【再起】帝国代官の夏休み
馬車猪
コメント 4
シナリオID:3095
オープニング
●
荒野を吹く風は故郷と違うにおいがした。
速度は時速50km以上である。
長い桃髪は浮かび上がり長いまつげにも埃が付着する。
物理的には不愉快ですらあるが、本人を除けば無人の荒野を駆けるのは非常に楽しい。
ここには陳情に来る帝国貴族も、あくどい取引を持ちかけてくる商家もいないので気が楽だ。
魔獣がいた。
気配も臭いも明らかに肉食なそれは、戦士としては小柄なセニャを獲物と認識して近づいて来る。
「あらご立派」
速度を緩めて細剣を抜く。
久々の二刀流は格の上昇相応に威力と鋭さを増し、馬の魔獣を3度深く穿って重傷を負わせる。
馬が怒り狂う。
なのにセニャは平然と無視して走り去る。
馬は愕然とし、直後に怒りに震える。
これほど舐められたのはうまれてから初めてだ。
憤怒が傷ついた体に力を与え、かつてない高速で獲物を追いかける。
なのに追いつけない。
息が乱れ、激しく動き続けた結果出血が続いた結果、走るどころか歩くことも難しくなる。
わん!
わんわん!!
いつの間にか忍び寄っていたピンク首輪の狼達が包囲を完了し、馬の脚へ不意討ちをかけた。
●
「そーれ!」
赤く熱せられた石を川の端に放り込む。
もともと冷たくはない水が適度に温められ、白い湯気がふわりとあがる。
「今日は特に良い感じだったわ」
飼い主の特権として最初に返り血と汗を流した後、鎧は身につけない。
「特にお前とお前」
猛々しくも上機嫌なエーテルがセニャを背後から照らす。
凶悪な人外にすら見えるが飼い犬達は上機嫌に尻尾を振っている。
彼等にとって、うまれたときから主が目の前の生き物なので強いのが当たり前で心強さと安心感しか感じない。
口に残る魔獣の血の香りと腹にずしりとする魔獣の肉にも幸せを感じている。
「新しい部下のペットとして推薦してあげる。それと」
大型犬用のタオルやブラシを両手に構え、セニャは白い歯を見せてにやりと笑う。
「たっぷり手入れしてあげるわ」
2頭の尻尾は残像が生じるほど高速化していた。
●
「代官殿あなた何してるんですか?」
帝国軍部隊長は冷や汗を浮かべている。
狼の群れを引き連れた不審者が出たと通報を受け、メドゥの指先の幹部を覚悟して出動したら知った顔だ。
1度遠目で見たことがあるだけだが、陽光できらめく桃髪と獰猛なオッドアイは印象的で見間違えようがない。
「休暇よ」
セニャはとんでもない速度で狼と追いかけっこをしている。
ときどき投擲される大型ボールは、セニャと老練な狼についていけない若狼に対するサービスだ。
「いや休暇て。……このあたりも統治されるので?」
部隊長は出身が近くの村なので期待を隠せない。
このあたりは統治がうまくいっていないのだ。
「だから休暇だって」
乱れた髪を整えようとしたタイミングで老狼が体当たりをしかける。
セニャは目も向けず両手で捕らえて持ち上げ、持ち上げられた狼は子犬のように楽しそうにしていた。
「またまた」
部隊長は信じていない。
この代官の野心は広く知られている。
功績を稼ぐ機会を逃すことなどあり得ないはずだ。
(という感じで思っているのでしょうけど、メアリー王女が帝国入りする前に店仕舞いを終えないと私がどんな目にあうか……)
世間の評価よりも野心は強いがセニャは慎重でもある。
王女と共に帝国入りするだろう人材相手に有利に戦えるとは思わない。
なお、セニャは王女が持つ異能について知らない。
それらの人材が王女の指揮で動いたとき己がどれほど追い詰められるかの推測は非常に甘かった。
「私が手を出すと縄張り荒らしになってしまうわ。紹介はするから冒険者ギルドに依頼するのはどうかしら」
狼と遊びながらのセニャの提案に、部隊長は悩んだ末にうなずくのだった。
●
「帝国での戦闘依頼ですね」
冒険者ギルドで受付嬢が依頼の説明をしている。
「都市郊外の見回りをして魔獣とかクリーパーとかに会ったら倒して欲しいという依頼なんですが」
依頼人は都市駐留中の帝国軍部隊。
都市に赴任中の代官は頑張ってはいるが運営は順調でなく、部隊の規模と懐具合はそれ以上に苦しい。
「現在都市の近くに高位……多分高位? の授恵者が滞在中です」
1対1なら冒険者相手に戦闘が成立するほど強く、しかしそれは通常時だ。
仕事を離れて全力でストレス解消中の彼女は、多分あんまり役に立たない。
「本人は気が抜けているかもしれませんが飼っている狼達は元気いっぱいです。戦うのはとても有利な状況じゃないと危険ですけど、魔獣を探して案内するくらいならしてくれると思います!」
大柄な狼ではあるが魔獣ですらない普通の生き物だ。
しかし訓練された鼻と走りは使いようによっては役に立つ。
「色々言いましたけど、あんまり強くない魔獣を狩ったり狼と遊んだり調理とかできる依頼です。皆さんの実力なら半分以上バカンスになるとは思いますが、頑張ってください!」
受付嬢は羨ましさを隠せない顔で説明を終えた。
荒野を吹く風は故郷と違うにおいがした。
速度は時速50km以上である。
長い桃髪は浮かび上がり長いまつげにも埃が付着する。
物理的には不愉快ですらあるが、本人を除けば無人の荒野を駆けるのは非常に楽しい。
ここには陳情に来る帝国貴族も、あくどい取引を持ちかけてくる商家もいないので気が楽だ。
魔獣がいた。
気配も臭いも明らかに肉食なそれは、戦士としては小柄なセニャを獲物と認識して近づいて来る。
「あらご立派」
速度を緩めて細剣を抜く。
久々の二刀流は格の上昇相応に威力と鋭さを増し、馬の魔獣を3度深く穿って重傷を負わせる。
馬が怒り狂う。
なのにセニャは平然と無視して走り去る。
馬は愕然とし、直後に怒りに震える。
これほど舐められたのはうまれてから初めてだ。
憤怒が傷ついた体に力を与え、かつてない高速で獲物を追いかける。
なのに追いつけない。
息が乱れ、激しく動き続けた結果出血が続いた結果、走るどころか歩くことも難しくなる。
わん!
わんわん!!
いつの間にか忍び寄っていたピンク首輪の狼達が包囲を完了し、馬の脚へ不意討ちをかけた。
●
「そーれ!」
赤く熱せられた石を川の端に放り込む。
もともと冷たくはない水が適度に温められ、白い湯気がふわりとあがる。
「今日は特に良い感じだったわ」
飼い主の特権として最初に返り血と汗を流した後、鎧は身につけない。
「特にお前とお前」
猛々しくも上機嫌なエーテルがセニャを背後から照らす。
凶悪な人外にすら見えるが飼い犬達は上機嫌に尻尾を振っている。
彼等にとって、うまれたときから主が目の前の生き物なので強いのが当たり前で心強さと安心感しか感じない。
口に残る魔獣の血の香りと腹にずしりとする魔獣の肉にも幸せを感じている。
「新しい部下のペットとして推薦してあげる。それと」
大型犬用のタオルやブラシを両手に構え、セニャは白い歯を見せてにやりと笑う。
「たっぷり手入れしてあげるわ」
2頭の尻尾は残像が生じるほど高速化していた。
●
「代官殿あなた何してるんですか?」
帝国軍部隊長は冷や汗を浮かべている。
狼の群れを引き連れた不審者が出たと通報を受け、メドゥの指先の幹部を覚悟して出動したら知った顔だ。
1度遠目で見たことがあるだけだが、陽光できらめく桃髪と獰猛なオッドアイは印象的で見間違えようがない。
「休暇よ」
セニャはとんでもない速度で狼と追いかけっこをしている。
ときどき投擲される大型ボールは、セニャと老練な狼についていけない若狼に対するサービスだ。
「いや休暇て。……このあたりも統治されるので?」
部隊長は出身が近くの村なので期待を隠せない。
このあたりは統治がうまくいっていないのだ。
「だから休暇だって」
乱れた髪を整えようとしたタイミングで老狼が体当たりをしかける。
セニャは目も向けず両手で捕らえて持ち上げ、持ち上げられた狼は子犬のように楽しそうにしていた。
「またまた」
部隊長は信じていない。
この代官の野心は広く知られている。
功績を稼ぐ機会を逃すことなどあり得ないはずだ。
(という感じで思っているのでしょうけど、メアリー王女が帝国入りする前に店仕舞いを終えないと私がどんな目にあうか……)
世間の評価よりも野心は強いがセニャは慎重でもある。
王女と共に帝国入りするだろう人材相手に有利に戦えるとは思わない。
なお、セニャは王女が持つ異能について知らない。
それらの人材が王女の指揮で動いたとき己がどれほど追い詰められるかの推測は非常に甘かった。
「私が手を出すと縄張り荒らしになってしまうわ。紹介はするから冒険者ギルドに依頼するのはどうかしら」
狼と遊びながらのセニャの提案に、部隊長は悩んだ末にうなずくのだった。
●
「帝国での戦闘依頼ですね」
冒険者ギルドで受付嬢が依頼の説明をしている。
「都市郊外の見回りをして魔獣とかクリーパーとかに会ったら倒して欲しいという依頼なんですが」
依頼人は都市駐留中の帝国軍部隊。
都市に赴任中の代官は頑張ってはいるが運営は順調でなく、部隊の規模と懐具合はそれ以上に苦しい。
「現在都市の近くに高位……多分高位? の授恵者が滞在中です」
1対1なら冒険者相手に戦闘が成立するほど強く、しかしそれは通常時だ。
仕事を離れて全力でストレス解消中の彼女は、多分あんまり役に立たない。
「本人は気が抜けているかもしれませんが飼っている狼達は元気いっぱいです。戦うのはとても有利な状況じゃないと危険ですけど、魔獣を探して案内するくらいならしてくれると思います!」
大柄な狼ではあるが魔獣ですらない普通の生き物だ。
しかし訓練された鼻と走りは使いようによっては役に立つ。
「色々言いましたけど、あんまり強くない魔獣を狩ったり狼と遊んだり調理とかできる依頼です。皆さんの実力なら半分以上バカンスになるとは思いますが、頑張ってください!」
受付嬢は羨ましさを隠せない顔で説明を終えた。
解説
●目的
馬魔獣や牛魔獣を狩ったりキャンプしたりすること
●場所
地平線の近くに都市が見える荒野
綺麗な水が流れる川が近くにあります
●獲物
残念ですが飼い慣らすことはできません
大きさは普通の獣サイズです
魔獣としては弱く、初依頼の冒険者でも戦い方次第で単独討伐可能です
・馬魔獣
魔法的攻撃は一切使えませんが、なかなかの頑丈さと強烈な体当たりと何より高速(移動5)を兼ね備えた魔獣です
都市と近くの村を結ぶ道に現れ、人間側に何度も被害を与えてきました
セニャと狼が1頭倒してはいますが後2頭います
警戒して2頭一緒に行動しています。狼に対する怒りと恨みが強く、誘き寄せにとても引っかかり易いです
・牛魔獣
川に水を飲みに来ます
直接人間や家畜を害すことは基本的にありませんが、大量に草を食べるので地元の方達には忌避されています
頑丈ですが脚は遅い(移動2)です
1頭ずつ最大2頭登場します
●他
・狼
セニャの飼い狼達です
正面から魔獣と戦える強さはありませんが、偵察や弱った相手への止めは担当可能です
20頭近くいてピンクの首輪が目立ちます
飼い主と遊べてテンションが上がりまくっているので余計なことをする可能性があります
・セニャ
ストレスが溜まりまくったので休暇をとった帝国代官
マジカルポケットには鉄製の大箱が入っていて、高温の石などが詰め込まれています
他に野営道具やペット用品も持ち込んではいますが、狼達の面倒を見るためにかなり消費してしまっています
普段より戦闘力が上昇し考える力が低下しています
・帝国軍部隊指揮官
セニャをこの地域の復興事業に巻き込みたいなぁと思っています
部下と共に治安維持や街の防衛に奔走しているため、冒険者が増援を要請しても応えられません
マスターより
判断に迷ったときは難易度を参照してください
【再起】は今回を含めて後3回で終了予定です
リプレイ
●
「セニャ、一緒に魔獣退治に行かないか? 退治した後に一緒に休暇を楽しもう」
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトは驚いている。
普段は成人にも見える婚約者がストレスから解き放たれて若々しく見える。
彼女の香りも温かさも知るアルベルトは、少し興奮してもいた。
だがそんな興奮も近くの物音で萎えていく。
アルベルトのにおいを嗅いでは困惑したり彼の周囲をぐるぐる回ったりしている狼達が非常に鬱陶しい。
「休暇と言っているならその通りなのだ。誰にだってストレスは溜まるもの。休まなければ高位授恵者も壊れてしまうものだ」
シリアス顔で語るストレガ・L・リベルガストラは包丁刀の状態を確認している。
ストレガほどの使い手から見れば、今回の敵は敵というより食材だ。
油断はしないが、仕留め方を選んで問題ないほど力の差がある。
「なあセニャ。この狼達、俺と何度も会ってるよな?」
「アルベルト、記憶力や頭の良い子ばかりじゃないの。……指揮をお願いできる?」
「うむ」
ストレガが構えた杖は明らかに雰囲気が違う。
狼達は戦いの気配を察してシリアスな雰囲気になる。
「アルベルト殿の強さは承知しているが今日は抑えて欲しいのだ」
ストレガは、荒野からこちら突撃して来る馬を静かにみつめる。
「意図は分かるがいいのか?」
調理の心得もあるアルベルトは、従うつもりはあるが戸惑いもある。
「これをするとかなり違うのだ」
ストレガは簡素な詠唱で不可視の力場を発生させる。
重さと速さを兼ね備えていた馬の勢いが急速に衰え、さらに1体に大蛇のごときエーテルが絡みつき移動を封じる。
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは何やら考え込んではいる。
数秒後、丁度良いタイミングで膨大な炎が檻を思わせる形で噴き上がる。
瞬く間に形作られた檻は、それまでかなりの高速だった馬を低速でしか移動できなくさせる。
「相変わらず見事ね」
感嘆しながらセニャが駆け出しまだ辛うじて移動はできる1体に接敵する。
挑発スキルなどは持っていないが、狼の臭いが付着しているので挑発の効果は十分以上だ。
「馬魔獣! 貴様を斬る!」
アルベルトは早くはないが速い。
装備の重さを感じさせない速度と歩幅でセニャの隣へたどり着き、騎士というより調理人の目で観察と判断を行う。
(内臓を避けて……こうか?)
千鳥雷切斬を使うと肉はもちろん骨まで粉微塵になって吹き飛びかねないのでただの斬撃だ。
それでも、多くの骨と血管を一太刀で切断し致命傷を与える威力は十分にある。
馬の苦しみは短い時間で済んだ。
「攻撃術で綺麗に仕留めるのは難しいのだ」
ストレガはエーテルを高速で収束させて爆発を引き起こす。
生じた豪風は、ストレガの狙い通りに馬の近くを抉って馬を強く警戒させ死神から意識を逸らさせる。
セニャはストレガの指示通りに魔獣の首を刺す。
そこからは戦闘ではなく、肉の鮮度を可能な限り保って解体するための作業であった。
●
「みんなげんきだねー……」
アルマ・ヴァレンタインはセニャ達を見送っていた。
テンションが上がり過ぎた狼達が余計なことしそうで放置できないのだ。
「ごはんは戦いが終わってからだよー……」
狼が大人しくしているのは動物交感による意思疎通の精度向上もあるが、主とアルマの関係が対等かつ一応友好的なのに加えてアルマが癒やす存在であることに本能的に気付いているからだ。
「おやつは食事が終わってから、だよー……」
身長1メートルのアルマが狼用ブラシを使うのは、結構な大変だった。
●
「やはりセニャ様でしたね」
ぺこりと頭を下げる狼に軽くうなずき返し、フリーダ=ブロムヴィストは初めての土地を馴れた動きで進む。
「啓示によると『ここでテコ入れしても特に短縮は見込めないので、スルーするー』との事……。そういうことなのでしょうね」
セニャにとっての大イベントにも帝国全体の未来にも直接は影響しないということだろう。
「まずは邪魔者を排除しないといけませんね」
これは依頼であるし、大勢に影響がないとしても住んでいる者の危機を無視するつもりはない。
ぶもぅっ、と牛が必死に威嚇しても元村娘現凄腕冒険者には通じない。
都市から川沿いに高速移動してきたフリーダは疲れを感じさせない動きで進路を変え剣も鞘から抜く。
牛が攻撃しても音すら鳴らず、逃げてもフリーダの方が速い。
「……後片付けは皆さんの手を借りましょうか」
脚部を一撃で破壊した後は胴下部に当たり易い位置へ移動し攻撃を続行。
魔獣が瀕死から死亡に移行してもフリーダは油断せず、油断しないまま見回りの狼を呼び寄せた。
●
ベルク・オスマットの速度には狼も追いつけない。
茂みや複雑な地形なら追いつくだけなら可能だったかもしれないが、ベルクは極めて高度な波系スキルを使いこなせるので危険な地形に侵入する必要がないのだ。
「牛の魔獣かそれ以外かは知らんが大きさは十分か」
狩りと料理の技術はもちろん道具の準備も万全だ。
追って来る狼にも必要な道具を運ばせている。
「……今夜の晩御飯が決まったな」
獣が茂みから出た瞬間に急加速して襲いかかる。
四肢を骨ごと両断する苛烈な調理法にまだ遠くの狼は大受けだ。
「内臓はくれてやる。血は運んでいる間に抜ける……よな大部分は」
指示を出さないと馬鹿狼達を何度も叱りつけながら指示を出し、ベルクは頭と胴体部分をくくり付けたソリを狼達に牽かせるのだった。
●
「遅いよー!」
薄暗くなってもティトの走りには危なげがない。
暗視能力を持つだけでなく運も実力もあるからだ。
「牛だよね?」
わん……とティトについてきた狼が自信なさげに鳴く。
「ティト、無理はいけませんよ」
セロンガード・シュタインドルフは飛び抜けて速いティトと比べれば遅いとはいえ速さも武力もあるし何より目が良い。
(牛に見えますが魔獣というより……。少なくともクリーパーではないようですが)
狼に挑発され目の血走り加減が酷い牛が1頭、川の上流に近付いている。
衛生的にも安全的にも放置はできない。
「つーん、だよ」
ティトは少し拗ねているし甘えてもいる。
セロンガードは数ヶ月間も消息不明だったのだ。
機嫌を直すには少々の時間や行動では足りない。少なくともティトにとっては。
「害獣以上魔獣以下」
「うん」
セロンガードからの情報は素直に聞いて、ティトはさらに加速する。
(……これは持ち帰れない、よ)
草食なので血肉は食べていないだろうがこの気配は明らかに人を殺した後だ。
ちらりと狼達を見ると、視線ではなく気配を察して牛の退路を潰す位置へ駆けていく。
ティトの両手の短剣がリズミカルに斬撃を繰り出す。
「仕上げ、だよ」
攻撃の頻度は落とし刃に込めるエーテルの密度は上げて、回避を妨げるためでもある一撃を後ろ脚に浴びせる。
(ティトの機嫌を直すのは大変そうですね)
セロンガードは必要だったとはいえしばらく連絡を入れなかったのは事実だ。
今回は特に力を入れる必要がありそうだ。
「仕掛けます」
矢を放つ。
物理的にも強力だが最も危険なのは先端部に収束したエーテルだ。
着弾の瞬間炸裂し、ティトが乱した体勢をさらに大きく崩す。
ティトが右脚狙いの一撃離脱を仕掛けた直後に左狙いで狼が仕掛け無理せず後退。
「もう1度!」
ティト達は味方を1頭も傷つけず、厄介な害獣を倒したのだった。
●
川辺の一画の縄張りを主張するかのように、大きな骨と皮とで作られた目印がいくつも配置されている。
「肉だけでは足りないのだ」
食欲をそそる香りに釣られたり正式に招待されたりした帝国軍兵士の数は部隊規模だ。
ストレガは肉料理中心は早々に諦め、肉と脂で味と風味を増し増しにした芋料理中心に切り替える。
骨と屑野菜を煮込んで味を出したスープに、生姜や大蒜で味付けた獣肉と野菜の組み合わせは魅惑的だ。
ワインで煮込む肉は冒険者と指揮官級用になってしまうが量に限りがあるから仕方がない。
「生活必需品になるのでこれは駄目なのだ」
狼を肉と骨から追い払い、代わりに頑張って洗った内臓の一部を与えていた。
「セニャ、レイウェスト殿下はリザードマンとヒューマンの混血らしい。それでもセニャはレイウェスト殿下に忠誠を誓う俺に付いてきてくれるか?」
シリアス顔で言うアルベルトに、セニャはまず困惑し、次に驚き、最終的に頭痛に襲われたかのように自身の眉間を揉んだ。
「付き合いはするけどね。これまで流れていた噂よりずっとマシだし」
「セニャ、それはいくらなんでも不敬だ」
「そう言われても貴方に対する情はあっても帝国自体にはないもの。レイウェスト皇子と同程度の候補がいるならそちらを担ぐよう勧めるけどそういうのはいないでしょ?」
セニャは悪い意味でも良い意味も保守的で超越者的価値観とは無縁だ。
(忠誠心とも無縁じゃろうがな)
ベルクは宴に紛れている。
目立つ2人とは対照的に、力も気配も周囲にあわせて溶け込んでいる。
(人の夢とかいて儚いと読むという土地もあるらしい。今くらいは好きに振る舞うのもよかろう)
セニャに向ける目は生暖かい。
彼女は目立ちすぎた。
各国の諜報網に確実に捕捉されているだろうし、能力も把握されているだろう。
つまり首輪と足枷をつけて馬車馬のように働かせようとする者も使い捨ての駒として使おうとする者もいるはずだ。
寄り添う桃髪とピンク髪に杯を上げ、ベルクは静かに飲み干した。
「ねえ分かる? 分からないとは言わせないわよ」
「はいはい、愚痴くらい聞くから」
アウレーリアとセニャは出身国は違うがどちらも武闘派な伯爵令嬢だ。
刎頸の友にも不倶戴天の敵にもなれる水準でお互いを理解できてしまう。
「私もセニャの後を継いで、出張復興業やってみようかしらねー。安全保障の範囲内で、近隣空き領の代理統治をやってはいるけれど土地求めて入ってくる王国人に取られるくらいなら……」
「そういうのはもともと断られているはずよ」
「重々承知しておられるでしょうが解禁前に冒険者をスカウトするのは無理です」
婚約者を置いて来たセニャと妙に腰の低い現地代官がアウレーリアの相手をしている。
「引き渡すにしても、仲の良いお友達を選んで譲り渡せる純帝国人の私の方が、セニャよりは通りが良いと思うのですけどぉ」
「時期が悪かったわね」
「王国はうまくやりましたなぁ」
はははと乾いた声が複数重なる。
骨となった牛と保存に向かない肉を生のまま食べている飼い狼を順番に眺め、アウレーリアは弱肉強食の末路に侘び寂びを感じ多少は気力を回復させる。
「地縁は役立つけど、この祖国は沈む船。少なくとも、他人にとやかく言われたくない者には辛い国になるわ。安住の地は自分で築かなければ、地図から消えてく一方。土地も人も今のうちに集められるだけ集めなきゃ。……貴女もいつか、嫌になったらうちへお出でなさいな。能力は保証済、人には逃げ場が必要よ?」
アウレーリアは酒に酔ったふりと冗談を言っているふりをしているが目は冷たいほど冷静だ。
「ありがとう。逃げずに済めばいいんだけどね」
セニャはスープをひと匙味わい、大きなため息をついた。
そんなセニャに密着取材している冒険者がいる。
「いつぞやの某舞台は大盛況だったしー……」
目の前の光景を写し取るスキルはなくても高位授恵者としての能力の高さはある。
アルマの筆が高速で動く度にメモ帳の中にリアリティのあるセニャが描き込まれる。
「アルマー?」
常人なら泣くか気絶するほどの殺気が飛んで来てもアルマは動じない。
腹を見せて服従の姿勢を見せる狼の隣に腰を下ろし、何枚目になるか分からないスケッチにとりかかる。
「次回作を作る機会があったときのためにー……。セニャさんの休日、の様子も要チェック! しとかないとだねー!!」
これだけやって口で文句を言われる程度ですむくらい、アルマの肝っ玉とセニャから評価は特大であった。
「どこも苦しいですな」
セロンガードから話を聞いた帝国軍部隊指揮官は、部下に見られないよう注意しながら渋い表情になる。
「少し治安維持や街の防衛手伝いをしてから帰るつもりです」
セロンガードがそう言うと、指揮官は救われた表情になり秘蔵の酒を勧めようとした。
「なにしてる、の?」
ティトがふわりとセロンガードの隣に寄り添う。
以前よりほんの少し大人びたティトが着ているのは、帝国に所縁のある衣類をシャルガネの羽織風に仕立て直した装束だ。
高性能な武器2つを腰に下げると非常に調和がとれて、製作者の技術とセンスの良さが問答無用で実感できる。
だがそれよりも強烈なのはしなやかな所作であり仄かに赤くなった白い肌だ。
セロンガードと並んでも庇護対象には見えず、指揮官が「邪魔をして申し訳ない」と退散してしまうほど釣り合いがとれている。
冒険者以外もそれで気付きセロンガードに嫉妬の視線が集中する。
うまく誤魔化す方向が見つからず、彼は珍しく単純に咳払いしていた。
「んふふー」
ティトはにんまりと笑う。
少しだけ普段の印象に近付いたが素敵な淑女という印象は変わらない。
「セニアーラに飼い狼たちのことお願いされたんだよ」
婚約者と仲良くしたいとかの、個人的な理由での依頼だ。
「一緒にいこ?」
ティトが連れてきた狼達は大人しく伏せている。
白い狐尻尾を上機嫌に動かすティトの近くで騒いだらどうなるか本能で理解している。
セロンガードは彼としては本当に珍しく緊張して、ティトのエスコートをするのだった。
●
「皆さん活動的ですね」
フリーダは休暇をゆるゆると楽しんでいる。
あんたがそれを言うんですかい、という顔を対面の人間がしている。
「最近のセニャ様の活動はどうでしょう」
守秘義務に触れない範囲でいいですよと、適当な話題に混ぜて聞いてみる。
なお、返事は勘弁して下さいという表情だ。
「なるほど。ありがとうございます」
フリーダは宴の雰囲気と街が出してくれた茶を楽しむのと並行して思索にふける。
(この地域に関わるのも無意味ではないですが、セニャ様が影響力を手放す際に起きるだろうトラブルの方が重要ですね)
啓示っぽいものを受信し続けたせいか本人の知的鍛錬の結果かは分からないが、フリーダの知性は高位授恵者そのものだ。
「巡り巡って啓示による『短縮要素』に繋がるかもしれませんね」
混乱が長引くほど犠牲者が増えることを知る彼女は、次の冒険で何をすべきか考えていた。
「セニャ、一緒に魔獣退治に行かないか? 退治した後に一緒に休暇を楽しもう」
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトは驚いている。
普段は成人にも見える婚約者がストレスから解き放たれて若々しく見える。
彼女の香りも温かさも知るアルベルトは、少し興奮してもいた。
だがそんな興奮も近くの物音で萎えていく。
アルベルトのにおいを嗅いでは困惑したり彼の周囲をぐるぐる回ったりしている狼達が非常に鬱陶しい。
「休暇と言っているならその通りなのだ。誰にだってストレスは溜まるもの。休まなければ高位授恵者も壊れてしまうものだ」
シリアス顔で語るストレガ・L・リベルガストラは包丁刀の状態を確認している。
ストレガほどの使い手から見れば、今回の敵は敵というより食材だ。
油断はしないが、仕留め方を選んで問題ないほど力の差がある。
「なあセニャ。この狼達、俺と何度も会ってるよな?」
「アルベルト、記憶力や頭の良い子ばかりじゃないの。……指揮をお願いできる?」
「うむ」
ストレガが構えた杖は明らかに雰囲気が違う。
狼達は戦いの気配を察してシリアスな雰囲気になる。
「アルベルト殿の強さは承知しているが今日は抑えて欲しいのだ」
ストレガは、荒野からこちら突撃して来る馬を静かにみつめる。
「意図は分かるがいいのか?」
調理の心得もあるアルベルトは、従うつもりはあるが戸惑いもある。
「これをするとかなり違うのだ」
ストレガは簡素な詠唱で不可視の力場を発生させる。
重さと速さを兼ね備えていた馬の勢いが急速に衰え、さらに1体に大蛇のごときエーテルが絡みつき移動を封じる。
アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは何やら考え込んではいる。
数秒後、丁度良いタイミングで膨大な炎が檻を思わせる形で噴き上がる。
瞬く間に形作られた檻は、それまでかなりの高速だった馬を低速でしか移動できなくさせる。
「相変わらず見事ね」
感嘆しながらセニャが駆け出しまだ辛うじて移動はできる1体に接敵する。
挑発スキルなどは持っていないが、狼の臭いが付着しているので挑発の効果は十分以上だ。
「馬魔獣! 貴様を斬る!」
アルベルトは早くはないが速い。
装備の重さを感じさせない速度と歩幅でセニャの隣へたどり着き、騎士というより調理人の目で観察と判断を行う。
(内臓を避けて……こうか?)
千鳥雷切斬を使うと肉はもちろん骨まで粉微塵になって吹き飛びかねないのでただの斬撃だ。
それでも、多くの骨と血管を一太刀で切断し致命傷を与える威力は十分にある。
馬の苦しみは短い時間で済んだ。
「攻撃術で綺麗に仕留めるのは難しいのだ」
ストレガはエーテルを高速で収束させて爆発を引き起こす。
生じた豪風は、ストレガの狙い通りに馬の近くを抉って馬を強く警戒させ死神から意識を逸らさせる。
セニャはストレガの指示通りに魔獣の首を刺す。
そこからは戦闘ではなく、肉の鮮度を可能な限り保って解体するための作業であった。
●
「みんなげんきだねー……」
アルマ・ヴァレンタインはセニャ達を見送っていた。
テンションが上がり過ぎた狼達が余計なことしそうで放置できないのだ。
「ごはんは戦いが終わってからだよー……」
狼が大人しくしているのは動物交感による意思疎通の精度向上もあるが、主とアルマの関係が対等かつ一応友好的なのに加えてアルマが癒やす存在であることに本能的に気付いているからだ。
「おやつは食事が終わってから、だよー……」
身長1メートルのアルマが狼用ブラシを使うのは、結構な大変だった。
●
「やはりセニャ様でしたね」
ぺこりと頭を下げる狼に軽くうなずき返し、フリーダ=ブロムヴィストは初めての土地を馴れた動きで進む。
「啓示によると『ここでテコ入れしても特に短縮は見込めないので、スルーするー』との事……。そういうことなのでしょうね」
セニャにとっての大イベントにも帝国全体の未来にも直接は影響しないということだろう。
「まずは邪魔者を排除しないといけませんね」
これは依頼であるし、大勢に影響がないとしても住んでいる者の危機を無視するつもりはない。
ぶもぅっ、と牛が必死に威嚇しても元村娘現凄腕冒険者には通じない。
都市から川沿いに高速移動してきたフリーダは疲れを感じさせない動きで進路を変え剣も鞘から抜く。
牛が攻撃しても音すら鳴らず、逃げてもフリーダの方が速い。
「……後片付けは皆さんの手を借りましょうか」
脚部を一撃で破壊した後は胴下部に当たり易い位置へ移動し攻撃を続行。
魔獣が瀕死から死亡に移行してもフリーダは油断せず、油断しないまま見回りの狼を呼び寄せた。
●
ベルク・オスマットの速度には狼も追いつけない。
茂みや複雑な地形なら追いつくだけなら可能だったかもしれないが、ベルクは極めて高度な波系スキルを使いこなせるので危険な地形に侵入する必要がないのだ。
「牛の魔獣かそれ以外かは知らんが大きさは十分か」
狩りと料理の技術はもちろん道具の準備も万全だ。
追って来る狼にも必要な道具を運ばせている。
「……今夜の晩御飯が決まったな」
獣が茂みから出た瞬間に急加速して襲いかかる。
四肢を骨ごと両断する苛烈な調理法にまだ遠くの狼は大受けだ。
「内臓はくれてやる。血は運んでいる間に抜ける……よな大部分は」
指示を出さないと馬鹿狼達を何度も叱りつけながら指示を出し、ベルクは頭と胴体部分をくくり付けたソリを狼達に牽かせるのだった。
●
「遅いよー!」
薄暗くなってもティトの走りには危なげがない。
暗視能力を持つだけでなく運も実力もあるからだ。
「牛だよね?」
わん……とティトについてきた狼が自信なさげに鳴く。
「ティト、無理はいけませんよ」
セロンガード・シュタインドルフは飛び抜けて速いティトと比べれば遅いとはいえ速さも武力もあるし何より目が良い。
(牛に見えますが魔獣というより……。少なくともクリーパーではないようですが)
狼に挑発され目の血走り加減が酷い牛が1頭、川の上流に近付いている。
衛生的にも安全的にも放置はできない。
「つーん、だよ」
ティトは少し拗ねているし甘えてもいる。
セロンガードは数ヶ月間も消息不明だったのだ。
機嫌を直すには少々の時間や行動では足りない。少なくともティトにとっては。
「害獣以上魔獣以下」
「うん」
セロンガードからの情報は素直に聞いて、ティトはさらに加速する。
(……これは持ち帰れない、よ)
草食なので血肉は食べていないだろうがこの気配は明らかに人を殺した後だ。
ちらりと狼達を見ると、視線ではなく気配を察して牛の退路を潰す位置へ駆けていく。
ティトの両手の短剣がリズミカルに斬撃を繰り出す。
「仕上げ、だよ」
攻撃の頻度は落とし刃に込めるエーテルの密度は上げて、回避を妨げるためでもある一撃を後ろ脚に浴びせる。
(ティトの機嫌を直すのは大変そうですね)
セロンガードは必要だったとはいえしばらく連絡を入れなかったのは事実だ。
今回は特に力を入れる必要がありそうだ。
「仕掛けます」
矢を放つ。
物理的にも強力だが最も危険なのは先端部に収束したエーテルだ。
着弾の瞬間炸裂し、ティトが乱した体勢をさらに大きく崩す。
ティトが右脚狙いの一撃離脱を仕掛けた直後に左狙いで狼が仕掛け無理せず後退。
「もう1度!」
ティト達は味方を1頭も傷つけず、厄介な害獣を倒したのだった。
●
川辺の一画の縄張りを主張するかのように、大きな骨と皮とで作られた目印がいくつも配置されている。
「肉だけでは足りないのだ」
食欲をそそる香りに釣られたり正式に招待されたりした帝国軍兵士の数は部隊規模だ。
ストレガは肉料理中心は早々に諦め、肉と脂で味と風味を増し増しにした芋料理中心に切り替える。
骨と屑野菜を煮込んで味を出したスープに、生姜や大蒜で味付けた獣肉と野菜の組み合わせは魅惑的だ。
ワインで煮込む肉は冒険者と指揮官級用になってしまうが量に限りがあるから仕方がない。
「生活必需品になるのでこれは駄目なのだ」
狼を肉と骨から追い払い、代わりに頑張って洗った内臓の一部を与えていた。
「セニャ、レイウェスト殿下はリザードマンとヒューマンの混血らしい。それでもセニャはレイウェスト殿下に忠誠を誓う俺に付いてきてくれるか?」
シリアス顔で言うアルベルトに、セニャはまず困惑し、次に驚き、最終的に頭痛に襲われたかのように自身の眉間を揉んだ。
「付き合いはするけどね。これまで流れていた噂よりずっとマシだし」
「セニャ、それはいくらなんでも不敬だ」
「そう言われても貴方に対する情はあっても帝国自体にはないもの。レイウェスト皇子と同程度の候補がいるならそちらを担ぐよう勧めるけどそういうのはいないでしょ?」
セニャは悪い意味でも良い意味も保守的で超越者的価値観とは無縁だ。
(忠誠心とも無縁じゃろうがな)
ベルクは宴に紛れている。
目立つ2人とは対照的に、力も気配も周囲にあわせて溶け込んでいる。
(人の夢とかいて儚いと読むという土地もあるらしい。今くらいは好きに振る舞うのもよかろう)
セニャに向ける目は生暖かい。
彼女は目立ちすぎた。
各国の諜報網に確実に捕捉されているだろうし、能力も把握されているだろう。
つまり首輪と足枷をつけて馬車馬のように働かせようとする者も使い捨ての駒として使おうとする者もいるはずだ。
寄り添う桃髪とピンク髪に杯を上げ、ベルクは静かに飲み干した。
「ねえ分かる? 分からないとは言わせないわよ」
「はいはい、愚痴くらい聞くから」
アウレーリアとセニャは出身国は違うがどちらも武闘派な伯爵令嬢だ。
刎頸の友にも不倶戴天の敵にもなれる水準でお互いを理解できてしまう。
「私もセニャの後を継いで、出張復興業やってみようかしらねー。安全保障の範囲内で、近隣空き領の代理統治をやってはいるけれど土地求めて入ってくる王国人に取られるくらいなら……」
「そういうのはもともと断られているはずよ」
「重々承知しておられるでしょうが解禁前に冒険者をスカウトするのは無理です」
婚約者を置いて来たセニャと妙に腰の低い現地代官がアウレーリアの相手をしている。
「引き渡すにしても、仲の良いお友達を選んで譲り渡せる純帝国人の私の方が、セニャよりは通りが良いと思うのですけどぉ」
「時期が悪かったわね」
「王国はうまくやりましたなぁ」
はははと乾いた声が複数重なる。
骨となった牛と保存に向かない肉を生のまま食べている飼い狼を順番に眺め、アウレーリアは弱肉強食の末路に侘び寂びを感じ多少は気力を回復させる。
「地縁は役立つけど、この祖国は沈む船。少なくとも、他人にとやかく言われたくない者には辛い国になるわ。安住の地は自分で築かなければ、地図から消えてく一方。土地も人も今のうちに集められるだけ集めなきゃ。……貴女もいつか、嫌になったらうちへお出でなさいな。能力は保証済、人には逃げ場が必要よ?」
アウレーリアは酒に酔ったふりと冗談を言っているふりをしているが目は冷たいほど冷静だ。
「ありがとう。逃げずに済めばいいんだけどね」
セニャはスープをひと匙味わい、大きなため息をついた。
そんなセニャに密着取材している冒険者がいる。
「いつぞやの某舞台は大盛況だったしー……」
目の前の光景を写し取るスキルはなくても高位授恵者としての能力の高さはある。
アルマの筆が高速で動く度にメモ帳の中にリアリティのあるセニャが描き込まれる。
「アルマー?」
常人なら泣くか気絶するほどの殺気が飛んで来てもアルマは動じない。
腹を見せて服従の姿勢を見せる狼の隣に腰を下ろし、何枚目になるか分からないスケッチにとりかかる。
「次回作を作る機会があったときのためにー……。セニャさんの休日、の様子も要チェック! しとかないとだねー!!」
これだけやって口で文句を言われる程度ですむくらい、アルマの肝っ玉とセニャから評価は特大であった。
「どこも苦しいですな」
セロンガードから話を聞いた帝国軍部隊指揮官は、部下に見られないよう注意しながら渋い表情になる。
「少し治安維持や街の防衛手伝いをしてから帰るつもりです」
セロンガードがそう言うと、指揮官は救われた表情になり秘蔵の酒を勧めようとした。
「なにしてる、の?」
ティトがふわりとセロンガードの隣に寄り添う。
以前よりほんの少し大人びたティトが着ているのは、帝国に所縁のある衣類をシャルガネの羽織風に仕立て直した装束だ。
高性能な武器2つを腰に下げると非常に調和がとれて、製作者の技術とセンスの良さが問答無用で実感できる。
だがそれよりも強烈なのはしなやかな所作であり仄かに赤くなった白い肌だ。
セロンガードと並んでも庇護対象には見えず、指揮官が「邪魔をして申し訳ない」と退散してしまうほど釣り合いがとれている。
冒険者以外もそれで気付きセロンガードに嫉妬の視線が集中する。
うまく誤魔化す方向が見つからず、彼は珍しく単純に咳払いしていた。
「んふふー」
ティトはにんまりと笑う。
少しだけ普段の印象に近付いたが素敵な淑女という印象は変わらない。
「セニアーラに飼い狼たちのことお願いされたんだよ」
婚約者と仲良くしたいとかの、個人的な理由での依頼だ。
「一緒にいこ?」
ティトが連れてきた狼達は大人しく伏せている。
白い狐尻尾を上機嫌に動かすティトの近くで騒いだらどうなるか本能で理解している。
セロンガードは彼としては本当に珍しく緊張して、ティトのエスコートをするのだった。
●
「皆さん活動的ですね」
フリーダは休暇をゆるゆると楽しんでいる。
あんたがそれを言うんですかい、という顔を対面の人間がしている。
「最近のセニャ様の活動はどうでしょう」
守秘義務に触れない範囲でいいですよと、適当な話題に混ぜて聞いてみる。
なお、返事は勘弁して下さいという表情だ。
「なるほど。ありがとうございます」
フリーダは宴の雰囲気と街が出してくれた茶を楽しむのと並行して思索にふける。
(この地域に関わるのも無意味ではないですが、セニャ様が影響力を手放す際に起きるだろうトラブルの方が重要ですね)
啓示っぽいものを受信し続けたせいか本人の知的鍛錬の結果かは分からないが、フリーダの知性は高位授恵者そのものだ。
「巡り巡って啓示による『短縮要素』に繋がるかもしれませんね」
混乱が長引くほど犠牲者が増えることを知る彼女は、次の冒険で何をすべきか考えていた。
マスターコメント
お疲れ様でした。
ショートシナリオ易しい 報酬:標準8 / 4〜8人
2023年07月19日 12時27分41秒 公開
成功
参加者
相談掲示板
ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 今回は、セニャと馬魔獣の退治に行った後に休暇を楽しむ予定だ。 後はセニャが【リザードマンとヒューマンの混血】であるレイウェスト殿下を主君とすることに耐えられるかを確認しようと思う。
ストレガなのだ。よろしくなのだ。 私も馬倒したいと思うのだ。 その後は解体して調理するのだ。
ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー (上げて落とす前フリで)休暇は大切だもんね ボクは動物のおやつやお世話セットを持ってって狼さんの動向をみてようかなと 魔獣退治は行けたら行くー…くらいかな
シーフのベルクだ、直前になってしまったが牛を狩りに行くとしよう。よろしく頼む。