あなたへ語る 未来を、決意を
狐野径
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シナリオID:3467
オープニング
辺境都市群でもドワーフ王国との国境付近にある地域に、その領はある。
林檎を主とした果樹農業と果実酒醸造が盛んである地で、今、一つの風習が行われようとしていた。
その風習は、土地で死者が100人出るごとに行われるもの。
人も乗れるほどの船を建造し、死者が至る地に送る――というもの。
川辺に人も乗れる船が建造されている。
その船には集まった人々が思い思いの物を乗せる。
そして、それを燃やす。
乗せるのは死者の好物や嗜好品、送ろうとしている人の気持ち――など。
当事者を送るだけでなく、すでにマトリクス界にいるだろう人に届ける。
今回は、死者の節目というだけではなく、人々の思いは別のところにもあった。
シルトラース帝国の事変も集結し、世界は新たな歩みを進めることになったという点。
土地に住む人たちは生業をしている分には直接情勢に触れていない人は多いだろう。それでも、聞こえる情報は不安にさせた。これまで以上に死が近くに存在していた。
死だけでなく、世界と変わるかもしれない――という不安もあふれた。
冒険者たちが解決したことで、安堵と、輝かしい空気を感じることにつながっていた。
冒険者への感謝もあると同時に、マトリクス界にいるだろう人たちのことも思い出された。
様々な思いを持ち、風習を行う日に向け準備する。
冒険者たちにとっては非常に大きな節目でもある。
特に、帝国崩壊後授恵者となった人々は冒険者ギルドへの所属が義務だった。それが撤廃され他の組織への所属や就職が可能になった。
冒険者ギルドを通し各地を駆け回り、戦ってきたことが、変わる。
以前の生活に戻るのかもしれないし、どこかの国や地域で直接雇われたり、勉学に励んだり――様々な道を進むことになるのだろう。まだ、決まっていない、しばらくのんびりとしたいなどもあるかもしれない。
それを考えることも可能な世の中になったのだ。
なお、死者のことを考えることは自分とも向き合うことになる。
その人の好きだったものを調達する際に思いをはせ、自分が伝えたいことは何か考えることで変化を知る。
悲しみに暮れるのか、笑みを絶やさないのか、怒りが湧くのか――それは、人それぞれ。
冒険者たちがどこかで聞いて、たまたま通りかかって――風習を行おうとしているのを見たならば、参加することはできる。
風習について説明を聞くと、深い情や因縁の相手と語り合えたり、思い出の場所で未来を模索したり、決意する――そのようなことが脳裏によぎる。
伝えていなかったから、なかったことにした思いも、届けてもらえるかもしれない――。
林檎を主とした果樹農業と果実酒醸造が盛んである地で、今、一つの風習が行われようとしていた。
その風習は、土地で死者が100人出るごとに行われるもの。
人も乗れるほどの船を建造し、死者が至る地に送る――というもの。
川辺に人も乗れる船が建造されている。
その船には集まった人々が思い思いの物を乗せる。
そして、それを燃やす。
乗せるのは死者の好物や嗜好品、送ろうとしている人の気持ち――など。
当事者を送るだけでなく、すでにマトリクス界にいるだろう人に届ける。
今回は、死者の節目というだけではなく、人々の思いは別のところにもあった。
シルトラース帝国の事変も集結し、世界は新たな歩みを進めることになったという点。
土地に住む人たちは生業をしている分には直接情勢に触れていない人は多いだろう。それでも、聞こえる情報は不安にさせた。これまで以上に死が近くに存在していた。
死だけでなく、世界と変わるかもしれない――という不安もあふれた。
冒険者たちが解決したことで、安堵と、輝かしい空気を感じることにつながっていた。
冒険者への感謝もあると同時に、マトリクス界にいるだろう人たちのことも思い出された。
様々な思いを持ち、風習を行う日に向け準備する。
冒険者たちにとっては非常に大きな節目でもある。
特に、帝国崩壊後授恵者となった人々は冒険者ギルドへの所属が義務だった。それが撤廃され他の組織への所属や就職が可能になった。
冒険者ギルドを通し各地を駆け回り、戦ってきたことが、変わる。
以前の生活に戻るのかもしれないし、どこかの国や地域で直接雇われたり、勉学に励んだり――様々な道を進むことになるのだろう。まだ、決まっていない、しばらくのんびりとしたいなどもあるかもしれない。
それを考えることも可能な世の中になったのだ。
なお、死者のことを考えることは自分とも向き合うことになる。
その人の好きだったものを調達する際に思いをはせ、自分が伝えたいことは何か考えることで変化を知る。
悲しみに暮れるのか、笑みを絶やさないのか、怒りが湧くのか――それは、人それぞれ。
冒険者たちがどこかで聞いて、たまたま通りかかって――風習を行おうとしているのを見たならば、参加することはできる。
風習について説明を聞くと、深い情や因縁の相手と語り合えたり、思い出の場所で未来を模索したり、決意する――そのようなことが脳裏によぎる。
伝えていなかったから、なかったことにした思いも、届けてもらえるかもしれない――。
解説
●目的・目標
死者との対話、自分の思いと向き合うなど。
●場所、時間
辺境都市群でもドワーフ王国との国境付近にある地域のとある領地。
林檎を主とした果樹農業と果実酒醸造が盛んである。
そこの川辺に人も乗れるほどの船が建造されている。
日が落ちるくらいに、船に火を放つ。
当日は雨の心配はなく、風も穏やか。
●風習
土地で死者が100人出るごとに行われるもの。
船を作り燃やすことで、マトリクス界にいる死者に物や思いを送る。
乗せられるものは嗜好品や好物などの物。
手紙に託してもいいし、語ることで想いを乗せることでも。
サイズは船に乗るということ。
●注意事項
自分自身の葛藤等でなく、参加者以外の誰かへの思いである場合、固有名詞はリプレイでは濁されますのであらかじめご了承ください。
船に乗せるもので生き物は却下です。
マスターより
こんにちは、狐野径です。
あわただしかった日々が懐かしい状態でしょうか?
冒険者たちが活動した日々を思い返すことであったり、誰かに思いをはせる、未来をどうしたいか――様々考えることもあったり、なかったりするかと思います。一人で考えたり、誰かと語らったり……そんなひと時になれば。
これまで冒険者の皆さまは各地を走り回り……MSの目から見ると毎週違うところで出会う方もいたりして「すごいよなぁ冒険者」とリアルと物語がごっちゃで考えることもありました。
よろしくお願いします。
リプレイ
●思い
イズル・M・ヴォルゴールは今回送る死者たちの名簿を見る。
知らない名前も多いが、後半になると知った名前も出てくる。
名簿には生きていた人たちがいる、と、改めて思う。
「次は俺が取り仕切るんだよな」
名簿から目を上げる。つぶやくと、責務の重さが増した気がした。
「もう、情勢と学びを理由に外を自由に駆け回る時間はおしまいだな」
寂しくもあるし、認めてもらえたという思いもある。
変わるもの、変わらないもの――ポケットに手を入れタッセルを探った。
ヘレン・ワーグナーとペルゼィックはイズルとの待ち合わせ場所にそれぞれ向かう。
ヘレンは風習の内容からこれまであったことが浮かぶ。それと同時に、今後のことも考えると懐に手を当てたくなる気もした。
ペルゼィックは船の出港準備をしているところに寄る。
マトリクス界の人に届けて欲しいものを託した。
エリカ・プレトリウスはローザリカ・L・ディオールに話したいことがあった。
この地を選んだのは、伝えたいことや思いから、ここがよいと感じたのだ。
リーンエス王国内で聞かれることを避けたい内容であること。
ここの風習の話を耳にしたとき、お嬢様のことが過った。
ローザリカと立ち話は避けたかったし、温かい飲み物も用意したいと考える。
待ち合わせの時間もあるため、急いだ。
ローザリカはエリカにいわれてここに来たが、手紙の返答であり、その内容はなんとなく予感があった。
だから、どういう結果であれ、伝えられたことは受け止めるつもりだ。
エリカが決めたことなのだから。
●過去のこと、未来のことを
エリカはローザリカが来るのを見て、深くお辞儀をした。
「お忙しい中、お越しいただいたこと、また、先日はお手紙もありがとうございました」
ローザリカは軽く首を横に振る。
「いいや、突然手紙を送りつけたのは僕の方だしね」
エリカは挨拶を終えたということで、深く息を吐く。
「あちらに座って話せそうな場所がありましたので、移動しませんか? それと、温かい飲み物も用意しました」
「いいね、行こう」
川の側で船が見えるけれども、ちょうど人の流れがないところ。
ローザリカは冷たくないよう敷布が置かれた椅子代わりの岩に座る。
「風景眺めてのんびりできそうな所だね」
「ええ。日常で誰かの特等席かもしれません」
エリカは答え、飲み物をテーブル代わりの岩に置く。
ローザリカはカップを手にする。
「寒い屋外で飲む温かい飲み物、ありがたいよ」
「そういっていただけると嬉しいです」
二人は話を止めた。
川辺の船のところで声がしたからだ。
荷物を積み終え、次の内容に移ったようだ。
少し、その景色を眺めた。
エリカは姿勢をただし、頭を下げた。
「お手紙にあった雇用の件、一旦お断りします。申し訳ありません」
ローザリカは「そうか」と短く言う。
「なんとなく、心のどこかで断られるような気はしていたよ」
ローザリカが送った手紙の内容は、彼女が立ち上げた「オーブ商会」への勧誘だった。
パンクリアース学園をローザリカは今年卒業する。
仕事に関わる人材探しは学園生活ですべきことの一つだった。
また、帝国の件で情勢も変わり続けているから、貴重な人材への声掛けは早ければ早い方がいいと考えてはいた。
だから、エリカに声をかけた。
エリカとしては身分差があっても、今までよくしてもらったことが山ほどあるため、断るのは失礼だとも思っていた。
「大変申し訳ありません」
再び謝罪するエリカにローザリカは「誘ったのは僕でも、決めるのは君だよ」と告げる。
それに手紙で断ればいいところを、面と向かって話す決断をしたこと、あえてゆかりがない場所を選んだことに何か理由があるだろうと考える。
ローザリカは「理由を聞いていいかい?」と問う。
エリカは「理由は……」と話し始めた。
「私の後見、シュルトハイス子爵家には後継者がおりません。……他ならぬ私の所為で」
ローザリカはエリカの言葉を静かに待つ。
「私は元々貧民街の名もなき孤児でした。夭折された一粒種のお嬢様と瓜二つ故に子爵夫妻に拾われ、その名を賜り、実子の如く育てて頂いたのです」
学園の政治討論部で言ったことから、ローザリカが察していたかもしれない、と思う。
それはエリカの推測だから、きちんと伝えなければ、断る理由にならないと、話を進めた。
「……しかし私は似過ぎていました。寄り親から来た養子話を子爵様は全て断った、と。私がエルフと解っていながら」
ローザリカは黙って話を聞く。
エリカは(エリカとしての今は正直いうと複雑な気持ちだけど)と思う。
「己の今と未来はすべて子爵様たちのお陰、私は御恩返しをどうしても諦められない、次期子爵を……形式上の結婚相手を私が連れて来なければ」
子爵家をつぶさないためにすべきことがある。
だから、ローザリカの誘いにうなずくことはできないのだ。
ローザリカの中でエリカについての色々なことが腑に落ちた。
(彼女がエルフながら、王国貴族令嬢然としていた理由が分かった。これは重大な秘密だ)
どこで誰が聞いているかわからないため、王国から離れたところがいいのもこれはわかる。ましてや、形に残る手紙では決して書けない。
(秘密は秘密としても、彼女が彼女の道を見つけたということだし、それは嬉しいことであると思う)
ローザリカはエリカの震える手に己の手を添えた。
「話してくれてありがとう。そして、当然、僕は君の選択を尊重する」
「……でももしそれが終わった後でも良ければ」
「ずっと待っているよ。僕は君が欲しい。その心に変わりはないのだから」
ローザリカの中にエリカと初めて出会った日が浮かぶ。
学園生から敬遠しがちだったローザリカに声をかけ、商談すら持ちかけて来たのだ。
(たとえ、そこに打算などがあったとしても、僕はそれを運命とした)
それをきっかけに彼女を知りたいと思ったし、ただの学友としても仲良くなりたいと思っていた。
断られたとはいえ、エリカの胸の奥にしまわれていた不安から生まれた決意を聞くことができたことは、彼女と一歩近づいたような気がした。
(どれくらいかかろうと、その運命の糸を手繰れるのなら、僕としては言うことはない)
断られたけれども、心は晴れやかだった。
「他の誰でもない、君を待っている」
という、ローザリカの言葉にエリカは「はい」とはっきり告げ、胸を張る。
本物らしい選択が判らず部活すら入れなかったが、ようやく覚悟ができたから。
「商会の話、お聞かせ願えますか」
「もちろんだ。これからも、よろしく頼むよ、エリカ君。」
「これからもよろしくお願いします」
船に火が放たれた。
エリカは会ったことのないお嬢様のことを考えた。
(80歳くらいに、わたしがエリカを筒がなく終えるまでは)
だから、送らない、今もしばらく後まで。
●これからもよろしく
イズルは船に火が点いたのを見届け、ヘレンとペルゼィックを探す。
ヘレンは炎を見ながら、自分が本気で戦った唯一の戦いを思い出していた。
(エルフのはぐれ者を助けたとき……森と共に生きる彼女にシンパシーを感じたのかもしれない)
ヘレンも森林で父親とともに狩猟をして暮らしていたこともあるから。
そして、戦いの後、彼女はどうしているかわからない。
(今もどこかで生きているよね……また出会えるのかな)
と、思った。
こっちにやってくるイズルを見て、
(イズルは戦いのとき、いつもそばにいてくれた。出会いは覚えてないが……)
思い出そうとしているとペルゼィックとイズルの会話が聞こえる。
とはいえ、まったくヒントにはならなかったが、ひらめく思い出が一つ。
(確か、彼の店に勝手に潜り込んで、樽の中で寝ていたところを発見された……とか、だったと思う)
どこでも気持ちよく眠ることはモットーとしていること。
樽は香りも良いし、心地は良かったはず。
イズルが「さっき、何か船に載せたよな?」とペルゼィックに問う。
「死者でも戦士への定番っていえば、酒と酒に合う濃い味の肉料理だろ?」
というペルゼィックの答えにイズルはうなずいた。
炎を見つめる。
イズルが思い出すのは、戦場で出会った人たち。
特に死霊術師は、様々な思い出があった。それは、ちょっとしたことから、忘れてはいけない大きなことまで。
持ち歩いている【代像】を自然と抱きしめる。
(もっと早く、世界の真理に気付いていれば、彼らも死なずに……生き方を変えられたかもしれない)
過去は変えられないとしても、思うことは強い。
その人たちの姿、想いが、そこから思い出されるから。
ペルゼィックは帝国の惨事を思い出す。
そこに住んでいた人だけでなく、多くの人間が犠牲になっている。
(帝国出身の母親の実家も、生き残りはいるものの、建物をはじめ、あらゆるものががれきも残さずなくなってたらしい)
聞こえる部分でその被害だというと、もっと多くの人に影響があったのだ。
(その一方、つい最近も賞金稼ぎの村が、他の賞金稼ぎにつぶされたと聞いた。傭兵の街出身の俺にとっては『明日は我が身』だし、襲われるのがクリーパーや魔獣、人間なのは変わらない)
世界が変わっても、今を生き抜かないとならない。
今を生きなければ、未来もない。
(だから、これからも俺たちは自分の生活をするだけだ)
炎の先にある死者と出会うのは――明日か、何十年も経った後か?
船が炎に燃える音。
多くの人のささやく声。
それらを聞き、しばらく思考が続く。
イズルはポケットからタッセルを取り出す。
「そうだ。ヘレンにプレゼント用意したんだ」
黄金色の貴石が目を惹く上品で控えめな装飾のタッセル。
この土地だと領主の親族や側付き渡す特別な証だ。
「最後まで一緒にいてくれてありがとう、これは俺の感謝の証明」
出会いを思い出すと「へんてこだ」と笑いがこみ上げる。
「王族とか皇族みたいな力はちっともないけど、辺境なら多少は力にはなれると思う」
ペルゼィックはこの様子を見て(嫁か妾にするのか?)と思っていた。
ヘレンが発した言葉、その後やり取りでそれはないと理解することになる。
ヘレンは親友としてプレゼントを贈ってもらったことに喜ぶ。
嬉しくて、手に取り、貴石を光に透かすように見る。
「ん、ありがと……ハッ! これは、イズルん家で雇ってもらえるってことでいいんだよね?」
イズルは突然なこと驚きつつ、答える。
「へ? あ? できなくないけど窮屈だよ?」
「そうなの? でも、戦いが終わって丁度、稼ぎがなかったところなんだよね……」
「えー? じゃあ、ひとまず、村の農園に出る魔獣狩りとかどうかな?」
イズルは仕事あっせんをしていた。
ヘレンは「任せて!」と大きく胸を張った。
ペルゼィックはヘレンとイズルの状況や心情を推察した。
ヘレンに「一生安泰かわからんが、当分はくいっぱぐれねえな」といい、イズルには「ちょうどいい迷子紐だな」と告げ、笑った。
イズルは大きく息を吸う。
表情を引き締めた。二人に告げるべきことがあるから。
「二人は今日から『主の赫焉』と『主の陽射』として私に尽くして下さい。私も二人に、領地に恥じない領主になります」
イズルの言葉に、ヘレンはきょとんとするが、これまでのこともあるし、プレゼントのこともあるし「何かできることがあれば力になるよ」という。
先ほど仕事もくれたけど、それだけではなく、助けることは構わない。
これまでここに来てへんてこなことしたかもしれないけど、許してくれているはずだと思って。
ペルゼィックは苛立ちを隠さない。
今まで通り「現当主に依頼されたお目付け役」「呼ばれたら行く」で濁すつもりだった。
「俺は護衛とか、側近にならねぇて言ってるだろうが」
服についている証明するタッセルが揺れる。
イズルは「いや、そうじゃない」と言い、言葉を続けた。
「ジークにそばで畏まってろとかいうつもりないし。俺がいつまでも『俺』って言える仲でいてほしい」
イズルも「今まで通り」であるらしいし、ありがたいと思う。
しかし、何か違う気がしていた。
タッセルに触れる。
何かは違うのだけれども、簡単にわからない。
立場が変わるとか、関係が変わらないといった単純なことではない気がしている。
タッセルの二つ名で呼ばれ、もやもやしたのはどこにあるのか。
長考するが、確実な答えはない。
「これが最初で最後だからな」
敬意をこめて最敬礼をした。
イズルは困惑する。
ペルゼィックは「これが答えってことで察しろ」というと、イズルはうなずいた。
「だから二人共、これからもよろしくね」
と、いつもの笑顔でイズルは告げた。
ヘレンが「こっちこそよろしく」と応じた。
「あと、お前が死霊術師の神に見初められたら、俺がその首貰いうけねぇといけないからな。死者にも生者にもお人よしのイルから目を離すなんてきわめて危ねえしな」
ペルゼィックの言葉にイズルは「心しておくよ」と【代像】に触れていた手を離した。
船全体を炎が包み込む。
思いを載せて、船はいく――。
イズル・M・ヴォルゴールは今回送る死者たちの名簿を見る。
知らない名前も多いが、後半になると知った名前も出てくる。
名簿には生きていた人たちがいる、と、改めて思う。
「次は俺が取り仕切るんだよな」
名簿から目を上げる。つぶやくと、責務の重さが増した気がした。
「もう、情勢と学びを理由に外を自由に駆け回る時間はおしまいだな」
寂しくもあるし、認めてもらえたという思いもある。
変わるもの、変わらないもの――ポケットに手を入れタッセルを探った。
ヘレン・ワーグナーとペルゼィックはイズルとの待ち合わせ場所にそれぞれ向かう。
ヘレンは風習の内容からこれまであったことが浮かぶ。それと同時に、今後のことも考えると懐に手を当てたくなる気もした。
ペルゼィックは船の出港準備をしているところに寄る。
マトリクス界の人に届けて欲しいものを託した。
エリカ・プレトリウスはローザリカ・L・ディオールに話したいことがあった。
この地を選んだのは、伝えたいことや思いから、ここがよいと感じたのだ。
リーンエス王国内で聞かれることを避けたい内容であること。
ここの風習の話を耳にしたとき、お嬢様のことが過った。
ローザリカと立ち話は避けたかったし、温かい飲み物も用意したいと考える。
待ち合わせの時間もあるため、急いだ。
ローザリカはエリカにいわれてここに来たが、手紙の返答であり、その内容はなんとなく予感があった。
だから、どういう結果であれ、伝えられたことは受け止めるつもりだ。
エリカが決めたことなのだから。
●過去のこと、未来のことを
エリカはローザリカが来るのを見て、深くお辞儀をした。
「お忙しい中、お越しいただいたこと、また、先日はお手紙もありがとうございました」
ローザリカは軽く首を横に振る。
「いいや、突然手紙を送りつけたのは僕の方だしね」
エリカは挨拶を終えたということで、深く息を吐く。
「あちらに座って話せそうな場所がありましたので、移動しませんか? それと、温かい飲み物も用意しました」
「いいね、行こう」
川の側で船が見えるけれども、ちょうど人の流れがないところ。
ローザリカは冷たくないよう敷布が置かれた椅子代わりの岩に座る。
「風景眺めてのんびりできそうな所だね」
「ええ。日常で誰かの特等席かもしれません」
エリカは答え、飲み物をテーブル代わりの岩に置く。
ローザリカはカップを手にする。
「寒い屋外で飲む温かい飲み物、ありがたいよ」
「そういっていただけると嬉しいです」
二人は話を止めた。
川辺の船のところで声がしたからだ。
荷物を積み終え、次の内容に移ったようだ。
少し、その景色を眺めた。
エリカは姿勢をただし、頭を下げた。
「お手紙にあった雇用の件、一旦お断りします。申し訳ありません」
ローザリカは「そうか」と短く言う。
「なんとなく、心のどこかで断られるような気はしていたよ」
ローザリカが送った手紙の内容は、彼女が立ち上げた「オーブ商会」への勧誘だった。
パンクリアース学園をローザリカは今年卒業する。
仕事に関わる人材探しは学園生活ですべきことの一つだった。
また、帝国の件で情勢も変わり続けているから、貴重な人材への声掛けは早ければ早い方がいいと考えてはいた。
だから、エリカに声をかけた。
エリカとしては身分差があっても、今までよくしてもらったことが山ほどあるため、断るのは失礼だとも思っていた。
「大変申し訳ありません」
再び謝罪するエリカにローザリカは「誘ったのは僕でも、決めるのは君だよ」と告げる。
それに手紙で断ればいいところを、面と向かって話す決断をしたこと、あえてゆかりがない場所を選んだことに何か理由があるだろうと考える。
ローザリカは「理由を聞いていいかい?」と問う。
エリカは「理由は……」と話し始めた。
「私の後見、シュルトハイス子爵家には後継者がおりません。……他ならぬ私の所為で」
ローザリカはエリカの言葉を静かに待つ。
「私は元々貧民街の名もなき孤児でした。夭折された一粒種のお嬢様と瓜二つ故に子爵夫妻に拾われ、その名を賜り、実子の如く育てて頂いたのです」
学園の政治討論部で言ったことから、ローザリカが察していたかもしれない、と思う。
それはエリカの推測だから、きちんと伝えなければ、断る理由にならないと、話を進めた。
「……しかし私は似過ぎていました。寄り親から来た養子話を子爵様は全て断った、と。私がエルフと解っていながら」
ローザリカは黙って話を聞く。
エリカは(エリカとしての今は正直いうと複雑な気持ちだけど)と思う。
「己の今と未来はすべて子爵様たちのお陰、私は御恩返しをどうしても諦められない、次期子爵を……形式上の結婚相手を私が連れて来なければ」
子爵家をつぶさないためにすべきことがある。
だから、ローザリカの誘いにうなずくことはできないのだ。
ローザリカの中でエリカについての色々なことが腑に落ちた。
(彼女がエルフながら、王国貴族令嬢然としていた理由が分かった。これは重大な秘密だ)
どこで誰が聞いているかわからないため、王国から離れたところがいいのもこれはわかる。ましてや、形に残る手紙では決して書けない。
(秘密は秘密としても、彼女が彼女の道を見つけたということだし、それは嬉しいことであると思う)
ローザリカはエリカの震える手に己の手を添えた。
「話してくれてありがとう。そして、当然、僕は君の選択を尊重する」
「……でももしそれが終わった後でも良ければ」
「ずっと待っているよ。僕は君が欲しい。その心に変わりはないのだから」
ローザリカの中にエリカと初めて出会った日が浮かぶ。
学園生から敬遠しがちだったローザリカに声をかけ、商談すら持ちかけて来たのだ。
(たとえ、そこに打算などがあったとしても、僕はそれを運命とした)
それをきっかけに彼女を知りたいと思ったし、ただの学友としても仲良くなりたいと思っていた。
断られたとはいえ、エリカの胸の奥にしまわれていた不安から生まれた決意を聞くことができたことは、彼女と一歩近づいたような気がした。
(どれくらいかかろうと、その運命の糸を手繰れるのなら、僕としては言うことはない)
断られたけれども、心は晴れやかだった。
「他の誰でもない、君を待っている」
という、ローザリカの言葉にエリカは「はい」とはっきり告げ、胸を張る。
本物らしい選択が判らず部活すら入れなかったが、ようやく覚悟ができたから。
「商会の話、お聞かせ願えますか」
「もちろんだ。これからも、よろしく頼むよ、エリカ君。」
「これからもよろしくお願いします」
船に火が放たれた。
エリカは会ったことのないお嬢様のことを考えた。
(80歳くらいに、わたしがエリカを筒がなく終えるまでは)
だから、送らない、今もしばらく後まで。
●これからもよろしく
イズルは船に火が点いたのを見届け、ヘレンとペルゼィックを探す。
ヘレンは炎を見ながら、自分が本気で戦った唯一の戦いを思い出していた。
(エルフのはぐれ者を助けたとき……森と共に生きる彼女にシンパシーを感じたのかもしれない)
ヘレンも森林で父親とともに狩猟をして暮らしていたこともあるから。
そして、戦いの後、彼女はどうしているかわからない。
(今もどこかで生きているよね……また出会えるのかな)
と、思った。
こっちにやってくるイズルを見て、
(イズルは戦いのとき、いつもそばにいてくれた。出会いは覚えてないが……)
思い出そうとしているとペルゼィックとイズルの会話が聞こえる。
とはいえ、まったくヒントにはならなかったが、ひらめく思い出が一つ。
(確か、彼の店に勝手に潜り込んで、樽の中で寝ていたところを発見された……とか、だったと思う)
どこでも気持ちよく眠ることはモットーとしていること。
樽は香りも良いし、心地は良かったはず。
イズルが「さっき、何か船に載せたよな?」とペルゼィックに問う。
「死者でも戦士への定番っていえば、酒と酒に合う濃い味の肉料理だろ?」
というペルゼィックの答えにイズルはうなずいた。
炎を見つめる。
イズルが思い出すのは、戦場で出会った人たち。
特に死霊術師は、様々な思い出があった。それは、ちょっとしたことから、忘れてはいけない大きなことまで。
持ち歩いている【代像】を自然と抱きしめる。
(もっと早く、世界の真理に気付いていれば、彼らも死なずに……生き方を変えられたかもしれない)
過去は変えられないとしても、思うことは強い。
その人たちの姿、想いが、そこから思い出されるから。
ペルゼィックは帝国の惨事を思い出す。
そこに住んでいた人だけでなく、多くの人間が犠牲になっている。
(帝国出身の母親の実家も、生き残りはいるものの、建物をはじめ、あらゆるものががれきも残さずなくなってたらしい)
聞こえる部分でその被害だというと、もっと多くの人に影響があったのだ。
(その一方、つい最近も賞金稼ぎの村が、他の賞金稼ぎにつぶされたと聞いた。傭兵の街出身の俺にとっては『明日は我が身』だし、襲われるのがクリーパーや魔獣、人間なのは変わらない)
世界が変わっても、今を生き抜かないとならない。
今を生きなければ、未来もない。
(だから、これからも俺たちは自分の生活をするだけだ)
炎の先にある死者と出会うのは――明日か、何十年も経った後か?
船が炎に燃える音。
多くの人のささやく声。
それらを聞き、しばらく思考が続く。
イズルはポケットからタッセルを取り出す。
「そうだ。ヘレンにプレゼント用意したんだ」
黄金色の貴石が目を惹く上品で控えめな装飾のタッセル。
この土地だと領主の親族や側付き渡す特別な証だ。
「最後まで一緒にいてくれてありがとう、これは俺の感謝の証明」
出会いを思い出すと「へんてこだ」と笑いがこみ上げる。
「王族とか皇族みたいな力はちっともないけど、辺境なら多少は力にはなれると思う」
ペルゼィックはこの様子を見て(嫁か妾にするのか?)と思っていた。
ヘレンが発した言葉、その後やり取りでそれはないと理解することになる。
ヘレンは親友としてプレゼントを贈ってもらったことに喜ぶ。
嬉しくて、手に取り、貴石を光に透かすように見る。
「ん、ありがと……ハッ! これは、イズルん家で雇ってもらえるってことでいいんだよね?」
イズルは突然なこと驚きつつ、答える。
「へ? あ? できなくないけど窮屈だよ?」
「そうなの? でも、戦いが終わって丁度、稼ぎがなかったところなんだよね……」
「えー? じゃあ、ひとまず、村の農園に出る魔獣狩りとかどうかな?」
イズルは仕事あっせんをしていた。
ヘレンは「任せて!」と大きく胸を張った。
ペルゼィックはヘレンとイズルの状況や心情を推察した。
ヘレンに「一生安泰かわからんが、当分はくいっぱぐれねえな」といい、イズルには「ちょうどいい迷子紐だな」と告げ、笑った。
イズルは大きく息を吸う。
表情を引き締めた。二人に告げるべきことがあるから。
「二人は今日から『主の赫焉』と『主の陽射』として私に尽くして下さい。私も二人に、領地に恥じない領主になります」
イズルの言葉に、ヘレンはきょとんとするが、これまでのこともあるし、プレゼントのこともあるし「何かできることがあれば力になるよ」という。
先ほど仕事もくれたけど、それだけではなく、助けることは構わない。
これまでここに来てへんてこなことしたかもしれないけど、許してくれているはずだと思って。
ペルゼィックは苛立ちを隠さない。
今まで通り「現当主に依頼されたお目付け役」「呼ばれたら行く」で濁すつもりだった。
「俺は護衛とか、側近にならねぇて言ってるだろうが」
服についている証明するタッセルが揺れる。
イズルは「いや、そうじゃない」と言い、言葉を続けた。
「ジークにそばで畏まってろとかいうつもりないし。俺がいつまでも『俺』って言える仲でいてほしい」
イズルも「今まで通り」であるらしいし、ありがたいと思う。
しかし、何か違う気がしていた。
タッセルに触れる。
何かは違うのだけれども、簡単にわからない。
立場が変わるとか、関係が変わらないといった単純なことではない気がしている。
タッセルの二つ名で呼ばれ、もやもやしたのはどこにあるのか。
長考するが、確実な答えはない。
「これが最初で最後だからな」
敬意をこめて最敬礼をした。
イズルは困惑する。
ペルゼィックは「これが答えってことで察しろ」というと、イズルはうなずいた。
「だから二人共、これからもよろしくね」
と、いつもの笑顔でイズルは告げた。
ヘレンが「こっちこそよろしく」と応じた。
「あと、お前が死霊術師の神に見初められたら、俺がその首貰いうけねぇといけないからな。死者にも生者にもお人よしのイルから目を離すなんてきわめて危ねえしな」
ペルゼィックの言葉にイズルは「心しておくよ」と【代像】に触れていた手を離した。
船全体を炎が包み込む。
思いを載せて、船はいく――。
マスターコメント
ご参加ありがとうございました。
書いている最中、ウルッとなりました。
なお、それを台無しにするかのように資料って何度入力して「あれ?」となっていました。私のパソコン、「シリョウ」の第一候補「死霊」だったはずなのに。
思いを告げ、受け止め、そして、未来へ歩む――皆様の未来が良きものになりますように、という気持ちをもってコメントを終えます。
ご縁があればお会いしましょう!
ショートシナリオR易しい 報酬:無し5 / 4〜8人
2024年02月29日 16時00分21秒 公開
大成功
相談掲示板
主催(リク主)のイズル・ヴォルゴールです。よろしくお願いします。 受けてくださったMS樣にも百万の感謝を。 今回は、これからを話す場所として「亡くしてしまった大事な人に今までやこれからを報告できる場所があっても良いのでは?」と思い申請させてもらいました。 大切な人に、大切な思い出の中の人に、その思いを史実として残す一助になればいいと思います。 どなたでもウェルカム。 よろしくお願いします。
やっほー・・・。戦い、そんなに参加してきたわけじゃないけど・・・、これからの事、私も考えてみたくて参加したよ。
エリカ・プレトリウスと申します。 …今まで誰にもきちんとお話したことがなかったけれど、私には、これからのことを考えるなら話題にすることを避けて通れぬ故人がおひとり。先日私にお手紙を下さったローザリカ様にはお話しなければなりません。 イズル様、場と言いますか…機会をお借りします。(一礼)
>プレトリウス嬢 ご参加ありがとうございます。 この依頼が貴女のこれからにとって貴女の支えになる、大切な出来事になりますように >ヘレン ヘレンはお疲れ様 依頼で一緒の機会が少なかったけど最初から最後まで走れたのは心強かった 最後までよろしく