【蠱毒】帝国奪還連動 ディズル編 決戦

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 激しい戦闘が繰り広げられる最中、冒険者たちに護られ、一心不乱に儀式を行うリザードマンの術師たち。
 結界強化作業の進む封印地帯の石垣に、待ち望まれた変化がついに訪れた。
 組み上げられた石材に刻まれた複雑な紋様が、うっすらと輝きだす。
 泥血啜る月吸蟲から十分なエーテルが集められたことにより、ついに結界の強化が完了したのだ。
 リザードマンの術師たちによってエーテルを注ぎ込まれていた石柱を中心にして、光は石垣全体に広がっていった――。

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 チリンチリン――月吸蟲との戦いが激化する封印地帯に、鈴の音が鳴る。
 結界完成の報せを受け、撤退を促す合図だ。

「皆の者! 月吸蟲を封印する結界は、ここに成った! 引き上げるぞ!」
 月吸蟲の攻撃に参加していたレイウェスト・バルダスが大きく声を張り上げると、冒険者たちと友軍であるリザードマンの戦士たちは即座に撤退戦へと移る。
 戦力の中でも特に頑強な者たちが殿を務め、敵を抑える間に、冒険者たちと友軍は次々と戦場を離脱していく。
 月吸蟲の荒れ狂う触手を受け止めていた者たちもやがて、一人、また一人と撤退の列に加わっていった。

「エフレム、動けるか?」
「拙は大丈夫です」
 レイウェストは召喚術により力を使い果たしたエフレムを気遣いながら、結界を成している石垣まで後退を続ける。

「……これが、結界が持つ本来の姿だったのか」
 延々と続いた霧を抜け、目前に姿を現した石垣に、レイウェストは息を飲んだ。
 見渡す限り左右に伸びた石垣は、太陽が雲により遮られた薄暗い湿原を、まばゆく照らし出していた。

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「見ろ! 雲霞鳥どもが帰っていくぞ!」
 ベズイ族集落の至近。弓を携えたターミル族の農民が空を指差し、快哉を叫んだ。
 指差す先に視線を向ければ、指揮系統を失った雲霞鳥たちの多くが、住み慣れた湿地へと引き上げていくのが見える。
 はぐれた雲霞鳥の一部が、集落上空に引き続き残ってはいるが、この程度の数であれば、リザードマンたちの敵ですらないだろう。
 冒険者たちとリザードマンたちは、見事、雲霞鳥による侵攻をベズイで食い止めることに成功したのだ。

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「このたびの月吸蟲攻撃への助力、感謝しよう。思わぬ横槍も入ったが、それも冒険者たちの働きにより退けられた。礼を言う」
 ディズルの大酋長アシムベート・グリオウが、戦を終えて合流したレイウェストに頭を下げる。

「なに、これも多くは冒険者の力によるところ。それにこの先、世話になるのは私の方だ。約束通り、帝国奪還への出兵をお願いしたい」
 もともと、レイウェストが月吸蟲への攻撃に参加したのは、ディズル大湿地帯のリザードマン兵を帝国奪還へ借り受けるためだった。
 レイウェストは早速、今後の帝国奪還に向け見通しを立てようとする。

「いいだろう。ただし、儂らリザードマンは寒さに弱い者も多い。出兵は少なくとも山脈の寒波が和らいでからとなる」
 大きく頷いたアシムベートであったが、その返答には、リザードマンの種族的な制約に基づく条件が付け加えられていた。
 帝国の冬は寒く、長い。暦の上では既に春とはいえ、彼らが本来の力を発揮できるほどに気温が上がるのは、もう少し先のことになるだろう。
 だが幸いなことに、雲霞鳥による被害が拡大する前に手を打てたお陰で帝国出兵時の兵糧は十分に確保できるはずだとアシムベートは言う。
 それを聞いたレイウェストも、なるほど、と頷き返し、条件を踏まえた帝国奪還計画を頭の中で練っていく。

「そういえば、そなたのほうの戦いの顛末はどうであった? こうしてそなたが大事ないのは分かるが」
「ラスリャマスの奴めは逃がしたが、奴めに実験台にされておった少年は無事に元の姿に戻ったさ」
 ふと気になったような様子でレイウェストが尋ねた質問に、アシムベートが答える。
 冒険者たちによって保護されたターミル族の少年ディノは、幸い、命に別状はないらしい。

「とはいえ、多くの同胞の命を奪ったラスリャマスの奴めは、決して許されぬ。奴めは、いつか必ず討たねばなるまい」
 奥歯をぐっと噛みしめながら、アシムベートは空を仰ぐ。
 アシムベートの瞳が見つめていたのは、メドゥの指先幹部ラスリャマスが飛び去った方角であった。

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「儀式が不完全であったとはいえ、肉体の不可逆的な変化すら起こっていなかったとはな……」
 大湿地帯の上空を切り裂くように飛翔するラスリャマスが、誰に向けるでもなく呟く。
 戦端が開かれた際にアシムベートへああは言ったが、もともとラスリャマスの組み上げた理論においては、儀式を終えたディノの肉体は本質的に変容を遂げているはずであった。
 いったい、何を間違えばこのような結果が起こるのか――。

「これも全て、冒険者どもの邪魔立てのせいだ。ええい、忌々しい」
 ラスリャマスは、自らの進路を阻むように飛んでいた雲霞鳥の群れを、八つ当たり気味に光弾を放って撃ち落とした。
 すると、宙を往くラスリャマスの軌道がふらつきだす。

「せっかく生贄から集め、蓄えていたエーテルを大きく消費してしまった……この借りは必ず返してくれようぞ、アシムベート」
 高度を落とし、やがて湿原へと降り立ったラスリャマスは、自らの墜とした雲霞鳥の死骸を踏みつけ、ぐしゃり、と音を立てた。

(執筆:空色みなも)

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「殿下の護衛で忙しかろうに、すまぬな」
「……いえ。兄者の御用とあれば。それで、用とは」

 戦後処理の最中ではあるが、その合間を縫ってアシムベートは自身の居宅へとエフレムを呼びつけた。夜も深いが、部屋の片隅にはアシムベートが持ち帰った大量の書簡や木簡が積み上げられている。エフレムは茫とそれらを眺めたうえで、アシムベートに向き直ると、どこか居心地の悪そうなアシムベートの姿が目に入る。
 しばし、沈黙が落ちた。
 中央の敷物に腰を下ろしたアシムベートは、自ら盃に注いだ酒を呷るようにして飲み干すと、エフレムが対面に座すのを待ち、
「聞きたいことがある」
 と、切り出した。
「帝国の事変の話は聞いている。レイウェスト殿下が唯一の遺し胤であるとのこともな。……で、あるならば」
「ええ。他の皇族はただの一人も見つかっておりませぬ」
「……そうか」
 エフレムには珍しく、配慮のある言葉だった。一護衛騎士に過ぎなかったエフレムは全容を把握していないが、アシムベートが足繁く帝国に通っていたことに事情があったことは理解している。しかし、それを――その名をアシムベートが告げてしまえば、分水嶺を超えてしまう。かつての們であり、現在の主の同盟相手であるアシムベートの立場を守るためには、こうせざるを得なかった。
「そなたも、辛かろうな」
「いえ……」
 アシムベートも解っているのだろう。故に、それ以上を互いに踏み込むことはなかった。
 エフレムは小さく頭を垂れる。
「兄者。殿下を、お頼みします」
「は。何を言う。そなたを含め、儂らは此度の助力に応じるまでだ。それに……この世で最高の戦場となるであろうよ。否やもない」
 一見すると剛毅に笑っているアシムベートの表情はどこか精彩を欠いていた。エフレム自身、表情を喪って久しい。どこか空虚なやりとりは、今の二人にとって最大限の交誼の形でもあった。
「しかしあの頑固者が変わったものだ。我らの頼みとはいえ、主の危険も顧みずに応じるとはな」
「願いを、受けましたゆえ」
「……であるならば、儂らは殿下になお深く、感謝をせねばならんな」
 アシムベートは言葉とともに盃を掲げると、エフレムもまた小さく器を掲げ、静かに酒を飲み始めた。
 夜は静かに更けていく。呟きのような言葉が生まれては、夜の帳に吸い込まれて消えていった。

(執筆:アルパカコネクト運営)
【蠱毒】帝国奪還連動 ディズル編1/2/決戦特設/エピローグ/特別褒章
アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0