【呑竜】偽りの王都強襲作戦
馬車猪
コメント 6
シナリオID:3188
オープニング
●
装備も掲げる旗もばらばらの集団が、王都から馬で半日の距離にある丘に到達した。
個々の装備は良好だ。
貴族派貴族の穏健派の中でもライゼンナクト公から直接命令を受ける程度に信用と能力のある貴族とその虎の子達なのだ。
長時間の行軍で疲れているはずの貴族達は、それぞれの配下を従え悠然たる態度で情報を交換する。
「まさかリーラント伯がこれほど巧みに……」
「しかしこれでは王家を刺激しすぎるのでは」
「先制できるなら選択肢も増える。後は伯とライゼンナクト公がどう判断するかだな」
彼等の視線の先には、大量の軍事物資を持ち込み行軍を加速させた桃髪の伯爵がいた。
●
その日の深夜。
軍事物資が詰め込まれた天幕の中に、リーラント伯と冒険者ギルド職員の姿があった。
「なるほど。ついうっかり前進し過ぎてしまっただけで王都を攻撃するつもりは全くない、と」
何言ってんだこいつ、という表情をしたまま職員が言う。
有力貴族相手に非常に無礼な発言ではあるのだが、忠誠心篤い護衛達もうなずきたくなる気持ちを我慢している。
まさか、主がここまで戦下手だとは思ってもいなかった。
「素直に撤退すればいいのでは? はあ、そうしたいけど無理……いえそれ私が聞いてよろしいので? 王国の上層部は既に察している、って私みたいな下っ端が聞いたら口封じが怖い奴ですよそれ」
リーラント伯にも言い分はある。
王国貴族派の中の過激な連中をどうにかするから連中に同志扱いされる行動をとって時間を稼げ、というのが貴族派の長であるライゼンナクト公からの命令だ。
その時まで、王家相手に戦も辞さないという姿勢を示す必要がある。
難易度はとても高い。
「あー、聞きたくなーい!」
職員が耳を塞いでも近寄られて熱心に囁かれる。
今は王家が圧倒的に有利な情勢だ。
しかし無血で勝利するのは容易ではない。
王家と貴族派の間で交渉が成立する可能性は十分にある。
「貴族派が条件付き降伏をするための最低条件が過激な貴族派の排除で、過激な貴族派を油断させるための囮がここにいる私兵部隊というか軍? それ策を弄しすぎて失敗する奴じゃないですかね」
あくまで伯爵個人と職員個人の意見と感想だ。
メドゥの指先が王国に入り込んでいるので、いつどこで策が破綻してもおかしくない、かもしれない。
「でーすーかーらー、冒険者はとんでもない実績がありますけど都合の良い神様でもなんでもないんですよ。現実的な内容で依頼してください」
冒険者に25人くらいで突入してもらって目の前の伯爵ごと制圧してもらうのが1番簡単じゃないかな、とも思ってしまう。
しかし万一一部でも逃がしてしまうと周辺の街や村を焼かれかねないしうっかり貴族を殺してしまうと死兵となった家臣達がもっと酷いことをやりかねない。
「もういっそのこと冒険者に『王宮の方から来ました』と言って貰ってテキトーに戦ってもらうのはどうです? 勝つ必要も負ける必要もないんですよね? 公爵様から撤退命令が届くまで時間稼ぎすればいいんですよね!?」
ぐだぐだのまま交渉はまとまり、事態の解決は冒険者に丸投げされることになった。
●
「お集まり頂き感謝します」
外部からの目がない場所で依頼説明会が行われている。
「依頼内容は貴族派貴族が抱える私兵相手の連戦です」
冒険者から『何言ってんだこいつ』という目で見られても冒険者ギルド職員はへこたれない。
「現在、王国の貴族派が決起して軍が王都に向かっている、ということになっています」
少なくとも貴族派の過激な連中の頭の中ではそうなっている。
「実際は政治工作のための演技です」
退路を全て絶たれない限り、滅ぶまで戦う人間は滅多にいないのだ。
「この依頼に参加した冒険者が現地で『王宮の方から来た』と言ったら『よくぞ来た勇者よ同数でお相手する』って返事が返ってきて戦いが始まることになっています」
貴族派も好んで滅ぶ趣味は持っていない。
自分自身の戦力は温存したいし、負けるなら負けるでマシな条件で負けたい。
そのためなら茶番でも何でもやる。
「1度戦った後は4時間くらい休憩して次の人達と戦うことになります。詳しい事情は話せませんが、2度目の戦いが終わった直後くらいに急使がやって来て貴族派部隊が現地解散という流れになります」
策の成否は関係ない。
現地の貴族派はこれ以上王都に近づけない。近付けば近い未来での破滅が確定するのだ。
「色々説明しましたが勝てば問題ありません。皆さんの力を見せつけ、名声と平和を手に入れてください」
職員は、心底信頼する目を冒険者へ向けていた。
装備も掲げる旗もばらばらの集団が、王都から馬で半日の距離にある丘に到達した。
個々の装備は良好だ。
貴族派貴族の穏健派の中でもライゼンナクト公から直接命令を受ける程度に信用と能力のある貴族とその虎の子達なのだ。
長時間の行軍で疲れているはずの貴族達は、それぞれの配下を従え悠然たる態度で情報を交換する。
「まさかリーラント伯がこれほど巧みに……」
「しかしこれでは王家を刺激しすぎるのでは」
「先制できるなら選択肢も増える。後は伯とライゼンナクト公がどう判断するかだな」
彼等の視線の先には、大量の軍事物資を持ち込み行軍を加速させた桃髪の伯爵がいた。
●
その日の深夜。
軍事物資が詰め込まれた天幕の中に、リーラント伯と冒険者ギルド職員の姿があった。
「なるほど。ついうっかり前進し過ぎてしまっただけで王都を攻撃するつもりは全くない、と」
何言ってんだこいつ、という表情をしたまま職員が言う。
有力貴族相手に非常に無礼な発言ではあるのだが、忠誠心篤い護衛達もうなずきたくなる気持ちを我慢している。
まさか、主がここまで戦下手だとは思ってもいなかった。
「素直に撤退すればいいのでは? はあ、そうしたいけど無理……いえそれ私が聞いてよろしいので? 王国の上層部は既に察している、って私みたいな下っ端が聞いたら口封じが怖い奴ですよそれ」
リーラント伯にも言い分はある。
王国貴族派の中の過激な連中をどうにかするから連中に同志扱いされる行動をとって時間を稼げ、というのが貴族派の長であるライゼンナクト公からの命令だ。
その時まで、王家相手に戦も辞さないという姿勢を示す必要がある。
難易度はとても高い。
「あー、聞きたくなーい!」
職員が耳を塞いでも近寄られて熱心に囁かれる。
今は王家が圧倒的に有利な情勢だ。
しかし無血で勝利するのは容易ではない。
王家と貴族派の間で交渉が成立する可能性は十分にある。
「貴族派が条件付き降伏をするための最低条件が過激な貴族派の排除で、過激な貴族派を油断させるための囮がここにいる私兵部隊というか軍? それ策を弄しすぎて失敗する奴じゃないですかね」
あくまで伯爵個人と職員個人の意見と感想だ。
メドゥの指先が王国に入り込んでいるので、いつどこで策が破綻してもおかしくない、かもしれない。
「でーすーかーらー、冒険者はとんでもない実績がありますけど都合の良い神様でもなんでもないんですよ。現実的な内容で依頼してください」
冒険者に25人くらいで突入してもらって目の前の伯爵ごと制圧してもらうのが1番簡単じゃないかな、とも思ってしまう。
しかし万一一部でも逃がしてしまうと周辺の街や村を焼かれかねないしうっかり貴族を殺してしまうと死兵となった家臣達がもっと酷いことをやりかねない。
「もういっそのこと冒険者に『王宮の方から来ました』と言って貰ってテキトーに戦ってもらうのはどうです? 勝つ必要も負ける必要もないんですよね? 公爵様から撤退命令が届くまで時間稼ぎすればいいんですよね!?」
ぐだぐだのまま交渉はまとまり、事態の解決は冒険者に丸投げされることになった。
●
「お集まり頂き感謝します」
外部からの目がない場所で依頼説明会が行われている。
「依頼内容は貴族派貴族が抱える私兵相手の連戦です」
冒険者から『何言ってんだこいつ』という目で見られても冒険者ギルド職員はへこたれない。
「現在、王国の貴族派が決起して軍が王都に向かっている、ということになっています」
少なくとも貴族派の過激な連中の頭の中ではそうなっている。
「実際は政治工作のための演技です」
退路を全て絶たれない限り、滅ぶまで戦う人間は滅多にいないのだ。
「この依頼に参加した冒険者が現地で『王宮の方から来た』と言ったら『よくぞ来た勇者よ同数でお相手する』って返事が返ってきて戦いが始まることになっています」
貴族派も好んで滅ぶ趣味は持っていない。
自分自身の戦力は温存したいし、負けるなら負けるでマシな条件で負けたい。
そのためなら茶番でも何でもやる。
「1度戦った後は4時間くらい休憩して次の人達と戦うことになります。詳しい事情は話せませんが、2度目の戦いが終わった直後くらいに急使がやって来て貴族派部隊が現地解散という流れになります」
策の成否は関係ない。
現地の貴族派はこれ以上王都に近づけない。近付けば近い未来での破滅が確定するのだ。
「色々説明しましたが勝てば問題ありません。皆さんの力を見せつけ、名声と平和を手に入れてください」
職員は、心底信頼する目を冒険者へ向けていた。
解説
●目的
貴族派貴族達とその家臣の前で、冒険者と同数の私兵部隊を2回蹴散らすこと
昼過ぎに1戦。勝てば夕方にもう1戦することになります
●ルール
丘のふもとに作った直径200メートルの試合場から出たらその試合中は中に戻れない
敵味方が試合場の端と反対側の端にいる状態で戦闘開始
意図して止めを刺したら全体が反則負け
事情はあるけどお互い本気で戦いましょう
●1試合目
リーラント伯爵私兵
中堅冒険者に匹敵する授恵者8人からなる精鋭です
ウォーリア、ヒーラー、キャスターがバランス良くいます
移動は高いですが他の能力は控えめで、戦場が狭い戦いは非常に苦手です
冒険者はスキルの消費を抑えて戦うのが重要かもしれません
●2試合目
この場にいる貴族派貴族全員が精鋭中の精鋭を出し合ったチーム
抵抗と付与が強いシーザーロア使い2名
強力な支援と癒やしを行えるヒーラー2名
至近距離での射撃戦も得意なシューター2名
大火力とオブジェクト召喚による足止めを使いこなすキャスター2名
以上の計8名からなるチームです
1試合目終了時から2試合目開始まで徹底的に連携訓練行うため連携に不足はありません
授恵者としての格も、最もキャリアを積んだ冒険者に迫ります
しかし装備は竜鉄製装備より下のもので、戦闘経験も種類の点では冒険者より劣ります
この戦いに冒険者が鮮やかに勝利すれば、この場にいる貴族派貴族の野心が沈静化します
●他
・リーラント伯
ライゼンナクト公爵傘下の1集団を主導する有力貴族
典型的な貴族派穏健派(王家への忠誠心が薄々)でもあります
交渉や経営での実績はありますが、軍事関連の才は0どころかマイナスです。非授恵者
・貴族派貴族
ライゼンナクト公爵傘下であり、現在はリーラント伯と行動を共にしている貴族達です
王家相手に条件付き降伏することに納得はしていますが、王家に隙があれば自家の利益拡大を目指す程度の野心はあります
・授恵者ではない私兵
いっぱいいます
激しい戦いを目にしたら熱狂して応援し始めるかもしれません
マスターより
描写は2試合目が中心になる予定です
リプレイ
●
「王宮の方から来ましたー」
シルク・メイプルリーフが滴るような色香と健康的な精神を感じさせる声で。
「ド~モ、王宮の方から来ました」
ベルク・オスマットが愛想も敵意もない事務的な声で貴族派部隊に声をかける。
「よくぞ来た、少数で正面から来るとはな」
桃色髪の中年男が堂々と出迎える。
(この伯爵本当にあのセニャの兄なのか?)
ベルクがそう思うのも無理はない。
基本的な顔立ちも面の皮の厚さはよく似ているとはいえ、年齢差が約30年もあるのだ。
試合の準備のため敵味方が解散する中、数人の冒険者と桃髪貴族が同行する。
「リ-ラントって武断のお家だったしナメられたら殺す!! ってノリだと思ってたらうっかり前進しすぎたとかもうねー……」
アルマ・ヴァレンタインは、名前は知らないが面識はある授恵者を見上げる。
リーラント伯の護衛は曖昧な表情をするしかない。
近くにいるのがアルマだけならともかく、この場で主君の無能を口にするのは立場上無理だ。
「まあ腕試し込みの茶番に付き合うだけで回避できるならいっか。それにしても『王宮の方から来ました』とかあやしー訪問販売みたい?」
アルマの言葉に、複数の護衛が噴き出しかけて咳払いをして誤魔化した。
「……これでやる気が無いってマジなのか?」
ベルクの眉根が露骨に寄った。
野戦築城しての籠城、街道の大規模封鎖、都市の焼き討ちまで無理なくできそうな量の物資が丘の上に積み上げられている。
(王家と敵対するつもりでこれをしたなら極めて悪質だが意図せずこれをやれてしまうなら最悪だ。我等が失敗すれば収拾がつかなくなるぞ)
大戦力を集めるのも大変だが、暴発させずに解散させるのはそれ以上に大変なのだ。
「事情は分かります。分かりますけど……。日頃流れ者扱いで蔑む冒険者相手にここまで上げ善据え膳お膳立てされないと芝居も儘ならぬこのあり様、面子一つで生きる貴族が羞恥心は領地にお忘れですか?」
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクの発言は本音を建前で隠し切れていない。
相手が不愉快に思ってもこの場の戦力は冒険者有利なので実力行使はない、はずだ。
「まぁいいですやります」
アウレーリアは立ち止まる。
試合場とされた場所で、8人の授恵者がアウレーリア達冒険者を待っていた。
あー、あー、こほんと発声を調節する。
「王宮の門番はー、このネーベルベルクが務めようー。先に進まんとする者は我が杖先を躱していくが良いー」
五感と観察力に優れた者なら違和感に気づけただろうが、冒険者は仕掛ける側だし格の高い貴族私兵は事情を知っている。
何も知らないか理解の知らない者達だけが盛り上がり、戦いの気配が急速に濃くなっていく。
「この戦いは王国存亡に関わる戦いではなくただの試合である」
ストレガ・L・リベルガストラは真顔だ。
「だがお互いに精鋭の戦士であるからには、己の武が何処まで通じるか試してみたいものではないか」
真顔のまま貴族と兵士の名誉欲を刺激する。
ストレガは熱が冷め始める寸前に合図を出す。
桃髪貴族が重々しくうなずき、双方一斉に動き出した。
●
「むむっ」
アルマのモヒカンセンサーが反応している。
こっちが上であっちが下だ。
自身のエーテルを強力な波動として解放する。
もともと有利な側の複数の能力が2割増し、その差は圧倒的といっていい差になる。
「そんなに差はない気もするんだけどー……」
実力も装備も少し上だとは思うが総合したときの差はとても大きい。
(貴族派貴族が潰れるのは構わんが、セニャの実家が潰れるのはあまりよろしくないのだがな)
そんなことを考えているベルクはリーラント兵にとっての天敵だ。
攻防を弱くしてでも速度を高めているのにベルクの方が速いのだ。
ただでさえ使える戦術が少ないのに、ベルクの早さは戦術の最初を潰せてしまう。
(今は没交渉でも次代に変われば帝国・王国間の太いパイプにできるはずなんじゃが)
黒い刀身を使った斬撃は、アクティブなスキルを使っていないのに敵ヒーラーをあっという間に追い詰めてしまう。
(政治的にリーラント伯爵家は手強いように見せておく必要がある。伯爵自身の軍事能力はともかく下が手強いなら張り子の虎にはなる、のだが相手に花を持たせてもこれが限界……)
可能なら、伯爵の胸ぐらを掴んで振り回したい気持ちのベルクであった。
アウレーリアは敵ウォーリアが繰り出した斬撃を回避する。
見切るのにスキルを使う必要がある程度には強くて正確で、しかし後衛であるアウレーリア1人で対処可能だ。
「1人目」
アウレーリアはスキルを使わず魔法攻撃を当ててヒーラーを昏倒させた。
「頑張って耐えるのだ」
このときストレガが使ったのはエーテルを用いた装甲弱体化術であり、芸術的とすらいえる付与術が抵抗を許さない。その結果、リーラントのウォーリアが圧倒的な攻撃力に乏しい防御力で立ち向かうしかなくなる。
ヒーラーを守るため逃げることはできないウォーリアに、アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトの極めて強力な一撃が深く徹底的に叩き込まれる。
アルベルトはアクティブなスキルはまだ1つも使っていない。
それで十分であり、ウォーリアは倒れる前に痛みと負傷で気絶していた。
フリーダ=ブロムヴィストは自身の耐久力を計算しながら前線を維持する。
白金色の装備は素晴らしく目立つだけでなく性能も素晴らしい。
特に防御力は凄まじく、全力で攻撃したのに軽すぎる手応えに気付いたリーラント兵が次からは攻撃しなくなるほどだ。
冒険者がヒーラーを狙ったように冒険者もヒーラーを狙われる。
が、軽装の授恵者では熟練冒険者であるシルクを倒す威力は出せない。
「シスターキック!」
本人も衣装も色気の化身じみていても、蹴り上げの速度と精度はまさに熟練だ。
叩き込まれた魔力が薄い防御を貫き敵を苛み、シルク自身は強靱な体幹と優れた体術で揺れすらしない。
「シスターラリアット!」
振り返りざまに足と同じく美しい腕を振る。
ぐぅ、と呻いた敵ウォーリアが剣で反撃するがシルクの癒やしですぐ治る程度だ。
「ラブ全力注入です! シスターブリーカー!!」
リーラント兵の中で最も格があったウォーリアが、シルクによる全力全身鯖折りという天国と地獄を味わう。
ストレガは多くは語らず、目でリーラント側の事情を察していることを伝える。
もちろん手は抜かないので繰り出す光弾の群れは強烈だ。
被弾寸前の授恵者達が、目に微かな感謝と痛みへの覚悟を浮かべて耐えようとしている。
アウレーリアは相変わらずアクティブスキル無しで強烈な魔法攻撃を行う。
「もう勝負は決まったと思うのだ。これ以降の事故は双方にとって不幸なものになってしまうのだ」
ストレガ達が実力を示した直後なので、もとからある説得力も数割増しだ。
冒険者が意図した通りの展開になりそうだった。
●
「ねるー……」
展開次第で敵にまわりかけない部隊に囲まれた状態でも、アルマは平然と仮眠をとることが可能だ。
「ありがとうなのだ」
ストレガはシルクによる治療を受けてから食事をとる。
「準備運動も重要なのだ」
貴族私兵達が激しい訓練をしている間はゆっくりと休憩し、第2試合の前には悠然と準備運動を行っていた。
●
「啓示にも『何言ってんだこいつ?』と出ていますが、どうして連戦する必要があるんですかね……?」
フリーダは呆れている。
感情を言語化すれば「こいつら恥を知らないのか?」が1番近いかもしれない。
「要は茶番劇のお手伝いという事みたいですし、勝っても負けてもそこまで問題にならないのは救いですね。とはいえやるからには勝利を収めたいものです」
まだ距離はあるのでフリーダの声は聞こえていない。
第2試合の8人は、第1試合で圧倒的な強さをみせた白金の騎士に警戒を露わにしていた。
「時間ですね。えーと何でしたっけ」
シルクは黙っていなくても絶世の美女、エーテルまで使えば人の枠からはみ出しかかって見える。
「戦士たちよ」
シルクという健全な生物を通してなお特徴過ぎる気配が現実を侵食する。
「我が胸の中で眠りにつくがよい。です」
怪しげなピンクのオーラが冒険者達の力を強くする。
貴族派貴族に仕える授恵者達には、あまりに恐ろしすぎる敵であった。
直後に始まったのは射撃戦闘だ。
スキル抜きでの物理防御が最も薄いストレガに対し、冒険者基準でも非常に強力な矢が2本飛んでくる。
結構な回避技術を身につけたストレガでも躱しきれない精度も兼ね備え、戦闘不能以上が十分にありえる攻撃だった。
「盾を2枚壊されたのだ」
敵も強いがクレネルウォールと引き替えに耐え抜いたストレガはそれ以上に強い。
セロンガード・シュタインドルフも敵の弱点に大火力を叩き込んではいるが、シューターの数が1対2なので射撃戦では冒険者が押され気味だ。
フリーダは猛烈に加速する。
重装備な割に非常に速く、冒険者の一団から一人抜けだし8人へ一気に近付いた。
「当然の手段ね、お互いに」
アウレーリアは、敵キャスターが設置した澱嵐に同じものを同じ位置へ召喚しようとする。
オブジェクトは同じ場所に同時に存在できないで術者同士の魔力勝負になる。
アウレーリアの額に汗か浮かぶ。見た目は同じ澱嵐が入れ替わりで現れ、敵を足止めするオブジェクトに変わった。
「うむ」
ストレガは重力場を敵ウォーリアを巻き込む形で使う。
シーザーロアの力がフリーダに向かう。
平均的な凄腕前衛相手に半々で効きそうな技は、術に対する抵抗力も圧倒的なフリーダには通じない。
危険を感じたシューターとキャスターが作戦を大きく変更してフリーダを狙う。
しかし高速で飛ぶ光弾も矢も白金の装甲を貫けない。
物理と魔法の両方に対する圧倒的防御力とアダマントボディに組み合わせは暴力的ですらあった。
貴族派の精鋭を圧倒している状況でもフリーダは冷静だ。
まずは体当たりで敵ウォーリアを突き飛ばし隊列を崩す。
次に狙うのはヒーラーだ。
ストレガほど極端ではないが対物理の守りは薄く、白金の刃と同じ威力の巨大光塊により効率的に命を削られる。
(倒れたとしたと止めはなしの戦闘ですからね。最期までダメージレースにつきあってもらいます)
フリーダの活躍が、時間を冒険者の味方にした。
「こんなものか? 得意の機動戦が仕えなかったリーラント兵の方が手応えがあったぞ」
もう1人の敵ヒーラーを再起不能にならない程度に切り倒しながらベルクが言う。
もちろん9割方嘘だ。第2試合の敵の方がすごく強い。
「全力でいく!」
アルベルトの宣言は慈悲である。
真正面からの斬り合いではどちらが上か残酷なほどはっきり結果に現れる。
常人では持ち上げるのも難しい刃は、アルベルトの利き腕により高速かつ重い一撃と化して振り落ろされる。
直前にチャージングで加速したのにアルベルトの体幹は安定し剣の動きも的確だ。
良質な鋼で形作られた鎧を、そこに込められたエーテルごと切り裂きその下の皮膚と筋肉まで破壊する。
それを癒やすためのヒーラーからのヒールは届かない。彼等は彼等で追い詰められている。
1度フリーダに跳ねとばされた敵ウォーリアが猛烈に前進しシーザーロアを行使する。
狙うのは、前衛にヒールを使うためには後方に完全には引っ込めないアルマだ。
十分に強力な付与を振りほどけず、アルマが前線に引きつけられ横殴りの一撃に襲われた。
「あいたー……!」
それで終わりである。
技を使おうが攻撃に集中しようが、豊富な生命力と十分な防御力を兼ね備えたアルマは一撃では倒せないし数秒に1度程度しか被弾しないなら状態異常から回復して自らを癒やすまでやってのける。
「アルベルトさん気を付けてねー……。この人達けっこうやるよー……!」
被弾時にスキルを使わざるを得なかった。
アルマは自らを最低限癒やしてから、シーザーロアの影響下にあるアルベルトを解呪する。
「ああ、後は任せろ!」
アルベルトが振り落ろし、敵ウォーリアが1人倒れる。
未だ矢は飛んで来ているが、神材まで使った大型盾を使いこなすアルベルトにとって脅威ではない。
庇ったアルマからもたらされる癒やしは本当にありがたい。
盾が振動する。
完璧に防御してもダメージが積み重なる。
格と神材製装備が揃ったアルベルトでも、多数相手に長時間持ちこたえるのは不可能。
「後少しだ!」
だからアルベルトは、その卓越した戦術眼で勝利を確信した。
アウレーリアのマジックディソナンス改が敵キャスターの魔力を妨害する。
ストレガの魔力が込められた光弾が、高い攻撃力と反比例して低い防御力のシューターを貫く。
ストレガも反撃を受けてしまうが敵のヒーラーは既に機能しておらず、アルマによる回復支援を受けるストレガの方が余裕がある。
(そろそろ止めなくては治りきらない傷を負わせかねないのだ)
戦闘の展開を理解できていないリーラント伯ではなく、その部下にちらりちらりと視線を向ける。
ストレガも危ないのだがアルベルトと剣の間合いで戦う貴族私兵はとてつもなく危険だ。
アルベルトと比べればまだ安心な、一般的な意味では物理でも魔力でも強いシルクが敵ウォーリアを気絶まで追い込み敵の前衛を崩壊させる。
その時点で試合終了を告げる笛が試合場外から響き、何人もの救護班が試合場の中へ入ってくるのだった。
●
「解散の意図、確かに理解したのだ。お互いしばらく安静にした方が良いのだ」
人心掌握に長けたストレガは〆の宣言に向いている。
なお、私兵側は長期の必要でストレガも一晩くらいはゆっくりしたい。
「応援ありがとうございます」
シルクは応援してくれた兵士を軽くハグしてまわる。
試合が終わればノーサイド、人類の為にラブを育む必要があるというのが彼女の価値観である。
「試合で戦争が止められるならばやらない理由が無いじゃないですか」
そう言うシルクは、確かにシスターに見えた。
てきとーな理由をつけて時間を潰しているうちに、ライゼンナクト公からの伝令が到着する。
「わざわざお家の存続を手伝ってあげたのですから、貸しは大きいですよ? 毒杯を嗅ぎ分けるセンスはお持ちなのですし、どうぞ生きてお役立ちくださいな。ネーベルベルクが貴家を救いました、お忘れなきよう」
アウレーリアは的確に伯爵を言葉で刺してから立ち去る。
ベルクは疲れを隠せない。
(ちょっとセニャに話して甥御に軍事に関する武訓や学園で優先して学ぶように、手紙なりなんなりで助言するよう言っておくか)
今のリーラント家は、先行き不安であった。
貴族派に属する穏健派達は王都に近付くことなく去って行く。
冒険者の力を間近で感じた直後なので、貴族らしい悪巧みはしなかったらしい。
「王宮の方から来ましたー」
シルク・メイプルリーフが滴るような色香と健康的な精神を感じさせる声で。
「ド~モ、王宮の方から来ました」
ベルク・オスマットが愛想も敵意もない事務的な声で貴族派部隊に声をかける。
「よくぞ来た、少数で正面から来るとはな」
桃色髪の中年男が堂々と出迎える。
(この伯爵本当にあのセニャの兄なのか?)
ベルクがそう思うのも無理はない。
基本的な顔立ちも面の皮の厚さはよく似ているとはいえ、年齢差が約30年もあるのだ。
試合の準備のため敵味方が解散する中、数人の冒険者と桃髪貴族が同行する。
「リ-ラントって武断のお家だったしナメられたら殺す!! ってノリだと思ってたらうっかり前進しすぎたとかもうねー……」
アルマ・ヴァレンタインは、名前は知らないが面識はある授恵者を見上げる。
リーラント伯の護衛は曖昧な表情をするしかない。
近くにいるのがアルマだけならともかく、この場で主君の無能を口にするのは立場上無理だ。
「まあ腕試し込みの茶番に付き合うだけで回避できるならいっか。それにしても『王宮の方から来ました』とかあやしー訪問販売みたい?」
アルマの言葉に、複数の護衛が噴き出しかけて咳払いをして誤魔化した。
「……これでやる気が無いってマジなのか?」
ベルクの眉根が露骨に寄った。
野戦築城しての籠城、街道の大規模封鎖、都市の焼き討ちまで無理なくできそうな量の物資が丘の上に積み上げられている。
(王家と敵対するつもりでこれをしたなら極めて悪質だが意図せずこれをやれてしまうなら最悪だ。我等が失敗すれば収拾がつかなくなるぞ)
大戦力を集めるのも大変だが、暴発させずに解散させるのはそれ以上に大変なのだ。
「事情は分かります。分かりますけど……。日頃流れ者扱いで蔑む冒険者相手にここまで上げ善据え膳お膳立てされないと芝居も儘ならぬこのあり様、面子一つで生きる貴族が羞恥心は領地にお忘れですか?」
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクの発言は本音を建前で隠し切れていない。
相手が不愉快に思ってもこの場の戦力は冒険者有利なので実力行使はない、はずだ。
「まぁいいですやります」
アウレーリアは立ち止まる。
試合場とされた場所で、8人の授恵者がアウレーリア達冒険者を待っていた。
あー、あー、こほんと発声を調節する。
「王宮の門番はー、このネーベルベルクが務めようー。先に進まんとする者は我が杖先を躱していくが良いー」
五感と観察力に優れた者なら違和感に気づけただろうが、冒険者は仕掛ける側だし格の高い貴族私兵は事情を知っている。
何も知らないか理解の知らない者達だけが盛り上がり、戦いの気配が急速に濃くなっていく。
「この戦いは王国存亡に関わる戦いではなくただの試合である」
ストレガ・L・リベルガストラは真顔だ。
「だがお互いに精鋭の戦士であるからには、己の武が何処まで通じるか試してみたいものではないか」
真顔のまま貴族と兵士の名誉欲を刺激する。
ストレガは熱が冷め始める寸前に合図を出す。
桃髪貴族が重々しくうなずき、双方一斉に動き出した。
●
「むむっ」
アルマのモヒカンセンサーが反応している。
こっちが上であっちが下だ。
自身のエーテルを強力な波動として解放する。
もともと有利な側の複数の能力が2割増し、その差は圧倒的といっていい差になる。
「そんなに差はない気もするんだけどー……」
実力も装備も少し上だとは思うが総合したときの差はとても大きい。
(貴族派貴族が潰れるのは構わんが、セニャの実家が潰れるのはあまりよろしくないのだがな)
そんなことを考えているベルクはリーラント兵にとっての天敵だ。
攻防を弱くしてでも速度を高めているのにベルクの方が速いのだ。
ただでさえ使える戦術が少ないのに、ベルクの早さは戦術の最初を潰せてしまう。
(今は没交渉でも次代に変われば帝国・王国間の太いパイプにできるはずなんじゃが)
黒い刀身を使った斬撃は、アクティブなスキルを使っていないのに敵ヒーラーをあっという間に追い詰めてしまう。
(政治的にリーラント伯爵家は手強いように見せておく必要がある。伯爵自身の軍事能力はともかく下が手強いなら張り子の虎にはなる、のだが相手に花を持たせてもこれが限界……)
可能なら、伯爵の胸ぐらを掴んで振り回したい気持ちのベルクであった。
アウレーリアは敵ウォーリアが繰り出した斬撃を回避する。
見切るのにスキルを使う必要がある程度には強くて正確で、しかし後衛であるアウレーリア1人で対処可能だ。
「1人目」
アウレーリアはスキルを使わず魔法攻撃を当ててヒーラーを昏倒させた。
「頑張って耐えるのだ」
このときストレガが使ったのはエーテルを用いた装甲弱体化術であり、芸術的とすらいえる付与術が抵抗を許さない。その結果、リーラントのウォーリアが圧倒的な攻撃力に乏しい防御力で立ち向かうしかなくなる。
ヒーラーを守るため逃げることはできないウォーリアに、アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトの極めて強力な一撃が深く徹底的に叩き込まれる。
アルベルトはアクティブなスキルはまだ1つも使っていない。
それで十分であり、ウォーリアは倒れる前に痛みと負傷で気絶していた。
フリーダ=ブロムヴィストは自身の耐久力を計算しながら前線を維持する。
白金色の装備は素晴らしく目立つだけでなく性能も素晴らしい。
特に防御力は凄まじく、全力で攻撃したのに軽すぎる手応えに気付いたリーラント兵が次からは攻撃しなくなるほどだ。
冒険者がヒーラーを狙ったように冒険者もヒーラーを狙われる。
が、軽装の授恵者では熟練冒険者であるシルクを倒す威力は出せない。
「シスターキック!」
本人も衣装も色気の化身じみていても、蹴り上げの速度と精度はまさに熟練だ。
叩き込まれた魔力が薄い防御を貫き敵を苛み、シルク自身は強靱な体幹と優れた体術で揺れすらしない。
「シスターラリアット!」
振り返りざまに足と同じく美しい腕を振る。
ぐぅ、と呻いた敵ウォーリアが剣で反撃するがシルクの癒やしですぐ治る程度だ。
「ラブ全力注入です! シスターブリーカー!!」
リーラント兵の中で最も格があったウォーリアが、シルクによる全力全身鯖折りという天国と地獄を味わう。
ストレガは多くは語らず、目でリーラント側の事情を察していることを伝える。
もちろん手は抜かないので繰り出す光弾の群れは強烈だ。
被弾寸前の授恵者達が、目に微かな感謝と痛みへの覚悟を浮かべて耐えようとしている。
アウレーリアは相変わらずアクティブスキル無しで強烈な魔法攻撃を行う。
「もう勝負は決まったと思うのだ。これ以降の事故は双方にとって不幸なものになってしまうのだ」
ストレガ達が実力を示した直後なので、もとからある説得力も数割増しだ。
冒険者が意図した通りの展開になりそうだった。
●
「ねるー……」
展開次第で敵にまわりかけない部隊に囲まれた状態でも、アルマは平然と仮眠をとることが可能だ。
「ありがとうなのだ」
ストレガはシルクによる治療を受けてから食事をとる。
「準備運動も重要なのだ」
貴族私兵達が激しい訓練をしている間はゆっくりと休憩し、第2試合の前には悠然と準備運動を行っていた。
●
「啓示にも『何言ってんだこいつ?』と出ていますが、どうして連戦する必要があるんですかね……?」
フリーダは呆れている。
感情を言語化すれば「こいつら恥を知らないのか?」が1番近いかもしれない。
「要は茶番劇のお手伝いという事みたいですし、勝っても負けてもそこまで問題にならないのは救いですね。とはいえやるからには勝利を収めたいものです」
まだ距離はあるのでフリーダの声は聞こえていない。
第2試合の8人は、第1試合で圧倒的な強さをみせた白金の騎士に警戒を露わにしていた。
「時間ですね。えーと何でしたっけ」
シルクは黙っていなくても絶世の美女、エーテルまで使えば人の枠からはみ出しかかって見える。
「戦士たちよ」
シルクという健全な生物を通してなお特徴過ぎる気配が現実を侵食する。
「我が胸の中で眠りにつくがよい。です」
怪しげなピンクのオーラが冒険者達の力を強くする。
貴族派貴族に仕える授恵者達には、あまりに恐ろしすぎる敵であった。
直後に始まったのは射撃戦闘だ。
スキル抜きでの物理防御が最も薄いストレガに対し、冒険者基準でも非常に強力な矢が2本飛んでくる。
結構な回避技術を身につけたストレガでも躱しきれない精度も兼ね備え、戦闘不能以上が十分にありえる攻撃だった。
「盾を2枚壊されたのだ」
敵も強いがクレネルウォールと引き替えに耐え抜いたストレガはそれ以上に強い。
セロンガード・シュタインドルフも敵の弱点に大火力を叩き込んではいるが、シューターの数が1対2なので射撃戦では冒険者が押され気味だ。
フリーダは猛烈に加速する。
重装備な割に非常に速く、冒険者の一団から一人抜けだし8人へ一気に近付いた。
「当然の手段ね、お互いに」
アウレーリアは、敵キャスターが設置した澱嵐に同じものを同じ位置へ召喚しようとする。
オブジェクトは同じ場所に同時に存在できないで術者同士の魔力勝負になる。
アウレーリアの額に汗か浮かぶ。見た目は同じ澱嵐が入れ替わりで現れ、敵を足止めするオブジェクトに変わった。
「うむ」
ストレガは重力場を敵ウォーリアを巻き込む形で使う。
シーザーロアの力がフリーダに向かう。
平均的な凄腕前衛相手に半々で効きそうな技は、術に対する抵抗力も圧倒的なフリーダには通じない。
危険を感じたシューターとキャスターが作戦を大きく変更してフリーダを狙う。
しかし高速で飛ぶ光弾も矢も白金の装甲を貫けない。
物理と魔法の両方に対する圧倒的防御力とアダマントボディに組み合わせは暴力的ですらあった。
貴族派の精鋭を圧倒している状況でもフリーダは冷静だ。
まずは体当たりで敵ウォーリアを突き飛ばし隊列を崩す。
次に狙うのはヒーラーだ。
ストレガほど極端ではないが対物理の守りは薄く、白金の刃と同じ威力の巨大光塊により効率的に命を削られる。
(倒れたとしたと止めはなしの戦闘ですからね。最期までダメージレースにつきあってもらいます)
フリーダの活躍が、時間を冒険者の味方にした。
「こんなものか? 得意の機動戦が仕えなかったリーラント兵の方が手応えがあったぞ」
もう1人の敵ヒーラーを再起不能にならない程度に切り倒しながらベルクが言う。
もちろん9割方嘘だ。第2試合の敵の方がすごく強い。
「全力でいく!」
アルベルトの宣言は慈悲である。
真正面からの斬り合いではどちらが上か残酷なほどはっきり結果に現れる。
常人では持ち上げるのも難しい刃は、アルベルトの利き腕により高速かつ重い一撃と化して振り落ろされる。
直前にチャージングで加速したのにアルベルトの体幹は安定し剣の動きも的確だ。
良質な鋼で形作られた鎧を、そこに込められたエーテルごと切り裂きその下の皮膚と筋肉まで破壊する。
それを癒やすためのヒーラーからのヒールは届かない。彼等は彼等で追い詰められている。
1度フリーダに跳ねとばされた敵ウォーリアが猛烈に前進しシーザーロアを行使する。
狙うのは、前衛にヒールを使うためには後方に完全には引っ込めないアルマだ。
十分に強力な付与を振りほどけず、アルマが前線に引きつけられ横殴りの一撃に襲われた。
「あいたー……!」
それで終わりである。
技を使おうが攻撃に集中しようが、豊富な生命力と十分な防御力を兼ね備えたアルマは一撃では倒せないし数秒に1度程度しか被弾しないなら状態異常から回復して自らを癒やすまでやってのける。
「アルベルトさん気を付けてねー……。この人達けっこうやるよー……!」
被弾時にスキルを使わざるを得なかった。
アルマは自らを最低限癒やしてから、シーザーロアの影響下にあるアルベルトを解呪する。
「ああ、後は任せろ!」
アルベルトが振り落ろし、敵ウォーリアが1人倒れる。
未だ矢は飛んで来ているが、神材まで使った大型盾を使いこなすアルベルトにとって脅威ではない。
庇ったアルマからもたらされる癒やしは本当にありがたい。
盾が振動する。
完璧に防御してもダメージが積み重なる。
格と神材製装備が揃ったアルベルトでも、多数相手に長時間持ちこたえるのは不可能。
「後少しだ!」
だからアルベルトは、その卓越した戦術眼で勝利を確信した。
アウレーリアのマジックディソナンス改が敵キャスターの魔力を妨害する。
ストレガの魔力が込められた光弾が、高い攻撃力と反比例して低い防御力のシューターを貫く。
ストレガも反撃を受けてしまうが敵のヒーラーは既に機能しておらず、アルマによる回復支援を受けるストレガの方が余裕がある。
(そろそろ止めなくては治りきらない傷を負わせかねないのだ)
戦闘の展開を理解できていないリーラント伯ではなく、その部下にちらりちらりと視線を向ける。
ストレガも危ないのだがアルベルトと剣の間合いで戦う貴族私兵はとてつもなく危険だ。
アルベルトと比べればまだ安心な、一般的な意味では物理でも魔力でも強いシルクが敵ウォーリアを気絶まで追い込み敵の前衛を崩壊させる。
その時点で試合終了を告げる笛が試合場外から響き、何人もの救護班が試合場の中へ入ってくるのだった。
●
「解散の意図、確かに理解したのだ。お互いしばらく安静にした方が良いのだ」
人心掌握に長けたストレガは〆の宣言に向いている。
なお、私兵側は長期の必要でストレガも一晩くらいはゆっくりしたい。
「応援ありがとうございます」
シルクは応援してくれた兵士を軽くハグしてまわる。
試合が終わればノーサイド、人類の為にラブを育む必要があるというのが彼女の価値観である。
「試合で戦争が止められるならばやらない理由が無いじゃないですか」
そう言うシルクは、確かにシスターに見えた。
てきとーな理由をつけて時間を潰しているうちに、ライゼンナクト公からの伝令が到着する。
「わざわざお家の存続を手伝ってあげたのですから、貸しは大きいですよ? 毒杯を嗅ぎ分けるセンスはお持ちなのですし、どうぞ生きてお役立ちくださいな。ネーベルベルクが貴家を救いました、お忘れなきよう」
アウレーリアは的確に伯爵を言葉で刺してから立ち去る。
ベルクは疲れを隠せない。
(ちょっとセニャに話して甥御に軍事に関する武訓や学園で優先して学ぶように、手紙なりなんなりで助言するよう言っておくか)
今のリーラント家は、先行き不安であった。
貴族派に属する穏健派達は王都に近付くことなく去って行く。
冒険者の力を間近で感じた直後なので、貴族らしい悪巧みはしなかったらしい。
マスターコメント
お疲れ様でした。
ショートシナリオ難しい 報酬:多い8 / 8〜8人
2023年09月08日 14時23分08秒 公開
普通
参加者
相談掲示板
No.1
豊穣の使徒シルクです。 つまり初戦は軽く流して本戦の相手を本気で倒せと なるほどなるほど
キャスター、ストレガなのだ。よろしくなのだ。 敵にヒーラーがいてデバフ回復の可能性、キャスターはオブジェクト召喚型の足止めだからこちらもオブジェクトで合わせてあわよくば相殺を狙おうかななどと考えているのだ。 具体的にはグラビティフィールドを積むのだ。もう1つは防御用にクレネルウォールを考えているのだ。
ちょっと遅れたけどヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー 2戦目が本番だけどあんまり手を抜きすぎても苦戦しそうだし 1枠を1戦目インフィニティロアにして能力差広げて スキルを温存しつつ押し切れるようにしようかなと 2枠目はサイドヒールかヒーリングオーラの回復系か 連携妨害で光縛封にするか考えちゅうだよ
No.4
では私は後半戦のインフィニティロアを担当しましょう。 初戦はどんどん前に出ますね
既に出発前日ですが……キャスター、アウレーリアです。宜しく。 では、私は手分けしてアーケインの方を持っていきましょう。 また、長期の削り合いを想定し魔攻・魔防や物防低減BSスキルの用意を検討中です。
出発前日ですまない。 シーフのベルクだ、よろしく頼む。 我は前衛しか出来ないので、前衛しつつヒーラー潰しに動こうと思う。 回数制限のスキルは基本移動用しかないから制限の意味があまりないので()