【幻秋】神聖メガネ皇帝マリリンの野望

おおくまねこ

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シナリオID:3245

オープニング

●
「天からのお告げです! この街は今日から私が支配します!」
「だ、誰かね? 君は?」
 バーン、と会議室の扉を開け、突然乱入してきたメガネをかけた少女に、市議会議員達は目を丸くした。
「私の名はマリリン・クリニエーラです。いえ、私のことはこうお呼びなさい。『神聖皇帝マリリン』と!」
 ドーン、と胸を張って宣言する少女。その少女の服装は、その大層な肩書きをアピールするかのように、とてもゴージャスな衣装だった。式典に出席する際の王女でも、こんな動きにくそうな派手なドレスは着ていないだろう。
 ざわ……ざわ……。
 市議会議員達は困惑した。少女の年齢は十代半ばぐらいだ。まだ幼さが残る顔立ちだが、皇帝ごっこをして遊ぶにはちょっと大きい。

「君、我々は忙しいんだ。お姫様ごっこはおうちでやりなさい」
 年配の議員は、シッシッと追い払うようなしぐさをした。すると、マリリンは残念そうに首を横に振る。演劇部員だけあり、そのしぐさは様になっていた。

「どうやら、交渉は決裂のようですね。仕方ありませんわ」
 マリリンが右手を自分の顔に翳すと、思わせぶりな仕草で眼鏡を取った。すると、マリリンの眼球がびかびかと輝き出したではないか!

「このメガネは、実は私の魔力を封じていたのです! 私の真の力を見せてあげますわ!」
「何だ……授恵者だと!?」
「マリリン・クリニエーラの名において命じます! この街は、今日から『神聖マリリン帝国』です! 従いなさい!」
 ガビビビビビビビ。マリリンの目から放たれた怪光線は、議員たち全員に浴びせられた。

「もう一度尋ねます。この街は今日から私のものです。いいですね」
「「マリリン様の御心のままに!」」
 議員たちはビシッと敬礼した。
「よろしい。今日からこの国は『神聖メガネ帝国』に生まれ変わるのです! 全ての国民は眼鏡を付けなさい! 眼鏡こそ叡智の証です!」

●
「冒険者諸君、仕事だ。エラトゥーン都市同盟の一都市が『神聖メガネ帝国』を名乗る謎の武装勢力に占拠された。直ちに現地に急行し、騒動を鎮圧してもらいたい」
 
 ――は?

 冒険者ギルドのいかついおじさんの言葉に、冒険者達は首を捻った。なんだ、メガネ帝国って。メドゥの指先の聞き間違いかな?

「ドゥジケットはエラトゥーン都市同盟の西部にある都市だ。市長が敬虔なドゥジン教徒で、市長が多額の予算をかけて整備しているドゥジンシの博物館は観光地として、『その筋の人々』から高い評価を受けている、らしい。まあ、いわゆる『聖地』というやつだな」
 しきりに首を捻っている冒険者達を無視し、ギルド職員は説明を続けた。
「謎のテロリストグループ『神聖メガネ帝国』だが……彼ら……いや、彼女らは全員が『魔法少女』だ。絶大な魔力を誇るキャスターである、『神聖皇帝マリリン』をトップとする連中は新たな都市国家『神聖マリリン帝国』の樹立を宣言。都市同盟への加入を要求している。都市同盟評議会は全部聞かなかったことにして、事件をもみ消す方向で調整中だ」

 ギルド職員は盛大にため息をついた。

「……というのも、今、ドゥジケットの街には『夢幻の霧』が発生しているらしくてな。『神聖メガネ帝国』の少女達はこの霧によって生まれた存在だと考えられる」

 夢幻の霧とは、死者や知人の声がしたり姿が見えたり、過去や未来(?)の自分が見えたり、恐ろしい怪物が徘徊していたり、仮装したアザラシがひたすらサンバを踊っていたり、食べきれないほどのお菓子に囲まれたり……と言った『夢のような』事件が起きるという不思議な霧のことである。発生原因については各国で調査中だ。

「神聖メガネ帝国の幹部たちはパンクリアース学園の女学生の仲良しグループらしい。学園がお休みになったため、グループで海外旅行に出かけたところ、運悪く霧に捕まってしまったようだ。市長や議員達は『メガネっ子萌え~』なる声明と共に新国家樹立に賛意を示し、市長の座をマリリンに明け渡してしまったため、住民の間には混乱が広がっている」

 うん。それは混乱するだろうね。カオスの極みだね。

「霧のせいで都市機能自体も麻痺しているが、この霧は数日で自然消滅するらしい。なので、都市同盟評議会はとりあえず静観する構えだ。……が、怒り心頭のクリニエーラ商会(マリリンの実家)から、冒険者ギルドに神聖皇帝マリリンの暗殺依頼が出ている。というわけで、君達はドゥジケットに赴き、神聖皇帝マリリンを抹殺してくれ」

 その時、パンクリアース学園に籍を持つ冒険者の一人が挙手した。
「え、非殺傷依頼じゃないの? これ? クリニエーラ商会からマリリンの暗殺許可が出ているのですか?」

「--うむ。言い忘れたが、『本物』のマリリン・クリニエーラおよび、彼女の友人達は霧が発生した時点でドゥジケットから無事に脱出したことが確認されている。まあ、肖像権が侵害されたショックで多くは不登校になってしまったが……少女達は事件が解決するまでは家から一歩も出ないつもりのようだ。幸い、神聖メガネ帝国の情報はギルドで止まっているし、今、ドゥジケットの街は霧の影響で都市同盟から立ち入り禁止令が出ている。さっさと皇帝を倒してしまえば事件は闇に葬ることが可能だ。というわけで遠慮はいらん。速やかに神聖皇帝マリリンを抹殺してくれ」

 ブリーフィングを終えた後、ギルド職員は重要な説明が抜けていたことに気付いた。

「しまった……神聖メガネ帝国には厳格な入国審査が敷かれていることを説明し忘れていた。あの国には、今、眼鏡着用が義務付けられているのだ……この依頼を受けた者には伊達メガネを貸し出すように手配しておかねばな」

解説

目標:神聖皇帝マリリンの抹殺 舞台:都市同盟ドゥジンシの聖地、ドゥジケット ●ドゥジンの聖地、ドゥジケット エラトゥーン都市同盟の一都市。ドゥジンシの博物館があり、ドゥジンシ作家たちの間では聖地とされている。パンクリアース学園のドゥジン作家クラブ『ドゥジケット準備会』もこの街から名前がとられたようだ。 現在は『神聖メガネ帝国』に制圧されており、都市機能はマヒしている。町全体に城壁があり、眼鏡をかけていなければ入国できないため、ギルドからメガネの貸し出しがある。 ●ドゥジンシ博物館 世界各国から集められた数々のドゥジンシ・ドゥジン作品が保存されている夢の図書館。入場料を払えば展示物の閲覧は可能だが、肖像権的にやばかったりするものは施設の奥に封印されている。『夢幻の霧』はここから発生したらしい。 ●マリリンの居城 一夜にして市長の家を飲み込み、出現したリーンエス王城にそっくりなお城。マリリンは高層階の執務室におり、ドワーフ王国からメガネを輸入する手続きをしている。謁見が認められれば、謁見の間に姿を現す。 ●街の住民達 霧に覆われた街の中で基本引きこもっている。裸眼で街を歩いているとメガネ工場送りになるからだ。 ただし、家畜の世話や医療従事者など、やむをえない場合は労働免除らしい。 ●敵戦力 神聖皇帝マリリン キャスター 1へクス(ドレスが巨大な為) 夢幻の霧の力で実体化したマリリン。本人ではなく、学園生が書いたドゥジンシのキャラクターが実体化したものである。 なお、マリリン本人の記憶は有しており、『真実に目覚めたマリリン』として振舞う。 武器は月の意匠をあしらった巨大な杖。性能は高耐久・高火力型。 忠節の騎士ラミアス ウォーリア パンクリアース学園の教務主任にそっくりなイケメン眼鏡。皇帝マリリンと身分違いの恋仲、という設定らしい。 幻影参謀メイ シューター 皇帝の護衛を務める女騎士。眼鏡をかけたメアリー王女にそっくりだが、もちろん本物ではない。 『小間使い』パーシア ヒーラー やたら短いミニスカートを履いた露出度の高い女騎士。生徒会長にそっくりだが、皇帝に忠誠を誓う召使いである。束ねた二本の髪がドリルになっており、『タイダルストリーム』並みの攻撃範囲を誇る。 神聖騎士たち 数十名 学園生にそっくりな騎士達。全員が授恵者相当の戦闘力を持つ魔法少女であり、メガネを着用している。

マスターより

 こんにちは。おおくまねこです。久々のトンチキです。みんな、メガネをかけるんだ。大陸全土に発生した『夢幻の霧』はドゥジン教徒の聖地ドゥジケットをも飲み込みました。たまたま海外旅行中だった学園生達もこの霧に呑まれ、影響を受けてしまったようです……というか、彼女達の持ち込んだドゥジンシを核に霧は実体化したようです。罪なき美少女たちの肖像権を守るため、速やかに偽物を排除しましょう。

リプレイ

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「眼鏡が必要だと? そんなこと知るか」
 斥候に志願したベルク・オスマットは、単身でドゥジケットへの潜入を敢行した。あわよくば神聖眼鏡皇帝マリリンを暗殺できればよし。できなくとも、街の内情の情報を持ち帰ることができれば、仲間の役には立てるだろう。

(最悪、失敗しても命までは取られんだろうしな。顔見知りだし)
 ベルクはエーテルで壁に張り付くと、音も立てずに外壁をよじ登っていく。門番はプロの衛兵だが、さすがに門のない場所を生身で登っていくベルクには、気付くよしもなかった。

「さて、あれがマリリンの居城か? 王都(グランスパーダ)の城にそっくりだな……」
 外壁の上から、ベルクは目的地を確認する。周りの建造物と明らかに建築様式が異なるため、あの城自体も恐らく『夢幻の霧』の産物なのだろう。そして、城壁で閉じ込められた情かには、桃色の薄い霧が蔓延していた。街の住民達は特に霧を気にすることなく普通にその辺を歩いている。そしてやはりというべきか、全員が眼鏡をかけていた。

「さて、屋根伝いに行くのが近いか」
 ベルクは壁を蹴り、適当な民家の屋根の上に着地した。 その瞬間、けたたましい鐘の音が町中に鳴り響いた。
 びーびーびー。
 『異民族が侵入しました。異民族が侵入しました』

「非眼鏡の民が街に入りこみましたわ!」
「眼鏡結界に侵入者の反応が! マーキング済です! 直ちに衛兵を送ってください!」
「なん、だと……!?」
 すぐさまベルクを捕捉し、大量に押し寄せてくる衛兵たち。恐らく非授恵者ばかりだろうが、いくら何でも数が多すぎる。ベルクは慌てて身を翻し、外壁をよじ登った。

●
「――というわけで、眼鏡無しでの侵入は本当に不可能のようだ」
 無事にドゥジケットから戻ったベルクはため息を吐いた。まさか街全体に結界まで張り巡らされていようとは想定外だった。どうやら、『神聖眼鏡帝国』の名は伊達ではないようだ。

「そうか。ご苦労だったな、ベルク嬢。眼鏡は標準装備だ、問題無い」
 レタラ・スマリは眼鏡をクイッと上げた。彼は普段から眼鏡を使用している。街への侵入には何の支障もないはずだ。

「さて、度の入っていない眼鏡はギルドから人数分支給されているから、これを着用するとして……どうやって神聖眼鏡皇帝を倒す?」
 ヨル・スレイマンは5人分の眼鏡の入った箱に目をやりながら問う。すると、赤いフレームの眼鏡を手に取り、シェルリア・リトヴァールが挙手した。

「皇帝陛下に謁見を申し込みましょう! 別に鎖国とかはしていないはずですし、眼鏡着用なら、御目通りまでは行けるのではないでしょうか? ほとんどの方が同志(同じクラブ)ですし」

 クイックイッと、ノリノリで眼鏡を上げ下げするシェルリア。シェルリアの言う通り、この場にいる冒険者はベルク以外の全員がドゥジケット準備会のクラブメンバーである。もし神聖眼鏡皇帝マリリンが本体の記憶を有しているのなら、こちらが攻撃を仕掛けるまでは友人として接してもらえる公算は高い。

「なるほど! 『謁見です』って会いに行って、隙を見てブッ殺すわけだな! ワクワクしてきたぜ!」
 テンションが上がるナハシュ。シーフとして優れたポテンシャルをうかがわせる発言だが、あんまりお外で言わない方が良さそうな発言だ。

「ふむ、異存はない。仮にマリリンが俺達のことを知らない設定だったとしても、貢ぎ物を持っていけば、謁見ぐらいは許されるんじゃないだろうか? あまり、外との交流もなさそうだしな。どちらにせよ、謁見は喜ばれるんじゃないかと」

 レタラも謁見からの暗殺作戦に賛同した。『神聖眼鏡帝国』は当たり前だが、エラトゥーン都市同盟からは正式な都市国家としては認められていない。現在は対外的には、ドゥジケットの市長が乱心してしまったという認識である。都市同盟からは避難勧告も出ており、外との交流は皆無の状態のはずだ。となれば、『眼鏡の民』ならば邪見にはされないだろう。

「メガネの種類はヨルに任せる! なんかかっこいいのを頼む!」
「なんだって!? ……君は基本的になんでも似合う」
 ヨルは吟味の上、黒ぶち眼鏡をナハシュへと差し出す。そしてナハシュの眼鏡姿は珍しいので、目に焼き付けておくことにした。
「これも目からビーム出んのかな! なあ!」」
 ナハシュは勧められた眼鏡を身に着け、はしゃいでいた。

「うむ。我も異存はない。さて、皇帝に謁見となると貢ぎ物が必要ではないか?」
 政治に詳しいベルクは謁見の作法についてコメントした。
(正直マリリン殿を皇帝と呼ぶのはかなり気が進まないのだが……別にシルトラース皇帝の地位を簒奪(さんだつ)したわけでもなし、そこは寛容の精神で許そう)

「お土産ですね! ここはやはり、ドゥジンシがいいのではないのでしょうか! マリリンさんはラミアス先生に憧れてらっしゃるので、ラミアスものが有効かと。あ、でも未完成品は駄目ですよ。マリリンさんは締め切りにはうるさい編集さんです」
「その辺の眼鏡かけてる奴殴ったら、ドゥジンシドロップするかな?」
 ナハシュが恐ろしい発言をすると、ヨルが口を挟んだ。

「一応ここはダンジョンだけど、さすがにバクチが過ぎる。住民に危害を加えたら謁見拒否されるかもしれないし、殴ったのが普通の人だったら後で大変だ」
「そうかー。じゃあ、ラミアスとマリリンのドゥジンシをこっちで用意するってのはどうだ? ヨルがきっとなんか書いてくれる」
 ナハシュはぐっと親指を立てた。
「無茶だ! 一日二日で書き下ろせというのか!?」
 ヨルはナハシュの無茶ぶりに戦慄した。

「未完成原稿だとマリリンさんの逆鱗に触れますよ! あの方はああ見えて鬼編集です」
 シェルリアが真顔で言った。お金にうるさいマリリンは納期にもうるさいらしい。
「超短編小説ならなんとか仕上げられないだろうか? カラーは無理だが、モノクロの挿絵の一枚ぐらいならば手伝えると思う」
 レタラは割と乗り気らしい。
「むう……ラミアス君とマリリン君の書き下ろし短編小説か……題材としては面白くはあるが……」
 
 ドゥジケット準備会の部員達は作戦会議を始めた。話し合いの結果、本編は(徹夜で)ヨルが、挿絵はレタラとシェルリアが、試し読みはナハシュが頑張る、という結論になった。

「ずいぶん、手の込んだ作戦であるな……本来の目的を忘れていないか?」
 唯一ドゥジン作家ではないベルクはぼそりと呟いた。

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「我は別行動にしよう。謁見と並行して街で騒ぎを起こす。我は顔を見られたし、あの城の警備はそれなりに厳重だ。手勢を引き付ける囮役もいるだろう」
「では、俺もみんなとは別行動にしよう。シューターだからな。遠距離からの狙撃でマリリンの暗殺を試みる。外にいれば、ベルクが騒ぎを起こしたタイミングで中にも合図ができるしな」

 ベルクとレタラは謁見には参加せず、別行動となった。ヨル、ナハシュ、シェルリアの三名はマリリンと謁見し、隙を見てマリリンを討ち取る作戦だ。もし、謁見組が仕留め損ねた場合はレタラが外から弓での暗殺を決行する二段構えだ。敵の規模は不明だが、もたつけば恐らく乱戦になる。冒険者達は入念にお互いの役割を確認し合った。

●
「ようこそ、神聖眼鏡帝国へ。我々はあなた方を歓迎いたします。……申し遅れました、私は小間使いのパーシアと申します」

 謁見の受付をしているらしい女性は学園の生徒会長にそっくりだった。ただし、服装はクラシックなメイド服である。

「あ、パーシアさんだ。お久しぶりです。なんでメイド?」
「お。パーシアじゃん。その服も似合ってるな! ウィリアムの趣味なのか?」
 首をひねるシェルリアと、悪びれなく感想を口にするナハシュ。そして、ヨルはナハシュの爆弾発言に顔色を変えた。
(ナハシュー!)
 似合っていると言えば似合っているのだが、伯爵家の血筋(あと臣籍降下したとはいえ、第二王子の婚約者)である彼女に「侍女の衣装が似合っている」は、本人に言ったらたぶん怒るだろう。

「うふふ。私はマリリン様にお仕えする小間使いですから。ウィリアム王子のことはもう忘れました」
 ――このパーシア、解像度低いな。
 冒険者達はパーシアのキャラが死んでいることになぜかガッカリした。

「さあ、皇帝陛下がお待ちです。皆様を城までご案内します」
 パーシアが一礼すると、天を衝く巨大ツインテールがふっさふっさと揺れた。

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「聖地(ドゥジケット)にこの様な形でとは言え詣(もう)でる事が出来るなんて感無量です!」
 パーシアに連れられながら、シェルリアはドゥジケットの街並みに感動を覚えていた。ここはドゥジン信者にとって聖地と呼べる場所だ。メアリー王女もいつかこの場所で、全てのドゥジン作家の為の世界規模の大礼拝祭を実現したいという願いを込めて。自らのサークルに「ドゥジケット準備会」と名付けたのだ。

(ドゥジンシの具現化とは羨ま……ゴホン、まぁそれはさておき、ナマモノドゥジン最大の掟「本人凸ダメ絶対」が守られなければ今回のようになってしまうのだな。今回の被害者達の為、何よりドゥジンの未来の為に抹殺せねば)
 レタラは屋根伝いにシェルリアたちを追いながら、任務への決意を新たにしていた。

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「皆様、ご機嫌麗しゅう。皇帝陛下の御前です。頭が高いですよ」
「いいのです、ラミアス。彼らは私の大切な友人なのですから」
 皇帝の間には、ゴージャスな椅子に座ったマリリンと、騎士の装いに身を包んだラミアス、そして、何故か女騎士コスで控えているメアリー王女がいた。

「なるほど、そう来たか……王道だな」
 ラミアスとマリリンのやり取りに感じ入ったレタラはぽそりと呟いた。この場にレタラはいないが、彼のペットであるリスがヨル達にくっついている。エーテルリンクしているリスの視界を通じ、謁見の間の様子はレタラにも視(み)えていた。

(なんだか『神聖メガネ帝国』に参加したくなってきました。だって身分違いの恋に苦しむ推し(ラミアス先生)の姿が拝めるなんて……!)
 レタラと同様、即座に『設定』を看破し、拳を握るシェルリア。本物のラミアスがマリリンに気があるという話は聞いたことがないが(当たり前だ)、この配置なら、乙女的に近衛騎士(ラミアス)と皇帝(マリリン)は恋仲であると見て間違いない。
「いえちゃんと倒しますけども! 新刊のネタにはしますが」
 シェルリアはぼそりと呟いた。

「ご機嫌うるわしゅう、マリリン皇帝陛下! この度は建国おめでとうございます!」
 シェルリアはスカートをつまんで一礼し、なかなか言う機会がなさそうな祝辞を述べた。

「うむ、苦しゅうない。……なんちゃって。お久しぶりですね。シェルリアさん、ヨルさん、ナハシュさん。ようこそ、神聖眼鏡帝国へ。我々は貴方達を歓迎します」
 マリリンは屈託のない笑みを浮かべた。ここにいる全員がドゥジケット準備会の部員であるためか、マリリンは3人を冒険者ではなく、学友だと認識しているようだ。
「やあ、元気そうだね。マリリン君。これはお土産だよ」
「おっと、貢物とは良い心がけですが、私が検閲いたしましょう……って何ですかコレ」

 ヨルがマリリンにドゥジンシを手渡そうとすると、ラミアスが割って入った。そしてパラパラとページをめくり……。

「これは、私が処分しておきましょう」
 咳払いをし、ドゥジンシを懐にしまおうとするラミアス。その時、レタラのペットの栗鼠が雄たけびを上げた。同時に、外の方で民衆の騒ぐ声が聞こえた。

「ちっこいハーフビーストが住民の眼鏡を手あたり次第に割っているぞー! 眼鏡テロだー!」
「なんですって!? 直ちに騎士達を派遣しなさい! 眼鏡の敵は帝国の敵です!」
「はっ!」

 マリリンが命じると、たちまち城はあわただしくなり、武装した騎士達(よく見ると、顔は第三演劇部員やドゥジケット準備会の部員達にそっくりだった)がぞろぞろとテロリスト(ベルクである)を捕らえるべく、出撃していく。騎士達はラミアスだけ残して全員出ていったので、城に残ったのはマリリンとラミアス、そして小間使いのパーシアだけとなった。

「慌ただしくて、申し訳ありませんわ。今日はぜひお城にお泊りに――」
 マリリンが言いかけたその時だった。

「悪いが、今日は日帰りの予定なんだ」
 ヨルが聖印を指で結び、祝福のエーテルが4人の冒険者達を包む。さらに、ヨルはナハシュに攻撃力強化の魔法もかけた。
「マリリンさん、ドゥジン界の未来の為、貴方を討たせてもらいます!」
 シェルリアの全身から青いエーテルが迸り、冒険者達を包み込む。その直後、ナハシュが持っていたドゥジンシを投げ捨て、挟んで隠していた双剣を抜いてマリリンへと突撃した。

「させません!」
 しかし、ナハシュの進路を妨害するようにラミアスが進み出て、彼の行く手を遮った。突進を止められたナハシュはラミアスに斬りかかるが、ラミアスは剣と我が身を盾にナハシュの三連撃を受け止めた。
「たとえご学友と言えども、皇帝陛下への狼藉は許しませんよ」
「そういや、アンタと戦ったことはなかったな! けっこう強えじゃねえか!」
(忠節の騎士と鍔競り合うナハシュ、イイ……!)
 ヨルは静かにナハシュの晴れ舞台に感動していた。

「今だ!」
 城の窓を突き破り、レタラの矢が飛来する。今度はラミアスのガードも間に合わず、マリリンの肩にレタラの矢が突き刺さった。マリリンは椅子から転げ落ち、ゴロゴロと床を転がる。しかし、一撃死とはいかず、マリリンは魔法パワーでゆらりと起き上がった。

「とても悲しいですが、戦わなくてはいけないようですわね。命までは取りません。学友のよしみで、教育センター送りで勘弁してあげます」

 マリリンは悲しげに呟くと、手にしていた大きな杖で地面を突いた。たちまちマリリンの体からエーテルの暴風が吹き荒れ、謁見の間の気温が数度下がった。

「メガネビームですわ!」
 ぴーっ。マリリンの眼鏡が輝き、ぶっとい光線が迸る。手に持っている杖は一体なんだったのか。
「おっとあぶねえ!」
 ナハシュはマリリンのビームを身を翻して躱した。後ろの壁が消し飛び、極太の光線が城下まで通過していった。
「ビームだ! その眼鏡はビームが出るのか!? くれ!」
「あげません!」

●
 その頃、ベルクは城から出撃してきた授恵者騎士数十名を引き付け、孤軍奮闘していた。といっても、この人数の授恵者相手にまともにやり合うのは流石に不可能な為、ベルクは屋根の上を逃げ回り、逃げに徹している。

「逃がしませんわ!」
 そして、バシバシと矢を放ち、ベルクを射ってくる金髪眼鏡ツインテールの騎士がいた。ベルクはその顔に割と見覚えがあった。

「なんで、メアリー王女が混ざっておるのだ! 王女がよその国の皇帝の下に付くな!」
「王女? 王女などいません。この国は帝国制ですわ!」
「? ――そういうことか!」
 
 実のところ、これはダンジョンの核になったドゥジンシの作者がメアリー=メイであることを知らなかったがゆえの事故(クラスもシーフではなくシューターになっていた)なのだが、ともかく件の騎士は変装しているメアリーにそっくりであった。
「ええい、実在人物を扱うなら下調べはしっかりしておけー!」

●
「喰らえ!」
「きゃあああ!!」
 ナハシュにスカートを切り刻まれたマリリンはスカートの端を抑え、涙目になっていた。いかにパワーアップしてもメンタルはお嬢様。歴戦の冒険者であるナハシュの方が一枚上手だったようだ。

「婦女子のスカートを切り刻むとは! 学園生とて許せません!!」
 ラミアスは激怒した。必ず、この悪鬼(ナハシュ)を取り除かねばならぬと決意した。教務主任はセクハラには人一倍敏感であった。対峙していたヨルを振り切って突っ込んできたラミアスは、ナハシュに教育的指導スラッシュを叩きこんだ。

「俺だって別にパンツが見たくてやったわけじゃねーよ!!」
 態勢を立て直したナハシュが猛抗議すると、ヨルはラミアスを光の結界の内側に封じ込め、ナハシュの援護射撃をした。
「そうだ! ラミアス君。君はナハシュを誤解している! ナハシュはああ見えて学園生にふさわしい紳士(ジェントルマン)なんだ! 断じていやらしい目的でマリリン君のスカートを切り刻んでいるわけではない!」

●
「マリリン様をお守りせねば! ハァアアアアッ!」
 ラミアスは愛の力(ドゥジンシ的ご都合パワー)で20メートル垂直飛びし、光縛封を乗り越えて再びマリリンを守ろうとした。マリリンとの合流を阻止せんとラミアスの前に回り込んだヨルはラミアスと激しく切り結びながら、彼とドゥジン解釈バトルを繰り広げる。

「相手は16歳、身分の違う恋だ。当然彼女(マリリン)が卒業するまで想いは秘めているよな、先生?」
「当然でしょう! 教務主任が教え子に手を出せば学園の信用は地に墜ちる。無論、王子(ウィリアム)も、卒業まで生徒会長(16歳)に手は出さないと信じています!」
「安心した。君は信頼できる教師だ! 王子の方はともかく!」
「言うな!!」
 ガキィン、とヨルの剣を弾くラミアス。乱打戦になったため、お互いに傷だらけだ。

「ヒールです!」
「御命頂戴!」
 シェルリアはラミアスに突っ込みつつ、ヨルにヒールをかけた。小間使いのパーシアがハンマーで殴りかかってきたが、支援魔法で二重に強化されたシェルリアには大したダメージにはならなかった。

「ラミアス先生! 皇帝閣下を思えばこそ、道を誤ったら正すべきでは?」
「何をおっしゃります、リトヴァールさん。皇帝陛下のなさろうとすることに間違いなど……」
「だって、マリリンさん学園さぼってるじゃないですか! このままでは留年ですよ!」
「……くっ! 黙りなさい!」
 ラミアスは辛そうに表情を歪めた後、迷いを振り払うように、シェルリアを剣で攻撃した。

「常時眼鏡付けっぱは安易。両者かけたままでは、キスができないだろうが!」
 ヨルはくわっと叫んだ。
「その通りだ。やはりラミアスとのカップリングには眼鏡キャラではないウィリアムの方が……」
 レタラはうんうんと頷きながら、ラミアスを射る。この波状攻撃は躱し切れず、ラミアスの右肩に矢が突き刺さった。もう肩は上がらないらしい。

「笑止! 教師が生徒と口づけを交わすなど! ですが――私が彼女の眼鏡を外すのは、吝かではありません!」
「きゃー!!」(シェルリアの声)
「よく言った! ラミアス君!」
 ヨルの祭刀がラミアスの顔を跳ね上げる。ガラスが砕け散る音と共に、ラミアスの眼鏡が床に落ちた。

「どうやら、私はここまでのようです……」
 眼鏡が割れたラミアスは口から血を吐き、地面に膝を突く。彼の体はみるみるうちに薄くなっていく。どうやら眼鏡が破壊されたことが致命傷となったようだ。
「最後まで貴方をお守りできず、申し訳ありません、マリリン」
 その言い残し、ラミアスは消滅した。

「ラミアス先生――ッ!」
「その眼鏡を寄越せー!」
 絶叫するマリリン。ナハシュは棒立ち状態のマリリンの顔を斬り上げ、眼鏡を弾き飛ばした。

「先生、今御側に参ります……あなたのいない国なんて、統治しても仕方ありませんもの……」
 眼鏡が奪われたからか。あるいは、ラミアスの死でやる気がなくなったからか。マリリンの体は薄れ、跡形もなく消滅した。

●
「いやあ、実はここ数日の記憶がないのですが……どうやら、大変なことになっていたようですね」

 禿げ頭のドゥジケット市長はぽりぽりと頭を掻いた。マリリンが消滅したことで夢幻の霧は消え去り、市長や町の住民達も正気に戻ったのだ。住民達は神聖眼鏡帝国のことを何も覚えていなかったので、この一件は依頼人(マリリンの実家)の希望通り、冒険者ギルドの非公開文書としてのみ記録に残ることになるだろう。悪夢は終わったのだ。

(今回の一件、生徒会長に報告して生徒会の予算を融通させたりするカードに……いや、無理だな、メアリー王女(レイウェスト皇子の婚約者)の醜聞までセットでついてきてしまうし、本物の生徒会長は今回の件は何も知らないっぽい……)
 ベルクは今回の一件を生徒会とのなんかの予算交渉に利用できるかもと考えたが、ちょっと無理そうだった。

「ドゥジケット博物館! 貸し切りで見学! これは役得です! うおおおお!」
「ああ、シェルリア嬢。働いた甲斐があった! これが聖地の流行か! 貸出しコーナーがないのが残念だ! 何ならオレの描いたレイ×エフやウィル×ラミが具現化してくれても」
「今、レイ×エフと聞こえたのだが?」(殺気)
「これは素晴らしいラインナップだね。ドゥジンシにはこれほどのバリエーションが……」
「ヨル! あれ見てみろよ! 3メートルのゴーレムの着ぐるみがあるぜ! ああいうのもドゥジンなんだな!」

 冒険者達は平和が戻った聖地を巡礼した後、帰路についたのだった。

マスターコメント

マリリン(偽)の野望は潰えました。お疲れ様でした!
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:多い5 / 4〜25人

2023年10月19日 10時34分29秒 公開

成功

相談掲示板

  1. マリリン・クリニエーラ

    いよいよ明日の朝出発ですわね。皆様、よろしくお願いします。忘れ物にはご注意下さいませ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0