行かない!」
ヒット&アウェイを繰り返していたララベルが、エーテルを燃やし再び踏み込む。大男は咄嗟に飛び退り逃げ出そうとしたが――痛みの為に一瞬遅れた。ララベルの剣によって両脚が裂かれていた為だ。
「行くぞ! 疾風三連突ッ!!」
ララベルはダマスカスの双細剣を目にも止まらぬ速度で振るい、一刹那の間に三連の突きを叩き込んだ。
腹、喉、眉間を貫かれたバルバロイは、鮮血を噴出しながら崩れ落ちた。
●
「うるぁ! させるかよ!?」
倒れたレイズへと追撃を入れんとしていた長剣の偉丈夫へハヤトが疾風と化して斬りかかった。
剣と短剣による高速の三連撃。
偉丈夫は振り向きざまに長剣を一閃して剣撃を受け止めると、続く短剣の一撃を上体を反らしてかわし、剣撃を飛び退いてかわした。
ノリクムが長剣を掻き消す。しかし既にハヤトはエーテルを爆発的に燃やし飛び退いていた。
赤い鬼が先程までいた空間を見えない刃が四半瞬以下で突き抜ける。
ハヤトの胸を切っ先が浅くかすめて抜けてゆく。紙一重、かわした。
ノリクムの瞳に驚愕したような光が宿った。この赤い鬼、恐ろしく速い。
攻撃後の隙を狙い、すかさずアウレーリアが杖を振るう。動きの先を予測しつつ未来位置へ置くように蜘蛛糸のようなエーテルをノリクム目掛け撃ち放つ。
が、ハヤトは恐ろしく速いがノリクムもまた互角ないしそれ以上に速い。
男は膝から力を抜き、唐突に地へ倒れ込むように身を傾け、蜘蛛糸が先程までノリクムの上体が在った空間を貫いて抜けてゆく。
(大将首を狙う)
ナハティガルが樹木の上から飛び降り仕掛けた。
強引な回避行動で隙が産まれていた。
流れるように一回転し立ち上がらんとする男へとエアーライドで滑空ざま鋼の剣を振り下ろす。瞬間、ノリクムの姿が掻き消えた。アクセラレイター。
着地したナハティガルの横手に気配が生まれている。偉丈夫が長剣を構えている。
(一刀流――)
銀の鬼は冷静にぼんやりとその姿を眺めた。微かに、肩が動いた。
刹那、ナハティガルは左の短剣を一閃した。掻き消えた長剣の刃と激突し、火花を撒き散らしながら互いに弾かれる。
銀鬼は身をひねりざま、さらに連撃を繰り出したが、ノリクムは後方に下がってかわす。
「見たとこテメェが大将か……俺が相手だ!」
ハヤトが双剣を手に駆け、アウレーリアが再び蜘蛛糸を放つ、ナハティガルもまた双剣を手に斬りかかる。
偉丈夫は斜面を駆けつつ冒険者達の猛攻を捌いてゆく。
他方、先頭部で暴れ回る長柄戦斧のバルバロイへは斜面に屍の山を築いたイヴェールが最先頭部へと駆けて来て、動きを見据えつつ踏み込みざま袈裟に斬りかかった。
光の刃が大男の肩口から入って血飛沫が噴出し、大男が反撃の戦斧を繰り出す。
大男に比べれば頭二つ以上は小柄な銀髪の娘は、ダマスカス鋼の盾を翳して一撃をがっしりと受け止めた。轟音が鳴り響き、衝撃が身を貫いてゆく。だが、イヴェールは涼しい顔をしていた。
「貴方がたの事情は知りませんが……ただ他者から奪おうとするならば、奪われる覚悟も出来ていますよね?」
娘の金色の双眸が大男を射抜いた。
大男は大きく後方へと飛び退くと「ノリクム!」と叫ぶ。
すると偉丈夫は獣のような吼え声を周囲へ向かって響かせた。
アルサーラム兵と攻防を繰り広げていたアンシア人の生き残り達が踵を返し、次々に灌木の中へと飛び込んでゆく。
「――お前達は見誤ったわ。帝国が『たかが滅んだくらいで』負ける筈無いでしょう」
残党の残党など笑い話にもならない、と思いつつも襲い来たアンシア人達の殲滅は不可能と判断したアウレーリアが言葉を投げた。
「お前達は遠からず滅び、すべてを失う。ネーベルベルクの名において、何か言い遺すことがあれば聞きましょう」
「……ネーベルベルク?」
退却に移っていた偉丈夫が足を止め、肩越しに振り向いた。
飛来したツェツィーリアからの矢を長剣で打ち払いつつ男は言った。
「我が名はノリクム。サリアンシアの若長だ。死に損ないの残り火め。お前こそ見誤っている。サリアンシアの王国は必ず甦る、帝国の骸の上にな」
偉丈夫は言葉を残すと今度こそ樹木の中へ消えてゆく。
「俺はブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ! 二度と俺が守る商隊に手ぇ出すんじゃねぇぞ!!」
ハヤトが闇の奥へと向かって牙を剥いていた。
その後、一同は負傷者へとヒール等によって手当を行った。
死者は数多く出ていて、交易品の幾つかも売り物にならなくなっていたが、三分の二以上は無事だった。
手当によって回復した者も多くレイズとアクティオンも一命を取り留め、翌日には護衛として復帰した。
一同は旅路の果てに王国へと辿り着くと取引を終え、食料を買い込み、また道を行き、今度は何事も無く、無事にアルサーラムへと帰還したのだった。
冒険者達はギルドの売り込み通りの責任を果たしたといえよう。
マスターコメント
ショートEX難しい 報酬:多い10 / 4〜10人
2021年03月21日 16時56分31秒 公開
参加者
相談掲示板
僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、よろしくね!
シューターのアクティオンです、よろしく。
ウォーリアのヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いします。
おーっす! ゴブリンのシーフ、ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、みんなよろしくな!! 今んとこ俺は先頭の方で敵の大将相手に暴れさせて貰おうと思ってんぜ!
キャスター、アウレーリアよ。宜しく。 この地形、実はH5~G7辺りにいておけば先頭にも後尾にも急行できたりする? 斜面だし木が生えてるし、移動力落ちたりするのかしらね。 私もノリクム相手に戦いたいから、先頭寄りの心算よ。
さて、今回は相手の襲撃をいかに上手く捌ききるかといった感じですか。 相手の数はおよそこちらの倍近いので、こちらはこちらでうまく動きつつ一般兵の方々に任せられる部分は任せたい所です。 一般のバルバロイは適度に片付けておけば一般の兵士の方々に任せてもいいですが、問題は授恵者ですね。 ボスは交易隊の先頭に出現するみたいですね。傭兵隊長のレイズさんも先頭にて檄を飛ばしていたようですので先頭での対応では一緒に戦ってくれるでしょう。 授恵者バルバロイ五名は特に明記されていないので、中央部や後方部にも出現する可能性がありますね。 一般の方には荷が重すぎるので、私たちで優先的に対応したい所ではあります。強いと明記されていますし。 道は曲がりくねっているのでまっすぐ突っ切れば近道ができそうな箇所はありますが、敵が潜んでいる可能性があるのでそこは注意でしょうか。 斜面は馬だと移動力半減みたいですが、借りでもしない限りはたぶん徒歩でしょうし気にしなくてもいいかもしれません。 弓は森に向けて撃とうとするとすぐに射線が通らなくなるので工夫が必要みたいですね。 山道に出た相手なら誤射に気を付ければ普通に撃てそうですが。 敵は大体は木などに隠れているのでしょうが、捜波系のスキルは無効のようなので違う方法で警戒する必要があるようです。 超聴覚とか嗅覚とかでしょうか?相手が熱源に対する対策をしてなければサーマルアイなども使えそうですけど。他だと何でしょうね。
シューターのノックスです。 よろしくお願いします。 バルバロイ相手にばっさばっさと無双が出来れば良いので、私は中央部に居たいと思います。 >戦闘 バランス感覚のスキルがあれば荷馬の上に立って射線を通すことも出来るかもしれませんね。 >索敵 ヴィルヘルミナさんが言うような五感系のスキルは今回は役立ちそうですね。
>山道以外の部分 具体的な移動力半減は馬にしか言及されていませんが、斜面・2hex以上続くと射線が通らない森と考えれば、徒歩でも平地と同様に動くことはできないでしょうね。 また、バルバロイ達はそういう地形を利用して帝国に抵抗を続けてきた勢力ということで、少なくとも斜面部で戦う場合はあちらに地の利があるかと。 >弓 森の中に潜んでいる相手に対しては射線が通せない、ですが狙えるところまで出てきてから撃つには距離が詰まっている、といったところですね。 一般歩兵の弓持ちの方々については、下手に狙って撃ってもらうよりは、斜面から山道の方へ飛び出そうとする敵勢力への牽制として手数重視の方が良いかもしれません。 敵一般兵の動きが鈍れば、こちらが相手取るべき敵授恵者の判別も多少はしやすくなるかと。 >自分の行動 ノックス君が中央部にいくならこちらは殿でも抑えにいきましょうか。 超視覚、看破、ホークアイと索敵系スキルはほどほどに揃っているかと思います。
ナハティガル=ラー。 不意討ち暗殺何でもござれのシーフだ。 初見の者も、そうではない者も宜しく頼む。 >初期配置 では、俺は先頭部周辺(E9)を希望しておこう。 >味方戦力 ヴィルヘルミナが言っている様に、一般のバルバロイは適度に数を減らした後は味方戦力に任せてしまいたい処。 俺達が主に相手にするのは、授恵者バルバロイ五名とノリクムにした方が良いだろうな。
はぁい、お姉さんは、しーふのエミリアって言うわ、ご一緒したことある方もそうでない方もいるけれどよろしくね。 >山道以外の部分 おねえさん含めて4人いるシーフなら壁歩きをつかえば、■部分もそこそこ動けそうな気がしないでもないわねぇ、とちょっと思ったわ。 >初期配置 おねえさん壁歩き持っていく予定なので、上記理由からどこでもいいのだけれど……中央のG7あたりか最後尾のどちらかを希望しようと思うわ、どちらかで希望者の少ないほうに行くわ。 >索敵 超聴覚と超嗅覚、両方とも持ってるから持っていく予定よ
遅くなりました。 ウォーリアのイヴェール・イリュジオンです。 どうぞよろしくお願いいたします(ぺこり) >初期位置 ・先頭寄り ハヤト(シーフ) アウレーリア(キャスター) ナハティガル(シーフ/E9) ・中央寄り ノックス(シューター) ・最後尾寄り アクティオン(シューター) ・未定 エミリア(シーフ/中央G7か最後尾) 確かにシーフの方達であれば木々の濃い斜面の■部分を動けそうですね… それを踏まえたうえで戦力の足りない所に行ったりするかはお任せする事になりますが… 私は先頭か、最後尾で考えていますが同じウォーリアのヴィルヘルミナさんとは別れた方が好さそうでしょうか? これ先頭寄りと最後尾寄りとでは連絡手段が無いので状況を把握出来ないのが怖いですね…救援が必要だったとしてもそれを伝える術がないです。 戦闘中では声での伝達にも限界がありますし、視界も樹木で遮られていては合図を送るのも難しそうです。 例外はサウンドボマーでしょうか?戦闘中に使えないことに注意すれば襲撃を知らせる事や救援要請を出すのには使えるかもしれません。 どこまで届くか分からないので中継は必要になると思いますが…
私はシューターのセリーヌ よろしくね! うーん…私はこの中だとレベルが1番低いし、強敵の相手はお任せしようかしら… 12H辺りから上の方を撃てるようにするわね。 そうね…伝達はテレパス辺りがいいと思ったけれど、それでも全員は難しいものね… サウンドボマー、必要そうなら私も持って行くわね。
>遠い位置同士の連絡 ふぅむ……交易隊は連なって進んでいるのだから、伝言ゲーム……は時間がかかりますかね。 細かな情報をやり取りする必要がないのであれば、それこそ大きな音を立てるだけでも「何かあったこと」の連絡は出来るかもしれませんが。 あとは、一般の弓兵の方々で隊列の一定間隔ごとに伝令担当を置いておいて、合図用の色布付きの矢でも上に放つか。
そういえば位置の表明がまだでしたね。では、私は中央辺りの警戒に回りましょうか。 なるべく守れるように尽力はしますが、場合によってはいくらか物資の守りを切り捨てるかもしれません。 あれもこれもと欲張って取り落としかねないですし。そうならないようには努めるつもりではありますが。 連絡手段ですか、単純な音で合図を送るとかなら管楽器とか吹き鳴らすくらいは出来そうですけど。どのみち隙は出来ますね。 馬に乗っている兵士さんに伝令に行ってもらう・・・という手も考えましたが、最初の状態では荷馬や味方兵でごったがえしているらしいのでちょっと厳しいですか。
もうあまり時間もないので、行く場所確定しておきましょうか。 とりあえずおねえさんは最後尾のK5を希望するわ。 うーんと、これ1マス1hexよね直線距離で考えるとそこ迄離れてるわけではないので、ヴェルヘミナちゃんの言っている管楽器とか吹き鳴らすで緊急の合図とかは届きそうよねぇ。 とりあえず、おねえさんは、超聴覚を持っていく予定なので、音とかあれば、自分のところが終われば向かえそうねぇ。
>伝令 長く伸びた隊列間で情報をやり取りするなら、隙はある程度はしょうがないでしょう。伝令の為に音を立てる人と、その専属護衛役ぐらいは(一般兵から)決めておく、ぐらいの対応になるかと。 とりあえず、細かい手順や技量の要らなさそうな音での伝達、という方向で行きますか。 言われているように時間もあまりありませんし、決まらないままふんわり行くよりはいいでしょう。
>連絡方法 そーだな、戦闘中に手早く戦況を互いに知らせ合うのは音出して合図を決めとく方が良さそうだな。 ただ管楽器で吹くよりも銅鑼みてぇに盾とか金属板を叩いて音出す方が戦闘中でもやり易いんじゃねーか? 救援に来てもらいてーとこが鳴らすってだけでもシンプルで良くねーか?
>遠い位置同士の連絡 必要なら【テレパス】を連絡用に持って行く事は可能だ。 中央部か最後尾に配置予定の誰かに【テレパス】を持って行って貰えるなら、先頭部の情報は流せるが。(俺の初期配置は先頭部を予定している)
>連絡方法 一応、市場で売っている楽器の中には打楽器もあるわよ。 小型の方は、マーチングドラムみたいなイメージで良いのかしらね。 何にもなければ盾を叩くのでも良いでしょうけど、きっと音量では本物に負けるでしょう。 乱戦なら盾がぶつかる音は常時しているかも知れないし、はっきり分かる音の方が良いわ。
>遠い位置同士の連絡 うん、わかったわ! それなら私がG7に行くわね! 【テレパス】も【サウンドボム】も楽器も全部持ったわよ!どっからでも任せなさい!(でーん
あ、あとね、 誰かが窮地に陥ったら《濃煙炸弾》を空にぶっ放すから、みんな周知しといてね!
盾だと響くのかなという懸念がありますね。音を出すための用途で作っている訳ではないですし。 戦闘中だとわからなくなりそうというのも既に他の方が挙げられていますけど。 私は一応小型の管楽器を持っていきます。思い切り吹けば大型でなくてもわかるでしょうし。 音の合図に関しては事前に示し合わせるようにしておきます。
>テレパス >セリーヌ 承知した。では、先頭部の情報は【テレパス】でセリーヌに流す事にする。 宜しく頼む。
じゃあ僕も、【テレパス】を持って行って最後尾から2つめの星辺りを初期配置にして、後方の状況も伝えられる様にしておこうかな。 壁歩きも持って行くから、斜面の移動も大丈夫だよ。
>初期位置 ・先頭寄り ハヤト(シーフ) アウレーリア(キャスター) ナハティガル(シーフ/E9/テレパス) イヴェール(ウォーリア) ・中央寄り ノックス(シューター) ヴィルヘルミナ(ウォーリア) セリーヌ(シューター/G7/テレパス) ・最後尾寄り アクティオン(シューター) エミリア(シーフ/K5) ララベル(シーフ/テレパス) こんなところでしょうか? これでしたら私は先頭に行きましょうか… ノリクム目当ての方が多いようなので私は他授恵者がいればそちらから、いなければ一般兵を狩ってノリクムの孤立を狙えないかやってみます。 連絡手段に関してはテレパス、音、どちらもあるのであれば万が一でも大丈夫そうですね。 すみませんがよろしくお願いします。