【大変動】サウゼル大樹海大変動(カタクリズム) エピローグ

ドン・ゴーフル
よゥ、兄弟。大金星だったなァ! え、何が、だって……よせよせ、全部言うのは野暮ってモンだろ
ドン・ゴーフル
ちっと予想外な土産が多かったが……ゴールディの足元を固めるにはいい機会だ。
時間がかかるかもしれねェが、スーパーでグレートでブラックでクリーンなゴールディになって帝国にカチ込みキメることにするぜ。
そンじゃま兄弟、俺たちの道行きに乾杯と行こうじゃねェか!
それと新入り、てめぇもだ。乾杯!
???
(どこからか、声がする)
……カンパイ。
【大変動】決戦:ゴールディ・デッドライン リプレイと特別褒賞一覧が公開されました!
●
血の臭いと熱のある呼気の臭いとが蒸れて、息がつまるような空気が大樹海に立ち留めていた。
冒険者たちの最後の猛攻を受けた腐緑獣は、逃亡のために自ら役立たずになった尻尾を切り落として生け贄に捧げ、血まみれの首を回した。肉が削げ、不自然に曲がった左後脚を引きずりながら、冒険者たちの雄叫びに追われるようにして大樹海の最奥へ逃げ帰っていく。
勝利が確定したその瞬間、冒険者と各国から派遣されて来た兵士たちが、広い戦場全体に響き渡るような歓喜の声を上げた。
槍が、斧が、剣が、旗が、瘴気の晴れた空に向けて一斉に突きあげられる。
我々は勝利した。
我々は生き残ったのだ。
強大かつ凶悪な敵を前にして多数の義勇兵たちが協力し、死を恐れず進んだ英雄的奮闘がなかったならば、異世界からやって来た超大型クリーパーにうち勝ち、勝利を得ることはできなかっただろう。
種族を越えて、みんなが抱き合い、涙を流して喜ぶ。
――さあ、帰ろう。
ドン・ゴーフルの命で、前線キャンプに伝令がすでに走っていた。
●
冒険者たちの奮闘により守られた前線キャンプのグランドは、宴もたけなわと言った様子で、時折、大きな笑い声や賑やかな音楽が聞こえてくる。
一方、本部二階。ドン・ゴーフル好みに整えられた私室でかわされる声は潜められており、グランドとの対比によって室内の静けさが一層際立っていた。
ドン・ゴーフルは、手の中のグラスを揺らした。
「ひっ捕らえたアダムとかいう野郎、今どうしてる?」
「なにせメドゥの指先の幹部ですから……うちでそれはそれは手厚くもてなしております、ドン」
答えたタ・ロウの顔には、獲物を仕留めに行く獣のような、残忍な笑みが浮かんでいる。
メドゥの指先幹部、『緑の親指』アダムの身柄確保は、冒険者ならびにゴールディとしては歴史的な快挙であり、今後、メドゥの指先に関する貴重な情報源になるだろう。
サチコがドンの背後から目配せすると、タ・ロウは頷いて、自分の手元にあったレポートを差し出した。
「レポートは後でじっくり目を通す。要点だけ聞かせてくれ」
「要点、ですか」
タ・ロウは口をへの字に曲げると、小指の先で眉を掻いた。
見かねたサチコがタ・ロウの横へ回り、レポートの要約を買って出た。
「瘴気纏う腐緑獣ですが、アダムの話ではメドゥの指先幹部【左腕】の関与によりアストラル界に出現したようです。【左腕】は樹海の奥地に存在した古の封印のようなものを解き放ち、アストラル界との境界に開いた裂け目を大きく広げたとか。【左腕】に関しては、アダムはまだ口をつぐんでおりますが……」
「俺が責任を持って、近いうちに必ず口を割らせてみせます」
「無理して殺すなよ。後で俺からも説得してやらァ。他は?」
他にもアダムは、ゴールディに悪い噂――大樹海から沢山の原生動物やクリーパーがやってきて街が滅びる、といったこと流し、人々の不安をあおっていたらしい。同時に、敵対マフィアたちをそそのかし、犯罪を起こさせていたのもアダムの仕業だった。
サチコが暗く笑う。
「ブラックデスから人心が離れれば、ドンのお命を取りやすくなるとでも考えたのでしょうか」
フン、と強く鼻から息を抜いて、ドン・ゴーフルはグラスの中の琥珀色の液体をあおった。
「ハ。役者が違わァな。対立マフィアは精鋭を失った。アダムも捕らえた。――ついでに、捕虜でブラックデスの手勢も増える。上々だ」
「わかりました。ところで、ドン。古ゴブリンたちの処遇は? 今回の捜索でドーンと数が増えましたが、いつまでも前線キャンプで保護するわけには――」
ドン・ゴーフルが睨みをきかせてタ・ロウを黙らせた。
「兄弟たちはこれからブラックデスが面倒をみる。逃げられない限り、ゴールディに迎えたい。サチコ、必要なものをまとめて手配してくれ」
「かしこまりました」
ドンの命令は即時実行。サチコが無駄のない動きでドンの部屋を出ていくと、ドン・ゴーフルは立ちあがって窓辺へ近づいた。
窓の下では勝利を祝う宴が続いている。みんな心から楽しんでいるようだ。
「冒険者たちにはいくら感謝しても足りないくれェだ。早いうちにきちんと礼をしねえとな」
「何か考えがおありで?」
ドン・ゴーフルは、ん、と短く顎を引いただけで、具体的なことをタ・ロウには話さなかった。
背中を見せたまま、暗く沈んだ小梢の向こう、大樹海の上にかかる三日月を眺める。
「あの化け物はいつかまた出てくるだろうな。いつ、何が湧いて出てくるかわからねェ、それが大樹海の定めみたいなもンだ。ゴールディはその時また、世界に助けられるかもしれねぇ。だが、俺たちゴブリンも世界を助ける。なぜなら……」
ドン・ゴーフルは目蓋を伏せると、淡々と自分自身に言い聞かすように呟いた。
「ゴブリンは『ヒト』だ。『ヒト』だからだ」
●
宴が引けて静かになった前線キャンプ。
保護された古ゴブリンたちと白蛇が、焚き木を囲んでスヤスヤと眠っている。
彼らの上を流れ星が、ゴールディへ向かって幾つも飛んでいく。
かつて混ざり物であったゴブリンたちの数百年にもわたる暮らしのなかで、ゴブリンたちが星々のもとで眠る時、月と星は大きな意味を持っていた。流れ星は魂を新しい家へ運ぶ舟……。
ドン・ゴーフルが大脱出を決意した夜も、流れ星が北へ向かって飛んでいた。
執筆:そうすけ
●
深く、深く。大樹海の奥地に、破壊の爪痕が刻まれていた。その只中に、唯一まともに残った頭で荒く息を吐く巨大な生物が横たわっている。
「契約は成る。あなたはしばらく休むといい」
純白を体現したかのような女はぽつりとつぶやいて、その左腕を巨大な生物――腐緑獣の頭部へと埋めていく。煌々たるエーテルの輝きが、その巨体へと複雑な紋様を描き込む。
「来たる聖戦に備えなくてはならない。アダム一人で、あなたを得られたことは僥倖だった」
紋様が一際大きく輝いたとき、そこにはもう、腐緑獣の姿はなくなっていた。それをなした女性、【左腕】は深く息を吐いて遠くを見やる。逃げてきた腐緑獣との交戦、ついでの超術式は、メドゥの指先の大幹部をしても疲弊を隠せない。
「……まがりなりにも超大型。あなたたちも本当によくやった。ゴブリンそれに冒険者。可能性は、まだ開かれているみたい」
それまで無表情だった女の顔に、一片の情が差し込んだ。
「ああ。……ああ。久しぶりに楽しい気分。はやく、会いたい」
女は薄く、儚い笑みを浮かべた。
「……征竜。世界の守護者を気取る、抑圧者」
●
歩むドン・ゴーフルの横顔には疲労の色が濃い。捕虜としたアダムは高位の【授恵者】だけあって屈服させるのに骨が折れる。それでも、もう一息だという手応えはあった。
久方ぶりの休息に身を委ねながら、思う。
大樹海の古ゴブリンたちに、かつてのようなコミュニケーションは見られなかった。
かつての同胞たちを思う。森に残る選択をしたディティ・ク・ラブ、クーク、ジービー、モーリン、グレン、リグディディ、スナーゴブ、シーゴフたち。
彼らとの交歓は200年以上経った今でも覚えている。
けれど、それは途絶えてしまっていた。彼らの知性も、開明的な思想も。
何故か? それを可能とする余裕がゴブリンたちから失われていったからか? いや。彼らの元には白蛇たちがいた。その数も規模も、大森林で細々と生きてきた中では考えられないほどだ。彼らは彼らなりに、生存戦略を達成していた。
残る可能性は――、
ドン・ゴーフルが、彼らのもとからいなくなったこと。
「よう兄弟。腹ァ、減ってねェか」
『!?』
ドン・ゴーフルから人語で話しかけられた古ゴブリンたちは驚愕していた。
何故か届いたその言葉に惑いながらも、頷きを返す。
「ンじゃ、アップルパイをキメるとするか」
野良のゴブリンと伍するほどになってしまったかつての同胞たちの姿に向けた笑顔の裏で、心が軋む。ゴールディに連なるゴブリンたちの今が、正当な進歩ではない可能性が重くのしかかっていた。
特異個体の命脈一つで、道が細るのではないか。
予感はしていた。準備もしている。
――急がねばならない。ゴブリンたちの未来を、途絶えさせるわけにはいかない。
執筆:アルパカコネクト運営
血の臭いと熱のある呼気の臭いとが蒸れて、息がつまるような空気が大樹海に立ち留めていた。
冒険者たちの最後の猛攻を受けた腐緑獣は、逃亡のために自ら役立たずになった尻尾を切り落として生け贄に捧げ、血まみれの首を回した。肉が削げ、不自然に曲がった左後脚を引きずりながら、冒険者たちの雄叫びに追われるようにして大樹海の最奥へ逃げ帰っていく。
勝利が確定したその瞬間、冒険者と各国から派遣されて来た兵士たちが、広い戦場全体に響き渡るような歓喜の声を上げた。
槍が、斧が、剣が、旗が、瘴気の晴れた空に向けて一斉に突きあげられる。
我々は勝利した。
我々は生き残ったのだ。
強大かつ凶悪な敵を前にして多数の義勇兵たちが協力し、死を恐れず進んだ英雄的奮闘がなかったならば、異世界からやって来た超大型クリーパーにうち勝ち、勝利を得ることはできなかっただろう。
種族を越えて、みんなが抱き合い、涙を流して喜ぶ。
――さあ、帰ろう。
ドン・ゴーフルの命で、前線キャンプに伝令がすでに走っていた。
●
冒険者たちの奮闘により守られた前線キャンプのグランドは、宴もたけなわと言った様子で、時折、大きな笑い声や賑やかな音楽が聞こえてくる。
一方、本部二階。ドン・ゴーフル好みに整えられた私室でかわされる声は潜められており、グランドとの対比によって室内の静けさが一層際立っていた。
ドン・ゴーフルは、手の中のグラスを揺らした。
「ひっ捕らえたアダムとかいう野郎、今どうしてる?」
「なにせメドゥの指先の幹部ですから……うちでそれはそれは手厚くもてなしております、ドン」
答えたタ・ロウの顔には、獲物を仕留めに行く獣のような、残忍な笑みが浮かんでいる。
メドゥの指先幹部、『緑の親指』アダムの身柄確保は、冒険者ならびにゴールディとしては歴史的な快挙であり、今後、メドゥの指先に関する貴重な情報源になるだろう。
サチコがドンの背後から目配せすると、タ・ロウは頷いて、自分の手元にあったレポートを差し出した。
「レポートは後でじっくり目を通す。要点だけ聞かせてくれ」
「要点、ですか」
タ・ロウは口をへの字に曲げると、小指の先で眉を掻いた。
見かねたサチコがタ・ロウの横へ回り、レポートの要約を買って出た。
「瘴気纏う腐緑獣ですが、アダムの話ではメドゥの指先幹部【左腕】の関与によりアストラル界に出現したようです。【左腕】は樹海の奥地に存在した古の封印のようなものを解き放ち、アストラル界との境界に開いた裂け目を大きく広げたとか。【左腕】に関しては、アダムはまだ口をつぐんでおりますが……」
「俺が責任を持って、近いうちに必ず口を割らせてみせます」
「無理して殺すなよ。後で俺からも説得してやらァ。他は?」
他にもアダムは、ゴールディに悪い噂――大樹海から沢山の原生動物やクリーパーがやってきて街が滅びる、といったこと流し、人々の不安をあおっていたらしい。同時に、敵対マフィアたちをそそのかし、犯罪を起こさせていたのもアダムの仕業だった。
サチコが暗く笑う。
「ブラックデスから人心が離れれば、ドンのお命を取りやすくなるとでも考えたのでしょうか」
フン、と強く鼻から息を抜いて、ドン・ゴーフルはグラスの中の琥珀色の液体をあおった。
「ハ。役者が違わァな。対立マフィアは精鋭を失った。アダムも捕らえた。――ついでに、捕虜でブラックデスの手勢も増える。上々だ」
「わかりました。ところで、ドン。古ゴブリンたちの処遇は? 今回の捜索でドーンと数が増えましたが、いつまでも前線キャンプで保護するわけには――」
ドン・ゴーフルが睨みをきかせてタ・ロウを黙らせた。
「兄弟たちはこれからブラックデスが面倒をみる。逃げられない限り、ゴールディに迎えたい。サチコ、必要なものをまとめて手配してくれ」
「かしこまりました」
ドンの命令は即時実行。サチコが無駄のない動きでドンの部屋を出ていくと、ドン・ゴーフルは立ちあがって窓辺へ近づいた。
窓の下では勝利を祝う宴が続いている。みんな心から楽しんでいるようだ。
「冒険者たちにはいくら感謝しても足りないくれェだ。早いうちにきちんと礼をしねえとな」
「何か考えがおありで?」
ドン・ゴーフルは、ん、と短く顎を引いただけで、具体的なことをタ・ロウには話さなかった。
背中を見せたまま、暗く沈んだ小梢の向こう、大樹海の上にかかる三日月を眺める。
「あの化け物はいつかまた出てくるだろうな。いつ、何が湧いて出てくるかわからねェ、それが大樹海の定めみたいなもンだ。ゴールディはその時また、世界に助けられるかもしれねぇ。だが、俺たちゴブリンも世界を助ける。なぜなら……」
ドン・ゴーフルは目蓋を伏せると、淡々と自分自身に言い聞かすように呟いた。
「ゴブリンは『ヒト』だ。『ヒト』だからだ」
●
宴が引けて静かになった前線キャンプ。
保護された古ゴブリンたちと白蛇が、焚き木を囲んでスヤスヤと眠っている。
彼らの上を流れ星が、ゴールディへ向かって幾つも飛んでいく。
かつて混ざり物であったゴブリンたちの数百年にもわたる暮らしのなかで、ゴブリンたちが星々のもとで眠る時、月と星は大きな意味を持っていた。流れ星は魂を新しい家へ運ぶ舟……。
ドン・ゴーフルが大脱出を決意した夜も、流れ星が北へ向かって飛んでいた。
執筆:そうすけ
●
深く、深く。大樹海の奥地に、破壊の爪痕が刻まれていた。その只中に、唯一まともに残った頭で荒く息を吐く巨大な生物が横たわっている。
「契約は成る。あなたはしばらく休むといい」
純白を体現したかのような女はぽつりとつぶやいて、その左腕を巨大な生物――腐緑獣の頭部へと埋めていく。煌々たるエーテルの輝きが、その巨体へと複雑な紋様を描き込む。
「来たる聖戦に備えなくてはならない。アダム一人で、あなたを得られたことは僥倖だった」
紋様が一際大きく輝いたとき、そこにはもう、腐緑獣の姿はなくなっていた。それをなした女性、【左腕】は深く息を吐いて遠くを見やる。逃げてきた腐緑獣との交戦、ついでの超術式は、メドゥの指先の大幹部をしても疲弊を隠せない。
「……まがりなりにも超大型。あなたたちも本当によくやった。ゴブリンそれに冒険者。可能性は、まだ開かれているみたい」
それまで無表情だった女の顔に、一片の情が差し込んだ。
「ああ。……ああ。久しぶりに楽しい気分。はやく、会いたい」
女は薄く、儚い笑みを浮かべた。
「……征竜。世界の守護者を気取る、抑圧者」
●
歩むドン・ゴーフルの横顔には疲労の色が濃い。捕虜としたアダムは高位の【授恵者】だけあって屈服させるのに骨が折れる。それでも、もう一息だという手応えはあった。
久方ぶりの休息に身を委ねながら、思う。
大樹海の古ゴブリンたちに、かつてのようなコミュニケーションは見られなかった。
かつての同胞たちを思う。森に残る選択をしたディティ・ク・ラブ、クーク、ジービー、モーリン、グレン、リグディディ、スナーゴブ、シーゴフたち。
彼らとの交歓は200年以上経った今でも覚えている。
けれど、それは途絶えてしまっていた。彼らの知性も、開明的な思想も。
何故か? それを可能とする余裕がゴブリンたちから失われていったからか? いや。彼らの元には白蛇たちがいた。その数も規模も、大森林で細々と生きてきた中では考えられないほどだ。彼らは彼らなりに、生存戦略を達成していた。
残る可能性は――、
ドン・ゴーフルが、彼らのもとからいなくなったこと。
「よう兄弟。腹ァ、減ってねェか」
『!?』
ドン・ゴーフルから人語で話しかけられた古ゴブリンたちは驚愕していた。
何故か届いたその言葉に惑いながらも、頷きを返す。
「ンじゃ、アップルパイをキメるとするか」
野良のゴブリンと伍するほどになってしまったかつての同胞たちの姿に向けた笑顔の裏で、心が軋む。ゴールディに連なるゴブリンたちの今が、正当な進歩ではない可能性が重くのしかかっていた。
特異個体の命脈一つで、道が細るのではないか。
予感はしていた。準備もしている。
――急がねばならない。ゴブリンたちの未来を、途絶えさせるわけにはいかない。
執筆:アルパカコネクト運営