商才の絶対値

革酎

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シナリオID:3198

オープニング

●リトルビッグマン
 リーンエス王国王都グランスパーダには、数々の商会が本店もしくは支店を置いている。
 交易業を営むクライン商会もそのひとつなのだが、グランスパーダ支店は本店と見紛う程の規模を見せている為、商会内では王都本店と呼ぶ者も少なくない。
 そのグランスパーダ支店に対し、不穏な動きがあるとして、商会の監査部門が目を光らせ始めている。
 ペロド伯爵なる法衣貴族が差配する食品流通業に、商会が王国内の各領から仕入れた諸々の食品や食材を納入しているのだが、そこに本来、あってはならぬ動きがあるのだということらしい。
 一体どういうことなのか。
 クライン商会長ギュミル・クラインは事態を重く受け止め、自ら出向いて真相を突き止めようと考えた。
 ギュミルは王国商人の間では羨望と尊敬の念から『リトルビッグマン』と称される程の敏腕であり、非ヒューマン種であるにも関わらず、王国内で僅か一代で大成し、巨財を築き上げた人物だ。
 当然その眼力も凡人とは比較にならず、ほんの僅かな綻びも決して見逃さない。
 今回の一件も、ギュミルが自ら乗り出せばたちどころに解決してしまうだろうと、商会内の誰もが考えた。
 ところが、実際はそうは上手くいかなかった。

 グランスパーダ支店の出張者用執務室に籠り、デスク上に広げられた諸々の資料をじっと凝視しているギュミル。彼の面には渋い表情がもうかれこれ一時間以上前から張り付いたままだった。
「お粗末なのか巧妙なのか、よく分からんな」
 問題は、はっきりしている。
 ある貴族領から商会を通じて持ち込まれた幾つかの食品・食材に、課税額が一切、その代価に上乗せされていないことだった。
 これらの食品・食材は、生産地たる件の貴族領では外部への交易時に際して流通税が課されることになっている。ところがグランスパーダ支店から王都の食品流通ルートに乗せられる際には、それらの課税が無かったかの如き安価で払い出されていた。
 これでは商会が一方的に損失を被るだけだ。利益を得るとすれば、それらの食品・食材を王都内で引き受ける小売商か問屋業ぐらいであろう。
 本来クライン商会は裏稼業や汚い仕事には手を出さない一方で、商会に不当な損失を出してしまう様な仕入れも認めていない。そんなことを許せば悪徳業者とずぶずぶの癒着関係が発生しかねないからだ。
 何事も公正に。
 一代で財を成すには、こういった基本理念が徹底されていることが何よりも重要なのである。
 ところが今、グランスパーダ支店で密かに行われている不当なまでの安価払い出し案件は、その理念に反している。
 ぱっと見ただけでは、課税分を代価に上乗せしていないだけだからすぐには見つかりにくい。だがよくよく調べればおおもとの仕入れ地や調達ルートも全てが白日の下に晒される。
 ギュミルが、お粗末なのか巧妙なのかよく分からないと唸ったのは、まさにその点だった。
「問題の貴族領からの仕入れ時には確かに、課税されている。その支払い証書もある。では一体どこで、上乗せ分が削られたのか?」
 調達部門を経由した段階では、まだ課税分の数字がはっきり残されている。
 と、ここでギュミルは気付いた。
 入札の時点で、おかしくなっている。
 ペロド伯爵が管理する食品流通ルートには、無条件で商品を流せる訳ではない。各食材、各食品毎に必ず参入希望商会による入札が行われ、最も安い額を提示した商会が流通権を得る。
 この入札額に、課税分が上乗せされていなかった。
 では、グランスパーダ支店で入札に関わっているのは誰なのか。
「営業部門のケリー・ブライスと渉外担当のエレム・ターヴィーか」
 この両名はいずれも入札手続き専門でペロド伯爵側から入ってきた出向者であり、厳密にいえばクライン商会の正式なメンバーではない。このふたりのいずれか、或いは両方が不正に関わっているのか。
 だがギュミルは、組織的な気配を感じた。たったふたりで、流通そのものに影響を与える数字をそう簡単に操作出来る筈が無い。

 ギュミルは当初、商会内の専属部署に引き続きの調査と対応を指示しようと考えたが、ここでふと、冒険者というものの存在に思考を巡らせた。
 昨今に於ける彼らの評判は芳しいものが多い。ここはひとつ、冒険者ギルドに依頼の仲介を持ち込んでも良いのではないか、と。
 そもそもギュミル自身が下層区出身であり、冒険者の種族や出自は一切気にならない。仕事さえきっちりこなしてくれれば、それで良いのである。
(ギルドで直接、顔合わせをしておこう)
 思い立ったが吉日。
 ギュミルはグランスパーダの冒険者ギルド支部へと出向き、自ら依頼票を作成する段取りを進めた。

●謀略の笑み
 深更、グランスパーダ内の某所。
 白銀虎の半獣人が路地裏にある小さな酒場の隅で、商人風の男と額を突き合わせていた。
「もうそろそろ、例の件が明るみに出る頃かな?」
「そう考えて宜しいかと。クライン商会が課税額丸被りで不当に入札価格を引き下げていたとなれば、我が商会が返り咲くのも時間の問題」
 商人風の男は、嬉しくて堪らないといった様子で腹の底から低く笑った。
 一方、白銀虎の半獣人は然程興味も無さそうな調子でふぅんと相槌を返すのみ。
「ペロド伯爵には迷惑かけんなよ。あそこから足が付いちまったら、俺んとこの大事な財源が一個、潰れちまうからな」
「ブライスとターヴィーにはそろそろ、暇を出させた方が良いかも知れませんな」
 白銀虎に応じてから、商人風の男はそっと立ち上がった。
「では失礼致します、青の中指殿」
 商人風の男は一礼して踵を返した。一刻も早く、この場を立ち去りたいという態度を微塵にも隠さず。
 その慌ただしい後姿にメドゥの指先幹部『青の中指』ジルベルは苦笑を滲ませた。
 尚も酒場の隅に居座り、塩辛い豚肉料理を肴に安酒をあおる彼の手の中には、計画書と呼ぶのも差し障りがある様な、簡単な手書きのメモがあった。
 そこにはクライン商会をペロド伯爵の食品流通ルートから除外させ、ルマンドル商会が取って代わるというプランが記されている。
 つい先程、ジルベルの前から去っていったのはルマンドル商会現会長ホレス・ルマンドルという小賢しい浅知恵ばかりが働く小悪党だった。
 メドゥの指先の末端とも繋がりがあり、ジルベルも何かと目をかけてやっている人物である。
「けど相手があの、リトルビッグマンだからなぁ。そう上手くいきゃあ良いけど」
 ジルベルは手の中のメモを握り潰し、卓上燭台の火にかけた。

解説

<解説> 状況:  PCの皆様はリーンエス王国王都グランスパーダの冒険者ギルドで、クライン商会長のギュミル・クラインからの依頼を受けて、クライン商会グランスパーダ支店に足を運んだところからスタートして頂きます。  依頼内容は   ・不穏な動きの原因を突き留める   ・実行組織特定の為に実行犯を捕縛  の二点です。  一点目は入札額の不当な安価を誰が何の為に仕組んだのかを突き止めることが求められます。  二点目は芋づる式に実行組織を割り出し、その所属メンバーを捕縛することが要件となります。  依頼主のギュミル会長は積極的にPCの皆様と関わり合いながら調査に同行することになるでしょう。  それ以外の状況はOP本文に書かれてある通りです。 敵:  どの様な敵対組織が登場するのか、現時点では不明です。 NPC:  依頼主のEXCギュミル・クラインさんが登場しますが、他にクライン商会のメンバーや法衣貴族ペロド伯爵、或いはその関係者等が登場する可能性もあります。

マスターより

 皆様、こんにちは。  商会内に潜む不穏な動きを突き止め、不埒な輩を成敗するという内容のショートシナリオRをお届けします。  某TV番組の某銀行マンの如く、倍返しだと叫びながらやっつけても良いですし、普通にお縄にかけて頂いても結構です。

リプレイ

●事前分析
 クライン商会グランスパーダ支店は、ひとつの公会堂に匹敵する程の規模を持つ建屋に、全ての部署が入っている。
 商会長ギュミル・クラインが今回の一件で冒険者達を朝一から呼び集めたのは、支店内の出張者用執務室だった。
「ご無沙汰しております」
 最初に挨拶を交わしたのは、リサ・ベイカー。エスト・ポーラに拠点を構える商会主の娘ということもあり、リトルビッグマンの異名を取るギュミルを相手に廻しても、堂々たる佇まいだ。
 逆に何故か緊張しているのは、ギュミルの実娘たるゲルダ・クラインの方だった。
(外でお父様とお会いするのは……落ち着かないですね……)
 父ギュミルに冒険者の良さを知って貰おうという決意のもと、今回は大きなチャンスだと意気込んでいたゲルダだったが、いざこうして冒険者という立場で接してみると、驚く程に心の内がざわついていた。
 そんな娘の挙動不審さにほんの一瞬だけ眉を顰めたギュミル。
 しかし今はあくまでも商会主という立場で五人の冒険者達と接している。彼は努めて冷静に、極めてビジネスライクな鉄面皮を一切崩そうとしなかった。
「では、商会長殿が揃えられた資料を拝見致したく」
 ひと通りの挨拶を終えてからジュスト・ヴェルジーがその様に申し入れると、ギュミルは応接卓上に何冊かの書類をずらりと並べた。いずれも結構な頁数に上っており、これらに全て目を通すだけでも小一時間程度はかかってしまうだろう。
「まぁ細かいところは後で詳しく見て頂くとして、まずは私から概略と、押さえておくべきポイントを掻い摘んで説明して進ぜよう」
 ギュミルからの申し出に、一同は内心で胸を撫で下ろす。確かに、口頭で要点のみを先に説明して貰った方が呑み込みも早い。細かな文字の群れに神経を費やすことに比べれば、その方が断然時間の節約となる。
 それにしても、流石は一代でクライン商会を現在の規模にまで育て上げただけのことはある。ギュミルの説明は簡単明瞭でありながらしっかり要点を押さえており、冒険者達も今回何をすべきかをものの数分で理解することが出来た。
(いや、見事なものだ……これが商才というものか)
 過日自身の商会を立ち上げたばかりのローザリカ・L・ディオールも、ギュミルの弁の立つ様に内心で溜息を漏らした。ただ商品知識や経済学に詳しいだけでは、商売は成り立たない。そもそも商いとは、相手があってのことである。その相手に対し『理解させる』ことの重要性を、ギュミルは身を以て提示してくれた。
 そして10分程度ではあったが、ギュミルの説明で冒険者達は次に為すべきは何かを、それぞれが頭の中で思い描くことが出来る様になっていた。
「成程……今回の一件を仕組んだ奴の真の目的は、クライン商会の信頼を失墜させることかも知れん。信用は金では買えんからな」
 ナハティガル=ラーの推測に、異を唱える者は居なかった。リサも、恐らくその線だろうと頷く。
「不当廉売なんて、普通は弱小商会が何とかして受注を取るために身を切るか、資金力のある大手が他の弱小商会を潰すための嫌がらせか、くらいなものですが」
 敢えて今回の件をクライン商会に当てはめるなら後者だが、商会長ギュミルにその意思は無い。ならば考えられる結論はひとつ――リサがナハティガルの推論に対し、商人としての観察眼で更に肉付けし、説得力を持たせた。
「矢張り、敢えて証拠を残してクライン商会の信用を失墜させようとしているというのが、黒幕の狙いというところでしょうね」
 ナハティガルやリサの意見に頷きつつ、ジュストがギュミルに視線を流した。
 ギュミルも恐らくその線だろうと渋い表情で深い吐息を漏らした。

●調査は足と手と頭と口で
 グランスパーダ支店出張者用執務室内での会合の後、冒険者達はそれぞれの方面に分かれる形となった。
「うちを蹴落としたい商会は幾らでもあるだろうが、昨年の入札で競ることが多かったルマンドル商会とクラグフタン商会が特に怪しいと睨んで良さそうだ」
 ギュミルが示したこの考察を受けて、ある程度の指針が出来た。後は実際に行動へと移し、それらの裏どりをしっかり押さえることが重要となってくる。
 まずギュミル、リサ、ジュストの三人だが、彼らは法衣貴族ステファン・ペロド伯爵邸を訪問し、クライン商会が抱えている問題の相談と情報提供の為に訪れるという体を装って面会を求める運びとなった。
 当初はリサとジュストのふたりだけでの訪問を予定していたが、ギュミルが同行した方が顔繋ぎが容易になるということで、彼も一緒に足を運ぶことにした。
 一方ゲルダとナハティガルは、ペロド伯爵側から出向してきているグランスパーダ支店営業部門のケリー・ブライスと、渉外担当のエレム・ターヴィーの対応に当たる。
 まずはゲルダが直接ふたりに対して聞き取り調査を行い、その後でナハティガルが彼らを泳がせつつ、密かに尾行と身辺調査に入るという算段だ。
 そしてローザリカは引き続きグランスパーダ支店内に居残り、入札時の商会記録と関連資料の精査に入る。相当に時間が経っているからほとんど絶望的に見込みは無いだろうが、あわよくば残留思念感応で何らかの情報も得られればと考えている。
 が、結局はほとんど思念らしい思念を感じ取ることは出来なかった。辛うじて何か悪だくみをしている様な感情が微量に残されている程度だったが、入札から既に数日以上が経過しているのだから、当然といえば当然の結果であった。

 さて、ペロド伯爵邸を訪れた三人は、丁度昼時ということもあり、軽い昼食に招待される格好で面会が実現した。
 ペロド伯爵は温厚な好々爺という印象の人物で、リサが得意の話術を駆使して諸々の話を振ってみても、何か裏で企んでいる様子は一向に得られなかった。
「クライン商会が一部の品を不当に安く売っている事案が確認されています。伯爵閣下の方では、把握されておられますでしょうか? まさか共謀して……なんてことは御座いませんよね?」
 冗談めかして笑うリサ。
 当然ペロド伯爵は否定しつつ、苦笑を交えて、
「そのような表現は、下手をすれば不敬と捉えられて出入り禁止となりかねませんよ。他所では、気を付けた方が良いでしょうな」
 と、やんわり釘を刺してきた。これにはリサも素直に謝らざるを得なかった。
 しかし、ここで引き下がっては話が進まない。リサは自らを励まして言葉を繋いだ。
「では内部で引き続き調査しますので、暫く取引の停止、若しくは入札のやり直しをお願いしたいのですが」
「それは無理でしょうな。商品の流通を止めてしまえば、困るのは小売店のみならず、それらの商品を求める一般客にまで迷惑をかけることになります」
 これも当然といえば当然の反応だった。しかし今回の問題はクライン商会の本意ではないということはペロド伯爵も理解したらしく、そういう意味ではリサの申し入れは一定の結果を得たといって良い。
「もし宜しければ、ペロド伯の各商会への印象や昨今の市場に関するお考えを、お伺いしたいのですが」
 続けてジュストが問いかけたが、ペロド伯爵が示した考察や見解はごくごく一般的で、常識の範疇を越えない程度の内容だった。
 逆をいえば、ペロド伯爵がクライン商会を陥れたところで何のメリットも無いことを示している。
(ペロド伯はシロか)
 ジュストは、この人物は敵ではないと結論付けた。ギュミルの反応からも、同様の意見らしい。

●容疑者特定
 入札担当のケリーとエレムは、昨日から休暇に入っているとの由。
 次の出勤予定は次回入札が行われる三日後ということで、少しばかりの連休だ。明らかに、逃げに入っていることが伺える。
 そこでゲルダはグランスパーダ支店の人事部に掛け合い、彼らの入社資料や経歴書等の開示を求めた。
 入社理由はペロド伯爵が管理する流通ルートへの入札手続きを簡略化させる為というもので、それ自体は別におかしな点は見られない。
 問題は、経歴の方だ。この両名、いずれも過去にルマンドル商会に勤務していた過去があった。
 しかし更に、驚くべき過去がゲルダの目に飛び込んできた。
 ふたりは数年前まで、エラトゥーン都市同盟内に拠点を置くとしている架空の商会に勤務していたことになっている。その架空の商会の代表者がルトルガー・クレイヴラーだった。
「えぇと、ちょっと待って下さい。どこかで聞いたことがある様な……」
 一瞬眉間に皺を寄せたゲルダ。数秒後、その面には驚愕の色が張り付く。
 ルトルガー・クレイヴラーといえば、過日エスト・ポーラ市長を殺害して成り代わっていた、メドゥの指先の構成員だった筈だ。
 まさか、その様な繋がりが出てくることになるとは。
 ゲルダはすぐさま、この結果をナハティガルに伝えた。

 ナハティガルはゲルダが入手した人事部資料からケリーとエレムの自宅住所を突き止め、ゲルダと共にその宅内へと侵入して家宅捜索を強行した。
 結果、彼らの宅内ではルマンドル商会からの指示書が次々と発見され、入札時に課税額の上乗せ分を排除したのも、ルマンドル商会長ホレス・ルマンドルによる指示であることが明白となった。
「物的証拠は揃いましたね」
「後は当人達を捕まえて自白に至れば、万事解決だ」
 ゲルダに頷き返しつつ、ナハティガルは乗合馬車の乗車予約票と書かれた紙片を掲げた。どうやら今宵、ケリーとエレムは一般旅行者を装って都市同盟方面へ脱出を図る様だ。
 そういえば、乗合馬車の停留所近くには空き家が幾つかあった。ふたりが潜むとなれば、そのうちのいずれかであろうか。
 ナハティガルとゲルダはグランスパーダ支店へと立ち寄り、ケリーとエレムの捕縛へと動く旨を説明した。
 もしかすると、ルマンドル商会が用心棒辺りを雇い入れているかも知れない。その可能性を鑑みてジュスト、ローザリカ、リサの三人も空き家捜索と突入に踏み切る運びとなった。

●三倍返し
 ケリーとエレムの捕縛は、然程の労力を投入すること無く、短時間で終了した。
 ナハティガルが早々にふたりの潜伏場所を突き止めると、後は圧倒的な武力差がものをいった。ふたりをかくまっていたルマンドル商会の用心棒はいずれも一般人であり、五人の冒険者達の敵ではなかった。
 そうして夜になるまでにはふたりを無事に確保し、グランスパーダ支店へと引っ張ってくることが出来た。
「既に入手した諸々の証拠と、ルマンドル商会の用心棒が守っていた事実から、もう裏は取れているんだけどね……」
 ジュストは、ルマンドル商会が本気で動けばふたりを消しにかかる可能性があることを示唆しつつ、全てを白状しろと迫った。
「自白してくれたら、色々便宜を図ってあげられますよ」
 と、リサも口添えした。
 するとケリーもエレムも存外肝の小さい男達らしく、ぺらぺらと事実を白状した。
 結局、真相は冒険者達が推察した通りの内容だった。
「では……後は裏で糸を引いていたルマンドル商会への殴り込みですね」
 リサがギュミルに水を向けると、意外にもギュミルは、そんな乱暴なことはしないとかぶりを振った。
「ルマンドル商会に罪を認めさせないのですか?」
 ゲルダも意外だとばかりに問いを重ねたが、ギュミルはやるだけ無駄だと肩を竦める。
「そんなことをしても知らぬ存ぜぬを通されれば平行線になるだけだ」
「だけど、証拠がこんなに」
 今度はローザリカが、ナハティガル達が入手した諸々の指示書を卓上に広げた。しかしそれすらも、決定打にはならないとギュミルはかぶりを振る。
「クライン商会が勝手に捏造したと反論されれば、どう答えるつもりかね?」
 確かに、その通りだ。ルマンドル商会に白い目が向けられることになるのは明白で、信用も失墜するのは間違い無いだろうが、彼らを公式に処罰するには至らない。
 では社会的制裁だけで済ませるというのだろうか。
「いや……あのふたりに入札させる」
 ギュミルは意味ありげな視線を、捕らえたケリーとエレムに向けた。

 三日後。
 今までと同様の手続きでペロド伯爵管理の食品流通ルートに乗せる商品の入札が行われた。
 そして今回、商品調達権を得たのは何と、ルマンドル商会だった。だが調達権獲得の瞬間にホレス・ルマンドルが見せたのは喜びではなく、驚愕と絶望の表情だった。
 実はルマンドル商会、自らの謀略を察知されまいとして赤字ギリギリの入札額を記入していたのである。
 どうせ今回もケリーとエレムの裏工作によって、課税額を除外したクライン商会が調達権を得るだろうとの腹だったに違いない。
 ところがクライン商会が記入していた額は、従来の額の三倍だった。ケリーとエレムはギュミルの命令でこれまでには無い高値で入札していたのである。
 ギュミルは冒険者達によるケリーとエレムに対する尋問から、ルマンドル商会が毎回赤字ギリギリの入札額を記入している事実を知った。これを逆手に取ったのだ。
 しかも今回の調達量はいつもの半分程度。となればルマンドル商会は調達権を得たとしても、薄利多売が見込めなくなり、屋台骨が傾きかける程の巨額損失を出すことは目に見えて明らかだった。
「成程、見事なものだ……」
 入札結果を見届けたローザリカは、同じく商会を立ち上げた身としてギュミルの手腕に息を呑んだ。
 ギュミルの今回の行動は、お前達の企みは全て見抜いている、次に舐めた真似をすれば容赦はしないという暗黙の決意表明に他ならない。
 尤も、ルマンドル商会は今回の巨額損失でどの道、商会存続の岐路に立つ。クライン商会にちょっかいを仕掛けるどころの騒ぎではないだろう。
「損して得取れ、か」
「商人には商人としての喧嘩のやり方がある、という訳だな」
 ジュストもナハティガルも、ギュミルの商才の凄みに改めて感じ入った。
 調達権こそ得られなかったものの、一商品の流通を手離したぐらいではクライン商会はびくともしない。寧ろルマンドル商会を事実上、完膚無きまでに叩きのめすというリターンが得られた格好だった。
 ゲルダは、涼しい顔で入札会場を後にする父の後姿に、今までに感じたことの無い凄みを覚えた。
 これが、父の本当の力なのか――僅か一代で巨大な商会へと成長させた手腕を、娘としてではなく、ひとりの大人として改めて、驚きを得ることとなった。

マスターコメント

 皆様お疲れ様で御座いました。  一部スキルの使い方を間違っていたり、5W1Hが不明瞭だったりと、下手をすれば失敗に終わる要素も幾つかあったのですが、拙い箇所は他の方のプレイングで絶妙に補完し合っていることもあり、この様な結果となりました。  革酎のマスターページにも明記してある通り、難易度が「難しい」以上の革酎シナリオではちょっとでも拙いプレイングは結構不利な方向に働きますので、今後の参考にして頂ければ幸いです。
ショートシナリオR

ショートシナリオR難しい 報酬:多い5 / 4〜8人

2023年09月04日 10時44分29秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ゲルダ・クライン

    ゲルダです。この度は父の依頼を引き受けていただき、ありがとうございます。 どうぞよろしくお願いしますね。 >方針 依頼の達成目的は二点。 ・不穏な動きの原因を突き留める ・実行組織特定の為に実行犯を捕縛 不穏な動きの原因については、営業部門のケリー・ブライスと渉外担当のエレム・ターヴィーのどちらか、もしくは両方が『黒』の可能性が高い――というところまでは問題なくPC知識として落とし込めそうですので、彼らの周囲を探るのがよさそうでしょうか。 実行組織特定と実行犯については、商売敵――クライン商会が不当な安価で食品を入札することで、誰が得をするか――という方向から考えるのも手かなとも。

  2. ジュスト・V・ケレス

    ジュストだ。 商業関係はあまり得意ではないけれど、よろしくね。 容疑者二名がルマンドル商会と繋がっていることは二人の周囲を探れば見えてくれば良いんだけれど。 多分普通の聞き込みなどでは出てこないだろうし、尾行だったり気配をけして張り付いたりが必要かもしれないね。 あとは二人とも腐っても商人ならよりうまい方に乗り換えてもおかしくはない。 うまく買収できれば良いな、とは思った。 OPからのPL情報なんだけど、ルマンドル商会はクライン商会が繁盛する前は王都でも幅を利かせていたけれど今は斜陽にある商会みたいだし、商業知識を使えばそういった商会がいくつか候補に挙がりそうだからそこから絞り込んでいくのも良さそうだね。

  3. ローザリカ・D・ケレス

    ローザリカ、よろしく頼もう。 王国内の商会、あまり他人事でもないし若輩者ではあるが勉強させて貰えたら。 あまりにわかりやすい容疑者らは正面から詰めても尻尾を切られるだけかもしれないし、 ジュストが挙げている尾行など、隠密に周囲を探りたい気はした。 組織特定については、不正が行われているのが入札時というのも取っ掛かりになるだろうか。 クライン商会が入札に参加できなくなった時に得をする、 入札にも参加していて競合している商会から探ってみるとか。

  4. リサ・ベイカー

    リサです、よろしくお願いしますね。 組織的なものだとすると、実行犯は文字通り切られるかもしれませんね。 そのあたりもふくめて、早めに確保するのも良いかもしれません。

  5. ナハティガル=ラー

    遅参申し訳ない。 シーフのナハティガル=ラーだ。――今回は宜しく頼む。 >ルマンドル商会 クライン商会と競合するライバル商会且つ、クライン商会にシェアを奪われた事を逆恨みしていそうな商会が背後に居てもおかしくはなく。 先ずはギュミル氏から心当りのある商会を聞き出し、いくつかに絞り込んでみようかと。 その後は裏取りの為に容疑者やその周辺(ペロド伯爵含む)を探る事を考えている。

  6. ローザリカ・D・ケレス

    僕の実際の行動としては、先の発言の通りに競合している商会を怪しんで動くつもりだ。 自身の商業知識も活かしつつ入札に参加している他商会を探ったり、 調査時に接触した人物と話仕込んだ場所や、関連書類などを残留思念感応で確かめられたらと思っている。 悪意や、犯行がバレる事への不安などを拾えたらいいかと思ってね。

  7. ゲルダ・クライン

    皆様、ありがとうございます。大変心強いです……! そうですね。容疑者のお二人にそのまま詰めてしまったりすると尻尾切りの可能性が高そうなのは仰る通りかなと思いました。 わたしは、商会側の人間で二人とやり取りをしたことのある方にお話をお伺いしようと考えています。 お二人がどのような経緯で今回の事件を起こしたかを知ることができれば、何らかのヒントが見えてくるかなと思いまして。

  8. リサ・ベイカー

    行動ですが、不当廉売の目的から色々推察してみようかと。 そこから対策を提案、実行犯確保できたら話を聞きたいですね。 取引というか、裏を話す代わりに、罪を減ずるとかそんな提案を考えてます

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0