優しい嘘

真柄 葉

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シナリオID:193

オープニング

 港湾都市エスト・ポーラの巨大な港を窓越しに眺め、一人の老人がふぅとため息をついた。
 揺り椅子が揺れる度に上げる軋み音だけが、部屋の中に響く。
 調度品と言えるものはほとんどなく、あるのは質素な棚とこの揺り椅子、そしてベッドだけ。
 この簡素な部屋に、籠りもう5年。すっかり外の世界へ出ることも少なくなった。
「――シンさん」
 窓の外の世界は今日も変わらず活気に満ちている。
「――シンさん!」
「……ん? ああ、ケイトか。何か用か?」
 呼びかけられている事に気付き、ふと入口を見ると、そこには赤毛の少女が立っていた。
「何か用かって、昨日約束したじゃないですか」
「約束……?」
 この少女――ここの管理人をしているケイトは、何やらご機嫌斜めらしい。
「もぉ! 冒険の話聞かせてくれるって!」
「冒険の話……ああ、そうだったか」
「そうですよ! もぉ、楽しみにしてたのに!」
 頬を膨らせすねる少女――いや、ハーフリングなので少女ではないのか。
「そんなに楽しみにするほどの話じゃないぞ?」
「そんなことありません! それで、今日はどんなお話を聞かせてくれるんですか?」
「そうだな……ローレラウラの人魚の姫の話でも話そうか――」
 小柄な女主人の期待の眼差しを受けながら、答えた老人はゆっくりと語り始めた。

●別の日
 港が雨で霞んでいる。街を行く人間も今日はまばらだった。
「――シンさん」
 こんな日は、あの事を思い出すな。何もかもが冷たくなったあの日を。
「――シンさん!!」
「……ん? ああ、ケイトか。何の用だ?」
「もぉ! 今日はチェスを教えてくれるって約束だったじゃないですか!」
 チェス……? ああ、盤上遊戯か。
「そんな約束したか?」
「しましたよ!」
「そうか。それならやろうか。しばらく触ってないから相手になるかわからんがな」
 ……チェスか。あいつとよくやったもんだ。結局、どっちが多く勝ったのか、忘れてしまったが。

●別の日
 今日はよく晴れている。港も冬に向けた準備で
「シンさん」
「……ん?」
「あ、今日は一回で気付いた」
「なんだ、いつも気付いてるだろう」
 まったく、失礼な奴だ。
「じゃ、今日の約束覚えてます?」
 ……約束か。うむ、約束だな。
「……」
「……あー、やっぱり忘れてるし」
「覚えているぞ。ただ少し忘れているだけだ」
「どっちなんですか!?」
 今日はいつもにも増して声が大きいな。それに何かそわそわしている。
「次の晴れの日、街の武器屋で護身用のナイフを選んでくれるって言ってたじゃないですか! 今日は快晴です!」
 ……ああ、そんなことを言ったような気がする。何があるかわからない世の中だ、ナイフの一つでも持っておけと。だが……。
「……一緒に買いに行くなんて約束したか?」
「しました! さぁ、行きますよ! 準備してください!」
「わかったわかった。ちょっと待ってろ」
 約束したのなら仕方がない。
 シンは渋々揺り椅子から腰を上げた。

●別の日
 今日は曇っている。そろそろ雪も降りだすのだろうか。
「――シンさん!」
 雪か……いい思い出はあまりないな。
「――シンさん!!」
 極北の竜――見たかったな。あいつらとならいけると思ってたんだがな。
「――シンさん!!!」
 結局生き残ったのはわしだけ……。もう少し一緒に居たかったな、クレア――。
「――シンさん!!!!」
「ん? なんだ、騒々しい」
「もぉ! やっと気づいた!!」
 なんだかいつもにも増して機嫌が悪いな。どうしたんだ?
「なんだ、今日は約束はないはずだぞ?」
「うっ……えっと……あのですね」
 この反応は、やはり約束はしていなかったか。忘れていなくてよかった。
「そ、そうだ! わ、私の知り合いの冒険者が、シンさんに訓練をつけて欲しいって言ってるんです!!」
「わしに訓練だと……?」
「そ、そうなんです! まだ新人の域を出ない冒険者達なんですけど、少しでも実践的な経験を積ませてあげたくて!」
 随分と早口だな。
 それより、特訓? この冒険者を引退した爺にか?
「え、えっと……剣、だったかな。あ、弓だったかな……そ、そういうのを教えて欲しいって言ってて……!」
 目を泳がせるケイト。なるほど、そういう事か。
「ふむ、わしでよければ受けよう」
「そ、そうですよね駄目ですよ……えっ?」
「受けよう」
「ええええっ!? う、受けてくれるんですか!?」
 口をついて出た嘘に、シンはうむと首を縦に振った。

●ギルド
「どどど、どうしよう! どう依頼すればいいの!?」
 ギルドの戸をくぐったはいいが、目の前にはあこがれの冒険者達がそれはもうたくさんいる。
 ケイトは緊張と興奮でよくわからなくなった体を、何とか前へと進ませた。
「あ、あの! いいい、依頼をお願いします!!」
 まるでゴーレムのように固まったケイトが、無人のカウンターに向かって話しかける。
「あのー、依頼の受付はこちらですよー」
「ひあ! すすす、すみません!!」
「いえいえ。どうぞお座りください」
 再びカクカクとぎこちない動きで場所を変えたケイトは、受付嬢に言われるまま着席すると。
「い、依頼を出したいんです!」
「はい、お伺いしますね」
 ニコリと微笑む受付嬢にケイトは事の顛末を話した――。

解説

●目的 老冒険者から特訓を受けてください。 ●場所 訓練の場所は、街から離れた荒れ地です。 目に入るものといえば、硬い土と砂利、いくつかの大岩、まばらに生える細木くらいです。 広いので派手に暴れても問題ありません。 また、座学的な特訓を受ける場合は、シンの部屋で行います。 ●人物 シン 齢80を数える元冒険者のお爺さん。ヒューマン。 若い頃は冒険者として各国を放浪し、数々の事件を解決してきた歴戦のウォーリアです。 5年前に冒険者を引退し、ケイトが提供する集合住宅で余生を過ごしています。 ケイト お爺さんが住む集合住宅の管理人さん。 赤毛のハーフリング。28歳、女性。 冒険者に憧れていたが授恵者ではなかったため、冒険者達に住宅を提供している。 今回の依頼者で、日に日に気力を失っていくシン爺さんを心配しています。 ●補足 皆さんはケイトの知り合い又は友達という形でシン爺さんに会っていただきます。 シン爺さんはどのような武器でも、近接遠隔問わず使えます。最も得意とするのは大剣ですが、指定した武器で戦ってくれるでしょう。なお、魔法は使えません。 冒険者時代はたぶんレベル50位ありました(雑 所持スキルは詳しく書きません。レベル50のスキルとか実装されてな(略 クラスがウォーリアですので、その辺りのスキルは汎用スキル、パッシブスキル込みで網羅していると考えてください。 冒険者を引退して5年。年も80歳と高齢です。既に冒険者のピークもずいぶん昔に越え、衰えが顕著です。 皆さんが本気で相手をすると圧勝してしまうかもしれません。 なにも直接対決だけが特訓ではありません。 例えばチェスで戦術眼の勝負をしてみたり、冒険者の心構えについて熱く討論したりするのもいいかもしれません。

マスターより

OPをご覧くださり、ありがとうございます。 今シナリオを担当させていただきます、真柄 葉(まがら よう)と申します。 今回のシナリオは、特訓もの! 老練な元冒険者から、特訓を受けてください。 シン爺さんはケイトの話をなぜ受けたのか、本心は不明です。 老いたとはいえ冒険者としての矜持を保つ為か、それとも終への思い出作りか――。 皆様がどのようにシン爺さんに向き合ってくれるのか、楽しみにしております。 それでは、シナリオ内容をお気に召していただけましたら、ぜひご参加ご検討ください! ロスガリアの大地で皆様にお会いできることを楽しみにしております。

リプレイ

 訓練の為、荒れ地へとやってきた一行。しかし、当のシンはというと岩の上で船を漕いでいた。
「ご、ごめんなさい。もぉ、昨日は早く寝てって言ったのに! ちょっと起こしてきます!」
 言って、ケイトはシンに駆け寄り体を揺するが、一向に起きる気配がない。
「おもしろそーな爺じゃねぇか」
 そんな、シンに向かってナハシュが小石を投げつけた。

 ――ぱしっ。

「……なんだ、不躾なのがおるな」
 ようやく目を開きいたシンに、ケイトが詰め寄る。
「もぉ、昨日、あんなに言ったでしょ! 早く寝てって!」
「あー、わかったから怒鳴るな――」

「へぇ、あれを掴むのかよ」
 がみがみとやり取りする二人を眺め、ナハシュは感嘆の声を上げた。
「完全に寝てる気配だったのにな。こりゃ楽しみだな!」
「老兵。老練。学ぶに。値する」
「あ、ああ! あれなら私の訓練相手に、ふ、不足はないな!」
 と、アレン・ボールドウィン、Talaraとゴルバルティアが続き。
「不足どころか、下手すりゃこっちが伸されるぞ?」
「さすが歴戦の戦士さだ。こちらも気合入れねっど!」
 アーシェル・G・クラインとカンナ 三木まで顔つきが変わった。

「皆さん、お待たせしました! それじゃお願いします!」
 岩の下で手を振るケイトに導かれ、冒険者達と老人の特別訓練が始まった――。

●
「TAAAAAAaaaaa!!」
 鋭く突き出された槍先が空を切る。
「Huu!」
 瞬間、伸びきった左手を支点に右手をひねる。
 槍先はまるで生き物のように首を振り、本来届かぬ横への払いに転じた。

 ガキンっ!

 硬木同士が打ち鳴らす乾いた音が木霊する。
「Suuuuu――」
 すぐさま槍先を引き、二の槍を突くために力をためる。
「GYAHA!」
 点で見切られるなら線で。
 Talaraは槍を脇に挟んだまま身体をひねり、広域を薙ぎ払った。

 ガキンッ!

 再び硬木の乾いた音が響いた。
「いやいや、見事だな」
 交わした槍を解き、二人は距離をとる。
「シン、手加減? 受け、多い。攻撃、ない」
「防御で手一杯だとは思わんか?」
「思わない。機会、たくさん、あった」
「ふむ。では、なぜお嬢ちゃんは攻撃に合わせて声を上げる? それでは攻撃のタイミングが読まれるぞ?」
「Talaraは囮。任務、殿、沢山やる。だから、この戦い方」
 二人は対峙しながら言葉を応酬する。
「目障りな障害、戦場に必要。Talaraの役目」
「その小さいなりで立派な事だが。死に急ぐぞ?」
「だから。学ぶ。欲しいもの。冷静な目。倒れぬ体」
「……なるほどな。それじゃ、こういうのはどうだ?」
 と、シンは突然足元の砂を蹴り上げた。
「っ!」
 僅かな瞬間、Talaraの視界が奪われる。

 ガキンっ!

 再び硬木同士が弾ける音が響いた。
「よく止めた。十分、良い目を持っているじゃないか」
「運がよかっただけ。これは違う。もっと、激せず、黙して、淡々と」
 回復した視界でシンを見るTalara。
「ふむ……なら、お行儀のいい戦い方は捨てるんだな」
「お行儀……?」
「囮は生き延びてこその役目だ。汚い事での何でもやって、最後の立っていればお前の勝ちだ」
「それが老兵、生きる術……?」
「いや、お前の活きる術だ」
 シンはTalaraの瞳を覗き込みながら、照れたように笑った。

●
「なんだ、構えないのか?」
「あー、いや。うん、構えるよ。構えるけどさ……」
「うん?」
「私の武器はその……これだからさ」
 と、ゴルバルティアがシンに背を向けた。
 そこには背負われた鉄の盾。そして、鱗で覆われた獣の尻尾と下半身がある。
「武器なのか?」
「はは……武器なのかどうなのかな」
 ゴルバルティアは自信をまるで感じさせない小さな声で続ける。
「わ、私も、一応ウォーリアなんだけどさ、その……た、戦うのが苦手っていうか、痛いのが……嫌いっていうか……」
 歯切れ悪く語るゴルバルティアに、シンは無言で耳を傾けた。
「あ、でもさ。この尻尾、こう見えて破壊力は結構あるんだぜ。盗賊とか魔獣とか、一撃で伸したりよ」
 無言のシンに向け、ゴルバルティアはあわあわと手を動かしたり尻尾を見せたり。
「な、なぁ、なんか言ってくれよ……」
 ついには沈黙に耐えられなくなったのか、懇願する様にシンに話しかけた。
「長いこと生きてきたが――」
 ようやくシンが口を開く。
「そんな戦い方ができる奴は聞いたことがないな」
「そ、そうだよな……変だよな」
 シンの言葉に、ゴルバルティアはしゅんと肩を落とす。
「その戦い方は尻尾の攻撃力を最大限に生かす為に考え抜かれた闘法だ。それは弱さじゃない、強みだ。他の者が真似しようにもできない、お前だけのな」
「え……」
「だから、そのまま突き詰めればいい――そうだな、『闘盾甲』とでも名乗ってみるのはどうだ? 少しは箔がつくだろう。ま、気に入ればだがな」
 呆然と見つめるゴルバルティアに、シンははははと笑った。

●
「……わしの聞き間違いか?」
「いや、聞き間違いじゃねぇ。俺を殴ってくれ、シンさん!」
「……すまんがわしにそういう趣味は」
「ち、違う違う! 変な意味じゃねぇよ! 俺の家名『ボールドウィン』には『勇敢な守り人』っていう意味があるんだ。俺はこの家名に恥じない様な、色んなモンを守れる男になりてぇんだよ」
 誤解を解くためか、アレンは必死で言葉を並べる。
「ふむ、なるほど。わかった。遠慮はいらないんだな?」
「あったりまえだ! 耐える修行に何の遠慮がいるって言うんだ!」
 だから任せろと胸を拳で打ったアレン。
 そんなアレンに、シンは無造作に近づいて――。
「うん? なんだシンさん、修行開始前の握手――うごぉっ!?」
 空いた手を掴むとキュッと手首をきめた。
「どうした、耐えるのだろう? まさか、その程度か?」
 言いながらシンは、滑らかに肩をきめる。
「打撃を耐えるだけ、なんて甘いこと言わないよな? 勇敢な守り人さんよ」
「ふ、ふん! この程度、どうという事もないぜ!」
 ミシミシと音を立て軋む肩を、アレンは膂力でねじ伏せようと筋肉を膨らませた。
「ほう、なかなか鍛えているな。なら――こういうのはどうだ?」
 と、押し返される力に抵抗せず、シンはアレンの指を一本掴むと捻り上げた。
「いででっ!? こ、このくらい、まだまだぁ!」
 なおも歯をくいしばって耐え続けるアレンに、シンはフッと微笑むと指を解放した。
「痛みに耐える姿勢は見上げたもんだ。だが――」
 と、シンは痛む指を押さえるアレンに向かって拳を振り下ろす。
「っ!?」
 突然の攻撃に、思わず目を閉じたアレン。しかし、拳の衝撃はいつまでたっても訪れない。
「攻撃から守るは、まぁ、合格だろう。だがな、耐えるだけが守りじゃない」
 目を開いたアレンの胸にトンと拳を合わせたシン。
「命を守る。心を守る。生活を守る。守るにもいろいろあるぞ?」
「……アンタは長い冒険者生活の中で、そんなにも守ってきたのか?」
「はは、俺は守れなかった方の人間だ」
 アレンの問いに、シンは何処か自嘲めいた笑みを浮かべる。その笑みの裏にはどんな想いがあるのか、アレンはしばしシンを見つめる。
「守れる男への道は険しいぞ?」
「望むところだ! なんたって俺は全世界に名を馳せる(予定の)、大型新人ルーキーだからな!!」
 アレンは胸に当てられていたシンの手を取ると、がっちりと手を結んだ。

●
「ぐはぁっ!!」
 アーシェルの身体が地を滑る。
「おいおい、せめて目隠しくらいは取ったらどうだ?」
 両手を後ろ手に縛り、目隠しまでして地に伏すアーシェルに、シンは肩をすくめた。
「老兵の経験を盗める機会なんて、早々ないんだ。普通の訓練じゃつまらねぇじゃないか」
 言って、転がった木刀を口で咥えたアーシェルは、気丈に立ち上がる。
 幾度となくシンの剣に撃たれ、アーシェルの身体は既に満身創痍。

 ――これはハンデじゃない。死を前にしても、折れない心を鍛える訓練。そして、乾坤一擲の一撃を放つ為の経験値だ。

 アーシェルは自分にそう言い聞かせ、五感を研ぎ澄ます。塞がれた視界で目の前のシンを視る。
「いいだろう。それならここからは――本気だ」
 シンが地を蹴る音がする。

 ――そうでなくちゃ、訓練にならねぇ!

 対するアーシェルはシンの動きをじっと読む。足の運び、空気の流れ、相手の気――。
 極限の状態でこそ視える何かを掴もうと、アーシェルは全神経を研ぎ澄ます。

 ――ここだ!

 ガキッ!

 ――止めた!

 シンの木剣はアーシェルの咥えた剣で止められた。しかし――。
「やるな! だが甘い!」
「がはっ!」
 腹に重い一撃が加えられ、アーシェルは再び吹き飛んだ。

 地を滑り、ズレた目隠しの隙間から空が見える。
「まだ届かねぇか……」
 アーシェルの口からぽつりと漏れた言葉を、初冬の風が吹き流す。
「冬の気配か……また嫌な季節が来るな――」
 そう口にし、アーシェルは意識を手放した。

●
「いざずんじょうに勝負だっぺっ!」
 大きな声で言うと、カンナは木槍を構えた。
「うむ、腰の据わったいい構えだが見たことがないな、独学か?」
「んだ! 村の男衆ど鍬さ突き回しながら、編み出しただっ!」
「鍬は振るものだろう――まぁ、いくぞ」
 そう言うとシンが槍を突きだし、訓練の口火を切った。

「ふんっ!」
 丹田を狙ったシンの一撃がカンナに迫る。
「だああぁぁぁっ!!」

 ガンッ!

 カンナは槍を目の前に垂直に立て、その一撃を受け止めた。
「すごいな。そんな方法で止められたのは初めてだ!」
「驚くのはこれがらだべっ!」
 シンの槍を弾き返したカンナは槍をくるりと反転させ大上段に構えると、一気に振り下ろす。
「なにっ!」
 突く払うの槍を、まさか振り下ろすとは考えていなかったシンが一瞬虚を突かれた。

 ガンッ!

「――ふぅ、危ない危ない」
 しかし、シンも体をひねり何とかその一撃を避ける。
「じじ様、さすがだべ! これを避げられる男衆はいねがった!」
 必殺の一撃を防がれたカンナは動揺する事もなく、再び自分の間合いを取り槍を構える。
「なかなか面白い実践的な槍術だな」
 体勢を立て直したシンが、カンナの正面へとゆっくりと戻った。
「んだ! おら、この槍術で立派な騎士になるでみなに約束してぎただっ!」
「ほう、それで村を出たのか」
「故郷に錦を飾るのがおらの夢だがんな!」
 言うやカンナは鋭い一突きをシンに見舞う。
 かたやシンは――。
「んな!?」
 槍を垂直に立てカンナの一撃を受け止めた。
「ほう、これはいいな。地面に立てれば力半分で済む――それで、こうか」
 そして、槍をくるりと反転させ、大上段からの一撃を見舞った。
「じ、じじ様、どこでこれを!?」
「今だが?」
「なっ」
「正道でも邪道でもない、面白い槍術だな」
 再び間合いを取る二人。
「だが少し荒いな。槍以外と対戦したことは?」
「す、すごしだけ」
「そうか、それじゃ、次は弓を使ってみるか――」
 そう言うとシンは、槍を置き弓を手に取った。

 二人はシンの体力の許す限り様々な武器で相対した。
 それは冒険者になってまだ日の浅いカンナにとって、この上なく新鮮な経験だった。

●
「お疲れだな、爺」
 カンナとの特訓で疲れた体を休めていたシンの元に、ナハシュがやってきた。
「休憩がてらでいい。少し話をしようぜ」
「話か。ふむ、それも悪くないが。いま勝負すれば余裕で勝てるぞ?」
 と、そんなナハシュにシンは苦笑しながらそう告げる。
「いらねぇ。爺なんかに勝っても何の自慢にもならねぇからな」
「はっは、言うじゃないか」
「そんなことより、俺は爺の話が聞きてぇんだよ」
「わしの話?」
「何十年冒険者やってたかは知らねぇけど、その年まで生き抜いたんだ。その頭と体の中にゃ、色んなモンが詰まってる。――だろ?」
 そんなナハシュの物言いに、シンは目を見開いた。
「頭でも割って見てみるか?」
「はっ! わりぃが俺は平和主義者なんでな。その口から懇切丁寧ぇに聞きたいんだよ」
「そうは見えんが、まあよかろう」
 そう言って、シンはゆっくりと語り始めた。

 授恵者として目覚めてから冒険者になるまでの苦労。世界の歩き方に強敵との相対し方。そして、何より人とは違う超常の力の振るい方を。
 いつしか、他の6人も集まってきて、皆がシンの話に耳を傾ける――。
「――冒険者は恐れられる存在だ。クリーパーや魔獣、そして、人からもな」
 ナハシュはシンの話の要点を纏め、紙に記していく。
「自分の力を見極めろ。そして、使い方を知れ。自分の手は、足は、常に凶器だと悟れ」

「お前達の一突きが、一握が、簡単に何かを壊すことを忘れるな」

「心を鍛え技を磨け。自分の力を知ってこそ、一人前の冒険者だ」
 そう締めくくり、シンは口を閉じた。

「へへっ、こりゃ本でも出せそうだな。なぁ、ケイト」
「……はえっ?」
「爺、まだまだ話足りなそうだからよ。後はお前に任せるぜ」
 そう言うと、ナハシュは今まで取っていたメモをケイトに放り投げる。
「話を纏めてギルドにでも置いてもらえ。そしたら爺の話を聞きに来る奴も出てくるだろう? あの爺のボケ防止にゃちょうどいい」
 呆然とするケイトに、ナハシュはカッカと笑った。

●
 訓練を終えた皆はケイトの勧めで、集合住宅へと戻ってきた。
 訓練の締めはやっぱり飯だろうとアーシェルがケイトを連れ出し街へと買い出しに向かった。
 他の皆は、訓練の続きだと、シンにあれやこれやと質問したり、先ほど行った訓練を反芻したりと、思い思いの時間を過ごす。
「爺さん、疲れてねぇか?」
 現役冒険者を6人も相手をしたのだ。老体にはこたえただろうと、ゴルバルティアが気遣い。
「おらぁ、この特訓を糧に精進していくだぁ!」
 と、カンナが目を輝かせる。
「Talara、戦い極める。シン、越える。100年? もっと早く。絶対、超える。楽しみ。待つ」
 グッと拳を握り語るTalaraに、シンはわしは何歳まで生きればいいんだと、苦笑し。
「今度は仲間の話を聞かせてくれよ。何なら女の話でもいいぜ?」
 と、ナハシュがけらけらと笑うと。
「それは興味あるな! 仲間ってどういうもんだ? 俺はまだ駆け出しだから仲間らしい仲間がいなくてさ」
 照れ臭そうにアレンが話した。

「よう、待たせたな!」
 そこへアーシェルとケイトが返ってくる。
「腹空いただろ? すぐに飯の用意するからな。ケイトが」
「えぇっ!?」
 アーシェルに無茶ぶられ慌てるケイトに、皆が笑い声を上げた。

 その日の夜は、ささやかながらも賑やかな宴となった。
 冒険者達のもてなしを心から楽しむ二人に向けアーシェルが声をかける。
「爺さん、ケイトを一人にするんじゃねぇぞ。俺もこいつらもあんたから学びたい事はまだまだある。次に来る時までにくたばってたら承知しないからな」
 そんな言葉に、シンだけでなく冒険者の皆も大きく頷いた。

マスターコメント

この度はシナリオへのご参加ありがとうございました! ケイトの願いを聞き入れ、特別訓練へのご参加ありがとうございました! 結果は大成功! PC様の心と技に、シンとの訓練が少しでも活きていれば嬉しいです。 皆さんのプレイングを拝見してまず思ったのが、NPCの二人の事をとても気にかけてくださっていた事への驚きでした。 皆さんの想いの詰まったプレイングに感動しながら執筆を進めさせていただきました。こんなに二人に対するプレイングを頂けるとは全く思ってなかったので、とても嬉しかったです。 PC様同士の絡みはあまりありませんでしたが、お気に召していただけましたら幸いです。 依頼へのご参加ありがとうございました! 二人と共に厚くお礼申し上げます!
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2020年11月17日 10時34分21秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. カンナ 三木

    おらぁ、ヒーラーのカンナ ミツキっでいうだぁ よろしくおねげぇすっだ んだ、おらは稽古つけてもらうだべぇ

  2. Talara

    ウォーリア、Talara。 老兵、珍しい。挑む、より習う。稽古、良い機会。 よろしく。

  3. ナハシュ

    ナハシュだ。よろしく頼むぜ。 そーだなー、なんか座学?みてえなやつでもうけてみっかな! 何するかはまだ考えてねえけど。面白そうだしよ。

  4. アーシェル・G・クライン

    挨拶が遅くなって悪りぃ。 アーシェルだ。よろしくな。 なんかほっとけねぇ爺さんだな。 ケイトがあれこれと世話を焼きたがるのがわかる気がするぜ。 ケイトの話を聞いてると、シン爺さんはこの世に未練がなさそうだって感じた。 生き甲斐を見つけたら長生きしてやるって気持ちになるかもしれねえ。 体がガタガタなのに長生きしろってのは酷だが、稽古をつけたりチェス出来るくらい体も頭もしっかりしてんだ。 まだまだやれる事はたくさんあんだろ。 それに爺さんが活き活きしてるとこを見てぇってケイトも思ってるだろうしな。 稽古も座学も受けてみてえな。 俺等が本気で挑んだら爺さんを怪我させちまうからしれねぇが、手加減してるってわかったらプライドを傷つけちまう。 利き腕と逆の手を使う、不得意な得物を使う、回避訓練ってことにして避けるのに専念する……なんてのはどうだ? 目隠しして戦うのもいいかもしれねぇな。 俺が勝手に思いついただけで、このやり方を強要するわけじゃねぇぞ。 勘違いさせちまったら悪りぃな。 爺さんはちゃんと飯を食ってんのかも気になるな。 稽古や座学の合間に一緒に飯を食うのはとうだ? 寒くなってきたしスープとか粥とかいいんじゃねぇか。 ……なんて提案したが、俺は料理が全く出来ねぇ。 いつも焦げる。 だから料理出来る奴がいたらメインで動いてくれると助かる。 提案した以上、もしも飯を作るなら手伝うぜ。

  5. アレン・ボールドウィン

    顔出しすんのスッゲェ遅くなっちまったな! 俺はウォーリアのアレン・ボールドウィン。適当によっしく! 体動かす方がしっくりくるんで、とりあえずそっち系で行こうと思ってるぜ。 具体的に何すっかは全然決めてねぇ! 以上! 手短で悪ィが取り急ぎこれだけ!!!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0