【幻秋】人馬百鬼夜行【堕天】
おおくまねこ
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シナリオID:3283
オープニング
●百鬼夜行
いくつもの篝火の灯りが、秋の夜の中で揺らめいている。
しゃん、しゃん、しゃん、しゃん。うふふふ。あはははは。
ごうごうと、風の唸る音をかき消すように、楽器をかき鳴らし、笑い声を上げているのは、人ならざる異形の者達だった。
ある者はイノシシの毛皮を被り、タンバリンを振っている。
ある者は、牛の頭で作った面を被り、松明を掲げ、高らかに笑っている。
ある者は、飛竜の骨を鎧のように纏い、歌を歌っていた。
そして、行列となって歩く全ての者達が、ヒトではなく、馬の下半身を持っていた。
●帝国の東部駐屯地にて
「ただいま、戻りました」
「うむ。偵察ご苦労」
駐屯地の兵長はケンタウロスの聖地の偵察から戻った斥候に労いの言葉をかけた。
「それでどうだ? ケンタウロスの様子に変わったところはないか?」
「それが……あります。連中はとても奇妙なことを始めました」
斥候は困惑した様子で返答した。
「……どう怪しいのだ」
「はい。ケンタウロス達は連日、日が沈んだ後に魔獣の毛皮を頭からかぶり、歌を歌いながら列をなして草原を練り歩いています。集落からそう離れる様子はないようですが……」
「なるほど、確かに奇妙だ。武器は持っていないのだな?」
「はい。この行動が帝国に奇襲を仕掛ける下準備、ということはないでしょう。魔獣の群れに擬態して奇襲をするつもりなら、歌を歌う意味も、一列に並ぶ意味もありません」
斥候の言葉に、兵長は頷いた。
「確かにな。では連中の宗教儀式か何かか……まるで、『百鬼夜行』だが……」
「? なんです、百鬼夜行って」
聞き慣れない言葉に、斥候は首を傾げた。
「シャルガネの伝説だよ。大量の魔獣やクリーパーが夜中に行列をなして市中を練り歩くという。確か、出典は絵巻物だったかな」
「なるほど。新発見の風習ですし、ヴィントへの報告にはその単語を使わせてもらいますね」
「ああ、好きにしろ」
こうして、ランランの部族で行われるケンタウロスの収穫祭は、人類には『百鬼夜行』と呼ばれることとなった。
●
『レミーラ様、あなたが亡くなられてから最初の秋になりました。今は『百鬼夜行』の季節です』
ケンタウロスの部族の長ランランは、レミーラの墓参りに来ていた。帝国から奪還されたレミーラの遺体が返還され、ここに改めてレミーラの遺骨が埋葬されてからというもの、ランランは毎日一度もレミーラの墓参りを欠かしたことはない。
『今年はボウケンシャ族の人達も、お祭りに招こうと思います。貴方の亡骸を取り戻してくれた人達ですから、きっとみんな大歓迎ですよ。……彼らとの友情は、ずっと続いています。他の部族も、だんだんボウケンシャ族に一目置く者達が増えてきました。いつかは、テイコク族とも戦わなくて済む時代が来るかもしれません』
涼しげな風に吹かれながら、ランランはにっこりと笑う。
『ランラン族長! 魔獣ニワトリが逃げました! 捕まえるの手伝ってください!』
『エエ!? 分かりました、今行きます!』
部族の若者に呼ばれ、ランランは馬ダッシュで丘を降りていった。
いくつもの篝火の灯りが、秋の夜の中で揺らめいている。
しゃん、しゃん、しゃん、しゃん。うふふふ。あはははは。
ごうごうと、風の唸る音をかき消すように、楽器をかき鳴らし、笑い声を上げているのは、人ならざる異形の者達だった。
ある者はイノシシの毛皮を被り、タンバリンを振っている。
ある者は、牛の頭で作った面を被り、松明を掲げ、高らかに笑っている。
ある者は、飛竜の骨を鎧のように纏い、歌を歌っていた。
そして、行列となって歩く全ての者達が、ヒトではなく、馬の下半身を持っていた。
●帝国の東部駐屯地にて
「ただいま、戻りました」
「うむ。偵察ご苦労」
駐屯地の兵長はケンタウロスの聖地の偵察から戻った斥候に労いの言葉をかけた。
「それでどうだ? ケンタウロスの様子に変わったところはないか?」
「それが……あります。連中はとても奇妙なことを始めました」
斥候は困惑した様子で返答した。
「……どう怪しいのだ」
「はい。ケンタウロス達は連日、日が沈んだ後に魔獣の毛皮を頭からかぶり、歌を歌いながら列をなして草原を練り歩いています。集落からそう離れる様子はないようですが……」
「なるほど、確かに奇妙だ。武器は持っていないのだな?」
「はい。この行動が帝国に奇襲を仕掛ける下準備、ということはないでしょう。魔獣の群れに擬態して奇襲をするつもりなら、歌を歌う意味も、一列に並ぶ意味もありません」
斥候の言葉に、兵長は頷いた。
「確かにな。では連中の宗教儀式か何かか……まるで、『百鬼夜行』だが……」
「? なんです、百鬼夜行って」
聞き慣れない言葉に、斥候は首を傾げた。
「シャルガネの伝説だよ。大量の魔獣やクリーパーが夜中に行列をなして市中を練り歩くという。確か、出典は絵巻物だったかな」
「なるほど。新発見の風習ですし、ヴィントへの報告にはその単語を使わせてもらいますね」
「ああ、好きにしろ」
こうして、ランランの部族で行われるケンタウロスの収穫祭は、人類には『百鬼夜行』と呼ばれることとなった。
●
『レミーラ様、あなたが亡くなられてから最初の秋になりました。今は『百鬼夜行』の季節です』
ケンタウロスの部族の長ランランは、レミーラの墓参りに来ていた。帝国から奪還されたレミーラの遺体が返還され、ここに改めてレミーラの遺骨が埋葬されてからというもの、ランランは毎日一度もレミーラの墓参りを欠かしたことはない。
『今年はボウケンシャ族の人達も、お祭りに招こうと思います。貴方の亡骸を取り戻してくれた人達ですから、きっとみんな大歓迎ですよ。……彼らとの友情は、ずっと続いています。他の部族も、だんだんボウケンシャ族に一目置く者達が増えてきました。いつかは、テイコク族とも戦わなくて済む時代が来るかもしれません』
涼しげな風に吹かれながら、ランランはにっこりと笑う。
『ランラン族長! 魔獣ニワトリが逃げました! 捕まえるの手伝ってください!』
『エエ!? 分かりました、今行きます!』
部族の若者に呼ばれ、ランランは馬ダッシュで丘を降りていった。
解説
目標:ケンタウロスのコスプレ祭「百鬼夜行」を楽しんだり、狩りを手伝ったりする。
舞台:ケンタウロスの聖地、ランラン(レミーラ)の部族の村
依頼人:ケンタウロス
※参加報酬はレミーラのキメラゾンビの撃破に対してのケンタウロスからのお礼であり、お祭り参加に対する謝礼ではない。
状況:
秋の恵みに感謝する収穫祭がランランの部族で開催されており、冒険者も招待されています。ケンタウロス達と共に、祭りを楽しみましょう。
●収穫祭『百鬼夜行』
ランランの部族に伝わる収穫祭。深夜にコスプレして行列を作って草原を練り歩く。昼は立食パーティもする。シャルガネ文化に詳しい帝国の斥候により『百鬼夜行』と名付けられた。
●登場NPC
ランラン
レミーラから族長を継いだ部族の指導者。人語が堪能なケンタウロスであり、今回は大切なお祭りということで正装(生前のレミーラと同じ格好)をしているが、人類のお洒落には興味津々。好物は脂っこいもの。
レミーラ(故人)
先代の指導者。バルディオン将軍と休戦条約を結んだ聖地の旧古老派ケンタウロスの代表でもある。グリゼルダに遺体が奪われ、キメラゾンビとして使役されていたが、王都グランンスパーダでついに撃破され、帝国経由で頭部と遺体の一部(原型を留めていた部分)がケンタウロスに返還された。現在は荼毘に付され、ランランの部族の外れにある丘の上作られた新しい墓に改めて葬られた。生前の好物はチョコレートとタケノコの煮物。
ティム
『ビーストテイマー』の素養を持つケンタウロスの特異個体の少年。魔獣ニワトリ(人間大のニワトリ)の繁殖に成功しており、日々忙しくしている。
ティカ エーテル浄化者
シルトラース帝国の農業を支援しているエーテル浄化者エルフ。冒険者にくっついてお祭りを見に来た。ケンタウロスの農業は未だ黎明期であまりうまくいってはいないため、おおっぴらにエーテル浄化能力を披露すると、無用な争いが生まれる可能性がある。ティカはジド・ルウ風のミニスカサンタのコスプレを披露する。エルフはケンタウロスとあまり接点がない種族のため珍しがられ、特にオスのケンタウロス達が群がっている。
(過去登場シナリオ:「【帝国】リーミルといかがわしい酒場・あと事務破壊者」など)
画商エルビス
祭りの参加者ではないが、ケンタウロスの絵を描けば後で買い取ってくれるかもしれない。
(過去登場シナリオ:『ピクチャー・オブ・ケンタウロス』)
マスターより
こんにちは。おおくまねこです。【幻秋】一本目は殺伐としてましたが、二本目は楽しいお祭りシナリオです。ケンタウロス達と共にコスプレ祭りを楽しみましょう。王国の決戦でレミーラのゾンビが倒されたので、本シナリオは【堕天】連作の最終話でもあります。報酬は出ますが、今回は仕事ではないので、思い思いの時間をお過ごし下さい。
リプレイ
●
「ヒト族で言うところの収穫祭に、仮装してパレードをやる文化があると伝えるといいのだ。類似例ではエルフ族の一部にカボチャ囲んで踊る文化があるし、ゴブリン族も楽器を鳴らしながら宴をする文化がある。人馬族にも似たような文化がある事は友好的交流に一役買うだろう」
ストレガ・L・リベルガストラはビッグオウムでケンタウロスの聖地(に一番近いビッグオウムの発着所)へと向かいながら、相席となったティカと雑談をしていた。
「ソウダナ!」
すると、関係ないビッグオウムが相槌を入れた。たぶん、何の話かは分かっておらず、適当に返事をしただけである。
「いやそれ、何百年も前からやってるエルフの伝統とかではなく、ごく最近始めた風習なんですけどね? ブーム、みたいな?」
力を使う前にGP教の舞を披露するエーテル浄化者、ティカはすかさず突っ込みを入れた。彼女がカボチャ(というか作物)の前でダンスをするようになったのは、ここ数年のことである。悠久の時を生きるエルフにとっては、最近も最近のことであろう。
「ところで、今日もお料理楽しみにしていますね、ストレガさん。試食はお任せ下さい」
ティカはニコニコとストレガに微笑んできた。
(やれやれなのだ。ティカ殿に試食で全部食べられないように気を付けるのだ)
ストレガは残念なものを見る表情でティカを見つめた。
●
「お久しぶりデス。冒険者の皆さん。それにレミーラ様の亡骸を取り戻してくれてありがとうございマス。新しいお墓、丘の上に作りました。もう二度とお墓を暴かれないように」
冒険者達がランランの集落に行くと、ランランは深々と頭を下げた。事情は伝わっているのか、他のケンタウロス達の表情も、どこか優しげだった。
「ここが、レミーラさんの新しいお墓……丘の上なら、きっとランランさん達をずっと見守ってくださるでしょう」
トーラはレーズンワインチョコレートを墓前に供えると、レミーラへと祈りを捧げた。
(今度こそ安らかに休んでください……!)
●
「百鬼夜行――新発見の風習だな」
ナハティガル=ラーは依頼書を手に取り、フッと笑った。そして向かうは画材道具店。彼にはかの聖地で成し遂げなくてはならないことがあった。
「人馬達の文化を広める一助となるやもしれん。これは是非とも絵にしてみたいものだ」
そして聖地入りしたナハティガルは、ランランからレミーラの墓の場所を教えて貰い、墓参りに参じていた。ナハティガルは七色チョコレートを墓に供え、レミーラの冥福を祈る。
「――もう眠りを妨げるものは何もない。どうか安らかに」
●
(……わたし、は、役に立てなかった、けど…。レミーラさんの遺体、が、戻ってきて、良かった)
エルはレミーラのことを思い出し、空を見上げた。なお、最後の戦いでこそ別の戦場にいたため、エルがキメラゾンビとなったレミーラを解放することは叶わなかったが、レミーラとの一度目と二度目の戦いの際にはエルも参加している。
「お久しぶりです、ランランさん」
「お久しぶりデス。エルさん。レミーラ様のこと、ありがとうございマス。今日は楽しんでいってくだサイね」
「ありがとうございます、ランランさん。わたしは、役に立てません、でしたが」
「そんなことはないデスよ。アナタも、一緒に戦ってくれました」
エルはペコリとランランに頭を下げると、近くで白い花を摘み、レミーラの墓へと供えた。
(どうか、やすらかに……)
●
コケコッコー! コケッコッコッコッコ……。
「増えてる……?」
エルはちょっと繁殖した魔獣ニワトリの群れを見て、目を丸くした。言葉は通じなかったが。ケンタウロスのビーストテイマーはエルの反応に気をよくしたのか、親指を立ててきた。エルはとりあえず自分も親指を立てて返事をすると、柵で囲われた魔獣ニワトリに近づいていった。
「ニワトリさん、元気?」
「コッコッコッ」
ニワトリの羽毛をモフモフしていると、ケンタウロスが何やら叫んでいるのが聞こえた。
『大変だ! 丸焼きにしようとしたトリが逃げちまった!』
(なんだか、事件?)
エルはケンタウロス達に加勢すべく、声が聞こえた方へと駆けて行った。
●
「こすぷれぱーりない! なのですっ。ギュンタはこのお手製の愛らしいクマちゃん着ぐるみで練り歩くのですよ」
レラ・F・ギュンターは自作のクマの着ぐるみを着用し、ケンタウロスの聖地へとやってきた。
『ランラン様! 集落の近くにコグマのゾンビが出現しました!』
『なんだと? すぐ行く! すぐ出れる者はついてこい!』
集落の若者の通報を受け、ランランは弓を掴むと、戦士達を率いて集落から飛び出していった。
『あれか! ……ん?』
トコトコとこちらに向かってまっすぐ歩いてくるゾンビは、どこか奇妙だった。クマにしてはあまりに姿勢が直立すぎるし、なぜか、頭から金色の毛がはみ出ている。あと、クマは鼻歌など歌わないだろうし、手提げ袋を持っているのも変だ。
(もしかして、あれは冒険者族の衣装?)
そう直感したランランは弓を背中にしまい、慎重に謎のコグマへと近づいていった。
「あ、ランランさん。お久しぶりなのです!」
近づいてくるランランの姿に気付いたUMAもとい、レラはぶんぶんと大きく手を振った。そして顔が見えていないことに気付き、頭の被り物を取った。
「やはり、冒険者族の方でしたか。お久しぶりデス」
ランランはぎょっと固まった後、苦笑しながらレラに言った。実際のところ、レラの自作の着ぐるみはかなり雑で、綿がところどころ飛び出していたり、縫製がほつれて中身が見えていたりしている。まるで「クマのゾンビ」のようであった。ケンタウロス達はヒソヒソと、レラの方を見ながら何かを囁いている。
「紫色ですからお名前はサツマさんに致しました。チャームポイントとして赤いマニキュアを塗りました。真っ白なお爪です。可愛いでしょう? 中身のギュンタも勿論かーいらしーですけどね」
レラはさりげなく自己アピールし、ドヤ顔で胸をはった。自慢のチャームポイントとやらは、マニキュアの塗り方の雑さもあって、まるで血がついた爪のようであった。
「その、ゾンビではないのデスよね? その……言いにくいのデスが、目玉が取れかかっていマスよ」
「ランランさんでも怒るのですよ! ギュンタのサツマさんをぞんび呼ばわりは! こんなに可愛くてキュートなお顔をしてますのにぃ! もー」
頬を膨らませ、ぶーぶーと怒るレラ。
「むー。いいですもん。ギュンタのサツマさんの可愛さを理解して下さる方はきっといらっしゃる筈です」
「あの着ぐるみはなかなか芸術的だな……スケッチしておこう」
ちなみに、レラのコスプレはナハティガル画伯の(魔の)手により、大迫力のゾンビ・アニマルの絵として描かれ、紆余曲折を経て、とあるモンスター図鑑の挿絵にもなったという。
●
「くくく、この機会にケンタウロス族を帝国や人類から離れられなくしてくれる」
ランランの集落に到着したベルク・オスマットは邪悪な笑みを浮かべた。そしてベルクは集落の側に流れていた川に近寄ると、おもむろにバケツを取り出した。まさか、川に毒か薬物でも流そうというのだろうか?
「よいしょっと。このぐらいで良いか。あの集落には井戸などないからな……」
違った。ベルクはただ川の水を汲んだだけであった。ベルクは汲んだ水を抱え、ランランの集落へと戻っていた。
「テーブルを借りるぞ……と、ケンタウロス用のテーブルは我には大きすぎるな……子供用の椅子でいいか……」
ケンタウロスのキッズサイズの椅子を借りたベルクは荷袋の封を開ける。中から取り出したのは、来る途中に市場で買ってきた保存用に加工されたタケノコだった。さらにベルクは色とりどりのソースや粉が入った小さな容器をたくさん取り出す。
(ふはは、狩猟と採集でほとんどの食糧を賄っておるケンタウロス達の料理は基本、簡素! そこに我は人類文化の結晶である調味料を投入して、煮物を作ってくれる!)
それはまさに、悪魔的発想……! ベルクはタケノコを煮ている鍋に次々と投入していく! 醤油、みりん、砂糖! 煮物には欠かせない、各種調味料を!
『おお、いい香りだ……』
必然、風味が香り立ち、周囲へと広がっていく。ベルクの料理が気になったケンタウロス達は次第に彼女の周りに集まってきた。
「さらに昆布とかつお節も投入! 旨味を倍プッシュだ!」
●
「……というわけで出来たぞ。これがタケノコと大根と鶏肉の煮物、シルトラース帝国風だ」
『うむう、うまい! 我らの水煮とは大違いだ!』
ベルクの料理を食べたケンタウロス達は大喜びだ。
(くくく、調味料が必要な料理で人馬たちの舌を肥えさせ、かつてのゴールディゴブリンのような立ち位置にさせてくれる!)
「ベルクサン、この料理のレシピを教えていただけませんか?」
「すまんな、ランラン。この料理は人類しか作れない調味料や、(聖地からはちょっと遠い)海の幸をたっぷり使っておるのだ。材料と調理法を教えるのは構わんが、人類の料理人しか作れんのだ……」
ベルクはとても残念そうな表情で、首を横に振ったのだった。
●
ベルクは日が暮れる少し前に、レミーラの墓を訪れていた。ベルクは小鉢に取り分けておいたタケノコの煮物と、柔らかめのチョコレートを墓に備え、墓の主へと語りかける。
「すまんな、主の守護が優先だった故、我に婆さんの奪還には関れんかった。だが同胞が成し遂げてくれた故、この墓参りで勘弁してくれ」
●
「仮装したらなんか菓子が食えると聞いたぞ!!」
ケンタウロスの聖地へとやってきたナハシュは、サラシの上から着崩した女物の派手なシャルガネの着物を羽織っていた。単なる飾りだが、小道具のカタナとハンマーも完備だ。
「ずいぶんと派手な服デスね! カッコイイデス! 私モ欲しいデス!」
「おう! こいつはドワーフの王様の恰好だ! 同じガラの着物を作ってもらうのが大変だったんだぜ!」
朗らかに笑い、ナハシュはランランと握手を交わした。魔獣とは全く関係ない仮装だったが、着物に興味津々なランランの審美眼に叶ったので、ナハシュはその格好で参加OKが出た。
「ところで、その大きなナイフはなんデス?」
「おう! その辺にいる生き物を殺しまくるパーティなんだろ? ちゃんと、いいものを持ってきたぜ」
どや顔でランランに見せたナハシュのバックパックには、大量の刃物が入っていた。
●
「そうか……殺戮の宴じゃなかったんだな……けど、百鬼夜行の響きはカッコイイから、そのまま俺も行進に参加するぜ! 何より『鬼』ってのが気に入った」
ランランから百鬼夜行の詳細を聞き、ナハシュは思ってたのとだいぶ違うイベントであることを理解した。道理で周りにいるケンタウロス達はみな、鎧も武器も持っていないはずだ。
「そういやお前らはテリーズテトラリュース!!! って叫ばねえのか?」
「なんデスか? それ? 人類の風習デスか?」
「おう、これを言うとお菓子貰えるんだぜ。持ってない奴には悪戯していいらしい」
「なるほど、変わった風習デスね。覚えておきマス」
「つうことで、テリーズテトラリュース!! お菓子を寄越せ!」
ナハシュがランランに茶菓子を要求したところ、蜂蜜に漬けた果物が出た。
●
「ランラン、元気そうでよかった。だが、まずは先に墓参りだな」
集落に着いたテテリカは最初に、レミーラの墓に立ち寄ることにした。
「貴方にチョコを持ってきた。甘さは強いが高級品だ」
テテリカが墓に備えたのは、新品の板チョコレート。チョコを愛した偉大な長への手向け物であった。
●
「正装姿のランランも立派な風格があるな」
「ありがとうございマス、テテリカさん。あなたもなかなかサマになってますヨ」
テテリカがランランの民族衣装を褒めると、ランランは聞こえにくかったのか、テテリカの側に馬座りをし、ニッコリと微笑んだ。
「あ、ありがとう。少しでも、貴女達に近づきたいと思って、人馬に近い雰囲気の仮装にしてみた、んだ」
テテリカは緊張と照れでしどろもどろになりながらも、なんとかそう答えた。テテリカの仮装はヒツジのような巻き角と、シカのような下半身(に見える毛皮のズボン。尻尾付き)だった。いわゆる『サテュロス』の仮装である。
(ランラン、相変わらず美しいな……)
ランランを見上げ、頬を染めるテテリカ。ランランが腰を下ろした状態でも、ランランの顔はテテリカの頭より遥かに高い位置にある。平均的な体格のゴブリンにとって、ケンタウロスはかなり巨大である。
(座っているランランも綺麗だな……)
ぶんぶんと揺れるランランの尻尾にテテリカは見惚れていた。彼女のしなやかな肉体(馬部分)は、大自然に生きるテテリカにとって憧れであった。勇気を出して近づいたものの、声もかすれて小さい。
(今日は許される範囲でランランのそばにいたい)
「ランラン、スコシ、ハナセルダロウカ?」
テテリカはそう思い、思い切ってランランに話しかけるが、声が裏返ってしまい、キーキー声になってしまった。
「もちろんいいデスが、風邪デスか? 最近は寒くなってきまシタからね」
(くっ……地元では、ダウナー系イケてるお兄さん枠で通っているはずなのに)
密かに声の自己評価が高かったテテリカは、くやしそうに呟いた。
●狩りの時間
「足跡発見です! おそらく、クマですね」
「確かにこれはクマですね。ずいぶん大きい……」
キノコやクリ、山菜がたくさん入ったカゴを背負ったトーラが獣の足跡を指差すと、エルフのティカが深刻な表情をした。足跡は並みのクマよりも一回り大きい。小さく見積もっても灰色熊ぐらいはありそうだ。クマと聞き、狩りに出てきた望遠者達はみな真顔になる。狩人の道に長じる者達は、誰もがクマの恐ろしさを知っているからだ。
「このあたりもクリーパーや魔獣が出るそうだからな。生き残っている獣なら魔獣の可能性も高い。油断はできんぞ」
「エエ、慎重に追跡しましょう」
テテリカの言葉に、ランランは頷いた。ただのクマなら冒険者達や特異個体のケンタウロスであるランランの敵ではないが、魔獣となると、こちらに死人が出る可能性もある難敵だ。
●
「あの穴の中だ。間違いない。サーマルアイでも確認した」
エーテルを飛ばし、クマ(?)の巣を探り当てたテテリカは地面に掘られていた大きな穴を指差した。大きな穴と言っても、人間が隊列を組んで入れるような大きさではない。ハーフリングであるトーラやテテリカでもギリギリ、ケンタウロスのランランに至っては、四つん這いになっても入り口でつっかえてしまうだろう。
「では、メテオライトを打ち込んで炙り出すのだ」
ストレガは教鞭を構えると、穴目掛けて光の雨を打ち込んだ。
ドドドドドド!
穴の中で大音響が響いた直後、中から巨大なクマが飛び出してきた!
「グオオオオッ!!」
怒り狂った魔獣グマは爪を振り上げ、穴の正面にいたトーラへと飛びかかろうとした。しかし、ストレガが洞窟の入り口に仕掛けていた雷蛇大禍がバチバチと爆ぜ、クマの動きを拘束した。そして、クマの出現に反応した冒険者やケンタウロス達が、一斉に攻撃をしかけた。
「ガウガウガウガウ!」
一瞬で距離を詰めたテテリカのブチハイエナが、果敢にクマの足にかみつく。クマがワライタケを振り払おうとした瞬間、テテリカ、ランラン、ティカの放った矢が突き刺さった。
「とうっ!」
トーラは凄まじい脚力で跳躍した。消えた、というほどの速度でクマの眼前に移動したトーラは光輝く二本の剣を交差させた。すとん。トーラの剣は、丸太ように太いクマの首を見事に切り落としていた。
「やったー! 熊肉ゲットです!」
ティカは手を叩いた。
「よくやったな、ワライタケ。これだけ大きければかなり食いでがあるだろう」
テテリカはブチハイエナの頭を撫でながら言った。
「エエ、部族の者達も喜ぶでしょう。皆さん、ありがとうございマス!」
ランランは親指を立て、ニッコリと微笑んだ。
●百鬼夜行
夜も更け、いよいよケンタウロス達の祭りの本番が始まる。仮装した冒険者達は人馬達の群れに混ざり、楽器を鳴らしながら夜の草原を練り歩いた。松明の火やかき鳴らされる楽器の音を恐れているのか、魔獣やクリーパー達も寄っては来なかった。
「ストレガはコスプレしてないんだな」
ナハシュはシグルランの衣装を着たまま、ストレガにたずねた。
「うむ。普段から獣骨を纏う私だがこれは呪具なのだ。我々が生きる為に狩った獣の魂への感謝と供養の為、その肉体は余さず頂く。この祭もそのようなものだろう」
「ああ、なるほど、つまり、普段からコスプレしてるんだな!」
『なんか、妙に動きがカクカクしたゴブリンがいるな……』
(……ランランの側に居れるのは嬉しいが、緊張する……!)
サテュロスの衣装を着たテテリカはランランのすぐ後ろで、ゴーレムのようにぎこちない動きで行進していた。
「るーるーるー♪」
オオカミのけも耳カチューシャを付けたエルはケンタウロスの歌に合わせ、リュートをかき鳴らしていた。後ろにはペットの狼も一緒だ。
「ケンタ、コスプレ―、パーリナイ!」
高らかに歌いながら腕をぶんぶんと振っているのはレラだった。衣装は日中に冒険者達が倒したクマのゾンビ……ではなく、自作のちょっと雑なクマの着ぐるみ、『サツマさん』である。
「皆さん、今日はありがとうございマス! お祭り、楽しんで下さいね!」
『ヒャッホー!』
ランランの言葉に、ケンタウロスも冒険者達も、喝采の声を上げた。
「うむ、これはいい絵になる……」
岩山の上に腰掛け、一心不乱にキャンバスに筆を走らせているのはナハティガル画伯だ。彼は今日ここで見た光景をキャンバスに叩きつけ、顔見知りの画商に買い取ってもらうつもりだ。『念写』も行い、今日ここで見た光景を頭に焼き付ける。
「フッ、今度こそ……画商も買い取りたくなる筈!」
かくして、祭りの夜は更けていく。冒険者達は、ケンタウロス達と共に、百鬼夜行を楽しんだのだった。
●後日談
「エルビス、これを見てくれ。ケンタウロスの聖地で、俺の見たままを描いたつもりだ」
「ううむ、これは鬼気迫る絵だな! まるでこの世の終わりのようだ! 帝国はやはり地獄というわけか……」
ナハティガルの描いたケンタウロス達の祭りの絵は、まるでクリーパーが群れをなして荒野を徘徊しているような不気味な絵に仕上がっていた。いうなれば本物の『百鬼夜行』である。絵にはナハティガルのエネルギッシュな筆致が漲っており、まるで死霊術師が悪霊を封じた絵だとか、帝都崩壊の日を描きました、と言われても納得してしまいそうな迫力が出ている。
「なんと面妖な……ふむ、ケンタウロスとの因果関係はよく分からんが、これはこれでアリかもしれんな……一応聞くが、ケンタウロスの祭りで何か、怪しいハーブを摂取したとかいうことは?」
「無い」
ナハティガルはきっぱりと答えた。
(ケンタウロスの絵を描いたのに、因果関係が不明とはどういうことなのだろう?)
数日後、エルビスが小遣い程度の値段で買い取ってくれたナハティガル画伯の絵は「異界の深淵を覗いた怪作」という触れ込みで、世に出回ったそうである。
「ヒト族で言うところの収穫祭に、仮装してパレードをやる文化があると伝えるといいのだ。類似例ではエルフ族の一部にカボチャ囲んで踊る文化があるし、ゴブリン族も楽器を鳴らしながら宴をする文化がある。人馬族にも似たような文化がある事は友好的交流に一役買うだろう」
ストレガ・L・リベルガストラはビッグオウムでケンタウロスの聖地(に一番近いビッグオウムの発着所)へと向かいながら、相席となったティカと雑談をしていた。
「ソウダナ!」
すると、関係ないビッグオウムが相槌を入れた。たぶん、何の話かは分かっておらず、適当に返事をしただけである。
「いやそれ、何百年も前からやってるエルフの伝統とかではなく、ごく最近始めた風習なんですけどね? ブーム、みたいな?」
力を使う前にGP教の舞を披露するエーテル浄化者、ティカはすかさず突っ込みを入れた。彼女がカボチャ(というか作物)の前でダンスをするようになったのは、ここ数年のことである。悠久の時を生きるエルフにとっては、最近も最近のことであろう。
「ところで、今日もお料理楽しみにしていますね、ストレガさん。試食はお任せ下さい」
ティカはニコニコとストレガに微笑んできた。
(やれやれなのだ。ティカ殿に試食で全部食べられないように気を付けるのだ)
ストレガは残念なものを見る表情でティカを見つめた。
●
「お久しぶりデス。冒険者の皆さん。それにレミーラ様の亡骸を取り戻してくれてありがとうございマス。新しいお墓、丘の上に作りました。もう二度とお墓を暴かれないように」
冒険者達がランランの集落に行くと、ランランは深々と頭を下げた。事情は伝わっているのか、他のケンタウロス達の表情も、どこか優しげだった。
「ここが、レミーラさんの新しいお墓……丘の上なら、きっとランランさん達をずっと見守ってくださるでしょう」
トーラはレーズンワインチョコレートを墓前に供えると、レミーラへと祈りを捧げた。
(今度こそ安らかに休んでください……!)
●
「百鬼夜行――新発見の風習だな」
ナハティガル=ラーは依頼書を手に取り、フッと笑った。そして向かうは画材道具店。彼にはかの聖地で成し遂げなくてはならないことがあった。
「人馬達の文化を広める一助となるやもしれん。これは是非とも絵にしてみたいものだ」
そして聖地入りしたナハティガルは、ランランからレミーラの墓の場所を教えて貰い、墓参りに参じていた。ナハティガルは七色チョコレートを墓に供え、レミーラの冥福を祈る。
「――もう眠りを妨げるものは何もない。どうか安らかに」
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(……わたし、は、役に立てなかった、けど…。レミーラさんの遺体、が、戻ってきて、良かった)
エルはレミーラのことを思い出し、空を見上げた。なお、最後の戦いでこそ別の戦場にいたため、エルがキメラゾンビとなったレミーラを解放することは叶わなかったが、レミーラとの一度目と二度目の戦いの際にはエルも参加している。
「お久しぶりです、ランランさん」
「お久しぶりデス。エルさん。レミーラ様のこと、ありがとうございマス。今日は楽しんでいってくだサイね」
「ありがとうございます、ランランさん。わたしは、役に立てません、でしたが」
「そんなことはないデスよ。アナタも、一緒に戦ってくれました」
エルはペコリとランランに頭を下げると、近くで白い花を摘み、レミーラの墓へと供えた。
(どうか、やすらかに……)
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コケコッコー! コケッコッコッコッコ……。
「増えてる……?」
エルはちょっと繁殖した魔獣ニワトリの群れを見て、目を丸くした。言葉は通じなかったが。ケンタウロスのビーストテイマーはエルの反応に気をよくしたのか、親指を立ててきた。エルはとりあえず自分も親指を立てて返事をすると、柵で囲われた魔獣ニワトリに近づいていった。
「ニワトリさん、元気?」
「コッコッコッ」
ニワトリの羽毛をモフモフしていると、ケンタウロスが何やら叫んでいるのが聞こえた。
『大変だ! 丸焼きにしようとしたトリが逃げちまった!』
(なんだか、事件?)
エルはケンタウロス達に加勢すべく、声が聞こえた方へと駆けて行った。
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「こすぷれぱーりない! なのですっ。ギュンタはこのお手製の愛らしいクマちゃん着ぐるみで練り歩くのですよ」
レラ・F・ギュンターは自作のクマの着ぐるみを着用し、ケンタウロスの聖地へとやってきた。
『ランラン様! 集落の近くにコグマのゾンビが出現しました!』
『なんだと? すぐ行く! すぐ出れる者はついてこい!』
集落の若者の通報を受け、ランランは弓を掴むと、戦士達を率いて集落から飛び出していった。
『あれか! ……ん?』
トコトコとこちらに向かってまっすぐ歩いてくるゾンビは、どこか奇妙だった。クマにしてはあまりに姿勢が直立すぎるし、なぜか、頭から金色の毛がはみ出ている。あと、クマは鼻歌など歌わないだろうし、手提げ袋を持っているのも変だ。
(もしかして、あれは冒険者族の衣装?)
そう直感したランランは弓を背中にしまい、慎重に謎のコグマへと近づいていった。
「あ、ランランさん。お久しぶりなのです!」
近づいてくるランランの姿に気付いたUMAもとい、レラはぶんぶんと大きく手を振った。そして顔が見えていないことに気付き、頭の被り物を取った。
「やはり、冒険者族の方でしたか。お久しぶりデス」
ランランはぎょっと固まった後、苦笑しながらレラに言った。実際のところ、レラの自作の着ぐるみはかなり雑で、綿がところどころ飛び出していたり、縫製がほつれて中身が見えていたりしている。まるで「クマのゾンビ」のようであった。ケンタウロス達はヒソヒソと、レラの方を見ながら何かを囁いている。
「紫色ですからお名前はサツマさんに致しました。チャームポイントとして赤いマニキュアを塗りました。真っ白なお爪です。可愛いでしょう? 中身のギュンタも勿論かーいらしーですけどね」
レラはさりげなく自己アピールし、ドヤ顔で胸をはった。自慢のチャームポイントとやらは、マニキュアの塗り方の雑さもあって、まるで血がついた爪のようであった。
「その、ゾンビではないのデスよね? その……言いにくいのデスが、目玉が取れかかっていマスよ」
「ランランさんでも怒るのですよ! ギュンタのサツマさんをぞんび呼ばわりは! こんなに可愛くてキュートなお顔をしてますのにぃ! もー」
頬を膨らませ、ぶーぶーと怒るレラ。
「むー。いいですもん。ギュンタのサツマさんの可愛さを理解して下さる方はきっといらっしゃる筈です」
「あの着ぐるみはなかなか芸術的だな……スケッチしておこう」
ちなみに、レラのコスプレはナハティガル画伯の(魔の)手により、大迫力のゾンビ・アニマルの絵として描かれ、紆余曲折を経て、とあるモンスター図鑑の挿絵にもなったという。
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「くくく、この機会にケンタウロス族を帝国や人類から離れられなくしてくれる」
ランランの集落に到着したベルク・オスマットは邪悪な笑みを浮かべた。そしてベルクは集落の側に流れていた川に近寄ると、おもむろにバケツを取り出した。まさか、川に毒か薬物でも流そうというのだろうか?
「よいしょっと。このぐらいで良いか。あの集落には井戸などないからな……」
違った。ベルクはただ川の水を汲んだだけであった。ベルクは汲んだ水を抱え、ランランの集落へと戻っていた。
「テーブルを借りるぞ……と、ケンタウロス用のテーブルは我には大きすぎるな……子供用の椅子でいいか……」
ケンタウロスのキッズサイズの椅子を借りたベルクは荷袋の封を開ける。中から取り出したのは、来る途中に市場で買ってきた保存用に加工されたタケノコだった。さらにベルクは色とりどりのソースや粉が入った小さな容器をたくさん取り出す。
(ふはは、狩猟と採集でほとんどの食糧を賄っておるケンタウロス達の料理は基本、簡素! そこに我は人類文化の結晶である調味料を投入して、煮物を作ってくれる!)
それはまさに、悪魔的発想……! ベルクはタケノコを煮ている鍋に次々と投入していく! 醤油、みりん、砂糖! 煮物には欠かせない、各種調味料を!
『おお、いい香りだ……』
必然、風味が香り立ち、周囲へと広がっていく。ベルクの料理が気になったケンタウロス達は次第に彼女の周りに集まってきた。
「さらに昆布とかつお節も投入! 旨味を倍プッシュだ!」
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「……というわけで出来たぞ。これがタケノコと大根と鶏肉の煮物、シルトラース帝国風だ」
『うむう、うまい! 我らの水煮とは大違いだ!』
ベルクの料理を食べたケンタウロス達は大喜びだ。
(くくく、調味料が必要な料理で人馬たちの舌を肥えさせ、かつてのゴールディゴブリンのような立ち位置にさせてくれる!)
「ベルクサン、この料理のレシピを教えていただけませんか?」
「すまんな、ランラン。この料理は人類しか作れない調味料や、(聖地からはちょっと遠い)海の幸をたっぷり使っておるのだ。材料と調理法を教えるのは構わんが、人類の料理人しか作れんのだ……」
ベルクはとても残念そうな表情で、首を横に振ったのだった。
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ベルクは日が暮れる少し前に、レミーラの墓を訪れていた。ベルクは小鉢に取り分けておいたタケノコの煮物と、柔らかめのチョコレートを墓に備え、墓の主へと語りかける。
「すまんな、主の守護が優先だった故、我に婆さんの奪還には関れんかった。だが同胞が成し遂げてくれた故、この墓参りで勘弁してくれ」
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「仮装したらなんか菓子が食えると聞いたぞ!!」
ケンタウロスの聖地へとやってきたナハシュは、サラシの上から着崩した女物の派手なシャルガネの着物を羽織っていた。単なる飾りだが、小道具のカタナとハンマーも完備だ。
「ずいぶんと派手な服デスね! カッコイイデス! 私モ欲しいデス!」
「おう! こいつはドワーフの王様の恰好だ! 同じガラの着物を作ってもらうのが大変だったんだぜ!」
朗らかに笑い、ナハシュはランランと握手を交わした。魔獣とは全く関係ない仮装だったが、着物に興味津々なランランの審美眼に叶ったので、ナハシュはその格好で参加OKが出た。
「ところで、その大きなナイフはなんデス?」
「おう! その辺にいる生き物を殺しまくるパーティなんだろ? ちゃんと、いいものを持ってきたぜ」
どや顔でランランに見せたナハシュのバックパックには、大量の刃物が入っていた。
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「そうか……殺戮の宴じゃなかったんだな……けど、百鬼夜行の響きはカッコイイから、そのまま俺も行進に参加するぜ! 何より『鬼』ってのが気に入った」
ランランから百鬼夜行の詳細を聞き、ナハシュは思ってたのとだいぶ違うイベントであることを理解した。道理で周りにいるケンタウロス達はみな、鎧も武器も持っていないはずだ。
「そういやお前らはテリーズテトラリュース!!! って叫ばねえのか?」
「なんデスか? それ? 人類の風習デスか?」
「おう、これを言うとお菓子貰えるんだぜ。持ってない奴には悪戯していいらしい」
「なるほど、変わった風習デスね。覚えておきマス」
「つうことで、テリーズテトラリュース!! お菓子を寄越せ!」
ナハシュがランランに茶菓子を要求したところ、蜂蜜に漬けた果物が出た。
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「ランラン、元気そうでよかった。だが、まずは先に墓参りだな」
集落に着いたテテリカは最初に、レミーラの墓に立ち寄ることにした。
「貴方にチョコを持ってきた。甘さは強いが高級品だ」
テテリカが墓に備えたのは、新品の板チョコレート。チョコを愛した偉大な長への手向け物であった。
●
「正装姿のランランも立派な風格があるな」
「ありがとうございマス、テテリカさん。あなたもなかなかサマになってますヨ」
テテリカがランランの民族衣装を褒めると、ランランは聞こえにくかったのか、テテリカの側に馬座りをし、ニッコリと微笑んだ。
「あ、ありがとう。少しでも、貴女達に近づきたいと思って、人馬に近い雰囲気の仮装にしてみた、んだ」
テテリカは緊張と照れでしどろもどろになりながらも、なんとかそう答えた。テテリカの仮装はヒツジのような巻き角と、シカのような下半身(に見える毛皮のズボン。尻尾付き)だった。いわゆる『サテュロス』の仮装である。
(ランラン、相変わらず美しいな……)
ランランを見上げ、頬を染めるテテリカ。ランランが腰を下ろした状態でも、ランランの顔はテテリカの頭より遥かに高い位置にある。平均的な体格のゴブリンにとって、ケンタウロスはかなり巨大である。
(座っているランランも綺麗だな……)
ぶんぶんと揺れるランランの尻尾にテテリカは見惚れていた。彼女のしなやかな肉体(馬部分)は、大自然に生きるテテリカにとって憧れであった。勇気を出して近づいたものの、声もかすれて小さい。
(今日は許される範囲でランランのそばにいたい)
「ランラン、スコシ、ハナセルダロウカ?」
テテリカはそう思い、思い切ってランランに話しかけるが、声が裏返ってしまい、キーキー声になってしまった。
「もちろんいいデスが、風邪デスか? 最近は寒くなってきまシタからね」
(くっ……地元では、ダウナー系イケてるお兄さん枠で通っているはずなのに)
密かに声の自己評価が高かったテテリカは、くやしそうに呟いた。
●狩りの時間
「足跡発見です! おそらく、クマですね」
「確かにこれはクマですね。ずいぶん大きい……」
キノコやクリ、山菜がたくさん入ったカゴを背負ったトーラが獣の足跡を指差すと、エルフのティカが深刻な表情をした。足跡は並みのクマよりも一回り大きい。小さく見積もっても灰色熊ぐらいはありそうだ。クマと聞き、狩りに出てきた望遠者達はみな真顔になる。狩人の道に長じる者達は、誰もがクマの恐ろしさを知っているからだ。
「このあたりもクリーパーや魔獣が出るそうだからな。生き残っている獣なら魔獣の可能性も高い。油断はできんぞ」
「エエ、慎重に追跡しましょう」
テテリカの言葉に、ランランは頷いた。ただのクマなら冒険者達や特異個体のケンタウロスであるランランの敵ではないが、魔獣となると、こちらに死人が出る可能性もある難敵だ。
●
「あの穴の中だ。間違いない。サーマルアイでも確認した」
エーテルを飛ばし、クマ(?)の巣を探り当てたテテリカは地面に掘られていた大きな穴を指差した。大きな穴と言っても、人間が隊列を組んで入れるような大きさではない。ハーフリングであるトーラやテテリカでもギリギリ、ケンタウロスのランランに至っては、四つん這いになっても入り口でつっかえてしまうだろう。
「では、メテオライトを打ち込んで炙り出すのだ」
ストレガは教鞭を構えると、穴目掛けて光の雨を打ち込んだ。
ドドドドドド!
穴の中で大音響が響いた直後、中から巨大なクマが飛び出してきた!
「グオオオオッ!!」
怒り狂った魔獣グマは爪を振り上げ、穴の正面にいたトーラへと飛びかかろうとした。しかし、ストレガが洞窟の入り口に仕掛けていた雷蛇大禍がバチバチと爆ぜ、クマの動きを拘束した。そして、クマの出現に反応した冒険者やケンタウロス達が、一斉に攻撃をしかけた。
「ガウガウガウガウ!」
一瞬で距離を詰めたテテリカのブチハイエナが、果敢にクマの足にかみつく。クマがワライタケを振り払おうとした瞬間、テテリカ、ランラン、ティカの放った矢が突き刺さった。
「とうっ!」
トーラは凄まじい脚力で跳躍した。消えた、というほどの速度でクマの眼前に移動したトーラは光輝く二本の剣を交差させた。すとん。トーラの剣は、丸太ように太いクマの首を見事に切り落としていた。
「やったー! 熊肉ゲットです!」
ティカは手を叩いた。
「よくやったな、ワライタケ。これだけ大きければかなり食いでがあるだろう」
テテリカはブチハイエナの頭を撫でながら言った。
「エエ、部族の者達も喜ぶでしょう。皆さん、ありがとうございマス!」
ランランは親指を立て、ニッコリと微笑んだ。
●百鬼夜行
夜も更け、いよいよケンタウロス達の祭りの本番が始まる。仮装した冒険者達は人馬達の群れに混ざり、楽器を鳴らしながら夜の草原を練り歩いた。松明の火やかき鳴らされる楽器の音を恐れているのか、魔獣やクリーパー達も寄っては来なかった。
「ストレガはコスプレしてないんだな」
ナハシュはシグルランの衣装を着たまま、ストレガにたずねた。
「うむ。普段から獣骨を纏う私だがこれは呪具なのだ。我々が生きる為に狩った獣の魂への感謝と供養の為、その肉体は余さず頂く。この祭もそのようなものだろう」
「ああ、なるほど、つまり、普段からコスプレしてるんだな!」
『なんか、妙に動きがカクカクしたゴブリンがいるな……』
(……ランランの側に居れるのは嬉しいが、緊張する……!)
サテュロスの衣装を着たテテリカはランランのすぐ後ろで、ゴーレムのようにぎこちない動きで行進していた。
「るーるーるー♪」
オオカミのけも耳カチューシャを付けたエルはケンタウロスの歌に合わせ、リュートをかき鳴らしていた。後ろにはペットの狼も一緒だ。
「ケンタ、コスプレ―、パーリナイ!」
高らかに歌いながら腕をぶんぶんと振っているのはレラだった。衣装は日中に冒険者達が倒したクマのゾンビ……ではなく、自作のちょっと雑なクマの着ぐるみ、『サツマさん』である。
「皆さん、今日はありがとうございマス! お祭り、楽しんで下さいね!」
『ヒャッホー!』
ランランの言葉に、ケンタウロスも冒険者達も、喝采の声を上げた。
「うむ、これはいい絵になる……」
岩山の上に腰掛け、一心不乱にキャンバスに筆を走らせているのはナハティガル画伯だ。彼は今日ここで見た光景をキャンバスに叩きつけ、顔見知りの画商に買い取ってもらうつもりだ。『念写』も行い、今日ここで見た光景を頭に焼き付ける。
「フッ、今度こそ……画商も買い取りたくなる筈!」
かくして、祭りの夜は更けていく。冒険者達は、ケンタウロス達と共に、百鬼夜行を楽しんだのだった。
●後日談
「エルビス、これを見てくれ。ケンタウロスの聖地で、俺の見たままを描いたつもりだ」
「ううむ、これは鬼気迫る絵だな! まるでこの世の終わりのようだ! 帝国はやはり地獄というわけか……」
ナハティガルの描いたケンタウロス達の祭りの絵は、まるでクリーパーが群れをなして荒野を徘徊しているような不気味な絵に仕上がっていた。いうなれば本物の『百鬼夜行』である。絵にはナハティガルのエネルギッシュな筆致が漲っており、まるで死霊術師が悪霊を封じた絵だとか、帝都崩壊の日を描きました、と言われても納得してしまいそうな迫力が出ている。
「なんと面妖な……ふむ、ケンタウロスとの因果関係はよく分からんが、これはこれでアリかもしれんな……一応聞くが、ケンタウロスの祭りで何か、怪しいハーブを摂取したとかいうことは?」
「無い」
ナハティガルはきっぱりと答えた。
(ケンタウロスの絵を描いたのに、因果関係が不明とはどういうことなのだろう?)
数日後、エルビスが小遣い程度の値段で買い取ってくれたナハティガル画伯の絵は「異界の深淵を覗いた怪作」という触れ込みで、世に出回ったそうである。
マスターコメント
ケンタウロス達と楽しい時間を過ごせました。ちゃっかり冬越えの食糧のフォローも。そしてレミーラも墓にたくさん人が来てニッコリでしょう。お疲れ様でした。ちなみにランランは【帝国】連動で出番があるので、このリプレイ公開後、速やかにOP公開予定です。
イベントシナリオ易しい 報酬:多い8 / 4〜25人
2023年11月04日 14時49分28秒 公開
大成功
相談掲示板
お久しぶりデス。出発は明日の朝デスね。忘れ物にはご注意下サイ。