【恨縁】はじまりの縁を求めて

広大野人

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シナリオID:3239

オープニング

●
「もう二度と会う事はないかと思っていましたが、何用でしょうか?」
 イグシィ=スタスは突然の来訪者を遺跡の拠点に設けられた一室に案内していた。
 ここはオルセンから更に山に入った場所。そんな所に事前の連絡も無しに訪れるぐらいなので、急ぎの用は間違いない。
 来訪者は王国騎士エナハルト・ティルムだった。
「組織(ソーン・クリエ)が集めた貴族間の情報について知りたい」
「……」
 情報は全て提供している。調べが足りないという訳ではないはずだ。
 あらゆる可能性をイグシィは頭の中で巡り、一つの推測に至った。
「ジード様は各地での住民蜂起が成ると同時に貴族の不祥事や不都合な事を公表する予定……だったかもしれない。真相は分かりませんが……」
「君でも知らないのか」
「財務担当だったので。そうした情報管理はスターシャ・フォフの持ち分ですから」
 その女性の名はエナハルトもよく覚えている。
 組織幹部の一人だ。ジードが捕縛された後、自ら、命を絶っているのでどのような情報を持っていたのか、今となっては調べようがない。
「仕方ない。では、『赤の親指』とジードの関係は分かるか?」
「ジード様が王国産の武具を幾つかの武装組織に横流ししていた事は知っているが、具体的な相手までは……あぁ、でも渡した資料を辿ればおおよその場所や時間までは遡るかも……」
 ちなみに組織(ソーン・クリエ)の資料は騎士団本部だ。
 礼を告げて立ち去ろうとしたエナハルトの背中にイグシィはある情報を知らせた。
「承允……組織が行っていた拉致の被害者のうち、怪我や病気で動けなくなった人達を買い取りたいという商人がいた。スターシャが忌避した事もあって取引を蹴ったけど……資料の中に、行商人の名前と拠点が残されているかもしれない」
 エナハルトは片手を上げて応えると外で待っている早馬へと駆け出した。

●???
 老執事と給仕娘が仰々しく頭を下げた。
 見るからに上機嫌な様子で領主室に入って来たのは金髪緑眼の青年……キクハ・ファスターだった。彼の正体は、レンドル家の寄り親――つまり、本家にあたる侯爵だ。
「あの王国騎士二人は期待通りの働きをしてくれたようだ」
「事後が上手くいきそうでなによりです」
 老紳士が頭を下げたまま応えた。
 ザンディラ・レルドクの処遇はこれから決められるだろうが、『中央』はかつてないほどの政争で慌ただしい状況だ。捜査を担っていた王国騎士は速やかに報告書を提出、時期が時期なだけにファスター家に有利な方向で経過が付く可能性がある。
「キクハさまぁ~。あの魔獣使いのおばさんはどうするの?」
 甘ったるい声で給仕娘が訊ねる。
「魔獣使いは謎が多いからな。暫くは留めておく事になるだろう。悪さしないように見張っておけよ」
「はぁーい」
 気の抜けた返事をした給仕娘の頭に拳骨を落としつつ、老執事が補足した。
「……血族の可能性もあるとか?」
「ザンディラがどこまで把握していたか知らないがな。まぁ、処分は『中央』の行方を見てからでも遅くはないだろう」
 それが『血』の定めなのだから――。

●???
 狼型魔獣を操っていた魔獣使いマガリー・アフレは捕らえられた。
 それはメドゥの指先『赤の親指』ミュルコレオにとっては喜ばしい出来事だった。マガリーは狼型魔獣が専門の魔獣使いだったようだが、その技術はどこで変化するか分からないものだ。
「オウセイを奪われる訳にはいかなかったからのぉ」
 個人としての力量はミュルコレオの方が断然、上だ。
 ただ、魔獣使いとしての能力だけをみれば、マガリーはミュルコレオに並ぶ才の持ち主だっただろう。
 ミュルコレオの手には寄生魔獣オウセイを潜ませた紙切れがあった。
 マガリーがいない今、大手を振って寄生魔獣を街中に放つ事が出来た。数日も立てば、効果を発揮する……が、ミュルコレオの狙いはそこに無かった。
「機会は必ず訪れよう」
 人目を避けるように路地から路地へと進む。
 街の地形は頭の中に入っているので迷う事は無い。闇夜に紛れるように駆け抜けると、今にも崩れ落ちそうな廃屋に飛び込んだ。
 そして、意識を集中させる……エーテルを蜘蛛の巣のように広げていき、オウセイの反応を確かめる。
「……3つ、4つ……」
 しかし、何か命令を下す訳ではない。
 存在を確認しているだけだし、流石のミュルコレオでも複数体を同時に操作するには大きな制限を要するからだ。
「さて、冒険者達よ。わらわは此処におるぞ」
 ミュルコレオは口元を歪めた。

●
 ベッドの上でマガリーは外の風景をぼんやりと眺めていた。
 領主であるザンディラと組んで、ヒューマン以外の人種や亜人を滅ぼしてきたが、戦いに敗れた為、道はここまでのようだ。
(簡単には死なせてくれなさそうね)
 真っ先に処刑されても不思議ではないのだが……。
 あるいは、利用価値があると思われているのかもしれない。
 魔獣を使役する方法は他人が理解できるような代物ではないというのに。例えば、ペットに行動を命令させるような、そんな簡単なものではないのだ。
(…………)
 外を親子が散歩している。
 無邪気に笑う幼い女の子、それぐらいの歳の時にマガリーはゴブリンを殺した。
 今でも鮮明に覚えている。
 母親を殴り殺したゴブリンの喉に包丁を突き立てた。噴水のような血飛沫が視界一面を染めた。
 そこから、マガリー・アフレの戦いの日々が始まった。
 気が付いた時には狼型魔獣を操る事ができ、その力を使って幾つもの悪事を繰り返した。その過程で自分が何者であるか(ルーツ)を知った。
 知らないままでいたら、別の道もあったのかもしれない。
 しかし、知った以上、恨みという炎に身を委ねるしかなかったのだ。
(あの小娘は知っているのかしら……まぁ、愚問ね……)
 確かめる術はもはや、どこにも無いのだから。
 マガリーは溜め込んだ息を吐き出すと、ゆっくりと瞼を閉じる。
 1年……いや、遅くとも半年もすれば用無しになって処刑されるだろう。それまでの間、何をして過ごすか。
(……ルーツを聞くのも、悪くはないかも、ね……)
 どうせ、死に逝く者なのだ。
 言いにくい事も秘密も全て抱えて、墓に持っていけるのだから。

解説

●目的 フリーアタック ●状況 王国騎士からの依頼でレルドク領都での一連の事件について事務仕事等を手伝っていました(依頼開始時には、よほど邪魔な事をしなければ達成しています)。冒険者達は一定の範囲内で自由行動が許されています。 ・事件の謎を個人的に追い駆ける ・街を散策しながら参加者同士で事件を振り返る ・NPCと関わる ・ルーツ(後述)について調べるor語る ……等々。調査や探索に判定が必要な場合は、プレイングやスキルを考慮して一般判定を行います。 ●ルーツ PCの出自や出生について、リプレイで描写します。 ただし、描写出来る範囲には限りがありますし、【公認設定】>【プレイング】>【未公認設定】の順に優先します。【プレイング】や【未公認設定】でも、申請すれば【公認設定】が取れる可能性があるものとMSが判断した場合は、『確証や証拠が無い』という前提になりますが、描ける範囲で描写します(公認を保障するものではありません)。 自PCのルーツをMSにお任せしたい場合は、『ルーツお任せ』などとプレイングで明記いただければ、良い感じになれるように頑張ります(ただし、その場合でも『確証や証拠が無い』という前提になります)。 参照が必要な過去リプレイや史実ノベルがあれば、プレイングで指定してください(今シナリオに限ります)。 ●NPC エナハルト・ティルム:イケメンの王国騎士 イェルド・ルリン:王国騎士のおっさん キクハ・ファスター侯爵:レルドク子爵の寄親。本家の現当主。金髪緑眼の青年 マガリー・アフレ:メドゥに属している魔獣使い。幽閉中だが面会可 ザンディラ・レルドク子爵:先の戦いで意識不明状態。治療中の為、接触不可 ミュルコレオ:『赤の親指』。レルドク領都内に潜伏中 ●その他 ※プレイング内容によってはアドリブ対応になる場合があります。ご了承下さい。 ※OP『???』のシーンはPL情報となります。 ※EXCが紐付けされていますが、プロフィール外の情報や設定はマスタリング対象となっております。質問への回答は致しませんのでご了承ください。 ※NPCとの関わりにおいては、これまでの関わりによる友好度が存在します。友好度による『差』はあるものとしてご理解下さい。指定が重なった場合、違う場所・違う時として処理します。

マスターより

 おははようございます! 当依頼にて81作目となった広大野人です。  個人連作【恨縁】は事後シナリオとなります。フリーアタックになっておりますので、残された謎を追いかけるのもよし、NPCと関わるのもよし、ルーツを追い求めてもよしとなっています。  なお、ルーツに関しては解説部をご確認いただければと思います。MSの読み取り能力が不足する場合もありますので、しっかりとした設定が既にある方は、当シナリオよりも史実ノベルやリクエストシナリオなどのご利用をお勧めします。  それでは、依頼へのご参加、お待ちしております!

リプレイ

●
 メドゥの指先『赤の親指』ミュルコレオを探し出すのは骨が折れたが、絶望的という程では無かった。
 キオルティスの読み通り、彼女はスラム街の奥深くに隠れ潜んでいたのだ。
「異種族に厳しいこの街で目立たないように滞在するには、ここ位しかないだろうからね。それと、俺は一戦交える気はないんだ」
 警戒しつつも軽く両手を挙げながら、キオルティスはミュルコレオに声を掛けた。
 退路を確認してから、彼女はフードを外した。特徴的な蟻触角がピコンピコンと揺れる。
「何用か?」
「キミのことが気になって夜も眠れないという事さ」
「眠らなければ良かろう」
 淡々とした返しにキオルティスはフッと笑った。会話を交わす気があるようだからだ。
「単刀直入に聞くよ、何が目的? 俺はキミが狙っているのは国家の転覆だと思っていたんだけれど。タイミングが揃っている今、何故それをしない?」
 以前、彼女は言った――王国の崩壊と。別の冒険者にも生存競争だと話したという。
 ただ、それが本当の目的ならば、歩み寄れる所があるかもしれない。
「わらわとそなたらは相容れぬ存在。考えを説明しても理解はできまい」
「買い被り過ぎだったかな」
「元より、人間の評価など気にしておらん」
 蟻亜人は人とは価値観が異なるようだ。名誉や誇りを理解できても大事に思う事はないだろうし、倫理や人権も守る事は無い。
 しかし、だからと言って敵と認定する訳にはいかないのが人というものだ。
「ミュルコレオ……俺はキミのことがもっと知りたい。キミは一体何を考えているのかい?」
 一歩踏み出したキオルティスだったが、ミュルコレオが手を突き出して拒絶した。
「止まれ」
 間合い的には遠すぎず近すぎずと言った所か。
 もっと言うならば、退路に回り込まれない程度の距離とも言えよう。
「近づいたら、寄生型魔獣を植えさせるつもりか?」
「……わらわを試してみるか?」
 売り言葉に買い言葉。
 キオルティスは飄々とした笑顔を浮かべて一歩、二歩と近づく。二人の距離が数歩となった所で、ミュルコレオが間合いを一気に詰めて来た。
 後ろに飛び下がって回避する事もできたが、キオルティスは立ち留まる。彼女からは殺気を感じなかったから。
 懐に飛び込まれ密着した身体、首筋に当てられた彼女の手……だが、それだけだった。人体に侵入しようとした異物は、自身のエーテルに阻まれて弾かれたのだ。
「……授恵者には通じないのか」
「口惜しい事よ。おかげでわらわも苦労せねばならぬ」
 ミュルコレオはスッと身体を引いてキオルティスから離れた。
 恐らくだが――とキオルティスは推測する。授恵者に寄生させる事ができないだけではなく、なんらかの『都合』があるのだろう。無差別に振り撒いたとしても、制御できなければ意味が無い。
 つまり、制御できる制限が存在するのだ。それが寄生型魔獣に由来するものなのか、それともミュルコレオ自身の問題なのかは分からないけれど。
 それともう一つ分かった事があった。
 寄生型魔獣は小さく短い針金程度という事だ。体の中で成長するタイプなのかもしれない。だから、寄生させるには接触やそれほど近い距離でなければならないのだ。
「キミとはもっと色々と話したい所だね」
「わらわから話す事は無い――が、そなたの度胸は認めよう」
 素っ気ない返事だったが表情や感情の動きを見るに、以前より態度は軟化したような気もする。もっとも、相手は蟻亜人だ。人の持つ指標が当てはまるかどうかは分からない。
 要件は終わったとばかりにミュルコレオは踵を返した。立ち去っていく彼女の後ろ姿にキオルティスは声を掛ける。
「また、今度」
 次が戦場になるかもしれないけれど。
 彼女は一瞬だけ視線を向け、触角を揺らすのであった。

●
 領都にて、ナハティガル=ラーはミュルコレオとアジトの捜索を行っていた。
 時折、スキルを行使して構造物も確認。闇夜に紛れながら、手がかりを探す。
(潜伏中のミュルコレオを発見して早急に対処しなければ、領民達が寄生型魔獣に支配され取り返しの付かない事態になってしまう……)
 ミュルコレオが郊外の屋敷に姿を現さなかった理由は、混乱を突いて領都に潜入する事だったはずだ。既に寄生型魔獣が解き放たれている可能性は十分に高い。
「何処かに拠点としているアジトがある筈。スラム街辺りが怪しいが……」
 そう呟くと、ナハティガルは路地へと入っていった。
 ミュルコレオだけではなく、可能であれば寄生された人物も探す。もっとも、手がかりは無い。見た目で寄生されているかどうかは判別できないからだ。
 路地の角で周囲の様子を伺っていたその時、ナハティガルの耳に住民夫婦の話声が聞こえてきた。
「最近、兄の様子が可笑しくてよ。冒険者みたいな『力』を手に入れたって」
「授恵者になったってかい?」
「いや、どうも違うらしいんだ。調子が良い時と悪い時があるみたいでよ。あと、時々、意識というか、記憶がなくなるみたいで……あ。兄さん、どこ行くんだい?」
 ガチャガチャと音が響き、扉から出て来たのは一人の男。心配そうな視線を夫婦が向ける中、男はフラフラと歩き出す。
(酔っ払いじゃない。冒険者みたいな『力』……意識や記憶が無くなる、か……)
 眉をひそめるナハティガル。
 領主館隣の商会で元従業員が暴れた話を思い出した。元従業員は授恵者ではない一般人のはずだったが、その力は相当のものだったという。そして、元従業員の遺体を調べた他冒険者は、寄生型魔獣を目撃している。
(当たりかもしれないな)
 ナハティガルは男を尾行する。
 尾行自体は苦労しなかった。男はほぼ無防備だったからだ。それでもナハティガルは決して油断しなかった。寄生型魔獣を操っているのがミュルコレオかもしれないのだ。だったら、付近にいる可能性は高い。
 やがて、男は廃屋に入っていったので、建物の中が見える位置に移動すると、予想していた通り、ミュルコレオの姿があった。ナハティガルは息を潜め、中の様子を伺う。
 廃屋には他に数人が居た。全員が男と似たようにフラフラとしており、ミュルコレオが確かめるように、ゆっくりと腕を振ると、それに合わせ、数人の住民は身体を傾ける。
「定着は順調のようじゃな」
 ミュルコレオは独り言を発した。
 寄生が上手くいっているという事なのだろうか。宿主に寄生した魔獣を操れば、間接的に宿主を操作する事も可能なのかもしれない。
 必要な時だけ操作ができれば、普段は一般市民として生活させる……なんて事もできるだろう。本人が寄生されているという自覚がなければ尚更だ。
 用事が終わったようで廃屋からフラフラと出て来る宿主達の内、先程の男性を再び尾行するナハティガル。
(寄生が進んで成長したら繁殖するかもしれないな。今は魔獣の数を増やしているのか)
 そんな風に推測した時だった。
 男が我に返ったようで首を傾げていた。やはり、寄生されているという記憶は無いようで、先程まで廃屋に足を運んでいた事も忘れているようだ。
 不安そうな表情を浮かべて男は家に向かって歩き出す。
 無事に家まで帰った事を見届け、ナハティガルは二つ、王国騎士に報告した。
 一つは、ミュルコレオが使っていた廃屋の場所。そして、もう一つ、寄生されている人物の症状だ。
 上手くいけば症状に当てはまる人物を探し集め、寄生型魔獣の駆除を試みる事もできるかもしれないからだ。

●
 キクハ・ファスター侯爵との面談は快く承諾され、シルヴィア・A・カペルは同世代である青年当主と言葉を交わしていた。
 シルヴィアは侯爵家の跡継ぎだから、立場上は同格に近いという事もあるだろう。彼は驚くほどシルヴィアの提案に応えたのだ。
「ザンディラと懇意にあった商会の者の捕縛は勿論、不当な扱いを受けた者も丁重に対処しよう」
 領外の鉱山の利権やミュルコレオへの対応など、キクハはかなり前向きだった。むしろ、理由付けとしてシルヴィアからの言葉を待っていたのかもしれない。
「分家の不始末により本家のファスター家の立場もあるかと思いますが、卿としては、これで良かったのでしょうか?」
「これからの王国を背負って立つのは我々の世代。今回の事件の機に名高き『蒼玉』(カペル)と懇意にできる方が、誉れ高いというもの」
 青年当主からは強い野心を感じる。短期的に見れば事件を隠蔽し利権を全て奪い取った方がファスター家に有利だろう。シルヴィア自身もそれを危惧して釘を刺しにきた訳だが、どうやら、長期的に物事を見極め、決断できる人物のようだ。
 だが、分からない事もあった。
「なぜ、卿が最前線に赴いたのか、是非ともお聞かせいただきたいです」
「この目で直接確認しておきたかった事もあるが、魔獣使い……マガリーの事で、動く必要があった」
 シルヴィアは青年当主の言葉を二度、三度、頭の中で繰り返してから、訊ね返す。
「何か、理由があるようですね。今後、マガリーの処遇は如何様になるでしょうか?」
「簡単には処刑にはしないさ。これは『一族』の問題だから」
「一族……ファスター家と?」
「マガリーの母親は分家の血族だ。その者は双子でね。片方は忌み子として当時、従属関係があった半獣人の集落に預けられた。だから、母子が放逐された時、その集落を頼ると思われていた。しかし、母子は現れず、監視の目から外れてしまった」
「その後、集落は魔獣の襲撃で全滅。手掛かりは失われたと」
 シルヴィアの推測に当主は頷いた。
「一族が行方を徹底的に調べ、判明したのは少し前の事だ。マガリーが血族であるならば、責任は一族にも及ぶ。だからこそ、一族の手で……俺が決着を付ける必要があった」
 当主であっても一族の意向は大きな影響力があるのだろう。
 それはシルヴィア自身もよく分かっている事だ。
「マガリーからもその事を?」
「当然、確認したさ。幸いな事に、マガリーが集落の台帳を隠し持っていてね。おかげで忌み子の方も行方が確認できた」
「よろしければ聞いても良いだろうか?」
「集落が壊滅する数年前、娘を生んだ後に病死した。その娘は集落と共にしたようだ。仮に生きていても、一族だと証明するものは何もない」
 その台詞を聞き、シルヴィアは小さく頷く。
 もし、生きていたら、政略道具の一つとして、一族の手元に置かれ、自由の無い生活を過ごす事になっていただろう。それが貴族社会というものだ。
「なるほど。そのような事情が……貴重なお話、ありがとうございます。卿には最後にもう一つ訊いてもよろしいでしょうか?」
「なんなりと」
 青年当主の応答にシルヴィアは一呼吸置いてから訊く。
「『神出鬼没』について知っている事があれば」
「……祖父から聞いた事がある。王国内をあちらこちらに現れて難題に挑む者が居たと。それが『神出鬼没』ジド・ケルジア。確か、近くの領外にも足を運んでいたはずだが……その人物が、何か?」
「いいえ、ただ聞いておきたかっただけですので」
 微笑を浮かべて返事を濁すシルヴィア。
 レルドク領外が昔から魔獣や敵性亜人の脅威を受けていた事をジドは知っていたはずだ。ミュルコレオともどこかで繋がりがあったのだろうが、少なくとも、青年当主に関わりは無いようだった。

●
 ミア=リゼルは王国騎士エナハルト・ティルムと共に事件の帳簿類を整理していた。
 他の冒険者達の協力もあり、粗方、終わっていたが、最後は二人だけで行う事になった。気を遣われたかもしれない。
「今になって思えば、奇妙な点はいくつもありました」
 そう告げたのはミアだった。
 働けない者や身体的に弱った者を買い集めるという行商人(ペディグ)の存在。
 魔獣を飼育し、魔獣を使った陰謀により不当に私利私欲を企む貴族(ザンディラ)と半獣人などの人以外の種族の殲滅を目指す魔獣使い(マガリー)。
 それらを繋げられる推測は、もっと早くから気付けたかもしれない。
「気負い過ぎだよ、ミア」
「はい。分かっていますが……その商人はレルドク領主以外にも商売相手が居た可能性はありますので」
 婚約者の台詞に、エナハルトは深く頷いた。
「ミア、それなら、ここはデートにでもいこうか」
 いつもながらの爽やかな微笑を浮かべる彼であった。

 ボロボロの衣服を崩れた着方で二人はスラム街へと足を運ぶ。
 変装したのは裏社会への潜入と情報収集の為だ。エナハルトがイケメン過ぎるので変装には手間取ったけれど。
「すまない、ミア」
「大丈夫です。フードを深く被っていればいいのですから」
 幾つかの古ぼけた店を巡り、辿り着いたのは倉庫だった。
 ここは、行商人ペディグが借りていたらしく、酷く散らかっている。整頓するまでもなく放置された上に空き巣にも入られていたようだ。
「手掛かりらしいものがあれば良いのですが……」
 ミアが呟くと埃除けに手拭を口元へ当てた。
 様々な地方の雑貨がひっくり返っている中、ミアとエナハルトの二人は片付けるように倉庫内を探る。
 見事にひっくり返った机の引き出しから、一通の手紙を見つけた。
 走り書きされたそれは愚痴のような文脈だった。要約すると仕事に失敗して王国内に居られなくなったと――しかし、最後に記したあった差出人の名前に、二人の声が重なる。
「「ヘディン」」
 それは、ダルダニエ領での事件の折、冒険者達の前に立ち塞がった元冒険者の名だ。指名手配を受けているが、行方は分からないまま。
 ジッと手紙をみつめながらミアは思案する――ヘディンはオーキサという執事の指示を受けていた。そして、オーキサとペディグには人身売買の取引があったので、両者に繋がりがあったとしても不思議ではない。
「エナ、これは手掛かりになりますか?」
「そうですね。ヘディンがどこから手紙を送ったのか分かりませんが、そこを調べる事によって、居場所の手がかりになるかもしれない。ただ……」
「ただ?」
 言葉に詰まったエナハルトにミアは続きを促した。
 彼は神妙な表情を向けて応える。
「王国内で見つからない以上、潜伏先は帝国か同盟。王国騎士では手も足もでない」
「打つ手がない……のでしょうか?」
 ミアは心配そうな上目をエナハルトに向けた。
 外交問題になってしまうので、王国騎士は簡単には王国から出て活動ができない。おまけに王都の方も騒がしい状況が続いているのだ。
 けれど、極悪人共を逃がして良い事にはならない。
「いや、ミアが頑張ってみつけた証拠を無駄にはしたくない。イェルド先輩に相談してみるよ。何か、妙案があるかもしれないから」
 エナハルトの台詞にミアは「そうですね」と微笑みを返した。
 あの中年の騎士はぶっきらぼうだが、なかなか頼りになるのだ。
 成果を得る事が出来た二人は埃まみれの倉庫から出ると、仲良く並びながら、帰路につくのであった。

●
 マガリーとの面会を希望したルベア・ベルニは領主館の窓の無い部屋に案内された。
「私の命を奪いに来た訳じゃないようね」
 部屋に入るなり彼女から台詞。
 ルベアは念の為、部屋の中を見渡しながら応える。盗聴などの心配はなさそうだ。
「……少なくとも今のアナタに危害を加えようなんて考えてない。獣じゃあるまいし。それより、教えてよ」
「答えられる範囲でよければ」
「何故、そんなに異種族を恨むの? アナタの言う『穢されている』血だからというだけじゃ説明がつかないわ」
 ルベアの質問にマガリーは暫しの間の後、ゆっくりと語り出した。
「貴族だった母は周囲から隠れながら半獣人の父と相瀬を交わし続け、生まれたのがアタシ。それで実家を追放された。路頭に迷った母を……父は迎えにも来なかったわ。見捨てられたのよ」
 血統主義が強い王国では追放はあり得なくは無い話だろう。
 昔を振り返るようなマガリーの言葉は続く。
「彷徨い着いた村で、母はゴブリンに殺されたわ。幼いあたしは転々としながら、いつしか、狼型の魔獣を操れるようになっていた」
「半獣人やゴブリンの集落を襲っていたのは、復讐だったという事?」
「そうよ。母を見捨てた父に復讐する為、魔獣を使って幾つもの集落を滅ぼした。やがて、母から聞いていた特徴通りの父が見つかったわ。その集落には父に似た人物も居た。私は台帳を調べ……そして、その者が父の弟であり、娘がいる事が分かった……」
 マガリーはそこで一度言葉を区切ると、真っ直ぐにルベアを見つめた。
「君を見た時、すぐに分かったわ。似ていたから。性別も年齢も、台帳の通りだったし」
「つまり、私達の関係は『従姉妹』だという事なの?」
 ルベアの問いにマガリーは息を吐き出してから答える。
「そうよ。……ルーチェ。穢れた血のね」
 何かを言いかけたマガリーだったが、台帳に記されたあったルベアの名を告げた。
 母親の名前の欄が『 』(未記入)だった事を強引に飲み込む。それは、マガリーなりの従姉妹に対する優しさだったかもしれない。
 ルベアはグッと拳に握った。
「……まぁ、正直、私も自分自身の血が尊いものだとは思ってないわ。貴族とは生きる世界が違うって思う。異種族に寛容な人たちもね……」
 脳裏にミアとシルヴィアの姿が浮かび、台詞を一度切ってから、言葉を紡ぐ。
「穢れているから殺す。殺していいって理屈は、自分の手をそれ以上に穢すだけなんじゃないかなって。父さんは……父さんに流れている血は穢れていたのかもしれないけど、でも、村が襲われたあの時、私を護ってくれた事は血に関係なく尊いものだったと、今なら思うわ」
「……従姉妹でも、見捨てられた側と、守られた側で、こうも違うのね」
「私はアナタがした事は許せない。けれど、アナタにも、そういう人がいたのなら……こうはならなかったんじゃないかしらね」
 二人の間に長い沈黙が訪れる。
 それは重々しいものではなかった。鉄格子の窓の外から聞こえて来る小鳥達のさえずりが、部屋の中に響き渡る。
 マガリーがゆっくりとルベアに頭を下げた。
「私がしてきた事は、私の信念に従って行った事。けれど、集落を滅ぼしたのは、ただの私怨。貴女の大切な人達に手を掛けた事を謝るわ。そんなもの、今更だろうけど」
「そうね。でも、アナタから話が聞けた事は良かったわ」
 許した訳ではない。けれど、どうして父が死んだのか、何故集落が滅びたのか、その真実を知り、記憶に残る父の背中が改めて誇らしいと思う。
 いつかきっと、自分も父のような生き方ができると改めて心に刻んだのだった。

●
 王国騎士からの依頼をしっかりと行ったルイドは、一連の事件の大きさを感じていた。
(種族とか血とか、そもそもの根源(ルーツ)とか、俺はそこまで気にしたことはねぇ、が……)
 冒険者達の手際の良さも相まって、依頼分は早く終わった事もあり、ルイドは『ついでに』調べものをしてみた。
 それは、まるで膨大な資料の中から自分自身を探す旅にも似ている。

 ホムンクルスは死んだ人の魂を『賢者の石』で肉体に定着させている。その影響か、生前の記憶が失われている事が多い。
(聖霊節の祭りの日、『夢の涙』で見えたのは……)
 それは学術都市ヴェルクリエのキャンティ地区で行われた聖霊節の祭の事。不思議なカクテルを飲んで見えたのは朧気ながらに幼い少年らしき姿。
 結局、少年が誰だったのか、己とどんな関係があったのか……大量の資料を読み解き、気になる事があればメモに残す。
(……クリーパーに滅ぼされた村、なんて過去を辿ればいくらでもありそうだしな)
 びっしりと村や集落の名前が記されたメモにルイドは唸る。
 全部を回っていたら日が暮れるというか何十年も経ってしまいそうだからだ。僅かに残る村名や地名、人物から少しでも気になるものがあれば絞っていく。
(脈絡もなく、クリーパーが襲来して滅んだって感じじゃねぇんだ……だったら、なんだ……)
 深く悩んだその時、錫杖の音が鳴った気がした。
 根拠は無い――だが、確信に似たような思いが降りてきた。
「封印だ。クリーパーを……封印、していた」
 資料を再び漁り出す。クリーパーを封印していた後、何かの都合で封印が解かれ、滅んだ村ならば、十分に絞れるからだ。
 該当する滅んだ村は3つ。いずれも100年以上前の出来事のようだ。
 一つ目は現在の帝国との国境付近にあったとされるベリーヨ。クリーパーの群れを封印した一族が暮らしていたが、バルバロイの襲撃を受け、その影響で封印が解除。一夜にて滅んだという。
 二つ目は王国西部マバレブリッジ子爵領内の小さき村。代々、子爵家がクリーパーの封印を守っていたが、賊を装った隣領ルトムント伯爵の陰謀によって村が襲われて封印が解かれた事により、クリーパーによって子爵伯爵共々全滅するという痛ましい事件。
 三つ目は帝国南部付近にあった村で、伝承として記録が残っていた。群体を成すクリーパーを封印していたが、山賊団の略奪に遭い、その最中、封印が解かれてしまい、山賊団諸共村が壊滅したという。
 この三つのいずれかかもしれない。現地に行っても恐らく、何も残っていないはずだろうが、それでも、足を運ぶ理由には成り得る。
「……そのうち、行ってみるか」
 依頼のついででも良いし、フラっと行ってみても良いだろう。慌てる事では無い。
 それと、ルーツを調べていく過程で、ルイドはあの日見た少年が何者なのか……うっすらと掴んだ気がしていた。
(弟、だ……どうして、俺は忘れてしまったんだろうか……)
 名前も歳も思い出せないけれど、弟なのは間違いない――直後、様々な光景が風のように脳裏を吹き抜けた。
 それは美味しそうに食事をする姿。それは元気に駆け向かってくる姿。それは傷だらけになりながらも何かを叫んでいる姿。それは誇らしげな顔で見つめる姿……。
 ルイドは資料を丁寧に片付け始める。
「実感得られるかどうかは分からねぇが……弔いくらいは、できるだろうからな」
 大切な人が居た。
 それを知れた事は、知らないままでいるよりも大きな意味があるはずだ。自分の魂(ルーツ)は孤独ではないと分かったのだから。

マスターコメント

 お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。  【恨縁】連作の事後シナリオという事で、各自、行動いただいた事にお応えできたでしょうか。ルーツや事件の謎、ミュルコレオのその後の動きなど、追いかけていただき、期待に見合う『もの』になっていれば幸いです。  物語的には【恨源】【恨縁】は別ストーリーではありますが、登場する人物や事件の流れには一部重なっており、その重なりはこれからも冒険者達の前に現れる……のかなと思っております。少なくとも、ミュルコレオとの決着は残っていますから!  それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会あればご参加の程、お待ちしております。
ミドルシナリオ

ミドルシナリオ易しい 報酬:少ない6 / 6〜8人

2023年10月14日 01時45分36秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ミア=リゼル

    ヒーラー、ミア=リゼルです。成立まであとおひとりですが、ご挨拶のタイミングを逃してしまいそうなので… 私のほうは、機会がなくて調べることができていなかったことの調査、となりそうです。背後共々察しが悪いので空振りになる可能性は高いのですが…よろしくお願いしますね。

  2. ナハティガル=ラー

    成立まで後1人だな。 シーフのナハティガル=ラーだ。――今回も宜しく頼む。 俺はレルドク領都内に潜伏中のミュルコレオを捜索する予定だ。

  3. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ、今回もよろしくね。 私はファスター侯に面会を願うつもりだ。今後のレルドク領について尋ねたいと思っているよ。

  4. ルイド

    これで成立だな。ウォーリア、ルイド。良しなに。 ルーツ調査の方で行動させてもらう予定。

  5. キオルティス

    シーフのキオルティス。今回も宜しくね。 ナハティガルさんと重なるけれど、俺もミュルコレオ関連に回る予定。 皆がそれぞれ納得出来る形になればいいね!

  6. ルベア・ベルニ

    ぎりぎりだけど…シーフのルベアよ、宜しく。 私はまぁ…マガリーに会いに行くわよね、そりゃ。 どう転ぶかは本当にわからないんだけど…。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0