そして明日を夢に見る

七海真砂

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シナリオID:3514

オープニング

 元『預言の魔女』オペラは、ロスガリア大陸を東から西へと横断する旅を経て、シグモル火山帯を訪れていた。
「ここが『はじまりの丘』と呼ばれた場所なのじゃな」
 かつて緑多き大地であったと言い伝えられている火山帯の一角を、オペラは歩いていた。敬愛する『かみさま』の息吹が、少しでも感じられるかもしれないと、そう思っての事だったが……。

 神々との結びつきが強い、とされるこの地を訪れてみても、何かが変わることは無かった。

(じゃが、そんなことは『わかっていた』ことじゃからな)
 滅国の皇妃(イダ・バルダス)に『たべられて』しまったという『かみさま』が、無事だとはオペラも思ってはいない。それでも……それでも、オペラは今もときどき夢を見る。
 自分に関する狭い範囲のことだけ、ではあるけれど、その夢は確かに予知夢で。昔と同じように、オペラのことを危険から守ってくれている。――だからきっと。何もかもが消えてなくなったわけでは無いのだと、そうオペラは信じていた。

 いつかまた、その日が来るまで旅を続けよう。
 そうして誰かの力になることを、きっと『かみさま』は喜んでくれるはずだから。

●そして明日を夢に見る
 神殿のひとつに宿を借りたオペラは、その夜、ゆめをみた。
 ああきっと、夢を見ているのだと自覚したオペラの夢の中に、現れたのは――。

解説

 みなさんは、オペラの夢の登場人物です。  これからオペラが見るのは、ただの夢。明日からその先をちょっとだけ夢に見るようです。  ささやかな未来、少しだけ先の未来、ずっと先の未来。もしかしたら、本人じゃなくて子孫とかが現れることもあるのかもしれません。  どのくらい先の未来に、どんな風に過ごしているのか、よろしければプレイングにお書きください。

マスターより

 こんにちは、七海真砂です。  みんなで一緒に夢を見るシナリオです。  よろしければ、ご参加、お待ちしております。

リプレイ

(代筆:桃谷かな)

「やあ、オペラ殿。これは預言でなくただの夢だから、気負わず楽に見ていくといいのだ」
 ここはサウゼル大樹海だろうか。オペラとストレガ・L・リベルガストラは、空を飛んでいた。
「少し先で正夢になるかもだが、未来は誰にも解らぬものだ」
「ただの夢であれば、そうであろうな」
 下を見れば、木々の間で忙しなく動くゴブリン達が見える。ゴールディのゴブリン達の先祖が生まれた『始まりの地』が、今は史跡として保全されているのだと言う。
「私は、ゴールディ最大勢力の顧問の一人であったのだ。同胞たちをより平和な時代へ導くこと。『ストレガ(記録するもの)』の名のもとに資料を遺し、未来へ紡ぐ歴史とすること。それが生前の私の使命であったのだ」

 二人は空を滑り、ゴールディを目指した。景色が凄まじい速さで流れ行く。

「いずれマフィアは時代錯誤な存在となる……私はそう考えていたのだ」

 マフィアによる統治から、議会政治の実現と、軍隊や公的な治安維持組織の設立へ。マフィアは政策を掲げる派閥のような存在へ。

 美しき街並(ゴールディ)を見つめながら、ストレガは言う。
 そのうち、『世話係(名もなき小鬼)』もひょっこり帰って来るのだろう――と。


 瞬きする間に、夢の舞台は移る。

「カイン兄ちゃん、この字の書き順は?」
「ここが綺麗に縫えないの」

 食卓に集い、各々に学ぶ孤児院の子ども達。歩き回りながら指導しているのは、カイン・ステラだった。
 次は料理を教える時間。そっと声を掛けてきたのは、少し前に授恵者だと判明した少年だった。
「俺……やっぱり進路、悩んでて」
「そうだよな……。今は授恵者はギルドに必ず登録する必要とかないし、ゆっくり考えてもいいと思う」
 授恵者として働く方が稼げると言う者もいるだろう。だが、先輩授恵者として、現役冒険者の一人として、カインは必ずしもそれが正解だと思っていない。彼の人生は、彼のものだ。
「カイン兄ちゃん、手紙だよ!」
 少し心が軽くなった少年とカインの間に、一通の手紙が差し込まれる。恋人か、婚約者かと騒ぐ子ども達の頭を撫で、カインは「内緒だ」と笑ってみせた。

(もし、結婚したいと思うほど誰かを好きになって結婚して、家庭を持って……また失ったら、俺はもう耐えられない)

 手紙を見つめ、友人の幸福な姿を思い出せば嬉しさも感じる。けれど、胸の内に渦巻く恐怖心を無視できない。
 それに――、

(……今だって結構幸せだからな)

 子ども達にもみくちゃにされながら、カインは台所へと歩を進めていった。


「なあ、カインに手紙出しといてくれたか?」
「先月出したよ? 秋には会いに行くってにゃあぁぁーーーッッ!?」

 街道沿いの、宿屋の一室。朝の身支度をしながら振り返ったハヤト=ガラン=ヴォルファングの目の前で、木炭を手にした3歳ゴブリン男児と5歳エルフ女児が壁に芸術を爆発させていた。妻のサフィラ・アズラク・ヴォルファングもまた、それを目にして絶叫しながらフリーズする。
「こらーっ! ちゃんと拭きなさいっ!」
 母に叱られ、ごめんなさーい! と口にしながら父の背後に隠れる姉弟。
「しょうがねぇな~。ホラ、父ちゃんも一緒に拭いてやっからよ」
「も~、ハヤトは甘すぎるよっ!」
 三人まとめてサフィラに叱られるのも、最近では日常の一部だ。朝っぱらから皆で壁を擦り、ヘトヘトになって原状回復。かと思いきや下の子が廊下に飛び出し、捕まえて部屋に戻した隙に上の子が椅子に躓いて転倒、号泣する。
 もはや親の身支度どころではない。ほぼ毎日こんな感じだ。

 結婚して数年。冒険者時代(あの頃)より穏やかで平穏なファミリーライフ――とはいかず。夫婦は、やんちゃで甘えん坊な二児を連れ、ブレイブファング傭兵団の仲間達と大陸中を移動する日々を送っている。
 
「夏までは王国だよな? コルネとディレインにも手紙送っとくか」
「そだねー。コルネんとこ、急に尋ねるって良くないお宅だし。ディレインは学校に戻ってる時しか会えないもんね」
「んで、そっからカインとこ行って……。ローレラウラ(ヴィナスんトコ)はいつ寄れっかな。レピドはリブラネスタか」

 傭兵稼業も、育児をしながらの旅も、決して楽ではない。それでも、大陸中を回っている限り、たまには懐かしい友人達と会って近況を語り合うこともできる。それは二人にとって――一家にとって、とても大切な時間なのだ。

「かーちゃん、抱っこ!」
「あたしも!」

 ハヤトの尻尾で遊んでいたかと思えば、急に甘えん坊になって抱っこをせがむ。
 結婚していなければ、また放浪してフィールドワークをしていたのだろうか……そんな『もしも』を想う日だって、サフィラにはある。けれど。
 
「……ありがと、ハヤト。愛してるよ」
「ん? おう、俺も愛してるぜ! いつもありがとな」
 微笑む妻を、そっと抱き寄せて。ハヤトもまた、愛を囁いた。


「先生、ありがとうございました!」
 筆記用具と医学書を抱えた学生達が行き交い、すれ違った教師らしき男へ講義の礼を述べる。男がくぐった教職員室の扉の上には、王国貴族クレビオン伯爵家の家紋が掲げられていた。

「いやぁ、最近は夕方になると文字が霞んじゃってね。次に帰った時は、講義は昼までにしてもらおうかな」
 50代のディレイン・オールドケイジが言えば、教職員達の表情に笑みが浮かぶ。だが冗談ではない。ここ数年は夜間の読書や研究も老眼の壁に阻まれるし、白髪も随分増えた。授恵者であり、一人でも多くを救うべく遍歴医として医療資源の乏しい地域を旅している関係上、普通のおじさんよりは動けるおじさんだが、さすがに衰えは感じる。

「先生、宿舎に何着か仕事着(教師らしい服)を届けたと伯爵から」
「えぇ~? 一着でも十分なんだけどな、おじさんは」

 この医学校を設立した伯爵(養父の甥)は、各地で集めた症例を持って教鞭をとりに戻って来るディレインが威厳ある教師に見える(ちゃんとした服を着る)よう、気を払っているようだ。
 滞在中、一緒に食事でもしようかな――そんな事を考えながら、ディレインは明日の講義のために資料を作り始める。


 大都市リブラネスタ。街の景色は、オペラが知るものとは少し違う。
 その郊外の小さな家で、レピド・クロサイトは一人、日記を整理していた。二度目の生を受けてからの日記は、小さな棚をはみ出すほどに冊数が増えている。

「先生!」
「どうした?」
 レピドは立ち上がった。孤児院と呼ぶにはまだ小さい、この『家』で共に暮らしている孤児の声だ。

「子猫が木から降りられなくなってる、助けて!」
「……子猫が?」
 外に出てみれば、他の孤児達もレピドを呼んでいる。
 なぜだろう。この景色を、この状況を、見た事があるように思うのは。

 連れていかれた先で、高い木の上で鳴いている子猫が目に入った。
(キジトラか……)
 今はもう居ない、相棒を思い出す。レピドは授恵者の身軽さで木を登り、あっという間に猫を抱えて地面を踏んだ。

「ほら、母さん猫が待ってるんじゃないか」
 草の上に下ろされた子猫は、レピドの言葉に反して一切その場を動こうとしない。孤児を連れて家に向かえば、アタシもよ、と言わんばかりについてくる。

 あの日によく似た、夏の日差しの下で。
 困り顔のレピドに持ち上げられた子猫はとてもよく伸びて、満足そうにミャーンと鳴いた。


 華やかに飾り付けられた校門を、少し緊張気味に表情を引き締めた若者達がくぐって行く。
 1234年のこの日、アーダベルト商会は、商人や職人向けの養成学校を開校した。
 学ぶためには二足、三足の草鞋を履く若者も少なくない。選択授業制や夜間コースの設置、講義支援金制度は想像以上に好評で、既に来年の入学希望まで届いているとか。交換留学制度を導入したのも、人気の理由だろう。

「まだアーダベルト商会とその取引先向けではあるけど、広まってほしいものだね」
 開校式に向かう新入生を眩しそうに眺め、ヴィナスは言う。

「技術や知識は見て盗め」は勿論大切な事だが、誰かに教わる事で花開く才能を取りこぼすのは損失に等しい。
「育成部門はここからがスタートだ、今後は奉仕活動事業部門とも結びつけていきたいね。新商品の企画や開発もしたいし……忙しくて楽しいな」
 
 ヴィナスは一度、全てを捨てた。冒険者として活動していなければ、それらを取り戻そうと思いはしなかっただろう。そして実際、取り戻して今の自分がある。
「――だから、今も副業冒険者なんだよね」
 そんな商人や職人だって有りだ。それを若者達に伝えていければ良いと、ヴィナスは思う。


「今帰ったよ。馬車を降りた所で通り雨にやられちゃってね」
「おかえりなさい、あなた。今、拭くものを持たせるわね」
 ローレラウラに在る邸宅の門前で、夫の帰りを今か今かと待っていた妻が、顔を綻ばせて邸内へと駆けていく。
 魔獣退治を終えて帰宅した青年は、メイドに抱かれて邸宅の窓から顔を覗かせた乳児――我が子を見つけて、片手を振った。

(今回の依頼人は帝国の新興商会か。商会(ウチ)からコンタクトを取ってみようか……)
 ルーンス・ラグネル(ヴィンス・アーダベルト)の子孫、ウェマード。アーダベルト商会の次期会頭である彼が冒険者を副業とするのは、商人として見識を広げるため。時には、有益な出会いも転がり込んでくる。妻との最初の出会いも、依頼を通じての事だった。

 チラリと見遣った先では、昔――帝国事変の頃に商会で起きた『お家騒動』の名残と言われる離れが、寂しげな姿を晒している。

「今日も頑張ろう」

 経済は血流。循環するものであるからこそ、社会への還元もまた必要だ。顧客を選ぶのではなく、顧客を作るには――己の見識を磨かなければならない。それが、代々受け継がれてきた教えだ。
 今日のウェマードは本職の商人。まずは、あの帝国の商会について調査が必要そうだ。


 華美ではないが質の良い調度品が配されたその部屋には、窓際に飾られた花の香りが満ちていた。

――あの頃(冒険者)の私を覚えているひとは、もう居ません。

 コルネリウス・アーラ(赤い髪のエルフ)が握るペンの先が、穏やかに言葉を紡ぎ出す。

――最初は、とても寂しかった。

 彼女は、長命種(エルフ)だから。
 覚悟はしていた。それでも。忘れられぬ記憶を枷に独りで生きるのかと、絶望を感じなかったかと言えば、嘘になる。

――けれど、私にはただひとり愛した人や、皆が遺してくれたものがある。
――かつてと大きく変わった世界の常識に、彼らの血を継いだ子孫たち。

 心の宝石箱を開ければ。共に歩んだ年月が、愛に満ちた日々が、幸せでいっぱいの思い出が、瞼の裏に浮かんでくるから。

――彼らがいつか私の事を語り継がなくなったとしても、私は貴方達のことを知っている。

 命が続く限り、ずっと護っていくと誓ったから。

――貴方達が危険な時は身を呈して護ります。

 胸の内の宝石達は、コルネリウスの命が尽きるその日まで輝き続ける。
 コルネリウスが、笑顔で居られるように。護るべき者達へ、幸せを運んでいけるように。

――創り上げてきた歴史は、こうして書に記し、残していきます。



(代筆:紀藤トキ)

 エドゥノーグダンジョン、下層。五年後くらいだろうか。バクル・バスリーは小さな集団の先頭を歩いていた。その胸には、希少金属の記章が輝いている。探索者と呼ばれる面々の中でも、バクルの一党は上級者に入っていた。目指すはこの底知れぬダンジョンの最奥だ。もし果てが存在するならば踏破を。叶わぬとしても前人未踏の階層攻略を目指して今日も歩んでいる。

「頼むよ、相棒」

 掛けられた言葉に、物言わぬ得物がギラリと輝き応えたように見えた。どうやら、好きが高じて制作にも手を出すようになった成果の一つらしい。

「大型三、小型二。どうする?」
「大丈夫、守りは任せて」

 囁くような斥候の声に、自信を込めて頷く。以前であれば、引っ張ってくれる仲間も居た。けれど、今のバクルはもはや少年ではなく、一人のベテラン探索者だ。その言葉が、行動が仲間を鼓舞する。

「よし、行こう」

 応、と返る気合いを背にバクルが大きく踏み込み、その勢いに弾かれるように視点が離れていく。


 そこから時はそのままに、オペラの視点は少々離れた居住区へ。ふわりふわりと舞い落ちる桜の花びらを愛でながら、ルルト・アーキスとアルバス・ロウルが再会を祝していた。

「この仔はね、シロの子どもで名前はチャコだよ」
「シロの子?! まだ小さいな。触っても大丈夫か?」
「ふふ、驚いた? ちょっと臆病だからそっとね」

 ルルトの今の相棒に、目を丸くしつつアルバスが手を伸ばす。かつての相棒と離れた間に、色々あったのはお互い変わらないようだ。

「縁があって最近またパーティを組んだんだ。それでね、冒険の拠点をこの街に移そうと思って」

 優しく撫でていた手を戻し、アルバスが頷いた。分かれたときにはまだ青さの残った風貌も、立派な大人に変わっている。

「ここならいろいろ紹介できる所もあるから、遠慮なく頼ってくれ。拠点はパーティー全員での引っ越しか?」
「ありがと。うん、その予定。今度、紹介するね。アルバスは、どう?」
「今は専属で傭兵をしている。外出時の護衛が主な仕事だ」
「専属の傭兵かぁ、すごいね。ボク達の力が必要になったら遠慮なく声かけてよ」

 離れていた時間で感じる隔たりはすぐに消え、しかしその間に互いが積んだであろう経験には感じ入る。分かれたときにはまだ青さの残ったアルバスの風貌は立派な大人に変わったものの、ルルトの容姿はあの時と変わらない。覚えていたままの笑顔で、にっこりと微笑んだ。

「そうだ、今度、ボクの仲間を鍛えてあげてくれない? いい子だけど少し危なっかしいんだ」
「いいとも。みっちり鍛えてやろう」

 変わらぬ信頼に嬉しさを感じて頷きつつ、後輩を気遣う様子に成長を感じてアルバスはしんみりとする。

(もうすっかり大人だな)

 歩む道が異なろうとも、互いを大切に思う気持ちは変わりなく。アルバスはルルトの今後の幸いを心の中で祈り、ルルトはアルバスの変わらぬ頼もしさに破顔した。桜の花びらに乗るように、ふわりとまた視点が動く。

 少しだけ、時が動いた。立派に成人した様子のパルドとウォーゼルの姿からすれば、10年ほど後だろうか。身寄りの無い子供達の相手をする二人が見えた。かつて自分達を育ててくれた孤児院を、高齢となった院長から引き継ぐことにしたらしい。

「今の一撃はいい感じだったぞ。でもその後の受け身が危なっかしいな。もう一度やってみよう」
「は、はい! お願いします!」

 立ち上がる少女に、パルドは頷き返す。少し離れて立つウォーゼルも実践派ではあるが、今日は細かい動き方を指導していた。

「うん、上手にできてるね」
「でも、うまく鞘にもどせなくって……」
「ここはこうするともっと良くなるよ」

 自分では使わない大きな武器の扱いも、かつて誰かが扱っていた様子を思い返しつつ動かしてみせる。二人に憧れて軽戦士を目指す子も多いのだが、もっと体格の良い子達もいるのだ。二人で孤児院の今後などなんやかやと相談する夜になれば、それが嬉しいことでもあるが、愚痴の元にもなる。

「みんな大きくなったな。食費がやばい」
「ふふ、みんな育ち盛りだからねぇ」

 応じたウォーゼルが視線を向けるも、日中に遊んでくれない事が不満なのかチョコとショコラが書類の前から動かない。仕方が無いので撫で回して機嫌を取りつつ、ちらりと数字を確認すればやはり分かりやすく食費が上がっていた。いっそ子供達の訓練を兼ねて魔獣でも狩ってくるか、とパルドが言えば、ウォーゼルもそれは良いと頷く。サイズからして戦闘向きでは無いチョコとショコラも、お出かけならば大歓迎とばかりに声を上げた。それからも眠りに就くまで、子供達の話は尽きることは無い。

「あいつ強くなったし、狩りに行って大丈夫なら、冒険者登録できそうかな」
「うん、そうだね。今度、本人に聞いてみよう。あ、そうそう、先月、卒院した子から手紙が届いたよ」
「そうか。手紙一つでも嬉しいもんだな」

 ウォーゼルから見せられた手紙を手に、パルドが破顔する。孤児達に読み書きを教えるのは大変だったが、苦労が報われたと清々しい顔をしていた。これからも、二人で支え合いながら生きていくのだろうと、思ったところでまた視点が浮き上がる。

 広がる木々の中、ぽっかりと開いた空間は、かつて世界樹と呼ばれた存在がいた場所だ。世界の危機に際して力を託して消えた跡地へ、アルフィー・リッパーとネーヴェ・グラヌローザは子供を連れて再訪していた。かつて埋めたタイムカプセルを掘り起こすのが目的だと言う。

「ネネ、疲れていないか? 喉は渇いていないか?」

 妻を気遣うアルフィーの視線が、ときおりネーヴェのお腹へと向かう。まだ少し膨らみの分かる程度であるが、どうやら新たな生命が宿っているようで、それもネーヴェに言わせれば、一人ではないらしい。

「大丈夫よ、アル。まだまだ歩けるわ。ふふ、アーテルの為に漁で頑張ったお陰かしら」
「そうか……。ああ、お前も足下に気をつけろよ」
「分かってるって! パパはいつもママ、ママって言ってるから、俺は俺で気をつけないとね!」

 先の方から駆け戻ってきた長男が、アルフィーに冗談を返した。外見は愛妻似で瞳の色が自分と同じ長男を、アルフィーが粗雑に扱うことなどある訳もない。

「そういえば……実はね、あの時に私、貴方宛にも手紙を書いたの」
「ネネも書いてくれたのか? 俺もだ」
「まぁ、貴方も? ふふっ、私達、考える事が同じね」

 微笑み合いながら、覚えのある場所をそれぞれに掘る。他の人の大事な物が埋まっているかもしれないから、と告げれば長男は聞き分けよく待っていた。出てきた中のお互いへの手紙を渡して、読むうちにアルフィーの顔が赤く染まる。

「ネネ、俺もネネの隣をずっと歩いていきたい。ネネは?」
「私は今も、あなたの隣で一緒に歩んでいきたいと、そう願ってるわ」
「俺も……愛してるよネネ」
「ありがとう。私、ずっと幸せよ。……愛しているわ、アル」

 そっと顔を寄せかけて、ガン見する長男の視線に気がついた。

「パパがママのことを好きなのは、そんな昔からだったんだね?」

 素朴な言葉に尻尾と耳を跳ね上げつつも、アルフィーは息子を抱き寄せる。

「ああ、そうだ。だからお前も同じように大切な人を見つけろよ!」
「ふふ、勿論あなたのことも大好きよ。お腹のこの子達も、ね」

 肩を寄せ、幸せそうに笑う三人の周りをふわりと一周してから、視点は再び浮き上がった。


 北へ。人類の生存権を越え、更に奥へ。時が過ぎたのか戻ったのかもわからず、ただ今より先である事しかわからない。ざくり、と雪を踏む小さな音がする。

「……ここも、まだこの世界なのでしょうか」

 トーラは白い世界を見回して言う。かつて征竜がいた場所に、何かがあると思ってやってきた。征竜が封じていた何か、あるいは塞いでいた何かがあるのではないか。トーラ自身が威を感じるほどの何かが。

「大きなクリーパーはいましたけれど、それほどの存在感はありませんでしたね」

 威を持って計るのであれば征竜には及ぶまい。トーラ自身が脅威を感じない。あれらは彼女を殺すことは出来るだろうが、それだけだ。

「征竜様は、何を思ってここにいらしたのでしょう……。今のわたしならば、何か分かるかと思ったのですが」

 かつて征竜が言ったように世界から乖離しつつあるとしても、トーラがこの世界や大切な人を護りたいという願いに違いは無い。ふと視線を回せば、少しばかり大きな世界の裂け目があるのが見えた。塞ごうと思えば、塞げる気もする。ふと、トーラは空の一点を見上げた。

「わたしを見て?」

 囁き声は、夢見るオペラに向けた物だろうか。それとも世界に向けたものなのだろうか。



(代筆:辻村朝)

 また視点が動いて、今度は街道を走る荷馬車を空から捉える。
「わたしは~旅の行商人~♪」
 荷馬車の御者席に座りながら調子外れの歌を歌うのは、ファーシル・クリスティア。戦いの終結からは5年程経っているようだ。
「荷馬車で商品を売りながら呑気に旅……というのも、いつまで父様が許してくれますかねえ」
 溜息を吐く。孫がどうとか言われても、と呟くあたり、彼女の父親は「早く孫の顔を見せてほしい」という願望があるようだった。
 気を取り直すように前を見据えたファーシルは、山賊が村人を襲っていることに気がついた。
 咄嗟に馬を停めると、御者席を躍るように飛び降りつつ、高らかに宣言する。
「変身! 仮面ファーシル!」
 羽仮面を付けただけでも、本人的には大事だ。

「護気・幻耀剣奥義! 『御綿・亜素刃世』!」
 必殺剣で山賊を一蹴したファーシルは村人を助けたついでに、「絵を買いませんか」と持ちかける。
 彼女自身(奇才Lv5)が描いた抽象画である。村人は引いていたが構わず、
「あ、いえ、せっかくなのであげます! どうぞ!」
 と押し付けてその場を後にする。なお本人に悪意はなさそうだ。
「うふふ、旅はやめられませんね」
 良いことをしたとばかりに爽やかな顔で宣う彼女の顔がぼやけて――。


 次に映し出されたのは、シグモル火山の神殿だった。
 立派な神官として成長したロゼットの姿がそこにはある。
「ボルガニスク様は私たち人間を信じて、眠りにつかれました」
 帝国皇帝と過激派との戦いで力を奪われた火神ボルガニスクは、消滅こそ免れたものの覚めない眠りについた。
 大きな拠り所を無くしたとも言えた。そんな信者たちを前に、ロゼットは説く。
「神から託された世界の平和を、私たちで守っていきましょう」
 皆の力が必要なのだ、と言いたげに両手を広げる。
 授恵者として、力の簒奪者(皇帝)に抗った神の姿を知っているからこそ、強く信じていることがあった。
「神は滅びません。私たちの信仰を糧として、今も生きておられます」
 あくまで今は、眠っているだけ。
「いつか神々がこの世界に戻ってこられる日まで」
 その「いつか」が、いつ来るのかは全く分からないが、それでも出来ることは一つ。
「シグモル火山の、信仰の火を絶やさぬように力を合わせましょう」
 そう力強く説いたロゼットに対して、やがて同意を示す拍手が起こるのだった。
 自分の思いが少しでも伝わったらしいことに満足した様子のロゼットから、視界は離れていく。


「あ……手紙」
 次に飛び込んできたのは、ユズが自身宛の手紙を手にした光景だった。
 ユズはシャルガネの星駆(ほしかけ)神社で、神主になる為の修行を積んでいた。養父母に恩を返す為、双子の妹の力になる為、一度逃げ出した神道に再び向き合う道を選んだのだ。
 忙しいが充実した日々の中、その手紙は届いた。休憩時間だったので早速封を切る。
 手紙の主はハーヴィ――冒険者としての日々で出会った、弟子である。

『師匠へ。
 
 お元気ですか。
 シャルガネではそろそろ紫陽花の咲く頃でしょうか。
 僕は今日も元気に旅の占い師兼冒険者として活動しています。
 僕の名声はシャルガネまで届いてますか? なんて』

 そんな軽口めいた言葉に小さく微笑みながら、ユズは便箋をめくる。

『世界が平和になって、師匠から一人前の占い師だって認められた時は、とても嬉しかったです。
 でも同時にそれは師匠との別れも意味するんだって、改めて認識して寂しい気持ちになっちゃったこと、今もふと思い出します。
 でもね、僕、あの時、笑顔でお別れできたでしょう?
 だって師匠との縁はこれからもずっと続くって、星がそう囁いたから』

 星。
 占星術が2人の出会いの切っ掛けだった。
 その星が言っているのだから、きっとそうなのだろうとユズもまた思う。

『僕は今、僕の大好きな子の側にいられて幸せです。
 いつか師匠にも会わせたいな。
 それじゃあまた、お手紙します』

 読み終えると同時に、背後から双子の妹に、どうしたの、と声を掛けられた。
 振り返って、手紙に視線を落としながら応える。
「ハーヴィ、元気にしてる、みたい。……すっかり、星を詠むの、上手く、なった。ボクも、一生懸命、頑張らなくちゃ」
 それから手紙を持ち上げて、続けた。
「お返事、後で、書かないと。……そうだ、紫陽花、咲いたよ、ね。少し、摘んで……押し花、作ろう、か」
 そうして花を摘む為立ち上がったユズの机から、その後認められた手紙が風に乗って空に舞い――。
 やがて、世界のどこかを旅していた弟子の手に届く。
 語り口は普段の口ぶりと少し似て、でも占いの時と同様にはっきりもしている。
 師匠の持つ二面性を思い出してハーヴィは苦笑いを浮かべつつ、便箋をめくり――。
「紫陽花、咲いてたんだなあ」
 押し花になった紫陽花に、目を細めた。


 一瞬オペラ(夢)の視界が白くなり、戻った時には周囲には湖畔が広がっていた。
 湖のほとりで佇む、一家の姿が映し出される。
「こうして家族で過ごせる時間が一番幸せだよ」
 口元を綻ばせるのは、父の跡を継ぎ蒼玉侯となったシルヴィア・A・カペル。
 傍らには伴侶であるエル=バ=ノイアンの姿もある。
 戦いが終わり2人が結ばれてから幾許かの時間が流れており、その間に2人の子宝にも恵まれていた。
 長男エドゥアール(エディ)は白銀の髪に深い青の瞳、長女アルセーデ(セイディ)は黒髪に碧寄りの青の瞳。いずれも、父母の特徴を分け合うように継いでいた。
 湖畔へのピクニックは、普段学園に通っている兄妹の帰省中の出来事のようだ。ノイアンの手料理を皆で味わった後、夫婦は湖畔を眺めている。
「子供というのはあっという間に大きくなるんだな。本当に……帰って来る度に様変わりしている」
 帰ってきた我が子の様子に、ノイアンは驚きを隠さなかった。
 蒼玉の後継であるエディは植物学が得意で、学園では大図書館に、家(カペル領)に帰ってくれば植物研究所に入り浸っている。
 一方のセイディは、どちらかといえば大人しいエディとは対象的に快活、かつ芸術家気質で、劇場でも男役を演じるお姉様タイプである。社交界では早くも自作の詩と歌声が有名であるらしい。
 そんなセイディは今、エディと一緒にボートに乗りたいと兄の手を引いている。
 エディは本の読みすぎで眠そうだが、断ることは出来なさそうだ。
「お前の大事なノートは、濡れないようにきちんと預かっておこう」
 苦笑交じりに言って、ノイアンはエディの研究ノートを預かった。
 そのまま妹に連れて行かれる兄という構図を見送った後、ノイアンは興味が湧いたらしく研究ノートを開いた。
「……俺から教えることはもうなさそうだな」
 小難しい内容に目を通している間にうとうとし始めた夫(ノイアン)を見て――隣に座るシルヴィアはそっと、自身の膝に夫の頭を乗せた。
 夫の艶やかな黒髪を撫でながら、その顔を眺める。
「君への想いは変わらないよ。ずっと愛している」
 呟いたその言葉に反応するかのように、黒髪を梳く手指に、徐ろにノイアンの指が絡められた。
「俺もだ、シルヴィア」
 目を少し開いたノイアンがそう応える光景から、夢(視界)は遠ざかっていき――。


 次に見えたのは、遠い未来のことのようだった。およそ200年ほど後。
 それでも変わらない場所がロスガリア大陸にはある。
 フィルエス大森林。
 帰還したリディリディ・トゥラ・イェレミースもまた、変わらず若々しい姿を保っていた。
 森林での生活に刺激はない。が、それでもリディリディにとっては愛すべき日常であるし退屈ではなかった。

 そんなリディリディにも変わったことがある。
 食欲である。
 冒険者だった頃は旺盛だったが、今ではすっかり落ち着いていた。これならエルフの平均寿命程度までは生きられそうだ。
 落ち着いたのは佇まいもそうで、余裕のある態度を持つことも出来るようになった。
 が――。
「……え、私が長老に、ですか?」
 その日、リディリディは聞いてしまった。次代の長老候補に自分の名が挙がっている、ということを。
 帰還してから、森を出るのは10年から20年に1度くらいになっていたが――そういうことなら、またちょっと色々と考えねばならない。
 ううん、と思案する様子のリディリディを見ている内に、視界は何故か閉ざされていった。


 次に夢(視界)が開けた時、目の前にはレラ・F・ギュンターの姿があった。
 夢ではあるのだが、オペラ自身にも実体があった。今、オペラはレラと再会している。
「オペラさん! ね、また会えましたでしょう?」
「そうじゃな!」
 オペラもつい嬉しくなって肯く。

 それからは互いの話をした。
 オペラの近況だとか、旅を通じて得られたものだとか。レラは楽しそうに聞いてくれている。
「おぬしはどうじゃ?」
「ギュンタですか? 変わらずぬいぐるみさんたちを善き方の元へお届けしていますよ」
 そしてレラは、あ、と思い出したように口を開いた。
「コッコさん(ニワトリのぬいぐるみ)はお元気ですか? 宜しければこの場でメンテナンスを承ります。ギュンタはあふたーさーびすも抜かりないのです」

 お言葉に甘えるべくコッコさんを渡すと、レラはとても嬉しそうに目を細めてから直してくれた。
「……大切にして下さってありがとうございます。ギュンタは善き方の元へお届けできたのですね」
 善き方というのは此方がレラに言いたい、と思っていたのだが、急に眠くなってきた。
「おっと、今はお別れみたいですね……。でも、また――」
 その言葉に反応する前に、オペラの夢は白く染まった。


 その夢は、いつか現実になるのだろうか。それはオペラにも分からない。
 ただ一つ、そうあってほしい未来であるということだけは確かだった。

マスターコメント

【アルパカコネクト運営より】 代筆対応にて納品させていただきました。 大変長らくお待たせいたしましたことを深くお詫び申し上げます。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:無し25 / 4〜25人

2024年05月22日 15時13分02秒 公開

大成功

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0