【蠱毒】帝国奪還連動 ディズル編

ハリス・アル・ターミル
どうやら、大湿地帯に巣食う大型級クリーパー……『泥血啜る月吸蟲』への攻撃が行われるそうです。
大湿地帯で暮らすリザードマンの兵が帝国奪還に力を貸す前に、かのクリーパーの封印を強固にしておく狙いがあるのでしょう。
私達、冒険者にも助力が求められています。
将来に実を成す種を蒔く、今がその時なのかもしれませんね。
ディズル大湿地帯のリザードマンたちに動きがあるようです――
(2月13日 【蠱毒】関連シナリオリリース開始!)
●
稲作が盛んなディズル大湿地帯の一部地域には、稲穂は実るほど頭を垂れる、と説く成句があるという。
成長した稲が実の重みでしなる様子になぞらえて、成熟した者ほど姿勢は謙虚で、頭も下げるものだ、と戒めているわけだ。
――しかしここ最近、頭を下げてばかりだな。
亡国となったシルトラース帝国の皇子レイウェスト・バルダスは思う。
崩壊した帝国領土を人の手に取り戻すため、レイウェストは各国を奔走し、その協力を取り付けるべく頭を下げてきた。
「どうか、そなたらの力を貸して欲しい」
そして今もまた、レイウェストは頭を下げていた。
皇族であるとはいえ、他者に対して低姿勢になることは厭わない。
しかし、自身の力だけでは大義を果たすことができず、助けを乞うことしかできないのは、少し悔しい気持ちがどこかにはあった。
「儂らは帝国との誼もある。勿論、構わんさ。ただし――」
「条件がある、と」
ディズル大湿地帯の中でも武威に優れたギシュム族の大酋長、アシムベート・グリオウの答えを、レイウェストが引き継いだ。
レイウェストが新たに協力を取り付けようとしていた相手は、ディズル大湿地帯のリザードマン達であった。
元々、レイウェストがアシムベートに打診した内容は次のようなものだ。
ディズル大湿地帯のリザードマンの兵を帝国奪還のために供して欲しいということ。
帝国の冬は厳しいため、その進軍は春以降の話になるということ。
金銭的な報酬の目途はたっており、また、リザードマンの戦士として魂を磨くために相応な戦場を提供できるということ。
これらを約束するにあたり、アシムベートはさらに条件を加えるつもりらしい。
もとより、レイウェストは自分に出来ることであれば、なんだってする心積もりでここまで来た。
レイウェストが覚悟を決めてその条件とやらを聞き出すと――。
「帝国領内への進軍を見合わせておる冬の間、儂らが行う『泥血啜る月吸蟲』への攻撃に力を借りたい」
ここでアシムベートが持ち出した『泥血啜る月吸蟲』とは、ディズル大湿地帯のリザードマン達を長きにわたり苦しめている、大型級のクリーパーのことである。
ディズル大湿地帯の一角に押しやり、周囲に封印を施すことで閉じ込めてあるはずだが――。
「あやつを閉じ込めている封印は、たびたび強化してやる必要があるのだ」
アシムベートによると、なんでも『泥血啜る月吸蟲』はその場に存在するだけで周囲のエーテルを乱していき、封印も侵食していくらしい。
現に新暦1044年には封印が破られ、当時のリザードマン達が多大な犠牲を払って再封印を行ったのだという。
なので、定期的に『泥血啜る月吸蟲』に攻撃を加えてその力を弱めると共に、その際に漏れ出るエーテルにより封印の強化を施すのだとか。
「……しかし、次の攻撃は本来であれば五年後では?」
「そうなのか、エフレム?」
ここで、それまで黙って成り行きを見守っていたエフレムが、重々しく口を開いた。
レイウェストは、自らの護衛騎士であるエフレムに、事実の確認を行おうとする。
「ああ、エフレムの言う通り。元々十年ごとに攻撃していて、前の実施からまだ五年だ」
それをアシムベートが先にあっさりと認めたため、エフレムは再び口をつぐんでしまった。
「それは帝国奪還に兵を貸す分、防備が薄くなることへの備えということもあるが……」
アシムベートはそこで一瞬、言い淀んだ。
「どういうわけか、このところ封印の綻びが急速に進んでおるように感じる。恥ずかしながら、部族によっては、封印を管理する儂らギシュム族の管理責任を追及するような向きもある」
やがて意を決したように話し出したアシムベートの話が確かだとすると、実際『泥血啜る月吸蟲』への攻撃を急ぐ必要があるだろう。
「わかった。そういうことであれば、うってつけの者達が居る――冒険者、だ」
冒険者ギルドは帝国崩壊に関する依頼に主体的に対応するよう取り決めがなされている。帝国奪還に向けてリザードマン達の協力が必要不可欠である以上、『泥血啜る月吸蟲』への攻撃にも協力は惜しまないだろう。
今回もきっと、冒険者達は心強い助けになってくれるはずだ。
「勿論、それだけでなく私も攻撃に加わろう。『泥血啜る月吸蟲』は湿原のどこに居るのだ?」
封印強化への協力を約束したレイウェストが何気なく『泥血啜る月吸蟲』の居場所を聞くと――。
「それは――今から探す」
「え?」
アシムベートの思いがけない回答に、レイウェストは思わず聞き返してしまった。
そう。封印地帯はあまりに広大なため、その中で移動する『泥血啜る月吸蟲』の現在位置は儀式のたびに確認せねばならないのだ。
●
ここはディズル大湿地帯のどこか。
天幕で覆われた暗がりの中に、大きな卵がズラリ、と並べられている。
「まだ足りぬ、な」
それを眺めていたローブ姿の影が、ポツリと呟く。
そのフードからは、リザードマン特有の角が突き出ていた――。
執筆:空色みなも
稲作が盛んなディズル大湿地帯の一部地域には、稲穂は実るほど頭を垂れる、と説く成句があるという。
成長した稲が実の重みでしなる様子になぞらえて、成熟した者ほど姿勢は謙虚で、頭も下げるものだ、と戒めているわけだ。
――しかしここ最近、頭を下げてばかりだな。
亡国となったシルトラース帝国の皇子レイウェスト・バルダスは思う。
崩壊した帝国領土を人の手に取り戻すため、レイウェストは各国を奔走し、その協力を取り付けるべく頭を下げてきた。
「どうか、そなたらの力を貸して欲しい」
そして今もまた、レイウェストは頭を下げていた。
皇族であるとはいえ、他者に対して低姿勢になることは厭わない。
しかし、自身の力だけでは大義を果たすことができず、助けを乞うことしかできないのは、少し悔しい気持ちがどこかにはあった。
「儂らは帝国との誼もある。勿論、構わんさ。ただし――」
「条件がある、と」
ディズル大湿地帯の中でも武威に優れたギシュム族の大酋長、アシムベート・グリオウの答えを、レイウェストが引き継いだ。
レイウェストが新たに協力を取り付けようとしていた相手は、ディズル大湿地帯のリザードマン達であった。
元々、レイウェストがアシムベートに打診した内容は次のようなものだ。
ディズル大湿地帯のリザードマンの兵を帝国奪還のために供して欲しいということ。
帝国の冬は厳しいため、その進軍は春以降の話になるということ。
金銭的な報酬の目途はたっており、また、リザードマンの戦士として魂を磨くために相応な戦場を提供できるということ。
これらを約束するにあたり、アシムベートはさらに条件を加えるつもりらしい。
もとより、レイウェストは自分に出来ることであれば、なんだってする心積もりでここまで来た。
レイウェストが覚悟を決めてその条件とやらを聞き出すと――。
「帝国領内への進軍を見合わせておる冬の間、儂らが行う『泥血啜る月吸蟲』への攻撃に力を借りたい」
ここでアシムベートが持ち出した『泥血啜る月吸蟲』とは、ディズル大湿地帯のリザードマン達を長きにわたり苦しめている、大型級のクリーパーのことである。
ディズル大湿地帯の一角に押しやり、周囲に封印を施すことで閉じ込めてあるはずだが――。
「あやつを閉じ込めている封印は、たびたび強化してやる必要があるのだ」
アシムベートによると、なんでも『泥血啜る月吸蟲』はその場に存在するだけで周囲のエーテルを乱していき、封印も侵食していくらしい。
現に新暦1044年には封印が破られ、当時のリザードマン達が多大な犠牲を払って再封印を行ったのだという。
なので、定期的に『泥血啜る月吸蟲』に攻撃を加えてその力を弱めると共に、その際に漏れ出るエーテルにより封印の強化を施すのだとか。
「……しかし、次の攻撃は本来であれば五年後では?」
「そうなのか、エフレム?」
ここで、それまで黙って成り行きを見守っていたエフレムが、重々しく口を開いた。
レイウェストは、自らの護衛騎士であるエフレムに、事実の確認を行おうとする。
「ああ、エフレムの言う通り。元々十年ごとに攻撃していて、前の実施からまだ五年だ」
それをアシムベートが先にあっさりと認めたため、エフレムは再び口をつぐんでしまった。
「それは帝国奪還に兵を貸す分、防備が薄くなることへの備えということもあるが……」
アシムベートはそこで一瞬、言い淀んだ。
「どういうわけか、このところ封印の綻びが急速に進んでおるように感じる。恥ずかしながら、部族によっては、封印を管理する儂らギシュム族の管理責任を追及するような向きもある」
やがて意を決したように話し出したアシムベートの話が確かだとすると、実際『泥血啜る月吸蟲』への攻撃を急ぐ必要があるだろう。
「わかった。そういうことであれば、うってつけの者達が居る――冒険者、だ」
冒険者ギルドは帝国崩壊に関する依頼に主体的に対応するよう取り決めがなされている。帝国奪還に向けてリザードマン達の協力が必要不可欠である以上、『泥血啜る月吸蟲』への攻撃にも協力は惜しまないだろう。
今回もきっと、冒険者達は心強い助けになってくれるはずだ。
「勿論、それだけでなく私も攻撃に加わろう。『泥血啜る月吸蟲』は湿原のどこに居るのだ?」
封印強化への協力を約束したレイウェストが何気なく『泥血啜る月吸蟲』の居場所を聞くと――。
「それは――今から探す」
「え?」
アシムベートの思いがけない回答に、レイウェストは思わず聞き返してしまった。
そう。封印地帯はあまりに広大なため、その中で移動する『泥血啜る月吸蟲』の現在位置は儀式のたびに確認せねばならないのだ。
●
ここはディズル大湿地帯のどこか。
天幕で覆われた暗がりの中に、大きな卵がズラリ、と並べられている。
「まだ足りぬ、な」
それを眺めていたローブ姿の影が、ポツリと呟く。
そのフードからは、リザードマン特有の角が突き出ていた――。
執筆:空色みなも