【聖祭】亡きあの人に再会しませんか
夜月天音
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シナリオID:337
オープニング
ロスガリア大陸に住まうものたちにとって、12月は大きな意味を持つ。この時期に執り行われる祭りや催しを、聖霊節と呼ぶ。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――さて。今年も、各地で慰霊祭が執り行われようとしてた。
快晴の昼、エラトゥーン都市同盟南東、ベールコート、喫茶店『エヴァブルー』。
慰霊祭とあってか、特別メニューを宣伝する案内板がドアの近くに置かれていた。
その案内板には、飾り付けられたモミの木や柊の絵と共に下記の事が書かれてあった。
慰霊祭特別メニュー!
本日、当店で食事をされたお客様にはサプライズで、亡き人と過ごすひとときをプレゼント!
ただし、縁のある1名だけです! 亡き人の食事は無料です!
新鮮野菜と果物を使った食事とお菓子と百合茶もどうぞ!
案内板に導かれて店内に入ると、種族様々の美男美女の店員達と充満する爽やかな柑橘の匂いが迎えてくれる。
「この柑橘の匂いを吸い込み、会いたい亡くなった人を思い浮かべると、あら不思議、向かいの席にその人が座っているのです。ただし、現れたその人が本物なのか想像をただ現実にしただけなのかは分かりません。現れた死者は匂いや気配を食事とするそうです」
「ちなみにこの匂いを出しているのは、店員の実家の倉庫にあった紋具で『還り香』だよ。かなり古くて出所も製作者も不明で、いつ壊れるかもわからないから壊れたらそれまでみたいな……まあ、今回の利用で壊れるかも」
店員達は、客が怖がらないようにと特別メニューに関して案内板に書かれていない事を説明した。
その由来はハーフリングの英雄、ジド・ルウがその身をエーテルと成して世界に穿たれた大穴を塞ぎ、彼に小さな神々が続いたことが、今年までの平穏の礎を作った――という逸話に拠る。詳細な時期が定まっていないのは、この頃に暦が存在していなかったため、神代における『冬の時代』、という比喩的表現を、文字通りに解釈したためであるとされる。
由来はともあれ、ジド・ルウの英雄的行為を称え、名を失った神々に祈りを捧げることから始まった聖霊節は、様々な土地の風習や営為と重なった結果、亡き祖先や、近しい人々への思いを捧げることや、想い人と過ごす特別な時期――という習慣が定着して久しく、特別信仰心の無いものであっても神殿や家庭でモミの木や柊を飾り立てて祈りを捧げる。街をあげて催しを行い、厳しい冬の中でもとっておきのごちそうを食すこの時期は、収穫祭に続く特別な時節といえた。
赤白の服装も今代まで続く伝統の一つとなっており、そこかしこに仮装をした人物も目立つ。
――さて。今年も、各地で慰霊祭が執り行われようとしてた。
快晴の昼、エラトゥーン都市同盟南東、ベールコート、喫茶店『エヴァブルー』。
慰霊祭とあってか、特別メニューを宣伝する案内板がドアの近くに置かれていた。
その案内板には、飾り付けられたモミの木や柊の絵と共に下記の事が書かれてあった。
慰霊祭特別メニュー!
本日、当店で食事をされたお客様にはサプライズで、亡き人と過ごすひとときをプレゼント!
ただし、縁のある1名だけです! 亡き人の食事は無料です!
新鮮野菜と果物を使った食事とお菓子と百合茶もどうぞ!
案内板に導かれて店内に入ると、種族様々の美男美女の店員達と充満する爽やかな柑橘の匂いが迎えてくれる。
「この柑橘の匂いを吸い込み、会いたい亡くなった人を思い浮かべると、あら不思議、向かいの席にその人が座っているのです。ただし、現れたその人が本物なのか想像をただ現実にしただけなのかは分かりません。現れた死者は匂いや気配を食事とするそうです」
「ちなみにこの匂いを出しているのは、店員の実家の倉庫にあった紋具で『還り香』だよ。かなり古くて出所も製作者も不明で、いつ壊れるかもわからないから壊れたらそれまでみたいな……まあ、今回の利用で壊れるかも」
店員達は、客が怖がらないようにと特別メニューに関して案内板に書かれていない事を説明した。
解説
希望する美味しい料理を死者と一緒に味わいながら過ごしたり、死者と再会せず地元民や他の客など生者だけで過ごしたりと、思い思いに慰霊祭を盛り上げて下さい。
【活動について】
活動時間は朝~夜となります。
パイやケーキやシチューなど、お好きな料理を注文して死者と再会し、充実したひとときを過ごして下さい。
【還り香について】
再会したい縁ある死者を1名だけ思い浮かべながら店内を満たす爽やかな柑橘の匂いを吸い込むと、再会する事が可能です。
縁が少しでもあれば、相手との関係が良好だろうとなかろうと問題ありません。
現れた死者が本物なのか利用者の想像から生み出した存在なのかは不明ですが、料理の匂いと気配を食べる事は可能です。
効果は香りが漂っている空間のみとなりますので、店の営業時間内となります。
【店について】
新鮮野菜と果物を使った料理が自慢の店です。
食事、デザート、百合茶、ジュース、酒まで種類豊富に扱っています。
従業員は土地柄もあってか種族は様々ですが、皆美男美女です。
※一緒に食事する地元民や会話する従業員や同席する死者の設定について、希望などがありましたら、プレイングに記載をお願いします。
※公式NPCとは交流出来ません。
マスターより
オープニングを読んで頂き、ありがとうございます。
美味しい料理に舌鼓を打ったり死者と再会したりと特別な慰霊祭のひとときを楽しんでみて下さい。
リプレイ
エラトゥーン都市同盟南東、ベールコートに佇む喫茶店『エヴァブルー』にて、快晴の午後から夜にかけて還り香による慰霊祭特別メニューが店内を賑やかにしていた。
「死者に会えるなんて、そんな馬鹿な事が……」
午後に訪れたミツキ・アインホルンは、注文したケーキと紅茶が運ばれると
(…………リカーダ)
半信半疑ながら店内に充満する還り香の柑橘の匂いを吸い込み思い浮かべるのは、幼い自身を拾い家族として迎えてくれた女性軍人リカーダ・アインホルン。
瞬間
「久しぶりね、リカーダ」
向かいの席に30歳の力強く大物感を纏わせた女性が現れた。
「元気にしているわ。あれから、魔法がさらに上手くなって、色々できるようになったわ」
ミツキは料理を味わいつつ語る。彼女に褒めて欲しくて。
「それに、クリーパーを退治できたのよ。私1人の力じゃないけど……」
彼女に誇って欲しくて。
「エドゥノーグのダンジョンに潜って、レアなモンスターとあえたのよ」
彼女に信頼して欲しくて。
「新しい仲間達とうまくやってる。だから大丈夫よ」
彼女を安心させたくて。脳裏に浮かぶのは、オフに見せるリカーダの抜けっぷりや交わした言葉。
話し終えた所で
「…………リカーダ」
ミツキは懐かしさを胸に真っ直ぐにリカーダを見て
「だから、見守っていて」
力強い意志を込めて思いを伝え、店を出た。
(……おじい様。こんな出来損ないの私を唯一可愛がってくれた家族)
料理を注文した後、ロサード・シュナイダーが午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み、頭に浮かべるのは祖父だ。
「……おじい様、お久しぶり」
ロサードは現れた祖父の目をじっと見て、挨拶はしたものの
(……おじい様、会えたら何を話そうか……一生懸命考えていたけれど、いざその時になってしまうと……何を語ろうと思っていたのか全然思い出せない。そもそも私はそんなに話も上手ではないし)
顔には出ていないが、訪れた再会に頭が真っ白に。
丁度、料理が運ばれて来たので
(とりあえずマナーよくご飯を食べることに専念しよう。幼い頃にマナーについて教えてくれたのは、おじい様。全てのマナーは、単に自分を教養高く見せる為のものではない。一緒にいる人に対しての心遣いの表れなのだと)
貴族の令嬢として美しい食事作法で会話を試みた。祖父との時間を回顧しつつ。
食事が終わるとロサードは速やかに席を立ち
「……おじい様、ありがとう。今の私は、毎日がとても充実しているので、心配いらない」
心からの感謝と近況を伝え、祖父を安心させた。
「本当に亡くなった旦那と再会出来るのでしょうか。本当かどうかは分かりませんが、良い機会ですので参加してみましょう」
午後に訪れたノイン・F・アイゼンリッターは半信半疑ながらも
「旦那が好きだった料理を注文しましょう」
シャルガネ風料理や蜜柑、熱燗などを注文する。
料理が運ばれた所で
(……ノイン……あたしの最愛の人……)
還り香を吸いながら思い浮かべるのは夫。がっしり筋肉質体格の上に性格は優しくしっかり者で知識と行動力がある立派なヒューマンの男性であった。
「お久しぶりです。フィリスです。貴方が亡くなってから数百年が経ちましたね」
ノインいやフィリスは、再会の喜びを伝えた。
「どれほど月日が流れようと忘れていません。帝国騎士所属の貴方と出会い、駆け落ちをして共に歩んだ日々を……」
フィリスは食事をしつつ過ぎた優しい日々を回顧し、心が幸せに満たされる。
ただ
「……だから、当時は……貴方が亡くなった当時は悲しかったですが、一緒に過ごせた事に感謝してます」
永遠の別離を思い出すとフィリスの胸中に哀惜が溢れるが
「また近いうちに墓参りに行くわ」
幸せな記憶を支えにフィリスは、ノインに微笑みながら言った。
(もう次の誰かになったかもしれないが、試してみようか)
注文したシチューが来ると、ネモは午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み思い浮かべた。
現れた死者は
「なんだ、父はまだ次に生まれてなかったか」
育ての父親だ。神官の様な格好をした蒼いリザードマンで、かなり竜に近い姿だ。
(まぁいい、日が浅いからそういう事もあるだろう。日常の続きを今日だけ再びしよう)
ネモは単純な性格からか考え込まず
「父よ、余輩は友が出来たぞ!」
喜々と友の話を始めた。
「縁は大切にしなさい」
父の懐かしい声。
「それから父のように、少しばかり器用になった! それから、それから………」
話したい事が多く、言葉が追いつかない。
父親は一生懸命な息子の微笑ましさにニコニコ。
「んー……まあいい、この時間を楽しもう」
ひとまず、ネモはシチューを口に運び
「このシチューも美味いが、やはり父の作ったものが美味かった」
懐かしい味を思い出し
「再びいってしまう前にレシピを教えてくれ」
食事の手を止めて請うた。
「ああ、レシピ。特段変わらないがしいていうなら……」
父親は笑みながらレシピを教えた。
(……会いたい人……祖父ですね。帝国崩壊の激動の中で自分の使命と夢を再確認するためにも)
注文した料理が運ばれるとイズレンディル・パラリムが午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み、頭に浮かべるのは、幼少の頃に亡くした優しい祖父だ。
(……お変わりありませんね。私にフィルエス大森林の事や氏族の事、使命の事など多くの話を聞かせてくれた事が、昨日の事のように思い出します)
現れた懐かしい祖父の姿に幼少の記憶が蘇る。
「我らパラリムの氏族は代々、森を護るため森の事を見通してきたのじゃよ」
語る祖父に対して幼いイズレンディルは問いかけた。
「森の外は護らないの?」
と。外界を放浪していた母親の影響か、森の外に対して関心があった。
「イズの代では大陸を見通すようになっているかもしれんなぁ」
祖父はイズレンディルに向かって相好を崩した。
「御爺様、お久しぶりです」
優しい記憶と共にイズレンディルは再会の挨拶をしてから
「まだ道半ばですが私は森の外へ眼を向けました」
森を出て得た多くの出会いを語り
「この道を歩み続けます。見守っていて下さい」
決意を告げた。
「少しよろしいでしょうか」
午後に訪れたプラムは注文した料理が来た際、店員に死者との再会方法を訊ねた。
「是非、お母様にお会いしたいです。わたしはいわゆる捨て子で、神殿で育てられた子なのです。なので、かみさまがわたしの親なのです」
訊ねる店員に再会の相手を教えてから
「ですが、もし何か事情があったのだとしたら、そしてもう今はお会いできないのだとしたら……」
苦しい胸中を明かした。
同情した店員は、懇切丁寧に対応し仕事に戻った。
「その前に身だしなみを整えないとです」
再会前にとプラムは手鏡を取り出し
(……どんな結果でも受け入れる気持ちで……)
髪を弄ったりと気持ちを落ち着かせてから、母親を思い浮かべ店内に満ちる還り香の柑橘の匂いを吸い込んだ。
しかし
「…………いない」
空席だ。
「…………お母様」
突き付けられた事実にプラムは肩を落とし、落ち込む。
(……会えるのは死者……会えないということは……)
プラムは死者との再会で賑わう店内を見つつ考えを巡らせ
「どこかで生きていらっしゃるのです」
辿り着いた答えにプラムは表情を明るくした。どうやら希望を見出したようだ。
(亡き人に再会……記憶を刺激して想い出を呼び覚ますのだろうな)
料理を注文したエンデ・エトル・シャリオンは思う所はあれど、他の客の事を思い口には出さない。
むしろ
「ここは、俺も浪漫を楽しむとしよう」
楽しむつもりだ。
「さて……」
料理が来た所で、午後の店内に充満する還り香の柑橘の匂いを吸い込み、思い浮かべるのは
(……柑橘の匂い、か。ウルザ兄はオレンジが好きだったな。年に1度、一族が街の拠点に集まる時、ウルザ兄の後をついて回って、あれこれたずねては仕事の邪魔していたな)
年上の従兄弟の顔、思い出に口元が優しく歪むみ。
「……ウルザ兄、久しぶりだな」
眼前に現れたのは、よく知る男だ。
(商売に興味があって、遠征より都市部で商会に勤めていたけど……商談で砂漠を通過する際に、砂鯨に飲まれて、遺体も上がらなくて……再会が出来たという事は……砂漠で暮らす一族にはよくあることだ)
従兄弟を当時の感情と一緒に感慨深く見た。
「俺はわりと元気でやってるぞ……今年もウルザ兄に報告できてよかった」
エンデは報告を済ませてから、安堵と共に料理に手を付けた。
(……微かに記憶があるだけ、死んだって聞かされたけど本当のところはどうなのやら……深層心理から現れるなら実際の生死は関係なさそうだけど……会えるなら、嬉しいな)
注文したロールキャベツが来てからレヴァーレ・クアルムは、午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み、再会相手を思い浮かべる。
そして
「……母さん」
黒髪の小柄な女性が現れた。生死不明の母親だ。
(……顔がピンボケしたようにはっきり見えないな。表情は読み取れるが)
レヴァーレは一瞬戸惑った後
「母さん、久しぶり」
再会の挨拶をしてからロールキャベツを食べつつ
「今、俺は家を飛び出し冒険者になって、望んではいないけど、依頼をこなして人の役に立っている」
近況を語った。ツンデレのため実際は進んで依頼を受けているのだが。
母親は穏やかに微笑み、話を聞いていた。
「…………母さん」
ふと、レヴァーレは心に焼き付けるが如く母親を見つめ
「……俺はこれからも……母さんから貰った愛と夢を込めたレヴァーレという名前と共に……」
思いを伝えようとするが、気持ちが高ぶり自然と涙が流れ
「…………ありがとう……」
ついには声を詰まらせた。
「……あれから何年も経ったけど、本当に会えるなら、会いたいな」
日中に訪れたフィーレン・ステオラーズは、お茶とミートボールのクリーム煮をそれぞれ2人分注文した後、還り香を吸い込み、再会相手を思い浮かべた。
現れたのは
「母さん」
栗色の髪に線が細く優しげな女性だ。
「俺の事、分かるかな?」
フィーレンは恐る恐る母親に訊ねた。何せ、死別したのはまだ子供の頃だったから。
「母さん、あれから背も大きくなったんだ」
フィーレンは微笑む母親の姿に嬉しくなり、背筋を伸ばした。
その時注文したお茶と料理が来た。
「母さん、美味しいかい?」
食事をしながら訊ねるフィーレンは
「……あの頃はこんなご馳走なんて夢みたいだったなあ。勿論母さんの料理が一番だけどさ」
ふと貧民街での暮らしを思い出すと同時に
「……俺の幻覚なのだとしても。目の前で、微笑んでくれているだけで嬉しいよ」
現実を思い知るが
「泣いたりなんかしないさ。恥ずかしいだろ」
心配する母親を安心させるため涙は見せない。
こうして過ごす内に時間が迫り
「そろそろ時間みたいだね……さようなら、母さん」
フィーレンは母親と笑顔で別れた。
「……死者と再会か」
注文した2人分のパンとシチューが来た所で海神・江流は午後の店内を満たす還り香の匂いを吸い込み、再会の相手を思い浮かべた。
そして
「お兄、久しぶりだね。その後、仙人にはなれそうですか?」
現れたのは身体が弱かった妹。
「どうだろうな、道士の真似事程度なら出来るようになったけど、仙人にはまだ遠そうだ……」
江流は答えてからパンをパクリ。
だが
(仙人の長寿の秘密を解き明かし妹に長く生きて欲しかったが……)
目の奥には、切なさもあった。
「お兄、何か話を聞かせて」
妹は、シチューを味わってから話をせがんだ。
「そうだな……俺が冒険者になってからの話をしよう」
江流は、依頼で訪れた大森林に水の都、難民キャンプに砦での防衛戦を語った。
(冒険者になって世界を見て回る事が夢だったからな)
兄の話を楽しむ妹をしみじみ見つつ。
ついに時間は迫り
「冒険者としてちゃんと活躍してるんだね。偉い! 私の分まで長生きして、また世界の事聞かせてね。出来れば次までに彼女を作っておくのです」
妹は、誇らしさと愛しさを込めて別れを告げた。
「そうだな、また……な」
江流は惜しみと共に見送った。
「……現れる死者は虚実定かでないとの、話だが……」
午後に訪れたサマエラ=フォリウムは、注文した果物をジュースを飲みつつ
「…………還り香とやらを使えば母も、もしかすれば……いや、私がそれを願ってはいけない。眠りと安寧を信仰に持つ私は……しかし……」
還り香の使用について願いと信仰心との間で葛藤していた。
「この紋具を、経験した者は……会えて良かったと、そう口にするか? 後悔に染まる者も……いるの、だろうか」
答えが出せないサマエラは、ついには店員に訊ねた。
「再会を喜ぶのが多いですが、中には悲しみや恨み言もありますね」
店員は笑顔で答えた後、他の客に呼ばれて行ってしまった。
「……ふむ」
店員の話を聞いたサマエラは周囲を見回すが
「……私は……」
一向に気持ちは固まらない。
結果、営業時間ぎりぎりとなり
「もうこんな時間か……結局私は……」
時間を意識すると同時に還り香を吸い込み、思わず母親の顔が頭をよぎる。
「……母さん」
一瞬、母親の姿が見えた気がして
「あぁ、起こしてしまったか、済まない。ただ、ただ……ありがとう、来てくれて……母さん」
サマエラは思いを伝えた。
(再会が出来るならば幼馴染で主たる彼女だろう)
注文した料理が来てからアルフレッド・ラ・ギは、午後の店内に充満する還り香の柑橘の匂いを吸い、思い浮かべる。
(私を授恵者や天才と呼ぶのなら彼女は偉人や賢者と呼ぶべき者だったな。彼女の従者として育てられても幼心に嫉妬も多くて、主と認められずにいて)
相手は従者の家系たる自分と同じ日に生まれた仕えるべき家に生まれた女性。
(でも転機が来て、少しずつ見方が変わり私も彼女を主と認めるようになって)
気持ちが変わった瞬間を思い出す。
(だが、彼女は死んだ……生まれつきの病気で、天は二物を与えなかった)
アルフレッドの眼前に幼馴染が現れた。
幼馴染は再会早々、遺言の事を話題にした。
「あぁ、覚えている。あなたは私の臣ではないわ、だろう」
全てを見透かしたような遺言を口にし
「ああ、そうとも、君はもういない……だが私の主は今も君のままだ」
不敵な笑みと共に即座に返す。
「真実仕えたいと思える主を見つけたらその時は私の勝ちだ」
主探しはしているのだ。
「だから、私が逝くまで待っていろ」
と言い放ち、アルフレッドは席を立った。
「死者と再会できるなら、今年の晩冬に亡くなった婆様にもう1度会ってみたいな」
午後に訪れたテテリカは、会いたい故人の好みである果物のパイと百合茶をそれぞれ2人分注文した後
(会ったら、色々話したいな)
帝国崩壊前に、老衰により亡くなり穏やかな葬儀でお別れをした親族の老女ゴブリンの姿を思い浮かべた。ちなみに家系図上の祖母ではない。
そして
「久しぶりだな、婆様」
婆様が向かいの席に現れ、共に再会を喜んだ。
丁度、注文した料理と飲み物が来た。
「今年産まれた婆様の玄孫はどこにでも元気に這っていくようになったよ。婆様の家の畑も家畜もしっかり育っている」
テテリカは食べたり飲んだりしつつ近況を伝えた。婆様も好物を味わいつつ熱心に話を聞いていた。
近況の報告が終わり
「すべて、順……」
テテリカは順調だと言おうとして言葉に詰まった。
(帝国が崩壊してゴールディは……大樹海は今後どうするんだろうか)
脳裏によぎる先行きの不透明な事柄に、自然とテテリカの顔が曇る。
気付いた婆様は心配そうな顔をした。
「婆様、心配するな」
気付いたテテリカは、すぐに表情を凛々しく引き締め
「大樹海の端に生きるゴブリンとして未来をつかんでいくから」
故人を安心させ自分を奮い立たせるために力強く言い、婆様の表情を変えた。
「亡き人か……会いたい人は沢山いるけど、俺が思い浮かべる事が出来るのは1人だけだ」
料理を2人分頼んだファイサル・アル=ファルドは、午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み、死者を思い浮かべる。
その死者とは
「……お久しぶり、師匠」
ファイサルを拾い、親代わりに育てた剣の師匠。
「この百合茶を練り込んだパスタ、悪くない」
丁度パスタが来たので揃って味わってから
「まずは恨み言を言わせて貰う。なぜ病気の事を黙っていたんだ。いくら口数が少ないとはいえ大事な事だろ」
ファイサルは彫像のように表情が動かぬ顔に向かって恨み節だ。大切な人だからこそ。
「……で、今は冒険者として活動している。仕事は色々あるし、交友はまだ少ないけど楽しい人達ばかりだし、まあ何とかやってるよ」
言う事を言ってすっきりしたファイサルは、近況を報告した。
時間まで束の間の団欒を楽しんだ後
「次に会えるのは俺がそっちにいく時かな。長生きして土産話もっと作っておくよ」
ファイサルは席を立ち
「……じゃあ、またね。父さん」
息子の顔で店を出て行った。見送る師匠は、たまにしか見せない優しい笑顔を浮かべていた。
「月ちゃん、何注文する? どれも美味しそうだよぉ~」
午後に訪れた御邑 都はメニューを開き、隣に座る御邑 奈月に声を掛けた。
「そうですね。ここは母の好きな食べ物を……って、何でしたっけ? ええっと……」
奈月は、母親の好きな物を注文してから還り香の柑橘の匂いを吸い込み、思い浮かべる。
そして
「……お、おか……っ……おかーざぁ……ん。おか……さ……ん……ぅ」
現れた大好きな母親を前に奈月の感情が弾け、目から涙が溢れる。母親は不治の病で奈月が幼少の時に他界したのだ。
「えうぅう……っく……おかーさん……おがーざんっ!!」
言葉も上手く出ず、唯々涙が流れるばかり。
母親はのんびり優しい声で奈月の名前を呼び、頭を撫でた。どこか都に雰囲気が似ている。
「……おかーさん……」
奈月が落ち着いた所で、注文した料理が来た。
という事で、料理を味わいながらお喋りが始まった。
「父は元気です。新しい家族も出来て……」
奈月は、ちらりと再会を見守ってくれている隣の都を見た。
すると
「ねぇ、月ちゃん、僕も話してもいいかなぁ~?」
都が話への参加を言い出した。元々このつもりでついて来たのだ。
「えっ、お姉ちゃんが!?」
想定外に驚く奈月に構わず
「僕は月ちゃんのお姉ちゃんの都だよぉ~、はじめまして~。月ちゃんのおかーさんに会いたくて一緒にってお願いしたんだぁ~」
都はにこにこと自己紹介。実は奈月とは異母姉妹なのだ。
「月ちゃんはしっかり生きてるよぉー♪ 優しくてお料理も上手で、お世話になってるよぉー♪」
続けて都は妹語り。ずぼらで朝が弱いため、何かと奈月の世話になる毎日を送っているのだ。
「それに独りじゃないし今は隣に傍に沢山いるんだよぉ~♪ だからぁ~だからねぇー。安心して欲しいんだぁ!」
都は奈月を抱き締め、奈月の母親に向かってにっこり。
「お話終わったから、僕、先に帰るねぇ~♪」
目的を終えた都は席を立ち
(月ちゃんとおかーさん2人きりにしないとねぇ~)
奈月のために店を出ようとするも
「お姉ちゃん、一緒にいて下さい」
奈月が上目遣いにお願い事をして来た。
「え? 僕もいていいの?」
驚いた都は振り返り、念のためにと聞き返した。
「はい、一緒に帰りたいですから」
奈月はにっこり。姉妹の仲の良さに母親は嬉しそうであった。
「そーか~♪」
大好きな妹の頼みに都は、嬉しそうに座り直した。
「あに、き……」
午後に訪れたアーシェル・G・クラインが料理を注文した後、還り香で呼んだ死者は兄だ。
「久しぶりだな、アーシェル。随分と逞しくなったじゃないか」
懐かしい声と弟に向ける優しい笑顔。
「……兄貴……独りだと苦しくて仕方ねぇよ……どうしてあの時……後を追う事を許してくれなかったんだよ……っ」
兄との再会に心が震え、苦し気に訴える。
「あの日の夢ばかり見るんだ。何回も、何回も……」
さらに身を震わす弟の姿に
「お前を独りにしてすまない。だが死んではいけないよ。俺達の分まで幸せになってくれ」
兄は心を痛めつつも願わずにはいられない。その言葉が真かアーシェルが望んだ幻なのかは分からないが。
「そんなこと言うなよ……早く……早く連れてってくれよ!」
アーシェルは声を荒げ、兄に迫った。
「アーシェル、自分の為に生きろ。復讐なんて馬鹿な事は……」
弟を気遣う兄の言葉はアーシェルの心に届き
「……復讐……そうだ。俺は復讐しなきゃなんねぇ。くたばるのはその後だ」
家族と夢を失った日から歩み始めた生き方を思い出させた。
「兄貴、あいつらを全員殺したらあの世で褒めてくれよ」
アーシェルは泣きそうな顔で笑った。美しい色違いの目を怨讐に染めて。
「……行方不明の両親以外で血縁で亡くなった方は顔を見た事が無い祖父母に……後は帝国崩壊で亡くなった帝国民達に心から祈りを捧げるぐらいかな」
午後に訪れたノノアは還り香は使わず
「普通に肉料理とか甘いデザートとか料理を楽しもうかしら」
料理を注文した。
そこに
「ねぇ、あたし、リーン・タンゼ。一緒にいい?」
14歳の好奇心旺盛なヒューマンの美少女が現れた。
「いいわよ」
ノノアは歓迎し、名乗った。リーンは席に着き、料理を注文した。
程なくして料理が運ばれ
「この都市の美味しいお店とか知ってたりするかしら……肉も柔らかくてタレも甘辛で美味しいわね」
「あたしの一族農家で、叔母夫婦は百合茶農家をしてて、百合茶ジャムや百合茶を練り込んだ食パンやクッキーとか百合茶を使った物を販売してるよ……ガレット、美味しい」
ノノアは野菜の肉巻き、リーンはガレットを食べつつお喋りを楽しむ。
「最近、事件とか変な事が起きてたりとかある?」
「作物の品種改良とか害虫駆除が大変で、事件になりそうな程無茶をする人もいて」
仕事モードが抜けないノノアの質問に、リーンは溜息と一緒に答えた。
「それは大変ねぇ」
と言って、ノノアは果物沢山のロールケーキを口に運んだ。
「甘い! 美味い! こりゃ死者も食べとうなるというものじゃのぉ!」
午後に訪れたジョン・ベアーは、フルーツパイと死者の分として注文したシチューまでも豪快に頬張る。食への思いが凄い。
「美味い! 美味い!」
食べる事に気を取られてか、思い出す死者がいないためか、食事をするのはジョン1人。
そこに
「やあやあクマ君、君はお香は試さなかったの?」
ミード抱えたヨル・スレイマンが現れた。
「お香? あぁ、そう言えばそうじゃったな」
ジョンは食事の手を止め、些末な事を思い出すような感じだ。
「はは、そっかぁ、試さなかったのかぁ。実はさ、俺も試さなかったんだよね……隣いい?」
ジョンの様子から察したヨルは、カラカラと笑いながら隣の空席を示し訊ねた。
「構わんぞ……すまんが、ケーキとグラタンを」
ジョンは快諾し、店員に追加の注文をする。
「というか、試せなかったんだよねぇ」
ヨルは隣に座りながら溜息混じりに言うも
「よく食べるなーー! パイはどうだい? 奢ろう」
追加の料理を休みなく頬張るジョンに感心し、パイを注文した。ついでに新しい酒も。
「ぱ、パイをくれると……さてはええ奴じゃのぉ、われ」
ジョンの目の色が変わった。
「だろう。ついでに注ごうか?」
ヨルは新たに来た酒もご馳走しようとするが
「われ、さては既に結構酔うとるのぉ?」
奢りのパイを頬張るジョンに呆れられた。
「あはは、いいんだ、いいんだ。死んだ人に会えても何もできないし」
ヨルは、胸に詰まる色に滲んだ笑いと共に呟いた。
「ふうむ、マロンチックな男じゃのぉ、死者は生者に何も望まんよ。われが会いたいなら会いたいだけで充分じゃろうに」
ジョンは食べつつもこまめに相槌を打ったりと、絡み酒のヨルの相手をする。
「それを言うなら、ロマンチックだろう。うん、まあ、そうだね……」
ヨルはジョンの発言を指摘したと思ったら、空気を重くし歯切れが悪くなる。
「われの会いたい奴は恋人? 親? 友人?」
ついにジョンは訊ねた。
「友達ではないな、ただの知り合い……あんまり知らないし。でも強かったよ」
そう答えるヨルの脳裏には、自分と同じ剣闘士だった男の姿が浮かんでいた。
「……もういいんだ。全部終わってしまったことなので」
ヨルは酒を注ぎ、一気に煽った。抱えるどうにもならない事を呑み込むように。
結局、ジョンは食を楽しみ、ヨルは酔い潰れて寝てしまった。
「このクルミパン匂いもいいし、もっちり感が最高ね。シチューも野菜がごろごろだし、体の芯から温まるなあ」
特に会いたい死者がいないベアトリーチェ・カロッサは、普通にクルミパンとシチューを食べていた。
「確かにシチューを浸して食べるともっと美味しいかも」
単体で食べるだけでなく、店員に勧められた食べ方を試したり存分に食を満喫する。
「それにしてもみんな、会いたい人がいるんだなあ……」
食べながら、死者で賑わう店内を見回す中
「あの子、随分熱心に話し込んでるなあ。相手は身内かな」
ふと、近くの席で死者と話し込む少女が気になった。
「あっ、話が終わったみたい。よし!」
少女と死者の会話が終わったのを見計らい、ベアトリーチェは声を掛けに行った。
(私が会いたいのは……)
注文したアップルパイと紅茶が来てからルアンナ・ミュラーは、午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み再会を願う。
相手は
「……すごい、本当に伯父様なの?」
伯父だ。彼は豪快な性格故か、数年前に暴走馬車から店を守ろうと立ち塞がったため轢かれて他界したのだ。
そして
「伯父様、あれからパン屋を継いで、頑張っています」
現れた伯父の姿に懐かしみつつルアンナは、食事をしつつ近況を笑顔交えて語った。
「授恵者になり冒険者としても活動していて、家族も増えて一緒にパン屋を切り盛りしていて……」
一生懸命語るルアンナを見つめる伯父の眼差しは、父親の如く優しかった。
「……伯父様」
語り終えたルアンナは伯父を真っ直ぐ見て微笑んだ。
「私はとっても幸せです。リブラネスタに、ミュラースに、伯父様と伯母様に会えて本当に良かった♪」
胸の奥には、伯父と伯母が我が子同然に接してくれた日々が蘇る。
丁度、会話が終わった時
「死者とどんな事を話したの?」
近くの席にいたベアトリーチェが声を掛けて来た。
「ん?」
ルアンナが驚いて振り返ると
「突然ごめんなさい。随分熱心に話してたみたいだから気になっちゃって……」
ベアトリーチェは一言謝ってから事情を話した。
「伯父様と話していたんです。家業のパン屋の事や冒険者として活動している事などを」
ルアンナは話の内容をベアトリーチェに語った。
(あの時、戦ったリーダー格の商隊護衛ゾンビさんかな。バルバロイと相打ちになって荷物を守りぬいたけど死体がゾンビになって、それでも荷馬車を守るかのように立ちはだかっていたのを、回収にむかったボクたちが倒して……)
おめかししておしゃれさんとなったアルマ・ヴァレンタインは、料理を注文してから正午の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み、頭に浮かべると同時に当時の事を思い出し楽しくない気持ちになり表情は複雑だ。
「直接話したことはないけど、ボクは遺体を清めて送り出した『命、送る者』として、どうしても伝えたかった事があるんだ」
アルマは真剣な面持ちで
「あなた達が守った荷物は必要な人たちに届いて助けになったよって」
ゆっくりと相手の心に刻むように伝えた。
そうして目的を終えたアルマは
「お肉と果物のお酒……じゃなくて、ジュースをもっとちょうだい!!」
料理が運ばれた時に追加注文をした。
「あーもー、ガラにもないことして恥ずかしいよぉ。ここは沢山飲み食いしちゃうぞ!!」
アルマは、食べ物の固執を思う存分見せた。
「……綺麗ですわね」
シチューを注文した後、キャロライン・スノーイーリスは窓際席に差し込む夕日に和んでから、店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み思い浮かべた。
現れたのは
「母さん、あたしだよ、キャロルだよ」
数年前に病気で亡くなった母親だ。キャロラインは昔の愛称を名乗り口調も昔のものに戻した。再会で出そうになる涙を堪え笑顔を浮かべた。
「あのね、母さん、あたし子爵家に戻されちゃった。今は家出中だけどね!」
キャロラインは、この数年の事を捲し立てるように話した。
「……美味しいけど、あたしは母さんの作ってくれたシチューが一番かな」
シチューを通して母親の味を思い出し、涙が落ちた。
「頑張ってるわね、キャロル」
母親は堪らずキャロラインを抱き締めた。
「うん、母さんの娘だもん」
キャロラインは涙を拭い、笑った。
懐かしく優しい時間はあっという間に過ぎ
「あたし幸せになるから! 安心して見ててね!」
キャロラインは笑顔で母親と別れを済ませた。
そして
「幸せな時間をありがとう存じます、ですわ」
キャロラインは今の自分に戻り、店に一礼した。
午後に訪れたアステルは、喫茶店が腕を振るった美味しい料理や飲み物を食べたり飲んだりと、まったりとしたひとときを満喫した。
特別慰霊祭のおける喫茶店『エヴァブルー』の営業は無事に終わった。ちなみに、本日のイベントで使われた還り香は限界が来たのか、店員の言葉通り壊れてしまったという。
「死者に会えるなんて、そんな馬鹿な事が……」
午後に訪れたミツキ・アインホルンは、注文したケーキと紅茶が運ばれると
(…………リカーダ)
半信半疑ながら店内に充満する還り香の柑橘の匂いを吸い込み思い浮かべるのは、幼い自身を拾い家族として迎えてくれた女性軍人リカーダ・アインホルン。
瞬間
「久しぶりね、リカーダ」
向かいの席に30歳の力強く大物感を纏わせた女性が現れた。
「元気にしているわ。あれから、魔法がさらに上手くなって、色々できるようになったわ」
ミツキは料理を味わいつつ語る。彼女に褒めて欲しくて。
「それに、クリーパーを退治できたのよ。私1人の力じゃないけど……」
彼女に誇って欲しくて。
「エドゥノーグのダンジョンに潜って、レアなモンスターとあえたのよ」
彼女に信頼して欲しくて。
「新しい仲間達とうまくやってる。だから大丈夫よ」
彼女を安心させたくて。脳裏に浮かぶのは、オフに見せるリカーダの抜けっぷりや交わした言葉。
話し終えた所で
「…………リカーダ」
ミツキは懐かしさを胸に真っ直ぐにリカーダを見て
「だから、見守っていて」
力強い意志を込めて思いを伝え、店を出た。
(……おじい様。こんな出来損ないの私を唯一可愛がってくれた家族)
料理を注文した後、ロサード・シュナイダーが午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み、頭に浮かべるのは祖父だ。
「……おじい様、お久しぶり」
ロサードは現れた祖父の目をじっと見て、挨拶はしたものの
(……おじい様、会えたら何を話そうか……一生懸命考えていたけれど、いざその時になってしまうと……何を語ろうと思っていたのか全然思い出せない。そもそも私はそんなに話も上手ではないし)
顔には出ていないが、訪れた再会に頭が真っ白に。
丁度、料理が運ばれて来たので
(とりあえずマナーよくご飯を食べることに専念しよう。幼い頃にマナーについて教えてくれたのは、おじい様。全てのマナーは、単に自分を教養高く見せる為のものではない。一緒にいる人に対しての心遣いの表れなのだと)
貴族の令嬢として美しい食事作法で会話を試みた。祖父との時間を回顧しつつ。
食事が終わるとロサードは速やかに席を立ち
「……おじい様、ありがとう。今の私は、毎日がとても充実しているので、心配いらない」
心からの感謝と近況を伝え、祖父を安心させた。
「本当に亡くなった旦那と再会出来るのでしょうか。本当かどうかは分かりませんが、良い機会ですので参加してみましょう」
午後に訪れたノイン・F・アイゼンリッターは半信半疑ながらも
「旦那が好きだった料理を注文しましょう」
シャルガネ風料理や蜜柑、熱燗などを注文する。
料理が運ばれた所で
(……ノイン……あたしの最愛の人……)
還り香を吸いながら思い浮かべるのは夫。がっしり筋肉質体格の上に性格は優しくしっかり者で知識と行動力がある立派なヒューマンの男性であった。
「お久しぶりです。フィリスです。貴方が亡くなってから数百年が経ちましたね」
ノインいやフィリスは、再会の喜びを伝えた。
「どれほど月日が流れようと忘れていません。帝国騎士所属の貴方と出会い、駆け落ちをして共に歩んだ日々を……」
フィリスは食事をしつつ過ぎた優しい日々を回顧し、心が幸せに満たされる。
ただ
「……だから、当時は……貴方が亡くなった当時は悲しかったですが、一緒に過ごせた事に感謝してます」
永遠の別離を思い出すとフィリスの胸中に哀惜が溢れるが
「また近いうちに墓参りに行くわ」
幸せな記憶を支えにフィリスは、ノインに微笑みながら言った。
(もう次の誰かになったかもしれないが、試してみようか)
注文したシチューが来ると、ネモは午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み思い浮かべた。
現れた死者は
「なんだ、父はまだ次に生まれてなかったか」
育ての父親だ。神官の様な格好をした蒼いリザードマンで、かなり竜に近い姿だ。
(まぁいい、日が浅いからそういう事もあるだろう。日常の続きを今日だけ再びしよう)
ネモは単純な性格からか考え込まず
「父よ、余輩は友が出来たぞ!」
喜々と友の話を始めた。
「縁は大切にしなさい」
父の懐かしい声。
「それから父のように、少しばかり器用になった! それから、それから………」
話したい事が多く、言葉が追いつかない。
父親は一生懸命な息子の微笑ましさにニコニコ。
「んー……まあいい、この時間を楽しもう」
ひとまず、ネモはシチューを口に運び
「このシチューも美味いが、やはり父の作ったものが美味かった」
懐かしい味を思い出し
「再びいってしまう前にレシピを教えてくれ」
食事の手を止めて請うた。
「ああ、レシピ。特段変わらないがしいていうなら……」
父親は笑みながらレシピを教えた。
(……会いたい人……祖父ですね。帝国崩壊の激動の中で自分の使命と夢を再確認するためにも)
注文した料理が運ばれるとイズレンディル・パラリムが午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み、頭に浮かべるのは、幼少の頃に亡くした優しい祖父だ。
(……お変わりありませんね。私にフィルエス大森林の事や氏族の事、使命の事など多くの話を聞かせてくれた事が、昨日の事のように思い出します)
現れた懐かしい祖父の姿に幼少の記憶が蘇る。
「我らパラリムの氏族は代々、森を護るため森の事を見通してきたのじゃよ」
語る祖父に対して幼いイズレンディルは問いかけた。
「森の外は護らないの?」
と。外界を放浪していた母親の影響か、森の外に対して関心があった。
「イズの代では大陸を見通すようになっているかもしれんなぁ」
祖父はイズレンディルに向かって相好を崩した。
「御爺様、お久しぶりです」
優しい記憶と共にイズレンディルは再会の挨拶をしてから
「まだ道半ばですが私は森の外へ眼を向けました」
森を出て得た多くの出会いを語り
「この道を歩み続けます。見守っていて下さい」
決意を告げた。
「少しよろしいでしょうか」
午後に訪れたプラムは注文した料理が来た際、店員に死者との再会方法を訊ねた。
「是非、お母様にお会いしたいです。わたしはいわゆる捨て子で、神殿で育てられた子なのです。なので、かみさまがわたしの親なのです」
訊ねる店員に再会の相手を教えてから
「ですが、もし何か事情があったのだとしたら、そしてもう今はお会いできないのだとしたら……」
苦しい胸中を明かした。
同情した店員は、懇切丁寧に対応し仕事に戻った。
「その前に身だしなみを整えないとです」
再会前にとプラムは手鏡を取り出し
(……どんな結果でも受け入れる気持ちで……)
髪を弄ったりと気持ちを落ち着かせてから、母親を思い浮かべ店内に満ちる還り香の柑橘の匂いを吸い込んだ。
しかし
「…………いない」
空席だ。
「…………お母様」
突き付けられた事実にプラムは肩を落とし、落ち込む。
(……会えるのは死者……会えないということは……)
プラムは死者との再会で賑わう店内を見つつ考えを巡らせ
「どこかで生きていらっしゃるのです」
辿り着いた答えにプラムは表情を明るくした。どうやら希望を見出したようだ。
(亡き人に再会……記憶を刺激して想い出を呼び覚ますのだろうな)
料理を注文したエンデ・エトル・シャリオンは思う所はあれど、他の客の事を思い口には出さない。
むしろ
「ここは、俺も浪漫を楽しむとしよう」
楽しむつもりだ。
「さて……」
料理が来た所で、午後の店内に充満する還り香の柑橘の匂いを吸い込み、思い浮かべるのは
(……柑橘の匂い、か。ウルザ兄はオレンジが好きだったな。年に1度、一族が街の拠点に集まる時、ウルザ兄の後をついて回って、あれこれたずねては仕事の邪魔していたな)
年上の従兄弟の顔、思い出に口元が優しく歪むみ。
「……ウルザ兄、久しぶりだな」
眼前に現れたのは、よく知る男だ。
(商売に興味があって、遠征より都市部で商会に勤めていたけど……商談で砂漠を通過する際に、砂鯨に飲まれて、遺体も上がらなくて……再会が出来たという事は……砂漠で暮らす一族にはよくあることだ)
従兄弟を当時の感情と一緒に感慨深く見た。
「俺はわりと元気でやってるぞ……今年もウルザ兄に報告できてよかった」
エンデは報告を済ませてから、安堵と共に料理に手を付けた。
(……微かに記憶があるだけ、死んだって聞かされたけど本当のところはどうなのやら……深層心理から現れるなら実際の生死は関係なさそうだけど……会えるなら、嬉しいな)
注文したロールキャベツが来てからレヴァーレ・クアルムは、午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み、再会相手を思い浮かべる。
そして
「……母さん」
黒髪の小柄な女性が現れた。生死不明の母親だ。
(……顔がピンボケしたようにはっきり見えないな。表情は読み取れるが)
レヴァーレは一瞬戸惑った後
「母さん、久しぶり」
再会の挨拶をしてからロールキャベツを食べつつ
「今、俺は家を飛び出し冒険者になって、望んではいないけど、依頼をこなして人の役に立っている」
近況を語った。ツンデレのため実際は進んで依頼を受けているのだが。
母親は穏やかに微笑み、話を聞いていた。
「…………母さん」
ふと、レヴァーレは心に焼き付けるが如く母親を見つめ
「……俺はこれからも……母さんから貰った愛と夢を込めたレヴァーレという名前と共に……」
思いを伝えようとするが、気持ちが高ぶり自然と涙が流れ
「…………ありがとう……」
ついには声を詰まらせた。
「……あれから何年も経ったけど、本当に会えるなら、会いたいな」
日中に訪れたフィーレン・ステオラーズは、お茶とミートボールのクリーム煮をそれぞれ2人分注文した後、還り香を吸い込み、再会相手を思い浮かべた。
現れたのは
「母さん」
栗色の髪に線が細く優しげな女性だ。
「俺の事、分かるかな?」
フィーレンは恐る恐る母親に訊ねた。何せ、死別したのはまだ子供の頃だったから。
「母さん、あれから背も大きくなったんだ」
フィーレンは微笑む母親の姿に嬉しくなり、背筋を伸ばした。
その時注文したお茶と料理が来た。
「母さん、美味しいかい?」
食事をしながら訊ねるフィーレンは
「……あの頃はこんなご馳走なんて夢みたいだったなあ。勿論母さんの料理が一番だけどさ」
ふと貧民街での暮らしを思い出すと同時に
「……俺の幻覚なのだとしても。目の前で、微笑んでくれているだけで嬉しいよ」
現実を思い知るが
「泣いたりなんかしないさ。恥ずかしいだろ」
心配する母親を安心させるため涙は見せない。
こうして過ごす内に時間が迫り
「そろそろ時間みたいだね……さようなら、母さん」
フィーレンは母親と笑顔で別れた。
「……死者と再会か」
注文した2人分のパンとシチューが来た所で海神・江流は午後の店内を満たす還り香の匂いを吸い込み、再会の相手を思い浮かべた。
そして
「お兄、久しぶりだね。その後、仙人にはなれそうですか?」
現れたのは身体が弱かった妹。
「どうだろうな、道士の真似事程度なら出来るようになったけど、仙人にはまだ遠そうだ……」
江流は答えてからパンをパクリ。
だが
(仙人の長寿の秘密を解き明かし妹に長く生きて欲しかったが……)
目の奥には、切なさもあった。
「お兄、何か話を聞かせて」
妹は、シチューを味わってから話をせがんだ。
「そうだな……俺が冒険者になってからの話をしよう」
江流は、依頼で訪れた大森林に水の都、難民キャンプに砦での防衛戦を語った。
(冒険者になって世界を見て回る事が夢だったからな)
兄の話を楽しむ妹をしみじみ見つつ。
ついに時間は迫り
「冒険者としてちゃんと活躍してるんだね。偉い! 私の分まで長生きして、また世界の事聞かせてね。出来れば次までに彼女を作っておくのです」
妹は、誇らしさと愛しさを込めて別れを告げた。
「そうだな、また……な」
江流は惜しみと共に見送った。
「……現れる死者は虚実定かでないとの、話だが……」
午後に訪れたサマエラ=フォリウムは、注文した果物をジュースを飲みつつ
「…………還り香とやらを使えば母も、もしかすれば……いや、私がそれを願ってはいけない。眠りと安寧を信仰に持つ私は……しかし……」
還り香の使用について願いと信仰心との間で葛藤していた。
「この紋具を、経験した者は……会えて良かったと、そう口にするか? 後悔に染まる者も……いるの、だろうか」
答えが出せないサマエラは、ついには店員に訊ねた。
「再会を喜ぶのが多いですが、中には悲しみや恨み言もありますね」
店員は笑顔で答えた後、他の客に呼ばれて行ってしまった。
「……ふむ」
店員の話を聞いたサマエラは周囲を見回すが
「……私は……」
一向に気持ちは固まらない。
結果、営業時間ぎりぎりとなり
「もうこんな時間か……結局私は……」
時間を意識すると同時に還り香を吸い込み、思わず母親の顔が頭をよぎる。
「……母さん」
一瞬、母親の姿が見えた気がして
「あぁ、起こしてしまったか、済まない。ただ、ただ……ありがとう、来てくれて……母さん」
サマエラは思いを伝えた。
(再会が出来るならば幼馴染で主たる彼女だろう)
注文した料理が来てからアルフレッド・ラ・ギは、午後の店内に充満する還り香の柑橘の匂いを吸い、思い浮かべる。
(私を授恵者や天才と呼ぶのなら彼女は偉人や賢者と呼ぶべき者だったな。彼女の従者として育てられても幼心に嫉妬も多くて、主と認められずにいて)
相手は従者の家系たる自分と同じ日に生まれた仕えるべき家に生まれた女性。
(でも転機が来て、少しずつ見方が変わり私も彼女を主と認めるようになって)
気持ちが変わった瞬間を思い出す。
(だが、彼女は死んだ……生まれつきの病気で、天は二物を与えなかった)
アルフレッドの眼前に幼馴染が現れた。
幼馴染は再会早々、遺言の事を話題にした。
「あぁ、覚えている。あなたは私の臣ではないわ、だろう」
全てを見透かしたような遺言を口にし
「ああ、そうとも、君はもういない……だが私の主は今も君のままだ」
不敵な笑みと共に即座に返す。
「真実仕えたいと思える主を見つけたらその時は私の勝ちだ」
主探しはしているのだ。
「だから、私が逝くまで待っていろ」
と言い放ち、アルフレッドは席を立った。
「死者と再会できるなら、今年の晩冬に亡くなった婆様にもう1度会ってみたいな」
午後に訪れたテテリカは、会いたい故人の好みである果物のパイと百合茶をそれぞれ2人分注文した後
(会ったら、色々話したいな)
帝国崩壊前に、老衰により亡くなり穏やかな葬儀でお別れをした親族の老女ゴブリンの姿を思い浮かべた。ちなみに家系図上の祖母ではない。
そして
「久しぶりだな、婆様」
婆様が向かいの席に現れ、共に再会を喜んだ。
丁度、注文した料理と飲み物が来た。
「今年産まれた婆様の玄孫はどこにでも元気に這っていくようになったよ。婆様の家の畑も家畜もしっかり育っている」
テテリカは食べたり飲んだりしつつ近況を伝えた。婆様も好物を味わいつつ熱心に話を聞いていた。
近況の報告が終わり
「すべて、順……」
テテリカは順調だと言おうとして言葉に詰まった。
(帝国が崩壊してゴールディは……大樹海は今後どうするんだろうか)
脳裏によぎる先行きの不透明な事柄に、自然とテテリカの顔が曇る。
気付いた婆様は心配そうな顔をした。
「婆様、心配するな」
気付いたテテリカは、すぐに表情を凛々しく引き締め
「大樹海の端に生きるゴブリンとして未来をつかんでいくから」
故人を安心させ自分を奮い立たせるために力強く言い、婆様の表情を変えた。
「亡き人か……会いたい人は沢山いるけど、俺が思い浮かべる事が出来るのは1人だけだ」
料理を2人分頼んだファイサル・アル=ファルドは、午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み、死者を思い浮かべる。
その死者とは
「……お久しぶり、師匠」
ファイサルを拾い、親代わりに育てた剣の師匠。
「この百合茶を練り込んだパスタ、悪くない」
丁度パスタが来たので揃って味わってから
「まずは恨み言を言わせて貰う。なぜ病気の事を黙っていたんだ。いくら口数が少ないとはいえ大事な事だろ」
ファイサルは彫像のように表情が動かぬ顔に向かって恨み節だ。大切な人だからこそ。
「……で、今は冒険者として活動している。仕事は色々あるし、交友はまだ少ないけど楽しい人達ばかりだし、まあ何とかやってるよ」
言う事を言ってすっきりしたファイサルは、近況を報告した。
時間まで束の間の団欒を楽しんだ後
「次に会えるのは俺がそっちにいく時かな。長生きして土産話もっと作っておくよ」
ファイサルは席を立ち
「……じゃあ、またね。父さん」
息子の顔で店を出て行った。見送る師匠は、たまにしか見せない優しい笑顔を浮かべていた。
「月ちゃん、何注文する? どれも美味しそうだよぉ~」
午後に訪れた御邑 都はメニューを開き、隣に座る御邑 奈月に声を掛けた。
「そうですね。ここは母の好きな食べ物を……って、何でしたっけ? ええっと……」
奈月は、母親の好きな物を注文してから還り香の柑橘の匂いを吸い込み、思い浮かべる。
そして
「……お、おか……っ……おかーざぁ……ん。おか……さ……ん……ぅ」
現れた大好きな母親を前に奈月の感情が弾け、目から涙が溢れる。母親は不治の病で奈月が幼少の時に他界したのだ。
「えうぅう……っく……おかーさん……おがーざんっ!!」
言葉も上手く出ず、唯々涙が流れるばかり。
母親はのんびり優しい声で奈月の名前を呼び、頭を撫でた。どこか都に雰囲気が似ている。
「……おかーさん……」
奈月が落ち着いた所で、注文した料理が来た。
という事で、料理を味わいながらお喋りが始まった。
「父は元気です。新しい家族も出来て……」
奈月は、ちらりと再会を見守ってくれている隣の都を見た。
すると
「ねぇ、月ちゃん、僕も話してもいいかなぁ~?」
都が話への参加を言い出した。元々このつもりでついて来たのだ。
「えっ、お姉ちゃんが!?」
想定外に驚く奈月に構わず
「僕は月ちゃんのお姉ちゃんの都だよぉ~、はじめまして~。月ちゃんのおかーさんに会いたくて一緒にってお願いしたんだぁ~」
都はにこにこと自己紹介。実は奈月とは異母姉妹なのだ。
「月ちゃんはしっかり生きてるよぉー♪ 優しくてお料理も上手で、お世話になってるよぉー♪」
続けて都は妹語り。ずぼらで朝が弱いため、何かと奈月の世話になる毎日を送っているのだ。
「それに独りじゃないし今は隣に傍に沢山いるんだよぉ~♪ だからぁ~だからねぇー。安心して欲しいんだぁ!」
都は奈月を抱き締め、奈月の母親に向かってにっこり。
「お話終わったから、僕、先に帰るねぇ~♪」
目的を終えた都は席を立ち
(月ちゃんとおかーさん2人きりにしないとねぇ~)
奈月のために店を出ようとするも
「お姉ちゃん、一緒にいて下さい」
奈月が上目遣いにお願い事をして来た。
「え? 僕もいていいの?」
驚いた都は振り返り、念のためにと聞き返した。
「はい、一緒に帰りたいですから」
奈月はにっこり。姉妹の仲の良さに母親は嬉しそうであった。
「そーか~♪」
大好きな妹の頼みに都は、嬉しそうに座り直した。
「あに、き……」
午後に訪れたアーシェル・G・クラインが料理を注文した後、還り香で呼んだ死者は兄だ。
「久しぶりだな、アーシェル。随分と逞しくなったじゃないか」
懐かしい声と弟に向ける優しい笑顔。
「……兄貴……独りだと苦しくて仕方ねぇよ……どうしてあの時……後を追う事を許してくれなかったんだよ……っ」
兄との再会に心が震え、苦し気に訴える。
「あの日の夢ばかり見るんだ。何回も、何回も……」
さらに身を震わす弟の姿に
「お前を独りにしてすまない。だが死んではいけないよ。俺達の分まで幸せになってくれ」
兄は心を痛めつつも願わずにはいられない。その言葉が真かアーシェルが望んだ幻なのかは分からないが。
「そんなこと言うなよ……早く……早く連れてってくれよ!」
アーシェルは声を荒げ、兄に迫った。
「アーシェル、自分の為に生きろ。復讐なんて馬鹿な事は……」
弟を気遣う兄の言葉はアーシェルの心に届き
「……復讐……そうだ。俺は復讐しなきゃなんねぇ。くたばるのはその後だ」
家族と夢を失った日から歩み始めた生き方を思い出させた。
「兄貴、あいつらを全員殺したらあの世で褒めてくれよ」
アーシェルは泣きそうな顔で笑った。美しい色違いの目を怨讐に染めて。
「……行方不明の両親以外で血縁で亡くなった方は顔を見た事が無い祖父母に……後は帝国崩壊で亡くなった帝国民達に心から祈りを捧げるぐらいかな」
午後に訪れたノノアは還り香は使わず
「普通に肉料理とか甘いデザートとか料理を楽しもうかしら」
料理を注文した。
そこに
「ねぇ、あたし、リーン・タンゼ。一緒にいい?」
14歳の好奇心旺盛なヒューマンの美少女が現れた。
「いいわよ」
ノノアは歓迎し、名乗った。リーンは席に着き、料理を注文した。
程なくして料理が運ばれ
「この都市の美味しいお店とか知ってたりするかしら……肉も柔らかくてタレも甘辛で美味しいわね」
「あたしの一族農家で、叔母夫婦は百合茶農家をしてて、百合茶ジャムや百合茶を練り込んだ食パンやクッキーとか百合茶を使った物を販売してるよ……ガレット、美味しい」
ノノアは野菜の肉巻き、リーンはガレットを食べつつお喋りを楽しむ。
「最近、事件とか変な事が起きてたりとかある?」
「作物の品種改良とか害虫駆除が大変で、事件になりそうな程無茶をする人もいて」
仕事モードが抜けないノノアの質問に、リーンは溜息と一緒に答えた。
「それは大変ねぇ」
と言って、ノノアは果物沢山のロールケーキを口に運んだ。
「甘い! 美味い! こりゃ死者も食べとうなるというものじゃのぉ!」
午後に訪れたジョン・ベアーは、フルーツパイと死者の分として注文したシチューまでも豪快に頬張る。食への思いが凄い。
「美味い! 美味い!」
食べる事に気を取られてか、思い出す死者がいないためか、食事をするのはジョン1人。
そこに
「やあやあクマ君、君はお香は試さなかったの?」
ミード抱えたヨル・スレイマンが現れた。
「お香? あぁ、そう言えばそうじゃったな」
ジョンは食事の手を止め、些末な事を思い出すような感じだ。
「はは、そっかぁ、試さなかったのかぁ。実はさ、俺も試さなかったんだよね……隣いい?」
ジョンの様子から察したヨルは、カラカラと笑いながら隣の空席を示し訊ねた。
「構わんぞ……すまんが、ケーキとグラタンを」
ジョンは快諾し、店員に追加の注文をする。
「というか、試せなかったんだよねぇ」
ヨルは隣に座りながら溜息混じりに言うも
「よく食べるなーー! パイはどうだい? 奢ろう」
追加の料理を休みなく頬張るジョンに感心し、パイを注文した。ついでに新しい酒も。
「ぱ、パイをくれると……さてはええ奴じゃのぉ、われ」
ジョンの目の色が変わった。
「だろう。ついでに注ごうか?」
ヨルは新たに来た酒もご馳走しようとするが
「われ、さては既に結構酔うとるのぉ?」
奢りのパイを頬張るジョンに呆れられた。
「あはは、いいんだ、いいんだ。死んだ人に会えても何もできないし」
ヨルは、胸に詰まる色に滲んだ笑いと共に呟いた。
「ふうむ、マロンチックな男じゃのぉ、死者は生者に何も望まんよ。われが会いたいなら会いたいだけで充分じゃろうに」
ジョンは食べつつもこまめに相槌を打ったりと、絡み酒のヨルの相手をする。
「それを言うなら、ロマンチックだろう。うん、まあ、そうだね……」
ヨルはジョンの発言を指摘したと思ったら、空気を重くし歯切れが悪くなる。
「われの会いたい奴は恋人? 親? 友人?」
ついにジョンは訊ねた。
「友達ではないな、ただの知り合い……あんまり知らないし。でも強かったよ」
そう答えるヨルの脳裏には、自分と同じ剣闘士だった男の姿が浮かんでいた。
「……もういいんだ。全部終わってしまったことなので」
ヨルは酒を注ぎ、一気に煽った。抱えるどうにもならない事を呑み込むように。
結局、ジョンは食を楽しみ、ヨルは酔い潰れて寝てしまった。
「このクルミパン匂いもいいし、もっちり感が最高ね。シチューも野菜がごろごろだし、体の芯から温まるなあ」
特に会いたい死者がいないベアトリーチェ・カロッサは、普通にクルミパンとシチューを食べていた。
「確かにシチューを浸して食べるともっと美味しいかも」
単体で食べるだけでなく、店員に勧められた食べ方を試したり存分に食を満喫する。
「それにしてもみんな、会いたい人がいるんだなあ……」
食べながら、死者で賑わう店内を見回す中
「あの子、随分熱心に話し込んでるなあ。相手は身内かな」
ふと、近くの席で死者と話し込む少女が気になった。
「あっ、話が終わったみたい。よし!」
少女と死者の会話が終わったのを見計らい、ベアトリーチェは声を掛けに行った。
(私が会いたいのは……)
注文したアップルパイと紅茶が来てからルアンナ・ミュラーは、午後の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み再会を願う。
相手は
「……すごい、本当に伯父様なの?」
伯父だ。彼は豪快な性格故か、数年前に暴走馬車から店を守ろうと立ち塞がったため轢かれて他界したのだ。
そして
「伯父様、あれからパン屋を継いで、頑張っています」
現れた伯父の姿に懐かしみつつルアンナは、食事をしつつ近況を笑顔交えて語った。
「授恵者になり冒険者としても活動していて、家族も増えて一緒にパン屋を切り盛りしていて……」
一生懸命語るルアンナを見つめる伯父の眼差しは、父親の如く優しかった。
「……伯父様」
語り終えたルアンナは伯父を真っ直ぐ見て微笑んだ。
「私はとっても幸せです。リブラネスタに、ミュラースに、伯父様と伯母様に会えて本当に良かった♪」
胸の奥には、伯父と伯母が我が子同然に接してくれた日々が蘇る。
丁度、会話が終わった時
「死者とどんな事を話したの?」
近くの席にいたベアトリーチェが声を掛けて来た。
「ん?」
ルアンナが驚いて振り返ると
「突然ごめんなさい。随分熱心に話してたみたいだから気になっちゃって……」
ベアトリーチェは一言謝ってから事情を話した。
「伯父様と話していたんです。家業のパン屋の事や冒険者として活動している事などを」
ルアンナは話の内容をベアトリーチェに語った。
(あの時、戦ったリーダー格の商隊護衛ゾンビさんかな。バルバロイと相打ちになって荷物を守りぬいたけど死体がゾンビになって、それでも荷馬車を守るかのように立ちはだかっていたのを、回収にむかったボクたちが倒して……)
おめかししておしゃれさんとなったアルマ・ヴァレンタインは、料理を注文してから正午の店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み、頭に浮かべると同時に当時の事を思い出し楽しくない気持ちになり表情は複雑だ。
「直接話したことはないけど、ボクは遺体を清めて送り出した『命、送る者』として、どうしても伝えたかった事があるんだ」
アルマは真剣な面持ちで
「あなた達が守った荷物は必要な人たちに届いて助けになったよって」
ゆっくりと相手の心に刻むように伝えた。
そうして目的を終えたアルマは
「お肉と果物のお酒……じゃなくて、ジュースをもっとちょうだい!!」
料理が運ばれた時に追加注文をした。
「あーもー、ガラにもないことして恥ずかしいよぉ。ここは沢山飲み食いしちゃうぞ!!」
アルマは、食べ物の固執を思う存分見せた。
「……綺麗ですわね」
シチューを注文した後、キャロライン・スノーイーリスは窓際席に差し込む夕日に和んでから、店内を満たす還り香の柑橘の匂いを吸い込み思い浮かべた。
現れたのは
「母さん、あたしだよ、キャロルだよ」
数年前に病気で亡くなった母親だ。キャロラインは昔の愛称を名乗り口調も昔のものに戻した。再会で出そうになる涙を堪え笑顔を浮かべた。
「あのね、母さん、あたし子爵家に戻されちゃった。今は家出中だけどね!」
キャロラインは、この数年の事を捲し立てるように話した。
「……美味しいけど、あたしは母さんの作ってくれたシチューが一番かな」
シチューを通して母親の味を思い出し、涙が落ちた。
「頑張ってるわね、キャロル」
母親は堪らずキャロラインを抱き締めた。
「うん、母さんの娘だもん」
キャロラインは涙を拭い、笑った。
懐かしく優しい時間はあっという間に過ぎ
「あたし幸せになるから! 安心して見ててね!」
キャロラインは笑顔で母親と別れを済ませた。
そして
「幸せな時間をありがとう存じます、ですわ」
キャロラインは今の自分に戻り、店に一礼した。
午後に訪れたアステルは、喫茶店が腕を振るった美味しい料理や飲み物を食べたり飲んだりと、まったりとしたひとときを満喫した。
特別慰霊祭のおける喫茶店『エヴァブルー』の営業は無事に終わった。ちなみに、本日のイベントで使われた還り香は限界が来たのか、店員の言葉通り壊れてしまったという。
マスターコメント
参加者の皆様、参加して頂き大変ありがとうございました。そして、お疲れさまでした。
死者と再会して頂いたり食事を楽しんで頂いたり、喫茶店で慰霊祭のひとときを過ごして頂き、大変大変ありがとうございました。
ほんの僅かでも楽しんで頂ければ、幸いです。
イベントシナリオ普通 報酬:標準25 / 4〜25人
2021年01月05日 15時00分26秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
No.1
死者に逢える――そうか、まだ死から日が浅いならば父にも逢えるだろうか。 逢えなければきっとどこかで生まれたに違いない(二度頷いて) 余輩は還り香というものを試してみよう。
プラムといいます、よろしくお願いします お香の力、とても期待しています
アーシェルだ。 よろしくな。 死者に会える香りか……。 もしも兄貴に会えたら、俺は……(小声で呟く)